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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】鉄骨梁の横補剛構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20220516BHJP
   E04B 1/48 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
E04B1/24 F
E04B1/48 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018083227
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019190109
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉敷 祥一
(72)【発明者】
【氏名】江頭 寛
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩之
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008394(JP,A)
【文献】特開2002-070227(JP,A)
【文献】特開2004-218321(JP,A)
【文献】特開2016-023440(JP,A)
【文献】特開2015-068001(JP,A)
【文献】国際公開第2006/080677(WO,A1)
【文献】特開平09-013499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24,1/30
E04B 1/48
E04B 5/00-5/48
E04C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上フランジ、下フランジ、及び前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブを有する鉄骨梁と、
前記鉄骨梁の上に設けられた鉄筋コンクリート製のスラブと、
前記鉄骨梁の軸方向に直交する方向に延在するように前記上フランジの上面に接合されて前記スラブに埋設された複数の平板状の孔あき鋼板ジベルと、
前記鉄骨梁の上面に接合されて前記スラブに埋設された複数の頭付きスタッドとを備え
前記鉄骨梁のスパンを均等な4つの区間に分割し、中央側に位置する2/4の区間を中央区間とし、両端部に位置するそれぞれ1/4の区間を端部区間としたときに、前記鉄骨梁の前記中央区間に対応する部分に前記孔あき鋼板ジベルが設けられ、前記鉄骨梁の前記端部区間に対応する両部分に前記頭付きスタッドが設けられていることを特徴とする鉄骨梁横補剛構造。
【請求項2】
前記孔あき鋼板ジベルの孔を貫通するように前記鉄骨梁の軸方向に沿って設けられ、前記スラブに埋設された第1補強鉄筋を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨梁横補剛構造。
【請求項3】
前記頭付きスタッドに沿って設けられ、前記スラブに埋設された第2補強鉄筋を更に備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄骨梁横補剛構造。
【請求項4】
前記鉄骨梁が、前記ウェブの左右の両側に設けられて前記上フランジと前記下フランジとを連結する少なくとも1対のスチフナを更に有し、
前記孔あき鋼板ジベルが、前記鉄骨梁の軸方向において前記スチフナに整合する位置に配置されていることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鉄骨梁横補剛構造。
【請求項5】
前記孔あき鋼板ジベルが開先溶接により前記上フランジに接合されていることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の鉄骨梁横補剛構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄骨梁の横補剛構造に関する。
【背景技術】
【0002】
