(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を製造するためのin situでの剥離方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220513BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20220513BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C08L101/00
C08J3/215
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2019224864
(22)【出願日】2019-12-12
(62)【分割の表示】P 2018158453の分割
【原出願日】2014-04-18
【審査請求日】2020-01-10
(32)【優先日】2013-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510144959
【氏名又は名称】ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュー ジャージー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ノスカー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】リンチ,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】ケアー,バーナード
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリックス,ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】チウ,ゴードン
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519191(JP,A)
【文献】特表2013-507477(JP,A)
【文献】特開平08-053571(JP,A)
【文献】特表2007-524735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーマトリクス中に分散された、グラファイトマイクロ粒子、ならびに機械的に剥離された、純粋で汚染されていないグラフェンを含む単層および多層グラフェンナノ粒子を含む、熱可塑性ポリマー複合体であって、
ここで、前記単層および多層グラフェンナノ粒子は、c軸方向に沿って50nm厚よりも小さく、
ここで、前記複合体は、純粋で汚染されていないグラフェンを0.1重量%から30重量%まで含み、
ここで、前記単層および多層グラフェンナノ粒子は、a軸及びb軸で定義される底面を横切るグラフェンの裂け目を含み、
ここで、前記グラフェンの裂け目のエッジは、1以上の熱可塑性ポリマーと反応する反応性フリーラジカルグラフェン炭素結合部位をさらに含み、および
ここで、少なくとも1つの熱可塑性ポリマー分子は、1以上の機械的に剥離された単層もしくは多層グラフェンナノ粒子と結合するか、または接着する、
熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマーは、芳香族ポリマーである、請求項
1に記載の熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項3】
前記芳香族ポリマーは、フェニル基を含み、前記フェニル基は主鎖が、または置換基として置換されていてもよい、請求項
2に記載の熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項4】
前記置換されていてもよいフェニル基は、置換されていてもよいフェニレン基としてポリマー主鎖内に含まれる、請求項
3に記載の熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項5】
前記置換されていてもよいフェニル基は、ポリマー上の置換基である、請求項
3に記載の熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマーマトリクスは、2以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、芳香族熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリオキシ-メチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリアリ-ルエーテルケトン、ポリビニルクロライド(PVC)、アクリルおよびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1~
6のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー複合体。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー複合体から形成されたグラフェン架橋ポリマー粒子。
【請求項10】
ホスト熱可塑性ポリマーおよびその中に分散された請求項
9に記載のグラフェン架橋ポリマー粒子を含む、ポリマー組成物。
【請求項11】
自動車部品、航空機または航空宇宙用部品、電極、透明電極、タッチスクリーン用の電極、エンジン部品、ボート船体、軽量装甲、圧力容器、反応炉、スプレーコーティング、および3D印刷用ポリマー粉末からなる群より選択される、請求項1~
8のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリマー複合体から形成された部品。
【請求項12】
グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成する方法であって、
(a)1以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子を分散し、グラファイト-溶融熱可塑性ポリマー相を形成すること、
ここで、前記グラファイトマイクロ粒子中、少なくとも50%のグラファイトは、c軸方向に沿った厚さが1.0~1000ミクロンの範囲の多層グラファイト結晶で構成される;および
(b)前記溶融熱可塑性ポリマー相のせん断応力が前記グラファイトマイクロ粒子の層間せん断強度(ISS)を超え、前記グラファイトマイクロ粒子が少なくとも部分的に剥離し、前記溶融熱可塑性ポリマー相中、c軸方向に沿って10nm未満の厚みの単層もしくは多層、またはこれらの両方のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、前記溶融熱可塑性ポリマー相がそれぞれの操作とともに連続的に前記グラファイトマイクロ粒子を機械的に剥離するように、前記グラファイト-溶融熱可塑性ポリマー相にせん断ひずみ操作を連続して供給すること、および、
前記剥離された単層または多層グラフェンシートのグラフェンの裂け目がa軸及びb軸で定義される底面を横切って形成されるまで、さらに、前記せん断ひずみ操作を継続すること、
ここで、前記グラフェンの裂け目のエッジは、前記1以上の溶融熱可塑性ポリマーと反応して複合体を与える反応性フリーラジカルグラフェン炭素結合部位を含み、前記複合体中で、少なくとも1つの熱可塑性ポリマー分子は、1以上の機械的に剥離された単層もしくは多層グラフェンナノ粒子と結合するか、または接着する;
を含む、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成する方法。
【請求項13】
前記熱可塑性ポリマーは、芳香族ポリマーである、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記芳香族ポリマーは、フェニル基を含み、前記フェニル基は主鎖が、または置換基として置換されていてもよい、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記置換されていてもよいフェニル基は、置換されていてもよいフェニレン基としてポリマー主鎖内に含まれる、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記置換されていてもよいフェニル基は、ポリマー上の置換基である、請求項
14に記載の方法。
【請求項17】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、芳香族熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリオキシ-メチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリアリ-ルエーテルケトン、ポリビニルクロライド(PVC)、アクリルおよびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項
12~
16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である、請求項
12~
17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記グラファイトは、膨張グラファイトである、請求項
