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特許7072631吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置
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  • 特許-吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置 図1
  • 特許-吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置 図2
  • 特許-吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置 図3
  • 特許-吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置 図4
  • 特許-吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置 図5
  • 特許-吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置 図6
  • 特許-吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/26 20060101AFI20220513BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20220513BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20220513BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20220513BHJP
   B32B 3/12 20060101ALN20220513BHJP
【FI】
B01D53/26 200
B32B7/027
B32B7/022
H05B3/12 A
B32B3/12 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020216900
(22)【出願日】2020-12-25
(62)【分割の表示】P 2018561380の分割
【原出願日】2018-01-10
(65)【公開番号】P2021058887
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2017004961
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥村 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】土田 実
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-333021(JP,A)
【文献】特開2004-313897(JP,A)
【文献】特開2005-074359(JP,A)
【文献】特開平10-216458(JP,A)
【文献】特開平06-055071(JP,A)
【文献】特開2009-101275(JP,A)
【文献】特開平02-046682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-12、26-28
B01J 20/28
B32B 3/12-24、7/02-027
H05B 3/10-18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも自己発熱層と吸着層とをその積層に含む吸放湿用自己発熱性シート状物であって、
前記自己発熱層と前記吸着層が直接接続されているか、または熱伝導率が0.03W/m・K以上の材料が自己発熱層と吸着層に接続されており
前記自己発熱層が、金属繊維から成るシートであり、
前記吸着層が、有機繊維並びに有機系吸湿剤及び無機系吸湿剤から選ばれる少なくとも1種の吸湿剤を含み、
前記自己発熱層の応力-ひずみ曲線が
塑性変形を示す第一の領域と、
前記第一の領域よりも圧縮応力が高い領域で現れる、弾性変形を示す第二の領域とを含み
前記第一の領域の塑性変形率は、測定プローブを前記自己発熱層に当てて測定した試験前の前記自己発熱層の厚みT0と、圧縮プローブを使用して1mm/minの圧縮速度で荷重を0MPa~1MPaまで増加させる圧縮動作及び開放動作のサイクルを3回実施してから測定した試験後の前記自己発熱層の厚みT1とから、式「塑性変形率(%)=(T0-T1)/T0×100」により算出して、1%~90%であることを特徴とする吸放湿用自己発熱性シート状物。
【請求項2】
前記自己発熱層のJIS P8113に準じて測定される伸び率が、1%~5%であることを特徴とする請求項1に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物。
【請求項3】
前記金属繊維から成るシートが、シート抵抗が50~300mΩのステンレス繊維焼結体であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物。
【請求項4】
前記有機繊維が、パルプ繊維であり
前記吸湿剤が前記パルプ繊維に担持されていることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物。
【請求項5】
前記金属繊維の平均繊維径が、1μm~50μmであり、
前記金属繊維の繊維長が、1mm以上であることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物。
【請求項6】
前記自己発熱層の自由端に電極を有することを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物。
【請求項7】
前記請求項1~6の何れか一項に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物を有することを特徴とする吸放湿体。
【請求項8】
前記電極に通電するための通電回路を備えたことを特徴とする請求項6に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物を有する吸放湿装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿と放湿が可能な吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置に関するものである。
