(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】窒化物ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/62 20060101AFI20220513BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20220513BHJP
C01B 21/06 20060101ALI20220513BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220513BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220513BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220513BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20220513BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20220513BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220513BHJP
【FI】
C09K11/62 ZNM
C01B21/072 Z
C01B21/06 A
B01J35/02 J
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J37/34
B82Y20/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2018119333
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
(72)【発明者】
【氏名】中谷 昌史
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-070207(JP,A)
【文献】特開2015-209524(JP,A)
【文献】特開2016-148027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
C01B 21/072
C01B 21/06
B01J 35/02
B01J 37/04
B01J 37/08
B01J 37/34
B82Y 20/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
In,Ga,Alのいずれかを含むIII族元素窒化物領域を有するナノ粒子であり、前記III族元素窒化物領域のアルカリ金属の含有濃度が
高周波誘導結合プラズマ(ICP)分析による測定でIII族元素に対して1%以下であ
って、前記III族元素窒化物領域に、光触媒材料を含む、ナノ粒子。
【請求項2】
前記光触媒材料が、アナターゼ型二酸化チタンである、請求項
1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
さらに、ZnOSナノシード領域を含み、前記III族元素窒化物領域は前記ZnOSナノシード領域を被覆する形状である、請求項1
または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のナノ粒子を含む、光源用被膜。
【請求項5】
溶媒中に、III族元素のソースを含む原料と、光触媒を混合した溶液を形成し、
前記溶液を加熱し、撹拌し、光照射しつつ、前記溶液中でアンモニアガスをバブリングして、III族元素窒化物を合成する、
窒化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記光触媒材料が、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウムの少なくとも1種を含む請求項
5に記載の窒化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が、ジフェニルエーテル、オクチルエーテル、オクチルベンゼン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ベンゼン、トルエン、キシレンの少なくとも一種類を含む、請求項
5又は
6に記載の窒化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記III族元素のソースがIII族元素のヨウ化物を含み、前記アンモニア以外に窒素源となる材料がない、請求項
5~
