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特許7072269ボイド率計測装置およびボイド率計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】ボイド率計測装置およびボイド率計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/024 20060101AFI20220513BHJP
【FI】
G01N29/024
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020060039
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156837
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】河村 良行
(72)【発明者】
【氏名】江頭 竜
(72)【発明者】
【氏名】松川 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼曽 徹
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-019557(JP,A)
【文献】特開2000-241295(JP,A)
【文献】特開2016-040544(JP,A)
【文献】特開2010-216872(JP,A)
【文献】特開昭58-155356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0041286(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0000940(US,A1)
【文献】冨島康夫,気泡を含む水中における音波伝播時間分布に関する研究 音波による水中気泡量測定に関する基礎的研究 (第1報),資源と素材,1995年,Vol.111 No.9,pp.623-629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に気体を微細気泡として含む流体中に圧力波を照射する照射部と、
前記照射部と所定の距離Lを隔てて配置され、前記照射部から照射された圧力波を検知する検知部と、
前記照射部から照射された圧力波が前記検知部に到達するまでの時間と前記距離Lとから前記圧力波の伝播速度を算出し、前記圧力波の伝播速度からボイド率を算出する演算部であり、前記圧力波の伝播速度をc、前記液体の体積弾性率をE 1 、前記気体の体積弾性率をE 2 、前記液体の密度をρ 1 、前記気体の密度をρ 2 としたとき、ボイド率αを
【数1】
を用いて算出する演算部
を含むボイド率計測装置。
【請求項2】
前記圧力波は音波である請求項1記載のボイド率計測装置。
【請求項3】
ボイド率1%以下の流体を計測対象とする請求項1または2に記載のボイド率計測装置。
【請求項4】
液体中に気体を微細気泡として含む流体中に照射部から圧力波を照射すること、
前記照射部と所定の距離Lを隔てて配置された検知部により前記照射部から照射された圧力波を検知すること、
前記照射部から照射された圧力波が前記検知部に到達するまでの時間と前記距離Lとから前記圧力波の伝播速度を算出し、前記圧力波の伝播速度からボイド率を算出するに際し、前記圧力波の伝播速度をc、前記液体の体積弾性率をE 1 、前記気体の体積弾性率をE 2 、前記液体の密度をρ 1 、前記気体の密度をρ 2 としたとき、ボイド率αを
【数2】
を用いて算出すること
を含むボイド率計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に気体を微細気泡として含む流体(気液混相流)のボイド率(気液混相流中に占める気体の体積の割合)を計測するボイド率計測装置およびボイド率計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイド率を計測する装置として最も一般的に用いられているものは導電式である(例えば、非特許文献1,2参照。)。導電式は、液体の導電率が気体よりも高いことを利用した方法である。具体的には、流れの中に設置した2つの電極のうちの小さい方の電極が気体に接触しているか液体に接触しているかによって電極間の電気抵抗が変化することを利用する。
【0003】
また、ボイド率を計測する装置として光学式のものも知られている(例えば、非特許文献1,2参照。)。光学式では、光ファイバーグラス束からなるプローブを気泡流の中に差し込み、気相と液相の屈折率の違いを利用して光学的に気液の存否を検出するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】石川 温士、今井 良二、田中 貴博,水を用いた水平管群の気液二相流計測,IHI技報,株式会社IHI,平成25年4月発行,第53巻,第1号,ページp.40-46
【文献】飯田 嘉宏,気液混相流,化学工学,公益社団法人 化学工学会,1973年4月5日発行,第37巻,第4号,ページp.337-340
