(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】組換え微生物、その製造方法及び補酵素Q10の生産における使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20220516BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20220516BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220516BHJP
C12P 7/66 20060101ALI20220516BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/57
C12N1/21
C12P7/66 A
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2020544025
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 CN2019089437
(87)【国際公開番号】W WO2020042697
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】201810984954.9
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517223657
【氏名又は名称】浙江新和成股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 418 Dadao West Road, Xinchang Shaoxing, Zhejiang 312500, China
(73)【特許権者】
【識別番号】519165526
【氏名又は名称】黒竜江新和成生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】HEILONGJIANG NHU BIOTECHNOLOGY COMPANY LTD.
【住所又は居所原語表記】NO.2, HAO TIAN ROAD, SUIHUA ECONOMIC AND TECHNOLOGICAL DEVELOPMENT ZONE, SUIHUA, HEILONGJIANG, 152000, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】519165537
【氏名又は名称】上虞新和成生物化工有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGYU NHU BIOLOGICAL CHEMICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】NO.32, WEIWU ROAD, HANGZHOU GULF ECONOMIC & TECHNOLOGICAL DEVELOPMENT ZONE, SHANGYU DISTRICT,SHAOXING,ZHEJIANG, 312369, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】519164770
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】NO.20, YUGU ROAD, XIHU DISTRICT, HANGZHOU, ZHEJIANG 310027, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】于 洪 巍
(72)【発明者】
【氏名】袁 慎 峰
(72)【発明者】
【氏名】朱 永 強
(72)【発明者】
【氏名】于 凱
(72)【発明者】
【氏名】陳 志 榮
(72)【発明者】
【氏名】李 永
(72)【発明者】
【氏名】邱 貴 生
(72)【発明者】
【氏名】劉 暁 慶
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-535772(JP,A)
【文献】PLoS ONE,2009年,vol.4, Issue 2, e4422,p.1-9
【文献】Biochemical Engineering Journal,2017年,vol.125,p.50-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む親菌株から、クローニングにより、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を取得する工程と、
b.前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子をベクターに連結し、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む組換えベクターを構築する工程と、
c.前記組換えベクターを宿主細胞に導入することで、組換え微生物を得る工程と、
を含み、
前記組換え微生物は補酵素Q10を産生でき、
前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子は、SEQ ID NO:1で表されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有し、好ましくは前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子はSEQ ID NO:1で表されるヌクレオチド配列であることを特徴とする、組換え微生物の製造方法。
【請求項2】
前記工程bは、プロモーター入れ替えにより、前記組換えベクター上の前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現を制御するプロモーターをノックアウトした後、異なる別のプロモーターを挿入し、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現をさらに調節することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組換え微生物の製造方法。
【請求項3】
前記工程bにおいて、挿入するプロモーターは誘導型プロモーターであり、好ましくは浸透圧調節型プロモーターproPBであり、
前記浸透圧調節型プロモーターproPBは、SEQ ID NO:2で表されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有し、好ましくは前記浸透圧調節型プロモーターproPBはSEQ ID NO:2で表されるヌクレオチド配列であることを特徴とする、請求項2に記載の組換え微生物の製造方法。
【請求項4】
前記浸透圧調節型プロモーターproPBは、細菌、好ましくはエシェリキア(Escherichia)属、より好ましくは大腸菌(Escherichia coli)から分離されたものであることを特徴とする、請求項3に記載の組換え微生物の製造方法。
【請求項5】
前記工程bのベクターは、pBR322及びその誘導体、pACYC177、pACYC184及びその誘導体、RK2、pBBR1MCS-2、コスミドベクター及びその誘導体から選ばれたものであり、好ましくはpBBR1MCS-2であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の組換え微生物の製造方法。
【請求項6】
前記工程aは、SEQ ID NO:1で表されるDNA配列に基づいてプライマーを設計し、前記親菌株から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、PCR法により、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を合成することを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の組換え微生物の製造方法。
【請求項7】
前記親菌株は、細菌であり、好ましくはデイノコッカス(Deinococcus)属で、より好ましくはデイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)、デイノコッカス・デゼルティ(Deinococcus deserti)、デイノコッカス・ゴビエンシス(Deinococcus gobiensis)、デイノコッカス・プロテオリチクス(Deinococcus proteolyticus)からなる群より選ばれたものであり、最も好ましくはデイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)であることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の組換え微生物の製造方法。
【請求項8】
前記工程cの導入方法は、形質転換、形質導入、接合伝達及び電気穿孔から選ばれたものであり、前記宿主細胞は、細菌又は真菌から選ばれたものであり、好ましくはロドバクター属の細菌であり、より好ましくはロドバクター・スフェロイデスであり、
