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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】電動車両の熱供給装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 9/18 20060101AFI20220513BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220513BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20220513BHJP
   B60H 1/03 20060101ALI20220513BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20220513BHJP
【FI】
B60L9/18 J
H02M7/48 E
H02M7/48 Z
B60H1/22 671
B60H1/22 611Z
B60H1/03 C
B60L3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017140425
(22)【出願日】2017-07-20
(65)【公開番号】P2019022375
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋也
(72)【発明者】
【氏名】兼重 将浩
(72)【発明者】
【氏名】大塚 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 靖
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-199986(JP,A)
【文献】特開2016-107818(JP,A)
【文献】特開2004-271167(JP,A)
【文献】特開2014-158393(JP,A)
【文献】特開2012-166667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 9/18
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータを備えた電動車両に搭載される電動車両の熱供給装置であって、
複数のスイッチング素子を有し、前記走行用モータを駆動するインバータと、
前記インバータを制御して前記走行用モータを駆動するモータ駆動処理、及び、前記モータ駆動処理のときよりも大きな熱損失を発生させる高損失用の駆動パルスを前記スイッチング素子に送って前記インバータを発熱させる電熱駆動処理を実行可能な制御部と、
前記インバータから熱を吸収して熱の供給先へ送る熱輸送部と、
を備え、
前記インバータは、三相インバータであり、
前記制御部は、
前記電熱駆動処理の実行時において、前記インバータの同一相の一対の前記スイッチング素子が同時にオンとなり、当該一対の前記スイッチング素子を介して前記インバータの上アームと下アームとが短絡する期間が生じるように、前記高損失用の駆動パルスを出力し、かつ
前記電熱駆動処理の実行時において、前記インバータの三つの相の間で、前記一対の前記スイッチング素子が同時にオンするタイミングがずれるように、前記高損失用の駆動パルスを出力することを特徴とする電動車両の熱供給装置。
【請求項2】
前記高損失用の駆動パルスは、前記モータ駆動処理で用いられる駆動パルスよりも周波数の高い駆動パルスを含むことを特徴とする請求項1記載の電動車両の熱供給装置。
【請求項3】
前記高損失用の駆動パルスは、前記モータ駆動処理で用いられる駆動パルスよりも立ち上り又は立下りが緩い駆動パルスを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車両の熱供給装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記電熱駆動処理の実行中、インターバルを開けて前記高損失用の駆動パルスを繰り返し前記スイッチング素子へ送り、かつ、前記熱輸送部の温度に基づいて前記インターバルの長さを変更することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電動車両の熱供給装置。
【請求項5】
前記電動車両は、前記走行用モータへ電力を供給するバッテリと、前記電動車両の外部から前記バッテリの充電電力を入力可能な電力入力部とを備え、
