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  • 特許-関節炎症改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】関節炎症改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/39 20060101AFI20220516BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20220516BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220516BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220516BHJP
【FI】
A61K38/39
A61K35/60
A61P19/02
A23L33/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018010110
(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公開番号】P2019127458
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中根 明夫
(72)【発明者】
【氏名】成田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 昌平
(72)【発明者】
【氏名】浅野 クリスナ
(72)【発明者】
【氏名】山口 信哉
(72)【発明者】
【氏名】安保 亜衣子
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048150(JP,A)
【文献】特開2016-160226(JP,A)
【文献】特開2016-029150(JP,A)
【文献】Tatara, Y. et al.,Preparation of proteoglycan from salmon nasal cartilage under nondenaturing conditions,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2015年,Vol.79, No.10,p.1615-1618,doi:10.1080/09168451.2015.1044933
【文献】Yoshimura, S. et al.,Attenuation of collagen-induced arthritis in mice by salmon proteoglycan,BioMed Research International,2014年,Vol.2014,Article ID 406453, 9 Pages,doi:10.1155/2014/406453
【文献】Kim, G. Y. et al.,Oral administration of proteoglycan isolated from Phellinus linteus in the prevention and treatment of collagen-induced arthritis in mice,Biological & Pharmaceutical Bulletin,2003年,Vol.26, No.6,p.823-831,doi:10.1248/bpb.26.823
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 35/00-35/768
A23L 33/00-33/29
PubMed
医中誌WEB
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サケの鼻軟骨由来のプロテオグリカンのカリウム塩およびマグネシウム塩から選択される少なくとも1種を有効成分とする関節炎症改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な関節炎症改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチや変形性関節症(骨関節症)に代表される関節炎症は、関節の炎症性疾患であり、発症すると関節の痛みや腫れなどを引き起こし、QOL(生活の質)を損なわせることは周知の通りである。従って、古くから関節炎症改善剤の研究開発が精力的に行われており、本発明者らの研究グループも、サケの鼻軟骨由来のプロテオグリカンが関節炎症改善剤の有効成分として利用できることを非特許文献1において報告している。しかしながら、より優れた関節炎症改善剤の有効成分の探索は、今なお必要とされている状況にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Sayuri Yoshimura et al.,Attenuation of Collagen-Induced Arthritis in Mice by Salmon Proteoglycan,BioMed Research International Volume 2014(2014),Article ID 406453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、新規な関節炎症改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、プロテオグリカンのカリウム塩とマグネシウム塩が、II型コラーゲン誘導関節炎に対して優れた改善作用を発揮することを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の関節炎症改善剤は、請求項1記載の通り、サケの鼻軟骨由来のプロテオグリカンのカリウム塩およびマグネシウム塩から選択される少なくとも1種を有効成分とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プロテオグリカンのカリウム塩およびマグネシウム塩から選択される少なくとも1種を有効成分とする新規な関節炎症改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1において、プロテオグリカンのカリウム塩とマグネシウム塩が、II型コラーゲン誘導関節炎に対して優れた改善作用を発揮することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の関節炎症改善剤は、プロテオグリカンのカリウム塩およびマグネシウム塩から選択される少なくとも1種を有効成分とするものである。本発明において、「改善」なる用語は、予防および治療の両方の概念を含むものとする。
【0010】
