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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】口唇用化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20220516BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20220516BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/37
A61Q1/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018066692
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178074
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】502439647
【氏名又は名称】株式会社ダリヤ
(72)【発明者】
【氏名】入合 健仁
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088602(JP,A)
【文献】特開2008-189618(JP,A)
【文献】大橋幸浩,ラノリン様特性を有する新規植物性油性基剤の開発と化粧品への応用,FRAGRANCE JOURNAL,2003年11月,page.55-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~成分(C)を含有し、成分(A)の含有量が10~25質量%であり、成分(B)の含有量が20~60質量%であり、成分(C)の含有量が20~60質量%であり、成分(B)と成分(C)の質量の含有比(B)/(C)が0.5~2.0であることを特徴とする口唇用化粧料。
成分(A)ヒマワリ種子ロウ
成分(B)ダイマー酸のエステルであり、融点が30℃以上、60℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上
成分(C)モノグリセリンまたはポリグリセリンのエステルであり、融点が30℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上
【請求項2】
成分(B)がダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)であることを特徴とする請求項1に記載の口唇用化粧料。
【請求項3】
成分(C)がトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2、(水添ロジン/ジイソステアリン酸)グリセリルより選択される1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の口唇用化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布中は滑らかな使用感であり、塗布後は口唇に被膜感があり、ツヤを抑えたマットな質感に仕上がり、しっとり感が持続する口唇用化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の黒髪ブームやナチュラルメイクの流行に伴い、従来よしとされてきたツヤがあり華やかに仕上がるメイク品よりも、マットな質感があり自然な風合いに仕上がるメイク品の市場が成長している。この傾向は、口紅やチーク等、肌に色をつける用途のアイテムだけではなく、リップクリーム等の口唇の保湿や保護を目的とした基礎化粧品にも波及している。これらは、引っかからず滑らかな使用感、口唇を保護するための被膜感、しっとり感の持続性が大いに求められる。
【0003】
一般的に、ツヤを付与し、塗布性や保湿性を向上させる化合物としては、シリコーン、炭化水素およびエステル等を代表とする液体やペーストの油剤が挙げられる。これらの含有量を少なく調整すれば仕上がりのツヤを抑えてマットな質感を付与できるが、同時に、滑らかな使用感、塗布後の被膜感およびしっとり感の持続性が乏しくなる。一方で、これらの含有量を多く調整すると、ツヤ、塗布性および保湿性を容易に向上させることができるが、マットな質感や自然な風合いは損なわれてしまう。よって、従来技術では、両者を十分に満足することは困難であった。
【0004】
以上の背景より、滑らかな使用感、被膜感、ツヤを抑えたマットな質感およびしっとり感の持続性を満足する化粧料の開発が切に望まれていた。
【0005】
特許文献1には、ヒマワリワックス、高級アルコールおよびエステルを含有することにより、剤形の成形性と使用感を両立した油性固形口唇化粧料が開示されている。
【0006】
特許文献2には、複数の油剤とワックスを含有することにより、使用感、ツヤ感、成形性および粉体の分散性を満足した固形リップグロスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-188191号公報
【文献】特開2006-151867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、塗布中は滑らかな使用感であり、塗布後は口唇に被膜感があり、ツヤを抑えたマットな質感に仕上がり、しっとり感が持続する口唇用化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
特許文献1に記載の技術は、剤形の成形性と使用感を両立できるものの、高級アルコールを大量に含有することが必須であるため、ツヤを抑えたマットな質感を得ることは困難である。また、塗布後の被膜感や、しっとり感の持続性に関しては検討されていない。
【0010】
特許文献2に記載の技術は、使用感、ツヤ感、成形性、および粉体の分散性を満足するものの、ツヤを抑えたマットな質感を得ることは困難である。また同様に、塗布後の被膜感や、しっとり感の持続性に関しては検討されていない。
