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特許7072837無材暗渠形成工法および無材暗渠形成用作業機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】無材暗渠形成工法および無材暗渠形成用作業機
(51)【国際特許分類】
   E02B 11/02 20060101AFI20220516BHJP
   A01B 13/08 20060101ALI20220516BHJP
   A01B 13/10 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
E02B11/02 Z
A01B13/08 Z
A01B13/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018008616
(22)【出願日】2018-01-23
(65)【公開番号】P2019127712
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】595134157
【氏名又は名称】株式会社ナラ工業
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100133260
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】奈良 利幸
(72)【発明者】
【氏名】奈良 幸則
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010369(JP,A)
【文献】特開平08-081947(JP,A)
【文献】特公昭48-033105(JP,B1)
【文献】特開平10-183590(JP,A)
【文献】特開2001-107346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 11/02
A01B 13/08
A01B 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に縦溝を形成するための縦溝形成部を備えたトレンチャーを用いて無材暗渠を形成する無材暗渠形成工法であって、
前記トレンチャーの後方における左右位置には、前記縦溝形成部によって形成された前記縦溝の右内側面における所定の高さ位置右方に掘削して通水溝を形成する右方掘削具と、前記縦溝形成部によって形成された前記縦溝の左内側面における所定の高さ位置左方に掘削して通水溝を形成する左方掘削具とが異なる高さ位置に固定されており、
作業機で前記トレンチャーを移動させることによって、前記縦溝形成部のバケットが前記圃場の土を掘削するとともに、掘削した土を放出することで前記縦溝を形成する縦溝形成工程と、
前記トレンチャーに追従する前記右方掘削具によって、前記縦溝の右内側面における所定の高さ位置を右方に掘削するとともに、前記トレンチャーに追従する前記左方掘削具によって、前記縦溝の左内側面における所定の高さ位置左方に掘削し、異なる深さ位置に上方通水溝および下方通水溝を形成する通水溝形成工程と、
前記縦溝に掘削土および/または疎水材を充填し無材暗渠を形成する無材暗渠形成工程と、
を有する、無材暗渠形成工法。
【請求項2】
前記右方掘削具および前記左方掘削具のそれぞれは、
刃先が後方に向けて内向きに傾斜され、前記各通水溝の上面を掘削する水平刃と、
前記水平刃の外端部から垂下されるとともに刃先が後方に向けて下向きに傾斜され、前記各通水溝の内側面を掘削する垂直刃と、
前記垂直刃の後方に設けられるとともに後方に向けて内向きに湾曲され、掘削された土を内側へ寄せる土寄せガイドと、
を有しており、
前記通水溝形成工程において、前記水平刃は前記各通水溝の上面を外側から内側に掘削し、前記垂直刃は前記各通水溝の内側面を上側から下側に掘削し、掘削した土を前記土寄せガイドが内側に寄せて前記各通水溝を形成する、請求項1に記載の無材暗渠形成工法。
【請求項3】
前記縦溝形成部は、犂底盤よりも深い位置に前記縦溝の底部を形成するとともに、前記右方掘削具または左方掘削具のいずれか一方は、犂底盤の深さ位置と同程度の深さ位置を掘削して前記上方通水溝を形成する、請求項1または請求項2に記載の無材暗渠形成工法。
【請求項4】
圃場に縦溝を形成するための縦溝形成部を備えたトレンチャーを用いて無材暗渠を形成する無材暗渠形成用作業機であって、
前記縦溝形成部は、前記圃場の土を掘削するとともに掘削した土を放出することによって前記縦溝を形成するバケットを有しており、
前記トレンチャーの後方における左右位置には、前記縦溝形成部によって形成された前記縦溝の右内側面における所定の高さ位置右方に掘削して通水溝を形成する右方掘削具と、前記縦溝形成部によって形成された前記縦溝の左内側面における所定の高さ位置左方に掘削して通水溝を形成する左方掘削具とが異なる高さ位置に固定されてなる、無材暗渠形成用作業機。
