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特許7072267二酸化塩素ガスの発生放出方法、二酸化塩素ガス発生放出用キット、およびゲル状組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】二酸化塩素ガスの発生放出方法、二酸化塩素ガス発生放出用キット、およびゲル状組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/02 20060101AFI20220513BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20220513BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C01B11/02 F
A61L9/12
A61L9/01 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020015250
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021123505
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-03-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503214656
【氏名又は名称】株式会社アマテラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博正
(72)【発明者】
【氏名】藤田 哲悠
(72)【発明者】
【氏名】田口 幸祈
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 翔太朗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼富 廣志
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046375(JP,A)
【文献】特開2019-064849(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1470301(CN,A)
【文献】特開2014-024733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 11/02
A61L 9/12
A61L 9/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩酸塩水性液に、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を添加して得られるゲル状組成物から、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、前記二酸化塩素ガスとともに前記ガス共存剤を含む水分を放出させる二酸化塩素ガスの発生放出方法であって、
前記ガス共存剤は、ポリビニルピロリドンおよびデンプンの少なくともいずれかを含む二酸化塩素ガスの発生放出方法
【請求項2】
亜塩酸塩水性液を含むA剤と、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を含むB剤と、で構成され、前記A剤に前記B剤を添加することにより、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、前記二酸化塩素ガスとともに前記ガス共存剤を含む水分を放出させる二酸化塩素ガス発生放出用キットであって、
前記ガス共存剤は、ポリビニルピロリドンおよびデンプンの少なくともいずれかを含む二酸化塩素ガス発生放出用キット。
【請求項3】
亜塩酸塩水性液と、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤と、を含み、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、前記二酸化塩素ガスとともに前記ガス共存剤を含む水分を放出させるためのゲル状組成物であって、
前記ガス共存剤は、ポリビニルピロリドンおよびデンプンの少なくともいずれかを含むゲル状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化塩素ガスの発生放出方法、二酸化塩素ガス発生放出用キット、およびゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素(ClO2)は、強い酸化力を有し、環境浄化、室内の消臭および殺菌などに好適に用いられる。これらの用途に向けて、二酸化塩素を持続的に発生させる方法が提案されている。
【0003】
たとえば、特開平11-278808号公報(特許文献1)は、溶存二酸化塩素ガス、亜塩素酸塩およびpH調整剤を構成成分に有する純粋二酸化塩素液剤、純粋二酸化塩素液剤および高吸水性樹脂を含有するゲル状組成物、純粋二酸化塩素液剤および泡剤を含有する発泡性組成物、ならびに純粋二酸化塩素液剤、ゲル状組成物および発泡性組成物を入れるための容器を提案する。
【0004】
また、特開2005-29430号公報(特許文献2)は、亜塩素酸塩水溶液に、有機酸または無機酸と、ガス発生調節剤と、吸水性樹脂とを添加し、ゲル化させて得られるゲル状組成物から二酸化塩素ガスを持続的に発生させることを特徴とする二酸化塩素ガスの発生方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-278808号公報
【文献】特開2005-29430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、上記の特許文献1および2においては、放出させた二酸化塩素ガスは、環境浄化に関して、消臭、殺菌および漂白などの用途に適用されることが報告されているが、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の活性を抑制することについては、十分な検討がされていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決し、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の処理に好適に用いられる二酸化塩素ガスの発生放出方法、二酸化塩素ガス発生放出用キット、およびゲル状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、亜塩酸塩水性液に、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を添加して得られるゲル状組成物から、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、二酸化塩素ガスとともにガス共存剤を含む水分を放出させる二酸化塩素ガスの発生放出方法である。
【0009】
