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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】超薄膜光ルミネッセンスセンサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/62 20060101AFI20220513BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220513BHJP
   G01N 21/80 20060101ALI20220513BHJP
   G01L 11/00 20060101ALI20220513BHJP
   G01L 1/24 20060101ALI20220513BHJP
   G01K 11/12 20210101ALI20220513BHJP
   G01K 11/16 20210101ALI20220513BHJP
【FI】
G01N21/62 Z
G01N21/78 C
G01N21/80
G01L11/00
G01L1/24 Z
G01K11/12 H
G01K11/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017547888
(86)(22)【出願日】2016-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2016082056
(87)【国際公開番号】W WO2017073728
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-07-26
(31)【優先権主張番号】10201508989W
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的国際科学技術協力推進事業「昆虫-無線電子デバイス融合システムにおける筋動作のinvivo制御」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(73)【特許権者】
【識別番号】518111036
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 俊宣
(72)【発明者】
【氏名】宮川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山岸 健人
(72)【発明者】
【氏名】武岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 団
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕崇
(72)【発明者】
【氏名】フォ-ドン タットサン
(72)【発明者】
【氏名】ファ-ディナンダス
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-086040(JP,A)
【文献】特開2013-053901(JP,A)
【文献】特開2013-200192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0244592(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0236986(US,A1)
【文献】特開2008-232853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/958
G01K 11/00-G01K 11/324
G01L 1/24
G01L 11/00-G01L 21/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の高分子ナノシートを含む積層膜からなる超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、
前記積層膜は、測定対象である物理的又は化学的パラメータの値の変化に対して光学特性が変化するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含み、
前記物理的又は化学的パラメータの値の変化に対して非感受性のルミネッセンス化合物をリファレンス化合物として担持する高分子ナノシートをレシオメトリック法のためのリファレンスナノシートとして含む、
ことを特徴とする超薄膜光ルミネッセンスセンサー。
【請求項2】
請求項1に記載の超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、
前記物理的又は化学的パラメータが、ガス濃度、酸素濃度、窒素濃度、圧力、温度、金属イオン濃度、pH、膜電位及び活性酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする超薄膜光ルミネッセンスセンサー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、
前記ルミネッセンス化合物は、酸素又は圧力の感受性を有する化合物としてPtOEP(platinum octaethylporphyrin)から、温度感受化合物を有する化合物としてEuDT(Eu-tris(dinaphthoylmethane)-bis-trioctylphosphine oxide)、EuTTA(Eu-thenolytrifluoroacetonate)又はローダミンB(Rhodamine B)から、pH感受性を有する化合物として2',7'-Dichlorofluorescein又はfluoresceinから、CO2ガス感受性を有する化合物としてベンゾビスイミダゾリウム(Benzobisimidazolium)から、カルシウム感受性を有する化合物として(1-[2-アミノ-5-(2,7-ジフルオロ-6-ヒドロキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸,ベンタアセトキシメチルエステル)から、亜鉛感受性を有する化合物として2-[N-(carboxymethyl)-4-(2,7-difluoro-3-oxido-6-oxoxanthen-9-yl)-2-methoxyanilino]acetate、Glycine,N-(carboxymethyl)-N-[4-[[(2',7'-difluoro-3',6'-dihydroxy-3-oxospiro[isobenzofuran-1(3H),9'-[9H]xanthen]-5-yl]carbonyl]amino]2-methoxyphenyl]-,tetrapotassium salt又は2-[2-[2-[2-[bis(carboxylatomethyl)amino]-5-methoxyphenoxy]ethoxy]-4-(2,7-difluoro-3-oxido-6-oxo-4a,9a-dihydroxanthen-9-yl)anilino]acetate)から、マグネシウム感受性を有する化合物として5-Oxazolecarboxylic acid,2-[5-[2-[(acetyloxy)methoxy]-2-oxoethoxy]-6-[bis[2-[(acetyloxy)methoxy]-2-oxoethyl]amino]-2-benzofuranyl]-(acetyloxy)methyl esterから、及び、膜電位感受性を有する化合物としてANEPPS から選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする超薄膜光ルミネッセンスセンサー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、
前記測定対象の物理的又は化学的パラメータの値の変化に対して非感受性のリファレンス化合物が、有機蛍光化合物、有機金属錯体、又は無機蛍光材料から選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする超薄膜光ルミネッセンスセンサー。
【請求項5】
請求項4に記載の超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、
前記有機蛍光化合物がRhodamine101又はRhodamine800から、有機金属錯体がイリジウム錯体(Irppy3)から選択され、及び、無機蛍光材料がQuantum Dotである
ことを特徴とする超薄膜光ルミネッセンスセンサー。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、
前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーの厚さが1μm未満である、
ことを特徴とする超薄膜光ルミネッセンスセンサー。
【請求項7】
超薄膜光ルミネッセンスセンサーを使用して、被験体の物理的若しくは化学的パラメータの値又はその変化を測定する方法であって、
前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、複数の高分子ナノシートの積層膜であり、
前記積層膜は、測定対象である物理的又は化学的パラメータの値の変化に対して光学特性が変化するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含み、
前記物理的又は化学的パラメータの値の変化に対して非感受性のルミネッセンス化合物をリファレンス化合物として担持する高分子ナノシートをリファレンスナノシートとして用い、
前記ルミネッセンス化合物からのルミネッセンスの測定強度に対して、前記リファレンス化合物からのルミネッセンスの測定強度の比を算定し、
測定デバイスにおける測定値をレシオメトリック法によって補正する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記物理的又は化学的パラメータが、ガス濃度、酸素濃度、窒素濃度、圧力、温度、金属イオン濃度、pH、膜電位及び活性酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の方法であって、
前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーの厚さが1μm未満である、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超薄膜光ルミネッセンスセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
