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特許7072260マックル・ウェルズ症候群の治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】マックル・ウェルズ症候群の治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4709 20060101AFI20220513BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
A61K31/4709
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019238430
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107329
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトの掲載日:令和1年11月20日 (2)ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/mbsj2019/proceedings/list (3)公開者:増本純也 金子直恵 澤崎達也 竹田浩之 重村倫成 上松一永 倉田美恵 (4)公開された発明の内容:増本純也、金子直恵、澤崎達也、竹田浩之、重村倫成、上松一永及び倉田美恵が、上記アドレスのウェブサイトで公開された第42回日本分子生物学会年会の要旨集にて、「無細胞NLRP3インフラマソーム再構成系を用いた自己炎症疾患の分子標的薬の開発」について公開した。 (1)開催日:令和1年12月5日 (2)集会名、開催場所:第42回日本分子生物学会年会 マリンメッセ福岡(福岡県福岡市博多区沖浜町7-1) (3)公開者:増本純也 金子直恵 澤崎達也 竹田浩之 重村倫成 上松一永 倉田美恵 (4)公開された発明の内容:増本純也、金子直恵、澤崎達也、竹田浩之、重村倫成、上松一永及び倉田美恵が、第42回日本分子生物学会年会にて、「無細胞NLRP3インフラマソーム再構成系を用いた自己炎症疾患の分子標的薬の開発」について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】増本 純也
(72)【発明者】
【氏名】金子 直恵
(72)【発明者】
【氏名】澤崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹田 浩之
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172360(JP,A)
【文献】特表2018-523687(JP,A)
【文献】特表2019-512009(JP,A)
【文献】特開2016-023959(JP,A)
【文献】特表2008-501716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(I)

[式中、R1~R5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又はC1-4アルキル基を表し、nは0~6の整数、mは0~3の整数、pは0~5の整数、qは0~10の整数を表す]
で示される化合物、その医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物を含む、マックル・ウェルズ症候群の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項2】
n、m、p及びqが、それぞれ独立して、0、1又は2である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
IL-1βの分泌を抑制することができる、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
マックル・ウェルズ症候群の患者において、NF-κB誘導性サイトカインの分泌を抑制することができる、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記分泌が自発的な分泌である、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マックル・ウェルズ症候群の治療又は予防のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マックル・ウェルズ症候群(Muckle-Wells syndrome: MWS)は、全身性炎症を特徴とする症候群であり、常染色体優性遺伝疾患である。マックル・ウェルズ症候群では、クリオピンとしても知られるNLRP3(Nucleotide-binding domain, leucine-rich-containing family, pyrin domain-containing-3)の変異により、カスパーゼ-1が活性化され、最終的にIL-1βが過剰に誘導されることにより全身性炎症が引き起こされる。
この疾患の治療に用いることができるIL-1シグナル阻害剤としては、例えば、組み換えヒト内因性IL-1受容体アンタゴニストであるアナキンラ(Anakinra)、ヒトIgG1のFc部分とヒトIL-1受容体との融合タンパク質であるリロナセプト(Rilonacept)、IL-1βを標的とするヒトモノクローナル抗体であるカナキヌマブ(Canakinumab)などが知られている。