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、成分(A)ヒマワリ種子ロウ、コメヌカロウ、キャンデリラロウおよびカルナウバロウより選択される1種以上、成分(B)ダイマー酸のエステルであり、融点が30℃以上、60℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上、成分(C)モノグリセリンまたはポリグリセリンのエステルであり、融点が30℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上を含有する口唇用化粧料を提供することによって、本発明に至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、塗布中は滑らかな使用感であり、塗布後は口唇に被膜感があり、ツヤを抑えたマットな質感に仕上がり、しっとり感が持続する口唇用化粧料を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、含有量を示す単位は、特に明記しない限り全て質量%である。また、本発明における融点は、医薬部外品原料規格2006 一般試験法 融点測定法 第2法に準じて測定した値を採用する。
【0014】
本発明は、次の成分(A)~成分(C)を含有し、成分(A)の含有量が1~40%であり、成分(B)の含有量が20~60%以上であり、成分(C)の含有量が20~60%以上であり、成分(B)と成分(C)の質量の含有比(B)/(C)が0.5~2.0であることを特徴とする、口唇用化粧料である。
成分(A)ヒマワリ種子ロウ、コメヌカロウ、キャンデリラロウおよびカルナウバロウより選択される1種以上
成分(B)ダイマー酸のエステルであり、融点が30℃以上、60℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上
成分(C)モノグリセリンまたはポリグリセリンのエステルであり、融点が30℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上
【0015】
本発明による口唇用化粧料には、成分(A)ヒマワリ種子ロウ、コメヌカロウ、キャンデリラロウおよびカルナウバロウより選択される1種以上(以下、成分(A)とする)を含有する。中でも塗布中の滑らかさの観点から、コメヌカロウが好ましく、ヒマワリ種子ロウがより好ましい。これらは1種以上を選択して含有されてもよい。
【0016】
本発明には、動物由来のワックスおよび石油由来のワックスは、硬い塗布感であり、滑らかに塗布することが困難であるため、好ましくない。
【0017】
本発明に用いる成分(A)の含有量は、塗布中の滑らかさの観点から、1~40%であり、5~30%がより好ましく、10~25%がさらに好ましい。成分(A)が1%未満の場合、当該化粧料の硬度が不足して過剰に塗布してしまい、滑らかに塗布することが困難である。また、成分(A)が40%を超える場合、当該化粧料の硬度が過剰になり、滑らかな塗布が困難である。
【0018】
本発明による口唇用化粧料には、成分(B)ダイマー酸のエステルであり、融点が30℃以上、60℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上(以下、成分(B)とする)を含有する。
【0019】
本発明に用いる成分(B)は脂肪酸の二量体を基本骨格とするエステルであれば、特に限定されるものではない。
【0020】
本発明に用いる成分(B)は、特に限定されないが、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)等が挙げられる。中でも塗布後の被膜感の観点から、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)が好ましい。これらは1種以上を選択して含有されてもよい。
【0021】
本発明に用いる成分(B)の代わりとして、脂肪酸の二量体を基本骨格としないエステル、植物由来の油剤および石油由来の油剤で、成分(B)と同じ範囲の融点を持つ成分を使用した場合、口唇への被膜感が乏しい。
【0022】
本発明に用いる成分(B)の含有量は、口唇への被膜感の観点から、20~60%が好ましく、30~60%がより好ましく、35~60%がさらに好ましい。成分(B)の含有量が20%未満の場合、口唇への被膜感が得にくい。また、成分(B)の含有量が60%を超えた場合、口唇への被膜感を向上させる見込みは薄い。
【0023】
本発明による口唇用化粧料には、成分(C)モノグリセリンまたはポリグリセリンのエステルであり、融点が30℃未満であることを特徴とする油剤より選択される1種以上(以下、成分(C)とする)を含有する。
【0024】
本発明に用いる成分(C)は、モノグリセリンまたはポリグリセリンを基本骨格とするエステルであれば、特に限定されるものではない。
【0025】
本発明に用いる成分(C)は、しっとり感の持続性の観点から、モノグリセリンまたはポリグリセリンの基本骨格におけるヒドロキシ基が1箇所エステル化されている成分が好ましく、ヒドロキシ基が2箇所エステル化されている成分がより好ましく、ヒドロキシ基が3箇所以上エステル化されている成分がさらに好ましい。
【0026】
本発明に用いる成分(C)のうち、モノグリセリンまたはポリグリセリンの基本骨格におけるヒドロキシ基が1箇所エステル化されている成分は、特に限定されないが、イソステアリン酸ポリグリセリル-2、(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等が挙げられる。中でもしっとり感の持続性の観点から、イソステアリン酸ポリグリセリル-2が好ましい。これらは1種以上を選択して含有されてもよい。
【0027】
本発明に用いる成分(C)のうち、モノグリセリンまたはポリグリセリンの基本骨格におけるヒドロキシ基が2箇所エステル化されている成分は、特に限定されないが、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2、ジ(ラウリン酸/ミリスチン酸)グリセリル等が挙げられる。中でもしっとり感の持続性の観点から、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-2が好ましい。これらは1種以上を選択して含有されてもよい。
【0028】
本発明に用いる成分(C)のうち、モノグリセリンまたはポリグリセリンの基本骨格におけるヒドロキシ基が3箇所以上エステル化されている成分は、特に限定されないが、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2、(水添ロジン/ジイソステアリン酸)グリセリル、トリ水添ロジン酸グリセリル、トリエチルヘキサノイン、テトライソステアリン酸ポリグリセリル-2、オクタカプリル酸ポリグリセリル-6等が挙げられる。中でも、しっとり感の持続性の観点から、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2、(水添ロジン/ジイソステアリン酸)グリセリルが好ましい。これらは1種以上を選択して含有されてもよい。
