(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】デジタル計数のための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20220513BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20220513BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220513BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220513BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220513BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20220513BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20220513BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20220513BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20220513BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220513BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N33/483 C ZNA
G01N33/543 545A
G01N33/53 M
G01N37/00 101
G01N1/00 101F
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6813 Z
C12N15/09 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020136434
(22)【出願日】2020-08-12
(62)【分割の表示】P 2018518622の分割
【原出願日】2016-10-07
【審査請求日】2020-09-01
(32)【優先日】2015-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518118585
【氏名又は名称】セルマ・ダイアグノスティクス・アンパルトセルスカブ
【氏名又は名称原語表記】SELMA DIAGNOSTICS APS
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ヤーネ・クニング
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-088034(JP,A)
【文献】特開2006-194897(JP,A)
【文献】特開2010-210308(JP,A)
【文献】特開2004-309405(JP,A)
【文献】特開2001-059844(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038647(WO,A1)
【文献】特開2007-020526(JP,A)
【文献】特表2002-525573(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01053784(EP,A2)
【文献】国際公開第2012/100198(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00- 37/00
G01N 1/00- 1/44
G01N 33/48- 33/98
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00- 15/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴パターンを安定化させる方法であって、
1)疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを設けるステップであって、疎水性基板は、別個の入口および出口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される、ステップと、
2)液体がフロー区画の入口に入り、出口から出るようにして、液体の対応する凝集モル量n
DAを備えた凝集液体体積V
DAを有する複数のナノリットルからアトリットルの液滴を形成するステップと、
3)入口および出口を封鎖して、体積V
Cの閉じた環境を提供するステップと、
4)液滴から気体への蒸発を可能にすることにより気相シールを確立し、飽和蒸気圧を閉じたフロー区画内で確立するステップとを含み、
飽和時の蒸気圧増加は、n
DA・RT/V
C(Tは温度、Rは一般気体定数)より小さく、蒸発に起因して減少した体積を有する液滴が安定に留まるようになる、方法。
【請求項2】
気相シールは、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を最大液滴体積の50%未満に低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疎水性基板の中または上にある親水性機構のパターンを、1つ以上の検体タイプを含むサンプルに接触させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
親水性機構の上で少なくとも1つの検体タイプを捕獲するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの捕獲された検体タイプを、検出される検体タイプに特異的な標識剤を用いて標識化するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
検出剤を、パターンを横断して流し、パターンから引き出して、個々の液滴を生成するステップを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
標識剤および検出剤の両方を収容する液滴の数を計数するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
イメージングデバイスを用いて、光学信号を示す液滴を計数するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
検体は、下記の検体グループ、即ち、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド複合体、タンパク質、タンパク質/オリゴヌクレオチド複合体、タンパク質/脂質複合体、ペプチド、エキソソーム、ウイルス粒子、ウイルス様粒子、ナノ粒子、細胞断片または細胞から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
方法は、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体を備えた、サンプル中の1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のためのフローシステムにおいて実施され、疎水性基板は、フロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
体積(V
C)は、全てのナノリットルからアトリットルの液滴の凝集最大液滴体積(V
DA)より大きく、下記式によって計算されるV
MAXより小さい、請求項1に記載の方法。
【数1】
ここで、ρ
Lは液体の体積密度であり、Rはモル気体定数であり、Tは温度であり、RHIは液体の気体成分の初期相対蒸気飽和であり、P
0は対応する基準温度T
0での液体の基準蒸気圧であり、M
Wは液体のモル重量であり、ΔH
VAPは液体の蒸発のエンタルピーである。
【請求項12】
1つ以上の液滴中で酵素反応が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
液滴は、ナノリットルからアトリットルの液滴の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
親水性機構は、1つ以上の標識剤を含み、標識剤は、酵素を含み、
検出剤を含む液体を、パターンを横断して流し、パターンから引き出すことによって液滴が生成され、
検出剤は、酵素基質であり、
生成された液滴は、イメージングデバイスを用いて画像化される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
親水性機構は、1つ以上の検体を含み、検体は、細胞、細胞断片またはウイルス粒子であり、
検体は、標識剤を用いて標識化され、標識剤は、酵素を含み、
検出剤を含む液体を、パターンを横断して流し、パターンから引き出すことによって液滴が生成され、
検出剤は、酵素基質であり、
生成された液滴は、イメージングデバイスを用いて画像化される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
捕獲プローブが親水性機構に付着されており、捕獲プローブは、1つ以上の検体と結合可能であり、
検体は、サンプルから由来する一本鎖または二本鎖オリゴヌクレオチドであり、
標識剤は、酵素を含み、
検出剤を含む液体を、パターンを横断して流し、パターンから引き出すことによって液滴が生成され、
検出剤は、酵素基質であり、
生成された液滴は、イメージングデバイスを用いて画像化される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
標識剤は、オリゴヌクレオチド配列に基づいて検体を選択的に標識化する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
標識剤は、2つ以上の物質から成り、これらは、共に結合した場合、検体-結合様式および検出様式を提供する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
検出様式は、光学的、電気的または磁気的な信号の発生を介在することが可能な生化学的、化学的、生物学的または物理的な部位である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
検体-結合様式は、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、アプタマー、抗体、その複合体またはその合成変異体からなるグループ選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
捕獲プローブは、親水性機構に付着され、捕捉プローブは、1つ以上の検体に結合可能であり、
検体は、サンプルに由来するタンパク質またはペプチドであり、
検体は、標識剤で標識化されており、
標識剤は、酵素を含み、
検出剤を含む液体を、パターンを横断して流し、パターンから引き出すことによって液滴が生成され、
検出剤は、酵素基質であり、
生成された液滴は、イメージングデバイスを用いて画像化される、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
標識剤は、2つ以上の物質から成り、これらは、共に結合した場合、検体-結合様式および検出様式を提供する、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
検出様式は、光学的、電気的または磁気的な信号の発生を介在することが可能な生化学的、化学的、生物学的または物理的な部位である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
検体-結合様式は、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、アプタマー、抗体、その複合体またはその合成変異体からなるグループ選択される、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル内の、1つ以上の検体(analyte)タイプなどの材料の存在を検査するための方法およびシステムに関し、詳細には、改善した単一酵素結合免疫吸着法(single enzyme-linked immunosorbent assay:sELISA)検査、そして単一酵素結合分子分析(single-enzyme linked molecular analysis:SELMA)の他の変形のためのものである。
【背景技術】
【0002】
科学者は、生物学および化学システムでの変化を分析するための手法を開発しており、これらの変化は、しばしば2つ以上の状態間のスイッチングに関連している。例えば、文献(Witters et al. in Digital Biology and Chemistry (DOI: 10.1039/C4LC00248B, (Frontier) Lab on a Chip, 2014, 14, pp. 3225-3232))は、種々のデジタル生物学および化学技術の開発を議論している。デジタル技術が堅牢性、アッセイ(assay)設計、簡潔性の意味で利点を提供し、定性的測定とともに定量的情報が得られるため、これらのデジタル技術はとても上手く機能する。しかしながら、デジタル技術は、単一分子を隔離し操作する際の技術的困難さに部分的に起因して、比較的複雑になることがある。例えば、幾つかの手法は、ミクロンサイズの磁気ビーズを使用して、フェムトリットル体積のサンプルを処理する。文献(Rissin et al., in Single-molecule enzyme-linked immunosorbent assay detects serum proteins at subfemtomolar concentrations (DOI:10.1038/nbt.1641, Nature Biotechnology 2010, 28, pp. 595-599))を参照。他の手法は、さらにアトリットルのより小さい体積を使用する。これらの微量体積は、処理を困難にする典型的な研究室の温度および圧力で小さい体積の流体動力学が挙動を示すため、課題を作り出すことがある。
【0003】
例えば、大部分のデジタル検出手法は、液体含有検体および種々の検出プローブおよび捕獲プローブのマイクロ区画化に依拠している。検体および検出/捕獲プローブは、典型的にはピコリットルからアトリットル体積のマイクロサイズの液滴内に搬送されまたは存在する。
【0004】
従って、サンプルをより小さい体積に区画化する方法は、デジタル検出プロセスの最も重要な部分である。最も容易に利用できるデバイスフォーマットは、サンプルが移送できるマイクロ区画(compartment)のアレイを形成する固体またはポリマーの基板に依拠する。これらのアレイは、主として2つの種類、即ち、(i)マイクロウェルアレイ、(ii)毛細管(capillary)アレイという形式がある。マイクロウェルアレイでは、区画が基板内の凹部によって作成され、一方、毛細管アレイでは、区画が基板を通じて初めから終わりまで延びており、貫通孔を形成する。これらのアレイタイプの両方において固有の主要な課題は、これらがサンプルおよび付属試薬が装填される方法である。マイクロウェルアレイでは、凹部は、液体サンプルを容易に充填することができず、その理由はウェルの微視的寸法に起因して空気がウェルを去ることができないためである。この例として、研究論文(Kim et al. entitled "Large-scale femtoliter droplet array for digital counting of single biomolecules" published in Lab on a Chip, (2012) vol. 12, pp. 4986-4991 (DOI: 10.1039/c2lc40632b))を参照。この問題は、毛細管アレイでは存在せず、その理由は、各区画は2つの開口を有し、もし液体サンプルが上部開口から追加されると、空気は下部開口を通って逃げることができるためである。しかしながら、マイクロウェルまたは毛細管区画内に保持された液体を他の液体と交換することになった場合、分子の遅い拡散によって生ずる追加の問題が起こる。マイクロウェルおよび毛細管の両方が追加される液相のフローに対して垂直に位置決めされるため、良好な混合が生じることができず、液体交換が、バルク液体から毛細管への分子拡散およびその逆も同様によって生じることができるだけである。その結果、適切な液体交換を確保するために、時間遅延(その長さは、マイクロウェル/毛細管の寸法および、追加される分子種のタイプに依存する)を適用する必要があることになる。
【0005】
これらの課題を克服するために、第3の種類のアレイが開発されており、これは表面張力アレイと称される。表面張力アレイは、平面的であり、疎水性基板の中または上にパターン化された親水性機構(feature)からなる。表面張力アレイが水性サンプルと接触した場合(例えば、水相の中への浸漬およびアレイの引き出しによって)、機構と周囲の基板との間の表面張力差に起因して、個別の液滴が親水性機構の上に形成できる。液滴は、平面的表面の上に静止するため、液体サンプルがアレイ上に導入された場合、液体装填および液体交換が瞬時に(または拡散律速の輸送とは少なくとも数桁のオーダーでより高速に)生じることができる。マイクロウェルアレイとは異なり、空気が液体および親水性機構の直ぐ下に捕獲されることがなく、アレイは、基板内の窪み/凹部/空洞に依存していないため、液滴とバルク液体との間の液体混合が分子拡散によって制限されない。しかしながら、全部で3つのタイプのマイクロ区画化フォーマット(マイクロウェル、毛細管および表面張力アレイ)は、デジタル計数(counting)を実行できるために充分に長い時間に渡って多数の液体マイクロ液滴を保存するという課題に直面している。
【0006】
研究室での典型的な周囲温度および圧力において、これらのマイクロ液滴は数秒内で蒸発する。例えば、研究論文(Birdi, K. S., Vu, D. T. and Winter, A. entitled "A study of the evaporation rates of small water drops placed on a solid surface" published in The Journal of Physical Chemistry, 1989, vol. 93, pp. 3702-3703 (DOI: 10.1021/j100346a065))を参照。
【0007】
いったん蒸発すると、マイクロ液滴内の分子を処理する能力が失われ、デジタル手法は実行できない。
【0008】
従って、急速な蒸発を防止し、関心のある分子の存在を測定するのに充分な時間のマイクロ液滴を維持することが必要である。
【0009】
このために科学者および技術者は、マイクロ液滴を保持する区画を封止(seal)するある手法を開発した。これらのシールは、マイクロ液滴が周囲環境と接触するを防止し、蒸発を防止する。
【0010】
一般に、区画を封止するために2つの手法があり、即ち、物理的シールおよび化学的シールがある。物理的シールは、区画が基板にマイクロ凹部またはマイクロ空洞として構造化された場合に使用される。区画を物理的に封止するには、気密蓋(lid)が区画の上部に装着される。こうして個別の区画の内容物は蒸発できず、隣接した区画はその内容物を交換できず、そうでなければ交差汚染をもたらすことになる。物理的シールを有する不都合は、いったん区画が密閉されると、分析が終了することであり、その理由は、マイクロ区画の完全性(integrity)を分断させることなく、蓋が容易に除去できないためである。さらに、物理的シールを適用するために、区画は、マイクロウェル/空洞/凹部として構造化する必要があり、これは、遅い分子拡散に起因して、初期の準備ステップの際に区画内で液体を交換することに伴う技術的困難さをもたらす。
【0011】
1つのタイプの化学的シールは、油(または無極性液体)相で区画を覆うことに依拠する。こうしてサンプルの蒸発が減少し、その理由は、サンプルからの水が油相の中にゆっくりとだけ分配するためである。化学的シールの利点は、それは界面張力に基づいており、よって区画は空洞として構造化される必要がなく、代わりに表面上に静止する液滴として形成できることである。この機構は、高速な試薬交換を可能にし、これは分子拡散によって制限されないが、代わりに新しい試薬が導入される流量(flowrate)によって決定される。さらに物理的シールと異なり、化学的シールは、サンプルから油相を吸引することによって容易に除去できることである。しかしながら、化学的シールの不都合の1つは、サンプルからの検体または他の生体分子が無極性相の中に分配することがあり、(i)サンプル損失、及び/又は(ii)液滴間汚染をもたらすことがあることである。特に、タンパク質などの生体分子は、タンパク質中の疎水性アミノ酸が、疎水性界面への露出の際に自らを再配置することがあることに主に起因して、無極性液体に溶解性になる傾向がある。水から無極性相の中に分配する分子のこの性質は、分配係数、即ち、油-水分配係数、水-オクタノール分配係数などによって記述され、例えば、文献(Lien, E. J. and Ren, S. S. in Chapter 186 in Encyclopedia of Pharmaceutical Technology, Third Edition, 2006, ISBN: 9780849393990)。さらに、水でさえも、ゆっくりであるが周囲の油相に分配することが示され、例えば、文献(A. et al published in Lab on a Chip, 2009, vol. 9, pp. 692-698 (DOI: 10.1039/B813709A)を参照。さらに、バルク水相がバルク油相によって置換した場合、または逆も同様に、エマルション(emulsion)液滴を生成するリスク、即ち、即ち、油でのミクロンサイズの水の含有または逆も同様のリスクがある。エマルション液滴は、表面を汚染し、及び/又は、デバイスのフロー性能を劣化させることがあるため、実験的な邪魔者を構成することがある。
【0012】