また、NLRP3に直接作用する薬剤としては、MCC950、3,4-Methylenedioxy-β-nitrostyrene (MNS)、CY-9、Tranilast、OLT1177、Oridorinなどが知られている(非特許文献1:Swanson KV et al. Nat Rev Immunol. 2019;19(8):477-489; 非特許文献2: Zahid A et al. Front Immunol. 2019;10:2538)。
他方、本発明者により、NLRP3に関連する疾患の治療に有効な低分子化合物の探索が行われた(特許文献1:特開2018-172360)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-172360
【非特許文献】
【0004】
【文献】Swanson KV et al. Nat Rev Immunol. 2019;19(8):477-489
【文献】Zahid A et al. Front Immunol. 2019;10:2538
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況において、マックル・ウェルズ症候群の治療又は予防に有用な、新たな低分子化合物を含む医薬組成物が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、マックル・ウェルズ症候群患者においてIL-1βの分泌を抑制することができる化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]下記式(I):
【化1】

(I)

[式中、R1~R5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又はC1-4アルキル基を表し、nは0~6の整数、mは0~3の整数、pは0~5の整数、qは0~10の整数を表す]
で示される化合物、その医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物を含む、マックル・ウェルズ症候群の治療又は予防のための医薬組成物。
[2]n、m、p及びqが、それぞれ独立して、0、1又は2である、上記[1]に記載の医薬組成物。
[3]IL-1βの分泌を抑制することができる、上記[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]マックル・ウェルズ症候群の患者において、NF-κB誘導性サイトカインの分泌を抑制することができる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5]前記分泌が自発的な分泌である、上記[3]又は[4]に記載の医薬組成物。
[6]下記式(I):
【化2】

(I)

[式中、R1~R5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又はC1-4アルキル基を表し、nは0~6の整数、mは0~3の整数、pは0~5の整数、qは0~10の整数を表す]
で示される化合物、その塩又はそれらの水和物を含む、IL-1β産生細胞によるIL-1β分泌の抑制剤。
[7]正常細胞におけるNF-κB誘導性サイトカインの分泌に影響を与えない、上記[6]に記載の抑制剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、マックル・ウェルズ患者においてIL-1βの分泌を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】NLRP3とASCとの相互作用に対する各化合物の阻害率(InH(%))を調べた結果を示す。
図2】IL-1β分泌(図2a)及びTNF-α分泌(図2b)に対する各化合物の影響について検討した結果を示す。また、各化合物の細胞毒性について検討した結果を示す(図2c)。
図3】NF-κBの活性化に対する化合物1及び5の影響について検討した結果を示す。
図4】IDOLマウス由来の脾細胞においてレポーターシグナルを検出した結果を示す(図4a)。IDOLマウスにおいてレポーターシグナルを検出した結果を示す(図4b)。
図5】マックル・ウェルズ症候群患者由来のPBMC又は健常者由来のPBMCにおいて、自発的なIL-1β分泌若しくはTNF-α分泌、又はLPS刺激によるIL-1β分泌若しくはTNF-α分泌に対する、本発明の化合物の抑制効果を検討した結果を示す。
図6】本発明の式(I)の化合物がNLRP3とASCとのPYDを介した相互作用を阻害し、NLRP3インフラマソームの形成を阻害する機構を模式的に示す。PYD: ピリンドメイン、CARD: カスパーゼリクルートメントドメイン、 NOD: nucleotide binding oligomerization domain、 LRR: ロイシンリッチリピート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0011】
1.概要
マックル・ウェルズ症候群(Muckle-Wells syndrome: MWS)は、全身性炎症を特徴とする症候群であり、この症候群では、NLRP3の変異により、最終的にIL-1βの過剰産生が引き起こされると考えられている。MWSには、変異を有するNLRP3を含むNLRP3インフラマソームが関与する。NLRP3インフラマソームは、NLRP3、アダプター分子であるASC(apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD)、及びカスパーゼ-1で構成されるタンパク質複合体である。インフラマソームの形成によって、IL-1β前駆体が切断されて活性化し、組織に炎症が誘導される。
