(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】活性成分としてCD300E阻害剤を含有する、がんを予防又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20220516BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220516BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220516BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220516BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220516BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220516BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20220516BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/04
C07K16/18
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2021502686
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 KR2019006479
(87)【国際公開番号】W WO2019231247
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】10-2018-0062068
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520077986
【氏名又は名称】ゲノム アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ユン, ギョン ワン
(72)【発明者】
【氏名】ハウ, ユン キョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ブ-ナム
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ジニョン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ユン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー, スロ
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, アルム
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】Frontiers in Immunology,2017年,Vol.8,Article 1288, pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N 15/115
C12N 15/113
C07K 16/18
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として、
CD300抗原様ファミリーメンバーE(CD300E)タンパク質に結合する物質、又は
CD300E遺伝子の発現を阻害する物質
を含む免疫賦活薬であって、
CD300Eタンパク質に結合する前記物質が、前記CD300Eタンパク質に特異的に結合する
中和抗体若しくはその断片であり、
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質が、前記CD300E遺伝子のDNA又はmRNAに相補的に結合するアンチセンス核酸、siRNA、shRNA、miRNA又はリボザイムである、免疫賦活薬。
【請求項2】
前記CD300Eタンパク質が、配列番号1又は3のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の免疫賦活薬。
【請求項3】
前記抗体又はその断片が、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’及びF(ab)’からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項1又は2に記載の免疫賦活薬。
【請求項4】
前記CD300E遺伝子の前記DNAが、配列番号2又は4の塩基配列を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の免疫賦活薬。
【請求項5】
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質がsiRNAであり、前記siRNAのセンス鎖が、配列番号7、9、11、13、15及び17の塩基配列のうちのいずれか1つである、請求項1~4のいずれか一項に記載の免疫賦活薬。
【請求項6】
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質がsiRNAであり、前記siRNAのアンチセンス鎖が、配列番号8、10、12、14、16及び18の塩基配列のうちのいずれか1つである、請求項1~5のいずれか一項に記載の免疫賦活薬。
【請求項7】
