(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】浮魚礁の設置施工方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/75 20170101AFI20220513BHJP
【FI】
A01K61/75
(21)【出願番号】P 2018166732
(22)【出願日】2018-09-06
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】志賀 隆顕
(72)【発明者】
【氏名】北野 潔
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-158516(JP,A)
【文献】特開昭49-032434(JP,A)
【文献】特開2010-207106(JP,A)
【文献】特開2016-067249(JP,A)
【文献】特開昭62-283093(JP,A)
【文献】特開2007-236291(JP,A)
【文献】中国実用新案第204047600(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 - 61/78
B63B 35/00 - 35/70
B63B 75/00
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類などの海洋生物を蝟集する浮魚礁本体と、海底に沈設するためのアンカーと、該アンカーに下端が連結される下部チェーン、該浮魚礁本体に上端が連結される上部チェーン、並びにこれら上部チェーンや下部チェーンよりも軽量で、これらチェーン同士を連結する係留ロープで構成され、該浮魚礁本体を該アンカーに連結するための係留索とを搭載した台船及び少なくとも一隻の作業船を、該浮魚礁本体の設置海域に配置し、
上記下部チェーンの少なくとも下端側と上端側及び上記上部チェーンは、予め上記台船に対して仮止めしておき、
まず、上記作業船で上記係留ロープの中間部を牽引することにより、少なくとも該係留ロープを上記台船から海へ引き出し、
次いで、上記上部チェーンの仮止めを残した状態で、上記アンカーを海底に着底させかつ上記下部チェーンを介して上記係留ロープが該アンカーで係留されるように、該下部チェーンの下端側の仮止めを解除して該アンカーを上記台船から海へ投下し、引き続き、該下部チェーンの上端側の仮止めを解除して、当該下部チェーン全体を該台船から海へ引き出し、
その後、上記浮魚礁本体を上記台船から海へ移し、上記上部チェーンの仮止めを解除して該上部チェーンを該台船から海へ引き出し、上記係留索で上記浮魚礁本体を海底から係留することを特徴とする浮魚礁の設置施工方法。
【請求項2】
少なくとも前記係留ロープを前記台船から海へ引き出す際、該係留ロープの中間部と該作業船とを曳航ロープで連結することを特徴とする請求項1に記載の浮魚礁の設置施工方法。
【請求項3】
前記係留ロープは、海に沈降可能な比重の重い上部ロープと、海に浮遊可能な比重の軽い下部ロープとを一連に連結して構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の浮魚礁の設置施工方法。
【請求項4】
前記下部ロープは、前記上部ロープよりも長さが長く、前記係留ロープの中間部を牽引する前記作業船は、該下部ロープを牽引することを特徴とする請求項3に記載の浮魚礁の設置施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係留索を短時間で台船上から海に引き出して展開することが可能で施工時間を短縮することができ、また、アンカーを高い位置精度で沈設することが可能であると共に、係留索も、撚りなどが生じることなく適切に展開することが可能な浮魚礁の設置施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浮魚礁は、浮魚礁本体を、海底に沈設したアンカーに、係留索で係留することで設置され、海面や海の表層に位置付けられる浮魚礁本体により魚類などの海洋生物を蝟集するようになっている。