本願は、2017年1月16日に、日本に出願された特願2017-004961号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷凍機や冷水を用いる空調システムでは、湿度を下げるために空気を過冷却した後、再熱する方式がとられているため、無駄なエネルギーを消費してしまう上、外気温・湿度の変化などに柔軟に対応できないという欠点があった。
【0003】
そこで、近年はデシカント空調方式が注目されている。デシカント空調方式とは、温度と湿度を分離制御する省エネ型の空調方式である。デシカント空調方式は、吸放湿用シート状物や除湿ロータ等の吸放湿体によって予め空気中の水分を除去し、これによって得られた脱湿された空気を冷却するので、一般的に高いエネルギー効率を発揮することが知られている。すなわち、空気中の水分を予め脱湿して除去することにより、冷却する対象である空気の湿度が安定するため、湿度が上下することが当たり前である外気にも柔軟に対応し、室内空気を適切にコントロールできるので、外気を大量に取り入れる必要のある空間や除湿管理が求められる空間に適している。
【0004】
上記のような空調方式に用いられる吸放湿用シート状物、除湿ロータ等の吸放湿体及び、それらに使用されるデシカント(以下、吸湿剤とも言う。)としては、ポリアクリル酸系に代表される有機系のもの、あるいはゼオライト、シリカゲル、イモゴライト、非晶質アルミニウム酸塩等が知られている。
【0005】
中でも、高・中・低湿雰囲気下のすべてで水分の吸着量が多く、低温脱湿(再生)が可能なデシカントを使用したフィルタ材として、特定の物性を有する非晶質アルミニウム酸塩と吸湿性塩を有する除湿用シート状物が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、水分の吸放出量が多く、吸放出速度が速い除湿ロータとして、無機系吸湿剤を有する基材層と特定の平均繊維径の有機系吸湿剤とを有する吸着層から成る除湿ロータも提案されている(例えば、特許文献2)。
【0007】
一方、除湿用シート状物にハニカム加工を施す際の加工性等を改善する目的で、吸湿剤と有機繊維を有する多孔質シートに非吸湿性無機フィラーを含有させた除湿ロータ材(例えば、特許文献3)や、平面状シート及び波形シートが少なくともガラス繊維、木材パルプ及びバインダー繊維を含む表面層と、木材パルプ及びバインダー繊維を含む裏面層の2層を有することを特徴とする除湿フィルタ素子も提案されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-201307号公報
【文献】特開2012-148208号公報
【文献】特開2014-36921号公報
【文献】特開2014-18722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来技術であっても、水分の放出速度は充分でなく、かつ除湿用シート状物の加工性にも未だ改善の余地があった。
【0010】
特許文献1の技術では、水分脱着率(%)が2分後水分脱着量/5分後水分脱着量×100として示されているが、これは、高湿度空間の除湿、除湿ロータの小型化等を見据えた場合、充分な水分の放出速度とは言えず、未だ改善の余地があった。
【0011】
特許文献2の技術では、主として平均繊維径50~1000nmの繊維状有機吸着剤を吸湿剤として使用しており、その技術思想は単位体積あたりの表面積を大きくすることで、水分を吸脱着できる表面積を増加させ、単位時間当たりに吸放出できる水分量を増加させるというものである。水分の放出速度としては、比較的低温低湿(40~80℃・0.1~30%RH程度)の空気を通気させることで吸着水分を放出し、再生することが出来るとするも、表面積増大に伴い、脱湿に要する通気量を充分に確保する必要性がある等、特許文献1同様に改善の余地があった。
【0012】
特許文献3の技術では、吸湿剤と有機繊維とを有する多孔質シートに非吸湿性無機フィラーを含有させた除湿ロータ用材がハニカム構造体の剛直性に寄与しているとするも、必ずしも充分な加工性が得られている訳ではなかった。
【0013】
特許文献4の技術では、木材パルプ及びバインダー繊維を含む裏面層の効果によりハニカム加工時の折適性が向上するとするも、これとて必ずしも充分な加工時折適正性が得られているとは言い難かった。
【0014】
そこで、本発明は、吸着した水分の放出速度が極めて速やかであり、ハニカム構造やコルゲート構造等の加工を施す場合であっても、加工性に優れた吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、自己発熱層と吸着層が熱伝導可能な態様で接続されていることにより、吸着した水分の放出速度が極めて速やかであり、ハニカム構造、コルゲート構造等の加工を施す場合であっても加工性に優れた吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置を得ることが出来ることを見出し、本発明に至ったものである。
【0016】
すなわち、本発明(1)は、少なくとも自己発熱層と吸着層とをその積層に含む吸放湿用自己発熱性シート状物であって、前記自己発熱層と前記吸着層が熱伝導可能な態様で接続されている吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0017】
本発明(2)は、前記自己発熱層と前記吸着層とが接着層を介して積層されたことを特徴とする前記発明(1)に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0018】
本発明(3)は、前記自己発熱層の自由端に電極を有することを特徴とする前記発明(1)又は(2)に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0019】
本発明(4)は、前記自己発熱層が金属繊維焼結体から成ることを特徴とする前記発明(1)、(2)又は(3)に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0020】
本発明(5)は、前記金属繊維焼結体を構成する繊維が少なくともステンレス繊維を含むことを特徴とする前記発明(1)、(2)、(3)又は(4)に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0021】