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の導電式および光学式では、流れの中に電極やプローブを差し込むため、流れの状態を変化させてしまうことになる。また、導電式は、非導電性の流体には使用することができないという問題がある。
【0006】
また、導電式では一方の小さな電極の先端が、光学式ではプローブ先端が、気体であるか液体であるかを検出するため、局所的なボイド率が計測されることになり、ボイド率本来の空間平均的な量としては計測されないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明においては、流体が導電性であるか非導電性であるかを問わず計測可能であり、本来の空間平均的なボイド率を計測することが可能なボイド率計測装置およびボイド率計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のボイド率計測装置は、液体中に気泡を微細気泡として含む流体中に圧力波を照射する照射部と、照射部と所定の距離Lを隔てて配置され、照射部から照射された圧力波を検知する検知部と、照射部から照射された圧力波が検知部に到達するまでの時間と距離Lとから圧力波の伝播速度を算出し、圧力波の伝播速度からボイド率を算出する演算部とを含むものである。
【0009】
本発明のボイド率計測方法は、液体中に気泡を微細気泡として含む流体中に照射部から圧力波を照射すること、照射部と所定の距離Lを隔てて配置された検知部により照射部から照射された圧力波を検知すること、照射部から照射された圧力波が検知部に到達するまでの時間と距離Lとから圧力波の伝播速度を算出し、圧力波の伝播速度からボイド率を算出することを特徴とする。
【0010】
これらの発明によれば、照射部から照射された圧力波が、微細気泡を含む流体中を伝播して照射部と所定の距離Lを隔てて配置された検知部に到達したことを検知し、照射部から照射された圧力波が検知部に到達するまでの時間と距離Lとから圧力波の伝播速度が算出され、圧力波の伝播速度からボイド率が算出される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、照射部から照射される圧力波が微細気泡を含む流体中を伝播する速度を測定するため、流体が導電性であるか非導電性であるかを問わず計測することが可能であり、本来の空間平均的なボイド率を計測することが可能となる。また、流体の流れに影響を与えるような電極やプローブ等を差し込む必要がなく、流れに影響を与えないでボイド率を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態におけるボイド率計測装置の概略構成図である。
図2】信号発生器で生成する音波信号の波形を示す図である。
図3】液体が水であり、気体が空気である場合のボイド率αに対する音速cを表したグラフである。
図4図3のα=0~2%の範囲を拡大したグラフである。
図5】実験装置を示す図である。
図6】横軸に注射器を用いて実際に気泡の体積を測定して求めたボイド率を取り、縦軸に本実験により測定したボイド率を取ったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の実施の形態におけるボイド率計測装置の概略構成図である。
図1において、本発明の実施の形態におけるボイド率計測装置1は、液体F1中に気体F2を微細気泡として含む流体(気液混相流)F中に圧力波としての音波Pを照射する照射部10と、照射部10と所定の距離Lを隔てて配置され、照射部10から照射された音波Pを検知する検知部11と、音波Pの伝播速度cからボイド率αを算出する演算部12とを有する。ボイド率αは、流体(気液混相流)F中に占める気体F2の体積の割合(比率)である。
【0014】
また、ボイド率計測装置1は、照射部10から照射する音波Pの信号を発生する信号発生器13と、照射部10から照射された音波Pが検知部11に到達するまでの時間Tを測定する信号測定器14とを有する。
【0015】
照射部10および検知部11としては、圧電素子(ピエゾ素子)を使用することができる。2つの圧電素子を測定対象である流体Fを挟んで、1つを送信用として、もう1つを受信用として対面配置することで、照射部10および検知部11を構成している。
【0016】
信号発生器13としては、ファンクションジェネレータ(関数電圧発生器)を使用することができる。信号発生器13で生成した音波Pの信号は、照射部10および信号測定器14に入力され、照射部10から音波Pが検知部11へ向かって照射される。音波Pの信号としては、例えば図2に示すようなステップ状の信号(矩形波)を使用することができる。照射部10から照射された音波Pは流体F内を伝播して検知部11へ到達する。
【0017】
信号測定器14としては、オシロスコープを使用することができる。信号測定器14では、信号発生器13から入力された音波Pの信号と、流体F内を伝播して検知部11により検知された音波Pの信号とから、照射部10から照射された音波Pが距離Lを経て検知部11に到達するまでの時間Tを測定する。
【0018】
演算部12としては、パーソナルコンピュータを使用することができる。演算部12では、信号測定器14により測定した時間Tと前述の距離Lとから音波Pの伝播速度(音速)c=L/Tを算出し、この音速cからボイド率αを算出する。
【0019】
ここで、音速c[m/s]とボイド率αとの関係について説明する。