好ましくは、前記工程cは、工程bで得られた組換えベクターを大腸菌S17-1コンピテントセルに形質転換した後、接合伝達により宿主細胞に導入することで、遺伝的に安定な組換え微生物を得ることを含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の組換え微生物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子と、請求項3に記載の浸透圧調節型プロモーターproPBとを含むことを特徴とする、補酵素Q10を産生できる組換え微生物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の方法により組換え微生物を製造し、前記組換え微生物を用いて補酵素Q10を生産することを含むことを特徴とする、補酵素Q10の生産方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の方法により組換え微生物を作製し、前記組換え微生物を用いて酸化型補酵素Q10を生産することを含むことを特徴とする、酸化型補酵素Q10の生産方法。
【請求項12】
グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含み、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子はSEQ ID NO:1で表されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有し、好ましくは前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子はSEQ ID NO:1で表されるヌクレオチド配列である、補酵素Q10を産生できる組換え微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー分野に属し、具体的には、組換え微生物及び補酵素Q10の生産におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
補酵素Q10(CoQ10)は、ユビキノン、デセンキノンとも呼ばれ、化学名が2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-デカプレニルベンゾキノンである。キノン環の酸化還元特性及び側鎖の物理化学的特性に由来する生物活性を有する補酵素Q10は、細胞自体が産生する天然の抗酸化剤及び細胞代謝活性化剤であり、抗酸化、フリーラジカルの除去、身体の免疫力の向上、老化防止などの機能を備え、心臓病、癌、糖尿病、急性及び慢性肝炎、パーキンソン病などの様々な疾患の治療に広く使用されており、食品、化粧品及び老化防止製品にも多くの用途がある。
【0003】
いままで、微生物発酵法は補酵素Q10の主な生産方法である。微生物発酵による補酵素Q10の生産は、製品の品質においても安全性においても大きな競争上の利点があり、大規模な工業生産に適する。一方、特に工業的な発酵環境では、微生物の成長や増殖において、様々な過酷な環境による外部からのストレスがしばしばある。例えば、発酵環境における浸透圧、pH、溶存酸素、栄養物質等の条件はある程度変動するものである。その影響により、微生物の成長はコントロールしにくいため、補酵素Q10の生産も不安定である。また、発酵環境による制限の関係で、工業生産において、バイオマスをさらに増やすことは困難である。そのため、補酵素Q10の収量をさらに向上させるために、過酷な環境に対する補酵素Q10生産菌の耐性を改善する必要がある。
【0004】
開示された補酵素Q10発酵に関する技術の研究は主に、遺伝子工学の技術による補酵素Q10の生産レベルの改善、または菌の突然変異誘発処理や単一因子最適化調整実験による産物合成への影響の考察に焦点を当てている。また、発酵プロセスにおける主要なパラメータのオンライン制御により発酵プロセスを最適化することを報告した特許文献もある。これらの研究及び技術はある程度の効果はあるが、生産性を高めるための、過酷な環境に対する補酵素Q10生産菌の耐性改善は、根本的に解決していない。
【0005】
例えば、特許文献1は、酸素消費速度(溶存酸素)と電気伝導率(栄養素補給速度)を調整することにより、補酵素Q10の発酵プロセスを制御することを提案している。特許文献2では、発酵中の菌体の形状に基づいてプロセスのパラメータを調整する。特許文献3では、ロドバクター・スフェロイデスを改変することにより、微生物の補酵素Q10合成能力を向上させる。これらのプロセスは、生産される補酵素Q10が酸化型補酵素Q10と還元型補酵素Q10の混合物であり、且つ還元型補酵素Q10の比率が比較的高い点で共通している。特に特許文献4に記載のプロセスでは、発酵終了後、微生物が生産した補酵素Q10における還元型補酵素Q10の含有量は70%以上であった。
【0006】
特許文献5には、酸化型補酵素Q10の発酵生産方法が開示されている。同特許では、Q10合成蓄積段階の後期で酸化還元電位ORPを調節することにより、菌株から高含有量の酸化型補酵素Q10を生産させ、酸化型補酵素Q10の含有量は96%以上であったが、この方法では、高い酸化還元電位による生産菌株への酸化ストレスに起因する菌体内の代謝産物の蓄積、菌体の成長抑制等の問題を解決していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】CN105420417A
【文献】CN104561154A
【文献】CN103509729B
【文献】US7910340B2
【文献】CN108048496A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した補酵素Q10の発酵プロセス、特に酸化型補酵素Q10の発酵プロセスにおける問題を解決し、過酷な環境に対する補酵素Q10生産菌の耐性を改善するために、本発明は、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を外因的に導入することにより、過酷な環境に対する補酵素Q10生産菌の耐性を改善した組換え微生物であって、発酵法による補酵素Q10の生産、特に酸化型補酵素Q10の生産に適する組換え微生物を構築する。
【0009】
前記組換え微生物はストレスに強く、高浸透圧及び高酸化還元電位を含む過酷な環境に対する耐性に優れる。SEQ ID NO:1で表されるグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現により、補酵素Q10の発酵プロセスにおける微生物の上記特性を効果的に改善することができる。
【0010】
グローバルレギュレーターirrEは、生物体内のかかる重要な遺伝子を活性化するスイッチとして、DNA損傷の修復と放射線ストレスからの保護のための経路において中心的な調節作用を発揮する。グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を外因的に導入することによって、浸透圧、酸化、放射線及び熱等の様々なストレスに対する微生物の耐性を改善することができ、菌の対数増殖期を延長し、バイオマスのさらなる蓄積を促進するとともに、発酵プロセスにおける菌の活発な成長および代謝活性を維持することにより、補酵素Q10の収量を高め、特に酸化型補酵素Q10の収量を高めることができる。
【0011】
好ましくは、本発明は、プロモーター入れ替えにより、組換えベクター上のグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現を制御するプロモーターをノックアウトした後、異なる別のプロモーターを挿入し、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現をさらに調節することができる。
【0012】
插入されるプロモーターは、SEQ ID NO:2で表される浸透圧調節型プロモーターproPBであることが好ましい。このプロモーターは、初期の発現強度は低いが、浸透圧の上昇に伴って発現強度が強くなる。これにより、グローバルレギュレーターirrEの発現量は浸透圧の上昇に伴って増加し、様々な強さのストレスに対する微生物の耐性は高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は
a.グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む親菌株から、クローニングにより、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を取得する工程と、
b.前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子をベクターに連結し、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む組換えベクターを構築する工程と、
c.組換えベクターを宿主細胞に導入することで、組換え微生物を得る工程と、
を含む組換え微生物の製造方法を提供する。
【0014】
上述した本発明の方法において、前記工程bは、プロモーター入れ替えにより、組換えベクター上のグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現を制御するプロモーターをノックアウトした後、異なる別のプロモーターを挿入し、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現をさらに調節することを含む。
【0015】
