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特許7072163ステレオ信号生成装置、電子楽器、ステレオ信号生成方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】ステレオ信号生成装置、電子楽器、ステレオ信号生成方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 5/00 20060101AFI20220513BHJP
【FI】
H04S5/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018042776
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019161343
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 発行日 平成29年9月11日 刊行物 「日本音響学会 2017年秋季研究発表会 講演論文集823頁~824頁」 発行者名 一般社団法人 日本音響学会
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】及川 靖広
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 浩平
(72)【発明者】
【氏名】大木 大夢
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲治
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大起
(72)【発明者】
【氏名】宮城 雄介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健
(72)【発明者】
【氏名】大石 耕史
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-086558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00- 7/12
G10L 13/00-13/10
G10L 19/00-19/26
G10L 21/00-21/18
G10L 25/00-25/93
G10L 99/00
H04S 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオ信号における一方のモノラル信号から他方のモノラル信号を近似してステレオ信号を生成するステレオ信号生成装置であって、
重み付けパラメータによるフィルタの線形結合で表されるフィルタシステムに対して前記一方のモノラル信号を入力して、上記他方のモノラル信号を近似した近似信号を生成する信号生成部
を含み、
前記フィルタシステムは、前記他方のモノラル信号の近似モデルにおける極を持つ正規直交基底関数モデルで表される
ことを特徴とするステレオ信号生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステレオ信号生成装置において、
前記モデルは、real Kautzモデルである
ステレオ信号生成装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のステレオ信号生成装置において、
前記フィルタシステムに、前記一方のモノラル信号を入力して得られる応答と、前記他方のモノラル信号との差が最小となるように、最小二乗法を用いて、前記重み付けパラメータを求める推定部を含む
ステレオ信号生成装置。
【請求項4】
請求項3に記載のステレオ信号生成装置において、
前記推定部は、
前記他方のモノラル信号のスペクトルピークに対応する周波数を極の周波数として、前記極を推定してメモリに記憶する
ステレオ信号生成装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のステレオ信号生成装置を含む電子楽器。
【請求項6】
ステレオ信号における一方のモノラル信号から他方のモノラル信号を近似してステレオ信号を生成するステレオ信号生成方法であって、
重み付けパラメータによるフィルタの線形結合で表されるフィルタシステムに対して、メモリに記憶されている前記一方のモノラル信号を入力して、前記他方のモノラル信号を近似した近似信号を生成する信号生成ステップ
を有し、
前記フィルタシステムは、前記他方のモノラル信号の自己回帰モデルにおける極を持つ正規直交基底関数モデルで表される
ことを特徴とするステレオ信号生成方法。
【請求項7】
コンピュータを請求項1から4の何れかに記載のステレオ信号生成装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオ信号における一方のモノラル信号から他方のモノラル信号を近似してステレオ信号を生成するステレオ信号生成装置、電子楽器、ステレオ信号生成方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