この症候群の治療に用いられるIL-1シグナル阻害剤として、アナキンラ(Anakinra)、リロナセプト(Rilonacept)、カナキヌマブ(Canakinumab)などが知られているが、より費用負担の低い低分子化合物が求められる。また、NLRP3に直接作用する薬剤としては、MCC950、3,4-Methylenedioxy-β-nitrostyrene (MNS)、CY-9、Tranilast、OLT1177、Oridorinなどが知られているが、これらの化合物はNLRP3のNOD(nucleotide binding-oligomerization domain)領域を標的にするものであり(Swanson KV et al. Nat Rev Immunol. 2019;19(8):477-489; Zahid A et al. Front Immunol. 2019;10:2538)、NLRP3とASCとのPYD(ピリンドメイン)を介した相互作用を阻害するものではない(図6
これに対し、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、選択したピペリジン化合物がNLRP3とASCとのPYDを介した相互作用を直接阻害することを見出した(図1)。そして、当該化合物が、MWS患者においてIL-1βの自動分泌(auto-secretion)及びLPS刺激による分泌を抑制し、さらに、NF-κB誘導性サイトカインの自動分泌及びLPS刺激による分泌をも抑制することを見出した(図5)。これらの結果は、従来の薬剤からは予測することができない驚くべき結果であった。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0012】
2.本発明の化合物
本発明の化合物は、下記式(I)で示される化合物であり、2つのピペリジン環を含有するピペリジン化合物である。
【化3】

(I)
【0013】
式(I)において、R1、R2、R3、R4及びR5で表される置換基としては、それぞれ、例えば、水素原子、ハロゲン原子、C1-4アルキル基が挙げられるが、これらに限定されない。式(I)において、R1、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子及びC1-4アルキル基から選択することができる。
また、式(I)において、nは0~6の整数(0、1、2、3、4、5又は6)、mは0~3の整数(0、1、2又は3)、pは0~5の整数(0、1、2、3、4又は5)、qは0~10の整数(0、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10)を表し、好ましくは、n、m、p及びqは、それぞれ独立して、0、1又は2である。
本発明において、「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
本発明において、「C1-4アルキル基」とは、炭素数が1~4個の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の化合物の一態様として、例えば、式(I)において、R1がメチル基又はエチル基であり、R2、R3及びR5が、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基若しくはエチル基であり、かつ/又は、n、m及びqが、それぞれ独立して、0又は1である、化合物が挙げられる。
【0015】
本発明の化合物の別の態様において、例えば、式(I)において、R1がメチル基又はエチル基であり、R2、R3及びR5が、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基若しくはエチル基であり、R4がメチル基若しくはエチル基であり、かつ/又は、n、m、p及びqが、それぞれ独立して、0又は1である、化合物が挙げられる。
【0016】
本発明の化合物の別の態様において、例えば、式(I)において、R1及びR4が、それぞれ独立して、メチル基若しくはエチル基であり、n、m及びqが0であり、かつ/又は、pが1である、化合物が挙げられる。
【0017】
式(1)で示される化合物の代表例としては、例えば、下記式で示されるN-(2-(1-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-6-イル)-2-(ピペリジン-1-イル)エチル)-2-(o-トリルオキシ)アセトアミド(IUPAC名)(化合物1)が挙げられるが、これに限定されない。
【化4】

【0018】
本発明の化合物には立体異性体(例えば、幾何異性体(シス-トランス異性体)、エナンチオマー、ジアステレオマー等)が含まれる。
【0019】
上記式(I)で示される化合物は、その塩又は水和物を形成してもよい。塩は、本発明の効果を有する限り特に限定されるものではなく、酸との塩を形成しても塩基との塩を形成してもよい。
酸との塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸との塩、蟻酸、酢酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸との塩などを挙げることができる。