12~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記グラファイトマイクロ粒子は、グラファイト含有鉱物をミリメートルサイズの寸法にまで粗砕および粉砕して、続いてマイクロサイズの粒子混合物までミルすることによって製造される、請求項
12~
19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記グラファイトマイクロ粒子は、浮遊法によって前記マイクロサイズの粒子混合物から抽出される、請求項
20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスリファレンス
本出願は、35U.S.C.§119(e)に基づき、2013年4月18日に出願されたUS仮出願番号61/813,621の優先権を主張する。この出願の内容は、参照により全体に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、十分に結晶化されたグラファイト粒子を含むポリマー複合体を、様々な商業的な用途を有するナノ分散された単層または多層グラフェン粒子に変える高い効率の混合方法に関する。本発明はまた、in situでの機械的剥離を用いたグラファイトおよびグラフェンを活性化する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ポリマー組成物は、例えば金属などの他の材料の使用を伝統的に採用している幅広い分野でますます使用されている。ポリマーは、多数の所望の物理的性質を所有し、軽量、かつ安価である。さらに、多くのポリマー材料は、多数の種々の形状および形態に形成することができ、それらが前提とする携帯において顕著な柔軟性を示し、コーティング、分散物、押出成形樹脂、ペースト、粉末等として使用されうる。
【0004】
電気伝導性を有する材料を必要とするポリマー組成物を使用することが望まれている様々な用途がある。しかしながら、かなりの数の高分子材料は、本質的に、多くのこれらの用途のために十分であるような電気的または熱的な伝導性ではない。
【0005】
グラフェンは、密に充填された1原子厚さのシートに、原子が六角形のパターンに配置された純粋な炭素からなる物質である。この構造は、グラファイト、大きいフラーレン、ナノチューブなどを含む多くの炭素系材料の性質を理解するための基礎である(例えば、カーボンナノチューブは、一般的に、ナノメートルサイズのシリンダ内に巻き上げたグラフェンシートであると考えられている)。グラフェンは、SP2結合した炭素原子の単層平面シートである。シートは、有限の大きさであり、他の元素が端部にゼロになることのない化学量論比で付着できるため、グラフェンは炭素の同位体ではない。
【0006】
ポリマーを強化するために使用される場合、任意の形態のグラフェンは、亀裂伝播を抑制することによってポリマー靭性を増加させる。グラフェンは、電気および熱伝導性を提供するために、ポリマーおよび他の組成物に添加されうる。グラフェンの熱伝導率は、電子デバイスおよびレーザー用の熱管理(例えば、平面放熱)のための理想的な添加剤になる。炭素繊維強化ポリマーマトリクスの複合材料(CF-PMC)のいくつかの商業的用途としては、数ある中でも、航空機および航空宇宙システム、自動車システムおよび車両、エレクトロニクス、政府の防衛/セキュリティ、圧力容器、ならびに反応炉を含む。
【0007】
グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体(G-PMC)を効果的に生成するための低コストな方法の開発における進歩は、非常に遅いままである。現在、実行可能な実際の用途で使用するためのG-PMCの開発に影響を与える存在する課題のいくつかは、材料の費用ならびに大規模商業生産のために現在使用される化学的および/または機械的操作の非実用性を含む。よって、大規模な商業生産に適した、増大された特定の剛性および強度、強化された電気/熱伝導性、ならびに光学的透明性の保持を含む多くの特性の利点を提供するG-PMCを生成するための低コストな方法が望ましい。
【発明の概要】
【0008】
発明の要約
本開示は、溶融ポリマーマトリクス中に分散させた十分に結晶化したグラファイト粒子の伸長流動および折り畳みによって、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体(G-PMC)を製造するためのポリマー処理方法を提供する。
【0009】
一態様では、本発明によれば、溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子(microparticles)を分散(distributing)すること;および前記溶融ポリマー相にせん断ひずみ操作を連続して供給して、グラファイトの少なくとも50%が剥離されて、溶融ポリマー相中にc軸方向に沿って厚さの50ナノメートル未満の単層および多層グラフェンナノ粒子(nano-particles)の分布(distribution)を形成するまで、前記溶融ポリマー相がそれぞれの操作とともに連続してグラフェンを剥離すること;を含むグラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成するための方法が提供される。
【0010】
ある形態においては、グラファイト粒子は、グラファイト含有鉱物をミリメートルサイズの寸法にまで粗砕および粉砕することにより製造されてもよい。
【0011】
ある形態においては、ミリメートルサイズの粒子は、例えばボールミルまたはアトライターミル(attritor milling)などのあらゆる公知の方法を用いて、マイクロサイズの寸法にまで小さくしてもよい。
【0012】
ある形態においては、グラファイト粒子は、マイクロサイズの粒子混合物から抽出されてもよく、好ましくは浮遊法により抽出される。
【0013】
ある形態においては、抽出されたグラファイト粒子は、軸方向溝付き伸張混合部材(axial fluted extensional mixing elements)またはスパイラル溝付き伸長混合部材(spiral fluted extensional mixing elements)を有する一軸押出機を用いて、ポリマーマトリクス内に組みこまれてもよい。
【0014】
ある形態においては、グラファイト含有ポリマーマトリクスは、グラファイト材料の剥離を誘導するために繰り返し押し出しをされ、ポリマーマトリクス中でグラフェンナノ粒子の均一な分散を形成する。
【0015】
ある形態においては、熱可塑性ポリマーは芳香族ポリマーである。芳香族ポリマーは、好ましくは、主鎖の部分として、または主鎖上の置換基としてのいずれかで置換されていてもよいフェニル基を含む。ある形態においては、置換されていてもよいフェニル基は、置換されていてもよいフェニレン基としてポリマー主鎖内に含まれていてもよい。他のある形態においては、置換されていてもよいフェニル基は、ポリマー上の置換基である。特定の形態では、熱可塑性ポリマーが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリビニリデンフルオライド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテルもしくは酸化物、またはナイロンなどのポリアミド、芳香族熱可塑性ポリエステル、芳香族ポリスルホン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリルブタジエンスチレンなどのようなアクリル、超高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシ-メチレンプラスチック、ポリアリ-ルエーテルケトン、ポリビニルクロライドおよびこれらの混合物から選択される。
【0016】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、少なくとも50%のグラファイトが剥離されて、溶融ポリマー相において、c軸方向に沿って25ナノメートル未満の厚みの単層および多層のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されうる。
【0017】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、少なくとも50%のグラファイトが剥離されて、溶融ポリマー相において、c軸方向に沿って10ナノメートル未満の厚みの単層および多層のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されうる。
【0018】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、少なくとも90%のグラファイトが剥離されて、溶融ポリマー相において、c軸方向に沿って10ナノメートル未満の厚みの単層および多層のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されうる。
【0019】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、少なくとも80%のグラファイトが剥離されて、溶融ポリマー相において、c軸方向に沿って10ナノメートル未満の厚みの単層および多層のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されうる。
