(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】化合物及び光触媒用助触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20220516BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20220516BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20220516BHJP
C07D 213/73 20060101ALI20220516BHJP
C07F 1/08 20060101ALN20220516BHJP
C07F 15/04 20060101ALN20220516BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J31/22 M
C01B3/04 A
C07D213/73
C07F1/08 C
C07F15/04
(21)【出願番号】P 2018027663
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2021-01-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成29年11月11日に「第2回光触媒国際シンポジウム/第23回日中機能材料学会合同シンポジウム(Photocatalysis 2 & SIEMME’23)」のウェブサイトにて公開 (2)平成29年12月1日に「東京理科大学総合研究院光触媒国際研究センター(Photocatalysis International Research Center(PIRC))」が発行した「Photocatalysis 2 & SIEMME’23」にて発表 (3)平成29年12月2日に「第2回光触媒国際シンポジウム/第23回日中機能材料学会合同シンポジウム(Photocatalysis 2 & SIEMME’23)」のポスター発表にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】517018101
【氏名又は名称】公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501243753
【氏名又は名称】大阪新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】池上 啓太
(72)【発明者】
【氏名】タルン チャンド バグバラ
(72)【発明者】
【氏名】芝田 勝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 朋香
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4045323(JP,B2)
【文献】Cryst.Growth Des.,2012年,Vol.12,pp.1871-1881
【文献】Dalton Transaction,2011年,Vol.40,pp5687-5696
【文献】AUSTRALIAN JOURNAL OF CHEMISTRY,2010年,Vol.63, No.9,pp.1358-1364
【文献】ACTA CRYSTALLOGRAPHICA. SECTION E: STRUCTURE REPORTS ONLINE,2007年,Vol.63, No.11,pp.m2668, supporting information
【文献】ACTA CRYSTALLOGRAPHICA. SECTION E: STRUCTURE REPORTS ONLINE,2006年,Vol.62, No.9,pp.m2151-m2152, supporting information
【文献】ACTA CRYSTALLOGRAPHICA. SECTION E: STRUCTURE REPORTS ONLINE,2006年,Vol.62, No.8,pp.m1810-1811, supporting information
【文献】Dalton Transaction,2006年,No.10,pp.1331-1337
【文献】Chem.Eur.J.,2005年,Vol.11,pp.5742-5748
【文献】Inorganica Chimica Acta,2003年,Vol.343,pp.366-372
【文献】Eur.J.Inorg.Chem.,2002年,No.8,pp.1985-1997
【文献】Eur.J.Inorg.Chem.,1999年,No.9,pp.1507-1521
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
B01J 31/22
C01B 3/04
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1-1)で表される化合物又は式(2-1)で表される化合物を含む光触媒用助触
媒。
【化1】
【化2】
【請求項2】
光触媒と、光触媒用助触
媒の存在下、光を照射して水の分解を行う方法であって、前記光触媒用助触
媒として請求項