【請求項5】
前記右方掘削具および前記左方掘削具のそれぞれは、前記縦溝の右内側面および左内側面を掘削し、異なる深さ位置に上方通水溝および下方通水溝を形成するものであり、
刃先が後方に向けて内向きに傾斜され、前記各通水溝の上面を掘削する水平刃と、
前記水平刃の外端部から垂下されるとともに刃先が後方に向けて下向きに傾斜され、前記各通水溝の内側面を掘削する垂直刃と、
前記垂直刃の後方に設けられるとともに後方に向けて内向きに湾曲され、掘削された土を内側へ寄せる土寄せガイドと、
を有している、請求項4に記載の無材暗渠形成用作業機。
【請求項6】
前記縦溝形成部は、犂底盤よりも深い位置に前記縦溝の底部を形成するとともに、前記右方掘削具または左方掘削具のいずれか一方は、犂底盤の深さ位置と同程度の深さ位置を掘削して前記上方通水溝を形成する、請求項4または請求項5に記載の無材暗渠形成用作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水管等の資材を用いることなく暗渠を形成する無材暗渠形成工法および無材暗渠形成用作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場の地下には、暗渠排水管が埋設されており、圃場の余剰水を排出することで冷害や湿害を軽減するようになっている。また、近年では、土壌を掘削して余剰水を通水する通水孔を構築することにより、暗渠排水管等の資材を埋設することなく暗渠を形成する無材暗渠形成工法が提案されている。
【0003】
例えば、特開2015-10369号公報には、土壌を切断してL字状の切断細溝を形成するとともにこれを形成した上部方形土塊を所定の高さに持ち上げて、四角形の土塊持ち上げ空洞を成形する穿孔成形用土塊スライドと、前記土塊持ち上げ空洞の横において、当該空洞の大きさの下部方形土塊を切り出して土塊持ち上げ空洞内に寄せ、土塊持ち上げ空洞を塞ぐと共に下部方形土塊を切り出した元の位置に穿孔を構築する穿孔成形用土壌切断後刃部と、上部方形土塊の他方の側面となる切断細溝を形成する穿孔成形用土壌切断前刃部と、を備える穿孔成形作業機が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-10369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、穿孔成形用土塊スライドが上部方形土塊を上方に持ち上げながら移動することにより土塊持ち上げ空洞を成形する必要があるため、作業機にかかる負荷が非常に大きい。そのため、特に、堅密で粘性が高い土壌である、いわゆる重粘土では、地表からの深さ100cm前後に無材暗渠としての穿孔を構築しようとしても、作業機に過剰な牽引抵抗がかかり、施工が困難であるという問題がある。一方で、上記の重粘土では、透水性が著しく悪く、降雨のたびに余剰水が地表に停滞してしまうため、農業従事者からは余剰水を速やかに排出するための通水孔を構築したいとの強い要望がある。
【0006】
また、圃場の土層は、厚さ20~30cmの作土層と、耕具の影響が及ばない心土層とによって構成されている。そのため、地表からの深さ40cm前後の位置に無材暗渠を構築した場合には、作土層からの影響が大きく、無材暗渠の形状を長期に亘って維持できないという問題がある。さらに、作土層と心土層との間には、近年の作業機の大型化に伴い、機械踏圧等によって透水性の非常に悪い犂底盤(りていばん)と呼ばれる土層が形成されている場合が多く、構築した無材暗渠に蓋をしたような状態になるため余剰水を十分に排水しきれないという問題もある。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、堅密な土壌にも容易かつ迅速に、排水性と耐久性に優れた無材暗渠を形成することができる無材暗渠形成工法および無材暗渠形成用作業機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無材暗渠形成工法は、堅密な土壌にも容易かつ迅速に、排水性と耐久性に優れた無材暗渠を形成するという課題を解決するために、圃場に縦溝を形成するためのトレンチャーを用いて無材暗渠を形成する無材暗渠形成工法であって、前記トレンチャーの後方における左右位置には、前記縦溝の右内側面を掘削する右方掘削具と、前記縦溝の左内側面を掘削する左方掘削具とが異なる高さ位置に固定されており、作業機で前記トレンチャーを移動させることによって、前記圃場に前記縦溝を形成する縦溝形成工程と、前記トレンチャーに追従する前記右方掘削具および前記左方掘削具によって、前記縦溝の右内側面および左内側面を掘削し、異なる深さ位置に上方通水溝および下方通水溝を形成する通水溝形成工程と、前記縦溝に土および/または疎水材を充填し無材暗渠を形成する無材暗渠形成工程と、を有する。
【0009】