国交省監修の「2015年度建築物の構造関係技術基準解説書」(以下、技術基準解説書と呼ぶ)では、鉄骨造の大梁に対して保有耐力横補剛の必要性が示されている。保有耐力横補剛とは、梁材の両端が全塑性状態に至った後、十分な回転能力を発揮する材の両端部はもちろん、それ以外の弾塑性領域の部分においても横座屈を生じないような剛性を補完することをいう。
【0003】
鉄骨梁とその上方の鉄筋コンクリート製のスラブとは、通常、頭付きスタッドにより緊結される。スタッドは鉄骨梁の上フランジの上面に溶接され、スラブから伝わる水平力はスタッドを介して鉄骨梁に伝達される。鉄骨梁が強軸回りに曲げを受け、圧縮側が面外へはらみだす現象が横座屈である。技術基準解説書では、横座屈を抑制する方法として、小梁や方杖による補剛方法が奨励されている。
【0004】
小梁や方杖などの横座屈補剛材は、鉄骨梁を横補剛することができる一方、鉄骨量の増大や鉄骨梁の加工手間の増大を招く。特許文献1には、横座屈補剛材を取り付けることなく鉄骨梁の横座屈を抑制できる構造として、鉄骨梁に設けられた鉄筋コンクリート製のスラブが、鉄骨梁の横移動を拘束するのに必要とされる本数以上のスタッドによりフランジと接合され、鉄骨梁の回転変形を拘束する捩り剛性を備える合成梁構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-12788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、スタッドによってスラブが鉄骨梁に接合された合成梁の横補剛効果を確認するため、図12に示されるように、複数の頭付きスタッド115を鉄骨梁103の上フランジの上面に設けてスラブ104に埋設した合成梁の試験体100を製作した。なお、この試験体100では、鉄骨梁103の両端が剛結合される1対の柱102の下端及び上端がベース部材120や加力部材130に対してピン結合されている。そして、合成梁の保有耐力を確認するために試験体100に材軸方向のせん断力Qを交番的に加える合成梁の加力実験を行った。その結果、スラブ104による相応の横補剛効果が確認されたものの、加力によって一部の頭付きスタッド115が破断し、その後、残りの頭付きスタッド115を拘束するスラブ104の部分がコーン状破壊を起こし、合成梁としての機能が喪失されることがわかった。そして、合成梁としての機能が喪失されることにより、鉄骨梁103には大きな横座屈が生じた。
【0007】
一部の頭付きスタッド115が破断しなければ、スラブ104による横補剛性能は改善される。一部の頭付きスタッド115が破断を防止するために頭付きスタッド115の本数を、鉄骨梁103の横移動を拘束するのに必要とされる本数よりもかなり多くすることが考えられる。しかしながら、そのようにすると、頭付きスタッド115の鉄骨梁103への取付手間が増える。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑み、鉄骨量の増大及び鉄骨梁の加工手間の増大を抑制できる鉄骨梁横補剛構造を提供することを課題とする。
【0009】
図13は、加力実験後の合成鉄骨梁の試験体100の損傷状況を示す平面図である。図中、丸印は、破断した頭付きスタッド115を示し、三角印は、スラブ104がコーン状破壊を起こした頭付きスタッド115を示している。図示されるように、本願発明者らは、加力実験によって破断する頭付きスタッド115が鉄骨梁103の長さLのスパンの中央部(スパンを4等分したときの中央2/4区間)に集中していることから、頭付きスタッド115の破断がスラブ104に対する鉄骨梁103の軸方向の変位に起因することを見出し、本発明を想到するに至った。
【0010】
図14は、図12に示される試験体100のスラブ104と鉄骨梁103の上フランジとの間の材軸方向の相対ずれ変位δを横軸に、せん断力Qを縦軸に示したグラフである。図14中、実線は鉄骨梁103の中央部の相対ずれ変位δを、破線及び一点鎖線は鉄骨梁103の東側及び西側の端部の相対ずれ変位δをそれぞれ示している。グラフより、鉄骨梁中央部の相対ずれ変位δは、鉄骨梁端部の相対ずれ変位δよりも大きいことがわかる。このことから、スラブ104に対する鉄骨梁103の軸方向の相対ずれに起因して頭付きスタッド115が破断すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、鉄骨梁横補剛構造であって、上フランジ(6)、下フランジ(7)、及び前記上フランジと前記下フランジとを連結するウェブ(8)を有する鉄骨梁(3)と、前記鉄骨梁の上に設けられた鉄筋コンクリート製のスラブ(4)と、前記鉄骨梁の軸方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に延在するように前記上フランジの上面に接合されて前記スラブに埋設された複数の孔あき鋼板ジベル(10)とを備えることを特徴とする。