1記載の光触媒用助触
媒を用いることを特徴とする水の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒用助触媒作用を有する新規な化合物、前記化合物を含む光触媒用助触媒、及び前記光触媒用助触媒を用いる水の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から太陽エネルギーの利用が盛んに検討されており、太陽エネルギーを利用する形態の一つとして、光触媒を使用して太陽エネルギーを実際に利用可能なエネルギーへ変換することが検討されている。例えば、光触媒を用いることにより、太陽エネルギーを利用して水を分解して水素と酸素を製造する技術が検討されている。しかし、光触媒だけでは、その効果はあまり高くないため、触媒効果を向上させるための助触媒が必要となる。このような助触媒としては様々なものが提案されているが(特許文献1、特許文献2)、実際に使用できる程度の効果を有するのは、白金等の貴金属を使用した助触媒であった。しかし、白金等の貴金属は、高価であり、資源的にも存在量が限られている。そのため、他の金属を用いた助触媒の開発が求められていたが、光触媒の活性を満足できる程度に向上させることのできる助触媒は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-89336号公報
【文献】特開2011-173102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を解決し、貴金属を使用しなくても光触媒に対する優れた活性向上効果を有する助触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、金属錯体系の助触媒としては、Pt、Ruなどを中心とする貴金属系錯体が有効であることが定説であるところ、貴金属を使用しない助触媒の開発を目指して検討を開始した。鋭意検討を重ねたところ、これまで検討されていなかったビピリジン配位子に対してアミン基を修飾したCu、Ni等の遷移金属錯体を新規に合成したところ、助触媒としての効果が非常に高く、特にPt等の貴金属錯体と組み合わせて使用すると、貴金属錯体単独で使用する場合に比べて40%の性能向上を示すことを見いだした。これまでも、貴金属以外の金属を用いた錯体系触媒は、いくつか提案されているが、本発明者らが見いだしたような単純な配位子構造を有する錯体で効果を示した事例はみられなかった。本発明はこのようにして完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
[1]式(1)又は(2)で表される化合物。
【化1】
[式(1)中、M1は、Cu、Zn又はCdを表し、Xは、NR
1R
2(R
1及びR
2は水素又はC1~C6のアルキル基を表し、R
1とR
2は同じでも異なっていてもよい)を表し、k、l、m及びnは、1~3の整数であり、Xは同じでも異なっていてもよい。]
【化2】
[式(2)中、M2は、Ni、Mn又はZnを表し、Xは、NR
1R
2(R
1及びR
2は水素又はC1~C6のアルキル基を表し、R
1とR
2は同じでも異なっていてもよい)を表し、a、b、c、d、e及びfは、1~3の整数であり、Xは同じでも異なっていてもよい。]
[2]式(1)で表される化合物が、式(1-1)で表される化合物である上記[1]記載の化合物。
【化3】
[3]式(2)で表される化合物が、式(2-1)で表される化合物である上記[1]記載の化合物。
【化4】
[4]上記[1]~[3]のいずれか記載の化合物を含む光触媒用助触媒又は電子メディエータ。
[5]光触媒と、光触媒用助触媒又は電子メディエータの存在下、光を照射して水の分解を行う方法であって、前記光触媒用助触媒又は電子メディエータとして上記[4]記載の光触媒用助触媒又は電子メディエータを用いることを特徴とする水の分解方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の化合物は、光触媒に対する助触媒として使用すると優れた活性向上効果を有する。特に光触媒による水の分解において、優れた活性向上効果を示し、Pt錯体等の貴金属系助触媒と共に使用すると、水素の発生反応に対する優れた活性向上効果を示し、水素の生成量を増加させることができる。そのため、貴金属助触媒の使用量を減らすことができるので、コスト削減と資源維持の観点からの貴金属の使用量の低減を行うことができる。また、本発明の化合物は、単純な配位子構造を有するので、合成が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】式(1-1)で表される化合物のサイクリックボルタモグラムである。
【
図5】実施例1で調製した化合物の結晶構造図を示す図である。
【
図6】実施例2で調製した化合物の結晶構造図を示す図である。
【
図7】実施例1で調製した化合物の質量分析の結果を示す図である。
【
図8】実施例2で調製した化合物の質量分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の化合物は、以下の式(1)又は(2)で表される化合物である。
【0010】
