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特許7072292抗炎症成分を分泌する幹細胞の培養方法およびその幹細胞培養液を含む抗炎症組成物
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  • 特許-抗炎症成分を分泌する幹細胞の培養方法およびその幹細胞培養液を含む抗炎症組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】抗炎症成分を分泌する幹細胞の培養方法およびその幹細胞培養液を含む抗炎症組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20220513BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20220513BHJP
   C07K 14/525 20060101ALN20220513BHJP
   C07K 14/535 20060101ALN20220513BHJP
   C07K 14/495 20060101ALN20220513BHJP
   C07K 14/54 20060101ALN20220513BHJP
   C07K 14/62 20060101ALN20220513BHJP
   C07K 14/79 20060101ALN20220513BHJP
   C07K 14/76 20060101ALN20220513BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALN20220513BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20220513BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12N1/00 G
C12N1/00 B
C07K14/525
C07K14/535
C07K14/495
C07K14/54
C07K14/62
C07K14/79
C07K14/76
C12N5/0786
C12N9/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020562658
(86)(22)【出願日】2018-05-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 KR2018005317
(87)【国際公開番号】W WO2019216450
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】10-2018-0052331
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521416166
【氏名又は名称】ヒューコードバイオ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジュン ホン
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ソン ジ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ショウエン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ジョン ヘ
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/210150(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0037113(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯血から単球を分離するステップと、
前記単球を培養して臍帯血由来多分化能幹細胞を得るステップと、
前記得た臍帯血由来多分化能幹細胞を幹細胞抗炎症カスタムメイド培地において刺激するステップと、
前記刺激された臍帯血由来多分化能幹細胞を洗浄するステップと、
前記洗浄された臍帯血由来多分化能幹細胞を培養培地において培養するステップと、を含む、抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法であって、
前記単球の培養はαMEM、FBS、幹細胞成長因子(SCF)、GM-CSF、G-CSF、IL-3およびIL-6を含む培地において行われ、
前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、IMDM、TGF-β、TNF-α、IL-3、IL-6およびMEMビタミンを含み、
前記刺激するステップは35~38℃で20~28時間の間に行われ、
前記培養培地はMedium 199、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、MEMビタミンおよびヒトアルブミンを含む
ことを特徴とする抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法。
【請求項2】
前記抗炎症成分は、一酸化窒素(NO:Nitric oxide)の生成を抑える
請求項1に記載の抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法。
【請求項3】
前記一酸化窒素(NO)の生成が抑えられることは、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS:inducible Nitric oxide synthase)の発現レベルが抑えられることにより行われる
請求項2に記載の抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法。
【請求項4】
前記抗炎症成分は、プロスタグランジンE(PGE:Prostaglandin E)の生成を抑える
請求項1に記載の抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法。
【請求項5】
前記プロスタグランジンE(PGE)の生成が抑えられることは、シクロオキシゲナーゼ2(COX2:Cyclooxygenase 2)の発現レベルが抑えられることにより行われる
