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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】ナノ粒子集合体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/62 20060101AFI20220513BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C09K11/62 ZNM
C09K11/08 A
C09K11/08 G
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018119332
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019218527
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
(72)【発明者】
【氏名】中谷 昌史
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148027(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125435(WO,A1)
【文献】特開2016-145972(JP,A)
【文献】特開2010-155872(JP,A)
【文献】特開2009-016562(JP,A)
【文献】特開2014-183316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
B82Y 20/00-40/00
H05B 33/14
H01L 29/06,33/06,33/50
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地結晶と、
前記下地結晶の表面上に形成した複数の発光層と、
を含み、
前記複数の発光層は、互いに独立に存在し、前記下地結晶の表面のうち異なる面方位に成長し、厚みの異なる発光層を含む、
ナノ粒子集合体。
【請求項2】
前記複数の発光層上に、さらに障壁層を有する請求項1に記載のナノ粒子集合体。
【請求項3】
前記発光層と前記障壁層が窒化物半導体である、請求項に記載のナノ粒子集合体。
【請求項4】
前記各ナノ粒子が、Znを含むII-VI族半導体で形成された下地結晶を含む、請求項またはに記載のナノ粒子集合体。
【請求項5】
前記各ナノ粒子は、ZnOSで形成された下地結晶と、前記下地結晶表面に成長された第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層と、を含み、
前記第1の窒化物半導体層は、前記下地結晶のm面上に成長したものであり、
前記第2の窒化物半導体層は、前記下地結晶のc面上に成長したものである、
請求項2~4のいずれか1項に記載のナノ粒子集合体。
【請求項6】
前記各ナノ粒子が、発光機能を有さないIII-V族半導体で形成された下地結晶を含む、請求項またはに記載のナノ粒子集合体。
【請求項7】
前記各ナノ粒子は、発光機能を有さない窒化物半導体で形成された下地結晶と、前記下地結晶表面に成長された第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層と、を含み、
前記第1の窒化物半導体層は、前記下地結晶のm面上に成長したものであり、
前記第2の窒化物半導体層は、前記下地結晶のc面上に成長したものである、
請求項2,3,5のいずれか1項に記載のナノ粒子集合体。
【請求項8】
多数の1次ナノ結晶を液相成長する第1工程と、
前記多数の1次ナノ結晶の各表面上であって異なる面方位を有する表面上に、発光機能を有し、且つ、前記1次ナノ結晶表面に互いに独立な粒子として複数のIII‐V族半導体の2次結晶を異なる面方位ごとにそれぞれ異なる成長速度によって液相成長する第2工程と、
前記2次結晶の各表面を覆う保護層を液相成長する第3工程と、
を含むナノ結晶集合体の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程がII-VI族半導体混晶を成長する常圧の液相成長工程である、請求項に記載のナノ結晶集合体の製造方法。