【化5】
[式(1)中、M1は、Cu、Zn又はCdを表し、Xは、NR
1R
2(R
1及びR
2は水素又はC1~C6のアルキル基を表し、R
1とR
2は同じでも異なっていてもよい)を表し、k、l、m及びnは、1~3の整数であり、Xは同じでも異なっていてもよい。]
【0011】
【化6】
[式(2)中、M2は、Ni、Mn又はZnを表し、Xは、NR
1R
2(R
1及びR
2は水素又はC1~C6のアルキル基を表し、R
1とR
2は同じでも異なっていてもよい)を表し、a、b、c、d、e及びfは、1~3の整数であり、Xは同じでも異なっていてもよい。]
【0012】
式(1)におけるM1は、Cu、Zn又はCdを表す。その中でも、活性向上効果をより高める観点、金属がより安価である観点からCuが好ましい。また、式(2)におけるM2は、Ni、Mn又はZnを表す。その中でも、活性向上効果をより高める観点、金属の仕事関数が高く電子の捕集能力がより高いという観点からNiが好ましい。式(1)及び式(2)におけるXは各ピリジン環の他のピリジン環と縮合していない炭素原子上に置換しており、式(1)におけるk、l、m及びnは炭素原子上に置換しているXの個数を表す。例えば、(X)kにおいてk=1とは、当該ピリジン環の1個の炭素原子上にXが1個置換している状態を表し、k=2とは、当該ピリジン環の2個の炭素原子上に、それぞれXが1個ずつ置換している状態を表し、k=3とは、当該ピリジン環の3個の炭素原子上に、それぞれXが1個ずつ置換している状態を表す。また、式(2)におけるa、b、c、d、e及びfも同様である。また、本発明の化合物は、光触媒に対する助触媒作用、あるいは電子メディエータ作用を有するものであるが、その作用を阻害しない限り各ピリジン環にX以外の置換基を有していてもよい。
【0013】
式(1)及び式(2)のXにおけるC1~C6のアルキル基とは、置換基を有してもよい炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基等が挙げられる。また、上記「置換基を有していてもよい」の置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリール基等が挙げられる。
【0014】
式(1)及び式(2)における1~3個のXは、各ピリジン環において、他のピリジン環と縮合している炭素原子を除く4個の炭素原子のいずれの炭素原子上に置換していてもよい。Xの個数は1~2個が好ましく、1個がより好ましい。また、少なくとも1個のXが、ピリジン環の窒素原子に対してp位にある炭素原子上に置換していることが好ましい。XはNR1R2で表され、R1及びR2は、それぞれ水素又はC1~C6のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。R1及びR2の少なくとも一方は水素であることが好ましく、両方が水素であることがより好ましい。Xは同じでも異なっていてもよく、例えば、一つのピリジン環が複数のXを有する場合、それぞれのXは同じでも異なっていてもよい。また、異なるピリジン環が有するX同士は同じでも異なっていてもよい。XはNH2であり、全てのピリジン環において窒素原子に対してp位にある炭素原子上に置換していることが好ましい。
【0015】
式(1)で表される化合物としては、具体的には、以下に示す化合物(1-1)を例示することができる。
【0016】
【0017】
また、式(2)で表される化合物としては、具体的には、以下に示す化合物(2-1)を例示することができる。
【0018】
【0019】
(化合物の合成)
本発明の式(1)及び式(2)で表される化合物の合成法は、特に制限されるものではないが、例えば以下の方法を挙げることができる。式(1)で表される化合物を合成する場合は、Cu、Zn又はCdの塩化物を、式(2)で表される化合物を合成する場合は、Ni、Mn又はZnの塩化物をエタノール等の溶媒に溶解した溶液(溶液A)を準備する。また、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビピリジル等のジアミノビピリジルを溶解した溶液(溶液B)を準備する。溶液Aを溶液Bに添加して撹拌した後、ジエチルエーテル等の有機溶媒を添加して静置する。静置後、析出物を分離することにより本発明の化合物を得ることができる。静置は、0~5℃で行うことが好ましく、静置時間としては、12~24時間が好ましい。
【0020】
(光触媒用助触媒、電子メディエータ)