7のいずれか1項に記載の窒化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶液を加熱する温度が、200℃~500℃の範囲内である、請求項
5~
8のいずれか1項に記載の窒化物ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物ナノ粒子とその製造方法に関し、特に発光効率の高い窒化物ナノ粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、球状粒子の表面積は半径の2乗に比例し、球状粒子の体積は半径の3乗に比例する。粒子の直径を1/10に小さくすると、表面積は1/100になり、体積は1/1000になる。粒子の寸法を小さくしていくと、物性に表面が与える影響と物性に体積が与える影響の比重が変化していくであろうことが予想される。1辺の長さ等の代表的な寸法がnmオーダーである粒子が、例えば1辺の長さがμm以上の粒子と異なる物性を示す場合もあることが理解されよう。
【0003】
このようなnmオーダーの寸法の粒子をナノ粒子と呼ぶ。コアの上にシェルを成長させたコア/シェル型構造のナノ粒子は、シェルがコアを保護する機能を有したり、結晶性コアの上に結晶性のよいエピタキシャルのシェルを形成できる可能性を持つ。近年ナノ粒子を積極的に利用して新たな光物性等を持つ材料を開発する研究がおこなわれている。
【0004】
第1シェルとして所望の発光特性を有する化合物半導体を採用し、第1シェルを結晶成長する下地層として適切な化合物半導体でコアを形成することが考えられる。化合物半導体のみで積層構造を形成しようとすると、一般的に格子定数が異なることになり、格子整合を実現することが容易でなくなる。格子不整合は、結晶格子を歪ませ、発光効率や信頼性を低下させる原因になる。希望する格子定数を得られるように組成を選択した混晶を用いることにより、格子整合を実現できる。
【0005】
コアの上に形成した第1シェルの上に、第2シェルを成長すると、第1シェルは、コアと第2シェルに挟まれた構成を有する。第1シェルを発光層とし、コアと第2シェルは第1シェルからの発光を透過するようにすれば、あらゆる方向に発光を生じることが可能となる。
【0006】
III-V族半導体として窒化物半導体が着目されている。化学合成によって窒化物半導体を結晶化させる場合、窒化物半導体の窒素源として、アルカリ金属を含む窒素源が用いられてきた。
【0007】
コアをII-VI族の混晶半導体で形成し、第1シェルをコアと格子整合するIII-V族の混晶半導体で形成して、又はさらに第1シェルの上に格子整合する第2シェルを形成して、格子整合したナノ粒子を形成する提案、コアをエッチングして特定面方位を露出させた後格子整合するシェルを成長する提案等がされている(例えば特許文献1、3)。
II-VI族半導体とIII-V族半導体を用いてコアの上に複数層の格子整合する積層を形成し、その後II-VI族の構成要素をエッチングして、III-V族半導体のみの構成を得る提案等もされている(例えば特許文献2)。
【0008】
化学合成における窒化物半導体の窒素源として、アルカリ金属を含む窒素源を用いる場合、アルカリ金属が半導体結晶中に取り込まれ、不純物となって好ましくない影響を与えることが懸念される。
【0009】
気相成長法で窒化物半導体を成長する場合は、アンモニアが窒素源として用いられる。アンモニアは分解すると窒素と水素とを生じ、窒素以外の元素である水素は容易に結晶外に逃散でき、不純物として悪影響を与える可能性は低いであろう。しかし、アンモニアの分解温度は例えば800℃以上であり、溶媒を用いて行う化学合成の温度範囲では分解が促進されず、良好な窒素源とならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-145972号公報
【文献】特開2016-148028号公報
【文献】WO2016/125435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
不純物濃度の低い窒化物半導体結晶が求められる。窒化物半導体結晶の化学合成において、窒化物半導体結晶中の不純物レベルを低下できる製造方法が求められる。窒素源としてアンモニアを用いることができれば、不純物濃度を低下できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
