(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】水中油型エマルジョン、水中油型エマルジョンの製造方法、および、被膜の形成方法。
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20220513BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20220513BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20220513BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220513BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220513BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
A61K8/06
A61K8/25
C08L83/04
C08K3/36
C01B33/18 C
B01J13/00 A
(21)【出願番号】P 2018114980
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 美喜子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 憲二
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特許第6312234(JP,B1)
【文献】特開2005-097246(JP,A)
【文献】特開2011-088832(JP,A)
【文献】特開平02-298338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
A61K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フュームドシリカ粒子群の下位の凝集体同士が非化学的結合により高位の凝集体を形成するフュームドシリカ粒子群であって、各々における表面親水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/各々における表面疎水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率が、
20/80以上80/20以下所定数値範囲である、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群により形成される、親水リッチな下位の凝集体の高密度部分が水相と接し、疎水リッチな下位の凝集体の高密度部分が他の疎水リッチな下位の凝集体と接し、内部に空間を形成する自己ミセル的凝集体内部に油分が吸い込まれた形態の複合粒子群を含み、
前記油分は、平均組成が一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンであり、
R
1
aR
2
bSiO
(4-a―b)/2 (1)
[式(1)中、R
1は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基または水素原子であり、R
2は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、もしくは炭素数6~30の芳香族基で、少なくとも1つの炭素上の水素原子がフッ素原子で置換されている炭化水素基であり、bは0ではない正の数、a+bは0.3以上かつ2.5未満である]
前記複合粒子群それぞれは、自己ミセル的凝集体が油滴の表面を被覆している、ことを特徴とする水中油型エマルジョン
であって、
前記水中油型エマルジョン100質量部中における前記油分の含有量は20~80質量部の範囲内である、水中油型エマルジョン。
【請求項2】
表面のシラノール基を疎水化処理した疎水リッチなシリカ原料と表面のシラノール基が残留した親水リッチなシリカ原料とを所定割合で混合することにより、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/前記フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、
20/80以上80/20以下所定数値範囲となるように、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を準備する段階と、
準備した2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を水に添加して、所定せん断速度でせん断することにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群間における1次凝集レベルでの交換および/または2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向を促進することにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群による、親水リッチな下位の凝集体の高密度部分が水相と接し、内部に空間を形成する自己ミセル的凝集体を含む水分散体を生成する段階と、
生成した水分散体中に、油分を添加して、自己ミセル的凝集体内部に油分を吸い込ませることにより、エマルジョンを形成する段階とを、有し、
前記油分は、平均組成が一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンであり、
R
1
aR
2
bSiO
(4-a―b)/2 (1)
[式(1)中、R
1は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基または水素原子であり、R
2は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、もしくは炭素数6~30の芳香族基で、少なくとも1つの炭素上の水素原子がフッ素原子で置換されている炭化水素基であり、bは0ではない正の数、a+bは0.3以上かつ2.5未満である]
前記エマルジョン100質量部中における前記油分の含有量は20~80質量部の範囲内であり、
それにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群により形成される自己ミセル的凝集体内部に油分が含有した形態の複合粒子群を含むことを特徴とする水中油型エマルジョンの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造した水中油型エマルジョンを利用して、基材の保護、基材の改質および基材の表面への機能付与のいずれかに応じて設定した所定膜厚の被膜を基材の表面に形成する段階を有する、ことを特徴とする被膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型エマルジョンおよび水中油型エマルジョンの製造方法に関し、より詳細には、安定性を確保した、フッ素含有オルガノポリシロキサンを油分とする水中油型エマルジョンおよび水中油型エマルジョンの製造方法、および所定膜厚を形成する被膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノポリシロキサンは、化学構造から本質的に由来する安定性、耐熱性、耐水性、耐油性、撥水性、柔軟性、気体透過性などの性質が優れていることが知られている。
炭化水素の水素原子を一部フッ素原子で置き換えたものである、フルオロカーボンは、上記の性質のうち、安定性、耐熱性、耐水性、耐油性、撥水性が通常のオルガノポリシロキサン、例えばジメチルポリシロキサン、よりもさらに優れていることが知られている。また、フルオロカーボンは、撥油性など、通常のオルガノポリシロキサンには全く見られない特徴的な性質があることが知られている。ところが、フルオロカーボンはこのような優れた性質がありながら、その固すぎる性質や、ち密すぎる性質などから材料としての使い道は限られていた。
そこで、オルガノポリシロキサンの骨格にフルオロカーボンの構造を導入することにより、オルガノポリシロキサンの基本特性を維持したまま、あるいは大きく損ねないまま、フルオロカーボンの特性を発揮することができる。
【0003】
例えば、オルガノポリシロキサンの柔軟性等を維持しながら、安定性、耐熱性、耐水性、耐油性、撥水性を向上することができるので、オルガノポリシロキサンだけでは達し得ない要求特性を満たすことが可能になる。また、オルガノポリシロキサンの柔軟性等を維持しながら、撥油性というオルガノポリシロキサンでは全く発揮し得ない特性を得ることができる。さらには、オルガノポリシロキサンの問題を相対的に解決することもできる。例えば、オルガノポリシロキサンにより起泡する泡を、フルオロカーボンを導入したオルガノポリシロキサンにより消すことができる。また、フルオロカーボンを導入したオルガノポリシロキサンにより、鉱物油による泡も消すことができる。また、フルオロカーボンの導入により、オルガノポリシロキサンの柔らかすぎる物性を固くする、樹脂中からマイグレートしてしまう性質を防止する、なども可能になる。
逆に、フルオロカーボンとしての固すぎる、ち密すぎる等の特性をオルガノポリシロキサンの導入により相対的に超えるという捉え方もできる。
以降、フルオロカーボンを骨格上に導入したオルガノポリシロキサンを、フッ素含有オルガノポリシロキサンと称する。
【0004】
フッ素含有オルガノポリシロキサンは、上記の理由から、オイル、ゴム、レジンのような各種形態で、そして、バルク状、溶液状、分散液状(あるいは懸濁液状)、被膜状のような各種形状で、様々な用途に向けその優れた特性を発揮すべく用途が期待されている。
フッ素含有オルガノポリシロキサンは、フルオロカーボンの含有量を増やすほど、上記の特性が通常のオルガノポリシロキサンよりも優れている程度は上回る。しかし、含有量を増やし過ぎると、通常のオルガノポリシロキサンが有している柔軟性や、繊維処理の場合等では風合いが犠牲になってくる。したがって、フッ素の導入量には通常、上限がある。目的の特性を引き出すこととのバランスを取ってフッ素の含有量を決める必要があった。
【0005】
既に、オイルの形態では、そのままバルクの形状で塗布する等により、安定性と耐水性、耐油性に優れる性質から、塗料、離型剤、繊維処理剤、皮革表面処理剤において水性および油性の汚れの付着を防止する成分として用いられている。また優れた撥水剤としても使用されている。化粧品用途でも、皮脂や汗などの水性、油性成分に対し、化粧崩れが起こりにくくなるといった目的で使用されている。
【0006】
フッ素含有オルガノポリシロキサンの特性を最大限に引き出すには、被膜態様として使用する必要がある。なぜなら、優れた安定性、耐熱性、耐水性、耐油性、撥水性、撥油性と言った特性は、基材の保護、改質、基材表面への機能性付与という観点から、基材上に被膜として形成する必要があるからである。