上述した本発明の方法において、前記工程bにおいて插入されるプロモーターとしては、誘導型プロモーター、好ましくは浸透圧調節型プロモーターproPBを使用し、前記浸透圧調節型プロモーターproPBは、SEQ ID NO:2の少なくとも70個の連続ヌクレオチド、好ましくは少なくとも100個の連続ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも150個の連続ヌクレオチドからなる部分的なヌクレオチド配列、最も好ましくはSEQ ID NO:2の完全なヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド分子又はポリヌクレオチド配列から得られたものであり、前記ポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2と少なくとも60%の相同性、好ましくは少なくとも80%の相同性、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有し、好ましくは前記浸透圧調節型プロモーターproPBはSEQ ID NO:2で表されるヌクレオチド配列である。前記浸透圧調節型プロモーターproPBは、細菌、好ましくはエシェリキア(Escherichia)属、より好ましくは大腸菌(Escherichia coli)から分離されたものである。
【0016】
上述した本発明の方法において、前記工程bのベクターは、pBR322及びその誘導体、pACYC177、pACYC184及びその誘導体、RK2、pBBR1MCS-2、コスミドベクター及びその誘導体から選ばれたものであり、好ましくはpBBR1MCS-2である。
【0017】
上述した本発明の方法において、前記工程aは、SEQ ID NO:1で表されるDNA配列に基づいてプライマーを設計し、前記親菌株から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、PCR法により、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を合成することを含む。
上述した本発明の方法において、前記工程aにおける前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子は、SEQ ID NO:1の少なくとも100個の連続ヌクレオチド、好ましくは少なくとも300個の連続ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも600個の連続ヌクレオチドからなる部分的なヌクレオチド配列、最も好ましくはSEQ ID NO:1の完全なヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド分子又はポリヌクレオチド配列から得られたものである。前記ポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1と少なくとも60%の相同性、好ましくは少なくとも80%の相同性、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有し、好ましくは前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子はSEQ ID NO:1で表されるヌクレオチド配列である。前記親菌株は細菌であり、好ましくはデイノコッカス(Deinococcus)属で、より好ましくはデイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)、デイノコッカス・デゼルティ(Deinococcus deserti)、デイノコッカス・ゴビエンシス(Deinococcus gobiensis)、デイノコッカス・プロテオリチクス(Deinococcus proteolyticus)からなる群より選ばれたものであり、最も好ましくはデイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)である。
【0018】
上述した本発明の方法において、前記工程cの導入方法は、形質転換、形質導入、接合伝達及び電気穿孔から選ばれたものであり、前記宿主細胞は、細菌又は真菌から選ばれたものであり、好ましくはロドバクター属の細菌であり、より好ましくはロドバクター・スフェロイデスである。好ましくは前記工程cは、工程bで得られた組換えベクターを大腸菌S17-1コンピテントセルに形質転換した後、接合伝達により宿主細胞に導入することで、遺伝的に安定な組換え微生物を得ることを含む。
【0019】
本発明はさらに、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子と、浸透圧調節型プロモーターproPBとを少なくとも含む組換え微生物を提供する。
【0020】
本発明はさらに、前記方法により組換え微生物を製造し、前記組換え微生物を用いて補酵素Q10を生産することを含む補酵素Q10の生産方法を提供する。
【0021】
本発明はさらに、前記方法により組換え微生物を製造し、前記組換え微生物を用いて酸化型補酵素Q10を生産することを含む酸化型補酵素Q10の生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明者らは鋭意検討した結果、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の導入及びプロモーター入れ替えを行って構築された組換え微生物、特に組換えロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)はストレスに強く、高浸透圧及び高酸化還元電位を含む過酷な環境に対する耐性に優れ、菌の対数増殖期を延長し、バイオマスのさらなる蓄積を促進するとともに、発酵プロセスにおける菌の活発な成長および代謝活性を維持することができることを意外にも見出した。
【0023】
また、従来の酸化型補酵素Q10の直接的な生産プロセスにおいて、発酵の後期では、細胞内に酸化型補酵素Q10が多く蓄積され、菌体自体が受ける酸化ストレスは強かった。本願の組換え微生物は、酸化ストレスに対する菌体の耐性を改善し、酸化型補酵素Q10の力価を著しく高めることができ、補酵素Q10の総量における酸化型補酵素Q10の比率の向上の観点から好適である。
【0024】
さらに、本願は上記組換え微生物の構築において、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現を制御するプロモーターをプロモーターproPBに入れ替えた後、浸透圧の変化によりグローバルレギュレーターirrEの発現を調節できることから、補酵素Q10生産菌のストレス耐性を段階的に高め、発酵プロセスの各段階における過酷な環境に対する菌体の耐性への要望に応えることができ、さらに補酵素Q10の生産、特に酸化型補酵素Q10の生産を促進できることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は元のプラスミドpBBR1MCS-2を示すものである。
【
図2】
図2は組換えプラスミドpBBR1MCS-2-G-proPB-IrrEを示すものである。
【
図3】
図3はグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含み、浸透圧調節型プロモーターproPBの入れ替えが行われていない組換え微生物のRSP-CEの電気泳動像である。
【
図4】
図4はグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含み、且つ浸透圧調節型プロモーターproPBの入れ替えが行われた組換え微生物のRSP-BEの電気泳動像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.補酵素Q10を生産する微生物
本発明は、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を外因的に導入することにより、過酷な環境に対する補酵素Q10生産菌の耐性を改善し、発酵法による補酵素Q10の生産、特に酸化型補酵素Q10の生産に適する組換え微生物を構築する。
【0027】
本発明のグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子は、グローバルレギュレーターirrEをコードするポリヌクレオチド分子から取得でき、SEQ ID NO:1の少なくとも100個の連続ヌクレオチドからなる部分的なヌクレオチド配列を含む。好ましくはSEQ ID NO:1の少なくとも300個、より好ましくは少なくとも600個の連続ヌクレオチドからなる部分的なヌクレオチド配列を含み、最も好ましくはSEQ ID NO:1のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。SEQ ID NO:1は、デイノコッカス・ラディオデュランスから分離されたirrEの完全なヌクレオチド配列を表す。
【0028】
前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子は、グローバルレギュレーターirrEをコードする長いポリヌクレオチド配列から取得してもよい。このようなポリヌクレオチドは、例えば細菌に由来してもよい。好ましくは、デイノコッカス(Deinococcus)属の細菌から分離されたものであり、前記細菌としては、デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)、デイノコッカス・デゼルティ(Deinococcus deserti)、デイノコッカス・ゴビエンシス(Deinococcus gobiensis)、デイノコッカス・プロテオリチクス(Deinococcus proteolyticus)が挙げられる。