【請求項10】
前記第2、第3工程が耐圧容器を用いた加圧液相成長工程である請求項又はに記載のナノ粒子集合体の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程が発光機能を有さないIII-V族半導体混晶を耐圧容器を用いて加圧下で行う液相成長工程である、請求項に記載のナノ結晶集合体の製造方法。
【請求項12】
前記第1工程が、
多数の予備ナノ結晶を液相成長する第1予備工程と、
前記多数の予備ナノ結晶の各表面上に1次結晶を液相成長する第2予備工程と、
前記予備ナノ結晶を前記1次結晶から除去する第3予備工程と、
を含む、請求項11のいずれか1項に記載のナノ結晶集合体の製造方法。
【請求項13】
前記予備ナノ結晶がII-VI族半導体混晶であり、前記1次結晶が発光機能を有さないIII-V族半導体混晶である請求項12に記載のナノ粒子集合体の製造方法。
【請求項14】
前記予備ナノ結晶がZnOSであり、前記1次結晶がInAlNである請求項13に記載のナノ粒子集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子と呼ばれる微細固体粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体粒子のサイズを、マイクロメートル(μm)以下のナノメートル(nm)領域内で小さくしていくと、量子化等と呼ばれる、物質の性質が変わる現象が生じる。例えば、価電子帯と伝導帯との間の禁止帯(バンドギャップ)幅が変化する。量子化を生じるような微細固体半導体粒子を量子ドットと呼ぶ。このような微細固体粒子に関して種々の研究、開発が行われている。
【0003】
半導体材料を含む固体粒子の用途として、蛍光体がある。蛍光体粒子は、高エネルギーの光や粒子線を受けて所定波長の蛍光を発する。非発光再結合の原因となる格子欠陥等は蛍光体の効率を低下するであろう。効率のよい蛍光体を形成するには、結晶性のよい蛍光体粒子を形成することが望ましいであろう。結晶性のよい蛍光体粒子を形成する方法として、液相原料からの蛍光体結晶の成長、下地結晶を用いた蛍光体のエピタキシャル成長、蛍光体結晶を保護する保護層の形成等が考えられる。
【0004】
CdSe,CdS,InP,GaP等のコアをZnS,ZnSe等のシェル層で覆ったコアシェル構造の蛍光体粒子が提案されている(例えば特許文献1)。また、III-V族半導体(InGaN)のコアをII-VI族半導体(ZnO,ZnS,ZnSe,ZnTe等)のシェルで覆う構造が提案されている(例えば特許文献2)。
【0005】
現在、可視光域の蛍光体粒子としてエネルギーギャップの小さいコアにエネルギーギャップの大きいシェルを積層したCdSe/ZnSやInP/ZnS等が利用されている。異なる化合物材料でコアシェル構造を構成した場合、格子不整合(CdSe/ZnS:11.1%、InP/ZnS:7.8%)が生じる。格子不整合は、結晶格子を歪ませ、発光効率や信頼性を低下させる原因となるであろう。
【0006】
混晶組成を選択することにより格子整合を行うことができる。例えば、下地結晶としてZnOS混晶を用い、その上に格子整合するAlGaInN混晶を成長することにより、歪みを低減した量子ドットを形成することが提案されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-76827号公報
【文献】特開2010-155872号公報(登録4936338号公報)
【文献】特開2016-145972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
量子ドットのサイズを小さくして量子化が生じると、エネルギーギャップが変化して発光波長が変化する。例えば演色性のよい白色光を形成するには、なるべく多くの波長光を含む白色光を用いるのが好ましいであろう。多くの波長光を発光することのできる蛍光体が望まれる。このような場合、積極的に異なる粒子サイズを有する量子ドットが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施例によれば、