国際公開第2015061362A1号(名称"Enrichment and detection of nucleic acids with ultrahigh sensitivity")は、高速な蒸発レートを示す液滴の非封止表面張力アレイを調製する方法を記載する。国際公開第2013110146A2号(名称"Patterning device")は、液滴表面張力アレイを調製する方法および化学的シールの下でのバイオアッセイ(bioassay)のためにそれを使用する方法を記載する。国際公開第2013063230A1(名称"Device and method for apportionment and manipulation of sample volumes")は、デジタル計数測定を含むバイオアッセイのための化学的に封止した表面張力アレイを調製し使用する方法を記載する。日本公開第2014021025A号(名称"Apparatus and method for forming artificial lipid membrane")は、脂質(lipid)膜を用いて化学的に封止した表面張力アレイを調製する方法を記載する。国際公開第2010039180A2(名称" High sensitivity determination of the concentration of analyte molecules or particles in a fluid sample")は、サンプルを物理的に封止したマイクロウェル区画の中に分割することによる、検体のデジタル計数を記載する。国際公開第2010019388A2号(名称"Method and apparatus for discretization and manipulation of sample volumes")は、マイクロウェル区画を記載しており、これは、1つ以上の非混合性液体で構成された化学的シールを付与することによって液体サンプルを捕獲し分割するために使用できる。国際公開第2012022482A1号(名称"Microwell arrays for direct quantification of analytes on a flat sample")は、平坦な基板上に収容されたサンプルを分析するための物理的に封止したマイクロウェル区画の使用を記載する。米国公開第20100075407A1号(名称"Ultrasensitive detection of molecules on single molecule arrays")は、物理的に封止したマイクロウェル区画で実行されるデジタル計数測定を記載する。国際公開第2012100198A2号(名称"Methods and systems for performing digital measurements")は、液滴のアレイを調製し分析することによって実行されるデジタル計数測定を記載する。米国公開第20130052649A1号(名称"Multilayer high density microwells")は、バイオ分析のためのマイクロウェル区画の化学的に封止したアレイを記載する。国際公開第2001061054A2号(名称"Apparatus and methods for parallel processing of micro-volume liquid reactions")は、バイオアッセイを実行するための化学的に封止した毛細管アレイの使用を記載する。国際公開第2014001459A1号(名称"A method of charging a test carrier and a test carrier")は、バイオアッセイを実行するための毛細管アレイの使用を記載する。国際公開第1998047003A1号(名称"An analytical assembly for polymerase chain reaction")は、オリゴヌクレオチドのデジタル計数を記載する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、分析される材料を含むマイクロ液滴を保持する区画を封止するための改善したシステムおよび方法について先行技術でのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(要旨)
第1態様において、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体(support)を備えた、サンプル中の1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のためのフローシステムがここでは開示され、疎水性基板は、少なくとも1つの開口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。
【0015】
更なる態様において、平面的な疎水性基板(16)の中または上に平面的な親水性機構(14)のパターンを有する支持体(12)を備えた、サンプル中の1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のためのフローシステム(10)がここでは開示され、疎水性基板(16)は、少なくとも1つの開口(20)を含むフロー区画(18)の中に組み込まれ、親水性機構(14)は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成され、フローシステム(10)は、1つ以上の区別できる検体タイプのための少なくとも1つの捕獲プローブ(22)を備え、捕獲プローブ(22)は、親水性機構(14)に付着される。
【0016】
第2態様において、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体を備えた、サンプル中の1つ以上の検体タイプのデジタル計数のためのフローシステムがここでは開示され、疎水性基板は、少なくとも1つの開口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、それぞれ最大液滴体積を有する複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成され、フロー区画は、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を低減する気相(gas phase)シールを支持するように構成される。
【0017】
更なる態様において、サンプル中の1つ以上の検体タイプのデジタル計数のためのフローシステム(10)がここでは開示され、フローシステム(10)は、疎水性基板(16)の中または上に親水性機構(14)のパターンを有する支持体(12)を備え、疎水性基板(16)は、少なくとも1つの開口(20)を含むフロー区画(18)の中に組み込まれ、親水性機構(14)は、それぞれ最大液滴体積を有する複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成され、フロー区画(18)は、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を低減する気相シールを支持するように構成され、フロー区画(18)は、体積(VC)を有し、体積(VC)は、全てのナノリットルからアトリットルの液滴の凝集(aggregate)最大液滴体積(VDA)より大きく、下記式によって計算されるVMAXより小さい。
【0018】
【0019】
ここで、ρLは液体の体積密度であり、Rはモル気体定数であり、Tは温度であり、RHIは液体の気体成分の初期相対蒸気飽和であり、P0は対応する基準温度T0での液体の基準蒸気圧であり、MWは液体のモル重量であり、ΔHVAPは液体の蒸発のエンタルピーである。
【0020】
更なる態様において、ここで開示するようなフローシステムを調製する方法がここでは開示される。
【0021】
更なる態様において、1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のための、ここで開示するようなフローシステムを使用する方法がここでは開示される。
【0022】
他の態様において、少なくとも1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のための方法がここでは開示され、該方法は、気相シールの下での複数のナノリットルからアトリットルの液滴に含まれる検体タイプを計数することを含む。
【0023】
他の態様において、少なくとも1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のために、気相シールの下での複数のナノリットルからアトリットルの液滴の使用がここでは開示される。
【0024】
ここで、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成された親水性機構の特徴は、親水性機構は、第2親水特性を有する材料によつて包囲された第1親水特性を有する材料のパターンを形成し、第1親水特性は第2親水特性よりも親水性であることを特に意味しており、接触角は、第1親水特性を備えた材料の上での液滴ではより低いことを意味する。一例では、第2親水特性を備えた材料は疎水性であると考えられ、液滴は、第1親水特性を有する材料に本質的に専ら配置される。
【0025】
蒸発を低減する気相シールを支持するように構成されたフロー区画の特徴は、液滴の体積に対するフロー区画の体積を参照する。下記式によって設定される境界内にある体積VCを有するフロー区画が、
【0026】
【0027】
蒸発を低減する気相シールを支持するように構成された区画の定義内であると考えられる。
【0028】
蒸発を低減する気相の例が、本質的にその飽和温度および圧力にあり、相対湿度を増加できない、即ち、ほぼ100%湿度、または少なくとも90~100%の範囲、例えば、95~100%湿度の範囲のような蒸気とすることができる。用語「開口」は、サンプルが疎水性基板上の親水性機構に入るための入り口を意味する。開口は、外部から区画内への同じまたは異なるサイズの1つ以上の入口によって形成できる。
【0029】
フロー区画は、サンプルが流れることができ、疎水性基板上に親水性機構を収容する区画である。フロー区画は、1つ以上の区別できるチャンバ(chamber)によって形成できる。2つ以上のチャンバによって画定される場合、チャンバは流体接続される。
【0030】
捕獲プローブが、特定の構成物質を捕獲できる機構である。捕獲プローブは、例えば、PNAまたはDNA、例えば、一本鎖PNAオリゴをベースにできる。
【0031】
一実施形態において、親水性機構のための支持体は、フロー区画内に中央に設置される。一例において、親水性機構のための支持体は、親水性機構のための支持体の周りに境界を形成する疎水性材料によってフロー区画内で包囲される。
【0032】
(詳細な開示)
実施形態において、ここで説明するシステムおよび方法は、マイクロ液滴のための改善したシールを提供し、そのため気相シールを提供する。一実施形態において、ここで説明するシステムおよび方法は、複数のマイクロ液滴を支持するための表面を有するチャネル形状のフロー区画を含む。実施形態において、ここで開示するように、チャネル形状のフロー区画はまた、マイクロ液滴を支持する表面の上に延びる表面を有し、チャネル形状のフロー区画が2つの開口を有し、1つがフロー区画の各側にあるようにした壁を含む。一実施形態において、チャネルは、四角形(square)断面を備えた矩形状であり、各開口が四角形である。他の実施形態において、フロー区画は、円柱形状であり、各開口は円形である。これらの実施形態の両方において、マイクロ液滴は、例えば、アレイ状に互いに離隔しており、フロー区画内の中央に配置される。実施形態において、中央に配置されたマイクロ液滴は、開口の各々から長さ(LE)だけ離隔している。一実施形態において、フロー区画の高さ(h)は、マイクロ液滴に含まれる流体の凝集体積に部分的に基づいて選択され、周囲環境の温度および圧力は、フロー区画および長さLEに接触する。一実施形態において、高さhは、マイクロ液滴が蒸発するレートを低減するフロー区画内の蒸気圧を生成するように選択される。理論によって縛られないが、マイクロ液滴が蒸発すると、蒸発からの蒸気が、周囲環境に全体的に露出した場合にマイクロ液滴が経験するレートと比較して、蒸発が生ずるレートを低減する気相シールを生成する。一実践では、水溶液では、特定の割合の水が気相に蒸発することが理解される。しかしながら、蒸発の程度は、(i)正しいフローチャネル深さおよび幾何形状、(ii)正しい液滴体積、(iii)正しい液滴アレイ幾何形状を選択することによって予測でき、合理的に制御できる。パラメータを適正に選択することによって、マイクロ液滴は、蒸気圧に起因して蒸発しなくなり、こうしてフローチャネルでの湿度が増加する。これは、化学的シールに類似した気相シールを提供するが、フロー区画を液相で覆う代わりに、マイクロ液滴が気相、例えば、空気の中に維持される。気相の利点は、液相と比較して、多くの大きな生体分子(タンパク質、DNA、脂質など)は、その沸点が水より著しく高いため、空気中に分配しないことである。化学的シールとは異なり、気相シールは、油相を除去する必要なしで、試薬をアレイ上に容易に導入できる。
【0033】
フロー区画が、表面張力によって所定場所に保持され、フローチャネルの中に集積される、平面基板上に静止するマイクロ液滴を保存する実施形態では、気相シールが、液体引き出しに続いてアレイを液体と接触させることによって確立できる。液体引き出しの際、アレイは、マイクロ液滴を保持し、フローチャネルは、例えば、空気で充填され、こうして気相シールを確立する。こうしてここで説明するシステムおよび方法は、とりわけフローチャネルに組み込まれた表面張力式マイクロ液滴アレイを提供し、フローチャネルの幾何形状は、アレイの幾何形状に整合し、例えば、蒸発を特定の割合以下、例えば、5%未満に低減する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明の前述のおよび他の目的および利点は、添付図面を参照して下記の更なる説明からより完全に理解されるであろう。
【0035】
【
図1】複数のマイクロ液滴26を有するフロー区画18の一例を示す。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0036】
【
図2】
図1中のフロー区画18の端部の一例を示す。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0037】
【
図3】気体シールを形成する気相を備えたフロー区画18の例示表現を示す。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0038】
【
図4】フロー区画から流体を引いて気相シールを生成するプロセスの例示表現を示す。描写は、フローシステムが動作しているときに獲得される明視野顕微鏡写真からの抜粋である(例1~5を参照)。明視野顕微鏡写真での縮尺バーは20μmである。
【0039】
【
図5】(i)平面的機構、(ii)疎水性基板16での窪みのような形状の機構、(iii)疎水性基板からの突起を備え、窪みは親水性ゾーンを含む機構、を含む親水性機構14の例示表現を示す。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0040】
【
図6】固体支持体と接触した液滴の例を示す。本例において、(i)ガス雰囲気中の疎水性基板上に静止する液滴の接触角(γ)、(ii)円形状平面的親水性機構の半径(R
D)、(iii)円形状平面的親水性機構上に静止する液滴の接触角(α)、(iv)円形状平面的親水性機構についての最大液滴体積の幾何学的定義の例を略図で示す。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0041】
【
図7】疎水性基板によって包囲された平面的親水性機構のパターンを調製するための2つの例示のフォトリソグラフィ式プロセスを示す。図示したステップは、下記を含む。 A-親水性ウエハ基板を用意する。 B2-感光性薄膜コーティングの堆積、または、B1-ウエハの均質な表面改質。 C2-コーティングのUV露光および現像、または、 C1-感光性薄膜コーティングの堆積、続いて、 C1’-コーティングのUV露光および現像。 D2-ウエハの疎水性表面改質、またはD1-疎水性層の選択エッチング。 E-薄膜コーティングを除去し、F-親水性機構の平面的パターンを達成する。
【0042】
【
図8】一般のデジタル計数測定の例を概略的に示しており、サンプルからの検体の濃度は、ポジティブ信号を表示する区画の数の分析によって得られる。
【0043】
【
図9】平面的親水性機構に基づいたSELMAプロセスの例示略図を示す。ステップ(A)において、サンプルからの検体は、単一ステップで結合され、親水性機構の上に位置するプローブを捕獲する。ステップ(B1)において、バルク液体中に存在する捕獲プローブ(捕獲プローブ部分2)がサンプルからの検体と結合し、こうしてステップ(B2)において、検体/捕獲プローブ部分2-複合体(complex)の形成を導く。ステップ(B3)は、B2に続いて、固体支持体上に存在する捕獲プローブ(捕獲プローブ部分1)との検体/捕獲プローブ部分2-複合体の結合を示す。捕獲プローブ部分1,2は、互いに結合(recognize)させ、よって捕獲プローブ部分1/捕獲プローブ部分2/検体-複合体を固体支持体上に形成し、こうして検体を親水性機構の上に固定する。ステップ(C)において、標識(labelling)剤が捕獲プローブ/検体-複合体に追加され、例えば、捕獲プローブ/検体/標識剤-複合体を形成する。ステップ(D)において、捕獲プローブ/検体-複合体は、標識剤の第1部分(標識剤部分1)によって標識化される。ステップ(E)において、捕獲プローブ/検体/標識剤部分1-複合体は、標識剤の第2部分(標識剤部分2)によって2次標識化される。ステップ(F)において、機能的捕獲プローブ/検体/標識剤-複合体が形成された。ステップ(G)において、液滴が親水性機構の表面上に形成される。液滴は、検出剤を含み、気相シールによって蒸発から保護される。ステップ(H)において、検出剤は、標識剤の処理によって分子レポータ(reporter)に変換される。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0044】
【
図10】例示のフローシステムの略図を示す。フローシステムは、5つの機能的エレメントを備える矩形スラブ(slab)で構成される。各エレメントは、数字でマークされ、破線四角によって包囲される。エレメント1は、吸引を提供するために圧力源に接続された液体出口である。エレメント2は、フロー区画である。エレメント3は、フロー区画を液体装填パッドに接続する液体入口である。エレメント4は、液体試薬のためのレセプタクルとして成形された液体装填パッドである。エレメント5は、液滴領域であり、疎水性基板によって包囲された親水性機構のパターンを提示する。液滴領域は、フロー区画の下部の上に位置する。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0045】
【
図11】蒸発とフローチャネル/液滴/アレイ-幾何形状との間の理論的関係の一例を示す。(A)2.5μmの液滴半径およびN=4およびφ=2のスケーリング係数を備えたアレイについての式(Eqn.)(17)のプロットであり、温度が増加するとともに、そしてフローチャネル高さが100μmから1500μmに増加した場合、蒸発割合が増加する。(B)35℃での最大許容蒸発割合(θ
MAX)の関数として、そして種々のアレイ/液滴幾何形状について、最大高さ(h
MAX)についての式(18)のプロットである。(C)100μmの高さ、φ=2のスケーリング係数を表示し、35℃の温度に保持されたフローチャネルについての式(17)のプロットである。隣接液滴間のより大きい間隔(より大きいN値)は、より高い蒸発割合をもたらし、一方、より大きい液滴サイズは蒸発を減少させる。
【0046】
【
図12】気相シールの下での蒸発耐性マイクロ液滴の例および種々のフローチャネル幾何形状および温度についての液滴安定性を示す。明視野顕微鏡写真は、(A)2000μm、(B)800μm、(C)150μmの高さを示すフローチャネルに形成される液滴を示す。アレイパラメータは、A~Cで同一であり、即ち、液滴半径R
D=2.5μm、余剰部(excess)対アレイ長さ比率φ=1、アレイピッチN=4である。3つのアレイを同じ方法で調製した。即ち、水溶液を注入し、フローチャネルから引き出し、温度を25℃に調整した。30分の平衡時間の後、顕微鏡写真を撮り、温度を35℃に上昇した。30分の平衡後に再び顕微鏡写真を撮った。この手順を45℃で繰り返した。パネルAにおいて、液滴は25℃でだけ明確に識別可能である。より高い温度では、液滴は蒸発する。パネルBにおいて、液滴は25℃および35℃で識別可能になるが、蒸発に起因して液滴直径が収縮したように見える。45℃において、アレイは、蒸発および水-蒸気の再凝縮に起因して大きく分裂され、フローチャネル/アレイが、顕微鏡写真を撮った時に熱平衡に到達していないことを示す。パネルCにおいて、液滴は、全ての温度で明確に識別可能であり、液滴半径は大きく変化していないように見える。縮尺バーは20μmである。
【0047】
【
図13】(A)例示のフローチャネル28、および(B)フローチャネルに組み込まれた例示のマイクロ液滴アレイ30を定義するパラメータの例示略図を示す。略図は縮尺どおりに描いていない。
【0048】
【
図14】1pMのDNAターゲットを含む較正サンプルについての明視野(i)および蛍光(ii)顕微鏡写真の対応するペアを示す。蛍光信号は、例4に説明したように識別され、白丸でマークした。蛍光信号の位置は、明視野顕微鏡写真に付与し、黒丸でマークした。蛍光信号の位置は、液滴の位置に対応することが明らかである。縮尺バーは10μmである。
【0049】
【
図15】DNAターゲットの下記濃度、(A)100aM、(B)1fM、および(C)10fMを含むサンプルからの3つの代表的な蛍光顕微鏡写真を示す。蛍光液滴の数は、各サンプルについて計数し、アレイ上に存在する液滴の合計数に正規化され、例えば、蛍光液滴の百分率割合、即ちポジティブ割合を提供する。ポジティブ割合は、100aMのDNAターゲット、1fMのDNAターゲット、10fMのDNAターゲット、そしてDNAターゲット無しのコントロール(control)サンプル(D)を含むサンプルについてプロットした。棒グラフ上の値は、各サンプルについて5つの検出実験から収集した平均値を表す。エラーバーは、5つの同じように行った実験についてポジティブ割合の標準偏差を表す。
【0050】
【
図16】例5に概説したように100aMのターゲットDNAを含むサンプルについて蛍光顕微鏡写真のシリーズを示す。シリーズの第1顕微鏡写真(i)は、第1検出ステップの後に撮ったもので、シリーズの第2顕微鏡写真(ii)は、第2検出ステップの後に同じ位置で撮ったもので、シリーズの第3顕微鏡写真(iii)は、第3検出ステップの後に同じ位置で撮ったものである。
【0051】
【
図17】親水性機構(14)のパターンを表示する支持体(12)を備えた、サンプル中の1つ以上の検体のデジタル計数のための例示のフローシステム(10)の断面の略図を示す。パターンは、疎水性基板(16)に組み込まれ、その上に配置され、またはそれによって包囲され、そして開口(20)を示すフロー区画(18)に組み込まれる。各親水性機構は、表面に付着された捕獲プローブ(22)を有する。支持体は、2つの領域(24)に分割され、各領域は特異タイプの捕獲プローブを表す。略図は縮尺どおりに描いていない。
【発明を実施するための形態】
【0052】
(定義)
本文脈において、用語「デジタル計数(counting)」は、サンプルの特異成分が区画の中に限界濃度で分配される任意の検体を参照し、区画の数は特異サンプル成分の数より大きい。こうして2値/デジタル値が、それが空(値0)または装填(値1)であるかに応じて各区画に割当てできる。本文脈において、装填とは、特異サンプル成分の少なくとも1つを含む区画を参照し、一方、空とは、特異サンプル成分を含まない区画を参照する。デジタル計数は、装填および空の区画の数が、特異サンプル成分から、または特異サンプル成分の存在に結合した付属検出試薬から由来する特異信号に基づいて評価される場合に行う。
【0053】
本文脈において、用語「デジタル計数測定」は、上述したようなデジタル計数プロセスを参照するが、例えば、全ての区画に存在する特異サンプル成分の絶対数を推測するために、デジタル計数結果の任意の数学的処置または較正をさらに含む。これは、(i)装填区画が、同じサンプル成分の1つ、2つ、3つなどのコピーを含むことがあるという事実を説明すること、または(ii)信号発生プロセスでの欠陥に起因して、装填区画が、空として誤って分類されることがあり、また逆も同様であるという事実を説明すること、を含んでもよい。デジタル計数測定の例は、デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)、単一酵素結合免疫吸着法(sELISA)またはデジタル単一酵素結合免疫吸着法(dELISA)を含む。デジタル計数測定の略図が
図8に概説されている。
【0054】
