(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】水処理用流路材
(51)【国際特許分類】
B01D 63/00 20060101AFI20220513BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
B01D63/00 510
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2019562185
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2018048261
(87)【国際公開番号】W WO2019131917
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2017253965
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃生
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 守信
(72)【発明者】
【氏名】クルス シルバ ロドルフォ
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544646(JP,A)
【文献】特表2017-515668(JP,A)
【文献】特表2016-507363(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199247(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0233799(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104311978(CN,A)
【文献】特開2014-046293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/42、1/44
B01D39/00-41/04、53/22、61/00-71/82
B29C48/00-48/96
B29D23/00
B29K103:00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂と、カーボンナノチューブとを含む
と共に、処理膜とは別体で構成された成形品からな
り、かつ前記処理膜上に、前記処理膜と分離可能な状態で配置されるメッシュ状の水処理用流路材であって、
前記カーボンナノチューブの配合割合は、前記ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、5.3~18質量部である水処理用流路材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理用流路材に関する。
【背景技術】
【0002】
海水、かん水の淡水化、生活・工業用廃水の浄化等を目的として、膜分離装置が用いられている(例えば、特許文献1~3)。この種の膜分離装置は、マイクロフィルトレーション膜(以下、MF膜)、限外濾過膜(以下、UF膜)、ナノフィルトレーション膜(以下、NF膜)、逆浸透膜(以下、RO膜)等の処理膜を備えている。そのような処理膜の片側に、廃水等の原水が導入されると、膜間の差圧により水等の溶媒が処理膜の反対側へ透過して、不純物が分離された透過液が得られる。
【0003】
膜分離装置は、水処理の効率化等を目的として、通常、複数の処理膜を備えている。それらの処理膜は、メッシュ構造を備えた樹脂製の原水スペーサーを介して、互いに積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-323545号公報
【文献】特表2012-518538号公報
【文献】特開2014-8430号公報
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
海水、廃水等の処理対象となる原水には、一般的に、有機成分(例えば、タンパク質、多糖類、腐植酸等)、無機成分(カルシウムイオン、ナトリウムイオン等のイオン又は塩)、又は有機無機の複合成分等が含まれている。そのため、上記のような、膜分離装置を、長期間に亘って使用すると、上記原水スペーサーの周りに、有機成分や無機成分等が付着及び堆積する現象(所謂、ファウリング)が発生する。
【0006】
このようなファウリングが発生すると、膜分離装置内を流れる処理水(原水等)の流れ抵抗が増大するため、膜分離装置に原水を供給するためのポンプ(供給ポンプ)の負荷が大きくなってしまう。また、ファウリングが発生すると、処理膜も、有機成分等のファウリング物質で汚染されて、膜性能が低下する虞があった。
【0007】
そのため、この種の膜分離装置では、ファウリングを抑制するために、原水スペーサー等の水処理用流路材を、定期的に、化学的洗浄等で洗浄する必要があり、その保守管理のコスト及び労力が大きな問題となっていた。また、原水スペーサー等の水処理用流路材を洗浄する際に、処理膜を傷つけてしまう虞もあった。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、ファウリングの発生が抑制された水処理用流路材を提供することである。
【0009】
(課題を解決するための手段)
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 合成樹脂と、ナノカーボン材料とを含む成形品からなる水処理用流路材。
【0010】
<2> 前記ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブからなる前記<1>に記載の水処理用流路材。
【0011】
<3> 前記前記合成樹脂は、熱可塑性樹脂からなる前記<1>又は<2>に記載の水処理用流路材。
【0012】
<4> 前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンからなる前記<3>に記載の水処理用流路材。
【0013】
<5> 前記ナノカーボン材料の配合割合は、前記合成樹脂100質量部に対して、1~30質量部である前記<1>~<4>の何れか1つに記載の水処理用流路材。
【0014】
(発明の効果)