塩基との塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩(有機アミン塩)、あるいはアンモニウム塩などを挙げることができる。
また、本発明の化合物としては、塩を形成しない、いわゆるフリー体を選択することもできる。
【0020】
3.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、マックル・ウェルズ症候群の治療又は予防のためのものであり、上記「2.本発明の化合物」で述べた式(I)で示される化合物、その医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物を含むものである。
マックル・ウェルズ症候群(MWS)は、上記「1.概要」で述べたとおり、全身性炎症を特徴とする症候群であり、この症候群では、NLRP3の変異により、最終的にIL-1βの過剰産生が引き起こされる。特に、マックル・ウェルズ症候群の患者では、健常者と異なり、自発的なIL-1β分泌(自動分泌(auto-secretion))が起こる場合がある。
これに対し、本発明の式(I)で示される化合物は、従来の化合物(例えばMCC950)とは異なり、NLRP3とASCとのPYD(ピリンドメイン)を介した相互作用を阻害することで、NLRP3インフラマソームの形成を阻害する(図6)。これにより、炎症性サイトカインであるIL-1βの分泌(自動分泌及び他の要因(例えばLPS刺激)による分泌)を抑制し(図5等)、マックル・ウェルズ症候群における炎症を抑制することができる。その一方で、本発明の式(I)で示される化合物は、健常者由来の正常細胞(例えば末梢血単核細胞(PBMC))において、NF-κBの活性化に影響を与えず、NF-κB誘導性サイトカイン(例えばTNF-α、IL-6、IL-10等)の活性化にも影響を与えないことから、安全性の高い化合物であると考えられる。
すなわち、本発明の式(I)で示される化合物を含む医薬組成物は、マックル・ウェルズ症候群の治療又は予防に有効である。
【0021】
本発明において、「医薬的に許容可能な塩」は、医薬の製造及び使用において許容可能な塩であり、そのような塩は、上記「2.本発明の化合物」で述べた塩と同様である。
本発明の医薬組成物は添加剤を含んでいてもよく、当該添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤などが挙げられる。これらを単独又は適宜組み合わせ、定法により本発明の医薬組成物を製造することができる。
【0022】
医薬組成物の投与形態としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤などの経口剤、坐剤、軟膏剤、眼軟膏剤、テープ剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤などの外用剤又は注射剤を挙げることができる。
【0023】
本発明の医薬組成物の投与経路としては、経口投与、組織内投与(皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、静脈内投与など)、皮内投与、局所投与(経皮投与など)又は経直腸的に投与することができる。本発明の医薬組成物は、これらの投与経路に適した投与形態で投与される。
【0024】
本発明の医薬組成物は哺乳動物に対して投与することができる。ここで、哺乳動物としては、例えば、ヒト、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ハムスター、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、サルなどが挙げられる。
【0025】
本発明の医薬組成物に含まれる化合物の有効投与量は、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、投与期間、又は調剤の種類などにより異なるが、当業者であれば、適宜設定することができる。本発明の医薬組成物は、例えば、一日あたり1~3回投与することができ。また、その投与量は限定されるものではなく、例えば、一回あたり0.1 mg~500 mgの範囲で当業者が適宜選択することができる。投与時期は、症状に応じて適宜定めることができ、複数回分を同時に又は時間を置いて別々に投与することができる。
【0026】
マックル・ウェルズ症候群は、クリオピン関連周期熱症候群に含まれる中等症の症候群である。本発明の医薬組成物は、中等症であるマックル・ウェルズ症候群に有効であることから、少なくとも軽症型の家族性寒冷自己炎症性症候群(Familial cold autoinflammatorysyndrome:FCAS)にも有効である。すなわち、本発明の医薬組成物は、家族性寒冷自己炎症性症候群の治療又は予防のための医薬組成物として使用することもできる。
【0027】
3.IL-1β分泌抑制剤
本発明の式(I)で示される化合物は、IL-1β産生細胞(例えば末梢血単核細胞)における自発的なIL-1β分泌(自動分泌)及び他の要因(例えばLPS刺激)によるIL-1β分泌を抑制することができるため、IL-1β産生細胞におけるIL-1β分泌の抑制剤として有用である。
また、本発明の式(I)で示される化合物は、健常者由来のPBMC(正常細胞)においてNF-κB誘導性サイトカインの分泌に影響を与えないことから、NF-κB誘導性サイトカインの分泌による不本意な反応(例えば非特異的反応、副作用など)を防ぐことができる。