シンセサイザーの音源方式として、加算合成方式、減算合成方式、変調合成方式などが挙げられる(非特許文献1)。中でも楽器の収録音を基に再生音を合成するサンプル方式は、他の手法よりも楽器音を忠実に再現できる。しかし、ピアノなど、打鍵の強さやダンパーペダルの有無で複数種類の収録音を保持する必要がある楽器音を再現するには、多くのコストがかかってしまうため、データ量を削減する手法が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】田所淳、“Pd入門2-音響合成、Pdでシンセサイザーをつくる”、[online]、平成 25年 4月 20日、[平成 30年 2月 20日検索]、インターネット〈URL:http://yoppa.org/ssaw13/4567.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
データ量が大きくなる一つの要因として、サンプル音源に、ステレオ信号を用いることが挙げられる。ステレオ信号は左右それぞれの信号をそのまま保持するため、モノラル信号と比較してデータ量が倍となる。
【0005】
そこで、データ量削減の一つの方法として、ステレオ信号における一方のモノラル信号を、フィルタ処理により他方のモノラル信号に近似することが考えられる。一方のモノラル信号に対する他方のモノラル信号への相対的な伝達関数(以下、相対伝達関数)を持つフィルタシステムを用いることで、他方のモノラル信号を近似でき、データ量がほぼ半分に削減される。
【0006】
そこで本発明では、ステレオ信号における一方のモノラル信号から品質の高いステレオ信号を生成することができるステレオ信号生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のステレオ信号生成装置は、ステレオ信号における一方のモノラル信号から他方のモノラル信号を近似してステレオ信号を生成するステレオ信号生成装置であって、信号生成部を含む。
信号生成部は、重み付けパラメータによるフィルタの線形結合で表されるフィルタシステムに対して一方のモノラル信号を入力して、他方のモノラル信号を近似した近似信号を生成する。フィルタシステムは、他方のモノラル信号の近似モデルにおける極を持つ正規直交基底関数モデルで表される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のステレオ信号生成装置によれば、ステレオ信号における一方のモノラル信号から品質の高いステレオ信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】real Kautzモデルを説明するブロック図。
図2】ステレオ信号生成装置のハードウェア構成例。
図3】ステレオ信号生成装置の機能構成を示すブロック図。
図4】ステレオ信号生成処理の動作を示すフローチャート。
図5】フィルタシステムの構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述の相対伝達関数を持つフィルタシステムを用いて他方のモノラル信号を近似することを考えるとき、有限インパルス応答(FIR)フィルタなどのフィルタを用いると、ハードウェアコストが大きくなる。したがって、低い次数で近似能力の高い無限インパルス応答フィルタ(IIRフィルタ)が有効である。しかし、IIRフィルタは設計次第で不安定なフィルタになりやすい。このため、安定したフィルタとなる範囲に予め指定した極を持つディジタルフィルタを用いるのが良い。また、フィルタシステムのモデルとして正規直交基底関数モデルを用いることでフィルタシステムを構成するフィルタのインパルス応答が正規直交になるからフィルタシステムのパラメータ推定が容易になる。正規直交基底関数モデルの具体例はreal Kautzモデルである。正規直交基底関数モデル、特にreal Kautzモデルについては参考非特許文献1を参照されたい。
(参考非特許文献1:G. Vairetti, E. De Sena, M. Catrysse, S. H. Jensen, M. Moonen, and T. van Waterschoot, “A Scalable Algorithm for Physically Motivated and Sparse Approximation of Room Impulse Responses with Orthonormal Basis Functions,” IEEE/ACM Trans. Audio, Speech, Lang. Process., vol. 25, no. 7, pp. 1547-1561, 2017.)
【0011】
≪real Kautzモデル≫
real Kautzモデルは、予め定めた極について互いに正規直交な伝達関数を作成し、それらを線形結合することによって所望のインパルス応答を近似するモデルである。正規直交なインパルス応答を与える伝達関数設計について説明する。複素数p1を極として持つ、正規化された1次IIRフィルタの伝達関数Ψ1は式(1)で与えられる。z-1は1サンプル遅延を表わす。
【数1】
【0012】
伝達関数Ψ1と正規直交な、{p1, p2}を極として持つ正規化された2次フィルタの伝達関数Ψ2は式(2)で与えられる。記号*は複素共役を表わす(ただし、後記の式(8)で使用される場合を除く)。Ψ2は1/p1 *を零点として持ち、Ψ1のインパルス応答とΨ2のインパルス応答は互いに直交する。
