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特許7072158皮膚の血管網を可視化する装置、方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】皮膚の血管網を可視化する装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220513BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20220513BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
A61B10/00 E
G01N21/17 620
A61B5/00 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017189271
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019063049
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年9月19日にhttps://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000002265にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 豊信
(72)【発明者】
【氏名】二宮 真人
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 壮一
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-116595(JP,A)
【文献】特開2016-116594(JP,A)
【文献】特開2016-116593(JP,A)
【文献】特開2007-202957(JP,A)
【文献】特開2017-086183(JP,A)
【文献】特開2017-086182(JP,A)
【文献】Qian Li et al.,Automated quantification of microstructural dimensions of the human kidney using optical coherence tomography (OCT),OPTICS EXPRESS,2009年08月31日,Vol. 17, No. 18,pp. 16000-16016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
G01N 21/17
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光コヒーレンストモグラフィーを用いる光学系を含み、皮膚の血管網を可視化する血管可視化装置であって、
光源からの光を皮膚の組織に導いて走査させるための光学機構と、
前記光学機構の駆動を制御し、前記光学系による光干渉信号を処理することにより前記皮膚の断層像を取得し、その断層像に基づいて血管網を算出する制御演算部と、
前記血管網の画像を表示する表示部と、
を備え、
前記制御演算部は、
取得された断層像における輝度値に基づいて、その断層像において前記血管網を構成する血管に対応する座標である複数の血管対応座標を特定し、
特定された全ての血管対応座標のそれぞれについて、その血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる仮想円を設定し、その仮想円をより大きくすると、その仮想円に含まれる座標のうち前記血管対応座標として特定される座標の割合である充填率が減少し始めるときの半径又はその直前の半径を血管半径として算出し、
各血管対応座標の血管半径の大きさに基づく識別表示を前記血管網の画像に重ねることで、前記血管網の太さを可視表示させることを特徴とする血管可視化装置。
【請求項2】
前記制御演算部は、各血管対応座標を血管半径の大きさに対応づけて色分けすることにより、前記血管網の太さを表現することを特徴とする請求項1に記載の血管可視化装置。
【請求項3】
皮膚の血管網を可視化する血管可視化方法であって、
コンピュータが実行する工程として、
光コヒーレンストモグラフィーを用いることにより、皮膚の断層像を取得する断層像取得工程と、
取得された断層像における輝度値に基づいて、その断層像において前記血管網を構成する血管に対応する座標である複数の血管対応座標を特定する血管対応座標特定工程と、
特定された全ての血管対応座標のそれぞれについて、その血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる仮想円を設定し、その仮想円をより大きくすると、その仮想円に含まれる座標のうち前記血管対応座標として特定される座標の割合である充填率が減少し始めるときの半径又はその直前の半径を血管半径として算出する血管半径算出工程と、
各血管対応座標の血管半径の大きさに基づく識別表示を前記血管網の画像に重ねることで、前記血管網の太さを可視表示させる表示工程と、
を備えることを特徴とする血管可視化方法。
【請求項4】
光コヒーレンストモグラフィーにより取得された皮膚の断層像における輝度値に基づいて、その断層像において血管網を構成する血管に対応する座標である複数の血管対応座標を特定する機能と、
特定された全ての血管対応座標のそれぞれについて、その血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる仮想円を設定し、その仮想円をより大きくすると、その仮想円に含まれる座標のうち前記血管対応座標として特定される座標の割合である充填率が減少し始めるときの半径又はその直前の半径を血管半径として算出する機能と、