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質がsiRNAであり、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号7の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号8の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号9の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号10の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号11の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号12の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号13の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号14の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号15の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号16の塩基配列であるか、又は
前記siRNAのセンス鎖が配列番号17の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号18の塩基配列である、請求項1~6のいずれか一項に記載の免疫賦活薬。
【請求項8】
活性成分として、
CD300Eタンパク質に結合する物質、又は
CD300E遺伝子の発現を阻害する物質
を含む、がんを予防又は治療するための医薬組成物であって、
CD300Eタンパク質に結合する前記物質が、前記CD300Eタンパク質に特異的に結合する
中和抗体若しくはその断片であり、
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質が、前記CD300E遺伝子のDNA又はmRNAに相補的に結合するアンチセンス核酸、siRNA、shRNA、miRNA又はリボザイムである、医薬組成物。
【請求項9】
前記CD300Eタンパク質が、配列番号1又は3のアミノ酸配列を有する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗体又はその断片が、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’及びF(ab)’からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項8又は9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記CD300E遺伝子の前記DNAが、配列番号2又は4の塩基配列を有する、請求項8~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質がsiRNAであり、前記siRNAのセンス鎖が、配列番号7、9、11、13、15及び17の塩基配列のうちのいずれか1つである、請求項8~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質がsiRNAであり、前記siRNAのアンチセンス鎖が、配列番号8、10、12、14、16及び18の塩基配列のうちのいずれか1つである、請求項8~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質がsiRNAであり、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号7の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号8の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号9の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号10の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号11の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号12の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号13の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号14の塩基配列であるか、
前記siRNAのセンス鎖が配列番号15の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号16の塩基配列であるか、又は
前記siRNAのセンス鎖が配列番号17の塩基配列であり、且つアンチセンス鎖が配列番号18の塩基配列である、請求項8~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記がんが、膀胱がん、骨がん、血液のがん、乳がん、黒色腫、甲状腺がん、副甲状腺がん、骨髄がん、直腸がん、咽頭がん、喉頭がん、肺がん、食道がん、膵がん、結腸直腸がん、胃がん、舌がん、皮膚がん、脳腫瘍、子宮がん、頭部又は頸部のがん、胆嚢がん、口腔がん、結腸がん、肛門周囲がん、中枢神経系腫瘍及び肝がんからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項8~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
がんの予防用又は治療用の医薬組成物を製造するための、CD300Eタンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質の使用であって、
CD300Eタンパク質に結合する前記物質が、前記CD300Eタンパク質に特異的に結合する
中和抗体若しくはその断片であり、
