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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】シール材及び薬剤容器
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20220516BHJP
   A61J 1/18 20060101ALI20220516BHJP
   B65D 33/34 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
A61J1/05 315Z
A61J1/18
B65D33/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017163574
(22)【出願日】2017-08-28
(65)【公開番号】P2019037656
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】永田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 友紀
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-301134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
A61J 1/18
B65D 33/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を収容する容器本体に一端が接続され、内部に前記薬剤の流出を防止するための封止体が配置された前記薬剤の流出入用のポートの、他端を被覆するシール材であって、
前記シール材は、シール材本体と、前記ポートの開口の内側に位置するように前記ポートと対向する前記シール材本体の面側に形成された粘着剤層とを備えており、
前記シール材には、格子状の切込み及び目打ちの少なくとも一方が形成されており、
前記シール材の前記粘着剤層は、前記封止体上に付着可能である、シール材。
【請求項2】
前記シール材本体は、前記粘着剤層と接する側から順に、シーラント層、内部層及び保護層の3層から構成されており、
前記シーラント層は、前記他端に対して剥離可能に接着する層であり、
前記シール材本体の層間の積層強度には差が設けられている、請求項1記載のシール材。
【請求項3】
前記ポートの前記開口の内側に位置するように、前記シール材本体と前記粘着剤層との間に、前記切込み及び前記目打ちの少なくとも一方を有する破断層を備える、請求項1記載のシール材。
【請求項4】
前記シール材は、着色されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のシール材。
【請求項5】
薬剤を収容する容器本体と、該容器本体に一端が接続され前記薬剤を流出入させるポートと、該ポートの内部に配置され前記薬剤の流出を防止するための封止体とを備える薬剤容器であって、
前記ポートの他端は、請求項1~4のいずれか一項に記載のシール材で被覆されている薬剤容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材及び薬剤容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水・電解質の補給、栄養の補給、血管の確保、病態の治療等を目的として輸液が広く用いられている。輸液は、輸液バッグに収容して用いられるが、輸液バッグとしては、輸液を内包する容器本体と輸液排出用のポートとを有するものが一般的である。ポートの内部には、輸液の流出を防止するためのゴム栓等の封止体が配置されており、ポートの開口はシール材で被覆され、輸液バッグの使用時にはシール材の少なくとも一部が剥離される。
【0003】
輸液がアミノ酸や特定の抗生物質を含有する場合、酸素の影響を受けやすいためポートは酸素の侵入を防御可能なものである必要があり、ある種の薬剤を含む輸液では、解離平衡を維持するために、封止体とシール材の間のポート内スペース(ヘッドスペース)を窒素ガスで置換することがある。輸液が特殊な組成でない場合であっても、ポート内の清浄のためにポートの開口をシール材で覆うのが通常である。このように、輸液バッグにおいては、ポートをシール材で被覆することで密閉状態に保つ必要があり、密閉状態が損なわれたときにはそれを外部から検知する必要がある。
【0004】