本発明(6)は、前記接着層が少なくとも合成繊維を有することを特徴とする前記発明(2)、(3)、(4)又は(5)に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0022】
本発明(7)は、前記吸着層が有機繊維並びに有機系吸湿剤及び無機系吸湿剤から選ばれる少なくとも1種以上の吸湿剤を有することを特徴とする前記発明(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0023】
本発明(8)は、前記自己発熱層が圧縮応力とひずみとの関係において、塑性変形を示す第一の領域と、前記第一の領域よりも圧縮応力が高い領域で現れる、弾性変形を示す第二の領域とを具備することを特徴とする前記発明(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)に記載の吸放湿用自己発熱性シート状物である。
【0024】
本発明(9)は、前記発明(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)又は(8)いずれかに記載の吸放湿用自己発熱性シート状物を有することを特徴とする吸放湿体である。
【0025】
本発明(10)は、前記電極に通電するための通電回路を備えたことを特徴とする前記発明(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)又は(9)いずれかに記載の吸放湿用自己発熱性シート状物または吸放湿体を有する吸放湿装置である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、吸着した水分の放出速度が極めて速やかであり、ハニカム構造、コルゲート構造等の加工を施す場合であっても加工性に優れた吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置を提供することができる。
【0027】
すなわち、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物または吸放湿体は、自己発熱層が昇温することにより、自己発熱層と熱伝導可能な態様で接続された吸着層がすみやかに加熱され、これによって、水分の放出速度が速められ、自己発熱層が骨材としても機能することにより、ハニカム構造、コルゲート構造等の加工を施す場合であっても加工性に優れた吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置を提供することが出来るものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明の吸放湿体の断面構成の一例を示す模式図である。
図3】本発明の吸放湿装置の一例を示す概略図である。
図4】本発明に係わる自己発熱層として用いることが出来るステンレス繊維焼結不織布を圧縮・開放のサイクルで圧縮試験した際のグラフである。
図5】本発明に係わる自己発熱層として用いることが出来るステンレス繊維焼結不織布の弾性変形領域を詳細に説明するためのグラフである。
図6】本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物の他の実施形態を示す模式図である。
図7】吸着層の温度上昇速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置を図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置の実施形態はこれに限られるものではない。
【0030】
図1に示す本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物は、自己発熱層1と、吸着層3とが接着層2を介して積層された構造を取っている。以下に各層について更に詳細に説明するが、自己発熱層1と吸着層3は、熱伝導可能な態様で接続されていれば良く、必ずしも接着層2を必要とするものではない。例えば、自己発熱層1又は、吸着層3中に、他の層と接続可能な材料を配しておき、自己発熱層1と吸着層3を直接接続する態様とすることも出来る。これを可能とする材料としては、例えば熱溶融により接続力(接着力)を発揮する合成繊維等が挙げられる。
【0031】
本明細書において熱伝導可能な態様とは、自己発熱層と吸着層が直接接続されているか、または熱伝導率が0.03W/m・K以上の材料が自己発熱層と吸着層に接続されている態様を言う。熱伝導率の値については、国立天文台編纂の「理科年表」の値を基準とする。
【0032】
(自己発熱層)
図1に示す本発明に係わる自己発熱層1は、金属繊維から成るシートを例示している。自己発熱層1は、自己発熱性を有する材料を有する層のことであり、自己発熱性とは、外部の熱源からの熱伝導ではなく、例えば誘導加熱や通電等によって当該材料自身が発熱する性質を言う。自己発熱層1は、金属繊維から成るシートには限られず、金属箔等の層であっても良く、自己発熱性を有する金属以外の材料から構成されていても良い。更には、自己発熱性を有する金属又は、金属以外の材料を含んで構成されていても良い。また、シート形状を有していなくても良い。本明細書における金属繊維から成るシート(以下、金属繊維シートとも言う。)とは、金属繊維不織布、金属繊維織布を含むものである。
【0033】
自己発熱性を有する金属の例としては、特に限定されないが、ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、鉄、白金、金、スズ、クロム、鉛、チタン、ニッケル、マンガニン、ニクロム等の金属及び合金材料から選択される1種又は2種以上の組み合わせを用いることが出来る。また、これらの金属材料の形態としては、箔状、繊維状、粒子状等の形態を取ることが出来るが、特に限定されるものではない。金属材料の種類としては、適度な抵抗と酸化のし難さ、加工適性等からステンレスを好適に使用することができる。
【0034】
自己発熱層1が金属繊維を含んで成る場合には、通電時の自己発熱性及び、加工適性の面から、ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、鉄、白金、金、スズ、クロム、鉛、チタン、ニッケル、マンガニン、ニクロム等の繊維の使用が好ましく、これらが金属繊維焼結体となっていることが、速やかな自己発熱性を発揮しやすい点において更に好ましい。これらの中でも、ステンレス繊維焼結体が特に好ましく、シート状のステンレス繊維焼結体のシート抵抗は、例えば50~300mΩ/□程度である。加えて、自己発熱層1が金属繊維等の繊維材料から成る場合には、自己発熱層1に透気性を付与できるため、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物の自己発熱層以外の層も同様に透気性を有する構成とした場合には、全ての層が透気性を有することになる結果、自己発熱層1を含む全ての層を透過する態様で空気、その他の気体を通過させて吸放湿させることも出来る。本明細書における金属繊維焼結体とは、金属繊維が加熱前の繊維状態を残しつつも、結着している状態を示す。
