(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】粘着組成物及び粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C09J 107/00 20060101AFI20220513BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20220513BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220513BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220513BHJP
【FI】
C09J107/00
C09J175/04
C09J11/06
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2021558780
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021014048
【審査請求日】2021-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145079
【氏名又は名称】株式会社寺岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】土屋 靖史
(72)【発明者】
【氏名】岡村 菖子
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-064617(JP,A)
【文献】特開2000-086986(JP,A)
【文献】特開2017-179118(JP,A)
【文献】特開2014-005372(JP,A)
【文献】特開平10-120019(JP,A)
【文献】特開平09-012991(JP,A)
【文献】特表2018-526480(JP,A)
【文献】国際公開第2016/056467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムと架橋剤と粘着付与剤と架橋調整剤を含む粘着組成物であり、
前記架橋剤として、ジフェニルメタンジイソシアネート構造を有するイソシアネート系化合物を前記天然ゴム100質量部に対して2.5~10質量部、前記結着付与剤として、軟化点125℃以上の石油系粘着付与剤を天然ゴム100質量部に対して60~90質量部含み、該粘着組成物の硬化後の損失正接の極小温度が78.7℃以上で極小値が0.20以下であり、かつ該損失正接の極大温度が25.0℃以下で極大値が1.15以下であることを特徴とする粘着組成物。
【請求項2】
前記天然ゴムは、ムーニー粘度ML
1+4(100℃)が20~85のものである請求項1に記載の粘着組成物。
【請求項3】
前記天然ゴムは、ムーニー粘度ML
1+4(100℃)が20~35のものである請求項2に記載の粘着組成物。
【請求項4】
前記架橋調整剤が、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、金属系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ヒンダードアミン系化合物から選択される少なくとも1種の化合物である請求項1~
3のいずれか1項に記載の粘着組成物。
【請求項5】
前記天然ゴム100質量部に対して、前記架橋調整剤を1~5質量部含む請求項1~
4のいずれか1項に記載の粘着組成物。
【請求項6】
シート状の基材の少なくとも一方の面に、請求項1~
5のいずれか1項に記載の粘着組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分として天然ゴムを使用した粘着組成物に関し、架橋度合が高く優れた凝集性と自己粘着面粘着性を有し、金属や樹脂やコーティング素材をはじめとする多様な被着体に対する優れた粘着力・高温保持性・再剥離性を有する粘着組成物に関する。
また本発明は、上記粘着組成物を使用し、物品の製造・組立段階や輸送段階において要求される強い固定力を有し、再剥離した場合に被着体の汚染が少なく、剥がしやすい仮固定に適した粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器や事務機器、家電製品、インテリアをはじめとする工業製品において、製造や組立中のマスキング・補強・保護・識別や、製造後の輸送中における破損防止・梱包補助の目的で物品に粘着テープを直接貼り付け、目的を達成した後に引き剥がされる。よって、このような仮固定用の粘着テープには、優れた被着体への固定力(粘着力、高温保持性)と、剥離(再剥離ともいう)した場合に被着体への汚染が少ないこと(再剥離性)との相反する性能が要求される。