ナノ粒子の集合体であって、各ナノ粒子が発光層と障壁層とを含み、1つのナノ粒子内に厚さの異なる複数の発光層が含まれるナノ粒子集合体
が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1A,1B,1Cは第1の実施例により1次結晶上に複数の2次結晶をエピタキシャル成長する、ナノ結晶を製造する工程を示す概略側面図であり、図1L、1M,1N、1Oは第2の実施例により予備結晶上に1次結晶を成長し、予備結晶を除去した後1次結晶上に複数の2次結晶をエピタキシャル成長する、ナノ結晶を製造する工程を示す概略側面図である。
図2図2は、ZnO1-x混晶系、Al1-xInN混晶系、InGa1-xN混晶系のエネルギーギャップを格子定数の関数として示すグラフである。
図3図3A,3Bは、液相成長を行う常圧容器、耐圧容器の例を示す側面図、断面図である。
図4図4AはInGaN結晶を所定量成長することができる液相原料中に、所定面積以上の成長表面を提供するZnOSナノ粒子を投入して、限られた層数のInGaN層をZnOSナノ粒子上に成長させた場合の、成長し得るInGaN層の層数のZnOSナノ粒子投入量に対する関係を示すグラフ、図4Bは上記と等量のInGaN液相原料中に、所定面積以上の成長表面を提供するInAlNナノ粒子を投入して、限られた層数のInGaN層をInAlNナノ粒子上に成長させた場合の、成長し得るInGaN層の層数のInAlNナノ粒子投入量に対する関係を示すグラフである。
図5図5Aは第1の実施例に従ってZnOSナノ粒子上にInGaN層を成長させ、さらにInAlN障壁層を形成したナノ粒子集合体から得られたホトルミネッセンス発光強度の波長分布を示すグラフ、図5Bは第2の実施例に従ってInAlNナノ粒子上にInGaN層を成長させ、さらにInAlN障壁層を形成したナノ粒子集合体から得られたホトルミネッセンス発光強度の波長分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0011】
11 1次結晶、 12 2次結晶、 13 3次結晶、 15 予備結晶、
16 1次結晶、 17 2次結晶、 26 ポート、 27 シリンジ、
28 温度測定部、 29 ヒータ、 33 温度センサ、 34 ヒータ、
35 撹拌機構、 36,37 吸気口、 38 排気口、 39 フラスコ、
【発明を実施するための形態】
【0012】
例えば、基材(シード、種結晶)となるナノ粒子上に発光層を形成し、その表面を発光層からの発光を透過させる保護層で覆う構成を想定する。発光層からの発光を外部に取り出すために、保護層は発光層からの発光を透過させる性質を有する。このような保護層を障壁層とも呼ぶ。基材も発光層からの発光を透過する材料で形成すれば、基材も障壁層と呼べる。
【0013】
図1A~1Cは、第1の実施例によるナノ粒子の製造方法を概略的に示す側面図である。第1の実施例では、図1Aに示すように、まず結晶成長が比較的容易なZnO0.80.2ナノ結晶11を液相成長で成長する。同一条件で成長したZnO0.80.2ナノ結晶はほぼ同じサイズになる。液相成長したZnOSナノ結晶を1次結晶11と呼ぶ。1次結晶の表面を成長面として、その上に2次結晶を液相成長させる。結晶成長が比較的容易なZnOSは常圧で液相成長できる。ZnOS結晶の上に、格子整合するAlGaInN結晶を成長する場合は、高圧液相成長を行う。
【0014】
図1Bに示すように、各ZnO0.80.21次結晶11表面上によりサイズの小さいIn0.5Ga0.5Nナノ結晶を複数個成長する。1次結晶11表面上に成長した複数のナノ結晶を2次結晶12と呼ぶ。
【0015】
図2は、ZnOS混晶系、AlInN混晶系、InGaN混晶系の格子定数とエネルギーギャップの関係を示すグラフである。「混晶系」は、両端物質と中間の混晶を含む系を表す用語である。横軸がÅ(オングストローム、A)(=1nm/10)を単位とする格子定数を示し、縦軸がeV(エレクトロンボルト)を単位とするエネルギーギャップを示す。発光波長を決定するエネルギーギャップは、ZnO:3.2eV、ZnS:3.8eV、AlN:6.2eV、GaN:3.4eV、InN:0.64eVである。ZnO0.80.2の格子定数は3.37A(0.0337nm)、In0.5Ga0.5Nの格子定数も3.37A(0.0337nm)であり、両者は格子定数が整合する。
