(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】コーティング溶液
(51)【国際特許分類】
C09D 169/00 20060101AFI20220516BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20220516BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C09D169/00
C09D7/20
C08G64/04
(21)【出願番号】P 2018117589
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 典慶
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 耕平
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-101191(JP,A)
【文献】特開平08-113636(JP,A)
【文献】特開平07-173430(JP,A)
【文献】特開2008-095046(JP,A)
【文献】特開平07-228712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)が分子末端に結合した
下記式(4)~(11)からなる群より選ばれるいずれか1種以上を有するポリカーボネート樹脂を0.1~50質量%
、及び非ハロゲン系溶媒を含むコーティング溶液
であって、
前記非ハロゲン系溶媒が、テトラヒドロフラン、又は酢酸プロピルを含む、コーティング溶液。
【化1】
(式(1)中、
R
1
は炭素数1~2のアルキレン、R
2
~R
3
は水素、Zは単結合、aは1の整数、Yはエーテル結合を表す。)
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂が、0.3~2.0dl/gの極限粘度を有する、請求項
1に記載のコーティング溶液。
【請求項3】
前記非ハロゲン系溶媒が、テトラヒドロフラン、及び酢酸プロピルを含む、請求項1又は2のいずれかに記載のコーティング溶液。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれかに記載のコーティング溶液から、非ハロゲン系溶媒を除去する被膜の形成方法。
【請求項5】
請求項
4記載の方法で被覆された成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ハロゲン系溶媒への溶媒溶解性密着性が良く、基材との密着性に優れるポリカーボネートコーティング溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明性や成形性に優れ、また耐衝撃性等の優れた機械特性により、電気製品や自動車等機械製品に利用されている。その中で、機能性を有する薄膜を得るためや物品のコーティングを行うため、ポリカーボネート樹脂溶液が知られている。(特許文献1)
ポリカーボネート樹脂溶液から得られた被膜は、耐衝撃性等の耐久性には優れるが、密着性が劣り、むしろその性質を利用した易剥離性のマニキュアへの応用が知られている。(特許文献2)
故に、これらのコーティング被膜と基材との密着性には改善の余地があった。
一方、安全性の観点から、ポリカーボネート樹脂溶液に用いられる溶媒として、ジクロロメタンに代表されるハロゲン系有機溶媒は近年使用を控える傾向が強まり、より安全で取り扱いが容易な溶媒を用いたポリカーボネート樹脂溶液が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-268365号公報
【文献】特開2014-024789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ハロゲン系溶媒を主溶媒として用いず、基材との密着性にすぐれたポリカーボネート製被膜を形成できるコーティング溶液を提供することにある。さらには、該コーティング溶液を用いた被膜の形成方法及びそれにより被覆された成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定分子末端有するポリカーボネート樹脂が、非ハロゲン系溶媒に良溶で、基材と強固な密着性を有する強固なコーティング被膜を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は
【0006】
[1]
下記構造式(1)が分子末端に結合した下記構成単位(2)を有するポリカーボネート樹脂を0.1~50質量%及び非ハロゲン系溶媒を含むコーティング溶液である。
【化1】
【0007】
(式(1)中、R1は置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン基または炭素数2~20のアルケニレン基を表す。R2~R3は、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表す。Zはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表す。aは1~3の整数である。Yは、エーテル結合またはエステル基を表す。)
【0008】
【0009】
(式(2)中、R4~R7は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数7~17のアラルキル基である。Xは、式(3)で示され、
【0010】
【0011】
であり、ここにR8とR9はそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、各々置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12アリール基を表すか、R8とR9が結合して、炭素数5~20の炭素環または元素数5~12の複素環を形成する基を表す。R10とR11はそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、各々置換基を有してもよい、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~12アリール基を表す。R12は置換基を有しても良い1~9のアルキレン基である。cは0~20の整数を表し、dは1~500の整数を表す。)