しかし、被膜状で用途展開することは現状では極めて難しい。その理由は、フッ素含有オルガノポリシロキサンの著しい撥水性、撥油性のため、水溶液または水分散液にできず、また、フッ素含有オルガノポリシロキサン中のフルオロカーボンの含有率が一定以上の場合は、有機溶剤への溶解性も十分でないため、有機溶剤溶液または懸濁液にできないため、コーティング等による被膜形成ができない、または、被膜形成性が十分でないためである。そのため、これまでは著しくフッ素含有オルガノポリシロキサンの用途が限られていた。あるいは、用途の開発が進んでいなかった。
【0007】
上記のように、被膜態様が最も好適な適用形態であることから、最終の被膜形態さえ確保できれば、フッ素含有シリコーンの中途段階は問わないので、いくつかの被膜形成のための方法が考えられる。例えば、プラズマCVDのような方法では薄くて均一な被膜形成は可能と思われる。ただし、装置的やコスト的制約から、中途段階としてはエマルジョン等の分散液の方が有利である。
さらに、環境上、健康上の理由から、水系で製品を供給することが好ましいこと、さらに、水系塗料や化粧料のような水系の処方にフッ素含有オルガノポリシロキサンを配合するには、水中油型エマルジョン形態としての必要性がある。
塗布という形式で適用するためには、水中油型エマルジョンの状態で保管する必要性があるので、水中油型エマルジョンとしての初期および経時での安定性は極めて重要である。
【0008】
ところが、フッ素含有シリコーンオイルは、水系処方への添加が難しい。そのため有機溶剤に溶解して塗料などに配合されるが、近年、安全な作業環境の確保及び環境負荷の観点から、分散媒を有機溶剤系から水系へと変更することが求められており、水系のエマルジョン組成物の需要が高まっている。また、化粧品用途でも水系処方はさっぱりした感触を求めて、さらに要望が高まっている。さらに、フッ素含有シリコーンオイルはほとんどの物質と相溶しなく、有機溶剤でさえ相溶性は十分でない。そのため、各種用途において、安定な製品保存や応用面での均一性などに問題があった。
【0009】
これに対し、例えば、特許文献1および2には、構造にポリエーテル基を含むことで水系処方への相溶性を有するシリコーンエマルジョンが開示されている。また特許文献3ではカルボン酸エステル部位とポリエーテル構造を有することで親水性と親油性を高めたシリコーンエマルジョンが開示されている。
しかし、それらの変性部位を構造中に有することで水系処方に添加できるようになるものの、元来フッ素含有シリコーンが有している耐水性、耐油性をかえって発現できないという問題があった。
【0010】
フュームドシリカ粒子によりシリコーンオイルその他のシリコーン物質を乳化したピッカリングエマルジョンが知られている。このようなピッカリングエマルジョンは、水中油型エマルジョンとして、コアを構成する油滴と、油相と水相との界面である油滴の表面に存在するフュームドシリカ粒子とからなる複合粒子が複合粒子群として水相中に乳化状態で存在する形態をとる。
これらは、有機系界面活性剤を用いないでエマルジョンを形成することにより、環境に有害である有機系界面活性剤による弊害をなくしたり、機能剤としてのシリカを、粒子としてでなく水系で提供することが可能である点において、水中油型エマルジョンとして、医薬、食料品、消泡剤等多種の用途展開が期待されている。
しかしながら、従来のピッカリングエマルジョンには、以下のような技術的問題点が存する。
【0011】
特許文献4~6には、フュームドシリカによる油分の乳化をさせたピッカリングエマルジョンが開示されている。ところが、これらの文献にはピッカリングエマルジョンの安定性が発揮されるための具体的なパラメータの解明や、安定性を確保するための具体的な方法が開示されていない。また、これらの文献において、ピッカリングエマルジョンの製造方法としては、油相、水相、フュームドシリカの添加タイミングはいずれの順番でも可能であると記されている。ところが、油相を水相と同時に添加するのでは、フッ素含有オルガノポリシロキサンが撥水性、撥油性の双方を有するものである以上、ピッカリングエマルジョンの作製は困難である。
【0012】
特に、特許文献5において、ピッカリング水中油型エマルジョン、その前提としての、フュームドシリカの水分散体が開示され、フュームドシリカの親水性と疎水性のバランスについても言及されている。
しかしながら、以下の理由から、界面活性剤機能を発揮する観点から、親水性と疎水性のバランス、すなわち、親水性/疎水性に注目するに過ぎず、ピッカリング水中油型エマルジョンまたはシリカの水分散体の安定性の観点から、親水性/疎水性に着目するわけではない。
第1に、従来の界面活性剤は、金型への吹き付け時のエマルジョンの破壊が起こりにくいためにオイル成分の金型への付着が不十分であると指摘されており、水中油型エマルジョンを金型離型剤として用いる場合の特殊性から、水中油型エマルジョンの破壊が必要とされる旨が記載されており、これは、ピッカリング水中油型エマルジョンまたはシリカの水分散体の安定性確保とは、逆行するものである。
第2に、水中油型エマルジョンの製造方法として、親水性と疎水性のバランスがコントロールされず界面活性剤機能を有しないシリカ粒子を用いる場合には、シリカとともに界面活性剤を添加してもよいし、親水性と疎水性のバランスがコントロールされたシリカ粒子を用いる場合には、シリカのみを添加するのでもよいし、シリカの水分散体を生成後に油分を添加してもよいし、シリカ、水と同時に油分を添加してもよいと記載されている。
【0013】
以上、特許文献5においては、このような水分散体をベースに、水相、油相およびシリカ粒子からなる水中油型ピッカリングエマルジョンが開示されているが、水中油型ピッカリングエマルジョンの製造方法について、シリカ粒子を界面活性剤とともに用いてもよい点、油相を水相およびシリカ粒子と同時に添加して攪拌してもよい、と記載されている点で、ピッカリングエマルジョンの安定性確保のための具体的なパラメータと製造方法を開示したものでなく、かつ、フッ素含有オルガノポリシロキサンを油分とするピッカリングエマルジョンの可能性を示すものではなかった。
そのため、従来は、フッ素含有オルガノポリシロキサンのエマルジョンができるための考え方は全く存在せず、そのための検討すら行われてこなかった。
【0014】
この点、本件出願人は、特許文献7において、フュームドシリカ粒子のように、無機粒子群の下位の凝集体同士が非化学的結合により高位の凝集体を形成して水中に分散している水分散体、およびこのような水分散体をベースに油分を添加する水中油型ピッカリングエマルジョンにおいて、凝集体レベルでの交換(リアレンジメント)あるいは移動(配向)による安定性調整というメカニズムを見出している。
より詳細には、無機粒子群の下位の凝集体同士が非化学的結合により高位の凝集体を形成して水中に分散している水分散体にあって、凝集体レベルでの交換(リアレンジメント)あるいは移動(配向)により、親水リッチ凝集体、疎水リッチ凝集体、およびその中間の凝集体(自己ミセル的凝集体)が生成され、自己ミセル的凝集体が、水分散体、およびこのような水分散体をベースに油分を添加する水中油型ピッカリングエマルジョンの安定性にとって、重要である点を発見している。
しかしながら、超撥水性または超撥油性を有するフッ素含有オルガノポリシロキサンを油分とする水中油型ピッカリングエマルジョンが形成可能であるのか、形成される条件については、何らの検討をしていなかった。
これは、超撥水性または超撥油性を有するフッ素含有オルガノポリシロキサンを油分とする水中油型ピッカリングエマルジョンが形成可能であるとは予想されないことが、当時の当業者の技術常識だったことを示すものである。
【0015】
また、基材に対する被膜形成としてフッ素含有オルガノポリシロキサンを適用しようとする試みはない訳ではなかったが、フッ素含有オルガノポリシロキサンが水系では全く分散せず、有機溶剤でさえ相溶性が十分でなかったことから、被膜においては目的に応じた膜厚の設定や均一さは得られなかった。
また、水系で製品を提供できないことから、環境上、安全上の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2012-207078号公報
【文献】特開2013-028745号公報
【文献】特開2011-026498号公報
【文献】特開2005-126722号公報
【文献】特開2016-121230号公報
【文献】特開2012-500766号公報
【文献】特許第6312234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、被膜の形状を与えることにより、フッ素含有オルガノポリシロキサン本来の優れた特性を効率よく発揮でき、安定なフッ素含有シリコーンを含有する水中油型エマルジョンおよびその製造方法を提供することにある。
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、撥水性、撥油性の高いフッ素系シリコーンを油相とする場合でも安定な水中油型エマルジョン、その製造方法の提供することにある。
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、撥水性、撥油性の高いフッ素系シリコーンを油相とする安定な水中油型エマルジョンを利用することにより、基材の保護、改質、基材表面への機能性付与による用途に応じて所望の塗膜厚を得ることが可能な被膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
よって、従来技術のいかなるものも、上記課題を解決するフッ素含有シリコーンエマルジョンおよびその製造方法、そのエマルジョンを利用した被膜の形成方法得る具体的な方法は開示されていなかった。
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/各々における表面疎水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率が、所定数値範囲に設定することにより、自己ミセル的凝集体が形成し、その内部に油分であるフッ素含有オルガノポリシロキサンが吸い込まれた形態の複合粒子群を含む、安定な水中油型エマルジョンが生成することを見出した。
すなわち、油分の量とフュームドシリカの量との質量割合に係わらず、フュームドシリカと水相との水分散体を生成する際、十分なせん断をかけ、生成された水分散体に対して油滴を後添加することにより、撥水性、撥油性の高いフッ素含有オルガノポリシロキサンを油相とする場合でも、生成された水分散体に吸い込まれるように安定的なエマルジョンが形成されるとの従来の技術常識を覆す発見に基づくものである。
【0020】
また、フュームドシリカ粒子の自己ミセル水分散体を油滴に被覆させることによる水中油型エマルジョン(ピッカリングエマルジョン)を得るために、主に、水分散体の段階で、所定値以上のせん断速度をかけることにより、2次凝集体間の1次凝集体のリアレンジメントおよび/または2次凝集体内の1次凝集体の配向を促進させることで、複合粒子間の疎水化度のばらつきが低減でき、より安定かつ均一な水中油型エマルジョンが生成することを見出した。
【0021】
本発明はこれらの知見によりなされたものである。
