(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】複合半透膜、スパイラル型膜エレメント、水処理システム及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/02 20060101AFI20220512BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220512BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220512BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20220512BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20220512BHJP
B01D 71/58 20060101ALI20220512BHJP
B01D 63/10 20060101ALI20220512BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20220512BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220512BHJP
B01D 61/08 20060101ALI20220512BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20220512BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/38
B01D71/06
B01D71/58
B01D63/10
B01D63/00 510
C02F1/44 A
B01D61/08
B01D61/58
B01D61/12
C02F1/44 D
(21)【出願番号】P 2021180897
(22)【出願日】2021-11-05
【審査請求日】2021-12-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】宮部 倫次
(72)【発明者】
【氏名】越前 将
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-140777(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117121(WO,A1)
【文献】特開平11-028466(JP,A)
【文献】特開2021-090953(JP,A)
【文献】特開2016-140776(JP,A)
【文献】特開2017-064710(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114727(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持膜と、
前記多孔性支持膜によって支持されたスキン層と、
前記スキン層を被覆するコーティングと、
を備え、
前記スキン層がポリアミドで作られており、
前記コーティングがポリマーを含み、
前記ポリマーが、ポリビニルアルコール、ベタインポリマー、及びポリオキサゾリンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
水中AFMでのフォースカーブ測定により算出される膜表面の弾性率が250MPa以上500MPa以下であ
り、
ZLDシステムに用いられる、
複合半透膜。
【請求項2】
請求項
1に記載の複合半透膜を備えた、
スパイラル型膜エレメント。
【請求項3】
31~60ウェール及び34~52コースの編み密度を有するトリコット編み物を含む透過側流路材をさらに備え、
前記複合半透膜が前記透過側流路材に接している、
請求項
2に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項4】
請求項
2又は
3に記載のスパイラル型膜エレメントを備
え、
ZLDシステムである、
水処理システム。
【請求項5】
低圧RO膜モジュールと、
前記低圧RO膜モジュールで濃縮された廃水をさらに濃縮する中圧RO膜モジュールと、
前記中圧RO膜モジュールで濃縮された前記廃水をさらに濃縮する高圧RO膜モジュールと、
を備え、
前記中圧RO膜モジュールが請求項
2又は
3に記載のスパイラル型膜エレメントを含む、
請求項
4に記載の水処理システム。
【請求項6】
低圧RO膜モジュールで廃水を濃縮することと、
前記低圧RO膜モジュールで濃縮された前記廃水を中圧RO膜モジュールでさらに濃縮することと、
前記中圧RO膜モジュールで濃縮された前記廃水を高圧RO膜モジュールでさらに濃縮することと、
を含
む水処理方法であって、
前記水処理方法は、ZLDシステムに適用される水処理方法であり、
前記中圧RO膜モジュールが請求項
2又は
3に記載のスパイラル型膜エレメントを含み、
前記低圧RO膜モジュールの供給圧力が前記中圧RO膜モジュールの供給圧力よりも低
く、
前記中圧RO膜モジュールの供給圧力が前記高圧RO膜モジュールの供給圧力よりも低く、
前記中圧RO膜モジュールの供給圧力が2.0MPa以上4.0MPa以下である、
水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合半透膜、スパイラル型膜エレメント、水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ZLDシステム(Zero Liquid Discharge System)が注目を浴びている。「ZLD」とは、河川、海洋などの自然界に排出される液体廃棄物をゼロまで低減するための技術思想を意味する。ZLDシステムにおいては、膜分離技術によって廃水が濃縮され、その後、濃縮された廃水から水分を蒸発させることによって固形廃棄物が生成される。最終段階で固形廃棄物を生成するときのエネルギー消費が非常に大きい。膜分離技術によれば、最終段階の廃水の量を大幅に減らしてエネルギー消費を抑制できる。
【0003】