窒化物半導体結晶を成長する化学合成において、溶液中に光触媒材料を混入し、溶液を加熱し、窒素源としてアンモニアガスを導入しながら紫外線を照射し、光触媒が反応を補助して窒化物半導体のナノ粒子を形成する製造方法が提供される。アンモニアを窒素源として用いることにより、窒化物半導体ナノ粒子に不純物として含まれるアルカリ金属の含有濃度は低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aは窒化物半導体ナノ粒子の合成装置の構成を概略的に示す側面図、
図1Bは溶媒を収容した反応容器に原料と光触媒を投入して混合溶液を形成する工程を示す概略側面図である。
【
図2】
図2は、形成される窒化物半導体ナノ粒子を示す概略斜視図であり、実施例1の場合InNナノ粒子であり、実施例2の場合InGaNナノ粒子である。
【
図3】
図3は、ナノシード母材の製造装置の構成を概略的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、エッチングによって特定結晶面を露出したナノシード母材35の概略斜視図である。
【
図5】
図5は、光エッチング装置の構成を概略的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0014】
10 合成装置、 11 反応容器、 12 光照射装置、 13 温度センサー、
14 ヒーター、 15 攪拌機、 16 アンモニア供給ライン、
17 不活性ガス供給ライン、 18 真空置換ライン、 19 真空ポンプ、
20 アンモニア除害設備、 22 溶液、 23a 合成溶媒、
23b ヨウ化インジウム、 23c アナターゼ型二酸化チタン、
23d ヨウ化ガリウム、 25 窒化物半導体ナノ粒子、
30 ナノシード母材製造装置、 31 反応容器、 33 溶液、 35 母材、
36,37 ポート、 38 温度測定部、 39 ヒーター、 41 光源、
42 レンズ、 43 モノクロメーター、 44 光ファイバー、
45 ロッドレンズ、
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例に沿って、窒化物半導体のナノ粒子の製造プロセスを説明する。まず、窒化物半導体の例として、InNおよびInGaNの製造プロセスを記載する。
【0016】
実施例1: (InNナノ粒子の作製)
図1Aに合成装置の概略構成を示す。合成装置10は、反応容器11、光照射装置12、温度センサー13、ヒーター14、攪拌機15、アンモニア供給ライン16、不活性ガス供給ライン17、真空置換ライン18、真空ポンプ19、アンモニア除害設備20から構成されている。温度センサー13は、反応容器11内の収容物の温度を測定することができる。ヒーター14は、当該収容物を加熱することができる。撹拌機(回転羽根)15は、当該収容物を撹拌することができる。反応容器11内に、プラチナ、イリジウム、窒化ホウ素等で形成された内筒を使用してもよい。
【0017】
光照射装置12内には反応容器11内の光触媒剤の光触媒作用効果を誘引させる為の光源が内蔵されている。不活性ガスとしては高純度窒素、アルゴン等が使用できる。また、真空置換ラインに接続した真空ポンプでガス供給ラインの置換を可能とする。反応容器11はガラス製が望ましいが、ステンレス製であってもよい。但し、この場合は、光照射を行えるようにするため覗き窓を設ける必要がある。
【0018】
次に、合成方法について説明する。試料調整に関する全ての操作は、真空乾燥(140℃)した器具および装置を用いてグローブボックス内で実施する。
【0019】
図1Bを参照する。合成溶媒23aとしてジフェニルエーテル(20ml)を入れた反応容器11に、インジウム源であるヨウ化インジウム(165mg、0.36mmol)23b、光触媒材料であるアナターゼ型二酸化チタン(50 mg)23cをそれぞれ投入する。
【0020】
図1Aに示すように、合成装置10に反応容器11をセットした後、攪拌機15を用いて十分攪拌しながら、不活性ガス供給ライン17を介して、高純度窒素を流し、反応容器内のパージを行い、溶液22を形成する。その後、アンモニア供給ライン16を介して、窒素源であるアンモニアガスを100ml/minで反応容器11内に導入する。
【0021】
尚、使用する溶媒はジフェニルエーテル以外にも、オクチルエーテル、オクチルベンゼン、オクチルアミン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が可能である。ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒も使える。但し、蒸気圧が高いため、溶媒を密閉できる容器を使用する必要がある。
【0022】
尚、二酸化チタンは微粒子が好ましい。これは合成液中で光触媒効果のばらつきを低減させるためである。ナノ粒子の二酸化チタンを用いると光触媒効果が高まり、より好ましい。