極めて重大な事故の発生を避けるために、特に宇宙空間・海底・災害・安全保障などの極限環境下において、作業環境に由来する物理量又は化学量(例:ガス濃度、温度、pH)をモニターすることは重要である。このため、これらの値を検出、モニターするために、金属電極上に変換物質として機能するものを有する電極方式を利用した電気化学的センサーが通常利用されてきた。しかし、電気化学的センサーは、外部電源や設備との有線接続を要し、デザイン、サイズや設置場所に制限や限界がある。
【0003】
柔軟な形状で、さまざまな物理量又は化学量を有線接続でなくカメラで光学的に検出可能なセンサーが強く求められている。このような背景のもと、酸素/pH感受性を有し、物理的又は化学的な作用により発光強度が変化する蛍光分子を含有した薄膜状光ルミネッセンスセンサーが長い間研究開発されているが、時空間分解能や貼付性の低さが課題である(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開公報パンフレットWO2003036293 A1(2003)
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. Schreml他 「Luminescent Dual Sensors Reveal Extracellular pH-Gradients and Hypoxia on Chronic Wounds That Disrupt Epidermal Repair」, Theranostics 2014, Vol. 4, Issue 7 pp721-735.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸素/pH感受性を有し、物理的又は化学的な作用により発光強度が変化する蛍光分子を含有した薄膜状光ルミネッセンスセンサーが長い間研究開発されているが、時空間分解能や貼付性の低さが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の高分子ナノシートを含む積層膜からなる超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、前記積層膜は、測定対象である物理的又は化学的パラメータに対して光学特性が変化するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含む超薄膜光ルミネッセンスセンサーを提供する。
【0008】
前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、さらに、前記物理的又は化学的パラメータに対して異なる光学特性を有するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含む場合がある。
【0009】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のルミネッセンス化合物をリファレンス化合物として担持する高分子ナノシートをレシオメトリック法のためのリファレンスナノシートとして含む場合がある。
【0010】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記物理的又は化学的パラメータが、ガス濃度、酸素濃度、窒素濃度、圧力、温度、金属イオン濃度、pH、膜電位及び活性酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0011】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記ルミネッセンス化合物が、酸素又は圧力に対して感受性を有する化合物、温度感受性を有する化合物、pH感受性を有する化合物、CO2ガス感受性を有する化合物、カルシウム感受性を有する化合物、亜鉛感受性を有する化合物、マグネシウム感受性を有する化合物、ナトリウム感受性を有する化合物、膜電位感受性を有する化合物、及び、活性酸素感受性を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0012】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記ルミネッセンス化合物は、酸素又は圧力の感受性を有する化合物がPtOEP(platinum octaethylporphyrin)から、温度感受性を有する化合物がEuDT (Eu-tris (dinaphthoylmethane)-bis-trioctylphosphine oxide)、EuTTA (Eu-thenolytrifluoroacetonate)及びローダミンB(Rhodamine B)から、pH感受性を有する化合物が2',7'-Dichlorofluorescein及びfluoresceinから、CO2ガス感受性を有する化合物がベンゾビスイミダゾリウム(Benzobisimidazolium)から、カルシウム感受性を有する化合物がFluo 4(商標)から、亜鉛感受性を有する化合物がFluoZin(商標)(FluoZin-1(商標)、FluoZin-2(商標)及び、FluoZin-3(商標))から、マグネシウム感受性を有する化合物がMag-Fura-2(商標)から、ナトリウム感受性を有する化合物がCoroNa Green(商標)から、膜電位感受性を有する化合物がANEPPS (Di-4-ANEPPS、Di-8-ANEPPS) から、並びに、活性酸素感受性を有する化合物がCellROX(登録商標)から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0013】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記ルミネッセンス化合物がシート表面に導入される化合物であって、該化合物は、カルシウム感受性を有する化合物、pH感受性を有する化合物、活性酸素感受性を有する化合物、ATP感受性を有する化合物、cAMP感受性を有する化合物、cGMP感受性を有する化合物、及び、グルタミン酸感受性を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0014】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記ルミネッセンス化合物が、シート表面に導入される化合物であって、カルシウム感受性を有する化合物がGCamPから、pH感受性を有する化合物がpHTomatoから、活性酸素感受性を有する化合物がHyperから、ATP感受性を有する化合物がPercevalから、cAMP感受性を有する化合物がFlamindoから、cGMP感受性を有する化合物がFlincGから、グルタミン酸感受性を有する化合物がiGluSnFRからなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0015】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス化合物が、有機蛍光化合物、有機金属錯体及び無機蛍光材料からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0016】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記有機蛍光化合物がRhodamine101及びRhodamine800から、有機金属錯体がイリジウム錯体(Irppy3)から、並びに、無機蛍光材料がQuantumDotからなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0017】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーの厚さが1μm未満又は500nm未満、好ましくは500nm未満である場合がある。
【0018】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記高分子ナノシートは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、エラストマー、導電性ポリマー及び多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を製膜した高分子ナノシートである場合がある。
【0019】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、細胞培養関連基材への貼付用ナノシートとして使用される場合がある。
【0020】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、細胞培養関連基材は、シャーレ、ガラス又はマルチプレートウェルから選択される場合がある。
【0021】
また、本発明は、超薄膜光ルミネッセンスセンサーを使用して被験体の物理的若しくは化学的パラメータ又はその変化を測定する方法であって、前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、複数の高分子ナノシートの積層膜であり、前記積層膜は、測定対象である物理的又は化学的パラメータに対して光学特性が変化するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含む方法を提供する。
【0022】
前記方法は、さらに、前記物理的又は化学的パラメータに対して異なる光学特性を有するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含む場合がある。
【0023】
本発明の方法において、前記物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のルミネッセンス化合物をリファレンス化合物として担持する高分子ナノシートをリファレンスナノシートとして用い、
前記ルミネッセンス化合物からのルミネッセンスの測定強度に対して、前記リファレンス化合物からのルミネッセンスの測定強度の比を算定し、
測定デバイスにおける測定値をレシオメトリック法によって補正する場合がある。
【0024】
本発明の方法において、前記物理的又は化学的パラメータは、ガス濃度、酸素濃度、窒素濃度、圧力、温度、金属イオン濃度、pH、膜電位及び活性酸素濃度からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0025】
本発明の方法において、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物は、酸素又は圧力に対して感受性を有する化合物がPtOEPから、温度感受化合物を有する化合物がEuDT、EuTTA及びRhodamine Bから、pH感受性を有する化合物が2' ,7'-Dichlorofluorescein及びfluoresceinから、CO2ガス感受性を有する化合物がBenzobisimidazoliumから、カルシウム感受性を有する化合物がFluo 4(商標)から、亜鉛感受性を有する化合物がFluoZin(商標)から、マグネシウム感受性を有する化合物がMag-Fura-2(商標)から、ナトリウム感受性を有する化合物がCoroNa Green(商標)から、膜電位感受性を有する化合物がANEPSから、並びに、活性酸素感受性を有する化合物がCellROX(登録商標)から選択される場合がある。