【0003】
この種の浮魚礁に関連する背景技術が特許文献1及び2に示されている。特許文献1の「浮体の係留ロープ」は、海底に沈めたアンカーにチェーン、スイベル、FRPロッド、スイベル、チェーンによりブイを係留した。FRPロッドは従来の合成繊維のロープよりも引張強度力大であって大きく張力に耐える。従って細く出来る。細くすることにより潮流抵抗が減少し、相乗効果でFRPロッドに加わる張力も減少し、ブイの予備浮力、チェーンの直径、アンカーの把駐力を小さくできるようになっている。
【0004】
特許文献2の「浮魚礁」は、浮体と、アンカーと、該浮体とアンカーとを繋ぐ係留索を有し、潮流の速度が遅い時には浮体の上部が海面上に出、潮流の速度が速い時には浮体全体が海中に引き込まれるように、該浮体の浮力が調整されており、且つ、該浮体に係留索を介して標識ブイが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-158571号公報
【文献】特開2007-236291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6には、従来の浮魚礁の設置施工状況の一例が示されている。浮魚礁本体a、係留索b及びアンカーcは、台船d上に搭載され、設置海域まで輸送される。
【0007】
係留索bは、通常、設置海域の水深の1.5倍程度の長さとされ、例えば、水深が1,000~1,300mであれば、1,500~2,000m程度の長さとされる。
【0008】
また、係留索bは一般的に、アンカーcに下端が連結される鋼製の下部チェーンeと、浮魚礁本体aに上端が連結される鋼製の上部チェーンfと、これら上部チェーンfと下部チェーンeとを連結する合成繊維製の係留ロープgとから構成され、水深が1,000m程度であれば、上部チェーンfが50m程度、下部チェーンeが200~300m程度、残りの長さ分が係留ロープgとされる。
【0009】
台船d上では、このような長大な長さの係留索bが上部チェーンfの部分、係留ロープgの部分、下部チェーンeの部分に分けて、整然と並べた状態で置かれている。
【0010】
設置海域での浮魚礁の設置施工は、まず、台船dもしくは台船dに随伴する作業船hのクレーン等により、浮魚礁本体aを、台船dから海sに降ろす。
【0011】
次に、浮魚礁本体aを曳航ロープiで作業船hに連結し、作業船hで浮魚礁本体aを曳航する。作業船hで浮魚礁本体aを曳航することにより、台船d上から係留索bを海sに向けて展開していく。具体的には、上部チェーンfが最初に台船d上から海sに引き出され、引き続き、係留ロープbが台船d上から海sに引き出されて、係留索bは展開されていく。このとき、下部チェーンeは台船d上に残しておく。
【0012】
次に、下部チェーンeとアンカーcだけが台船d上に残っている状態となったら、台船d上から海sへアンカーcを投下する。アンカーcを投下すると、下部チェーンeが台船d上から海sに引き出される。アンカーcが着底し、係留索b全体が海sに引き出されることにより、沈設されたアンカーcで浮魚礁本体aが設置海域に係留されることになる。従来の浮魚礁の設置施工にあっては、以下のような課題があった。
【0013】
(1)係留索bを台船d上から海sに引き出して展開する作業が、作業船hによる浮魚礁本体aの曳航によるため、上部チェーンfから始めて、係留ロープgのほぼすべてを引き出すために、それらの全長分、浮魚礁本体aを曳航しなければならず、多大な作業時間を要していた。
【0014】
(2)浮魚礁本体aが海sに降ろされていて、かつ上部チェーンfから係留ロープgにわたる部分の展開距離や展開範囲が広大となっている状態で、アンカーcを海sに投下するため、アンカーcの沈下に対し、先行して海sに送り込まれて係留ロープg等に引かれている状態の浮魚礁本体aが抵抗となってしまい、意図した位置にアンカーcを着底させることが難しく、アンカーcの沈設位置精度を高く確保することができなかった。
【0015】
