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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/50 20060101AFI20220513BHJP
【FI】
G01S13/50
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021015524
(22)【出願日】2021-02-03
(62)【分割の表示】P 2019520739の分割
【原出願日】2017-10-26
(65)【公開番号】P2021099345
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】15/339,356
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507002457
【氏名又は名称】トラックマン・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】TRACKMAN A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】フレドリク トゥクセン
(72)【発明者】
【氏名】ジェスパー ブラッシュ
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0107078(US,A1)
【文献】国際公開第2006/002640(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/035076(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0105173(US,A1)
【文献】国際公開第2010/016349(WO,A1)
【文献】特開2009-069028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
G01P 1/00 - 3/80
G01B 11/00 - 11/30
G01B 21/00 - 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
その第1視野が、物体が発進位置から発進される目標空間の少なくとも一部をカバーするように向けられた追跡装置と、
前記追跡装置からデータを受信し、複数の時点それぞれでの前記物体の速度を前記データから識別し、与えられた時間間隔において前記物体が跳ね状態、滑り状態、及び転がり状態のうちの何れであったかを前記速度の変化に基づいて決定するプロセッサと、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、時間の経過に伴う前記物体の速度曲線を計算し、前記速度曲線をセグメントに分割し、それぞれのセグメントについて前記物体が前記跳ね状態、前記滑り状態、及び前記転がり状態のうちの何れであるかを決定することを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムであって、
前記複数のセグメントは遷移ポイントによって境界付けられ、
前記遷移ポイントは、前記物体の速度及び前記物体の加速度のうち1つの変化が、設定閾値を上回るポイントとして識別されることを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムであって、
それぞれの前記セグメントは、前記セグメントの決定された傾きの一部に基づいて、前記跳ね状態、前記滑り状態、又は前記転がり状態であると決定されることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムであって、
前記追跡装置は、前記物体で反射された信号からデータを取得することを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のシステムであって、
前記追跡装置は、前記物体に対して物理的に接触しないことを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1に記載のシステムであって、
前記物体は、改変されていないゴルフボールであることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、前記物体が前記転がり状態である場合における前記物体の減速度を決定し、前記物体が転がる表面の傾斜に基づいて、決められた前記減速度を調整することを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項8に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、前記物体が転がる表面の傾斜に基づいて、重力によって生じる物体への加速度又は減速度を減算して、前記物体が転がる表面によって引き起こされる前記物体の調整減速度を決定することを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムであって、