すなわち、本発明のエマルジョンは、フュームドシリカ粒子群の下位の凝集体同士が非化学的結合により高位の凝集体を形成するフュームドシリカ粒子群であって、各々における表面親水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/各々における表面疎水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率が、所定数値範囲である、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群により形成される、親水リッチな下位の凝集体の高密度部分が水相と接し、疎水リッチな下位の凝集体の高密度部分が他の疎水リッチな下位の凝集体と接し、内部に空間を形成する自己ミセル的凝集体内部に油分が吸い込まれた形態の複合粒子群を含み、前記油分は、平均組成が一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンであり、 R1
aR2
bSiO(4-a-b)/2 (1)[式(1)中、R1は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基または水素原子であり、R2は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、もしくは炭素数6~30の芳香族基で、少なくとも1つの炭素上の水素原子がフッ素原子で置換されている炭化水素基であり、bは0ではない正の数、a+bは0.3以上かつ2.5未満である] 前記複合粒子群それぞれは、自己ミセル的凝集体が油滴の表面を被覆している、ことを特徴とする水中油型エマルジョンである。
【0022】
すなわち、本発明のエマルジョンの製造方法および被膜の形成方法は、表面のシラノール基を疎水化処理した疎水リッチなシリカ原料と表面のシラノール基が残留した親水リッチなシリカ原料とを所定割合で混合することにより、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/前記フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数の前記フュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、所定数値範囲となるように、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を準備する段階と、
準備した2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を水に添加して、所定せん断速度でせん断することにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群間における1次凝集レベルでの交換および/または2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向を促進することにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群による、親水リッチな下位の凝集体の高密度部分が水相と接し、内部に空間を形成する自己ミセル的凝集体を含む水分散体を生成する段階と、
生成した水分散体中に、油分を添加して、自己ミセル的凝集体内部に油分を吸い込ませることにより、エマルジョンを形成する段階とを、有し、
前記油分は、平均組成が一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンであり、
R1
aR2
bSiO(4-a-b)/2 (1)
[式(1)中、R1は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基または水素原子であり、R2は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、もしくは炭素数6~30の芳香族基で、少なくとも1つの炭素上の水素原子がフッ素原子で置換されている炭化水素基であり、bは0ではない正の数、a+bは0.3以上かつ2.5未満である]それにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群により形成される自己ミセル的凝集体内部に油分が含有した形態の複合粒子群を含むことを特徴とする水中油型エマルジョンの製造方法であり、前術の製造方法により製造した水中油型エマルジョンを利用して、基材の保護、基材の改質および基材の表面への機能付与のいずれかに応じて設定した所定膜厚の被膜を基材の表面に形成する段階を有する、ことを特徴とする被膜の形成方法である。
【0023】
前記オルガノポリシロキサンは、親水性官能基を含有しないものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のエマルジョンは、水分散体の作製の段階で安定な自己ミセル的凝集体を含む水分散体を生成し、該凝集体内部に油分を吸い込ませることによりエマルジョンを形成するので、通常エマルジョンを形成し得ない撥水性、撥油性の双方を有するフッ素含有オルガノポリシロキサンをエマルジョン化することができ、しかも、油分とシリカの量の比の制約が少なく、フッ素含有オルガノポリシロキサン中におけるフルオロカーボンの導入比の制約が少ない安定的なエマルジョンを形成できる。
【0025】
本発明のエマルジョンは、エマルジョン中の油分の濃度や油分の分子量その他を選定することにより、基材に対し所定の膜厚を均一に適用できるので、撥水、撥油、耐熱、耐候、防汚性等における、通常のオルガノポリシロキサンの特性の向上、機能追加または機能の改良として、基材の保護、改質または基材表面への機能付加のための被膜を形成できる。そのため、各種用途において所望の特性を発揮できる。また、被膜を形成するためにエマルジョンの形として保管するための十分な安定性を得ることができる。
ただし、油分の量とシリカの量との割合と、フッ素含有オルガノポリシロキサンにおける置換基の割合とにおいて、レジン、ゴムを対象とする塗膜用途の場合、エマルジョンの安定性を確保した上で、所望膜厚設定可能とするのには、油分の量とシリカの量との割合と、フッ素含有オルガノポリシロキサンにおける置換基の割合との組み合わせにおける一つ一つの条件において、エマルジョン中の油分の濃度や油分の分子量その他を選定することにより所望の膜厚を設計する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明のフッ素含有オルガノポリシロキサンを含有する水中油型エマルジョン、その製造方法、本発明のエマルジョンを利用した被膜の形成方法の詳細を説明する。
【0027】
本発明者らは、フュームドシリカ粒子を水に分散させた水分散体をベースに油分を添加することにより、水中油型ピッカリングエマルジョンを形成することがエマルジョンの安定性にとって重要であることに基づき、ピッカリングエマルジョン中のフュームドシリカ粒子と油分との複合粒子構造の形成メカニズムが、シリカ粒子の凝集性に起因して独特である点を基礎に、水中油型ピッカリングエマルジョンの安定性のみならず、フュームドシリカ粒子を水に分散させた水分散体の安定性を評価するパラメータとして、フュームドシリカ粒子の表面親水基と表面疎水基とのいわゆる合計モル数比率および合計モル比率のばらつきに注目することにより、出発原料であるフュームドシリカ粒子および油分それぞれの選択にする制約が緩和可能であるとともに、用途に応じた水分散体の安定性と特性との両立、用途に応じたエマルジョン中の複合粒子構造の調整が可能であることに基づくものである。
【0028】
フュームドシリカ粒子は、多次の凝集構造を取っている。そのため、凝集レベルに応じて表面の親水基と疎水基のバランスを制御したり、凝集単位を組み換えたりすることができる。そのため、本発明を実施するに当たり、最も効果的に水分散体の安定性、均一性を制御できる。
また、フュームドシリカ粒子は、多孔質構造を有しているので、表面積が大きくなり、より会合や吸着の機能が大きくなるため、水分散体を、より安定、均一に生成できるからである。また、各種油分への会合、吸着の機能が大きくなるため、ピッカリングエマルジョンへ移行する際にも有利である。
【0029】
フュームドシリカ粒子は、最小単位である1次粒子は、通常、5~30ナノメートル程度の大きさであり、1次粒子が凝集して1次凝集体、すなわち2次粒子を形成している。1次凝集体の大きさは、通常、100~400ナノメートル程度である。1次粒子同士は化学結合により融合しているので、1次凝集体を分離するのは通常困難である。さらに、1次凝集体同士が凝集構造を形成しており、これを2次凝集体、すなわち3次粒子と称する。2次凝集体の大きさは概ね10μm程度である。2次凝集体における1次凝集体間の凝集形態は、通常、化学結合ではなく、水素結合その他の会合性の凝集力によるものである。従って、何らかの外力を加えれば2次凝集体を1次凝集体レベルまでに、一部あるいは全部を分離することも可能である。例えば、水中で一定以上のせん断力をかける等である。分離した2次凝集体は、外力を取りされば再び2次凝集体として凝集する。
なお、本発明の説明においては、1、2次凝集体のことを適宜、1、2次凝集レベルでのシリカ粒子群と称することがある。
フュームドシリカ粒子は、粉末状では2次凝集体が多くの場合の最も大きな凝集レベルである。しかし、水分散体の状況では2次凝集体がさらに凝集することができる。その凝集を分離させる力は、2次凝集体を分離させる力よりも弱い力で分離できる。
ただし、上記の1次凝集体、2次凝集体という凝集レベルは必ずしも明確に形成されているとは限らず、例えば、1次凝集体と2次凝集体との中途段階のような凝集レベルもある程度連続して分布し混在する場合がある。そのような、分布の幅をも含んで、1次凝集体、2次凝集体と称することにする。
因みに、フュームドシリカ粒子は、特に2次凝集レベルにおいて、ネットワーク構造を取ることも知られており、このことがピッカリングエマルジョン用の無機粒子として使いやすい場合がある。
【0030】
以下、本発明によるフュームドシリカ粒子の水分散体の水中での状態、水分散体の製造方法について説明する。その説明において、1次凝集レベル、2次凝集レベルという用語の使用においては、100%そのレベルのみについての説明ではなく、主体的にはその凝集レベルに関することであることを意味する。
【0031】
フュームドシリカ粒子は、表面に疎水化された部分とシラノール基とを有するフュームドシリカを用いると、フュームドシリカ粒子の表面張力が界面活性に必要な領域に設定されるため、通常の界面活性剤が存在しなくても油滴の油相/水相界面に配置して安定化させることができる。
シリル化前のシラノール基に対するシリル化後に残留するフュームドシリカ表面のシラノールの率は20~80%の範囲内が好ましい。シラノールの残留率が20%未満または80%を超えると、油相/水相界面での界面活性剤に相当する機能を発揮できない。シリル化、あるいはシラノールの残留率は、元素分析による炭素含有量の測定、またはフュームドシリカ表面の反応性シラノール基の残量の測定により決定できる。調製のために用いるシリカ粒子は、表面全体がシリル化された粒子または、表面全体がシリル化されていない粒子を含んでいても構わない。ただし、全体としてのシリル化の率が上記の範囲内にあり、かつ必要な乳化の機能を発現出来れば使用することができる。