各血管対応座標の血管半径の大きさに基づく識別表示を前記血管網の画像に重ねることで、前記血管網の太さを可視表示させる機能と、
をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コヒーレンストモグラフィー(Optical Coherence Tomography:以下「OCT」という)を用いて皮膚の血管網を可視化する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、水分の喪失を防ぐ、外界との熱交換により体温の調節を行う、物理的な刺激から生体を保護する、触覚等の感覚を受容するといった重要な役割を担う。皮膚の組織は、表皮、真皮、皮下組織の主に三層から構成されている。真皮以下には毛細血管がはりめぐらされており、これらが皮膚細胞に酸素や栄養素を供給することで肌にハリや潤いを与えている。加齢や紫外線などの環境変化によって毛細血管の弾性力が失われると、しわやたるみ等の皮膚の老化現象を引き起こすとも考えられている。このため、効果的なスキンケアの評価のために、皮膚の血管網を可視化する技術が注目されつつある。
【0003】
このような血管網可視化技術として、OCTを用いる手法が提案されている(例えば非特許文献1参照)。OCTは、低コヒーレンス光干渉を利用した断層画像法であり、マイクロスケールの高空間分解能にて生体組織の形態分布を可視化できる。また、画像取得レートがビデオレート以上であり、高時間分解能を有している点でも好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Enfield, E. Jonathan, M. Leahy, In vivo imaging of the microcirculation of the volar forearm using correlation mapping optical coherence tomography (cmOCT), Biomed. Opt. Express 2 (2011) 1184-1193.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、加齢や環境変化により毛細血管が細くなると、栄養素の供給や老廃物の排出機能が低下し、皮膚の老化現象につながるとも考えられる。発明者らは、血管網の可視表示に加え、血管の太さを良好に可視化できれば、肌評価をより適切に行えるとの考えに到った。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、OCTによる皮膚血管網の可視化をより効果的に実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、OCTを用いる光学系を含み、皮膚の血管網を可視化する血管可視化装置である。この装置は、光源からの光を皮膚の組織に導いて走査させるための光学機構と、光学機構の駆動を制御し、光学系による光干渉信号を処理することにより皮膚の断層像を取得し、その断層像に基づいて血管網を算出する制御演算部と、血管網の画像を表示する表示部と、を備える。制御演算部は、血管網の算出に際して血管として特定された血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる半径を血管半径とし、各血管対応座標の血管半径の大きさに基づく識別表示を血管網の画像に重ねることで、血管網の太さを表現する。
【0008】
本発明の別の態様は、皮膚の血管網を可視化する血管可視化方法である。この方法は、OCTを用いることにより、皮膚の断層像を取得する断層像取得工程と、取得された断層像に基づいて血管網を算出する演算工程と、血管網の算出に際して血管として特定された血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる半径を血管半径とし、各血管対応座標の血管半径の大きさに基づく識別表示を重畳的に実行することで、血管網を表す画像を表示する表示工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、OCTによる皮膚血管網の可視化をより効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例に係る血管可視化装置の構成を概略的に表す図である。
図2】血管網の基本的な検出方法を表す説明図である。
図3】OCTにより血管網を検出する場合のノイズの影響を表す説明図である。
図4】血管抽出方法を模式的に表す説明図である。
図5】血管抽出方法を模式的に表す説明図である。
図6】血管網の算出結果を表す図である。
図7】血管網の算出結果を表す図である。
図8】血管太さ表示処理を表す図である。
図9】血管太さのビジュアル化を実行した結果を示す図である。
図10】表皮に熱負荷をかけたときの様子を示す図である。
図11】血管網可視化処理の流れを示すフローチャートである。
図12】体動ノイズ除去処理を詳細に示すフローチャートである。
図13】血管抽出処理を詳細に示すフローチャートである。
図14】血管パラメータ表示処理を詳細に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は血管可視化装置である。この装置は、光学機構および制御演算部を含む。制御演算部は、光学機構の駆動を制御しつつ、OCTにより皮膚の断層像を取得する。制御演算部は、その断層像に基づいて血管網の形状(二次元形状又は三次元形状)を算出し、その画像を表示部に表示させる。この装置は、血管網の表示処理に際し、体動ノイズの抑制、血管部分の高精度な抽出、および血管太さのビジュアル化を実現できる。