請求項4に記載の抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞を培養する方法およびその幹細胞培養液を含む抗炎症組成物に関する。さらに詳しくは、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)およびシクロオキシゲナーゼ2(COX2)を抑えることにより、一酸化窒素(NO:Nitric Oxide、ニトリックオキシド)およびプロスタグランジンE(PGE:Prostaglandin E)の生成量を抑える効果を有する成分を分泌する、臍帯血由来多分化能幹細胞を培養する方法およびその幹細胞培養液を含む抗炎症組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞とは、我々の身体を構成するあらゆる細胞へと分化可能な万能細胞と自己再生能があり、細胞および組織の損傷があるときに再生作用を行うことのできる細胞のことをいう。このような幹細胞は、胚性幹細胞と成体幹細胞とに大別され、胚性幹細胞は、着床前の段階の受精卵に由来し、成体幹細胞は、特定の細胞の形態に分化可能な多能性をもった細胞であって、臍帯血、羊膜、胎盤、骨髄、神経、筋肉、脂肪組織、皮膚組織(皮膚、肝または胃粘膜細胞、陰茎包皮)、毛包、膵臓、膀胱、睾丸、角膜、歯牙(乳歯、親知らず(知恵歯))、月経血など非常に様々な組織に由来する。幹細胞は、他の分類方法によれば、自己(自家)(autologous)幹細胞と他発的(他生的)(allogenic)幹細胞とに区別され、その理由は、幹細胞を患者の身体に移植する場合に最も大きな副作用の一つが移植拒否反応であるためである。この理由から、自己幹細胞または他発的幹細胞に区別する場合が多い。成体幹細胞の場合、現在多くの臨床試験研究が行われているため、特に、成体幹細胞の移植の場合、自己幹細胞であるか、あるいは、他発的幹細胞であるかによって研究段階と方向が決められる。
【0003】
現在、幹細胞を骨髄から分離し且つ培養することは非常に簡単に行えるとはいえ、骨髄を取得し難く、他人の幹細胞を移植する場合に免疫拒否反応の問題を解決することが現実的に困難であることが知られている。これに比べて、臍帯(へその緒)血は骨髄に比べて取得し易いだけではなく、多量の臍帯血を確保する場合には、患者の組織的合成遺伝子と一致するか、あるいは、それに最も類似している臍帯血幹細胞を用いることができるので、免疫拒否反応を解決することができるというメリットがある。すなわち、臍帯血は、幹細胞の供給源として現実的に使用できない胚性幹細胞よりも商業的に有利であり、成体幹細胞のように人為的に成人の体内にある骨髄、脂肪などを採取する作業などが不要であるという点からみても商業的にさらに利用しやすいといえる。
【0004】
炎症性疾患に関わって、代表的な皮膚疾患であるアレルギー接触皮膚炎、乾癬、アトピー皮膚炎などは免疫細胞であるT細胞が媒介する炎症性疾患であって、このような炎症性疾患を治療するためにステロイド性抗炎症製剤が用いられているが、様々な副作用を示している。したがって、毒性が低く、しかも、副作用のない新規な物質の開発が望まれているのが現状であり、本発明者らは、臍帯血由来多分化能幹細胞を用いて抗炎症効果を発揮する物質を開発するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的課題は、様々な副作用を有している従来の抗炎症製剤に取って代わる物質を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法およびその幹細胞培養液を含む抗炎症組成物を提供することである。
【0006】
本発明において解決しようとする技術的課題は、上述した技術的課題に何ら制限されるものではなく、未言及の他の技術的課題は、次の記載から本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者にとって明らかに理解できる筈である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的課題を達成するために、本発明の一局面に係る抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法は、臍帯血から単球を分離するステップと、前記単球を培養して臍帯血由来多分化能幹細胞を得るステップと、前記臍帯血由来多分化能幹細胞を幹細胞抗炎症カスタムメイド培地において刺激するステップと、前記刺激された臍帯血由来多分化能幹細胞を洗浄するステップと、前記洗浄された臍帯血由来多分化能幹細胞を培養培地において培養するステップと、を含んでいてもよい。
【0008】
本発明の実施形態において、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、アルファ最小必須培地(αMEM)またはイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)と、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン6(IL-6)および最少必須培地(MEM)ビタミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、を含んでいてもよい。
【0009】
本発明の実施形態において、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、αMEMまたはIMDMは10~30重量部を含み、かつ、TGF-β、TNF-α、IL-3、IL-6およびMEMビタミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分は1×10-8~17×10-6重量部を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の実施形態において、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、IMDMは10~30重量部を含み、TGF-βは1×10-8~1×10-7重量部を含み、TNF-αは1×10-8~5×10-8重量部を含み、IL-3は1×10-8~5×10-8重量部を含み、IL-6は1×10-8~5×10-8重量部を含み、かつ、MEMビタミンは8×10-6~17×10-6重量部を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の実施形態において、前記刺激するステップは、20~28時間の間に行われることを特徴としてもよい。
【0012】
本発明の実施形態において、前記刺激するステップは、35~38℃で行われることを特徴としてもよい。
【0013】
本発明の実施形態において、前記臍帯血由来多分化能幹細胞培養培地は、αMEM、IMDM、DMEM/F12(ダルベッコ改変イーグル培地/栄養混合物F-12ハム)およびMedium 199よりなる群から選ばれる一つの培養液と、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、MEMビタミンおよびヒトアルブミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、を含むことを特徴としてもよい。
【0014】
