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  • 特許-プロセス水中の重合を抑制する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】プロセス水中の重合を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 75/04 20060101AFI20220513BHJP
   C02F 1/00 20060101ALI20220513BHJP
   C10G 9/16 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C10G75/04
C02F1/00 U
C10G9/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019511496
(86)(22)【出願日】2017-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 US2017048151
(87)【国際公開番号】W WO2018044644
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】62/381,984
(32)【優先日】2016-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515050220
【氏名又は名称】エコラブ ユーエスエイ インク
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バション ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ジジル アンソニー ヴァン
(72)【発明者】
【氏名】クォク ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】リーン ステフェン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイセラース カルロ
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン アンドリュー アール
(72)【発明者】
【氏名】ワトソン ラッセル ピー
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-086792(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01897908(EP,A1)
【文献】国際公開第01/047844(WO,A1)
【文献】特表2014-507533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈蒸気システムを備える水リサイクルループにおける汚損を低減する方法であって、
処理されたプロセス水を形成するために、1種以上のラジカル重合性種の重合反応を阻害する第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤を、水リサイクルループ内のパイガスを含むプロセス水に適用することであって、前記第1の重合阻害剤は、0.0001~9のパイガス-水分配係数を有し、前記第2の重合阻害剤は、1000~50,000のパイガス-水分配係数を有し、前記処理されたプロセス水中の前記第1および第2の重合阻害剤の総濃度は、5ppm~500ppmである、適用することと;
前記処理されたプロセス水を前記水リサイクルループの内部表面と接触させることと、
を含み、
前記第1の重合阻害剤は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、1-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および1-ヒドロキシ-4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、またはそれらの組み合わせから選択され、
前記第2の重合阻害剤は、1,4-フェニレンジアミン、そのアルキル化誘導体、またはそれらのブレンドから選択される、方法。
【請求項2】
前記プロセス水に適用する前記第1および前記第2の重合阻害剤のモル比を決定するために、プロセス水から得られたパイガスおよび水を使用して、前記第1および第2の重合阻害剤のパイガス-水分配係数を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロセス水に適用する前記第1および前記第2の重合阻害剤のモル比を決定するために、トルエン、スチレン、シクロヘキサン、n-ヘキサンおよびジシクロペンタジエンを含む模擬パイガスを使用して、前記第1および第2の重合阻害剤のパイガス-水分配係数を決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処理されたプロセス水中の前記第1および第2の重合阻害剤の合計濃度が、10ppm~100ppmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1および第2の重合阻害剤が、1:9~9:1の重量比で前記プロセス水に適用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の重合阻害剤が、0.001~1のパイガス-水分配係数を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の重合阻害剤が、5000~25,000のパイガス-水分配係数を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記適用が、熱分解プラント内のコアレッサーの下流にある、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プロセス水および/または前記処理されたプロセス水が、60℃~110℃の温度で存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
処理されたプロセス水であって、
希釈蒸気システムを備える水リサイクルループ内に配置され、パイガスを含むプロセス水であって、60℃~100℃の温度で存在するプロセス水と;
.0001~9のパイガス-水分配係数を有する、1種以上のラジカル重合性種の重合反応を阻害する第1の重合阻害剤と;
000~50,000のパイガス-水分配係数を有する、1種以上のラジカル重合性種の重合反応を阻害する第2の重合阻害剤と
を含み、