前記物体が転がる表面の傾斜は、予め定められるか、又は前記追跡装置によって決定されることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項9に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、前記転がり状態の前記物体の前記調整減速度をスティンプ値として出力することを特徴とするシステム。
【請求項12】
システムであって、
その第1視野が、物体が発進位置から発進される目標空間の少なくとも一部をカバーするように向けられた追跡装置と、
前記追跡装置からデータを受信し、複数の時点それぞれでの前記物体の速度を前記データから識別し、前記速度の変化に基づいて、前記物体が滑り状態であった間の前記物体の経路の部分を識別するプロセッサと、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、時間の経過に伴う前記物体の速度曲線を計算し、前記速度曲線をセグメントに分割し、それぞれのセグメントについて前記物体が跳ね状態、前記滑り状態、及び転がり状態のうちの何れであるかを決定することを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項13に記載のシステムであって、
与えられた前記セグメントにおける前記速度の傾きが第1の予め定められた閾値より小さい場合は、当該セグメントに対して時間的に先行するセグメントにおいて前記物体が前記転がり状態であると判定されない限り、当該与えられたセグメントにおいて前記物体は前記滑り状態であると決定されることを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムであって、
与えられた前記セグメントにおける前記速度の傾きが前記第1の予め定められた閾値以上であるか、又は、与えられた当該セグメントに対して時間的に先行するセグメントにおいて前記物体が前記転がり状態であると判定された場合であって、かつ、
与えられた前記セグメントにおける前記速度の傾きが第2の予め定められた閾値より小さい場合は、
当該与えられたセグメントにおいて前記物体は前記転がり状態であると決定されることを特徴とするシステム。
【請求項16】
請求項15に記載のシステムであって、
前記セグメントの速度の傾きが前記第2の予め定められた閾値より大きく、当該セグメントにおける移動距離を前記物体の総移動距離で除算したものが第3の予め定められた閾値よりも大きくない場合は、当該与えられたセグメントにおいて前記物体は前記跳ね状態であると決定されることを特徴とするシステム。
【請求項17】
方法であって、
その第1視野が、物体が発進位置から発進される目標空間の少なくとも一部をカバーするように向けられた追跡装置を配置することと、
複数の時点それぞれでの前記物体の速度をデータから識別することと、
与えられた時間間隔において前記物体が跳ね状態、滑り状態、及び転がり状態のうちの何れであったかを、前記速度の変化に基づいて決定することと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、
時間の経過に伴う前記物体の速度曲線を計算することと、
前記速度曲線をセグメントに分割することと、
それぞれのセグメントについて前記物体が前記跳ね状態、前記滑り状態、及び前記転がり状態のうちの何れであるかを決定することと、
を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
前記複数のセグメントは遷移ポイントによって境界付けられ、
前記遷移ポイントは、前記物体の速度及び前記物体の加速度のうち1つの変化が、設定閾値を上回るポイントとして識別されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
それぞれの前記セグメントは、前記セグメントの決定された傾きの一部に基づいて、前記跳ね状態、前記滑り状態、又は前記転がり状態であると決定されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法であって、
前記追跡装置は、前記物体で反射された信号からデータを取得することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、
前記追跡装置は、前記物体に対して物理的に接触しないことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項17に記載の方法であって、
前記物体は、改変されていないゴルフボールであることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項17に記載の方法であって、
