IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精化株式会社の特許一覧

特許7072742低干渉縞光学物品およびそのコーティング剤組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】低干渉縞光学物品およびそのコーティング剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20220513BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220513BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220513BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220513BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/00
C09D183/04
C09D7/61
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022510987
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2020039106
【審査請求日】2022-02-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】大石 紘
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏哉
(72)【発明者】
【氏名】宮本 芳昭
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-363442(JP,A)
【文献】特開2001-279176(JP,A)
【文献】特開2003-049113(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163464(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110651012(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105062301(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-201/10
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、エポキシ樹脂、エポキシ基含有シランカップリング剤、シリカ粒子およびカチオン性硬化触媒含み、前記エポキシ基含有シランカップリング剤は、3官能性シランカップリング剤および2官能性シランカップリング剤を、95:5~10:90の固形分比で含み、かつ、固形分濃度が40%~70%の範囲である、コーティング剤組成物。
【請求項2】
前記エポキシ基含有シランカップリング剤は、(A)グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシランよりなる群から選択されるグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン(3官能性シランカップリング剤);および(B)グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシランよりなる群から選択されるグリシドキシジアルキルジアルコキシシラン(2官能性シランカップリング剤)よりなる群から選択される1種または2種以上の組合せである、請求項1に記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
前記カチオン性硬化触媒が、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、チタンテトラ(アセチルアセトナート)、またはジルコニウムテトラ(アセチルアセトナート)である、請求項1または2に記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
少なくとも、プラスチック基材上にハードコート層が形成された光学物品であって、前記プラスチック基材の屈折率が1.40~1.84であって、請求項1~3いずれかに記載のコーティング組成物の硬化物であるハードコート層の膜厚が10μm~23μmの範囲を有する物品。
【請求項5】
少なくとも、プラスチック基材上に形成されたプライマー層の上にハードコート層が形成された光学物品であって、前記プライマー層の材質が、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂よりなる群から選択され、屈折率が1.45~1.67の範囲である請求項4に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズなどの光学物品、特に、干渉縞の発生が抑制された光学物品および、そのような光学物品に用いるコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズなどの光学物品は、ガラスやプラスチック基材の上に反射防止層、防汚層などがコーティングされた積層構造を有している。眼鏡の軽量化のために、プラスチック基材が多く使われているが、プラスチック基材の表面は傷つきやすいため、ハードコート層を形成して表面保護している。このような積層構造を有する光学物品に優れた光学特性を付与するためには、各部材の厚みや屈折率を適切に設定することが求められる。
【0003】
近年、薄層化および軽量化したレンズが求められており、それを得るためにプラスチック基材の屈折率を上げる必要がある。現在屈折率1.60のものが主流であるが、最高で1.80の屈折率のものがある。レンズの屈折率を上げると、数μm厚程度のハードコート層を形成したときに、屈折率の差および膜厚ムラによる干渉縞が発生する問題があった。
【0004】
特許文献1には、PETフィルムのような透明基材のフィルムと透明ハードコート層との屈折率の差及び微妙な厚さのばらつきにより干渉縞が生じて視認性が低下するという問題を、ハードコート剤に酸化ジルコニウム、酸化チタン等の金属酸化物の微粒子を高屈折剤として配合して、その反射率をPETフィルムの易接着層の反射率にあわせることによって干渉縞をなくすことが記載されている。
しかしながら、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の金属酸化物の微粒子は高価である為、製造コストが高くなる問題があった。
【0005】
特許文献2には、プラスチック基材の上に、屈折率が一定のハードコート層と、屈折率が一定のプライマー層とを含む機能層が形成された眼鏡レンズが開示されている。レンズの厚みを薄くしようとすると、プラスチック基材の屈折率を上げる必要があり、そうすると、ハードコートの薄膜を形成したときに、屈折率の差および膜厚ムラによる干渉縞が発生する問題があった。そこで、特許文献2では、機能層の厚みTを9.1~100μmの範囲とすることで干渉縞の発生を抑制することが提案されている。さらに、レンズ基材の屈折率、プライマー層の屈折率、ハードコート層の屈折率の順に屈折率が増大もしくは同一または減少または同一とすることによってさらに干渉縞の発生を抑制できることが記載されている。