密閉状態の検知が可能な輸液バッグとしては、例えば、ヘッドスペース内にガス検知体を配設し、密閉性が損なわれたときのガス検知体の反応を外部から目視で確認できるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-349182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ポートから輸液バッグ内部へ意図的な異物混入が行われた事件が発生しており、異物が混入されたことを、人体に処方する前に容易に検知可能にする必要性が高まっている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、針状物等で薬剤容器のシール材を穿刺することで、ポートから容器本体に異物が混入された場合や異物を混入させる試みがされた場合であっても、容易にその事実を検知可能な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、薬剤を収容する容器本体に一端が接続され、内部に上記薬剤の流出を防止するための封止体が配置された上記薬剤の流出入用のポートの、他端を被覆するシール材であって、上記シール材は、シール材本体と、上記ポートの開口の内側に位置するように上記ポートと対向する上記シール材本体の面側に形成された粘着剤層とを備えており、上記シール材本体側からの針状物による押圧又は穿刺により、小片化した上記シール材の一部が上記封止体上に付着するシール材、を提供する。
【0009】
上記シール材によれば、針状物等で薬剤容器のシール材を穿刺することで、ポートから容器本体に異物が混入された場合や異物を混入させる試みがされた場合であっても、容易にその事実を検知可能となる。意図的に異物を混入させようとする者は、異物混入の痕跡を消そうとするために、容器本体を直接穿刺するのではなく、ポート側から容器本体へ異物を混入させる。すなわち、容器本体をニードル等の針状物で穿刺した場合、抜針後に薬剤が漏れ出すことから、ポートにシール材が貼り付けられた状態のまま、針状物をシール材及び封止体(ゴム栓)に突き刺して貫通させ、容器本体内部へ異物を混入させた後抜針する。抜針の結果生じた穿孔のサイズが小さかったり目立たなかった場合には、医療関係者は、シール材が貼られたままであるため未使用であると誤解して、そのまま使用してしまう可能性がある。
【0010】
本発明のシール材は、針状物で押圧又は穿刺されると、シール材が小片化してその一部が封止体上に付着するため、針状物でシール材を押圧又は穿刺した箇所が封止体に転写され、シール材の均一性が損なわれたり、封止体上に転写された小片を穿孔から観察でき、またシール材剥離時にゴム栓上にシール材の一部が残っていることから、ポートから容器本体に異物が混入された場合や異物を混入させる試みがされた場合に、異常が生じていることが容易に視認できる。
【0011】
シール材本体は、粘着剤層と接する側から順に、シーラント層、内部層及び保護層の3層から構成されており、上記シーラント層は、上記他端に対して剥離可能に接着する層であり、上記保護層側からの針状物による押圧又は穿刺により、小片化した上記シール材の一部が上記封止体上に付着するように、層間の積層強度に差を設けたものであってもよい。
【0012】
シール材を多層構造にして、層間の積層強度(接着強度)に差を設けることで、層間の接着力が最も低いところで、層が剥がれることとなり、シール材の一部の小片化が容易に生じるようになる。したがって、封止体上への付着がより容易且つ確実に生じるようになる。なお、シール材がシーラント層を備えることで、ポートへの接着のための接着剤の塗布工程を省略でき、例えばヒートシールにより短時間にポートとの接着を完了できるようになる。
【0013】
上記の場合において、小片化したシール材の一部は、以下の(1)~(4)
(1)粘着剤層のみ、
(2)粘着剤層及びシーラント層、
(3)粘着剤層、シーラント層及び内部層、
(4)粘着剤層、シーラント層、内部層及び保護層、
のいずれかから構成されるようにしてもよい。
【0014】
(1)の場合は粘着剤層とシーラント層の間で、(2)の場合はシーラント層と内部層との間で、(3)の場合は内部層と保護層との間で、最も積層強度が弱くなるように構成されており、(4)の場合は、層間の積層強度は同一又は異なるが、シール材全体が小片化しやすくなるようになっている。このように、(1)~(4)の小片が封止体に転写されると、シール材の均一性、一体性が損なわれたり、穿孔が生じるため、ポートから容器本体に異物が混入された場合や異物を混入させる試みがされた場合に、その検出が容易になる。
【0015】
シール材においては、ポートの開口の内側に位置するように、シール材本体と粘着剤層との間に、押圧又は穿刺により小片化が生じる破断層を備えるようにしてもよい。この場合において、小片化したシール材の一部は、上記粘着剤層と上記破断層とを少なくとも含むようにすることができる。シール材が破断層を有することで、シール材の小片化が容易となるため、押圧又は穿刺によってある程度の力が加われば小片化されたシール材が封止体上に付着するようになり、異物の混入やその試みの検出が容易且つ確実化する。