フュームドシリカ粒子における残存シラノール基の比率は、原料段階で上記値に合わせこみ準備する必要もない。全体のモル比として親水性フュームドシリカおよび疎水性フュームドシリカを計量し、エマルジョン作製段階で均質化を試みるような方法も可能である。
【0032】
本発明で使用されるフュームドシリカ粒子は、塊状ではなく粒子状である必要がある。また、一次粒子が凝集した一次凝集物の状態、あるいは、さらに一次凝集物が凝集した二次凝集物の状態であってもよい。粒子径については、特に制限されないが、概ね、粒子径は次の通りの範囲内であることが好ましい。一次粒子径は約1~100nmの範囲内、一次凝集物は約50nm~1μmの範囲内、二次凝集物は約1~100μmの範囲内である。
粒子径が小さ過ぎるものは工業的に入手しにくく、粒子径が大き過ぎるとフュームドシリカ粒子単体として沈降しやすくなる。
【0033】
フュームドシリカ粒子を水中に分散させる場合に、どのような凝集体ができうるかについて、
図1に示す。本明細書中では、便宜的に、親水リッチ凝集体、疎水リッチ凝集体、自己ミセル的凝集体という用語を用いる。自己ミセル的凝集体は本発明において見出した新たな概念である。また、これら3種の凝集体の間の関係は下記の通りである。
フュームドシリカ粒子の表面の親水基/疎水基のモル比が親水基リッチである場合は、シリカ粒子表面と水が親和するため、シリカ粒子は水に溶解しやすく、2次凝集体14はそれ以上凝集せず単独で水中に安定して溶解している場合が多い。水分散体の粘度は低く、チクソトロピー性は低い。こうした凝集体を親水リッチ凝集体と称することにする。
フュームドシリカ粒子の表面の親水基/疎水基のモル比が疎水基リッチである場合は、シリカ粒子表面と水は親和しにくいため、シリカ粒子と水の接触面積をなるべく小さくする方向にシリカ粒子同士が配置しようとするため、シリカ粒子は凝集しやすくなる。水中で2次凝集体14同士が多数寄り集まる凝集体を形成する。従って、水分散体の粘度が高くなり、チクソトロピー性が大きくなる。この状態においては、水分散体の安定性は良好ではない。シリカ粒子の沈降等が経時により起こりやすくなる。こうした凝集体を疎水リッチ凝集体と称することにする。この状態は、既に疎水性のフュームドシリカとして既に、増粘剤やチクソトロピー性付与剤としての用途が存在している。ただし、使用者がシリカ粒子を水に分散させ直ちに目的の材料へ投入しなくてはならないという制約がある。
フュームドシリカ粒子の表面の親水基/疎水基のモル比が、親水リッチ凝集体と疎水リッチ凝集体との間の領域にある場合は、2次凝集体14において比較的親水度の高い1次凝集体10の密度が高い部分を水相と接し、比較的疎水度の高い1次凝集体12の密度が高い部分を他の2次粒子と接する凝集体を形成することができる。通常の界面活性剤の自己ミセルと類似の凝集形態なので、自己ミセル的凝集体と称することにする。この状態では、2次凝集体14の凝集個数は小さい数に限られ、凝集体のサイズも自ずと均質になるため、安定かつ均一な水分散体となる。自己ミセル的凝集体の外側、すなわち水相と接する部分には親水性基の濃度が高いので、親水リッチ凝集体に準じた十分に高い安定性を得ることができる。疎水リッチ凝集体よりはかなり安定である。自己ミセル的凝集体の内部には空間16があり、親油的な環境であるため、油分を外部から取り込みやすくなっている。自己ミセル的凝集体の粘度とチクソトロピー性は親水リッチ凝集体と疎水リッチ凝集体の中間的な性質である。界面活性剤の自己ミセルは、乳化しようとする油分との関係で、界面活性剤が余剰となった場合に形成されるが、フュームドシリカ粒子においては、油分の存在によらず、また濃度による影響も受けにくく、形成することができる。
【0034】
界面活性剤の場合、低濃度では水分子と十分に相互作用をして界面活性剤一分子または一イオンの状態(単分散状態)で溶解しているが、ある特定の濃度以上になると、単分散状態の濃度は飽和濃度となり、それ以降の界面活性剤は会合をして超分子または自組織体を形成するようになり、これがいわゆる自己ミセルである。自己ミセルは、通常、親水部を外側、疎水部を内側にした会合構造である。
本発明者らは、2次凝集レベルのシリカの水分散状態においても同様に、飽和濃度を超えれば、このような親水部を外側、疎水部を内側にした会合構造である自己ミセル的凝集体が形成されることに注目するものである。ただし、飽和濃度は界面活性剤の場合よりはかなり低い。
【0035】
これら3種の凝集体を互いに相対的に定義すると下記のようになる。疎水リッチ凝集体とは、フュームドシリカ粒子の凝集体として、自己ミセル的凝集体および親水リッチ凝集体と比較して、チクソトロピー性を発現するほどの疎水性を呈し、凝集レベルが高いフュームドシリカ粒子群の塊、親水リッチ凝集体とは、フュームドシリカ粒子の凝集体として、自己ミセル的凝集体および疎水リッチ凝集体と比較して、水に溶解するほどの疎水性を呈し、凝集レベルが低いフュームドシリカ粒子群の塊、自己ミセル的凝集体とは、フュームドシリカ粒子の凝集体として、疎水リッチ凝集体および親水リッチ凝集体と比較して、内側に疎水性、外側に親水性が発現され、凝集レベルが疎水リッチ凝集体と親水リッチ凝集体との間に位置するフュームドシリカ粒子群の塊であり内部に空間があり親油的であり、外部から油分を取り込みやすい構造である。
【0036】
フュームドシリカ粒子の水分散体を製造するには、いずれの種類の凝集体を形成する場合でも、原料のシリカ粒子が水へ自発的に溶解ないしは分散することは困難であるため、何らかのせん断力を与える装置を用いる必要がある。通常の混合機、例えばホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー、高速ステーターローター攪拌装置等を用いて作製することができる。
【0037】
水分散体におけるフュームドシリカ粒子の配合量としては、水分散体組成物全量に対し0.1~30.0質量%の範囲が好ましく、0.2~10質量%の範囲であることがより好ましい。配合量が0.1質量%未満であると凝集が進まないことがあり、配合量が30.0質量%を超えると粘度が大きくなるために、攪拌装置の適正範囲を超えてしまう。
【0038】
フュームドシリカ粒子の1次凝集体同士の凝集力は、特定のせん断力をかければ解き放たれ、そしてせん断を取りやめれば再び凝集する。従って、水分散体の製造において、特定のせん断をかければ、別々の2次凝集体の間で、1次凝集体を交換することもできる。これにより、1つの2次凝集体の中の親水リッチな1次凝集体と疎水リッチな1次凝集体との割合を変えることができる。このような2次凝集体の間で、1次凝集体を交換をリアレンジメントと称することにする。
リアレンジメントを起こさせるには、7500s
-1以上のせん断速度をかけるのが好適である。せん断速度が7500s
-1未満だと十分なリアレンジメントが起こらない。リアレンジメンとを起こすためのせん断速度の上限値はないが、100000s
-1を超えると装置上の不具合が生じやすくなつとともに、水分散体が加熱されることにより水分が蒸発したり、油分がある場合は分解が起こるなどの問題が生じる可能性があるので、好ましくない。
リアレンジメントを十分に起こさせることは、2次凝集体間の1次凝集体の交換を促進することになるので、水分散体の系全体のフュームドシリカ粒子の2次凝集体の中の親水リッチな1次凝集体と疎水リッチな1次凝集体との割合が、より均一なものになっていく。
また、リアレンジメントが起こるのに十分なせん断速度をシリカ粒子の凝集体に対しかけた場合、同一の2次凝集体の中で、1次凝集体の移動が起こり、配置が変わる可能性もある。そして、自己ミセル的凝集体が形成される場合においては、
図1に示されているように、疎水的な1次凝集体は、2粒子の凝集方向に向かって配向を起こす可能性がある。
【0039】
上記説明と
図1に図式的に示したように、フュームドシリカ粒子の親水性/疎水性の程度により最もできやすい凝集体の種類が異なってくる。
より具体的には、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率が、所定の下限以下であれば、疎水リッチ凝集体が主に生成する。そして、合計モル比率が所定の上限以上であれば、親水リッチ凝集体が主に生成する。そして、合計モル比率が所定の下限以上かつ上限以下、すなわち所定数値範囲であれば、自己ミセル的凝集体が主に生成する。合計モル比率の下限値は概ね20/80であり、上限値は概ね80/20である。
【0040】
本発明では、フュームドシリカの粒子のリアレンジメントを起こすために、一定以上のせん断力をかければ、出発物質としてのフュームドシリカの状態には制約を受けないことを思いがけずも発見した。すなわち、原料段階で、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、20/80以上および/または80/20以下に設定しさえすれば、原料のシリカの種類は問わない。表面のシラノール基が残留した親水性シリカ粒子であっても、表面のシラノール基を疎水化処理した疎水性シリカ粒子であってもよく、これらを任意に混合して用いてもよい。また、任意の比率で疎水化処理されたフュームドシリカでもよい。これらのフュームドシリカ粒子は市販のものを利用できる。あるいは、親水性シリカ粒子を、メチルトリクロロシランのようなハロゲン化有機ケイ素やジメチルジアルコキシシランのようなアルコキシシラン類、シラザン、低分子量のメチルポリシロキサンで処理する公知の方法によって疎水化することができる。
以上のシリカ粒子は、乾燥状態での比表面積が、2~350m2/gの微粉末であることが好ましく、特に、50~300m2/gであることが好ましい。
原料としては上記の種類のフュームドシリカ粒子を利用できるが、原料段階で、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、20/80以上および/または80/20以下に設定することが必要である。
【0041】
本発明によるピッカリングエマルジョンは、2次凝集体のフュームドシリカ粒子群により形成される自己ミセル的凝集体内部に油分が吸い込まれた形態の複合粒子群を含み、複合粒子群それぞれは、自己ミセル的凝集体が油滴の表面を被覆している水中油型エマルジョンである。特許文献7により開示されている自己ミセル的凝集体の内部は親油的環境であるために、通常のオルガノポリシロキサンをはじめとする油分が取り込まれることは知られていた。しかし、本発明においては、驚くべきことに、ピッカリングエマルジョンの形成段階において、撥水性および撥油性が大きいフッ素含有オルガノポリシロキサンであっても、せん断等通常のオルガノポリシロキサンと同等な条件で、水分散体形成段階で形成された自己ミセル的凝集体の内部に吸い込まれ、エマルジョンの安定化が図られることを見出した。
水分散体において自己ミセル型凝集体が安定であることが、基本的にピッカリングエマルジョンにも当てはまる。自己ミセル的凝集体により油滴が被覆されることにより、安定かつ均一で、再現性のよいピッカリングエマルジョンが生成する。フュームドシリカの2次凝集体は通常の存在形態では、その大きさが約10μm程度と言われている。しかし、本発明による水中油型エマルジョンでは、球形のシリカ粒子の塊状物が被覆しており、1つの塊状物は0.1μmから数μm程度の大きさであることが多い。従って、2次凝集体と言っても、ごく一部には1次凝集体を含み、1次から2次への中途の段階の凝集体を含んでいる可能性がある。あるいは、2次凝集体が、一般的に存在するよりも密に形成されていることが考えられる。