前記第1の重合阻害剤は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、1-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および1-ヒドロキシ-4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、またはそれらの組み合わせから選択され、
前記第2の重合阻害剤は、1,4-フェニレンジアミン、そのアルキル化誘導体、またはそれらのブレンドから選択され、
前記第1および第2の重合阻害剤は、1:9~9:1の重量比で組成物中に存在し、前記処理されたプロセス水中の前記第1および第2の重合阻害剤の合計濃度は、5ppm~500ppmまたは10ppm~100ppmである、処理されたプロセス水。
【請求項11】
前記水リサイクルループ内の汚損を低減するための、請求項10に記載の処理されたプロセス水の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合阻害剤、および1つ以上の工業的熱分解操作において重合阻害剤を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学製品の製造では、例えばプロセス流からの熱をクエンチ反応に移す等、様々な化学反応を制御するために水がしばし使用される。このような水がプロセス流と緊密に接触すると、それは概してプロセス水と呼ばれる。エチレン製造プラントでは、炭化水素供給原料の分圧を低下させることによって熱分解(分解(cracking))プロセスを制御し、転化反応の効率を改善するために、蒸気をプロセス供給原料と接触させる。熱分解反応器の下流には、一次精留塔または移送ライン交換器から出るガスを冷却するために水クエンチ塔がさらに用いられる。
【0003】
希釈蒸気システム(DSS)は、エチレン生成プロセスを含む熱分解プロセスにおいて、典型的には、様々な組み合わせでクエンチ水塔、油/水分離器、プロセス水ストリッパー、および希釈蒸気発生器のうちの1つ以上を含む、場合によってそのようなデバイスの2つ以上を含む一連の流体接続デバイスからなる。集合的に、流体接続されたDSSデバイスは、水リサイクルループを表す。希釈蒸気発生器からの蒸気は、熱分解炉に送られ、クエンチ塔内で水として回収される。クエンチ塔の底部の温度は100℃近辺であり得、例えば約60℃~100℃、または約80℃~90℃であり得る。
【0004】
水リサイクルループは、クエンチ水塔に存在する状態および化合物に起因する様々な問題を経験し得る。熱分解プロセスの結果として形成される大量のパイガス、熱分解タール、および他の様々な汚染物質は、クエンチ水塔のプロセス水に集中する可能性がある。抑制しないと、これらの汚染物質は機器の汚損、すなわち希釈蒸気システムの内部表面への堆積をもたらす可能性がある。クエンチ水塔(QWT)またはクエンチ水沈降器(QWS)における有効なガソリン/水分離の欠如は、DSSを循環するこれらのパイガス、熱分解タール、および反応した、または反応性の副生成物をもたらす。汚損の可能性は、パイガスまたはパイガス-熱分解タールに由来する重合性化合物等の反応性種の存在、「ポンプアラウンド」による熱除去、ならびに水リサイクルループの運転中に存在する水素、蒸気、および一般に過酷な条件の混合に起因する。例えば、いくつかの場合において、これらの汚染物質または反応した副生成物は、熱交換表面上に蓄積するか、またはさらにボイラー内に進入し、これはリサイクル可能な水から分離され、「ブローダウン」として処分されなければならない。いくつかの実施形態では、システム内の総水量の5%~10%がブローダウンされる。ブローダウン水はまた、リサイクルループ内で流入する水を予熱するために使用されるため、ブローダウン水が冷却され、これにより、デバイス表面に重合固体の沈殿および蓄積がさらに生じ得る。
【0005】
汚損に関連する副生成物には、1種以上のスチレン、インデン、イソプレン等の重合残基を含むオリゴマーおよびポリマー、ならびにパイガス中に存在する様々な他の重合性化合物の残基を組み込んだコオリゴマーおよびコポリマーが含まれる。クエンチ塔リサイクルループ内のスチレンおよび他の重合可能な化合物の捕捉は、重合をもたらし、機器表面上に重合生成物を堆積させる条件を提供することによって汚損を悪化させる。
【0006】
プロセス水を用いたパイガスエマルションは、油田生成水に見られるものとは区別され、異なっている。油田生成水は、対象クエンチ水中にはほとんど見られなかった種を含有する。したがって、プロセス水中に存在するエマルションは、油田生成水に見られるものとは異なる。プロセス水エマルションはまた、油田生成水のエマルションとは異なるセットの条件に供される。これらの相違の組み合わされた効果は、油田生成水中のエマルションに対処するための解決策が、クエンチ塔リサイクルループ内の汚損の問題を解決するのに一般的に有効ではないことである。
【0007】
そのような熱分解プラントのクエンチ水塔(QWT)またはクエンチ水沈降器(QWS)内のパイガスの存在により、高温を含む過酷な条件と結びついて、重合生成物が形成し、その後プロセス水と共にプロセス水ストリッパー(PWS)に運ばれ得る。一例として、クエンチ水塔中のスチレンを捕捉することは、その重合に有利な条件を提供することによって汚損を悪化させ、最終的に機器表面上にスチレン生成物を堆積させる。これは、PWSの底部だけでなく、希釈蒸気発生器(DSG)プレヒータにおいても汚損を引き起こす。その結果、エネルギー効率が低下し、さらに悪い場合には、累積汚損によるプラントシャットダウンが発生する。DSGはまた、副生成物の持ち越しにより汚損され、QWTも汚損を被り得る。希釈蒸気発生器の代わりに供給飽和器を使用するプラントでも、類似の汚損および有害な結果が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2012/203020号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、エチレン生成または他の熱分解プラントの希釈蒸気システム内の汚損を低減する必要性が、業界において存在する。汚損が少ないほど、システムのエネルギー効率が改善され、プラントのスループット低下が防止され、リサイクルされたプロセス水をクエンチ水として使用することによるプロセス水の製品品質の問題が防止される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書において、工業プロセスの水リサイクルループ内に存在する水およびパイガスを含むプロセス水によって引き起こされる汚損を低減する方法が開示され、方法は、合計で約5重量ppm~500重量ppmの第1および第2の重合阻害剤をプロセス水に適用して、処理されたプロセス水を形成することを含み、第1の重合阻害剤は、0より大きく9未満のパイガス:水分配係数を有し、第2の重合阻害剤は、約1000~50,000のパイガス:水分配係数を有する。実施形態では、第1および第2の重合阻害剤は、約1:9~9:1の重量比で工業プロセスの水リサイクルループ内のプロセス水に添加される。