本発明の式(1)又は式(2)で表される化合物は、光触媒用助触媒として用いることができる。助触媒とは、主の触媒成分が単独で示す触媒作用を強化する作用を有する補助成分のことであり、光触媒用助触媒とは、主の触媒成分である光触媒に対して、前記作用を有する補助成分のことをいう。本発明の光触媒用助触媒は、本発明の式(1)又は式(2)で表される化合物のみからなっていてもよく、助触媒作用を阻害しない限り、あるいは助触媒作用を更に向上させる目的で、他の成分を含んでいてもよい。本発明の光触媒用助触媒が用いられる光触媒は、特に制限されるものではないが、例えば、TiO2、WO3、SrTiO3、CaTiO3、La2Ti2O7、Ta2O5、ZrO2、BiVO4、AgNbO3、AgPbTi2O6、RbPb2Nb3O10、In2O3-(ZnO)3、InTaO4、Bi2MoO6、Bi2WO6、BiYWO6、Ag3VO4、In2-xZnxCu2O5、ABiO2(AはNa、K、Li、Ag等の一価金属)、TaON、Sm2Ti2S2O5、BaNbO2N、SrTaO2N、LaTaON2、Sr2ON2、NaTiOS2、ZrOS、カーボンナノチューブ系光触媒等を挙げることができ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。カーボンナノチューブ系光触媒としては、例えば、カーボンナノチューブ(シグマ-アルドリッチ製)とデンドリマーを修飾したフラーレン(フラロデンドロン)からなる複合体型光触媒等を挙げることができる。本発明の式(1)又は式(2)で表される化合物は、水溶性を示すとともに、多くの有機溶媒にも可溶なため、次に示す水の分解反応だけでなく、選択的有機合成等の幅広い光触媒反応において適用可能である。また、本発明の式(1)又は式(2)で表される化合物は、各種反応において電子の伝達を行う電子伝達剤である電子メディエータとして用いることができる。
【0021】
(水の分解方法)
本発明の光触媒用助触媒は、光触媒を用いた水の分解における助触媒として用いることがでる。本発明の水の分解方法は、光触媒及び光触媒用助触媒の存在下、光を照射して水の分解を行う方法であって、前記光触媒用助触媒として本発明の光触媒用助触媒を用いることを特徴とする。本発明の水の分解方法に用いる光触媒は、特に制限されず、水の分解に通常用いられる光触媒を用いることができ、例えば、上記(光触媒用助触媒)の段落で例示した光触媒を用いることができる。また、本発明の水の分解方法では、水と光触媒及び光触媒用助触媒を接触させる方法、光触媒と光触媒用助触媒を混合する、光触媒に光触媒用助触媒を担持させる等の光触媒と光触媒用助触媒を組み合わせる方法、光の照射方法、反応時の温度、使用する装置などは従来公知のものを適用することができる。本発明の水の分解方法では、本発明の光触媒用助触媒を他の助触媒と組み合わせて用いることができる。他の助触媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、Pt、Pd、Rh、Ru、Ni、Au、Fe、NiO、RuO2、IrO2、Rh2O3、Cr-Rh複合酸化物、コアシェル型Rh/Cr2O3、Pt/Cr2O3、H2PtCl4、K2PtCl6、K2PtCl4等の白金錯体などの還元反応助触媒、Mg、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Ce、Ta、W、Ir、Pt、Pb等の金属、又はこれらの酸化物若しくは複合酸化物などの酸化反応助触媒を挙げることができる。また、本発明の水の分解方法では、犠牲剤を用いることができる。犠牲剤とは、光触媒による反応過程で、自らは変質しつつ反応を進行させる化合物のことであり、犠牲剤としては、特に制限されるものではなく公知の犠牲剤を使用することができる。例えば、還元剤として働くものとしては、トリエタノールアミン、アスコルビン酸、1-ベンジル-1,4-ジヒドロニコチンアミド等を挙げることができ、酸化剤として働くものとしては、セリウム(IV)イオン、銀イオン等を挙げることができる。本発明の水の分解方法は、例えば、水に光触媒、本発明の光触媒用助触媒、必要に応じて他の助触媒、犠牲剤、pH調整剤等を添加して、可視光又は紫外線等の光を照射することにより行うことができる。例えば、水に光触媒及び本発明の光触媒用助触媒、必要に応じて他の光触媒用助触媒を添加して、撹拌しながら光を照射してもよく、光触媒に本発明の光触媒用助触媒を担持させて水に添加してもよく、必要に応じてさらに他の光触媒用助触媒を担持させてもよい。
【0022】
本発明の水の分解方法では、カーボンナノチューブ系光触媒等の光触媒と、助触媒として、貴金属錯体等の還元反応助触媒と本発明の光触媒用助触媒を用いることにより、水の分解による水素発生反応を行うことができる。この際、トリエタノールアミン、1-ベンジル-1,4-ジヒドロニコチンアミド等の還元剤として働く犠牲剤を使用することが好ましい。また、貴金属錯体の還元反応助触媒としては、白金(Pt)錯体が好ましい。Pt錯体としては、例えば、H2PtCl4、K2PtCl6、K2PtCl4等を挙げることができる。本発明の水の分解方法によれば、貴金属系助触媒の使用量を減らすことができ、また、貴金属系助触媒を単独で使用した場合を上回る水素発生効率を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例において本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲は、これらに限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
(式(1-1)で表される化合物の合成)