また、本発明の一態様として、施工性を向上させるとともに、各通水溝を容易に形成するという課題を解決するために、前記右方掘削具および前記左方掘削具のそれぞれは、刃先が後方に向けて内向きに傾斜され、前記各通水溝の上面を掘削する水平刃と、前記水平刃の外端部から垂下されるとともに刃先が後方に向けて下向きに傾斜され、前記各通水溝の内側面を掘削する垂直刃と、前記垂直刃の後方に設けられるとともに後方に向けて内向きに湾曲され、掘削された土を内側へ寄せる土寄せガイドと、を有しており、前記通水溝形成工程において、前記水平刃は前記各通水溝の上面を外側から内側に掘削し、前記垂直刃は前記各通水溝の内側面を上側から下側に掘削し、掘削した土を前記土寄せガイドが内側に寄せて前記各通水溝を形成してもよい。
【0010】
さらに、本発明の一態様として、無材暗渠に流入した余剰水を確実に排水するという課題を解決するために、前記トレンチャーは、圃場に設けられた発光器からのレーザー光を受光する受光器を有しており、前記縦溝形成工程において、前記発光器と前記受光器との間の勾配が一定を保持するように前記トレンチャーの上下位置を駆動制御してもよい。
【0011】
本発明に係る無材暗渠形成用作業機は、堅密な土壌にも容易かつ迅速に、排水性と耐久性に優れた無材暗渠を形成するという課題を解決するために、圃場に縦溝を形成するためのトレンチャーを用いて無材暗渠を形成する無材暗渠形成用作業機であって、前記トレンチャーの後方における左右位置には、前記縦溝の右内側面を掘削する右方掘削具と、前記縦溝の左内側面を掘削する左方掘削具とが異なる高さ位置に固定されてなる。
【0012】
また、本発明の一態様として、施工性を向上させるとともに、各通水溝を容易に形成するという課題を解決するために、前記右方掘削具および前記左方掘削具のそれぞれは、前記縦溝の右内側面および左内側面を掘削し、異なる深さ位置に上方通水溝および下方通水溝を形成するものであり、刃先が後方に向けて内向きに傾斜され、前記各通水溝の上面を掘削する水平刃と、前記水平刃の外端部から垂下されるとともに刃先が後方に向けて下向きに傾斜され、前記各通水溝の内側面を掘削する垂直刃と、前記垂直刃の後方に設けられるとともに後方に向けて内向きに湾曲され、掘削された土を内側へ寄せる土寄せガイドと、を有していてもよい。
【0013】
さらに、本発明の一態様として、無材暗渠に流入した余剰水を確実に排水するという課題を解決するために、前記トレンチャーは、圃場に設けられた発光器からのレーザー光を受光する受光器と、前記発光器と前記受光器との間の勾配が一定を保持するように前記トレンチャーの上下位置を駆動制御する制御手段と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、堅密な土壌にも容易かつ迅速に、排水性と耐久性に優れた無材暗渠を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る無材暗渠形成用作業機を示す全体図である。
図2】本実施形態における右方掘削具および左方掘削具が固定されたトレンチャーを示す背面図である。
図3】本実施形態における左方掘削具を示す平面図である。
図4】本実施形態における左方掘削具を示す右側面図である。
図5】本発明に係る無材暗渠形成工法における、(a)縦溝形成工程、(b)通水溝形成工程、および(c)無材暗渠形成工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る無材暗渠形成用作業機1の一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本発明において、無材暗渠10は、排水管等の資材を用いることなく、土壌の地下に設けられた通水孔である。
【0017】
本発明に係る無材暗渠形成用作業機1は、トレンチャー2を用いて無材暗渠10を形成するためのものである。本実施形態において、無材暗渠形成用作業機1は、図1に示すように、クローラトラクター等の作業機3と、当該作業機3の後方に連結されるトレンチャー2とによって構成されている。そして、作業機3を走行させることにより、トレンチャー2を移動させるようになっている。
【0018】
トレンチャー2は、圃場に縦溝8を形成するためのものである。本実施形態において、トレンチャー2は、図1および図2に示すように、縦溝8を形成する縦溝形成部5と、この縦溝形成部5の後方に設けられる整形板6と、この整形板6の左右位置に異なる高さ位置で固定される右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bと、前記縦溝形成部5によって掘削された土を縦溝8に埋め戻すための排土カバー7とによって構成されている。
【0019】
縦溝形成部5は、回動可能なチェーン51と、このチェーン51に取り付けられた複数の掘削用のバケット52とを有している。そして、図示しない駆動部によってチェーン51を回動させることで、バケット52が土を掘削するとともに、掘削した土を後方に放出するようになっている。なお、図1では、複数あるバケット52のうち一部を省略している。