【0012】
鉄骨梁の軸方向に直交する方向、即ち鉄骨梁の面外方向に延在するように上フランジの上面に接合された孔あき鋼板ジベルは、その面内方向(鉄骨梁の面外方向)について高い剛性を有する一方、その面外方向(鉄骨梁の面内方向)について低い剛性を有する。従って、この構成によれば、鉄骨梁が、その面外方向については孔あき鋼板ジベルによって高い拘束力をもってスラブに接合され、その面内方向については相対ずれを許容するようにスラブに接合される。これにより、孔あき鋼板ジベルの破断が防止され、スラブによる横補剛性能が改善される。また、鉄骨量の増大及び鉄骨梁の加工手間の増大を抑制することができる。
【0013】
また、上記構成において、前記鉄骨梁(3)のスパン(L)を均等な4つの区間に分割し、中央側に位置する2/4の区間を中央区間としたときに、前記鉄骨梁の前記中央区間に対応する部分(3a)に複数の前記孔あき鋼板ジベル(10)が設けられているとよい。
【0014】
この構成によれば、スラブに対する軸方向変位が大きい鉄骨梁の中央区間に対応する部分が、低い拘束力をもってスラブに接合される。これにより、スラブによる横補剛性能が、ジベルの破断防止によって効果的に改善される。
【0015】
また、上記構成において、前記鉄骨梁(3)のスパン(L)を均等な4つの区間に分割し、両端部に位置するそれぞれ1/4の区間を端部区間としたときに、前前記鉄骨梁の前記端部区間に対応する両部分(3b)の上面に接合されて前記スラブ(4)に埋設された複数の頭付きスタッド(15)を更に備えるとよい。
【0016】
孔あき鋼板ジベルに比べ、頭付きスタッドは容易に鉄骨梁に接合できる。また、鉄骨梁の端部区間に対応する部分では、スラブに対する鉄骨梁の軸方向の変位が小さい。そのため、この構成によれば、鉄骨梁の端部区間には頭付きスタッドを設けることで、必要な孔あき鋼板ジベルの数を減らすことができ、鉄骨梁の加工手間を軽減できる。
【0017】
また、上記構成において、前記孔あき鋼板ジベル(10)の孔(11)を貫通するように前記鉄骨梁(3)の軸方向(Y方向)に沿って設けられ、前記スラブ(4)に埋設された第1補強鉄筋(12)を更に備えるとよい。
【0018】
この構成によれば、スラブによる、孔あき鋼板ジベルの面内方向(鉄骨梁の面外方向)の拘束力を簡単な構成で向上させることができる。
【0019】
また、上記構成において、前記頭付きスタッド(15)に沿って設けられ、前記スラブ(4)に埋設された第2補強鉄筋(19)を更に備えるとよい。
【0020】
この構成によれば、スラブによる、鉄骨梁の面外方向における頭付きスタッドの拘束力を簡単な構成で向上させることができる。また、スラブの頭付きスタッドが埋設された部分のコーン状破壊を抑制することができる。
【0021】
また、上記構成において、前記鉄骨梁(3)が、前記ウェブ(8)の左右の両側に設けられて前記上フランジ(6)と前記下フランジ(7)とを連結する少なくとも1対のスチフナ(9)を更に有し、前記孔あき鋼板ジベル(10)が、前記鉄骨梁の軸方向(Y方向)において前記スチフナに整合する位置に配置されているとよい。
【0022】
この構成によれば、孔あき鋼板ジベルが設けられた位置で鉄骨梁が局所的に変形して鉄骨梁が横座屈することが抑制される。
【0023】
また、上記構成において、前記孔あき鋼板ジベル(10)が開先溶接により前記上フランジ(6)に接合されているとよい。
【0024】
この構成によれば、孔あき鋼板ジベルの面外方向(鉄骨梁の面内方向)の剛性が溶接によって向上することが抑制される。これにより、孔あき鋼板ジベルの破断が防止される。
【発明の効果】
【0025】
このように本発明によれば、鉄骨量の増大及び鉄骨梁の加工手間の増大を抑制でき、且つ施工が容易な鉄骨梁の横補剛構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係る横補剛構造が適用された建物の概略平面図