【0012】
[2]
前記構成単位(2)が、下記式(4)~(11)からなる群より選ばれるいずれか1種以上である[1]記載のコーティング溶液である。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
[3]
前記式(1)のZが単結合、R1が炭素数1~2のアルキレン、R2~R3が水素である[1]または[2]記載のコーティング溶液である。
【0022】
[4]
非ハロゲン系溶媒の主成分がエステル系溶媒、エーテル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、ケトン系溶媒の内、少なくとも1種を含む溶媒である[1]~[3]いずれかに記載のコーティング溶液である。
【0023】
[5]
前記ポリカーボネート樹脂が、0.3~2.0dl/gの極限粘度を有する[1]~[4]のいずれかに記載のコーティング溶液である。
【0024】
[6]
前記[1]~[5]のいずれかに記載のコーティング溶液から、非ハロゲン系溶媒を除去する被膜の形成方法である。
【0025】
[7]
前記[6]記載の方法で被覆された成形体である。
【発明の効果】
【0026】
本発明のコーティング溶液から得られるポリカーボネート樹脂被膜は、従来のポリカーボネート樹脂被膜に比して、基材との密着性が強く、剥離しにくい利点を有する。さらに、本コーティング溶液は、安全面に課題のあるハロゲン系溶媒を主溶媒として含まず、コーティング作業環境改善に貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のコーティング溶液に用いられるポリカーボネート樹脂は、分子末端に構造式(1)を誘導する1価フェノールと構成単位(2)を誘導するビスフェノール類と炭酸エステル形成化合物を反応させることによって、製造することができるものであり、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートを製造する際に用いられている公知の方法、例えばビスフェノール類とホスゲンとの直接反応(ホスゲン法)、あるいはビスフェノール類とビスアリールカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)などの方法を採用することができる。
【0028】
本発明のポリカーボネート樹脂の原料モノマーとなる構成単位(2)を誘導するビスフェノール類は、下記構造式(12)で示されるものであり、
【0029】
【0030】
(式中、R13~R16は水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、それぞれ置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数7~17のアラルキル基である。Wは、式(13)で示され、
【0031】
【0032】
であり、ここにR17とR18はそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、各々置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12アリール基を表すか、R17とR18が結合して、炭素数5~20の炭素環または元素数5~12の複素環を形成する基を表す。R19とR20はそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、各々置換基を有してもよい、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~12アリール基を表す。R21は置換基を有しても良い1~9のアルキレン基である。eは0~20の整数を表し、fは1~500の整数を表す。)
【0033】
具体的には、4,4‘-ビフェニルジオール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロウンデカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-アリルフェニル)プロパン、3,3,5-トリメチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルジフェニルランダム共重合シロキサン、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタンなどが例示される。これらは、2種類以上併用することも可能である。また、これらの中でも特に4,4‘-ビフェニルジオール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが好ましい。さらには、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを主成分として用いることが好ましい。なお、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを単独で使用した場合、非ハロゲン系有機溶媒への溶解性が低いため、本発明では2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを単独では用いない。
【0034】
分子末端に構造式(1)を誘導する1価フェノールは下記構造式(14)で示されるものであり、
【0035】
【0036】
式(14)中、R22は置換基を有してもよい、炭素数1~20のアルキレン基または炭素数2~20のアルケニレン基を表す。 R23~R24は、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基を表す。Vはエーテル結合、カルボニル基、エステル結合を表すか、単結合を表す。gは1~3の整数である。)
【0037】