【0020】
なお、前述した本実施形態における縦溝形成部5は、チェーン51に取り付けられた複数のバケット52を回動させることにより掘削するバケットチェーン式によって構成されているが、この構成に限定されるものではなく、例えば、ラダーチェーン式、ロータリー式、オーガー式によって構成されていてもよい。
【0021】
整形板6は、縦溝8の底面および内側面を浚って形状を整えるためのものであり、縦溝8の断面形状と同程度の大きさを有する板状のブレード61と、このブレードの高さ方向に沿って後方に突出する突出部62とを有している。そして、トレンチャー2の移動に伴って、ブレード61の外縁部が縦溝8の底面および内側面を摺動することによって、縦溝8の表面形状を整えるようになっている。また、整形板6の突出部62には、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bを取り付けるための掘削具固定孔63が上下方向に沿って複数形成されている。このように掘削具固定孔63が高さの異なる位置に多数設けられているため、右方掘削具4Aと左方掘削具4Bとをそれぞれ異なる任意の高さ位置に取り付けることが可能になっている。
【0022】
排土カバー7は、縦溝形成部5の掘削した土を縦溝8に埋め戻すためのものである。本実施形態において、排土カバー7は、図1に示すように、上端部を支点にして開閉可能な落下防止板71と、この落下防止板71を開閉させる油圧シリンダ72と、掘削土を貯留する掘削土貯留部73とを有している。そして、落下防止板71を上方へ開放した状態では、縦溝形成部5によって掘削された掘削土が後方へ落下し縦溝8に充填される。一方、落下防止板71を閉じた状態では、掘削土が後方へ落下することなく掘削土貯留部73に貯留されるようになっている。
【0023】
また、本実施形態のトレンチャー2は、圃場に設けられた発光器(図示せず)からのレーザー光を受光する受光器21を有している。そして、無材暗渠形成用作業機1には、縦溝8を形成する際、発光器と受光器21との間の勾配が一定を保持するように、当該トレンチャー2の上下位置を駆動制御する制御手段31が設けられている。本実施形態では、設定された勾配が一定を保持するように、制御手段31によってトレンチャー2の上下位置を自動で駆動制御するように構成されているが、これに限定されるものではなく、手動で駆動制御するように構成されていても構わない。
【0024】
右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bは、異なる深さ位置に各通水溝9(9A,9B)を形成するためのものである。本実施形態において、左方掘削具4Bは、移動方向に対して整形板6の左下端部に固定されており、縦溝8の左内側面を掘削して下方通水溝9Bを形成する。また、右方掘削具4Aは、移動方向に対して整形板6の右側の任意の高さ位置に固定されており、縦溝8の右内側面を掘削して上方通水溝9Aを形成する。
【0025】
なお、本実施形態において、右方掘削具4Aは、作土層と心土層との間に形成されている犂底盤の深さ位置(地表から約40cm)と同程度の深さ位置を掘削するように、高さ位置が調整されている。通水性の極めて悪い犂底盤に上方通水溝9Aを形成して通水性を改善するためである。なお、犂底盤の深さ位置は圃場の状態等によって異なるため、犂底盤の深さ位置に応じて右方掘削具4Aの高さ位置を適宜調整して使用するようになっている。
【0026】
また、本実施形態では、左方掘削具4Bが下方通水溝9Bを形成し、右方掘削具4Aが上方通水溝9Aを形成するように構成されているが、この構成に限られず、左方掘削具4Bが上方通水溝9Aを形成し、右方掘削部4Aが下方通水溝9Bを形成するように構成されていてもよい。この場合には、右方掘削具4Aが移動方向に対して整形板6の右下端部に固定され、左方掘削具4Bが移動方向に対して整形板6の左側の所定の高さ位置に固定されることとなる。なお、図3および図4には、左方掘削具4Bを示しているが、右方掘削具4Aは、左方掘削具4Bとは左右対称の形状を成している。
【0027】
本実施形態において、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bのそれぞれは、スウェーデン鋼等の剛性の高い金属部材によって構成されており、各通水溝9(9A,9B)の上面を掘削する水平刃41と、各通水溝9(9A,9B)の内側面を掘削する垂直刃42と、掘削された土を内側へ寄せる土寄せガイド43と、各掘削具4(4A,4B)を整形板6に固定するための固定部44とを有する。
【0028】