本発明の別の態様は、亜塩酸塩水性液を含むA剤と、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を含むB剤と、で構成され、A剤にB剤を添加することにより、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、二酸化塩素ガスとともにガス共存剤を含む水分を放出させる二酸化塩素ガス発生放出用キットである。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、亜塩酸塩水性液と、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤と、を含み、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、二酸化塩素ガスとともにガス共存剤を含む水分を放出させるためのゲル状組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記の問題点を解決し、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の処理に好適に用いられる二酸化塩素ガスの発生放出方法、二酸化塩素ガス発生放出用キット、およびゲル状組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明のある態様の二酸化塩素ガスの発生放出方法によるスギ花粉の処理方法のある例を示す概略図である。
図2図2は、無処理のスギ花粉のある例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、図2の一部のスギ花粉を示すより高倍率の走査型電子顕微鏡写真である。
図4図4は、典型的な二酸化塩素ガスの発生放出方法により処理されたスギ花粉のある例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図5図5は、図4の一部のスギ花粉を示すより高倍率の走査型電子顕微鏡写真である。
図6図6は、本発明のある態様の二酸化塩素ガスの発生放出方法により処理されたスギ花粉のある例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図7図7は、図6の一部のスギ花粉を示すより高倍率の走査型電子顕微鏡写真である。
図8図8は、本発明のある態様の二酸化塩素ガスの発生放出方法により処理されたスギ花粉の別の例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図9図9は、図8の一部のスギ花粉を示すより高倍率の走査型電子顕微鏡写真である。
図10図10は、本発明のある態様の二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生放出される二酸化塩素ガスの濃度の測定方法を示す概略図である。
図11図11は、本発明のある態様の二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生放出される二酸化塩素ガスの濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態1:二酸化塩素ガスの発生放出方法]
本発明のある実施形態である二酸化塩素ガスの発生放出方法は、亜塩酸塩水性液に、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を添加して得られるゲル状組成物から、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、二酸化塩素ガスとともにガス共存剤を含む水分を放出させる方法である。本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法は、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の処理に好適に用いられる。
【0014】
本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法において、「亜塩素酸塩水性液に、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を添加」と規定しているが、「ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤に、亜塩素酸塩水性液を添加」しても本質的に同様の作用効果が得られる。すなわち、上記ゲル化活性剤に亜塩素酸塩水性液を添加する場合は、亜塩素酸塩水性液に上記ゲル化活性剤を添加する場合と均等である。
【0015】
(亜塩素酸塩水性液)
本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法において用いられる亜塩素酸塩水性液は、亜塩素酸塩を含む、水を主成分(亜塩素酸塩などの溶質および/または分散質を除いた溶媒および/または分散媒中の水の含有量が50質量%以上であることをいう。以下同じ。)とする液体であって、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を溶解および/または分散させることができる液体であって、ゲル化活性剤が添加されることにより、ゲル状組成物を形成し、形成されたゲル状組成物からその表面を経由して二酸化塩素ガスを持続的に発生させる液体である。亜塩素酸塩水性液は、ゲル化活性剤が添加されてゲル化して得られるゲル状組成物から二酸化塩素ガスを安全にかつ長時間安定して持続的に発生放出させる観点から、水溶液または水分散液であることが好ましい。
【0016】
亜塩素酸塩水性液に含まれる亜塩素酸塩は、後述するガス発生剤の存在により、二酸化塩素ガスを発生させる亜塩素酸塩であれば特に制限はなく、たとえば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)、亜塩素酸カリウム(KClO2)、亜塩素酸リチウム(LiClO2)などの水素を除く第1族元素(アルカリ金属元素)の亜塩素酸塩、亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO22)、亜塩素酸ストロンチウム(Sr(ClO22)、亜塩素酸バリウム(Ba(ClO22)、亜塩素酸マグネシウム(Mg(ClO22)などの第2族元素の亜塩素酸塩などが挙げられる。これらの中で、市販されている亜塩素酸ナトリウムが入手しやすく使用上も問題がない。
【0017】
亜塩素酸塩水性液は、上記の亜塩素酸塩を水性液に所定濃度を溶解させることにより得られる。亜塩素酸ナトリウムを水性液に溶解させる場合は、液体では漂白剤として使用される市販の25質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液や、固体では市販の86質量%品、80質量%品、79質量%品または76質量%品が好適に用いられる。また、亜塩素酸塩水性液の濃度は、劇毒物および危険物に該当せず取り扱いが容易な観点から25質量%未満であることが好ましく、15質量%未満がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
亜塩素酸塩水性液は、アルカリ性であることが好ましく、そのpHは9以上13以下がより好ましく、10以上12.5以下がさらに好ましい。ゲル化活性剤の添加前の亜塩素酸塩水性液中の亜塩素酸塩の分解による二酸化塩素ガスの生成および発生を抑制して長期間安定に保存できるとともにゲル化活性剤の添加により二酸化塩素ガスを安定して長時間持続的に発生させることができる。
【0019】
亜塩素塩水溶液は、アルカリ性とするために、アリカリ剤をさらに含むことが好ましい。アルカリ剤は、それが亜塩素酸塩水溶液中に溶解および/または分散することにより、亜塩素酸塩水溶液がアルカリ性を呈するものであれば特に制限はないが、ゲル化活性剤が添加されることにより酸性雰囲気下になっても、二酸化塩素ガスの発生を妨げない観点から、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)などが好ましい。水酸化カリウムは、水酸化ナトリウムのように大気中の二酸化炭素と反応して重炭酸ナトリウムなどの塩を形成しない点、水酸化ナトリウムよりも、水和において濡れやすく浸透しやすく、ゲル化活性剤と混ざり合いやすく、ゲル状組成物の形成がより促進される点から、特に好ましい。