本文脈において、用語「SELMA」は、single-enzyme linked molecular analysisの略称として使用され、デジタル計数測定の特定の種類を参照する。SELMAにおいて、デジタル計数測定はフローシステムにおいて行われ、液滴区画があるパターンに編成され、特異サンプル成分が区画の内部に固定/捕獲された状態になる。こうしてサンプル成分は、失われることなく、幾つかの反応ステップに曝すことができ、各ステップは、フローシステムからの溶液または試薬の浸漬および引き出しによって構成される。例示のSELMAプロセスの略図が
図9において示される。
【0055】
本文脈において、「親水性機構」は、他のセットの材料特性を有する固体基板によって包囲または支持された、第1セットの材料特性を有する構造を参照する。構造および固体基板の材料特性は、構造が固体基板より濡れ性が高いように調整すべきである。換言すると、構造を構成する材料は、固体基板よりも水とのより小さい接触角を示すべきである。構造は、化学的及び/又は物理的手段によって定義できる。可能性のある構造の非限定セットは、(i)周囲基板より親水性の高い材料で構成された閉じた平面的領域、(ii)周囲基板に形成された窪み、突起またはその組合せであり、1つ以上の側面(side)が周囲基板より親水性の高い材料で構成される、を含む。例示の親水性機構の略図が
図5に示される。SELMAの文脈において、親水性機構は、例えば、検体捕獲のために区別できる化学官能性を設けることによって、そして信号発生および検出のために液滴パターンを設けることによって、デジタル計数測定にとって適切な反応区画を提示するように操作してもよい。
【0056】
本文脈において、用語「平面的親水性機構」は、疎水性基板が平面的であり、疎水性基板に組み込まれた親水性機構が平面的である設計を参照する。平面性の理想的ケースを
図5に示しているが、実用的応用では、平面性は、表面粗さの観点で定義する必要がある。例えば、疎水性基板および親水性機構は異なる材料で形成できるため、疎水性領域と親水性領域との間で高さに微細な差が存在するであろう。一実施形態において、平面的と考えられる親水性機構のための適切な基準は、疎水性領域と親水性領域との間の高さの差(代替的には表面粗さ)(Δh)は、特性機構サイズと比較して無視できるものにすべきであることであろう。半径R
Dを有する円形親水性機構の場合、基準はR
D>>Δhにできる。一実施形態において、20nmより小さいΔh値を示す機構は、平面的であると考えられる。
【0057】
本文脈において、用語「接触角」は、液体/蒸気/固体の界面で測定される特性角を参照する。液滴が固体表面の上に気相中に堆積される文脈において、接触角は、ライン上のポイントにある液体を介して測定され、液体/蒸気の界面は固体表面に出会う。文献(W.C. Bigelow, D.L. Pickett and W.A.J. Zisman in "Oleophobic monolayers I: Films adsorbed from solution in non-polar liquids" published in Journal of Colloid Science, vol. 1, pp. 513-538 (1946) (DOI: 10.1016/0095-8522(46)90059-1))で定義されるように、角度は、固体表面と液体界面の接線との間で測定される。例示の接触角の略図が
図6において示される。
【0058】
本文脈において、用語「RH」は、「液体の気体成分の相対蒸気飽和」を意味し、用語「相対湿度」の一般化である。相対湿度は、水の部分蒸気圧(PW)と大気中の水の飽和圧力(PSAT)との比率、即ち、RH=PW/PSATとして定義される。飽和圧力は、ここでは液体水と熱平衡にある水蒸気によって作用される部分圧力として定義される。RH値は、水以外の液体を含むように一般化できる。この場合、RHは、PW/PSATに等しいが、ここでPWは、所定の液体の気体成分によって作用される部分圧力として理解することになり、PSATは、所定の液体と熱平衡にある気体成分によって作用される部分圧力として理解することになる。部分圧力は、気相が幾つかの気体種によって構成される場合を参照する。こうしてRHは、対応する気相の蒸気飽和レベルの指標として考えられる。即ち、RH=0では、気相は液体の気体成分を含んでおらず、一方、RH=1では、気相は液体の気体成分の最大可能含有量を取り上げている。
【0059】
本文脈において、用語「RHI」は、「液体の気体成分の初期の相対蒸気飽和」を意味する。用語「液体の気体成分の初期の相対蒸気飽和」が適用される場合、それは、変化が起こりそうであり、熱平衡がまだ確立されていない状況を示す。例えば、もしPSATの特性飽和圧力を有する液体1が気相を含む閉じた環境に配置され、液体1の気体成分の部分圧力がP1である場合、P1<PSATであれば、液体は蒸発するようになる。こうして液体の気体成分の初期の相対蒸気飽和は、RHI=P1/PSATであり、その理由は、何れかの変化が起きる前にそれが計算されるためである。しかしながら、いったん液体1の蒸発が開始すると、RH値は、(i)気相を飽和させるRH=1まで、または(ii)全ての液体が蒸発するまで、RHI値から徐々に増加するようになる。
【0060】
本文脈において、用語「最大液滴体積」は、最適な条件で調製した場合、単一の親水性機構が支持できる最大液体堆積を参照する。液滴からの液体の蒸発の文脈において、蒸発した液体の体積割合は、最大液滴体積に対して計算される。平面的円形親水性機構についての例示の最大液滴体積の略図が
図6において示される。
【0061】
本文脈において、用語「凝集(aggregate)最大液滴体積」は、複数の液滴を含むパターンの最大液滴体積を一緒に加算することによって得られる体積の合計を参照する。パターンからの液体の蒸発の文脈において、蒸発した液体の体積割合は、凝集最大液滴体積に対して計算される。
【0062】
本文脈において、用語「サンプル」は、生物学的または化学的材料の収集物を参照し、これは研究室処理の対象であっても、そうでなくてもよい。サンプルは、液体または固体の形態を想定してもよく、デジタル計数のための入力として機能する特定の成分を含んでもよい。
【0063】
本文脈において、用語「検体(analyte)」は、特異サンプル成分を参照し、これはデジタル計数測定で利用されることになる。検体は、生物学的または分子の性質のものであり、(i)残りのサンプル材料から分離されることになり、及び/又は(ii)デジタル計数プロセスの際に明確に操作されることになる。
【0064】
本文脈において、用語「捕獲プローブ」は、例えば、検体を反応区画に保持し及び/又は閉じ込めるために、検体の特異領域を認識し結合することが可能な分子性質の化学的または生物学的物質(agent)である。
【0065】
本文脈において、用語「標識(labelling)剤」は、検体の特異領域を認識し結合することが可能な分子性質の化学的または生物学的物質である。標識剤の結合領域は、捕獲プローブの結合領域とは異なり、そのためデジタル計数測定の際、捕獲プローブ/検体/標識剤/-複合体が確立できる。さらに、1つ以上の検体-結合様式(modalities)とは別に、標識剤は、1つ以上の検出様式を含む。用語「標識剤」はさらに、1つ以上の物質を参照し、これは、共に結合した場合、検体-結合様式および検出様式を提供する。
【0066】
本文脈において、用語「検出様式」は、検出器によって検出可能な信号の発生を介在することが可能な生化学的、化学的、生物学的または物理的な部位(moiety)を参照する。信号は、性質が光学的、電気的または磁気的なものでもよい。さらに、検出様式は、信号発生を達成するために、検出剤に依拠してもよい。
【0067】
本文脈において、用語「検出剤」は、通常は分子性質の化合物を参照し、これは、適合した検出様式によって接触した場合、化学的または物理的状態を変化できる。検出剤の状態の変化は、適切な検出器によって記録され信号に転換できる。さらに、状態の変化を受けた検出剤は、レポータ分子または分子レポータと称してもよい。
【0068】
本文脈において、用語「検出可能濃度」または「最小検出可能濃度」は、反応区画に閉じ込められた分子レポータの最低濃度を参照し、これは適切な検出器によって検出可能にできる。濃度が検出可能になるために、分子レポータから得られる信号は、検出器のノイズレベルを超えることが必要である。一般に、分子レポータのより高い濃度は、検出器によって記録されるように、相応のより高い信号を生成する傾向がある。
【0069】
(本発明の特定の実施形態)
疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体を備えた、サンプル中の1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のためのフローシステムがここでは開示され、疎水性基板は、少なくとも1つの開口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。実施形態において、フロー区画は、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を低減する気相シールを支持するように構成される。実施形態において、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を最大液滴体積の50%未満に低減する。
【0070】
ここで開示する実施形態において、フローシステムは、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを提供する液滴領域を備え、蒸発耐性気相封止のナノリットルからアトリットルの液滴の形成を可能にする。
【0071】
ここで開示する実施形態において、フローシステムは、親水性/疎水性パターンとの液体接触を可能にするために、液滴領域を覆う1つ以上のフロー区画、例えば、フローチャネルを備える。
【0072】
ここで開示する実施形態において、フローシステムは、フロー区画および液滴領域に液体および試薬を供給するための液体装填パッドを備える。
【0073】
ここで開示する実施形態において、フローシステムは、フロー区画を液体装填パッドに接続する液体入口を備える。
【0074】
ここで開示する実施形態において、フローシステムは、吸引を提供し、そしてフロー区画を介して液体駆動に介在する圧力源にフロー区画を接続する液体出口を備える。
【0075】
ここで開示する実施形態において、フローシステムは、単一分子デジタル計数デバイスとして機能するために、少なくとも5つの区別できるエレメントを備える。
図10も参照。
【0076】
これらは下記に示す。
・疎水性基板によって包囲された親水性機構のパターンを提示する液滴領域であり、蒸発耐性気相封止のナノリットルからアトリットルの液滴の形成を可能にする。
・液滴領域を覆う1つ以上のフロー区画であり、親水性/疎水性パターンとの液体接触を可能にする。
・フロー区画に液体および試薬を供給するための液体装填パッド。
・フロー区画を液体装填パッドに接続する液体入口。
・吸引を提供し、そしてフロー区画を介して液体駆動に介在する圧力源にフロー区画を接続する液体出口。
【0077】
上述した5つの機構は、例示のフローシステムを画定し、液体は、入口から出口への圧力降下を用いてフロー区画を横断して駆動される。吸引を印加する代わりに、装填パッド中の液体試薬をフローチャネルを介して押し込んでもよい。これは、装填パッドが、一方の側で圧力源に接続され、他方の側で液体入口に接続されることが必要である。この場合、液体出口は、圧力源に接続される必要がない。液体フローを駆動する代替手段は、重力によるものでもよく、この場合、圧力源は必要ではなく、あるいは、誘電泳動駆動によるものでもよく、これは電極をフローチャネルに組み込む必要がある。ここで開示する一実施形態において、液体駆動は吸引駆動される。
【0078】
当業者に知られているように、類似の機能的フローシステムが多くの異なる手法によって製造できる。これらは下記の手法を含むが、これに限定されない。
1.コンピュータ数値制御(CNC)フライス加工、射出成形、熱エンボス加工、または3次元印刷を用いて、固体基板にフロー区画を製造する。
2.CNCフライス加工、射出成形、熱エンボス加工、または3次元印刷に適合した任意の固体基板を適用する。
3.1つ以上のコンポーネントからフローシステムを作成し、続いてコンポーネントを共に接合して、所望の幾何形状または機能性を達成する。接合する手法は、感圧接着フィルム、液体接着剤のスプレーコーティング、熱接合、超音波溶接またはレーザ溶接を含む。接合する代わりに、個々のコンポーネントは、例えば、最終アセンブリを生産するために、機械的、電気機械的または磁気的にクランプしてもよい。マイクロ流体用途のために利用される接合および製造プロセスの概要は、文献(Temiz, Y., Lovchik, R., Kaigala, G. V. and Delamarche, E. in "Lab-on-a-chip devices: How to close and plug the lab" published in Microelectronics Engineering, vol. 132, pp. 156-175 (2015) (DOI: 10.1016/j.mee.2014.10.013))を参照。
【0079】
ここで開示するように、基板上の親水性機構は、それぞれ最大液滴体積を有する複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。親水性表面は、該最大液滴体積を有する液滴を保持できる任意の種類でもよい。即ち、該最大液滴体積の液滴が親水性機構の上に残留するようになる限り、親水性機構は、こうした液滴を支持するように構成される。
【0080】
ここで開示する実施形態において、液滴領域は、疎水性媒体によって包囲された親水性機構のパターンからなる。この実施形態において、親水性機構の幾何形状、液体および疎水性基板の物理的/化学的特性は、最大液滴体積を決定し、単一機構がこれを保持することが可能であり、そのため液体は周囲の疎水性媒体と接触しない。最大液滴体積を実験的に決定する1つの方法は、増加する量の液体を初期乾燥親水性機構の上に堆積することである。液体堆積は、自動化マイクロディスペンサを用いて実施でき、あるいは、ミクロンサイズの機構の場合は、圧電駆動マイクロマニピュレータを用いて実施できるが、蒸発が起きないように加湿チャンバ内で行う必要がある。さらに、顕微鏡を用いて、堆積した液滴の設置面積が測定できる。その結果、測定した設置面積が親水性機構によって画定される外周をいったん超えると、最大液滴体積に到達し、そして上回る。
【0081】
実験的手法とは別に、最大液滴体積はまた、簡単な理論モデルから推定できる。この場合、親水性機構がR
Dの半径を有する円形であり、疎水性媒体と接触した場合、液体がγの接触角を示し、液滴が平面的表面の上に静止する(
図5と
図6を参照)ものと仮定する。さらに液滴は、重力が液滴の形状に著しく影響しないように充分に小さいものと仮定する。液体が親水性機構の上に堆積した場合、それは外周まで広がり、液体は接触角αを形成する。接触角αは、液滴表面への接線が外周において平面的親水性表面と形成する角度として定義される。液滴の体積が増加すると、αも増加するが、特定のポイントまでだけである。もしαがγを超えた場合、液滴が疎水性媒体の上に広がることがエネルギー的により有利になり、こうして疎水性外周を超える。その結果、最大液滴体積においてαはγと等しく、体積(V
D)は、下記式(1)のように、キャップ付球体の幾何学的記述から得られる。
【0082】
【0083】
90°に充分に近いγ値では、式(1)は、液滴を半球形状のキャップであると仮定することによってさらに簡略化でき、下記のVD値を示す
【0084】
【0085】
さらに他の場合、親水性機構が、半径RDおよび深さdを備えた円形空洞として形状を有する場合、最大体積は、πdRD
2の空洞体積を式(1)に追加することによって見出される。
【0086】
一実施形態において、親水性機構は、ナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成され、液滴は、少なくとも90度、多くても150度の、疎水性基板での接触角を示す。一実施形態において、親水性機構は、少なくとも0.1μm、多くても100μmの半径(RD)を有するナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。
【0087】
疎水性媒体によって包囲された親水性機構のアレイを製造するために多くの手法が採用できるが、最も容易に適用可能なものはフォトリソグラフィを含む。フォトリソグラフィは、ミクロンサイズの化学的及び/又は物理的構造を正確に生産することが可能であり、感光性薄膜を用いた平坦なウエハ基板のコーティングに依拠する。次のステップにおいて、薄膜は、意図したパターンを提供するフォトマスクを介して高強度の紫外光への露光によって選択的に除去される。例示の製造プロセスの略図が
図7において示される。しかしながら、UVフォトリソグラフィの光学分解能に起因して、0.1μm以下の機構を正確に生産することは技術的に困難である。パターン化された親水性機構が平面的円形であり、0.1μmのR
D値を示す場合、対応する最大液滴体積は、式(1)に従って、90°のγ値ではV
D=2.9アトリットルであり、150°のγ値ではV
D=33.1アトリットルである。
【0088】
0.1μmまで下がるRD値を示す親水性機構は高密度のアレイを許容し、これは、単一分子デジタル計数の文脈において、(i)拡張したダイナミックレンジ、および(ii)より高速な検出時間につながる。
【0089】
拡張したダイナミックレンジは、デジタル計数では、測定に存在する液滴区画の数は信号線形性を決定するという事実に起因する。信号は、全ての液滴区画が信号を生成し、即ち、アレイが飽和するまで、線形であると考えられる。例えば、0.1μmのRD値および0.4μmの機構間間隔を有する10mm×10mmをカバーする規則的な矩形アレイが、625000000個の液滴を収容し、約8桁に及ぶ線形ダイナミックレンジを示す。
【0090】
より高速な検出時間は、デジタル計数では、分子レポータは、通常、酵素または酵素的に結合したシステムによって生成されるという事実に依拠する。本実施形態において、単一酵素は、非-蛍光性/-化学発光性/-比色分析性の分子の蛍光し/発光し/吸収するもの(分子レポータ)への繰り返し変換によって信号を生成する。レポータ分子の最小検出可能濃度は、液滴体積に依存し、、一定の酵素ターンオーバーレートを仮定すると、体積が小さいほど、より高速に濃度に到達する。
【0091】
他方において、ナノリットル範囲のより大きい体積を示す液滴(例えば、100μmのRD値を備えた円形平面的親水性機構は、90°のγ値では2.1ナノリットルの最大体積を有し、150°のγ値では33.1ナノリットルの最大体積を有する)は、(i)大きいダイナミックレンジが必要でない、例えば、検体濃度がアレイを飽和させるには低すぎると予想される状況、または(ii)サブナノリットル液滴が撮像センサによって解像できない状況において、好都合であろう。
【0092】
代替として、ナノリットル体積液滴は、測定前に、より大きい生物学的実体、例えば、細胞、細胞片、ウイルス粒子、ベシクル(vesicle)、オルガネラ(organelle)などをアレイ化して編成するために使用できる。
【0093】
一実施形態において、親水性基板は、ガラス、親水性ポリマーまたは金属酸化物化合物である。
【0094】
親水性基板についての主要な要件は、液体がその上に接触角を形成する必要があり、それが疎水性基板より小さいことである。さらに、基板は、好ましくは、マイクロ製造手法、例えば、フォトリソグラフィ、ソフトリソグラフィ、マイクロインプリンティングなどにとって従順であることが必要である。二酸化シリコンおよびその純粋およびドープした異形は、この目的に適した選択肢であり、その理由は、フォトリソグラフィのために良好に特徴付けられた基板として機能するだけでなく、多数の化学的および生化学的な表面機能化手順が利用可能であるためである。例えば、広範囲のシラン化合物が市販されており(例えば、ゲレスト(Gelest)社によって発表されている"Silane coupling agents, version 3.0"を参照)、これは二酸化シリコン表面の直接的誘導体化のために使用できる。シラン化(silanization)が、その表面、例えば、二酸化シリコンでシラノール基を提示する材料にとって最も効率的であるが、多くの他の材料がこのプロセスにとって従順にできる。これらは、これに限定されないが、アルミニウム、アルミノケイ酸、シリコン、銅、錫、タルク(talc)、無機酸化物(例えば、鉄酸化物、チタン酸化物、クロム酸化物)、鋼、鉄、ニッケル、亜鉛を含む。
【0095】
基板のシラン誘導体化の際、新しい化学官能性が材料に導入され、液体は、機能化の後に基板上で変更された接触角を示すことができる。この理由のため、初期の親水性基板、例えば、ガラスは、疎水性シラン部位、例えば、フッ化炭素シランを用いた機能化によって疎水性にできる。代替として、初期の僅かに親水性の基板が、高い親水性のシラン部位、例えば、ポリ(エチレングリコール)シランを用いた機能化によってより親水性にできる。これは、当業者によく知られており、液体/固体接触角は、本文書で参照されており、任意の初期基板材料の表面改質に続いて得られた液体/固体接触角に関連しているだけである。
【0096】
無機基板のシラン誘導体化は、新しい化学的機能を基板に導入する多くの手順の中から1つだけを構成する。他の手法は、例えば、自己組織化単分子層を生成するために、金基板へのモノチオール化化合物の吸着を含む。さらに他の手法は、柔軟な有機基板、例えば、プラスチックにとって従順である、プラズマ重合であり、所望の化学ポリマーの薄い層が、対応するモノマーのプラズマからプラスチック表面に堆積される。
【0097】
親水性機構の構成は、下記の少なくとも1つと関連できる。
・親水性機構を構成する材料の親水性
・疎水性基板を構成する材料の疎水性
・機構のエリア
・機構の厚さ
【0098】
一実施形態において、最大液滴体積は、式(1)によって計算されるようなVDである。従って、親水性機構は、この体積の液滴が親水性機構の各々に保持できるように提供できる。
【0099】
最大液滴体積から個々の親水性機構の特定の構成に至る方法の例として、下記ステップが実行できる。
1.最初に、目前の応用のために適切な液滴体積を選択する。液滴体積についての前述した議論を参照。
2.次に、この応用で適用される液体について固体/液体接触角γを取得する。
3.親水性機構の所望の幾何形状、即ち、円形、四角、六角形などについて決定する。形状は、パターンを生成するために適用される製造手順に依拠することになる。
4.ステップ3からの特定形状の外周長と対応する最大液滴体積との間の関係を計算する。円形形状の場合、関係は式(1)で提供される。他の幾何形状については、関係は、式(1)の誘導について記述したのと同様な方法で誘導する必要があるであろう。
5.ステップ4での関係から、選択した液滴体積に対応する外周長を取得する。円形形状の場合、それはRDについて式(1)を解くのに充分である。
【0100】
更なる実施形態において、親水性機構のパターンが位置するフロー区画の構成は、機能的気相シールを設けてミクロンサイズの液滴からの蒸発を低減するために決定する必要がある。例えば、アトリットルの水性液滴が周囲条件で基板上に堆積した場合、それは、高い表面/体積比に起因して、数秒以内に蒸発するようになる。その結果、液滴内容物を測定する必要がある用途では、液滴は、延長した時間に渡って安定であることが要求され、蒸発は、大きく減少させたり、または完全になくす必要がある。