本発明のIL-1β分泌抑制剤は、in vitro、ex vivo及びin vivoのいずれにおいても使用することができ、試薬として使用することができる。In vivoで用いる哺乳動物については、上記「3.医薬組成物」で述べたものと同様である。
本発明のIL-β分泌抑制剤には添加剤を加えてもよく、添加剤についても上記「3.医薬組成物」で述べたものと同様である。
【0028】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0029】
[実施例1]
化合物の取得
コムギ無細胞タンパク質合成系で再構成されたNLRP3インフラマソームを用いて、9,600の化合物についてALPHA(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)スクリーニングを行った(特開2018-172360、Kaneko N,et al., Eur J Inflamm. 2017;15: 85-97、Kaneko N, et al., Inflamm Regen. 2017;37:9)。
その結果得られた化合物のうち、下記の化合物1~5を試験に用いた。化合物1は本発明の実施例化合物であり、化合物2~5は比較例化合物である。これらの化合物は、公知の合成方法を用いて取得することもできる。
また、図面の各図において、化合物1~5は、それぞれCompound 1~5と表記する。

化合物1(実施例化合物)
【化5】


化合物2~5(比較例化合物)
【化6】

【0030】
[実施例2]
NLRP3とASCとの相互作用についての阻害試験
無細胞系で再構成されたNLRP3インフラマソームを使用して、実施例1において得られた上記化合物1~5が、NLRP3(NLRP3-Btn)とASC(FLAG-ASC-PYD)との相互作用を阻害するかについて試験した(NLRP3-Btn: C-terminal biotinylated full-length NLRP3、FLAG-ASC-PYD: N-terminal FLAG-tagged pyrin domain of ASC)。
その結果、化合物1と化合物5は、NLRP3とASCとの相互作用を用量依存的に阻害した(図1b及びe)。化合物1及び化合物5の最大InH(%)は、それぞれ56.2%及び39.24%であり、IC50は、それぞれ14.65μM及び118.29μMであった。
一方、化合物3及び4は、NLRP3とASCとの相互作用に影響を及ぼさなかった(図1c及びd)。また、化合物2については、その最大InH(%)が-30.80%であったことから、NLRP3とASCとの相互作用のための接着に寄与しているようであった。
この結果から、本発明の化合物は、NLRP3とASCとのPYDを介した相互作用を阻害(図6)できることが示された。
【0031】
[実施例3]
1.末梢血単核細胞(PBMC)におけるIL-1βの分泌阻害試験
公知の方法(Yamazaki, T., et al. Arthritis Rheum. 58, 864-868 (2008))に基づき試験を行った。具体的には、ヒト末梢血単核細胞を、Ficoll勾配遠心分離(GE Healthcare Bio-Sciences AB, Piscataway, NJ)によって分離した。大腸菌O55:B5由来のリポ多糖(LPS)は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
細胞は、24ウェルプレート(BD Biosciences, San Jose, CA)において、1×105/mLまたは1×106/mLの最終細胞濃度で、5%CO2、37℃で8時間、実施例1で得られた化合物1~5(5.0μM又は50μM)とともに、LPSを含む1mLの10%FBS含有RPMI1640中で培養した。陰性対照として、化合物1~5の代わりにDMSOを用いた。
培養上清中のIL-1βおよびTNF-αの濃度は、特異的抗体(BD Biosciences)を用いた酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定した。
その結果、化合物1は、PBMCからのIL-1β分泌を顕著に阻害しつつ、TNF-αの分泌には影響を与えなかった(図2a及びb)。
【0032】
2.毒性試験
化合物の毒性を調べるため、CytoTox96非放射性細胞毒性アッセイ(Promega Madison, WI)により乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出(%)を測定した。細胞は、96ウェルプレートに1×106細胞/ウェルで播種した。LDH濃度は490nmの吸光度で測定した。
その結果、化合物1~5は、いずれも重篤な細胞毒性を示さなかった(図2c)。
【0033】
3.NF-κB活性化に対する影響
本発明の化合物がNF-κB活性化に影響するかどうかを調べるために、Nod2及びRIPK2(Nod2ノッドソーム)を用いてNF-κBレポータージーンアッセイを行った。
具体的には、ヒト胚性腎芽(HEK)293T細胞を、10%熱不活化FBS、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含むDMEM(Gibco)中で維持し、リン酸カルシウム法を用いて当該HEK293T細胞にプラスミドを遺伝子導入(transfect)した。