【数2】
【0013】
同様にして、伝達関数Ψ1,Ψ2,…,Ψi-1と正規直交な、極P={pk}k=1 i={p1, p2, …, pi}を持つ正規化されたi次フィルタの伝達関数Ψiは式(3)で与えられる。Ψ1のインパルス応答、Ψ2のインパルス応答、…、Ψiのインパルス応答は互いに直交する。
【数3】
【0014】
Ψ1,Ψ2,…,Ψiは複素係数伝達関数であり、実数システムの推定に不適である。ここでP={pk}k=1 i={p1, p2, …, pi}の複素共役P*={pk *}k=1 i={p1 *, p2 *, …, pi *}を同時に考慮すると、式(4)(5)が得られる。Ψi (z,P)とΨi (z,P)のそれぞれは、実係数伝達関数である。伝達関数Ψi (z,P)と伝達関数Ψi (z,P)によって得られるインパルス応答ψi (n), ψi (n)は互いに正規直交となる。
【数4】
【0015】
伝達関数{Ψk (z,P),Ψk (z,P)}k=1 iによって得られるインパルス応答{ψk (n), ψk (n)}k=1 iについて、各インパルス応答に対する重み付けパラメータを{θk k }k=1 iとすると、real Kautzモデルに基づくフィルタシステムのインパルス応答h(n,P,θ)は式(6)で与えられる。このようなreal Kautzモデルを図1に示す。
図1においてδ(n)は入力のインパルスである。nは離散時間信号のインデックスを表わす。図1では明示していないが、z領域への入力(インパルスδ(n))に対してz変換が実行され(Z[δ(n)]=1)、z領域からの出力({Ψk (z,P),Ψk (z,P)}k=1 i)に対して逆z変換が実行される(Z-1k (z,P)]=ψk (n), Z-1k (z,P)]=ψk (n))。Z[]はz変換を表わし、Z-1[]は逆z変換を表わす。
【数5】
【0016】
なお、インパルス応答h(n,P,θ)を式(7)で求めてもよい。
【数6】
【0017】
重み付けパラメータ{θk , θk }k=1 iは、例えば、最小二乗法によって、一方のモノラル信号とインパルス応答h(n,P,θ)との畳み込み演算の結果と、他方のモノラル信号と、の二乗誤差を最小にするときの値として求められる。real Kautzモデルによると、インパルス応答{ψk (n), ψk (n)}k=1 iは互いに正規直交することから、良好な計算効率で重み付けパラメータ{θk , θk }k=1 iを得られる。
【0018】
real Kautzモデルを決定するためには極Pを予め定める必要がある。楽器音では、一般的に、調波成分の存在する特定の周波数にエネルギーが集中しているので、その周波数に応じて極を配置することによって、少ない次数でより良い近似ができることが期待される。実施形態では、他方のモノラル信号を自己回帰全極モデル(ARモデル)で近似した場合の極を用いる。自己回帰全極モデルのスペクトルピークに対応する周波数(ただし、他方のモノラル信号のサンプリング周波数を超える周波数を除く)を極の周波数とする。ただし、ARモデル以外の近似モデルを使用してもよい。あるいは、フーリエ変換などを利用した一般的なスペクトルピーク抽出方法を他方のモノラル信号のデータに適用してもよい。また、極半径には任意性がある。このため極ごとに極半径を任意に設定してよいが、簡便な処理の観点からはすべての極半径を同じ値に設定してもよい。例えば、極半径はできる限り1に近い1未満の値であることが好ましい。このように、極の周波数をスペクトルピークに対応するように設定し、また、極の半径を適切に設定することによって、real Kautzモデルの構造を決定するための極が指定される。
【0019】
[実施形態]
以上の説明に基づき、実施形態のステレオ信号生成装置100を説明する。
なお、本実施形態のステレオ信号生成装置100は、電子楽器を構成する構成要素として実現してもよい。この場合、本実施形態のステレオ信号生成装置100は、電子楽器とは容易に分離可能に電子楽器を構成する構成要素であってもよいし、電子楽器自体の或る機能に着眼して電子楽器を片面的に評価したものであってもよい。本実施形態の「ステレオ信号生成装置を含む電子楽器」に格別の限定は無く、その解釈に際してはこの説明も考慮されるべきである。電子楽器(シンセサイザー)として電子ピアノを例示できるが、この例に限定されない。
もちろん、本実施形態のステレオ信号生成装置100が電子楽器から独立して存在することは妨げられない。
ここでは説明の便宜から、ステレオ信号生成装置100が、例えば専用のハードウェアで構成された専用機やパーソナルコンピュータのような汎用機といったコンピュータで実現されるとする。
【0020】
図2に示すように、ステレオ信号生成装置100は、プロセッサ11、メモリ13、ハードウェアインターフェース15、バス17などを含む。またステレオ信号生成装置100は、図3に示すような機能構成を有する。プロセッサ11が所定のプログラムに従い必要に応じてメモリ13等の記憶装置に記憶されているデータを用いて演算処理を実行することによって、プロセッサ11が図3に示す推定部50と信号生成部70の機能を実現する。メモリ13には、一方のモノラル信号の波形データと他方のモノラル信号の波形データが予め記憶されている。