【0101】
更なる実施形態において、親水性機構のパターンを収容するフロー区画がここでは開示され、親水性機構は、上述したような特定の最大体積の液滴を支持するように構成され、フロー区画は、体積VCを示し、液滴支持親水性パターンの最大到達可能凝集体積は、VDAで示される。該パターンが、それぞれ同じ最大液滴体積(VD)を示す多数の液滴(ND)を収容する場合、VDA=VD・NDである。該パターンが、変化するサイズの液滴を収容する場合、対応するVDA値は、下記の式(2)として与えられる。
【0102】
【0103】
ここで、VD,iはパターン上のi’番目の液滴の最大体積である。その結果、液体の対応するモル量(nDA)は、下記の式(3)である。
【0104】
【0105】
ここでMWは液体のモル重量であり、ρLは液体の密度である。もし全ての液滴が完全に蒸発するとした場合、蒸発した蒸気は理想気体として挙動すると仮定して、得られた蒸気は、下記の式(4)のように、フロー区画において対応する蒸気圧(PVAP)を生成する。
【0106】
【0107】
ここで、Rは、モル気体定数であり、Tは、温度である。しかしながら、完全な液滴蒸発がVC>>VDAについて可能なだけであり、理由は、その場合、完全な液滴蒸発によって生成される蒸気量がフロー区画の初期の蒸気圧を著しく変化させないためである。しかしながら、VDAのそれに接近するフロー区画体積では、飽和蒸気圧(PSAT)が確立状態になるまで、液滴蒸気はフロー区画での圧力を増加させる。いったんPSATに到達すると、更なる蒸発は可能ではない。PSAT値、即ち、熱力学的平衡において液体の気体成分によって作用される蒸気圧は、下記の式(5)のように、クラウジウス・クラペイロンの式によって与えられる。
【0108】
【0109】
ここで、ΔHVAPは液体の蒸発のエンタルピーであり、P0は対応する基準温度T0での液体の基準蒸気圧である。
【0110】
その結果、蒸発することが可能な液体の最大許容モル量(nVAP)は、下記の式(6)のように、理想気体方程式から取得できる。
【0111】
【0112】
nVAP≧nDAでは、完全な液滴蒸発が起こる。最大フロー区画体積(VMAX)、即ち、液滴が完全には蒸発しない最大可能フロー区画体積についての表現は、ここでは下記の式(7)のように取得できる。
【0113】
【0114】
その結果、機能的で長期安定な液滴パターンを収容することが可能なフロー区画は、VC<VMAXのように構成する必要がある。
【0115】
式(7)での表現は、平衡の状態を参照する。平衡への経路は多数であるが、下記のように説明できる。(i)親水性機構のパターンが液体と接触して、例えば、液滴のパターンを生成し、各液滴は初期に最大可能体積を示すようにする。(ii)飽和圧力がフロー区画内で確立するまで、液体が液滴から蒸発する。(iii)蒸発に起因して減少した体積を有する液滴が安定に留まる。
【0116】
重要なのは、パターンは、機能的気相シールを生成するのに適した方法で液体と接触する必要がある。例えば、液体プラグをパターンを横断して駆動することによって、液体マイクロ液滴を親水性機構の上に堆積する。いったん液体プラグがアレイ上の全ての機構に接触すると、液体入口および出口は封鎖して、例えば、閉じた環境を提供する必要がある。これは、多くの方法、例えば、(i)液体入口および出口にバルブを設置することによって、または(ii)液体フローを同期させて、第1液体プラグが第2液体プラグによって続くようにし、第1のものは液体出口に駆動されて、そして停止し、第2のものは液体入口に駆動され、こうして入口および出口を液体で封鎖することによって達成できる。こうして液滴から蒸発した液体は、フロー区画において飽和圧力を確立するようになり、よって蒸発耐性になる。これは、例1と例2に例示される。
【0117】
さらに、式(7)および下記議論において、フローシステムが調製される気相は、親水性機構のパターンを液体と接触させる前に、蒸発した液体(即ち、液体の気体成分)を含まないと仮定した。しかしながら、これは、常にそうではないことがある。例えば、液体が水で、気相が大気である場合は、空気は、初期に一定割合の水蒸気を含むことがある。大気では、相対湿度(RH)は、飽和圧力に対する水蒸気圧力を提供し、即ち、RH=PW/PSATであり、ここでPWは大気中の水蒸気の部分圧力である。大気の初期の相対水蒸気飽和(RHI)が0に等しい場合、空気は水蒸気含量を有することがなく、よって式(7)が適用できる。他方では、RHI>0の場合、式(7)は、変更を必要とし、その理由は、飽和圧力を確立するために蒸発する必要がある液滴がより少ないためであり、こうして式(6)を参照。
【0118】
【0119】
これは、VMAXについて下記の式(9)に転換する。
【0120】
【0121】
本文脈において、RHIは、可能な限り一般的に理解され、即ち、水に関連するだけでなく、いずれか他の液体にも関連する(定義についての上記セクションを参照)。この場合、RHIのより一般的な定義は、RHI=PL/PSATであり、ここでPLは適用した液体の気体成分の初期蒸気圧である。PL値は、液滴アレイの形成の前にフローシステムが使用される気相を参照する。気相シールは、いったんフロー区画の内側で飽和圧力に到達すると、確立状態になる。こうしてフロー区画では局所的に、RH値は、初期値から1に上昇し、完全な飽和および機能的気相シールを示す。
【0122】
一実施形態において、ここで開示するフロー区画は、体積(VC)を有し、体積(VC)は、全てのナノリットルからアトリットルの液滴の凝集最大液滴体積(VDA)より大きく、式(9)で計算されるようなVMAXより小さい。
【0123】
ここで開示する実施形態において、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを備えた、検体のデジタル計数のためのフローシステムの最適な構成を得るために、(i)個々の親水性機構の構成、(ii)機構のパターンの構成、(iii)パターンが位置する区画の構成、を考える必要がある。集合的に、これらの3つの構成は、フローシステムに、気相シールを用いてマイクロ液滴の蒸発耐性パターンを維持する能力を提供する。個々の親水性機構の構成は上述している。フローシステム構成を決定する例示の次のステップは、下記のとおりである。
1)用途に必要とされる液滴の合計数を決定する。上述したように、液滴の合計数は、測定のダイナミックレンジを決定し、検体の予想される濃度範囲に整合させる必要がある。
2)パターンについてのVDA値は、ここでは式(2)から計算でき、フロー区画体積、即ち、VC値について下限を提供する。
3)適用される液体の公称モル重量(MW)および体積密度(ρL)、そして測定が行われる温度(T)およびRHI値を決定する。基準温度、圧力、蒸気のエンタルピーについて適切な値セットを適用して、式(9)を用いてフロー区画体積についてVMAXを計算する。例えば、水についてはP0=1.0atm、T0=373Kであり、40.7kJ/molのΔHVAP値を示す。
4)親水性機構のパターンの特定配置、例えば、正方形格子アレイ、六角形格子アレイ、矩形格子アレイ、菱形格子アレイなどを決定する。好ましいアレイ幾何形状は、通常、製造方法によって決定されることになる。液滴の合計数を収容するために、アレイの長さおよび幅を決定する。
5)フロー区画幾何形状、例えば、矩形チャネル、円形チャネル、半円形チャネルなどを決定する。好ましいアレイ幾何形状は、通常、製造方法によって決定されることになる。
6)合計体積がVMAXより小さくなるように、フロー区画幾何形状を拡大縮小する。この例が例2において提供される。簡潔には、矩形チャネルの場合、合計体積は、チャネルの幅×長さ×高さとして与えられる。チャネルの幅および長さは、例えば、アレイと整合でき、高さを可変にする。こうして高さは、VMAXより小さい合計体積を提供するように選択できる。
【0124】
更なる実施形態において、親水性機構は半径(RD)を有する円形であり、単一親水性円が支持できる最大液滴体積(VD)は式(1)で提供されるフローシステムがここでは開示される。
【0125】
実施形態において、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発は、各ナノリットルからアトリットルの液滴の最大液滴体積の、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、1%未満である。
【0126】
フローシステムの所定の構成では、即ち、VC値およびVDA値の特定のセットでは、対応する蒸発割合θVAPが計算できる。蒸発割合は、気相の中に蒸発する液滴体積割合、即ち、θVAP=nVAP/nDAとして定義される。式(3)および式(8)をこの表現の中に挿入すると、下記の式(10)が得られる。
【0127】
【0128】
θVAPが1より大きい値を仮定した場合、液滴アレイ全体は、例えば、大きすぎるフロー区画体積、アレイ上の少なすぎる液滴、高すぎる温度、小さすぎる親水性機構などに起因して蒸発した。他方、θVAPが1より小さい場合、気相シールは機能的と考えられ、理由は、無傷の液滴(減少した体積を示すが)が親水性機構の上に残留できるためである。
【0129】
原理上は、液滴を蒸発に対して封止可能である、当業者に知られたいずれの気体も使用できる。気相シールの例は、大気、窒素、アルゴンまたはヘリウム、あるいはこれらの混合である。一実施形態において、気相シールは、大気、窒素、アルゴンまたはヘリウムによって設けられる。更なる実施形態において、気相シールは、大気によって設けられる。
【0130】
デジタル計数測定は、単一検体分子が直接に検出可能であり、よってサンプル中のその濃度を決定するように計数可能にする。デジタル計数測定は、デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)、デジタル酵素結合免疫吸着法(dELISA)、およびその変形において適用される。dPCRでは、単一ヌクレオチド検体が反応区画に隔離され、ポリメラーゼ支援ヌクレオチド増幅およびアンプリコン(amplicon)の蛍光標識化に曝される。dELISAでは、単一タンパク質/ペプチド検体がマイクロコロイド粒子の表面に捕獲され、酵素標識抗体(enzyme-conjugated antibody)を用いて標識化され、顕微鏡的反応区画に隔離され、検出試薬が供給される。検出試薬は、酵素によって処理された場合、光学信号(例えば、蛍光、化学発光、吸光度)を発生し、これは、反応区画の顕微鏡的体積に起因して検出可能濃度に迅速に到達する。デジタル計数測定の原理は、
図8において概説している。
【0131】
ここで開示する実施形態において、ここで説明するようなフローシステムを用いて所定の検体のデジタル計数測定を実行するには、少なくとも下記の3つの一般ステップが必要であり、即ち、(1)検体捕獲、(2)検体標識化、(3)検体計数、例えば、
図9の略図を参照。ステップ1において、サンプルからの検体は、親水性機構の上に特異的に捕獲される状態になる。ステップ2において、捕獲された検体は、適切な薬剤、例えば、酵素複合体(enzyme-conjugate)を用いて特異的に標識化される状態になる。ステップ3において、マイクロ液滴のアレイは、液体が検出剤を含むように形成される。標識剤が酵素である場合、検出剤は、酵素のための蛍光性/発色性/化学発光性の基板にできる。基板の処理時に、検出可能な光学信号が液滴中に生成され、これは、標識剤および検出試薬の両方を初期に抱えていた。 次に、信号を生成する液滴が、アレイの光学イメージングによって計数できる。
【0132】
一実施形態において、フローシステムは、1つ以上の区別できる検体タイプのための1つ以上の捕獲プローブを備え、捕獲プローブは、親水性機構に付着される。更なる実施形態において、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置される。
【0133】
dPCRおよびマイクロコロイド支援dELISAに対する本発明の利点が、検体が親水性機構の上に特異的に捕獲、編成される状態になれることである。これは、(i)単一測定でのいくつかの異なる検体タイプを測定する場合、および(ii)繰り返し測定が要望される場合に評価される。
【0134】
第1のケースでは、異なる捕獲プローブがフロー区画内の異なる領域に配置でき、そのため一方の検体タイプに特異的な捕獲プローブが第1領域に局所化され、他の検体タイプに特異的な他の捕獲プローブが第2領域に局所化され、以下同様である。これは、数百のターゲット検体が単一測定で検出できるDNAおよびタンパク質のマイクロアレイ研究の分野において周知の戦略であり、例えば、文献(Weinrich, D. et al entitled "Applications of Protein Biochips in Biomedical and Biotechnological Research" published in Angewandte Chemie International Edition (2009), vol. 48, pp. 7744-7751. (DOI: 10.1002/anie.200901480))を参照。
【0135】
第2のケースでは、標識剤および検出剤を除去し、これらをフローシステムに再導入することによって、デジタル計数を繰り返すことが可能である。捕獲した検体は、親水性機構の上に固定された状態で残留し、例えば、信号対ノイズ比を改善するために、デジタル計数測定を繰り返すことができ、例5を参照。これは、dPCRまたはdELISAでは可能ではなく、その理由は、検体を除去することなく、標識剤および検出剤が除去できないためである。
【0136】
一実施形態において、1つ以上の区別できる検体タイプのための1つ以上の捕獲プローブは、リンカー(linker)部位によって親水性機構に付着される。リンカー分子は、多くの場合、親水性機構の硬い無機表面を柔軟な有機捕獲プローブに接続するように機能する。こうしてリンカー分子は、捕獲プローブを表面に接続するために、二重化学官能性を含むことができる。リンカー分子は、ポリ(エチレン-グリコール)ポリマーであるように選択でき、これは柔軟かつ不活性で親水性である。これらはまた、直線アルカン鎖であるように選択できる。ポリ(エチレングリコール)リンカーは、異なるサイズ/長さに調製でき、よって表面と捕獲プローブとの間により大きい分離を提供し、一方、アルカン鎖は一般的により短い。他のリンカー分子は、これに限定されないが、ポリペプチドまたはオリゴヌクレオチドを含む。リンカー分子に存在する化学官能性は、反応性化学基、例えば、アルデヒド、アルキン、アミン、アジド、ビオチン、Boc/Fmoc保護アミン、カルボン酸、エポキシド、ヒドラジド、ヒドロキシル、マレイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド、チオール、ビニルスルホンおよびその変異体などの大きな選択から選択できる。
【0137】
一実施形態において、2つ以上のタイプの捕獲プローブが親水性機構に付着され、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置される。一実施形態において、捕獲プローブは、下記のプローブグループ、即ち、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、またはその合成変異体から選択される。
【0138】
捕獲プローブがオリゴヌクレオチドである場合、プローブは、他のオリゴヌクレオチドを捕獲することができ、これは、相補配列を捕獲プローブのそれに提示する。合成オリゴヌクレオチド変異体、例えば、ロックド(locked)核酸(LNA)またはペプチド核酸(PNA)などは、ストランド侵入特性を示し、一本鎖または二本鎖のDNAを捕獲するためにも利用できる。アプタマー(aptamer)も、タンパク質またはペプチドの捕獲を可能にする捕獲プローブとして利用できる。さらに、抗体または抗体の断片が、タンパク質、ペプチドまたは小分子の特異的捕獲に介在するために、捕獲プローブとして使用できる。
【0139】
一実施形態において、親水性機構基板のパターンを有する疎水性支持体は平面的である。更なる実施形態において、親水性機構のパターンは、親水性機構がアレイ状に配置された少なくとも1つの領域を含む。
【0140】
実施形態において、親水性機構は、正方形平面アレイ状に編成され、機構は、半径(RD)を有する円として形状をなし、アレイは、隣接する機構の間のピッチ(δ)を有し、δは少なくとも3RDであり、アレイは、フロー方向に沿って長さ(LAX)に延びており、アレイは、フロー方向に対して垂直な長さ(LAY)に延びており、チャネルは、フロー方向に沿って長さ(LCX)を有し、LCXはLAXより大きいか、またはこれに等しく、チャネルは、フロー方向に対して垂直な長さ(LCY)を有し、LCYはLAYより大きいか、またはこれに等しく、チャネルは、高さ(h)を有し、これは少なくとも2RDで、多くてもhMAXであり、hMAXは下記の式(11)から計算される。
【0141】
【0142】
ここで、θMAXは液滴の最大許容蒸発体積割合であり、VD(RD,γ)は式(1)に係る最大液滴体積である。式(11)に到着するために、式(10)を検討する必要があり、これは蒸発割合(θVAP)を、フロー区画体積(VC)および液滴アレイの最大凝集体積(VDA)の関数として表現する。上述した幾何形状を示すフロー区画では、フロー区画体積はVC=hLCXLCYであり、最大凝集液滴アレイ体積はVDA=VD(RD,γ)LAXLAYδ-2である。気相シールを提供するために、フロー区画の機能的構成を確立する1つの手法は、液滴の最大許容蒸発体積割合を適切な値、例えば、θMAX=0.05に設定することである。次に、フロー区画高さを唯一の可変パラメータとして残すことによって、最大許容高さ(hMAX)は、VC=VMAX=hMAXLCXLCY、VDAおよびθMAXを式(10)に挿入し、hMAXについて解くことによって得られ、こうして式(11)の結果に到着する。
【0143】
一実施形態において、親水性機構のパターンは、少なくとも2つの領域を備え、一方の領域のアレイは、他方の領域のアレイと相違する。
【0144】
親水性機構が種々のサイズの液滴を支持するように構成された場合、式(11)のhMAXの計算は、パターン上の液滴体積の最小値に対応するVD値を用いて実行する必要がある。こうしてアレイ上の最小液滴および最大液滴の両方は、θMAX値で記述されるものより多く蒸発することなく、安定に残留できる。
【0145】
一実施形態において、親水性機構のための支持体は、フロー区画内に中央に設置される。
【0146】
親水性機構を備えるアレイのフロー区画での中央場所が通常は好ましいが、アレイの正確な場所は前回の計算の結果に影響しない。これは、計算が、熱力学的平衡、即ち、親水性機構によって支持された液滴からの蒸発レートが、フロー区画内の蒸気の液滴への凝縮レートに等しいという平衡がフロー区画内で確立されるという仮定に基づいていることに起因している。しかしながら、区画内の蒸気の輸送動態に起因して、中央設置アレイが、非中央設置のものと比較してより高速に平衡に到達できる。
【0147】
一実施形態において、親水性機構の数は、少なくとも1000個、少なくとも10000個、少なくとも100000個、少なくとも1000000個、少なくとも10000000個である。
【0148】
一実施形態において、疎水性層は、基板に共有結合的に接合した分子単層(monolayer)である。一実施形態において、疎水性層は、金属基板上に化学吸着した分子単層である。
【0149】
一実施形態において、フロー区画は、チャネル形状であり、フロー区画の対向端部での2つの開口の間でフロー方向を形成する。一実施形態において、フロー区画および開口は、フロー方向に対して垂直な断面で矩形形状を有する。一実施形態において、フロー区画は、矩形形状を有し、開口は、フロー方向に対して垂直な断面で円形形状を有する。
【0150】
一態様において、フローシステムを調製する方法がここでは開示される。
【0151】
本発明の全体理解を提供するために、酵素のsELISA分析を可能にするマイクロ液滴のアレイを支持するシステムを含む、特定の例示の実施形態をここでは説明する。しかしながら、ここで説明するシステムおよび方法は、他の適切な用途のために適合でき変更でき、そしてこうした他の追加および変更がその範囲から逸脱しないことは、当業者によって理解されよう。
【0152】
図1は、減少した蒸発レートを備えた、複数のマイクロ液滴を支持するためのシステムの一実施形態を示す。詳細には、
図1は、矩形フロー区画が複数のマイクロ液滴を収容するシステム18を示す。マイクロ液滴は、フロー区画の底表面に配置される。フロー区画の各端部は、周囲環境に対して開放される。
【0153】
図2は、フロー区画の端部の断面図である。
図2は、本実施形態では、端部が、高さh(垂直矢印で示す)の形状の四角であることを示す。
図1に戻って、マイクロ液滴のアレイの各端部は、フロー区画の端部から距離L
E(二重矢印で示す)だけ離れていることを示す。
【0154】
図1のフロー区画は、マイクロ液滴のアレイを支持するフローチャネルである。マイクロ液滴は、いずれか既知の手法を用いてフローチャネルの中に挿入できる。図示したフローチャネルの寸法は、
図1から全体的に理解でき、チャネルの高さh、マイクロ液滴のアレイによって覆われるフローチャネルの長さであるL
A、入口および出口からマイクロアレイを分離するチャネルの長さであるL
E(マイクロ液滴のアレイのいずれの部分も支持しない)によって特徴付けられる。フローチャネルの長さ、高さおよび形状が与えられると、該フローチャネルの体積を計算することが可能である。こうした計算の1つの詳細が例2に設定される。
【0155】
各液滴が、本質的に半球であり、そのようにモデル化できる。半球状液滴は、ある半径を有することになる。液滴は、本質的には標準ピッチで離隔している。ドットは、直線アレイ、四角アレイまたはいずれか他の適切な配置でもよい。当然ながら、マイクロ液滴のアレイに含まれる液体の合計凝集体積を液滴の半径および数の関数として推定することが可能である。こうした計算の1つの詳細が例2に設定される。
【0156】
いったんフローチャネルの幾何形状が知られると、利用可能な体積が計算できる。体積および平衡水蒸気圧(P
W)は、クラウジウス・クラペイロンの式によって記述されるように、蒸発する水の量を決定する。こうした計算の1つの詳細が例2に設定される。蒸気圧は、液滴から蒸発した水によって発生するため、それはフローチャネル内の空気を加湿し飽和させる。その結果、凝集液滴体積の小さい割合だけが平衡蒸気圧を確立するのに充分である場合、残りの水体積は、液滴として表面に保存されることになる。こうして加湿された空気は、
図3に示すように気相シール(マイクロ液滴を包囲するドット状充填で示す)を提供する。
【0157】
溶液の特定の体積について、例えば、特定の高さhを選択することによって、
図11Bに示すように、蒸発した水の量を約5%に保持できる。
【0158】
気相シールが確立されたプロセスは、
図4に顕微鏡写真で示している。ここで、水のプラグが、フローチャネルの一方の端部から他方へ駆動され、明確に画定されたミクロンサイズの水性液滴を残す。後退する水際(water-front)は顕微鏡写真の左側に見えており、液滴のアレイは水際の右に見えている。黒矢印は、液体が駆動される方向を示す。
【0159】
(用途)
ここで説明する本発明は、多くの可能性ある用途を有し、これは当業者に知られており、例えば、文献(Witters et al. in Digital Biology and Chemistry (DOI: 10.1039/C4LC00248B, (Frontier) Lab on a Chip, 2014, 14, pp. 3225-3232))を参照。これらは、アッセイのクラスを含み、我々は単一酵素結合分子分析(SELMA)と称している。SELMA式アッセイは、単一のペプチド、タンパク質及び/又はオリゴヌクレオチド分子の操作および検出に依拠している。
