IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 天龍建設株式会社の特許一覧 ▶ 可茂森林組合の特許一覧

特許7072758防草機能を有する土壌基盤材を用いた法面補強工法
<>
  • 特許-防草機能を有する土壌基盤材を用いた法面補強工法 図1
  • 特許-防草機能を有する土壌基盤材を用いた法面補強工法 図2
  • 特許-防草機能を有する土壌基盤材を用いた法面補強工法 図3
  • 特許-防草機能を有する土壌基盤材を用いた法面補強工法 図4
  • 特許-防草機能を有する土壌基盤材を用いた法面補強工法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】防草機能を有する土壌基盤材を用いた法面補強工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
E02D17/20 104B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020085542
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021179136
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】316002992
【氏名又は名称】天龍建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520168402
【氏名又は名称】可茂森林組合
(72)【発明者】
【氏名】幡野 泰典
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-121173(JP,A)
【文献】特開2008-295430(JP,A)
【文献】特開2004-154071(JP,A)
【文献】特開2006-9497(JP,A)
【文献】特開2004-89183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細かく砕かれ、乾燥された竹チップと、木質チップ燃料の燃焼残渣として生成される灰と、酸化マグネシウムおよび塩化マグネシウムから形成される固化材料とを混合した材料により土壌基盤補強材料が構成され、
前記土壌基盤補強材料は、前記竹チップの重量比率が50%を、前記灰の重量比率が35%以上45%未満を占めており、
前記土壌基盤材料に水を加え、攪拌され湿った状態の材料を高圧状態で圧送し、吹付を行う法面の直前でさらに高圧状態の水と混合する
ことで法面への吹付を行うことを特徴とする法面補強工法。
【請求項2】
前記土壌基盤材料を攪拌する際の、前記水の量は、法面の直前で混合される水の量よりも少ないことを特徴とする請求項1記載の法面補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田んぼや畑を区画するあぜ道と農地との境界面に存在する法面、あるいは田んぼや畑に隣接して設けられる用水路の擁壁など、小規模な法面についての、法面補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面補強工法としては、土木工事に伴い露出した地盤が崩落しないよう、表面を金網などで保護する、あるいは金属や樹脂などの構造物を表面に取り付ける、植物を含んだマット類を貼り付け、そこから生育する植物が伸ばす根によって地盤を安定させる緑化工法などが存在する。
【0003】
一般的に金網などの保護、金属などの構造物取り付けと併用される工法として、表面にモルタルや接着性のある高分子樹脂を含んだ土壌材料を高圧で法面に堆積させて表面を補強する、吹付工法が広く用いられている。
【0004】
吹付工法は、林道などの山林部での道路建築、土地造成に伴う山腹の地盤改良など、大掛かりなところに適用される工法であった。これは、土壌材料を高圧で吹き付けるための建設機材が大きなものであることが主な要因である。
【0005】
吹付工事の具体例としては、先行文献1に記されるような、種子類を含む土壌基盤材を用いた、法面の緑化を伴う工法の他、文献2に記されるような、モルタル類を吹き付けることでの崩落防止のためのものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-89183
【文献】特公昭58-19816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行文献1、2それぞれについては、山腹の法面など大規模な場所が想定されており、吹き付ける材料は土、モルタルなどからなることから、装置が大掛かりになる。例えば、コンクリート類に対応した圧送機はその本体の重量が1トンを超えるものが多く、水を圧送機に送り込むためのポンプ、圧送機に高圧空気を送り込むためのコンプレッサー、およびこれらの電源となる発電機などで、機材を施工現場に搬入するだけでも中型トラックが最低でも2台必要など、大掛かりなものとなる。
【0008】
一方、法面は山腹に限るものではなく、例えば田んぼや畑を区画するあぜ道の側面のような小規模なものも存在する。
【0009】
土を固めることで、あぜ道に農耕車両や収穫物を運搬するトラック類が通行できるようにして道としての機能を持たせているが、その道幅は必要最小限なものであり、大規模な吹付工事を行うための機材を搬入することが困難である。
【0010】