CD300E遺伝子の発現を阻害する前記物質が、前記CD300E遺伝子のDNA又はmRNAに相補的に結合するアンチセンス核酸、siRNA、shRNA、miRNA又はリボザイムである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分としてCD300E阻害剤を含む、がんを予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、ヒトの身体の免疫において重要な役割を果たす。T細胞は、キラーT細胞、ヘルパーT細胞、調節性T細胞及び記憶T細胞に分けられる。特に、キラーT細胞は、細胞表面にCD8を発現し;ヘルパーT細胞は、細胞表面にCD4を発現し;調節性T細胞は、細胞表面にCD4及びCD25を発現する。
【0003】
細菌等の抗原が外側から進入した場合、ヘルパーT細胞は、サイトカイン等の物質を分泌して、キラーT細胞及びB細胞を活性化する。活性化されたキラーT細胞は、病原体感染細胞を死滅させ、活性化されたB細胞は、抗体を分泌して、抗原の活性を阻害する。最近、T細胞のそのような免疫調節能を活性化することによってがん等の疾患を治療する試みがなされている。
【0004】
加えて、T細胞媒介性疾患は、様々な免疫系疾患を代表する疾患として認識される。特に、T細胞は、自己免疫疾患を引き起こし、永続化させると考えられる。自己抗原に対する免疫応答は、自己反応性T細胞の連続的又は周期的活性化によって引き起こされる。加えて、自己反応性T細胞は、自己免疫疾患において直接的又は間接的に特定される特徴的組織傷害及び組織破壊の原因として注意を引き付けている。
【0005】
一方で、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1:programmed cell death ligand 1)は、プログラム細胞死-1(PD-1:programmed cell death-1)のリガンドである1型膜貫通タンパク質である。PD-L1は、Tリンパ球、Bリンパ球、樹状細胞又はマクロファージ等の造血細胞において発現される。PD-1は、T細胞の二次的シグナル伝達活性を調節する免疫チェックポイント因子又は免疫モジュレーターとして公知である。加えて、PD-1は、活性化T細胞又は樹状細胞等の細胞の表面に発現されたPD-L1又等に結合することによって、T細胞の増殖を阻害すること及びサイトカインの発現を減少させること等、T細胞の機能を阻害するように作用することができることが報告されている(Krzysztof M. Zakら、2015)。
【0006】
最近、PD-1及びPD-L1等の、T細胞の免疫機能を調節する物質を使用して抗がん剤及び免疫モジュレーターを開発する試みがなされている。
【0007】
〔発明の概要〕
技術的問題
免疫細胞の活性を阻害又は増大させることができる物質を研究する過程において、本発明者らは、CD300E細胞シグナル伝達系は、T細胞の活性を調節することができ、したがって、本発明を成し遂げたことを見出した。
【0008】
問題の解決法
一実施形態では、活性成分としてCD300Eタンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質を含む免疫賦活薬が提供される。
【0009】
加えて、一実施形態では、活性成分としてCD300Eタンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質を含む、がんを予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0010】
加えて、一実施形態では、医薬組成物を個体に投与するステップを含む、がんを治療するための方法が提供される。
【0011】
発明の有益な効果
本発明によるCD300E阻害剤は、免疫細胞の活性を増大させることができ、したがって、免疫賦活薬として使用することができる。加えて、本発明によるCD300E阻害剤は、個体の免疫を増強することができ、したがって、がんを有効に予防又は治療するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】CD300Eタンパク質によって阻害されるCD4+T細胞の増殖速度(%)を例示するグラフである。
【
図2】CD300Eタンパク質によって阻害されるCD8+T細胞の増殖速度(%)を例示するグラフである。
【
図3a】肺がん細胞株A549及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりの末梢血単核球(PBMC:peripheral blood mononuclear cell)の細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図3b】肺がん細胞株A549及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりの末梢血単核球(PBMC:peripheral blood mononuclear cell)の細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図3c】肺がん細胞株A549及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりの末梢血単核球(PBMC:peripheral blood mononuclear cell)の細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図3d】肺がん細胞株A549及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりの末梢血単核球(PBMC:peripheral blood mononuclear