本発明の実施形態において、前記臍帯血由来多分化能幹細胞培養培地は、αMEM、IMDM、DMEM/F12およびMedium 199よりなる群から選ばれる一つの培養液は10~30重量部を含み、かつ、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、MEMビタミンおよびヒトアルブミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分は1×10-6~5×10-2重量部を含むことを特徴としてもよい。
【0015】
本発明の実施形態において、前記臍帯血由来多分化能幹細胞培養培地は、Medium 199は10~30重量部を含み、インスリンは1×10-3~5×10-2重量部を含み、トランスフェリンは1×10-3~5×10-2重量部を含み、亜セレン酸ナトリウムは1×10-6~5×10-5重量部を含み、MEMビタミンは8×10-6~17×10-6重量部を含み、かつ、ヒトアルブミンは5×10-3~15×10-3重量部を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の実施形態において、前記抗炎症成分は、一酸化窒素(NO:Nitric oxide)の生成を抑えることを特徴としてもよい。
【0017】
本発明の実施形態において、前記一酸化窒素(NO)の生成が抑えられることは、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS:inducible Nitric oxide synthase)の発現レベルが抑えられることにより行われることを特徴としてもよい。
【0018】
本発明の実施形態において、前記抗炎症成分は、プロスタグランジンE(PGE:Prostaglandin E)の生成を抑えることを特徴としてもよい。
【0019】
本発明の実施形態において、前記プロスタグランジンE(PGE)の生成が抑えられることは、シクロオキシゲナーゼ2(COX2:Cyclooxygenase 2)の発現レベルが抑えられることにより行われることを特徴としてもよい。
【0020】
本発明の他の局面に係る抗炎症組成物は、本発明に係る方法により培養された臍帯血由来多分化能幹細胞が分泌する培養液を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の実施形態において、前記抗炎症組成物は、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン18(IL-18)、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)およびマクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP-1α)よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴としてもよい。
【0022】
本発明の実施形態において、前記抗炎症組成物は、IL-8は40~50重量部を含み、IL-10は0.05~0.07重量部を含み、IL-18は1~2重量部を含み、GM-CSFは0.4~0.6重量部を含み、かつ、MIP-1αは20~30重量部を含むことを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施形態に係る臍帯血由来多分化能幹細胞が分泌する培養液を含む抗炎症組成物は、炎症疾患の改善または治療のための医薬品または機能性化粧品に利用可能である。
【0024】
本発明の効果は、上記の効果に何ら限定されることはなく、本発明の詳細な説明の欄または特許請求の範囲に記載の発明の構成から推論可能なあらゆる効果を含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る臍帯血由来多分化能幹細胞が分泌する抗炎症成分(HSCM)の細胞毒性(MTT〔臭化3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウム〕試験)に対する結果値である。
図2】抗炎症成分(HSCM)の濃度に伴う一酸化窒素(NO:Nitric oxide)の生成量を測定した結果値である。
図3】抗炎症成分(HSCM)の濃度に伴うプロスタグランジンE(PGE:Prostaglandin E)の生成量を測定した結果値である。
図4】抗炎症成分(HSCM)の濃度に伴う炎症因子iNOS、COX2、IL-1β、IL-6及びTNF-αの遺伝子発現を測定した結果値である。
図5】抗炎症成分(HSCM)の濃度に伴う炎症因子iNOSおよびCOX2のタンパク質発現を測定した結果値である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明に係る抗炎症成分(HSCM)を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法およびこの効果について詳しく説明する。ただし、これらの実施例は単なる本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲がこれらにのみ限定されることはない。
【0027】
実施例1:臍帯血の選別
同意書を受けた産母から24時間以内に搬送された臍帯血を用いるか、あるいは、既に有核細胞層のみを回収して零下196℃の超低温冷凍庫に保管中の冷凍保管臍帯血を選別した。
【0028】
実施例2:臍帯血からの多分化能幹細胞の分離および培養
零下196℃で冷凍保管中であった臍帯血は37℃の水浴(water bath)に入れて直ちに解凍して用い、産母から24時間以内に搬送された臍帯血はそのまま用いた。臍帯血から単球を分離するために、アルファ最小必須培地(αMEM:alpha-minimum essential medium, Jeil Biotech Services, Korea)やダルベッコ変法イーグル培地(DMEM:Dulbecco’s modified Eagle’s medium)で臍帯血を2倍の容量に希釈した後、室温で10分間300xgで遠心分離した。分離されたバフィーコート層を収穫して再び2倍容量のαMEMで希釈した後、フィコール・ハイパック(Ficoll-Hypaque)に重ね、室温で30分間300xgで遠心分離を行った。
【0029】
血液から単球を分離するためには、フィコール(Ficoll)(スクロースの重合体)とハイパック(Hypaque)(ジアトリゾ酸ナトリウム;sodium ditrizoate)の重合体であるフィコール・ハイパックが主として用いられる。フィコール・ハイパックの比重は1.077g/mlであって、単球はこれよりは軽いものの、赤血球はこれよりも重いため、比重差による分離を行うことが可能である。すなわち、血液をフィコール・ハイパックの上に載せて遠心分離を行うと、単球はフィコール・ハイパックの上に集まることになる。
【0030】