前記物体が前記転がり状態である場合における前記物体の減速度を決定することと、
前記物体が転がる表面の傾斜に基づいて、決められた前記減速度を調整することと、
を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、
前記物体が転がる表面の傾斜に基づいて、重力によって生じる物体への加速度又は減速度を減算して、前記物体が転がる表面によって引き起こされる前記物体の調整減速度を決定することを更に含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、
前記物体が転がる表面の傾斜は、予め定められるか、又は前記追跡装置によって決定されることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法であって、
前記転がり状態の前記物体の前記調整減速度をスティンプ値として出力することを更に含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ゴルフボール等の物体の飛行を追跡するためのシステムが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
しかし、このようなシステムは、一般的に、物体の跳ね、滑り及び転がりを区別及び測定することができない。従来のシステムはスキッドを測定しており、ここでスキッドは物体の跳ね及び滑りを含むが、この測定は、パッティンググリーン等におけるゴルフボールの動きのような現実の世界の状況ではなく、ベルベットカーペットのような特殊な表面におけるスキッドに限定されている。他のシステムにおいては、ボールが実際に転がり始める時間を識別することを目的として、ボールの回転速度をその直線速度と比較するために、物体へ特別にマークすることが必要である。しかし、これらのシステムは、特殊なボールでしか機能せず、プレイヤーがこのような特殊なマーカーを含まないボールを使用する状況に適用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、物体を追跡するためのシステムに関する。このシステムは、第1の追跡装置を含み、当該第1の追跡装置の第1視野が、物体が発進される目標空間の少なくとも一部をカバーするように向けられている。このシステムは、またプロセッサを含み、このプロセッサが前記追跡装置からデータを受信し、受信した前記データから時間の経過に伴う物体の速度を識別する。当該プロセッサは、物体の速度の変化に基づいて、物体の経路における物体が跳ね返る第1部分、物体の経路における物体が滑る第2部分、及び物体の経路における物体が転がる第3部分のうち1つ以上を識別する。
【0004】
前記追跡装置は、少なくともボールの速度を時間の関数として測定できる任意の追跡装置とすることができる。ボールの位置も測定されることが好ましい。前記追跡装置は、非接触で追跡を実行し、好ましくはボールに対して修正せずに追跡を実行する。前記追跡装置は、ドップラーレーダ、ライダー(Lidar)、又はカメラ追跡装置、或いはこれらの任意の組合せである。
【0005】
例示的な実施形態によれば、複数の時間フレームのそれぞれについて、前記プロセッサは、前記第1追跡装置から信号を受信して、受信した信号から、識別された物体の位置及び速度の値を含む物体データを計算する。
【0006】
例示的な実施形態によれば、前記プロセッサは、複数の時間フレームのそれぞれにおいて物体の速度値を決めることで、物体の速度を時間の関数として決める。
【0007】
例示的な実施形態によれば、前記プロセッサは、速度の変化に基づいて、物体の経路を複数のセグメントに分割する。例えば、セグメントのそれぞれは、全経路における、速度の導関数(減速度)がほぼ一定である一部に相当し得る。言い換えれば、前記セグメントは減速度における不連続が検出された点で分割される。
【0008】
例示的な実施形態によれば、前記セグメント中における減速度及び/又は前記セグメント中で移動した距離に基づいて、複数のセグメントのそれぞれが、跳ね、滑り、又は転がり状態のうちの何れか1つであるかを識別する。前記セグメント中で移動した距離Rは、期間又はセグメントにおける速度対時間曲線V(t)の下側の面積として計算することが好ましい。
【数1】
【0009】
例示的な実施形態によれば、セグメント中における減速度が2m/s2より大きく(加速度が-2m/s2未満)、かつ、前のセグメントが転がり状態ではなかった場合、当該物体は滑り状態であると判定される。
【0010】
例示的な実施形態によれば、セグメント中における減速度が0.5/s2以上であって、また2m/s2より小さい場合、当該物体は転がり状態である。
【0011】