特許文献1に記載されているように、典型的なZLDシステムは、直列に接続された複数の逆浸透膜ユニットを備えている。廃水は、複数の逆浸透膜ユニットによって段階的に濃縮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水処理システムにおいては、塩阻止率が所定レベルを下回ると膜の交換が推奨される。膜の寿命が長ければ長いほど、水処理のコストが下がるので好ましい。膜の寿命は、水処理システムの目的、原水の組成、原水の温度、運転圧力などの様々な要因に左右される。ここで、本発明者らは、ZLDシステムのような特定の水処理システムにおいて、膜の寿命が予測よりも低いケースがあることに気が付いた。そして、その原因がシステムの運転と停止とを頻繁に繰り返すことにあることを突き止めた。
【0006】
例えば、よく知られた海水淡水化システムにおいて、海水は一定の流量で海水淡水化システムに供給され、一定の流量で淡水が生成される。一方、ZLDシステムのような特定の水処理システムにおいては、廃水(原水)の流量が一定でないことがある。廃水の流量が一定でない1つの理由として、廃水の流量が工場の稼働状況に依存することが挙げられる。廃水の流量を安定化させるためのバッファタンクが設けられているが、バッファタンクの水位が所定水位を下回るとZLDシステムが自動的に停止する。
【0007】
システムの運転と停止とが頻繁に切り替わると、複合半透膜は、水の圧力を受けたり、水の圧力から解放されたりする。その結果、複合半透膜がダメージを受け、その阻止性能が早く低下する。例えば、高い編み密度の透過側流路材を使用すれば、複合半透膜へのダメージを抑制することができる。しかし、高い編み密度の透過側流路材を使用すると、透過流束が低下する。透過流束の低下を補うために運転圧力を上げると、ポンプに費やされる消費電力が増大する。
【0008】
本発明の目的は、ZLDシステムのように頻繁にオン/オフが繰り返されるシステムに適した複合半透膜を提供することにある。また、本発明は、その複合半透膜を用いたスパイラル型膜エレメント、そのスパイラル型膜エレメントを用いた水処理システム、及び、そのスパイラル型膜エレメントを用いた水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
多孔性支持膜と、
前記多孔性支持膜によって支持されたスキン層と、
を備え、
水中AFMでのフォースカーブ測定により算出される膜表面の弾性率が250MPa以上500MPa以下である、
複合半透膜を提供する。
【0010】
別の側面において、本発明は、
上記本発明の複合半透膜を備えた、
スパイラル型膜エレメントを提供する。
【0011】
別の側面において、本発明は、
上記本発明のスパイラル型膜エレメントを備えた、
水処理システムを提供する。
【0012】
さらに別の側面において、本発明は、
低圧RO膜モジュールで廃水を濃縮することと、
前記低圧RO膜モジュールで濃縮された前記廃水を中圧RO膜モジュールでさらに濃縮することと、
前記中圧RO膜モジュールで濃縮された前記廃水を高圧RO膜モジュールでさらに濃縮することと、
を含み、
前記中圧RO膜モジュールが上記本発明のスパイラル型膜エレメントを含み、
前記低圧RO膜モジュールの供給圧力が前記中圧RO膜モジュールの供給圧力よりも低く、
前記高圧RO膜モジュールの供給圧力が前記中圧RO膜モジュールの供給圧力よりも高く、
前記中圧RO膜モジュールの供給圧力が2.0MPa以上4.0MPa以下である、
水処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ZLDシステムのように頻繁にオン/オフが繰り返されるシステムに適した複合半透膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るスパイラル型膜エレメントの展開斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すスパイラル型膜エレメントに用いられた複合半透膜の断面図である。
【
図3】
図3は、複合半透膜がダメージを受けるメカニズムを説明する断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係る水処理システムの構成図である。
【
図5】
図5は、水中AFMによるフォースカーブ測定の方法を説明する図である。
【
図6A】
図6Aは、実施例1の複合半透膜の染色後の光学顕微鏡像である。
【
図6B】
図6Bは、実施例3の複合半透膜の染色後の光学顕微鏡像である。
【
図6C】
図6Cは、比較例1の複合半透膜の染色後の光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るスパイラル型膜エレメント20を示している。スパイラル型膜エレメント20は、集水管21及び積層体22を備えている。積層体22は、集水管21の周囲に配置されている。積層体22の内部に原水流路と透過水流路とが形成されている。集水管21は、積層体22の中心を貫いている。
【0017】
原水は、積層体22の一方の端面からスパイラル型膜エレメント20の内部に供給され、集水管21の長手方向に平行に原水流路を流れる。スパイラル型膜エレメント20において、原水がろ過されて濃縮水と透過水とが生成される。透過水は、集水管21を通じて外部に導かれる。濃縮水は、積層体22の他方の端面からスパイラル型膜エレメント20の外部に排出される。
【0018】
スパイラル型膜エレメント20によって処理(ろ過)されるべき原水としては、工場などから排出された廃水が挙げられる。廃水としては、コーキング廃水、石炭化工廃水、随伴水などが挙げられる。コーキング廃水、石炭化工廃水及び随伴水には数ppm~数100ppm程度の濃度で芳香族化合物が含まれる場合がある。芳香族化合物は、複合半透膜の化学的劣化を引き起こす成分として知られている。したがって、芳香族化合物を含む廃水の処理は容易ではない。しかし、本実施の形態の複合半透膜は、芳香族化合物が含まれた廃水でも長期間使用することができる。ただし、原水は廃水に限定されない。
【0019】
積層体22は、複合半透膜12、原水側流路材13及び透過側流路材14によって構成されている。複合半透膜12の端面が積層体22の端面を構成する。積層体22は、詳細には、複数の複合半透膜12、複数の原水側流路材13及び複数の透過側流路材14によって構成されている。
【0020】
原水側流路材13は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂材料で作られた網目状の構造を有する部材でありうる。透過側流路材14は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂材料で作られた編み物でありうる。透過側流路材14は、典型的には、トリコット編み物である。