(3)アンカーcの沈設位置精度が悪いと、海底勾配等の影響により、アンカーcの設置位置及び設置深度が計画とは異なることとなり、その結果、浮魚礁本体aの設置位置が位置ずれしたり、設置深度が異なるものとなって、期待する蝟集効果が得られ難くなると共に、設計強度以上の水圧や波浪等の外力を受けることとなって耐久性や安全性が懸念されることになり、さらには、水域区画を越境してしまうなどの事態になると、自治体や漁業組合等との漁業調整の問題が発生する可能性があった。
【0016】
(4)係留索bを構成する係留ロープgを、沈降傾向のある比重の重い上部ロープjと、浮遊傾向のある軽量な下部ロープkとから構成し、上部ロープjを上部チェーンfにシャックル等の連結金物mで連結した場合、上部チェーンfは浮魚礁本体aから連結金物mに向けて海底方向に沈降し、上部ロープjは連結金物mから海面方向に浮揚する状態になることから、先行して海sに降ろしておいた浮魚礁本体aの動きや潮流などによって、係留索bには、重さのある連結金物m付近で撚りnが生じてしまうおそれがあり、これによるキンクや絡まりの発生が懸念された。
【0017】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、係留索を短時間で台船上から海に引き出して展開することが可能で施工時間を短縮することができ、また、アンカーを高い位置精度で沈設することが可能であると共に、係留索も、撚りなどが生じることなく適切に展開することが可能な浮魚礁の設置施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明にかかる浮魚礁の設置施工方法は、魚類などの海洋生物を蝟集する浮魚礁本体と、海底に沈設するためのアンカーと、該アンカーに下端が連結される下部チェーン、該浮魚礁本体に上端が連結される上部チェーン、並びにこれら上部チェーンや下部チェーンよりも軽量で、これらチェーン同士を連結する係留ロープで構成され、該浮魚礁本体を該アンカーに連結するための係留索とを搭載した台船及び少なくとも一隻の作業船を、該浮魚礁本体の設置海域に配置し、上記下部チェーンの少なくとも下端側と上端側及び上記上部チェーンは、予め上記台船に対して仮止めしておき、まず、上記作業船で上記係留ロープの中間部を牽引することにより、少なくとも該係留ロープを上記台船から海へ引き出し、次いで、上記上部チェーンの仮止めを残した状態で、上記アンカーを海底に着底させかつ上記下部チェーンを介して上記係留ロープが該アンカーで係留されるように、該下部チェーンの下端側の仮止めを解除して該アンカーを上記台船から海へ投下し、引き続き、該下部チェーンの上端側の仮止めを解除して、当該下部チェーン全体を該台船から海へ引き出し、その後、上記浮魚礁本体を上記台船から海へ移し、上記上部チェーンの仮止めを解除して該上部チェーンを該台船から海へ引き出し、上記係留索で上記浮魚礁本体を海底から係留することを特徴とする。
【0019】
少なくとも前記係留ロープを前記台船から海へ引き出す際、該係留ロープの中間部と該作業船とを曳航ロープで連結することを特徴とする。
【0020】
前記係留ロープは、海に沈降可能な比重の重い上部ロープと、海に浮遊可能な比重の軽い下部ロープとを一連に連結して構成されていることを特徴とする。
【0021】
前記下部ロープは、前記上部ロープよりも長さが長く、前記係留ロープの中間部を牽引する前記作業船は、該下部ロープを牽引することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる浮魚礁の設置施工方法にあっては、係留索を短時間で台船上から海に引き出して展開することができて施工時間を短縮することができ、また、アンカーを高い位置精度で沈設することができると共に、係留索も、撚りなどが生じることなく適切に展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る浮魚礁の設置施工方法の好適な一実施形態の第1工程を説明する斜視図である。
【
図2】
図1の第1工程に続く第2工程を説明する斜視図である。
【
図3】
図2の第2工程に続く第3工程を説明する斜視図である。
【
図4】