【0016】
小片化した上記シール材の一部は、着色されていることが好ましい。小片が着色していると封止体上に転写されたことがより容易に視認でき、異物混入又はその試みがなされてことがより確実に検出できるようになる。
【0017】
本発明は上述したシール材の他、薬剤容器も提供する。すなわち、本発明は、薬剤を収容する容器本体と、この容器本体に一端が接続され上記薬剤を流出入させるポートと、このポートの内部に配置され上記薬剤の流出を防止するための封止体とを備える薬剤容器であって、上記ポートの他端は、上述したシール材で被覆されている薬剤容器を提供するものである。
【0018】
この薬剤容器は、例えば輸液バッグとして用いることができ、本発明のシール材でポートが被覆されていることから、ポートから容器本体に異物が混入された場合や異物を混入させる試みがされた場合に、シール材の均一性が損なわれたり、封止体上に転写された小片を穿孔から観察できることから、その事実を目視により容易に検出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、針状物等で薬剤容器のシール材を穿刺することで、ポートから容器本体に異物が混入された場合や異物を混入させる試みがされた場合であっても、容易にその事実を検知可能な手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態の薬剤容器の上面図である。
図2図1のAで示される部分の断面図である。
図3】第1実施形態のシール材の断面図である。
図4】ポートからニードルによる穿刺が行われたところを示す断面図である。
図5】(a)は切込みを設けたシール材の上面図、(b)は断面図である。
図6】第2実施形態のシール材の断面図である。
図7】第3実施形態のシール材の断面図である。
図8】第4実施形態のシール材の断面図である。
図9】ポートからニードルによる穿刺が行われたところを示す断面図である。
図10】第2実施形態の薬剤容器の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。本説明において、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。また、各図面の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率とは一致していない。
【0022】
図1は、容器本体とシール材で被覆されたポートとを備える薬剤容器(後述のように第1実施形態の薬剤容器に該当する。)の上面図であり、図2図1のAで示される部分の断面図である。図1に示す薬剤容器30は、薬剤32を収容する容器本体34と、容器本体34に一端が接続されたポート20と、ポート20の他端を被覆するシール材1とを備えている。ポート20は筒状部22と口部24とから構成されており、図2に示すようにポート20の内部には、薬剤32の流出を防止するための封止体26が配置されている。
【0023】
図3は第1実施形態のシール材の断面図である。図3に示すシール材1は、シール材本体11と、ポートの開口の内側に位置するようにポートと対向するシール材本体11の面上に形成された粘着剤層13とを備えている。
【0024】
第1実施形態のシール材1においては、シール材本体11側からの針状物による押圧又は穿刺により、小片化したシール材1の一部が封止体26上に付着する。
【0025】
図4は、ポート20からニードルによる穿刺が行われたところを示す断面図である。図4においては、シリンジ本体44とニードル46とから構成されるシリンジ40の内部に異物42が導入され、これを用いて異物42を混入させているところが示されている。ニードル46は、封止体26、粘着剤層13及びシール材本体11を貫通しており、容器本体34の内部に異物42が混入されている。ニードル46の穿刺に際して、シール材本体11と粘着剤層13からなる小片が封止体26上に付着している。ニードル46をシール材1から抜針しても、粘着剤層13の接着力で小片が封止体26上に留まり、シール材1に生じた孔から封止体26に付着した小片が観察できることから、異物混入の事実が容易に視認することができる。また、シール材1の剥離時にも、ポート上に付着した小片が確認できる。
【0026】
視認性を高めるためには、小片はある程度の大きさであることが好ましく、そのような大きさの小片が生じるようにするために、シール材本体11には切込みや目打ちが、例えば格子状に施されていてもよい。シール材本体11が切込みや目打ちを有する場合は、その間隔に合わせて粘着剤層13を非連続的に形成してもよい。粘着剤層13をこのように形成することで、より容易に小片が封止体26上に付着するようになる。