【0020】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、少なくとも75%のグラファイトが剥離されて、溶融ポリマー相において、c軸方向に沿って10ナノメートル未満の厚みの単層および多層のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されうる。
【0021】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、少なくとも70%のグラファイトが剥離されて、溶融ポリマー相において、c軸方向に沿って10ナノメートル未満の厚みの単層および多層のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されうる。
【0022】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、少なくとも60%のグラファイトが剥離されて、溶融ポリマー相において、c軸方向に沿って10ナノメートル未満の厚みの単層および多層のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されうる。
【0023】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、グラファイトは、剥離されたグラフェンナノ粒子の表面化学を修飾するために他の元素でドープされてもよい。
【0024】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、グラファイトは膨張グラファイトである。
【0025】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、分散したグラファイトの表面化学またはナノ構造は、グラフェン複合体の強度および剛性を増加させるために、ポリマーマトリクスとの結合強度を強化するために修飾されてもよい。
【0026】
ある形態においては、他の形態と組み合わせて、グラフェンナノ粒子の指向性配列(directional alignment)が用いられ、ポリマーマトリクス相の1、2または3次元の強化が得られる。
【0027】
開示された発明の他の態様においては、1以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子を分散すること;および前記溶融ポリマー相にせん断ひずみ操作を連続して供給して、剥離された多層グラフェンシートの裂け目(tearing)が生じて、前記多層シート上に前記1以上の熱可塑性ポリマーと反応して架橋する反応性エッジを生成するまで、前記溶融ポリマー相がそれぞれの操作とともに連続的にグラフェンを剥離すること;を含む架橋されたG-PMCを形成するための方法が提供される。
【0028】
開示された発明の他の態様においては、1以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子を分散すること;
前記溶融ポリマー相にせん断ひずみ操作を連続して供給して、剥離された多層グラフェンシートの裂け目が生じて、前記多層シート上に前記1以上の熱可塑性ポリマーと反応して架橋する反応性エッジを生成するまで、前記溶融ポリマー相がそれぞれの操作とともに連続的にグラフェンを剥離し、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成すること;;および、さらに、前記グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を他の非架橋熱可塑性ポリマーとともに粉砕し分散すること;を含む高強度架橋されたG-PMCを形成するための方法が提供される。
【0029】
ある形態においては、グラファイト粒子は、グラファイト含有鉱物をミリメートルサイズの寸法にまで粗砕および粉砕され、続いてミルによりマイクロサイズの粒子にまで小さくすることにより製造されてもよい。
【0030】
ある形態においては、グラファイト粒子は、マイクロサイズの粒子混合物から抽出され、好ましくは浮遊法により抽出されて、分離鉱物グラファイト(Separated Mineral Graphite)(「SMG」)が得られる。
【0031】
ある形態においては、溶融熱可塑性ポリマー相は2つの溶融熱可塑性ポリマーを含む。
【0032】
ある形態においては、熱可塑性ポリマーは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、芳香族熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのアクリル、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE/Teflon)、ナイロンのようなポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリオキシ-メチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリアリ-ルエーテルケトン、ポリビニルクロライド(PVC)およびこれらの混合物から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本開示のin situでの剥離方法に従って、3分、30分、および90分の混合時間でポリスルホン中で剥離された2%グラファイトの形態分析を示す。
【
図2】
図2は、本開示のin situでの剥離方法に従った、90G-PMCの様々なスケールおよび倍率レベルでの顕微鏡写真を示す。
【
図3a】
図3(a)は、10μmスケールおよび1000倍でのSMG-PEEK90の形態を示す。
【
図3b】
図3(b)は、10μmスケールおよび5000倍でのSMG-PEEK90の形態を示す。
【
図3c】
図3(c)は、1μmスケールおよび10,000倍でのSMG-PEEK90の形態を示す。
【
図3d】
図3(d)は、1μmスケールおよび50,000倍でのSMG-PEEK90の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の詳細な説明
この開示は、記載された特定のシステム、方法論またはプロトコルに制限されず、これらは変更になってもよい。本明細書で用いられる用語は、特定のバージョンまたは形態を説明する目的のためであり、範囲を制限するものではない。
【0035】
本書で使用されるように、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に指示しない限り複数の参照を含む。特に定義しない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本書で言及した全ての刊行物は、参照により組み込まれる。本文書に記載のすべてのサイズは、ほんの一例であり、本発明は、以下に記載の特定のサイズまたは寸法を有する構造に限定されるものではない。この文書の内容は、本書で説明する実施形態が先行発明によるそのような開示に先行する権利がない承認として解釈されるべきではない。本明細書で使用される「含む」という語は、「含むが、これらに限定されない」という意味である。
【0036】
以下の用語は、本出願の目的のために、以下の記載のそれぞれの意味を有するものとする:
「グラフェン」という語は、縮合したベンゼン環構造内で密に充填された炭素原子の単層に与えられた名前を意味する。単独で使用した場合、グラフェンは、純粋で汚染されていない形態で、多層グラフェン、グラフェンフレーク、グラフェンプレートレット、および数層の層グラフェンまたは単層グラフェンを意味する。
【0037】
本発明は、十分に結晶化されたグラファイト粒子を含むポリマー複合体をナノ分散した単層または多層グラフェン粒子へと変換するための高効率な混合方法を提供する。この方法は、反復的な、高せん断ひずみ速度を与えるバッチミキサーまたは押出機中で混合することによるグラファイト層のin situでの剥離を伴う。両方のプロセスにおいて、より長い混合時間により、ポリマーマトリクス複合体(PMC)内でのグラフェンナノ粒子へのグラファイトの剥離が強められる。また、添加剤は、十分なグラフェン/ポリマーの結合を促進するために使用してもよく、それによって低密度グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体(G-PMC)を得ることができる。この方法は、増大された特定の剛性および強度、強化された電気/熱伝導率、ならびに光透過性の保持を含む多数の特性上の利点を提供するG-PMCを製造するための低コストな方法である。さらに、これらの特性は、下記参照のように、プロセスの変更による調整が可能である。
【0038】
バッチ混合プロセスまたは一軸押出の間の繰り返しの混合は、初期のグラファイト粒子分散物を個別のグラフェンナノ粒子の均一なナノ分散体に徐々に変換するために使用される。いくつかの場合では、プロセス中に、不活性ガスまたは真空が使用されてもよい。この方法は、多くの現在の研究の主要な推進力である「化学」剥離と区別するために、本明細書中では「機械的な」剥離として記載されている。機械的な方法の利点は、高せん断混合の間に汚染のないグラフェン-ポリマー界面が形成されることであり、これにより、良好な界面接着または結合を確実にすることができる。in situでの剥離の他の利点としては、グラフェンフレークを作製し取り扱うことを回避することに加えて、それらをポリマーマトリクス相中に均一に分散させる必要性が回避されることもある。優れた混合により、より細かな複合構造および非常に良好な粒子分布が生成できる。