cell)の細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図4a】結腸がん細胞株HCT-116及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図4b】結腸がん細胞株HCT-116及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図4c】結腸がん細胞株HCT-116及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図4d】結腸がん細胞株HCT-116及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図5a】乳がん細胞株MDA-MB-231及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図5b】乳がん細胞株MDA-MB-231及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図5c】乳がん細胞株MDA-MB-231及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図5d】乳がん細胞株MDA-MB-231及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図6a】胃がん細胞株MKN-74及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図6b】胃がん細胞株MKN-74及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図6c】胃がん細胞株MKN-74及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図6d】胃がん細胞株MKN-74及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図7a】血液がん細胞株U937及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図7b】血液がん細胞株U937及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図7c】血液がん細胞株U937及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図7d】血液がん細胞株U937及びPBMCをCD300E阻害剤(抗体又はsiRNA)で処理した場合に得られた、1群当たりのPBMCの細胞傷害性(%)を例示するグラフである。
【
図8a】1群当たりの、CD300E阻害剤(3種類のsiRNAのうちの各々)で処置したマウスにおける腫瘍サイズの変化を例示するグラフである。
【
図8b】1群当たりの、CD300E阻害剤(3種類のsiRNAのうちの各々)で処置したマウスにおける腫瘍サイズの変化を例示するグラフである。
【
図8c】1群当たりの、CD300E阻害剤(3種類のsiRNAのうちの各々)で処置したマウスにおける腫瘍サイズの変化を例示するグラフである。
【
図8d】1群当たりの、CD300E阻害剤(3種類のsiRNAのうちの各々)で処置したマウスにおける腫瘍サイズの変化を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔本発明を行うための最良の様式〕
一実施形態では、活性成分としてCD300抗原様ファミリーメンバーE(CD300E:CD300 antigen like family member E)タンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質を含む免疫賦活薬が提供される。
【0014】
本明細書で使用される場合、「CD300E」という用語は、「CD300抗原様ファミリーメンバーE」の略語であり、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、配列番号2の塩基配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ得る。
【0015】
具体的には、配列番号1によって表される205個のアミノ酸の配列は、1~173位のアミノ酸からなる細胞外ドメイン(配列番号3)、174~194位のアミノ酸からなる膜貫通ドメイン及び195~205位のアミノ酸からなる細胞内ドメインから構成され得る。配列番号3のアミノ酸配列を有するCD300Eの細胞外ドメインは、配列番号4の塩基配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ得る。
【0016】
加えて、本開示において、CD300Eは、ヒトIgG定常カッパタグが結合した形態であり得る。単離及び精製のためにヒトIgG定常カッパタグが結合したCD300Eは、配列番号5のアミノ酸配列によって表すことができ、配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、配列番号6の塩基配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ得る。具体的には、配列番号5の融合タンパク質は、CD300Eの細胞外ドメイン(1~173位)及びヒトIgG定常カッパタグ(179~285位)が互いに結合したタンパク質であり得る。
【0017】
本開示では、CD300Eタンパク質に結合する物質は、CD300Eタンパク質に特異的に結合する化合物、アプタマー、ペプチド又は抗体若しくはその断片であり得る。抗体又はその断片は、モノクローナル抗体、scFv、Fab、Fab’及びF(ab)’からなる群から選択されるいずれか1つであり得る。
【0018】
本開示では、CD300E遺伝子の発現を阻害する物質は、CD300E遺伝子のDNA又はmRNAに相補的に結合するアンチセンス核酸、siRNA、shRNA、miRNA又はリボザイムであり得る。CD300E siRNAは、配列番号7~18の塩基配列のうちのいずれか1つであり得る。
【0019】