【0020】
亜塩素酸塩水性液は、ゲル化活性剤が添加される前には、気密性容器に封入されていることが好ましい。亜塩素酸塩水性液を気密性容器に封入することで、ゲル化活性剤の添加前の亜塩素酸塩水性液中の亜塩素酸塩の分解による二酸化塩素ガスの発生を抑制して亜塩素酸塩水性液を長期間安定に保存できるとともに、ゲル化活性剤の添加により二酸化塩素ガスを安定して長時間持続的に発生させることができる。ここで、気密性容器とは、水蒸気などの気体、水分などの液体、および固体も透過しない容器をいい、具体的には、8.7質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液85gを封入して50℃の恒温槽内に2ヵ月(60日)間静置した前後の質量変化が0.7g以下の容器をいう。亜塩素酸塩水性液との反応性が低く、亜塩素酸塩水性液を長期間安定に保存する観点から、各種プラスチック製容器が好ましい。
【0021】
(ガス発生剤)
本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法において用いられるガス発生剤は、ゲル状組成物内のpH雰囲気を亜塩素酸塩から二酸化塩素ガスの発生に必要な弱アルカリから酸性に安定に保つことにより二酸化塩素ガスを発生させるものである。ガス発生剤はゲル化活性剤の構成要素であり、固形である。固形とは、固体であって一定の形状になっているものをいう。ガス発生剤は、二酸化塩素ガスを効率的に発生させる観点から、水溶性であることが好ましく、粒状または粉状であることが好ましい。水溶性とは水に溶解する性質をいう。ここで、ゲル状組成物内のpH雰囲気は、特に制限はないが、二酸化塩素ガスを安定に長時間持続的に生成させる観点から、2以上9以下が好ましく、3以上7以下がより好ましい。
【0022】
ガス発生剤は、特に制限はないが、ゲル状組成物内のpH雰囲気を好ましくは2以上9以下に保ち二酸化塩素ガスを安定に長時間持続的に生成させる観点から、酸解離定数pKaが2.5以上の弱酸の塩、酸解離定数pKaが3.8以上の弱酸、酸性およびアルカリ性の両方の官能基を有する両性化合物、ならびにピリミジン構造を有する複素環式化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質を含むことが好ましい。
【0023】
酸解離定数pKaが2.5以上の弱酸の塩としては、クエン酸(pKa1が2.90、pKa2が4.35、pKa3が5.69)の塩であるクエン酸ナトリウム、リンゴ酸(pKa1が3.23、pKa2が4.77)の塩であるリンゴ酸ナトリウムなどが挙げられる。ここで、クエン酸ナトリウムには、クエン酸一ナトリウム(クエン酸モノナトリウム)、クエン酸二ナトリウム(クエン酸ジナトリウム))およびクエン酸三ナトリウム(クエン酸トリナトリウム))の3種類があり、これらの中でクエン酸二ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムがより好ましい。また、リンゴ酸ナトリウムには、リンゴ酸一ナトリウム(リンゴ酸モノナトリウム)およびリンゴ酸二ナトリウム(リンゴ酸ジナトリウム)の2種類があり、これらの中でリンゴ酸二ナトリウムがより好ましい。ここで、多塩基酸の場合において、pKaが2.5以上とは、各段階におけるpKak(kは1以上の整数)の全てが2.5以上であること、すなわち最小のpKakが2.5以上であることをいう。また、弱酸の塩とは、無水塩であっても、有水塩であってもよい。
【0024】
酸解離定数pKaが3.8以上の弱酸としては、コハク酸(pKa1が3.99、pKa2が5.20)、ホウ酸(pKa1が9.23、pKa2が12.74、pKa3が13.52)などが挙げられる。ここで、多塩基酸の場合において、pKaが3.8以上とは、各段階におけるpKak(kは1以上の整数)の全てが3.8以上であること、すなわち最小のpKakが3.8以上であることをいう。
【0025】
両性化合物としては、酸性の官能基であるカルボキシル基(COOH基)とアルカリ性の官能基であるアミノ基(NH2基)とを有するアミノ酸などが挙げられる。アミノ酸としては、アルキル鎖を有するグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン、水酸基(OH基)を有するセリンおよびトリオニン、アミド基(RCONH基)を有するアスパラギンおよびグルタミン、イミノ基(C=NH基またはCNHC基)を有するプロリン、フェニル基(C65基)を有するフェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン、2以上のカルボキシル基(COOH基)を有するアスパラギン酸およびグルタミン酸、2以上のアミノ基(NH2基)を有するリシンおよびアルギニンなどが挙げられる。
【0026】
ピリミジン構造を有する複素環式化合物としては、バルビツール酸、オロト酸などが挙げられる。
【0027】
ガス発生剤は、ゲル状組成物内のpH雰囲気を好ましくは2以上9以下に保ちながら二酸化塩素ガスの安定な長時間持続的な生成を促進させる観点から、酸解離定数pKaが2.5以上で第1酸解離定数pKa1が3.8未満の弱酸をさらに含むことが好ましい。かかる弱酸は、安全性が高い観点から、食品添加物として使用される有機酸が好ましい。酸解離定数pKaが2.5以上で第1酸解離定数pKa1が3.8未満の有機酸としては、クエン酸(pKa1が2.90、pKa2が4.35、pKa3が5.69)、リンゴ酸(pKa1が3.23、pKa2が4.77)、ギ酸(pKa1が3.54)、乳酸(pKa1が3.64)、酒石酸((+)体でpKa1が2.87、pKa2が3.97:メソ体でpKa1が2.95、pKa2が4.46)などのカルボン酸類などが挙げられる。
【0028】
ここで、酸解離定数pKaが2.5以上の弱酸の塩と酸解離定数pKaが2.5以上で第1酸解離定数pKa1が3.8未満の弱酸と、を用いる場合は、上記弱酸の塩と弱酸とは、ゲル状組成物内のpH雰囲気をより安定に保持する観点から、共役な塩および酸であることが好ましい。たとえば、上記弱酸の塩としてクエン酸塩を用いた場合は上記弱酸としてクエン酸を用いることが好ましく、上記弱酸の塩としてリンゴ酸塩を用いた場合は上記弱酸としてリンゴ酸を用いることが好ましい。
【0029】
(ガス発生調節剤)
本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法において用いられるガス発生調節剤は、上記ガス発生剤による亜塩素酸塩からの二酸化塩素ガスの発生を化学的作用または物理的作用によりに調節するものである。ガス発生調節剤は、ゲル化活性剤の構成要素であり、固形である。固形とは、固体であって一定の形状になっているものをいう。ガス発生調節剤は、二酸化塩素ガスの発生を効率的に調節する観点から、粒状または粉状であることが好ましい。ガス発生調節剤のうち、化学的作用により二酸化塩素ガスの発生を調節するものをガス発生化学的調節剤とよび、物理的作用により二酸化塩素ガスの発生を調節するものをガス発生物理的調節剤とよぶ。ガス発生調節剤は、二酸化塩素ガスの発生を長期に亘って安定に調節する観点から、ガス発生化学的調節剤およびガス発生物理的調節剤の少なくともいずれかを含むことが好ましく、少なくともガス発生物理的調節剤を含むことがより好ましく、ガス発生化学的調節剤およびガス発生物理的調節剤の両方を含むことがさらに好ましい。
【0030】
