(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】動静脈シャントの薬剤コーティングバルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20220513BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20220513BHJP
A61M 25/14 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
A61M25/10 510
A61M25/00 610
A61M25/14 512
(21)【出願番号】P 2018522078
(86)(22)【出願日】2015-10-30
(86)【国際出願番号】 IB2015002090
(87)【国際公開番号】W WO2017072545
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2018-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】514111285
【氏名又は名称】アコテック サイエンティフィック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャフナー,シルヴィオ
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】千壽 哲郎
【協議】
この出願については、下記の出願人と特許法第39条の規定による協議が成立した。
協議により定めた1の特許出願人以外の出願人
【出願人】
【氏名又は名称】アコテック サイエンティフィック カンパニー リミテッド
上記の出願人の出願に係る発明の発明者
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-190678(JP,A)
【文献】特表2005-538814(JP,A)
【文献】国際公開第2014/163091(WO,A1)
【文献】特表2009-520575(JP,A)
【文献】特表2014-520594(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0276585(US,A1)
【文献】特開2013-78595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0076539(US,A1)
【文献】特表2012-501740(JP,A)
【文献】国際公開第2009/113605(WO,A1)
【文献】特開2021-100633(JP,A)
【文献】刈谷秀治,外6名,グラフトアクセスのインターベンション治療,IVR,日本,一般社団法人日本インターベンショナルラジオロジー学会,2011年 5月 1日,第26巻,第2号,p.214-220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00 - 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動静脈シャント患者の動脈の拡張用の、薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)であって、
- コネクタ(8)と、
- 軸方向(X-X)に沿って近位端(24)から遠位端(28)に向かって延伸し、ガイドワイヤ管腔(32)および膨張管腔(36)を有するシャフト(20)であって、前記近位端(24)で前記コネクタ(8)に連結されているシャフトと、
- 空気注入式バルーン(48)が提供されており、選択的に膨張および/または収縮させるために、前記膨張管腔(36)に流体的に連結されている前記シャフト(20)と、
を備えており、
- 前記バルーン(48)が、円錐状であり、且つ一般的な延伸方向(S-S)を中心とした軸対称形状であり、
- 前記バルーン(48)が、第一の端部(52)から第二の端部(56)へと増加する径(60)を有しており、前記径(60)は、前記一般的な延伸方向軸(S-S)に対して垂直な断面平面で測定され、
-前記バルーン(48)の外面(64)が、再狭窄を治療するための薬剤でコーティングされており、
前記バルーン表面に適用された薬剤の濃度は、より小さい径の部分に向かって低くなり、より大きな径の部分に向かって高くなっており、
前記バルーン(48)が、前記第1の端部(52)と前記第2の端部(56)にそれぞれ対応した位置に配置され、前記バルーン(48)自体の軸方向長さを規定する一対のマーカー(40)を備えており、
前記第一の端部(52)の前記径(60)が6mmであり、
前記バルーン(48)は、12バールから16バールの間の公称圧力または使用圧力を有するように構成されており、
且つ、前記バルーン(48)は30バールから40バールの破裂圧力を有するように構成されていることを特徴とする薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)。
【請求項2】
前記バルーン(48)の前記径(60)は、前記第一の端部(52)から前記第二の端部(56)に向かって連続的に増加することを特徴とする請求項1に記載の薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)。
【請求項3】
前記第一の端部(52)が前記近位端(24)に対向し、前記第二の端部(56)が前記遠位端(28)に対向することを特徴とする請求項1または2に記載の薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)。
【請求項4】
前記第一の端部(52)が前記遠位端(28)に対向し、前記第二の端部(56)が前記近位端(24)に対向することを特徴とする請求項1または2に記載の薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)。
【請求項5】
前記第二の端部(56)の前記径(60)が7mm、8mm、または9mmのいずれかの径であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)。
【請求項6】