【0023】
光照射装置12からの紫外線を照射しながら溶液を300℃まで急速に加熱し、300℃のまま10時間保持する。その後、室温まで冷却して合成を終了させる。途中でアンモニアガスをアルゴンに切り替える。
【0024】
反応液にナノ粒子の凝集防止の為に、凝固防止剤としてブタノールを添加し、10時間攪拌する。その後、溶媒(ジフェニルエーテル)が溶解する脱水メタノールと、ナノ粒子を分散させるトルエンを交互に用いた遠心分離(4000rpm、10分間)を繰り返して精製する。不要な原料や溶媒を完全に除去する。
【0025】
合成温度は、アンモニアガスが少しでも分解が始まる温度であれば効果がある。液相の溶媒が目視できなくなる温度でも、化学合成が可能な場合もある。概ね800℃以下であればよいが、好ましくは200~500℃、さらに好ましくは250~450℃が反応効率、溶媒の分解温度の関係から好ましい。
【0026】
図2は、上記工程によりInNで形成された平均粒径約4.5nmの窒化物半導体ナノ粒子25を概略的に示す斜視図である。
【0027】
次に混晶であるInGaNのナノ粒子の製造プロセスを説明する。
【0028】
実施例2: (InGaNナノ粒子の作製)
図1A同様の合成装置10を用いる。
図1B同様の溶液形成工程において、ガリウム原料としてヨウ化ガリウムを追加する。
【0029】
図1Bに示すように、合成溶媒としてジフェニルエーテル(20ml)を入れた反応容器11内に、ガリウム源であるヨウ化ガリウム(108mg、0.24mmol)23d、インジウム源であるヨウ化インジウム(165mg、0.36mmol)23b、光触媒材料であるアナターゼ型二酸化チタン(50 mg)23cをそれぞれ投入する。
【0030】
図1Aに示すように、合成装置10に反応容器11をセットした後、攪拌機15を用いて十分攪拌しながら、不活性ガス供給ライン17を介して、不活性ガスとして高純度窒素を流し、反応容器11内のパージを行う。その後、アンモニア供給ライン16を介して、アンモニアガスを100ml/minで反応容器11内に導入する。
【0031】
試料調整に関する全ての操作は、真空乾燥(140℃)した器具および装置を用いてグローブボックス内で実施する。尚、使用する溶媒はジフェニルエーテル以外にも、オクチルエーテル、オクチルベンゼン、オクチルアミン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が可能である。ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒も使える。但し、蒸気圧が高いため、溶媒を密閉できる容器を使用する必要がある。
【0032】
尚、二酸化チタンは微粒子が好ましい。これは合成液中で光触媒効果のばらつきを低減させるためである。また、ナノ粒子の二酸化チタンを用いると光触媒効果が高まりより好ましい。
【0033】
光照射装置12から発する紫外線を照射しながら混合液を350℃まで急速に加熱し、350℃のまま10時間保持する。その後、室温まで冷却して合成を終了させる。途中でアンモニアガスをアルゴンに切り替える。
【0034】
反応液にナノ粒子の凝集防止の為に、凝固防止剤としてブタノールを添加し、10時間攪拌する。その後、溶媒(ジフェニルエーテル)が溶解する脱水メタノールと、ナノ粒子を分散させるトルエンを交互に用いた遠心分離(4000rpm、10分間)を繰り返して精製する。不要な原料や溶媒を完全に除去する。
【0035】
合成温度は、アンモニアガスが少しでも分解が始まる温度であれば効果がある。概ね800℃以下であればよいが、好ましくは200~500℃、さらに好ましくは250~450℃が反応効率、溶媒の分解温度の関係から好ましい。
【0036】
上記の工程により、
図2に示すような、In
0.60Ga
0.40Nで形成された、平均粒径約5nmの窒化物半導体ナノ粒子25が作製できる。
【0037】
なお、GaをAlに置換し、ヨウ化ガリウムの代わりにヨウ化アルミニウムを原料に用いれば、InAlN混晶を製造することができる。次にII-VI族半導体(ZnOS)をシードとして成長し、そのシードの上に格子整合するInGaNシェルを形成する実施例を説明する。
【0038】
実施例3: (ZnOSシード上にInGaNシェルを有するナノ粒子の作製)
窒化物ナノ粒子に格子整合するZnOSナノシードを使って高品質なInGaNナノ粒子の作製を行う。まず、ホットインジェクションにより、ZnOSナノシードを予め作製する。ZnOSナノシードとして、ZnO0.72S0.28母材粒子を合成することにする。
【0039】