(1)体動ノイズの抑制
本実施形態では、表皮から真皮にわたる皮膚のOCT断層像が複数回(同一断面について複数回)取得される。制御演算部は、取得された複数の断層像のうち体動ノイズの影響が基準値を超える断層像を特定して演算対象から除外し、残余の断層像に基づいて血管網を算出する。それにより、体動ノイズが抑制された血管網の画像を表示できる。
【0012】
具体的には、複数の断層像の自己相関に基づいて血管網を算出する従来手法に先立ち、その自己相関に用いる断層像の組み合わせを予め選別する処理を実行する。血流と体動に対する表皮の感度の違いを利用して、体動ノイズの少ない断層像の組み合わせを演算対象として絞り込むものである。すなわち、表皮には血管がなく、真皮には血管が存在する。このため、真皮は血管の動き(つまり血流)に対する感度が大きく、血流に応じて変位又は変形し易い。一方、表皮は血管から離隔しているため、血流に対する感度は小さいが、体動に対する感度は大きい。したがって、表皮の変位が大きい場合、それは体動によるものと仮定できる。このような発想に基づき、表皮の変位が判定基準よりも大きい断層像の組み合わせを自己相関の演算対象から除外する。
【0013】
制御演算部は、皮膚の断層領域について表皮対応領域と真皮対応領域を設定する。ここで、「表皮対応領域」は表皮領域の一部であってもよく、血流による変位が相対的に小さく、体動による変位が相対的に大きい領域であってよい。「真皮対応領域」は真皮領域の一部であってもよく、血流による変位が相対的に大きい領域であってよい。より詳細には、真皮の網状層は、血管径が比較的大きく血流による変位が大きいため、真皮対応領域に属する。真皮の乳頭層は、血管径が比較的小さく血流による変位が小さいため、真皮対応領域に含めなくてもよい。「座標」はOCTにて設定される空間座標であってよく、断層像を構成する画素の位置(断層位置)を特定する。
【0014】
制御演算部は、取得した断層像における深さ方向の輝度プロファイルに基づいて表皮対応領域および真皮対応領域を特定してもよい。「輝度プロファイル」は、OCT強度(光強度)を示すものであってよい。
【0015】
制御演算部は、複数回取得された断層像について、表皮対応領域の座標における自己相関値を演算する(第1相関取得工程)。続いて、このとき演算された自己相関のうち予め定める低自己相関に対応する断層像の組み合わせを演算対象から除外する(演算対象特定工程)。この演算対象特定工程(表皮対応領域に関して自己相関が低い断層像の組み合わせを除外する工程)により、体動ノイズの混入を抑制できる。
【0016】
制御演算部は、除外工程を経た後の残余の断層像の組み合わせについて、真皮対応領域の座標における自己相関値を演算する(第2相関取得工程)。そして、その真皮対応領域における自己相関値が予め定める低相関範囲にある座標を血管又は血管候補として特定し、血管網を算出する。すなわち、このように算出された座標(座標に対応する画素)を血管と特定し、その座標のつながりにより血管網を算出してもよい。あるいは、このように算出された座標を血管候補として特定するに留め、追加条件を具備することにより血管として特定してもよい。「低相関範囲」については、実験や解析等により適正な範囲を設定できる。
【0017】
本実施形態によれば、複数回取得された断層像の中から体動ノイズの大きいものを予め演算対象から除去するという簡易な手法にて、血管網の可視化を高精度に実現できる。
【0018】
また、上記技術を利用した血管可視化プログラムを構築してもよい。このプログラムは、OCTにより複数回取得された複数の断層像について、表皮対応領域における自己相関値である第1自己相関値を演算する機能と、第1自己相関値のうち予め定める低自己相関に対応する断層像の組み合わせを除外したうえで、真皮対応領域における自己相関値である第2自己相関値を演算する機能と、第2自己相関値に基づいて血管網を算出する機能と、算出された血管網を表示させるための信号を出力する機能と、をコンピュータに実現させることができる。このプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。
(2)血管部分の高精度な抽出
OCTにより皮膚の血管網を算出する場合、そのOCT強度(光強度、輝度)に基づいて血管を判定することが考えられる。血管は周囲の組織と比較してOCT強度が低くなることを利用するものである。しかし、OCT強度が低い箇所には、リンパ管も含まれると考えられる。本実施形態では、血管とリンパ管とをOCT強度に関して予め設定する閾値に基づいて識別可能とし、血管部分を高精度に抽出する。
【0019】
制御演算部は、取得した断層像における深さ方向の輝度プロファイルを関数近似した基準プロファイルを設定する。「輝度プロファイル」は、OCT強度を示すものであってよい。断層像は1回取得することとしてもよいし、上述のように複数回取得してもよい。後者の場合、OCT強度は複数回分の画像についての平均値としてもよい。「関数近似」には、最小二乗法等の直線フィッティングを採用してもよい。真皮対応領域を中心に血管網の演算を行う場合には、基準プロファイルの設定を真皮対応領域に限定してよい。
【0020】
制御演算部は、断層像における深さ方向の輝度値に関し、基準プロファイル上の輝度値と実際の輝度値との差を外れ値として算出する。「基準プロファイル上の輝度値」は、血管やリンパ管でない周辺組織の輝度(「基準輝度」ともいう)を示す。血管やリンパ管の輝度は、この基準輝度よりも相当低い。このため、実際に検出された輝度と基準輝度との差である「外れ値」の大きさを算出することにより周辺組織でないこと、つまり血管やリンパ管であることを判定できる。