【0035】
前記金属繊維の平均繊維径は、自己発熱層の形成に支障が無い範囲で任意に設定可能であるが、好ましくは1μm~50μmである。また、金属繊維の断面形状は円形、楕円形、略四角形、不定形等いずれであっても良い。尚、本明細書における「金属繊維の平均繊維径」とは、顕微鏡で撮像された自己発熱層の任意の場所における垂直断面に基づき金属繊維の断面積を算出し(例えば、公知のソフトにて)、当該断面積と同一面積を有する円の直径を算出することにより導かれた任意の個数の繊維の面積径の平均値(例えば、20個の繊維の平均値)である。
【0036】
また、金属繊維の繊維長は、1mm以上の繊維を含むことが好ましい。1mm以上の繊維の存在によって、本発明に係わる自己発熱層を湿式抄造法で作製する場合であっても、金属繊維間の交絡あるいは、接点を得易いという効果を奏する。
【0037】
(自己発熱層の形成方法)
例えば、金属繊維を主体とした自己発熱層1を得る方法としては、自己発熱性を有する金属繊維を主体としたウェブを圧縮成形する乾式法や、金属繊維または金属繊維を主体とする原料を湿式抄造法で抄紙する方法や、金属繊維等を織る方法等により、得ることが出来る。
【0038】
乾式法により、本発明に係わる自己発熱層1を得る場合には、カード法、エアレイド法等により得られた自己発熱性を有する金属繊維体を圧縮等することでシートを形成することが出来る。この時、繊維間の結合を付与するために繊維間にバインダーを含浸させてもよい。かかるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などの有機系バインダーの他に、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ酸ソーダなどの無機質接着剤を用いることもできる。なお、バインダーを含浸する代わりに、繊維の表面に加熱溶融可能な樹脂を予め被覆しておき、金属繊維の集合体を積層した後に加圧・加熱圧縮しても良い。
【0039】
また、金属繊維等を水中に分散させて、これを抄き上げる湿式抄造法により自己発熱層1を作製することも出来る。具体的には、金属繊維を主体としてスラリーを調製し、これに填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、定着剤等を適宜添加して、抄紙機で湿式抄造することが出来る。また、金属繊維以外の繊維状物としてポリエチレンテレフタレ-ト(PET)樹脂、ポリビニルアルコ-ル(PVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル樹脂、アラミド樹脂、ナイロン、アクリル系樹脂等の加熱溶融により接続性を発揮する有機繊維等をスラリー中に添加することも出来る。
【0040】
次に前記スラリーを用いて、抄紙機にて湿式抄造を実施する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種又は異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いることができる。また、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いて、抄紙後の湿紙を脱水・乾燥し、シートを得ることができる。
【0041】
また、脱水時には、脱水の水流量(脱水量)を抄造網の面内、幅方向等で均一化することが好ましい。水流量を一定にすることで、脱水時の乱流等が抑えられ、金属繊維が抄造網へ沈降する速度が均一化されるため、均質性が高く、加工性に優れた自己発熱層を得易くなる。脱水時の水流量を一定にするためには、抄造網下の水流の障害となる可能性のある構造物を排除する等の方策を取ることができる。これにより、面内バラツキが小さく、より緻密で加工性に優れた自己発熱層を得易くなる。
【0042】
湿式抄造法を用いる際には、網上の水分を含んだシートを形成している金属繊維を主体とした成分を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を経て製造されることが好適である。ここで、繊維交絡処理工程としては、例えば、湿紙金属繊維シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程を採用するのが好ましく、具体的には、シートの流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って金属繊維を主体とする繊維同士を交絡させることが可能である。
【0043】
前記工程により作製された本発明に係わる自己発熱層1は、例えば金属繊維同士が結着されていることが好ましく、前記結着させる前にプレス(加圧)工程を実施しても良い。結着前にプレス工程を実施することによって、その後の結着工程に於いて金属繊維同士の結着部を確実に設けやすく(結着点数を増加させやすく)、塑性変形を示す第一の領域と、前記第一の領域よりも圧縮応力が高い領域で現れる、弾性変形を示す第二の領域をより得易いため、本発明に係わる自己発熱層1に優れた加工性を与えやすくなる点において好ましい。また、プレスは加熱下で実施しても、非加熱下で実施しても良いが、本発明に係わる自己発熱層1が加熱溶融により接続性を発揮する有機繊維等を含んでいる場合には、その溶融開始温度以上での加熱が有効であり、金属繊維単独又は、複数種の金属成分を含んで構成される場合には、加圧のみでも良い。更に加圧時の圧力は、自己発熱層1の厚さを考慮して適宜設定すれば良いが、例えば厚さ170μm程度の自己発熱層の場合、線圧300kg/cm未満、好ましくは250kg/cm未満で実施することで、本発明に係る自己発熱層に良好な加工性を与え易くなるため好ましい。また、このプレス工程により、自己発熱層の占積率を調整することも出来る。本明細書における占積率とは、自己発熱層の体積に対して繊維が存在する部分の割合で、自己発熱層の坪量と、厚さ及び金属繊維の真密度から以下の式により算出される(金属繊維のみから自己発熱層が構成される場合)。自己発熱層が、複数の金属繊維や金属繊維以外の繊維等を含む場合には、組成比率を反映した真密度値を適用することで占積率を算出することができる。