【0160】
一態様において、ここで開示されるフローシステムは、1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数の方法において使用できる。
【0161】
SELMA式測定は、検体が、気相封止された液滴内に固定されるデジタル計数アッセイであり、続いて検体は、1つ以上のステップで酵素共役剤を用いた標識化が施される。液滴のナノリットルからアトリットルの体積に起因して、単一酵素が、検出剤の連続的な酵素的変換によって数秒から数分以内に検出可能な信号を生成することができる。
図9において、例示のSELMA式測定の略図を示しており、例4においてSELMAの実験的論証を説明している。
【0162】
一態様において、1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のための方法がここでは開示され、該方法は、気相シールの下での複数のナノリットルからアトリットルの液滴に含まれる検体タイプを計数することを含む。
【0163】
ここで開示する実施形態において、気相シールは、マイクロ液滴の蒸発を低減できる、フロー区画内の蒸気圧を確立する。
【0164】
ここで開示する実施形態において、デジタル計数は、フローシステムにおいて実施され、該フローシステムは、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体を備え、疎水性基板は、少なくとも1つの開口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。
【0165】
ここで開示する実施形態において、親水性機構は、半径(RD)を有する円形であり、単一の親水性円が支持できる最大液滴体積(VD)は、下記の式である。
【0166】
【0167】
ここで、γは疎水性基板上の液体接触角である。
【0168】
ここで開示する実施形態において、気相シールは、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を最大液滴体積の50%未満に低減する。
【0169】
ここで開示する実施形態において、ここで開示するフローシステムは、ここで開示する方法において使用される。
【0170】
ここで開示する実施形態において、方法はさらに、(i)疎水性基板の中または上にある親水性機構のパターンを、1つ以上の検体タイプを含むサンプルに接触させるステップを含む。
【0171】
ここで開示する実施形態において、方法はさらに、(ii)親水性機構の上で少なくとも1つの検体タイプを捕獲するステップを含む。
【0172】
多数の検体タイプが、親水性機構の上で捕獲することができ、これらは、より詳細に前述したように、(生)化学的機能化が施されている。例えば、オリゴヌクレオチド系検体、例えば、RNA、mRNA、ウイルスRNA、DNA、ウイルスDNA、バクテリアDNA、DNA/RNA-複合体またはタンパク質/DNA/RNA-複合体などを特異的に捕獲するためには、相補オリゴヌクレオチド配列を提示するオリゴヌクレオチド系捕獲プローブを検体のものに付与することが必要であろう。タンパク質系またはペプチド系の検体またはその複合体を特異的に捕獲するためには、抗体系またはアプタマー系の捕獲プローブを付与することが必要であり、これは検体の三次構造、即ち、抗原/抗体会合を特異的に認識する。全体の生物学的実体またはマクロ分子集合体、例えば、細胞、バクテリア、ウイルス、ウイルス様粒子、ナノ粒子、または細胞断片などを含む検体は、検体によって提示された抗原を特異的に標的にする抗体を使用することによって、同じ方法で捕獲できる。代替として、上述した検体タイプは、捕獲プローブの支援なしで捕獲できるが、代わりにマイクロ液滴のサイズ(即ち、VD値)を検体のサイズに整合させることによって捕獲でき、そのため1つの検体だけが液滴の中に存在できるようになる。
【0173】
さらに、捕獲プローブは、捕獲に介在するヘルパープローブを用いて補完でき、そのためヘルパープローブは、最初に検体に特異的に結合し、次に表面で捕獲プローブに特異的に結合し、こうして繋留綱(tether)として機能する。例えば、
図9の略図を参照。
【0174】
さらに、上述した検体タイプの全ては、ヘテロ二機能性化学架橋結合剤を用いて親水性機構の上で非特異的に捕獲でき、そのため架橋結合剤の一端が検体に結合し、他端が表面に結合する。
【0175】
ここで開示する実施形態において、方法はさらに、(iii)少なくとも1つの捕獲された検体タイプを、検出される検体タイプに特異的な標識剤を用いて標識化するステップを含む。
【0176】
標識剤は、検体の特異的標識化に介在するために、捕獲プローブと同じ方法で選択することができる。例えば、検体がオリゴヌクレオチドである場合、捕獲プローブおよび標識剤の両方が、オリゴヌクレオチドまたはその合成変異体でもよい。この場合、捕獲プローブは、検体上の一方の特異配列を認識でき、標識剤は、他方の特異配列を認識できる。標識剤は、検体の特異認識のための一方のモジュールおよび検体の後続検出のための他方のモジュールを含んでもよい。標識剤の少なくとも3つのクラスがこれらの基準、即ち、酵素共役オリゴヌクレオチド、酵素共役タンパク質/ペプチドまたは酵素共役アプタマーを成就する。検体認識モジュールは、オリゴヌクレオチド、タンパク質/ペプチドまたはアプタマーによってそれぞれ提供され、一方、検出モジュールは、酵素によって提供される。
【0177】
ここで開示する実施形態において、方法はさらに、(iv)検出剤を、パターンを横断して流し、パターンから引き出して、個々の液滴をナノリットルからアトリットルの液滴の形態に生成するステップを含む。
【0178】
検出剤を含む水性マイクロ液滴の形成とともに、標識剤および検出剤の両方を提示する液滴のサブセットにおいて信号発生を起動することが可能である。標識剤が酵素を含む場合、適切な検出試薬が、酵素的処理に応答して光学信号を発生できる任意の適合した酵素基板でもよい。例えば、酵素がペルオキシダーゼのクラスに属する場合、適切な検出剤は、ABTS(2,2’-アジノビス[3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸]-二アンモニウム塩)、OPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩)、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)、そして下記の商標名製品Quantablu、QuantaRed、Amplex UltraRedまたはSuperSignal ELISA pico/femtoを含む。酵素がホスファターゼのクラスに属する場合、適切な検出剤は、PNPP(p-ニトロフェノールりん酸)、4-MUP(りん酸4-メチルウンベリフェリル)、BCIP/NBT(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルりん酸/ニトロブルーテトラゾリウム)、そして下記の商標名製品CSPD、CPD StarまたはDynalightを含む。酵素がガラクトシダーゼのクラスに属する場合、適切な検出剤は、FDG(フルオレセイン-ジ-β-D-ガラクトピラノシド)、DDAOガラクトシド(9H-(1,3-ジクロロ-9,9-ジメチルアクリジン-2-オン-7-イル)β-D-ガラクトピラノシド)、MUG(4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシド)、ONPG(o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド)、レソルフィンβ-D-ガラクトピラノシド、X-Gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル β-D-ガラクトピラノシド)、そして下記の商標名製品Galacton-StarまたはBluo-Galを含む。さらに、任意のELISA適合酵素/基板のペアが適用できる。
【0179】
ここで開示する実施形態において、方法はさらに、(v)標識剤および検出剤の両方を収容する液滴の数を計数するステップを含む。
【0180】
光学信号を示す液滴の計数は、例えば、光学顕微鏡などのイメージングデバイスの支援で最も便利に実行される。顕微鏡を用いて、個々の液滴が画像化でき、その信号レベルが顕微鏡写真の相対強度単位から評価される。信号が実際に化学発光または蛍光である場合、撮影した顕微鏡写真は、蛍光フィルタセットを用いて記録できる。さらに、例4に示すように、蛍光顕微鏡写真は、同じ位置で撮影した明視野顕微鏡写真を用いて補完でき、例えば、液滴の位置および外観を確認して、それを蛍光信号の位置と相関させる。
【0181】
信号が実際に比色分析的である場合、撮影した顕微鏡写真は、明視野顕微鏡イメージングによって記録でき、例えば、個々の液滴の吸光度、反射率または透過率を評価する。
【0182】
液滴アレイが大きなエリアをカバーし、単一の顕微鏡写真の視野がそれを含むことができない場合、いくつかの顕微鏡写真がいくつかの位置で記録して、アレイ全体を表示するより大きい顕微鏡写真を再構成できる。イメージング再構成(例えば、顕微鏡写真繋ぎ合せ(stitching))を案内するために、容易に認識可能なマイクロパターンをアレイ上に組み込んでもよい。
【0183】
ここで開示する実施形態において、方法はさらに、ステップ(iii)、(iv)、(v)を1回以上繰り返すことを含む。
【0184】
ここで開示する実施形態において、方法は、第1標識剤の代わりに、検出される第2検体タイプに特異的な第2標識剤を使用することによって、ステップ(iii)、(iv)、(v)を繰り返すことを含む。
【0185】
ここで開示する実施形態において、方法はさらに、ステップ(iii)、(iv)、(v)を繰り返す前に、前回ステップに存在する標識剤を不活性化するステップを含む。
【0186】
標識化し、検出試薬を追加し、信号ポジティブ液滴を計数するステップを繰り返す能力は、SELMA測定の特有の特性であり、これは少なくとも2つの利点を提示する。
【0187】
第1に、前回測定から標識剤および検出剤を除去し、続いてこれらを再導入することによって、信号対ノイズ比が増加できる。これは、標識剤が、存在する検体なしで、親水性機構の表面に非特異的に結合できるという事実に起因する。非特異的に結合した標識剤は、計数測定においてバックグランドノイズを含み、潜在的に低い信号対ノイズ比をもたらす。しかしながら、非特異的な結合は、アレイ上のランダム位置で起こり、一方、検体への特異的結合は、存在する検体を有するアレイ機構の上で起こるため、2つの結合モードは、繰り返し測定によって区別できる。繰り返し測定において、非特異的な結合を示すだけの液滴が、測定が繰り返されるたびにポジティブ信号を提供できず、一方、特異的結合を示す液滴が、ポジティブ信号を毎回提供できる。こうしてバックグランドノイズは、著しく低減でき、こうしてより大きい測定感度をもたらす。
【0188】
第2に、前回測定から第1検体タイプに特異的な標識剤および検出剤を除去し、続いて他の検体タイプに特異的な標識剤および検出剤を導入することによって、より高い多重化容量を提供できる。この場合、測定は繰り返されるごとに、検体タイプの新しいセットが計数される。例えば、アレイが、10個の異なる検体タイプに特異的な捕獲プローブを用いて機能化された場合、測定を10回繰り返すことによって(各回ごとに新しい標識剤および検出剤を導入する)、全部で10個の検体が定量化できる。
【0189】
ここで開示する実施形態において、標識剤は、表面結合した検体からの脱離によって不活性化され、フローシステムの洗浄(flushing)によって除去される。
【0190】
当業者に知られているように、分子プローブを不活性化する多数の手法が存在する。SELMA測定の場合、最も便利な手法は、検体から標識剤を解放しつつ、捕獲プローブに結合した検体を保持することに依拠する。いったん標識剤が脱離すると、それは、リンス溶液を用いてフローチャネルを洗浄することによって除去できる。検出剤は、アレイ表面に結合することを意図していないため、より容易に除去され、よって脱離ステップを必要としない。
【0191】
ここで開示する実施形態において、標識剤は、酵素的切断によって脱離される。
【0192】
捕獲プローブ、検体および標識剤がオリゴヌクレオチドである場合、エクソヌクレアーゼ処置によって標識剤を特異的に除去することが可能である。エクソヌクレアーゼは酵素であり、二本鎖DNA、例えば、検体と標識剤との間の相補配列を分解する。捕獲プローブを、エクソヌクレアーゼ処置に対して不活性にすることによって(例えば、ペプチド核酸、ロックド核酸または化学的に修飾された一本鎖DNAを捕獲プローブとして選択することによって)、検体と標識剤との間の結合だけが分断できる。
【0193】
一実施形態において、標識剤は、例えば、pH、イオン強度を追加または調整し、塩または洗浄剤を変性させることによって、化学的切断または脱着によって脱離される。
【0194】
一実施形態において、標識剤は、フローシステムの温度を上昇させることによって脱離される。
【0195】
一実施形態において、標識剤は、その化学的または物理的な状態を変化させることによって不活性化される。
【0196】
実施形態において、検体および標識剤が両方ともオリゴヌクレオチドであり、塩基対配列相補性によって互いに結合している場合、溶液のpHまたはイオン強度を変化させることによって、標識剤を特異的に除去することが可能である。例えば、pHが上昇した場合、DNAの二本鎖構造は、核酸塩基の脱プロトン化に起因して分断される。さらに、二本鎖DNAの脱離はまた、溶液のイオン強度を減少させることによって達成でき、こうしてDNA骨格で帯電したリン酸基の間の静電反発力を増強する。さらに、温度を二本鎖DNAの融解転移より上に増加させることによって、検体からの標識剤の分離をもたらすことができる。
【0197】
実施形態において、検体および標識剤がタンパク質系またはペプチド系である場合、標識剤は、洗浄剤を使用し、塩を変性させ、または温度を増加させることによって、三次構造を分断/変性させることによって脱離できる。
【0198】
一実施形態において、標識剤は酵素を含み、標識剤は、活性部位の化学的または生化学的修飾によって酵素の状態を変化させることによって不活性化できる。
【0199】
酵素は、活性部位を分断することによって不活性化でき、そのため更なる酵素的処理は可能ではない。例えば、酵素がペルオキシダーゼ酵素のクラスに属する場合、活性部位は、フェノール溶液に曝された場合、不可逆的に分断された状態になる。例えば、文献(Mao, L., Luo, S., Huang, Q. and Lu, J. in "Horseradish peroxidase inactivation: Heme destruction and influence of polyethylene glycol" published in Scientific Reports, vol. 3, article number 3126 (2013) (DOI: 10.1038/srep03126))を参照。さらに、酵素がホスファターゼ酵素のクラスに属する場合、活性部位は、機能する亜鉛およびマグネシウムイオン複合体を必要とする。その結果、キレート剤、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いてこれらのイオンの除去によって、酵素の不可逆的不活性化、即ち、酵素活性の終止をもたらす。例えば、文献(Ackermann, B. P. and Ahlers, J. in "Kinetics of alkaline phosphatase from pig kidney. Influence of complexing agents on stability and activity" published in Biochemical Journal, vol. 153, pp. 151-157 (1976) (DOI: 10.1042/bj1530151))を参照。
【0200】
一実施形態において、標識剤は酵素を含み、酵素の状態は、酵素の三次構造の化学的または物理的分断によって変化する。
【0201】
例えば、酵素の構造は、溶液の温度を増加させることによって、pHを増加または減少させることによって、溶液のイオン強度を増加または減少させることによって、洗浄剤を追加することによって、または化学架橋結合剤を使用して酵素を共有結合的に修飾することによって変化できる。
【0202】
一実施形態において、標識剤は、酵素および特異検体認識部位を含み、検体認識部位は、下記の分子グループ、即ち、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、アプタマー、抗体、その複合体またはその合成変異体から選択される。
【0203】
一実施形態において、液体中に1つ以上の検体タイプを含むサンプルは、完全浸漬によって親水性機構を含む基板と接触させられる。
【0204】
一実施形態において、方法はさらに、液体を除去し、基板を洗浄することを含む。
【0205】
一実施形態において、標識化は、完全浸漬によって、検体用の標識剤を含む溶液を、捕獲した検体と接触させることによって実施される。
【0206】
一実施形態において、方法はさらに、残りの標識剤を含む溶液を除去し、基板を洗浄することを含む。
【0207】
ここで開示する実施形態において、親水性機構を収容する基板はフロー区画の内側に位置し、こうして入口から出口への液体プラグの圧力駆動の作動によって液体接触を可能にする。異なる試薬を含む異なる溶液(標識剤、検出剤、不活性化剤、リンス溶液)は、液体装填パッドに装填でき、フロー区画の中に駆動される。液体接触モードは、(i)フロー経由接触として、または(ii)注入-停止-引き出し接触として分類できる。フロー経由接触モードでは、プラグの全体体積が通過するまで、液体プラグがフロー区画を横断して駆動される。注入-停止-引き出し接触モードでは、フロー区画の全体体積を充填し、そして停止するまで、液体プラグが駆動される。一定の待機期間に続いて、プラグはフローチャネルから押し出され、液体出口に入る。
【0208】
フロー経由接触モードは、典型的には試薬が過剰である反応ステップに適している。こうしたステップの持続期間は、フローレート(体積/時間)および液体プラグの体積によって決定でき、必要な処理時間を達成するように調整できる。例えば、リンスステップ、標識化ステップ、不活性化ステップおよび検出ステップなどのステップは、典型的にはフロー経由接触モードで実施できる。
【0209】
注入-停止-引き出し接触は、より長い培養時間を必要とし、試薬が低濃度で存在するステップに適している。例えば、低濃度の検体を含むサンプルが親水性機構の表面で捕獲プローブに結合される捕獲ステップ。捕獲ステップでは、サンプルからの全ての検体の完全な捕獲を確保するために、即ち、検体がフロー区画の上部から下部に拡散できるのに充分な培養時間、そして表面で成功した捕獲を可能にするのに充分な時間に、ステップの持続期間を長くすることが好都合である。注入-停止-引き出し接触は、ある溶液中の親水性パターンの完全浸漬に等価である。
【0210】
一実施形態において、検体は、下記の検体グループ、即ち、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド複合体、タンパク質、タンパク質/オリゴヌクレオチド複合体、タンパク質/脂質複合体、ペプチド、エキソソーム(exosome)、ウイルス粒子、ウイルス様粒子、ナノ粒子、細胞断片または細胞から選択される。
【0211】
一実施形態において、サンプルは、下記のサンプルグループ、即ち、血液、血漿、血清、尿、唾液、脳脊髄液、涙液または組織から選択される。
【0212】
一実施形態において、サンプルは、下記のサンプルグループ、即ち、血液、血漿、血清、尿、唾液、脳脊髄液、涙液または、血液などの組織、の研究室処理サンプルから選択される。
【0213】
サンプルのタイプに依存して、異なる種類の検体タイプが存在でき、異なる研究室手順が測定用の検体を調製するために必要になる。例えば、サンプルが血液サンプルである場合、凝固を防止するために、抗凝固剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸またはシュウ酸)を用いて血液を処理する必要があるであろう。血液サンプルの研究室処理の他の例が、サンプルから細胞を除去するために、血液を遠心分離またはフィルタ処理にかけることであろう。血液サンプルの研究室処理のさらに他の例が、血液を希釈し、または活性成分を追加して、関心あるバイオマーカーの特殊抽出を容易にすることであろう。例えば、DNA検体が、固相可逆的固定化を用いて液体サンプルから精製でき、血液はクラウディング剤およびカルボン酸コート常磁性マイクロ粒子と混合される。これらの反応条件は、マイクロ粒子の表面へのDNAの選択吸着を有利にでき、これは磁界の印加によって抽出できる。他の用途では、希釈され、または他の方法で処理されたサンプルを、(i)電気泳動ステップ、または(ii)透析ステップにかけて、その電荷、サイズおよび分子量に基づいてサンプルから分子を選択することが好都合であろう。
【0214】
一実施形態において、1つ以上の捕獲した検体は、捕獲に続いて、捕獲プローブと共有結合的に架橋または結合できる。
【0215】
検体と捕獲プローブとの間の共有結合を確立することが好都合であり、その理由は、表面への検体の本質的に不可逆的の固定化を提供するためである。こうして標識剤の脱離がより容易に達成でき、その理由は、検体と標識剤との間の結合は非共有結合性であり、より弱いためである。例えば、捕獲プローブおよび検体の両方がオリゴヌクレオチドであり、相補的塩基対合によって共に結合され、さらに1つ以上の共有結合を介して共に結合される場合、そして標識剤もオリゴヌクレオチドであり、相補的塩基対合によって検体に結合するだけである場合、標識剤は、複合体をアルカリ性pHに曝すことによって、検体から容易に解離できる。アルカリ性pHは、捕獲プローブ/検体の間の強い共有結合に対して、検体/標識剤の間のより弱い塩基対合結合と同じ程度に影響を及ぼすことがない。
【0216】
他の例として、捕獲プローブが抗体であり、検体がタンパク質またはペプチドであり、共有結合が両者間で確立されていることを検討する。標識剤が抗体系であり、抗体/抗原-相互作用を介して検体に結合される場合、それは、洗浄剤を追加し、または変性剤を追加することによって、容易に除去できるとともに、捕獲プローブと検体との間の共有結合を保持する。
【0217】
一実施形態において、捕獲プローブは、オリゴヌクレオチドまたは合成オリゴヌクレオチドであり、検体は、捕獲プローブ配列との塩基対合を介して捕獲プローブと結合されたオリゴヌクレオチドであり、共有結合架橋は、鎖間架橋剤、例えば、白金錯体、マイトマイシンC、ナイトロジェンマスタード、ソラレンまたはアルデヒドなどを使用することによって実行される。上述したものなどの鎖間架橋剤は、二本鎖DNA、二本鎖DNA/RNAまたは、核酸塩基を含むその合成変異体での対向する鎖の上の核酸塩基間の共有結合を形成できる。鎖間共有結合が、非共有結合鎖間塩基対合結合と比較して増強された安定性を提供し、捕獲プローブへの検体の実質的に不可逆的な固定化を提供し、よって親水性機構を提供する。
【0218】