例示的な実施形態によれば、セグメント中における減速度が0.5m/より小さく、かつ、当該セグメント中において物体が移動した距離を物体が全経路において移動した総距離で除算したものが0.3より大きい場合、当該物体が跳ね状態である。
【0012】
例示的な実施形態によれば、跳ね状態、滑り状態又は転がり状態における物体の移動距離は、跳ねセグメント、滑りセグメント又は転がりセグメントにおける速度対時間曲線の下側の面積を計算することによって決められる。
【0013】
例示的な実施形態によれば、前記システムは、速度及びその導関数(加速度)の不連続を検出することで各セグメントの始まり及び終わりを識別する。
【0014】
例示的な実施形態によれば、隣接する第1データポイント及び第2データポイントの間の差が設定された閾値より大きい場合、不連続が検出される。
【0015】
例示的な実施形態によれば、前記追跡装置は、連続波ドップラーレーダである。この場合、レーダに対する物体の径方向速度Vradは、ドップラー方程式Vrad=Fd×λ/2を用いて、レーダ信号におけるドップラー周波数の偏移Fdから直接測定することができ、ここで、λは、レーダの送信周波数の波長である。
【0016】
例示的な実施形態によれば、前記システムは、データを表示する画面を含む。
【0017】
例示的な実施形態によれば、第1レーダの送信周波数は10~125GHzである。
【0018】
例示的な実施形態によれば、前記システムは、第2の追跡装置を更に含み、当該第2の追跡装置の第2視野が、目標空間の少なくとも一部をカバーするように向けられ、当該目標空間の少なくとも一部は、前記第1視野以外の目標空間の一部を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の例示的な実施形態によるレーダ追跡システムを用いるパッティンググリーンを示す斜視図である。
図2図2は、例示的な実施形態によるレーダ特有のコンピュータの動作方法を示すフローチャートである。
図3図3は、例示的な実施形態による物体の速度を追跡及びセグメント化する方法を示すフローチャートである。
図4A図4Aは、ドップラーレーダからの第1サンプルのドップラー周波数スペクトログラムを示すグラフである。
図4B図4Bは、図4Aのドップラー周波数スペクトログラムにおいて検出された物体の速度を時間の関数として示すグラフである。
図4C図4Cは、図4Bの速度グラフから決められた物体の加速度を示すグラフである。
図5A図5Aは、ドップラーレーダからの第2サンプルのドップラー周波数スペクトログラムを示すグラフである。
図5B図5Bは、図5Aのドップラー周波数スペクトログラムにおいて検出された物体の速度を時間の関数として示すグラフである。
図5C図5Cは、図5Bの速度グラフから決められた物体の加速度を示すグラフである。
図6図6は、セグメントが滑り状態、転がり状態、又は跳ね状態に関するかを決めるための方法を示すフローチャートである。
図7図7は、ユーザがパッティンググリーンにいる状態に関連する装置の表示画面の例を示す図である。
図8図8は、物体の高さを移動距離の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
例示的な実施形態は、以下の説明及び関連する添付の図面を参照して更に理解することができ、ここで同様の要素には同じ参照番号が与えられている。この例示的な実施形態は、例えばレーダ装置等の追跡装置を用いることで、物体がある領域を通過するときにおいて、物体の動きを、跳ね状態、滑り状態、又は転がり状態に分類し、各セグメントの時間/移動距離を分類するように、物体が発進位置から発進された軌跡を追跡する装置、システム及び方法に関する。発進領域の物理的なサイズ並びに第1の追跡装置の視野遮断等のような実際的な問題に応じて、システムによって監視される空間の範囲及び精度を高めるために、システムに1つ以上の追加レーダを有することが望ましい。本明細書で詳述される例示的な実施形態はゴルフボールの追跡について説明しているが、当業者は、任意のスポーツボール又はスポーツに関連しない物体でも同じ方法のシステムを用いて追跡され得ることを理解するだろう。
【0021】
図1は、例示的な実施形態による物体を追跡するための第1のシステム100を示す。この第1のシステム100は、物体が発進される目標領域の周囲に分布される追跡装置102(例えば、レーダ装置)を含む。図1の実施形態において、システム100は、パッティンググリーン106の第1領域108に位置する設定発進位置104から目標領域(例えば、練習用グリーン106)内で打たれたゴルフボールを追跡するためのシステムである。理解されているように、設定発進位置104は、パッティンググリーン106内の任意の領域に位置することができる。後述のように、目標領域は、特別に作成された領域でなくても良く、不規則で、起伏する芝の表面及び1つ以上の穴又は他の目標を有するゴルフグリーン又は練習用グリーンであっても良い。