【0021】
制御演算部は、予め定める血管判定範囲(第1閾値から第2閾値までの範囲)に外れ値を有する座標を血管又は血管候補として特定し、血管網を算出する。すなわち、このように算出された座標(座標に対応する画素)を血管と特定し、その座標のつながりにより血管網を算出してもよい。あるいは、このように算出された座標を血管候補として特定するに留め、追加条件を具備することにより血管として特定してもよい。「血管判定範囲」については、血管周囲の組織やリンパ管を実質的に除ける範囲として、実験や解析等により適正な範囲を設定できる。
【0022】
制御演算部は、血管判定範囲よりも低輝度領域に設定されたリンパ管判定範囲(第2閾値を超える範囲)に外れ値を有する座標を、リンパ管又はリンパ管候補として特定してもよい。すなわち、このように算出された座標(座標に対応する画素)をリンパ管と特定してもよい。あるいは、このように算出された座標をリンパ管候補として特定するに留め、追加条件を具備することによりリンパ管として特定してもよい。「リンパ管判定範囲」については、リンパ管周囲の組織や血管を実質的に除ける範囲として、実験や解析等により適正な範囲を設定できる。算出されたリンパ管と血管とを例えば異なる色や模様で表現するなど、両者を区別する態様で表示部に表示させてもよい。リンパ管と血管の双方を表示可能とし、いずれか一方の表示に適宜切り替えられるようにしてもよい。あるいは、血管を表示させることなく、リンパ管を表示させてもよく、本実施形態の装置を「リンパ管可視化装置」として機能させてもよい。
【0023】
このような血管抽出方法を、上述した体動ノイズ除去方法と併せて血管網演算処理に適用してもよい。すなわち、上述した体動ノイズ除去後に算出された血管候補について、OCT輝度を「実際の輝度値」として算出しておく。残余の複数の断層像について輝度値の平均値をとることで「実際の輝度値」としてもよい。血管候補のうち、その輝度値が血管判定範囲にあるものを血管と特定してもよい。このような血管抽出方向による追加処理を、真皮対応領域に限定して行ってもよい。
【0024】
また、上記技術を利用した血管可視化プログラムを構築してもよい。このプログラムは、OCTにより取得された断層像について、深さ方向の輝度プロファイルを関数近似した基準プロファイルを設定する機能と、断層像における深さ方向の輝度値に関し、基準プロファイル上の輝度値と実際の輝度値との差を外れ値として算出し、予め定める血管判定範囲に外れ値を有する座標を血管又は血管候補として特定し、血管網を算出する機能と、算出された血管網を表示させるための信号を出力する機能と、をコンピュータに実現させることができる。このプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。
(3)血管太さのビジュアル化
一般に、皮膚の毛細血管が太いほど栄養素の供給や老廃物の排出がスムーズとなり、肌が健やかであると考えられる。このため、上述した血管網の可視表示に加え、血管の太さを良好に可視化できれば、肌評価をより適切に行えると考えられる。そこで、本実施形態では、血管網のパラメータの一つとして、血管の太さを可視表示する。
【0025】
制御演算部は、上述のように、複数回取得された断層像の自己相関値が予め定める低相関範囲にある座標を血管として特定することにより血管網を算出する。あるいは、OCT強度(輝度)が血管判定基準値以下の座標(好ましくは血管判定範囲にある座標)を血管として特定し、血管網を算出してもよい。本実施形態では、血管として特定された血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる半径を血管半径と定義する。「血管半径」は、血管対応座標を中心とする仮想円の設定を前提としてよい。あるいは、円に近い多角形その他の形状について中心を設定し、その径(半径として近似)により血管半径を特定してもよい。制御演算部は、各血管対応座標の血管半径の大きさに基づく識別表示を血管網の画像に重ねることで、血管網の太さを表現する。
【0026】
制御演算部は、血管対応座標を中心とする半径を大きくしていき、周囲の血管座標の充填率が予め定める充填判定基準値を下回った場合に、その下回ったときの半径又は下回る直前の半径を血管半径としてもよい。あるいは、誤差範囲を考慮し、その下回る所定回数前後の半径を血管半径としてもよい。「充填判定基準値」については、画像の解像度に応じて適宜設定すればよく、例えば98%以上、好ましくは99%以上とするなど、実質的に100%(誤差範囲を含む)としてもよい。充填率が100%から99%に下がるなど、充填率が減少し始めたときの半径又はその直前の半径を「血管半径」としてもよい。
【0027】
具体的には、制御演算部は、各血管対応座標を血管半径の大きさに対応づけて色分けすることにより、血管網の太さを表現してもよい。このように血管半径の大きさに基づく識別表示を重畳的に実行することで、後述する実施例にも示すように、血管の太さが一目瞭然となる。特に、血管の分岐部や合流部など複雑な形状部分において血管形状の視認性を向上させることができる。
【0028】
また、上記技術を利用した血管可視化プログラムを構築してもよい。このプログラムは、OCTにより取得された断層像に基づいて皮膚の血管網を演算する機能と、血管網の算出に際して血管として特定された血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる半径を血管半径とし、各血管対応座標の血管半径の大きさに基づく識別表示を血管網の表示と重畳的に実行させるための信号を出力する機能と、をコンピュータに実現させることができる。このプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態を具体化した実施例について詳細に説明する。