【0039】
in situでのせん断ひずみ操作の数に応じて、本方法は、純粋で汚染されていない形態の多層グラフェン、グラフェンフレーク、グラフェンプレートレット、数層グラフェンまたは単層グラフェンを提供する。プレートレットは、ダイヤモンド様の剛性を有し、ポリマー強化のために使用される。あらゆる形態のグラフェンは、ポリマーのための強化材として亀裂伝播を阻害することによりポリマー靭性を向上させる。グラフェンは、電気および熱伝導性を提供するために、ポリマーおよび他の組成物への添加剤として使用されてもよい。グラフェンの熱伝導性により、グラフェンは電子デバイスおよびレーザー用の熱管理のための好ましい添加剤になる。
【0040】
グラフェンが形成される出発材料であるグラファイトは、各層内の炭素原子が六方格子状に配列された層状の平面構造で構成されている。平面層は、「a」および「b」軸と、「a」および「b」軸によって定義された平面に垂直である「c」軸とを有するものとして定義されている。本発明の方法によって製造されたグラフェン粒子は、「c」軸距離で割られた「a」または「b」軸距離によって定義されるアスペクト比を有する。本発明のナノ粒子のアスペクト比は、25:1を超えており、一般的には50:1からの1000:1の間である。
【0041】
これは、本質的に、本発明の方法において、グラファイトに不活性で、グラファイトからグラフェンを剥離するのに十分なせん断ひずみを付与することのできる任意のポリマーが用いられることが理解されるべきである。このようなポリマーの例としては、これらに限定されないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、芳香族熱可塑性ポリエステル、芳香族ポリスルホン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのようなアクリル、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE/Teflon)、ナイロンのようなポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリオキシ-メチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリアリ-ルエーテルケトン、ポリビニルクロライド(PVC)、およびこれらの混合物などが挙げられる。本発明の方法に従って、グラファイト表面を濡らすことができるポリマーや、高融点な非晶質ポリマーが用いられてもよい。ある形態においては、グラフェン強化ポリマーマトリクスの熱可塑性ポリマーは、本明細書で定義されるように、芳香族ポリマーである。
【0042】
グラフェンは、その後の製造プロセスのために、従来の手段によってペレット化されうるG-PMCとしてそのまま使用するのに適したグラフェン-ポリマー混合物として製造することができる。または、ペレット化されてその後に強化剤としてポリマー組成物にグラフェンを追加するために用いられうる濃縮形態でグラフェン-ポリマーマスターバッチを提供するために、グラファイトのより高い濃度が最初に使用されてもよい。さらなる代替として、グラフェンの本質的に純粋な粒子を提供するために、例えば燃焼もしくは選択的溶解により、グラフェンはポリマーから分離されてもよい。
【0043】
本発明によれば、グラフェン強化ポリマーは、典型的には、約0.1~約30重量%のグラフェンを含む。より典型的には、ポリマーは、約1.0~約10重量%のグラフェンを含む。ポリマーマスターバッチは、典型的には約5~約50重量%のグラフェン、より典型的には約10~約30重量%のグラフェンを含む。
【0044】
比較的高い濃度(例えば、約20%)で十分に結晶化されたグラファイトを含有するグラファイトの豊富な鉱床(mineral deposits)の利用可能性は、低コストで、実質的には原料の無尽蔵の源である。以下に説明するように、採掘された材料からのグラファイト粒子の抽出は、効率の良い方法で達成されうる。高純度で優れた結晶化度(例えば、熱分解グラファイト)の人造グラファイトはまた、同じ目的のために使用されてもよい。しかしながら、この場合には、バッチ混合または押出混合誘導性の剥離処理は、グラフェンナノ粒子が比較的大きな面積にわたって配向された積層複合体を作成する。このような積層複合体は、特定の用途のために好ましいことがありうる。
【0045】
ポリマーマトリクス内のグラファイトの機械的剥離は、ポリマーマトリクス中のグラファイトマイクロ粒子を機械的に剥離して単層または多層グラフェンナノ粒子にするための反復的な高せん断ひずみ操作を付与するポリマープロセス技術によって達成されてもよい。
【0046】
本発明の目的のために、グラファイトマイクロ粒子は、グラファイトの少なくとも50%が格子構造のc軸に沿った厚さの1.0~1000ミクロンの範囲の多層グラファイト結晶で構成されたグラファイトとして定義される。一般的に、グラファイトの75%が、100~750ミクロンの厚さの範囲の結晶で構成される。膨張グラファイトを使用することもできる。膨張グラファイトは、天然鱗状グラファイト中で結晶格子面を離れさせ、その後グラファイトを膨張することによって製造され、例えば、鱗状グラファイトをクロム酸、その後濃縮硫酸の酸浴に浸漬することによって製造される。本発明で使用するのに適した膨張グラファイトは、メッソグラフ(MESOGRAF)のような2層の水平面において開かれた端部(opened edges)を有する膨張グラファイトが挙げられる。
【0047】
連続したせん断ひずみ操作は、溶融ポリマーを、本質的に同じ時間間隔による、交互に生じる連続したより高いおよびより低いせん断ひずみ速度へ供することによって定義され、その結果、せん断ひずみ速度と関連する、パルス状の連続したより高いおよびより低いせん断力が溶融ポリマー中のグラファイト粒子に加えられる。より高いおよびより低いせん断速度とは、第1のより高いせん断ひずみ速度が第2のより低いせん断速度の少なくとも2倍の大きさであるとして定義される。第1のせん断速度は100~10,000sec-1の範囲であろう。少なくとも1,000から10,000,000を超えるより高いおよびより低いせん断ひずみパルスの交互パルスが、溶融ポリマーに適用され、剥離されたグラファイトナノ粒子を形成する。グラファイト粒子をグラフェン粒子に剥離するのに必要な交互パルスの数は、このプロセスの開始時に元のグラファイト粒子の大きさに依存しえる。すなわち、より小さな元のグラファイト粒子は、より大きな元のグラファイト粒子に比べて、グラフェンを達成するために必要な交互パルスの数がより少ないだろう。これは、容易に、過度の実験を行うことなく、本明細書によって導かれる当業者によって決定することができる。
【0048】
高せん断混合した後、グラフェンフレークは均一に溶融ポリマー中に分散され、ランダムに配向し、高いアスペクト比を有している。グラフェンの配向は、多くの異なる方法によって達成することができる。従来の図面、圧延(rolling)、および押出法が、PMC繊維、フィラメント、リボン、シート、またはアスペクト形状内のグラフェンを一方向に配列するために用いられてもよい。G-PMCを作製し、特徴づけるための方法は、4つの主要なステップで構成される;
1.鉱物源から結晶性グラファイト粒子を抽出;
2.高効率の混合/剥離プロセスによる抽出したグラファイト粒子のポリマーマトリクス相への組み込みおよびグラファイト含有ポリマーのグラフェン強化ポリマーマトリクス複合体(G-PMC)への変換;
3.機械的剥離および多層グラフェンとグラフェンナノ粒子との分散の程度を決定するための形態解析;ならびに
4.機械的剥離の関数として多層グラフェンまたはグラフェン結晶サイズを決定するためのX線回折分析。
【0049】
高結晶性グラファイトは、後述のように、多段階プロセスによってグラファイト鉱石から抽出してもよい。
【0050】
1.粗砕する(Crushing):鉱山から穴をあけられたグラファイト鉱石のロッドが万力の中におかれ、粗砕されてもよい。
【0051】
2.粉砕する(Grinding):粉砕したグラファイト鉱石はその後、乳鉢と乳棒とで粉砕してもよい。
【0052】
3.サイズの減少:細かくしたグラファイト鉱石を、1mmのメッシュサイズの篩に配置して、サイズを減少させる。スクリーンを通過しない大きな切片は、乳鉢と乳棒とで粉砕して、再び1mmのメッシュサイズによってサイズを低減する。最終的に、材料のすべては、1mmのメッシュサイズを通過して、グラファイト鉱石の粉末を得る。
【0053】
4.水による密度分離:1mmのサイズの粉末を、水を充填したカラムに配置し、固形分の密度がより密な部分と、より薄い部分との間に明確な分離が形成するまで激しく撹拌する。グラファイトは、水の密度(1g/cm3で)に近いのに対して、シリコンの密度はより大きい(2.33g/cm3)。最上部の材料を水といっしょに吸い上げた後、乾燥する。乾燥した粉末グラファイトは、分離鉱物グラファイト(Separated Mineral Graphite)(SMG)と呼ばれる。
【0054】