【0029】
このようなポリヌクレオチドを長いポリヌクレオチド配列から取得する場合、このようなポリヌクレオチド配列とSEQ ID NO:1との相同性を確認することは可能である。この場合、好ましくは、少なくとも100個の連続ヌクレオチドを有する領域を選んで、別のポリヌクレオチドに由来する関連断片との比較を行う。ポリヌクレオチド配列と、SEQ ID NO:1から得られた関連断片とは、例えば同じヌクレオチドを60個有すれば(100個の連続ヌクレオチドを比較した結果)、相同性は60%となる。好ましくは、本発明のポリヌクレオチド配列の一部はSEQ ID NO:1と少なくとも80%の相同性を有し、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有する。相同性を確認するために、例えば、少なくとも100個の連続ヌクレオチド断片、好ましくは少なくとも300個の連続ヌクレオチド断片、より好ましくは、少なくとも500個連続ヌクレオチド断片を用いる。
【0030】
ポリペプチドにおけるいくつかの断片は、生物学的機能上、必須のものであるが、他の領域では、アミノ酸の插入、欠失又は別のアミノ酸による置換が可能な領域もあり、また、入れ替えられるアミノ酸に近似するアミノ酸による置換が好ましいことは、当業者には知られている。
【0031】
さらに、本発明は、高含有量の酸化型補酵素Q10の生産に適する微生物を提供することを目的とする。特許文献5は、発酵液のORPを制御することにより、微生物が生産する補酵素Q10における酸化型補酵素Q10の含有量を高める発酵方法を開示している。この公開特許は引用により本明細書に組み込まれる。
【0032】
本発明者らは、適切な培養条件において、ストレスに強い微生物は、高含有量の酸化型補酵素Q10の直接的生産のさらなる最適化にも利用できることを見出した。
【0033】
ここで、「直接的生産」、「直接的発酵」、「直接的転換」等の用語は、微生物が、化学的な転換工程をさらに介することなく、1つ以上の生物的な転換工程により、ある基質を特定の産物へ転換できることを意味する。その一例として、例えば、抽出された還元型補酵素Q10をさらに酸化して酸化型補酵素Q10とすることが挙げられる。
【0034】
2.補酵素Q10を生産する組換え微生物の製造方法
本発明者らは、補酵素Q10を生産する微生物を遺伝子工学により改変することによって、補酵素Q10の生産を最適化する。
【0035】
本発明の補酵素Q10を生産するための組換え微生物の製造は、
a.グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む親菌株から、クローニングにより、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を取得する工程と、
b.前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子をベクターに連結し、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む組換えベクターを構築する工程と、
c.ベクターを宿主細胞に導入するのに適する方法、例えば、形質転換、形質導入、接合伝達及び/又は電気穿孔により、前記宿主細胞が本発明の組換え微生物となるように、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む組換え微生物を構築する工程と、
を含む。
【0036】
前記工程aにおいては、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含む菌株から、前記グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を取り出すとき、例えば、以下の例示的な方法を採用できる。
(i) 当業界で公知の方法により、本明細書に開示するDNA配列に基づいて設計したプライマーを用いて、PCRにより目的遺伝子を取得する。
(ii) 制限酵素を用いてゲノムをいくつかの断片に分割した後、標識核酸プローブを用いて、目的遺伝子を選び出す。
(iii) 当業界で公知の方法により、例えばDNAシンセサイザーを用いて目的遺伝子を合成する。
【0037】
所望の遺伝子を運ぶクローンが得られたら、当業界で公知の方法により標的遺伝子のヌクレオチド配列を測定することができる。
【0038】
前記工程bにおいて、二本鎖DNAのクローニングでは、一連の宿主/クローニングベクターの組み合わせを用いてもよい。E.coli内で本発明の遺伝子(つまりirrE遺伝子)を発現するための好適なベクターは、E.coliに一般的に適用される任意のベクターから選ぶことができ、例えばpBR322又はその誘導体(例えばpUC18とpBluescriptII(Stratagene Cloining Systems、 Calif.、 USA))、pACYC177、pACYC184及びその誘導体、並びに例えばRK2、pBBR1MCS-2のような広範囲の宿主プラスミドからのベクターが挙げられる。ロドバクター・スフェロイデス内で本発明のヌクレオチド配列を発現するための好適なベクターは、ロドバクター・スフェロイデス及び好適なクローン生物(例えばE.coli)内で複製可能な任意のベクターから選ばれる。好適なベクターは、広範囲の宿主ベクターであり、例えば、コスミドベクター(例えばpVK100)及びその誘導体、pBBR1MCS-2が挙げられる。当業界で公知の任意の方法、例えば、形質転換、形質導入、接合伝達又は電気穿孔により、宿主細胞及びベクターの性質を考慮した上で、このようなベクターを好適な宿主に移すことができる。
【0039】
当業界で公知の方法を用いて、例えばプロモーター、リボソーム結合部位及び転写ターミネーターなどの宿主細胞内で操作可能な調節配列を含む適切なベクターに、本発明によるirrE遺伝子/ヌクレオチド配列を連結することにより、組換えベクターを作製することができる。
【0040】
前記工程bにおいて、プロモーター入れ替えにより、組換えベクター上のグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現を制御するプロモーターをノックアウトした後、異なる別のプロモーターを挿入し、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の発現をさらに調節してもよい。插入されるプロモーターとしては、構成型プロモーター又は誘導型プロモーターを使用でき、例えば、遺伝子の元のプロモーター、抗生剤耐性遺伝子のプロモーター、浸透圧調節型プロモーター、温度誘導型プロモーター、E.coliのβガラクトシダーゼ(lac)、trp、tac、trcプロモーター、および宿主細胞内で機能できる任意のプロモーターが挙げられる。好ましくは、上記プロモーターは誘導型プロモーターで、特に浸透圧調節型プロモーターであり、より好ましくは浸透圧調節型プロモーターproPBである。
【0041】
前記浸透圧調節型プロモーターproPBは、浸透圧調節型プロモーターproPBのポリヌクレオチド分子から取得でき、且つSEQ ID NO:2の少なくとも70個の連続ヌクレオチドからなる部分的なヌクレオチド配列を含む。好ましくは、SEQ ID NO:2の少なくとも100個の連続ヌクレオチドからなる部分的なヌクレオチド配列を含み、より好ましくは少なくとも150個の連続ヌクレオチドからなる部分的なヌクレオチド配列を含む。最も好ましくはSEQ ID NO:2のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。SEQ ID NO:2は、大腸菌から分離されるプロモーターproPBの完全なヌクレオチド配列を表す。
【0042】
前記浸透圧調節型プロモーターproPBは、浸透圧調節型プロモーターproPBを含む長いポリヌクレオチド配列から取得してもよい。このようなポリヌクレオチドとしては、例えば、細菌、好ましくはエシェリキア(Escherichia)属、より好ましくは大腸菌(Escherichia coli)から分離されるものが挙げられる。このようなポリヌクレオチドを長いポリヌクレオチド配列から取得する場合、このようなポリヌクレオチド配列とSEQ ID NO:2との相同性を確認することは可能である。ここで、相同性の定義は、前述したSEQ ID NO:1の相同性の定義と同様である。好ましくは、本発明のポリヌクレオチド配列の一部は、SEQ ID NO:2と少なくとも80%の相同性を有し、より好ましくは、少なくとも90%の相同性を有する。相同性を確認するために、例えば、少なくとも100個の連続ヌクレオチド断片、好ましくは、少なくとも200個の連続ヌクレオチド断片を用いる。
【0043】
発現のために、例えば、宿主細胞(本発明の組換え細胞を提供するためにコード配列が導入されるもの)内で操作可能なShine-Dalgarno(SD)配列(例えば、AGGAGG等、宿主細胞内で操作可能な天然配列や合成配列を含む)及び転写ターミネーター(任意の天然配列や合成配列からなる逆反復構造)などの他の調節要素は、上記プロモーターと併用してもよい。
【0044】