占積率(%)=自己発熱層の坪量/(自己発熱層の厚さ×金属繊維の真密度)×100
【0044】
また、前記乾式法あるいは湿式抄造法により得られた自己発熱層(例えば、金属繊維不織布)は、真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含むことが好ましい。金属繊維同士の接点が結着することで、焼結後の自己発熱層の強度を高めることが可能となり、通電時に均一な自己発熱性が得易くなると共に、加工性をも向上させ易くなる。このように作製される自己発熱層の坪量は要求される抵抗値により任意に調整が可能であり、限定されないが、100g/m~200g/mが、加工適性の面から好ましい。
【0045】
更に、焼結された自己発熱層は、焼結後にプレス(加圧)工程を実施することで更に均質性を高めることができる。繊維がランダムに交絡した自己発熱層は、厚み方向に圧縮されることで厚み方向だけではなく、面方向にも繊維のシフトが生じる。これにより、焼結時には空隙だった場所にも金属繊維が配置しやすくなる効果が期待でき、その状態は金属繊維の有する塑性変形特性によって維持される。これにより、面内バラツキ等の小さく、より緻密で加工性に優れた自己発熱層が得られる。
【0046】
また、金属繊維等を織り込むことによって作製する方法は、機織りと同様の方法にて、平織、綾織、杉綾織、畳織、トリプル織等の形態に仕上げることが出来る。
【0047】
本発明に係わる自己発熱層1は、圧縮応力とひずみとの関係において、塑性変形を示す第一の領域と、前記第一の領域よりも圧縮応力が高い領域で現れる、弾性変形を示す第二の領域とを具備していることが好ましい。本明細書において塑性変形とは、外力(圧縮応力)に対して、弾性変形よりも前に生ずる変形であって、その後外力を取り去っても、外力を受けた物質の形状が、外力を加える前の状態に回復しない変形を指し、弾性変形とは、外力が取り去られた後に、外力を受けた物質の形状が、外力を加える前の状態に回復する変形を指す。
【0048】
塑性変形、弾性変形は、圧縮・開放のサイクルで圧縮試験を行うことにより、応力-ひずみ曲線から確認することができる。前記圧縮試験は、例えば引張・圧縮応力測定試験機を使用して行うことができる。まず、30mm角の試験片を準備する。例えば、ミツトヨ社製:デジマチックインジケータID-C112Xを用いて準備した試験片の厚さを圧縮試験前の厚さとして測定する。このマイクロメーターは空気によって測定プローブの上げ下げを行うことができ、また、その速度も任意に調節することができる。試験片は微量の応力により潰れやすい状態のものもあるため、測定プローブを降ろす際にはなるべく該プローブの自重のみが試験片にかかるようにゆっくりと下降させる。且つ、該プローブを当てる回数は1度のみとする。このとき測定した厚さを「試験前の厚み」とする。
【0049】
続いて、試験片を用いて圧縮試験を行う。1kNのロードセルを用いる。圧縮試験に使用する冶具は、ステンレス製の直径100mmの圧縮プローブを使用する。圧縮速度は1mm/minとし、試験片の圧縮・開放動作を続けて3回行う。これにより本発明に係わる自己発熱層の塑性変形、弾性変形を確認することが出来る。
【0050】
加えて、試験により得られた「応力-ひずみ曲線(チャート)」から、応力に対する実際のひずみを計算し、以下の式にしたがって塑性変形量を算出することが出来る。
塑性変形量=(圧縮1回目の立ち上がり部のひずみ)-(圧縮2回目の立ち上がり部のひずみ)
このとき、立ち上がり部とは、圧縮応力2.5Nのときのひずみのことを指す。
試験後の試験片の厚さを前述と同様の方法で測定を行い、これを「試験後の厚み」とする。
【0051】
また、本発明に係わる自己発熱層は、塑性変形率が所望範囲内であることが好ましい。塑性変形率とは、自己発熱層の塑性変形の程度を示す。尚、本明細書における塑性変形率(例えば、0MPa~1MPaまで荷重を徐々に増加させながら加えた際の塑性変形率)は以下のように規定される。
塑性変形量(μm)=T0-T1
塑性変形率(%)=(T0-T1)/T0×100
上記T0は、荷重を加える前の自己発熱層の厚さであり、
上記T1は、荷重を加え、解放した後の自己発熱層の厚さである。
本発明に係わる自己発熱層は、第一の領域として塑性変形を生じるものが好ましく、その塑性変形率は、1%~90%であることが好ましく、4%~75%であることがさらに好ましく、20%~55%であることが特に好ましく、20%~40%であることが最も好ましい。1%~90%の範囲であることによって、例えば本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物をコルゲート加工等する場合において、自己発熱層を有するシート状物に形状追従性を付与しやすくなり、結果として加工性を向上させる効果が期待できる。
【0052】
図4は、1020μmの厚さの自己発熱層として用いることが出来るステンレス繊維焼結不織布を圧縮・開放のサイクルで圧縮試験した際のグラフである。本ステンレス繊維焼結不織布は、繊維径8μm、繊維長3mmのステンレス繊維を有機繊維と共に抄造し、焼結させたものである。本ステンレス繊維焼結不織布の坪量は200g/mであった。グラフ中、1回目~3回目は圧縮回数を示し、1回目が初回圧縮時の測定値、次いで2回目圧縮時の測定値、更に3回目圧縮時の測定値をプロットしている。これによると、本発明に係わる自己発熱層として用いることが出来る前記ステンレス繊維焼結不織布は、塑性変形を示す第一の領域A、弾性変形を示す第二の領域Bを有していることが判る。すなわち、本発明に係わる自己発熱層(ここではステンレス繊維焼結不織布)が、塑性変形を示す第一の領域Aを有していることによって、吸放湿用自己発熱性シート状物がハニカム構造、コルゲート構造等の加工を施された場合であっても、自己発熱層が有する塑性変形特性によって同シート状物の加工性を向上させやすくなる効果を奏する。
【0053】
この変化は、自己発熱層の厚さ方向の圧縮でも発現するし、折り曲げ応力を受けた場合においても折り曲げ箇所内部において圧縮応力が発生する。例えば、ハニカム加工等で本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物が折り曲げられた場合、それを構成する自己発熱層の折り曲げ部内側と外側では、曲率に相当する距離の差が生ずる。例えば、自己発熱層が金属繊維を含んで成る場合、この距離の差を埋めるべく、該層の空隙が狭まることとなり、結果として折り曲げ部では自己発熱層内部に圧縮応力が生ずることとなる。