本願発明によれば、ファウリングの発生が抑制された水処理用流路材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1及び比較例1のスペーサーの写真を示す図
【
図2】実施例1及び比較例1のスペーサーのメッシュ部の拡大写真及び断面写真を示す図
【
図3】実施例1の浸漬試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図4】比較例1の浸漬試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図5】実施例1の蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例1の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された時間と蛍光強度との関係を示すグラフ
【
図6】実施例2及び比較例2のスペーサーのメッシュ部の拡大写真及び断面写真を示す図
【
図8】実施例2の透水試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図9】実施例3の透水試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図10】実施例4の透水試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図11】比較例2の透水試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図12】実施例2の蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例2の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された時間と蛍光強度との関係を示すグラフ
【
図13】実施例3の蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例2の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された時間と蛍光強度との関係を示すグラフ
【
図14】実施例4の蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例2の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された時間と蛍光強度との関係を示すグラフ
【
図15】実施例5の透水試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図16】比較例3の透水試験の結果(蛍光顕微鏡写真)を示す図
【
図17】実施例5の蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例3の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された時間と蛍光強度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
水処理用流路材は、合成樹脂と、ナノカーボン材料とを含む組成物を、所定形状に成形した成形品からなる。水処理用流路材は、RO膜等の処理膜を備えた膜分離装置に利用される。水処理用流路材は、例えば、膜分離装置に利用される複数の処理膜の間に介在されるメッシュ状のスペーサー(原水スペーサー)等として利用される。
【0017】
水処理用流路材に利用される合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。なお、合成樹脂としては、成形性に優れ、また、ナノカーボン材料を均一に分散させ易い等の理由により、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。
【0019】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0020】
ナノカーボン材料は、sp2炭素系の炭素材料であり、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等からなる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを円筒状に巻いたような構造を備えており、直径は、数nm~数十nm、長さは直径の数十倍~数千倍以上である。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが実質的に1層である単層カーボンナノチューブと、2層以上である多層カーボンナノチューブに分類される。本発明の目的を損なわない限り、カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブの何れを使用してもよい。
【0022】
グラフェンは、一般的に、1原子の厚さのsp2結合炭素原子のシート(単層グラフェン)を指すが、本発明の目的を損なわない限り、単層グラフェンが積層した状態の物質も、グラフェンとして使用してもよい。
【0023】
フラーレンは、閉殻構造を有する炭素クラスタであり、通常、その炭素数は、60~130の偶数である。フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスタが挙げられる。本発明の目的を損なわない限り、炭素数の異なるフラーレン同士を組み合わせて使用してもよいし、単独のフラーレンを使用してもよい。
【0024】
ナノカーボン材料の中でも、入手容易性、汎用性等の観点より、カーボンナノチューブが最も好ましい。
【0025】
合成樹脂に対するナノカーボン材料の配合割合は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、合成樹脂100質量部に対して、1~30質量部の割合で、ナノカーボン材料が配合される。なお、ベース材料である合成樹脂の特性を生かしつつ、耐ファウリング性能を確保する等の理由により、ナノカーボン材料の配合量は、合成樹脂100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、17.6質量部以下が更に好ましい。
【0026】