ガス発生化学的調節剤は、二酸化塩素ガスの発生を化学的に調節するものであれば特に制限はないが、二酸化塩素ガスの急激な発生を抑制する観点から、炭酸塩および過酸化水素の少なくともいずれかを含むことが好ましく、炭酸塩および過酸化水素の両方を含むことがより好ましい。ガス発生化学的調節剤に含まれる炭酸塩は、亜塩素酸塩水性液中の亜塩素酸塩と反応して二酸化塩素ガスを発生させるガス発生剤と反応して炭酸ガスを発生する。このため、亜塩素酸塩水性液にゲル化活性剤を添加した初期のゲル状組成物形成における二酸化塩素ガスの急激な発生が抑制される。また、発生した炭酸ガスは、ゲル状組成物の表面から放出されるため、ゲル状組成物の表面は一定の平坦な面となる。このため、二酸化塩素ガスは、ゲル状組成物から表面を経由して安定に長時間持続して発生する。また、ガス発生化学的調節剤に含まれる過酸化水素は、発生した二酸化塩素ガスを還元することにより低減させる。このため、亜塩素酸塩水性液にゲル化活性剤を添加した初期のゲル状組成物形成における二酸化塩素ガスの急激な発生が抑制される。なお、ガス発生化学的調節剤は、二酸化塩素ガスの発生を化学的に効率よく調節する観点から、粒状または粉状であることに加えて、水溶性であることが好ましい。水溶性とは水に溶解する性質をいう。
【0031】
炭酸塩および過酸化水素の両方を含むガス発生化学的調節剤は、特に制限はないが、亜塩素酸塩からの二酸化塩素の急激な発生を抑制することにより二酸化塩素の発生を安定して長時間持続させる観点から、炭酸ナトリウム過酸化水素化物(Na2CO3・1.5H22または2Na2CO3・3H22と表記される)、炭酸カリウム過酸化水素化物(K2CO3・1.5H22または2K2CO3・3H22と表記される)などが好ましく、さらに入手が容易な観点から、炭酸ナトリウム過酸化水素化物がより好ましい。ここで、炭酸ナトリウム過酸化水素化物は、炭酸ナトリウムと過酸化水素とが2:3のモル比で混合された付加化合物をいい、日本の法令上は炭酸ナトリウム過酸化水素付加物と呼ばれる。
【0032】
ガス発生物理的調節剤は、二酸化塩素ガスの発生を物理的に調節するものであれば特に制限はない。ここで、二酸化塩素ガスの発生を物理的に調節するとは、亜塩素酸塩からの二酸化塩素ガスの発生量が多量のときはその二酸化塩素ガスの少なくとも一部を表面および/または内部に保持し、亜塩素酸塩からの二酸化塩素ガスの発生量が少量または無いときは保持していた二酸化塩素ガスを放出することにより、二酸化塩素ガスをゲル状組成物から持続的に発生させることをいう。
【0033】
ガス発生物理的調節剤は、二酸化塩素ガスの発生を長期に亘って安定に調節する観点から、二酸化塩素ガスの発生を効率よく分散できるものであれば材質および形状に特に制限はないが、二酸化塩素ガスを多く保持できる観点から、表面積が大きい多孔質のものが好ましく、セピオライト、モンモリロナイト、ケイソウ土、タルクおよびゼオライトからなる群から選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。また、表面積を大きくする観点から、粉状、粒状および/または多孔質であることが好ましい。
【0034】
上記のガス発生調節剤のうちで、二酸化塩素ガスの保持および放出に優れている観点から、セピオライトが好ましい。ここで、セピオライトは、ケイ酸マグネシウム塩の天然鉱物であって化学組成式はMg8Si1230(OH)4(OH24・8H2Oで表され、その結晶構造は繊維状で表面に多数の溝を有すると共に、内部に筒型トンネル構造のクリアランスを多数有し、非常に表面積の大きい物質である。市販品としては商品名ミラクレー(近江鉱業社製)などが挙げられる。また粉状のケイソウ土としては商品名セライト(昭和ケミカル社製)などが挙げられる。
【0035】
(ガス共存剤)
本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法において用いられるガス共存剤は、亜塩素酸塩水性液の亜塩素酸塩と、ゲル化活性化剤のガス発生剤との反応により発生した二酸化塩素ガスとともに水分に含まれた状態でゲル組成物から放出される、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む化学物質である。ガス共存剤は、ゲル化活性剤の構成要素であり、固形である。固形とは、固体であって一定の形状になっているものをいう。ガス共存剤が水分に含まれた状態とは、ガス共存剤が水分に溶解された状態であっても、ガス共存剤が水分に懸濁された状態であってもよい。ガス共存剤は、二酸化塩素ガスとともに水分に含まれて放出しやすくする観点から、粒状または粉状であることに加えて水溶性であることが好ましい。ここで、水溶性とは水に溶解する性質をいう。二酸化塩素ガスとともに水分に含まれて放出されたガス共存剤は、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質に二酸化塩素ガスが接触する際に、そのアレルギー誘発物質または有害物質への二酸化塩素ガスの付着性および浸透性を高めて、そのアレルギー誘発物質または有害物質の活性を抑制することができる。これにより、上記のアレルギー誘発物質または有害物質の処理ができる。
【0036】
ガス共存剤によるアレルギー誘発物質または有害物質の活性抑制およびそれによる処理のメカニズムは、必ずしも明確ではないが、後述のように、ゲル状組成物から放出される二酸化塩素ガスはその表面の少なくとも一部がガス共存剤を含む水分により被覆(より好ましくは、二酸化塩素ガスはその表面全体がガス共存剤を含む水分により包接)されている。このため、かかるガス共存剤を含む水分がさらに花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の少なくとも一部に付着する(より好ましくは、ガス共存剤を含む水分がその有害物質を包接する)ことにより、二酸化塩素ガスの酸化力がそのアレルギー誘発物質または有害物質に作用するものと考えられる。
【0037】
また、ガス共存剤を含む水分は、二酸化塩素ガスと共存することにより、二酸化塩素ガスの刺激臭を低減することができると期待される。ガス共存剤による二酸化塩素ガスの刺激臭抑制のメカニズムは、必ずしも明確でないが、以下のように考えられる。たとえば、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含み、水溶性のガス共存剤は、亜塩素酸塩水性液に溶解する。このため、亜塩素酸塩水性液に含まれる亜塩素酸塩とゲル活性化剤に含まれるガス発生剤との反応により水分を含んだ二酸化塩素ガスが発生するとき、ガス共存剤を含む水分は、二酸化塩素ガスの表面の少なくとも一部に付着した状態で、二酸化塩素ガスとともにゲル状組成物から放出される。すなわち、ゲル状組成物から放出される二酸化塩素ガスはその表面の少なくとも一部がガス共存剤を含む水分により被覆(より好ましくは、二酸化塩素ガスはその表面全体がガス共存剤を含む水分により包接)されているため、二酸化塩素ガスの刺激臭が抑制されるものと考えられる。
【0038】
また、ガス共存剤を含む水分は、二酸化塩素ガスの発生を促進することができると期待される。ガス共存剤による二酸化塩素ガスの発生促進のメカニズムは、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。たとえば、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含むガス共存剤は、発生した二酸化塩素ガスにより、そのカルボニル基および/または水酸基の少なくとも一部が酸化されて、有機酸が形成される。こうして形成された有機酸が、亜塩素酸塩水性液に含まれる亜塩素酸塩とさらに反応して二酸化塩素ガスをさらに発生させるものと考えられる。