【0026】
本発明の方法において、前記測定対象のパラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物は、シート表面に導入される化合物であって、カルシウム感受性を有する化合物、pH感受性を有する化合物、活性酸素感受性を有する化合物、ATP感受性を有する化合物、cAMP感受性を有する化合物、cGMP感受性を有する化合物、グルタミン酸感受性を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0027】
本発明の方法において、前記測定対象のパラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物は、シート表面に導入される化合物であって、カルシウム感受性を有する化合物がGCamPから、pH感受性を有する化合物がpHTomatoから、活性酸素感受性を有する化合物がHyperから、ATP感受性を有する化合物がPercevalから、cAMP感受性を有する化合物がFlamindoから、cGMP感受性を有する化合物がFlincGβから、グルタミン酸感受性を有する化合物がiGluSnFRから選択される少なくとも1種である場合がある。
【0028】
本発明の方法において、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンスルミネッセンス化合物が、有機蛍光化合物、有機金属錯体及び無機蛍光材料からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0029】
本発明の方法において、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス化合物は、有機蛍光化合物がRhodamine101又はRhodamine800から、有機金属錯体がイリジウム錯体(Irppy3)から、及び、無機蛍光材料がQuantumDotやカーボン又はナノチューブ(近赤外線)から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0030】
本発明の方法において、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物が、酸素又は圧力に対して感受性を有する化合物、温度感受化合物を有する化合物、pH感受性を有する化合物、CO2ガス感受性を有する化合物、カルシウム感受性を有する化合物、亜鉛感受性を有する化合物、マグネシウム感受性を有する化合物、ナトリウム感受性を有する化合物、膜電位感受性を有する化合物、及び、活性酸素感受性を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0031】
本発明の方法において、前記パラメータが、温度、ガス濃度、酸素濃度、窒素濃度、金属イオン濃度及びpHからなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0032】
本発明の方法において、前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーの厚さが、1μm未満又は500nm未満、好ましくは500nm未満であり、より好ましくは200nm未満である場合がある。
【0033】
本発明の方法において、前記高分子ナノシートは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、エラストマー、導電性ポリマー及び多糖類からなる群の少なくとも1種を製膜した高分子ナノシートである場合がある。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、温度、酸素及びpH感受性を有し、これらの物理量や化学量の変化により発光強度が変化する蛍光分子を含む超薄膜状光ルミネッセンスセンサーであって、厚さ(膜厚:数十マイクロメートル)に起因する時空間分解能や貼付性の低さが改善され、時空間分解能と貼付性の高いナノシートを有する超薄膜状光ルミネッセンスセンサーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明のナノシート及びその積層膜を製造する工程、及び、ナノシートに担持したルミネッセンス化合物を表した図。
図2A】PtOEP担持ナノシートの高い接着性を表す可視光写真及び蛍光写真を表す図。a:皮膚表面、b:コイン、c:プラスチックモデル、d:プラスチックモデルにPtOEP担持ナノシートを各マーキング部位に貼付した物品に対して、上段は可視光写真、下段はPtOEPの蛍光写真を表す。
図2B】細胞培養用ディッシュ(ガラスボトムディッシュ)にナノシートを用いて脳スライスを固定した画像図。上段左図:脳スライスを固定した細胞培養用ディッシュの全体写真の図、上段右図:光学顕微鏡写真図、下段左図:脳スライスにナノシートを貼付した模式図、下段右図:PtOEPの蛍光顕微鏡写真図。
図3】PtOEP担持ナノシート及びRhodamine 101担持ナノシートの蛍光スペクトル図;図3A:PtOEP担持ナノシートの酸素各種濃度下における蛍光スペクトル図;図3B:PtOEP担持ナノシートの蛍光強度に対する酸素各種濃度の影響をシュテルン-フォルマー(Stern- Volmer)プロットで表した図;図3C:PtOEP担持ナノシートとRhodamine 101担持ナノシートの積層膜の酸素各種濃度下における蛍光スペクトル図。
図4A】PtOEP担持ナノシートの時空分解能を評価した図; PtOEP担持ナノシートとPtOEP担持マイクロシートの空間分解能を比較した図(左側:ナノシート、右側:マイクロシート)。
図4B】PtOEP担持ナノシートの時空分解能を評価した図;PtOEP担持ナノシートとPtOEP担持マイクロシートの時間分解能を比較した図。
図5A】PtOEP担持ナノシートとPtOEP担持マイクロシートの時間分解能をビデオカメラで撮影して、各フレームの画像を時系列に比較した図;実験の模式図 PET基板上に貼付したナノシート酸素センサーと厚さ1 μm以上の酸素センサーの模式図。
図5B】PtOEP担持ナノシートとPtOEP担持マイクロシートの時間分解能をビデオカメラで撮影して、各フレームの画像を時系列に比較した図;PtOEP担持PSナノシート及び1 μm以上のマイクロシートの蛍光像及び模式図。
図5C】PtOEP担持ナノシートとPtOEP担持マイクロシートの時間分解能をビデオカメラで撮影して、各フレームの画像を時系列に比較した図;時空間分解能の比較結果。
図6】水中の溶存酸素各種濃度の変化をPtOEP担持ナノシートで経時的に観測した結果を表す図。
図7】PtOEP担持ナノシートをヒト上腕皮膚上に貼付し、窒素気流及び酸素気流を吹き付けた可視光及び蛍光写真の図。a)窒素気流を吹き付けた時の可視光写真、b)窒素気流を吹き付けた時の蛍光写真、c)酸素気流を吹き付けた時の可視光写真、d)酸素気流を吹き付けた時の蛍光写真。
図8】EuDT ナノシートの蛍光に与える各種温度の影響を表す図。図8A:EuDT担持ナノシートの蛍光スペクトルを表す図;図8B:温度を変化した時のEuDT担持ナノシートの蛍光強度と温度との関係とを表す図;図8C:Rhodamine 800担持ナノシートの蛍光スペクトルを表す図;図8D:温度を変化した時のRhodamine 800担持ナノシートの蛍光強度と温度との関係を表す図。
図9】甲虫(Dicronorrhina derbyana)背側の飛翔筋へのEuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートとの積層膜の各蛍光画像及びレシオメトリック法で処理した画像の図。図9A:貼付位置の説明図(左側飛翔筋に貼付の場合);図9B:積層膜を貼付した飛翔筋の可視光写真;図9C:EuDT担持ナノシートによる蛍光画像(左)、Rhodamine 800担持ナノシートによる蛍光画像(中)、及び、レシオメトリック法で処理した画像(右)。
図10】甲虫の飛翔筋にEuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートとの積層膜を貼付し、赤外線レーザーを間歇的に照射し、飛翔筋温度を変化させた時のEuDT及びRhodamineからの蛍光強度を経時的に観測した結果を表す図。左図:関心領域(ROI)を表した図。右図:経時的な蛍光強度の変化を表す図。
図11】EuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートとの積層膜による温度変化測定と赤外線サーモグラフィーによる温度変化測定との温度分解能を比較した図。図11A:関心領域(ROI)を示した図;図11B:関心領域における加温時と放熱時の温度と蛍光強度との関係をプロットした図。なお、▲は、加温時と放熱時の各温度における温度分解能(正規化比率の標準偏差を温度感受性のプロットの傾き)で割った値)を表す。;図11C:ROIの面積を変化した場合における各種温度における温度分解能を表した図。
図12】甲虫の飛翔筋にEuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートとの積層膜を貼付した状態で、甲虫の自発運動による温度変化を観測した画像、及び、各ROIにおける温度変化の数値を表す図。上段左図:測定したROIを示した図;上段右図:刺激前、刺激後、放熱後の温度変化をマッピングした画像;下段表:各ROIにおける変化温度の測定値。
図13】レシオメトリック法を用いるルミネッセンスセンサーナノシートでの所望とする物理的又は化学的パラメータの画像による二次元的な観測において、焦点ずれによる測定装置の受光密度の変化(所謂ピンボケ)に対してレシオメトリック法で補正可能であることを表す参考図。Rhodamine Bの担持シートとNIRrhod101の担持シートとを、焦点ずれを惹起して得られた画像とその時の蛍光強度のプロット、及び、レシオメトリック法で補正したプロットを表した図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
1.超薄膜光ルミネッセンスセンサー
本発明の実施形態の1つは、複数の高分子ナノシートを含む積層膜からなる超薄膜光ルミネッセンスセンサーであって、前記積層膜は、測定対象である物理的又は化学的パラメータに対して光学特性が変化するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含む超薄膜光ルミネッセンスセンサーである。