【0027】
図5は切込みを設けた第1実施形態のシール材を示すものであり、(a)は切込みを設けたシール材の上面図、(b)は同シール材の断面図である。図5(a)に示すシール材においては、シール材本体11に切込み62が格子状に設けられている。切込みが設けられている範囲は、粘着剤層13が形成されている範囲の内側である。図5(b)では、シール材本体11に設けられた切込み62が示されている。図5(b)に示すシール材においては、シール材本体11を貫通しないように切込み62が設けられている。図5(b)においては、切込み62は、シール材本体11の粘着剤層13と接する面と反対の面側(上面側)から形成されているが、切込み62は粘着剤層13側から層を貫通しないように設けてもよい。更には、切込み62はシール材本体11を貫通するように設けられていてもよい。なお、層を貫通しない切込みと貫通する切込みは混在していてもよく、この場合において、層を貫通しない、シール材本体11の上面側から設けた切込みと、層を貫通しない、粘着剤層13側から設けた切込みとが混在していてもよい。
【0028】
シール材においては、シーラント層と粘着剤層の間に、針状物による押圧又は穿刺により、容易に小片化する層(破断層)を設けてもよい。図6はそのようなシール材を示すものであり、第2実施形態のシール材に相当する。図6に示すシール材1は、粘着剤層13とシール材本体11との間に、破断層72を備えている。破断層72においては、シール材本体11側から層を貫通しないように切込み62が設けられている。なお、切込み62は粘着剤層13側から層を貫通しないように設けてもよい。また、切込み62は破断層72を貫通するように設けられていてもよい。なお、層を貫通しない切込みと貫通する切込みは混在していてもよく、この場合において、層を貫通しない、シール材本体11側から設けた切込みと、層を貫通しない、粘着剤層13側から設けた切込みとが混在していてもよい。
【0029】
図6においては、破断層72が設けられている範囲は、粘着剤層13が設けられている範囲と同一になっているが、破断層72が設けられる範囲は、粘着剤層13が設けられている範囲よりも狭くてもよい。また、破断層72が設けられる範囲は、開口の内側に位置するようになる限りにおいて、粘着剤層13の範囲よりも広くてもよい。
【0030】
破断層72は、押圧又は穿刺により小片化が生じるが、粘着剤層13も同時に小片化され、破断層72と粘着剤層13が積層したもの、或いは、破断層72と粘着剤層13とシール材本体11の少なくとも一部とが積層したものが、封止体26上に付着する。
【0031】
シール材本体11は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の高分子物質で形成でき、シール材本体11は単層からなるものであっても複数層からなるものであってもよい。粘着剤層13は、アクリル系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等で形成可能である。粘着剤層13を構成する粘着剤は、封止体26へ強く接着する強度を持ったものを選択することが好ましい。破断層72は、セルロース、紙、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン(登録商標)、ポリプロピレン等の高分子物質で形成させることができる。
【0032】
図7は、第3実施形態のシール材の断面図である。図7に示すシール材1は、シール材本体11が、シーラント層16、内部層15及び保護層14がこの順で積層された3層からなっており、ポートの開口の内側に位置するようにポートと対向するシーラント層16の面上に粘着剤層13が形成されている。
【0033】
シーラント層16は、例えば、高分子物質、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンで形成させることができる。内部層15は、例えば、ナイロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の高分子物質で形成させることができ、保護層14は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン(登録商標)等の高分子物質で形成させることができる。なお、保護層14は単層であっても、複数の層からなる積層体であってもよい。
【0034】
第3実施形態のシール材1においては、小片化するシール材の一部は、以下の(1)~(4)のいずれかから構成され得る。
(1)粘着剤層13のみ、
(2)粘着剤層13及びシーラント層16、
(3)粘着剤層13、シーラント層16及び内部層15、
(4)粘着剤層13、シーラント層16、内部層15及び保護層14