このような密度勾配遠心分離方法により得られた単球を再び添加物が混ざっていない洗浄用αMEMで2回洗浄した。得られた単球を抗生剤(1000U/mlのペニシリンG、1000μg/mlの硫酸ストレプトマイシン,Gibco-BRL)と抗真菌剤(0.25μg/mlのアムホテリシンB)及び2mMのグルタミン(Glutamine,Sigma)が含まれているαMEM培地に10~ウシ胎児血清(FBS;fetal bovine serum, Jeil Biotech Services)とともに細胞成長因子としての幹細胞因子(50ng/ml)、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF:granulocyte-macrophage colony-stimulating factor;10 ng/ml)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF:granulocyte colony-stimulating factor;10ng/ml)、インターロイキン3(IL-3:interleukin-3;10ng/ml)及びインターロイキン6(IL-6:interleukin-6;10ng/ml)を添加し、細胞数1×10/cmの濃度で浮遊させた。選択された細胞を5日間培養した後、多分化能幹細胞を得た。
【0031】
臍帯血由来多分化能幹細胞を得、リン酸緩衝食塩水(PBS)で3回洗浄した後、幹細胞抗炎症カスタムメイド培地(IMDM 500ml, TGF-β(Prosepc, Israel)10~100pg/ml, TNF-α(Prospec, Istrael)10~50pg/ml, IL-3(Prospec, Istrael)10~50pg/ml, IL-6(Prospec, Istrael)10~50pg/mlおよびMEMビタミン(Gibco, USA) 1~2%(8,000~17,000pg/ml))で24時間の間に37℃の培養器(incubator)において培養して刺激した。幹細胞の刺激が終わった後、PBSで3回洗浄し、培養培地(Medium 199 500ml、インスリン(Sigma,USA)1~50μg/ml、トランスフェリン(Sigma,USA)1~50μg/ml、亜セレン酸ナトリウム(Sigma,USA)0.001~0.05μg/ml、MEMビタミン(Gibco,USA)1~2%(0.008~0.017μg/ml)、ヒトアルブミン(Sigma,USA)0.5~1.5%(5~15μg/ml))に入れ、37℃の培養器(incubator)において培養した。2日おきに一回ずつ培地を交換して培養液を回収し、回収した培養液はそれぞれろ過(Top Filter system, Corning)した後、冷蔵および冷凍保管して用いた。
【0032】
試験例1:細胞毒性実験(MTT試験)
本発明に係る臍帯血由来多分化能幹細胞が分泌する抗炎症物質であるHSCM(ヒト臍帯血細胞順化培養液)の細胞毒性の有無を確認するためにMTT試験を行った。Raw 264.7細胞を10%のウシ胎児血清(FBS)含有DMEMで96ウェルプレートに3×10cells/wellにて100μlずつ入れ、37℃、5% COの培養器において24時間培養した。培養後に培地を取り除き、実験群(HSCM 0、10、20、30、40、50%)を用意して各グループあたりにトリプリケートで処理した後、37℃、5% CO培養器において24時間培養した。培養後に試験液が含まれている培地に5mg/mlのMTT試薬を1ウェルあたりに10μlずつ分注した後、96ウェルプレートの光を遮って37℃、5% COの培養器において4時間培養した。培養が完了すると、MTT試薬が含まれている培地を取り除き、ジメチルスルホキシド(DMSO:dimethyl sulfoxide)100μlを加えてMTTホルマザン結晶を溶解させ、570nmにおける吸光度を測定して細胞の生存率を確認した。
【0033】
結果値は図1に示し、同図を参照すると、抗炎症成分(HSCM)の濃度が上がっても細胞生存には有意な影響を及ばさないことがわかる。
【0034】
試験例2:抗炎症成分(HSCM)含有培地において培養された細胞からの一酸化窒素の生成量の測定
Raw 264.7マクロファージ細胞を用いたグリース(Griess)法にて一酸化窒素(NO:Nitric oxide)の生成量の測定実験を行った。10% FBS含有DMEMで48ウェルプレートに1×10cells/wellにて250μlずつ入れ、37℃、5% COの培養器において24時間培養した。培養後に培地を取り除き、実験群(HSCM 0、10、30、50%)を10% FBS含有DMEM培養液に入れ、ここに炎症誘発源である1μg/mlのリポ多糖(LPS:lipopolysaccharide)を添加し、37℃、5% COの培養器において24時間培養した。次いで、培養液をすべて取って1.5mlのチューブに移し、14,000rpmにて20分間遠心分離して上澄み液を得た。得られた上澄み液を100μlずつ96ウェルプレートに移し、グリース試薬(cayman,USA)を100μlずつ添加して常温で20分間反応させてELISAリーダーで540nmにおける吸光度を測定した。亜硝酸ナトリウム(NaNO)標準物質を用いて標準曲線を作成し、これと比較してNOの生成量を定量した。
【0035】
結果値は図2に示し、同図を参照すると、HSCMの濃度が増加するにつれて一酸化窒素の濃度が次第に減少していることが分かる。
【0036】
試験例3:抗炎症成分(HSCM)含有培地において培養された細胞からのプロスタグランジンE の生成量の測定
PGE(Prostaglandin E)を測定するために、10% FBS含有DMEMで48ウェルプレートに1×10cells/wellにて250μlずつ入れ、37℃、5% COの培養器において24時間培養した。培養後に培地を取り除き、実験群(HSCM 0、10、30、50%)を10% FBS含有DMEM培養液に入れ、ここに炎症誘発源である1μg/mlのリポ多糖(LPS:lipopoliysaccharide)を添加し、37℃、5% COの培養器において24時間培養した。次いで、培養液をすべて回収して1.5mlのチューブに移し、14,000rpmにて20分間遠心分離して上澄み液を得た。得られた上澄み液はPGEEIAキット(cayman,USA)を用いて測定した。ヤギ抗マウスによりコーティングされた96ウェルプレートにそれぞれスタンダードと試料(EIA緩衝液を用いて5倍に希釈する)を50μlずつ添加し、トレーサー溶液とモノクローナル抗体溶液をそれぞれ50μlずつウェルに入れた後、4℃で18時間反応させた。反応後に洗浄緩衝液で5回洗浄し、200μlのエルマン試薬に60~90分間反応させてELISAリーダーで405~420nmにおける吸光度を測定した。標準曲線を作成し、これと比較してPGEの生成量を定量した。
【0037】
結果値は図3に示し、同図を参照すると、抗炎症成分(HSCM)の濃度が増加するにつれてPGEの濃度が次第に減少していることが分かる。
【0038】