【0037】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、さらに、前記物理的又は化学的パラメータに対して異なる光学特性を有するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含むことができる。
【0038】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、センサー層とリファレンス層の少なくとも二層の高分子ナノシートが互いに積層されることにより構築された超薄膜光ルミネッセンスセンサーとすることが可能であり、該超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、レシオメトリックな蛍光又は発光センサーとして使用できる。センサー層は、測定パラメータに対して感受性を有する又は前記物理的又は化学的パラメータの種類が相違する異なった光学特性を有する蛍光化合物又はりん光化合物をナノシート中に含むことにより、物理的又は化学的パラメータを測定するようにデザインされており、リファレンス層(以下、「リファレンスナノシート」と記載する)は、それらの測定パラメータに対して感受性を有しない又は感受性が小さいリファレンスルミネッセンス化合物を含んでいる。各ナノシート層は、厚さ1μm未満、好ましくは500nm未満、より好ましくは200nm未満の柔軟な高分子層からなる。なお、高分子ナノシートについては、例えば、T. Fujie、S. Takeoka, 「Advances in Nanosheet Technology Towards Nanomedical Engineering in Nanobiotechnology」、 D. A. Phoenix 及びA. Waqar編、 One Central Press、英国、 2014、pp.68-94.を参照することができる。
【0039】
本明細書において、「超薄膜」とは、「薄膜」と比較して、十分に膜厚が小さいとの意味で使用される。例えば、本明細書において記載される膜厚が1μm未満のナノシートは、膜厚が1μm以上のマイクロシートと比較して、物体に対する貼付性が顕著に優れ、膜ルミネッセンスセンサーとして使用する場合にも、時間分解能、空間分解能がマイクロシートよりも顕著に優れる。また、本発明は、係る超薄膜を積層するものの、その総膜厚は1μm未満であり、前記の1μm以上の膜厚の薄膜シートとは、積層した状態においても顕著に優れている。
【0040】
本明細書において、かかる1μm未満の、好ましくは500nm未満の、より好ましくは200nm未満のナノシート層を有する超薄膜を、「ナノシート」と記載する場合がる。
【0041】
本明細書において、「ルミネッセンス」とは、化合物等の物質が物理的又は化学的な作用によってエネルギーを受け取って遷移状態に励起され、基底状態に戻る際に放出されるエネルギーによる蛍光又はりん光等の発光現象及びその放射光をいい、本発明においては、好ましくは、ルミネッセンスの中でも、光によって励起される光ルミネッセンス(フォトルミネッセンス)をいう。
【0042】
本明細書において、「ルミネッセンス化合物」とは、ルミネッセンス現象、好ましくは、光ルミネッセンス現象を惹起可能な化合物をいい、一般に「蛍光化合物」、「りん光化合物」、「蛍光色素」及び「りん光色素」と言われる化合物を含む。
【0043】
本明細書で前記「ルミネッセンス化合物」とは、測定の対象とする物理的又は化学的パラメータに感受性の「ルミネッセンス化合物」と、非感受性若しくは感受性が小さい又はルミネッセンス化合物が感受性を有する物理的又は化学的パラメータとは相違する物理的又は化学的パラメータに感受性を有する「リファレンスルミネッセンス化合物」とに分類され、本明細書において特に説明しない限り「ルミネッセンス化合物」は測定の対象とする物理的又は化学的パラメーターに対して感受性を有するルミネッセンス化合物をいう。
【0044】
本明細書において、「リファレンスルミネッセンス化合物」を、以下「リファレンス化合物」と記載する。該「リファレンス化合物」は、測定対象とする物理的又は化学的特性に対して非感受性又は感受性が小さい特性を利用し、主に、レシオメトリック法におけるリファレンス化合物として使用される。また、リファレンス化合物の蛍光を「リファレンス蛍光」と、その蛍光を発する化合物を「リファレンス蛍光化合物」と、リファレンス化合物のりん光を「リファレンスりん光」と、そのりん光を発する化合物を「リファレンスりん光化合物」と記載する場合がある。
【0045】
本明細書において、「レシオメトリック法」とは、放射光波長の異なる少なくとも2種類のルミネッセンス化合物、又は2種類の異なる放射光波長をもつ少なくとも1種類のルミネッセンス化合物を使用し、各化合物から放出されるルミネッセンス、及び、リファレンスルミネッセンスの各放射光量又は測定装置における各受光量の比率を利用する方法であって、前記受光量の比率を用いて、動作又は照射光量の変化に基づく前記ルミネッセンス化合物の受光量の変化を補正し、放射光量を算出する方法を含む。さらに、放射光波長に限らず、同じ放射光波長であるが、2種類以上の異なる励起波長で計測する手法も含む。
【0046】
レシオメトリック法は、例えば、測定対象とする物理的又は化学的パラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物と、非感受性のリファレンス化合物とを用い、同一二次元画像上の同一位置のルミネッセンス化合物からの発光量と、リファレンス化合物からの発光量とを、励起光波長及び/又は放射光波長の相違に基づいて分別して測定し、リファレンス化合物に対するルミネッセンス化合物の発光量の比を求めることにより実施できる。より具体的には、例えば、波長フィルターを使用し、ルミネッセンス化合物の励起波長を含む波長幅の励起光とリファレンス化合物の励起波長を含むは超幅の励起光とを、短時間に交互にスイッチングし、これに呼応した発光の波長を測定装置(受像機)で分別測定して、両化合物からの発光の受光量の比を求めることにより、被写体の動作の受光量に及ぼす影響、測定装置の焦点ずれ(所謂、ピンボケ)による受光量に及ぼす影響を補正することができる。
【0047】
本明細書において、「光学特性が相違する」とは、ルミネッセンス化合物に対する励起波長及び/又は放射波長が相違することを意味する。
【0048】
本発明において、測定対象である物理的又は化学的パラメータの例として、ガス濃度、酸素濃度、窒素濃度、圧力、温度、金属イオン濃度、pH、膜電位及び活性酸素濃度等が挙げられる。
【0049】
前記の物理的又は化学的パラメータに対する感受性は、例えば、ルミネッセンス化合物が、前記物理的又は化学的パラメータを反映する又は前記物理的又は化学的パラメータが影響を与える化学物質により惹起される発光又は可逆的な消光等によってもたらされる。
【0050】
本明細書において、物理的又は化学的パラメータの種類が相違する異なった光学特性を有するルミネッセンス化合物の例としては、前記物理的又は化学的パラメータに対して、異なった励起波長及び/又は異なった放射波長を有するルミネッセンス化合物が挙げられる。
【0051】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記ルミネッセンス化合物の例として、酸素又は圧力に対して感受性を有する化合物、温度感受性を有する化合物、pH感受性を有する化合物、CO2ガス感受性を有する化合物、カルシウム感受性を有する化合物、亜鉛感受性を有する化合物、マグネシウム感受性を有する化合物、ナトリウム感受性を有する化合物、膜電位感受性を有する化合物、及び、活性酸素感受性を有する化合物が挙げられ、これらの化合物から選択できる。
【0052】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記ルミネッセンス化合物は、酸素又は圧力の感受性を有する化合物がPtOEP (platinum octaethylporphyrin)から、温度感受性を有する化合物がEuDT (Eu-tris(dinaphthoylmethane)-bis-trioctylphosphine oxide)、EuTTA (Eu-thenolytrifluoroacetonate)及びローダミンB(Rhodamine B) から、pH感受性を有する化合物が2',7'-Dichlorofluorescein及びfluoresceinから、CO2ガス感受性を有する化合物がベンゾビスイミダゾリウム(Benzobisimidazolium、J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, pp 17846?-17849)から、カルシウム感受性を有する化合物がFluo 4(商標)(1-[2-アミノ-5-(2,7-ジフルオロ-6-ヒドロキシ-3-オキソ-9-キサンテニル)フェノキシ]-2-(2-アミノ-5-メチルフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸,ベンタアセトキシメチルエステル) から、亜鉛感受性を有する化合物がFluoZin(商標)(FluoZin-1 (商標):2-[N-(carboxymethyl)-4-(2,7-difluoro-3-oxido-6-oxoxanthen-9-yl)-2-methoxyanilino]acetate、FluoZin-2(商標):Glycine,N-(carboxymethyl)-N-[4-[[(2',7'-difluoro-3',6'-dihydroxy-3-oxospiro[isobenzofuran-1(3H),9'-[9H]xanthen]-5-yl]carbonyl]amino]2-methoxyphenyl]-,tetrapotassium salt及び、FluoZin-3(商標):2-[2-[2-[2-[bis(carboxylatomethyl)amino]-5-methoxyphenoxy]ethoxy]-4-(2,7-difluoro-3-oxido-6-oxo-4a,9a-dihydroxanthen-9-yl)anilino]acetate)から、マグネシウム感受性を有する化合物がMag-Fura-2(商標)(5-Oxazolecarboxylic acid,2-[5-[2-[(acetyloxy)methoxy]-2-oxoethoxy]-6-[bis[2-[(acetyloxy)methoxy]-2-oxoethyl]amino]-2-benzofuranyl]-(acetyloxy)methyl ester)から、ナトリウム感受性を有する化合物がCoroNa Green(商標)(Meier SDら、J Neurosci Methods. 2006, 15;155(2):251-9) から、膜電位感受性を有する化合物がANEPPS (AminoNaphthylEthenylPyridinium誘導体、Di-4-ANEPPS: 3-(4-[2-[6-(dibutylamino)naphthalen-2-yl]ethenyl]pyridinium-1-yl)propane-1-sulfonate);Di-8-ANEPPS: 4-(2-[6-(Dioctylamino)-2-naphthalenyl]ethenyl)-1-(3-sulfopropyl)pyridinium inner salt)から、並びに、活性酸素感受性を有する化合物がCellROX(登録商標)(Ahn HYら、J Am Chem Soc. 2012, 14;134:4721-30)から選択される化合物が挙げられ、これらの一部は商業的に利用可能であり、これらを入手して、又は、公知の方法で製造して使用できる。