また、テープを剥がしやすくして再剥離性をさらに高めるために、テープ再剥離時の持ち手としてテープの末端を糊面側に折り返した状態で保持できること(自己粘着面粘着性)が要求される。
【0003】
このような目的で使用される仮固定用粘着テープに適した粘着剤としては、性能と価格の観点から、アクリル系やゴム系の粘着剤が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、粘着剤層がイソプレン系ゴムと粘着付与剤とをジルコニウム化合物の存在下、硬化剤により硬化させて得られたものが記載されている。特許文献2にはメタクリル酸メチルを重合した天然ゴムからなるゴム成分とイソシアネート化合物及びアミノエチル化アクリル樹脂を含む組成物からなる下塗り剤層をゴム系粘着剤層と基材との間に設けることが記載されている。特許文献3ではゴム質ポリマーに粘着付与剤を加えてイソシアネート系架橋剤で架橋処理してなる固形タイプの粘着剤組成物からなる層を設けた粘着シート類が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-034582号公報
【文献】特開2014-240484号公報
【文献】特開2001-181596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ジルコニウム化合物として有機ジルコニウム化合物を用い、また硬化剤としてイソシアネート系硬化剤により硬化することにより、粘着剤の凝集力が高まるとされているが、有機ジルコニウム化合物を使用してもゲル分率が低く(17~30%)、測定条件が緩やかであることから、本発明が目的とする様な高温保持力や糊残り性には劣るものと予想される。
【0007】
特許文献2では、好ましい実施形態として粘着剤層が、天然ゴム50~80重量部および分子中に過酸化物を有するイソプレンゴム20~45重量部を含むエラストマーと、粘着付与樹脂50~100重量部と、架橋剤0.1~15重量部を含有しており、上記特定の下塗り剤層と組み合わせることで、強い粘着力を有し、かつテープを剥離したときの被着体への糊残り等の汚染が有意に抑えられるとしている。また、分子中に過酸化物を有する液状イソプレンゴムの添加により天然ゴム架橋(加硫)に通常用いる硫黄や過酸化物を使わず、120℃以上での養生も必要なく、常温常湿の保管環境での架橋が可能となるとされている。また架橋剤としてエポキシ樹脂およびイソシアネート樹脂等が用いられることが記載されているものの、好ましくはエポキシ樹脂であるとされている(段落0023)。実施例では、下塗り剤層にイソシアネート化合物が使用されているものの、粘着剤層の架橋剤はエポキシ系であり、また粘着剤層は純粋な天然ゴムだけではなく分子中に過酸化物を有する液状イソプレンゴムを用いて架橋させている。ゲル分率の合否を20%と低く設定しており、保持力測定条件の合否も合格基準が低いため、本発明が目的とする様な十分な保持力とは言い難い。
【0008】
特許文献3の粘着剤組成物は、無溶剤で、天然ゴムからなるゴム質ポリマーに粘着付与剤およびイソシアネート系架橋剤を加えて、80~120℃で加熱混練すると同時に架橋処理した固形タイプの組成物である。加熱混練方法を工夫して、イソシアネート系架橋剤を用いた固形タイプでもごく弱い適度な架橋を実現でき、接着力を維持したまま凝集力を高められ、また、微量の架橋剤の添加でも低分子量化を起こさず均一に分散できるようになったとされている。しかし、特許文献3では、23℃で引き剥がしによる接着力試験、40℃で2kg荷重による保持力試験が実施されているが、さらに高温での特性は評価されていない。
【0009】
また、過去には、アクリル系粘着剤を使用し、固定力や凝集力に優れたアクリル系粘着剤を使用した物品仮固定用テープが検討されているが、アクリル系粘着剤では自己粘着面粘着性が不十分であり、また、金属やガラスへの粘着力が高く、再剥離時の被着体汚染が懸念される。
【0010】