図2図1中のII-II断面図
図3図2中のIII-III断面図
図4図2中のIV-IV断面図
図5図3中のV-V断面図
図6】第1変形例に係る横補剛構造の図3に対応する断面図
図7】第2変形例に係る横補剛構造の図3に対応する断面図
図8】第3変形例に係る横補剛構造の図3に対応する断面図
図9】第4変形例に係る横補剛構造の図4に対応する断面図
図10】第5変形例に係る横補剛構造の図4に対応する断面図
図11】第6変形例に係る横補剛構造の図4に対応する断面図
図12】合成鉄骨梁の試験体の加力実験設備の側面図
図13】加力実験後の合成鉄骨梁の試験体の損傷状況を示す平面図
図14】合成鉄骨梁のスラブと鉄骨梁の上フランジとの間の材軸方向の相対ずれ変位を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明に係る横補剛構造が適用された建物1の概略平面図である。図1に示されるように、建物1は、平面視で互いに直交するX方向及びY方向に並べられた複数の柱2を有している。柱2は、鉄骨造であってもよく、鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。X方向及びY方向に互いに隣接する各対の柱2間には、両端が1対の柱2に接合される鉄骨梁3が階層ごとに架け渡されている。柱2の間隔は、X方向に比べてY方向において長くなっており、Y方向に延在する鉄骨梁3はX方向に延在する鉄骨梁3よりも長くなっている。
【0029】
図2は、図1中のII-II断面図であり、鉄骨梁3をその面内方向に沿って示す縦断面図である。図2に示されるように、各階の鉄骨梁3の上には鉄筋コンクリート製のスラブ4が構築されている。スラブ4は、場所打ちのコンクリート5によって形成される鉄筋コンクリート製であり、X方向に延在する複数の主筋及びY方向に延在する複数の配力筋からなる鉄筋を備えている。スラブ4は、主筋及び配力筋からそれぞれなる下端筋及び上端筋を備えるダブル配筋とされてもよく、シングル配筋とされてもよい。
【0030】
なお、図2では、スラブ4の鉄筋は図示省略されている。また、図2では、コンクリート5にハッチングが付されているが、断面に現れない部材もコンクリート5を透視した如く示されている。以下で説明する図3図5においても同様である。
【0031】
図示例のスラブ4は、撤去された図示外の型枠を用いて構築されており、コンクリート5が下面に露出している。他の例では、デッキプレートを用いてスラブ4のコンクリート5を打設し、スラブ4がデッキプレートと一体に構築されたデッキプレートを含むものであってもよい。
【0032】
鉄骨梁3は、Y方向に長さLのピッチ(芯間距離)をもって配置された1対の柱2間に架け渡されており、長さLのスパンを有している。ここで、鉄骨梁3のスパンを均等な4つの区間に分割し、両端部に位置するそれぞれ1/4の区間を端部区間とし、中央側に位置する2/4の区間を中央区間とする。以下、鉄骨梁3の中央区間に対応する部分を鉄骨梁中央部3aと呼び、鉄骨梁3の端部区間に対応する部分を鉄骨梁端部3bと呼ぶ。
【0033】
図3は、図2中のIII-III断面図であり、鉄骨梁中央部3aをその面外方向に沿って示す横断面図である。図4は、図2中のIV-IV断面図であり、鉄骨梁端部3bをその面外方向に沿って示す横断面図である。図2図4に示されるように、鉄骨梁3は、I形鋼から形成され、上フランジ6、下フランジ7、及び上フランジ6と下フランジ7とを連結するウェブ8を有している。鉄骨梁3の軸方向における所定の位置には、ウェブ8の左右の両側に対に設けられて上フランジ6と下フランジ7とウェブ8とを互いに連結するスチフナ9が設けられている。左右のスチフナ9は、互いに同一形状とされており、それぞれウェブ8の対応する側の側面、上フランジ6の下面、及び下フランジ7の上面に溶接されている。
【0034】
図2及び図3に示されるように、鉄骨梁中央部3aの上フランジ6の上面には、複数の孔あき鋼板ジベル10が鉄骨梁3の面外方向に延在するように接合されている。複数の孔あき鋼板ジベル10は、鉄骨梁中央部3aのみに鉄骨梁3の材軸方向に間隔を空けて設けられている。本実施形態では、鉄骨梁3のスパンの中央と、その材軸方向の両側との3箇所に3枚の孔あき鋼板ジベル10が設けられている。左右のスチフナ9は、鉄骨梁3の軸方向において孔あき鋼板ジベル10に整合する位置に配置されている。