レーダ102は、例えば、連続波ドップラーレーダであって、この連続波ドップラーレーダが、Xバンド(8~125GHz)の周波数であって、最大500ミリワットのEIRP(等価等方放射電力:Equivalent Isotropic Radiated Power)でマイクロ波を放射し、従って、短距離国際放射器のFCC及びCE規制に準拠している。しかし、他の管轄領域では、地域規制に従って他の電力レベルが使用されても良い。例示的な実施形態において、マイクロ波は、例えば10~125GHzの間の相対的に高い周波数で放射される。相対的に低い物体の速度をより正確に測定するために、20GHz又はそれより高い周波数を使用することができる。位相変調又は周波数変調のCWレーダ、多周波数のCWレーダ、又は単一周波数のCWレーダを含む任意のタイプの連続波(CW)レーダを使用することができる。ライダー(Lidar)のような他の追跡装置を、可視又は非可視周波数領域の何れかにおける放射で使用できることが理解されるだろう。現在のパルスレーダシステムは、レーダ装置の近くにある物体を追跡する能力に限界がある。しかし、時間の経過に伴って、これらのパルスレーダシステムから物体が離れるべき距離も減少しており、そして、今後も減少し続けると予想される。従って、これらのタイプのレーダは、以下に説明する本発明のシステムにおける運用及び用途に、すぐに有効になる可能性があると考えられる。本出願を通じて、物体の追跡は、ドップラー周波数スペクトルの使用に基づいて説明される。理解されるように、これらのドップラー周波数スペクトルは、連続波ドップラーレーダからのデータを参照する。パルスレーダシステムが用いられた場合、物体から反射した後にパルスがレーダに戻るのに必要な時間に基づいて、類似のデータが計算されるだろう。本明細書に記載されたものと類似する、物体を3次元的に追跡することが可能な他の任意のタイプのレーダも使用することができる。別の実施形態においては、1次元ドップラーレーダ等の1次元追跡装置を使用することができる。別の実施形態において、システムは、物体が発進される目標領域の周りに分布された複数の追跡装置を使用することができる。この実施形態において、各追跡装置は、グリーンの周囲の任意位置に配置することができ、複数の追跡装置が用いられる場合、これらが重複視野を有するようにグリーンの周りに配置することができる。
【0022】
図1に示すように、レーダ装置102は、練習用グリーン106を含む目標領域108に近い位置であって、目標領域108に向かって配置されている。この実施形態におけるレーダ装置102は、当該レーダ装置102の視野110が練習用グリーン106の全体及びその周囲の領域の一部を含むように配置される。練習用グリーン106に近いこの位置は、練習用グリーン106内のほぼ任意の場所から発進された物体に対して、レーダ装置102が(グリーンにおける介在物又は人による遮断は別として)木、建物又は他の構造物からの妨害なしに追跡できるように選択される。つまり、典型的な練習用グリーン106の場合、レーダ装置102は、a)練習用グリーン106の中心位置、又はb)プレイヤーより高い位置の何れかに位置する。一部の実施形態において、レーダ装置の最適位置は、パットの長さに応じて、パットの予定開始位置の例えば5~10フィート後ろ側の位置、又はパットの予定方向の真正面で、例えば10~40フィート前側からパットの開始位置に向かう位置の何れかとすることができる。
【0023】
システム100は、データ処理システム200を含み、当該データ処理システム200は、当業者に理解されるように、有線又は無線を介してレーダ装置102(又は複数のレーダ装置)に接続された1つ以上のコンピュータを含む。一実施形態において、データ処理システム200は、レーダ装置102に関連するコンピュータ202を含む。例示的な実施形態において、コンピュータ202は、コンピュータ202が視野110を通過する物体112等の物体を追跡し、グリーン106に対する物体112の軌跡を描くことを可能にするように、レーダ装置102からのデータに関連する3次元レーダ座標系を定義する。当業者であれば、全般的な座標系をレーザ座標系と同一にして計算を簡単にし、又は、全般的な座標系を、マルチレーダシステムの何れか1つのレーダ装置のレーダ座標系と同一にすることができることを理解するだろう。ただし、視野110に現れる不変の物理的特徴に基づいて全般的な座標系を定義すると、システム100が必要に応じてこれらの不変の物理的特徴を参照して再較正され得るため、望ましい。例えば、座標系は、グリーン106の中心からグリーン106のエンドラインの中心まで延びる水平な軸に基づくことができる。従って、レーダ装置102が移動された場合、容易に再較正して、物体の位置及び軌跡をグリーン106の特徴に正確に相関させることができる。
【0024】