本発明では、金属や樹脂やコーティング素材をはじめとする多様な被着体に対する優れた粘着力・高温保持性・低汚染性を有するゴム系の粘着組成物を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、ゴム系粘着剤を使用し、物品の製造・組立段階や輸送段階において高温や高温多湿環境にさらされても再剥離後の被着体の汚染が少なく、かつテープ再剥離時の持ち手としてテープの端末を糊面側に折り返した状態で保持できるために剥がしやすさに優れ、さらに優れた粘着力を有するために細幅でも十分に物品の仮固定が可能である仮固定用粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る粘着組成物は、天然ゴムと架橋剤と粘着付与剤と架橋調整剤を含む粘着組成物であり、前記架橋剤として、ジフェニルメタンジイソシアネート構造を有するイソシアネート系化合物を前記天然ゴム100質量部に対して2.5~10質量部、前記結着付与剤として、軟化点125℃以上の石油系粘着付与剤を天然ゴム100質量部に対して60~90質量部含み、該粘着組成物の硬化後の損失正接の極小温度が78.7℃以上で極小値が0.20以下であり、かつ該損失正接の極大温度が25.0℃以下で極大値が1.15以下であることを特徴とする粘着組成物である。
【0013】
また、本発明の別の態様に係る粘着テープは、シート状の基材の少なくとも一方の面に、上記粘着組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、金属や樹脂やコーティング素材をはじめとする多様な被着体に対する優れた粘着力・高温保持性・再剥離性(低汚染性)を有するゴム系の粘着組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の別の態様によれば、物品の製造・組立段階や輸送段階において要求される強い固定力を有し、再剥離した場合に被着体の汚染が少なく、剥がしやすい仮固定用に適した粘着テープが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】発明を実施するための形態が適用される粘着テープの一構成例を示した図である。
【
図2】発明を実施するための形態が適用される粘着テープの他の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る粘着組成物について説明する。
本実施形態係る粘着組成物は、天然ゴムと架橋剤と粘着付与剤と架橋調整剤を含む粘着組成物であり、該粘着組成物の硬化後の損失正接の極小温度が78.7℃以上で極小値が0.20以下であり、かつ該損失正接の極大温度が25.0℃以下で極大値が1.15以下であることを特徴とする。
【0018】
<損失正接>
損失正接(損失弾性率(G”)/貯蔵弾性率(G’)=損失正接(tanδ))は貯蔵弾性率(弾性)に対する損失弾性率(粘性)の寄与の度合いを意味する。
本粘着組成物の硬化後の損失正接の極小温度が78.7℃以上であることは、損失弾性率(粘性)の寄与の度合いの極小値が小さく、本粘着組成物からなる硬化物が所定の硬さを有する温度が高い、すなわち、本粘着組成物からなる粘着剤層が比較的高い温度でも適度な硬さを保つことを示す。損失正接の極小温度が78.7℃未満では高温での保持力が劣る。
また、本粘着組成物の硬化後の損失正接の極小値が0.20以下であることは、本粘着組成物の硬化物(粘着剤層)が過度に柔らかくなりにくく、流動しにくいことを示す。
【0019】
さらに、損失正接の極大温度はガラス転移温度を示し、本粘着組成物の損失正接の極大温度が25.0℃以下であることは、本粘着組成物の硬化物のガラス転移温度が低く、低温でも適度に柔軟性を保つことを示す。
また、損失正接の極大値は剥離抵抗を示し、本粘着組成物の硬化物の損失正接の極大値が1.15以下であることは、粘着剤層としたときの剥離抵抗が小さく本粘着組成物を用いた粘着テープが剥がしやすいことを示す。
【0020】
各成分について説明する。
<天然ゴム>
天然ゴムとは、ゴムの樹の樹液である天然ゴムラテックスを凝固・乾燥して得られたものであり、cis-1,4-ポリイソプレンを主成分とする物質である。
天然ゴム分子の構造としては、cis-1,4-イソプレン単位の一方の末端がタンパク質末端で構成され、他方の末端にはリン酸脂質が結合し、このリン酸脂質末端に更に長鎖脂肪酸が結合した構造であるといわれている。
また、天然ゴムにはタンパク質や脂質など3~4質量%の非ゴム成分が含まれる。
このため、天然ゴムは、後述する架橋剤により容易に架橋・硬化させることが可能である。なお、本発明に係る粘着組成物は架橋して硬化するため、架橋体を硬化物ともいう。
【0021】
使用する天然ゴムの分類としては、例えば、Standard Malaysian Rubber(SMR)、Standard Indonesian Rubber(SIR)、リブドスモークドシート(RSS)1~6号、ペールクレープ1~3号などが挙げられる。