【0016】
優れた発光機能を有するInGaN結晶を蛍光体粒子の発光層として機能させる。発光層の結晶性が損なわれると、発光効率が低下する可能性がある。発光層を保護するように、発光層の上に保護層を設けることが好ましい。
【0017】
図1Cに示すように、In0.5Ga0.5N2次結晶12表面上に保護層となるIn0.6Al0.4Nナノ結晶の3次結晶13を液相成長する。In0.5Ga0.5N発光層の2次結晶と格子整合するように同じ格子定数3.37Aを有するIn0.6Al0.4Nで3次結晶13を形成する。図2から判るように、同じ格子定数の場合、InAlNのエネルギーギャップはInGaNのエネルギーギャップより大きく、InAlNはInGaNからの発光を透過させる。
【0018】
図2において、同一の格子定数を有する混晶を選択して、下地層とその上にエピタキシャル成長する成長層を形成すれば、格子整合が成立する。歪みを低減することにより、結晶欠陥を低減し、高効率な量子ドットを実現できよう。
【0019】
実施例2においては、図1Lに示すように、ZnOSナノ粒子15を予備結晶として常圧で成長する。図1Mに示すように、予備結晶15上にInAlNの1次結晶16を高圧液相成長で成長する。図1Nに示すように、予備結晶15をエッチング等で除去する。残ったInAlNがその上に発光層を成長させる1次結晶16となる。図1Oに示すように、1次結晶16の上に、実施例1同様に、発光層としてInGaN2次結晶17を成長する。さらに、InGaN発光層を覆うInAlN保護層を形成することが好ましい。InAlN1次結晶16、InGaN2次結晶、InAlN保護層は高圧液相成長で成長する。製造されるナノ粒子全体がAlGaInN系材料で形成され、安定で優れた特性が期待できる。
【0020】
図3A,3Bを参照して、液相成長に用いる成長容器を簡潔に説明する。図3Aは常圧用成長容器を示す。フラスコ39は、取出し口の他、不活性ガスで置換できるポート26、反応前駆体を注入できるシリンジ27を備える複数の専用ポート、熱電対を取り付けた温度測定部28を備え、マントルヒータ29上に設置される。不活性ガスとしては、例えばアルゴン(Ar)を用いる。
【0021】
図3Bは耐圧用成長容器を示す。反応容器32は、外側がステンレス、内側がハステロイにより構成される。反応容器32には、少なくとも2つの吸気口36,37と排気口38と、が設けられている。吸気口36,37は、それぞれバルブを介して,たとえばArガス供給源、Nガス供給源に接続されており、吸気口36,37から反応容器32内に、ArガスおよびNガスを供給することができる。また、排気口38は、バルブを介して、排気ポンプが接続されており、反応容器32内の雰囲気(ガス)を排気することができる。各バルブの調整により、反応容器32内における各種ガスの分圧、特にNガスの分圧を、精確に制御することができる。
【0022】
反応容器32には、温度センサ33、ヒータ34、撹拌機構35等が取り付けられている。温度センサ33は、反応容器32内の収容物の温度を測定することができる。ヒータ34は、収容物を加熱することができる。撹拌機構35(回転羽根)は、収容物を撹拌することができる。試料調整に関する全ての操作は、真空乾燥(140℃)した器具および装置を用いてグローブボックス内で実施することが好ましい。
【0023】
実施例1,2においては、ZnOS1次結晶上、又はInAlN1次結晶上に、InGaN2次結晶を成長する。1次結晶の表面全面に2次結晶の成長が起こり得ないように、2次結晶の原料の量に対して過剰となる表面を提供する1次結晶を投入する。すなわち、1次結晶の表面全面に2次結晶の成長が生じるとした場合の2次結晶の厚さを1原子層以下とする。成長する2次結晶の面積、厚さが広い範囲に分布するであろう。2次結晶の原料となるIII族材料の量を0.2mmolと設定して、発光層の厚さが1層以下となる、1次結晶の投入量を計算した。
【0024】