【0035】
孔あき鋼板ジベル10は、少なくとも1つの貫通孔11が形成された鋼板(平鋼)からなる。本実施形態では、孔あき鋼板ジベル10は、高さに比べて長さ(鉄骨梁3の面外方向の長さであり、孔あき鋼板ジベル10の面内方向の長さ)を有する矩形の鋼板からなり、長さ方向に間隔を空けて形成された2つの円形断面の貫通孔11を備えている。孔あき鋼板ジベル10は、スラブ4の厚さよりも小さい高さを有しており、露出しないようにスラブ4のコンクリート5に埋設されている。
【0036】
図5は、図3中のV-V断面図であり、図2の部分拡大図に相当する図である。図3及び図5に示されるように、孔あき鋼板ジベル10の各貫通孔11には、孔あき鋼板ジベル10の面外方向(鉄骨梁3の軸方向)に延在する第1補強鉄筋12が貫通孔11を貫通するように設けられ、コンクリート5に埋設されている。第1補強鉄筋12は、スラブ4の鉄筋に加えて配置されるものであり、丸鋼であってもよく、異径棒鋼であってもよい。図5の例では、比較的短い第1補強鉄筋12が孔あき鋼板ジベル10ごとに設けられているが、比較的長い第1補強鉄筋12が互いに隣接する孔あき鋼板ジベル10間に架け渡されるように設けられてもよい。このような形態とすることにより、互いに隣接する孔あき鋼板ジベル10の間隔が短い場合に第1補強鉄筋12の配置が容易になる。
【0037】
図5に示されるように、孔あき鋼板ジベル10は、下縁に開先(グルーブ)を形成されており、開先溶接によって鉄骨梁3の上フランジ6の上面に接合されている。図示例では、孔あき鋼板ジベル10下縁にK形の開先が形成され、面外方向の両面側からの溶接(黒塗り部)によって孔あき鋼板ジベル10が上フランジ6に接合されている。他の例では、孔あき鋼板ジベル10下縁にレ形の開先が形成され、面外方向の一面側からの溶接によって孔あき鋼板ジベル10が上フランジ6に接合されてもよい。或いは、孔あき鋼板ジベル10下縁にJ形や両面J形の開先が形成されてもよい。
【0038】
図2及び図4に示されるように、鉄骨梁端部3bの上フランジ6の上面には、複数の頭付きスタッド15が植設されている。複数の頭付きスタッド15は、鉄骨梁端部3bのみに鉄骨梁3の材軸方向に間隔を空けて設けられている。本実施形態では、各鉄骨梁端部3bにつき6本、合計で12本の頭付きスタッド15が、上フランジ6の左右方向の中央、即ちウェブ8の真上に鉄骨梁3の材軸方向に均等間隔をもって1列に設けられている。
【0039】
頭付きスタッド15は、上フランジ6の上面から上方へ突出する軸部16と、軸部16の先端にて拡径する頭部17とを有している。頭付きスタッド15は、軸部16の基端が上フランジ6の上面にスタッド溶接されることによって上フランジ6に固定されており、露出しないようにスラブ4のコンクリート5に埋設されている。軸部16は上フランジ6に直交するように鉛直に延在しており、頭部17は軸部16と同軸に円板或いは円柱状に形成されている。頭部17の下面は軸部16の周囲に環状に且つ水平に形成されており、頭部17の下面の周縁から外方へ45度の角度で広がる破線で示される円錐面がコーン状破壊面18となる。
【0040】
頭付きスタッド15の左右の側方、且つ頭付きスタッド15のコーン破壊面に交差する位置には、頭付きスタッド15に沿って鉄骨梁3の軸方向に延在する2本の第2補強鉄筋19が設けられている。第2補強鉄筋19は、スラブ4の鉄筋に加えて配置されるものであり、丸鋼であってもよく、異径棒鋼であってもよい。第2補強鉄筋19は、頭部17の真下(軸部16に接する位置)に配置されてもよく、頭部17に対して側方にオフセットした位置に配置されてもよい。また、第2補強鉄筋19は、頭部17の直下(頭部17に接する位置)に配置されてもよく、頭部17よりも低い位置に配置されてもよい。
【0041】
スラブ4は、孔あき鋼板ジベル10、第1補強鉄筋12、頭付きスタッド15及び第2補強鉄筋19を埋設するように上フランジ6の上にコンクリート5が打設されることにより、孔あき鋼板ジベル10及び頭付きスタッド15を介して鉄骨梁3に一体化されている。
【0042】
このようにスラブ4と鉄骨梁3とが結合していることにより、鉄骨梁3の横力に対する剛性が増し、鉄骨梁3の横座屈に対する耐力が向上している。即ち、地震時には、鉄骨梁3の両端が全塑性状態に至る前の弾塑性領域の部分において、鉄骨梁3の両端が弾塑性変形することで鉄骨梁3が横座屈を生じ易い。鉄骨梁3の横座屈は、鉄骨梁3のスラブ4に対する接合強度が高いほど生じ難い。
