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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】糖取り込み組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20220513BHJP
   A61K 31/4458 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/4458
A61P3/10
A61P3/08
A61P21/00
A61P43/00 121
A61P43/00 105
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017153499
(22)【出願日】2017-08-08
(65)【公開番号】P2018035141
(43)【公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2016163453
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507152970
【氏名又は名称】公益財団法人東洋食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】沖浦 文
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-528235(JP,A)
【文献】特開2007-262017(JP,A)
【文献】Journal of Natural Medicines,2013年,Vol.67,pp.725-729
【文献】栄養学雑誌,2004年,Vol.62, No.6,pp.323-327
【文献】J. Agric. Food Chem.,2003年,Vol.51,p.6495-6501
【文献】日本食品工業学会誌,1986年,Vol.33, No.10,p.729-733
【文献】ビタミン,1988年,Vol.62, No.10,p.549-557
【文献】Food and Function,2014年,Vol.5,pp.454-462
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 3/00
A61P 21/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペコリン酸およびトリゴネリンを有効成分として含有し、前記トリゴネリンの濃度に対する前記ピペコリン酸の濃度の比率(ピペコリン酸/トリゴネリン)が8~38であり、動物細胞における糖取り込みを促進する糖取り込み組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞、例えば筋肉細胞における糖取り込みを促進できる糖取り込み組成物および糖取り込み組成物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペコリン酸(PIP:C11NO)は、ピペリジンのカルボン酸であり、リジン代謝産物として生体内に存在する(非特許文献1)。また、ピペコリン酸は、イチジク果実、コーヒー豆、デーツ果実等の種々の植物に広く分布していることが知られている。ピペコリン酸は、植物においては病害抵抗性に関与していると考えられている。
特許文献1には、ピペコリン酸を含有する組成物として、インスリン感受性の亢進若しくはインスリン抵抗性の改善、血中脂質の上昇抑制若しくは低下、内臓脂肪蓄積の抑制若しくは蓄積した内臓脂肪の減少、又は糖尿病、動脈硬化、肥満若しくは高血圧の予防、軽減又は治療用組成物が記載してある。
【0003】
一方、特許文献2には、糖尿病処置用相乗作用組成物として、20~30%の範囲の濃度のトリゴネリン(TRG:CNO)、20~60%の範囲の濃度のアミノ酸、および10~60%の範囲の濃度の可溶性繊維を、任意で医薬的に許容し得る添加物と共に含有してなる組成物が記載してある。トリゴネリンは、ピリジン環を持つアルカロイドの一種で、イチジク果実、コーヒー豆、大豆等植物に広く分布していることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-262017号公報