【0035】
この場合において、シール材1を構成するシーラント層16、内部層15及び保護層14の少なくとも一つには切込みや目打ちが、例えば格子状に施されていてもよい。このような構成にすることで、封止体26上に付着する小片をある程度の大きさにすることができ、封止体26に付着した小片の視認性が高められる。シール材1を構成する層が切込みや目打ちを有する場合は、その間隔に合わせて粘着剤層13を非連続的に形成してもよい。粘着剤層13をこのように形成することで、より容易に小片が封止体26上に付着するようになる。
【0036】
図8は切込みを設けた第4実施形態のシール材の断面図である。図8に示すシール材1においては、内部層15に保護層14側から層を貫通しないように切込み62が形成されている。なお、図示しないが、図8のシール材1においては、図5(a)と同様に切込み62が格子状に設けられている。
【0037】
図8においては、切込み62は、内部層15の、ポート20と対向する面とは反対側の面側(上面側)から設けられているが、ポート20と対向する面側(下面側)から層を貫通しないように設けてもよい。図8においては、切込み62は内部層15に形成されているが、切込み62は、保護層14又はシーラント層16に形成されてもよい。すなわち、内部層15、保護層14及びシーラント層16のうち少なくとも1層に切込み62を設けることができる。この場合において、切込み62は各層の上面側からでも下面側からでも形成できる。内部層15、保護層14及びシーラント層16のうち少なくとも1層に切込み62を設ける場合において、切込み62は各層を貫通するものであってもよく、層を貫通するものと貫通しないものとが混在していてもよい。層を貫通しない場合は、各層の上面側から形成されたものと下面側から形成されたものが混在していてもよい。
【0038】
図8においては、切込み62が設けられている範囲は、粘着剤層13が設けられている範囲内となっているが、切込み62は粘着剤層13の範囲よりも広く形成されていてもよい。
【0039】
なお、第4実施形態のシール材1における、粘着剤層13とシーラント層16との間に、上述した破断層72を設けてもよい。その場合において、小片化したシール材1の一部は、以下の(a)~(e)
(a)粘着剤層13のみ、
(b)粘着剤層13及び破断層72
(c)粘着剤層13、破断層72及びシーラント層16、
(d)粘着剤層13、破断層72、シーラント層16及び内部層15、
(e)粘着剤層13、破断層72、シーラント層16、内部層15及び保護層14、
のいずれかから構成される。
【0040】
図9は、ポート20からニードルによる穿刺が行われ、上記(3)の小片化が生じたところを示す断面図である。図9においては、シリンジ本体44とニードル46とから構成されるシリンジ40の内部に異物42を導入し、これを用いて異物を混入させているところが示されている。ニードル46は、封止体26、粘着剤層13、シーラント層16、内部層15及び保護層14を貫通して、容器本体34の内部に異物42が混入されている。ニードル46の穿刺に際して、粘着剤層13、シーラント層16及び内部層15からなる小片が封止体26上に付着しており、保護層14は小片化していない。ニードル46をシール材1から抜針しても、粘着剤層13の接着力で小片が封止体26上に留まり、保護層14に生じた孔から封止体26に付着した小片が観察できることから、異物混入の事実が容易に視認することができる。保護層14を透明又は半透明の樹脂で構成すれば、封止体26に付着した小片をより明瞭に観察できる。また、シール材1を剥離したときにも、封止体26上に小片が付着していることが確認できる。
【0041】
粘着剤層13、保護層14、内部層15、シーラント層16、破断層72の厚さは任意であるが、例えば、粘着剤層13は10~100μm、保護層14は10~100μm、内部層15は10~100μm、シーラント層16は10~150μmとすることができる。
【0042】
第1~第4実施形態のシール材は、シール材を構成する各層を個別に製造しておき、全体を熱ラミネートして製造できる他、粘着剤層は塗布等の公知の技術によっても製造可能である。
【0043】
上述したシール材を用いて薬剤容器を提供することができる。図1は、そのような薬剤容器を示す上面図である。図1に示す第1実施形態の薬剤容器30は、薬剤32を収容する容器本体34と、容器本体34に一端が接続され薬剤32を流出入させるポート20とを備え、ポート20の他端は、実施形態のシール材1で被覆されている。なお、ポート20はその内部に、薬剤32の流出を防止する封止体26を備えている。第1実施形態の薬剤容器30は、薬剤32を収容する収容部(薬剤収容部)が1つであるため、単室バッグに相当する。
【0044】