【0039】
なお、上記の考察に関して、ガス共存剤を含む水分が二酸化塩素ガスの表面の少なくとも一部に付着しているのか、ガス共存剤を含む水分が二酸化塩素ガスの表面全体を包接しているのかは、不明であるが、ゲル状組成物から放出される二酸化塩素ガスをろ紙に接触させたところ、ろ紙に付着した物質にガス共存剤が検出されたことから、ガス共存剤を含む水分はゲル状組成物から放出される二酸化塩素ガスに付着して共存していることが確認されている。
【0040】
ガス共存剤は、二酸化塩素ガスとともに放出されるカルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形の化学物質であれば特に制限はないが、二酸化塩素ガスとともに放出されやすく、また、ゲル化活性剤の他の構成要素であるガス発生剤、ガス発生調節剤、およびゲル化剤と均一に混合しやすい観点から、固形で粒径の小さい固体(粒状物または粉状物)が好ましく、たとえば、粒状または粉状のポリビニルピロリドンおよびデンプンの少なくともいずれかを含むことが好ましい。たとえば、グルセリンなどは、流動性のある固体であり、変形し易いため、ゲル化活性剤の他の構成要素と均一に混合することが難しく、ゲル化剤活性剤の構成要素とするのには不利である。
【0041】
ポリビニルピロリドンは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した高分子であり、化学式は(C69NO)nであり、以下の化学構造を有する。すなわち、ポリビニルピロリドンは、複数のカルボニルを有する。
【0042】
【化1】
【0043】
デンプンは、α-グルコースがグリコシド結合により重合した高分子であり、化学式は(C6195nであり、以下の化学構造を有する。すなわち、デンプンは、複数の水酸基を有する。また、デンプンには、直線状の分子で分子量が比較的小さいアミロースと、枝分かれの多い分子で分子量が比較的大きいアミロペクチンとに分類される。デンプンの具体例としては、片栗粉、米粉、小麦粉、豆粉、ジャガイモ粉、サイツマイモ粉、タピオカ粉、ワラビ粉、葛粉などが挙げられる。
【0044】
【化2】
【0045】
(ゲル化剤)
本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法において用いられるゲル化剤は、水分を吸収してゲル状組成物を形成する化学物質である。ゲル化剤には、吸水性有機物および吸水性無機物が含まれる。ゲル化剤としては、吸水性有機物および吸水性無機物の少なくともいずれかを用いることができるが、ゲル化が容易な観点から、吸水性有機物が好適に用いられる。吸水性有機物としては、合成高分子であるアクリル酸系吸水性高分子など、天然高分子であるアルギン酸系吸水性高分子などが挙げられる。
【0046】
(ゲル化活性剤)
本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法において用いられるゲル化活性剤は、亜塩素酸塩水性液に添加することにより、ゲル状組成物を形成し、形成されたゲル状組成物から二酸化塩素ガスを安定して持続的に発生させ、二酸化塩素ガスとともにガス共存剤を含む水分を放出させるものであり、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含む。ここで、均質なゲル状組成物を形成させる観点から、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤が均一に混合されたものを含むことが好ましい。
【0047】
ゲル化活性剤は、亜塩素酸塩水性液に添加する前には、気密性容器内に封入されていることが好ましい。亜塩素酸塩水性液への添加前においては、ゲル化活性剤は、気密性容器内に封入されていることにより、大気中からの水分の混入が防止されることから、劣化が防止されるため、長期間安定して保存することができる。ここで、気密性容器とは、水蒸気などの気体、水分などの液体、および固体も透過しない容器をいい、具体的には8.7質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液85gを封入して50℃の恒温槽内に2ヵ月(60日)間静置した前後の質量変化が0.7g以下の容器をいう。たとえば、各種プラスチック製容器などが挙げられる。
【0048】
[実施形態2:二酸化塩素ガス発生放出用キット]
本発明の別の実施形態である二酸化塩素ガス発生放出用キットは、亜塩酸塩水性液を含むA剤と、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤を含むB剤と、で構成され、A剤にB剤を添加することにより、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、二酸化塩素ガスとともにガス共存剤を含む水分を放出させるキットである。本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットは、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の処理に好適に用いられる二酸化塩素ガスを継続的に発生放出できる。
【0049】
本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットにおいて、「A剤にB剤を添加」と規定しているが、「B剤にA剤を添加」しても本質的に同様の作用効果が得られる。すなわち、「B剤にA剤を添加」する場合は、「A剤にB剤を添加」する場合と均等である。
【0050】
本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットにおいて、B剤の添加前のA剤中の亜塩素酸塩水性液中の亜塩素酸塩の分解による二酸化塩素ガスの発生を抑制して長期間安定に保存できるとともに、B剤の添加により初期の二酸化塩素ガスの急激な発生を抑制しかつ二酸化塩素ガスを安定して長時間持続的に発生させる観点から、A剤に含まれる亜塩素酸塩水性液は、アルカリ性であることが好ましく、そのpHが9以上13以下がより好ましく、10以上12.5以下がさらに好ましい。
【0051】
本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットを構成する一要素であるA剤は、B剤の添加前には、気密性容器に封入されていることが好ましい。B剤の添加前のA剤中の亜塩素酸塩水性液中の亜塩素酸塩の分解による二酸化塩素ガスの生成および発生を抑制して亜塩素酸塩水性液を含むA剤を長期間安定に保存できるとともにB剤の添加により二酸化塩素ガスを安定して長時間持続的に発生させることができる。ここで、気密性容器とは、水蒸気などの気体、水分などの液体、および固体も透過しない容器をいい、亜塩素酸塩水性液との反応性が低く、亜塩素酸塩水性液を長期間安定に保存する観点から、各種プラスチック製容器が好ましい。
【0052】
本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットを構成する別の要素であるB剤は、A剤に添加する前には、気密性容器内に封入されていることが好ましい。B剤中のゲル化活性剤は、気密性容器内に封入されていることにより、大気中からの水分の混入が防止されることから、劣化が防止されるため、ゲル化活性剤を含むB剤を長期間安定して保存することができる。ここで、気密性容器とは、水蒸気などの気体、水分などの液体、および固体も透過しない容器をいい、たとえば、各種プラスチック製容器などが挙げられる。
【0053】