【0029】
本発明に用いる成分(C)の代わりとして、モノグリセリンまたはポリグリセリンを基本骨格としないエステル、植物由来の油剤および石油由来の油剤で、成分(C)と同じ範囲の融点を持つ成分を使用した場合、使用感がさっぱりとしており、しっとり感が持続しにくいため好ましくない。
【0030】
成分(C)の含有量は、20~60%が好ましく、30~60%がより好ましく、35~60%がさらに好ましい。成分(C)の含有量が20%未満の場合、しっとり感が持続しない。また、成分(C)の含有量が60%を超えた場合、さらにしっとり感の持続を向上させる見込みは薄い。
【0031】
本発明に用いる成分(B)と成分(C)の含有比(B)/(C)は、マットな質感に仕上げる観点から、0.5~2が好ましく、0.7~1.5がより好ましく、0.8~1.25がさらに好ましい。含有比(B)/(C)が0.5未満の場合、ツヤが出てマットな質感の仕上がりが損なわれる。また、含有比(B)/(C)が2を超えた場合、重すぎる印象の質感の仕上がりになる。
【0032】
本発明に用いる口唇用化粧料の剤形は、特に限定されるものではないが、固形またはペースト状である。本発明に用いる口唇用化粧料の剤形がペースト状である場合、粘度は特に限定されるものではないが、5,000mPa・s以上であることが好ましい。粘度が5,000mPa・s未満の場合、経時安定性を損なう恐れがある。
【0033】
本発明における粘度は、常法により調製した当該化粧料をサンプル瓶(食品140:第一硝子株式会社製)に120g充填し、25℃で24時間静置した後に、ヘリカルスタンド付B型粘度計(モデル:デジタル粘度計TVB-10M、東機産業株式会社製)により、M4号ローターを用いて25℃、12rpmで1分間回転させた後に測定したものである。
【0034】
本発明に用いる口唇用化粧料は、本発明の効果を奏していれば、その他、水、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、増粘剤、溶剤、保湿剤、ビタミン類、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、キレート剤、着色剤、香料等を含有することができ、これらは1種以上含有してもよい。
【実施例
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0036】
表1~6に示される評価試験において、成分および含有量を種々変更しながら口唇化粧料を常法により調製した。
【0037】
本明細書に示す各評価項目について、口唇部に素手にて塗布した直後に、塗布中の滑らかさ、塗布後の被膜感およびマットな質感に関して評価し、塗布完了時より1時間経過後に、しっとり感の持続性に関して評価を行った。
【0038】
(評価方法)
パネラー10名が口唇用化粧料を使用し、各項目に関して官能評価を行った。各人が項目毎に5点(非常に良好)、4点(より良好)、3点(良好)、2点(不良)、1点(非常に不良)の5段階で評価して全員の平均点を算出した後、下記判定基準に従って判定した。
【0039】
(平均点の判定基準)
4.0点以上 : 5
3.5点以上4.0点未満 : 4
3.0点以上3.5点未満 : 3
2.0点以上3.0点未満 : 2
2.0点未満 : 1
【0040】
(第1評価試験)
第1評価試験において、成分(A)の種類および含有量に関して口唇化粧料を評価した。表1および表2に、口唇化粧料の成分とその含有量および評価結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1および表2に示す実施例1~10より、塗布中の滑らかさ、塗布後の被膜感、マットな質感およびしっとり感の持続に関して良好な結果を得た。
【0044】
(第2評価試験)
第2評価試験において、成分(B)および成分(C)の種類に関して口唇化粧料を評価した。表3および表4に、口唇化粧料の成分とその含有量および評価結果を示す。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
表3および表4に示す実施例11~17より、塗布中の滑らかさ、塗布後の被膜感、マットな質感およびしっとり感の持続に関して良好な結果を得た。
【0048】
(第3評価試験)
第3評価試験において、成分(B)と成分(C)の含有比(B)/(C)および含有量に関して口唇化粧料を評価した。表5および表6に、口唇化粧料の成分とその含有量、および評価結果を示す。
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
表5および表6に示す実施例18~25より、塗布中の滑らかさ、塗布後の被膜感、マットな質感およびしっとり感の持続に関して良好な結果を得た。
【0052】
以下に口唇化粧料の実施例26を記載する。
【0053】
以下の実施例により得られた口唇化粧料は、塗布中の滑らかさ、塗布後の被膜感、マットな質感およびしっとり感の持続に関して良好な結果を得た。
【0054】
実施例26
成 分 含有量(%)
(A)ヒマワリ種子ロウ 8.0
(A)コメヌカロウ 8.0
(B)ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/
セチル/ステアリル/ベヘニル) 35.0
(C)トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル 14.0
(C)トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2 14.0
(C)(水添ロジン/ジイソステアリン酸)グリセリル 14.0
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 1.0
パルミチン酸デキストリン 1.0
水添ポリイソブテン 1.0
酸化チタン 1.0
シア脂 0.5
ホホバ種子油 0.5
ブチルパラベン 0.5
酢酸トコフェロール 0.5
β-カロチン 0.5
香料 0.5
合 計 100.0
【0055】
実施例26により得られた口唇化粧料は、塗布中の滑らかさ、塗布後の被膜感、マットな質感およびしっとり感の持続に関して良好な結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、塗布中は滑らかな使用感であり、塗布後は口唇に被膜感があり、ツヤを抑えたマットな質感に仕上がり、しっとり感が持続する口唇用化粧料を提供できる。