前記工程cにおいて、組換えベクターを含む組換え微生物を構築するために、例えば形質転換、形質導入、接合伝達、電気穿孔などの様々な遺伝子導入方法を使用できる。組換え細胞を構築するための方法は、分子生物学分野で公知の方法から選ぶことができ、例えば、従来の形質転換系は大腸菌に使用できる。形質導入系も大腸菌に使用でき、接合伝達系は、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に広く使用でき、例えば、大腸菌及びロドバクター・スフェロイデスに使用できる。CN103509816Bでは、例えば、液体培地中又は固体培地の表面上において接合が発生できる接合伝達法が開示された。接合伝達受容菌に選択マーカーを入れてもよく、例えば、カナマイシン耐性が通常選択される。天然の耐性も使用でき、例えば、ナリジクス酸に対する耐性をロドバクター・スフェロイデスに用いてもよい。
【0045】
本発明はさらに、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、好ましくは適切な宿主細胞内で機能できる組換えベクターに関する。
【0046】
本発明において、当業界で補酵素Q10の生産に一般的に使用される微生物を用いることができ、例えば細菌、酵母、カビのいずれかに対して、当業界で公知の遺伝子工学技術の手段を施して本発明の上記組換え微生物を得ることができる。前記微生物としては、例えばアグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アグロモナス(Agromonas)属、ブレブンジモナス(Brevundimonas)属、シユードモナス(Pseudomonas)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、リゾモナス(Rhizomonas)属、ロドビウム(Rhodobium)属、ロドプラネス(Rhodoplanes)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドバクター(Rhodobacter)属、リゾビウム(Rhizobium)属等の微生物が挙げられ、好ましい種としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefacience)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)、アグロモナス・オリゴトロフィカ(Agromonas oligotrophica)、ブレブンジモナス・ジミヌタ(Brevundimonas diminuta)、シュードモナス・デニトリフィカンス(Pseudomonas denitrificans)、ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotorula minuta)、ロドシュードモナス・パルトリス(Rhodopseudomonas palustris)、ロドバクター・カプスレータス(Rhodobacter capsulatus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)等が挙げられ、さらに好ましくはロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)である。
【0047】
したがって、本発明はさらに、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを持つ宿主細胞に関する。遺伝子工学により改変されたこのような宿主細胞は、組換え宿主細胞又は組換え微生物と呼ばれる。
【0048】
3.微生物発酵による補酵素Q10の生産
本発明の補酵素Q10を生産する微生物による発酵方法は、上記組換え微生物を用いて発酵生産を行うことを特徴とする。本発明の組換え微生物は、浸透圧、酸化、放射線及び熱等の様々なストレスに対する微生物の耐性を高めることができるため、従来の補酵素Q10の発酵方法に比較して、菌の対数増殖期を延長し、バイオマスのさらなる蓄積を促進するとともに、菌の活発な成長および代謝を維持することができ、補酵素Q10の力価を著しく向上させる。本発明の方法における組換え微生物を用いて補酵素Q10を生産する発酵プロセスの条件は特許文献1を参照してもよい。詳細な方法は以下のとおりである。
【0049】
補酵素Q10を生産する菌株の発酵プロセスにおいて、酸素消費速度を30~150mmol/L・hの範囲に維持しながら、電気伝導度を5.0~30.0ms/cmの範囲に維持することにより、菌体の成長及び補酵素Q10の合成の開始及び蓄積を促進する。好ましくは、補酵素Q10を生産する菌株の発酵プロセスにおいて、酸素消費速度を30~90mmol/L・hとする。好ましくは、補酵素Q10を生産する菌株の発酵プロセスにおいて、発酵液の電気伝導度を10~20ms/cmとする。
【0050】
本発明の補酵素Q10の発酵生産方法において、前記酸素消費速度は撹拌速度および空気流量により調節し、前記電気伝導度は流加補充又は回分補充により調節する。ここで、流加補充又は回分補充の際に使用する補充液の組成は、補充液1リットルにつき、酵母粉末8~12g、(NH4)2SO4 5~10g、MgSO4 1~2g、NaCl 3~6g、KH2PO4 2~4g、K2HPO4 2~4g、CaCl2 1~2g、ビオチン0.013~0.025gとし、pHは7.0とし、補充培地の電気伝導度は13.5~23ms/cmとする。
【0051】
本発明の補酵素Q10の発酵生産方法において、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)RSP-BEだけでなく、その物理的又は化学的な突然変異誘発方法により育種された菌株、又は遺伝子工学の方法により改変された菌株も使用できる。
【0052】
本発明の方法によれば、補酵素Q10の力価は少なくとも1000mg/Lで、好ましくは少なくとも2000mg/Lであり、より好ましくは少なくとも3000mg/Lである。補酵素Q10の力価とは、発酵液の単位体積当たりの補酵素Q10の含有量を指す。
【0053】
以上より、当業界の補酵素Q10の一般的な発酵方法を用いる場合でも、本発明の組換え微生物は、補酵素Q10の力価を向上させる上で大きな利点を持つことが分かる。したがって、本発明の組換え微生物は、当業界の補酵素Q10の一般的な発酵プロセスに適する。
【0054】
4.微生物発酵による高含有量の酸化型補酵素Q10の生産
前述のように、従来の技術に比較して、本発明の組換え微生物は、酸化型補酵素Q10の収量をさらに改善できる点にも特徴づけている。
【0055】
本発明の方法は、特定の組換え微生物を用いることにより、高浸透圧及び高酸化還元電位を含む過酷な環境に対する耐性を大幅に改善でき、酸化型補酵素Q10の発酵生産方法における高酸化還元電位による菌体への悪影響をなくすとともに、酸化ストレスによる菌体の補酵素Q10の生産に対する促進効果をさらに発揮させ、酸化型補酵素Q10の力価を高めることができる。本発明の方法における組換え微生物を用いて酸化型補酵素Q10を発酵生産する発酵プロセスの条件は、特許文献5を参照してもよい。詳細な方法は以下のとおりである。
【0056】
酸化型補酵素Q10の発酵生産方法において、発酵プロセスにおける補酵素Q10の合成蓄積段階では発酵液のORPを制御し、好ましくは発酵プロセスにおける補酵素Q10の合成蓄積段階の中後期において発酵液のORPを制御し、より好ましくは発酵プロセスにおける補酵素Q10の合成蓄積段階の後期において発酵液のORPを制御する。生産菌株の発酵プロセスにおいて、発酵液の酸化還元電位ORPは-50~300mVとし、好ましくは発酵液の酸化還元電位ORPは50~200mVとする。
【0057】
上述の発酵生産方法において、前記発酵プロセスでは、前記発酵液の電気伝導度は5.0~30.0ms/cmとする。好ましくは、菌体の成長段階では、酸素消費速度は30~150mmol/(L・h)の範囲とし、前記発酵液の電気伝導度は5.0~30.0ms/cmの範囲とする。さらに好ましくは、補酵素Q10の合成蓄積段階では、酸素消費速度は60~120mmol/(L・h)の範囲とし、前記発酵液の電気伝導度は8.0~15.0ms/cmの範囲とする。
【0058】
上述の発酵生産方法において、前記発酵液の溶存酸素の制御と、前記発酵液のpHの制御とのうちの少なくとも一方により発酵液の酸化還元電位ORPを制御し、好ましくは前記発酵液の溶存酸素の制御と、前記発酵液のpHの制御とを併用する。
【0059】
上述の発酵生産方法において、発酵タンクの単位体積当たりの撹拌動力の制御と、単位体積当たりの発酵液の空気吸気流量の制御と、発酵タンクの内圧の制御とのうちの少なくとも一方により前記発酵液中の溶存酸素を制御し、好ましくはこれらの2つ以上の併用により前記発酵液中の溶存酸素を制御する。
【0060】
上述の発酵生産方法において、補酵素Q10の合成蓄積段階では、前記発酵タンクの単位体積当たりの撹拌動力は、好ましくは0.25~0.50kw/m3とし、前記単位体積当たりの発酵液の空気吸気流量は、好ましくは1.0~15.0vvmとし、及び/又は前記発酵タンクの内圧は、好ましくは0.05~0.3MPaとする。より好ましくは、前記発酵タンクの単位体積当たりの撹拌動力は0.30~0.40kw/m3とし、前記単位体積当たりの発酵液の空気吸気流量は5.0~8.0vvmとし、及び/又は前記発酵タンクの内圧は0.08~0.15MPaとする。
【0061】