[実施例]
図1は、実施例に係る血管可視化装置の構成を概略的に表す図である。本実施例の血管可視化装置は、皮膚組織をマイクロスケールにて断層計測し、皮膚の毛細血管を可視化するものである。この断層計測にOCTを利用する。
【0030】
図1に示すように、OCT装置1は、光源2、オブジェクトアーム4、リファレンスアーム6、光学機構8,10、光検出装置12、制御演算部14および表示装置16を備える。各光学要素は、光ファイバにて互いに接続されている。なお、図示の例では、マッハツェンダー干渉計をベースとした光学系が示されているが、マイケルソン干渉計その他の光学系を採用することもできる。
【0031】
本実施例では、SS-OCT(Swept Source OCT)を用いるが、TD-OCT(Time Domain OCT)、SD-OCT(Spectral Domain OCT)その他のOCTを用いてもよい。SS-OCTは、時間的に発振波長を走査した光源を用いることにより、参照光路の機械的な掃引を行わず計測感度の高いデータが取得できることから、高い時間分解能と高い位置検出精度が得られる点で好ましい。
【0032】
光源2から出射された光は、カプラー18(ビームスプリッタ)にて分けられ、その一方がオブジェクトアーム4に導かれて物体光となり、他方がリファレンスアーム6に導かれて参照光となる。オブジェクトアーム4の物体光は、サーキュレータ20を介して光学機構8に導かれ、測定対象(以下、「対象S」という)に照射される。対象Sは、本実施例では皮膚である。この物体光は、対象Sの表面および断面にて後方散乱光として反射されてサーキュレータ20に戻り、カプラー22に導かれる。
【0033】
一方、リファレンスアーム6の参照光は、サーキュレータ24を介して光学機構10に導かれる。この参照光は、光学機構10の参照鏡26にて反射されてサーキュレータ24に戻り、カプラー22に導かれる。すなわち、物体光と参照光とがカプラー22にて合波(重畳)され、その干渉光が光検出装置12により検出される。光検出装置12は、これを光干渉信号(干渉光強度を示す信号)として検出する。この光干渉信号は、A/D変換器28を介して制御演算部14に入力される。
【0034】
制御演算部14は、光学系全体の制御と、OCTによる画像出力のための演算処理を行う。制御演算部14の指令信号は、図示略のD/A変換器を介して光源2、光学機構8,10等に入力される。制御演算部14は、光検出装置12に入力された光干渉信号を処理し、OCTによる対象Sの断層像を取得する。そして、その断層像データに基づき、後述の手法により対象Sにおける血管網の断層分布を演算する。
【0035】
より詳細には以下のとおりである。
光源2は波長掃引光源であり、時間的に発振波長を走査した光を出射する。光源2から出射された光は、カプラー18にて物体光と参照光に分けられ、それぞれオブジェクトアーム4、リファレンスアーム6に導かれる。
【0036】
光学機構8は、オブジェクトアーム4を構成し、光源2からの光を対象Sに導いて走査させる機構と、その機構を駆動するための駆動部を備える。光学機構8は、コリメータレンズ30、2軸のガルバノミラー32、および対物レンズ34を含む。対物レンズ34は、対象Sに対向配置される。サーキュレータ20を経た光は、コリメータレンズ30を介してガルバノミラー32に導かれ、x軸方向やy軸方向に走査されて対象Sに照射される。対象Sからの反射光は、物体光としてサーキュレータ20に戻り、カプラー22に導かれる。
【0037】
光学機構10は、リファレンスアーム6を構成し、コリメータレンズ40、集光レンズ27および参照鏡26を含む。サーキュレータ24を経た光は、コリメータレンズ40を経て集光レンズ27にて参照鏡26に集光される。この参照光は、参照鏡26にて反射されてサーキュレータ24に戻り、カプラー22に導かれる。そして、物体光と重畳されて干渉光として光検出装置12に送られる。
【0038】
光検出装置12は、光検出器42およびアンプ44を含む。カプラー22を経ることで得られた干渉光は、光検出器42にて光干渉信号として検出される。この光干渉信号は、アンプ44およびA/D変換器28を経て制御演算部14に入力される。
【0039】
制御演算部14は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクなどを有する。制御演算部14は、これらのハードウェアおよびソフトウェアによって、光学系全体の制御と、OCTによる画像出力のための演算処理を行う。制御演算部14は、光学機構8,10の駆動を制御し、それらの駆動に基づいて光検出装置12から出力された光干渉信号を処理し、OCTによる対象Sの断層像を取得する。そして、その断層像データに基づき、後述の手法により対象Sにおける血管網を演算する。
【0040】
表示装置16は、例えば液晶ディスプレイからなり、「表示部」として機能する。表示装置16は、制御演算部14にて演算された対象Sの内部の血管網を二次元又は三次元的に可視化する態様で画面に表示する。
【0041】
以下、皮膚の血管網を算出するための演算処理方法について説明する。
上述のように、OCTにおいて、オブジェクトアーム4を経た物体光(対象Sからの反射光)と、リファレンスアーム6を経た参照光とが合波され、光検出装置12により光干渉信号として検出される。制御演算部14は、この光干渉信号を干渉光強度(OCT強度)に基づく対象Sの断層像として取得することができる。