試験例4:抗炎症成分(HSCM)含有培地において培養された細胞からの抗炎症関連遺伝子発現の分析(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法)
HSCMが炎症反応を引き起こすときに生成が増加する炎症因子iNOS、COX2、IL-1β、IL-6及びTNF-αの遺伝子発現への影響を調べるために、RT-PCRを行った。Raw 264.7マクロファージ細胞を10% FBS含有DMEMで24ウェルプレートに1×10cells/wellの濃度にて分注し、37℃、5% COの培養器において培養した。培養後に培地を取り除き、実験群(HSCM 0、10、30、50%)を10% FBS含有DMEM培養液に入れ、ここに炎症誘発源である1μg/mlのLPSを添加し、37℃、5% COの条件下で24時間培養した。次いで、培地を取り除き、PBSで1回洗浄した後、培養された細胞からの遺伝子発現の分析のためにRNAzol B試薬を用いて細胞内の総RNAを抽出した。RNAzol B試薬を1ml添加して細胞を溶かして組織を変性させた後、1.5mlのチューブにそれぞれ移し、クロロホルム200μlを添加した後、20秒間ボルデックスして完全に混合されるようにした。室温で15分間反応させた後、14,000rpmにて20分間遠心分離して上澄み液を得、同量のイソプロピルアルコールを添加してインバーティングした後、10分間室温に静置した。試料を14,000rpmにて15分間遠心分離してRNAペレットを得、70%RNA用エタノールで14,000rpmにて10分間遠心分離して洗浄した後、アスピレーターを用いて5分間乾燥した。乾燥されたRNA試料は、0.1% ジエチルピロカーボネート(DEPC;diethyl pyrocarbonate)により処理された蒸留水25μlを添加し、55℃で10分間反応させてペレットを溶かした後、cDNAの合成のための試料として用い、これらのうちの5μlを20倍に希釈して分光光度計を用いてO.D.260/280nmにおけるRNAの濃度および純度を測定した。
【0039】
(1)cDNAの合成
一本鎖cDNAの合成は、抽出した総RNA 1μgにオリゴ-d(T)プライマー(100pmol)1μlを混合して65℃で10分間反応させた後に急速冷却させることにより行われた。このテンプレートに10mM dNTP(TaKaRa Bio Inc.,Japan)、0.1M DTTと5×逆転写(RT)緩衝液(10mM Tris-Cl, 50mM KCl, 2.5mM MgCl)各2μlを添加し、M-MLV RTase(BioNeer,Korea)100unitを添加した後、ジエチルピロカーボネート(DEPC)により処理された蒸留水を用いて全体の量が20μlになるように補正した。試料は、25℃で5分間、42℃で1時間合成反応させた後、72℃で15分間反応させることにより逆転写酵素を不活性化させて終結した。
【0040】
(2)RT-PCR
合成したcDNAと各遺伝子のプライマーを用いてRT-PCR反応を行った。反応条件は、テンプレート1μlとプライマー各0.5μl(10pmol)、2.5mM dNTP 0.5μl、10×PCR緩衝液[10mM Tris-Cl(pH 8.3),50mM KCl, 2.5mM MgCl]2.5μl、Taqポリメラーゼ2unit/μlを添加した後、滅菌蒸留水を用いて全体の量を25μlに補正してPCR反応を行った。PCR反応から得られた増幅産物は1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、各PCR産物の検出強度は、画像分析システム(Kodak EDAS290)を用いて分析した。バンドの検出強度の相対的な定量値は、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH:glyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenase)とアクチンの検出強度を基準として補正した。
【0041】
結果値は図4に示し、各バンドを比較すると、HSCMの濃度が増加するにつれて炎症を引き起こす物質に関わるiNOS、COX2、IL-1β、IL-6、及びTNF-αの遺伝子の発現が次第に抑えられることが分かる。
【0042】
試験例5:抗炎症成分(HSCM)含有培地において培養された細胞からの抗炎症関連遺伝子のタンパク質発現の分析(ウェスターンブロット法)
炎症反応の際に生成されるNOおよびPGEに直接的に関与するiNOSとCOX2のタンパク質の発現の度合いを確認してHSCMの抗炎症効果について調べるために行った。Raw 264.7マクロファージ細胞に実験群(HSCM 0、10、30、50%)を1μg/mlのLPSと一緒に24時間の間に処理した後、培養された培地を取り除き、1mlのPBSを添加してスクラッパー(scraper)で回収して14,000rpmにて20分間遠心分離して洗浄した。遠心分離後に上澄み液を取り除き、500μl 溶解緩衝液(150mM NaCl、50mM Tris-HCl pH 7.5、1% NP40、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM フッ化フェニルメタンスルホニル(PMSF))を添加して超音波粉砕器で溶解させ、14,000rpmにて10分間遠心分離して細胞膜成分などを取り除いた。培養細胞から得られたタンパク質試料は、ビシンコニン酸(BCA)法を用いて定量し、20μgの溶解物を12%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分離し、転移溶液を用いてタンパク質をPVDFメンブレインに90Vにて50分間転移させた。そして、メンブレインのブロッキングは、5%脱脂乳含有TBST(50mM Tris-HCl pH 7.6,150mM NaCl,0.2% Tween 20)溶液で常温で1時間行った。iNOSの抗体としてのウサギポリクローナル抗iNOS(Millipore)、COX2の抗体としてのウサギポリクローナル抗COX2(Millipore)、アクチン(Actin)の抗体としてのヤギポリクローナル抗アクチン(Santa-Curz)を5%脱脂乳含有TBST(TWEEN(登録商標)20含有トリス緩衝生理食塩水)溶液に希釈して常温で1時間30分間反応させた。TBST溶液で3回洗浄した後、2次抗体としての西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP:Horse Radish peroxidase)結合抗ヤギ、抗ウサギIgGを5%脱脂乳含有TBST溶液に希釈して常温で1時間反応させた。次いで、メンブレインをTBSTで3回洗浄した後、イモビロンウェスターンキット(Millipore Cat.No.WBKLS0100)を用いて1分間反応させてLAS-3000分析装備で発色されたバンドの強度を確認した。
【0043】