【0021】
複数の複合半透膜12は、互いに重ね合わされ、袋状の構造を有するように3辺において封止され、集水管21に巻きつけられている。袋状の構造の外部に位置するように、複合半透膜12と複合半透膜12との間に原水側流路材13が配置されている。原水側流路材13は、複合半透膜12と複合半透膜12との間に原水流路としての空間を確保している。袋状の構造の内部に位置するように、複合半透膜12と複合半透膜12との間に透過側流路材14が配置されている。透過側流路材14は、複合半透膜12と複合半透膜12との間に透過水流路としての空間を確保している。1対の複合半透膜12及び透過側流路材14によって膜リーフ11が構成されている。透過水流路が集水管21に連通するように、膜リーフ11の開口端が集水管21に接続されている。
【0022】
集水管21は、各複合半透膜12を透過した透過水を集めてスパイラル型膜エレメント20の外部に導く役割を担っている。集水管21には、その長手方向に沿って複数の貫通孔21hが所定間隔で設けられている。透過水は、これらの貫通孔21hを通じて集水管21の中に流入する。
【0023】
図2は、
図1に示すスパイラル型膜エレメント20に用いられた複合半透膜12の断面図である。複合半透膜12は、多孔性支持膜12a、スキン層12b及びコーティング12cを備えている。多孔性支持膜12a、スキン層12b及びコーティング12cがこの順番で積層されている。スキン層12b及びコーティング12cは、多孔性支持膜12aによって支持されている。多孔性支持膜12aの上にスキン層12bが配置されている。スキン層12bの上にコーティング12cが配置されている。コーティング12cは、スキン層12bを被覆している。詳細には、コーティング12cは、スキン層12bに直接接している。
【0024】
図3は、複合半透膜がダメージを受けるメカニズムを説明する断面図である。スパイラル型膜エレメントに原水が導入されて複合半透膜121に水圧Fが加わると、透過側流路材14の溝部14mに複合半透膜121の一部が沈み込む。複合半透膜121の残部が透過側流路材14に押し付けられ、破線矢印で示す荷重が局所的に加わる。溝部14mは、例えば、ウェールとウェールとの間の部分である。原水の導入が停止すると、複合半透膜121は、水圧Fから解放される。破線矢印で示す荷重も殆ど加わらない。原水の導入が再開されると、複合半透膜121に再び水圧Fが加わる。水圧Fの印加と開放とが繰り返されると、透過側流路材14に繰り返し押し付けられた部分を中心に複合半透膜121に欠陥が生じる。複合半透膜121の欠陥は、薄いスキン層に生じやすい。その結果、複合半透膜121の塩阻止率が早く低下する。
【0025】
水圧Fに十分に対抗できるような剛直さを複合半透膜121が持っている場合、水圧Fのオン/オフによって複合半透膜121がダメージを受けにくいとも思われる。しかし、予想に反して、適切な柔軟性を有していることが水圧Fのオン/オフによるダメージを抑制するのに効果がある。
【0026】
すなわち、本実施形態の複合半透膜12の膜表面12pの弾性率は、250MPa以上500MPa以下である。膜表面12pの弾性率は、水中AFM(Atomic Force Microscope)でのフォースカーブ測定により算出される。膜表面12pの弾性率がこのような範囲にあると、水圧のオン/オフが繰り返されても複合半透膜12がダメージを受けにくい。その結果、スパイラル型膜エレメント20の寿命が延びる。
【0027】
水中AFMでのフォースカーブ測定の方法は、実施例の欄の説明の通りである。
【0028】
複合半透膜12において、コーティング12cは、ポリマーを含む。コーティング12cによれば、膜表面12pの弾性率を調整しやすい。
【0029】
コーティング12cに含まれたポリマーの種類は、スキン層12bに含まれたポリマーの種類と異なる。スキン層12bは、例えば、ポリアミドで作られている。コーティング12cに含まれたポリマーは、例えば、ポリビニルアルコール、ベタインポリマー、及びポリオキサゾリンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。これらのポリマーは、親水性を有する(親水基を有する)ポリマーである。これらポリマーによれば、膜表面12pの弾性率を調整しやすい。
【0030】
コーティング12cの厚さは特に限定されない。コーティング12cの厚さは、例えば、10~1000nmである。コーティング12cの厚さは、次の方法によって求められる。すなわち、複合半透膜12の断面の任意の複数点(例えば10点)でコーティング12cの厚さを測定する。得られた測定値の平均をコーティング12cの厚さとみなすことができる。厚さの測定は、SEM又はTEMを用いて行われる。
【0031】
コーティング12cの存在は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡によって確認されうる。コーティング12cに含まれたポリマーの組成分析は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、X線光電子分光法(XPS)又は飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって実施されうる。
【0032】
膜表面12pの弾性率を決める要因は様々である。具体的には、スキン層12bの材料、スキン層12bの厚さ、スキン層12bの表面粗さ(Ra)、コーティング12cの材料、コーティング12cの厚さ、スキン層12bを形成する際の温度などが挙げられる。スキン層12bを形成した後、スキン層12bの熱処理を行うことによって膜表面12pの弾性率が向上する。熱処理は、例えば、50℃程度の温水に膜をさらすことによる。また、コーティング12cの材料が柔らかかったり、コーティング12cの材料が高い親水性を有していたりすると、膜表面12pの弾性率は下がる傾向にある。コーティング12cの厚さが増加すると膜表面12pの弾性率が下がる傾向にある。ただし、コーティング12cの厚さを増やしすぎると透過流束(m3/m2/day)が低下する。
【0033】
スパイラル型膜エレメント20において、トリコット編み物である透過側流路材14は、31~60ウェール及び34~52コースの編み密度を有する。複合半透膜12が透過側流路材14に接している。本実施形態では、複合半透膜12に合わせて透過側流路材14の編み密度が調整されている。複合半透膜12の膜表面の弾性率の調整の効果と透過側流路材14の編み密度の調整の効果とが相俟って、所望の透過流束を確保しつつ、水圧のオン/オフに対する耐久性が更に向上する。