【0043】
頭付きスタッド15の引張強度が十分に高い場合、この接合強度は頭付きスタッド15の引張によってコンクリート5がコーン状破壊を生ずる荷重によって決まる。本実施形態では、鉄骨梁端部3bに、スラブ4に対して十分な接合強度を確保できる本数以上の頭付きスタッド15が設けられていることにより、鉄骨梁端部3bの回転変形を拘束する捩り剛性が与えられている。
【0044】
一方、鉄骨梁中央部3aには、孔あき鋼板ジベル10が設けられており、孔あき鋼板ジベル10は、面内方向(上下方向及び鉄骨梁3の面外方向(左右方向))について頭付きスタッド15に比べて数倍大きな接合強度を有する。そのため、頭付きスタッド15を設ける場合に比べて少ない数の孔あき鋼板ジベル10により、鉄骨梁中央部3aの回転変形を拘束する捩り剛性が与えられている。
【0045】
また、スラブ4が鉄骨梁3に取り付いた合成梁においては、地震時の加力によって鉄骨梁3とスラブ4との間に鉄骨梁3の材軸方向に相対ずれが生じる。この相対ずれ変位δは、図14を参照して説明したように、鉄骨梁中央部3aにおいて鉄骨梁端部3bに比べて大きい。そのため、スラブ4に対する接合強度が十分であったとしても、鉄骨梁中央部3aに頭付きスタッド15が設けられている場合には、この相対ずれを引き起こすせん断力Qによって頭付きスタッド15が破断する。
【0046】
これに対し、本実施形態の鉄骨梁横補剛構造では、次のような作用効果が奏される。
【0047】
鉄骨梁中央部3aに頭付きスタッド15が設けられず、代わりに孔あき鋼板ジベル10が設けられている。そして、孔あき鋼板ジベル10は、面内方向の剛性が高い一方、面外方向の剛性が低い特性を有する。即ち、孔あき鋼板ジベル10は、鉄骨梁3の面外方向の拘束力を損なうことなく、鉄骨梁3の面内方向(材軸方向)の相対ずれ変位δを変形によって吸収する。このように、本実施形態では、鉄骨梁中央部3aが、その面外方向については孔あき鋼板ジベル10によって高い拘束力をもってスラブ4に接合され、その面内方向については相対ずれを許容するようにスラブ4に接合されている。これにより、孔あき鋼板ジベル10の破断が防止され、スラブ4による横補剛性能が改善される。また、小梁や方杖などの横座屈補剛材を設ける必要がないため、鉄骨量の増大及び鉄骨梁3の加工手間の増大が抑制される。
【0048】
鉄骨梁3の中央区間に対応する鉄骨梁中央部3aに複数の孔あき鋼板ジベル10が設けられているため、スラブ4に対する軸方向変位が大きい鉄骨梁3の中央区間に対応する部分が、低い拘束力をもってスラブ4に接合される。これにより、スラブ4による横補剛性能が、ジベルの破断防止によって効果的に改善される。
【0049】
鉄骨梁3の端部区間に対応する両鉄骨梁端部3bの上面には、スラブ4に埋設された複数の頭付きスタッド15が接合されている。頭付きスタッド15は孔あき鋼板ジベル10に比べて容易に鉄骨梁3に接合できる。また、鉄骨梁3の端部区間に対応する部分では、スラブ4に対する鉄骨梁3の軸方向の変位が小さい。そのため、必要な孔あき鋼板ジベル10の数が減り、鉄骨梁3の加工手間が軽減される。
【0050】
第1補強鉄筋12が孔あき鋼板ジベル10の孔を貫通するように鉄骨梁3の軸方向に沿って設けられ、スラブ4に埋設されるため、スラブ4による、孔あき鋼板ジベル10の面内方向(鉄骨梁3の面外方向)の拘束力が簡単な構成によって向上する。
【0051】
第2補強鉄筋19が頭付きスタッド15に沿って設けられ、スラブ4に埋設されるため、スラブ4による、鉄骨梁3の面外方向における頭付きスタッド15の拘束力が簡単な構成によって向上する。また、スラブ4の頭付きスタッド15が埋設された部分のコーン状破壊が抑制される。
【0052】
孔あき鋼板ジベル10がウェブ8の左右の両側に設けられた1対のスチフナ9に対して鉄骨梁3の軸方向において整合する位置に配置されているため、孔あき鋼板ジベル10が設けられた位置で鉄骨梁3が局所的に変形して鉄骨梁3が横座屈することが抑制される。
【0053】
孔あき鋼板ジベル10が開先溶接により上フランジ6に接合されているため、孔あき鋼板ジベル10の面外方向(鉄骨梁3の面内方向)の剛性が溶接によって向上することが抑制される。これにより、孔あき鋼板ジベル10の破断が防止される。