また、B剤は、均質なゲル状組成物を形成させて、二酸化塩素ガスを極めて長い時間に亘って持続的に発生させる観点から、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤が十分に混合されたゲル化活性剤を含むことが好ましい。
【0054】
なお、本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットにおけるガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ゲル化剤、ならびにゲル化活性剤は、実施形態1の二酸化塩素ガスの発生方法におけるガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ゲル化剤、ならびにゲル化活性剤とそれぞれ同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0055】
本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットは、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の処理に好適に用いられる二酸化塩素ガスを、初期の急激な発生を抑制するとともに安定して極めて長時間持続させる観点から、キット全体に対して、A剤は60質量%~90質量%およびB剤は10質量%~40質量%が好ましい。また、A剤の全体に対して、亜塩素酸水性液中の亜塩素酸塩成分は純分換算で2質量%~20質量%および亜塩素酸塩水性液中の水性液成分は80質量%~98質量%が好ましい。また、B剤の全体に対して、ゲル活性剤中のガス発生剤は10質量%~60質量%、ゲル活性剤中のガス発生調節剤は5質量%~72.5質量%(このうち、ガス発生物理的調節剤を5質量%~72.5質量%とするのがより好ましく、ガス発生化学的調節剤を0.1質量%~15質量%かつガス発生物理的調節剤を4.9質量%~57.5質量%とするのがさらに好ましい)、ゲル化活性剤中のガス共存剤は2.5質量%~15質量%、およびゲル活性剤中のゲル化剤は15質量%~82.5質量%であることが好ましい。
【0056】
本実施形態の二酸化塩素ガス発生放出用キットの具体的な形態は、特に制限はなく、A剤(たとえば亜塩素酸塩水溶液)を封入した気密性容器と、B剤(たとえば、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤)を封入した気密性容器とが一緒に梱包された形態、あるいは、A剤(たとえば亜塩素酸塩水溶液)を封入した容器を梱包したものと、B剤(たとえば、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤)を封入した容器を梱包したものとが組み合わされた形態、などが挙げられる。
【0057】
[実施形態3:ゲル状組成物]
本発明のさらに別の実施形態であるゲル状組成物は、亜塩酸塩水性液と、ガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤を含むゲル化活性剤と、を含み、二酸化塩素ガスを持続的に発生させ、二酸化塩素ガスとともにガス共存剤を含む水分を放出させるためのゲル状の組成物である。本実施形態のゲル状組成物は、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の処理に好適に用いられる二酸化塩素ガスを継続的に発生放出できる。
【0058】
本実施形態のゲル状組成物において、二酸化塩素ガスが発生する表面の表面積を一定に維持することにより、二酸化塩素ガスの発生を安定して極めて長時間持続させる観点から、ゲル状組成物の二酸化塩素ガスが発生する表面は平坦であることが好ましい。ここで、ゲル状組成物の二酸化塩素ガスが発生する表面が平坦とは、亜塩素酸塩水性液へのゲル化活性剤の添加による表面の局所的な盛り上がりがなく、目視上平坦であることを意味する。さらに、二酸化塩素ガスが発生する表面の表面積を一定に維持することにより、二酸化塩素ガスの発生を安定して極めて長時間持続させる観点から、ゲル状組成物の二酸化塩素ガスが発生する表面は平坦であるとともに割れが発生しないことがより好ましい。
【0059】
なお、本実施形態のゲル状組成物におけるガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ゲル化剤、ならびにゲル化活性剤は、実施形態1の二酸化塩素ガスの発生放出方法におけるガス発生剤、ガス発生調節剤、カルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを1以上含む固形のガス共存剤、ならびにゲル化剤と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0060】
本実施形態のゲル状組成物は、花粉、室内塵、皮屑、真菌などのアレルギー誘発物質、ウイルス、病原菌などの有害物質の処理に好適に用いられる二酸化塩素ガスを、初期の急激な発生を抑制するとともに安定して極めて長時間持続させる観点から、亜塩素酸塩水性液中の亜塩素酸塩成分が純分換算で2.5質量%~10質量%、亜塩素酸塩水性液中の水性液成分が50質量%~92.25質量%、ガス発生剤が2質量%~15質量%、ガス発生調節剤が1.5質量%~18質量%(このうち、ガス発生物理的調節剤を1.5質量%~18質量%とするのがより好ましく、ガス発生化学的調節剤を0.03質量%~3質量%かつガス発生物理的調節剤を1.5質量%~15質量%とするのがさらに好ましい)、ガス共存剤が0.25質量%~7.5質量%、およびゲル化剤が2.5質量%~20質量%であることが好ましい。
【実施例
【0061】
(亜塩酸塩水性液の調製)
亜塩素酸塩水性液として、25質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液(ダイソー社製25%亜塩素酸ナトリウム水溶液)を純水で希釈することにより、8.7質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0062】
(ゲル化活性剤の調製)
比較例用ゲル化活性剤として、ガス発生剤としてのクエン酸三ナトリウム・二水和物3192gおよび無水クエン酸1596gと、ガス発生調節剤のうちガス発生化学的調節剤としての炭酸ナトリウム過酸化水素化物126gおよびガス発生物理的調節剤としてのセピオライト粉末(近江工業社製ミラクレーP-150D)1680gと、ゲル化剤としてのポリアクリル酸系吸水性高分子(三洋化成社製サンフレッシュST-500D)4326gと、を均一に混合した混合粉末を調製した。また、上記比較例用ゲル化活性剤にさらにガス共存剤としてのポリビニルピロリドン(以下、PVPともいう)を加えた実施例用ゲル化活性剤(以下、実施例用PVP含有ゲル化活性剤ともいう)として、比較例用ゲル活性化剤33.095g(すなわち、クエン酸三ナトリウム・二水和物9.672g、無水クエン酸4.84g、炭酸ナトリウム過酸化水素化物0.382g、セピオライト粉末5.091g、ポリアクリル酸系吸水性高分子13.11g、以下同じ。)と、PVP2gと、を均一に混合した混合粉末を調製した。また、上記比較例用ゲル化活性剤33.095gにさらにガス共存剤としてのデンプン(片栗粉)を加えた実施例用ゲル化活性剤(以下、実施例用デンプン含有ゲル化活性剤ともいう)として、比較例用ゲル活性化剤13.11gと、デンプン3gと、を均一に混合した混合粉末を調製した。
【0063】
[試験I]