いくつかの実施形態では、工業プロセスは熱分解であり、水リサイクルループは熱分解プラント内に存在する。いくつかの実施形態では、適用は、熱分解プラントのコアレッサーの下流にある。いくつかの実施形態では、適用は連続的に行われる。いくつかの実施形態では、適用中、プロセス水は、約60℃~100℃の温度で存在する。
【0011】
また、本明細書において、プロセス水と、第1の重合阻害剤と、第2の重合阻害剤とを含む組成物が開示され、第1の重合阻害剤は、0より大きく9未満のパイガス:水分配係数を有し、第2の重合阻害剤は、約1000~50,000の間のパイガス:水分配係数を有する。
【0012】
本発明のさらなる利点および新規な特徴は、以下の説明に部分的に記載され、部分的には以下を検討することにより当業者に明らかになるか、または本発明の実施上の慣習的な実験によって学ばれ得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】種々の重合阻害剤の存在下での水-パイガス系の水相の濁度試験の結果を比較したプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、好ましい実施形態への言及を提供するが、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細において変更を行うことができることを認識するであろう。様々な実施形態を、図面を参照して詳細に説明するが、いくつかの図を通して同様の参照番号は同様の部品およびアセンブリを表す。様々な実施形態への言及は、添付の特許請求の範囲の範囲を限定するものではない。さらに、本明細書に記載された例は、限定を意図するものではなく、添付の特許請求の範囲の多くの可能な実施形態のいくつかを単に述べるものである。
【0015】
定義
【0016】
本明細書で使用される場合、「水リサイクルループ」とは、様々な組み合わせでクエンチ水塔、油/水分離器、プロセス水ストリッパー、および希釈蒸気発生器のうちの1つ以上を含む、場合によってはそのようなデバイスのうちの2つ以上を含む一連の流体接続デバイスを意味する。実施形態では、流体接続されたデバイスの運転中に、希釈蒸気発生器からの蒸気が熱分解炉に送られ、クエンチ塔内で液体として回収される。そのような実施形態では、クエンチ水塔の底部の温度は100℃近辺であり得、例えば約60℃~100℃、または約80℃~90℃であり得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、「プロセス水」という用語は、水+水リサイクルループ内に存在する1種以上の熱分解副生成物を意味する。いくつかの実施形態では、プロセス水は、パイガス、パイガス副生成物、またはそれらの混合物を含む。水リサイクルループの少なくとも一部におけるプロセス水の温度は、約60℃~100℃、または約80℃~90℃である。
【0018】
本明細書で使用される場合、「熱分解副生成物」という用語は、熱分解手順の副生成物として形成される、パイガス、熱分解タール、別の物質、またはそれらのうちの2つ以上の組み合わせを意味する。
【0019】
本明細書で使用される場合、「パイガス」という用語は、専門用語であり、「熱分解ガソリン」の略語である。パイガスは、水より密度が低い熱分解副生成物であり、熱分解プラント等の工業処理プラントの希釈蒸気システムのクエンチ水塔内で水と共に凝縮する石油系生成物の混合物である。パイガスは、炭化水素と他の副生成物との可変混合物であり、混合物の成分および量は、熱分解で使用される供給原料および条件によって決定される。文脈によって決定されるように、および/または別段に指定されない限り、パイガスは、1種以上の芳香族化合物ならびに少なくとも5個の炭素を有するアルカンおよびアルケンの混合物を含み、アルカン/アルケン成分の過半数(すなわち50重量%超)はC5~C12である。いくつかの実施形態では、パイガスはベンゼンに富んでいる(例えば20重量%~45重量%)。パイガスはまた、スチレン、イソプレン、ピペリレン、シクロペンタジエン、およびそれらの組み合わせ等の高反応性オレフィンおよびジオレフィンを含有する。いくつかの実施形態において、パイガスは、さらにC1~C5有機酸等の成分を含む。いくつかの実施形態では、パイガスは、パイガス-熱分解タール混合物の総重量を基準として約0.01重量%~最大約20重量%までの熱分解タールを含み、熱分解タールの量は、熱分解に使用される個々の機器および供給原料に依存する。別段の指定がない限り、または文脈において、「パイガス」には、パイガス、および熱分解タール、パイガス副生成物、またはその両方とのそれらの混合物の両方が含まれる。「パイガス副生成物」は、パイガスの1つ以上の成分(パイガス-熱分解タール混合物を含む)の化学反応の生成物として形成される任意の1種以上の化合物を意味し、反応は、熱分解プラントの希釈蒸気システム内で生じ、さらに、反応により、反応した成分のうちの1つ以上の分子量が増加する。いくつかの実施形態では、パイガス副生成物は、スチレンのオリゴマー化もしくは重合残基および/またはパイガスの1種以上の不飽和およびラジカル重合性成分を含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、「汚損」という用語は、プロセス水からのパイガス成分またはパイガス副生成物の相分離を意味する。いくつかの実施形態において、汚損は、デバイスの1つ以上の固体内部表面上のパイガス成分またはパイガス副生成物の測定可能な蓄積物とさらに結合され、デバイスは希釈蒸気システム内で流体接続状態で配置される。この文脈における「測定可能」とは、秤量により、または1つ以上の分析方法を使用して蓄積物が可視または定量化可能であることを意味する。この文脈における「内部」は、工業処理プラントの水リサイクルループの運転中に少なくともプロセス水と流体接触する固体表面を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「重合阻害剤」という用語は、1種以上のラジカル重合性種の重合反応を阻害することができる化合物を意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、重合性種の化学名(例えば、スチレン、アクリル酸)は、文脈によって決定されるように、化学種自体または1種以上のオリゴマーもしくはポリマーにおけるその重合残基のいずれかを意味するように使用される。
【0023】