【0022】
また、一般に、未素練り天然ゴムは分子量が非常に高く、天然ゴムの分子量が高すぎると、可塑度が高く粘着組成物とした場合に柔軟性に欠け、適切な粘着剤特性を得ることができなくなる場合がある。
このため、あらかじめ加圧ニーダーやバンバリーミキサー、オープンロールなどによって機械的に素練りを行い、天然ゴムの分子量を適度に低下させて可塑度を調整し、配合に用いる必要がある。
【0023】
特に、本発明の粘着組成物に使用する天然ゴムの可塑度としては、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が好ましくは10~85であり、より好ましくは20~35である。可塑度が低過ぎたり高すぎたりすると、物品の仮固定用途に要求される優れた粘着力と高い凝集力を両立する粘着組成物ならびに粘着テープを得ることができない場合がある。
【0024】
<架橋剤>
天然ゴムを架橋させる方式には、加硫剤を用いて加硫処理をする方式と、官能基間の反応による架橋方式が知られている。
加硫方式では、天然ゴムの分子主鎖に含まれる不飽和結合に、硫黄系、チウラム系、キノイド系などの加硫剤が作用して、ポリマー同士を直接架橋するという反応機構をとるため、凝集力が大きく密で強い架橋が実現可能である。
【0025】
しかし、直接的で強固な架橋機構であるために、加硫度の増加に伴いタック性が急激に減少し、接着力も著しく低下する。また、硫黄分は金属腐食の懸念がある成分として知られており、金属や樹脂やコーティング素材をはじめとする多様な被着体に直接貼付する仮固定用途としては好ましくない。
【0026】
一方、官能基間の反応による架橋方式では、天然ゴムの製造過程で分子側鎖中に導入されることがある水酸基やカルボキシル基などの官能基や、天然ゴムに3~4質量%程度混入するタンパク質や脂質などの非ゴム成分の官能基と、これに反応する官能基を持つ多官能性化合物を添加して、官能基間の反応による架橋を行う。
【0027】
この方法では、架橋剤として、例えば、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン系化合物、アジリジン系化合物、ブチル化メラミン化合物などを含む架橋剤を使用することが可能であることが知られている。
【0028】
また、加硫剤ではない非硫黄系の架橋剤は金属腐食の懸念がある硫黄分を含まないため、金属や樹脂やコーティング素材をはじめとする多様な被着体に直接貼付する仮固定用途としてより好ましい。
【0029】
本発明者らは、天然ゴムを柔軟かつ密に架橋させることができれば、物品の仮固定に要求される優れた粘着力を有し、かつ凝集力が高く高温保持性や再剥離性に優れたゴム系粘着剤を提供できると考えた。そして、この目的を達成するために、上記の技術常識を踏まえて、非硫黄系であることを特徴とする架橋剤であり、かつ高架橋が可能である架橋剤の検討を試行錯誤的に行った。
【0030】
その結果、本発明者らは、上記架橋剤の中でも特に主成分としてイソシアネート系化合物を含む架橋剤を使用することにより、天然ゴムを物品の仮固定に要求される優れた粘着力を有する粘着組成物として柔軟かつ密に架橋させることができることを発見した。
【0031】
さらに、該イソシアネート系化合物の中でも、主成分としてジフェニルメタンジイソシアネート構造(ポリメリックMDI)を含むものより選択された少なくとも1種の化合物を含む架橋剤を使用することにより、多様な被着体に対する優れた粘着力・高温保持性・再剥離性を有するゴム系粘着剤を提供できることを発見した。
【0032】
すなわち、本発明の粘着組成物ならびに粘着シートに使用する架橋剤としては、主成分としてイソシアネート系化合物を含むものであり、特には、主成分としてジフェニルメタンジイソシアネート構造を含むものより選択された少なくとも1種の化合物を含むものが好ましく使用できる。
【0033】
架橋剤は、天然ゴム100質量部に対して1~15質量部、好ましくは2.5~10質量部添加して使用できる。当該量範囲で使用することで、上記損失正接の各特性を満足することができる。
【0034】
<粘着付与剤>
本実施形態の粘着組成物では、粘着付与剤として天然ゴムと相溶性の良い粘着付与樹脂が使用でき、特には軟化点125℃以上の石油系樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂およびその他樹脂からなる群より選択された少なくとも1種の樹脂が使用できる。特に軟化点125℃以上の石油系樹脂(飽和脂肪族炭化水素樹脂)であることが好ましい。このような粘着付与剤は、天然ゴム100質量部に対して50~100質量部、好ましくは60~90質量部添加して使用できる。