図3の第3工程に続く第4工程を説明する斜視図である。
【
図5】
図4の第4工程に続く第5工程を説明する斜視図である。
【
図6】従来の浮魚礁の設置施工状況の一例を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる浮魚礁の設置施工方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1~
図5には、本実施形態に係る浮魚礁の設置施工方法が作業手順に従って示されている。
【0025】
浮魚礁の設置施工に際しては、浮魚礁の設備を搭載して設置海域へ輸送する台船1と、設置海域で設置施工を支援する、少なくとも一隻の作業船2,3,4が用いられる。図示例では、二隻の作業船2,4に加えて、設置海域での作業の安全を図る作業船3として、警戒船が示されている(
図5参照)。
【0026】
台船1上に搭載される浮魚礁の設備は、主に、魚類などの海洋生物を蝟集するために海Sに移される浮魚礁本体5と、海底に沈設するためのアンカー6と、浮魚礁本体5をアンカー6に連結するための係留索7とから構成される。
【0027】
浮魚礁本体5、アンカー6、並びに係留索7は、それぞれが個別に台船1上に搭載された後、係留索7の上端7aが浮魚礁本体5と連結され、係留索7の下端7bがアンカー6と連結されて、アンカー6と浮魚礁本体5とが係留索7で連結された状態とされる。浮魚礁本体5としては、通常、表層浮魚礁と称される、海面において沈降することなく浮かぶタイプのものや、海面において潮流の流速で浮き沈みするタイプのものなどを含む。
【0028】
係留索7は主に、アンカー6側の鋼製等の下部チェーン8と、浮魚礁本体5側の鋼製等の上部チェーン9と、これら上部チェーン9や下部チェーン8よりも軽量な(比重が小さい)合成樹脂製等であって、上部チェーン9と下部チェーン8とを結ぶ係留ロープ10とから構成される。
【0029】
下部チェーン8の一端である下端8a(7b)がアンカー6に連結される。上部チェーン9の一端である上端9a(7a)が浮魚礁本体5に連結される。上部チェーン9の他端である下端9b及び下部チェーン8の他端である上端8bそれぞれに、係留ロープ10の両端が連結され、これにより、係留ロープ10によってこれらチェーン8,9同士が一連に連結される。
【0030】
また、係留ロープ10は、海Sに沈降可能な比重の重い上部ロープ10aと、海Sに浮遊可能な、上部ロープ10aよりも比重の軽い下部ロープ10bとを一連に連結して構成することが好ましい。
【0031】
例えば、水深が1,300m程度であれば、係留索7の全長は、2,000m程度となり、上部チェーン9の長さが50m程度、下部チェーン8の長さが250m程度で、係留ロープ10の長さが残りの1,700m程度となり、この係留ロープ10の長さの40%程度の700mが上部ロープ10a、60%程度の1,000mが下部ロープ10bで構成される。すなわち、下部ロープ10bは、上部ロープ10aよりも長大な長さ寸法とされる。
【0032】
下部ロープ10bの比重を海水よりも軽くすると、下部チェーン8との連結箇所から下部ロープ10bが浮き上がる傾向となり、同様に、上部ロープ10aの比重を海水よりも重くすると、上部チェーン9の連結箇所から上部ロープ10aが沈み込む傾向となり、いずれにしても、浮魚礁の設置施工時や設置後に作用する潮流力などで、これらロープ10a,10bがチェーン8,9に絡み付くなどの不都合を防ぐことができ、ロープ10a,10bとチェーン8,9の連結箇所の強度低下を抑制することができる。
【0033】
下部チェーン8及び上部チェーン9は共に、上端(一端)8b,9aから下端(他端)8a,9bへ向け、折り返して行き来させた配列で、一連にかつ重ね合わせなく平坦に敷き並べて、台船1上に搭載される。
【0034】
上部ロープ10aは、上端(一端)から下端(他端)へ向け、折り返して一連に行き来させた配列の束10xを複数並べるようにして、台船1上に搭載される。
【0035】
下部ロープ10bは、上端(一端)から下端(他端)へ向け、一連に巻いたコイル10yを複数並べるようにして、台船1上に搭載される。浮魚礁本体5及びアンカー6も、台船1上に置かれる。