図4Aは、実施例1に従って、ZnOSナノ粒子を1次結晶としてInGaN原料液中に投入する場合を示すグラフである。横軸が1次結晶(ZnOSナノ粒子)投入量を単位(mg)で示し、縦軸が成長するInGaN窒化物層の層数を示す。ZnOSナノ粒子の投入量が85mg以上であれば、成長するInGaN層の層数は1未満となる。
【0025】
図4Bは、実施例2に従って、InAlNナノ粒子を1次結晶としてInGaN原料液中に投入する場合を示すグラフである。横軸が1次結晶(InAlNナノ粒子)投入量を単位(mg)で示し、縦軸が成長するInGaN窒化物層の層数を示す。InAlNナノ粒子の投入量が65mg以上であれば、成長するInGaN層の層数は1未満となる。
【0026】
実施例1
工程a. ZnOS結晶(S組成:0.2)の合成
例えば図3Aに示す容器を用い、熱分解法による液相成長でZnOS結晶を作製する。溶媒であるオレイルアミン(10mL)にZn材料の酢酸亜鉛(2.0mmol)、S材料の硫黄(0.4mmol)を添加し、加熱して合成温度130℃で1時間、250℃で1時間、300℃で1時間、N雰囲気下で合成を行った。合成後、トルエンとエタノールにより遠心分離で洗浄し、S組成20% 格子定数a=3.37A、粒子サイズ10nmのZnOS結晶を作製した。ZnOS結晶は以後の工程で下地結晶として用いる。
【0027】
工程b. ZnOS結晶上にInGaN発光層(Ga組成:0.5)を合成
例えば図3Bに示す高圧容器中に、溶媒ベンゼン(6mL)、In材料としてInI(0.1mmol)、Ga材料としてGaI(0.1mmol)、窒素材料としてNaNH(2.0mmol)、ヘキサデシルアミン(0.2mmol)、ZnOS下地結晶(85mg)を投入し、合成温度300度、1時間でInGaN発光層の合成を行った。合成後、トルエンとエタノールにより遠心分離で洗浄し、ZnOS下地結晶上にInGaN発光層(Ga組成:0.5)を作製した。発光層はZnOS下地結晶全面は覆っておらず、2-5nm程度のサイズでの互いに独立な粒子として存在していた。
【0028】
工程c. 工程bで合成した粒子上へのInAlN障壁層(Al組成:0.4)の合成
高圧容器中に、溶媒ベンゼン(6mL)、In材料としてInI(0.12mmol)、Al材料としてAlI (0.08mmol) 、窒素材料としてNaNH(2.0mmol)、工程bで作成したInGaN発光層付きZnOS結晶(100mg)を投入し、合成温度300℃、1時間で合成を行った。合成後、トルエンとエタノールにより遠心分離で洗浄し、InGaN発光層上にAl組成40% 格子定数a=3.37AのInAlN障壁層を作製した。
【0029】
図5Aに合成したナノ粒子の発光スペクトルを示す。励起光として365nmを用いた。
【0030】
発光スペクトルは広い波長領域に分布している。発光スペクトルは540nm付近にピークを持つ成分と、640nm付近にピークをもつ成分とを含む。540nm付近の成分は厚みが抑制されたm面上の発光層由来、640nm付近の成分はc面上の発光層由来と考えられる。
【0031】
なお、基材はZnOSに限定されるものでなく、発光層のInGaNと同じ格子定数をもつものであればよい。また、基材の合成法や材料も上記に限定されるものではない。
【0032】
実施例2
工程a. ZnOS結晶(S組成:0.2)の合成
熱分解法により成長下地用のZnOS結晶を作製する。溶媒オレイルアミン(10mL)にZn材料の酢酸亜鉛(2.0mmol)、S材料の硫黄(0.4mmol)を添加し、合成温度130℃-1時間、250℃-1時間、300℃-1時間、N雰囲気下で合成を行った。合成後、トルエンとエタノールにより遠心分離で洗浄し、S組成20% 格子定数a=3.37A、粒子サイズ10nmのZnOS結晶を作製した。最終的にメタノールを加え、分散液として回収する。
【0033】
工程b. ZnOS結晶上に島状に分離したInAlN障壁層(Al組成:0.4)の合成
高圧容器中に、溶媒ベンゼン(6mL)、In材料としてInI(0.12mmol)、Al材料としてAlI (0.08mmol) 、窒素材料としてNaNH(2.0mmol)、ZnOS結晶(65mg)を投入し、合成温度300℃で3時間で合成を行った。合成後、トルエンとエタノールにより遠心分離で洗浄し、ZnOSシード上に独立したInAlN障壁層(Al組成:0.4)を作製した。