【0053】
また、本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーの例として、前記ルミネッセンス化合物はシート表面に結合させることにより導入される化合物を使用することができる。これらの化合物は、カルシウム感受性を有する化合物、pH感受性を有する化合物、活性酸素感受性を有する化合物、ATP感受性を有する化合物、cAMP感受性を有する化合物、cGMP感受性を有する化合物、グルタミン酸感受性を有する化合物等、溶液中のイオンや化合物と直接的に作用して感受性を有する化合物を挙げることができる。例えば、これらの化合物を、NHSとEDC/DCCなどの縮合剤を用いたカップリング反応、アジドーアルキンによるクリックケミストリーなどによってナノシート表面に結合できる。
【0054】
このルミネッセンス化合物が、シート表面に導入される化合物の例として、より具体的には、カルシウム感受性を有する化合物がGCamP (Mao Tら、PLoS ONE;2008, 3 e1796)、pH感受性を有する化合物がpHTomato (Li Yら、Nat Neurosci. ; 15: 1047?1053)、活性酸素感受性を有する化合物がHyper (Belousov VVら、Genetically encoded fluorescent indicator for intracellular hydrogen peroxide. Nat. Meth. 2006; 3:281?286)、ATP感受性を有する化合物がPerceval (Berg Jら、Nat. Meth. 2009; 6:161?166)、cAMP感受性を有する化合物がFlamindo (Fluorescent cAMP indicator)、cGMP感受性を有する化合物がFlincG (Nausch LWら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2008;105:365-70、グルタミン酸感受性を有する化合物がiGluSnFR (Marvin JSら、Nat Methods. 2013 Feb;10:162-70)を挙げることができ、これらの化合物は公知の方法で製造して使用できる。
【0055】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、例えば、前記ルミネッセンス化合物の少なくとも1種が、レシオメトリック法のためのリファレンスナノシートとして、測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス蛍光又はリファレンスりん光化合物を担持する高分子ナノシートを含むことができる。
【0056】
前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス化合物の例として、有機蛍光化合物、有機金属錯体、及び、無機蛍光材料が挙げられ、これらの中の少なくとも1種を使用することができる。
【0057】
より具体的な例として、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のルミネッセンス化合物は、有機蛍光色素がRhodamine101(CAS番号 116450-56-7: 2-(1H,2H,3H,5H,6H,7H,11H,12H,13H,15H,16H,17H-pyrido[3,2,1-ij]quinolizino[1',9':6,7,8]chromeno[2,3-f]quinolin-18-ium-9-yl)benzoate, 2-(2,3,6,7,12,13,16,17-octahydro-1H,5H,11H,15H-pyrido[3,2,1-ij]quinolizino[1',9':6,7,8]chromeno[2,3-f]quinolin-4-ium-9-yl)benzoate)、又はRhodamine800 (CAS番号137993-41-0: 9-Cyano-2,3,6,7,12,13,16,17-octahydro-1H,5H,11H,15H-xantheno[2,3,4-ij:5,6,7-i'j']diquinolizin-18-ium perchlorate) 、有機金属錯体がイリジウム錯体((Irppy)3: イリジウム,トリス[2-(2-ピリジニル-κ N)フェニル-κ C])、並びに、無機蛍光材料がコロイド状量子ドット(QuantumDot)及びカーボンナノチューブ(近赤外線領域で蛍光)が挙げられ、これらは商業的に利用可能であり、又は、公知の方法で製造でき、これらを入手又は製造して使用できる。
【0058】
本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーにおいて、前記高分子ナノシートの材質の例としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル(ポリ乳酸・ポリ乳酸グリコール酸共重合体・ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子を含む)、エラストマー、導電性ポリマー及び多糖類等を製膜した高分子ナノシートが挙げられ、これらは、商業的に利用可能であり、又は、公知の方法で製造できる。
【0059】
単層又は2層程度のナノシートは、トータル1μm未満という膜厚ゆえに接着剤又は粘着剤なしでさまざまな表面に貼付することが可能である。さらに、種々のパラメータを測定する化合物を含む複数のナノシートを互いに積層させた多層ナノシートにより、マルチパラメータセンサーを容易に構築することが可能となる。測定可能なパラメータの例としては酸素濃度、温度、pHなど(これらに限られない)が挙げられる。光源による励起により、物理的又は化学的パラメータの値に対応した光ルミネッセンスが生成される。さらに、このナノシートセンサーは、膜厚が1μm以上のマイクロシートセンサーと比較して高い時空間分解能を得ることができる。さらに、温度センサーとして使用する場合に、膜厚が薄くなることにより、熱の出入りが速やかとなり、高い応答速度、緩和速度、感受性を得ることができる。また、紫外・可視領域の蛍光を用いることから、それよりも波長の長い赤外線を用いる一般的な赤外線サーモグラフィーと比較して、高い空間分解能を示すことができる。
【0060】
これらの本願発明の優れた特性は、下記の方法で製造し、実施できる。
【0061】
パラメータ測定のための2層構造のナノシートセンサーの作成方法は、主に以下のステップからなる(図1参照)。
a) 犠牲膜層として、PVAやプルランのような水溶性高分子を基板上に製膜する。
b) センサー化合物およびポリマーを溶媒に溶解させる。この際、溶媒は化合物およびポリマーに対し不活性のものを選択し、ポリマー溶液を作成する。
c) 前記ポリマー溶液を犠牲膜層の上にスピンコートし、ナノシートセンサーを作成する。
d) 水中に浸漬させることで犠牲膜層を溶解させ、自立性(self-standing)のナノシートセンサーを水中にて得る。
e) レシオメトリック測定に用いる際は、前記自立性のナノシートセンサーを水中からメッシュで掬い上げる。この操作はセンサー層、リファレンス層それぞれに対して行う。
f) センサー層をリファレンス層の上に重ね、センサー層側のメッシュをセンサー層から剥がす。この際、上からセンサー層、リファレンス層、メッシュとなる。また、リファレンス層をセンサー層の上に重ねることで、上からリファレンス層、センサー層、メッシュとすることも可能である。
g) 測定対象表面に対して二層ナノシートセンサーを、上からリファレンス層、センサー層、測定対象の順になるように貼り付け、メッシュ側に水や食塩水などの水性の溶媒を加えてメッシュのみを剥がし、測定対象に二層ナノシートセンサーを貼付又は密着させる。
【0062】
以下に、より具体的に説明する。
我々は、膜厚が10から100ナノメーターのオーダーと極めて薄い高分子フィルムを製造し、酸素/温度に感受性を有する又は感受性を有しない蛍光分子が埋め込まれることでフィルムを機能的なものにする簡便な技術を発明した。ナノシートは高分子ポリマーの柔軟性によって高い追従性を有し、ファンデルワールス力により生体組織を含むさまざまな基体上に高い密着性を有する。センサー化合物をナノシート中に埋め込むために、我々は高分子ポリマー、蛍光/りん光化合物及び溶媒の適切な組み合わせを選択した。センサー化合物はナノシートの高分子マトリックス中で作用しなければならない。ポリマーはセンサー化合物の蛍光特性に対して不活性でなければならない。一方、溶媒はポリマーに対して充分な溶解性を持ってなければならない、また、センサー化合物の安定性に影響を与えてはならない。例えば、PMMA (ジクロロメタン、トルエン、エチルアセテート又はアセトン中に溶解する)は、前記化合物のリークが最小となり蛍光強度が安定するので、例えば、ローダミンB、EuTTA、EuDT、PtOEPの埋め込みに使用され得る。PS(ジクロロメタン、トルエン又はエチルアセテートに溶解する)は、さらにガス濃度に対する感受性がポリマーの組成を変えることで変化できる。そこでポリマーはPSやPMMAから選択されうる。例えば、我々はPSナノシートが窒素に対して高い感受性を示し、PMMAナノシートが酸素に対して高い感受性を示すことを実証した。しかし、ナノシートは、ポリエステル、エラストマー、導電性ポリマーや多糖類などのさまざまなポリマーを用いて製造され得る。本発明では、上記したポリマー、化合物、及び溶媒の適当な組み合わせが選択される。
【0063】
2.超薄膜光ルミネッセンスセンサーによって被験体の物理的又は化学的パラメータを測定する方法
本発明のもう1つの実施態様は、前記の超薄膜光ルミネッセンスセンサーによって被験体の物理的又は化学的パラメータを測定する方法、特に、レシオメトリック法を用いることによって、物理的又は化学的パラメーターを精度の高く測定する方法である。