しかしながら、ハードコート層が厚くなると、製造時にハードコート層にクラックが入る問題があった。
【0006】
特許文献3には、レンズ基材と、ハードコート層とを有し、前記ハードコート層が、無機酸化物粒子、シランカップリング剤、及びマトリックス成分中40質量%超60質量%以下の多官能性エポキシ化合物を含む硬化性組成物を硬化して得られる眼鏡レンズを開示する。この眼鏡レンズにおいて、ハードコート層の膜厚を10μm以上50μm以下とすることで、製造時のクラックを抑制している。
しかしながら、多官能エポキシ化合物の含有量が40%を超えると、十分な硬度が得られない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-265590号公報
【文献】特許第5464846号明細書
【文献】国際公開第2015/163464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プライマー層を高屈折率化するために、特許文献1のように、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の金属酸化物の微粒子を配合すれば、プライマー層の製造コストが増大するだけではなく、プライマー層より上に形成される層の屈折率との関係まで考慮しなければならなくなる。また、特許文献2のように、ハードコート層の膜厚を増大させれば、製造時にクラックが発生しやすくなり、特許文献3のように、エポキシ化合物の含有量を増大させると、耐擦傷性が低下する問題がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、高屈折率を有するプラスチック層上にハードコート層あるいはプライマー層を含むハードコート層の機能層が形成された光学物品において、ジルコニア、酸化チタン等の金属酸化物の微粒子である高屈折剤を配合することなく、干渉縞を目立たなくし、かつ、ハードコート層製造時のクラック発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくともハードコート層とプライマー層の総厚を抑制して、干渉縞の発生を低減させ、ハードコート層に3官能性シランカップリング剤および2官能性シランカップリング剤の混合物を含有させることによって、製造時のクラック発生を抑制する。
【0011】
本発明に用いることができるプラスチック基材の材質としては、例えば、ジアリルカーボネート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エピスルフィド(屈折率1.40~1.84)などが挙げられる。
【0012】
本発明に用いることができるプライマー層の材質としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。プライマー層は、前記プラスチック基材の上に、例えば、ディップコーティング、ダイコーティング、フローコーティング、グラビアコーティング等の公知の方法を用いて形成することができる。
【0013】
本発明に用いることができるハードコート層は、エポキシ基含有シランカップリング剤、シリカ粒子のような無機酸化物、多官能エポキシなどを添加して調製されたコーティング剤組成物を用いて形成される。
ハードコート層は、前記プラスチック基材の上に、例えば、ディップコーティング、ダイコーティング、フローコーティング、グラビアコーティング等の公知の方法を用いて形成することができる。
【0014】
本発明のハードコート層に用いるエポキシ樹脂は、硬度を維持する観点から2つ以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、脂肪族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物が挙げられる。脂肪族エポキシ化合物の例示は、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル等を含む。脂環族エポキシ化合物の例示は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス-2,2-ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等を含む。芳香族エポキシ化合物の例示は、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等を含む。
【0015】
本発明のハードコート層に用いるエポキシ基含有シランカップリング剤は、(A)グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシランよりなる群から選択されるグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン(3官能性シランカップリング剤);および(B)グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシランよりなる群から選択されるグリシドキシジアルキルジアルコキシシラン(2官能性シランカップリング剤)よりなる群から選択される1種または2種以上の組合せである。3官能性シランカップリング剤から選択される種と2官能性シランカップリング剤から選択される種との混合物とすることもできる。
【0016】
本発明において、エポキシ基含有シランカップリング剤として、3官能性シランカップリング剤から選択される種と2官能性シランカップリング剤から選択される種との混合物を用いるとき、3官能性シランカップリング剤と2官能性シランカップリング剤との固形分比(3官能性シランカップリング剤:2官能性シランカップリング剤)は、95:5~10:90が好ましく、より好ましくは90:10~10:90である。
【0017】
本発明のコーティング剤組成物の硬化触媒として、アルミニウム(III)アセチルアセトナート[またはアルミニウムトリス(アセチルアセトナート)]、チタン(IV)アセチルアセトナート[またはチタンテトラ(アセチルアセトナート)]、ジルコニウムIV)アセチルアセトナート[またはジルコニウムテトラ(アセチルアセトナート)]などのカチオン性硬化触媒が好ましい。
本発明のコーティング剤組成物中、100質量部に対して、硬化触媒の添加量は0.5~5質量部が好ましく、より好ましくは1~3質量部である。
【0018】
本発明のハードコート層に用いる無機酸化物は、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタニウム(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)などの粒子が挙げられる。好ましくは二酸化ケイ素であるが、これらは単独または2種類以上の無機酸化物との併用も可能である。
【0019】
本発明の光学物品において、必要に応じて、上記ハードコート層の上に、さらに、無機系または有機系反射防止層を形成することができる。
【0020】