試験Iとして、本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生させた二酸化塩素ガスにより処理したスギ花粉(実施例I-1および実施例I-2)、対比のための未処理のスギ花粉(比較例I-1)およびガス共存剤を含まない二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生させた二酸化塩素ガスにより処理したスギ花粉(比較例I-2)を、それぞれ走査型電子顕微鏡(以下SEMという、SEMは島津製作所製SS-550)を用いて観察した。
【0064】
(比較例I-1)
SEMを用いて未処理のスギ花粉を観察した。未処理のスギ花粉のSEM写真を図2および3に示した。未処理のスギ花粉は、図2に示すように凝集しており、図3に示すように各スギ花粉の表面は凹凸が大きく互いに絡み合っていることが分かった。
【0065】
(比較例I-2)
図1を参照して、温度20℃および湿度(相対湿度をいう、以下同じ)50%の恒温室内で、大きさ0.425cm2の開口部1wを有する容量200ml(胴部内径6cm、首部内径3.7cm、直胴部高さ6.4cm、肩部高さ11mm、および直首部高さ15mmの略円筒形)のプラスチック製の二酸化塩素ガス発生放出用容器1に、上記の亜塩酸塩水性液(8.7質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液)122gを入れ、次いで、上記の比較例用ゲル化活性剤33.095g(すなわち、クエン酸三ナトリウム・二水和物9.672g、無水クエン酸4.84g、炭酸ナトリウム過酸化水素化物0.382g、セピオライト粉末5.091g、ポリアクリル酸系吸水性高分子13.11g、以下同じ。)を添加した。かかる添加からゲル状組成物が形成されるまでのゲル化時間は4分であった。次に、二酸化塩素ガス発生放出用容器1を、容量1000mlのビーカ2内に配置し、ビーカ2の開口部を、スギ花粉を含むスギの実10をビーカ内部側に固定したプラスチック製フィルム3で覆って、ビーカ2を静置した。このようにして、亜塩素酸塩水性液中の亜塩素酸塩とゲル化活性剤中のガス発生剤との反応により発生した二酸化塩素ガスによりスギ花粉を2.5時間処理した。SEM(島津製作所製SS-550)を用いて処理後のスギ花粉を観察した。ガス共存剤を用いない典型的な二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生させた二酸化塩素ガスにより処理したスギ花粉のSEM写真を図4および5に示した。ガス共存剤を含まない二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉は、図4に示すように凝集しており、図5に示すように各スギ花粉の表面は凹凸が大きく互いに絡み合っていることが分かった。
【0066】
(実施例I-1)
上記の比較例用ゲル化活性剤33.095gに替えて、上記の実施例用PVP含有ゲル化活性剤35.095g(すなわち、クエン酸三ナトリウム・二水和物9.672g、無水クエン酸4.84g、炭酸ナトリウム過酸化水素化物0.382g、セピオライト粉末5.091g、PVP2g、ポリアクリル酸系吸水性高分子13.11g、以下同じ。)を用いたこと以外は、比較例I-1と同様にして、スギ花粉を処理した。なお、亜塩素酸塩水性液への実施例用PVP含有ゲル化活性剤の添加からゲル状組成物が形成されるまでのゲル化時間は4分であった。SEMを用いて処理後のスギ花粉を観察した。ガス共存剤としてPVPを用いた二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生させた二酸化塩素ガスにより処理したスギ花粉のSEM写真を図6および7に示した。ガス共存剤としてPVPが共存する二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉は、図6および7に示すように互いに分離しており、各スギ花粉の表面は凹凸が小さく滑らかになっていることが分かった。このことから、ガス共存剤としてPVPを含む二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉は、その表面状態が変質して、アレルギー誘発性が低減することがわかった。
【0067】
(実施例I-2)
上記の比較例用ゲル化活性剤33.095gに替えて、上記の実施例用デンプン含有ゲル化活性剤36.095g(すなわち、クエン酸三ナトリウム・二水和物9.672g、無水クエン酸4.84g、炭酸ナトリウム過酸化水素化物0.382g、セピオライト粉末5.091g、デンプン3g、ポリアクリル酸系吸水性高分子13.11g、以下同じ。)を用いたこと以外は、比較例I-1と同様にして、スギ花粉を処理した。なお、亜塩素酸塩水性液への実施例用デンプン含有ゲル化活性剤の添加からゲル状組成物が形成されるまでのゲル化時間は4分であった。SEMを用いて処理後のスギ花粉を観察した。ガス共存剤としてPVPを用いた二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生させた二酸化塩素ガスにより処理したスギ花粉のSEM写真を図8および9に示した。ガス共存剤としてデンプンが共存する二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉は、図8よび9に示すように互いに分離しており、各スギ花粉の表面は凹凸が小さく滑らかになっていることが分かった。このことから、ガス共存剤としてデンプンを含む二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉は、その表面状態が変質して、アレルギー誘発性が低減することがわかった。
【0068】
また、後述のように、実施例I-1のようにガス共存剤としてPVPを含む二酸化塩素ガスおよび実施例I-2のようにガス共存剤としてデンプンを含むゲル化活性剤により発生放出された二酸化塩素ガスには、PVPまたはデンプンが二酸化塩素ガスに付着して共存していることが確認された。このことから、実施例I-1および実施例I-2におけるスギ花粉は、ガス共存剤としてPVPまたはデンプンが共存する二酸化塩素ガスにより処理されて、それらの表面状態が変質することにより、本来凝集する性質を有するスギ花粉がバラバラになることが分かった。また、このことから、ガス共存剤としてPVPおよび/またはデンプンが共存する二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉は、その本来の性質が損なわれていることが分かった。
【0069】
また、比較例I-2のようにガス共存剤が共存しない二酸化塩素ガスで処理したスギ花粉が凝集しており各スギ花粉の表面は凹凸が大きく互いに絡み合っていたのに対し、実施例I-1およびI-2のようにガス共存剤としてPVP、デンプンなどのカルボニル基および水酸基の少なくともいずれかを含む固形のガス共存剤を含む水分が共存する二酸化塩素ガスで処理したスギ花粉は互いに分離しており各スギ花粉の表面は凹凸が小さく滑らかになっていた。このことから、二酸化塩素ガスは上記ガス共存剤を含む水分と共存することにより、スギ花粉などのアレルギー誘発物質などを効果的に処理できることが分かった。
【0070】
[試験II]
実施例I-1または実施例I-2の二酸化塩素ガスの発生放出方法において、放出される二酸化塩素ガスの濃度の経時変化を以下のようにして測定した。
【0071】
(実施例II-1)