本明細書で使用される場合、「任意選択の」または「任意選択で」とう用語は、その後に記述される事象または状況が生じ得るが必須ではないこと、またその記述が、事象または状況が生じる場合、およびそれらが生じない場合を含むことを意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、例えば、本開示の実施形態を説明する際に用いられる、組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流速、圧力、および同様の値、ならびにその範囲を修飾する「約」という用語は、例えば、化合物、組成物、濃縮物または使用配合物を作製するために使用される典型的な測定および取り扱い手順により;これらの手順における偶発的な誤りにより;製造、原料、または方法を実行するために使用される出発物質もしくは成分の純度の違いにより、および同様の近似考慮事項により生じ得る数値量の変動を指す。「約」という用語はまた、特定の初期濃度または混合物を有する配合物の劣化により異なる量、および特定の初期濃度または混合物を有する配合物を混合または処理することによって異なる量を包含する。「約」という用語によって修飾されている場合、添付の特許請求の範囲は、これらの量と同等のものを含む。さらに、「約」が値の任意の範囲を説明するために使用される場合、文脈によって特に限定されない限り、例えば「約1~5」は、「1~5」および「約1~約5」および「1~約5」および「約1~5」を意味する。
【0025】
本明細書で使用される場合、例えば、本開示の実施形態を説明する際に用いられる、組成物中の成分のタイプもしくは量、特性、測定可能な量、方法、位置、値、または範囲を修飾する「実質的に」という用語は、意図する組成物、特性、量、方法、位置、値、または範囲を無効にする様式で、全体的な記載された組成物、特性、量、方法、位置、値、または範囲に影響を及ぼさない変動を指す。意図される特性の例には、単にその限定されない例として、分配係数、速度、溶解度、温度等が含まれ、意図される値には、収率、重量、濃度等が含まれる。「実質的に」によって修飾される方法への影響は、プロセスで使用される材料のタイプまたは量の変動、機械設定の変動、プロセスに対する周囲条件の影響等によって引き起こされる影響を含み、ここで、影響の様式または程度は、1つ以上の意図される特性または結果、および同様の近似考慮事項を無効にするものではない。「実質的に」という用語によって修飾されている場合、添付の特許請求の範囲は、材料のこれらのタイプおよび量の等価物を含む。
【0026】
考察
【0027】
本明細書において、工業処理システムの水リサイクルループ内の汚損を防止または低減する方法が開示される。いくつかの実施形態では、水リサイクルループは、熱分解プラント内の希釈蒸気システムの運転によって提供される。この方法は、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤を水リサイクルループに適用することを含み、第1の重合阻害剤は、0より大きく9未満のパイガス-水分配係数を有し、第2の重合阻害剤は、1000より大きく最大50,000のパイガス-水分配係数を有する。この方法は、水リサイクルループ内の汚損を低減または防止するのに有効である。
【0028】
また、本明細書において、パイガス-水エマルション中の重合を阻害する方法が開示され、方法は、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤をプロセス水に適用して処理されたプロセス水を形成することであって、第1の阻害剤は、0より大きく9未満のパイガス-水分配係数を有し、第2の阻害剤は、1000より大きく最大50,000のパイガス-水分配係数を有する、形成することと;処理されたプロセス水を水リサイクルループ内の内部表面に接触させることとを含む。方法は、接触した表面の汚損を低減または防止するのに有効である。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1および第2の重合阻害剤は、水リサイクルループ内の流体接続部に配置されたデバイスに適用され、デバイスは、クエンチ水塔(QWT)、クエンチ水沈降器(QWS)、プロセス水ストリッパー(PWS)、希釈蒸気発生器(DSG)、供給飽和器(FS)、またはそれらのうちの2つ以上を含む、本質的にそれらからなる、またはそれらからなる。そのようなデバイスの各々は、水リサイクルループ内の水のリサイクルを容易にする様式で、1つ以上の他のデバイスに流体接続される。そのようなデバイスが熱分解プラントの水リサイクルループの一部として存在する場合、そのような装置の各々は、プロセス水(本明細書において開示される方法に従って処理されたプロセス水を含む)、パイガス、およびパイガス副生成物のうちの1つ以上の混合物によりその内部に流体接触する。
【0030】
いくつかの実施形態では、処理システムは、熱分解プラントである。いくつかの実施形態では、熱分解プラントは、エチレン製造プラントである。いくつかの実施形態では、エチレン製造プラントの供給原料は、ナフサ、エタン、プロパン、ブタン、またはそれらの組み合わせを含む、本質的にそれらからなる、またはそれらからなる。
【0031】
本発明の方法によれば、エチレン製造プラントまたは「熱分解器」等の工業処理システムの水リサイクルループに、合計で約5重量ppm~500重量ppmの第1および第2の重合阻害剤が適用される。いくつかの実施形態では、第1および第2の重合阻害剤の溶液または分散液が最初に形成され、次いで、溶液または分散液が、水リサイクルループ内の流体接続部に配置されたデバイス内に存在する水を処理するために適用される。処理されたプロセス水中の第1および第2の重合阻害剤の存在は、水リサイクルループ内の処理されたプロセス水と接触する表面の汚損を防止する、またはその量を低減する。
【0032】
プロセス水は、少なくともパイガスおよび水を含む。これらの2種の材料は、その一方または両方に溶解した追加の化合物を含めて、一般に非混和性である。例えば、パイガス中に一般的に存在する重合可能な液体化合物であるスチレンは、水と混和しないことが知られている。したがって、パイガス相および水相の少なくとも2つの相が、水リサイクルループのプロセス水中に存在する。上記のように、水リサイクルループ内に存在するパイガスおよび関連化合物はエマルションを形成することが、さらに知られている。そのようなエマルションには、疎水性相であるパイガス相、および水蒸気希釈プロセスの一環として添加された水を含む水相が含まれる。いくつかの実施形態では、1種以上のエマルションが、水リサイクルループの少なくとも一部に存在する。スチレン等のプロセス水中に存在する重合性化合物は、パイガス相に強く分配する傾向がある。すなわち、プロセス水(乳化された、または乳化されていない)中に存在する任意の1種のそのような化合物のほとんどまたは実質的に全てが、プロセス水のパイガス相内に存在するはずである。
【0033】