軟化点が125℃より低い粘着付与樹脂を粘着付与剤として使用した場合、物品の仮固定用途に要求される優れた粘着力・高温保持性・再剥離性を有する粘着組成物ならびに粘着テープを得ることができない場合がある。
また、粘着付与剤の添加量が多すぎたり少なすぎたりした場合にも、上記物性を有する粘着組成物ならびに粘着テープを得ることができない場合がある。
【0035】
<架橋調整剤>
本実施形態の粘着組成物では、架橋調整剤を使用することで組成物の架橋度合(ゲル化度)を調整している。これは粘着組成物の優れた粘着力と高い凝集力・高温保持力を両立できる範囲の、適度に柔軟で密な架橋反応を実現する目的で使用するものである。特に本発明では架橋剤としてのイソシアネート化合物と天然ゴムの水酸基等との反応をある程度阻害する化合物を架橋調整剤として使用する。
【0036】
本実施形態の粘着組成物では、架橋調整剤として、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、金属系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ヒンダードアミン系化合物などからなる群より選択された少なくとも1種の化合物を添加して使用できる。
ヒンダードフェノール系化合物としては、具体的には、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、2,2’-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオン酸-n-オクタデシル、N,N’-(ヘキサン-1,6-ジイル)ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]、オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール等が挙げられる。
【0037】
また、リン系化合物としては、具体的には、亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)が挙げられる。金属系化合物としては、具体的には、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-N’-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノイル]プロパンヒドラジドが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物としては、具体的には、4-メチル-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール、2,2′-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、ベンゾトリアゾリルドデシルP-クレゾールが挙げられる。トリアジン系化合物としては、具体的には、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)フェノールが挙げられる。ヒンダードアミン系化合物としては、具体的には、ポリ[[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-S-トリアジン-2,4-ジイル]-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]-ヘキサメチレン-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]、コハク酸ジメチル・1-(2ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン重縮合物、2-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]-2-ブチルプロパン二酸ビス[1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル]、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、セバシン酸1-メチル10-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)等が挙げられる。中でも、好ましい架橋調整剤は、ヒンダードフェノール系化合物からなる群より選択された少なくとも1種の化合物である。
【0038】