【文献】特表2006-528235号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“ Metabolism of lysine in a-aminoadipic semialdehyde dehydrogenase-deficient fibroblasts: Evidence for an alternative pathway of pipecolic acid formation” Struys et al, FEBS Letters, 584, 181-186, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ピペコリン酸やトリゴネリンは、それぞれ、例えば糖尿病等に対する治療用組成物の有効成分として利用されていた。上述した特許文献によれば、これらピペコリン酸やトリゴネリンは併用するものではなく、さらに、筋肉細胞における糖の取り込みに対する影響についての知見は無かった。
【0007】
従って、本発明の目的は、筋肉細胞等の動物細胞における糖取り込みを促進する糖取り込み組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
発明に係る糖取り込み組成物の特徴構成は、ピペコリン酸およびトリゴネリンを有効成分として含有し、前記トリゴネリンの濃度に対する前記ピペコリン酸の濃度の比率(ピペコリン酸/トリゴネリン)が8~38であり、動物細胞における糖取り込みを促進する点にある。
本構成のようにトリゴネリンの濃度に対するピペコリン酸の濃度の比率の範囲を設定することにより、有意にグルコースの取り込み量が増加する糖取り込み組成物を供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ピペコリン酸の構造式を示す図である。
図2】トリゴネリンの構造式を示す図である。
図3】糖取込活性試験のタイムスケジュールを示した図である。
図4】糖取込活性試験の結果を示した図である(実施例2)。
図5】糖取込活性試験の結果を示した図である(実施例3)。
図6】表2の結果をプロットしたグラフである。
図7】ピペコリン酸およびトリゴネリンの有効な濃度比の範囲を算出するため、3次式の近似曲線を作成したグラフである。
図8】ピペコリン酸およびトリゴネリンの有効な濃度比の範囲を算出するため、2次式の近似曲線を作成したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の糖取り込み組成物は、ピペコリン酸およびトリゴネリンを有効成分として含有し、動物細胞における糖取り込みを促進する。
【0030】
ピペコリン酸(PIP:C11NO)は、ピペリジンのカルボン酸であり、イチジク果実、コーヒー豆、デーツ果実等の種々の植物に広く分布していることが知られている。ピペコリン酸は、植物においては病害抵抗性に関与していると考えられている。ピペコリン酸の構造式を図1に示す。
【0031】
トリゴネリン(TRG:CNO)は、ピリジン環を持つアルカロイドの一種で、イチジク果実、コーヒー豆、大豆等の植物に広く分布していることが知られている。トリゴネリンの構造式を図2に示す。
【0032】
動物細胞は、例えば筋肉細胞、肝細胞や脂肪細胞等が適用可能であるが、これらに限定されるものではない。本実施形態では、動物細胞を筋肉細胞とした場合について説明する。
筋肉細胞は、平滑筋、内臓筋、横紋筋、骨格筋、心筋等、糖取り込み組成物を投与する投与対象が有する筋肉であれば、特に限定されるものではない。通常、筋肉細胞は脂肪組織よりも量が多く、血糖値への影響が大きいと考えられる。インスリンが作用するのは、主に、筋肉、脂肪組織、肝臓であるが、インスリンの作用により誘導される糖取り込みのうち、約80%が筋肉によるものである。
【0033】
本発明の糖取り込み組成物を投与対象に投与することで、筋肉細胞への糖取り込みが促進され、血糖値の低下、糖尿病の症状改善、筋肉へのエネルギー供給増加による運動能力の向上、などの効果が得られることが期待される。
【0034】
本発明の糖取り込み組成物の投与対象として、例えば高血糖や糖尿病、運動能力の低下が認められる患者等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、家畜、実験対象動物またはペット動物などの哺乳類であってもよい。また、本発明の糖取り込み組成物は、例えば高血糖や糖尿病、運動能力の低下を予防するため、又は運動能力の向上のために、前記投与対象に投与してもよい。
【0035】
本発明の糖取り込み組成物は、上記投与対象に対して、治療上有効な量の糖取り込み組成物を投与する。「治療上有効な量」とは、投与対象に投与した場合に、無毒で、かつ、いくらかの所望の治療効果を生ずるのに有効な量をいう。
【0036】
本発明の糖取り込み組成物は、トリゴネリンの濃度に対するピペコリン酸の濃度の比率(ピペコリン酸/トリゴネリン)8~38とする
【0037】
このような比率で調製した本発明の糖取り込み組成物は、そのまま経口摂取してもよいし、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤(粉剤)、コーティング剤、糖衣剤、乳剤、液剤、シロップ剤などに製剤して経口摂取してもよい。本発明の糖取り込み組成物は、製剤の際には、医薬上、薬理的に許容される添加剤と混合してもよい。