【0042】
本発明の水中油型乳化組成物に含まれる油分は、平均組成式が一般式(1)で表されるフッ素含有オルガノポリシロキサンである。
R1
aR2
bSiO(4-a-b)/2 (1)
[式(1)中、R1は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基または水素原子であり、R2は、分子中で同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、もしくは炭素数6~30の芳香族基で、少なくとも1つの炭素上の水素原子がフッ素原子で置換されている炭化水素基であり、bは0ではない正の数、a+bは0.3以上かつ2.5未満である]
a、bはシロキサン結合の次数と関係する数値であり、a+bが2.0であれば前記オルガノポリシロキサンは直鎖のシロキサンを示す。本発明では、a+bが0.3以上かつ2.5未満なので、前記オルガノポリシロキサンはオイル、ゴム、レジン、硬化性組成物等のいずれの形態のものでもよい。
【0043】
上記の有機基R1は、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;-CH2-CH2-CH2-N2、-CH2-CH2-CH2-NH(CH3)、-CH2-CH2-CH2-N(CH3)2、-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2、-CH2-CH2-CH2-NH(CH3)、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-N(CH3)2、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH(CH2CH3)、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-N(CH2CH3)2、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH(cyclo-C6H11)で表される窒素含有炭化水素基;炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基等によって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、クロロフェニル基、ジブロモフェニル基、テトラクロロフェニル基、ジフルオロフェニル基、β-シアノエチル基、γ-シアノプロピル基、β-シアノプロピル基等の置換炭化水素基等が挙げられる。
特に好ましい有機基はメチル基、フェニル基である。
また、硬化反応を起させるような置換基、例えば、ビニル基、アリル基等の不飽和炭化水素基、珪素原子に結合した水素等が含まれていてもよい。
【0044】
上記の有機基R2は、炭素数1~25の飽和または不飽和一価炭化水素基、もしくは炭素数6~30の芳香族基であるが、具体的にはR1として例示した飽和または不飽和一価炭化水素基もしくは芳香族基において、少なくとも1つの炭素上の水素原子がフッ素原子で置換されている有機基である。
【0045】
前記オルガノポリシロキサンにおける有機基R1の珪素原子1モル当たりのモル数aと、有機基R2の珪素原子1モル当たりのモル数bは、bは0ではない正の数、a+bは0.3以上かつ2.5未満であれば限定されない。
a+bは0.8以上かつ2.2未満であることが好ましい。0.8未満だと4官能性のレジンの割合が高まり、固形なためエマルジョンの製造が難しく、2.2以上だとシラン成分が多くなり、揮発性が高くなり各種用途に応用しにくいためである。
有機基R1有機基R2の比率、すなわちa/bは限定されないが、5/95以上かつ95/5未満であることが好ましい。5/95未満だと、通常のオルガノポリシロキサンとしての特性、例えば柔軟性、の発揮が十分でなく、95/5以上だと、フッ素を含有する有機基の含有率が少ないので、フッ素由来の特性を十分に引き出せないためである。
【0046】
前記オルガノポリシロキサンは、上記の条件を満たすフッ素含有オルガノポリシロキサンであればよく、その化学構造、分子量、または特性は限定されるものではない。また、その形態は液状、固体、フレーク状、粉体等、いずれの形態でもよい。
また、単一の成分でも、2種以上の成分の混合でも、いずれでもよい。
【0047】
有機基R1および有機基R2はいずれも、親水性の置換基、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシ基を含有しないことが好ましい。目的の用途において、フッ素含有オルガノポリシロキサンが本来的に有する撥水性、耐水性が犠牲になるからである。
【0048】
前記オルガノポリシロキサンは、全体を均一化後に流動化することが好ましい。前記オルガノポリシロキサンとして固形状のレジン等が主体のために、そのままでは乳化が難しいような場合は、前記オルガノポリシロキサンに流動性を与え、フュームドシリカ粒子による乳化が可能になる。均一化の方法は制限はないが、通常の装置での混合、あるいはその他の方法で行う。流動性の程度は特に制限はないが、前記オルガノポリシロキサン全体の均一化後の粘度は低い方が好ましい。粘度の上限は、用いる装置によっても異なるが、概ね100000mPa・s程度である。
【0049】
前記オルガノポリシロキサンとしての主成分が流動性の低いレジン等である場合は、相対的に低い粘度のオルガノポリシロキサンまたはフッ素含有シリコーンオイルを含有することが好ましい。これにより、前記オルガノポリシロキサン全体を均一化後に流動化が起こる。その25℃での粘度は、1~2000000mPa・sが好ましい。より好ましくは1~100000mPa・s、特に好ましくは1~50000mPa・sの範囲内である。1mPa・s未満の場合、および2000000mPa・sを超える場合、乳化が難しく、安定な水分散液が得られない。低粘度のオルガノポリシロキサンの前記オルガノポリシロキサン中に占める割合は制限がないが、多すぎると、化粧品等の最終用途にてフッ素含有シリコーンの割合が減るので、所望の特性が十分でなくなる可能性がある。
このような成分の構造は、上記の条件内にさえあれば、どのようなものでもよいが、入手の容易性や経済性、化学的安定性の観点からは、ジメチルポリシロキサンが好ましい。例えば、液状の直鎖状または環状のジメチルポリシロキサンが例示される。
【0050】
エマルジョン100質量部中における前記オルガノポリシロキサンの好ましい含有量は、20~80質量部の範囲内である。20質量部未満では十分な乳化精度が得られず、かつ収率も低下し、80質量部を超えると、水性エマルジョンの粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる。より好ましくは30~70質量部の範囲内である。
【0051】
本発明による水中油型エマルジョン中に存在する個々の複合粒子においては、フュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体が油滴を被覆している。その際、2次凝集体一つずつの層をもって被覆している場合もあれば、2次凝集体の複数の層を形成している場合もある。また、あるいは、一部フュームドシリカ粒子によって被覆していない部分があっても構わない。
油滴と接している2次凝集体は、一部が油滴に埋め込まれている。埋め込みの程度は、油分の極性の程度とフュームドシリカ2次凝集体の表面の親水基と疎水基のモル比により異なる。油滴と2次凝集体との極性が近い場合、例えば、シリコーンが油滴である場合、2次粒子の表面の極性がシリコーンに近い場合は、親和性が大きいため、埋め込みの程度が大きくなる。逆に、極性の差が大きい場合は埋め込みの程度が小さい。
ピッカリングエマルジョンが安定に存在するためには、無機粒子と油滴と水の3者により決定される接触角を最適な値として取ることが重要だと言われている。本発明の水中油型エマルジョンにおいては、フュームドシリカ粒子の2次凝集体が油滴へ埋め込まれる程度は上記の機構により主に決まるが、エマルジョンが完成する過程において、適当なせん断力により、2次凝集体内の1次凝集体が移動し、油滴の方向に向け疎水度の高い1次粒子が配向することにより、2次粒子内で極性の傾斜を生じる可能性がある。エマルジョンが最も安定に存在するために、上述の傾斜の程度を自ら調整することにより埋め込みの程度を決めることにより、最適な接触角を得ている可能性がある。
また、2次凝集体は、エマルジョンが形成された後も、適当なせん断力の下、移動が可能である。油滴の表面を移動して均一な間隔になったり、積層の状態を均一化も可能である。さらには、一部は他の複合粒子間でも行き来が可能である。
【0052】
フュームドシリカ粒子の2次凝集体による油滴の被覆は全面的な被覆に加えて、部分的な被覆を含む。被覆の程度を示す指標としてはシリカ層の厚さや形態的な観察による結果なども考えられるが、今回、被覆量を取り上げることにより、より実際的な被覆の程度として特性を制御できる。特性とは、エマルジョンとしての特性(安定性等)および、被膜形成して利用する場合は、被膜の均質性等の特性を言う。
表面に有するシリカ粒子の被覆層の量としては、油滴の表面の単位面積当たりのフュームドシリカ粒子の重量としてパラメータ化することができる。
本発明においては、このシリカ被覆層の量は、複合粒子の粒径から計算される表面積に対するシリカ粒子の処理量で制御できる。この量は好ましくは2.0×10-9~3.2×10-6kg/m2の範囲内である。2.0×10-9kg/m2未満だと複合粒子の水中または被膜形成後のブロッキングが起きてしまい、3.2×10-6kg/m2を超えるとシリカ過剰などの理由で、特定の用途では好ましくない現象、例えば保護膜の脆化、ほか、エマルジョン中ないしは被膜形成後に余剰のシリカによる汚染等が起きてしまう。
【0053】
本発明による水中油型エマルジョン中に存在する個々の複合粒子の粒径は、油分の合計量に対するフュームドシリカ粒子の質量比率によって影響を受ける。その比率が高いほど、粒径は小さくなる。ただし、上記した好ましいシリカ被覆層の量の範囲内においては、油分の種類にかかわらず、ほぼ10μm程度の粒径となる。通常の有機系界面活性剤により乳化されたエマルジョンの粒子の粒径よりは大きいが、この粒径で安定かつ均一であり、種々用途に応用した場合に、ピッカリングエマルジョンとしては概ね100μm以下の粒径であれば好適である。100μmを超える粒子径では、エマルジョンの安定性が低下するほか、複合粒子を被膜形成して用いる場合は、例えば化粧品用途では、紛体の大きさが触感で感じられる領域となるため、使用感の観点から好ましくない。
本発明による水中油型エマルジョン中に存在する複合粒子群の粒径のばらつきは小さい。油滴の表面をフュームドシリカ粒子の自己ミセル型凝集体が覆うためである。水分散体の自己ミセル的凝集体は均一であるため、油滴への作用が均一化するため、粒径のばらつきが少なくなる。