上述の発酵生産方法において、補酵素Q10の合成蓄積段階では、前記発酵液のpHを3.5~6.0とすることにより、前記発酵液のpHを制御する。好ましくは、前記発酵液のpHを4.0~5.0とすることにより、前記発酵液のpHを制御する。より好ましくは、酸の添加又は塩基の添加により、前記発酵液のpHを制御する。さらに好ましくは、前記酸又は前記塩基の段階的又は連続的な添加により、前記発酵液のpHを制御する。
【0062】
上述の発酵生産方法において、前記酸は有機酸又は無機酸であり、及び/又は前記塩基は有機塩基又は無機塩基である。好ましくは、前記酸は、リン酸、塩酸、硫酸、乳酸、プロピオン酸、クエン酸及びシュウ酸のうちの1つ以上であり、及び/又は、好ましくは、前記塩基は、アンモニア水、水酸化ナトリウム及び液体アンモニアのうちの1つ以上である。より好ましくは、前記酸はリン酸、乳酸又はクエン酸であり、及び/又は、前記塩基はアンモニア水又は液体アンモニアである。
【0063】
上述の発酵生産方法において、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)RSP-BEだけでなく、その物理的又は化学的な突然変異誘発方法により育種された菌株、又は遺伝子工学の方法により改変された菌株も使用できる。
【0064】
上述の発酵生産方法において、前記補酵素Q10は高含有量の酸化型補酵素Q10であり、かつ、好ましくは、酸化型補酵素Q10の含有量は96%以上であり、より好ましくは97%以上であり、最も好ましくは99%以上である。
【0065】
上述の発酵生産方法において、前記酸化型補酵素Q10の力価は少なくとも1000mg/Lであり、好ましくは少なくとも2000mg/Lであり、より好ましくは少なくとも3000mg/Lである。酸化型補酵素Q10の力価とは、発酵液の単位体積当たりの酸化型補酵素Q10の含有量を指す。
【0066】
上述の発酵生産方法により得られた酸化型補酵素Q10は、機能性栄養食品、特別な健康食品を含む種々の食品の製造に使用でき、さらに栄養サプリメント、栄養剤、動物用医薬品、飲料、飼料、化粧品、医薬品、薬剤及び予防薬の製造にも使用できる。
【0067】
以下、図面及び実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
本願の実施例における組換え微生物の構築は以下の基本操作を含む。
【0069】
本発明において、以下の培地を使用した。
斜面培地の組成(100ml)は、酵母エキス 0.8g、FeSO4 0.01g、K2HPO4 0.13g、CoCl2 0.003g、NaCl 0.2g、MnSO4 0.0001g、MgSO4 0.025g、グルコース0.3g、ビタミンB1 0.1μg、ビタミンK 0.1μg、ビタミンA 0.15μg、寒天粉1.5gであり、pHを7.2とした。
シード液の組成(100ml)は、(NH4)2SO4 0.25g、コーンスティープリカー 0.05g、酵母エキス 0.14g、NaCl 0.2g、グルコース 0.3g、K2HPO4 0.05g、KH2PO4 0.05g、MgSO4 0.1g、FeSO4 0.01g、CoCl2 0.003g、MnSO4 0.0001g、CaCO3 0.8g、ビタミンB1 0.1μg、ビタミンK 0.1μg、ビタミンA 0.15μgであり、pHを7.2とした。
発酵液の組成(100ml)は、(NH4)2SO4 0.3g、NaCl 0.28g、グルコース 4g、KH2PO4 0.15g、味の素 0.3g、MgSO4 0.63g、コーンスティープリカー 0.4g、FeSO4 0.12g、CoCl2 0.005g、CaCO3 0.6g、ビタミンB1 0.1μg、ビタミンK 0.1μg、ビタミンA 0.15μgであり、pHを7.2とした。
【0070】
力価の測定は以下のとおりである。
(試料の調製)
窒素ガス雰囲気下で、発酵液1mlを10ml遠心管に入れ、1mol/LのHCl 180μlを加えて、均一に混合し、3~5min静置した後、92℃の水浴下で30min加熱した。上清を遠心除去し、浸出液(酢酸エチル:エタノール=5:3)8mlを加え、2時間の浸出を行い、逆相HPLCで分析した。
【0071】
(高速液体クロマトグラフィーの条件)
C18カラム:150mm×4.6mm
移動相:メタノール:イソプロパノール=75:25(体積基準)
流量:1.00ml/min
測定波長:275nm
注入量:40μl
保持時間:12min
【0072】
酸化型補酵素Q10の含有量測定は以下のとおりである。
(試料の調製)
窒素ガス雰囲気下で、発酵液1mlを10ml遠心管に入れ、1mol/LのHCl 180μlを加えて、均一に混合し、3~5min静置した後、92℃の水浴下で30min加熱した。上清を遠心除去し、浸出液(酢酸エチル:エタノール=5:3)8mlを加え、2時間の浸出を行い、逆相HPLCで分析した。
【0073】
(高速液体クロマトグラフィーの条件)
カラム:YMC-Pack 250mm×4.6mm
移動相:メタノール/n-ヘキサン=85:15(体積基準)
流量:1mL/min
測定波長:275nm
注入量:40μl
保持時間:還元型補酵素Q10は13.5minであり、酸化型補酵素Q10は22.0minである。
【0074】
バイオマスの測定は以下のとおりである。発酵液10mlを取って重量を測り、2mol/Lの塩酸溶液を加えてpHを約4.0とし、80℃で20min保温した後、上清を遠心除去し、水洗いして、上清を遠心除去し、60℃で20時間乾燥させて、重量を測り、発酵液1kg当たりの菌体の含有量を求めた。
【0075】
残糖の測定は、当業界で公知の手段、例えばグルコース分析装置を用いる方法により行うことができる。溶存リンの測定は、当業界で公知の手段、例えばモリブデンブルー法により行うことができる。
【実施例1】
【0076】
グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子の増幅と組換えベクターの構築
キットの取扱明細書に従って、デイノコッカス・ラディオデュランスのゲノムを抽出した(試薬は、上海生物工程有限公司製Ezupカラム用細菌ゲノムDNA抽出キットに由来するものである)。
【0077】
SEQ ID NO:1で表されるDNA配列に基づき、Primer5プライマー設計ソフトにより設計して、上流プライマーirrE-F:5´-ccgGAATTCGTGCCCAGTGCCAACGTCAGCCCCCCTTG-3´(下線部はEcoRI切断部位) SEQ ID No.3、下流プライマーirrE-R:5´-cgcGGATCCTCACTGTGCAGCGTCCTGCGGCTCGTC-3´(下線部はBamHI切断部位) SEQ ID No.4を得た。
【0078】
デイノコッカス・ラディオデュランスから抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、高忠実度酵素PrimeSTAR(タカラバイオ(大連)より購入)、プライマーSEQID No.3及びNo.4を用いて、PCR法によりグローバルレギュレーターirrEの遺伝子を合成し、以下の標準反応系を採用した。
【0079】
【0080】
増幅プロセスは、98℃での10秒の変性と、55℃での15秒のアニーリングと、72℃での1分間の伸長とを含む処理を1サイクルとし、30サイクル実施した。
【0081】
PCR産物を取り出して、キットの取扱明細書に従ってPCR精製を行い(試薬はAxygen PrepPCRクリーニングキットに由来するもの)、PCR精製産物を得た。
【0082】
タカラバイオ社の下記エンドヌクレアーゼ標準系に従って酵素による切断を行った。
【0083】
【0084】
【0085】
酵素による切断の産物を取り出して、キットの取扱明細書に従ってゲル回収を行い(試薬はAxygen PrepDNAゲル回収キットに由来するもの)、遺伝子断片を回収した。
【0086】
タカラバイオ社製T4リガーゼの取扱明細書に基づき、標準系に従って、ゲル回収により得られたirrE遺伝子5.5μl、ゲル回収により得られたプラスミドpBBR1MCS-2 3μl、T4リガーゼ0.5μl、T4リガーゼBUFFER 1μlを混合し、22℃の水浴で60分間つなぐことで、組換えプラスミドpBBR1MCS-2-irrEを得た。
【実施例2】
【0087】
浸透圧調節型プロモーターproPBの入れ替え
ヒートショック法により組換えベクターpBBR1MCS-2-irrEを大腸菌BL21コンピテントセルに形質転換し、50μg/mlのカナマイシンを含むLB平板培地上で成長可能なコロニーを当該LB平板培地において連続培養して、遺伝的に安定な組換え大腸菌を得た。
【0088】
キットの取扱明細書に従って、遺伝的に安定な組換え大腸菌のプラスミドを抽出した(試薬はAxyPrepプラスミドDNAミニプレップ・キットに由来するものである)。
【0089】
プライマーirrE-F及びirrE-Rを用いてPCR検証を行い、約1.0kbの断片を得たことから、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子が組換え大腸菌に導入されたと確認できた。
【0090】
上流プライマーlac-F:5´-GCCTGGGGTGCCTAATGAGTGAGCTAACTCACATTAATTGCG-3´(下線部は相同配列) SEQ ID No.5、下流プライマーlac-R:5´-CTCATTAGGCACCCCAGGCTGTGGAATTGTGAGCGGATAACAATTTC-3´(下線部は相同配列) SEQ ID No.6を設計した。
【0091】