架橋調整剤の量は特に設定されないが、架橋調整剤の添加量が多すぎる場合、天然ゴムを柔軟かつ密に架橋させることができず、物品の仮固定用途に要求される優れた粘着力と高い凝集力・高温保持性を両立する粘着組成物ならびに粘着テープを得ることができない場合がある。また、少なすぎると、架橋調整剤の添加効果が十分に発揮されないことがある。好ましくは天然ゴム100質量部に対して1.0質量部以上、5.0質量部以下、より好ましくは2.0質量部以上、4.0質量部以下である。
【0039】
<その他添加剤>
さらに上記粘着組成物には、必要に応じて、上記物性を損なわない範囲内で、無機充填材、樹脂等の有機充填材、軟化剤、可塑剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、保存剤、熱安定剤、光安定剤などの1種もしくは2種以上が更に添加されていてもよい。
本明細書において、「粘着組成物」とは、架橋前の各成分の混合物と、架橋後の組成物の両方を意味し、以下の粘着テープにおける「粘着剤層」はこの粘着組成物からなり、その場合、「粘着組成物」は架橋後の組成物を意味する。また、粘着剤層を形成するために溶剤に溶解・分散させた状態、さらに溶剤を除去した乾燥物も「粘着組成物」ということがある。
【0040】
[粘着テープ]
また、本発明の粘着テープは、シート状の基材の少なくとも一方の面に、上記粘着組成物からなる粘着剤層を形成した粘着テープである。例えば、
図1に示すように、基材11の片面に上記粘着組成物からなる粘着剤層12を設けた片面粘着テープや、
図2に示すように基材21の両面に設けられた粘着剤層22と粘着剤層23の少なくとも一方、あるいは両方に上記粘着組成物を使用した両面テープである。
【0041】
図1における粘着剤層12や、
図2における粘着剤層22及び/又は23は、シート状の基材11又は12に、粘着組成物を適当な溶剤に溶解又は分散した塗工液をロールコータ、ダイコータなどを用いて塗工したり、あるいは溶剤を用いずに粘着組成物をこれら基材と共押出したりすることにより形成することができる。好ましくは、トルエン等の溶剤に天然ゴム、架橋剤、粘着付与剤および架橋調整剤、ならびにその他添加剤を混合・溶解した塗工液を作製し、この塗工液を、基材11の片面や基材21の片面あるいは両面に、乾燥後の粘着剤層の厚さが均一になるようにコーター等を用いて塗工し、その後、塗工した粘着組成物を所定温度で乾燥・硬化させることで形成される。
【0042】
上記粘着剤層の乾燥・硬化後の厚さとしては、特に限定されず、物品の仮固定用途に要求される優れた粘着力、自己粘着面粘着性、凝集力、高温保持性を発揮するものであれば何でもよいが、通常10~70μm程度であり、好ましくは25~50μmである。
【0043】
また、
図1におけるシート状の基材11の粘着剤層12に対向する面(面11A)には、必要に応じてコロナ放電処理などの表面処理を施したり、下塗り層を設けたり、その両方を行ったりすることにより、粘着剤層12の基材11に対する密着性を向上させることができる。また、
図1におけるシート状の基材11の前記面11Aの反対側の面11Bには、必要に応じて離型層を設けることにより、本態様の粘着テープをロール状に巻回した際に基材11の面11Bに粘着組成物が接着することを防ぐとともに、巻き戻し(引き出し)やすさを維持できる。
【0044】
また、
図2におけるシート状の基材21の両面(21A及び21B)、あるいはいずれか一方の面には、コロナ放電処理などの表面処理を施したり、下塗り層を設けたり、その両方を行ったりすることにより、粘着剤層22または粘着剤層23と基材21との密着性を向上することができる。
【0045】
<シート状の基材>
前記のシート状の基材の種類としては特に限定されず、通常使用される公知のフィルムやフォーム、織布、編布、紙などの不織材など、シート状であればいずれでも良い。
中でも、樹脂製のフィルム基材が好ましく、樹脂材料としてポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド、エチレン-ビニルアセテート共重合体(EVA)等や、これらのブレンド物などが挙げられる。このような合成樹脂からなるフィルムである場合、機械的強度に優れており、被着体汚染が生じず、物品の製造・組立段階や輸送段階で使用する仮固定用の粘着テープとして好ましい。
【0046】