商業的な実用の点においては、非常に大きい粗砕および粉砕機をトン量の混合粉末を製造するために利用することができ、これより標準浮遊法によってグラファイト成分を分離することができる。
【0055】
一実施形態では、G-PMCを製造するin situ剥離方法を対象とする。この方法では、マイクロサイズの結晶性グラファイト粒子と均一にブレンドされるポリマーは、ポリマーがグラファイト粒子に付着する温度で、バッチ混合または押出し中に繰り返しの配合-部材処理(compounding-element processing)を受ける。典型的なポリマーは、配合温度で100cpsよりも大きな熱粘度(heat viscosity)(グラファイトなしで)を有する。配合温度は、ポリマーにより変化するであろうし、室温(室温で溶融しているポリマーの場合)~600℃の範囲とすることができる。典型的な配合温度は180℃と400℃との間の範囲であろう。
【0056】
一実施形態では、押出配合部材(the extrusion compounding elements)は、軸方向溝付き伸長混合部材(axial fluted extensional mixing elements)またはスパイラル溝付き伸長混合部材(spiral fluted extensional mixing elements)として知られている。なお、これは、米国特許第6,962,431号の配合のセクションで記載されており、本開示は参照により組み込まれる。
【0057】
配合のセクションでは、ポリマーとグラファイトとの流入(flow)を引き延ばすよう作用し、続いて材料に対して繰り返しの折りたたみと伸長とが行われる。これは、順に、優れた分配混合という結果となり、グラファイト粒子の個別のグラフェンナノ粒子への漸進的な剥離を引き起こす。バッチミキサーはまた、同等の混合部材を備えていてもよい。別の実施形態では、標準型の射出成形機は、組成物が射出成形されるように材料を配合する目的で、標準スクリューを配合スクリューと交換する変更される。このようなデバイスは、参照によりその開示全体が本明細書に組み込まれる、米国第2013/0072627号に開示されている。
【0058】
したがって、各混合パスの効果は、順々にグラフェン層を削ぎ取るものであり、その結果、元のグラファイト粒子は、非常に多くのグラフェンナノ粒子へと徐々に変えられる。適切な数のこのようなパスの後、最終的な結果は、ポリマーマトリクス相における個々のグラフェンナノ粒子の均一な分散である。より長い混合時間または混合部材を通るより多い数のパスにより、グラファイト結晶サイズをより小さくすることやポリマーマトリクス相内でのグラファイトのグラフェンナノ粒子への剥離の向上がもたらされる;しかしながら、せん断操作はポリマーを劣化しうる期間であってはならない。
【0059】
グラフェンナノ粒子の含有量がマルチパス押出時に増加するため、ポリマー/グラフェン界面の数の増加の影響によりポリマーマトリクスの粘度が増加する。複合構造の継続的な改良を確実にするために、押出パラメータは、複合体のより高い粘度を補償するように調整される。
【0060】
自動化された押出システムは、米国特許第6,962,431号に記載されているように、複合材料に混合部材での所望の多くのパスを施すのに有効であり、押出機入力(extruder input)に戻るよう流れを向かわせるための再循環ストリームを備えている。グラフェン強化PMCの処理は、直接であることと、グラフェン粒子の取り扱いを伴わないので、製造コストが低い。
【0061】
機械的にグラファイトを多層グラフェンおよび/または単層グラフェンに剥離するために、処理中にポリマーに生じるせん断ひずみ速度は、グラファイトの2つの層を分離するのに必要な臨界応力または中間層のせん断強度(ISS)よりも大きいグラファイト粒子のせん断応力(stress)を生じさせる必要がある。ポリマー内のせん断ひずみ速度はポリマーの種類ならびにミキサーの形状、処理温度、および分当たりの回転(RPM)を含む処理パラメーターによって制御される。
【0062】
特定のポリマーについての必要な処理温度および速度(RPM)は、式1によって示されるように、一定の温度で、
【0063】
【0064】
はRPMに直線的に依存していることで与えられるポリマーレオロジーデータから決定可能である。ミキサーの形状は、ローター半径r、ローターとバレルとの間のスペースΔrとして表示される。
【0065】
【0066】
3つの異なる温度での特定のポリマーについて回収したポリマーレオロジーデータにより、せん断応力の対数 対 せん断ひずみ速度対数のグラフが提供される。グラファイトのISSは0.2MPaと7GPaとの間の範囲であるが、新しい方法は、0.14GPaでのISSを数値化した。したがって、処理中にポリマーマトリクス内のグラファイトを機械的に剥離するために、必要となる処理温度、せん断ひずみ速度、およびRPMは、ポリマー内のせん断ひずみがグラファイトのISSと同等以上になるように一定の温度でポリマーから収集したせん断応力の対数 対 せん断ひずみ速度の対数のグラフから特定のポリマーについて決定可能である。典型的な処理条件の下では、ポリマーは、粘着テープの粘着面のように挙動するのに十分な表面エネルギーを有し、よって、ポリマー溶融とグラファイト粒子との間のせん断応力を共有することができる。
【0067】
一実施形態では、G-PMCを形成するための方法は、溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子を分散することを含む。グラファイトの少なくとも50%が剥離して、溶融ポリマー相中に単層または多層のc軸方向に沿って厚さの50ナノメートル未満のグラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、溶融ポリマー相が各操作でグラファイトを連続的に剥離するように、溶融ポリマー相に連続したせん断ひずみ操作が適用される。
【0068】
別の実施形態では、架橋されたG-PMCを形成するための方法は、1以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む溶融熱可塑性ポリマー相中にグラファイトマイクロ粒子を分散することを含む。実施例に示すように、グラフェン層の厚さが低いレベルに達成され、その後ポイントリッピング(point ripping)および剥離した多層グラフェンシートの裂け目が生じて、多層シート上に熱可塑性ポリマーと反応し架橋する反応性エッジが生成するまで、連続したせん断ひずみ操作を溶融ポリマー相に供給し、溶融ポリマー相がグラフェンを各操作で連続的に剥離する。
【0069】
別の実施形態では、架橋されたG-PMCは、粒子状に粉砕することができ、ホストポリマーのための強化剤として作用する非架橋のホストポリマーと配合されうる。非架橋ポリマーは、2つのポリマー種間の鎖の絡み合いにより架橋ポリマーの特性を得る。したがって、本発明はまた、他のポリマーと配合されて高強度の複合体を形成できる粒子形態の本発明の架橋ポリマーを含む。一実施形態では、本発明の架橋ポリスチレンおよびポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子は、ホストポリマーのための強化剤として使用することができる。本発明による組成物は、本発明の架橋ポリマー粒子の重量の約1~約75%の間で強化されたホスト熱可塑性ポリマーを含む。一実施形態では、ホストポリマーは、架橋ポリマー粒子の重量の約10~約50%の間で強化される。
【0070】
ある実施形態では、熱可塑性ポリマーは、芳香族ポリマーである。本明細書で定義されるように、「芳香族ポリマー」との語は、ポリマー主鎖の一部として、または、必要に応じてリンカーを介してポリマー主鎖に結合した置換基としてのいずれかで、芳香族部分を含むポリマーを意味する。リンカーとしては、メチレン、エチレン、およびプロピレンなどの直鎖または分岐のアルキレン基、-OCH2-、-CH2O-、-OCH2CH2-、-CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2-、-OCH(CH3)-、-SCH2-、-CH2S-、-NRCH2-、-CH2NR-(ここで、ヘテロ原子は、酸素、窒素、および硫黄からなる群より選択され、Rは水素および低級アルキルから選択される)などの直鎖または分岐のヘテロアルキレン基などが挙げられる。リンカーとしては、また、-O-、-NR-および-S-などのヘテロ芳香族でありうる。リ
ンカーは、硫黄を含有する場合、硫黄原子は任意に酸化されていてもよい。芳香族部分は、フェニルなどの単環、およびナフチル、インドール、アントラセンなどの多環式から選択され、必要に応じて、アミノ、NHR、NR2、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アルキルチオ、アルコキシ、アルキル、ハロアルキル、CO2R(ここで、Rは上記で定義した通りである)およびこれら2種以上の組み合わせで置換されていてもよい。
【0071】
芳香族部分は、酸素、窒素および硫黄からなる群より選択される1~3個のヘテロ原子を含むヘテロアリールでありうり、上述のように必要に応じて置換されていてもよい。芳香族ポリマーは、好ましくはフェニル基を含み、上述のように必要に応じて、ポリマー主鎖の一部として、または主鎖上の置換基としてのいずれかで置換されていてもよく、後者の場合は、上述のように必要に応じてリンカーを介していてもよい。ある実施形態においては、必要により置換されてよいフェニル基は、必要により置換されてよいフェニレン基としてポリマー主鎖内に含まれる。ある他の実施形態においては、必要により置換されてよいフェニル基は、上述のように、必要に応じてリンカーを介して結合したポリマー主鎖上の置換基である。