一実施形態では、CD300Eを標的化し、その活性を阻害する抗CD300E抗体又はCD300E siRNAが、末梢血単核球(PBMC)のがん細胞に対する細胞傷害性を増大させることができるかどうかを特定することが意図された。その結果、CD300E阻害剤で処理したPBMCとがん細胞株との混合物において、PBMCのがん細胞株に対する細胞傷害性は、対照群よりも高いレベルで示された。本開示の別の実施形態では、CD300Eの活性を阻害するCD300E siRNAが、マウスにおいて腫瘍の増殖を阻害するかどうかを特定することが意図された。その結果、CD300E siRNAによる処置によってCD300Eがノックダウンされたマウスにおいて、腫瘍増殖速度は、対照群と比較して著しく阻害された。上記の結果から、CD300Eを標的化し、その活性を阻害する抗CD300E抗体又はCD300E siRNAは、CD300Eを遮断又はノックダウンしてその活性又は発現を阻害することによってがんの進行を遅延又は停止させ得ることが分かった。
【0020】
加えて、一実施形態では、活性成分としてCD300Eタンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質を含む、がんを予防又は治療するための医薬組成物が提供される。
【0021】
CD300Eタンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質は、上記の通りである。医薬組成物は、薬学的に許容できる添加物をさらに含み得る。
【0022】
本開示では、がんは、膀胱がん、骨がん、血液のがん、乳がん、黒色腫、甲状腺がん、副甲状腺がん、骨髄がん、直腸がん、咽頭がん、喉頭がん、肺がん、食道がん、膵がん、結腸直腸がん、胃がん、舌がん、皮膚がん、脳腫瘍、子宮がん、頭部又は頸部のがん、胆嚢がん、口腔がん、結腸がん、肛門周囲がん、中枢神経系腫瘍及び肝がんからなる群から選択されるいずれか1つであり得るが、これらに限定されない。
【0023】
本開示による、活性成分としてCD300Eタンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質を含む、がんを予防又は治療するための医薬組成物の好ましい1日用量は、患者の状態、体重、性別、年齢、疾患の重症度及び投与経路によって、0.01μg/kg~10g/kg、好ましくは0.01mg/kg~1g/kgの範囲であり得る。投与は、1日1回又は数回行われ得る。
【0024】
加えて、一実施形態では、活性成分としてCD300Eタンパク質に結合する物質、又はCD300E遺伝子の発現を阻害する物質を含む、がんを予防又は治療するための医薬組成物を個体に投与するステップを含む、がんを治療するための方法が提供される。
【0025】
投与経路は、静脈内、筋内、皮内、皮下、腹腔内、小動脈内、脳室内、病巣内、くも膜下腔内、局所及びこれらの組合せからなる群から選択されるいずれか1つであり得るが、これらに限定されない。
【実施例】
【0026】
〔発明の様式〕
以下に、本発明は、以下の実施例によってより詳細に説明される。しかしながら、以下の実施例は、本発明を単に例示することを意図し、本発明の範囲はそれに限定されない。
【0027】
調製実施例1.緩衝液の調製
実施例で使用される緩衝液を、以下の通り調製した。
1×PBS(Thermo Fisher gibco 10010番)を、155mMの塩化ナトリウム、2.96mMのリン酸ナトリウム溶液及び1.05mMのリン酸カリウム溶液を混合することによって調製した(pH7.4)。
【0028】
FACS緩衝液を、1×PBS(Thermo Fisher gibco 10010番)、10mlの2%FBS(Thermo Fisher gibco 16000-044番)及び1mlの1mM EDTA(Fisher 15575020)を混合することによって調製した。
【0029】
1×RBC溶解緩衝液を、10×RBC溶液(Biolegend 420301番)を、3回蒸留した水中に1:10で希釈することによって調製した。
【0030】
10%FBS RPMI1640を、RPMI培地(Cellgrow 10-040-CVR番)、50mlの10%FBS(Thermo Fisher gibco 16000-044番)、5mlの1%抗生物質(Thermo Fisher gibco 15140-122番)及び0.5mlの2-メルカプトエタノール(Thermo Fisher gibco 21985-023番)を混合することによって調製した。
【0031】
MACS緩衝液を、1×PBS(Thermo Fisher gibco 10010番)、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA:bovine serum albumin)(Millipore 82-100-6番)及び2mlの2mM EDTA(Fisher 15575020)を混合することによって調製した。
【0032】
実施例1.CD300Eタンパク質の、T細胞の増殖及び活性に対する阻害効果の特定
本実施例では、CD300Eタンパク質が、T細胞の増殖及び活性を阻害するかどうか、したがってがん細胞のT細胞媒介性免疫系の回避をもたらすかどうかを特定することが意図された。
【0033】
実施例1.1.CD4+T細胞及びCD8+T細胞の調製
ヒト血液を回収し、EDTA(又はヘパリン)でコーティングした10mL管に入れた。ヒト血液を、PBSと1:1の比で混合した。次いで、フィコール-パックプラス(Ficoll-Paque PLUS)を50mL管に入れ、上記の血液試料をそれに添加した。遠心分離後、ヒトPBMCを回収した。回収した生成物を遠心分離して、上清を除去した。続いて、RBC溶解(1x)緩衝液をそれに添加し、ピペッティングを行い、次いで、結果として生じたものを氷上で3分間維持した。続いて、50mlの10%FBS RPMI1640をそれに添加し、混合物を遠心分離して、上清を除去した。次いで、FACS緩衝液をそれに添加し、遠心分離を行って、上清を除去した。その後、50mlのMACS緩衝液(0.5%BSA及び2mM EDTAを含有するPBS)をそれに添加し、細胞数をカウントし、遠心分離を行って、上清を除去した。