具体的には、p-ヒドロキシフェネチルアルコール(=チロソール)、m-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシベンジルアルコール(=サリチルアルコール)、p-ヒドロキシベンジルアルコール、m-ヒドロキシベンジルアルコール、バニリルアルコール、ホモバニリルアルコール、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)―1―プロパノール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール、p-クマリルアルコール等が挙げられる。中でも、反応性の観点からp-ヒドロキシフェネチルアルコール、p-ヒドロキシベンジルアルコールが好ましく、さらにはp-ヒドロキシフェネチルアルコールが好ましい。
【0038】
ホスゲン法においては、通常酸結合剤および溶媒の存在下において、前記構造式(12)のビスフェノールと前期構造式(14)の1価フェノールとホスゲンを反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルムなどが用いられる。さらに、縮重合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミンまたはベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることが好ましい。構造式(14)は重合度調節剤として機能するが、他にフェノール、p-t-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等1価フェノールを構造式(14)に対して50質量%未満併用することも可能である。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノールなど分岐化剤を小量添加してもよい。反応は通常0~150℃、好ましくは5~40℃の範囲とするのが適当である。反応時間は反応温度によって左右されるが、通常0.5分~10時間、好ましくは1分~2時間である。また、反応中は、反応系のpHを10以上に保持することが望ましい。
【0039】
一方、エステル交換法においては、前記構造式(12)のビスフェノールと前期構造式(14)の1価フェノールとビスアリールカーボネートとを混合し、減圧下で高温において反応させる。ビスアリールカーボネートの例としては、ジフェニルカーボネート、ジ-p-トリルカーボネート、フェニル-p-トリルカーボネート、ジ-p-クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなどのビスアリルカーボネートが挙げられる。これらの化合物は2種類以上併用して使用することも可能である。反応は通常150~350℃、好ましくは200~300℃の範囲の温度において行われ、また減圧度は最終で好ましくは1mmHg以下にして、エステル交換反応により生成した該ビスアリールカーボネートから由来するフェノール類を系外へ留去させる。反応時間は反応温度や減圧度などによって左右されるが、通常1~24時間程度である。反応は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく。また、所望に応じ、構造式(14)以外の分子量調節剤の少量併用や、酸化防止剤や分岐化剤を添加して反応を行ってもよい。
【0040】
本発明のポリカーボネート樹脂は、コーティング溶液用被膜形成樹脂としての必要な溶媒溶解性、コーティング性、密着性、耐傷性、耐衝撃性等をバランス良く保持することが好ましい。樹脂の極限粘度が低すぎると耐傷性や耐衝撃性強度が不足し、極限粘度が高すぎると溶媒溶解性の低下と溶液粘度上昇がありコーティング性が低下する。望ましい極限粘度範囲として極限粘度が0.3~2.0dl/gの範囲であることが好ましく、さらには0.35~1.5dl/gの範囲であることが好ましい。
【0041】
本発明のコーティング溶液は、前記ポリカーボネート樹脂を、非ハロゲン系溶媒を含む溶媒に溶解した溶液であり、その状態では一般にクリアー色と呼ばれる被膜となる。さらに所望の染・顔料を溶解または分散させて着色した被膜とすることができる。
【0042】
本発明のコーティング溶液の溶媒としては、前述した通り、非ハロゲン系溶媒を含む溶媒であり、好ましくは、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒として含む溶媒である。即ち、一般に塗料等に用いられる溶媒を主成分とし、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸2-エトキシエチル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルなどの炭酸エステル系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメトキシメタン、エチルセルソルブ、アニソール等のエーテル系溶媒、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、プソイドキュメン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。さらに、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系貧溶媒やn-ヘプタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット等の炭化水素系貧溶媒を少量併用してもよい。中でも、安価で作業性も良く、比較的安全性が高い酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシメタン等のエーテル系溶媒に溶解することが好ましく、特に、メチルエチルケトン、酢酸プロピルが好ましい。
また、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒はコーティング作業環境への影響が大きいため、本発明のコーティング溶液の主溶媒としては使用しない。
【0043】
本発明のコーティング溶液の粘度は、所望のコーティング方法により任意に設定可能であるが、10~20000mPa/sの範囲が好ましい。エアレススプレー、はけ塗り、ローラー塗りの場合400~20000mPa/s、エアースプレーの場合100~6000mPa・s、浸漬塗布、缶スプレーの場合10~500mPa・sが好ましい。