【0034】
なお、ウェール(wale)は、編み物の縦方向のループを意味する。コース(corse)は、編み物の横方向のループを意味する。編み物の密度(編み密度)は、1インチあたりのウェールの数(ウェール密度)及び1インチあたりのコースの数(コース密度)によって表される。編み密度は、(ウェール密度)×(コース密度)で表されてもよい。
【0035】
複合半透膜12のダメージの度合いは、オン/オフ試験後の塩阻止率の低下によって知ることができる。塩阻止率は、例えば、NaCl阻止率で定義される。具体的には、スパイラル型膜エレメント20に所定濃度のNaCl水溶液を所定の供給圧力で供給し、NaCl阻止率を測定する。次に、NaCl水溶液の供給を停止する。その後、NaCl水溶液の供給を再開する。このサイクルをn回(例えば、7000回)繰り返す。供給圧力は、例えば、2.0MPa以上4.0MPa以下である。第1回目のNaCl阻止率と第n回目のNaCl阻止率との差から、複合半透膜12のダメージの度合いを知ることができる。
【0036】
NaCl阻止率は、日本産業規格JIS K 3805(1990)に従って測定されうる。具体的には、所定のサイズの複合半透膜12にNaCl水溶液を所定の供給圧力で透過させる。30分間の準備段階(第1回目)の終了後、電導度測定装置を用いて透過水及び供給水の電導度測定を行い、その結果及び検量線(濃度-電導度)から、下記式に基づいてNaCl阻止率を算出できる。電導度測定に代えて、イオンクロマトグラフィー法によって濃度測定を行ってもよい。
・NaCl阻止率(%)=(1-(透過水のNaCl濃度/供給水のNaCl濃度))×100
【0037】
複合半透膜12は、典型的には、逆浸透膜(RO膜)である。ただし、複合半透膜12は、ナノフィルトレーション膜(NF膜)であってもよい。
【0038】
本明細書において、「NF膜」とは、2000mg/リットルの濃度のNaCl水溶液を供給圧力1.55MPa、25℃の条件でろ過したときのNaCl阻止率が5%以上93%未満である複合半透膜を意味する。「RO膜」とは、2000mg/リットルの濃度のNaCl水溶液を供給圧力1.55MPa、25℃の条件でろ過したときのNaCl阻止率が93%以上である複合半透膜を意味する。
【0039】
複合半透膜12は、以下の方法によって製造されうる。
【0040】
まず、支持体としての多孔性支持膜12aを準備する。多孔性支持膜12aは、その表面にスキン層12bを形成しうる膜である限り、特に限定されない。多孔性支持膜12aとしては、0.01~0.4μmの平均孔径を有する微多孔層を不織布上に形成した限外ろ過膜が用いられる。微多孔層の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。化学的安定性、機械的安定性及び熱的安定性の観点から、ポリスルホン又はポリアリールエーテルスルホンが使用されうる。また、上記の平均孔径を有する、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂でできた自立型の多孔性支持膜も使用できる。多孔性支持膜12aの厚さは特に限定されず、例えば、10~200μmの範囲にあり、20~75μmの範囲にあってもよい。
【0041】
本明細書において、「平均孔径」は、以下の方法で算出される値を意味する。まず、膜又は層の表面又は断面を電子顕微鏡(例えば走査電子顕微鏡)で観察し、観察された複数の細孔(例えば任意の10個の細孔)の直径を実測する。細孔の直径の実測値の平均値を「平均孔径」と定義する。「細孔の直径」は、細孔の長径を意味し、詳細には、細孔を囲むことができる最小の円の直径を意味する。
【0042】
次に、スキン層12bの原料を含む第1の溶液を多孔性支持膜12aに接触させる。第1の溶液は、典型的には、スキン層12bの原料としての多官能アミンを含む水溶液(以下、「アミン水溶液」と称する)である。アミン水溶液を多孔性支持膜12aに接触させることによって、多孔性支持膜12aの表面上にアミン含有層が形成される。アミン水溶液は、水に加え、アルコールなどの水以外の極性溶媒を含んでいてもよい。水に代えて、アルコールなどの水以外の極性溶媒を使用してもよい。
【0043】
多官能アミンとは、複数の反応性アミノ基を有するアミンである。多官能アミンとして、芳香族多官能アミン、脂肪族多官能アミン及び脂環式多官能アミンが挙げられる。
【0044】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、N,N’-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0045】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、n-フェニル-エチレンジアミンなどが挙げられる。
【0046】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノシクロへキサン、ピペラジン、ピペラジン誘導体などが挙げられる。
【0047】
これらの多官能アミンから選ばれる1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
アミン含有層の形成を容易にするため及びスキン層12bの性能を向上させるために、アミン水溶液には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールが添加されていてもよい。
【0049】
アミン水溶液におけるアミン成分の濃度は、0.1~15質量%の範囲にあってもよく、1~10質量%の範囲にあってもよい。アミン成分の濃度を適切に調整することによって、スキン層12bにピンホールなどの欠陥が生じることを抑制できる。また、優れた塩阻止性能を有するスキン層12bを形成できる。さらに、アミン成分の濃度を適切に調整すれば、スキン層12bの厚さも適切に調整され、これにより、十分な透過流束を達成しうる複合半透膜12が得られる。
【0050】
アミン水溶液を多孔性支持膜12aに接触させる方法は特に限定されない。多孔性支持膜12aをアミン水溶液に浸漬する方法、多孔性支持膜12aにアミン水溶液を塗布する方法、多孔性支持膜12aにアミン水溶液を噴霧する方法などを適宜採用できる。また、アミン水溶液を多孔性支持膜12aに接触させる工程を実施した後、余分なアミン水溶液を多孔性支持膜12aの上から除去する工程を実施してもよい。例えば、ゴムローラでアミン含有層を延ばすことによって、多孔性支持膜12aの上から余分なアミン水溶液を除去することができる。余分なアミン水溶液を除去することによって、適切な厚さのスキン層12bを形成することが可能となる。