図3は、ナノシード母材の製造装置30を概略的に示す側面図である。300mlの石英製フラスコを反応容器31として準備する。石英製フラスコ31には、取出し口の他、フラスコ内を不活性ガス(Ar)で置換できるポート36、反応前駆体を注入できる複数の専用シリンジを備えるポート37、熱電対を取り付けた温度測定部38を備える。不活性ガスとしてはアルゴン(Ar)を用いる。石英製フラスコ31はマントルヒータ39上に設置する。
【0040】
反応前駆体として、不活性ガスで封入したジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)、酸素をバブリングしたオクチルアミン(C8H17NH2)、ビス(トリメチルシリル)スルフィド(bis(trimethylsilyl) sulfide)が充填されたシリンジをそれぞれ用意する。ジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)が4.0mmol、酸素ガスをバブリングしたオクチルアミン(C8H17NH2)が2.8mmol、ビス(トリメチルシリル)スルフィド(bis(trimethylsilyl) sulfide)が1.2mmolとなるように、ジエチル亜鉛を410μl、オクチルアミンを460μl、ビス(トリメチルシリル)スルフィドを250μl調合する。
【0041】
ここで酸素をバブリングしたオクチルアミンは、予めオクチルアミン(C8H17NH2)に酸素を2分間バブリングすることで作製しておく。なお、反応前駆体の比率を変更すると、ナノ粒子の組成を変更できる。
【0042】
反応溶媒として、トリnオクチルフォスフィンオキサイド(tri-n-octylphosphine oxide,TOPO)8gとヘキサデシルアミンhexadecylamine(HDA)4gを反応容器に入れる。不活性ガス(Ar)雰囲気とし、液体32をスターラで撹拌しつつ、マントルヒータを使用して300℃に加熱し、すべてを溶解させる。
【0043】
反応溶媒が300℃に達したら、反応前駆体をそれぞれのシリンジより素早く投入する。反応前駆体の熱分解によりZnO0.72S0.28の結晶核が生成する。反応前駆体を注入した直後に、温度を200℃まで急冷する。300℃のままにすると反応前駆体の多くが核形成に費やされてしまい時間経過とともにさまざまなサイズの核が生成されてしまう。急冷により反応溶媒中での新たな核形成を防ぐことができる。その後、反応溶媒を240℃まで再加熱し、240分間一定の温度に保ちZnO0.72S0.28の成長を行う。これにより、20nmを中心サイズとした粒径分布を有するナノサイズの母材粒子35が合成できる。
【0044】
その後、反応容器を100℃まで自然放冷で冷却し、100℃で1時間熱処理を行う。これにより母材粒子の表面の安定化が行える(表面安定化処理)。その後、室温まで冷却し、反応液に母材粒子の凝集防止の為に、凝固防止剤としてブタノールを添加し、10時間攪拌(凝集防止処理)をする。溶媒(TOPO)が溶解する脱水メタノールと、母材粒子を分散させるトルエンを交互に用いた遠心分離(4000rpm、10分間)を繰り返して精製する。繰り返すことで、不要な原料や溶媒を完全に除去する(精製処理)。
【0045】
図4に示すように、このようにして得たZnO
0.72S
0.28母材粒子35をエッチング加工して、特定面として(0001)面(C面)を有するナノシードを形成する。合成したZnO
0.72S
0.28母材粒子は表面処理、凝集防止処理、精製処理を施しており、メタノールに分散した状態である。メタノールを気化させ母材粒子を濃縮する。但し、完全に気化させてしまうと母材粒子が凝集してしまうので、わずかにメタノールを残し、光エッチング液である超純水を加える。
【0046】
特定面方位である(0001)面を選択的に露出させる為に、硝酸(61容量%)を加える。エッチング液の配合比は超純水:硝酸(61容量%)=600:1とする。25℃に保ったこの溶液に酸素を5分間バブリングする。
【0047】
図5は、光エッチング装置の構成を概略的に示す側面図である。水銀ランプなどの光源41からの光をレンズ42を介してモノクロメーター43に供給し、単波長化した光を、光ファイバー44、ロッドレンズ45を介して、フラスコ31内の溶液33に入射する。
【0048】
フラスコ31にバブリングが終わった混合溶液(エッチング液)33を収容する。発光波長405nm(3.06eV)、半値幅6nmの光をエッチング液33に照射する。この光は、ZnO0.72S0.28母材粒子の吸収端波長よりも十分短波長の光である。光源には水銀ランプをモノクロメーターで分光した光を用いる。粒子サイズの違いにより吸収端波長がばらばらなZnO0.72S0.28母材粒子は光を吸収して光溶解反応を生じ、表面が光溶解液に溶解して徐々に径が小さくなっていく。