図2のフローチャートは、コンピュータ202によって実施される動作方法300を示しており、この方法は、測定が行われる各時間間隔で繰り返される。例えば、例示的なシステムにおいて、コンピュータ200は、10ms毎に(又は毎秒100回)図2の方法を実行する。各時間間隔につき、ステップ310において、コンピュータ202は、レーダ装置102からデータを受信し、生のドップラーレーダデータをコンピュータに送信する。ステップ320において、コンピュータ202は、複数の時間間隔でスペクトログラムを形成するために、例えば、高速フーリエ変換(FFT)を用いて、図4A及び図5Aに示すドップラー周波数スペクトル204を計算する。ステップ330において、コンピュータ202は、既知の技術を用いて、ドップラー周波数スペクトル204から強度の局所的な最大値を識別する。当業者に理解されているように、レーダデータに示された物体112の速度データは、識別された各時点で計算することができる。次に、ステップ340において、コンピュータ202は、時間の関数として、図4B及び図5Bに示すような、物体112の速度の結果グラフを計算する。当業者に理解されるように、図4C及び図5Cに示すように、速度グラフの傾きは物体112の加速度又は減速度に対応し、また、このグラフの傾きの下側の面積(area)は、物体112が移動した距離に対応する。当業者であれば、ドップラーレーダの送信周波数が高いほど、同じ観測時間に対して速度分解能が高くなることを理解するだろう。低速--一般的に10m/s未満--で現れるパットを追跡するために、及び、ボールを、領域内の例えばパターヘッド、パターシャフト及びゴルファー等の他の物体と区別するために、高い速度分解能が望ましい。例として、0.25m/s未満の速度分解能が好ましい。高い速度分解能は、短い観測時間(例えば0.100秒以下)で、ボールの跳ね状態、滑り状態、及び/又は転がり状態の間の遷移を識別するための、速度の鋭い変動を正確に追跡することにも有用であり、この観測時間は、各状態の時間スパンである。例えば、(8~12GHz)のような低いXバンドの周波数で良好な追跡が達成されている。例示的な実施形態においては、20GHzを超える高い周波数を用いることで、跳ね状態、滑り状態、及び転がり状態の間の遷移を識別する精度を高めることができるとともに、より低い速度でボールを追跡することができる。8GHzより低い送信周波数を用いることも可能であるが、これは実際の状況において速度を時間の関数として正確に追跡することをより困難にするかもしれないことを、当業者であれば理解するだろう。
【0025】
この実施形態において、コンピュータ202は、各時間間隔で図3の方法400を実行することで、システムに関連する動きを識別する(例えば、視野110を通過する物体112と鳥、葉及び他の物とを区別する)とともに、物体112の速度を特定の速度の隔たりでセグメント化する。即ち、セグメントは、その間において、速度が連続的であって、速度が連続的な導関数を有する期間として定義される。当業者に理解されるように、パッティングされたボールの動きに関連するパターンに従わない移動アイテム(例えば、ゴルフクラブ、ゴルファー、葉、鳥)が検出されて、分析から除外される。ステップ410において、コンピュータ202は、時間の経過に伴う物体112の速度、及び速度の導関数、即ち物体の減速度(負の加速度)を追跡する。例えば、コンピュータ202は、パターとボールとの間の最初に検出された接触の瞬間である時点0から、速度の追跡を始める。ステップ420においては、速度及び/又はその導関数(加速度)における不連続を検出するための不連続検出が実行される。例示的な実施形態において、あるデータポイントから隣接するデータポイントまでの速度の変化、又は導関数の変動が設定された閾値より大きい任意のタイミングにおいて、不連続がプロセッサにより検出される。例えば、速度の不連続に対する例示的な閾値は0.05m/sの変化とすることができ、加速度の不連続に対する例示的な閾値は0.2m/s2の変化とすることができる。不連続が検出された場合、コンピュータ202は、当該不連続と直前の不連続(又は時点0)との間の連続部分を第1セグメントとして定め、このセグメントが保存される。例えば、図4Bにおいて、第1セグメントは、0から、速度の傾きにおける変化が不連続であると判定されるTB1まで延びる。ステップ440において、コンピュータは、TB1における第1セグメントの最終速度が0より大きいか否かを判定する。そうであれば、コンピュータは、ステップ420に戻り、TB1から開始する速度を追跡し続ける。この方法は、時間Tlastdataで速度が0(又は、追跡装置102が物体112を追跡できない速度)に達するまで繰り返され、コンピュータ202は、隣接する不連続の間の速度の各セグメントを保存する。
【0026】