前記制御部は、前記電力入力部を介した充電電力の入力中に前記電熱駆動処理を実行することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電動車両の熱供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の熱供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旧来、エンジンを備えた自動車では、車室内の暖房又は動力伝達機構等の暖機の熱源としてエンジンの廃熱を利用するのが一般的であった。一方、近年のエンジン車では、高効率化によりエンジンの廃熱量が少なくなっている。さらに、HEV(Hybrid Electric Vehicle)、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)などの自動車では、走行中でもエンジンが停止する期間があるため、エンジンの廃熱はより少なくなっている。また、エンジンを持たないEV(Electric Vehicle)では、そもそもエンジンの廃熱が得られない。このような状況から、近年の自動車においては熱源の確保が難しくなっている。
【0003】
従来、HEV、PHEV、EVなどの電動車両では、PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータ等の電熱器を利用して、熱源を確保することがあった。電熱器は、一般に、走行用の電力を蓄積した高電圧バッテリの電力を用いて駆動される。
【0004】
また、本発明に関連する技術として、特許文献1には、冷温時において電気自動車の電池ユニットを加熱するために、モータに通電を行い、モータで発生させた熱を利用する技術が開示されている。また、特許文献2には、バッテリの充電器又はバッテリの廃熱を利用してミッションオイルを加熱する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-158393号
【文献】国際公開第2011/015436号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱源の大部分を電熱器に頼る場合、必要な熱量を発生するために大きな電熱器ユニットを設けなければならない。電熱器ユニットは、電熱器に加え、電熱器から媒体に放熱させる熱交換機を備えるため、大きな体積及び重量を有する。したがって、発熱量の大きな電熱器ユニットを備える場合、電熱器ユニットを搭載するためにエンジンルーム等に大きな配置スペースが必要となり、また、自動車の軽量化が阻害されるという課題が生じる。
【0007】
一方、特許文献1又は特許文献2に示されるように、熱源を確保するために、他の機能部品を発熱させたり、他の機能部品の廃熱を利用したりすることで、熱源に占める電熱器の割合を削減して、上記の課題を軽減することができる。しかしながら、特許文献1のようにモータに通電を行って発熱させる構成では、モータのコイルと、バッテリ及びモータ間の電力ケーブルとの全体に熱が発生するなど、発熱箇所が分散して熱を効率的に利用しにくいという課題がある。また、特許文献2のように充電器の廃熱又はバッテリの廃熱を利用する構成では、必要なときに能動的に熱を発生させることが難しく、さらに少ない熱量しか得られないという課題がある。
【0008】
本発明は、熱源確保のために大幅な部品の追加が不要であり、かつ、効率的にかつ能動的に熱を供給できる電動車両の熱供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、
走行用モータを備えた電動車両に搭載される電動車両の熱供給装置であって、
複数のスイッチング素子を有し、前記走行用モータを駆動するインバータと、
前記インバータを制御して前記走行用モータを駆動するモータ駆動処理、及び、前記モータ駆動処理のときよりも大きな熱損失を発生させる高損失用の駆動パルスを前記スイッチング素子に送って前記インバータを発熱させる電熱駆動処理を実行可能な制御部と、
前記インバータから熱を吸収して熱の供給先へ送る熱輸送部と、
を備え、
前記インバータは、三相インバータであり、
前記制御部は、
前記電熱駆動処理の実行時において、前記インバータの同一相の一対の前記スイッチング素子が同時にオンとなり、当該一対の前記スイッチング素子を介して前記インバータの上アームと下アームとが短絡する期間が生じるように、前記高損失用の駆動パルスを出力し、かつ
前記電熱駆動処理の実行時において、前記インバータの三つの相の間で、前記一対の前記スイッチング素子が同時にオンするタイミングがずれるように、前記高損失用の駆動パルスを出力することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電動車両の熱供給装置において、
前記高損失用の駆動パルスは、前記モータ駆動処理で用いられる駆動パルスよりも周波数の高い駆動パルスを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の電動車両の熱供給装置において、
前記高損失用の駆動パルスは、前記モータ駆動処理で用いられる駆動パルスよりも立ち上り又は立下りが緩い駆動パルスを含むことを特徴とする。
【0013】