プロセス水中に存在する重合性化合物の、実質的に全てではないにしてもそのほとんどは、パイガス相に強く分配されると予想されるため、1つは水相に強く分配し、もう1つはパイガス相に強く分配する2つの化学的に異なる重合阻害剤の混合物は、水リサイクルループ内の汚損を低減するのに有効であることは予想外である。我々は、約5ppm~500ppmの第1および第2の重合阻害剤の組み合わせの適用が、水リサイクルループ内の汚損を防止する上で、第2の重合阻害剤単独の同重量の使用よりも効果的であることを見出した。
【0034】
重合阻害剤
【0035】
重合および付随する汚損の効果的な阻害は、2つの化学的に異なる重合阻害剤をプロセス水ループに適用することによりプロセス水ループ内で達成され、第1の重合阻害剤は、0より大きく9未満のパイガス-水分配係数を有し、第2の重合阻害剤は、1000より大きく最大50,000のパイガス-水分配係数を有する。第1および第2の重合阻害剤は共に、ラジカル重合性種の重合を阻害することができる化合物である。
【0036】
パイガス-水分配係数は、パイガス-水混合物中の重合阻害剤の濃度を測定することによって決定される。いくつかの実施形態では、実際のプロセス水試料からのパイガスが、決定におけるパイガスとして使用され、いくつかのそのような実施形態では、実際のプロセス水が使用される。他の実施形態では、模擬パイガスが形成され、水が模擬パイガスに添加されて決定される。本明細書の開示に関連する測定を提供する目的で、トルエン、スチレン、シクロヘキサン、n-ヘキサンおよびジシクロペンタジエンの混合物から本質的になる模擬パイガスが使用される。分配係数は、等体積の脱イオン水および模擬パイガスを混合し、次いで約0.1重量%~5重量%の濃度範囲で潜在的な重合阻害剤を添加し、いくつかの実施形態では続いて激しい混合期間を設け、次いで相を分離させるために静置する期間を設けることにより決定され;各相における種の相対濃度が分配係数を決定付ける。本明細書において列挙される分配係数の目的のために、試験は1重量%(10,000ppm)の目標阻害剤濃度で行われ、続いて30分間激しく混合され、続いて混合物が30分間実質的に乱されていない状態に静置される。乱されていない混合物をもたらすパイガスおよび水相は分離され、例えば、質量分析と組み合わせた高速液体クロマトグラフィー(HPLC-MS)によって、各相における潜在的重合阻害剤の濃度が定量化される。次いで、パイガスと水相との間の潜在的重合阻害剤の分配比または分配係数が、式
【数1】
に従って計算され、式中、Pは、分配係数であり、[I]pygasは、パイガス相における潜在的重合阻害剤の濃度であり、[I]aqueousは、水相中の潜在的重合阻害剤の濃度である。
【0037】
当業者であれば、パイガス-水エマルションは、プロセスに適用される供給原料ならびに適用可能な工業プロセスで使用される特定のプロセス条件に基づいて可変組成物を有することが理解される。そのようなエマルション中の重合性種、例えばスチレンおよびその重合性オリゴマーの濃度および同一性もまた可変である。さらに、プロセス水ストリーム中に存在するパイガス-水エマルションは、2つの相(パイガスおよび水)の間に分配された可変濃度の重合性種を含むことができる。そのような可変条件は、例えば、プロセス水ストリーム中に存在する1種以上の追加の化合物が共溶媒、ヒドロトロープ等として作用し、相間で重合性種の可変分配をもたらす場合に生じ得る。したがって、可能であれば、パイガス、水または両方が水リサイクルループから得られる、パイガス-水混合物中の重合阻害剤のパイガス-水分配係数を決定することが有利である。最も有利には、そのようにして得られたパイガスは、第1および第2の重合阻害剤が適用される同じ水リサイクルループから採取される。パイガス-水分配を決定するためにプロセス水の実際の試料を使用することで、工業用熱分解プロセスで使用される個々のシステム、プロセス条件、および供給原料に適用可能な最適な測定が提供される。
【0038】
我々は、9未満および0より大きいパイガス-水分配係数を有する第1の重合阻害剤のプロセス水への添加が、プロセス水の水相中に存在する重合性種の重合を阻害するのに有利であり、一方、1000より大きく最大50,000のパイガス-水分配係数を有する第2の重合阻害剤のプロセス水への添加が、プロセス水のパイガス相中に存在する重合性種の重合を抑制するのに有利であることを見出した。実施形態において、プロセス水に適用される第1の重合阻害剤対第2の重合阻害剤のモル比は、一般に約1:9~9:1、または約1:8~9:1、または約1:7~9:1、または約1:6~9:1、または約1:5~9:1、または約1:4~9:1、または約1:3~9:1、または約1:2~9:1、または約1:1~9:1、または約1:9~8:1、または約1:9~7:1、または約1:9~6:1、または約1:9~5:1、または約1:9~4:1、または約1:9~3:1、または約1:9~2:1、または約1:9~1:1、または約1:8~8:1、または約1:7~7:1、または約1:6~6:1、または約1:5~5:1、または約1:4~4:1、または約1:3~3:1、または約1:2~2:1、または約1:1である。実施形態において、プロセス水に適用される第1の重合阻害剤対第2の重合阻害剤の重量比は、一般に約1:9~9:1、または約1:8~9:1、または約1:7~9:1、または約1:6~9:1、または約1:5~9:1、または約1:4~9:1、または約1:3~9:1、または約1:2~9:1、または約1:1~9:1、または約1:9~8:1、または約1:9~7:1、または約1:9~6:1、または約1:9~5:1、または約1:9~4:1、または約1:9~3:1、または約1:9~2:1、または約1:9~1:1、または約1:8~8:1、または約1:7~7:1、または約1:6~6:1、または約1:5~5:1、または約1:4~4:1、または約1:3~3:1、または約1:2~2:1、または約1:1である。
【0039】
上記の比は、第1および第2の重合阻害剤のパイガス-水分配係数に依存して変動する。すなわち、2つの阻害剤の相対比は、処理されたプロセス水中の第1および第2の重合阻害剤のそれぞれの有効濃度を提供するように調節され、適用される有効量は、パイガス-水分配係数を測定し、少なくとも0.5ppmの重合阻害剤を、水リサイクルループ内に存在するパイガス相および水相のそれぞれに供給することにより決定される。したがって、本発明の方法では、パイガス-水分配係数を決定するためにパイガス-水混合物(模擬的または実際の)を使用して、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤の両方についてパイガス-水分配係数が決定される。次いで、各重合阻害剤の量が、水リサイクルループ内のパイガス相および水相のそれぞれに少なくとも0.5ppmの重合阻害剤が存在するように調節される。いくつかの実施形態では、一方または両方の重合阻害剤が両方の相に存在する。本発明の方法は、パイガス相と水相の両方における重合を効果的に阻害する手段を操作者に提供し、プロセス水中での重合に関連するこれまで明確化されていなかった問題、すなわち、重合反応の場所が水相およびパイガス相の両方において生じ得るという問題に対する全体的な解決策を提示する。