物体112の速度が、用いられる特定の追跡装置(複数の追跡装置)によって検出可能な最小レベルを下回る場合、物体112の速度は、図4B及び図5Bに示すように、レーダ装置102により検出された最後のセグメントにおける速度の傾きを速度が0となるまで延長することで、推定することができる。例えば、図4においては、TskidからTlastdataまでの速度の傾きが、簡単にTlastdataからTendまで延長され、Tlastdataは、追跡装置102が物体112の速度を最後に検出したポイントであり、Tendは、物体が動きを停止する時点である。当業者であれば、物体112が転がり始めると、減速度、又は時が経過するに伴う速度の変化が比較的に一定になることを理解するだろう(グリーンの表面の傾斜による影響を除く)。
【0027】
図6に示すように、各セグメント部分に対して、コンピュータ202は、速度の傾きを分析することで物体112の各状態(例えば、セグメント時間間隔における滑り、跳ね、転がり)を決める。平坦なグリーンでボールが転がる場合、速度/時間のグラフの最小の傾きは約-0.35m/s2であり、最大の傾きは約-1.4m/s2である。平坦なグリーンで滑るボールに関する傾きは、典型的に、ボールが転がる場合の4倍のマイナスであって、例えば、-1.4m/s2から-5.6m/s2になり、一方、跳ねるボールの傾きは、0.1~-0.5m/s2の間である。当業者であれば、跳ね及び滑りにおけるボールの回転においても同じように、これらの図は例示的なものにすぎず、例えば物体が動いている表面(例えば、芝の長さ及び特性、物体の大きさ、及び上り坂又は下り坂であるか、風の速度及び方向等)のような様々な要因に応じて変わることを理解するであろう。一般的に、ボールは停止する前に最終的には転がり状態で終了するので、最後のセグメントにおける減速度を分析して、これを用いて転がり加速度閾値及び滑り加速度閾値を設定することが推奨される。
【0028】
グリーンが平坦でない場合、ボールの滑り状態及び転がり状態において、sin(α)×Gとなる重力加速度の成分がボールに加えられ、ここで、αは、パット方向における水平線(ウォーターライン)に対する地面の傾斜角度であり、Gは、地球上の重力加速度(9.81m/s2)である。ボールの滑り状態及び転がり状態の間の判定におけるより良い閾値処理のために、跳ねセグメントではないボールの滑り状態又は転がり状態を判定するために用いられる加速度は、Aslope_corrected=Ameasured-sin(α)×Gのように補正でき、ここで、グリーン106が物体112の進行方向に向かって下り方向に傾斜している場合、αは正であり、グリーン106が物体112の進行方向に向かって上り方向に傾斜している場合、αは負である。追跡システムが移動距離の関数として物体の高さを測定できる場合、これを用いて、図8に示すように、与えられた任意の時点における傾斜角度αを計算することができる。あるいは、この傾斜が予め決められていても良い。
【0029】
当業者であれば、パッティングされたボール112はいつも滑り状態又は跳ね状態の何れかの状態から始まること--即ち、静止状態からパッティングされたボールが、滑ることも跳ねることもなく直ちに転がることはないことを理解するだろう。しばらくすると、ボール112は滑らずに転がり始め、その後滑ることがなくなり、ボール112は、表面上の物体、例えば、棒、石、又は土塊に当たった場合にのみ跳ねる。ステップ510においては、セグメントが分析されることで、当該セグメントの傾きが閾値Aslideより小さいか否かを判定する。Aslideは、典型的に-2m/s2前後である。傾きがAslideより小さく、1つ前のセグメントが転がり状態ではなかった場合、当該セグメントが滑り状態であると判定され、方法はステップ540に進む。しかし、1つ前のセグメントが転がり状態であった場合、又は傾きがAslide以上である場合、コンピュータ202は、ステップ520に進む。ステップ520においては、セグメントが更に分析されることで、当該セグメントの傾きが閾値Arollより小さいか否かを判定し、ここでArollは典型的に-0.5m/s2である。傾きが-0.5m/s2より小さいと判明した場合、当該セグメントが転がり状態であると判定され、方法はステップ540に進む。傾きが-0.5m/s2以上である場合、コンピュータ202はステップ530に進む。ステップ530において、コンピュータ202は、速度対時間セグメントの下側の面積に対応する、セグメント間に移動した距離Rを、ボールの総移動距離Rtotal(Rbounce+Rslide+Rroll-tracked+Rroll-extrapolated)で割った値が、閾値SRmaxより大きいか否かを判定し、ここで、SRmaxは典型的に0.3である。そうであれば、当該セグメントは転がり状態であると判定される。そうでなければ、セグメントは跳ね状態であると判定され、方法はステップ540に進む。ステップ540において、コンピュータ202は、まだ分析されておらず、保存された他のセグメントがあるか否かを判定する。そうであれば、コンピュータ202は、この次に保存されたセグメント(例えば、前に分析されたセグメントの後の時間のセグメント)を分析し、全てのセグメントが分析され、各セグメントにおける状態が確定されるまでステップ510~540を再び行う。