図10を参照して、実施例I-1と同様にして、温度19.8℃および湿度(相対湿度をいう、以下同じ)70%の恒温室内で、大きさ0.425cm2の開口部1wを有する容量200ml(胴部内径6cm、首部内径3.7cm、直胴部高さ6.4cm、肩部高さ11mm、および直首部高さ15mmの略円筒形)のプラスチック製の二酸化塩素ガス発生放出用容器1に、上記の亜塩酸塩水性液(8.7質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液)122gを入れ、次いで、上記の実施例用PVP含有ゲル化活性剤35.095gを添加した。かかる添加から4分後にゲル状組成物が形成された。次に、二酸化塩素ガス発生放出用容器1を容量1000mlのビーカ2内に配置し、ビーカ2の開口部をその注ぎ口部分を残してプラスチック製フィルム3で覆った。ここで、プラスチック製フィルム3のビーカ2側の面に2cm×2cmの正方形のろ紙5(No.2、これはJIS P 3801-1995に規定する定性分析用「2種」に相当する)を、プラスチック製フィルム3で覆われていないビーカ2の注ぎ口部分からろ紙5の注ぎ口に近い一辺までの距離が2cmとなるように、配置した。その後、温度19.3℃~20.3℃で湿度(相対湿度)32%~70%の恒温室内で、内部に上記ゲル状組成物が形成された上記二酸化塩素ガス発生用容器が入ったビーカを静置して、上記の亜塩素酸塩水性液への上記の実施例用PVP含有ゲル化活性剤の添加から所定時間経過後に、ビーカの注ぎ口から北川式検知管4を挿入して、発生放出する二酸化塩素ガスの濃度を測定して、その経時変化を調べた。サンプル数は2として、平均の結果を表1~表4、および図11に示した。
【0072】
また、上記の二酸化塩素ガスの濃度の経時変化の測定後、すなわち、2283時間経過後、上記ろ紙に白い粉末状の付着物質が確認された。かかる付着物質は、ゲル状組成物から二酸化塩素ガスとともに放出されたPVPと考えられる。なぜなら、ゲル化活性剤としてガス共存剤であるPVPを含有しない比較例用ゲル化活性剤を用いた対比試験においては、ろ紙上に付着物が確認されなかったからである。
【0073】
(実施例II-2)
実施例用PVP含有ゲル化活性剤35.095gに替えて実施例用デンプン含有ゲル化活性剤36.095gを用いたこと以外は、実施例II-2と同様にして、上記の亜塩素酸塩水性液に上記の実施例用デンプン含有ゲル化活性剤を添加した。かかる添加から4分後にゲル状組成物が形成された。上記添加から所定時間経過後に、ビーカの注ぎ口から北川式検知管4を挿入して、発生放出する二酸化塩素ガスの濃度を測定して、その経時変化を調べた。サンプル数は2として、その平均の結果を表1~表4、および図11に示した。また、上記の二酸化塩素ガスの濃度の経時変化の測定後、すなわち、2283時間経過後、実施例II-1と同様に配置されたろ紙に白い粉末状の付着物質が確認された。かかる付着物質は、ゲル状組成物から二酸化塩素ガスとともに放出されたデンプンと考えられる。なぜなら、ゲル化活性剤としてガス共存剤であるデンプンを含有しない比較例用ゲル化活性剤を用いた対比試験においては、ろ紙上に付着物が確認されなかったからである。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
表1~表4および図11を参照して、実施例II―1の二酸化塩素ガス発生放出方法における二酸化塩素ガスの濃度(ClO2濃度)は、亜塩素酸塩水性液に実施例用PVP含有ゲル化活性剤を添加してから、初期の急激な上昇が抑えられるとともに、720時間(30日)経過するまでは55ppm以上、1440時間(60日)経過するまでは40ppm以上、2160時間(90日)経過するまでは38ppm以上であり、二酸化塩素ガスが持続的に安定して発生放出されていることが確認できた。また、実施例II―2の二酸化塩素ガス発生放出方法における二酸化塩素ガスの濃度(ClO2濃度)は、亜塩素酸塩水性液に実施例用PVP含有ゲル化活性剤を添加してから、初期の急激な上昇が抑えられるとともに、720時間(30日)経過するまでは54.5ppm以上、1440時間(60日)経過するまでは40ppm以上、2160時間(90日)経過するまでは36ppm以上であり、二酸化塩素ガスが持続的に安定して発生放出されていることが確認できた。
【0079】
[試験III]
試験IIIとして、本実施形態の二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生させた二酸化塩素ガスにより処理したスギ花粉(実施例III-1およびIII-2)、対比のための未処理のスギ花粉(比較例III-1)およびガス共存剤を含まない二酸化塩素ガスの発生放出方法により発生させた二酸化塩素ガスにより処理したスギ花粉(比較例III-2)が含まれる空気に、5人のパネラー(A、B、C、DおよびE。ここでA、BおよびCは女性、DおよびEは男性)が目および鼻を接触させたときのアレルギー症状の発生の有無およびその程度を評価した。
【0080】
(比較例III-1)
比較例I-1の未処理のスギ花粉1gを容量1000mlのビーカの底に配置し、ビーカの開口部をその注ぎ口部分を残してプラスチック製フィルムで覆い、上記5人のパネラーがビーカの注ぎ口からビーカ内の空気を1秒間嗅いだときのアレルギー症状の発生の有無およびその程度を以下の基準により評価した。すなわち、目および/または鼻に全く違和感を感じないものを0、目および/または鼻にわずかに違和感を感じるものを1、目および/または鼻に違和感を感じる(たとえば目および/または鼻がムズムズする)ものを2、目および/または鼻がかゆく感じるものを3、涙および/または鼻水が少量出るものを4、涙および/または鼻水が多量出るものを5とした。結果を表5に示した。
【0081】
(比較例III-2)
比較例I-2のガス共存剤を含まない二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉1gを用いたこと以外は、比較例III-1と同様にして、アレルギー症状の発生の有無およびその程度を評価した。結果を表5に示した。
【0082】
(実施例III-1)
実施例I-1のガス共存剤としてPVPを含む二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉1gを用いたこと以外は、比較例III-1と同様にして、アレルギー症状の発生の有無およびその程度を評価した。結果を表5に示した。
【0083】
(実施例III-2)
実施例I-2のガス共存剤としてデンプンを含む二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉1gを用いたこと以外は、比較例III-1と同様にして、アレルギー症状の発生の有無およびその程度を評価した。結果を表5に示した。
【0084】
【表5】
【0085】
表5を参照して、アレルギー症状の発生の有無および程度は、パネラー間の差異が大きいものの、未処理のスギ花粉(比較例III-1)に対して、ガス共存剤を含まない二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉(比較例III-2)では評価の差で0~1のわずかな改善が見られたに過ぎないが、ガス共存剤としてPVPまたはデンプンを含む二酸化塩素ガスにより処理されたスギ花粉(実施例III-1およびIII-2)では評価の差で2~3の大きな改善が見られた。このことから、スギ花粉をガス共存剤としてPVPまたはデンプンを含む二酸化塩素ガスで処理することにより、スギ花粉のアレルギー誘発性を大きく低減できることを確認できた。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 二酸化塩素ガス発生放出用容器、1w 開口部、2 ビーカ、3 プラスチック製フィルム、4 北川式検知管、5 ろ紙、10 スギの実。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11