さらに、シート状の基材の厚みも粘着テープに要求される強度を維持できる範囲で適宜選択して使用できるが、厚みは10~300μmが好ましく、10~100μmがより好ましく、12~75μmであることがさらに好ましい。特にその厚み範囲でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである場合、機械的強度に優れており、高い固定力を発揮し、被着体汚染が生じず、物品の製造・組立段階や輸送段階で使用する仮固定用の粘着テープとしてより好ましい。
【0047】
<下塗り剤>
下塗り層に用いる下塗り剤は特に限定されず、その効果を発揮するものであればいずれでもよい。特に粘着剤層に含まれる化合物の官能基と反応し得る官能基を有するものであれば、粘着剤層を形成する際の架橋の際に、下塗り層へも反応が進み、基材との接着力を高めることができる。乾燥後の下塗り層の付着量又は坪量は、通常0.2~2g/m2、好ましくは0.4~1.2g/m2である。
【0048】
<離型処理剤>
図1に示すような、基材11の一方の面11Aに粘着剤層12を形成し、ロール状に巻回す際には、基材のもう一方の面11Bに粘着剤層が接することとなる。ロールからの引き出し性を良化するために離型層を面11Bに形成しておくことが好ましい。この離型層に用いられる離型処理剤は特に限定されず、その効果を発揮するものであればいずれでもよい。例えば、シリコーン樹脂、長鎖アルキルビニルモノマー重合物、フッ化アルキルビニルモノマー重合物、ポリビニルアルコールカルバメートなどが知られている。このうちシリコーン樹脂は基材表面の剥離性能を向上させる特性に優れている。乾燥後の離型層の付着量又は坪量は、通常0.2~2g/m
2、好ましくは0.4~1.2g/m
2である。
【0049】
<離型シート>
図2に示すような両面粘着テープの場合、粘着剤層の外表面には離型シートを剥離可能な態様で積層しておくことが、取扱性の点で好ましい。また、ロール状に巻回する場合は、粘着剤層22と粘着剤層23との間に離型シートが挟まれるようにして巻回することができる。離型シートは高い強度をあまり必要としないことから、シート状物の片面または両面に上記のような離型処理を施したものを用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を参照して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
また、以下の記載において「部」は「質量部」を意味する。
【0051】
実施例及び比較例で使用した材料は以下の通りである。なお、各材料の物性値は製造者カタログ値である。
基材:PETフィルム(厚み38μm)
天然ゴム:ペールクレープ
(表記載のムーニー粘度の異なるグレードを使用)
架橋剤:
A 商品名「ミリオネート MR-200」、
東ソー製、ポリメリックMDI
B 商品名「コロネート L-45E」、
東ソー製、変性ポリイソシアネート
C 商品名「E-5C」、綜研化学製、エポキシ系架橋剤
D 商品名「Vulkacit Thiuram/C」、ランクセス株式会社、
チウラム系加硫剤(テトラメチルチウラム ジスルフィド)
粘着付与剤:
A 商品名「ペンセル D-135」、荒川化学工業製、
重合ロジンエステル、軟化点130~140℃
B 商品名「アルコンP-140」、荒川化学工業製、
石油系樹脂、軟化点 140℃±5℃
C 商品名「アルコンP-100」、荒川化学工業製、
石油系樹脂、軟化点 100℃±5℃
架橋調整剤:商品名「イルガノックス1010」、BASFジャパン製、
(ヒンダードフェノール系化合物)
【0052】
(実施例1~8、参考例1、比較例1~12)
表1(表1-1及び表1-2)に示す配合比にて粘着組成物を調製し、トルエンに溶解混合して塗工液を調製した。基材の一面に下塗り剤(ポリメタクリル酸メチルグラフト化天然ゴム(マレーシアゴム研究所製造、商品名「MG30」)及び環化ゴム(ユーシービージャパン社製 商品名「ALPEX CK-450」)を質量比3:1で混合した固形分5質量%トルエン溶液)を塗布し、坪量0.8±0.4g/m
2の下塗り層を形成した後、調製した塗工液を乾燥後の粘着剤層の厚みが32μmとなるように塗布し、110℃で乾燥及び架橋することで、
図1に示すような片面粘着剤層を有する粘着テープを製造した。
【0053】
得られた粘着テープについて以下の評価を行った。
(損失正接)
各粘着組成物を用いて、それぞれ測定用の粘着剤層(厚み:2mm)を作製した。
そして、粘着剤層を、直径10mmに打ち抜き、それをパラレルプレートで挟み込む形で固定したものを測定試料とした。