【0034】
工程c.ZnOSシードの除去
ZnOS上に作製したInAlN島間の空隙部からZnOS結晶をウェットエッチングにより除去する。エッチング液は、たとえば純水および塩酸(濃度:36容量%)を容量比100:1で混合したもの(希塩酸)を用いる。これにより、ZnOS結晶が除去され、サイズ5nm程度のInAlN障壁層領域(以後ナノ粒子とも呼ぶ)のみが残される。
【0035】
工程d.InAlN障壁層上へのInGaN発光層(Ga組成:0.5)の合成
高圧容器中に、溶媒ベンゼン(6mL)、In材料としてInI(0.1mmol)、Ga材料としてGaI(0.1mmol) 、窒素材料としてNaNH(2.0mmol)、ヘキサデシルアミン(0.2mmol)、工程cで作製したInAlNナノ粒子(65mg)を投入し合成温度300℃-1時間で、InGaN発光層(Ga組成:0.5)の合成を行った。合成後、トルエンとエタノールにより遠心分離で洗浄し、InAlNナノ粒子上にInGaN発光層(Ga組成:0.5)を作製した。発光層はナノ粒子全面を覆っておらず、2-3nm程度のサイズで独立して存在していた。
【0036】
工程e. InGaN発光層(Ga組成:0.5)を覆うInAlN障壁層の合成
高圧容器中に、溶媒ベンゼン(6mL)、In材料としてInI(0.1mmol)、Al材料としてAlI (0.1mmol) 、窒素材料としてNaNH (2.0mmol)、ヘキサデシルアミン(0.2mmol)、InGaN発光層を形成したInAlNナノ粒子(85mg)を投入し合成温度300℃-1時間でInAlN障壁層の合成を行った。合成後、トルエンとエタノールにより遠心分離で洗浄し、InGaN発光層を覆うInAlN障壁層(Al組成0.4)を作製した。
【0037】
なお、シードはZnOSに限定されるものでなく、障壁層のInAlN、発光層のInGaNと同じ格子定数をもつものであればよい。また、下地となる成長結晶の合成法や材料も上記に限定されるものではない。
【0038】
図5Bに合成したナノ粒子の発光スペクトルを示す。実施例1の発光スペクトルより更に広い波長範囲に分布した発光スペクトルが認められる。発光スペクトルは500nm付近にピークを持つ成分と、550nm付近にピークをもつ成分を含み、500nmの成分は厚みが抑制されたm面上の発光層由来、550nm付近の成分はc面上の発光層由来と考えられる。
【0039】
実施例1と実施例2との発光層は、共にIn0.5Ga0.5Nである。通常、同一の化学組成の化合物からは、ほぼ同一の発光スペクトルを有する発光(蛍光)が出射する。発光層のサイズを縮小し、量子化を生じるナノ領域にした。上述のシードのような成長基板を用いた結晶成長を行う場合、シードの結晶面に依存してその上に成長する結晶の成長速度が異なる可能性があると考えられる。上述の例ではm面とc面がそれぞれ露出しているので、各発光層の厚さも均一ではないと考えられる。結果として得られた、サイズ、厚さの分布が広い波長領域に分布する発光形成に寄与した可能性があろうと考えられる。
【0040】
実施例1と実施例2の発光スペクトルの波長分布形状は大きく異なる。実施例1と実施例2とでは下地結晶の格子定数はほぼ同一であるが、成長基板となる下地結晶の組成は異なる。下地結晶の組成がどのように発光波長の分布に影響するか、詳細は未だ不明である。
【0041】
実施例1に従って製造した蛍光体ナノ粒子と実施例2に従って製造した蛍光体ナノ粒子とを混合したナノ粒子集合体を作成すれば、より広い波長範囲に分布する蛍光体ナノ粒子を提供できるであろう。
【0042】
蛍光体ナノ粒子を構成する1次結晶、2次結晶、3次結晶の格子定数を変化させれば、得られる蛍光の発光スペクトルも変化することが予想される。種々の格子定数を選択して、種々の蛍光体ナノ粒子を作成し、適宜混合することにより、種々の発光スペクトルを有する蛍光体ナノ粒子を提供できるであろう。
【0043】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、記載した数値、材料等は特に断らない限り制限的なものではない。種々の変更、置換、改良等が可能なことは当業者に自明であろう。
図1
図2
図3
図4
図5