【0042】
OCTの光軸方向(奥行き方向)の分解能であるコヒーレンス長lは、光源の自己相関関数によって決定される。ここでは、コヒーレンス長lを自己相関関数の包括線の半値半幅とし、下記式(1)にて表すことができる。
【数1】
ここで、λはビームの中心波長であり、Δλはビームの半値全幅である。
【0043】
一方、光軸垂直方向(ビーム走査方向)の分解能は、集光レンズによる集光性能に基づき、ビームスポット径Dの1/2とされる。そのビームスポット径ΔΩは、下記式(2)にて表すことができる。
【数2】
ここで、dは集光レンズに入射するビーム径、fは集光レンズの焦点である。
【0044】
OCTにより複数回撮影される断層像の自己相関を演算することにより、血管網(血管形状やその変化)を算出できる。図2は、血管網の基本的な検出方法を表す説明図である。図2(A)は、皮膚(対象S)をOCTにより計測する方法を示す。図2(B)は二次元断層像を示し、図2(C)は三次元断層像を示す。
【0045】
図2(A)に示すように、皮膚の真皮以下には毛細血管がはりめぐらされている。同図においては動脈が実線にて示され、静脈が一点鎖線にて示されている。表皮に血管は存在しない。真皮の上部において表皮に向かって突出している部分は乳頭層であり、非常に細い血管を有している。乳頭層の下方に網状層があり、比較的太い血管が存在している。
【0046】
OCT計測では、物体光の光軸方向を皮膚の深さ方向に設定し、Z方向とする。Z方向に垂直な方向にX方向、Y方向をとる。まず、Z-X平面に二次元測定領域が設定され(破線枠参照)、SS-OCTの波長走査によるZ方向スキャンが実行される。そのZ方向スキャンをX方向に走査しつつ繰り返す。それにより、図2(B)に示すような二次元断層像を得ることができる。さらにY方向走査を行うことにより、図2(C)に示すような三次元断層像を得ることができる。このようなOCT計測は、マイクロスケールの高解像度を有するため、被験者の体動に起因するノイズ(体動ノイズ)でさえ無視できないことがある。
【0047】
図3は、OCTにより血管網を検出する場合のノイズの影響を表す説明図である。図3(A)は、体動ノイズの影響を示す。図3(B)~(D)は、血流によるノイズの影響を示す。図3(A)において、高輝度の部分(白い部分)が、所定断面(X-Y断面)の血管網を示す。血管網に体動ノイズが重畳された結果、全体的に白くぼやけてみえることが分かる。
【0048】
また、図3(B)に示すように、三次元表示した場合、Z-X断面の下部が白くぼやけているのが分かる。これは、真皮の網状層における血流が大きくなった結果、検出される画像がZ方向に揺れ、図3(C)に示すいわゆる「動きのゴーストG」を生じさせたことが原因と考えられる。この動きのゴーストGが生じると、算出される血管尤度データは、図3(D)に示すようにZ方向に延びたものとなり、実態に沿わないものとなる。この動きのゴーストによるノイズを「血流ノイズ」ともいう。本実施例では、このような問題を解決するために、体動ノイズ除去処理と血管抽出処理を実行する。
【0049】
(体動ノイズ除去処理)
血管網の算出に際しては、連続的に複数回取得された断層像に検査領域(例えば3×3ピクセルの領域ずつ)を設定し、その検査領域内での自己相関を演算する。すなわち、検査領域内の同じ座標における画像の同一性(類似度)を自己相関値として算出する。自己相関が高ければその画像は変位(変形)が少ない、つまりその座標に位置する皮膚組織の動きが小さいと判定できる。逆に、自己相関が低ければ、その座標に位置する皮膚組織の動きが大きいと判定できる。血管は血流による変動があるため、周囲の組織と比較して自己相関は低くなる。この点を利用し、自己相関が低い座標(画素)を血管尤度が高い、つまり血管又は血管候補として特定できる。
【0050】
一方、体動ノイズがのる場合も組織の変位(変形)を伴うため、自己相関が低くなる。このため、低自己相関となったときに、それが血流又は体動ノイズのいずれによるものかを区別し、後者を除外できるのが好ましい。そこで、表皮に血管がなく、真皮に血管があるという両者の構造上の相異に着目する。表皮は血管がないため、本来ならば自己相関が高くなるはずである。それにもかかわらず、表皮での自己相関が相当低くなる場合、体動ノイズの影響である可能性が高いと推定できる。
【0051】
血管網の算出のために複数回取得された断層像について自己相関をとる場合、一般には、その断層像の組み合わせの数だけ自己相関値を算出し、それらの平均値に基づいて自己相関を評価する。本実施例では、表皮部分の自己相関が低い断層像の組み合わせを予め除外することで、体動ノイズの混入を防止又は抑制する。そして、残余の断層像の組み合わせについて自己相関をとることで、体動ノイズが抑制された血管網を算出する。
【0052】
具体的には、以下の演算処理を行う。
OCTにより同一断面の断層像をT回取得した際、任意のt回目の座標(p,q)におけるOCT強度(光強度)をIt(p,q)とし、座標(p,q)を中心とした検査領域内でのOCT強度を平均した値を ̄It(p,q)とする。このとき、任意のt1,t2回目(t1≠t2)の断層像について、表皮対応領域における座標(p,q)での正規化した自己相関値Pepi t1,t2(p,q)は、下記式(3)で表すことができる。
【数3】
【0053】
制御演算部14は、この自己相関値Pepi t1,t2(p,q)の集合Pepi(自己相関データの集合)を、大きい順に並べ替えた集合PSepiを下記式(4)により得る。
【数4】
【0054】