一実施形態において、捕獲プローブは、タンパク質、ペプチドまたはその合成変異体であり、検体は、タンパク質、ペプチドまたは、タンパク質もしくはペプチドを含む複合体であり、検体は、検体の特異領域の構造的認識によって捕獲プローブに結合され、共有結合架橋は、化学固定(fixation)剤、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、四酸化オスミウムまたは酢酸ウラニルなどを使用することによって実行される。上述したものなどの化学固定剤は、アミノ酸を架橋することが可能であり、検体と捕獲プローブとの間の接触ゾーンにおいて共有結合架橋を提供する。これは、捕獲プローブへの検体の実質的に不可逆的な固定化をもたらし、よって親水性機構をもたらす。
【0219】
ここで説明する方法およびフローシステムの実施形態において、気相は、大気によって提供され、及び/又は、捕獲プローブは、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択され、及び/又は、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置され、及び/又は、検体は、処理した血液サンプルから抽出された一本鎖DNAであり、標識剤は、検出様式(modality)および認識部位を備え、及び/又は、検出様式は酵素であり、及び/又は、認識部位は、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択される。
【0220】
ここで説明する方法およびフローシステムの他の実施形態において、気相は、大気によって提供され、捕獲プローブは、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択され、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置され、検体は、処理した血液サンプルから抽出された一本鎖DNAであり、標識剤は、検出様式および認識部位を備え、検出様式は酵素であり、認識部位は、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択される。
【0221】
下記において、用途のいくつかの非限定的例を説明する。
【0222】
単一酵素結合免疫吸着法(sELISA)では、タンパク質またはペプチドの検体が表面結合抗体プローブによって捕獲され、後で標識化され、単一酵素標識検出プローブによって検出される。
【0223】
単一オリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーションアッセイでは、オリゴヌクレオチド検体が表面結合相補オリゴヌクレオチドプローブによって捕獲され、後で標識化され、単一酵素標識検出プローブによって検出される。
【0224】
他のクラスの用途は、単一の生物学的実体、例えば、細胞、細胞断片/オルガネラ、バクテリア、ウイルスカプシドなどの操作および定量化を扱う。これらの場合、アッセイは、表面結合捕獲プローブを使用して、上述した生物学的実体のいずれかを固定化し、後で特異検出プローブを付与して、これらの数および種類を定量化できる。代替として、生物学的実体を捕獲した後、これらは破裂されてもよく、タンパク質、ペプチド、脂質またはオリゴヌクレオチドのその含量が他のセットの表面結合捕獲プローブによって捕獲され、後で標識化され、単一酵素標識検出プローブによって検出される。
【0225】
さらに、本発明は、デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)またはその変形を実行するのに適している。本発明の一実施形態において、dPCRアッセイは、単一液滴内にターゲット配列そして増幅試薬および検出プローブを含むことによって、特定のオリゴヌクレオチド配列を検出する。PCRが起こると、ターゲット配列は増幅でき、検出プローブによって検出可能にする。本発明の他の実施形態において、ターゲットオリゴヌクレオチドは、最初に表面結合プローブによって特異的に捕獲され、次に増幅試薬および検出プローブが個々の液滴に供給されて、PCRおよび検出反応が生じるようする。
【0226】
当業者は、ただ型どおりの実験を用いて、ここで説明した実施形態および実例の多くの同等物を理解するようになり、または究明できる。
【0227】
従って、本発明は、ここで説明した実施形態に限定されず、下記請求項から理解されるべきであり、法律に基づいて許容される限り広く解釈されるべきであることは理解されよう。
【0228】
(本発明の更なる詳細な実施形態)
体積がピコリットル以下のマイクロ液滴を基板上の所定場所に液相で保持するプロセスが、マイクロ液滴を、少なくとも1つの開口を有するチャネル内に配置することと、チャネルの空間を、マイクロ液滴の蒸発を低減できるチャネル内蒸気圧を確立する値に設定することとを含む。
【0229】
特に、本発明は下記の実施形態に関する。
【0230】
実施形態1.
サンプル中の1つ以上の検体タイプのデジタル計数のためのフローシステムが、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体を備え、疎水性基板は、少なくとも1つの開口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、それぞれ最大液滴体積を有する複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成され、フロー区画は、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を低減する気相シールを支持するように構成される。
【0231】
実施形態2.
実施形態1に係るフローシステムにおいて、フロー区画は、体積(VC)を有し、体積(VC)は、全てのナノリットルからアトリットルの液滴の凝集最大液滴体積(VDA)より大きく、下記式によって計算されるVMAXより小さい。
【0232】
【0233】
ここで、ρLは液体の体積密度であり、Rはモル気体定数であり、Tは温度であり、RHIは液体の気体成分の初期相対蒸気飽和であり、P0は対応する基準温度T0での液体の基準蒸気圧であり、MWは液体のモル重量であり、ΔHVAPは液体の蒸発のエンタルピーである。
【0234】
実施形態3.
実施形態1~2のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構が(RD)の半径を有する円形であり、単一の親水性円が支持できる最大液滴体積(VD)は、下記式である。
【0235】
【0236】
ここで、γは疎水性基板での液体接触角である。
【0237】
実施形態4.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発は、最大液滴体積の50%未満、各ナノリットルからアトリットルの液滴の最大液滴体積の、40%未満、好ましくは30%未満、好ましくは20%未満、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満、好ましくは1%未満である。
【0238】
実施形態5.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、気相シールは、大気、窒素、アルゴン及び/又はヘリウムによって構成される。
【0239】
実施形態6.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、気相シールは、大気によって構成される。
【0240】
実施形態7.
サンプル中の1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のためのフローシステムが、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体を備え、疎水性基板は、少なくとも1つの開口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。
【0241】
実施形態8.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムは、親水性/疎水性パターンとの液体接触を可能にするために、液滴領域を覆う1つ以上のフロー区画を備える。
【0242】
実施形態9.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムは、フローシステムに液体および試薬を供給するための1つ以上の液体装填パッドを備える。
【0243】
実施形態10.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムは、フロー区画を液体装填パッドに接続する液体入口を備える。
【0244】
実施形態11.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、液体は、入口から出口への圧力降下を用いてフロー区画を横断して駆動される。
【0245】
実施形態12.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムは、フローチャネルを圧力源に接続する液体出口を備え、吸引を提供し、よってフローチャネルを介して液体駆動に介在する。
【0246】
実施形態13.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、気相シールは、大気、窒素、アルゴン及び/又はヘリウムによって構成される。
【0247】
実施形態14.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、気相シールは、大気によって構成される。
【0248】
実施形態15.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムは、1つ以上の区別できる検体タイプのための1つ以上の捕獲プローブを備え、捕獲プローブは、親水性機構に付着される。
【0249】
実施形態16.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置される。
【0250】
実施形態17.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、支持体は平面的である。
【0251】
実施形態18.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構は平面的である。
【0252】
実施形態19.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構のパターンは、親水性機構がアレイ状に配置された少なくとも1つの領域を含む。
【0253】
実施形態20.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構は、正方形平面アレイ状に編成され、機構は、半径(RD)を有する円として形状をなし、アレイは、隣接する機構の間のピッチ(δ)を有し、δは少なくとも3RDであり、アレイは、フロー方向に沿って長さ(LAX)に延びており、アレイは、フロー方向に対して垂直な長さ(LAY)に延びており、チャネルは、フロー方向に沿って長さ(LCX)を有し、LCXはLAXより大きいか、またはこれに等しく、チャネルは、フロー方向に対して垂直な長さ(LCY)を有し、LCYはLAYより大きいか、またはこれに等しく、チャネルは、高さ(h)を有し、これは少なくとも2RDで、多くてもhMAXであり、hMAXは下記の式から計算される。
【0254】
【0255】
ここで、γは疎水性材料についての液体接触角であり、θMAXは液滴の最大許容蒸発体積割合であり、ρLは液体の体積密度であり、Rはモル気体定数であり、Tは温度であり、RHIは液体の気体成分の初期相対蒸気飽和であり、P0は対応する基準温度T0での液体の基準蒸気圧であり、MWは液体のモル重量であり、ΔHVAPは液体の蒸発のエンタルピーである。
【0256】
実施形態21.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構のパターンは、少なくとも2つの領域を備え、一方の領域のアレイは、他方の領域のアレイと相違する。
【0257】
実施形態22.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構を支持する領域は、フロー区画内に中央に設置される。
【0258】
実施形態23.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構の数は、少なくとも1000個、好ましくは少なくとも10000個、好ましくは少なくとも100000個、好ましくは少なくとも1000000個、好ましくは少なくとも10000000個である。
【0259】
実施形態24.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、フロー区画は、チャネル形状であり、区画の対向端部での2つの開口の間でフロー方向を形成する。
【0260】
実施形態25.
実施形態13に係るフローシステムにおいて、フロー区画および開口は、フロー方向に対して垂直な断面で矩形形状を有する。
【0261】
実施形態26.
実施形態13に係るフローシステムにおいて、フロー区画は、矩形形状を有し、開口は、フロー方向に対して垂直な断面で円形形状を有する。
【0262】
実施形態27.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構は、ナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成され、液滴は、少なくとも90度、多くても150度の、疎水性基板での接触角を示す。
【0263】
実施形態28.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性機構は、少なくとも0.1μm、多くても100μmの半径を有するナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。
【0264】
実施形態29.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、親水性基板は、ガラス、親水性ポリマーまたは金属酸化物化合物である。
【0265】
実施形態30.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、疎水性層は、基板に共有結合的に接合した分子単層である。
【0266】
実施形態31.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、疎水性層は、金属基板上に化学吸着した分子単層である。
【0267】
実施形態32.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、1つ以上の捕獲した検体は、捕獲に続いて、捕獲プローブと共有結合的に架橋または結合できる。
【0268】
実施形態33.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、捕獲プローブは、オリゴヌクレオチドまたは合成オリゴヌクレオチドであり、検体は、オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む分子複合体であり、検体は、捕獲プローブ配列に対して相補的な配列を介して捕獲プローブと結合され、共有結合架橋は、鎖間架橋剤、例えば、白金錯体、マイトマイシンC、ナイトロジェンマスタード、ソラレンまたはアルデヒドなどを使用することによって実行される。
【0269】
実施形態34.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、捕獲プローブは、タンパク質、ペプチドまたはその合成変異体であり、検体は、タンパク質、ペプチドまたは、タンパク質もしくはペプチドを含む複合体であり、検体は、検体の特異領域の構造的認識によって捕獲プローブに結合され、共有結合架橋は、化学固定剤、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、四酸化オスミウムまたは酢酸ウラニルなどを使用することによって実行される。
【0270】
実施形態35.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、デジタル計数は、デジタル計数測定である。
【0271】
実施形態36.
前述した実施形態のいずれかに係るフローシステムにおいて、デジタル計数測定は、単一酵素結合分子分析(SELMA)、デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)、単一酵素結合免疫吸着法(sELISA)またはデジタル単一酵素結合免疫吸着法(dELISA)である。
【0272】
実施形態37.
前述した実施形態のいずれかで定義されるフローシステムを調製する方法。
【0273】
実施形態38.
少なくとも1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のための、前述した実施形態のいずれかで定義されるフローシステムを使用する方法。
【0274】
実施形態39.
少なくとも1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のための方法であり、該方法は、気相シールの下での複数のナノリットルからアトリットルの液滴に含まれる検体タイプを計数することを含む。
【0275】
実施形態40.
実施形態39に係る方法において、気相シールは、マイクロ液滴の蒸発を低減できる、フローシステム内の蒸気圧を確立する。
【0276】
実施形態41.
実施形態39~40のいずれかに係る方法において、デジタル計数は、フローシステムにおいて実施され、該フローシステムは、疎水性基板の中または上に親水性機構のパターンを有する支持体を備え、疎水性基板は、少なくとも1つの開口を含むフロー区画の中に組み込まれ、親水性機構は、複数のナノリットルからアトリットルの液滴を支持するように構成される。
【0277】
実施形態42.
実施形態39~41のいずれかに係る方法において、親水性機構は、半径(RD)を有する円形であり、単一の親水性円が支持できる最大液滴体積(VD)は、下記の式である。
【0278】
【0279】
ここで、γは疎水性基板上の液体接触角である。
【0280】
実施形態43.
実施形態39~42のいずれかに係る方法において、気相シールは、各ナノリットルからアトリットルの液滴の蒸発を最大液滴体積の50%未満に低減する。
【0281】
実施形態44.
実施形態39~43のいずれかに係る方法において、フローシステムは、実施形態1~36のいずれかにおいて定義される。
【0282】
実施形態45.
実施形態39~44のいずれかに係る方法はさらに、(i)疎水性基板の中または上にある親水性機構のパターンを、1つ以上の検体タイプを含むサンプルに接触させるステップを含む。
【0283】
実施形態46.
実施形態39~45のいずれかに係る方法は、(ii)親水性機構の上で少なくとも1つの検体タイプを捕獲するステップを含む。
【0284】
実施形態47.
実施形態39~46のいずれかに係る方法は、(iii)少なくとも1つの捕獲された検体タイプを、検出される検体タイプに特異的な標識剤を用いて標識化するステップを含む。
【0285】
実施形態48.
実施形態39~47のいずれかに係る方法は、(iv)検出剤を、パターンを横断して流し、パターンから引き出して、個々の液滴をナノリットルからアトリットルの液滴の形態に生成するステップを含む。
【0286】
実施形態49.
実施形態39~48のいずれかに係る方法は、(v)標識剤および検出剤の両方を収容する液滴の数を計数するステップを含む。
【0287】
実施形態50.
実施形態39~49のいずれかに係る方法は、ステップ(iii)、(iv)および(v)を1回以上繰り返すことを含む。
【0288】
実施形態51.
実施形態39~50のいずれかに係る方法は、第1標識剤の代わりに、検出される第2検体タイプに特異的な第2標識剤を使用することによって、ステップ(iii)、(iv)および(v)を繰り返すことを含む。
【0289】
実施形態52.
実施形態39~51のいずれかに係る方法は、ステップ(iii)、(iv)および(v)を繰り返す前に、前回ステップに存在する標識剤を不活性化するステップを含む。
【0290】
実施形態53.
実施形態39~52のいずれかに係る方法において、標識剤は、表面結合した検体からの脱離によって不活性化され、フローシステムの洗浄(flushing)によって除去される。
【0291】
実施形態54.
実施形態39~53のいずれかに係る方法において、標識剤は、酵素的切断によって脱離される。
【0292】
実施形態55.
実施形態39~54のいずれかに係る方法において、標識剤は、pHを調整し、イオン強度を調整し、変性塩を追加し、または洗浄剤を追加することによって、化学的切断または脱着によって脱離される。
【0293】
実施形態56.
実施形態39~55のいずれかに係る方法において、標識剤は、フローシステムの温度を上昇させることによって脱離される。
【0294】
実施形態57.
実施形態39~56のいずれかに係る方法において、標識剤は、その化学的または物理的な状態を変化させることによって不活性化される。
【0295】
実施形態58.
実施形態39~57のいずれかに係る方法において、標識剤は酵素を含み、酵素の状態は、活性部位の化学的または生化学的修飾によって変化する。
【0296】
実施形態59.
実施形態39~58のいずれかに係る方法において、標識剤は酵素を含み、酵素の状態は、酵素の三次構造の化学的または物理的分断によって変化する。
【0297】
実施形態60.
実施形態39~59のいずれかに係る方法において、標識剤は、酵素および特異検体認識部位を含み、検体認識部位は、下記の分子グループ、即ち、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、アプタマー、抗体、その複合体またはその合成変異体から選択される。
【0298】
実施形態61.
実施形態39~60のいずれかに係る方法において、1つ以上の区別できる検体タイプのための1つ以上の捕獲プローブは、親水性機構に付着される。
【0299】
実施形態62.
実施形態39~61のいずれかに係る方法において、1つ以上の区別できる検体タイプのための1つ以上の捕獲プローブは、リンカー(linker)部位によって親水性機構に付着され、リンカー部位は、下記の分子グループ、即ち、ポリ(エチレングリコール)、直鎖または分岐アルカン、ペプチド、オリゴヌクレオチド、またはその合成変異体から選択される。
【0300】
実施形態63.
実施形態39~62のいずれかに係る方法は、親水性機構に付着された2つ以上のタイプの捕獲プローブを備え、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置される。
【0301】
実施形態64.
実施形態39~63のいずれかに係る方法において、捕獲プローブは、下記のプローブグループ、即ち、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、またはその合成変異体から選択される。
【0302】
実施形態65.
実施形態39~64のいずれかに係る方法において、液体中に1つ以上の検体タイプを含むサンプルは、完全浸漬によって親水性機構を含む基板と接触する。
【0303】
実施形態66.
実施形態39~65のいずれかに係る方法は、液体を除去し、基板を洗浄することを含む。
【0304】
実施形態67.
実施形態39~66のいずれかに係る方法において、標識化は、完全浸漬によって、検体用の標識剤を含む溶液を、捕獲した検体と接触させることによって実施される。
【0305】
実施形態68.