請求項記載の発明は、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電動車両の熱供給装置において、
前記制御部は、前記電熱駆動処理の実行中、インターバルを開けて前記高損失用の駆動パルスを繰り返し前記スイッチング素子へ送り、かつ、前記熱輸送部の温度に基づいて前記インターバルの長さを変更することを特徴とする。
【0014】
請求項記載の発明は、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電動車両の熱供給装置において、
前記電動車両は、前記走行用モータへ電力を供給するバッテリと、前記電動車両の外部から前記バッテリの充電電力を入力可能な電力入力部とを備え、
前記制御部は、前記電力入力部を介した充電電力の入力中に前記電熱駆動処理を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、走行用モータを駆動するインバータと、インバータから熱を吸収する熱輸送部とを流用して熱の発生及び熱の輸送を行うので、熱源確保のために大幅な部品の追加を要さない。したがって、大出力の電熱器ユニットを備える場合と比較して、電動車両に要求される部品の収容スペースの削減及び電動車両の軽量化を図ることができる。加えて、制御部は、電熱駆動処理の際、高損失用の駆動パルスを用いてスイッチング素子を動作させるので、スイッチング素子の部分に集中的に熱を発生させることができる。さらに、熱輸送部によりこの熱を取り込んで輸送できる。したがって、効率的かつ能動的に熱の発生と熱の供給とを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1に係る電動車両の熱供給装置を示す構成図である。
図2】電熱駆動パルスとモータ駆動パルスとを示す図である。
図3】ECUにより実行される電熱駆動処理の手順を示すフローチャートである。
図4】電熱駆動パルスの変形例1を示す図である。
図5】電熱駆動パルスの変形例2を示す図である。
図6】電熱駆動パルスの変形例3を示す図である。
図7】本発明の実施形態2に係る電動車両の熱供給装置のドライブ回路の周辺を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る電動車両の熱供給装置を示す構成図である。
【0019】
実施形態1の熱供給装置10は、走行用モータ2と高電圧バッテリ3とを有する電動車両に搭載されて、電動車両の必要な箇所に熱を供給する装置である。電動車両は、PHEV、EVなどであり、エンジンを備えていても備えていなくてもよい。熱供給装置10は、インバータ12、ドライブ回路14、ECU(Electronic Control Unit)16、冷却液回路20、ウォータポンプ22、温度センサ24、及び熱交換機26を備える。電動車両には、その他、インレット4、車載充電器5、ジャンクションボックス6及び空調ダクト8等が設けられる。これらのうち、ECU16が本発明に係る制御部の一例に相当し、冷却液回路20が本発明に係る熱輸送部の一例に相当し、高電圧バッテリ3が本発明に係るバッテリの一例に相当する。
【0020】
インレット4は、電動車両の外部から充電ガンを指し込んで充電電力を入力可能な電力入力部である。
【0021】
車載充電器5は、インレット4から入力された電力を充電電圧に変換し、ジャンクションボックス6を介して高電圧バッテリ3へ出力する。
【0022】
ジャンクションボックス6は、高電圧バッテリ3、車載充電器5及びインバータ12の間で高電圧が加えられる電力線を結合する。
【0023】
高電圧バッテリ3は、例えばリチウムイオン電池又はニッケル水素電池などの二次電池であり、走行用モータ2を駆動する電力を蓄積及びインバータ12を介して走行用モータ2へ供給する。
【0024】
走行用モータ2は、例えば三相交流モータであり、電動車両の走行用の動力を発生する。走行用モータ2で発生された動力は、図示略のトランスミッション等を介して電動車両の駆動輪に伝達される。
【0025】
空調ダクト8は、電動車両の空調システムの構成要素であり、外気又は車室の内気を導入し、空気の温度及び湿度を調整して車室へ導出する。空調ダクト8内には、空気を送るファン8a、空調システムのエバポレータ8b及び熱交換機26等が設けられている。
【0026】
インバータ12は、走行用モータ2を駆動する電力変換回路であり、さらに、熱源として機能する回路である。インバータ12は、複数のスイッチング素子T11~T32を備え、走行用モータ2を駆動する際、高電圧バッテリ3の直流電圧から交流電圧を生成して走行用モータ2に出力する。スイッチング素子T11~T32は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)又はサイリスタなどのパワー半導体である。図1の例では、インバータ12として三相インバータが適用されている。インバータ12の内部には冷却液の通路が設けられ、複数のスイッチング素子T11~T32はヒートシンクを介して冷却液に放熱可能に取り付けられている。