水処理用流路材の成形に利用される組成物には、本発明の目的を損なわない限り、上述した合成樹脂、ナノカーボン材料以外に、紫外線防止剤、着色剤(顔料、染料)、増粘付与剤、フィラー、界面活性剤、可塑剤等の各種の添加剤が、適宜、配合されてもよい。
【0027】
水処理用流路材は、所定の金型を利用して適宜、成形される。例えば、合成樹脂が熱可塑性樹脂からなる場合、水処理用流路材は、所定の金型を利用して、適宜、射出成形される。
【0028】
水処理用流路材は、所定量のナノカーボン材料が配合されることにより、その表面がナノカーボン材料の影響で親水性が高まるものと推測される。そして、そのような表面に、水分子の薄い膜が形成されることで、水処理用流路材に接触する液体に中に含まれる様々な成分(例えば、タンパク質等の有機成分、炭酸カルシウム等の無機成分、アルギン酸、アルギン酸塩、フミン酸、フミン酸塩等の天然有機物(Natural Organic Matter, NOM)、有機無機複合成分)が、水処理用流路材の表面に寄り付くことができなくなるものと推測される。このような水処理用流路材は、耐ファウリング性に優れる。また、水処理用流路材は、剛性が高く、摺動性、抗菌性等にも優れる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1〕
図1に示されるように、平面視で円形状をなしたメッシュ状のスペーサー(水処理用流路材)を用意した。実施例1のスペーサー1は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、カーボンナノチューブを18質量部配合した組成物を、所定の金型を利用して成形した成形品からなる。実施例1におけるスペーサー1のメッシュ部の各寸法は、
図2に示される通りである。
【0031】
〔比較例1〕
図1に示されるように、実施例1と同様、平面視で円形状をなしたメッシュ状のスペーサー1Cを用意した。比較例1のスペーサー1Cは、ポリプロピレン樹脂を、実施例1と同様の金型を利用して成形した成形品からなる。なお、比較例1におけるスペーサー1Cのメッシュ部の各寸法も、
図2に示される通り、実施例1と同じである。
【0032】
〔耐ファウリング性評価〕
(浸漬試験)
フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識されたウシ血清アルブミン(BSA)(以下、FITC-BSA)を200ppmの濃度で含むファウラント溶液中に、実施例1及び比較例1の各スペーサー1,1Cを、針金で吊り下げた状態で、浸漬した。
【0033】
(蛍光顕微鏡観察)
実施例1及び比較例1の各スペーサー1,1Cを、浸漬試験開始時(0時間)、及び所定時間経過後(24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、144時間後)に、蛍光顕微鏡で観察した。実施例1の蛍光顕微鏡画像は、
図3に示し、比較例1の蛍光顕微鏡画像は、
図4に示した。
【0034】
図3に示されるように、実施例1のスペーサー1には、殆ど、FITC-BSA(タンパク質の一例)が付着しないことが確かめられた。これは、カーボンナノチューブを含有することにより、スペーサー1の表面の親水性が高まり、その表面に、水分子の薄い膜が形成されることで、FITC-BSAがスペーサー1の表面に寄り付かないものと推測される。これに対し、比較例1のスペーサー1Cには、
図4に示されるように、24時間経過した頃から、徐々にFITC-BSAが付着及び堆積することが確かめられた。
【0035】
図5は、実施例1の蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例1の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された時間と蛍光強度との関係を示すグラフである。
図5のグラフの横軸は、浸漬試験の経過時間(時間)を表し、縦軸は、蛍光強度を表す。また、ここでは、
図3及び
図4に示される各時間の蛍光顕微鏡写真全体を解析範囲とした。
【0036】
図5に示されるように、実施例1のスペーサー1では、144時間経過した後も、殆ど試験開始時と蛍光強度が変わらないことが確かめられた。これに対し、比較例1のスペーサー1Cでは、時間の経過と共に、蛍光強度が徐々に高くなることが確かめられた。
【0037】
〔実施例2〕
平面視で、実施例1と同様、円形状をなし、かつメッシュ部の構成が
図6に示されるような構成のメッシュ状のスペーサー(水処理用流路材)を用意した。実施例2のスペーサーは、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、カーボンナノチューブ(CNT)を5.3質量部(CNT:5質量%)配合した組成物を、所定の金型を利用して成形した成形品からなる。なお、実施例2のスペーサーのメッシュ部は、実施例1とは異なり、互いに平行に並ぶ複数の下側線部m1に対して、平面視で交差するように、互いに平行に並ぶ複数の上側線部m2が重なった形状をなしている。実施例2におけるスペーサーのメッシュ部の各寸法は、
図6に示される通りである。
【0038】
〔実施例3〕
ポリプロピレン樹脂100質量部に対するカーボンナノチューブ(CNT)の配合量を、11.1質量部(CNT:10質量%)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3のスペーサー(水処理用流路材)を作製した。
【0039】
〔実施例4〕
ポリプロピレン樹脂100質量部に対するカーボンナノチューブ(CNT)の配合量を、17.6質量部(CNT:15質量%)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、実施例4のスペーサー(水処理用流路材)を作製した。
【0040】
〔比較例2〕
カーボンナノチューブ(CNT)を配合しないこと以外は、実施例2と同様にして、ポリプロピレン樹脂からなる比較例2のスペーサーを作製した。なお、比較例2におけるスペーサーのメッシュ部の各寸法も、
図6に示される通り、実施例2と同じである。
【0041】
〔有機成分に対する耐ファウリング性評価〕
(透水試験)
実施例2~4及び比較例2の各部材の異物除去性を、
図7に示されるクロスフローろ過方式の試験装置10を利用して評価した。ここで、先ず、
図7を参照しつつ試験装置10について説明する。
【0042】