【0044】
本発明のコーティング溶液に、色彩効果を高めるために、顔料や染料、着色粒子、光干渉性を有する粒子を添加することができる。顔料や染料としては、有機顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料等が挙げられ、具体的には、例えば、赤色104号、赤色106号、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色215号、赤色220号、橙色203号、橙色204号、青色1号、青色404号、黄色205号、黄色401号、黄色405号等が挙げられる。また、白色、パール色、メタリック色、ラメ感を出すため、雲母チタン、酸化チタン、酸化鉄、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化クロム、オキシ塩化ビスマス、シリカ、クロム、窒化チタン、チタン、フッ化マグネシウム、金、銀、ニッケル等を使用することも可能である。光干渉性を有する粒子とは、光の反射や散乱によって色彩効果を高める粒子であり、例としてガラスビーズや微小な貝殻、雲母などが挙げられる。これらは、所望に応じコーティング中0.0001~10.0質量%の範囲で添加されることが好ましい。
【0045】
さらに必要に応じて、防錆剤、酸化防止剤、分散剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤等を添加しても良い。
【0046】
本発明のコーティング溶液中のポリカーボネート樹脂の配合量は極限粘度や溶媒溶解性に左右されるが、1~50質量%が好ましく、4~30質量%がより好ましい。濃度がかかる範囲内であると、溶媒溶解性とコーティング性がバランスよく、作業性と外観が向上する。
【0047】
本発明のコーティング溶液をコーティングした後の被膜は、従来のポリカーボネートコーティング溶液の被膜に比べ、輸送や使用時の擦れ、衝撃等で傷や剥離が生じにくい。
【0048】
本発明のコーティング溶液をコーティングした後の被膜厚さは、5~200μm厚の範囲であることが好ましく、特に、10~120μm厚、さらには15~60μm厚の範囲が好ましい。5μm未満の薄い被膜では強度が足らず基材まで傷が到達しやすく、200μmを超え厚すぎると被膜の収縮による剥離が生じやすく、最終的に剥離・廃棄する被膜の用途を考慮すると経済的にも不利となる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示し、発明の内容を詳細に示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
<溶媒溶解性>
実施例、比較例のポリカーボネート樹脂を5~12質量%各溶媒に溶解した際、密閉容器に入れた溶液をシェーカーで24時間振盪後、目視により溶け残りの有無を確認する。Aは溶け残り無し、Bは溶け残りあり。
【0051】
<剥離耐久性>
JIS K5600-5-6準拠付着性クロスカット法(2mm間隔)で、ニチバン株式会社製クロスカット試験準拠 24mm幅セロテープ(登録商標)(粘着力4.01N/10mm)を使用して付着性テストを行い、JIS分類指標に基づき、0(剥がれ無し)~5(ほぼ全面剥がれ)の数値で分類し、剥離耐久性の指標とした。
【0052】
<極限粘度の測定方法>
ポリカーボネート樹脂のジクロロメタン0.5質量/体積%溶液を20℃、ハギンズ定数0.45にて、ウベローデ粘度管を用いて求めた。
【0053】
<コーティング溶液粘度の測定方法>
コーティング溶液を25℃、B型粘度計にて粘度を測定した。
【0054】
実施例1
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液1100mlに2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル-)プロパン(以下「BPC」と略称:本州化学工業株式会社製)102.4g(0.4mol)とp-ヒドロキシフェネチルアルコール(以下「PHEP」と略称:大塚化学株式会社製)2.45g(0.018mol)とハイドロサルファイト0.1gを溶解した。
これにメチレンクロライド500mlを加えて撹拌しつつ、0.5gのベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(以下「TEBAC」と略称)を加え、さらに15~20℃に保ちながら、ついでホスゲン60gを約60分で吹き込んだ。
ホスゲン吹き込み終了後、5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液100ml追加し、激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、0.4mlのトリエチルアミンを加え、20~30℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、60℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。
得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
この重合体の塩化メチレンを溶媒とする濃度0.5g/dlの溶液の20℃における極限粘度は0.55dl/gであった。得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1770cm-1付近の位置にカルボニル基による吸収、1240cm-1付近の位置にエーテル結合による吸収が認められ、カーボネート結合を有するポリカーボネート樹脂(以下「PC-1」と略称)であることが確認された。
得られたPC-1を12質量部、メチルエチルケトン88質量部を混合し、コーティング溶液(28mPa・s)を作製した。コーティング溶液の目視判定による溶解性は透明均一溶解で溶け残り無しと判定された。コーティング溶液にスライドグラス(76×26×1.0mm)を浸し、素早く引き上げ、風乾後、100℃、3時間乾燥して、コーティングスライドグラス試験片を得た。JIS K5600-5-6に準拠し、試験片にクロスカット法を行ったところ、判定は0であった。得られた試験片のクロスカット後の膜厚を測定したところ、平均膜厚は21μmであった。