水平刃41は、各通水溝9(9A,9B)の上面を掘削するためのものである。本実施形態において、水平刃41は、複数の板状部材を略水平に重ね合わせて構成されており、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bのそれぞれの上面を形成している。そして、図3に示すように、刃先が後方に向けて内向きに傾斜されており、トレンチャー2の移動に伴って、各通水溝9(9A,9B)の上面を外側から内側に掘削するようになっている。また、外端部が移動方向に略平行であるとともに、内端部が固定部44に接合されている。
【0029】
垂直刃42は、各通水溝9(9A,9B)の内側面を掘削するためのものである。本実施形態において、垂直刃42は、前後方向に幅が略同一の板状部材によって構成されており、水平刃41の外端部から垂下されて、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bのそれぞれの略垂直な外側面を形成している。そして、図1に示すように、刃先が後方に向けて下向きに傾斜されており、トレンチャー2の移動に伴って、各通水溝9(9A,9B)の内側面を上側から下側に掘削するようになっている。
【0030】
土寄せガイド43は、掘削された土を縦溝8に寄せるためのものである。本実施形態において、土寄せガイド43は、垂直刃42の後方に設けられており、後方に向けて内向きに湾曲されている。そして、トレンチャー2の移動に伴って、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bのそれぞれによって掘削された土を湾曲部分に当接させることにより、掘削された土を当該湾曲部分に沿って内側に寄せるようになっている。
【0031】
固定部44は、各掘削具4(4A,4B)を整形板6に取り付けるためのものであり、整形板6を狭持するように二股形状に構成されており、当該固定部44に設けられた連結孔441と整形板6に設けられた掘削具固定孔63とを合わせて、ボルト等により固定されるようになっている。
【0032】
また、本実施形態において、垂直刃42および土寄せガイド43の下端部には、内方に突出され、各掘削具4(4A,4B)の垂直刃42および土寄せガイド43を補強する補強部45が設けられている。
【0033】
つぎに、本実施形態の無材暗渠形成用作業機1の作用および無材暗渠形成工法について説明する。本実施形態において、無材暗渠形成用作業機1は、作業機3で移動されることによって、図5に示すように、移動方向に沿って縦溝8を形成するとともに、当該縦溝8の左右の異なる深さ位置に上方通水溝9Aおよび下方通水溝9Bを形成した後に、縦溝8に土を充填するようになっている。
【0034】
まず、トレンチャー2の後方における左右位置に、右方掘削具4Aと左方掘削具4Bとが異なる高さ位置に固定される。これにより、無材暗渠形成用作業機1の左右にかかる牽引抵抗が均一化されて、スムーズな走行が可能となる。また、深さの異なる2本の無材暗渠10(10a,10b)を同時に形成することが可能となる。
【0035】
そして、圃場の所定の位置に発光器を設置して、用水路等の排水口である下流側から上流に向かって、作業機3を走行させることにより、トレンチャー2の移動を開始する。このとき、本実施形態では、落下防止板71を閉鎖させ、掘削土を掘削土貯留部73に貯留する。これにより、掘り始めの掘削土が用水路等に落下してしまうのが防止される。
【0036】
まず、トレンチャー2を移動させることによって、縦溝8を形成する(縦溝形成工程)。これにより、地表からの深さが100cm程度の縦溝8が形成されるため、堅密な土壌であっても右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bを容易に進入させることが可能となる。また、犂底盤よりも深い位置に縦溝8の底部が形成されるため、透水性の悪い犂底盤を破断することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、制御手段31により発光器と受光器21との間の勾配が一定になるように、トレンチャー2の上下位置が調整されているため、圃場に起伏があっても形成された無材暗渠10の勾配が一定となり、余剰水を無材暗渠10内に停滞させることなく、排水口まで速やかに流すことが可能となる。
【0038】
つぎに、トレンチャー2に追従する右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bによって、上方通水溝9Aおよび下方通水溝9Bを形成する(通水溝形成工程)。以下、通水溝形成工程について、詳細に説明する。
【0039】
まず、水平刃41が、各通水溝9(9A,9B)の上面を外側から内側に掘削することにより、各通水溝9(9A,9B)の上面を形成する。これと同時に、垂直刃42が、各通水溝9(9A,9B)の内側面を上側から下側に掘削することにより、各通水溝9(9A,9B)の内側面を形成する。このように、水平刃41および垂直刃42が移動方向に対して鋭角をなしているため、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bのそれぞれが前方から受ける反力を軽減させて容易に掘削することが可能となる。