そして、集合PSepiにおいて予め定めるM+1番目以降のデータを削除する。つまり、表皮対応領域において予め定める低自己相関となるデータについて、体動ノイズの影響があるものとして除外する。言い換えれば、表皮対応領域において低自己相関となる断層像の組み合わせを除外する。そして、残余のデータ、つまり表皮対応領域において自己相関の高い1~M番目のデータを用いて血管網を特定する。
【0055】
すなわち、残余の断層像の組み合わせについて、真皮対応領域における正規化した自己相関値Pderm t1,t2(p,q)を、下記式(5)により算出する。
【数5】
t1,t2の組み合わせは、上記式(4)において削除されなかったものである。
【0056】
そして、その自己相関値Pderm t1,t2(p,q)が予め定める低相関範囲にある座標を血管候補として特定する。
【0057】
(血管抽出処理)
上述のようにして算出された血管候補の一部には、リンパ管が含まれる可能性がある。また、血流が大きい箇所については、動きのゴーストが生じている可能性がある。これらの問題を解決するために、血管候補の中からより血管を選別するための処理を実行する。
【0058】
図4および図5は、血管抽出方法を模式的に表す説明図である。
本実施例では図4右段に示すように、取得した断層像に基づき、皮膚表面からの深さとOCT強度との関係を表す輝度プロファイルを取得する。ここでは、深さをZ方向のピクセル値にて示している。OCT強度は複数回取得した断層像データの平均値としてもよい。OCT強度が最も大きいところ(深さ=0)が皮膚表面である。この輝度プロファイルは、図示のような極小値と極大値を含む曲線を描く。極小値付近までが表皮に対応すると考えられる。また、論文(Neerken, S., Characterization of age-related effects in human skin, J Biomed Opt, 9 (2004) 274-281.)によると、極小値と極大値との間に真皮における乳頭層対応部と網状層対応部との境界があると考えられる。
【0059】
ここで、動きのゴーストを生じさせるような血流の大きい箇所は、相対的に血管が太い網状層対応部であると考えられる。このため、網状層対応部の血管候補について、より血管尤度の高いものを抽出する。
【0060】
図5(A)は基準プロファイルを示し、図5(B)は血管判定範囲を示している。
制御演算部14は、図4右段に示した輝度プロファイルを関数近似した基準プロファイルを保持する(図5(A))。より詳細には、網状層対応部においてOCT強度が極大となる箇所よりも深部(一点鎖線枠参照)について、輝度プロファイルを直線フィッティングしたものを基準プロファイルとしている。このような関数近似により、基準プロファイル上のOCT強度は、血管やリンパ管の周囲の皮膚組織での強度に近いものとなる。言い換えれば、OCT強度が基準プロファイルから大きく外れる場合、血管やリンパ管に対応すると考えることができる。
【0061】
そこで、本実施例では図5(B)に示すように、同一深さについて基準プロファイル上の輝度値と実際の輝度値との差を外れ値と定義する。図示の例では、実際の輝度値から基準プロファイル上の輝度値を減算した値を「外れ値V」としているため、外れ値Vはマイナスの値をとるが、減算方法を逆転させて外れ値Vを定義してもよい。外れ値VがV1~V2となる範囲が「血管判定範囲」とされ、外れ値がV2~の範囲が「リンパ管判定範囲」とされている。
【0062】
OCT断層像について血管判定範囲に外れ値を有する座標(画素)を血管又は血管候補として特定できる。制御演算部14は、体動ノイズ除去処理を経て算出された網状層対応部の血管候補について、その外れ値が血管判定範囲にあるものを血管として特定する。
【0063】
図6および図7は、血管網の算出結果を表す図である。図6(A)は、体動ノイズ除去処理を行わなかった場合を示し、図6(B)は、体動ノイズ除去処理を行った場合を示す。図7(A)~(D)は、皮膚表面からの深さが異なる複数の画像(X-Y断面の画像)を示す。深さについては、それぞれ63μm、108μm、323μm、431μmである。各図の上段はOCT断層像を示し、下段は血管網算出結果を示す。
【0064】
図6を参照すると、本実施例のように体動ノイズ除去処理を経ることで、明らかにノイズが減少し、視認性が高められることが確認できる。また、図7を参照すると、皮膚の深部に向かうほど血管網が太くなり、実態に沿った画像が得られていることが分かる。
【0065】
(血管パラメータ表示処理)
本実施例では、上述のようにして得られる血管網に対し、血管の太さ情報を重畳的に可視表示する。図8は、血管太さ表示処理を表す図である。図8(A)~(C)はその処理過程を示す。
【0066】
制御演算部14は、上述のようにして血管として特定された座標(血管対応座標)について血管半径を算出する。図8(A)に模式的に示すように、血管網50を構成する各血管対応座標を中心に他の血管対応座標を周囲に充填させる半径を血管半径rと定義する。具体的には、血管対応座標を中心に円の半径を徐々に大きくし、その円の面積に占める血管対応座標の面積が下がるときの半径を血管半径rとしている。概念的には、血管対応座標を中心とする円が血管壁に到達したときの径が血管半径rに相当する。図示の例では、座標p1の血管半径としてr1、座標p2の血管半径としてr2、座標p3の血管半径としてr3が算出されている。
【0067】
そして図8(B)に示すように、制御演算部14は、各血管対応座標を血管半径の大きさに対応づけて色分けする。続いて図8(C)に示すように、血管壁側に血管半径が低くなることを補正するために、円形状の検査領域において最大となる値で円の中心がもつ値を埋めるフィルタを適用し、血管半径ごとに着色する。図示の例では、血管径が一定のため、同色で塗りつぶされているが、血管径が変化するところでは、色変化が表示されるようになる。