【0064】
より具体的な例としては、超薄膜光ルミネッセンスセンサーを使用して被験体の物理的又は化学的パラメータ又はその変化を測定する方法であって、前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、複数の高分子ナノシートの積層膜であり、前記積層膜は、測定対象である物理的又は化学的パラメータに対して光学特性が変化するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを含む方法である。
【0065】
前記方法は、さらに、前記物理的又は化学的パラメータに対して異なる光学特性を有するルミネッセンス化合物を担持する少なくとも1つの高分子ナノシートを使用することができる。
【0066】
本発明の方法の1つの形態として、前記ルミネッセンス化合物の少なくとも1種が、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス蛍光又はリファレンスリン光化合物をリファレンス化合物として含む高分子ナノシートからの放射光をリファレンスとして、測定デバイスにおける測定値をレシオメトリック法によって補正する方法が挙げられる。
【0067】
本発明の方法の例として、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス化合物を担持する高分子ナノシートからの放射光をリファレンスとして、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物の放射光に対する測定デバイスが受像する二次元画像上の特定の位置の受光量と、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス化合物の放射光に対する測定デバイスが受像する二次元画像上の前記特定の位置と同一位置の受光量との比を求めるステップを含む方法が挙げられる。
【0068】
前記受光量の比に基づいて、被験体又は測定装置の位置及び/又は照射光量の変化に基づく受光量の変化に対して、前記ルミネッセンス化合物による放射光量に対する測定装置の受光量を補正するステップを含むことができる。測定対照の物理的又は化学的パラメータに対して感受性を示す化合物を有するナノシートと一緒に、リファレンス化合物を有するナノ―シートを積層することにより、これらの化合物を単層膜中に担持させる場合に惹起される蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による干渉が惹起する測定デバイスにおける受光量の低下の問題を回避できる。
【0069】
また、予め測定対象の物理的又は化学的パラメーターの絶対値が既知の物体を測定し、その測定値を求めて所謂検量線を作成して置き、別途、測定対象の物理的又は化学的バラメーターの値が未知の物体を測定し、測定値を前記検量線に適用して算定することにより、被験物体の物理的又は化学的パラメーター値の絶対値を求めることができる。
【0070】
本発明の方法を使用して、被験物体の物理的又は化学的パラメーターの経時的な変化を、変化量又は相対的な変化割合として求めることもできる。
【0071】
前記物理的又は化学的パラメータの例としては、ガス濃度、酸素濃度、窒素濃度、圧力、温度、金属イオン濃度、pH、膜電位及び活性酸素濃度等が挙げられる。
【0072】
本発明の方法の実施形態において、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物の例として、酸素又は圧力に対して感受性を有する化合物、温度感受色素を有する化合物、pH感受性を有する化合物、CO2ガス感受性を有する化合物、カルシウム感受性を有する化合物、亜鉛感受性を有する化合物、マグネシウム感受性を有する化合物、ナトリウム感受性を有する化合物、膜電位感受性を有する化合物、及び、活性酸素感受性を有する化合物等から選択され使用できる。
【0073】
より具体的な例としては、前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物は、酸素又は圧力に対して感受性を有する化合物がPtOEP(platinum octaethylporphyrin)から、温度感受色素を有する化合物がEuDT (Eu-tris(dinaphthoylmethane)-bis-trioctylphosphine oxide)、EuTTA (Eu-thenolytrifluoroacetonate)及びRhodamine Bから、pH感受性を有する化合物が2' ,7'-Dichlorofluorescein及びfluoresceinから、CO2ガス感受性を有する化合物がBenzobisimidazoliumから、カルシウム感受性を有する化合物がFluo 4(商標)から、亜鉛感受性を有する化合物がFluoZin(商標)から、マグネシウム感受性を有する化合物がMag-Fura-2(商標)から、ナトリウム感受性を有する化合物がCoroNa Green(商標)から、膜電位感受性を有する化合物がANEPS、並びに、活性酸素感受性を有する化合物がCellROX(登録商標)から選択できる。
【0074】
また、前記測定対象のパラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物として、シート表面に導入される化合物を使用できる。これらの化合物の例として、カルシウム感受性を有する化合物、pH感受性を有する化合物、活性酸素感受性を有する化合物、ATP感受性を有する化合物、cAMP感受性を有する化合物、cGMP感受性を有する化合物、グルタミン酸感受性を有する化合物等から選択して使用できる。
【0075】
前記測定対象のパラメータに対して感受性を有するルミネッセンス化合物は、シート表面に導入される化合物の例として、より具体的には、カルシウム感受性を有する化合物がGCamP、pH感受性を有する化合物がpHTomato、活性酸素感受性を有する化合物がHyper、ATP感受性を有する化合物がPerceval、cAMP感受性を有する化合物がFlamindo、cGMP感受性を有する化合物がFlincGβ、グルタミン酸感受性を有する化合物がiGluSnFR等が挙げられる。
【0076】
前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス化合物の例としては、有機蛍光色素、有機金属錯体及び無機蛍光材料が挙げられる。
【0077】
前記測定対象の物理的又は化学的パラメータに対して非感受性のリファレンス化合物の例は、より具体的には、有機蛍光色素がRhodamine101又はRhodamine800、有機金属錯体がイリジウム錯体(Irppy3)、及び、無機蛍光材料がQuantumDotやカーボン又はナノチューブ(近赤外線)か挙げられる。
【0078】
前記超薄膜光ルミネッセンスセンサーの厚さが、1μm未満、好ましくは500nm未満、より好ましくは200nm未満である。
【0079】
前記高分子ナノシートの材質としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、エラストマー、導電性ポリマー及び多糖類が挙げられ、これらを製膜した高分子ナノシートを使用できる。
【0080】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0081】
1. PtOEP担持ナノシート及びRhodamine 101担持ナノシート並びにそれらの積層膜の製造(図1
以下はナノシートセンサーの作製方法のいくつかの例である。
【0082】
我々は、厚さ150~200nmの温度感受性1種類、酸素感受性1種類、及び、それらのレファランスナノシートとして非感受性2種類の4タイプのナノシートを用いたセンサーを製造した。それはスピンコート技術(図1)により作製された。最初に、グラビアコーターを用いて、PETフィルム上にpolyvinyl alcohol (PVA)を製膜した。その後、スピンコーターを用いて、PET/PVA層の上にポリマー及び化合物の溶液をスピンコートした。作製されたナノシートは、酸素感受性のある化合物PtOEP(platinum octaethylporphyrin)(ナノシート1(PS製)、膜厚:146±16nm、粗さ2±1nm)、酸素感受性のない化合物(レシオメトリック測定のためのRhodamine 101)(ナノシート2(PMMA製)、膜厚:約200nm)を得た(図1)。
【0083】
密着性
先行技術文献1、2に記載のセンサー化合物を担持するマイクロシートは柔軟性がなく、接着剤又は粘着剤を用いずに表面には物品に貼付することができない。一方、ナノシートで示される物品に対する高い密着性は、センサー化合物を担持するナノシートのセンサーとしての応用を広げる。
【0084】
ナノシートはメッシュ、ワイヤループ、あるいは毛管力を利用してさまざまな表面に容易に貼付できる。図2Aに、膜厚:150nmのPtOEP担持ナノシートを、a:皮膚表面、b:コイン、c:プラスチックモデル、d:プラスチックモデルの各マーキング部位に貼付し、可視光(上段)、PtOEPの蛍光写真(下段)を、図2Bに細胞組織培養用基材の例として、細胞培養用ディッシュ(ガラスボトムディッシュ)にナノシートを用いて脳スライスを固定した画像を示した。いずれの物品に対しても、接着剤又は粘着剤を使用しなくともPtOEP担持ナノシートは優れた密着性を示した。したがって、物理的又は化学的パラメータの測定において、この高い密着性は、正確な測定結果をもたらすことができる。そして、例えば、細胞スクリーニングや細胞・組織培養のバイオアッセイツールとしての使用に本発明のナノシートは有用であり、シャーレ、ガラス及びマルチプレートウェル等の細胞培養関連基材への貼付も可能である。
【0085】
2. PtOEP担持ナノシートとRhodamine 101ナノシートの蛍光強度に及ぼす酸素濃度の影響とレシオメトリック法
PtOEP担持ナノシート(ナノシート1)、及びPtOEP担持ナノシート(ナノシート1)とRhodamine 101担持ナノシート(ナノシート2)の積層膜を用い、各種酸素濃度環境下における酸素感受性、非感受性は、蛍光分光光度計を用いて定量的に解析した(図3、励起光の波長:560nm)。
【0086】
ナノシート1におけるPtOEPのりん光は、ナノシートに担持された状態においても酸素濃度の上昇に伴い低下することが確認された(図3A)。この650nmのりん光波長の強度と酸素濃度との関係をシュテルン-フォルマーの式に基づきプロットすると、その一次回帰直線は相関係数R=0.9977と良好な直線性を示した(図3B)。
【0087】