【0051】
次に、アミン含有層に第2の溶液を接触させる。第2の溶液は、スキン層12bの他の原料を含む溶液である。詳細には、第2の溶液は、スキン層12bの他の原料としての多官能酸ハライドを含む溶液(以下、「酸ハライド溶液」と称する)である。アミン含有層に酸ハライド溶液を接触させると、アミン含有層と酸ハライド溶液の層との界面でアミンと酸ハライドとの重合反応が進行する。これにより、スキン層12bが形成される。
【0052】
多官能酸ハライドとは、複数の反応性カルボニル基を有する酸ハライドである。多官能酸ハライドとしては、芳香族多官能酸ハライド、脂肪族多官能酸ハライド及び脂環式多官能酸ハライドが挙げられる。
【0053】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライドなどが挙げられる。
【0054】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライドなどが挙げられる。
【0055】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライドなどが挙げられる。
【0056】
これらの多官能酸ハライドから選ばれる1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。優れた塩阻止性能を有するスキン層12bを得るためには、芳香族多官能酸ハライドを使用してもよい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを使用して、架橋構造を形成してもよい。
【0057】
酸ハライド溶液の溶媒として、有機溶媒、特に、非極性の有機溶媒を使用できる。有機溶媒は、水に対する溶解度が低く、多孔性支持膜12aを劣化させず、多官能酸ハライド成分が溶解しうるものである限り、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、へプタン、オクタン、ノナンなどの飽和炭化水素、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン置換炭化水素などが挙げられる。沸点が300℃以下又は200℃以下の飽和炭化水素を使用してもよい。
【0058】
酸ハライド溶液における酸ハライド成分の濃度は、0.01~5質量%の範囲にあってもよく、0.05~3質量%の範囲にあってもよい。酸ハライド成分の濃度を適切に調整することによって、未反応のアミン成分及び酸ハライド成分を減少させることができる。また、スキン層12bにピンホールなどの欠陥が生じることを抑制でき、これにより、優れた塩阻止性能を持った複合半透膜12を提供できる。さらに、酸ハライド成分の濃度を適切に調整すればスキン層12bの厚さも適切に調整され、これにより、十分な透過流束を達成しうる複合半透膜12を提供できる。
【0059】
アミン含有層に酸ハライド溶液を接触させる方法は特に限定されない。アミン含有層を多孔性支持膜12aとともに酸ハライド溶液に浸漬してもよいし、アミン含有層の表面に酸ハライド溶液を塗布してもよい。アミン含有層と酸ハライド溶液との接触時間は、例えば、10秒~5分又は30秒~1分である。アミン含有層と酸ハライド溶液とを接触させた後、アミン含有層の上から余分な酸ハライド溶液を除去する工程を実施してもよい。
【0060】
次に、スキン層12bを多孔性支持膜12aとともに加熱して乾燥させる。スキン層12bを加熱処理することによって、スキン層12bの機械的強度、耐熱性などを高めることができる。加熱温度は、例えば、70~200℃又は80~130℃である。加熱時間は、例えば、30秒~10分又は40秒~7分である。室温で乾燥工程を実施した後、乾燥機を用いて室温よりも高い雰囲気温度で更なる乾燥工程を実施してもよい。
【0061】
なお、アミン水溶液及び/又は酸ハライド溶液には、スキン層12bの形成を容易にしたり、得るべき複合半透膜12の性能を向上させたりする目的で、各種の添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、重合によって生成するハロゲン化水素の除去に効果がある水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリエチルアミンなどの塩基性化合物、アシル化触媒、溶解度パラメータが8~14(cal/cm3)1/2の化合物などが挙げられる。
【0062】
以上の工程を実施することによって、多孔性支持膜12a及びスキン層12bを有する膜が得られる。スキン層12bの厚さは特に限定されず、例えば0.05~2μmであり、0.1~1μmであってもよい。
【0063】
また、本明細書では、界面重合法によって多孔性支持膜12aの表面にスキン層12bを直接形成する方法を説明している。ただし、多孔性支持膜12a以外の他の支持体の上でスキン層12bを形成し、得られたスキン層12bを多孔性支持膜12aの上に移して一体化させてもよい。言い換えれば、スキン層12bを他の支持体から多孔性支持膜12aに転写してもよい。
【0064】
次に、コーティング12cを形成する。コーティング12cは、先に説明したポリマーを含む水溶液をスキン層12bに接触させてポリマー含有層を形成したのち、ポリマー含有層を乾燥させることによって形成されうる。水溶液をスキン層12bに接触させる方法は特に限定されない。スキン層12bを多孔性支持膜12aとともに水溶液に浸漬してもよいし、スキン層12bの表面に水溶液を塗布してもよい。スキン層12bと水溶液との接触時間は、例えば、10秒~5分である。スキン層12bと水溶液とを接触させた後、スキン層12bから余分な水溶液を除去する工程を実施してもよい。水溶液は、水に加え、アルコールなどの水以外の極性溶媒を含んでいてもよい。水に代えて、アルコールなどの水以外の極性溶媒を使用してもよい。
【0065】
次に、ポリマー含有層を加熱して乾燥させる。ポリマー含有層を加熱処理することによって、コーティング12cの機械的強度、耐熱性などを高めることができる。加熱温度は、例えば、80~150℃である。加熱時間は、例えば、10~300秒である。室温で乾燥工程を実施した後、乾燥機を用いて室温よりも高い雰囲気温度で更なる乾燥工程を実施してもよい。