【0068】
図9は、血管太さのビジュアル化を実行した結果を示す図である。図9(A)~(C)は血管太さの表示過程を示す。図10は、表皮に熱負荷をかけたときの様子を示す図である。図10(A)は熱負荷前の状態を示し、図0(B)は熱負荷後の状態を示す。
【0069】
制御演算部14は、図9(A)に示す血管網画像を表示させる一方で、図9(B)に示す太さ識別画像を演算する。そして、図9(C)に示すように、血管網画像に太さ識別画像を重ねることで、血管網の太さを表現する。
【0070】
図10(A)および(B)に示すように、熱負荷の前後で太さ識別画像が変化する。熱負荷後に太さが大きくなっていることが分かる。すなわち、熱負荷によって血管が膨張するという実態に沿った結果が得られている。
【0071】
次に、制御演算部14が実行する具体的処理の流れについて説明する。
図11は、制御演算部14により実行される血管網可視化処理の流れを示すフローチャートである。本処理は、所定の演算周期で繰り返し実行される。制御演算部14は、光源2および光学機構8,10を駆動制御しつつ、OCTによる光干渉信号を複数回取得する(S10)。制御演算部14は、取得したOCTの断層像に対し、上述した体動ノイズ除去処理(S12)、血管抽出処理(S14)および血管パラメータ表示処理(S16)を順次実行する。
【0072】
図12は、図11におけるS12の体動ノイズ除去処理を詳細に示すフローチャートである。制御演算部14は、取得したOCTの断層像に基づき、上述した輝度プロファイルを算出し(S20)、表皮対応領域を検出する(S22)。そして、その表示対応領域について自己相関処理を実行し(S24)、低相関画像を削除することで体動ノイズを除去する(S26)。
【0073】
図13は、図11におけるS14の血管抽出処理を詳細に示すフローチャートである。
制御演算部14は、S26において除去されなかった残余の断層像について自己相関値を取得し(S30)、低相関範囲にある座標を血管候補として特定する(S32)。
【0074】
一方、制御演算部14は、輝度プロファイルに直線フィッティングを実行し、網状層対応領域について基準プロファイルを設定する(S34)。そして、S32にて血管候補とされた各座標について輝度値(OCT強度)の外れ値を算出し(S36)、各外れ値を血管判定範囲と照合する(S38)。続いて、外れ値が血管判定範囲に属する血管候補を血管として特定し、その血管の集合である血管網を算出する(S40)。そして、このようにして得られた血管網を表示装置16に表示させる(S42)。
【0075】
図14は、図11におけるS16の血管パラメータ表示処理を詳細に示すフローチャートである。制御演算部14は、S40にて得られた血管の血管対応座標について、血管半径を算出し(S50)、その血管半径に基づいて太さ識別画像を演算する(S52)。そして、S42の血管網画像に太さ識別画像を重畳表示する(S54)。
【0076】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はその特定の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0077】
上記実施例では、OCTにより二次元断層像を複数回取得し(いわゆるBスキャン)、その複数の二次元断層像の自己相関に基づいてBスキャン単位で体動ノイズを除去する例を示した。変形例においては、Z方向スキャン(いわゆるAスキャン)ごとに自己相関を行い、Aスキャン単位で体動ノイズを除去してもよい。
【0078】
上記実施例では、断層像の自己相関を二次元座標で演算する例を示したが、三次元座標で演算してもよい。
【0079】
上記実施例では、体動ノイズの除去に際し、表皮対応領域について低自己相関とする断層像の組み合わせを除外する例を示した。変形例においては、その低自己相関を形成した断層像組み合わせを構成する一方の断層像(一部の断層像)を削除してもよい。この削除する一方の断層像は、低自己相関を形成しやすい断層像とする。例えば、低自己相関を形成する複数の断層像組み合わせに共通の断層像を削除対象としてもよい。また、他の変形例においては、表皮対応領域も含む解析領域全層における低自己相関とする断層像の組み合わせを除外してもよい。
【0080】
上記実施例では、血管太さのビジュアル化において、図8(B)の処理の後に図8(C)の処理を行うこととしたが、図8(C)の処理を省略してもよい。ただし、図8(C)の処理を経たほうが、血管太さをより明瞭に識別できる。
【0081】
上記実施例では述べなかったが、体動ノイズ除去処理や血管抽出処理の後、空間周波数フィルタやメディアンフィルタ等のノイズ低減処理を施すことにより、いわゆるラインノイズやごま塩ノイズを除去してもよい。
【0082】
なお、本発明は上記実施例や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施例や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施例や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 OCT装置、2 光源、4 オブジェクトアーム、6 リファレンスアーム、8 光学機構、10 光学機構、12 光検出装置、14 制御演算部、16 表示装置、26 参照鏡、27 集光レンズ、30 コリメータレンズ、32 ガルバノミラー、34 対物レンズ、40 コリメータレンズ、50 血管網、S 対象。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14