この測定試料について、動的粘弾性測定装置を用い、下記条件で動的粘弾性測定を行い、損失弾性率(G”)と貯蔵弾性率(G’)の温度依存グラフを作成し、損失弾性率(G”)/貯蔵弾性率(G’)=損失正接(tanδ)から、極小温度、極小値、極大温度、極大値を求めた。また、評価として、極小側(極小温度が78.7℃以上及び極小値が0.20以下)、極大側(極大温度が25℃以下及び極大値が1.15以下)が規定の範囲を満たす場合を「Y」、満たさない場合を「N」とした。
【0054】
装置:TAインスツルメント社製、商品名「ARESRDA-III」
周波数:10.0Hz
温度:-60~200℃
昇温温度:10℃/分
ひずみ:0.1%
【0055】
(粘着力)
粘着力は、JIS Z 0237:2000に準拠した試験方法を用いて測定した。
被着体として、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、粗面PC(片面をマット加工したもの、タキロンシーアイ社製、商品名「PCSP K6600」)、ガラス、SUS板(#280耐水研磨紙にて表面が均一になるまで研磨したSUS304板)、Al板、アクリル塗装板(日本製鉄社製のSPCC-SBアクリル塗装板(塗料:大日本塗料社製「ニューアクロッツェ クロ ツヤあり」))を用いた。
【0056】
本実施の形態における粘着組成物の粘着力は、例えば2.0N/10mm以上8N/10mm以下であることが好ましいため、全ての被着体に対してこの範囲の粘着力を示した場合を「A」、1つの被着体で範囲外となるが他の被着体に対してこの範囲を維持できたものを「B」、2つ以上の被着体に対してこの範囲外となるものを「C」と評価した。
【0057】
(高温保持力)
測定温度120℃において、SUS板に貼り付けた長さ25mm幅10mmの試験片の長さ方向の端部に500gの荷重のおもりを垂直方向に付加し、おもりが落下するまでの時間を評価した。落下時間が120分以上を「A」、60分以上120分未満を「B」とし、60分未満を「C」と判定した。
【0058】
(被着体汚染性)
粘着力の測定に使用した各被着体に粘着テープを貼付け、65℃85%RH雰囲気下に7日以上放置した後、5℃雰囲気下に2時間以上放置して冷却し、5℃雰囲気下にて、粘着テープを手で被着体から剥ぎ取り被着体における糊残りや汚染現象の有無を目視で調べた。
糊残りやテープ痕跡・汚染が全く見られない場合を「A」、糊残りやテープ痕跡・汚染がほとんど見られない場合を「B」、糊残りやテープ痕跡・汚染が明らかに残っている場合を「C」と判定した。
【0059】
(自己粘着面粘着性)
被着体に粘着テープを貼付け、端部を粘着面側に5mm折り曲げて65℃85%RH雰囲気下に1日以上放置した後、折り曲げた端部の剥がれの長さを目視で測定した。
【0060】
(総合評価)
全ての評価において、ランクAを含み、ランクBが2つ以下を「A」、ランクAを含み、ランクBが3つ又は4つを「B」、ランクAを含み、ランクBが5つを「C」、ランクDを含む場合を「D」と評価した。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
〈評価結果〉
表1-1及び1-2に示すように、実施例では本発明で規定の損失正接を満足する組成物が得られたが、比較例では極小側及び極大側のいずれか一方又は両方を満足する組成物ではなかった。
また、表2-1に示すように、実施例1~9の粘着テープは、粘着力、高温保持力、被着体汚染性、自己粘着面粘着性の全てにおいて優れていた。
【0066】
一方、比較例1、2、7~12では、表2-2に示すように、粘着力に優れていたが、高温保持力に劣っていた。比較例3,4は高温保持力に優れているが、粘着力に劣っていた。比較例5,6は粘着力、高温保持力共に劣っていた。また、いずれの比較例も被着体汚染性においてランクDとなる場合を含んでおり、汎用性が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の粘着テープは、仮固定用の粘着テープとして、様々な被着体(物品)に対して優れた粘着力を有し、低い汚染性を示すことから汎用性の高い粘着テープである。
【符号の説明】
【0068】
11、21 基材
12、22、23 粘着剤層
【要約】
金属や樹脂やコーティング素材をはじめとする多様な被着体に対する優れた粘着力・高温保持性・再剥離性を有するゴム系の粘着組成物及びそれを用いた粘着テープを提供するため、天然ゴムと架橋剤と粘着付与剤と架橋調整剤を含む粘着組成物であり、該粘着組成物の硬化後の損失正接の極小温度が78.7℃以上で極小値が0.20以下であり、かつ該損失正接の極大温度が25.0℃以下で極大値が1.15以下であることを特徴とする粘着組成物を用い、シート状の基材11の少なくとも一方の面に粘着剤層12を形成した粘着テープとする。