【0066】
以上の工程を実施することによって、多孔性支持膜12a、スキン層12b及びコーティング12cを有する複合半透膜12が得られる。
【0067】
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係る水処理システムの構成図である。水処理システム100は、複数のRO膜モジュールを備えている。複数のRO膜モジュールは、低圧RO膜モジュール110、中圧RO膜モジュール120及び高圧RO膜モジュール130を含む。低圧RO膜モジュール110、中圧RO膜モジュール120及び高圧RO膜モジュール130は、この順番で廃水をろ過するように互いに接続されている。
【0068】
低圧RO膜モジュール110、中圧RO膜モジュール120及び高圧RO膜モジュール130からなる群より選ばれる少なくとも1つは、実施形態1で説明したスパイラル型膜エレメント20を含む。スパイラル型膜エレメント20は、水圧のオン/オフに対する耐久性に優れている。したがって、水処理システム100において、オン/オフが繰り返されたとしても、スパイラル型膜エレメント20を含むモジュールの塩阻止性能が長期にわったって維持されうる。
【0069】
詳細には、中圧RO膜モジュール120が実施形態1で説明したスパイラル型膜エレメント20を含む。低圧RO膜モジュール110における供給圧力は低いので、水圧のオン/オフが繰り返されたとしても、低圧RO膜モジュール110に使用された複合半透膜にダメージが及びにくい。高圧RO膜モジュール130には、緻密な編み密度を有する透過側流路材が使用されうる。中圧RO膜モジュール120は、構成と供給圧力とのバランスを取りにくい。そのため、中圧RO膜モジュール120に実施形態1のスパイラル型膜エレメント20を使用することによって、中圧RO膜モジュール120の塩阻止性能が長期にわたって維持されうる。
【0070】
低圧RO膜モジュール110及び高圧RO膜モジュール130にもスパイラル型膜エレメントが使用されうる。
【0071】
水処理システム100は、例えば、ZLDシステムである。先に説明したように、ZLDシステムの運転と停止とが頻繁に切り替わることがある。そのため、本実施形態の水処理システム100は、ZLDの用途に特に適している。
【0072】
低圧RO膜モジュール110の入口に流路2aが接続されている。低圧RO膜モジュール110の濃縮水出口と中圧RO膜モジュール120の入口とに流路2bが接続されている。中圧RO膜モジュール120の濃縮水出口と高圧RO膜モジュール130の入口とに流路2cが接続されている。
【0073】
低圧RO膜モジュール110は、耐圧容器に収められた少なくとも1つの低圧RO膜エレメントを有する。低圧RO膜モジュール110は、複数の低圧RO膜エレメントを有していてもよく、低圧RO膜エレメントを1つのみ有していてもよい。
【0074】
中圧RO膜モジュール120は、耐圧容器に収められた少なくとも1つの中圧RO膜エレメントを有する。中圧RO膜モジュール120は、複数の中圧RO膜エレメントを有していてもよく、中圧RO膜エレメントを1つのみ有していてもよい。
【0075】
高圧RO膜モジュール130は、耐圧容器に収められた少なくとも1つの高圧RO膜エレメントを有する。高圧RO膜モジュール130は、複数の中圧RO膜エレメントをゆうしていてもよく、高圧RO膜エレメントを1つのみ有していてもよい。
【0076】
低圧RO膜モジュール110の供給圧力は、例えば、0.5MPa以上2.0MPa未満である。中圧RO膜モジュール120の供給圧力は、例えば、2.0MPa以上4.0MPa以下である。高圧RO膜モジュール130の供給圧力は、例えば、4.0MPaより大きく8.0MPa以下である。すなわち、低圧RO膜モジュール110の供給圧力は、中圧RO膜モジュール120の供給圧力よりも低い。中圧RO膜モジュール120の供給圧力は、高圧RO膜モジュール130の供給圧力よりも低い。各RO膜モジュールの供給圧力を適切に調整するとともに、中圧RO膜モジュール120に実施形態1のスパイラル型膜エレメント20を使用することによって、水圧のオン/オフに対する耐久性に優れた水処理システム100が構築されうる。
【0077】
低圧RO膜モジュール110、中圧RO膜モジュール120及び高圧RO膜モジュール130は、それぞれ、トリコット編み物である透過側流路材を有する。低圧RO膜モジュール110に使用された透過側流路材の編み密度が中圧RO膜モジュール120に使用された透過側流路材の編み密度よりも低い。中圧RO膜モジュール120に使用された透過側流路材の編み密度が高圧RO膜モジュール130に使用された透過側流路材の編み密度よりも小さい。このような構成によれば、各モジュールの透過流束を適切に確保しながら、水処理システム100の運転と停止とが繰り返されても各モジュールにおける複合半透膜がダメージを受けにくい。
【0078】
低圧RO膜モジュール110には、流路2aを通じて、適切な前処理がなされた廃水が導入される。低圧RO膜モジュール110において廃水が濃縮される。前処理としては、珪砂などの砂を用いて廃水をろ過する処理、UF膜(ultrafiltration membrane)又はMF膜(microfiltration membrane)によって廃水をろ過する処理などが挙げられる。中圧RO膜モジュール120には、流路2bを通じて、低圧RO膜モジュール110で濃縮された廃水が導入される。中圧RO膜モジュール120は、低圧RO膜モジュール110で濃縮された廃水をさらに濃縮する。高圧RO膜モジュール130には、流路2cを通じて、中圧RO膜モジュール120で濃縮された廃水が導入される。高圧RO膜モジュール130は、中圧RO膜モジュール120で濃縮された廃水をさらに濃縮する。
【0079】
低圧RO膜モジュール110の透過水出口、中圧RO膜モジュール120の透過水出口及び高圧RO膜モジュール130の透過水出口には、それぞれ、流路4a、流路4b及び流路4cが接続されている。透過水は、流路4a、流路4b及び流路4cを通じて、工場等に供給されて再利用される。
【0080】
水処理システム100は、さらに、超高圧RO膜モジュール140、NF膜モジュール150及び超高圧RO膜モジュール160を備えている。超高圧RO膜モジュール140及び超高圧RO膜モジュール160は、高圧RO膜モジュール130よりも高い供給圧力で運転される。高圧RO膜モジュール130の濃縮水出口と超高圧RO膜モジュール140の入口とに流路2dが接続されている。高圧RO膜モジュール130の濃縮水出口とNF膜モジュール150の入口とに流路2eが接続されている。超高圧RO膜モジュール140の濃縮水出口に流路2fが接続されている。NF膜モジュール150の濃縮水出口に流路2gが接続されている。NF膜モジュール150の透過水出口と超高圧RO膜モジュール160の入口とに流路2hが接続されている。