【0054】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【0055】
例えば、上記実施形態では、図3及び図5に示されるように、孔あき鋼板ジベル10の孔を貫通するように鉄骨梁3の軸方向に沿って第1補強鉄筋12が設けられているが、図6に示されるように、第1補強鉄筋12が設けられていなくてもよい。また、上記実施形態では孔あき鋼板ジベル10の下縁に開先が形成されているが、図7に示されるように、孔あき鋼板ジベル10に開先が形成されず、孔あき鋼板ジベル10の下縁が隅肉溶接によって鉄骨梁3の上フランジ6に接合されてもよい。
【0056】
上記実施形態では、孔あき鋼板ジベル10が平鋼からなるが、図8に示されるように、孔あき鋼板ジベル10が山形鋼20(L字鋼、アングル)から形成されてもよい。図8の例では、孔あき鋼板ジベル10が等辺山形鋼から形成されている。他の例では、孔あき鋼板ジベル10が不等辺山形鋼から形成されてもよい。山形鋼20は、鉄骨梁3の上フランジ6に沿って延在する第1の辺20aと、上フランジ6に対して垂直に延在する第2の辺20bとを有している。山形鋼20は、鉄骨梁3の面外方向に延在する状態で第1の辺20aの前縁及び後縁(4隅など)を上フランジ6の上面に隅肉溶接されることによって鉄骨梁3に接合される。山形鋼20の第2の辺20bに貫通孔11が形成されており、第2の辺20bによって鋼板ジベル10が形成される。
【0057】
或いは、図9に示されるように、孔あき鋼板ジベル10がCT形鋼21から形成されていてもよい。CT形鋼21は、鉄骨梁3の上フランジ6に沿って延在するフランジ部をなす第1の辺21aと、第1の辺21aの中央から垂直に延出するウェブ部をなす第2の辺21bとを有している。CT形鋼21は、鉄骨梁3の面外方向に延在する状態で第1の辺20aの前縁及び後縁(4隅など)を上フランジ6の上面に隅肉溶接されることによって鉄骨梁3に接合される。CT形鋼21の第2の辺21bに貫通孔11が形成されており、第2の辺21bによって鋼板ジベル10が形成される。
【0058】
上記実施形態では、いずれの孔あき鋼板ジベル10も鉄骨梁3の幅Bよりも短い長さ(鉄骨梁3の面外方向寸法)に形成されている。一方、図10に示されるように、孔あき鋼板ジベル10やこれを形成する鋼材(山形鋼20やCT形鋼21等)が鉄骨梁3の幅Bよりも長い長さLに形成されてもよい。この場合、孔あき鋼板ジベル10の長さLは、鉄骨梁3の幅Bの1倍~3倍程度が好ましい。またこの場合には、上記実施形態よりも多くの貫通孔11が孔あき鋼板ジベル10に形成されるとよい。これにより、鉄骨梁3がその面外方向について孔あき鋼板ジベル10によって一層高い拘束力をもってスラブ4に接合される。
【0059】
また、上記実施形態では、図4に示されるように、上フランジ6の左右方向の中央に1列に複数の頭付きスタッド15が配置されているが、図11に示されるように、複数の頭付きスタッド15が、上フランジ6のウェブ8を挟む左右の両側に2列に設けられてもよい。この場合、第2補強鉄筋19は、図示されるように各列の頭付きスタッド15の左右両側に設けられてもよく、2列の頭付きスタッド15の外側だけなどに設けられてもよい。或いは、頭付きスタッド15が1列に配置された場合であっても2列に配置された場合であっても第2補強鉄筋19が設けられなくてもよい。また、第1補強鉄筋12と第2補強鉄筋19とが共通の或いは互いに継ぎ合わされた鉄筋であってもよい。
【0060】
この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。また、上記実施形態の構成の一部を適宜組み合わせたり、適宜取捨したりしてもよい。更に、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 建物
2 柱
3 鉄骨梁
4 スラブ
5 コンクリート
6 上フランジ
7 下フランジ
8 ウェブ
9 スチフナ
10 孔あき鋼板ジベル
11 貫通孔
12 第1補強鉄筋
15 頭付きスタッド
19 第2補強鉄筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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