【0038】
当該添加剤としては、例えば、水、アルコール類、多価アルコール類、界面活性剤、酸、アルカリ、増粘剤、賦形剤、防腐剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、本発明の糖取り込み組成物の投与形態としては、上述した錠剤、カプセル剤等による経口投与又は静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。
【0040】
本発明の糖取り込み組成物は、筋肉細胞への糖取り込みを促進できる活性を有するため、ピペコリン酸およびトリゴネリンを有効成分として含有する医薬組成物又は機能性食品として、高血糖や糖尿病、運動能力の低下の予防又は治療のために用いることができる。即ち、本発明の糖取り込み組成物を、投与対象であるヒトや動物に医薬組成物又は機能性食品として適量を摂取させることで、高血糖や糖尿病、運動能力の低下を予防、改善及び治療することができる。
【0041】
本発明の糖取り込み組成物の摂取量は、投与対象であるヒトや動物の年齢、体重、摂取経路、摂取回数、高血糖や糖尿病、運動能力の低下の症状により異なり、種々の量を設定することができる。また、本発明の糖取り込み組成物は、他の医薬、治療又は予防法等と併用してもよい。
【0042】
上述したように、本発明の糖取り込み組成物は、医薬組成物又は機能性食品として供するのが好ましい。特に機能性食品の態様であれば、日常的に経口摂取できるため、手軽に高血糖や糖尿病、運動能力の低下を予防することができると考えられる。
【0043】
当該機能性食品とは、例えば、特定保健用食品(体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含み、特定の効能が認められる食品)、栄養機能食品(栄養成分の補給・補完のために利用する食品)、健康補助食品、栄養補助食品などの態様で供されるものを指す。このような機能性食品であれば、広く市場に流通しており、容易かつ安価に入手ができる。当該機能性食品に含まれる本発明の糖取り込み組成物の割合は、当業者が適宜設定すればよい。
【0044】
本発明の糖取り込み組成物を医薬組成物又は機能性食品として供する場合、ピペコリン酸およびトリゴネリンを含有し、筋肉細胞における糖取り込みを促進する糖取り込み組成物を投与対象に対して投与した後、当該投与対象内においてトリゴネリンよりピペコリン酸が同量或いは多く含まれるように糖取り込み組成物を調製すればよい。
【0045】
本構成では、トリゴネリンの濃度に対するピペコリン酸の濃度の比率(ピペコリン酸/トリゴネリン)が8~38となるように糖取り込み組成物を調製することにより、高血糖や糖尿病、運動能力の低下の予防又は治療上有効な医薬組成物又は機能性食品等を製造することができる。
【実施例
【0046】
筋肉細胞から筋管へ分化した筋管細胞を用いて被験物質処理後にインスリン刺激下での糖取り込み活性を評価した。
【0047】
〔実施例1〕
予備試験として、細胞毒性試験を行った。
L6ラット大腿筋由来筋細胞(ATCC(CRL-1458):1.5×10cells/1mL)を4本のT75フラスコに増殖培地を用いて分注、播種した。COインキュベーター(5%CO、37℃)内で必要細胞数に達するまで培養した。
【0048】
各被験物質(ピペコリン酸(PIP:MP Biomedicals社製)およびトリゴネリン(TRG:ChromaDex社製))は水溶性であることから両物質ともにPBSを溶媒として100mM濃度ストックを作製した。
【0049】
L6細胞を基本培地(MEM培地(ナカライテスク株式会社製)10%FBS)下で4×10cells/1.4ml/ウェル:6フェルプレートとなるように播種した。COインキュベーター内(5%CO、37℃)で、2日間培養後、筋管形成培地(MEM培地(ナカライテスク株式会社製)2%FBS)に置換した。その後、5日間培養し筋管へ分化したことを確認した。
【0050】
筋管細胞(96ウェルスケール)を、被験物質を含む被験物質処理培地(MEM培地(ナカライテスク株式会社製)2%BSA,2%FBS)にて24時間培養した。脱感作培地(MEM培地(ナカライテスク株式会社製)0.2%BSA)に交換して18時間培養し脱感作する。その後、細胞の生細胞数を生細胞数測定試薬SF(WST-8法(ナカライテスク株式会社製))により測定した。
【0051】
培養終了後の各ウェルから培養上清を除去、100μLの10%WST-8試薬(生細胞数測定試薬)を含む脱感作培地に交換し、再び培養、添加後30分、90分後に各ウェルの吸光度(測定波長450nm,参照波長630nm)を測定し、両値から1時間あたりの吸光度変化量を測定し、それを生細胞数として算出した。試験濃度を以下に示す。試験は全てn=3で行った。