【0072】
熱可塑性ホストポリマーの例としては、これらに限定されないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、芳香族熱可塑性ポリエステル、芳香族ポリスルホン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、アクリルのようなポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)など、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE/テフロン(登録商標))、ナイロンのようなポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリオキシメチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリイミド、ポリアリ-ルエーテルケトン、ポリビニルクロライド(PVC)、アクリル、これらの混合物などが挙げられる。熱可塑性ホストポリマーと架橋ポリマーとが同じポリマー種である場合には、架橋ポリマー粒子は、本質的に、ポリマー組成物に導入されることが望ましい架橋種の程度の濃縮マスターバッチである。
【0073】
したがって、本発明の他の態様は、1以上の溶融熱可塑性ポリマーを含む溶融熱可塑性ポリマー相の中にグラファイトマイクロ粒子を分散することにより高強度(high-strength)グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体を形成する方法を提供する。実施例に例示されるように、溶融ポリマー相が各操作で連続的にグラフェンを剥離して、剥離された多層グラフェンシートの裂け目(tearing)が生じて、1以上の熱可塑性ポリマーと反応して架橋する反応性エッジを多層シート上に生成するまで、せん断ひずみ操作は連続して溶融ポリマー相に供給される。架橋グラフェンおよび熱可塑性ポリマーはその後、粒子にまで粉砕され、当該粒子は他の非架橋ポリマー中に分散される。
【0074】
このように、活性化したグラフェンは、底面を横切ってグラフェンの裂け目として形成され、官能化のためにマトリクスまたは他の化学的に不安定な基に架橋するための潜在的な部位を提供する。よって、反応性エッジが酸化する、またはそうでなければ非反応性にならないように、架橋は酸素の排除下で、好ましくは不活性雰囲気または真空下で実施される。グラフェンとマトリクスとの間に共有結合を結合することにより、顕著に複合体強度が増加する。本発明の方法を受けて架橋するポリマーとしては紫外線(UV)光により分解を受けるポリマーが挙げられる。これは、例えば、ポリスチレンのようなベンゼン環などの芳香族を含むポリマー、ポリプロピレンのような第3級炭素を含むポリマー、ポリ(アルキレンオキシド)のような主鎖の酸素を含むポリマーなどを含む。
【0075】
ある実施形態では、グラファイト粒子は、ミリメートルサイズの寸法にまでグラファイト含有鉱石を粗砕および粉砕することにより調製されうる。ミリメートルサイズの粒子は、ボールミルやアトライターミルを使用して、マイクロサイズの寸法まで小さくする。
【0076】
ある実施形態では、グラファイト粒子は、好ましくは浮選法により、マイクロサイズの粒子の混合物から抽出されうる。抽出されたグラファイト粒子は、軸方向溝付き伸長混合部材またはスパイラル溝付き伸長混合部材を有する一軸押出機を用いて、ポリマーマトリクス中に組み込むことができる。グラファイト含有ポリマーマトリクスは、本明細書で述べられるように、グラファイト材料の剥離を誘導するために繰り返しの押し出しを施され、これによりポリマーマトリクス中にグラフェンのナノ粒子の均一分散を形成する。
【0077】
他の実施形態では、グラファイトの少なくとも50%が剥離して、溶融ポリマー相中に、c軸方向に沿って10nm未満の単層および多層グラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されてもよい。
【0078】
他の実施形態では、グラファイトの少なくとも90%が剥離して、溶融ポリマー相中に、c軸方向に沿って10nm未満の単層および多層グラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されてもよい。
【0079】
他の実施形態では、グラファイトの少なくとも80%が剥離して、溶融ポリマー相中に、c軸方向に沿って10nm未満の単層および多層グラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されてもよい。
【0080】
他の実施形態では、グラファイトの少なくとも75%が剥離して、溶融ポリマー相中に、c軸方向に沿って10nm未満の単層および多層グラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されてもよい。
【0081】
他の実施形態では、グラファイトの少なくとも70%が剥離して、溶融ポリマー相中に、c軸方向に沿って10nm未満の単層および多層グラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されてもよい。
【0082】
他の実施形態では、グラファイトの少なくとも60%が剥離して、溶融ポリマー相中に、c軸方向に沿って10nm未満の単層および多層グラフェンナノ粒子の分布を形成するまで、連続したせん断ひずみ操作が供給されてもよい。
【0083】
他の実施形態では、グラファイトは、剥離したグラフェンナノ粒子の表面化学を変更するために他の元素をドープしてもよい。グラファイトは膨張グラファイトである。
【0084】
他の実施形態では、分散したグラファイトの表面化学またはナノ構造が改良され、グラフェン複合体の強度および剛性を高め、ポリマーマトリクスとの結合強度を増強する。
【0085】
他の実施形態では、グラフェンナノ粒子の指向性配列(directional alignment)は、ポリマーマトリクス相の一次元、二次元、または三次元強化をするために用いられる。
【0086】
他の実施形態では、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体は、本明細書に記載の方法に従って形成される。熱可塑性ポリマー複合体は、引き裂かされたグラフェンシートエッジ上に露出した共有結合部位を用いて、引き裂かれた単層および多層グラフェンシートによる分子間(inter-molecularly)架橋であるポリマー鎖で提供される。
【0087】
ある実施形態では、上記で定義したように、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体の熱可塑性ポリマーは芳香族ポリマーである。
【0088】
他の実施形態において、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合体は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンンスルフィド(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、芳香族熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、熱可塑性エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などのアクリル、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE/Teflon)、ナイロンなどのポリアミド(PA)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリオキシ-メチレンプラスチック(POM/アセタール)、ポリアリ-ルエーテルケトン、ポリビニルクロライド(PVC)およびこれらの混合物などからなる群より選択されるポリマーと架橋したグラファイトから構成される。
【0089】
他の実施形態では、グラフェン強化ポリマーマトリクス複合材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で架橋されたグラファイトから構成される。スルホン化PEEKもまた、架橋することができる。このようにして架橋されたPEEKは、非常に高い特定の特性を有し、自動車、航空機、および宇宙用途に適しているであろう。よって、本発明は、本発明の架橋されたPEEKから形成される自動車、航空機および航空宇宙用部品を含み、機械的または高温特性を失うことなく、重い金属部品を置き換えることができる。例えば、架橋されたPEEKは、その高い融点および耐クリープ性により、ピストン、バルブ、カムシャフト、ターボチャージャーなどのエンジン部品に使用することができる。本発明の架橋されたPEEKからターボチャージャーのタービンおよび圧縮機の回転部を形成することは、得られる重量の減少によりターボチャージャー遅れを減少させるだろう。他の利点としては、本発明の架橋されたPEEKからジェットエンジンのタービンおよび圧縮機の回転部を形成することによって得られる。