プラスミドとしては、pcDNA3‐Nod2‐FLAG、pcDNA3‐RIPK2‐myc、及びレポータープラスミド(NF-κB依存性pBxVI‐lucレポーター、pGL4.74[hRluc/TK])を用いた。pcDNA3‐Nod2‐FLAG及びpcDNA3‐RIPK2‐mycは、公知の情報(Shigemura T, et al., RMD Open. 2016;2:e000223)に基づいて作製した。
遺伝子導入では、プラスミドを220μLの蒸留水で希釈したものに30μLのCaCl2[2M]と250μLのHEPESを混合し、これを160μLずつ、3ウェルのHEK293T細胞培養物1mLに滴下した。これにより、33 ngのpcDNA3‐Nod2‐FLAGと33 ngのpcDNA3‐RIPK2‐mycと8.3 ngのレポータープラスミドを、1×105のHEK293T細胞に対し同時に遺伝子導入した。pcDNA3‐Nod2‐FLAGとpcDNA3‐RIPK2‐mycの遺伝子導入により、細胞内にNod2ノッドソームが再構成される。これらのプラスミドの対照として、pcDNA3の空ベクター(ベクターDNAのみ)を用いた。
遺伝子導入したHEK293T細胞の培養液に、1.0μM又は10μMの化合物1又は5を添加した。化合物の対照として、MCC950及びDMSOを用いた。また、化合物もDMSOも加えないサンプルを対照として用意した。MCC950は、NLRP3に直接作用することでIL-1βの分泌を阻害する公知の薬剤である。
GloMax(商標) Explorer System with Dual-Luciferase (商標)Reporter Assay System(Promega)を用いて、NF-κBルシフェラーゼレポーター活性を、遺伝子導入の24時間後に測定した。値は、ホタルルシフェラーゼ活性値を海ほたるルシフェラーゼ活性値で除することによって標準化し、ベクターDNAのみを遺伝子導入したサンプルの値の倍数で表記した。
【0034】
その結果、化合物1及び5は、Nod2及びRIPK2(Nod2ノッドソーム)を介したNF-κB活性化に影響を与えなかった(図3)。
具体的には、33ngのpcDNA3-Nod2-FLAGおよび33ngのpcDNA3-RIPK2-mycを同時に遺伝子導入したHEK293T細胞は、66ngのpcDNA3ベクターのみを遺伝子導入したものと比較して、約400倍のNF-κB活性化を誘導した。このNF-κB活性化に対し、化合物1及び5は影響を与えなかった。
同様に、公知化合物であるMCC950もNod2ノッドソームを介したNF-κB活性化に影響を与えなかった。
【0035】
本実施例の結果より、本発明の化合物は、PBMCからのIL-1β分泌を顕著に阻害しつつ、重篤な細胞毒性は生じないことが示された。また本実施例の結果から、本発明の化合物は、PBMC(正常細胞)において、NF-κBの活性化及びNF-κB誘導性サイトカインの分泌に影響を与えないことが示された。すなわち、本発明の化合物は、IL-1β産生細胞においてIL-1β分泌を顕著に阻害することができ、かつ安全性の高い化合物であり、また、このような化合物を含む薬剤は、IL-1β産生細胞におけるIL-1β分泌の抑制剤として有用であることが示された。
【0036】
[実施例4]
IL-1β関連炎症の抑制試験
本実施例においては、化合物1及び5がマウスモデルにおけるインフラマソーム活性化を抑制することができるかどうかについて試験した。
(1)IDOLマウス
マウスモデルとしては、炎症可視化マウスであるIDOLマウス(TransGenic Inc. Japan)(Iwawaki T, et al., Sci Rep. 2015; 5: 17205)を用いた。IDOLマウスは、IL-1βプロモーターの下流に、レポーター遺伝子IDOL(IL-1β based dual operating luciferase)が組み込まれている。IDOL遺伝子は、ルシフェラーゼ、マウスIL-1βの部分領域のcDNA、およびCL1-PEST分解シグナルをインフレームで含む。
非炎症時にはIDOL遺伝子は転写誘導されないため、レポーターシグナルは検出されない。仮に、何らかの理由によりIDOL遺伝子が発現したとしても、産生した融合レポータータンパク質には分解シグナル配列が融合されているため、ユビキチン-プロテアソーム系で分解される。
一方、炎症時には、IDOL遺伝子はNF-κBなどにより転写レベルで誘導される。これにより産生した融合レポータータンパク質において、インフラマソームの活性化により、レポーター部分と分解シグナル配列部分との間に位置するIL-βの部分領域が切断され、これにより分解シグナル配列部分が切り離される。その結果、融合レポータータンパク質は分解されることなく、レポーターシグナルが検出可能となる。
【0037】
(2)IDOLマウスの脾細胞を用いた試験
IDOLマウスの脾細胞を用いて、インフラマソーム活性化に対する化合物1と化合物5の抑制効果を定量的に評価した。試験結果においては、3つの独立した実験からのデータの平均および標準偏差を示した。差の有意性は、Mann-Whitney U検定を用いて評価した。p値<0.05を対照に対して統計的に有意であるとみなした。
その結果、LPSとともにインキュベートした脾細胞において、化合物1は蛍光シグナルを用量依存的に減少させた(図4a)。これに対し、対照であるMCC950は、10μMの濃度では蛍光シグナルを減少させたが、1.0μMでは減少させなかった。また、化合物5は、いずれの濃度においても蛍光シグナルを減少させなかった(同)。