前記バルーン(48)の長さ、すなわち、前記バルーン(48)の前記第一の端部(52)から前記第二の端部(56)までの軸方向距離は30mmから60mmの間であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)。
【請求項7】
前記薬剤はパクリタキセル溶液であり、
前記バルーン(48)の前記外面(64)上の前記薬剤は2μg/mm
2から10μg/mm
2の間の濃度であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテル(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動静脈(AV)シャントのためのバルーンカテーテルに関する。
【0002】
特に、AVシャントの患者は、強い石灰化病変および極めて高い再狭窄率を有する。したがって、彼らは数回にわたる高圧による動脈拡張を必要とする。
【背景技術】
【0003】
経皮経管的欠陥形成(PTA)バルーンを使用した再狭窄の拡張を実現することが、本分野で知られている。
【0004】
さらに本分野では、薬剤溶出バルーン(DEB)カテーテルまたは薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテルを使用することが知られており、薬剤は血管壁の内側からの病変または再狭窄の局所的治療を支援する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような周知のカテーテルには、いくつかの欠点が存在する。実際、DEBおよびPTAバルーンは直径が小さく、低圧の膨張圧力(および破裂圧力)を有する点である。さらに、具体的な寸法の表示がない。
【0006】
したがって、周知のPTAバルーンは再狭窄、特にAVシャントの再狭窄に対して効果的な拡張をすることができない。
【0007】
本発明の目的は、先行技術を参照して述べられた欠点を克服するカテーテルを提供することである。言い換えると、標的の病変に容易に到達し、再狭窄を完全に拡張し、再狭窄の割合を顕著に低減することができるAVシャントのためのカテーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的は、請求項1に従ったカテーテルによって達成される。
【0009】
本発明に従ったカテーテルの他の実施形態は、後に続く請求項に説明されている。
【0010】
本発明の更なる特徴および有利な点が、以下の好適かつ非限定的な実施形態に示される説明から、より明確に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1aは、本発明の実施形態に従った薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテルの透視図を示している。
【0012】
図1bは、本発明の別の実施形態に従った薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテルの透視図を示している。
【0013】
図2は、
図1aから1bの特にII部分の縦断面図を示している。
【0014】
図3は、
図1aから1bの特にIII部分の縦断面図を示している。
【0015】
図4は、
図1aから1bに示される切断線IV-IVに沿った、
図1aのカテーテルの断面図を示している。
【0016】
図5は、
図1aおよび1bに示される切断線V-Vに沿った、
図1aおよび1bのカテーテルの断面図を示している。
【0017】
図6は、
図1aから1bの、特定のVI部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に説明される実施形態で、共通する要素または要素の一部は、同一の符号を使用して示されるものとする。
【0019】
先述の図面に関して、符号4は全般にカテーテルを意味し、特に、AVシャント患者の、血管内部の標的病変に薬剤を放出するための、および血管の狭窄を拡張するための、特に薬剤コーティングバルーン(DCB)カテーテルを意味する。
【0020】
カテーテル4は、ガイドワイヤチャネル12(guide wire channel、誘導ワイヤ溝)および膨張チャネル16(inflation channel)を備えたコネクタ8(接続部材)を備える。
【0021】
ガイドワイヤチャネル12は、所定の血管にカテーテル4を誘導および挿入するためのガイドワイヤを収容するために、有用である。
【0022】
さらに、膨張チャネル16は、カテーテルのシャフトの遠位端に圧力流体を送るために有用である。例えば、圧力流体は気体または液体であってもよい。さらに、膨張チャネルは、例えば造影液(contrast liquid)の灌流チャネル(perfusion channel)として使用されることもできる。
【0023】
カテーテル4は、軸方向X-Xに沿って近位端24から遠位端28に延伸するシャフト20を備える。
【0024】
さらに、シャフト20は、ガイドワイヤ管腔32および膨張管腔36を有する。
【0025】
好適には、前記ガイドワイヤ管腔32は0.01インチ(0.25mm)から0.037インチ(0.94mm)の間である。
【0026】
可能な実施形態によると、本発明に従ったカテーテルは、ガイドワイヤ管腔32および膨張管腔36を含む少なくとも2つの管腔を備える、少なくとも2つ(複式)の管腔(lumen)構成を有している。
【0027】
可能な実施形態によると、前記誘導管腔32および膨張管腔36は互いに同軸ではない。例えば、前記ガイドワイヤ管腔32および膨張管腔36は内部のセプト(sept、区画)44によって分離されている。例えば、前記内部のセプト44は、少なくとも部分的に、分離された管腔32および36の互いの壁部の境界を定める。
【0028】
いずれにせよ、カテーテル4はさらに、異なる目的の管腔を有してもよい。
【0029】
シャフト20は、前記近位端24でコネクタ8に接続されている。
【0030】
特に、シャフト20はコネクタ8に対してその近位端で連結されており、結果として、前記ガイドワイヤ管腔32および膨張管腔36は、コネクタ8の前記ガイドワイヤチャネル12および膨張チャネル16に、機械的かつ流体的に、それぞれ連結されている。
【0031】
本発明の実施形態によると、シャフト20およびコネクタ8は、例えばポリアミド、ペバックス(登録商標)、ポリカーボネートといったポリマー材料、および同様のもので形成されている。