【0040】
産業処理システムの水リサイクルループに適用される第1の重合阻害剤+第2の重合阻害剤の総濃度は、本発明の方法を用いて対処されるプロセス水の重量を基準として約5ppm~500ppm、または約5ppm~400ppm、または約5ppm~300ppm、または約5ppm~200ppm、または約5ppm~100ppm、または約10ppm~500ppm、または約10ppm~400ppm、または約10ppm~300ppm、または約10ppm約200ppm、または約10ppm~100ppmである。
【0041】
第1の重合阻害剤は、0より大きく9未満のパイガス-水分配係数を有する重合阻害剤である。第1の重合阻害剤の例には、これらに限定されないが、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(TEMPO)、1-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TEMPOH)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(HTMPO)、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(OTEMPO)、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(HTMPOH)、および1-ヒドロキシ-4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(OTEMPOH)が含まれる。いくつかの実施形態では、第1の重合阻害剤は、2種以上の化合物の混合物であり、そのような化合物の各々が重合阻害剤であり、0より大きく9未満のパイガス-水分配係数を有するか、または2種以上の第1の重合阻害剤の分配係数の平均は、0より大きく約9未満である。実施形態では、第1の重合阻害剤は、約0.0001~9、または約0.001~9、または約0.01~9、または約0.1~9、または約0.0001~8、または約0.0001~7、または約0.0001~6、または約0.0001~5、または約0.0001~4、または約0.0001~3、または約0.0001~2、または約0.0001~1、または約0.001~1、または約0.01~1、または約0.01~0.9、または0.01~0.8、または約0.01~0.7、または約0.01~0.6、または約0.01~0.5、または約0.01~0.4、または約0.01~0.3、または約0.01~0.2、または約0.01~0.1のパイガス-水分配係数を有する。
【0042】
第2の重合阻害剤は、1000より大きく50,000未満のパイガス-水分配係数を有する重合阻害剤である。第2の重合阻害剤の例には、これらに限定されないが、1,4-フェニレンジアミン(PDA)およびそのアルキル化誘導体、例えばN、N’-ジ-sec-ブチル-1,4-フェニレンジアミン(sBuPDA)が含まれる。いくつかの実施形態では、第2の重合阻害剤は、2種以上の化合物のブレンドであり、各化合物は重合阻害剤であり、1000より大きく50,000未満のパイガス-水分配係数を有する。実施形態では、第2の重合阻害剤は、約1000~45,000、または約1000~40,000、または約1000~35,000、または約1000~30,000、または約1000~25,000、または約1000~20,000、または約1000~15,000、または約1000~10,000、または約2000~50,000、または約3000~50,000、または約4000~50,000、または約5000~50,000、または約6000~50,000、または約7000~50,000、または約8000~50,000、または約9000~50,000、または約10,000~50,000、または約2000~20,000、または約5000~25,000、または約5000~20,000、または約5000~15,000のパイガス-水分配係数を有する。
【0043】
我々は、約1:9~9:1のモル比、またはいくつかの実施形態では約1:9~9:1の重量比で、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤の両方を熱分解プロセス水に適用することによって、未処理のプロセス水、および第2の重合阻害剤のみの使用に対して、処理されたプロセス水と接触した機器の汚損の低減において優れた結果が得られることを見出した。
【0044】
汚損を低減する方法
【0045】
本発明の方法によれば、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤は、熱分解システム等の工業処理システムの水リサイクルループ内のプロセス水に適用される。第1および第2の重合阻害剤は、当業者には理解されるように、ループ内の任意の位置で水リサイクルループに有用に添加される。第1および第2の重合阻害剤は、順次または同時に添加されてもよい。いくつかの実施形態では、第1の重合阻害剤、第2の重合阻害剤、またはその両方は、未加工のまま使用され、または溶媒および任意選択で他の添加剤化合物と混合され、次いで選択された場所で水リサイクルループに注入される。いくつかの実施形態では、第1および第2の重合阻害剤の一方または両方が、熱分解プラントのクエンチ水塔(QWT)の下流にあるプロセス水ストリッパー(PWS)に有利に添加され、熱分解副生成物は、高温熱分解ガスをクエンチ水と、またパイガス相および水相のバルク分離を提供するクエンチ水セパレータ(QWS)のさらに下流と接触させた後にまず凝縮される。QWSが相を完全には分解せず、重合性種を含む熱分解副生成物およびパイガス副生成物が水相中に分散または乳化された状態で取り込まれたままであることは、当業者には周知である。したがって、取り込まれた熱分解副生成物およびパイガス副生成物を有する水相が、PWSに適用される。我々は、PWS中に第1および第2の重合阻害剤を添加することにより、熱分解プラントの水リサイクルループに沿って熱分解副生成物およびパイガス副生成物を運ぶ水とその後接触する表面の汚損が、低減またはさらに防止されることを見出した。しかしながら、システム設計またはプロセスの詳細の理由から、いくつかの実施形態では、第1、第2、または第1および第2の重合阻害剤を別の場所で添加することが好ましい。
【0046】