本発明の光学物品において、必要に応じて、上記反射防止層の上に、さらに、防汚層を形成することができる。防汚層は、光学物品の表面の撥水性や撥油性を付与する機能を有し、例えば、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる層である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ハードコート層に3官能性シランカップリング剤と2官能性シランカプリング剤との混合物を配合するので、干渉縞低減のためにハードコート層の膜厚を増大しても、製造時のクラック発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の光学物品は、少なくとも、プラスチック基材、前記プラスチック基材状にハードコート層を形成されている。特に、本発明の光学物品において、前記プラスチック基材の屈折率が1.40~1.84であって、前記ハードコート層の膜厚が23μm以下、例えば、10~23μm、好ましくは15~20μmであって、3官能性シランカップリング剤と2官能性シランカップリング剤の混合物を含有する。
【0023】
本発明の光学物品は、プラスチック基材上にプライマー層を設けても良い。その時のプライマー層の屈折率は1.45~1.67の範囲が好ましい。
【実施例
【0024】
以下、本発明を説明するために実施例を挙げ説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
[ハードコート液組成物成分]
A成分:金属酸化物
A-1:水分散シリカゾル(スノーテックスO:日産化学株式会社製など)
A-2:有機溶剤分散シリカゾル(メタノールシリカゾル:日産化学社製など)
B成分:エポキシ基含有シランカップリング剤
B-1:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)
B-2:γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)
B-3:γ-グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン(GPDMS)
B-4:γ-グリシドキシプロピル(メチル)ジエトキシシラン(GPDES)
C成分:多官能エポキシ化合物
JER827(三菱ケミカル株式会社製)
D成分:レベリング剤
SH28PA(東レ・ダウコーニング株式会社製)
E成分:硬化触媒
E-1:アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)
E-2:イタコン酸
F成分:溶媒
F-1:メタノール
F-2:アセチルアセトン
F-3:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0026】
実施例1
A成分としてA-1 16.2質量部、A-2 21.6質量部を入れ、B成分としてB-1 49.2質量部、B-3 2.3質量部を加えて40℃2時間撹拌した。F成分としてF-1 15.0質量部、F-2 1.8質量部を加え、C成分 2.5質量部、D成分 1.0質量部、E-1成分 2.1質量部を加えた。その後、溶媒を回収して固形分濃度60%のコーティング液を得た。
そのコーティング液を用いて、異なる屈折率のレンズにディップコートして80℃で10分間の予備乾燥後120℃で1時間熱硬化させ、ハードコート層を形成し、膜厚、干渉縞の状態、外観(クラック発生の有無)及び耐擦傷性を評価した。
【0027】
実施例2~4及び比較例1~4
表1に示す配合組成を用いて実施例1と同様の方法で製造し、評価を行なった。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
<評価結果>
プラスチック基材(レンズ)とハードコート層の屈折率が離れると干渉縞は強く目立つようになるが、プラスチック基材の材質やプライマー層形成の有無によらず、屈折率の異なる種々レンズを使用しても膜厚を制御することによって干渉縞を低減することができた。本発明によれば2官能性および3官能性シランカップリング剤を併用するので、ハードコート層の膜厚が厚くなっても、製造時のクラック発生が抑制できた。
【0031】
本発明によれば、少なくとも、プラスチック基材、および前記プラスチック基材上にハードコート層が形成された光学物品であって、前記プラスチック基材の屈折率が1.40~1.84であって、前記ハードコート層の膜厚が23μm以下、好ましくは15~20μmの範囲であり、前記ハードコート層は、3官能性シランカップリング剤および2官能性シランカップリング剤を、95:5~10:90、好ましくは90:10~10:90の固形分比で含む混合物を含む、光学物品を提供することができる。このような光学物品は、干渉縞が抑制され、かつ、ハードコート層の膜厚を厚膜化しても、製造時のクラック発生がない。
また、コーティング液の固形分濃度が35%(比較例3)では膜厚を適正範囲 (15μm~30μm)内にすることが難しく、無理に膜厚をつけようとすると外観が悪くなった。したがって、前記コーティング液の固形分濃度は膜厚を上げるために40~70%、好ましくは55~70%の範囲で行なうことで干渉縞が抑制された光学物品を提供することができる。
さらに、硬化触媒としてカチオン性のアルミニウムトリス(アセチルアセトナート)を用いた実施例1と比較して、イタコン酸を用いた比較例4のハードコート層の耐擦傷性が悪かった。このことから、カチオン性硬化触媒がハードコート層の硬化に有用であることが分かった。
【0032】
<評価方法>
(1)膜厚の測定
大塚電子株式会社製の反射分光膜厚計FE-3000を用いて、硬化後の各層の膜厚測定を行なった。
(2)干渉縞の確認
三波長の蛍光灯の下で目視にて干渉縞を確認した。
評価基準は、合格のものを○、不合格のものを×とした。
(3)初期外観
ハードコート層まで形成した塗膜を目視で確認し、クラックの発生を評価した。
クラックがないものを○、クラックがあるものを×とした。
(4)塗膜の耐擦傷性試験
表面性測定機(型番:TYPE14DR、新東科学(株)製)のスチールウールホルダーに#0000のスチールウールを固定し、1kgの荷重をかけて、塗膜表面上を10回往復摩擦した(以下、スチールウール擦傷試験という)。
傷が入らなかったものを○、明確に傷があるものを×とした。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、眼鏡レンズのような光学物品において、高屈折率のプラスチック基材を用いても、干渉縞が目立たず、かつ、製造時のクラック発生が抑制することができる。
【要約】
本発明は、高屈折率を有するプラスチック層上にハードコート層、あるいはプライマー層とハードコート層とを含む機能層が形成された光学物品において、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の金属酸化物の微粒子を配合することなく、干渉縞を目立たなくし、かつ、ハードコート層製造時のクラック発生を抑制するコーティング剤組成物を提供する。かかるコーティング剤組成物は、3官能性シランカップリング剤および2官能性シランカップリング剤を、95:5~10:90の固形分比で含む。