【0021】
ステレオ信号生成装置100の推定部50は、メモリ13に記憶されている他方のモノラル信号の波形データを用いて、他方のモノラル信号の自己回帰全極モデル(ARモデル)における極P={pk}k=1 Nを推定する(ステップS1、図4参照)。ただし、ステップS1においてARモデルを使用することは必須ではない。
具体的には、まず、推定部50は、極の半径の値を設定する(ステップS1-1)。例えば極半径は1に近い1未満の値とする。例えば極半径を0.999としてもよい。
次に、推定部50は、他方のモノラル信号の自己回帰全極モデル(ARモデル)を生成する(ステップS1-2)。推定部50は、メモリ13に記憶されている他方のモノラル信号の波形データの自己回帰分析によって、自己回帰全極モデルの次数と自己回帰係数を決定する。なお、コンピュータによる時系列データの自己回帰分析は周知であるから説明を省略する。
次に、推定部50は、ステップS1-2の処理で生成された他方のモノラル信号の自己回帰全極モデルのスペクトルピーク(あるいは、単に他方のモノラル信号のスペクトルピーク)に対応する周波数を極の周波数として設定する(S1-3)。ここでは、設定された極の個数をNとして、設定された極をP={pk}k=1 Nと表記している。推定部50は、極P={pk}k=1 Nをメモリ13に記憶する。
【0022】
次に、推定部50は、最小二乗法を用いて、N個の極P={pk}k=1 Nと線形結合に関する重み付けパラメータ{θk , θk }k=1 Nによって構造を決定されるreal Kautzモデルで表されるフィルタシステムのインパルス応答h(n,P,θ)(式(6)または式(7)を参照)と一方のモノラル信号との畳み込み演算との結果と、他方のモノラル信号の波形データと、の二乗誤差が最小となるときの重み付けパラメータθ={θk , θk }k=1 Nの値を求める(ステップS2)。推定部50は、得られた極P={pk}k=1 Nと重み付けパラメータθ={θk , θk }k=1 Nをメモリ13に記憶する。
【0023】
次に、ステレオ信号生成装置100の信号生成部70は、重み付けパラメータによるフィルタの線形結合で表されるフィルタシステムFS(つまり、メモリ13に記憶されている極P={pk}k=1 Nと重み付けパラメータθ={θk , θk }k=1 Nによって構造を決定されたreal Kautzモデルで表されるフィルタシステム)に対して一方のモノラル信号を入力して、近似信号(他方のモノラル信号を近似する信号)を生成する(ステップS3)。
フィルタシステムFSは、重み付けパラメータθ={θk , θk }k=1 Nによるフィルタk-a,k-b(1≦k≦N)の線形結合で表される。フィルタk-a(1≦k≦N)は伝達関数Ψk (z,P)で表されるフィルタであり、フィルタk-a(1≦k≦N)のインパルス入力に対する出力はψk (n)である。また、フィルタk-a(1≦k≦N)の出力に対する重み付けパラメータはθk である。フィルタk-b(1≦k≦N)は伝達関数Ψk (z,P)で表されるフィルタであり、フィルタk-b(1≦k≦N)のインパルス入力に対する出力はψk (n)である。また、フィルタk-b(1≦k≦N)の出力に対する重み付けパラメータはθk である。したがって、フィルタFの入力x(n)に対する出力は、式(8)で与えられる。式(8)において、記号*は畳み込み演算を表わす。
フィルタシステムFSにおいて各フィルタk-a,k-b(1≦k≦N)は実係数伝達関数Ψk (z,P),Ψk (z,P)で表されるから、各フィルタk-a,k-b(1≦k≦N)を単一あるいは複数個の時間領域フィルタで構成できる。このため、時間領域フィルタで構成されたフィルタシステムFSによると一方のモノラル信号x(n)の入力に対してリアルタイムで他方のモノラル信号を近似した近似信号r(n)を得ることができる。
【数7】
【0024】
ところで、フィルタ1-aはサブフィルタ1-1とサブフィルタ1-2の直列結合で構成でき、フィルタk-a(2≦k≦N)はサブフィルタk-0とサブフィルタk-1とサブフィルタk-2の直列結合で構成できる。同様に、フィルタ1-bはサブフィルタ1-1とサブフィルタ1-3の直列結合で構成でき、フィルタk-b(2≦k≦N)はサブフィルタk-0とサブフィルタk-1とサブフィルタk-3の直列結合で構成できる。このように、フィルタk-aとフィルタk-bは共通のサブフィルタを持つことができる。よって、フィルタk-aとフィルタk-bとで共通のサブフィルタを共用することによって、結局、フィルタシステムFSは、図5に示すように、図1に示すブロック線図と等価な構成を持つことができる。
【0025】
なお、ステップS3の処理を、図1のブロック線図(ただし、インパルスδ(n)を一方のモノラル信号x(n)に変更する)に基づくz変換を経由する演算、あるいは、インパルス応答h(n,P,θ)と一方のモノラル信号x(n)との畳み込み演算として実行してもよい。しかし、z変換を経由する演算も畳み込み演算も多くの演算コストを必要とするので、電子楽器の用途においては、フィルタシステムFSを時間領域フィルタで構成することが好ましい。