【0032】
本発明によると、シャフトには空気注入式バルーン48が提供されており、選択的に膨張および/または収縮させるために、前記膨張管腔36に流体的に連結されている。
【0033】
一つの実施形態によると、バルーン48にはいくつかのマーカー40が提供されており、バルーン48の第1の端部52および第2の端部56に対応した位置に配置され、マーカー40はバルーン自体の軸方向長さを規定する。具体的には、バルーンは一般的な延伸方向(prevalent extension)S-Sに沿って延伸する。
【0034】
有利なことに、バルーン48は円錐状であり、前記一般的な延伸方向の軸S-Sを中心にした軸対称である。
【0035】
バルーン48は、第1の端部52から第2の端部56へと変化する、増加する径60を有しており、前記径60は、前記一般的な延伸方向軸S-Sに対して垂直な断面平面で測定される。実施形態によると、前記第1の端部52は近位端24に対向し、前記第2の端部56は遠位端28に対向している。別の実施形態によると、前記第1の端部52は遠位端28に対向し、前記第2の端部56は近位端24に対向している。
【0036】
好適には、バルーン48の径80は、第1の端部52から第2の端部56へと変化し、連続的に増加する。
【0037】
可能な実施形態によると、第1の端部52の径80は6mmである。
【0038】
可能な実施形態によると、第2の端部の径80は7mmである。
【0039】
さらなる実施形態によると、第2の端部の径80は8mmまたは9mmである。
【0040】
実施形態によると、バルーン48の長さ、すなわち、バルーン48の第1の端部52から第2の端部56までの軸方向距離は30mmから60mmの間である。
【0041】
実施形態によれば、好適には、前記バルーン48の前記長さは約45mmである。
【0042】
好適には、前記円錐状バルーン48は、12バール(1.2MPa)から16バール(1.6MPa)の間の公称圧力(nominal pressure)または使用圧力を有するように構成されている。
【0043】
好適には、前記円錐状バルーン48は25バール(2.5MPa)を超える、好適には30バール(3.0MPa)から40バール(4.0MPa)の破裂圧力を有するように構成される。可能な実施形態によると、バルーン48は、増加した壁部の厚さを有する。例えば、このような厚さは0.01mmから0.2mmの間であり、好適には、かかる厚さは先行技術のバルーンの約2倍から3倍の厚さである。
【0044】
このような増加した壁部の厚さは、バルーン表面の境界を定める、単一のより厚い被覆部(sheath)、または、2つのバルーンの並列化(いわゆる二重バルーン構造)によって得ることができる。別の可能な実施形態によると、バルーンは強化繊維によって堅牢化される。
【0045】
有利なことに、バルーン48の外面64は再狭窄を治療するための薬剤でコーティングされている。
【0046】
このような薬剤は、治療または拡張される標的病変または狭窄部に、バルーン48によって送達されることができる。
【0047】
薬剤は、治療されるべき病変の種類および位置に応じて、任意の種類のものとすることができる。
【0048】
一つの実施形態によると、製剤はパクリタキセル溶液である。
【0049】
好適には、バルーン48の外面64上の前記薬剤は、2μg/mm2から10μg/mm2の間の濃度を有する。
【0050】
本発明の実施形態によると、前記管腔32および36の反対側の、シャフト20の外壁68は潤滑剤で覆われている。
【0051】
このように、カテーテルを血管に挿入する間に、血管の内壁、または、導入具、被覆部、誘導カテーテル、もしくは治療に使用される他の付属品の内壁に接触する前記外壁68には、潤滑剤が適用されており、血管そのものに容易に素早く滑り込ませることができる。
【0052】
本発明によると、シャフト20の外壁68は、前記空気注入式バルーン48を除いて潤滑剤で被覆されている。
【0053】
このように、潤滑剤は、標的病変に送達されなければならない薬剤の作用に干渉しない。
【0054】
シャフト20の遠位端28は、カテーテルを血管内部にカニューレを挿入することを目的とした可撓性先端部72を備える。
【0055】
ある実施形態によると、前記可撓性先端部72も潤滑剤で被覆されている。
【0056】
有利なことに、前記ガイドワイヤ管腔32は内部を潤滑剤で被覆されている。
【0057】
記載から分かるように、本発明に従ったカテーテルは、先行技術を参照して述べられた欠点を克服することを可能にする。
【0058】
特に、標的病変に容易に到達できるとともに、高い圧力を利用して正しい管腔を得ることができるように再狭窄を完全に拡張できる、円錐状バルーンによって、AVシャント再狭窄を効率的に治療することができる。
【0059】
さらに、拡張される血管の内壁に適用される薬剤を用いて、病変を治療することができる。
【0060】
更に、円錐状バルーンの固有の形状は、バルーンの外面がバルーンの軸延伸方向に沿って一定ではないことを示している。特に、外面はより小さな径の部分に向かってより小さくなっており、より大きな径の部分に向かってより大きくなっている。
【0061】
従って、本発明に従ったカテーテルで、バルーン表面の薬剤の濃度は、バルーンの軸延伸方向に沿って違いが出てくる。言い換えると、適用された薬剤の濃度は、より小さい径の部分に向かって低くなり、より大きな径の部分に向かって高くなる。このように、バルーンに適用された薬剤の濃度は、その軸延伸方向に沿ったバルーンの非対称的形状を補償する。従って、バルーン表面mm2あたりの薬剤濃度は、治療される組織への均一な薬剤の適用を達成するように、バルーン全体において一定である。
【0062】
さらに、本発明に従った円錐状バルーンの固有の形状および寸法は、いずれも、再狭窄の良好な拡張を可能にする。なぜならバルーンは、血管の管腔を拡張するためのくさびの配列ような役割を果たすためである。
【0063】
さらに、潤滑剤の使用は、血管へのカニューレ挿入中に、血管内で引っかかったり、血管を傷つけたりすることなく、カテーテルが標的病変に到達する助けとなる。
【0064】
当業者は、以下の請求項で定められる本発明の特許保護範囲を維持しながら、付随する、および、固有の要件を満たすように、上記カテーテルに多数の改修および変更を行ってもよい。