結果値は図5に示し、同図を参照すると、HSCMの濃度が増加するにつれて炎症を引き起こすNOおよびPGEに関わるiNOSタンパク質およびCOX2タンパク質の発現が次第に抑えられることが分かる。
【0044】
比較例1:抗炎症成分(HSCM)含有培地において培養された臍帯血由来多分化能幹細胞から分泌された抗炎症成分および豆タンパク質加水分解物含有培地において培養された臍帯血由来多分化能幹細胞から分泌された抗炎症成分の比較
【0045】
韓国公開特許第10-2009-0090850号公報または韓国公開特許第10-2013-0104924号公報において公開された豆加水分解物含有培地において培養された臍帯血由来多分化能幹細胞が分泌する成分のうち、抗炎症に関わる主な成分であるIL-8、IL-10、IL-18、GM-CSFおよびMIP-1αの含量を本発明に従い刺激および培養された臍帯血由来多分化能幹細胞から分泌する前記成分の含量と比較し、その結果は、表1にまとめて示す。
【0046】
【表1】
【0047】
[表1]に示す結果値を参照すると、本発明に従い刺激および培養された臍帯血由来多分化能幹細胞は、主な抗炎症成分であるIL-8、IL-10、IL-18、GM-CSFおよびMIP-1αの含量が前記公開された特許に開示されている培養技術により培養された臍帯血由来多分化能幹細胞よりも、IL-8は8.8倍、IL-10は50倍、GM-CSFは24倍およびMIP-1αは2927倍ほどさらに多く分泌されることが分かる。なお、IL-18は前記特許に記載の臍帯血多分化能幹細胞からは分泌されなかったが、本発明に係る臍帯血多分化能幹細胞からは上記の表1でのように分泌された。
【0048】
上述した本発明の説明は、単なる例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態へと容易に変形できることが理解できる筈である。よって、上述した実施形態は、あらゆる面において例示的なものに過ぎず、限定的ではないものと理解すべきである。例えば、単一型であると説明されている各構成要素は、分散されて実施されてもよく、同様に、分散されていると説明されている構成要素も、組み合わせられた形態に実施されてもよい。
【0049】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって表わされ、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導き出されるあらゆる変更または変形された形態も本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0050】
以下では、添付図面に基づいて、本発明について詳しく説明する。しかしながら、本発明は、種々の異なる形態に具体化可能であり、したがって、ここで説明する実施形態に限定されるものではない。なお、図中、本発明を明確に説明するために、説明とは無関係な部分は省略し、明細書の全般に亘って、類似の部分には類似の図面符号を付している。
【0051】
明細書の全般に亘って、ある部分が他の部分と「連結(接続、接触、結合)」されているとしたとき、これは、「直接的に連結」されている場合のみならず、これらの間に他の部材を挟んで「間接的に連結」されている場合も含む。なお、ある部分がある構成要素を「備える」としたとき、これは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外するわけではなく、他の構成要素をさらに備えていてもよいことを意味する。
【0052】
本明細書において用いた用語は、単に特定の実施形態を説明するために用いられたものであり、本発明を限定しようとする意図はない。単数の表現は、文脈からみて明らかに他の意味を有さない限り、複数の言い回しを含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、明細書に記載の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものに過ぎず、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解すべきである。
【0053】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施例について詳しく説明する。
【0054】
本発明の一局面に係る抗炎症成分を分泌する臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法は、1)臍帯血から単球を分離するステップと、2)前記単球を培養して臍帯血由来多分化能幹細胞を得るステップと、3)前記得た臍帯血由来多分化能幹細胞を幹細胞抗炎症カスタムメイド培地において刺激するステップと、4)前記刺激された臍帯血由来多分化能幹細胞を洗浄するステップと、5)前記洗浄された臍帯血由来多分化能幹細胞を培養培地において培養するステップと、を含んでいてもよい。
【0055】
前記臍帯血とは、出産の際にへその緒から出るへその緒の血液のことをいい、白血球と赤血球、血小板などを作る造血幹細胞を含有していてもよく、軟骨と骨、筋肉、神経などを作る間葉系幹細胞をも含んでいてもよい。
【0056】
前記多分化能幹細胞とは、ある組織および器官に特異的な細胞にしか分化できない分化能力を有している幹細胞のことをいい、例えば、多分化能を有する細胞としては、造血幹細胞(HSC)、間葉系幹細胞(MSC)、神経幹細胞(NSC)などの成体幹細胞を含んでいてもよい。このような多分化能を有する成体幹細胞は、胎児期、新生児期および成体期の各組織および臓器の成長と発達はもとより、成体組織の恒常性の保持と組織損傷の際に再生を誘導する機能に関与することができる。
【0057】
前記多分化能幹細胞は、色々な成分を分泌することができ、これらの成分が生体内の損傷された細胞や組織に働いて損傷された部位を好転させることができる。本発明の実施形態によれば、前記多分化能幹細胞は、損傷された細胞や組織を直接的に修復することもできるが、損傷された細胞が自滅しないように守り、血管を新たに作り、硬くなったタンパク質を分解して組織の機能を取り戻せるだけではなく、ここに必要な様々な生理因子を分泌することもできる(これをパラクリーン効果とも呼ぶ)。具体的に述べると、前記多分化能幹細胞は、肌の成長や再生に役立つ細胞成長因子と肌を有害活性酸素などから保護する抗酸化物質の分泌を促し、炎症を減らす物質または抗癌性物質などを分泌することができる。
【0058】
本発明の実施形態によれば、前記得た臍帯血由来多分化能幹細胞を幹細胞抗炎症カスタムメイド培地において刺激するステップにおいては、幹細胞の抗炎症に関わるシグナル伝達機序を活性化させることができ、その結果、IL-8、IL-10、IL-18、GM-CSF、MCP-1αなどの抗炎症成分の分泌を誘導することができる。すなわち、前記臍帯血由来多分化能幹細胞の色々なシグナル伝達機序の中でも特異的に抗炎症に関わるシグナル伝達機序を通常の状態よりもさらに活性化させることができ、その結果、抗炎症成分の分泌に適するように前記幹細胞の状態を変化させることができる。