【0054】
本発明による水中油型エマルジョンを製造するには、フュームドシリカ粒子の水分散体の製造に用いる装置と同様の攪拌装置を用いることにより製造できる。
油滴の表面をフュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体を被覆させるためには、順番として、まず、フュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体を形成し、しかる後に油分を投入する方法を採る必要がある。油分を最初に投入すると、フュームドシリカ粒子の自己ミセル的凝集体が形成されないので、目的のピッカリングエマルジョンである水中油型エマルジョンができないからである。
従って、製造方法としては、第1段階として、フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を、所定数値範囲となるように、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を準備する。合計モル比率を所定値範囲とするためには、水分散体の自己ミセル的凝集体の生成方法と同じく、原料のフュームドシリカでモル比を合わせる。
次に第2段階として、準備した2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群を水に添加して、所定せん断速度でせん断することにより、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群間における1次凝集レベルでの交換および/または2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向を促進することにより、合計モル数比率の平均値と、フュームドシリカ粒子群を構成する2次粒子の各々における表面親水基のモル数/表面疎水基のモル数であるモル比率との差が所定値以下となるように2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子群による自己ミセル的凝集体を含む水分散体を生成する。リアレンジメントを起こさせるには、7500s-1以上のせん断速度をかけるのが好適である。
次に第3段階として、生成した水分散体中に、油分を添加して、エマルジョンを形成する。この際、攪拌装置において、適度なせん断速度を加え、自己ミセル的凝集体が油滴の表面を均一に覆い複合粒子としての構造体を均一に形成するために、適宜せん断をかける時間を要する。せん断速度は、リアレンジメントが起こる7500s-1以上は必要なく、通常、数千s-1程度で十分である。
【0055】
このように本発明では、フュームドシリカの水分散体の作製段階で、内部に空間を形成する自己ミセル的凝集体を作製し、その後に、自己ミセル的凝集体内部の空間に油分であるフッ素含有オルガノポリシロキサンを吸い込ませることにより、安定したピッカリングエマルジョンを形成することができる。このことにより、従来の考え方では全くエマルジョンを形成することができなかったフッ素含有オルガノポリシロキサンが安定なエマルジョンとすることが可能になる。また、基材に対して被膜を形成するための、エマルジョンとしての初期および経時の十分な安定性を得ることができる。
この点、親油的環境である自己ミセル的凝集体内部にはフッ素含有オルガノポリシロキサン(油分)が取り込まれないという従来の考え方では説明できない機構が働いていると考えられる。フッ素含有オルガノポリシロキサン(油分)が自己ミセル的凝集体内部へ吸着される物理的な吸着などの作用により、撥水性および撥油性を有するフッ素含有オルガノポリシロキサンであっても自己ミセル的凝集体内部へ吸い込まれることを推定している。
【0056】
フュームドシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数/フュームドシリカ粒子群の各々における表面疎水基のモル数のフュームドシリカ粒子群にわたる合計モル数である合計モル数比率を所定値の範囲内に設定することにより、自己ミセル的凝集体が中心的に生成することが、安定かつ均一なピッカリングエマルジョンを作製するために重要なことであるが、油滴表面に自己ミセル的凝集体が被覆した個々の複合粒子の中での自己ミセル的凝集体の状態(例えば界面における2次凝集体の油滴への埋め込みの度合い)はできる限りばらつきがないことが好ましい。ばらつきが小さければ、自己ミセル凝集体同士の連携がより強固となるために、複合粒子がより安定になりやすい。そして、そのことが複合粒子群全体が安定になるともに、個々の複合粒子間の状態のばらつきも小さくなる。
【0057】
2次凝集体の間でのばらつきを小さくするには、上記の製造法における第2段階によりなされる。2次凝集体毎の疎水化度(親水化度)のばらつきが小さいことは、各自己ミセル凝集体の中で油滴に接する2次凝集体の埋め込みの程度のばらつきも小さくなる。次凝集体毎の疎水化度(親水化度)のばらつきは、全2次凝集体の疎水化度(親水化度)のばらつきの平均値に対して概ねプラスマイマス60%以内であれば、安定した水中油型エマルジョンが形成される。
2次凝集体間のばらつきを小さくするためには、せん断をかけてリアレンジメントを起こさせなくても、原料のフュームドシリカ粒子として、特定の疎水化率にて親水基を疎水化した粒子を用いても達成される。ただし、その方法は製造コストが多くかかる。そのような特殊なシリカ粒子を用いなくても、市販で安価な親水性のフュームドシリカ粒子と疎水性のフュームドシリカ粒子を原料として用い、所定の合計モル比率になるように質量比を調整するのみで、簡便な方法で製造できるからである。
【0058】
2次凝集体の疎水化度(親水化度)のばらつきを著しく低減させないでも、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向を促進することで複合粒子の状態のばらつきを低減することもできる。配向が進めば、2次凝集体における油滴界面と接する部分の近傍に疎水基の濃度が高くなり、逆に水相と接する部分の近傍に親水基の濃度が高くなり、油滴への埋め込みと水相との親和の双方が効率よく行われるようになるからである。
2次凝集体の疎水化度(親水化度)のばらつきが低減し、かつ、2次凝集レベルのフュームドシリカ粒子における1次凝集レベルでの配向が進んだ場合は、相乗効果が発揮し、より安定で均一な複合粒子を作製することができる。
【0059】
複合粒子間のばらつきという意味では、フュームドシリカ粒子と油分の質量比の設定も重要である。前述したように、油滴の表面のシリカ粒子の被覆厚さは複合粒子間でばらつきがなるべくない方がよい。そのためには、油分の質量に対して、前述の安定な被覆量の範囲にシリカ粒子の質量を設定するのがよい。
【0060】
以上より、本発明の水中油型エマルジョンは、従来の特許文献4~7に開示のピッカリングエマルジョンとは異なり、エマルジョンの安定性確保の観点から水分散体の形成段階におけるせん断の重要性を前提にしつつも、フッ素含有オルガノポリシロキサンは撥水性および撥油性であるから、親油性である自己ミセル的凝集体の内部にフッ素含有オルガノポリシロキサン(油分)が取り込まれないのではないかという従来の当業者の技術常識を全く覆し、油分を自己ミセル的分散体の内部に吸い込ませることにより、フッ素含有オルガノポリシロキサンをもエマルジョン化できるものである。さらに、油分とシリカの量の比を制約することなく広い範囲で安定的なエマルジョンの作製が可能となるものである。
また、フッ素含有オルガノポリシロキサン中における、フルオロカーボンの導入率、すなわち、前述の式(2)における比率a/b、は非常に広い範囲で安定なエマルジョンの生成が可能という驚くべき結果も得られた。各種用途のうち、例えば基材表面に撥水性を与えるような用途では、極表面のみにフルオロカーボンの構造が集合すれば十分であるが、被膜全体を堅牢で高耐熱の性質とするにはフルオロカーボンの導入量を高める必要がある。本発明により、こうした異なる種々の用途に対しても安定な被膜を形成しうるエマルジョンを作製することができる。
【0061】
本発明のエマルジョンの作製においては、本発明に用いる油分が十分な流動性がないばあいは、より好ましくは、25℃での粘度が1~2000000mPa・sのオルガノポリシロキサンまたはフッ素含有オルガノポリシロキサンにより油分全体を均一化により流動化させた後に、フュームドシリカ粒子により油分を水中に分散させることによることが好ましい。このことにより、油分が固形レジンもしくはエラストマー主体のように、乳化が困難な場合は、上記のフッ素含有オルガノポリシロキサンと接触させ全体を流動化させることにより、乳化が可能になる。よって、従来乳化が困難であったフッ素含有オルガノポリシロキサンもエマルジョン状態で存在することができ、課題を効果的に解決できる。
さらに、より好ましい作製方法としては、粉末固体をポリオルガノシロキサン等で流動化させたものを、フュームドシリカ粒子の水分散液に添加し、機械せん断をかけることにより本エマルジョンを得ることが挙げられる。この場合、オルガノポリシロキサン等により溶解した粉末固体を、フュームドシリカ粒子とフュームドシリカ粒子の水との分散液に投入可能である限り、フュームドシリカ粒子と水との分散行程と、粉末固体のオルガノポリシロキサン等による流動化工程とは、どちらが先でもよい。
【0062】
本発明のエマルジョンは、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン酸エステルなどのノニオン性界面活性剤、ラウロイルグルタミン酸Naジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム等のイオン性界面活性剤を含有することができる。
界面活性剤量としては、エマルジョン100質量部中、0.1質量部以下が好ましくはより好ましくは0.06質量部以下である。1質量部を超えると、環境に悪影響を与えるほか、フュームドシリカ粒子の凝集力が低下し、製品の保存安定性および希釈時の取り扱い性を損なう。
【0063】
本発明のフッ素含有シリコーンエマルジョンは、特に限定されないが、イオン交換水を用いることが好ましく、好ましくはpH2~12、より好ましくはpH4~10の範囲内である。
【0064】
本発明のフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンのエマルジョン粒子の粒径は、特に制限が無いが、好ましくは100μm以下である。100μmを超える粒子径では、粒子の大きさが過剰であり、エマルジョン粒子の安定性が損なわれる。なお、本発明において、平均粒径はコールター社製、粒度分布測定装置N4Plusにより測定することができる。
【0065】
以上により、本発明のフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンは、フッ素含有オルガノポリシロキサンおよびフュームドシリカ粒子により、またその製法により、安定的に粒子径のコントロールができ、粒子径のばらつきを狭くすることができるので、保存安定性や用途展開時の安定性が高まる。また、エマルジョン粒子を単離した場合においても、エマルジョン粒子形状等に由来する高特性を与える可能性が生じる。