また、ナノシート1とナノシート2との積層膜のりん光スペクトル図を図3Cに示す。酸素濃度の変化に伴いナノシート1側では、図3Aと同様に、酸素濃度の上昇に伴いPeOEPのりん光強度は低下した一方、ナノシート2に担持されたRhodamine 101(励起波長:560nm、最大蛍光波長;589nm)からの蛍光は、酸素濃度が変化してもほとんど変化しなかった(図3C)。本結果より、Rhodamine 101担持ナノシートをリファレンスナノシートとして使用することにより、PtOEP担持ナノシートにより酸素濃度に対してレシオメトリックな超薄膜光ルミネッセンスセンサーとして使用できることが示された。
【0088】
3. PtOEPを担持するナノシートとマイクロシートとの時空間分解能の比較
ステンシル法を用いてガラスプレート(厚み0.12~0.17 mm)上に、マイクロ厚(膜厚:9μm)の酸素濃度センシングシートを作製した(ポリスチレン(PS)2.0 wt%、PtOEP 0.005 wt%)。さらに、同じガラスプレート上にPtOEPを担持するPSナノシート(膜厚:150nm)を貼付して、両シートに窒素ガスを同じ圧力で吹き付け、マイクロシートとナノシート中のPtOEPのりん光強度の変化の結果を29 fpsの撮影スピードでビデオカメラでモニターした。
【0089】
結果
PtOEPを担持するナノシート及びマイクロシートの両シート共UVランプ(励起光365nm)により励起された。窒素ガスフローに対するPtOEPのりん光強度の応答速度を比較したところ、ナノシートは酸素感受性に関してマイクロシートよりも高い時空間分解能を示した(空間分解能:約6.7倍、時間分解能:10~30倍) (図4A図4B)。シートタイプのセンサーにおいては、シート厚の減少に伴って、センサー中の環境パラメータ(ガス、温度)を変化するのに要する時間も減少する。センサーの厚さが1μm未満の場合、膜厚方向に対するガス拡散や熱伝導はマイクロシートよりも早く飽和状態となるため、ナノシートの方が高い時空間分解能が示される。この結果は1マイクロメートル未満の膜厚の重要性を示し、また、環境や生物医学的な応用のための薄膜状光ルミネッセンスセンサーの感受性や有用性を向上した。
【0090】
さらに、図5は、膜厚が1μm以上のシート(以下、「マイクロシート」と言う)の時空間分解能を示す。時間分解能に関して、窒素ガスをマイクロシートに吹き付けた際に、強度が一定になるまで変化する時間が0.7秒であったのに対して、ナノシート(150nm厚)は0.1秒未満であった。空間分解能に関して、マイクロシートの強度の変化の領域はナノシートよりも大きい。したがって、ナノシートは、1μm厚のマイクロシート に比較して高い時空間分解能を有する。この結果から、少なくとも1μm未満の膜厚が高い時空間分解能を達成するために望ましいことが示された。
【0091】
4. PtOEPを担持するナノシートによる水中の溶存酸素の測定
窒素ガスを通気したミリQ水、大気環境下に放置したミリQ水、酸素ガスを通気したミリQ水を、大気環境下、PtOEPを担持するナノシート(膜厚:150nm)上に留置し、その後の酸素濃度の変化に伴うりん光強度の変化をデジタルカメラ (NEX-C3, ソニー株式会社、東京)で測定した。
【0092】
大気環境下に放置したミリQ水を測定して得られたりん光強度に対する、窒素ガス又は酸素ガスを通気したミリQ水のりん光強度の比に対する経時変化を図6に示した。窒素ガスを通気したミリQ水は、大気環境下ミリQ水の約2.5倍のりん光強度から徐々に減少し、約15分後には、大気環境下のミリQ水でのりん光強度まで減少した。一方、酸素ガスを通気したミリQ水は大気環境下ミリQ水の0.7倍のりん光強度から徐々に増加し、約10分後には、大気環境下ミリQ水のりん光強度まで上昇した。
【0093】
これらの結果は、PtOEPを担持するナノシートは、気体中の酸素濃度に対するセンサーとしてだけではなく、水中の溶存酸素に対するセンサーとしても使用できることを示している。
【0094】
5. PtOEP担持ナノシートのヒト皮膚への貼付
上記のとおり、ナノシートは膜厚が薄いところから種々の物品に対して優れた密着性を有し、粘着剤や接着剤を使用しなくとも種々の物品に貼付できる特性を有し、皮膚表面にも貼付できる。そこで、皮膚に貼付した状態で、酸素センサーとしての機能を発揮できるかについて検証した。
【0095】
ヒトの左側上腕の皮膚表面にPtOEP担持ナノシートを貼付し、このナノシート表面に窒素気流を吹き付けることにより局所的に酸素濃度を低下させ、又は、酸素気流を吹き付けることにより局所的に酸素濃度を増加させ、これらの酸素濃度の変化をPtOEP担持ナノシートが測定可能であるか検討、評価した。
【0096】
結果を図7に示した。窒素気流を吹き付けた部位、すなわち、酸素濃度が局所的に低下した部位は、PtOEPのりん光強度が上昇することが確認された(図7a、b)。一方、酸素気流を吹き付けると、PtOEP担持ナノシートからのりん光強度は低下した(図7c、d)。これらの結果より、PtOEP担持ナノシートは、粘着剤や接着剤等を使用することなく、人体の臓器等に貼付でき、酸素濃度センサーとして酸素濃度をモニターできることが示された。
【実施例2】
【0097】
1. EuDT担持ナノシート及びRhodamine 800担持ナノシート並びにそれらの積層膜の製造(図1
温度感受性蛍光化合物としてEuDT(Eu-tris(dinaphthoylmethane)- bis-trioctylphosphine oxide)を、温度非感受性のリファレンス化合物としてRhodamine 800を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、各化合物を担持するナノシート(以下、それぞれをナノシート3、ナノシート4と記載)を製造した(図1)。なお、ナノシート3の製造には、PMMA:2.0wt%とEuDT:0.05wt%の混合溶液を用い、ナノシート4の製造には、ポリスチレン(PS):2.0wt%とRhodamine 800:0.05wt%の混合溶液を使用した。得られたナノシート3の膜厚は163±13nm、表面粗さは9±4nm、ナノシート4の膜厚は167nm±14nm、表面粗さは8±4nmであった。
【0098】
2. EuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートの温度が蛍光強度に及ぼす影響
EuDT担持ナノシート(ナノシート3)及びRhodamine 800担持ナノシート(ナノシート4)の各種温度における蛍光強度を測定した。EuDT担持ナノシートの温度変化に対する光ルミネッセンスによる発光スペクトルの変化(温度変化; 29oC~45 oC、2 oCごと、図8A)、EuDT担持ナノシートの温度変化に対する発光スペクトルのピーク(619nm)の強度変化(図8B)、Rhodamine 800担持ナノシートの温度変化に対する発光スペクトル変化(温度変化; 29oC~b45 oC、2 oCごと、図8C)、及び、Rhodamine 800担持ナノシートの温度変化に対する発光スペクトルのピーク(702 nm)強度の変化(図8D)を表す。
【0099】
その結果、EuDT担持ナノシートは温度感受性、Rhodamine 800担持ナノシートは温度に対して非感受性であることが示された。
【0100】
3. EuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートの生体温度の測定への応用
Dicronorrhina derbyana(以下、「甲虫」(beetle)と記載)の背側背板を剥離し、飛翔筋(dorso-ventral muscle及びdorso-longitudinal muscle)を露出し、この露出された飛翔筋にナノシート3とナノシート4との積層膜(二重膜)を内側側をナノシート3として貼付した。この積層膜は、粘着剤や接着剤を使用しなくとも、甲虫の飛翔筋に貼付可能であった(図9A、B)。
【0101】
この背側飛翔筋に貼付された積層膜にEuDTとRhodamine 800のそれぞれに対する励起波長を照射し(EuDTは405nm帯域、Rhodamine 800は640nm帯域)、それぞれの蛍光画像を取得した(図9Cの左図、中図)。さらに、これらの蛍光画像より、Rhodamine 800の蛍光画像をリファレンスとして、EuDTの蛍光画像をレシオメトリック法による処理を実施した。即ち、温度感受性のEuDTチャネルの信号強度を温度非感受性のRhodamine 800チャネルの信号強度で割る処理を行った(図9C右図)。このレシオメトリック法によって得られた画像は、測定対象の動きや顕微鏡のずれにより生じる焦点面変化に起因する強度変化を矯正できることが示された。
【0102】
4. 甲虫飛翔筋の温度変化に伴うEuDT及びRhodamine 800の蛍光強度変化の観測
ナノシート3と4との積層膜を貼付した甲虫の飛翔筋に赤外線レーザー光(波長:980nm, Viasho, 北京、中国)を間歇的に照射することにより、飛翔筋の温度を変化させた。このときのEuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートからの蛍光強度の時間的変化を観測した結果を図10に示した。左図は測定したROIを、右図は、EuDTとRhodamine 800の平均ルミネッセンス強度の経時的変化を表す。
【0103】
EuDTは温度感受性を示し、再現性良く一定の蛍光強度幅で間歇的な温度変化に伴った蛍光強度の上昇及び低下のサイクルを認めた。一方、Rhodamine 800は温度変化に対して非感受性であった。なお、EuDT担持ナノシートに温度変化は、950回繰り返して変化させても(40ミリ秒の励起を1秒間隔で950回反復)、安定な蛍光強度の変化を示した。
【0104】
5. 赤外線サーモグラフィーとの比較(温度分解能とROI面積との関係)
上記と同様に飛翔筋に甲虫のEuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートの積層膜を貼付後、赤外線レーザーで飛翔筋を加熱し、EuDT及びRhodamine 800の蛍光強度比を測定することにより温度変化を測定した。また、同時に赤外線サーモグラフィー(Ti 400;Fluke, ワシントン州、米国)を使用し、前記積層膜と赤外線サーモグラフィーで得られる温度変化の値とを比較した。
【0105】
結果
レーザー光で飛翔筋を加熱し、温度を上昇させた場合の赤外線サーモグラフィーで測定して得られた飛翔筋の温度変化とEuDT/Rhodamine 800の蛍光強度比との関係を図11に示した。蛍光強度比は、イメージJ (https://imagej.nih.gov/ij/)で算出した。その結果、飛翔筋温度とEuDT/Rhodamine 800蛍光強度比とは良い直線関係を示し、加熱時は1.38%/℃の、放熱時は1.72%/℃の蛍光強度比の変化を示した(図11B)。
【0106】