【0081】
超高圧RO膜モジュール140には、流路2dを通じて、高圧RO膜モジュール130で濃縮された廃水が導入される。超高圧RO膜モジュール140は、高圧RO膜モジュール130で濃縮された廃水をさらに濃縮する。NF膜モジュール150には、流路2eを通じて、高圧RO膜モジュール130で濃縮された廃水が導入される。NF膜モジュールは、高圧RO膜モジュール130で濃縮された廃水から2価イオンを選択的に除去する。超高圧RO膜モジュール160には、流路2hを通じて、NF膜モジュール150の透過水が導入される。超高圧RO膜モジュール160は、NF膜モジュール150でろ過された透過水をさらにろ過する。
【0082】
超高圧RO膜モジュール140の透過水出口及び超高圧RO膜モジュール160の透過水出口には、それぞれ、流路4d及び流路4eが接続されている。透過水は、流路4d及び流路4eを通じて、工場等に供給されて再利用される。濃縮水は、流路2f、流路2i及び流路2gを通じて、電解装置、蒸発器などの後処理に送られる。
【0083】
水処理システム100の各流路には、必要に応じて、ポンプ、弁、センサなどが配置されている。
【0084】
なお、「供給圧力」とは、モジュールの入口近傍において、原水に加えられた圧力を意味する。モジュールの入口近傍は、例えば、モジュールにおいて最も上流側に位置しているエレメントと流路との間の空間である。
【実施例】
【0085】
(製造例1:複合半透膜の製造例)
m-フェニレンジアミン3.0質量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.15質量%、トリエチルアミン2.15質量%、水酸化ナトリウム0.31質量%、カンファースルホン酸6質量%、及びイソプロピルアルコール1質量%を混合してアミン水溶液を調製した。ポリエステル不織布上に形成されたポリスルホン多孔性支持膜上にアミン水溶液を塗布した。その後、余分なアミン水溶液を除去することによりアミン含有層を形成した。一方、トリメシン酸トリクロライド0.20質量%をナフテン系溶媒(エクソンモービル社製、Exxsol D40)に溶解させて酸クロライド溶液を調製した。アミン含有層の表面を酸クロライド溶液に7秒間浸した。その後、余分な酸クロライド溶液を除去した。これにより、界面重合反応を進行させ、スキン層を形成した。スキン層を20秒間風乾させ、さらに140℃の熱風乾燥機中で3分間加熱した。これらの工程を経て、不織布基材、ポリスルホン多孔性支持膜、及びポリアミドスキン層をこの順に有する複合半透膜を得た。
【0086】
ポリビニルアルコール(PVA)(鹸化度99%以上、4質量%溶液の粘度62.0~72.0mPa・s(25℃))を0.165質量%の濃度で含むポリビニルアルコール水溶液を調製した。このポリビニルアルコール水溶液に複合半透膜の表面を10秒間接触させた。その後、複合半透膜を30秒間風乾させ、さらに120℃の熱風乾燥機中で2分間加熱した。これにより、PVAコーティングを有する製造例1の複合半透膜を得た。
【0087】
(水中AFMでのフォースカーブ測定による膜表面の弾性率の算出)
図5は、水中AFMによるフォースカーブ測定の方法を説明する図である。製造例1の複合半透膜の膜表面の弾性率を以下の方法で測定した。まず、製造例1の複合半透膜を2cm×2cmの大きさに切断してサンプル101を得た。次に、
図5に示すように、アサイラムテクノロジー社製の液中測定用固定治具(Closed Fluid Cell)、固定ピン102、及び押さえ板103を用いて、固定治具のガラス板104の上にサンプル101を固定した。その後、サンプル101に約100μLの超純水105を滴下した。
【0088】
サンプル101を垂直方向に移動させて、サンプル101の表面に荷重をかけながら球形プローブ106を押し込み、その後、球形プローブ106をサンプル101から引き離した。球形プローブ106をサンプル101から引き離した際のカンチレバー107のたわみ又はそり(変位)をレーザー光108の変位としてフォトダイオードで検出してフォースカーブを測定した。装置付属のプログラムを用いてフォースカーブを荷重と膜表面の変形量とに変換した。測定面積5μm×5μmの領域かつ任意の5点でフォースカーブを測定した。そして、装置付属の解析ソフトウェアにてHeltzモデルにフィッティングして弾性率を算出した。
【0089】
・測定装置:MFP-3D-SA(アサイラムテクノロジー社製)
・カンチレバー:ばね定数40N/m
・球形プローブ:ナノセンサーズ社製、先端曲率半径0.4μm、Silicon(100)、ポアソン比0.17、弾性率150GPa
・測定環境:超純水中(28~30℃)
・押し込み速度、引き離し速度:1Hz
・測定n数:5
【0090】
製造例1の複合半透膜の膜表面の弾性率Esample(MPa)は、下記のヘルツ弾性接触理論式に各数値を代入することによって付属のソフトウェアにて求めた。求められた弾性率は340MPaであった。
【0091】
(ヘルツ弾性接触理論式)
h=〔3/4[{(1-νprobe
2)/Eprobe}+{(1-νsample
2)/Esample}]〕2/3F2/3r-1/3
【0092】
h:膜表面の変形量(平均値)
νprobe:プローブのポアソン比0.17
νsample:サンプルのポアソン比0.33(樹脂の代表値として0.33を採用(固定値))
Eprobe:プローブの弾性率150GPa
Esample:サンプルの弾性率(MPa)
F:任意
r:プローブの先端曲率半径10nm
【0093】
(製造例2:複合半透膜の製造例)
PVAの代わりにベタインポリマー(大阪有機化学工業社製、LAMBIC-1100W)を使用したことを除き、製造例1と同じ方法で製造例2の複合半透膜を作製した。
【0094】
(製造例3:複合半透膜の製造例)
PVAの代わりにPEOX(ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン))を使用したことを除き、製造例1と同じ方法で製造例3の複合半透膜を作製した。
【0095】
(製造例4:複合半透膜の製造例)