【0066】
本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンは、各種コーティング手法により、各種基材に対して容易にコートし、被膜を形成することができる。すなわち、水中油型エマルジョンを利用して、基材の保護、基材の改質または基材の表面への機能付与を行うことができる。被膜の厚さは、基材の種類や目的にもよるが、ナノメートルオーダーからミリメートルオーダーまで、いかなる厚みの所望の被膜の形成が可能である。エマルジョン経由なので、被膜の厚さの均一性も良好である。水系での供給なので、工業用の基材のみならず、人体をはじめ、有機溶剤の塗布には適さない基材に適用ができる。また、表面の形状が凹凸があったり、曲面であったり、不規則なものでもコートができる。
本発明によるエマルジョンをそのままコートしてもよいし、水で希釈してもよく、あるいは、別の薬剤や組成物に混ぜてからコートしてもよい。
【0067】
本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンが各種基材に対して被膜を形成できることにより、フッ素含有オルガノポリシロキサンが本質的な有している特性であるところの表面張力が小さい、分子間力が小さい、耐熱性が高い、絶縁性が高い、誘電率が高い、等が、被膜の状態と相まって、撥水、撥油、耐熱、化粧性能、防汚、耐候、離型、長期安定、絶縁または高誘電率化といった性能が発揮できるので、基材の保護、基材の改質または基材の表面に対し機能性を付与することができる。
この場合、フッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンは、オイル、ゴム、レジン等、いかなる形態でも用いることができる。硬化性組成物をコートして被膜形成させてから硬化させてもよい。
【0068】
本発明により製造した水中油型エマルジョンを利用して、基材の保護、基材の改質および基材の表面への機能付与のいずれかに応じて設定した所定膜厚の被膜を基材の表面に形成する段階を採ることにより、各種用途において所望の特性が得られる。
すなわち、従来の有機溶剤のフッ素含有シリコーン溶液やオイル状のままの塗布によっては得られなかった特性や、新しい用途を得ることが可能になる。
【0069】
本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンを基材の保護用途に適用した場合における膜厚の設定例を述べる。
基材としては、ガラス、プラスチック、樹脂、金属、合金、セメント、紙、セラミック系無機材料、コンクリート、モルタル、木材、紙製品、ゴム、電子部品、食品パッケージ剤等の透明又は不透明な基材、あるいは、自動車、列車、航空機、船舶などの外装の塗装面や、床、カーペット等のインテリア関係の基材、あるいは人間の皮膚やバイオ関係の基材などが挙げられる。こうした基材が環境その他の原因により水分、熱、光等により劣化する場合などにおいて、これら基材の上に本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンの被膜を形成することにより、各種保護コーティング剤や化粧品用途として基材の保護に応用できる。
この場合、被膜が、汚れがつかない、汚れを落としやすい、指紋が付かない、撥水性、撥油性を有すれば、各種防汚コーティング剤として、耐水性、耐油性、防湿性、腐食防止、耐薬品性、防水性を有すれば、各種建材保護材、皮膚を紫外線等から保護するならばメーキャップ剤として応用が可能である。これらはあくまでも例示であり、可能な用途はこれらに限定されない。いずれの用途においても、基材の保護を安定に維持することができる。
基材の保護を目的とする場合は、フッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンの被膜を一定の膜厚以上で、なるべく基材の表面に対し均一に塗布する必要がある。被膜に欠陥があったり、薄くて保護機能を果たさない部分があったりすると目的の保護効果が得られない場合がある。本発明のフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンは、油分の含有量と油分の粘度に関する制約がないので、これらの要素を最適化させて所望の膜厚の設計が可能である。また、基材表面が平坦でない場合は、そのギャップを埋め込む必要もあるので、目的に応じて、コーティング、ディッピング、スキャニングなどの中で最適な塗布方法を選択することが好ましい。
【0070】
本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンを基材の改質用途に適用した場合における膜厚の設定例を述べる。
基材は、保護用途における基材の種類と基本的に同様である。この場合、基材のもともと有する撥水性、耐熱性等を向上するような改質剤として用いたり、基材の絶縁性や誘電率をさらに高絶縁性、高誘電率化するような改質剤として各種電子部品向けの応用が可能である。これらはあくまでも例示であり、可能な用途はこれらに限定されない。いずれの用途においても、改質特性を安定に維持することができる。
基材の改質を目的とする場合は、フッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンの被膜を目的に応じた膜厚の設定をする必要がある。本発明のフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンは、油分の含有量と油分の粘度に関する制約がないので、これらの要素を最適化させて所望の膜厚の設計が可能である。また、基材表面が平坦でない場合は、そのギャップを埋め込む必要もあるので、目的に応じて、コーティング、ディッピング、スキャニングなどの中で最適な塗布方法を選択することが好ましい。
【0071】
本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンを基材表面への機能付与用途に適用した場合における膜厚の設定例を述べる。
基材は、保護用途における基材の種類と基本的に同様である。この場合、基材が元々撥油性を有していない場合に撥油性を付与したり、皮脂となじみにくい、汗となじみにくい、持続性を有すれば、各種メーキャップ剤として、塗膜の耐水性、耐油性、耐熱性を有すれば、塗料として、樹脂をはじく、硬化後も付着しない性質を有すれば、離型剤として応用が可能である。これらはあくまでも例示であり、可能な用途はこれらに限定されない。いずれの用途においても、特性を安定に維持することができる。
基材の表面への機能の付与を目的とする場合は、フッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンの被膜を目的に応じた膜厚の設定をする必要がある。本発明のフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンは、油分の含有量と油分の粘度に関する制約がないので、これらの要素を最適化させて所望の膜厚の設計が可能である。フッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョン単体を基材に塗布する場合は、上述の要素の最適化が中心となるが、塗料や化粧料にフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンを混ぜこんでから塗布する場合は、それらの混合液の固形分濃度や粘度と膜厚との関係を把握してから、目的に応じた条件の最適化を行う。また、基材表面が平坦でない場合は、そのギャップを埋め込む必要もあるので、目的に応じて、コーティング、ディッピング、スキャニングなどの中で最適な塗布方法を選択することが好ましい。
【0072】
なお、膜厚の設定においては、いずれの場合も、油分の量とシリカの量との割合と、フッ素含有オルガノポリシロキサンにおける置換基の割合とにおいて、レジン、ゴムを対象とする塗膜用途の場合、エマルジョンの安定性を確保した上で、所望膜厚設定可能とするのには、油分の量とシリカの量との割合と、フッ素含有オルガノポリシロキサンにおける置換基の割合との組み合わせにおける一つ一つの条件において、エマルジョン中の油分の濃度や油分の分子量その他を選定することにより所望の膜厚を設計する必要がある。
【0073】
本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンが各種基材に対して被膜を形成する場合、ほとんどの場合は、フュームドシリカ粒子が被膜内に残る。この場合、例えば、防汚コーティング剤への応用の場合は、シリカが存在することにより、粘弾性が発現するので、コートの際にたれにくかったり、持続性が良好になり、メーキャップ化粧料の場合は、化粧崩れ防止やさらさら感が改善され、塗料の場合は、塗膜の耐熱性、強固性等が改善され、コートの際にたれにくく、建材の場合は、たれにくく、膜厚を厚くでき、持続性を上げることができる等、多くの場合、シリカの存在により特性が向上する。
【0074】
被膜を硬化させる場合は、室温あるいは加熱するなどして硬化させることにより硬化保護被膜を形成することができる。この硬化保護被膜は、高硬度で可とう性に富み、撥水性、耐熱性、耐候性、耐擦傷性、防汚性が良好であり、さらに接着性を有する。
【0075】
また、本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョン組成物は、各種消泡剤として、優れた消泡性能を与えることができる。本組成物をそのまま、あるいは希釈し、あるいは別の薬剤と混ぜて、消泡の場面に適用することができる。フッ素含有オルガノポリシロキサンの本質的に有する優れた低表面張力が発揮できるためである。また、その安定性から優れた消泡持続性も発揮できる。
【0076】
本発明によるフッ素含有オルガノポリシロキサンエマルジョンは、水系の塗料、消泡剤、化粧料等にそのまま配合できるので、環境面や作業面で特別な配慮なしに使用できる。
【実施例】
【0077】
次に本発明を実施例によって説明する。なお、本発明はこれによって限定されるものではない。また、実施例にて使用したフュームドシリカの内容は下記の通りであり、本発明のフュームドシリカ粒子の水中油型エマルジョン、比較例における組成物に対する評価方法は、以下のようにして行った。
【0078】
<フュームドシリカの内容>
本発明の実施例および比較例で用いたシリカは、表1に示すシリカ1~3であり、いずれもフュームドシリカ(乾式シリカ)である。その内容は表1に示す通りである。
【0079】
【0080】
<粒子径測定法>
実施例及び比較例で得られた水中油型エマルジョン粒子の粒子径は、ベックマン・コールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(商品名「LS-230」)を用いて測定し、平均粒子径を示した。
【0081】
<安定性、均一性評価法>
実施例及び比較例で得られた水中油型エマルジョンの安定性の評価法は、試料を50mlスクリュー管に30g入れ、室温貯蔵1か月後に、沈降分離の有無を確認した。エマルジョンについてはクリーミングの有無も確認した。また、目視で大きな粒状物の存在はないか、辺部に濁りがあるかどうかの確認を行い、均一性を確認した。