塩化銅(II)0.04gをエタノール1mLに溶解した(溶液Aとする)。次に、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビピリジル0.130gをエタノール10mlで溶解した(溶液Bとする)。溶液Aを溶液Bに添加して密閉後、室温で5時間撹拌した。その後ジエチルエーテル10mLを添加し、冷蔵庫中5℃で24時間程度静置して析出物を得た。吸引ろ過し、ジエチルエーテルで2回洗浄後、乾燥して化合物を得た。得られた化合物の構造を、単結晶X線構造解析(測定装置:APEX II Ultra、Bruker社製)及び質量分析(測定装置:Daltonics、Bruker社製)により同定したところ、式(1-1)に示す構造の錯体であった。
【0025】
(助触媒効果試験)
光触媒活性をより簡便に評価するため、可視光領域に光増感作用を示すエリシロシンBを用いて、本発明の化合物の助触媒効果を検証した。水100mLに、113.64μMのエリシロシンB、犠牲剤として15mLのトリエタノールアミンを加え、本発明の式(1-1)で表される化合物を濃度を変えて添加した。これに、500WXeランプを用いて可視光(λ≧420nm)を照射して水素発生量を測定した。水素発生量はガスクロマトグラフ(島津製作所製 GC-8A、分析カラム:MS-5A)を用いて定量した。本発明の式(1-1)で表される化合物の添加量は、エリシロシンBの濃度に対して20%、22%、23%、26%、30%とした。結果を
図1に示す。
図1に示された線の上から、23%、22%、26%、30%、20%である。いずれの場合においても助触媒効果がみられ、23%の場合が最も助触媒効果が高かった。
【0026】
[実施例2]
(式(2-1)で表される化合物の合成)
塩化ニッケル(II)0.04gをエタノール1mLに溶解した(溶液Aとする)。次に、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビピリジル0.101gをエタノール10mlで溶解した(溶液Bとする)。溶液Aを溶液Bに添加して密閉後、室温で5時間撹拌した。その後ジエチルエーテル10mLを添加し、冷蔵庫中5℃で24時間程度静置して析出物を得た。吸引ろ過し、ジエチルエーテルで2回洗浄後、乾燥して化合物を得た。得られた化合物の構造を、実施例1と同様に同定したところ、式(2-1)に示す構造の錯体であった。
【0027】
(助触媒効果試験)
水100mLに、113.64μMのエリシロシンB、犠牲剤として15mLのトリエタノールアミンを加え、本発明の式(1-1)で表される化合物を26.39μM加えて、他は実施例1と同様に処理して水素発生量を測定した。また、本発明の式(1-1)で表される化合物を式(2-1)で表される化合物に代えた例でも、水素発生量を測定した。その結果を
図2に示す。
図2に示されるように、いずれの場合も助触媒効果がみられたが、Cu錯体を使用した場合の方が効果が高かった。
【0028】
[実施例3]
水100mLに、113.64μMのエリシロシンB、犠牲剤として15mLのトリエタノールアミンを加え、0.46mg/LのPt(II)錯体(テトラクロロ白金(II)酸カリウム K
2PtCl
4)、本発明の式(1-1)で表される化合物を13.3mg/L加えて、他は実施例1と同様に処理して水素発生量を測定した。また、本発明の式(1-1)で表される化合物を式(2-2)で表される化合物に代えた例でも、水素発生量を測定した。その結果を
図3に示す。
図3の結果から分かるように、本発明の化合物である式(1-1)及び式(2-1)のいずれの化合物もPt(II)錯体を単独で使用した場合に比べ水素の発生量が増加し、活性が向上していることが示された。
【0029】
(電気化学的測定)
式(1-1)で表される化合物のサイクリックボルタモグラムを求めた。測定は、式(1-1)で表される化合物濃度をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中113.64Mとし、0.1MのNBu
4PF
6を支持電解質として用い、参照電極をAg/AgCl、作用電極をグラッシーカーボン、カウンター電極をPtワイヤーとした。その結果を
図4に示す。
図4の結果から分かるように本発明の化合物である式(1-1)で表される化合物は、酸化還元電位が-0.71Vであり、エリシロシンBから電子を受け取って助触媒作用を発現するのに十分な電位を持っていた。
【0030】
実施例1と実施例2で調製した化合物のX線構造解析により得られた結晶構造パラメータを表1に示す。また、実施例1で調製した化合物の結晶構造図を
図5に、実施例2で調製した化合物の結晶構造図を
図6に示す。
【0031】
【0032】
実施例1で調製した化合物の質量分析で得られた質量スペクトルを
図7に、実施例2で調製した化合物の質量分析で得られた質量スペクトルを
図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の化合物は、光触媒に対する助触媒として使用すると、触媒反応の活性を向上させることができるので、例えば、光触媒を用いた水の分解反応に用いることができ、特に水の分解による水素発生反応に好適に用いることができる。さらに、本発明の化合物は、水だけでなく多くの有機溶媒にも可溶なため、例えば、リシンからのピペコリン酸合成といった選択的有機合成を指向した幅広い光触媒反応においても適用可能である。