ステップ550においては、全てのセグメントが分析されると、データが図7に示す出力装置212(例えば、パッティンググリーン106に隣接する、又はユーザがデータを見ることができるその他の任意場所に位置する装置)に提供される。例えば、この装置212は、データを表示する画面、グリーン106にいるユーザに関連するモバイルデバイス等であっても良い。前述のように、閾値Aslide及びArollは、最後のセグメントAlastで測定された加速度に従って、予め設定又は調整することができる。ボールは殆どの場合において最後のセグメントで転がるので、Alastは転がり状態の加速度Arollに等しい。従って、Arollの適切な閾値は、およそ0.5×Alastとなる。同様に、Aslideの適切な閾値は、およそ2×Alastとなる。
【0030】
一部の例においては、ユーザが、物体112が転がり始める前の移動距離--即ち、ボール112が転がり始める前に跳ねた及び/又は滑った距離を知りたい場合がある。図5及び図6における手順400及び500は、速度及び/又は減速度におけるあらゆる不連続を見つけることを目的としているが、これは必須ではない。例えば、ユーザは、その前に何回の跳ね状態及び/又は滑り状態のセグメントが発生したかを定量化することなく、ボールが初めて転がり状態となる時点までの時間及び移動距離のみを決定して欲しいことがある。コンピュータ202は、跳ね状態又は滑り状態と判定された時間のセグメントに対して速度の下側の総面積を計算することで、この距離を決める。次に、この距離データが装置212に送信されても良く、その後、この距離がパットの全長と比較されても良い。当業者に理解されるように、装置212に送信されたデータは、その軌跡に沿った物体112の速度を示すグラフィックデータ、表データを含み、この表データは、例えば、跳ね速度、初期転がり速度、異なるセグメントでカバーされた距離、セグメントにおける減速度、跳ねる回数等のような速度に関連するものである。特に興味深い減速度は、物体が転がる地面の傾斜に対して補正された、転がり状態における減速度Arcorrectedである。この値は、グリーンの“スティンプメータ”の値に直接関係し、このスティンプメータの値は、ゴルフグリーンの速度条件を表す重要な数値である。スティンプメータは、ボールが完全に転がっている状態で、グリーンにおいて明確な初期速度V0(約1.94m/s2)でゴルフボールを発進するために用いられる機械装置である。スティンプメータの値は、フィート単位で示した、グリーンにおけるボールの移動距離である。スティンプメータの値は、StimpMeter_ft=0.5×V02/Arcorrected/0.3048から決めることができる。従って、本発明は、グリーンに対する“スティンプメータ”の値を決める非常に魅力的な方法を提供する。
【0031】
前述の実施形態は練習用グリーンで打たれたゴルフボールを説明しているが、上述の例示的な実施形態は、任意の表面上の任意の球状物の速度及び動きを追跡するために実施され得ることを当業者は理解するだろう。例えば、システム100は、ゴルフコースにおける任意のグリーンでのパット、グリーンへ打たれたチップショット、ゴルフコースの任意部分(例えば、ラフ、フェアウェー、バンカー、エプロン、グリーン等)へ打たれたフルショットを追跡することができる。別の例示的な実施形態において、説明したシステム100は、他のスポーツボールを追跡して、ボールの進路を境界と比較する(例えば、打たれた野球ボールがフェアかファウルか、テニスのショットがインかアウトか等を判定する)。他の応用は、ボウリング及びビリヤード(例えば、ボウリング又はビリヤードのボールが、初期に滑った及び/又は跳ねた後、いつ転がり始めるかを判定する)と、サッカー(例えば、キックにおける跳ね、滑り、及び転がりを測定する)と、を含む。
【0032】
当業者であれば、上述の例示的な実施形態が、任意の適切なソフトウェア又はハードウェア構成、又はそれらの組合せで実施され得ることを理解するだろう。例示的な実施形態を実現する例示的なハードウェアプラットフォームは、例えば、互換性のあるオペレーティングシステムを備えるIntelx86ベースのプラットフォーム、Windowsプラットフォーム、Linuxプラットフォーム、Macプラットフォーム、及びiOS、Androidのようなオペレーティングシステムを備えるモバイルデバイス等を含む。更なる例において、上述の方法の例示的な実施形態は、プロセッサ又はマイクロプロセッサ上で実行可能な非一過性のコンピュータ可読記憶媒体に記憶されたコード行を含むプログラムとして実施することができる。
【0033】
発明の様々な変更は、本発明の意図及び範囲から逸脱することなくなされ得るべきであることは明らかである。従って、本発明は、添付の請求項及びそれらと同等の範囲内において、変更と変化を包含することが意図される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8