【0027】
ECU16は、電動車両のモータ走行中、インバータ12を制御して走行用モータ2を駆動するモータ駆動処理を行う。ECU16には、図示しないアクセルペダル及びブレーキペダルの操作信号を含む運転操作信号が入力される。ECU16は、モータ駆動処理中、運転操作信号に基づいてPWM(Pulse Width Modulation)制御によりインバータ12を駆動して、走行用モータ2から運転操作信号に応じたトルクを出力させる。また、ECU16は、熱の供給を要するときにインバータ12を発熱させる電熱駆動処理を実行可能である。電熱駆動処理の詳細は後述する。
【0028】
ドライブ回路14は、ECU16から入力される制御パルスに基づいて、複数のスイッチング素子T11~T32をそれぞれ動作させる複数の駆動パルスVg11~Vg32を生成する。具体的には、ドライブ回路14は、アイソレータを介してECU16とインバータ12とを絶縁し、複数のスイッチング素子T11~T32をスイッチング動作させる制御パルスをECU16から入力する。さらに、ドライブ回路14は、制御パルスを増幅及び波形整形して駆動パルスVg11~Vg32を生成し、スイッチング素子T11~T32の各制御端子(例えばゲート端子)へ出力する。駆動パルスVg11~Vg32はスイッチング素子T11~T32の制御端子をそれぞれ駆動し、これによりスイッチング素子T11~T32がそれぞれ動作する。
【0029】
冷却液回路20は、インバータ12の冷却液の通路と熱交換機26との間で冷却液を循環可能な回路であり、インバータ12から吸収した熱を熱交換機26へ輸送できる。ウォータポンプ22の作用により、冷却液回路20、インバータ12及び熱交換機26を通して冷却液が循環する。
【0030】
温度センサ24は、インバータ12の冷却液の通路に配置され、冷却液の温度を検出してECU16へ検知結果を出力する。
【0031】
熱交換機26は、熱せられた冷却液と空調ダクト8を流れる空気との間で熱を交換し、車室へ送られる空気を温める。熱交換機26は、ヒータコアとも呼ばれる。
【0032】
<電熱駆動処理>
図2は、電熱駆動パルスとモータ駆動パルスとを示す図である。図3は、ECUにより実行される電熱駆動処理の手順を示すフローチャートである。
【0033】
図3の電熱駆動処理は、例えばインレット4を介した高電圧バッテリ3の充電時、車室内の暖房の要求があった場合に実行される。電熱駆動処理が開始されると、ECU16は、複数のスイッチング素子T11~T32の一部又は全部に電熱駆動パルスPhを出力して、これらを発熱させる(ステップS1)。
【0034】
電熱駆動パルスPhは、走行用モータ2を駆動するときよりも(すなわち、モータ駆動処理のときよりも)熱損失が大きくなるようにスイッチング素子T11~T32を動作させる高損失用の駆動パルスである。具体的には、図2の「電熱駆動パルスVg11、Vg12」の波形に示すように、電熱駆動パルスPhは、所定期間T0、短い周期でハイレベルとロウレベルとを繰り返す駆動パルスである。電熱駆動パルスPh中の個々のパルスの周波数は、走行用モータ2を駆動する際に出力されるモータ駆動パルス(図2の「モータ駆動パルスVg11」を参照)の周波数、すなわちPWM制御の周波数よりも高い周波数である。例えばPWM制御の周波数(1/τpwm,図2の「モータ駆動パルスVg11」を参照)が例えば50Hz~10kHzである。これに対して、電熱駆動パルスPhの周波数は例えば100kHz~10MHzである。電熱駆動パルスPhは、インバータ12の同一相の上アームと下アームとを構成する一対のスイッチング素子(例えばスイッチング素子T11、T12)を同時にオンする期間が生じるように同期して出力される。1つの電熱駆動パルスPhが出力される所定期間T0は、スイッチング素子T11~T32の大きな劣化が生じないように短い期間に設定される。なお、電熱駆動パルスPhとしては、図2に示すように、短い周期でロウレベル、ハイレベル、ロウレベルと遷移するパルスを複数含んだ信号の他、同様の周期でロウレベル、ハイレベル、ロウレベルと遷移するパルスを1つ含んだ信号としてもよい。
【0035】
スイッチング素子T11~T32は、一般に、ターンオン時又はターンオフ時に電流が流れると熱損失が大きくなるという性質を有する。例えば、ターンオン時又はターンオフ時には、スイッチング素子T11~T32に比較的に大きな抵抗が生じ、この状態で電流が流れることで熱損失としてジュール熱が発生する。電熱駆動パルスPhは、上述のようにインバータ12の同一相の上アームと下アームとで微小な期間の短絡を発生させる。したがって、このときに、車載充電器5から高電圧バッテリ3へ送られる電流の一部がインバータ12の同一相の上アーム及び下アームを通る電流経路に流れる。さらに、高周波の電熱駆動パルスPhは、スイッチング素子T11~T32のターンオンとターンオフを多く発生させるので、この間、インバータ12の同一相の上アームと下アームとの部分に比較的に大きな抵抗が生じる。これらの作用により、電熱駆動パルスPhにより駆動されたスイッチング素子T11~T32が発熱する。発生した熱は、ヒートシンクを介して冷却液回路20の冷却液に放出され、ウォータポンプ22の作用により熱交換機26へ送られる。