【0040】
つぎに、土寄せガイド43が、水平刃41および垂直刃42によって掘削した土を内側に寄せる。これにより、右方掘削具4Aによって掘削した土は、縦溝8内に寄せられるのと同時に、図5の矢印に示すように、自重により縦溝8の底部に落下する。また、左方掘削具4Bによって掘削した土は、縦溝8内に寄せられて、そのまま縦溝8の底部に堆積する。この際、土を寄せるための空間としての縦溝8が形成されているため、掘削した土を縦溝8内に寄せるだけで、縦溝8の左右の異なる深さ位置に各通水溝9(9A,9B)を容易に形成することが可能になる。
【0041】
また、水平刃41は、複数の板状部材を重ね合わせて形成されて、剛性が補強されている。これにより、土壌から受ける圧力によって水平刃41が変形するのが抑制される。さらに、垂直刃42および土寄せガイド43の下端部は、内方に突出されている。これにより、土壌から受ける圧力によって、垂直刃42および土寄せガイド43が外側に変形するのが抑制される。また、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bのそれぞれは、下面全体が覆われていない。このため、過去に埋設された暗渠排水管や草木などが各掘削具に引っ掛かることがなく、スムーズな移動が可能となる。
【0042】
また、右方掘削具4Aおよび左方掘削具4Bのそれぞれが、トレンチャー2の後方における異なる高さ位置に固定されているため、土寄せガイド43によって寄せられた土が互いに衝突することがなく、縦溝8に閉塞した部分が形成されることがない。さらに、上方に配置された右方掘削具4Aが、犂底盤の深さ位置を掘削することにより、犂底盤を破断する面積を拡大させることが可能になる。
【0043】
掘削土が用水路等に落下しなくなる地点までトレンチャー2が移動すると、油圧シリンダ72を伸ばして落下防止板71を上方へ開放する。これにより、掘削土が直接後方へ落下して縦溝8を充填し、無材暗渠10を形成する(無材暗渠形成工程)。これにより、各通水溝9(9A,9B)の開口部が埋まり、上下2本の無材暗渠10(10a,10b)を形成することが可能となる。また、縦溝8に充填した掘削土は、一度砕かれているため間隙が大きく透水性が良好である。したがって、地表からの余剰水を無材暗渠10に速やかに流入させることが可能となる。さらに、上方の無材暗渠10aが堅い犂底盤に形成されるとともに、下方の無材暗渠10bが非常に深い位置に形成される。そのため、地表からの影響を受けにくく、長期間に亘って無材暗渠の断面形状を維持することが可能となる。
【0044】
以上のような本実施形態の無材暗渠形成工法および無材暗渠形成用作業機1によれば、以下の効果を奏する。
1.堅密な土壌にも容易かつ迅速に施工できる。特に堅い犂底盤を破壊することにより圃場の水はけを改善することができる。
2.上下に2本の無材暗渠が形成されるため、余剰水を速やかに排水できるし、地表から無材暗渠までを繋ぐ流路の透水性が良好であるため、余剰水が地表に停滞することがない。
3.左右にかかる牽引抵抗が均一であるため、安定した走行ができる。
4.右方掘削具および左方掘削具の構造が単純であり、変形もしにくい構造であって、無材暗渠の最適な断面形状を長期間にわたって維持できる。
【0045】
なお、本発明に係る無材暗渠形成工法および無材暗渠形成用作業機1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0046】
例えば、上述の実施形態において、無材暗渠形成工程は、縦溝形成部5によって放出された掘削土を排土カバー7が受け止めることによって、縦溝8に掘削土を充填して無材暗渠10を形成するようになっているが、各通水溝9(9A,9B)の開口部を塞いで無材暗渠10を形成することが可能な工程であれば、特に限定されるものではない。例えば、無材暗渠形成用作業機1の走行後に、ブルドーザー等を用いて縦溝8に土や疎水材を充填することにより、無材暗渠10を形成するようにしてもよい。この場合、土および疎水材を充填するようにしてもよいし、疎水材と土のいずれか一方を充填するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 無材暗渠形成用作業機
2 トレンチャー
3 作業機
4A 右方掘削具
4B 左方掘削具
5 縦溝形成部
6 整形板
7 排土カバー
8 縦溝
9A 上方通水溝
9B 下方通水溝
10(10a,10b) 無材暗渠
21 受光器
31 制御手段
41 水平刃
42 垂直刃
43 土寄せガイド
44 固定部
45 補強部
51 チェーン
52 バケット
61 ブレード
62 突出部
63 掘削具固定孔
71 落下防止板
72 油圧シリンダ
73 掘削土貯留部
441 連結孔
図1
図2
図3
図4
図5