第1および第2の重合阻害剤の一方または両方と一緒に、水リサイクルループに1つ以上の追加成分が任意選択で添加される。1つ以上の追加の成分には、水溶性または水混和性溶媒、例えばC1~C6アルコール、グリセロール、C1~C8グリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコール、そのようなグリコールのエーテル、例えばジエチレングリコールモノブチルエーテル、C1~C4ケトンおよびアルデヒド、ならびにそれらのうちの2つ以上の混合物が含まれる。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加成分は、疎水性溶媒、例えば芳香族溶媒、パラフィン系溶媒、またはその両方の混合物を含む。好適な疎水性溶媒の例には、重質芳香族ナフサ、トルエン、エチルベンゼン、および異性体ヘキサン、ならびにそれらのうちの2つ以上の混合物が含まれる。いくつかの実施形態では、1種以上の水溶性または水混和性溶媒と1種以上の疎水性溶媒との混合物が、第1および第2の重合阻害剤の一方または両方と共に水リサイクルループに添加される追加成分である。
【0047】
いくつかの実施形態では、第1の重合阻害剤、第2の重合阻害剤、またはその両方は、溶媒の非存在下で水リサイクルループに適用される。他の実施形態では、第1の重合阻害剤、第2の重合阻害剤、または第1および第2の重合阻害剤のブレンドの分散液、エマルションまたは溶液が、リサイクル水ループに適用される。第1の重合阻害剤、第2の重合阻害剤、またはそれらのブレンドに少なくとも1種の溶剤を添加することによって、分散液、エマルションまたは溶液が形成される。
【0048】
第1の重合阻害剤、第2の重合阻害剤、または第1および第2の重合阻害剤のブレンドは、水リサイクルループ内の任意の箇所で容易に添加されて、そこで形成される処理されたプロセス水に防汚特性を提供する。いくつかの実施形態では、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤は、1つ以上の凝集ユニットの下流の水リサイクルループに適用される。いくつかの実施形態では、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤は、クエンチ水塔(QWT)に適用される。いくつかのそのような実施形態では、プロセス水中の第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤の濃度は、QWT内に存在する阻害剤の平均重量として測定され、選択された量の第1および第2の重合阻害剤がQWTに適用されて、処理されたプロセス水がそこで形成される。
【0049】
第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤は、希釈蒸気発生器に適用される質量流を基準として約5ppm~500ppm、または希釈蒸気発生器に適用される質量流を基準として約10ppm~500ppm、または約20ppm~500ppm、または約30ppm~500ppm、または約40ppm~500ppm、または約50ppm~500ppm、または約60ppm~500ppm、または約70ppm~500ppm、または約80ppm~500ppm、または約90ppm~500ppm、または約100ppm~500ppm、または約5ppm~450ppm、または約5ppm~400ppm、または約5ppm~350ppm、または約5ppm~300ppm、または約5ppm~250ppm、または約5ppm~200ppm、または約5ppm~150ppm、または約5ppm~100ppm、または約10ppm~300ppm、または約10ppm~250ppm、または約50ppm~250ppm、または約50ppm~200ppmで目標にする水リサイクルループに適用される。
【0050】
第1および第2の重合阻害剤を水リサイクルループに適用することは、当業者によく知られている技術を用いて容易に実行される。例えば、第1および第2の重合開始剤の一方または両方が、水リサイクルループの開口部に固体形態で添加される。実施形態では、第1および第2の重合開始剤の一方または両方が、水リサイクルループ内の開口部に噴霧、滴下または注入される溶液、エマルション、または分散液として適用される。
【0051】
エチレンプラントの水リサイクルループのプロセス水中に約1:9~9:1の重量比で存在する、第1および第2の重合開始剤が合計で少なくとも5ppm存在することにより、水リサイクルループ内のプロセス水に接触する表面の汚損が低減または防止される。エチレンプラントの水リサイクルループのプロセス水中に約1:9~9:1のモル比で存在する、第1および第2の重合開始剤が合計で少なくとも5ppm存在することにより、水リサイクルループ内のプロセス水に接触する表面の汚損が低減または防止される。
【0052】
したがって、いくつかの実施形態では、プロセス水を処理する方法は、エチレン製造プラント内に存在するプロセス水に、第1の重合阻害剤および第2の重合阻害剤を適用して、処理されたプロセス水を形成することを含む。実施形態では、処理されたプロセス水は、水リサイクルループ内の適用場所から下流に進む。
【0053】
第1および第2の重合阻害剤を水リサイクルループに適用した後、処理されたプロセス水は、第1および第2の重合阻害剤を添加しないで得られるプロセス水よりも多くのパイガスを含むことが観察される。これは、重合した固体は汚損を生じさせ、プロセス水からのパイガス固体の付随する損失を引き起こす一方、処理されたプロセス水は重合が減少し、したがって汚損が少なくなるからである。換言すれば、第1および第2の重合阻害剤を添加しないプロセス水よりも、処理されたプロセス水において、より少ない沈殿による機器の汚損が観察される。水リサイクルループにおける汚損は、PWSにおける圧力の運転上の変化(ΔP)、および/またはDSGリボイラーにおける熱伝達損失によって証明されるが、これは加熱源からのより高い熱流を必要とする、または汚損が生じると希釈蒸気の生成を低減する。
【0054】
実施形態では、汚損の低減は、同じ期間にわたって未処理のプロセス水と接触したプロセス機器上の固体堆積と比較した、処理されたプロセス水と接触したプロセス機器上の固体堆積の減少として測定される。
【0055】
いくつかの実施形態では、処理されたプロセス水は、第1および第2の重合阻害剤がプロセス水に添加されなかったプロセス水よりも約1%~25%高い全有機炭素含量を含む。いくつかの実施形態では、処理されたプロセス水は、第1および第2の重合阻害剤がプロセス水に添加されていない分解エマルションから回収されたプロセス水よりも約1%~20%高い全有機炭素含量、または、第1および第2の重合阻害剤がプロセス水に添加されていない分解エマルションから回収されたプロセス水よりも約1%~15%高い、もしくは約1%~10%高い、もしくは約1%~8%高い、もしくは約1%~6%高い、もしくは約2%~25%高い、もしくは約5%~25%高い、もしくは約10%~25%高い全有機炭素含量を含む。
【0056】