【0036】
電熱駆動パルスPhを出力したら、次に、ECU16は、温度センサ24を介して冷却液の温度検出を行う(ステップS2)。さらに、ECU16は、冷却液の温度と目標温度とを比較して(ステップS3、S5)、電熱駆動パルスPhを次に出力するまでのインターバルT1を調整する(ステップS4、S6)。例えば、冷却液の温度が“目標温度-許容誤差Δ2”~“目標温度+許容誤差Δ1”の範囲であれば(ステップS3、S5が共にNOの場合)、ECU16は現在のインターバルT1の設定を維持する。また、冷却液の温度が“目標温度+許容誤差Δ1”を上回れば(ステップS3がYESの場合)、ECU16は現在のインターバルT1を一段階長くする(ステップS4)。また、冷却液の温度が“目標温度-許容誤差Δ2”を下回れば(ステップS5がYESの場合)、ECU16は現在のインターバルT1を一段階短くする(ステップS6)。
【0037】
目標温度は、スイッチング素子T11~T32の定格温度を上回らない範囲で、要求された熱量に応じて適宜設定されればよい。目標温度は、要求に応じて変更されてもよいし、予め定められた値としてもよい。
【0038】
続いて、ECU16は、設定されたインターバルT1の経過を待機し(ステップS7)、その後、ステップS1に戻って、次の電熱駆動パルスPhを出力する。そして、ECU16は、上述したステップS1~S7の処理を繰り返し実行する。
【0039】
このような電熱駆動処理によって、インバータ12のスイッチング素子T11~T32の一部又は全部が逐次発熱し、この熱により冷却液回路20の冷却液が目標温度に上昇する。そして、冷却液回路20を介して、インバータ12から必要な箇所(例えば空調システムの熱交換機26)へ熱が供給される。
【0040】
以上のように、実施形態1の電動車両の熱供給装置10によれば、走行用モータ2を駆動するインバータ12と、インバータ12を冷却する冷却液回路20とを流用して、熱の発生及び熱の輸送が行われる。したがって、熱源確保のために大型の電熱器ユニットを備える場合と比較して、電動車両に要求される部品の収容スペースの削減及び電動車両の軽量化を図ることができる。加えて、実施形態1では、ECU16がインバータ12のスイッチング素子T11~T32を高い損失が生じる電熱駆動パルスPhにより駆動して熱を発生させる。したがって、電流が流れる電力ケーブル、インバータ12内の電力線、スイッチング素子T11~T32のうち、スイッチング素子T11~T32の部分で集中的に熱を発生させることができる。さらに、冷却液回路20によりスイッチング素子T11~T32から冷却液へ効率的に放熱することができる。したがって、効率的かつ能動的に熱の発生と空調システムへの熱の供給を行うことができる。
【0041】
さらに、実施形態1の熱供給装置10によれば、電熱駆動処理の実行中、ECU16がインターバルT1を開けて電熱駆動パルスPhを繰り返しスイッチング素子T11~T32へ送り、さらに、冷却液の温度に基づいてインターバルT1の長さを調整する。したがって、電熱駆動処理においてインバータ12が過剰に発熱してしまうことが抑制され、過剰な熱によりインバータ12が破壊されることを防止しつつ、十分な熱量を発生させることができる。
【0042】
また、実施形態1の電動車両の熱供給装置10によれば、インレット4を介した高電圧バッテリ3の充電中に電熱駆動処理が実行される。これにより、発熱に必要な電力が電動車両の外部の電力系統から供給されるので、高電圧バッテリ3の電力が減って航続距離が短くなるといった不都合を回避できる。
【0043】
<電熱駆動パルスの変形例>
図4図6は、電熱駆動パルスの変形例1~変形例3を示す図である。
【0044】
電熱駆動パルスPhは、図4及び図5に示すように、インバータ12の第1相のスイッチング素子T11、T12、第2相のスイッチング素子T21、T22、第3相のスイッチング素子T31、T32に、それぞれ出力されるようにしてもよい。
【0045】
このような出力パターンにより、電熱駆動処理の実行中、全てのスイッチング素子T11~T32が均等に駆動されることになり、駆動に伴うスイッチング素子T11~T32の劣化の速度を均衡させることができる。
【0046】
この場合、電熱駆動パルスPhは、図4に示すように、各相でタイミングをずらして出力されるようにしてもよい。各相でタイミングをずらすことで、同一の熱量を発生させる場合でも、インバータ12全体の熱変動を小さくすることができる。これにより、インバータ12の熱疲労を軽減できる。一方、図5に示すように、電熱駆動パルスPhが各相で同一タイミングに出力されるようにしてもよい。電熱駆動パルスPhを各相で同一タイミングに出力することで、冷却液への熱の伝達効率を高めることができる。