実施形態39~67のいずれかに係る方法は、残りのプローブを含む溶液を除去し、基板を洗浄することを含む。
【0306】
実施形態69.
実施形態39~68のいずれかに係る方法において、液体は、入口から出口への圧力降下を用いてフロー区画を横断して駆動される。
【0307】
実施形態70.
実施形態39~69のいずれかに係る方法において、検体は、下記の検体グループ、即ち、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド複合体、タンパク質、タンパク質/オリゴヌクレオチド複合体、タンパク質/脂質複合体、ペプチド、エキソソーム(exosome)、ウイルス粒子、ウイルス様粒子、ナノ粒子、細胞断片または細胞から選択される。
【0308】
実施形態71.
実施形態39~70のいずれかに係る方法において、サンプルは、下記のサンプルグループ、即ち、血液、血漿、血清、尿、唾液、脳脊髄液、涙液または組織から選択される。
【0309】
実施形態72.
実施形態39~71のいずれかに係る方法において、サンプルは、下記のサンプルグループ、即ち、血液、血漿、血清、尿、唾液、脳脊髄液、涙液または、処理した血液サンプルなどの組織、の研究室処理サンプルから選択される。
【0310】
実施形態73.
実施形態39~72のいずれかに係る方法において、1つ以上の捕獲した検体は、捕獲に続いて、捕獲プローブと共有結合的に架橋または結合できる。
【0311】
実施形態74.
実施形態39~73のいずれかに係る方法において、捕獲プローブは、オリゴヌクレオチドまたは合成オリゴヌクレオチドであり、検体は、捕獲プローブ配列に対して相補的な配列を介して捕獲プローブと結合されたオリゴヌクレオチドであり、共有結合架橋は、鎖間架橋剤、例えば、白金錯体、マイトマイシンC、ナイトロジェンマスタード、ソラレンまたはアルデヒドなどを使用することによって実行される。
【0312】
実施形態75.
実施形態39~74のいずれかに係る方法において、捕獲プローブは、タンパク質、ペプチドまたはその合成変異体であり、検体は、タンパク質、ペプチドまたは、タンパク質もしくはペプチドを含む複合体であり、検体は、検体の特異領域の構造的認識によって捕獲プローブに結合され、共有結合架橋は、化学固定剤、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、四酸化オスミウムまたは酢酸ウラニルなどを使用することによって実行される。
【0313】
実施形態76.
実施形態39~75のいずれかに係る方法において、デジタル計数は、デジタル計数測定である。
【0314】
実施形態77.
実施形態39~76のいずれかに係る方法において、デジタル計数測定は、単一酵素結合分子分析(SELMA)、デジタルポリメラーゼ連鎖反応(dPCR)、単一酵素結合免疫吸着法(sELISA)またはデジタル単一酵素結合免疫吸着法(dELISA)である。
【0315】
実施形態78.
実施形態1~38のいずれかに係るフローシステムにおいて、気相は、大気によって提供され、及び/又は、捕獲プローブは、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択され、及び/又は、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置され、及び/又は、検体は、処理した血液サンプルから抽出された一本鎖または二本鎖のDNAであり、及び/又は、標識剤は、検出様式(modality)および認識部位を備え、及び/又は、検出様式は酵素であり、及び/又は、認識部位は、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択される。
【0316】
実施形態79.
実施形態39~77のいずれかに係る方法において、気相は、大気によって提供され、及び/又は、捕獲プローブは、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択され、及び/又は、異なるタイプの捕獲プローブが複数領域に配置され、及び/又は、異なるタイプの捕獲プローブは複数領域に配置され、及び/又は、検体は、処理した血液サンプルから抽出された一本鎖または二本鎖のDNAであり、及び/又は、標識剤は、検出様式および認識部位を備え、及び/又は、検出様式は酵素であり、及び/又は、認識部位は、一本鎖DNAオリゴ、一本鎖ロックド核酸オリゴまたは一本鎖ペプチド核酸オリゴのグループから選択される。
【0317】
実施形態80.
少なくとも1つ以上の区別できる検体タイプのデジタル計数のための、気相シールの下での複数のナノリットルからアトリットルの液滴の使用。
【0318】
実施形態81.
実施形態80に係る使用は、実施形態39~77、79のいずれかに係る方法によって実行される。
【0319】
実施形態82.
実施形態80~81のいずれかに係る使用は、実施形態1~38、78のいずれかに係るフローシステムにおいて実行される。
【0320】
下記において、用途のいくつかの非限定的例を説明する。
【0321】
(例1:フェムトリットル水性マイクロ液滴アレイの形成および保存)
安定したマイクロ液滴を形成するために、平面的な疎水性領域の上に組み込まれた親水性円形機構の正方形アレイをリン酸緩衝水溶液と接触させた。溶液の10μlプラグをアレイの表面を横断するように駆動して、
図4の顕微鏡写真に示すように、親水性機構の上にマイクロ液滴を残した。
【0322】
フローシステムは、液体を案内するために、矩形チャネルの各端部において2つの開口によって画定した。チャネルの幅は3mm、長さは16mm、高さは150μmであった。アレイは、チャネル内に中央に配置し、2.9mmの幅、14mmの長さを備え、合計406000個の親水性機構を含んだ。親水性円の直径は5μm、円同士の間隔は10μmであった。疎水性表面での水溶液の接触角は約110度で、実験は21℃の周囲温度で行った。液滴体積のせいぜい3%が蒸発するのが許容され、これは、式(11)に従って、乾燥空気(RHI=0)について約680μmのチャネルの最大高さを意味する。フロー区画の高さは150μmに過ぎず、最大高さ未満であるため、気相シールは機能的であり、マイクロ液滴を無傷に維持できた。
【0323】
10μl体積をチャネル入口に接続された装填パッドの中に配置することによって、アレイは、バルク水溶液と接触した。次に、チャネル出口において負圧を印加し、10μl液体プラグを5μl/minのフローレートでチャネルを横断するように駆動した。いったんバルク液体の後退エッジがチャネル出口に到達すると、圧力を終了して、新しい液体プラグを装填パッドに配置した。機能的気相シールに起因して、親水性機構の上部に形成された液滴は、著しい蒸発を経験することなく、1時間を超えて安定に残留した。例えば、
図12Cを参照。
【0324】
(例2:フローチャネル、液滴およびアレイの幾何形状を最適化することによって、水性マイクロ液滴のアレイを蒸発耐性にする方法)
化学的にパターン化された固体基板が組み込まれたフローチャネルについて検討する。化学パターンは、アレイに編成された円形の親水性領域からなる。親水性アレイは、連続的な疎水性領域によって包囲される。こうして、例1に示すように、いったん水溶液が注入され、続いてフローチャネルから引き出されると、マイクロ液滴のアレイが親水性機構の上部に形成される。
【0325】
フローチャネルの寸法は、
図13で定義され、チャネルの高さであるh、アレイによってカバーされるフローチャネルの長さであるl
A、入口/出口に至り、アレイを収容していない、チャネルの余剰部の長さであるl
E、によって特徴付けられる。アレイを定義するパラメータは、固体基板上の親水性機構の半径として定義される液滴半径R
D、および隣接する液滴の間の中心間距離であるδである。下記において、我々は、正方パターンに編成されたアレイを仮定しているが、他のアレイパターンについての手法が下記に示すものと同じ原理を用いて導出できる。
【0326】
最初に我々は、フローチャネルに存在する水の合計モル量を計算する。これは、液滴(VD)の体積を計算し、それを存在する液滴の合計数で乗算することによって行われる。我々は、液滴が球の体積の半分を示す半球によって表現できると仮定する。アレイおよびフローチャネルは、y方向に沿って同一であるため、我々は、液滴の単一ラインで構成される1次元アレイ(略図したもののように)、そして液滴間間隔δの幅を備えた疑似1次元フローチャネルを検討する必要があるだけである。1次元アレイに沿った液滴の合計数(ND)は、下記の式(12)である。
【0327】
【0328】
全液滴の合計モル量(nTOT)は、下記の式(13)として評価できる。
【0329】
【0330】
ここで、mwは全液滴の合計質量であり、MWは水のモル重量(18.016g/mol)であり、ρwは水の密度(1000g/l)である。所定の温度でどのぐらいの水の量が蒸発するかを計算するために、我々は、クラウジウス・クラペイロンの式を利用して、水の平衡蒸気圧(PW)を計算する必要がある。
【0331】
【0332】
ここで、P0は基準温度T0での基準平衡蒸気圧であり、Tは反応温度であり、Rは気体定数(8.31J・mol-1・K-1)であり、ΔHVAP(40.65kJ・mol-1)は水の蒸発時のエンタルピー変化である。P0およびT0についての適切な値は、それぞれ293Kの温度で2.34kPaとできる。VFの体積を有する閉じたフローチャネルでは、水の蒸気圧は、どのぐらいの水が水蒸気として空気中に転移するかを示す。平衡時の水蒸気のモル量(nEVAP)は、理想気体の法則から下記の式(15)として得られる。
【0333】
【0334】
蒸発した水の割合(θW)は、ここでは蒸発した水と水の合計モル量との比として評価できる。
【0335】
【0336】
ここで我々は、(i)無次元の倍率(scaling factor)N=δ/RD(これはアレイを特徴付ける幾何形状パラメータである(即ち、より大きいN値は、より希少に存在するアレイを導く))、および(ii)無次元の倍率(scaling factor)φ=lE/lA(これはフローチャネル設計を特徴付ける幾何形状パラメータである(即ち、大きなφ-値は、アレイがフローチャネルの小さい部分だけを占拠することを示す))。この表記を用いて、式(16)は、下記の式(17)として書き換えられる。
【0337】
【0338】
式(17)は、所望の最大蒸発割合(θMAX)が選ばれた場合、対応する最大高さ(hMAX)が評価できるように再整理できる。
【0339】
【0340】
図11において、式(17)および式(18)が、種々のフローチャネル/液滴/アレイの幾何形状および温度についてプロットされている。さらに
図12において、温度およびフローチャネル幾何形状の関数として液滴安定性の実験論証が示される。液滴保存のために最適化されたフローチャネル(
図12C)では、液滴アレイは、温度の範囲(ここで論証するように、25~45℃)で、少なくとも1.5時間の延長期間に渡って安定に残留する。原理上は、いったん熱力学的平衡が確立すると、液滴アレイは無期限に安定的になる。しかしながら、現実には、フローチャネル/アレイは、外部環境から完全に封止できず、よって液滴はゆっくり蒸発することがある。
【0341】
(例3:フローシステムの製造)
フローシステムの製造は、2つの主要ステップで行った。1つのステップは、UVフォトリソグラフィおよびマイクロ加工(microfabrication)処理を利用して、パターン化した親水性機構を製造するものであり、一方、第2ステップは、親水性パターンを、直角(right)の幾何形状を示すフロー区画に集積化することに取り組むものである。以下、両方のステップについてより詳細に説明する。
【0342】
・パターン化親水性基板のマイクロ加工
本発明の実施形態において、親水性機構は、石英(quartz)(SiO2)で構成し、疎水性領域は、ペルフルオロデシルトリクロロシラン(FDTS)で構成した。製造プロセスの第1ステップにおいて、FDTSの分子単層を、MVD100分子気相成膜システム(アプライド・マイクロストラクチャ社)を用いて分子気相成膜によって石英ウエハの上に堆積した。FDTSは、石英の表面でのシラノール基との共有結合を受け、ウエハ表面での疎水性単分子層を生成した。
【0343】
次に、AZ5214Eフォトレジスト(マイクロケミカルズ社、GmbH)の層をスピンコーティングによってFDTS処理ウエハの上部に堆積し、続いて90℃でウエハのソフトベークを行い、余分な溶媒を蒸発させた。フォトレジストは、ズース・マスクアライナー・モデルMA6(ズースマイクロテック社)を用いてクロムマスクを介してUV照射に露光し、続いてAZ351B現像液(マイクロケミカルズ社、GmbH)でウエハの現像を行った。こうしてフォトレジストの接続パターンがウエハに残留し、円形孔を下方のFDTS単分子層に露出させた。
【0344】
最後の処理ステップにおいて、FDTS単分子層を選択的に除去し、下方の親水性石英表面を露出させた。これは、モデル300プラズマプロセッサ(テプラ社)を用いて短期間、ウエハを酸素プラズマに曝すことによって達成し、こうしてFDTS単分子層を除去し、より厚いフォトレジスト膜を残した。フォトレジスト膜を除去するために、ウエハを10分間、アセトン中で超音波処理して膜を溶解し、こうして疎水性FDTS分子単層によって包囲された親水性石英機構のパターンを設けた。
【0345】
・フローチャネルでのマイクロ加工アレイの集積化
集積化の前に、フロー区画に嵌め込むために、マイクロ加工ウエハを矩形ピース(25mm×12mm)に切断した。アレイが更なる表面機能化を必要とする場合、下記の例4~5で説明するように、区画集積化の前に機能化プロトコルを行った。
【0346】
フローチャネルおよび液体装填パッドは、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)シートのCNCフライス加工によって調製した。フローチャネルは、1mmの幅、8mmの長さ、100μmの高さおよび200μmの壁厚を有した。フローチャネルは、蠕動ポンプに接続された出口によって終端され、蠕動ポンプは、液体駆動のために必要になる吸引を提供した。液体装填パッドは、約100μlの体積を示し、入口を介してフローチャネルに接続した。フローチャネル、装填パッド、入口および出口は、単一の8mm厚のPMMAスラブから彫刻され、以下ではPMMAフロー構造と称している。
【0347】
親水性機構のマイクロ加工アレイを収容する矩形ウエハピース(チップ)をPMMAフロー構造に装着するために、142μmの公称厚さを備えた両面感圧接着フィルム(ARcare 90106、アドヒーシィブリサーチ社)のピースをCO2レーザ機器を用いて切断した。レーザ切断した接着フィルムの幾何形状は、PMMAフロー構造と整合させ、僅かに小さくして、フローチャネルが、接着材で接着しないように包囲されるようにした。次に、接着材をPMMAフロー構造の底面に付着し、続いてアレイチップを接着材の上部に配置した。そしてアセンブリ(PMMAフロー構造、接着材、アレイチップ)を2つの平坦な5mm厚のPMMAシートの間に挟んで(sandwich)、接合プレスに配置した。このサンドイッチを40℃、60秒間、6kNの圧力でクランプした。こうして接着材は、フローチャネルの高さによって規定されたように、100μmの厚さに圧縮された。得られた接合アセンブリは、機能的フローシステムを規定した。
【0348】
(例4:単一DNA分子のデジタル計数)
本例では、集積化液滴アレイチップを備えたフローシステムを用いて単一の生体分子(本ケースでは、一本鎖DNA)がどのように検出され、デジタル計数できるかを示す。フローシステムアセンブリは、例1~3で説明した手順に従って製造し動作させたが、液滴アレイチップのPMMAフロー構造への集積化の前に、チップは、一本鎖ターゲットDNAの特異的捕獲を可能にするために、更なる表面機能化を施した。マイクロ加工チップは、4μmの直径を有し、8μmの機構間間隔で正方アレイ状に配置された93750個の円形親水性機構で構成した。
【0349】
・表面機能化プロトコル
液滴アレイチップは、アセトン中で10分間の超音波処理によって全面的に洗浄し、続いてイソプロパノール中で10分間の超音波処理を行い、続いてエタノール中で10分間の超音波処理を行った。チップは、窒素フロー下で乾燥し、95%(v/v)エタノール中の1%(v/v)エポキシシラン(Dynasylan GLYEO、エボニック インダストリーズ社)液の溶液に浸漬した。チップは、30分間、エポキシシラン溶液中で培養し、続いて95%エタノールを用いて3回洗浄し、窒素フロー下で乾燥し、110℃で30分間、硬化させた。
【0350】
次に、シラン処理したチップ上のエポキシ基は、ポリ(エチレングリコール)部位に存在するアミン基と反応した。ポリ(エチレングリコール)は、メトキシ-ポリ(エチレングリコール)2000-アミン(OH-PEG2000-NH2)(ジェンケム・テクノロジ社)およびカルボン酸-ポリ(エチレングリコール)2000-アミン(COOH-PEG2000-NH2)(ジェンケム・テクノロジ社)の混合物で構成した。混合物は、OH-PEG2000-NH2とCOOH-PEG2000-NH2の10:1のモル比を有し、10mMのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、138mMのNaCl、2.7mMのKCl、1.5Mの硫酸アンモニウム、pH7.4において100g/lの公称総濃度を有した。チップは、混合物とともに40℃で20時間、培養した。続いて、チップは、Milli-Q水(ミリポア社)を用いて3回洗浄し、窒素フロー下で乾燥した。
【0351】
最後の表面改質ステップにおいて、チップは、DNAターゲットに特異的な捕獲プローブを用いて機能化した。捕獲プローブは、N-末端にリジン基を備えた14merのペプチド核酸(PNA)であり、表面グラフト化したCOOH-PEG2000-NH2上のカルボン酸基への付着のために使用した。N-末端からC-末端へのPNAプローブの配列は、K-O-ACA TAG TTG ACA CG-OO (SEQ ID NO:1:ACA TAG TTG ACA CG)(パナジーン社)であり、Kはリジン基を表し、Oはエチレングリコールリンカーを表し、文字G,C,A,Tは、DNA核酸塩基のPNA類似体を表す。
【0352】
最初に、PNAプローブとの反応のために、チップの表面を、100mMの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン(MES)緩衝剤中で化合物の各々について25g/lの公称濃度で、1:1のモル比でN-ヒドロキシスクシンイミドおよびN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩の混合物に浸漬することによって、調製した。チップは、4℃で30分間、混合物中で培養し、続いて100mMのMES緩衝剤の中で短い洗浄を行った。次に、チップは、100mMのMES緩衝剤でのPNAプローブの100nM溶液に浸漬し、30分間、周囲温度で培養した。続いて、チップは、100mMのMES緩衝剤を用いて短く洗浄を行い、続いて50mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの中に10分間、浸漬した。チップは、Milli-Q水を用いて3回洗浄し、窒素フロー下で乾燥し、そして、例3において概説したように、PMMAフロー構造に接合するまで真空デシケータの中で保存した。
【0353】
・検出プロトコル
検出のターゲットは、50-bpのDNAオリゴ(5’-TCT GTC GTA GGC ACA GAG CGG TCT TAC GGC CAG TCG CGT GTC AAC TAT GT-3’(SEQ ID NO:2))であった。DNAオリゴの最後の14個の塩基対は、PNA捕獲プローブに対して相補的であり、一方、DNAオリゴの最初の12個の塩基対は、DNA系標識剤に対して相補的であった。標識剤は、西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素に共役した1つ以上の12-bpのDNAオリゴによって構成した。標識DNAオリゴの配列は、5’-GCC TAC GAC AGA-3’-TEG-ビオチン(TEG-ビオチンに結合したSEQ ID NO:3)であって、TEGは、テトラエチレングリコールリンカーを表す。
【0354】
標識剤は、ニュートラアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(NAv-HRP)共役(conjugate)(Invitrogen,A2664)を、1:3モル比のNAv-HRP対オリゴの中で標識オリゴと混合することによって調製した。NAv-HRPの最終濃度は100nMであり、混合物は、5×サリンソジウムシトレート(SSC)緩衝液、1.0g/lのウシ血清アルブミン(BSA)、 0.5%(v/v)トリトンX-100、pH7.0で調製した。混合物は、4℃で24時間、培養し、ビオチン化DNAオリゴをNAv-HRPでのニュートラアビジン部位(moiety)に付着できるようにした。得られた共役は、NAv-HRP当り3つの結合DNAオリゴの平均を示し、以下ではNAv-HRP-LO3と省略することにする。