また、稲作には大量の水が必要であり、そのため農地の各区画に水を引き込むための用水路が配置されており、その幅については最小限かつ、深さも数10cm程度であり、水が流れる部分をコンクリートで固めるなどの補強については簡略化することが望ましい。
【0011】
通常、あぜ道は自然に草が生えてきてしまうため、時々除草する必要があった。あぜ道の側面を草が生えないよう、防草機能を持つ材料で覆うことができれば管理の負担が軽減するため有益であるが、以下の問題があり、あぜ道側面を補強する工事と同時に行える防草の工事は難しいといえる。
【0012】
(1)あぜ道の側面はほぼ垂直で急峻であるため、吹付工法でないと材料が有効に施工できない
【0013】
側面が垂直であることから、その面を補強する工法を塗布によるものとした場合、土留などの枠構造を表面に施工し、補強材料を流し固める。例えば、補強材料としてはコンクリートなどが想定される。この際、材料自体の重力によって、補強材料は下に落ちようとするため、補強材料が必要最小限の量だけにとどまらず、厚めにすることにより材料コストがかさむという問題が存在する。
【0014】
(2)あぜ道は農耕車両や、軽トラック類が通行できる程度の幅にしか確保されていないため吹付工法を行うための機材の運び込みが困難
【0015】
前述のとおり、吹付工法を行えば必要最小限の補強材料を表面に覆わせることが可能であるが、農地の区画となるあぜ道の道幅その他の制限で、吹付工法を行うための機材は導入が難しい一方、施工面積が大して大きくないため、工事の準備その他にかかるコストがかさむという問題も存在する。
【0016】
本発明では、あぜ道での吹付工法を実現するために材料選択を行い、小規模な圧送機でも吹付工法を実現することで、狭く、大規模な機材が導入不可能な場所での吹付工法によるあぜ道側面の防草工事を実現することを目的として検討を行った。
【0017】
あぜ道の管理コストを削減するために、雑草類が生えないよう表面に防草材料で覆うことが必要である。表面を硬い材料で覆うことで、植物が表面に生育しないことで防草が実現される。
【0018】
一方、雑草類が生えてこなくすると同時に、土壌の生態系はなるべく破壊しないことが必要であるため、表面がただ単に硬いだけではなく、通気性、透水性も実現する必要がある。
【0019】
本発明では、生育が早く、山地などで余剰となっており有効活用が必要とされる竹を防草材料の一つとして選択することで、自然材料から構成される防草機能を有する土壌基盤材を実現した。
【0020】
本発明の請求項1では、竹を乾燥させ、細かく砕いた竹チップを土壌基盤材の主要材料として選択し、その重量比率を全体の50%とすることで、防草機能を有しかつ通気性、透湿性を実現した。
【0021】
さらに、防草機能を実現するための固化材料として、酸化マグネシウムおよび塩化マグネシウムからなる固化材料を用い、自然材料のみで構成される土壌基盤材とする。
【0022】
この他、固化材料を竹チップの周囲になじませるための材料を、木質チップ燃料の燃焼残渣である灰を用いることで、土壌基盤材の比重を軽くしたことが特徴である。
【0023】
さらに、土壌基盤材を実際に吹き付ける工程に関し、土壌基盤材を均一に混合させるための必要最小限の量の水を混合することで、土壌基盤材を吹き付けるための圧力が少なくて済むようにした。
【0024】
あぜ道の側面に土壌基盤材を定着させるための水は、別経路としてノズルの直前で混合するように吹付装置を構成したため、吹付工法を行うための機材が小さいもので実現できる。
【0025】
吹き付ける材料が軽く、また、ノズルの直前で水を混合して吹付工事を行うため、必要とする機材が小規模で済ませることができ、これまでコスト面で敬遠されてきたあぜ道の側面のような狭く、面積の小さな場所においても吹付工事が適用できるようになる。
【0026】
本発明の請求項2では、請求項1に記載した土壌基盤材を混合、攪拌する際の水の量が必要最小限であることから、吹付工法として法面に定着させる水の量としては、高圧状態にされた、吹付ノズル直前側で混合する方が多いことを記している。
【0027】
このことによって、土壌基盤材の圧送に必要な機材の規模を小さくすることができ、あぜ道のような規模の小さな法面でも吹付工法が採用可能となる。
【0028】
以上の工事によって、土壌基盤材の表面を固めることから、側面についての防草効果が得られ、あぜ道に雑草が生えてくることが抑制されるため、草刈りが不要となり管理コストが軽減される。
【0029】
以降、図面を併用しながら本発明を実施するための形態について説明を行う。
【0030】
本発明で用いる土壌基盤材は、自然由来の材料で構成されることで、施工後の再工事などで取り壊しが必要になった際にも産業廃棄物を発生しないという特徴がある。
【0031】
まず、充分に乾燥させ、数ミリ程度の長さに破砕した竹チップを用意する。重量比率としては50%を占めるものであり、竹自体の繊維構造、およびチップどうしの積み重なりにより、完成した土壌基盤材の通気性、透水性が確保される。
【0032】
竹チップの表面を固めるために、流動性があり微細かつ軽量な素材として、灰をつなぎの材料として選択する。この灰は木質チップ燃料の燃焼残渣であり、微細な粉末状の形をもって存在する。燃焼残渣であるため、水分の含有量は極めて少なく、また燃え残りとしての木質チップの形状はほぼ存在しない。
【0033】
この灰を、重量比率として35~45%の範囲で配合する。後述する固化材料の比率が高いほうが表面の強度として有利ではあるのだが、固化材料の材料コストも考慮し、標準的な灰の重量比率を40%と規定する。
【0034】
残り10%の重量比率を、酸化マグネシウムおよび塩化マグネシウムからなる固化材料とする。