【0047】
さらに、電熱駆動パルスPhは、図6に示すように、第1相~第3相の何れか1組のスイッチング素子(例えばスイッチング素子T11、T12)にのみ出力されるようにしてもよい。冷却液の温度が高くてさらなる加熱が少なくてよい場合には、このような駆動方法により、熱量の調整が容易になる。また、複数のスイッチング素子T11~T32に劣化度の偏りがある場合に、劣化度の低い組のスイッチング素子を動作させることで、複数のスイッチング素子T11~T32の劣化度の均衡を図ることができる。
【0048】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係る電動車両の熱供給装置のドライブ回路の周辺を示す図である。
【0049】
実施形態2の電動車両の熱供給装置は、主に、電熱駆動処理の実行中における、各スイッチング素子T11~T32の駆動方法が、実施形態1から変更されており、他は実施形態1と同様である。以下、実施形態1と同様の内容は説明を省略し、異なる箇所について詳細に説明する。
【0050】
実施形態2の電動車両の熱供給装置は、図7に示すように、ECU16Aと、ドライブ回路14Aとを備える。また、実施形態2の電動車両の熱供給装置は、1つのスイッチング素子T11に対して、2種類のゲート抵抗R1、R2と、ドライブ回路14Aの2系統の出力線L1、L2とが設けられる。その他の構成要素は、実施形態1と同様である。
【0051】
なお、図7では、代表して1つのスイッチング素子T11に関わる構成のみを示している。2種類のゲート抵抗R1、R2と、ドライブ回路14Aの2系統の出力線L1、L2とは、複数のスイッチング素子T11~T32の各々に対応して設けられている。
【0052】
一方のゲート抵抗R1は、スイッチング素子T11を低損失に駆動するのに適した抵抗値を有し、ドライブ回路14Aの第1の出力線L1に接続されている。ゲート抵抗R1によりドライブ回路14Aの第1の出力線L1から、立ち上りと立下りが急峻でありかつ波形の整ったモータ駆動パルスPd1を出力することができる。
【0053】
もう一方のゲート抵抗R2は、一方のゲート抵抗R1よりも大きな抵抗値を有し、ドライブ回路14Aの第2の出力線L2に接続されている。ゲート抵抗R2により、ドライブ回路14Aの第2の出力線L2から駆動パルスを出力すると、出力線L1の出力と比較して、立ち上りと立下りとが緩慢になった電熱駆動パルスPd2を出力することができる。
【0054】
ECU16Aは、制御パルスPcと切替信号とを、ドライブ回路14Aへ出力可能である。制御パルスPcは、ドライブ回路14Aに駆動パルスを出力させる信号である。切替信号は、信号の有効/無効により駆動パルスを出力する出力線L1、L2を選択する信号である。
【0055】
ECU16A及びドライブ回路14Aは、実施形態1と異なり、PWM制御の周波数(50Hz~10kHz)程度のパルスが出力可能な動作性能を有すればよく、例えば100kHz~10MHzの高周波パルスを出力可能な動作性能を要さない。
【0056】
<動作説明>
続いて、スイッチング素子T11~T32を駆動するときの動作について説明する。以下では、代表して1つのスイッチング素子T11を駆動するときの動作について詳細に説明する。
【0057】
ECU16Aは、走行用モータ2を駆動する際、切替信号を無効にしたままPWM制御の制御パルスPcをドライブ回路14Aに出力する。するとドライブ回路14Aは、制御パルスPcを増幅及び波形整形したモータ駆動パルスPd1を一方の出力線L1から出力する。モータ駆動パルスPd1はスイッチング素子T11の制御端子を駆動してスイッチング素子T11を動作させる。モータ駆動パルスPd1は、例えばPWM制御の駆動パルスである。モータ駆動パルスPd1により、6つのスイッチング素子T11~T32が適宜のタイミングで駆動されることで、走行用モータ2が駆動される。
【0058】
一方、電熱駆動処理の際、ECU16Aは、切替信号を有効にし、かつ、スイッチング素子T11の発熱タイミングに制御パルスPcを出力する。制御パルスPcは、PWM制御で出力するものと同程度のパルス幅を有する。制御パルスPcが出力されると、ドライブ回路14Aは、制御パルスPcを増幅及び波形整形した電熱駆動パルスPd2をもう一方の出力線L2から出力する。電熱駆動パルスPd2は、モータ駆動パルスPd1と同程度のパルス幅を有する一方、大きなゲート抵抗R2により立ち上りと立下りとが、モータ駆動パルスPd1と比較して緩慢なパルスである。
【0059】