【実施例】
【0090】
本発明は以下の実施例によりさらに例示されるが、いかなる点においても限定するものとして解釈されるべきではない。いくつかの実施形態を例示し説明してきたが、変更および修正が、添付の特許請求の範囲で定義されるように、そのより広い態様において本発明から逸脱することなく、当業者に応じてなされ得ることが理解されるべきである。
【0091】
一実施形態では、Udel P-1700ポリスルホン(PSU)とともに、2%のSMGを、真空下、332°C(630°F)で3分、30分、および90分間混合するために10グラムの容量を有する小規模拡張ミキサーを用いた。この方法は、下記に説明する。各長さの時間後に特性評価のために収集したサンプルは、3G-PMC、30G-PMC、90G-PMCと称する。
【0092】
1.PSUの9.8グラムをミキサーに添加し、溶融状態にした。
2.SMGの0.2グラムを、溶融PSUに加え、混合した。
3.3分の混合時間の後に、G-PMCの3グラムをミキサーの外に押し出し、特性評価のために回収した。
4.PSU中2%SMGの3グラムをミキサーに加え、混合した。
5.混合時間の30分後に、G-PMCの3グラムをミキサーから押し出し、特性評価のために回収した。
6.PSU中2%SMGの3グラムをミキサーに加え、混合した。
7.90分の混合時間の後、G-PMCの3グラムをミキサーの外に押し出し、特性評価のために回収した。
【0093】
形態分析
Oxford EDSを有するZeiss Sigma電界放出型走査型電子顕微鏡(FESEM)を用いて、多層グラフェンまたはグラフェンナノ粒子へのグラファイトの機械的剥離の程度およびこれらの粒子の厚さを決定した。観察中、3kVの加速電圧および約8.5mmの作動距離を使用した。観察の前に、3G-PMC、30G-PMC、および90G-PMCの各試料の検体サンプルに切り込みを入れ、低温で破砕して、平坦な破断面を作製し、少なくとも24時間真空下に配置し、金コーティングして、真空下で保存した。
【0094】
X線回折分析(XRD)
3G-PMC、30G-PMC、および90G-PMCの各試料に対するXRD分析は、4つのステップを含む:(1)試料調製、(2)回折パターンの取得、(3)フィッティングプロファイル、および(4)デバイ-シェラー式に従って面外(D)結晶子サイズの計算。
【0095】
1.XRD分析用試料は、3G-PMC、30G-PMC、および90G-PMCの各サンプルの薄膜を230℃で2分の時間以上5500psiでプレスすることによって調製した。加熱されたプラテンを有するCarver 一軸プレスを用いてプレスをする前に各サンプルをアルミニウムシート間に配置した。
【0096】
2.プレスしたフィルムの回折パターンを、4o-70o 2θからの入射スリット厚さ0.3mmおよびステップサイズ0.02o 2θのサンプルチャンバー(Xpert)を有するPhilips社のXPERT粉末回折計を用いて40kVおよび45mAで取得した。
【0097】
3.回折パターンは、ピークフィッティングする前に、バックグラウンド編集またはプロファイル調整なしで、WinPLOTR粉末回折グラフィックツールにアップロードされた。グローバルFWHM、グローバルη(Lorenzの割合)、および線形バックグラウンドを考慮して、疑似フォークト関数(pseudo-Voigt function)を使用し、2θが26o~27.5oの範囲でシングルピークフィッティングを適用した。プロファイルのシングルピークフィッティングは、関連するピークの半値幅(FWHM)を提供する。
【0098】
平均面外結晶子サイズ(D)(しばしばc軸方向に沿うと称され、積層されたグラフェン層の数に比例する)は、デバイ-シェラー式および(002)FWHM値を用いて計算される。ここで、λはX線の波長、係数K=0.89であり、βはラジアンのFWHMであり、θは回折角である。d-間隔(d-spacing)もまた計算される。
【0099】
【0100】
形態の結果
3G-PMC、30G-PMC、および90G-PMCの各サンプルの形態は、3つの異なるスケール(倍率)で
図1に示される。(a-c)において、20μmスケールおよび1,000倍の倍率は、各混合時間でのPSUマトリクス内の多層グラフェンまたはグラフェンの良好な分布を示している。(d-f)において1μmスケールおよび10,000倍の倍率、ならびに(g-i)においては1μmスケールおよび50,000Xの倍率は、PSUマトリクス内で機械的に剥離されたグラフェンを示す。(d-i)においては、グラフェンナノ粒子とポリマーマトリクスとの間の良好な結合だけでなく、多層グラフェンまたはグラフェンのマイクロ折りたたみ(micro-folding)が明らかである。
【0101】
最も長い時間混合され、最も多く繰り返しのせん断にさらされたサンプルである90G-PMCサンプルは、優れた機械的剥離および最も小さい結晶サイズを示す。
図2に示すように、機械的剥離は90G-PMCサンプルのグラフェンナノ粒子の厚みを8.29nmまで減少させている。
【0102】
X線回折結果
デバイ-シェラー方程式は、3G-PMC、30G-PMC、および90G-PMCのX線回折パターンから得られるFWHMおよびd-間隔の結果に適用され、多層グラフェンまたはグラフェンのナノ粒子の結晶の厚さ(D)を提供する。XRDの結果および結晶の厚さは表1に示される。3G-PMC、30G-PMC、および90G-PMCのサンプルにおいて、それぞれ、結晶厚さは40nm、31nm、および23nm;FWHMは0.202°、0.257°、および0.353°;ならびにd-間隔は3.361nm、3.353nmで、および3.387nmである。FWHMは混合時間とともに増大し、結晶の厚さは混合時間とともに減少しており、これは、グラファイトの多層グラフェンまたはグラフェンへの機械的剥離が生じ、混合時間がより長いほど強化されることを示している。結晶サイズの減少はFWHMの関数である。
【0103】
【0104】
グラフェン改良
ポリマー加工装置中での繰り返しのせん断ひずみ作用の結果として、多層グラフェンまたはグラフェンへのグラファイトの機械的な剥離は、様々な化学反応が生じる機会を提供する一次および二次のダングリングボンドを生成する。これはG-PMCの特性向上を得るために利用される。これは、グラフェン酸化物を形成する従来公知の方法と比べて優位性があることを示しており、ここで、一次および二次ダングリング結合は酸素と共有結合をし、典型的にはこれらの位置にグラフェン酸化物が減少した後も残ったままである。
【0105】
例えば、ポリマーマトリクスに多層グラフェンまたはグラフェンナノ粒子からこれらのダングリングボンドを共有結合的に取り付ける化学反応はG-PMCの優れた機械的特性を提供するであろう。代替的に、電気伝導性は、化学的にグラフェンナノ粒子エッジに適切なバンドギャップ材料を結合することによって、または、金、銀、銅などの導電性金属と配位することによって強化することができる。そしてグラフェン強化ポリマーは、導電性を提供する、または高めるためにポリマーまたは他の組成物に添加することができる。結合はまた、触媒担体として作用するグラフェン強化ポリマーとともに触媒を提供するために、白金やパラジウムなどの金属に配位することができる。官能性グラフェンの他の形態は、米国特許第8,096,353に開示されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0106】
in situでの官能化反応はワンポット反応性配合(one-pot reactive compounding)を経由する剥離処理中に実施することができるので、本発明の方法は特に有利である。
【0107】
グラフェン強化ポリマーは、軽量の電池用電極として使用することができる。他の用途は、複合ボート船体(composite boat hulls)、航空機、航空宇宙システム、輸送車両、軽量装甲(車両または人員装甲)、圧力容器、反応炉(reactor chambers)、スプレーコーティング、3D印刷用ポリマー粉末、電子デバイスのタッチスクリーン用の透明電極などを含む。ポリマーマトリクスに1~2重量%のグラフェンの添加は光透過性を維持しつつ導電性を付与し、よってソーラーパネル、フラットパネルディスプレイ、および病院内の静電気放電制御のためのへの応用を可能にする。
【0108】
ランドキャッスル社の押出装置(Randcastle Extrusion Systems, Inc.)(「ランドキャッスル(Randcastle)」)の小規模押出ミキサーでの繰り返しのせん断作用を用いて、機械的剥離はG-PMCにPSUで溶融配合された2%グラファイトをうまく変換させた。せん断力を増加させるための機械改良することによって結果を改善することができる;例えば、回転速度を増加させるためにより大きな直径の混合部材を使用することによって、および/または混合部材とシリンダ壁との間の間隔を最小化することによって改善できる。
【0109】
ランドキャッスル押出システムの小規模押出ミキサー:
小規模バッチミキサーの設計は、より高いせん断速度を提供するように修正されてもよく、同様にしてポリマーマトリクス内のグラファイトの優れた機械的剥離を提供する。
【0110】
【0111】