【0026】
なお、既述のとおり、ステレオ信号生成装置が電子楽器の構成要素である場合(ステレオ信号生成装置が電子楽器とは容易に分離可能に電子楽器を構成する構成要素である第1の場合、あるいは、ステレオ信号生成装置が電子楽器自体の或る機能に着眼して電子楽器を片面的に評価したものである第2の場合)、このステレオ信号生成装置は上述のステップS3の処理だけを行う。つまり、ステップS1とS2の処理を一度だけ実行することによって、他方のモノラル信号を近似した近似信号を生成するために必要な情報(フィルタk-a,k-b(1≦k≦N)を構成するために必要な情報Iと、重み付けパラメータθ)が得られるのであり、これらの情報がひとたび得られたならば、いつでも信号生成部はこれらの情報を使用して近似信号r(n)を生成できる。したがって、第1の場合あるいは第2の場合におけるステレオ信号生成装置(電子楽器と言ってもよい)は、一方のモノラル信号とフィルタk-a,k-b(1≦k≦N)を構成するために必要な情報Iと重み付けパラメータθを記憶するメモリと信号生成部を含むものの、推定部を含む必要は無い。もちろん、メモリに他方のモノラル信号の波形データを記憶しておく必要も無い。
【0027】
<補記>
本発明の装置は、例えば単一のハードウェアエンティティとして、キーボードなどが接続可能な入力部、液晶ディスプレイなどが接続可能な出力部、ハードウェアエンティティの外部に通信可能な通信装置(例えば通信ケーブル)が接続可能な通信部、CPU(Central Processing Unit、キャッシュメモリやレジスタなどを備えていてもよい)、メモリであるRAMやROM、ハードディスクである外部記憶装置並びにこれらの入力部、出力部、通信部、CPU、RAM、ROM、外部記憶装置の間のデータのやり取りが可能なように接続するバスを有している。また必要に応じて、ハードウェアエンティティに、CD-ROMなどの記録媒体を読み書きできる装置(ドライブ)などを設けることとしてもよい。このようなハードウェア資源を備えた物理的実体としては、汎用コンピュータなどがある。
【0028】
ハードウェアエンティティの外部記憶装置には、上述の機能を実現するために必要となるプログラムおよびこのプログラムの処理において必要となるデータなどが記憶されている(外部記憶装置に限らず、例えばプログラムを読み出し専用記憶装置であるROMに記憶させておくこととしてもよい)。また、これらのプログラムの処理によって得られるデータなどは、RAMや外部記憶装置などに適宜に記憶される。
【0029】
ハードウェアエンティティでは、外部記憶装置(あるいはROMなど)に記憶された各プログラムとこの各プログラムの処理に必要なデータが必要に応じてメモリに読み込まれて、適宜にCPUで解釈実行・処理される。その結果、CPUが所定の機能(上記、…部、…手段などと表した各構成要件)を実現する。
【0030】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。また、上記実施形態において説明した処理は、記載の順に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されるとしてもよい。
【0031】
既述のように、上記実施形態において説明したハードウェアエンティティ(本発明の装置)における処理機能をコンピュータによって実現する場合、ハードウェアエンティティが有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、上記ハードウェアエンティティにおける処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0032】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。具体的には、例えば、磁気記録装置として、ハードディスク装置、フレキシブルディスク、磁気テープ等を、光ディスクとして、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD-RAM(Random Access Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Recordable)/RW(ReWritable)等を、光磁気記録媒体として、MO(Magneto-Optical disc)等を、半導体メモリとしてEEP-ROM(Electronically Erasable and Programmable-Read Only Memory)等を用いることができる。
【0033】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0034】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0035】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、ハードウェアエンティティを構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5