【0034】
1×107個の細胞当たり40μlのMACS緩衝液を使用して、CD4+T細胞及びCD8+T細胞を再懸濁した。10μlの抗CD4及び抗CD8ビオチン抗体の各々を管に入れ、次いで、管を冷蔵庫で5分間維持した。その後、得られた生成物に、1×107個の細胞当たり30μlのMACS緩衝液を添加した。20μlの抗ビオチンマイクロビーズをそれに添加し、混合を行った。続いて、LSカラムを使用してCD4+T細胞及びCD8+T細胞を単離し、それぞれの細胞数をカウントした。
【0035】
調製したCD4+T細胞及びCD8+T細胞の各々を、2×106個の細胞当たり1μlのカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE:carboxyfluorescein succinimidyl ester)と混合し、各混合物を37℃で3分間維持した。次いで、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の各々を含有する各管にFBSを添加し、各管を氷上で10分間維持した。その後、遠心分離を行って、上清を除去した。得られた生成物に、30mlのFACS緩衝液を添加し、次いで、ピペッティングを行った。遠心分離を行って、上清を除去した。次いで、10%FBS RPMI1640をそれに添加し、次いで、ピペッティングを行った。遠心分離を行って、上清を除去した。その後、得られた生成物を、10mlの10%FBS RPMI1640と混合し、次いで、細胞数をカウントした。
【0036】
実施例1.2.CD300Eタンパク質によって引き起こされたT細胞活性の阻害の特定
組換えヒトIgG1タンパク質(カタログ番号110-HG)及び組換えヒトPD-L1/B7-H1タンパク質(カタログ番号156-B7)を、R&D Systemsから購入した。組換えヒトCD300Eタンパク質(ヒトIgG定常カッパタグを伴うヒトCD300E)を以下の方法によって産生した。具体的には、ベクターとしてpCEP4(Invitrogen)プラスミドDNAを使用して、配列番号6によって表されるポリヌクレオチドを、そのマルチクローニング部位(MCS:multiple cloning site)領域にクローニングした。得られたDNA構築物を、ヒト胚腎(HEK:human embryonic kidney)293F細胞にトランスフェクトし、培養培地に含有される組換えヒトCD300Eタンパク質(ヒトIgG定常カッパタグを伴うヒトCD300E)を、カッパ選択樹脂を使用して精製及び取得した。
【0037】
7.5μg/ml又は10μg/mlのタンパク質の各々を、2.5μg/mlの抗CD3抗体(BioLegend、カタログ番号317325)と混合した。混合物の各々を使用して、96ウェルプレートを4℃でコーティングし、PBSによる洗浄を3回行った。実施例1.1で調製したCD4+T細胞を、96ウェルプレートの各ウェル当たり2×106個の細胞の量で200μlにて添加し、インキュベーションを行った。抗CD3抗体を使用したCD4+T細胞の活性化を72時間行った。
【0038】
加えて、5μg/ml又は7.5μg/mlのタンパク質の各々を、2.5μg/mlの抗CD3抗体(BioLegend、カタログ番号317325)と混合した。混合物の各々を使用して、96ウェルプレートを4℃でコーティングし、PBSによる洗浄を3回行った。実施例1.1で調製したCD8+T細胞を、96ウェルプレートの各ウェル当たり2×106個の細胞の量で200μlにて添加し、インキュベーションを行った。抗CD3抗体を使用したCD8+T細胞の活性化を72時間行った。
【0039】
ここで、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の増殖を、CFSE染色のレベルによって測定し、ファクスディーバ(FACSDiVa)ソフトウェア(BD Biosciences)を使用してフローサイトメトリーによって分析した。結果を
図1及び2に例示する。
【0040】
図1及び2は、フローサイトメトリーによって測定したCD4+T細胞及びCD8+T細胞の増殖速度(%)を表す棒グラフである。
図1及び2で例示される通り、PD-L1で処理した対照群では、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の両方の増殖は、IgG1で処理した対照群と比較して阻害されていた。
【0041】
加えて、CD300Eで処理した群では、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の増殖は、IgG1で処理した対照群と比較して著しく阻害されており、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の増殖は、PD-L1で処理した対照群と比較しても阻害されていた。これらの結果から、CD300Eのその遮断又はノックダウンによる中和は、CD300EのT細胞増殖に対する阻害能力を減少させ、このようにして、がんの有効な治療を可能にすることを理解することができる。
【0042】
実施例2.PBMC細胞傷害性アッセイ
本実施例では、CD300Eを、CD300E阻害剤を使用して中和した場合、PBMCが、がん細胞に対する細胞傷害性(殺滅能力)の増大を示すことができるかどうかを特定することを意図した。
【0043】
実施例2.1.PBMCの調製
ヒト血液を回収し、EDTA(又はヘパリン)でコーティングした10mL管に入れた。ヒト血液を、PBSと1:1の比で混合した。次いで、フィコール-パックプラスを50mL管に入れ、上記の血液試料をそれに添加した。遠心分離後、ヒトPBMCを回収した。
【0044】