約60℃~110℃、または約70℃~110℃、または約80℃~110℃、または約60℃~100℃、または約60℃~90℃のプロセス水温であっても、プロセス水への第1および第2の重合阻害剤の適用は、水リサイクルループ内での起泡、粘性化、または機器の汚損をもたらさない。すなわち、処理されたプロセス水は、水リサイクルループ内での高い起泡または粘性化を示さず、未処理のプロセス水と比較して、処理されたプロセス水において汚損も低減または排除される。
【0057】
実験
【0058】
以下の実施例は、本発明の実験的実施形態を示すことを意図している。実施形態は、添付の特許請求の範囲の範囲を限定するものではない。本明細書に説明される実験的実施形態に従うことなく、さらに特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な改変および変更がなされ得ることが認識されるであろう。
【0059】
実施例1
【0060】
パイガス相と水相との間の熱分解阻害剤1-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(HTMPO)の分配比を、以下の手順によって決定した。等体積の脱イオン水および模擬的熱分解ガソリン(パイガス)の混合物に、HTMPOを添加した。模擬パイガスは、トルエン、スチレン、シクロヘキサン、n-ヘキサンおよびジシクロペンタジエンの混合物からなっていた。使用した阻害剤および液相の量は、阻害剤が、組み合わされた相の重量を基準として1.0重量%の総濃度で存在するような量であった。
【0061】
阻害剤、パイガス相、および水相からなる系を30分間激しく撹拌し、その後30分間さらに静置した。次いで、非相溶性のパイガスおよび水相を分離した。
【0062】
アセトニトリル中の既知濃度のHTMPOのストック溶液を水/アセトニトリルで希釈して、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源を有する質量分析計に連結された高性能液体クロマトグラフ(HPLC)の適切な作動範囲にわたる濃度の5つの異なる溶液を得た。5つの希釈溶液をHPLC-MSを用いて標準として分析し、これらの溶液中のHTMPOに対応するピークの面積を用いてピーク面積対濃度(質量分率、ppm)の較正曲線を構築した。
【0063】
実験の最初の部分で水相から分離された未知の濃度のHTMPOのパイガス相を水/アセトニトリルで希釈して、その濃度が較正曲線の範囲内にある溶液を得た。希釈されたパイガス溶液をHPLC-MSで分析し、このパイガス溶液中のHTMPOの濃度を、そのHTMPOピーク面積を較正曲線に補間することによって計算した。元の希釈されていないパイガス相におけるHTMPOの濃度は、希釈溶液の補間濃度に希釈係数を適用することによって計算した。この測定および計算は、パイガス相に対して合計3回行われた。実験の第1部で分離された水相中のHTMPOの濃度は、パイガス相の濃度と同じ様式で決定された。
【0064】
パイガス相と水相との間のHTMPOの分配係数を、式に従って計算したが、
【数2】
Pは分配係数であり、[HTMPO]pygasはパイガス相中のHTMPOの濃度であり、[HTMPO]aqueousは、水相中のHTMPOの濃度である。表1は、HTMPOの分配係数の決定の間に収集されたデータをまとめたものである。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例2
【0067】
パイガス相と水相との間の重合阻害剤1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(HTMPOH)の分配係数を、HTMPOの代わりにHTMPOHを使用したことを除いて、実施例1で使用したのと同じ手順で決定した。表2は、HTMPOHの分配係数の決定の間に収集されたデータをまとめたものである。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例3
【0070】
パイガス相と水相との間の重合阻害剤N、N’-ジ-sec-ブチル-1,4-フェニレンジアミン(sBuPDA)の分配係数を、HTMPOの代わりにsBuPDAを使用したことを除いて、実験Aで使用したのと同じ手順で決定した。表3は、sBuPDAの分配係数の決定中に収集されたデータをまとめたものである。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例4
【0073】
アルミナカラムを用いて、4-tert-ブチルカテコール(TBC)をスチレンから除去した。新しく脱阻害されたスチレン(9mL)を、PTFEのねじ蓋およびフルオロエラストマー(FETFE)Oリングを備え付けた24個のAce Glass#15ねじ式圧力管の各々の中に入れた。窒素を2分間拡散することによって、溶解した酸素を、溶液から除去した。その直後に、管を窒素ヘッドスペース下で蓋をした。122℃に予熱された加熱ブロックに管を投入することにより、重合反応を行った。30分後、およびその後は15分毎に、4つの管をブロックから取り出し、氷浴中で冷却することにより重合反応を停止した。形成されたポリマーの量を、ASTM D2121法に従って、メタノールを用いて沈殿することにより決定した。
【0074】
試験される0.33mmolalの阻害剤および阻害剤を含まないスチレンからなる溶液を調製した。9mLの部分を反応管に入れた。上記の手順を使用して酸素を除去し、溶液を重合させ、形成されたポリマーの量を測定した。
【0075】
重合阻害試験は、プロセスにおいて代表的な水およびガソリンを4つの容器に導入することによって行われた。第1の容器は対照実験であり、残りの容器では阻害剤の様々な用量および組み合わせが導入された。容器を5分間激しく撹拌し、次いで4時間静置した。次いで、各水相の濁度を測定した。個々の重合阻害剤およびHTMPOと1,4-フェニレンジアミンとの50:50重量%混合物による濁度試験の結果を図1に示す。
【0076】
水相中のポリマーの生成量が多いほど、5分間の混合および4時間の重合時間後の試験された系の濁度は大きい。ブランク溶液と比較して、阻害剤を含有する系の濁度の低下は、重合阻害剤が効果的に重合を低減したことを示している。
【0077】
本明細書に例示的に開示される発明は、本明細書に具体的に開示されていない要素が存在しない場合に、適切に実施され得る。さらに、本明細書に記載される本発明の各実施形態は、単独で、または本明細書に記載された任意の他の実施形態、ならびにそれらの改変物、均等物および代替物と組み合わせてのいずれかで使用されることが意図される。様々な実施形態では、本発明は、本明細書に記載され、特許請求の範囲に記載の要素を適切に含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。本明細書に例示され説明される例示的な実施形態および用途に従うことなく、かつ特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく、様々な改変および変更がなされ得ることが認識されるであろう。
図1