PCR検証で確認された組換え大腸菌のプラスミドDNAをテンプレートとし、タカラバイオ社(大連)製高忠実度酵素primeSTAR及び推奨系を使用し、下記標準反応系で、プライマーSEQID No.5及びNo.6を用いてサーキュラーPCR法により増幅させた。
【0092】
【0093】
増幅プロセスは、98℃での10秒の変性と、55℃での15秒のアニーリングと、72℃での6分間の伸長とを含む処理を1サイクルとし、20サイクル実施した。
【0094】
PCR産物を取り出して、キットの取扱明細書に従ってPCR精製を行い(試薬はAxygen PrepPCRクリーニングキットに由来するもの)、PCR精製産物を得た。
【0095】
ヒートショック法によりPCR精製産物を大腸菌BL21コンピテントセルに形質転換し、50μg/mlのカナマイシンを含むLB平板培地上で成長可能なコロニーを当該LB平板培地において連続培養して、遺伝的に安定な組換え大腸菌を得た。
【0096】
キットの取扱明細書に従って、遺伝的に安定な組換え大腸菌のプラスミドを抽出することで(試薬はAxyPrepプラスミドDNAミニプレップ・キットに由来するもの)、lacプロモーターがノックアウトされた組換えプラスミドpBBR1MCS-2-G-irrEを得た。
【0097】
上海生物工程公司によるプラスミドの配列決定検証により、lacプロモーターがノックアウトされたことを確認し、irrE遺伝子配列が正確であることを確認した。キットの取扱明細書に従って、大腸菌のゲノムを抽出した(試薬は上海生物工程有限公司製Ezupカラム用細菌ゲノムDNA抽出キットに由来するものである)。
【0098】
上流プライマーproPB-F:5´-ccgCTCGAGCATGTGTGAAGTTGATCACAAATTT-3´(下線部はXhoI切断部位) SEQ ID No.7、下流プライマーproPB-R:5´-cccAAGCTTGAGTTGGCCCATTTCCGCAAACG-3´(下線部はHindIII切断部位) SEQ ID No.8を設計した。
【0099】
大腸菌から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、高忠実度酵素PrimeSTAR(タカラバイオ(大連)より購入)、プライマーSEQ ID No.7及びSEQ ID No.8を用いて、下記標準反応系でPCR法によりグローバルレギュレーターirrEの遺伝子を合成した。
【0100】
【0101】
増幅プロセスは、98℃での10秒の変性と、55℃での15秒のアニーリングと、72℃での1分間の伸長とを含む処理を1サイクルとし、30サイクル実施した。
【0102】
PCR産物を取り出して、キットの取扱明細書に従ってPCR精製を行い(試薬はAxygen PrepPCRクリーニングキットに由来するもの)、PCR精製産物を得た。
【0103】
タカラバイオ社の下記エンドヌクレアーゼ標準系に従って酵素による切断を行った。
【0104】
【0105】
【0106】
酵素による切断の産物を取り出して、キットの取扱明細書に従ってゲル回収を行い(試薬はAxygen PrepDNAゲル回収キットに由来するもの)、遺伝子断片を回収した。
【0107】
タカラバイオ社製T4リガーゼの取扱明細書に基づき、標準系に従って、ゲル回収により得られたproPB配列5.5μl、ゲル回収により得られたプラスミドpBBR1MCS-2-G-irrE 3μl、T4リガーゼ0.5μl、およびT4リガーゼBUFFER 1μlを混合し、22℃の水浴で60分間つなぐことで、
図2に示す組換えプラスミドpBBR1MCS-2-G-proPB-irrEを得た。
【実施例3】
【0108】
グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子と、浸透圧調節型プロモーターproPBとを含む組換え微生物の構築
ヒートショック法により組換えベクターpBBR1MCS-2-G-proPB-irrを大腸菌S17-1コンピテントセルに形質転換し、50μg/mlのカナマイシンを含むLB平板培地上で成長可能なコロニーを当該LB平板培地において連続培養して、組換え大腸菌を得た。組換え大腸菌のゲノムを抽出し、プライマーproPB-F及びirrE-Rを用いてPCR検証を行った結果、約1.2kbの断片を得たことから、proPBプロモーター及びグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子が組換え大腸菌に導入されたと確認できた。そして、上海生物工程公司によるプラスミドの配列決定検証により、配列がNCBI上の配列に一致すると確認した。
【0109】
接合伝達により、組換え大腸菌の組換えベクターpBBR1MCS-2-G-proPB-irrEをロドバクター・スフェロイデスに導入し、50μg/mlのナリジクス酸及びカナマイシンを含む平板培地上で成長可能なロドバクター・スフェロイデスを当該平板培地上で連続的に3代目まで継代して、遺伝的に安定な組換えロドバクター・スフェロイデスRSP-BEを得た。
【0110】
組換えロドバクター・スフェロイデスのゲノムを抽出して、プライマーproPB-F及びirrE-Rを用いてPCR検証を行った結果、約1.2kbの断片を得たことから、proPBプロモーター及びグローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子が組換えロドバクター・スフェロイデスRSP-BEに導入されたと確認できた。
【0111】
上述した組換え微生物の構築において、組換えベクターを大腸菌S17-1に形質転換する具体的な操作は以下のとおりである。
コンピテント大腸菌S17-1を含むチューブを10分間冰浴した後、組換えプラスミドpBBR1MCS-2-G-proPB-irrEを加え、さらに20分間冰浴して、90秒ヒートショックし、5分間冰浴して、600μlのLB液体培地を加えた。37℃で45分間培養した後、5000rpmで5分間遠心し、500μlの上清を除去して、残りの液を、カナマイシンを含む平板培地に塗布した。
【0112】
接合伝達の具体的な操作は以下のとおりである。
10mlの液体培地を含む試験管にロドバクター・スフェロイデスを播種し、30℃、200rpmで50時間培養した。
【0113】
32時間後、形質転換した大腸菌S17-1の陽性クローンをLB培養液に播種し、37℃、200rpmで一晩培養した。15時間後、大腸菌S17-1を継代し、LB培地5ml毎に菌液100μlを加えるとともに、カナマイシン5μlを加え、37℃のシェーカーに置いて培養した。3~4時間培養した後、ロドバクター・スフェロイデス菌液4mlと大腸菌菌液2mlを、2ml遠心管1本につき1mlで分配し、5000rpmで5分間遠心した。上清をそれぞれ除去し、新鮮なLB培地1mLを加え、菌体を軽く再懸濁させ、5000rpmで5分間遠心した。上清をそれぞれ除去し、新鮮なLB培地1mLを加え、菌体を軽く再懸濁させた。ロドバクター・スフェロイデスと大腸菌の比率が100:50、100:100の比率となるように、菌液を均一に混合し、LB平板の中央にろ過膜(0.22μm)を貼り付け、混合菌液をろ過膜の中心部に注ぎ、LB平板を穏やかに32℃のインキュベーターに入れて一晩培養した。
【0114】
ろ過膜をピンセットで2mLのEP管に移し、500μlのLB液体培地でろ過膜上の菌体を洗い流して分散させ、平板培地1枚につき菌液350μlで分配して塗布した後、32℃のインキュベーターに入れて72時間培養した。
【0115】
接合伝達後、陽性クローンであるかを検査した。
【0116】
成長良好なコロニーを2つ~5つ選んで48~60時間培養し、継代してから、さらに2~4時間培養した後、Axygenプラスミド抽出キットの取扱明細書に記載の操作手順でプラスミドを抽出した。遠心管1本に、工程2で抽出したプラスミド34μlを入れ、XhoIとBamHIをそれぞれ1μl加え、BUFFER4μlを加えた。37℃の水浴に入れて酵素による切断を1.5時間行った。酵素による切断をした後、電気泳動で分析した結果、予想どおりに1.2kb付近にバンドが明確に見られた。ゲルを分割して回収した後、得られたDNA断片の配列決定検証により、陽性クローンであると確認した。
【0117】
上記方法により得られた菌株の微生物寄託を行った。この菌は、ロドバクター・スフェロイデスであって、ラテン名がRhodobacter sphaeroidesであり、RSP-BE菌株と名付け、2018年6月11日に中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センター(CGMCC、北京市朝陽区北辰西路1号院3号中国科学院微生物研究所、郵便番号100101)に寄託し、寄託番号はCGMCC No.15927である。
【実施例4】
【0118】
組換え微生物を用いる補酵素Q10の発酵生産
平板上で約7日培養した組換えロドバクター・スフェロイデスRSP-BEのシングルコロニーを選んで、小試験管の斜面培地に移して培養し、培養済の斜面を滅菌水で洗浄し、菌濃度が細胞108~109個/mlである菌懸濁液とした。得られた菌懸濁液を2%の播種量でシード培地に播種してシード培養した。ここで、培地は100ml、32℃、回転速度180rpmとし、培養時間は22~26時間とした。
【0119】
シード培養で得られたロドバクター・スフェロイデス菌株CGMCC No.15927を10%の播種量で10Lの発酵タンクに播種した。播種量は当業界の一般の含有量、例えば、1~30%とすることができ、好ましくは2.5~20%、より好ましくは5~15%とする。必要に応じて播種量を調整してもよい。