評価基準;
◎:クリーミング、沈降分離全くなし、均一、○:クリーミング、沈降分離がわずかにある、ごくわずかに不均一性あり、△:クリーミング、沈降分離、不均一の傾向あり、×:クリーミング、沈降分離あり、不均一。
【0082】
<撥水性評価法>
ガラス板の上に実施例及び比較例で得られた水中油型エマルジョンを水で2倍に希釈してバーコーターを用いて塗布し、約30μmの厚さの塗膜を形成し、十分に風乾した後、撥水性評価として水との接触角測定を行った。接触角が90度以上であれば撥水性良好とする。
【0083】
<実施例、比較例における水分散体、水中油型エマルジョンの作製方法>
各実施例、比較例においては、表2に示す処方量および作製条件にて水分散体を得た。さらにその水分散体を経由して、同表に示す処方量により水中油型エマルジョンの作製を行った。
水中油型エマルジョンの評価結果を表3に示す。
【実施例1】
【0084】
第1段階として、親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。その際のせん断速度は約11,000s-1であった。
続いて、第2段階として粘度1000mPa・sのフッ素含有オルガノポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)からAF98/1000の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、低粘度白色の水中油型エマルションを得た。その際のせん断速度は約4,600s-1であった。
【実施例2】
【0085】
シリカ1を1g、シリカ2を4gを投入したこと以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【実施例3】
【0086】
シリカ1を4g、シリカ2を1gを投入したこと以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【実施例4】
【0087】
部分疎水化処理親水性フュームドシリカ(「シリカ3」)5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。
続いて、粘度1000mPa・sのフッ素含有オルガノポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)からAF98/1000の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、低粘度白色の水中油型エマルションを得た。
【実施例5】
【0088】
第2段階での攪拌時間を1分間とした以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【実施例6】
【0089】
第2段階での攪拌を500rpmとした以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。その際のせん断速度は約1,500s-1であった。
【実施例7】
【0090】
第1段階での攪拌時間を1分間とした以外は、実施例1と全く同様にして、水分散体および低粘度白色の水中油型エマルジョンを得た。
【実施例8】
【0091】
実施例1で得られた水中油型エマルジョンを表面が平滑で錆のない金属光沢のある鉄板の上に、水で2倍に希釈してバーコーターを用いて膜厚30μmの被膜を形成した。この板を屋外に1か月暴露したところ、コートなしでは表面が大きく錆びたのに対し、コートありでは、初期の金属光沢が保たれていた。
【実施例9】
【0092】
実施例1で得られた水中油型エマルジョンをアクリルメラミン樹脂がコートされた鋼板の上に、水で2倍に希釈してバーコーターを用いて膜厚30μmの被膜を形成した。この板を室温で1週間、水に浸漬したところ、コートなしでは樹脂が水膨れになったのに対し、コートありでは、初期の樹脂の状態が保たれていた。
【実施例10】
【0093】
実施例1で得られた水中油型エマルジョンを市販の紫外線防止メーキャップ剤の中に、5%投入し、よく撹拌した後、ガラス試験片に、水で2倍に希釈してバーコーターを用いて約30μmの厚さで塗布した。この試験片を1時間、常温で水に浸漬した後、SPF(サンプロテクトファクター)を測定したところ、コートなしではSPFが初期に比べ70%に低下したのに対し、コートありでは、SPFが初期に比べ90%に低下し、好ましいレベルである80%よりも上回った。
【0094】
<比較例1>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間で攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。
続いて、粘度1000mPa・sのフッ素含有オルガノポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)からAF98/1000の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、エマルジョンを得たが、水中油型性は十分ではなかった。
【0095】
<比較例2>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)5gの代わりに疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)5gを投入したこと以外は、比較例1と全く同様にして、全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0096】
<比較例3>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gを500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて500rpmで2分間攪拌することにより、シリカ水分散体を得た。その際のせん断速度は約1,900s-1であった。
続いて、粘度1000mPa・sのフッ素含有オルガノポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社(ドイツ、ミュンヘン)からAF98/1000の名称で入手可能)を投入し、1,500rpmで2分間攪拌することで、全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0097】
<比較例4>
第1段階として、粘度1000mPa・sのフッ素含有オルガノポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社AF98/1000を500mLのステンレス鋼ビーカー中に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて1,900rpmで2分間攪拌することにより、水中油型エマルジョンを得た。その際のせん断速度は約5,700s-1であった。
続いて、第2段階として親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gを投入し、3,000rpmで2分間攪拌した。その際のせん断速度は約11,000s-1であった。
全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0098】
<比較例5>
親水性フュームドシリカ(「シリカ1」)2.5gと疎水性フュームドシリカ(「シリカ2」)2.5gと粘度1000mPa・sのフッ素含有オルガノポリシロキサン50g(ワッカー・ケミー社AF98/1000を500mLのステンレス鋼ビーカー中に同時に投入した。ここに脱イオン水45gを投入し、Ultraturraxを用いて3,000rpmで2分間攪拌した。その際のせん断速度は約11,000s-1であった。
全体白色液を得たが、連続相である水相と分散相である油相とに分離した状態の水中油型性は十分ではなかった。
【0099】
【0100】
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<水分散体、水中油型エマルジョンの作製結果まとめ>
表2、3で示されたように、原料のフュームドシリカの段階でのシリカ粒子群の各々における表面親水基のモル数の粒子群にわたる合計モル数と、粒子群の各々における表面疎水基のモル数の粒子群にわたる合計モル数との比率を26/74~74/26の範囲では、安定な水分散体および水中油型エマルジョンが生成した。しかし、そのモル比が90/10では、水分散体は安定だが、安定な水中油型エマルジョンは生成しなかった。モル比が10/90では、水分散体もエマルジョンも安定ではなかった。
モル比が50/50であっても、せん断速度が低い場合は、水分散体もエマルジョンも安定ではなかった。
せん断速度が十分大きい場合は、いずれも、2次凝集レベルでの表面の疎水化度のばらつきは十分に小さくなったが、せん断速度が十分でない場合は、ばらつきが大きくなった。
水分散体の作製の際にかけたせん断速度よりも大幅に小さいせん断速度で油分であるフッ素含有オルガノポリシロキサンが吸い込まれたため、水分散体の自己ミセル的凝集体がほぼそのままの状態で水中油型エマルジョン(ピッカリングエマルジョン)に移行したと考えられる。
シリカ、水、油の同時混合、水と油の混合後、シリカ混入いずれも、安定したエマルジョンできなかった点を確認した。また、水分散体で主せん断、エマルジョンで補助せん断でもよい点を確認した。それらを根拠に、水分散体中での自己ミセル的凝集体の形成が推察される。
シリカの凝集性に応じて、エマルジョンの安定性確保にとって、全体モル比率、ばらつきは変動することを確認した。
せん断に関し、エマルジョンの安定性にとって、リアレンジメントが必要であるところ、せん断速度が所定以上であれば、せん断時間は問わないが、複合粒子の諸元調整にとって、せん断速度およびせん断時間が関係する点を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のエマルジョンは、従来不可能だったフッ素含有オルガノポリシロキサンを被膜の形状を与えることができるため、基材に対し、撥水、撥油、耐熱、化粧性能、防汚、耐候、離型、長期安定、絶縁または高誘電率化を与えることができる。そのため、従来不可能または不十分だった保護コーティングや化粧品用途等の各種工業用途、一般用途において特性を改善するとともに、新たな用途の展開を可能にする。
有機系界面活性剤の使用を省くないし低減できるため、それに伴う環境問題や安定的な製造、安定したエマルジョンの形として存在できること、さらに、有機系の界面活性剤フリーであり水系で供給できることから皮膚に直接塗布する化粧品原料としても、低刺激性という観点からも有用であり、多くの産業で有利に使用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【
図1】実施形態において、フュームドシリカ粒子を水中に分散させる場合に、どのような凝集体ができ得るかの模式図であり、明確性のために、凝集体自体の大きさは誇張して示している。
【符号の説明】
【0104】
10 親水リッチ1次凝集体
12 疎水リッチ1次凝集体
14 2次凝集体
16 スペース