【0054】
更には、弾性変形を示す第二の領域Bは、圧縮応力に対してのひずみに変曲部aを有することが好ましい。図5は、本発明に係わる弾性変形を示す第二の領域Bをより詳細に説明するためのグラフであり、データ値は図4と同一である。図5に示す変曲部aよりも前の弾性変形を示す領域B1は、所謂バネ弾性領域と解され、変曲部aよりも後ろの弾性変形を示す領域B2は金属内部に歪を溜め込む所謂歪弾性領域であると解される。すなわち、本発明に係わる自己発熱層として用いることが出来る、例えば前記ステンレス繊維焼結不織布が、弾性変形を示す第二の領域Bに、柔軟な弾性変形特性を有する領域である変曲部aよりも前の弾性変形を示す領域B1と、比較的剛直な弾性変形特性を有する領域である変曲部aよりも後ろの弾性変形を示す領域B2とを有することで、吸放湿用自己発熱性シート状物がハニカム構造、コルゲート構造等の加工を施された後においても、自己発熱層が有する形態安定効果によって、同シート状物の形状を安定させやすいという効果を得易い。
【0055】
また、本発明に係わる自己発熱層のJIS P8113に準じて測定される伸び率は、1%~5%であることが好ましい。1%未満であると、例えば本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物をコルゲート加工等する場合において、自己発熱層が破断する恐れがある。5%を越える伸び率であると、自己発熱層を構成する材料が部分的に疎になる恐れがある。図4に示す本発明に係る自己発熱層の伸び率は2.8%であった。
【0056】
(吸着層)
本発明に係わる吸着層3は、水分吸着能力を有する層であればどのような構成も取ることが出来るが、有機繊維並びに有機系吸湿剤及び無機系吸湿剤から選ばれる少なくとも1種を含んで構成される透気性を有する層であることが好ましい。
【0057】
前記有機繊維としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ジエン系樹脂、及びポリウレタン系樹脂等の熱可塑性合成樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性合成樹脂よりなる繊維、木材パルプ、楮、三椏、藁、ケナフ、竹、リンター、バガス、エスパルト、サトウキビ等の植物繊維、あるいはこれらを微細化したものを用いることができる他、セルロース再生繊維であるレーヨン繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂系繊維、シリコーン樹脂系繊維、ステンレスやニッケルウール等の金属繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維等も用いることができる。これらの内、吸湿剤の担持性、後加工適応性等から木材パルプを含むことが好適である。木材パルプとしては、例えば針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP;N材)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;N材、NB材)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP;L材)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、L材)等の化学パルプ、グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、デインキングパルプ(DIP)、ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプやセミケミカルパルプ(CP)などが挙げられる。また、上記熱可塑性合成樹脂の構造は、芯鞘構造を有さない、断面において略単一組成の主体繊維であっても良いし、芯鞘構造を有していてもよい。吸着層が、熱可塑性合成樹脂や熱硬化性合成樹脂を含んでいると、加熱や加圧工程を経て加工された吸放湿用自己発熱性シート状物の加工性、形態安定性を高め易い。
【0058】
前記有機系吸湿剤としては、ポリアクリル酸系に代表される吸水性高分子、カルボキシメチルセルロース等の有機系吸湿剤を用いることができる。
【0059】
前記無機系吸湿剤としては、セピオライト、ゼオライト、ベントナイト、アタパルジャイト、珪藻土、珪藻土頁岩、活性炭、多孔質シリカ、水酸化アルミニウム、繊維状酸化チタン、アロフェン、イモゴライト、非晶質アルミニウム珪酸塩、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウム珪酸塩からなるアルミニウム珪酸塩複合体等を用いることができる。中でも低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウム珪酸塩からなるアルミニウム珪酸塩複合体は、比較的低い温度で脱湿が可能であるため好適に用いることができる。
【0060】
これら吸湿剤はそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用することも出来る。また、吸着層中の吸湿剤の含有量は、吸着層全体質量に対して60質量%~90質量%であることが好ましく、65~85質量%であることがより好ましく、70~80質量%であることがさらに好ましい。60質量%未満になると、目的とする除湿性能が得られ難くなる場合があり、90質量%を超えると、有機繊維成分量の減少により、吸湿剤の脱落等が発生し易くなり加工性が低下する恐れがある。本発明の係る吸着層3は、少なくとも吸放湿用自己発熱性シート状物を構成する自己発熱層1と積層されるため、加工時の形態安定性が確保し易く、これにより吸湿剤の高質量添加が可能となる利点がある。
【0061】
本発明に係る吸着層3は、以下の方法で製造することができるが、量産化には、方法(1)が適している。
方法(1)有機繊維に担持された吸湿剤を含むシートを湿式抄造法又は乾式法によって得る方法。
方法(2)湿式抄造法又は乾式法で得られた有機繊維を含むシートに吸湿剤をコーティングする方法。
方法(3)自己発熱層または、接着層等に吸湿剤と有機繊維とをコーティングすることで形成させる方法。
【0062】
方法(1)