【0059】
本発明の実施形態によれば、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、αMEMまたはIMDMと、TGF-β、TNF-α、IL-3、IL-6およびMEMビタミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、を含んでいてもよい。
【0060】
本発明の実施形態によれば、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、αMEMまたはIMDMは10~30重量部を含み、かつ、TGF-β、TNF-α、IL-3、IL-6およびMEMビタミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分は1×10-8~17×10-7を含んでいてもよい。
【0061】
本発明の実施形態によれば、前記MEMビタミンは、塩化コリン、パントテン酸D-カルシウム、葉酸、ニコチンアミド、ピリドキサール塩酸塩、リボフラビン、チアミン塩酸塩およびi-イノシトールから構成されてもよい好ましく、前記MEMビタミンは、全体の1ml当たりに80~120μgの塩化コリン、80~120μgのパントテン酸D-カルシウム、80~120μgの葉酸、80~120μgのニコチンアミド、80~120μgのピリドキサール塩酸塩、8~12μgのリボフラビン、80~120μgのチアミン塩酸塩および180~220μgのi-イノシトールから構成されてもよい。
【0062】
本発明の実施形態によれば、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、αMEMまたはIMDMは10~30重量部を含み、TGF-βは1×10-8~17×10-7重量部を含み、TNF-αは1×10-8~17×10-7重量部を含み、IL-3は1×10-8~17×10-7重量部を含み、IL-6は1×10-8~17×10-7重量部を含み、かつ、MEMビタミンは1×10-8~17×10-7重量部を含んでいてもよい。
【0063】
本発明の好適な実施形態によれば、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地は、IMDMは15~25重量部を含み、TGF-βは1×10-8~1×10-7重量部を含み、TNF-αは1×10-8~5×10-8重量部を含み、IL-3は1×10-8~5×10-8重量部を含み、IL-6は1×10-8~5×10-8重量部を含み、かつ、MEMビタミンは8×10-6~17×10-6重量部を含んでいてもよい。
【0064】
本発明の他の実施形態によれば、αMEMまたはIMDMは400~600mlを含み、TGF-β、TNF-α、IL-3、IL-6およびMEMビタミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分は1~100pg/mlを含んでいてもよい。
【0065】
本発明のさらに他の実施形態によれば、IMDMは450~550mlを含み、TGF-βは1~100pg/mlを含み、TNF-αは1~100pg/mlを含み、IL-3は1~100pg/mlを含み、IL-6は1~100pg/mlを含み、かつ、MEMビタミンは1~100pg/mlを含んでいてもよい。さらに好ましくは、前記TGF-βは10~100pg/mlを含み、前記TNF-αは10~50pg/mlを含み、前記IL-3は10~50pg/mlを含み、前記IL-6は10~50pg/mlを含み、かつ、前記MEMビタミンは8000~17000pg/mlを含んでいてもよい。
【0066】
本発明の実施形態によれば、前記刺激するステップは、20~28時間の間に行われてもよい。好ましくは、23~25時間であってもよい。20時間よりも短い時間の間に刺激をすると、本発明の実施形態に係る幹細胞が抗炎症成分を分泌するために十分に刺激されず、また、28時間を超えて刺激すると、前記幹細胞が過剰に刺激を受けてしまう結果、抗炎症成分に加えて他の成分がさらに出て抗炎症の純度を下げてしまう虞がある。
【0067】
本発明の実施形態によれば、前記刺激するステップは、35~38℃で行われてもよい。好ましくは、36~37.5℃で行われてもよい。35℃よりも低い温度で幹細胞を刺激すると、細胞の全般的な活動が減って十分な刺激が行われない虞があり、38℃よりも高い温度で幹細胞を刺激すると、細胞内酵素などの活性が阻害されて、その結果、細胞が死滅する虞があるため、本発明の実施形態に係る抗炎症物質の分泌が正常に行われない虞がある。
【0068】
前記刺激された臍帯血由来多分化能幹細胞を洗浄するステップは、前記幹細胞抗炎症カスタムメイド培地において刺激するステップの後に、かつ、培養培地において培養するステップの前に、幹細胞抗炎症カスタムメイド培地を取り除くとともに、前記刺激するステップの間に前記臍帯血由来多分化能幹細胞から分泌される成分も一緒に取り除くステップである。前記刺激するステップにおいて、臍帯血由来多分化能幹細胞から分泌される成分は、本発明の目的である抗炎症作用にふさわしい成分ではないため、洗浄過程を通じて取り除かれなければならない。
【0069】
前記洗浄された臍帯血由来多分化能幹細胞を培養培地において培養するステップは、前記刺激が完了してから洗浄ステップを経た臍帯血由来幹細胞から抗炎症成分を産生して分泌するようにするために培養するステップである。すなわち、前記培養するステップにおいて培養された臍帯血由来多分化能幹細胞が分泌する成分は、抗炎症作用を有する成分を含んでいてもよい。
【0070】
本発明の実施形態によれば、前記抗炎症成分は、NO(Nitric oxide)の生成を抑えることができる。前記NOは、血圧の調節、神経の伝達、血小板の凝集の抑制、免疫機能などの役割を果たすものであることが知られており、色々な組織と細胞においてLアルギニンから一酸化窒素合成酵素(NOS)により合成され得る。前記NOSは、大きく、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS:neuronal NOS)、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS:endothelial NOS)と誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS:inducible NOS)に分けられる。特に、前記iNOSは、細胞内のカルシウムの濃度に対して非依存性を示し、大食細胞、血管平滑筋細胞、内皮細胞、肝細胞と心筋細胞など色々な細胞においてLPS、インターフェロンγ(IFN-γ)、IL-1とTNF-αなどの刺激により活性化されて長い時間に亘って多量のNOを生成することができる。しかしながら、NOが過剰に生成されると、ショックによる血管の拡張、炎症反応により引き起こされる組織の損傷、神経組織の損傷などを引き起こして生体に有害な作用を示す虞がある。