プロテオグリカンは、複合糖質のひとつで、コアタンパクとそれに結合するグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)からなり、細胞外マトリックスの主な構成要素として、皮膚、軟骨、骨、血管壁などに存在することが知られている物質である。プロテオグリカンは、例えば、サケ、サメ、ウシ、クジラなどの軟骨を原材料にして精製することで取得することができ、代表的な取得方法としては、特開2002-69097号公報に記載の酢酸を用いた方法を挙げることができる。この方法は、例えばミンチにしたサケの鼻軟骨から溶出溶媒として酢酸を用いて粗プロテオグリカンを溶出した後、得られる溶出液を濾過してから遠心分離し、その上澄液に食塩飽和エタノールを加えて遠心分離することにより得られる粗プロテオグリカンを含む半固形沈殿物を酢酸に溶解し、次いで透析することにより行うものであり、この方法によれば、例えばサケの鼻軟骨から約100~1500kDaの分子量を有するプロテオグリカンを取得することができ、こうして取得されたサケの鼻軟骨由来のプロテオグリカンは市販もされている(角弘プロテオグリカン研究所社)。本発明において有効成分とするプロテオグリカンのマグネシウム塩は、こうしたプロテオグリカンをマグネシウム塩に変換することで調製することができる。プロテオグリカンをマグネシウム塩に変換する方法は、自体公知の方法であってよく、例えばプロテオグリカンをマグネシウムイオン型の強酸性陽イオン交換樹脂を用いて処理する方法が挙げられる。また、プロテオグリカンのマグネシウム塩への変換は、プロテオグリカンを、低温下で、1M以下の塩酸やクエン酸で処理し、加えた酸や遊離した低分子を除去した後、塩化マグネシウムや酢酸マグネシウムを加える方法や、プロテオグリカンの水溶液に高濃度の塩化ナトリウムや塩化マグネシウムを加える方法によっても行うことができる(特開2017-48150号公報)。また、本発明において有効成分とするプロテオグリカンのカリウム塩は、プロテオグリカンをマグネシウム塩に変換する方法に準じた方法で調製することができる。
【0011】
本発明において有効成分とするプロテオグリカンのカリウム塩やマグネシウム塩は、各種の製剤形態に製剤化することでそれ自体を医薬品や健康食品として服用や摂取することができることに加え、各種の飲食品に配合して飲食することで、優れた関節炎症改善作用を発揮する。その適用量は、適用者の年齢や体重、症状の程度、適用形態などによって異なるが、特に制限されるものではない。
【実施例
【0012】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0013】
実施例1:
II型コラーゲン誘導関節炎に対する、プロテオグリカンとその金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩)の作用を調べた。なお、プロテオグリカンは、サケの鼻軟骨由来の市販品(角弘プロテオグリカン研究所社)を用い、その金属塩は、特開2017-48150号公報に記載の方法に準じて次のようにして調製した。
【0014】
(プロテオグリカンのマグネシウム塩)
ガラス製カラム(内径4.6cm、高さ12cm)に、強酸性陽イオン交換樹脂(バイオラッド社のAG 50W-X8 resin、100~200mesh)を充填し、1Mの塩化マグネシウム溶液を用いてMg型にした後、脱イオン水で中性になるまで洗浄した。次に、プロテオグリカン1.2gを脱イオン水に溶解した溶液を、室温でカラム上方から添加し、流下した。その後、樹脂に脱イオン水を2mL/分の流速で、400mL流下し、得られた溶出液をエバポレーター(東京理科器械社)にて濃縮した後、凍結乾燥し、白色綿状固体として得た(収量:1.2g)。
(プロテオグリカンのナトリウム塩)
1Mの塩化マグネシウム溶液のかわりに2Mの水酸化ナトリウム溶液を用いて強酸性陽イオン交換樹脂をNa型にすること以外は、プロテオグリカンのマグネシウム塩を調製する方法と同様の方法で、白色綿状固体として得た(収量:1.1g)。
(プロテオグリカンのカリウム塩)
1Mの塩化マグネシウム溶液のかわりに2Mの水酸化カリウム溶液を用いて強酸性陽イオン交換樹脂をK型にすること以外は、プロテオグリカンのマグネシウム塩を調製する方法と同様の方法で、白色綿状固体として得た(収量:1.1g)。
【0015】
(実験方法)
生後7週齢目の雌のDBA/Jマウスを以下の6群に分け、個々のマウスにII型コラーゲン誘導関節炎を発症させた(1群5匹)。
・ プロテオグリカン非投与群
・ プロテオグリカン投与群
・ プロテオグリカンのナトリウム塩投与群
・ プロテオグリカンのカリウム塩投与群
・ プロテオグリカンのマグネシウム塩投与群
II型コラーゲン誘導関節炎を発症は、II型コラーゲン(50μg)とフロインド完全アジュバントを1:1の割合で混合し、マウスの尾部に皮下投与することで行った。被験物質は、事前に個々のマウスの1日当たりの飼料(脂肪成分5.6%通常食)平均摂取量を調べておき、個々のマウスが被験物質を1日当たり1mg摂取するように、飼料に混合して投与した。被験物質の投与は、II型コラーゲンを投与した日から開始し、実験終了日まで継続した。関節炎の評価は、II型コラーゲンを投与した日から21日目より57日目まで、3日に1回スコアリングすることで行った。スコアは、Edward F.Rosloniec et al.,Collagen-Induced Arthritis,Current Protocols in Immunology,April 2010に従い、以下の通りとした。
0 足首および足根骨に発赤および腫脹なし
1 足首および足根骨に限定的な軽度の発赤および腫脹あり
2 足首から足根骨にわたる軽度の発赤および腫脹あり
3 足首から足根骨にわたる中度の発赤および腫脹あり
4 足首から足根骨にわたる重度の発赤および腫脹あり
【0016】
(実験結果)
図1に示す。図1から明らかなように、プロテオグリカンの金属塩のII型コラーゲン誘導関節炎に対する改善作用は、金属塩の種類によって異なり、カリウム塩とマグネシウム塩はプロテオグリカンよりも優れた改善作用を発揮したが、ナトリウム塩は発揮しなかった。
【0017】
製剤例1:錠剤
以下の成分組成からなる関節炎症改善作用を発揮する錠剤を自体公知の方法で製造した。
プロテオグリカンのカリウム塩 1
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 19 (単位:重量%)
【0018】
製剤例2:ビスケット
以下の成分組成からなる関節炎症改善作用を発揮するビスケットを自体公知の方法で製造した。
プロテオグリカンのマグネシウム塩 1
薄力粉 32
全卵 16
バター 16
砂糖 24
水 10
ベーキングパウダー 1 (単位:重量%)
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、新規な関節炎症改善剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
図1