電熱駆動パルスPd2は、走行用モータ2を駆動するときよりも熱損失が大きくなるようにスイッチング素子T11を動作させる高損失用の駆動パルスである。スイッチング素子T11は、ターンオン時又はターンオフ時に電流が流れると熱損失が大きくなるという性質を有する。電熱駆動パルスPd2は、立ち上りと立下りが緩慢であるため、ターンオン時とターンオフ時にスイッチング素子T11に比較的に大きな抵抗が生じる。さらに、電熱駆動パルスPd2は、実施形態1と同様に、インバータ12の同一相の上アームと下アームとを短絡させる期間が生じるように、同一相の一対のスイッチング素子(例えばスイッチング素子T11、T12)に同期して出力される。したがって、電熱駆動パルスPd2によって、スイッチング素子T11に抵抗が生じた状態で電流を流すことができ、スイッチング素子T11にジュール熱が発生する。
【0060】
電熱駆動パルスPd2は、図4から図6に示した実施形態1の電熱駆動パルスPhと同様に、インターバルを開けて複数のスイッチング素子T11~T32に出力される。このような電熱駆動パルスPd2の出力により、インバータ12で十分な熱量を発生させることができる。発生した熱は、実施形態1と同様に、ヒートシンクを介して冷却液回路20の冷却液に放出され、ウォータポンプ22の作用により熱交換機26へ送られる(図1を参照)。
【0061】
以上のように、実施形態2の電動車両の熱供給装置によれば、電熱駆動パルスPd2によってインバータ12のスイッチング素子T11~T32を発熱させ、冷却液回路20を介して熱の供給先へ熱を輸送できる。したがって、実施形態2においても、実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
さらに、実施形態2の電動車両の熱供給装置によれば、電熱駆動パルスPd2はPWM制御の駆動パルスと同程度のパルス幅を有する信号なので、ECU16A及びドライブ回路14Aに高周波信号を出力可能な動作性能が要求されない。高周波信号を出力可能な動作性能が必要であると、ECU16A及びドライブ回路14Aの部品コストが高騰するが、実施形態2の構成によれば、このような部品コストの高騰を抑えることができる。
【0063】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、熱の供給先として、空調システムの熱交換機を一例にとって説明した。しかし、熱の供給先は、例えば、エンジン、動力伝達部、高電圧バッテリ、空調システムの冷媒回路など、様々に変更可能であり、これらの暖機或いは加熱のために熱を利用してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、電熱駆動処理に用いる電力を、高電圧バッテリの充電のために電動車両の外部から入力される電力とした。しかし、電熱駆動処理は、高電圧バッテリの電力を用いて行ったり、エンジンの動力により発電された電力を用いて行ったりしてもよい。また、上記実施形態では、高電圧バッテリの充電中すなわち走行用モータの停止中に電熱駆動処理を行う例を示した。しかし、走行用モータの駆動中に、インバータにモータ駆動パルスと電熱駆動パルスとを重ねて出力することで、走行用モータの駆動と電熱駆動処理とを並列的に行うようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、インバータを冷却する熱輸送部として、冷却液を媒体とした冷却液回路を示したが、空冷のダクト、熱伝導体又はヒートパイプなどを適用してもよい。また、上記実施形態では、高損失用の駆動パルスとして、高周波数の駆動パルス(電熱駆動パルスPh)と、立ち上り又は立下りを緩慢にした駆動パルス(電熱駆動パルスPd2)とを示した。しかし、高損失用の駆動パルスとしては、実施形態の例に限られず、例えばスイッチング素子を完全にオンさせない駆動パルスを採用するなど、走行用モータを駆動するときよりも大きな熱損失がスイッチング素子で生じる駆動パルスであればよい。
【0066】
また、上記実施形態では、インバータの同一相の上アームと下アームとを同時にオンしてインバータを短絡させることで、スイッチング素子にジュール熱を発生させる電流を流す例を示した。しかし、電熱駆動処理において、例えば図1のスイッチング素子T11、T22を同時にオンにするなど、走行用モータ2が駆動しないように走行用モータ2のコイルを介してスイッチング素子に電流を流してもよい。そして、このときに、スイッチング素子に生じた抵抗等によりジュール熱を発生させるようにしてもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
2 走行用モータ
3 高電圧バッテリ
4 インレット
5 車載充電器
6 ジャンクションボックス
8 空調ダクト
10 熱供給装置
12 インバータ
T11~T32 スイッチング素子
14、14A ドライブ回路
16、16A ECU
20 冷却液回路(熱輸送部)
22 ウォータポンプ
24 温度センサ
26 熱交換機
Ph、Pd2 電熱駆動パルス
R1、R2 ゲート抵抗
T1 インターバル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7