【0049】
エッチングが進行するにつれ吸収端波長が短波長にシフトしていく。加えて選択的なエッチング効果のある硝酸により、光エッチングをアシストすることで、(0001)結晶面が現れる。吸収端波長が照射光の波長より短くなり光溶解反応が停止するまで光を照射する。照射時間は20時間とする。エッチングが終了したら、エッチング液を完全に置換する為、十分な水洗を行う。このようにして、サイズを揃えた、(0001)面(C面)を支配的に有するZnO0.72S0.28ナノシード粒子を得ることができる。
【0050】
図1を参照する。作製した(0001)面を支配的に有するZnO
0.72S
0.28ナノシードを含んだ水溶液6mlを抜き取り、凍結乾燥する。合成溶媒ジフェニルエーテル(20ml)を入れた反応容器11に、ガリウム源であるヨウ化ガリウム(108mg、0.24mmol)、インジウム源であるヨウ化インジウム(165mg、0.36mmol)、光触媒材料であるアナターゼ型二酸化チタン(50 mg)をそれぞれ投入する。合成装置10に反応容器11をセットした後、攪拌機15を用いて十分攪拌しながら、真空置換ライン18を用いて残留ガスを廃棄した後、不活性ガス供給ライン17を用いて高純度窒素を流し、反応容器11内のパージを行う。その後、アンモニア供給ライン16からアンモニアガスを100ml/minで反応容器11内に導入する。
【0051】
合成液中で光触媒効果のばらつきを低減させるため、二酸化チタンは微粒子が好ましい。ナノ粒子二酸化チタンを用いると光触媒効果が高まりより好ましい。溶媒として、ジフェニルエーテル以外にも、オクチルエーテル、オクチルベンゼン、オクチルアミン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が使用可能である。ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒も使用できる。但し、蒸気圧が高いため、溶媒を密閉できる容器を使用する必要がある。
【0052】
光照射装置12から混合液22に紫外線を照射しながら混合液を350℃まで急速に加熱し、350℃のまま10時間保持する。アンモニアの分解にある程度の時間がかかる為、合成は比較的ゆっくり行われる。その後、室温まで冷却して合成を終了させる。途中、アンモニアガスをアルゴンに切り替える。反応液にナノ粒子の凝集防止の為に、凝固防止剤としてブタノールを添加し、10時間攪拌する。最後に溶媒(ジフェニルエーテル)が溶解する脱水メタノールと、ナノ粒子を分散させるトルエンを交互に用いた遠心分離(4000rpm、10分間)を繰り返して精製する。不要な原料や溶媒を完全に除去する。
【0053】
これにより(0001)面(C面)を支配的に有するZnO0.72S0.28ナノシード上にIn0.60Ga0.40N窒化物半導体がエピタキシャル成長した高品質のナノ粒子が作製できる。なお、合成時にキャッピング剤を入れることも可能である。その場合ヘキサデカンチオールやステアリン酸亜鉛等を用いればよい。
【0054】
ZnO0.72S0.28ナノシードを選択的に除去することもできる。これは窒化物半導体とのエッチング速度の差を利用すればよく、例えば希塩酸などでZnO0.72S0.28ナノシードの除去が可能である。ZnO0.72S0.28ナノシードをIn0.60Ga0.40N窒化物半導体が覆うように積層した場合でも、隣り合う結晶面の界面付近や界面近傍の結晶性が低いため、エッチング液はナノシード表面まで浸透しやすく、除去が可能である。
【0055】
合成温度は、アンモニアガスが少しでも分解が始まる温度であればよい。概ね800℃以下であればよい。好ましくは200~500℃、さらに好ましくは250~450℃が反応効率、溶媒の分解温度の関係から好ましい。
【0056】
これにより平均粒径約5nmのIn0.60Ga0.40N窒化物半導体が作製できる。
【0057】
実施例1~3において、光触媒材料が窒化物ナノ粒子の合成に悪影響は生じないことを確認してある。最終的なナノ粒子に光触媒が含まれていてもその機能に問題は生じない。
【0058】
窒素源としてナトリウムアミドを用いた比較例を実験した。
【0059】
比較例1(ナトリウムアミドを用いたInNの作製例)
試料調整に関する全ての操作は、真空乾燥(140℃)した器具および装置を用いてグローブボックス内で実施した。
【0060】