前記乾式法としては、カード法、エアレイド法等を使用することができる。湿式抄造法とは、有機繊維、吸湿剤等を水中に低濃度で分散させて、これを抄き上げる方法であり、安価で、均一性が高く、大量製造が可能な手法である。具体的には、有機繊維と吸湿剤とを主体としてスラリーを調製し、これに填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、定着剤等を適宜添加して、抄紙機で湿式抄造する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種又は異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いることができる。また、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いて、抄紙後の湿紙を乾燥し、シートを得ることができる。このように作製するシートの坪量は、吸湿剤の種類、添加量等により任意の値となり、特に限定されるものではない。
【0063】
湿式抄造法では、有機繊維と吸湿剤等で構成される抄造スラリーを安定化させるために、凝集剤を添加することもできる。凝集剤としては、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、アルミナ、シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム等の金属酸化物又は金属珪酸塩、これら金属酸化物又は金属珪酸塩の含水物、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アニオン又はカチオン変性ポリアクリルアミド、同じくポリエチレンオキサイド系ポリマー、アクリル酸又はメタクリル酸含有共重合物等の水溶性重合体、アルギン酸又はポリビニルリン酸及びこれらのアルカリ性塩、アンモニア、ジエチルアミン及びエチレンジアミン等のアルキルアミン、エタノールアミン等のアルカノールアミン、ピリジン、モルホリン、含アクリロイルモルホリン重合物などがある。特に、アニオン又はカチオン変性水溶性ポリマー凝集剤のうち、ポリマー中にカチオン単位とアニオン単位の双方を有する両性凝集剤は優れた凝集効果を発揮することができるため好ましい。また、アルキルケテンダイマーやアクリル系樹脂に代表されるサイズ剤を添加することもできる。吸放湿用自己発熱性シート状物を加工する際に水分を添加して加工性を補助することがあるが、サイズ剤は添加された水分の過剰吸水を防止し、加工性を向上させ易くする効果を奏する。
【0064】
方法(2)
方法(1)に準じて作製した有機繊維を主体としたシートに、吸湿剤をコーティングする方法である。コーティング用媒体としては、水、水とアルコール、ケトン等の有機溶剤との混合液等を好適に用いることができる。コーティングには、サイズプレス、ゲートロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、コンマコーター、バーコーター、グラビアコーター、キスコーター等の含浸又は塗工装置を使用することが出来る。
【0065】
方法(3)
自己発熱層または、後述する接着層2等を基材として、有機繊維、吸湿剤を主体とするコーティング液を作製し、方法(2)に準ずる方法でコーティングする方法である。
【0066】
(接着層)
本発明に係わる自己発熱層1と吸着層3とは、接着層2を介して積層されていても良い。本発明に係る接着層2は、自己発熱層1と吸着層3を熱伝導可能な態様で接続できるものであれば、いずれの形態をも取ることが出来る。
【0067】
接着層2は、自己発熱層1で発生した熱を効率的に伝達することに主眼を置く場合には、導伝性接着・粘着とすることも出来るし、自己発熱層1を金属繊維不織布主体で構成した場合には、例えば接着層2を、芯鞘繊維等の溶融時に形態維持性を有する合成繊維から成る合成繊維シート等とすることで、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物に透気性を与えることも出来る。この場合、合成繊維の熱溶着等によって自己発熱層1と吸着層3の積層を実施しても良い。このような合成樹脂で熱溶着することによって、吸放湿用自己発熱性シート状物の加工性、形態安定性を高め易くなる効果を奏する。また、合成繊維シートは、織布であっても不織布であっても構わない。
【0068】
前記合成繊維シートに使用される合成繊維は、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維(以下、PET繊維とも言う。)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート繊維(以下、変性PET繊維とも言う。)アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリアリーレンサルファイド樹脂(例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリアセタール繊維、液晶ポリマー繊維、ポリイミド繊維等を使用することが出来るが、溶融時に繊維形態を維持しやすい(透気性を確保しやすい)点から、芯鞘構造のPET繊維又は、変性PET繊維を好適に用いることが出来る。
【0069】
接着層2を形成する方法としては、自己発熱層1又は吸着層3を基材としたコーティングや、接着層2が繊維を主として構成される場合には、前記湿式抄造法又は乾式法等によって形成することができる。
【0070】
自己発熱層と吸着層とを接着層を介して積層する方法は、自己発熱層と吸着層が熱伝導可能な態様で接続されていれば良く、接着層を構成する材料により適宜好適な方法を用いればよい。すなわち、接着層が接着性、粘着性等を有している場合には、その接着性、粘着性を利用して積層すれば良いし、例えば、接着層に熱溶融可能な繊維状物を有する場合には、加熱条件下で積層を実施すれば良い。
【0071】
また、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物は、図6に示すような吸着層を自己発熱層で挟んだ構成とすることも出来る。具体的には、自己発熱層、吸着層、自己発熱層の積層構造や、自己発熱層、接着層、吸着層、接着層、自己発熱層などの積層構造である。このような構造とすることで水分の放出速度が極めて速やかであり、かつ吸着剤の脱落リスクの低い吸放湿用自己発熱性シート状物を得易くなる。
【0072】
(吸放湿体)