また、ROIの面積を55x55μm2、110x110μm2、220x220μm2及び440x440μm2と変化させると、ROIの大きさが小さい程標準偏差が大きいものの、逆に、ROIの大きさが小さい程、サーモグラフィーカメラによる測定と比較して相対的に温度分解能は高くなるとの結果を得た(図11C)。
【0107】
6. 甲虫飛翔筋の自発運動に伴う温度変化マッピング
甲虫は後肢をピンセットでつかむ刺激を与えると、飛翔筋の温度が上昇する逃避運動を誘発される。そこで、飛翔筋に上記積層膜を貼付し、刺激を与える前、刺激後及び放熱後の蛍光強度の変化を測定することにより、飛翔筋温度の変化をマッピングした。
【0108】
結果
結果を図12に示した。飛翔筋正中線近傍であるROI(関心領域)4、5での温度上昇は各3.00℃及び3.55℃を示し、外側側にいくに従って温度上昇は大きくなり、ROI 1では4.10℃、ROI 8では4.79℃の温度上昇を示した。本温度マッピングの結果から、甲虫の飛翔筋の筋繊維の形状を描出することで、甲虫刺激時の飛翔筋の発熱の不均一性を明らかにできた。
【0109】
本結果は、EuDT担持ナノシートとRhodamine 800担持ナノシートを用い、各蛍光画像をレシオメトリック法で処理することにより、動作を伴う動物において、高い空間分解能を維持したまま温度変化を測定できることを示すものである。
【0110】
参考例
被験体の位置変化による測定結果への影響へのレシオメトリック法による矯正
上記に、レシオメトリック法によって得られた画像は、測定対象の動きや顕微鏡のずれにより生じる焦点面変化に起因する強度変化を矯正できることを記載した。この点をより明確に表すため、細胞内温度分布を、温度感受性の蛍光化合物であるRhodamine Bと温度非感受性の蛍光化合物であるNIRrhod101で、焦点面をずらしながら得られた画像と、その蛍光強度比を表した図を図13に示した。
【0111】
グラフの縦軸が正規化した発光強度を表し、Rhodamine BとNIRrhod101のそれぞれの蛍光強度について、焦点が合っている状態での値を100%として記載する。被写体と受像装置との距離について焦点面からの位置が4μm、8μmとずれるに従い、即ち、所謂ピンボケになるに従い、蛍光を受像する測定装置における受光強度は減少する。一方、ピントがずれると像の大きさは大きくなる。すなわち、総発光量は変わらないため、その分単位面積あたりの受光量は下がる。しかし、Rhodamine BとNIRrhod101からの蛍光の受光強度の比をとることで、ピントのズレによる変化を補正することが可能となる。このような焦点面に対する被写体の変化は、サンプルの動き、顕微鏡のズレ等で惹起される。したがって、生体の物理的又は化学的な変化に対して経時的に測定を行う場合の正確性を損なわないためにレシオメトリック法が必須である。
【0112】
また、このようなレシオメトリック法による矯正は、単に焦点ずれだけではなく、被写体の動作等による物理的又は化学的パラメータに対して感受性を有する化合物を有し蛍光を発する被写体と、その蛍光を受光する蛍光カメラ等の受光装置との物理的な距離の変化による受光量の変化に対しても、上記の焦点ずれの場合と同様に、リファレンス蛍光との比を求めることにより、矯正された画像を取得できる。
【0113】
総括
以上の結果をまとめると、従来の方法、デバイス、物質に対する本発明の優位性として以下が挙げられる。
【0114】
時空間分解能
ステンシル法を用いてガラスプレート(厚み0.12~0.17mm)上に、マイクロ厚の酸素濃度センシングシートを作製した(PS 2.0wt%, PtOEP 0.005wt%)。さらに、同じガラスプレート上にPtOEPを担持するPSナノシート(厚さ:150nm)を貼付した両シートに窒素ガスを同じ圧力で吹き付け、マイクロシートとナノシート中のPtOEPのりん光強度の変化の結果を29fpsの撮影速度でビデオカメラでモニターした。この実施形態では、両シート共UVランプ(励起光365nm)により励起された。窒素ガスフローに対するPtOEPのりん光強度の反応速度を比較したところ、ナノシートは酸素感受性に関してマイクロシートよりも高い時空間分解能を示した(すなわち、空間分解能>4倍、時間分解能>10倍) (図4)。シートタイプのセンサーにおいては、シート厚が減少するに従って、センサー中の環境パラメータ(ガス透過、温度増加)を変化するのに要する時間も減少する。センサーの厚さが1μm未満の場合、ガスや熱の交換はマイクロシートよりも早くなり、それにより、ナノシートに対する高い時空間分解能が示される。この結果は1マイクロメートル未満の膜厚の重要性を示し、また、環境や生物医学的な応用のための薄膜状光ルミネッセンスセンサーの感受性や有用性を向上した。図5は1μmシート(マイクロシートと言う)の時空間分解能を示す。時間分解能に関して、窒素ガスをマイクロシートに吹き付けた際に、強度が一定になるまで変化する時間が0.7秒であったのに対して、ナノシート(膜厚150nm)は0.1秒未満であった。空間分解能に関して、マイクロシートの強度の変化の領域はナノシートよりも大きい。したがって、ナノシートは、1μm以上の膜厚のマイクロシート に比較して高い時空間分解能を有する。この結果から、少なくとも1μm未満の厚さが高い時空間分解能を達成するために望ましい。
【0115】
密着性
センサー化合物を担持するナノシートは、メッシュ、ワイヤループ、あるいは水圧を介してさまざまな表面に容易に貼付できる(図2及び図7)。特に、皮膚表面上のPtOEP担持PSナノシートの酸素感受性が示される(図7)。先行技術文献1及び2に見られる、センサー化合物を担持するマイクロシートは柔軟性がなく、接着剤や粘着剤を用いずに表面に貼付することができない。ナノシートで示した密着性は、センサー化合物を担持するナノシートのセンサーとしての応用を広げると理解される。
【0116】
生体イメージング
EuDT担持PMMAナノシートとRhodamine 800担持PSナノシートの2層構造ナノシートを、メッシュを介して甲虫の飛翔筋に貼付した。そして、甲虫の後肢をピンセットでつかむことで、飛翔筋の温度が上昇する逃避モードを誘発した。この温度変化が、ナノシートセンサー(EuDT担持)からの発光強度の変化によりモニターされた。測定対象の動きや顕微鏡のずれにより生じる焦点面変化に起因する強度変化は、EuDTチャネルの信号強度をRhodamine 800チャネルの信号強度で割るレシオメトリック法により補正された。計算した比の値は、飛翔筋由来の熱発生に伴って温度上昇、下降する温度変化に対して正確な変化を示していた(飛翔筋の温度変化は赤外線サーモグラフィーカメラを用いてモニターされ、相関があった)(図11)。このことから、このナノシートを利用したセンサーシステムは甲虫の飛翔筋のような微小な生体組織においても測定が可能であるといえる。赤外線サーモグラフィーカメラは生体イメージングに際して、赤外線の水による吸収、空間分解能の限界が10μmしかないという課題がある。それゆえ、このナノシートセンサーは組織のような濡れた表面の温度をマッピングする際の有望なツールになると期待される。このナノシートセンサーはイメージJの分析によって表面温度をマップできる(図12)。
【0117】
位置の変化に伴うルミネッセンス画像の変化の補正
本発明の超薄膜センサーは、レシオメトリック法を用いる。レシオメトリック法の使用により、図13で示されたように被写体の動作や焦点ずれに起因する物理的又は化学的パラメータに感受性を有するルミネッセンス化合物からのルミネッセンスの強度低下に対して、このルミネッセンス強度に対するリファレンス化合物からのルミネッセンス強度の比を使用して、測定対象の物理的又は化学的パラメーターのマッピングを行う。これにより被写体の動作や焦点ずれに起因する測定装置での受光量の変化を補正することが可能である。
【0118】
ナノシートを積層膜として使用することによるリファレンス化合物が惹起する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による消光の非影響
物理的又は化学的パラメータに感受性のルミネッセンス化合物と、物理的又は化学的パラメータに非感受性のルミネッセンス化合物の少なくとも2種のルミネッセンス化合物をレシオメトリック法で使用する。これらの多種のルミネッセンス化合物は、相互に、又は一方に蛍光共鳴エネルギ-移動を惹起し、ルミネッセンスを減弱させることにより、正確な物理的又は化学的パラメータの測定を妨害する可能性が高いと考えられる。
【0119】
しかし、本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、1枚のナノシートには、1種のルミネッセンス化合物しか含まれず、かかるナノシートを積層して使用するため、複数のルミネッセンス化合物が蛍光共鳴エネルギ-移動(FRET)を惹起する程、近接して存在することはナノシートの境界面を除いてない。したがって、本発明の超薄膜光ルミネッセンスセンサーは、蛍光共鳴エネルギ-移動の影響はない、又は、極めて小さいものと理解される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明では、極めて薄い(厚さ150~200nm)のセンサー化合物担持ナノシートを構築した。これらのナノシートセンサーが高い時空間分解能を有し、あらゆるタイプの表面に貼付することが可能であることを確認した。さらに、センサーナノシートとリファレンスナノシートの2層型ナノシートセンサーは、表面のパラメータをより正確に測定するレシオメトリック法での測定を達成することが可能であった。これらの特徴はマイクロメータ厚のセンサー化合物担持シートには見られないものであった。
【0121】
環境測定
ガス濃度測定においてナノシート1(PtOEP担持PSナノシート、酸素センサー)は高い時空間分解能を示した(図4図5)。本発明は、宇宙空間、海底、災害及び安全保障での環境測定、特に高い時空間分解能が求められる極限環境下での事故防止に有用である。
【0122】
生体組織イメージング
我々は、ナノシート3(EuDT担持PMMAナノシート:温度センサー)とナノシート4(Rhodamine 800担持PSナノシート:温度センサーのリファレンス)を生体組織イメージングとして開示した(図9~12)。2層型の構造は容易に構築でき、接着剤や粘着剤を介せず、筋組織に貼付可能であった(図2図7及び図9~12)。これらのナノシートセンサーは微小な組織における温度変化を測定可能であった(図11、12)。また、生体組織のような濡れた表面にも適用可能である。これらの結果から、ナノシートセンサーは顕微鏡や内視鏡を用いた生体表面マッピングに有望である。
【0123】
さらに、本発明の超薄膜ルミネッセンスセンサーは、例えば、移植臓器の管理を含む手術時の生体組織の機能管理、及び、食品の温度変化をモニターする品質管理用シール等の幅広い範囲に応用できる。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13