【0120】
シード液は10L発酵タンク内で発酵し始め、発酵温度は31℃とし、タンク内圧は0.03Mpaとし、酸素供給は段階的制御の方針を採った。0~24時間の段階では、撹拌速度を500rpmとし、空気流量を6L/minとし、菌体の成長に伴い、OURは緩やかに安定して50mmol/L・hになり、この段階では、菌体は指数増殖期で、酸素供給は成長を制限する要因となり、撹拌速度及び通気量を上げることにより酸素供給水準を改善した。24~36時間の段階では、OURを60mmol/L・hに維持し、36~60時間の段階では、OURを70mmol/L・hに維持することで、菌体の成長を促進した。60時間以降、この段階の菌体は徐々に安定期に入り、菌体の数は増加しなくなり、補酵素Q10は急速に合成して蓄積されるので、酸素供給を徐々に下げることで高い補酵素Q10生産速度を維持し、60~90時間の段階では、OURを90mmol/L・hに維持し、90~100時間の段階は、OURを80mmol/L・hに維持し、100時間以降はOURを60mmol/L・hに維持した。
【0121】
発酵プロセスにおける補充は次のように制御した。当業界で公知のように、発酵プロセスにおいて残糖及び溶存リンに応じてグルコース及びリン酸二水素カリウムを追加するほか、本発明では、電気伝導度が15.0ms/cmに低下した際に、培地の流加補充を行う。補充培地の組成は、補充液1リットルにつき、酵母粉末12g、(NH4)2SO4 10g、MgSO4 2g、NaCl 6g、KH2PO4 4g、K2HPO4 4g、CaCl2 2g、ビオチン0.025gとし、pHは7.0とし、培地の添加速度を制御することにより、電気伝導度を15ms/cmの範囲内とし、残糖を全過程にわたって2.0%に維持した。110時間経て発酵が終わった後、発酵液の一部を取って不活性ガス雰囲気下で抽出及び分析を行った結果、力価は3637mg/Lであり、バイオマスは125g/kgであった。
【実施例5】
【0122】
組換え微生物を使用する発酵による酸化型補酵素Q10の生産
平板上で約7日培養した組換えロドバクター・スフェロイデスRSP-BEのシングルコロニーを選んで、小試験管の斜面培地に移して培養し、培養済の斜面を滅菌水で洗浄し、菌濃度が細胞108~109個/mlである菌懸濁液とした。得られた菌懸濁液を2%の播種量でシード培地に播種してシード培養した。ここで、培地は100ml、32℃、回転速度180rpmとし、培養時間は22~26時間とした。
【0123】
シード培養で得られたロドバクター・スフェロイデス菌株CGMCC No.15927を10%の播種量で10Lの発酵タンクに播種した。播種量は当業界の一般の含有量、例えば、1~30%とすることができ、好ましくは2.5~20%、より好ましくは5~15%とする。必要に応じて播種量を調整してもよい。
【0124】
シード液は10Lの発酵タンク内で発酵し始め、発酵温度は30℃とし、発酵タンクの単位体積の発酵液当たりの空気吸気流量は0.4vvmとし、単位体積当たりの撹拌動力は0.1kw/m3とし、タンク圧は0.02MPaとし、酸素消費速度は50mmol/(L・h)とし、発酵液の電気伝導度は12ms/cmとし、pH値は約7.0とした。
【0125】
補充培地は、補充液1リットルにつき、酵母粉末12g、(NH4)2SO4 10g、MgSO4 2g、NaCl 6g、KH2PO4 4g、K2HPO4 4g、CaCl2 2g、ビオチン0.025gを含み、pHを7.0とした。
【0126】
15時間後、酸素供給を増やし、発酵タンクの単位体積の発酵液当たりの空気吸気流量を0.6vvmとし、単位体積当たりの撹拌動力を0.2kw/m3とし、タンク圧を0.04MPaとし、酸素消費速度を70mmol/(L・h)に上げたからそのまま維持し、発酵液の電気伝導度を12ms/cmとし、pH値を7.0として、発酵を続け、この時の発酵は菌体の成長段階であった。
【0127】
20時間後、増加酸素供給を再度増やし、発酵タンクの単位体積の発酵液当たりの空気吸気流量を0.8vvmとし、単位体積当たりの撹拌動力を0.2kw/m3とし、タンク圧を0.05MPaとし、酸素消費速度を90mmol/(L・h)に上げたからそのまま維持し、発酵液電気伝導度を12ms/cmとし、pH値を7.0として、発酵を続け、この時の発酵は菌体の成長段階であった。
【0128】
10時間後、酸素消費速度を70mmol/(L・h)付近に維持し、発酵液の電気伝導度を12ms/cmとし、pHを約6.0として、発酵を続け、この時の発酵は補酵素Q10の合成蓄積段階の前期であった。
【0129】
20時間後、発酵力価の増加は平衡になり、発酵は補酵素Q10の合成蓄積段階の後期に入った。発酵タンクの単位体積の発酵液当たりの空気吸気流量を6.0vvmとし、単位体積当たりの撹拌動力を0.3kw/m3とし、タンク圧を0.1MPaとし、リン酸を連続的に添加することによって、約2時間でpHを約4.0に調節し、発酵液の電気伝導度を12ms/cmとして、発酵を続け、安定した発酵液のORP値は100~200mvの範囲に維持された。
【0130】
15時間後、発酵を停止し、発酵液の一部を取って不活性ガス雰囲気下で抽出及び分析を行った結果、力価は3533mg/Lで、酸化型補酵素Q10:還元型補酵素Q10は99.3:0.7であり、バイオマスは123g/kgであった。
【0131】
比較例1
浸透圧調節型プロモーターproPB入れ替え無しの組換え微生物の構築
実施例1で構築した組換えベクターpBBR1MCS-2-irrEを、浸透圧調節型プロモーターproPBの入れ替えを行わずに、実施例3と同様に大腸菌S17-1コンピテントセルに形質転換し、カナマイシンを含むLB培地上で24時間培養し、組換え大腸菌を得た。組換え大腸菌のプラスミドを抽出し、プライマーirrE-F及びirrE-Rを用いてPCR検証を行い、約1.0kbの断片を得たことから、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子が大腸菌S17-1に導入されたと確認できた。
【0132】
得られた組換え大腸菌S17-1の組換えベクターpBBR1MCS-2-irrEを接合伝達によりロドバクター・スフェロイデスに導入し、ナリジクス酸及びカナマイシンを含む平板培地で培養し、組換えロドバクター・スフェロイデスRSP-CEを得た。プライマーirrE-F及びirrE-Rを用いてPCR検証を行った結果、約1.0kbの断片を得たことから、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子がロドバクター・スフェロイデスRSP-CEに導入されたと確認できた。
【0133】
比較例2
補酵素Q10の発酵における組換え微生物の比較
実施例4の発酵方法と同様にロドバクター・スフェロイデスの元の菌株、組換えロドバクター・スフェロイデスRSP-BE及びRSP-CEの発酵を行った。発酵結果を以下に示す。
【0134】
【0135】
比較例3
酸化型補酵素Q10の発酵における組換え微生物の比較
実施例5の発酵方法と同様にロドバクター・スフェロイデスの元の菌株、組換えロドバクター・スフェロイデスRSP-BE及びRSP-CEの発酵を行った。発酵結果を以下に示す。
【0136】
【0137】
比較例3の結果によれば、発酵生産における高酸化還元電位による菌体への悪影響のため、ロドバクター・スフェロイデスの元の菌株の発酵を用いて得られた酸化型補酵素Q10の力価及び還元型補酵素Q10に対する比率は低かった。一方、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子はDNA損傷の修復と放射線ストレスからの保護の経路において中心的な調節作用を発揮するため、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を外因的に導入することによって、浸透圧、酸化、放射線及び熱等の様々なストレスに対する耐性を含む過酷な環境に対する微生物の耐性を改善することができ、菌の成長及び代謝活性並びにバイオマス向上の観点から好適であり、酸化型補酵素Q10の力価及び比率をある程度高めた。ただし、浸透圧調節型プロモーターproPBの入れ替えは行わなかったので、組換えロドバクター・スフェロイデス菌株RSP-CEは、組換えロドバクター・スフェロイデス菌株RSP-BEに比較して、発酵液の測定で確認した力価が低かった。このように、浸透圧調節型プロモーターproPBは、実際の発酵環境の条件変化に応じてirrEの発現を効果的に調節することで、様々な強さのストレスに対する補酵素Q10生産菌の耐性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明にかかる発酵法で補酵素Q10を生産するための組換え微生物は、グローバルレギュレーターirrEをコードする遺伝子を含むため、浸透圧、酸化、放射線及び熱等の様々なストレスに対する微生物の耐性を高めることができ、菌の対数増殖期を延長し、バイオマスのさらなる蓄積を促進するとともに、発酵プロセスにおける菌の活発な成長および代謝活性を維持することにより、補酵素Q10の収量を高め、特に酸化型補酵素Q10の収量を高めることができる。そのため、この遺伝子で構築された組換え微生物は、補酵素Q10の力価を高めることができ、特に酸化型補酵素Q10の含有量を著しく増加させることができる。したがって、本発明の方法で構築された組換え微生物は、補酵素Q10の工業的生産において広い用途がある。
【配列表】