1.0μg/mlの抗CD3抗体(BioLegend、カタログ番号317325)を使用して、4℃で96ウェルプレートをコーティングした。96ウェルプレートの各ウェルをPBSで3回洗浄し、その後PBMCを添加した。以前に得たPBMCを、10%FBS RPMI1640と混合し、96ウェルプレートの各ウェル当たり6×105個の細胞の量で100μlにて添加した。抗CD3抗体によるPBMCの活性化を72時間行った。
【0045】
実施例2.2.がん細胞の調製
肺がん細胞株A549(ATCC(登録商標)CCL-185)、結腸がん細胞株HCT-116(ATCC(登録商標)CCL-247)、乳がん細胞株MDA-MB-231(ATCC(登録商標)HTB-26)、胃がん細胞株MKN-74(KCLB80104番)及び白血病細胞株U937(ATCC(登録商標)CRL-1593.2)を、各々、5μMのCFSEと混合し、37℃で5分間維持した。その後、各細胞株を含有する各管にFBSを添加し、各管を氷上で10分間維持した。続いて、遠心分離を行って、上清を除去した。このようにして得た生成物に、30mlのFACS緩衝液を添加した。次いで、ピペッティングを行い、遠心分離を行って、上清を除去した。次いで、10%FBS RPMI1640をそれに添加した。次いで、ピペッティングを行い、遠心分離を行って、上清を除去した。このようにして得た生成物を、10mlの10%FBS RPMI1640と混合し、次いで、細胞数をカウントした。
【0046】
各種類のがん細胞を、実施例2.1で調製した96ウェルプレートの各PBMC含有ウェル当たり3×104個の細胞/100μlで添加し、インキュベーションを行った。
【0047】
実施例2.3.PBMCのがん細胞株に対する細胞傷害性の測定
10μg/mLの抗ヒトCD300E抗体又は50nMのCD300E siRNAを、96ウェルプレートの各ウェルに添加し、インキュベーションを24時間行った。以下の表1は、CD300Eを遮断するために4種類の中和抗体を使用する実験群、及び非処理対照群を示し;以下の表2は、CD300Eをノックダウンするために3種類のsiRNAを使用する実験群、及び非処理対照群を示す。
【0048】
【0049】
【0050】
PBMC及び各がん細胞株の各混合物を、抗体又はsiRNAとインキュベートした。24時間後、溶解した細胞を特定するために、細胞を7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD:7-aminoactinomycin D;BD Pharmingen、San Diego、Calif.、米国)で染色した。CFSE及び7-AADについての染色を、ファクスディーバソフトウェア(BD Biosciences)を使用して測定して、PBMCの各がん細胞株に対する細胞溶解能を特定した。結果を
図3a~7dに例示する。具体的には、肺がん細胞株A549をCD300E中和抗体又はsiRNAで処理することによって得られた実験結果を、
図3a~3dに例示する。結腸がん細胞株HCT-116をCD300E中和抗体又はsiRNAで処理することによって得られた実験結果を、
図4a~4dに例示する。乳がん細胞株MDA-MB-231をCD300E中和抗体又はsiRNAで処理することによって得られた実験結果を、
図5a~5dに例示する。胃がん細胞株MKN-74をCD300E中和抗体又はsiRNAで処理することによって得られた実験結果を、
図6a~6dに例示する。白血病細胞株U937をCD300E中和抗体又はsiRNAで処理することによって得られた実験結果を、
図7a~7dに例示する。
【0051】
図3a~3dで例示される通り、肺がん細胞株A549及びPBMCをCD300E中和抗体で処理した場合、抗体の種類によって殺滅能力の点で程度に差があったが、非処理対照群と比較して、顕著に増大した肺がん細胞殺滅能力が示され;肺がん細胞をCD300E siRNAで処理した場合でも、顕著に増加した肺がん細胞殺滅能力が同様に示された。
【0052】
PBMCが肺がん細胞株に対して増大した殺滅能力を示す上記の結果と同様に、CD300EをCD300E中和抗体又はsiRNAを使用して中和した場合、PBMCは、結腸がん細胞株、乳がん細胞株、胃がん細胞株及び白血病細胞株に対しても増大した殺滅能力を示すことが分かった(
図4a~7d)。
【0053】
実施例3.腫瘍マウスモデルを使用した実験
本実施例では、CD300Eを、CD300E阻害剤を使用して中和した場合、マウスにおける腫瘍の増殖が、阻害されるかどうかをインビボで特定することを意図した。
【0054】
C57BL/6結腸腺癌細胞由来のMC38細胞株を、50μlのPBS中に2.0×105個の細胞の濃度で再懸濁し、6週齢のC57BL/6雌マウスの側腹部に皮下注射した。以下の表3は、CD300EをノックダウンするためにsiRNAを使用する実験群、及び非処置対照群を示す。
【0055】
【0056】
全ての実験群について、MC38細胞株の注射後11日目から開始して、マウスCD300Eを標的化する各siRNAを、マウス腫瘍に5日間の間隔で、全部で3回注射した。具体的には、製造業者の説明書に従って、10μgのsiRNAを7.5μlのPBS中のオリゴフェクトアミン(Invitrogen)と混合し、次いで、混合物を0.5mg/kgの用量で、マウスにおいて誘導した腫瘍組織に直接注射した。非処置対照群、及びCD300Eがノックダウンされた実験群におけるマウスの腫瘍サイズを測定することによって得られた結果を、
図8a~8dに例示する。
図8a~8dで例示される通り、非処置対照群では、腫瘍は、マウスにおける生成以来連続的に増殖したことが分かった。他方で、CD300Eがノックダウンされたマウスでは、腫瘍は、非処置対照群と比較して著しく阻害された増殖速度を示すことが分かった。このことは、CD300Eが遮断又はノックダウンされ、その活性又は発現が阻害された場合、がんの進行は遅延又は停止され、がんの発達は阻害されることを示す。したがって、CD300E阻害剤は、がんを予防及び治療するために有用である。
【配列表】