【0355】
下記の緩衝液は、検出実験のために使用した。
【0356】
パッシベーション緩衝液:5×SSC緩衝液、0.5%(v/v)トリトンX-100、10g/lのBSA、pH7.0。
標識緩衝液:5×SSC緩衝液、0.5%(v/v)トリトンX-100、10g/lのBSA、pH7.0。
洗浄緩衝液1:10mMのPBS、138mMのNaCl、2.7mMのKCl、0.1%(v/v)トリトンX-100、50g/lの20kDaモル重量のポリ(エチレングリコール)(PEG20000)、pH7.4。
洗浄緩衝液2:10mMのPBS、138mMのNaCl、2.7mMのKCl、50g/lのPEG20000、pH7.4。
検出緩衝液:10mMのPBS、138mMのNaCl、2.7mMのKCl、10g/lのPEG20000、1.0mMのH2O2、pH7.4。
【0357】
変化する公称DNAターゲット濃度(10fM,1fM,100aM)の溶液、そしてDNAターゲットを含まないコントロールを、検出実験の直前に、5×SSC緩衝液、0.5%のトリトンX-100、pH7.0の中で調製した。検出実験を実施するために、フローシステムを下記の方法で動作させた。
ステップ1:25μlのDNAターゲット溶液を0.2μl/分のフローレートでフローチャネルを通過させる。
ステップ2:フローチャネルを10μlのパッシベーション緩衝液で注入する。
ステップ3:10分間培養し、そして溶液をフローチャネルから排出する。
ステップ4:フローチャネルを、標識緩衝液中の50pMのNAv-HRP-LO3の10μlで注入する。
ステップ5:10分間培養し、そして溶液をフローチャネルから排出する。
ステップ6:100μlの洗浄緩衝液1を10μl/分のフローレートで作動させる。
ステップ7:100μlの洗浄緩衝液2を10μl/分のフローレートで作動させる。
ステップ8:検出緩衝液中の200μMのampliflu red(シグマアルドリッチ社、90101-5MG-F)溶液の3μlを5μl/分のフローレートで作動させる。
【0358】
簡潔には、上記プロトコルは、ステップ1において、DNAターゲットを、表面付着したPNA捕獲プローブに結合できるようにした。次にステップ4~5において、捕獲したDNAターゲットをNAv-HRP-LO3で標識化した。ステップ6~7において余分な標識剤を除去した後、ステップ8において、検出試薬ampliflu redを含むマイクロ液滴を確立した。ampliflu redは、西洋ワサビペルオキシダーゼのための蛍光性基質であり、この上で酵素的処理が蛍光化合物レソルフィン(励起570nm、発光585nm)に変換される。その結果、標識剤を収容する液滴は、蛍光信号を発生し、これは蛍光顕微鏡を用いて容易に検出された。
【0359】
ステップ8に続いて、フローシステムは、蛍光顕微鏡(ツァイス社Axio Vert.A1)の下で555nmのLED励起光源を用いて適切な蛍光フィルタセットと組合せで検査され、レソルフィンからの発光信号を検出した。対応する明視野および蛍光顕微鏡写真は、
図14に示すように、1.4MPのCCDカメラ(AxioCam MR3)を用いて記録した。
【0360】
蛍光顕微鏡写真は、画像解析ソフトウエアImageJを用いて定量化し、蛍光液滴の数を計数した。簡潔には、グレースケールの顕微鏡写真は、特定の強度閾値未満の画素値を0に、閾値超えの画素値を1にフォーマット化することによって、2値フォーマットに変換した。次に、値「1」の接続された画素クラスタを計数した。4画素未満からなるクラスタは、ノイズとして破棄した。全体アレイについてのクラスタの合計数は、後続のデータ解析のために記録した。同じ強度閾値を全ての検出実験からの全ての蛍光顕微鏡写真に適用した。
【0361】
20回の検出実験の合計からの結果を
図15に示す。図は、DNAターゲットの異なる濃度について検出可能な蛍光信号を示す、アレイ上に存在する液滴の百分率割合を示す。コントロールサンプルでは、DNAターゲットが存在せず、多数の液滴が検出可能であった。これはたぶん、アレイ上での非特異的に結合した(例えば、物理吸着または化学吸着)標識剤の存在に起因している。非特異的結合(NSB)は、ありふれた現象であり、単一分子計数などの高感度応用において顕著である。ここで示す実験において、NSB標識剤を収容する液滴の割合は、0.280+/-0.097%(5回の実験からの平均+/-標準偏差)であった。他方では、ターゲットDNAを含むサンプルは、検出可能なマイクロ液滴のより高い割合を示すことが判り、分子ターゲットの微量の特異的検出および定量化を論証している。しかしながら、ターゲットDNAの濃度が増加すると、蛍光液滴の数は、正比例的な方法で増加しなかった。これは、例えば、フローシステムの他の表面での非特異的吸着、あるいは、可能性として表面結合したDNAターゲットの不完全標識化によるターゲットの濃度依存損失に起因しているであろう。
【0362】
(例5:単一DNA分子の繰り返し検出)
本例において、捕獲されたDNAターゲットが、標識剤の不活性化によってどのようにして繰り返し検出できるかを示す。本例で使用したフローシステムは、例1~3に従って製造し動作し、そして例4で提供された表面機能化プロトコルに従って機能化した。
【0363】
後述するように、捕獲されたターゲットの繰り返し検出を使用する利点は、検出が繰り返される度に信号対ノイズ比が改善され、検出限界が改善されることである。さらに、これは、1つ以上の単一ヌクレオチド多型(polymorphism)(SNP)を抱えるDNAターゲットと、SNPなしで他は同じである野生型DNA鎖、例えば、例6との間を識別する観点で、増加した特異性を可能にする。
【0364】
本例において、我々は、例4で説明したものと同じ検出プロトコルを適用し、標識化ステップおよび検出ステップを3回繰り返した。捕獲プローブはPNAをベースとし、標識剤はDNAをベースとしているため、T7エクソヌクレアーゼを用いて標識剤を選択的に除去して、標識剤を消化するとともに、捕獲プローブ/ターゲット複合体を無傷に維持することが可能であった。さらに、NSB標識剤からの信号を除去するために、プローブの酵素部分をフェノールの溶液を用いて不活性化し、これはペルオキシダーゼ酵素の活性部位の構造を選択的に変更し、下記の検出アッセイ(assay)において信号を生成するのを防止する。
【0365】
パッシベーション緩衝液、標識緩衝液、洗浄緩衝液1、洗浄緩衝液2および検出緩衝液は、例4において適用したものと同じであった。さらに、下記の2つの試薬を適用した。
【0366】
消化(digestion) 緩衝液:50mMの酢酸カリウム、20mMの酢酸トリス、10mMの酢酸マグネシウム、1mMのDTT、pH7.9での1500単位/mlのT7エクソヌクレアーゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ社、M0263L)。
【0367】
不活性化緩衝液:5.0mMのフェノール、10mMのPBSでの1.0mMのH2O2、138mMのNaCl、2.7mMのKCl、pH7.4。
【0368】
同じ捕獲DNAターゲットの3つの区別できる検出ステップを可能にするため、実験を下記の方法で実行した。
ステップ1:25μlのDNAターゲット溶液を0.2μl/分のフローレートでフローチャネルを通過させる。
ステップ2:フローチャネルを10μlのパッシベーション緩衝液で注入する。
ステップ3:10分間培養し、そして溶液をフローチャネルから排出する。
ステップ4:フローチャネルを、標識緩衝液中の50pMのNAv-HRP-LO3の10μlで注入する。
ステップ5:10分間培養し、そして溶液をフローチャネルから排出する。
ステップ6:100μlの洗浄緩衝液1を10μl/分のフローレートでフローチャネルを通過させる。
ステップ7:100μlの洗浄緩衝液2を10μl/分のフローレートでフローチャネルを通過させる。
ステップ8:検出緩衝液中の200μMのampliflu red(シグマアルドリッチ社、90101-5MG-F)溶液の3μlを5μl/分のフローレートで作動させる。
ステップ9:液滴アレイの蛍光および明視野顕微鏡写真を記録する。
ステップ10:フローチャネルを10μlの消化緩衝液で注入する。
ステップ11:10分間培養し、そして溶液をフローチャネルから排出する。
ステップ12:20μlの不活性化緩衝液を5μl/分のフローレートでフローチャネルを通過させる。
ステップ13:50μlの洗浄緩衝液1を10μl/分のフローレートでフローチャネルを通過させる。
ステップ14:ステップ4~13を繰り返す。
ステップ15:ステップ4~9を繰り返す。
【0369】
各サンプルについて、例4で概説したものと同じ設定および手順を用いて、一連の3つの連続した蛍光顕微鏡写真を記録し解析した。シリーズの第1顕微鏡写真は、第1検出ステップに対応しており、シリーズの次の顕微鏡写真は、第2検出ステップに対応しており、以下同様である。明視野顕微鏡写真で可視である、フローシステム表面での特定マーキングを使用することによって、蛍光顕微鏡写真の座標は、検出ステップ間のXY位置の変化のために修正した。こうして、異なる検出ステップについて個々の液滴のXY位置を比較することが可能であった。次に、検出シリーズの各顕微鏡写真について、蛍光信号を示す液滴のXY画素位置を記録し、シリーズの残りの2つのメンバーと比較した。標識剤および検出剤を追加した場合、検出ステップ間で5画素以上は相違しない液滴位置は、「永続的」液滴、即ち、信号を繰り返し生成する液滴であると考えた。
【0370】
3回の検出ステップの結果は
図16に示しており、100aMのDNAターゲットを含むサンプルについて一連の蛍光顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真において、永続的液滴は円で標識化した。DNAターゲットが追加されていないコントロールサンプルでは、永続的液滴は、全ての3つの検出ステップにおいて識別できなかった。
【0371】
下記の表は、100aMのDNAターゲットサンプルとコントロールサンプルとの間の定量的比較を示す。表は、100aMのターゲットDNAを含む5つの同様に調製したサンプル、およびターゲットDNAを含まない5つの同様に調製したコントロールサンプルからの平均結果を要約している。表は、コントロールサンプル(第1行)および100aMのターゲットDNAサンプル(第2行)について、例5で定義されるように、永続的液滴の平均ポジティブ割合(Avg.)を提供する。標準偏差(St.dev.)は、5つのサンプルの標準偏差に対応する。第3行は、各後続ステップから得られる信号対ノイズ(S/N)比を提供する。S/N比は、理論値によって括弧内に補完された、実験的に測定された値として提供される。実験値は、第2行の平均値を第1行の平均値で除算することによって得られた。理論値は、100aMのサンプルについての平均値を、(i)第1検出ステップについては0.28%、(ii)第2検出ステップについては7.84・10-4%(0.28%・0.28%)、(iii)第3検出ステップについては2.2・10-6%(0.28%・0.28%・0.28%)で除算することによって計算した。
【0372】
【0373】
コントロールサンプルについて永続的液滴の百分率割合は、検出ステップの各繰り返しごとに減少し、その結果、S/N比の増加をもたらす。この理由は、コントロールサンプルにおいてNSB標識剤だけが蛍光信号を提供するためである。これらはアレイにランダム式で結合しており、これらの信号は後続の検出ステップの間で不活性化されるため、同じ液滴が後続の検出ステップで信号を生成するようにならない。例えば、NSB標識剤のランダム結合パターンを仮定すると、NSB標識剤を収容する液滴の割合が各検出ステップにおいて0.28%である場合(例えば、
図15D)、全3回の検出ステップにおいて永続的液滴を観測する2.2・10
-6%(0.28%・0.28%・0.28%)の機会だけが存在する。100000個の液滴を収容するアレイでは、2.2・10
-6%の偽ポジティブ検出レートは、0.002回の偽ポジティブ検出だけに対応する。こうしてコントロールサンプルでは永続的液滴を観測するようにならない。
【0374】
その結果、これらの特定の実験設定では、NSB標識剤から由来する全てのノイズが排除でき、よって、少なくとも3回の連続した検出ステップについて永続する液滴は、極めて高い確率で、機能的に組織化された捕獲プローブ/DNAターゲット/標識化プローブ複合体を表す。
【0375】
(例6:ターゲットとは単一の塩基対だけ配列が相違する非ターゲットDNAの1:10000(ターゲット:非ターゲット)バックグランドでの単一DNA分子の検出のためのフローシステム設定の説明)
本例において、100μlのサンプル溶液中に存在するDNA検体のデジタル検出を実施できるフローシステムが、後述するステップを続けることによって得られる。検体(ターゲットDNA)は、サンプル中に約10aMの濃度で存在すると予想され、下記の配列セグメント:5’-TCT GTC GTA GGC ACA GAG CGG TCT TAC GGC CAG TCG CGT GTC AAC TAT-3’(SEQ ID NO:4)を含む。検体に加えて、サンプルは、約10000倍以上の濃度、即ち、100fMの他の非ターゲットDNA分子(野生型DNA)を含むと予想され、下記の配列セグメント:5’-TCT GTC GTA GGC ACA GAG CGG TCT TAC GGC CAG TCG CGT GTC CAC TAT-3’(SEQ ID NO:5)を含む。ターゲットおよび野生型DNAは、ボールド体の下線付き位置だけ配列が相違する。
【0376】
捕獲プローブは、ターゲットおよび野生型DNAの5’末端に対して相補的であるように選択された一本鎖PNAオリゴであり、これは、下記の配列5’-GTG CCT ACG ACA GA-3’(SEQ ID NO:6)を含む捕獲プローブを用いることによって達成でき、5’および3’は、プローブのN-末端およびC-末端にそれぞれ対応する。IDTオリゴアナライザソフトウェア(https://eu.idtdna.com/calc/analyzer)によれば、捕獲プローブについての溶融温度は、少なくとも46.8℃であると予想され、よってターゲットおよび野生型DNAの100%が、周囲温度、即ち、23℃で結合するようになる。その結果、アレイは、少なくとも6百万個(mio.)のDNA分子の結合を収容するように設計される必要があり、これは、100fMのDNAを含む100μlサンプルの100%結合に対応する。
【0377】
デジタル計数測定を実施するには、捕獲されたターゲットDNAは、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ(これらの全てが市販されている蛍光性基質を有する)などの酵素に共役した下記配列5-ATA GTT GAC AC-3’(SEQ ID NO:7)を含む一本鎖DNAオリゴからなる標識剤を用いて標識化される必要がある。標識剤は、3’-末端においてDNAターゲットの配列に正確に整合する。最適結合条件の下で、ターゲットDNAの82.6%が23℃の温度で標識剤と結合するようになる(IDTオリゴアナライザ)。しかしながら、同じ条件の下で、ターゲットと野生型との間の高い配列類似性に起因して、野生型DNAの1%も標識剤によって結合されるようになる。その結果、デジタル計数測定を実施するには、アレイは、少なくとも120000個の親水性機構を提示することが必要になる。120000個の機構の量は、第1標識ステップおよび第1検出ステップが実施された場合、アレイの液滴の約半分が蛍光信号を生成するように(即ち、6百万個の野生型DNAの1%+600個のターゲットDNAの82.6%)、選択される。
【0378】
120000個の親水性機構を収容するために、機構は、5μmの直径を有する円として形状をなし、10μmの最隣接間隔を持つ正方形アレイ状に配置することになる。式(1)によれば、個々の親水性機構は、VD=52フェムトリットルの最大体積を有する水性液滴を支持できる。最大液滴体積を計算するために、ペルフルオロデシルトリクロロシラン(FDTS)支持体上での水の接触角に対応する110°のγ値を適用した。その結果、液滴アレイの凝集体積は、VDA=6.2ナノリットル(52フェムトリットルの120000倍)である。そして最大フロー区画体積は、式(9)からVMAX=326μlとして得られる。
【0379】
最大フロー区画体積を計算するために、下記の値を適用した。ρL=1000kg/m3は水の体積密度であり、R=8.31J/(mol・K)はモル気体定数であり、T=296K(23℃)は温度であり、RHI=0は乾燥大気の初期相対蒸気飽和として採用され、P0=1226PaはT0=283K(10℃)の温度での水蒸気の蒸気圧であり、MW=18.016・10-3kg/molは水のモル重量であり、ΔHVAP=40.65・103J/molは水の蒸発のエンタルピーである。これらの値は、ランゲ(Lange)物理化学ハンドブック(ISBN-13: 9780070163843)およびアトキンス物理化学、第1巻、熱力学と動力学(ISBN-13: 9780716785675)から入手した。
【0380】
しかしながら、液滴が、(i)撮像検出ステップ時に安定に留まるように、(ii)酵素反応のための最適条件を提供するために、少量の液滴体積だけが蒸発するのを許容される。液滴の最大許容蒸発体積割合は、5%、即ち、θMAX=0.05に設定され、よってVC=16.3μl、即ち、VC=θMAX・VMAXのフロー区画体積を導く。
【0381】
フロー区画の最終幾何形状設計は、10:1のアスペクト比、LCX=15mmの長さおよびLCY=1.5mmの幅を示す区画について矩形チャネル形状を選択することによって得られる。チャネルの高さは、最大液滴体積の5%未満が蒸発するのを確保するために、hMAX=724μm(hMAX=VC/(LCY・LCX))未満にすることが必要とされる。10:1のアスペクト比は、親水性機構のアレイに適用でき、アレイは、LAX=10.9mmおよびLAY=1.1mmに対応した、1091×110個の円形機構を提示するようになる。
【0382】
上述したフローシステム設定では、DNAターゲットは、例5で説明したように、標識ステップおよび検出ステップを3回繰り返すことによって、ターゲットを10000倍上回るバックグランドで容易に検出可能になる。こうして平均で60496個のDNA分子(6百万個の野生型DNAの1%+ターゲットDNAの82.6%)が第1検出ステップにおいて信号を提供すると予想され、野生型DNAの60000個の偽ポジティブ検出およびターゲットDNAの496個の正しい検出に対応する。
【0383】
第2検出ステップにおいて、平均で1010個のDNA分子(60000個の野生型DNAの1%+496個のターゲットDNAの82.6%)が永続的な信号を提供すると予想され、野生型DNAの600個の偽ポジティブ検出およびターゲットDNAの410個の正しい検出に対応する。第3検出ステップにおいて、平均で344個のDNA分子(600個の野生型DNAの1%+410個のターゲットDNAの82.6%)が永続的な信号を提供すると予想され、野生型DNAの6個の偽ポジティブ検出およびターゲットDNAの338個の正しい検出に対応する。
【0384】
第3検出ステップでは、正しい検出の数は、偽ポジティブ検出の数を56倍だけ上回ると予想され、優れた定量化精度を提供する。しかしながら、標識および検出ステップを4回繰り返すことによって、偽ポジティブ検出は、完全に除去できるものと予想される。
【配列表フリーテキスト】
【0385】
配列表
SEQ ID NO:1:ACA TAG TTG ACA CG
SEQ ID NO:2:5’-TCT GTC GTA GGC ACA GAG CGG TCT TAC GGC CAG TCG CGT GTC AAC TAT GT-3’
SEQ ID NO.3:5’-GCC TAC GAC AGA-3’
SEQ ID NO:4:5’-TCT GTC GTA GGC ACA GAG CGG TCT TAC GGC CAG TCG CGT GTC AAC TAT-3’
SEQ ID NO:5:5’-TCT GTC GTA GGC ACA GAG CGG TCT TAC GGC CAG TCG CGT GTC CAC TAT-3’
SEQ ID NO:6:5’-GTG CCT ACG ACA GA-3’
SEQ ID NO:7:5’-ATA GTT GAC AC-3’
【配列表】