【0036】
下部チェーン8は、後述するように、アンカー6を台船1から海Sへ投下する以前については、少なくとも下端8a側と上端8b側が台船1に対して、仮止め(仮固定)X,Yされる。仮固定X,Yが解除されると、下部チェーン8は、海Sへ引き出すことが可能となる。ちなみに、仮固定Yは、仮固定Xを解除した際に下部チェーン8全体が一度に一挙に海Sに投げ出されて、アンカー6が海底に着底してしまうことを防ぐために設定される。よって、下部チェーン8は、上端8b側と下端8a側だけでなく、一連なりの当該下部チェーン8が下端8a側から上端8b側へ向けて順序よく整然と台船1から海Sへ順次に引き出されるように、適宜な複数箇所を台船1に対して仮止めすることが好ましい。
【0037】
上部チェーン9は、後述するように、浮魚礁本体5を台船1から海Sへ移す以前については、長さ方向の少なくともいずれかの箇所が台船1に対して、仮止めZされる。仮固定Zが解除されると、上部チェーン9は、その全体の海Sへの引き出しが可能となる。上部チェーン9については、好ましくは、下端9b側周辺の箇所を台船1に仮止めZすることが好ましい。
【0038】
図1に示すように配置された台船1及び作業船2~4が浮魚礁本体5の設置海域に到達すると、
図2~
図5に順次に示す手順で浮魚礁の設置施工が行われる。
【0039】
いずれかの作業船2を台船1に接舷するなどし、台船1上の係留索7の係留ロープ10と海上の作業船2とを連結する。この際、作業船2で曳航される曳航ロープ11を用いて、作業船2と係留ロープ10とを連結することが好ましい。作業船2は、また曳航ロープ11を用いる場合にはその曳航ロープ11は、係留ロープ8の中間部Q、具体的には係留ロープ10の長さ方向ほぼ中央部に連結される。
【0040】
そして、作業船2を操船して係留ロープ10の中間部Qを牽引することにより、
図2に示すように、係留ロープ10を台船1から海Sへ引き出して展開していく。この際、係留ロープ10だけでなく、
図3に示すように、引き続き、上部チェーン9をその仮止めZされている位置まで、台船1から海Sへ引き出すことが好ましい。
【0041】
係留ロープ10の中間部Qを作業船2に連結して牽引し海Sへ引き出すことにより、浮魚礁本体を曳航して係留索を上部チェーンから順次に引き出していく従来に比して、係留ロープ10のおおよそ半分の長さ分の曳航距離・曳航時間で係留ロープ10全体(上部チェーン9の一部を含む)等を海Sへ展開することができ、作業時間を半減できて、迅速に作業を完了することができる。
【0042】
また、係留索7を海Sへ引き出して展開するときに、大きな抵抗となる浮魚礁本体を曳航するために、多大な作業時間を要し、操船操作も煩雑であった従来とは異なり、浮魚礁本体5を台船1上に残したままで、係留ロープ10等だけを台船1から引き出して海Sへ展開するので、スムーズに短時間でかつ容易な操船操作で、係留ロープ10等の展開作業を完了することができる。
【0043】
作業船2に連結されて当該作業船2で牽引される係留ロープ10の中間部Qは、海水よりも比重の軽い下部ロープ10bとなる。このように、浮き上がる傾向のある下部ロープ10bに作業船2を連結して係留ロープ10を牽引するようにしているため、容易な操船で係留ロープ10全体をスムーズに海Sへ展開することができる。
【0044】
また、係留ロープ10を牽引するとき、上部ロープ10aは沈み込む傾向にあり、下部ロープ10bは浮き上がる傾向にあるので、これらロープ10a,10bが絡まり合うことも抑制することができる。
【0045】
次に、
図4に示すように、アンカー6を海Sへ投下する。この投下作業の前準備として、あるいは投下開始時に、曳航ロープ11は撤去される。曳航ロープ11の撤去は、曳航ロープ11と作業船2もしくは係留ロープ10との連結箇所で、当該連結を解除することで行われる。曳航ロープ11を用いない場合は、作業船2と係留ロープ10との連結を解除する。またこのとき、上部チェーン9の仮止めZは、そのまま残した状態とする。
【0046】