液体F1中に気体F2を微細気泡として含む流体F全体の体積弾性率をE[Pa]、流体F全体の密度をρ[kg/m3]とすると、音速cは次式(1)で表される。
【数1】
【0020】
また、流体Fに含まれる液体F1の体積弾性率をE1[Pa]、流体Fに微細気泡として含まれる気体F2の体積弾性率をE2[Pa]、流体Fに含まれる液体F1の密度をρ1[kg/m3]、流体Fに微細気泡として含まれる気体F2の密度をρ2[kg/m3]とすると、ρ[kg/m3]およびE[Pa]は、それぞれ下記式(2)、(3)で表される。
【数2】
【数3】
【0021】
上記式(1)~(3)を用いて音速c[m/s]とボイド率αとの関係について整理すると、
【数4】
となり、これをαについて解くと、
【数5】
となる。
【0022】
図3は液体F1が水であり、気体F2が空気である場合のボイド率αに対する音速cを表したグラフ、図4図3のα=0~2%の範囲を拡大したグラフである。図3に示すように、ボイド率α=0%(水のみ)での音速は約1500[m/s]であり、ボイド率α=100%(空気のみ)での音速は約340[m/s]であり、ボイド率α=50%を底とするカーブを描くことになるが、ボイド率α=50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、2%以下や1%以下などに限れば、次式(6)により音速cに対してボイド率αは一意に決定される。
【数6】
【0023】
また、図4に示すように、α≦2%では音速cに対するボイド率αの変化量が大きく、精度の高いボイド率αを得ることができる。特に、本実施形態におけるボイド率計測装置1の計測対象をファインバブル(特に、直径1~100μmのマイクロバブル)に限れば、実用上のボイド率は1%以下であり、上記式(6)により音速cからボイド率αが精度良く算出される。
【0024】
以上のように、本実施形態におけるボイド率測定装置1では、液体F1中に気泡を微細気泡として含む流体F中に照射部10から圧力波Pを照射し、照射部10と所定の距離Lを隔てて配置された検知部11により照射部10から照射された圧力波Pを検知し、照射部10から照射された圧力波Pが検知部11に到達するまでの時間Tと距離Lとから音速cを算出して、音速cからボイド率αを算出することができる。
【0025】
このボイド率計測装置1では、照射部10から照射される圧力波Pが微細気泡を含む流体F中を伝播する速度(音速)を測定するため、流体が導電性であるか非導電性であるかを問わず計測することが可能であり、本来の空間平均的なボイド率αを計測することが可能である。また、流体Fの流れに影響を与えるような電極やプローブ等を差し込む必要がなく、流れに影響を与えないでボイド率αを計測することができる。
【実施例
【0026】
図5に示す実験装置を用いてマイクロバブルを含む水のボイド率計測を行った。
図5に示す実験装置では、水槽2内の液体F1としての水を吸入口3Aからマイクロバブル発生装置4に取り込み、この取り込んだ水中にマイクロバブル発生装置4により気体F2としての空気を微細気泡としてのマイクロバブルとして含む流体Fとして排出口3Bから水槽2内へ戻している。この水槽2の流体F内に照射部10と検知部11とを距離L隔てて配置した。
【0027】
なお、照射部10および検知部11は積層型超音波発生素子(ピエゾ素子)を用い、距離L=0.01mmとした。信号発生器13はファンクションジェネレータを用いた。信号測定器14はオシロスコープを用いた。
【0028】
実験では、まず、マイクロバブル発生装置4を用いて水槽2内をマイクロバブルで満たし、最大限に真っ白になった状態でマイクロバブルの供給をストップし、この時刻を0として、その後、10秒後、30秒後の音速cとボイド率αとを記録した。表1は測定結果を示している。表1からも分かるように、時間の経過とともに大きな気泡から浮上して消滅していくため、ボイド率αは小さくなり、それに伴って音速cも上昇する。また、いずれの音速も空気中の音速340[m/s]よりも小さい。
【0029】
【表1】
【0030】
また、図6は横軸に注射器を用いて実際に気泡の体積を測定して求めたボイド率を取り、縦軸に本実験により測定したボイド率(表1)を取ったグラフを示している。両者はよく一致しており、特にボイド率α≦1%の範囲においてボイド率αが精度良く算出されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のボイド率測定装置およびボイド率測定方法は、液体中に気体を微細気泡として含む流体のボイド率を計測するボイド率計測装置およびボイド率計測方法として有用であり、特に、流体が導電性であるか非導電性であるかを問わず計測可能であり、本来の空間平均的なボイド率を計測することが可能であるため、比較的小さい複数の気泡が含まれる流れを対象とするファインバブルに関わる研究開発や産業分野、火力発電所や原子力発電所などの環境分野などに好適である。
【符号の説明】
【0032】
1 ボイド率計測装置
2 水槽
3A 吸入口
3B 排出口
4 マイクロバブル発生装置
10 照射部
11 検知部
12 演算部
13 信号発生器
14 信号測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6