図2は、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物を中芯5のようにコルゲート加工し、同じく吸放湿用自己発熱性シート状物をライナ6として、段ボール状のものが積層された態様とした吸放湿体4の例を示すものである。吸放湿体4としては、このような例に留まらずハニカム構造等とすることも出来る。このような加工を施すことで表面積を稼ぎ、吸湿量を向上させることが出来ると共に、構造化によって吸放湿体4の剛性をも高めることができる。また、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物を構成する自己発熱層1は、前記した特性によりコルゲート加工、ハニカム加工等を施す場合の加工適性に優れ、形態安定性も高い。更に、自己発熱層1を金属繊維を主体とした層とした場合には、前記したように加工時に伸びも期待できると共に、加工後も弾性変形領域(弾性変形領域を示す第二の領域)を残していることから、吸放湿体4に外力が加わったとしても形状復元力を有することとなり、吸放湿体4の形態安定性に寄与しやすいという特性を有する。
【0073】
(吸放湿装置)
図3は、透気性を有する層構成の本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物を通気経路に設置した吸放湿装置の一例を示す概略図である。
【0074】
湿気を含んだ空気は上流側から自己発熱層1、接着層2を透過して吸着層3に達し、吸着層3で水分が吸着される。このとき、自己発熱層1は、後述する熱源としての役割を果たすだけではなく、例えばゴミ除去等のフィルタとしての役割も果たすことができる。吸着層3が水分吸着限界に達した場合、あるいは吸着層3の水分吸着性能が低下した場合は、通電回路を介して電源8から電極7に通電を実施する。すると自己発熱層1が自己発熱し、その熱は接着層2を介して吸着層3をすみやかに加熱、吸着層3の脱湿が迅速に行われることとなる。この時、同時に熱風等を供給して、更に脱湿速度を向上させることも出来る。本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物は、自己発熱層1と吸着層3とが熱伝導可能な態様で接続されているため、従来のデシカントロータのように吸湿力再生のために熱風のみを使用する方式と比較して、極めて迅速に再生が完了しやすい傾向がある。また、本発明の吸放湿装置はこの例に留まらず、複数の吸放湿用自己発熱性シート状物や吸放湿体を用意する形態や、吸放湿体の構造化を実施することにより1つの吸放湿体内で、自己発熱層1の加熱領域、非加熱領域を形成しても良い。また、自己発熱層の自由端とは、必ずしも突出した端部を意味せず、例えば円形状の自己発熱層であれば、円周端等であればよい。
【0075】
吸着層3の水分吸着性能は、設置された上流側湿度計10と下流側湿度計11との湿度差によってうかがい知ることができる。すなわち、当該湿度差が一定程度小さくなった場合、吸着層3の水分吸着性能が低下したと判断することが出来る。
【0076】
以上、説明した通り、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置は、自己発熱層と吸着層とが熱伝導可能な態様で接続されているため、吸着した水分の放出速度が極めて速やかであり、自己発熱層が骨材的に機能することにより、ハニカム構造、コルゲート構造等の加工を施す場合であっても加工性に優れている。
【0077】
更には、自己発熱層が、塑性変形を示す第一の領域と、前記第一の領域よりも圧縮応力が高い領域で現れる、弾性変形を示す第二の領域とを具備する場合には、ハニカム構造、コルゲート構造等の加工性を更に向上させることが可能となり、加工後の形態安定性にも優れる吸放湿用自己発熱性シート状物、吸放湿体及びそれらを用いた吸放湿装置を提供することができるものである。
【0078】
図7は、本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物と、自己発熱層を有しない吸着層のみから成るシート状物の加熱時間と温度上昇の関係を示したグラフである。
本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物は、繊維径8μm、繊維長3mmのステンレス繊維焼結体からなる厚さ500μm、坪量100g/mの自己発熱層と、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウム珪酸塩からなるアルミニウム珪酸塩複合体をパルプ繊維に担持させた抄造物である吸着層(アルミニウム珪酸塩複合体の添加量は、吸着層全体を100として90wt%、坪量250g/m)を、芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレートからなる抄造シートである接着層で接着した態様をなす。
吸着層のみから成るシート状物は、上記低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウム珪酸塩からなるアルミニウム珪酸塩複合体をパルプ繊維に担持させた抄造物である吸着層と同じものを用いた。
【0079】
加熱時間と温度上昇の関係を確認した試験方法は以下の通りである。
<本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物>
直流電源の端子を自己発熱層の両端につなぎ、自己発熱層の中心が80℃となる条件で自己発熱層に通電を実施(熱風の通風なし)した。吸着層に貼り付けたK熱電対により吸着層の温度上昇値を経過時間毎に測定した。
<自己発熱層を有しない吸着層のみから成るシート状物>
80℃の熱風を、吸着層を介して通過させた時の吸着層の温度上昇値を、吸着層に貼り付けたK熱電対により、経過時間毎に測定した。
【0080】
図7の吸着層の温度上昇を示すグラフからも判るように、自己発熱層と吸着層が熱伝導可能な態様で接続されている本発明の吸放湿用自己発熱性シート状物は、吸着層のみから成るシート状物に熱風を通過させる態様と比較して、吸着層の温度上昇が極めて速いことが判る。吸着層を構成する吸湿剤は、所定温度に達すると吸着したものを脱湿するため、吸着層の温度上昇が速いことは、すなわち水分の放出速度が極めて速やかであることを示していると言える。
【符号の説明】
【0081】
1 自己発熱層
2 接着層
3 吸着層
4 吸放湿体
5 中芯
6 ライナ
7 電極
8 電源
9 コントローラ
10 上流側湿度計
11 下流側湿度計
A 塑性変形を示す第一の領域
B 弾性変形を示す第二の領域
B1 変曲部aよりも前の弾性変形領域
B2 変曲部aよりも後ろの弾性変形領域
a 変曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7