【0052】
トリゴネリン:0.16,0.8,4,20,100,500,2500μM
ピペコリン酸:0.16,0.8,4,20,100,500,2500μM
【0053】
筋管細胞における被験物質の細胞毒性試験の結果、コントロールと比較していずれの濃度区において生細胞数の減少は認められなかった(結果は示さない)。最高濃度である2500μM(2.5mM)やその一段階低い500μMは一般的に生体内で実現するには高濃度過ぎて実験条件としては適さないことから、以下の本試験では100μMを最高濃度で実施することとした。
【0054】
〔実施例2〕
各被験物質(ピペコリン酸およびトリゴネリン)を用いて糖取込活性試験を行った。糖取込活性試験のタイムスケジュールを図3に示した。
【0055】
L6細胞を基本培地下で4×10cells/1.4ml/ウェル:6フェルプレート(糖取り込み活性試験用)となるように播種した。COインキュベーター内(5%CO、37℃)で、2日間培養後、筋管形成培地に置換した。その後、5日間培養し筋管へ分化したことを確認し本試験に用いた。
【0056】
筋管細胞に以下に示す濃度の被験物質を含む被験物質処理培地に置換し、24時間培養した。尚、コントロール(陰性対照または対照区)として、被験物質の代わりに、その溶媒(リン酸緩衝生理食塩水、略称:PBS)のみを添加した試験区を設けた。その後、各ウェルから培養上清を除去した後、新たに脱感作培地に置換し、18時間培養した。その後、100nMインスリンを含むインスリン処理培地(MEM培地(ナカライテスク株式会社製)0.2%BSA)に交換し、40分間処理後に2-デオキシグルコース(2DG)代謝速度測定キット(コスモ・バイオ株式会社製)により糖取込活性測定を行った。陽性対照物質であるアラキドン酸は溶媒としてエタノールを使用し200mMストックとして直前に調製した(本試験では終濃度50μM)。
【0057】
TRG:100μM、10μM、1μM(濃度差は10倍)
PIP:100μM、10μM、1μM(濃度差は10倍)
TRG/PIP:100μM/100μM
TRG/PIP:100μM/10μM
TRG/PIP:100μM/1μM
TRG/PIP:10μM/100μM
TRG/PIP:10μM/10μM
TRG/PIP:10μM/1μM
TRG/PIP:1μM/100μM
TRG/PIP:1μM/10μM
TRG/PIP:1μM/1μM
【0058】
糖取込活性試験の詳細は以下の通りである。
インスリン処理前後の細胞を0.1%BSA添加KRPH緩衝液(1.2mM KHPO,1.2mM MgSO,1.3mM CaCl,118mM NaCl,5mM KCl,30mM Hepes pH7.5)(3mL/ウェル)で2回洗浄後、1mM 2DGを含む0.1%BSA添加KRPH緩衝液(1.5mL/ウェル)で20分間COインキュベーター内(5%CO、37℃)で処理した。その後、0.1%BSA添加KRPH緩衝液(3mL/ウェル)で2回洗浄後、1mLの10mM Tris-HCl(pH8.0,1% Triton X-100添加)で細胞を溶解した。添加後静置、数回のピペッティングを行った。溶解液を15000×g,20分間、遠心分離し上清を回収した。その後、上清液を1mLの10mM Tris-HCl pH8.0にて10倍稀釈し、測定用の試料とした。細胞内の2DG6P測定はキット説明書に準じて行った。
【0059】
2-デオキシグルコース(2DG)はグルコースと同様に細胞内に取り込まれ、リン酸化されて2DG6Pとなるが、それ以上は代謝されずに細胞内に蓄積される。2DG代謝速度測定キットでは、一定時間2DGを取り込ませた後に、細胞内の2DG6P量を測定することにより、培養細胞における2DGの取り込み量を測定することができる。
【0060】
糖取込活性試験の結果を図4及び表1に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
その結果、ピペコリン酸(PIP)、トリゴネリン(TRG)ともに単独では影響がみられなかったが、トリゴネリンが1μMに対してピペコリン酸が10μMとなるように調製した場合、有意に2DGの取り込み量が増加することが判明した(コントロールを1.00とした場合の相対比で2.18)。尚、陽性対照物質であるアラキドン酸は1.37、インスリン刺激無しのコントロールは0.47であった。
【0063】
また、トリゴネリンよりピペコリン酸が同量或いは多く含まれる場合は、2DGの相対取り込み量は全て1.00以上であった。そのため、ピペコリン酸およびトリゴネリンを有効成分として含有する本発明の糖取り込み組成物は、トリゴネリンよりピペコリン酸が同量或いは多く含まれるように構成すればよいと認められた。
【0064】
一方、ピペコリン酸が10μMに対してトリゴネリンが100μMの組み合わせでは、2DG取り込み量が有意に減少した(約1/5)。