図7は、クロスフローろ過方式の試験装置10の概略図である。試験装置10は、上流側配管部11、下流側配管部12、ろ過ユニット13、逆浸透膜14、回収容器15、ポンプ16、バルブ17、透過液排出部19等を備えている。
【0043】
ろ過ユニット13は、実施例2の部材等からなる試験片Sの表面に沿ってろ過対象溶液18が流れるように、試験片Sを市販の逆浸透膜14(商品名「SWC5」、日東電工株式会社製)の上に重ねた状態で収容しつつ、逆浸透膜14を利用してろ過対象溶液18をろ過する部分である。なお、ろ過対象溶液18として、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識されたウシ血清アルブミン(BSA)(以下、FITC-BSA)を100ppmの濃度で含む10mmol/LのNaCl水溶液を使用した。
【0044】
透過液排出部19は、逆浸透膜14を透過した透過液を外部に排出する部分であり、そこから排出された透過液は、図示されない収集容器によって集められる。
【0045】
ろ過ユニット13には、回収容器15内に収容されているろ過対象溶液18が上流側配管部11を通って供給される。ろ過ユニット13と回収容器15との間は、上流側配管部11で接続されている。また、上流側配管部11の途中には、ろ過ユニット13にろ過対象溶液18を送り出すためのポンプ16が配設されている。また、ろ過ユニット13と回収容器15との間は、下流側配管部12で接続されており、ろ過ユニット13から排出されたろ過対象溶液18は、下流側配管部12を通って再び、回収容器15に戻される。なお、下流側配管部12の途中には、バルブ17が設けられており、下流側配管部12等を循環するろ過対象溶液18の流量がバルブ17の開閉により調節される。
【0046】
このような試験装置10を使用して、上記ろ過対象溶液18を、144時間ろ過し続けるろ過試験(透水試験)を行った。なお、ろ過対象溶液18の供給圧力は、0.7MPaに設定し、ろ過対象溶液18の流量は、500ml/分に設定した。そして、このようなろ過試験(透水試験)の開始時(0時間)、試験開始から48時間後、96時間後、及び144時間後に、それぞれ蛍光顕微鏡20を利用して、逆浸透膜14上に重ねられた試験片Sの表面に付着する異物(FITC-BSA)を確認した。実施例2~4及び比較例2の各蛍光顕微鏡画像の結果は、
図8~
図11に示した。また、
図12~
図14に、各蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例2の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された、時間と実施例2~4の各蛍光強度との関係を示すグラフを示した。なお、
図12~
図14のグラフの横軸は、透水試験の経過時間(時間)を表し、縦軸は、蛍光強度を表す。また、ここでは、
図8~
図11に示される各時間の蛍光顕微鏡写真全体を解析範囲とした。
【0047】
図8~
図10及び
図12~
図14に示されるように、有機成分を使用した透水試験においても、実施例2~4のスペーサーには、殆ど、FITC-BSAが付着しないことが確かめられた。これは、カーボンナノチューブ(CNT)を含有することにより、スペーサーの表面の親水性が高まり、その表面に、水分子の薄い膜が形成されることで、FITC-BSAがスペーサーの表面に寄り付かないものと推測される。これに対し、透水試験における比較例2のスペーサーには、
図11等に示されるように、48時間経過した頃から、徐々にFITC-BSAが付着及び堆積し、蛍光強度が徐々に高くなることが確かめられた。
【0048】
〔実施例5〕
実施例5のスペーサーとして、実施例4と同じ構成のものを用意した。つまり、実施例5のスペーサーは、ポリプロピレン樹脂100質量部をベースポリマーとし、かつカーボンナノチューブが17.6質量部の割合(CNT:15質量%)で配合された組成物の成形品からなる。
【0049】
〔比較例3〕
比較例3のスペーサーとして、比較例2と同じ構成のものを用意した。つまり、比較例3のスペーサーは、カーボンナノチューブが配合されていないポリプロピレン樹脂の成形品からなる。
【0050】
〔無機成分に対する耐ファウリング性評価〕
(透水試験)
ろ過対象溶液18として、FITC-BSAを含む10mmol/LのNaCl水溶液に代えて、塩化カルシウム(CaCl2)を1,000ppm、及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を100ppmの濃度で含む10mmol/LのNaCl水溶液に変更したこと以外は、実質的に、上記透水試験と同様にして、試験装置10を利用した無機成分に対する耐ファウリング性評価を行った。ろ過対象溶液18の供給圧力は、上記透水試験と同様、0.7MPaに設定し、ろ過対象溶液18の流量も、同様に500ml/分に設定した。
【0051】
そして、このようなろ過試験(透水試験)の開始時(0時間)、試験開始から48時間後、96時間後、及び144時間後に、それぞれ蛍光顕微鏡20を利用して、逆浸透膜14上に重ねられた試験片Sの表面に付着する異物(カルシウム成分)を確認した。なお、所定時間に試験片Sを観察する際は、塩化カルシウム等を含む上記NaCl水溶液に代えて、蛍光成分(Calcein)を含む蛍光着色用水溶液を供給し、ファウリング成分を蛍光着色した。観察後は、蛍光着色用水溶液に代えて、再び塩化カルシウム等を含む上記NaCl水溶液を供給した。実施例5及び比較例3の各蛍光顕微鏡画像の結果は、
図15及び
図16に示した。また、
図17に、実施例5の蛍光顕微鏡画像の結果と、比較例3の蛍光顕微鏡画像の結果に基づいて解析された蛍光強度との関係を示すグラフを示した。
【0052】
図15及び
図17に示されるように、無機成分を使用した透水試験においても、実施例5のスペーサーには、殆ど、カルシウム成分が付着しないことが確かめられた。これは、カーボンナノチューブ(CNT)を含有することにより、スペーサーの表面の親水性が高まり、その表面に、水分子の薄い膜が形成されることで、カルシウム成分がスペーサーの表面に寄り付かないものと推測される。これに対し、無機成分を使用した透水試験における比較例3のスペーサーには、
図16及び
図17に示されるように、48時間経過した頃から、徐々にカルシウム成分が付着及び堆積し、蛍光強度が徐々に高くなることが確かめられた。
【符号の説明】
【0053】
1…水処理用流路材(スペーサー)