【0035】
一般的にはにがりとして海水から抽出される材料であるが、真砂土と混合することにより表面を固める材料として利用でき、古くからの土木工事として、例えば土間や河川の堤防などにも用いられてきた。
【0036】
これら土壌基盤材の各材料が混合され、法面や地面に適用された際の表面の状態を図1に示す。空間的に分散して存在する竹チップ11の周囲を、灰12、固化材料13の混合物が結合することで、強固な表面を持つ土壌基盤材10が形成される。
【0037】
施工時に水分を配合することで灰12、固化材料13が適度に攪拌され充分混ぜ合わさり竹チップ11のつなぎとして表面が固化されるが、施工状態に応じて表面から圧力をかけて押し固めることでより強度のある土壌基盤材10として機能する。
【0038】
これら各材料を配合した土壌基盤材10を、吹付工事によって法面に施工する概略を図2に示す。
【0039】
吹付工事を行う機械である吹付機21は、撹拌機22、圧送機23、コンプレッサー24、ノズル25および電源機(図示せず)によって構成される。
【0040】
土壌基盤材10の各材料を混合したおよび材料が充分攪拌される程度の量の水31を、攪拌機22に投入する。攪拌機22で水31を含んで混合された土壌基盤材10は、粒状の固まりとして吹付が可能な状態となる。
【0041】
攪拌機22から、圧送機23に運ばれた土壌基盤材10が、コンプレッサー24で生成される圧縮空気によりノズル25に向かって圧送される。
【0042】
ノズル25には、土壌基盤材10とは別の経路から、水32が供給され、ポンプ26を介して高圧状態にされた水32がノズル25終端部で混合され、法面41に吹きつけられ、固着する。
【0043】
土壌基盤材10に含ませる水31が必要最低限であることから、混合物の重量も重くならず、圧送された材料はノズルの直前で水32と混合させて吹付工事を行うため、吹付機21の規模は大きくなくてもよい。
【0044】
以上の装置を用いて吹付工事が小規模な場所でも実現可能になるが、以下施工状況について記す。
【0045】
図3は、あぜ道の施工概略について示したものである。
【0046】
あぜ道51は前述したように、農耕車両、軽トラックなどが通ることができれば充分なので、大抵の場合は幅2m未満である。
【0047】
田んぼとの高さの差は数10cm程度、最大でも50cm未満であり、一般的な山腹の法面と比べると吹付を行う面積はさほど広くない。あぜ道51に吹付機を設置し、工員が田んぼ50に入って、あぜ道51の両側の側壁面52に土壌基盤材を吹き付けて、表面を固着させ防草機能を持たせる。
【0048】
田んぼでは畑作、稲作が行われるが、稲作を行うにあたり、用水路が配されていることも多い。このような用水路の擁壁面への吹付工事の施工概略について図4に示す。
【0049】
用水路の深さは田んぼよりも低い程度で、幅もさほど広くない。このため、施工については通常のあぜ道と同様に細かく操作する必要がある。
【0050】
あぜ道51に吹付機を配置し、用水路54に工員を配置して、両側の擁壁面53に吹付工事を行い、表面を固着させる。用水路53と田んぼ50の間には、田んぼ50の領域を区画するあぜ道51が配置されており、田んぼ50に工員を配置して、側壁面52への吹付工事を行う。
【0051】
ここまでは吹付工事によるものであったが、補修や平坦な場所の表面を固めるために、土壌基盤材10を水分を加えて練り、直接塗り付ける工法も存在し、それを併用することも望ましい。
【0052】
直接塗り付ける工法の事例として、図4に農耕車両導入部の施工についての概略を示す。
【0053】
従来のあぜ道側面への施工と同様に、田んぼ50に工員を配置して、あぜ道側壁面52への吹付工事を行う。
【0054】
農耕車両導入部55は、あぜ道51の一部を削掘し、緩やかな斜面を設けたものであり、あぜ道と斜面の間にも側壁面56が生じる。
【0055】
側壁面56に関しては、側壁面52と同様吹付工事によって表面を固める。その後、水分を付加した土壌基盤材10を農耕車両導入部55に堆積し、表面から圧力をかけて踏み固める。この際かける圧力は人の体重程度で差し支えなく、特別な建機を使用する必要はない。
【0056】
以上のような施工により、従来では吹付工事に用いる機材が導入できなかったあぜ道などにも吹付工事が実現可能となるため、吹付工事を適用可能な箇所が広がり、かつ、吹付工事を行う土壌基盤材は防草機能を有するため、あぜ道の保守のための草刈りが省略可能となることから管理コストの軽減ができるという利点を有する。
【0057】
なお、本発明では実施例として田んぼを施工箇所として例示したが、あぜ道が配置される農地としてはその他畑、果樹園なども存在し、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲でこれら他種類の農地と隣接するあぜ道にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】竹チップ、灰、固化材料の混合物が土壌基盤材として機能する際の表面状態
図2】吹付工事の概略図
図3】あぜ道の施工概略図
図4】用水路の施工概略図
図5】農耕車両導入経路の施工概略図
【符号の説明】
【0059】
10 土壌基盤材
11 竹チップ
12 灰
13 固化材料
21 吹付機
22 撹拌機
23 圧送機
24 コンプレッサー
25 ノズル
26 ポンプ
31,32 水
41 法面
50 田んぼ
51 あぜ道
52,56 側壁面
53 用水路
54 擁壁面
55 農耕車両導入部
図1
図2
図3
図4
図5