【0071】
図2を参照すると、本発明の実施形態に係る臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法を用いて、幹細胞から分泌された抗炎症成分(HSCM)がNOの生成量を抑えることができるということが分かる。
【0072】
本発明の実施形態によれば、前記抗炎症成分は、iNOS(inducible Nitric oxide synthase)の発現レベルを抑えることにより、NOの生成を抑えることができる。これは、図4および図5を参照すると、前記抗炎症成分がiNOSの遺伝子発現を抑えるだけではなく、それによるタンパク質の発現まで抑えることができるということを示唆する。
【0073】
本発明の他の実施形態によれば、前記抗炎症成分は、PGE(Prostaglandin E)の生成を抑えることができる。前記PGEは、前記NOのように炎症媒介物質の一つであり、血管の拡張、浮腫、発熱、疼痛などを媒介する虞がある。また、炎症疾患においてマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)の生成を誘導して組織の損傷に関与する虞があり、関節リウマチ患者から得た大食細胞において多量のPGEが生成され、生成されたPGEは、関節リウマチにおける炎症反応と組織の破壊前に重要な役割を果たす虞がある。前記PGEの合成は、ホスホリパーゼA2の酵素の作用により膜りん脂質からアラキドン酸が作られることから始まる。アラキドン酸は、酵素の作用によりプロスタグランジンG2となり、再び不安定な代謝産物であるプロスタグランジンH2となるが、これらの二つの過程は、シクロオキシゲナーゼ(COX)により促される。COXには二種類以上の同位酵素(アイソザイム)が存在するが、これらのうち、COX1は持続的に発現させ続けて血小板の凝集、胃粘膜の保護、新機能の調節などの生理的な機能を司り、COX2は炎症などの刺激により発現し、したがって、COX2により生成されたプロスタグランジンが炎症反応と細胞の増殖に関与することができる。
【0074】
図2を参照すると、本発明の実施形態に係る臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法を用いて、幹細胞から分泌された抗炎症成分(HSCM)がPGEの生成量を抑えることができるということが分かる。
【0075】
本発明の実施形態によれば、前記抗炎症成分は、COX2(Cyclooxygenase 2)の発現レベルを抑えることにより、前記PGEを抑えることができる。これは、図4および図5を参照すると、前記抗炎症成分がCOX2の遺伝子発現を抑えるだけではなく、それによるタンパク質の発現まで抑えることができるということを示唆する。
【0076】
本発明の実施形態によれば、前記培養培地は、αMEM、IMDM、DMEM/F12およびMedium 199よりなる群から選ばれる一つの培養液と、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、MEMビタミンおよびヒトアルブミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分と、を含んでいてもよい。
【0077】
本発明の実施形態によれば、前記培養培地は、αMEM、IMDM、DMEM/F12およびMedium 199よりなる群から選ばれる一つは10~30重量部を含み、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、MEMビタミンおよびヒトアルブミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分は1×10-6~5×10-2重量部を含んでいてもよい。
【0078】
本発明の他の実施形態によれば、前記培養培地は、Medium 199は10~30重量部を含み、インスリンは1×10-6~5×10-2重量部を含み、トランスフェリンは1×10-6~5×10-2重量部を含み、亜セレン酸ナトリウムは1×10-6~5×10-2重量部を含み、MEMビタミンは1×10-6~5×10-2重量部を含み、かつ、ヒトアルブミンは1×10-6~5×10-2重量部を含んでいてもよい。
【0079】
本発明の好適な実施形態によれば、前記培養培地は、Medium 199は15~25重量部を含み、インスリンは1×10-3~5×10-2重量部を含み、トランスフェリンは1×10-3~5×10-2重量部を含み、亜セレン酸ナトリウムは1×10-6~5×10-5重量部を含み、MEMビタミンは8×10-6~17×10-6重量部を含み、かつ、ヒトアルブミンは5×10-3~15×10-3重量部を含んでいてもよい。
【0080】
本発明の他の実施形態によれば、前記培養培地は、αMEM、IMDM、DMEM/F12およびMedium 199よりなる群から選ばれる一つの培養液は400~600mlを含み、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、MEMビタミンおよびヒトアルブミンよりなる群から選ばれる少なくとも一つの成分は0.001~50μg/mlを含んでいてもよい。
【0081】
本発明の好適な実施形態によれば、Medium 199は450~550mlを含み、インスリンは1~50μg/mlを含み、トランスフェリンは1~50μg/mlを含み、亜セレン酸ナトリウムは0.001~0.05μg/mlを含み、MEMビタミンは0.008~0.017μg/mlを含み、かつ、ヒトアルブミンは5~15μg/mlを含んでいてもよい。
【0082】
本発明の他の一局面に係る抗炎症組成物は、前記臍帯血由来多分化能幹細胞の培養方法により培養された幹細胞が分泌する培養液を含んでいてもよい。
【0083】
本発明の実施形態によれば、前記抗炎症組成物は、IL-8、IL-10、IL-18、GM-CSFおよびMIP-1αよりなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。好ましくは、前記抗炎症組成物は、IL-8は40~50重量部を含み、IL-10は0.05~0.07重量部を含み、IL-18は1~2重量部を含み、GM-CSFは0.4~0.6重量部を含み、かつ、MIP-1αは20~30重量部を含んでいてもよい。
【0084】
本発明の他の実施形態によれば、前記抗炎症組成物は、IL-8は40~50ng/mlを含み、IL-10は0.05~0.07ng/mlを含み、IL-18は1~2ng/mlを含み、GM-CSFは0.4~0.6ng/mlを含み、かつ、MIP-1αは20~30ng/mlを含んでいてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5