PVAコーティングを実施しなかったことを除き、製造例1と同じ方法で製造例4の複合半透膜を作製した。
【0096】
[オン/オフ試験]
複合半透膜と透過側流路材とを耐圧容器に入れ、先に説明した方法で初回のNaCl阻止率を測定した。その後、加圧したRO水(25℃)を90秒間供給し続ける工程と、RO水の供給を停止する工程とを7000回繰り返した。7000回の繰り返しの後、NaCl阻止率を測定した。
【0097】
(実施例1~4)
製造例1で得られた複合半透膜、表1に示す透過側流路材、及び表1に示す供給圧力の組み合わせで、オン/オフ試験を実施した。結果を表1に示す。ウェールの凸部が存在する面(ラフ面)が複合半透膜のポリエステル不織布の面に接するように透過側流路材を複合半透膜に積層した。
【0098】
(実施例5)
製造例2で得られた複合半透膜、表1に示す透過側流路材、及び表1に示す供給圧力の組み合わせで、オン/オフ試験を実施した。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例6)
製造例3で得られた複合半透膜、表1に示す透過側流路材、及び表1に示す供給圧力の組み合わせで、オン/オフ試験を実施した。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例1及び2)
製造例4で得られた複合半透膜、表1に示す透過側流路材、及び表1に示す供給圧力の組み合わせで、オン/オフ試験を実施した。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例3)
製造例1で得られた複合半透膜、表1に示す透過側流路材、及び表1に示す供給圧力の組み合わせで、オン/オフ試験を実施した。結果を表1に示す。
【0102】
【0103】
実施例1及び比較例1の結果から理解できるように、実施例1の組み合わせのオン/オフ試験前後の塩阻止率の差は、比較例1の組み合わせのオン/オフ試験前後の塩阻止率の差よりも小さかった。つまり、実施例1の組み合わせは、水圧のオン/オフに対する耐久性に優れていた。実施例1の組み合わせは、ZLDシステムのように頻繁にオン/オフが繰り返されるシステムに適していると言える。
【0104】
実施例1及び実施例2の結果から理解できるように、供給圧力を上げると塩阻止率の低下の度合いも増えた。ただし、実施例2及び比較例2の結果から理解できるように、実施例2の組み合わせのオン/オフ試験前後の塩阻止率の差は、比較例2の組み合わせのオン/オフ試験前後の塩阻止率の差よりも小さかった。つまり、実施例2の組み合わせは、水圧のオン/オフに対する耐久性に優れていた。実施例2の組み合わせは、ZLDシステムのように頻繁にオン/オフが繰り返されるシステムに適していると言える。
【0105】
実施例3及び実施例4の結果から理解できるように、透過側流路材の編み密度を増やすことによって、水圧のオン/オフに対する耐久性は向上した。特に、実施例4に示すように、比較的高い供給圧力(4.0MPa)でオン/オフ試験を行ったとしても、適切な編み密度を有する透過側流路材を用いることによって、オン/オフ試験による塩阻止率の低下を大幅に抑えることができた。このことは、複合半透膜によってもたらされた効果と透過側流路材によってもたらされた効果との相乗効果が得られたことを示している。実施例3及び実施例4の組み合わせは、ZLDシステムのように頻繁にオン/オフが繰り返されるシステムに適していると言える。
【0106】
実施例5及び実施例6の結果は、コーティングの材料を変更しても良好な結果が得られることを示唆している。
【0107】
比較例3においては、供給圧力が高すぎたため、オン/オフ試験前後による塩阻止率の低下が大きかった。
【0108】
[オン/オフ試験後の膜表面の観察]
オン/オフ試験後、実施例1、実施例3及び比較例1の複合半透膜の膜表面を観察した。具体的には、染料(東京化成工業社製、Basic Violet1)を用いて160mg/Lの濃度の染色液を調製した。複合半透膜に1.5MPaで染色液を10分間加圧及び通水した。通水後の複合半透膜をRO水で洗浄し、室温で乾燥させた後、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX6000)を用いて、倍率50倍で膜表面を観察した。結果を
図6A、
図6B及び
図6Cに示す。
【0109】
図6Aは、実施例1の複合半透膜の染色後の光学顕微鏡像である。
図6Bは、実施例3の同図である。
図6Cは、比較例1の同図である。
図6A、
図6B及び
図6Cにおいて、暗く映った部分は、欠陥が生じて染料が浸み込んだ部分である。明るく映った部分は、染料の染み込みが少なく、欠陥が少ない部分である。
【0110】
図6Aに示すように、実施例1の複合半透膜に生じた欠陥は少なかった。ウェール方向に平行にやや欠陥が生じていた。
図6Bに示すように、実施例3の複合半透膜に欠陥は殆ど生じていなかった。
図6Cに示すように、比較例1の複合半透膜にはウェール方向に沿って顕著な欠陥が生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、ZLDシステムなどの廃水処理のシステムに有用である。
【符号の説明】
【0112】
2a,2b,2c,2d,2e,2f,2g,2h,2i 流路
4a,4b,4c,4d,4e 流路
11 膜リーフ
12 複合半透膜
12a 多孔性支持膜
12b スキン層
12c コーティング
12p 膜表面
13 原水側流路材
14 透過側流路材
20 スパイラル型膜エレメント
21 集水管
21h 貫通孔
22 積層体
100 水処理システム
101 サンプル
102 固定ピン
103 押さえ板
104 ガラス板
105 超純水
106 球形プローブ
107 カンチレバー
108 レーザー光
110 低圧RO膜モジュール
120 中圧RO膜モジュール
130 高圧RO膜モジュール
140,160 超高圧RO膜モジュール
150 NF膜モジュール
【要約】
【課題】ZLDシステムのように頻繁にオン/オフが繰り返されるシステムに適した複合半透膜を提供する。
【解決手段】本発明の複合半透膜12は、多孔性支持膜12aと、多孔性支持膜12aによって支持されたスキン層12bと、を備えている。水中AFMでのフォースカーブ測定により算出される膜表面の弾性率が250MPa以上500MPa以下である。本発明のスパイラル型膜エレメント20は、本発明の複合半透膜12を備えている。本発明の水処理システム100は、本発明のスパイラル型膜エレメント20を備えている。
【選択図】
図1