【0055】
実施例2
BPCを60.4g、PHEPを2.53gに変更し、同時に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「BPA」と略称:三菱ケミカル株式会社製)40.1gを用いた以外は実施例1同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.54dl/g、以下「PC-2」と略称)を得た。得られたPC-2を12質量部、メチルエチルケトン88質量部でコーティング溶液(27mPa・s)を作製し、実施例1と同様にコーティング、評価を行った。
【0056】
実施例3
BPCの代わりに1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(以下「BPAP」と略称:本州化学工業株式会社製)116gを用い、TEBACを用いなかった以外は実施例1同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.52dl/g、以下「PC-3」と略称)を得た。得られたPC-3を12質量部、テトラヒドロフラン53質量部、酢酸プロピル35質量部でコーティング溶液(26mPa・s)を作製し、実施例1と同様にコーティング、評価を行った。
【0057】
実施例4
BPCの代わりに1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下「BPZ」と略称:本州化学工業株式会社製)107.2gを用い、PHEPを1.58gに変更し、TEBACを用いなかった以外は実施例1同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.60dl/g、以下「PC-4」と略称)を得た。得られたPC-4を12質量部、テトラヒドロフラン53質量部、酢酸プロピル35質量部でコーティング溶液(34mPa・s)を作製し、実施例1と同様にコーティング、評価を行った。
【0058】
実施例5
BPCの代わりにビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンとビス(2-ヒドロキシフェニル)メタンと2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの18:49:32質量%混合物(以下「BPF」と略称:群栄化学工業株式会社製)36gとBPA51gを用い、PHEPの代わりにp-ヒドロキシベンジルアルコール(以下「PHBA」と略称:東京化成工業株式会社製)1.43gに変更し、TEBACを用いなかった以外は実施例1同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.99dl/g、以下「PC-5」と略称)を得た。得られたPC-5を10質量部、酢酸プロピル90質量部でコーティング溶液(320mPa・s)を作製し、実施例1と同様にコーティング、評価を行った。
【0059】
実施例6
BPCの代わりにビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル(以下「DHPE」と略称:東京化成工業株式会社製)40.4gとBPZ53.6gを用い、PHEPの代わりにPHBA1.43gに変更し、TEBACを用いなかった以外は実施例1同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度1.01dl/g、以下「PC-6」と略称)を得た。得られたPC-6を5質量部、テトラヒドロフラン57質量部、メチルエチルケトン38質量部でコーティング溶液(16mPa・s)を作製し、実施例1と同様にコーティング、評価を行った。
【0060】
比較例1
BPCをBPA91.2gに変更し、PHEPの代わりにp-t-ブチルフェノール(以下「PTBP」と略称:DIC株式会社製)を2.67g用い、TEBACを用いなかった以外は実施例1と同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.39dl/g、以下「PC-7」と略称)を得た。得られたPC-7を実施例1と同様にコーティング溶液の作製を試みたが、溶媒に溶解せずコーティングすることは出来なかった。
【0061】
比較例2
PHEPの代わりにPTBP2.67gに変更した以外は、実施例1同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.39dl/g、以下「PC-8」と略称)を得た。得られたPC-8を用い実施例1と同様にコーティング溶液を作製し、コーティング、評価を行った。
【0062】
比較例3
PHEPの代わりにPTBP2.67gに変更した以外は、実施例2同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.38dl/g、以下「PC-9」と略称)を得た。得られたPC-9を用い実施例2と同様にコーティング溶液を作製し、コーティング、評価を行った。
【0063】
比較例4
PHEPの代わりにPTBP2.67gに変更した以外は、実施例4同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.35dl/g、以下「PC-10」と略称)を得た。得られたPC-10を用い実施例4と同様にコーティング溶液を作製し、コーティング、評価を行った。
【0064】
比較例5
PHEPの代わりにPTBP1.79gに変更した以外は、実施例4同様に重合を行いポリカーボネート(極限粘度0.57dl/g、以下「PC-11」と略称)を得た。得られたPC-11を用い実施例4と同様にコーティング溶液を作製し、コーティング、評価を行った。
【0065】
【0066】
本発明の活用例は、物品を保護するコーティング溶液として用いることができる。特に、ICカードやセキュリティーカードのような日常生活における耐久性が求められる分野のコーティングに好適である。