合成溶媒としてジフェニルエーテル(20ml)を入れた反応容器に、インジウム源であるヨウ化インジウム(165mg、0.36mmol)、窒素源であるナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)をそれぞれ投入した。合成装置に反応容器をセットした後、十分攪拌しながら、不活性ガスとして高純度窒素を流した。
【0061】
混合液を300℃まで急速に加熱し、300℃のまま1時間保持した。その後、室温まで冷却し合成を終了させた。反応液にナノ粒子の凝集防止の為に、凝固防止剤としてブタノールを添加し、10時間攪拌した。最後に溶媒(ジフェニルエーテル)が溶解する脱水メタノールと、ナノ粒子を分散させるトルエンを交互に用いた遠心分離(4000rpm、10分間)を繰り返して精製した。不要な原料や溶媒を完全に除去した。平均粒径約4.5nmのInN窒化物半導体を作製した。
【0062】
比較例2(ナトリウムアミドを用いたInGaNの作製例)
試料調整に関する全ての操作は、真空乾燥(140℃)した器具および装置を用いてグローブボックス内で実施した。
【0063】
合成溶媒としてジフェニルエーテル(20ml)を入れた反応容器に、ガリウム源であるヨウ化ガリウム(108mg、0.24mmol)、インジウム源であるヨウ化インジウム(165mg、0.36mmol)、窒素源であるナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)をそれぞれ投入した。合成装置に反応容器をセットした後、十分攪拌しながら、不活性ガスとして高純度窒素を流した。
【0064】
混合液を300℃まで急速に加熱し、300℃のまま1時間保持した。その後、室温まで冷却し合成を終了させた。反応液にナノ粒子の凝集防止の為に、凝固防止剤としてブタノールを添加し、10時間攪拌した。最後に溶媒(ジフェニルエーテル)が溶解する脱水メタノールと、ナノ粒子を分散させるトルエンを交互に用いた遠心分離(4000rpm、10分間)を繰り返して精製した。不要な原料や溶媒を完全に除去した。平均粒径約5nmのIn0.60Ga0.40N窒化物半導体を作製した。
【0065】
比較例1及び比較例2の蛍光X線分析及び高周波誘導結合プラズマ(ICP)分析を実施したところ、ナトリウムがIII族元素(インジウムおよびガリウム)に対して10%程度含まれることが分かった。
【0066】
それぞれの比較例において、V族材料をリチウムアミド、窒化リチウム、カリウムアミドに変えた場合、高周波誘導結合プラズマ(ICP)分析から同様レベルかそれ以上のリチウムやカリウムが検出されることが分かった。
【0067】
実施例1、実施例2及び実施例3ではアルカリ金属含有量は、測定限度も考慮して、1%以下であった。このことから、窒素源をアンモニアにすることで、ナトリウム等のアルカリ金属のナノ粒子への取り込みは抑制されることが示された。
【0068】
実施例1と比較例1で作製したサンプルのInN窒化物ナノ粒子の光学特性を比較した。光学特性には同一量のナノ粒子が分散した分散液を使用した。光学特性の測定には、QE-2100(大塚電子製)を用いた。
【0069】
実施例1のサンプル、比較例1のサンプルは、いずれも波長800nmに発光中心を有するナノ粒子であった。実施例1のサンプルの発光効率は比較例1のサンプルの発光効率の約1.5倍であった。
【0070】
実施例2、実施例3および比較例2で作成したサンプルは、いずれも波長600nmに発光中心を有するナノ粒子であった。発光効率を比較すると、実施例2のサンプルが比較例2のサンプルの約1.5倍、実施例3のサンプルが比較例2のサンプルの約2倍の発光効率であった。
【0071】
実施例3のサンプルの発光効率が実施例2のサンプルの発光効率より向上したのは、ナノシードを使うことで窒化物ナノ粒子の結晶性が向上したことに由来すると考えられる。
【0072】
尚、In、Gaの組成比を変化させ、例えばIn/Ga比を小さく、粒子サイズを小さくすれば、発光波長は高エネルギー側に変化し、紫外線までの発光が可能である。逆に、In/Ga比を大きく、粒子サイズを大きくすれば、発光波長は低エネルギー側に変化し、赤外線の発光も可能である。
【0073】
また、ZnOSコアの周囲をInGaNシェルで覆う例を記載したが、シェルの上にさらにZnOS層を積層してもよい。InGaNシェルの上にInAlNシェルを積層することも可能である。In0.60Ga0.40N窒化物半導体をコアにし、In0.67Al0.33Nシェルで被覆してもよい。
【0074】
上述のナノ粒子は蛍光体として利用できる。例えばLEDやバックライト用のフィルムなどへ封入することで利用が可能である。p型層、発光層、n型層を積層し、p側電極、n側電極を形成して発光機能を持たせる可能性もあろう。