アンカー6を海Sへ投下するときには、下部チェーン8の下端8a側の仮止めXを解除し、これにより台船1上からのアンカー6の投下を可能にすると共に、下部チェーン8の上端8b側の仮止めYの位置まで、当該下部チェーン8がアンカー6の沈降に従って、海Sへ引き出されるようにする。下部チェーン8を複数箇所で仮止めしている場合には、下部チェーン8が順次引き出されていくことに応じて、順次に仮止めを解除していく。
【0047】
これにより、台船1上から海Sへアンカー6を投下すると、アンカー6に引っ張られて、下部チェーン8の上端8b側の仮止めYの位置まで、下部チェーン8のほぼ大部分が海Sへ向けて引き出される。
【0048】
引き続き、下部チェーン8の上端8b側の仮止めYを解除する。これにより、下部チェーン8全体が台船1上から海Sへ引き出される。海Sへのアンカー6の投下に伴う下部チェーン8の引き出しにより、アンカー6は海底に着底され、また、先行して海Sに展開しておいた係留ロープ10等が、下部チェーン8を介して、アンカー6に係留される。
【0049】
アンカー6を投下するとき、浮魚礁本体5は台船1上に載置されており、係留ロープ10等が海Sに展開されているだけなので、先行して送り込まれて係留ロープ等で引かれている状態の浮魚礁本体が沈降するアンカーの抵抗となってしまう従来とは異なり、アンカー6は、そのような抵抗を受けることなく、下部チェーン8やこれに連結された係留ロープ10等を引っ張りながら、台船1の直下の海底に向けて、ほぼ真っ直ぐに沈降していくことができる。
【0050】
従って、アンカー6を的確に意図した位置に着底させることができ、アンカー6の沈設位置精度を高く確保することができる。
【0051】
アンカー6の沈設位置精度を高めることができるので、アンカー6の設置位置及び設置深度を計画通りとすることができ、これにより、期待通りの蝟集効果が得られると共に、設計強度以上の水圧や波浪等の外力を受けることもなく高い耐久性及び安全性を確保でき、さらには、水域区画を越境してしまうなどの事態も防ぐことができて、自治体や漁業組合等との漁業調整の問題が発生するおそれもなくすことができる。
【0052】
その後、台船1上に搭載されている浮魚礁本体5を、
図5に示すように、当該台船1もしくは作業船4に設備されているクレーンなどの重機により、台船1から海Sへ移す。海Sに移された浮魚礁本体5には、クレーンなどから浮魚礁本体5を取り外す作業などを行うために、作業者が往来できるよう、ロープ12を作業船4と連結しておくと良い。なお、このロープ12は、浮魚礁本体5での作業が完了したら、連結が解除される。
【0053】
次いで、上部チェーン9の仮止めZを解除し、上部チェーン9のすべてを台船1上から海Sへ引き出す。このようにして海Sに移された浮魚礁本体5は、既に海底に沈設されているアンカー6により、海底から係留索7を介して係留される。
【0054】
係留索7がアンカー6により係留された後で浮魚礁本体5を海Sへ移すようにしたので、先行して海に降ろしておいた浮魚礁本体の動き等により上部チェーンと上部ロープとの連結箇所でキンクや絡まりの発生が懸念される従来に対し、係留索7に絡まり等の不具合が生じることを防いで、設置状態における係留索7の健全性を高く確保することができる。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る浮魚礁の設置施工方法にあっては、係留索7を短時間で台船1上から海Sに引き出して展開することができて施工時間を短縮することができると共に、アンカー6を高い位置精度で沈設することができ、係留索7も、撚りなどが生じることなく適切に展開することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 台船
2~4 作業船
5 浮魚礁本体
6 アンカー
7 係留索
8 下部チェーン
8a 下部チェーンの下端
8b 下部チェーンの上端
9 上部チェーン
9a 上部チェーンの上端
10 係留ロープ
10a 上部ロープ
10b 下部ロープ
11 曳航ロープ
Q 係留ロープの中間部
S 海
X~Z 仮止め