は式1に従って計算される。ここで、rはツーリング半径(tooling radius)であり、Δrは配合のためのクリアランス(clearance)である。機械の改良は達成可能な最大せん断速度とともに、表2に列挙する。新たに設計されたミキサーは現行のミキサーの22倍の最大せん断速度を有しており、これはより短い時間の長さでポリマーマトリクス内のグラファイトの優れた機械的剥離を提供するであろう。言い換えれば、結晶サイズDは、時間のより効率的な長さで、より小さな寸法に縮小することができる。
【0112】
【0113】
改良された一軸押出:
ランドキャッスルは、G-PMCを製造するためのポリマーマトリクス中でのグラファイトから多層グラフェンまたはグラフェンへの機械的剥離について、より良好な機械的剥離を可能にする押出機スクリューへの改良を行った。
【0114】
材料
原料のグラファイトは地面から抽出し、粉状へと粉砕し、浮遊分離して、鉱物グラファイト(「SMG」)を得た。
【0115】
PEEKは、比重1.3、溶融流れ3g/10分(400°C、2.16kg)、ガラス転移温度150℃、および融点340℃を有する。引張弾性率および強度はそれぞれ3.5GPaおよび95MPaである。この実施例において、xG-PMCの作製に先立って、SMGとPEEKとは、それぞれ100℃と150℃とで約12時間、乾燥した。
【0116】
この実施例では、10g容量のランドキャッスルマイクロバッチミキサーを用いて、SMGをPEEKと窒素雰囲気生成装置下(nitrogen blanket)360℃(680°F)、100rpmで以下のステップに従って混合した:
PEEK 3--コントロールサンプルを作製するために、PEEK10グラムをミキサーに加えた。3分の混合時間の後に、ポートを開けてPEEKを押出物として流し出し、それ以上の材料が流れ出なくなるまで、2.6グラムを押し出した。
【0117】
SMG-PEEK 3--2-98%SMG-PEEKの重量組成比を作製するために、PEEK2.4gとSMG0.2gとをミキサーに添加した。3分の混合時間の後に、ポートを開けて押出物としてG-PMCを流し出し、それ以上の材料が流れ出なくなるまで、1.96グラムを押し出した。
【0118】
SMG-PEEK 30--2-98重量%の組成比を維持するために、PEEK1.92gとSMG0.04gとをミキサーに加えた。30分の混合時間の後に、ポートを開けて押出物としてG-PMCを流し出し、それ以上の材料が流れ出なくなるまで、0.94gを押し出した。
【0119】
SMG-PEEK 90--2-98重量%の組成比を維持するために、PEEK0.92gとSMG0.02gとをミキサーに添加した。90分の混合時間の後、ポートを開けて押出物としてG-PMCを流し出したが、材料が流れ出なかった。
【0120】
実験を終了し、ミキサーを開けた。目視観察下では、G-PMCは、標準的な溶融ポリマーとは見えず、むしろゴム状、繊維状の形態だった。
【0121】
次の実施例では、100g容量のランドキャッスルマイクロバッチミキサーを用いて、SMGとPEEKとは、窒素雰囲気生成装置下360℃(680°F)、30rpmで以下の手順に従って処理した:
PEEK 90--コントロールサンプルを作製するために、PEEK100gをミキサーに加えた。90分の混合時間の後、ポートを開けて押出物としてPEEKを流し出し、それ以上の材料が流れ出なくなるまで、28.5gを押し出した。
【0122】
SMG-PEEK 25--2-98%SMG-PEEKの重量組成比を作製するために、PEEK98gとSMG2gとをミキサーに添加した。25分の混合時間の後、ポートを開けて押出物としてG-PMCを流し出し、それ以上の材料が流れ出なくなるまで、5.1gを押し出した。
【0123】
特性評価
特性評価に用いたサンプルを下記表3に示した:
【0124】
【0125】
Oxford EDSを有するZeiss Sigma電界放出型走査型電子顕微鏡(「FESEM」)を用いて、xG-PMCの形態を調べた。観察中、3kVの加速電圧および約8.5mmの作動距離を使用した。観察の前に、検体サンプルに切り込みを入れ、低温で破砕して、平坦な破断面を作製し、少なくとも24時間真空下に配置し、金コーティングし、真空下で保存した。
図3に示されるように、SMG-PEEK 90の形態について、(a)10μmスケールおよび1000倍、(b)10μmスケールおよび5000倍、(c)1μmスケールおよび10,000倍、および(d)1μmスケールおよび50,000倍で示した。
【0126】
熱分析
サンプルの熱的特性は、TA InstrumentsのQ1000示差走査熱量計(DSC)を用いて調べた。各サンプルについて、10℃/分で0~400℃からの加熱/冷却/熱サイクルを行った。最初の加熱スキャンのガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)を
図1に示す。TgはPEEK 3の152℃からMG-PEEK 90の154まで上昇しているが、この増加は顕著ではない。Tmについては、PEEK 3、SMG-PEEK 3、およびSMG-PEEK 30のサンプルは、ほぼ338℃で一致しているが、SMG-PEEK 90の331.7℃で著しく低下している。デルタHは、PEEK 3、SMG-PEEK 3、およびSMG-PEEK 30について同様であり、最初の冷却と再加熱スキャンとの間に変動し、116~140J/gの間の範囲である。しかし、SMG-PEEK 90のデルタHは、非常に低く、最初の冷却および再加熱スキャンについて約100J/gである。SMG-PEEK 90サンプルに対するPEEKの融解熱における観察可能な違いは、他のサンプルと比較して、形態において大きな違いを示す。また、SMG-PEEK 90サンプルの最初の冷却および再加熱スキャンの間の融合の一定の熱は、グラフェンとPEEKマトリクスとの間の架橋の存在をサポートしている。
【0127】
平行板レオロジー
平行板モードでTA InstrumentsのAR 2000を用いて、1.0%ひずみおよび360℃での100~0.01Hzからの周波数掃引を行った。サンプルSMG-PEEK 30、SMG-PEEK 3、およびPEEK 3を試験した。サンプルSMG-PEEK 30、SMG-PEEK 3、およびPEEK 3のG’およびG”とTan δ(tan delta)とを記録した。Tan δは、G”/G’に等しい。以下に示すように、表4によれば、このレオロジーデータは、サンプルの形態学に関する情報を提供する。熱硬化性樹脂のゾル/ゲル転移点、または「ゲル化点」は、Tan δ=1のとき、またはむしろG’=G”のときに生じる。サンプルSMG-PEEK 3とPEEK 3については、G”はG’よりも大きく、液体のような挙動を示す。サンプルSMG-PEEK 30については対照的に、G’がG”より大きく、弾性または固体様の挙動を示す。また、SMG-PEEK 30については、Tan δが1未満で、全周波数範囲にわたってほぼ一定のままであり、これはSMG-PEEK 30がある程度の架橋を受けたことを示す。
【0128】
【0129】
溶解
溶媒中に配置された場合に軽くゲル化した熱硬化性樹脂は、溶媒およびポリマー構造に依存する程度で吸収して膨潤する。元の形状は保存され、膨潤したゲルは可塑性よりも弾性を示す。熱可塑性ポリマーの架橋は通常、1)過酸化物、2)水により架橋されるグラフトされたシラン処理、3)電子ビーム照射、および4)UV光によって行われる。
【0130】
この実施例では、架橋は、ダングリングフリーラジカルをもたらすグラフェンフレークの切断による機械的剥離処理中にSMGとPEEKとの間で誘導された。SMG-PEEK XG-PMCにおける架橋の存在を確認するために、溶解法は、PEEK(neat PEEK)、PEEK 3、PEEK 90、SMG-PEEK 3、SMG-PEEK 30、およびSMG-PEEK 90サンプルを硫酸中に配置することにより用いて、以下の手順に従って行った。
【0131】
各サンプルから10mgの検体サンプルを調製した;
各検体サンプルを、のの95-98%の硫酸(w/w)(A300S500フィッシャーサイエンティフィック)20mLとともに試験管に入れた;
溶液を5分間振とうした;
各試験管は、シールを形成するようにテフロン(登録商標)テープで蓋をし、シールを形成した;
各サンプルの写真を0時間、24時間、48時間、および72時間で撮影した。
【0132】
目視観察すると、PEEKのサンプルは、24時間前に、硫酸中ですべて溶解し、SMG-PEEK 90サンプルは72時間後に硫酸に残る唯一のものだった。SMG-PEEK 90サンプルは架橋して、熱硬化性樹脂と同様の溶媒に入れたときに膨潤した。SMG-PEEK 30サンプルは24時間後に硫酸中に残ったが、48時間前に溶解した。他のデータはSMG-PEEK 30は架橋されたことを示しているので、SMG-PEEK 30について架橋が誘導されたかを判断するにはさらなる試験が必要であった。
【0133】
好ましい実施形態の前述の例および説明は、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものではなく例示と解釈されるべきである。容易に理解されるように、多くの変形および上述の特徴の組合せは、特許請求の範囲に記載の本発明から逸脱することなく利用することができる。このような変形は、本発明の精神および範囲からの逸脱とみなされず、そのような変形のすべては、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。