この結果から、本発明の化合物は、従来の化合物であるMCC950や比較例化合物である化合物5と比較して、インフラマソームの活性化を顕著に抑制することが示された。
【0038】
(3)In vivoにおける全身性炎症抑制試験
0.1μg/gのLPSとともに、1.0μmol/gの化合物1又はDMSOをIDOLマウスの腹腔内に投与した。2時間後、D-ルシフェリン(Cayman Chemical, MI,USA)を腹腔内注射し、10分後、発光シグナルをAEQUORIA-2D/8600(HAMAMATSU Photonics, Japan)によって測定した。
マウス実験は、愛媛大学の動物倫理委員会によって承認され、関連するガイドラインおよび規則に従って実施された。
その結果、化合物1は、LPSによって誘導された全身的な蛍光シグナルを、DMSOを投与したマウスと比較して減少させた(図4b)。
この結果から、本発明の化合物は、in vivoにおいても、インフラマソームの活性化を抑制できることが示された。
【0039】
[実施例5]
(1)マックル・ウェルズ症候群患者におけるIL-1β分泌の抑制試験
本実施例においては、本発明の化合物がマックル・ウェルズ患者において、IL-1βの分泌を抑制することができるかどうかを検討した。
マックル・ウェルズ症候群患者は、7歳のときにマックル・ウェルズ症候群であると診断された、21歳の日本人女性である(Yamazaki T, et al., Arthritis Rheum. 2008;58:864-8)。当該患者は、治療期間中、2ヶ月毎に150mgのカナキヌマブが投与された。
カナキヌマブ投与前にマックル・ウェルズ症候群(MWS)患者から単離した末梢血単核細胞(PBMC)および健常者ボランティアから単離した末梢血単核細胞を、0.1 ng/mLのLPSとともにインキュベートするか、またはLPS無しでインキュベートした。
【0040】
その結果を図5a~5dに示す。図5a~5dにおいて、「LPS(-)」は、LPSで刺激していないPBMCを含むサンプルであることを示し、「LPS 0.1 ng/mL」は、LPSで刺激したPBMCを含むサンプルであることを示す。また、「MWS」は、MWS患者由来のPBMCを含むサンプルであることを示し、「Normal」は健常者由来のPBMCを含むサンプルであることを示す。
図5aに示されるように、MWS患者においては、LPSで刺激していない場合にも、PBMCからのIL-1β分泌が観察された。このIL-1βの分泌は、自発的なものであり、自動分泌(auto-secretion)である。一方、健常者においては、LPSで刺激しない場合には、このような自発的なIL-1β分泌は観察されなかった。この自発的なIL-1β分泌は、0.1μg/mL及び10μg/mLの化合物1によりほぼ完全に阻害された(図5a)。
また、図5bに示されるように、MWS患者及び健常者由来のPBMCを0.1ng/mLのLPSと共にインキュベートすると、IL-1β分泌は、両者のいずれにおいても顕著に増加した。これに対し、化合物1は、10μg/mLの濃度において、LPS刺激によるIL-1β分泌を有意に抑制した(図5b)。
これらの結果から、本発明の化合物は、MWS患者における自発的なIL-1β分泌(IL-1βの自動分泌)、並びに、MWS患者及び健常者におけるLPS刺激によるIL-1β分泌を、有意に抑制することが示された。
すなわち、本発明の化合物を含む医薬組成物は、マックル・ウェルズ症候群の治療及び/又は予防に極めて有用であることが示された。
【0041】
(2)MWS患者におけるNF-κB誘導性サイトカインの分泌抑制試験
上記(1)と同様に、MWS患者及び健常者由来のPBMCを用いて、NF-κB誘導性サイトカインの分泌抑制試験を行った。検出対象のNF-κB誘導性サイトカインとして、TNF-αを選択した。
その結果、MWS患者においては、LPSで刺激していない場合にも、PBMCから自発的なTNF-αの分泌が観察された。一方、健常者においては、LPSで刺激しない場合には、このような自発的なTNF-α分泌は観察されなかった。この自発的なTNF-α分泌は、0.1μg/mL及び10μg/mLの化合物1によりほぼ完全に阻害された(図5c)。
また、図5dに示されるように、MWS患者及び健常者由来のPBMCを0.1ng/mLのLPSと共にインキュベートすると、TNF-α分泌は、両者のいずれにおいても増加した。加えて、従来の化合物であるMCC950は、MWS患者においてTNF-αの分泌をさらに顕著に増加させた(図5d)。
これに対し、化合物1は、MWS患者においてはTNF-αの分泌を有意に抑制する一方、健常者においてはTNF-α分泌に影響を与えなかった(同)。従来の化合物であるMCC950が、MWS患者においてTNF-αの分泌をさらに顕著に増加させたのに対し、本発明の化合物は同患者においてTNF-αの分泌を有意に抑制したことから、上記結果は従来の化合物の作用からは予測できない驚くべきものであった。
以上の結果から、本発明の化合物が、MWS患者において、自発的な又はLPS刺激によるNF-κB誘導性サイトカインの分泌を有意に抑制し、かつ安全性の高い化合物であることが示された。このような化合物を含む医薬組成物は、マックル・ウェルズ症候群の治療及び/又は予防に極めて有用である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、マックル・ウェルズ症候群の治療又は予防のための医薬組成物として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6