図10は、第2実施形態の薬剤容器30を示す上面図である。図10に示す薬剤容器30は、薬剤を収容する収容部(薬剤収容部)を2つにしたこと、すなわち、ポート20側の第1薬剤収容部に第1薬剤32aを、ポート20から離れた側の第2薬剤収容部に第2薬剤32bを収容させたこと以外は、第1実施形態の薬剤容器と同様の構成を有する。第1薬剤収容部と第2薬剤収容部の間は、易剥離性を有する弱シール部36で仕切られており、薬剤容器30の使用の直前に弱シール部36を剥離して、第1薬剤32aと第2薬剤32bとを混合させる。なお、薬剤収容部を3以上にしたものであっても、実施形態のシール材1を適用可能である。
【0045】
第1及び第2実施形態の薬剤容器において、容器本体34に収容される、薬剤32、第1薬剤32a、第2薬剤32bとしては、電解質液(生理食塩水、リンゲル液)、ブドウ糖液、アミノ酸液、ビタミン液、微量元素液等が挙げられる。薬剤は、液状であっても非液状(固形状等)であってもよい。
【0046】
容器本体34は、耐熱性、シール強度、透明性、不透湿性、柔軟性等に優れる高分子フィルムで構成させることができ、この高分子フィルムは上記性能向上のため積層体であってもよい。高分子フィルムに用いられる高分子としては、オレフィンの単独又は共重合体、オレフィンとオレフィン以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物との共重合体、オレフィン以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物の単独又は共重合体が挙げられる。オレフィン共重合体の例としては、エチレン・α-オレフィン共重合体があり、異なる密度を有するエチレン・α-オレフィン共重合体を複数積層した積層体で容器本体34を構成することも可能である。
【0047】
ポート20は、口部24と、口部24の一端に嵌め込まれた筒状部22と、筒状部22内部に密着して配置され薬剤32の流出を防止する封止体26とから構成される。口部24の他端は開口を覆うようにシール材1で被覆される。筒状部22は容器本体34と隙間なく接着(密着接合)されるが、筒状部22を構成する部材と容器本体34を構成する最内層とを同一の樹脂として、ヒートシール等により密着接合することが好ましい。
【0048】
ポート20は、筒状部22の上部に封止体26を挿入した後に、加熱した治具を用いて封止体26に対して口部24をプレスして被嵌させることで製造できる。また、シール材1の口部24への接着は、ヒートシール又は接着剤塗布による接着で実現可能である。
【0049】
第1実施形態の薬剤容器30の製造方法としては、以下の方法がある。すなわち、容器本体34を構成する1組の高分子フィルムについて、ポート20が挿入される辺以外の3辺の周縁部をヒートシールする。次いで、筒状部22をヒートシールされていない箇所に挿入した後に、筒状部22と高分子フィルムとをヒートシールして隙間なく接着させる。筒状部22を通して薬剤32を容器本体34内部に充填し、筒状部22の上部に封止体26を挿入した後に、加熱した治具を用いて封止体26に対して口部24をプレスして被嵌させる。次いで、シール材1を口部24にヒートシールするか接着剤塗布で接着する。
【0050】
第1実施形態の薬剤容器30の他の製造方法としては、以下の方法がある。すなわち、筒状部22を、容器本体34を構成する1組の高分子フィルムで挟み、ヒートシールで隙間なく接着させる。次いで、筒状部22の上部に封止体26を挿入した後に、加熱した治具を用いて封止体26に対して口部24をプレスして被嵌させ、シール材1を口部24にヒートシールするか接着剤塗布で接着する。これと同時又はこの後に、ポート20が挿入されていない1辺を残して、残りの3辺の周縁部をヒートシールする。ヒートシールされていない1辺から薬剤32を容器本体34内部に充填し、その後、この辺をヒートシールする。
【0051】
実施形態の薬剤容器30は、シール材1でポート20が被覆されていることから、ポート20から容器本体34内部に異物が混入された場合や異物を混入させる試みがされた場合に、小片化したシール材1の一部がポート20内部の封止体26上に付着するため、異物が混入されたか混入させる試みがされた薬剤容器30を正常品と誤認して使用することがなくなる。
【符号の説明】
【0052】
1…シール材、11…シール材本体、13…粘着剤層、14…保護層、15…内部層、16…シーラント層、20…ポート、22…筒状部、24…口部、26…封止体、30…薬剤容器、32…薬剤、32a…第1薬剤、32b…第2薬剤、34…容器本体、36…弱シール部、40…シリンジ、42…異物、44…シリンジ本体、46…ニードル、62…切込み、72…破断層。
図1
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