【0065】
以上より、本発明に係る糖取り込み組成物においては、ピペコリン酸およびトリゴネリンを併用することにより、ピペコリン酸およびトリゴネリンの添加割合によって2DGの取り込み量が増加するため、筋肉細胞への糖取り込みが促進され、血糖値の低下、糖尿病の症状改善、筋肉へのエネルギー供給増加による運動能力の向上、などの効果が得られるものと認められた。
【0066】
〔実施例3〕
本発明に係る糖取り込み組成物において、ピペコリン酸およびトリゴネリンの有効濃度をより明確にするため、ピペコリン酸およびトリゴネリンの処理濃度(終濃度)を以下のように変更した。
上述した実施例2において、トリゴネリンが1μMに対してピペコリン酸が10μMとなるように調製した場合、有意に2DGの取り込み量が増加することが判明したため、ピペコリン酸の濃度を、10μMを基準として2.5μM、10μM、40μM(濃度差は4倍)とした。一方、トリゴネリンの濃度を、1μMを基準として0.25μM、1μM、4μM(濃度差は4倍)とした。
【0067】
糖取込活性試験は、ピペコリン酸およびトリゴネリンの有効濃度を変更したこと以外は、実施例2に準じて行った。試験は全てn=6で行った。尚、本実施例では、ピペコリン酸およびトリゴネリンについて、それぞれの単独の試験は実施しなかった。
【0068】
具体的な処理条件(終濃度)は以下の通りとした。濃度比はPIP/TRGの比を示した。
PIP/TRG:2.5μM/0.25μM(濃度比:10)
PIP/TRG:2.5μM/1μM(濃度比:2.5)
PIP/TRG:2.5μM/4μM(濃度比:0.625)
PIP/TRG:10μM/0.25μM(濃度比:40)
PIP/TRG:10μM/1μM(濃度比:10)
PIP/TRG:10μM/4μM(濃度比:2.5)
PIP/TRG:40μM/0.25μM(濃度比:160)
PIP/TRG:40μM/1μM(濃度比:40)
PIP/TRG:40μM/4μM(濃度比:10)
【0069】
糖取込活性試験の結果を図5及び表2に示した。
【0070】
【表2】
【0071】
その結果、PIP/TRG:2.5μM/0.25μM(濃度比:10)の場合には、糖取り込み量が1.62倍に増加し、PIP/TRG:10μM/1μM(濃度比:10)の場合には、糖取り込み量が1.32倍に増加し、PIP/TRG:40μM/4μM(濃度比:10)の場合には、糖取り込み量が1.62倍に増加した。一方、PIP/TRG:2.5μM/4μM(濃度比:0.625)の場合には、糖取り込み量が0.59倍に減少した。これらは何れもコントロールに対して有意差が認められた。
【0072】
即ち、筋肉細胞の糖取り込みを促進できるピペコリン酸の濃度は2.5~40μM、トリゴネリンの濃度は0.25~4μMであり、かつピペコリン酸およびトリゴネリンの有効な濃度比(PIP/TRG)は10であるものと認められた。
【0073】
他の濃度比のデータも合わせて表2の結果をプロットしたグラフを図6に示した。これより、ピペコリン酸およびトリゴネリンの濃度比が10から離れるほど(4以下、或いは40以上)、糖取り込みは抑制される傾向にあり、これは特に1以下の場合に顕著であると認められた。
【0074】
ピペコリン酸およびトリゴネリンの有効な濃度比(PIP/TRG)の範囲を算出した。有効な濃度比の範囲は、図6に基づいて近似曲線を作成し、その曲線の縦軸の値が1.32(有意差が認められた糖取り込み量(相対値))以上である範囲とした。
【0075】
図7に示したように、3次式の近似曲線とした場合、糖取り込みレベルが1.32以上である濃度比(PIP/TRG)の範囲は8~38であると認められた。また、この3次式の近似曲線によれば、最も糖取り込み量が増加するのは当該濃度比(PIP/TRG)が21.9(取り込み量の相対値は1.92)であると考えられた。従って、好ましい有効な濃度比(PIP/TRG)は8~38、より好ましくは10~22であると考えられた。
【0076】
また、図8に示したように、2次式の近似曲線とした場合(濃度比160は除く)においても、糖取り込みレベルが1.32以上である濃度比(PIP/TRG)の範囲は8~38であると認められた。また、この2次式の近似曲線によれば、最も糖取り込み量が増加するのは当該濃度比(PIP/TRG)が22.9(取り込み量の相対値は2.01)であると考えられた。従って、好ましい有効な濃度比(PIP/TRG)は8~38、より好ましくは10~23であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、筋肉細胞における糖取り込みを促進できる糖取り込み組成物および糖取り込み組成物を調製する方法に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8