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特許7072899生体情報検知システム、および、生体情報検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】生体情報検知システム、および、生体情報検知方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20220516BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/113
A61B5/11 ZDM
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019512354
(86)(22)【出願日】2018-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2018000236
(87)【国際公開番号】W WO2018189970
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/014754
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519375446
【氏名又は名称】岸 孝彦
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】岸 孝彦
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04926868(US,A)
【文献】米国特許第4360810(US,A)
【文献】米国特許第4572197(US,A)
【文献】米国特許第4638808(US,A)
【文献】道下尚文,電波を遮蔽するEBG構造,通信ソサイエティマガジン,No.15,2010年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の生体情報を検知する生体情報検知システムであって、
前記生体の一方側に配置され、所定の偏波の電波を前記生体に照射する送信アンテナと、
前記生体の他方側に配置され、前記電波と直交する偏波以外の偏波を受信する特性よりも、前記電波が前記生体の体内を透過する過程で生じる偏波であり、かつ、前記電波と直交する偏波である透過波を受信する特性が強い受信アンテナと、
前記受信アンテナが受信した前記透過波に基づいて、前記生体情報を検知する検知部と、
を備える生体情報検知システム。
【請求項2】
前記送信アンテナおよび前記受信アンテナのうちの少なくとも何れか一方は、EBG構造を備えていることを特徴とする請求項1に記載の生体情報検知システム。
【請求項3】
前記送信アンテナと前記生体との間、かつ、前記生体の近傍に、前記送信アンテナと離間して配置されており、前記所定の偏波の電波以外の電波を除去する第1の偏波フィルタ、および、前記受信アンテナと前記生体との間、かつ、前記生体の近傍に、前記受信アンテナと離間して配置されており、前記所定の偏波の電波と直交する偏波以外の電波を除去する第2の偏波フィルタの少なくとも一方をさらに備える請求項1に記載の生体情報検知システム。
【請求項4】
前記第1の偏波フィルタ、および、前記第2の偏波フィルタの少なくとも一方は、前記生体を支える器具に設けられている請求項3に記載の生体情報検知システム。
【請求項5】
前記第1の偏波フィルタ、および、前記第2の偏波フィルタの少なくとも一方は、前記生体が着用する着衣、または、前記生体が用いる寝具に設けられている請求項3に記載の生体情報検知システム。
【請求項6】
生体の生体情報を検知する生体情報検知方法であって、
前記生体の一方側から、所定の偏波の電波を前記生体に照射する送信ステップと、
前記生体の他方側で、前記電波と直交する偏波以外の偏波の受信を抑制し、前記電波が前記生体の体内を透過する過程で生じる偏波であり、かつ、前記電波と直交する偏波である透過波を選択的に受信する受信ステップと、
前記受信ステップにおいて受信した透過波に基づいて、前記生体情報を検知する検知ステップと、
を含む生体情報検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の生体情報を検知する生体情報検知システム、および、生体情報検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体に照射されたマイクロ波などの電波を受信し、受信した電波に基づいて心拍などの生体情報を非侵襲で検知する技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、測定対象者の所定の部位に照射され、測定対象者の体内を透過したマイクロ波を受信し、受信したマイクロ波に対して位相検波、もしくは、振幅検波を行い、その結果に基づいて測定対象者の心拍を検出する心拍検知装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、生体に電磁波を照射する電磁波発振部と、生体の体表で反射する際に電磁波発振部で照射された電磁波に対して偏波面が90°回転した電磁波を受信する散乱電磁波受信部とを備え、散乱電磁波受信部が受信した電磁波から生体の生理学的指標を算出する生体情報検知システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-153783号公報
【文献】特開2014-90877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の従来技術では、受信したマイクロ波に、測定対象者の体内を透過した透過波だけでなく、体外で回折して到達した回折波、および、体の表面に沿って伝搬した表面波(以降、このような表面波を体表波と呼ぶ。)が含まれており、透過波、回折波、および、体表波が互いに干渉するため、心拍の検出を安定して行うことが難しい場合があった。
【0007】
具体的には、体動により変動はしても生体情報を含むことはない回折波が受信されると、透過波に含まれる生体情報は回折波の強度に応じて抑圧される。そのため、回折波の強度が大きくなるほど生体情報の検知が難しくなり、体動しか検知できなくなる。
【0008】
また、上述した体表波は、体表に大きく表れる体動および呼吸により変動を受ける。例えば、透過波を用いて心拍を検知する際に呼吸により変動を受けた体表波の成分である呼吸波が受信されると、呼吸波と透過波とが干渉するだけでなく、呼吸波の高調波による透過波への干渉も生じ得る。このような体動および呼吸の影響は、体表波の強度が大きくなるほど大きくなり、心拍の検知を安定して行うことが難しくなる。
【0009】
また、上述した特許文献2の従来技術では、散乱電磁波受信部は、生体の体表で反射した反射波を受信するため、体表に表れる体動を検知することはできても、心拍などの生体情報を検知することは困難であった。また、電磁波を体内に照射したとしても、体内で反射する反射波の強度よりも体表で反射する反射波の強度の方が大きく、さらに、これらの反射波は互いに干渉するため、体内で反射する反射波から生体情報を検知することは困難であった。
【0010】
本発明の目的は、心拍、呼吸、脈波などの生体情報を安定して検出することを可能とする生体情報検知システム、および、生体情報検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる生体情報検知システムは、生体の生体情報を検知する生体情報検知システムであって、上記生体の一方側に配置され、所定の偏波の電波を生体に照射する送信アンテナと、上記生体の他方側に配置され、上記電波と直交する偏波以外の偏波を受信する特性よりも、上記電波が上記生体の体内を透過する過程で生じる偏波であり、かつ、上記電波と直交する偏波である透過波を受信する特性が強い受信アンテナと、受信アンテナが受信した上記透過波に基づいて、生体情報を検知する検知部と、を備える。
【0012】
また、本発明にかかる生体情報検知方法は、生体の生体情報を検知する生体情報検知方法であって、所定の偏波の電波を上記生体の一方側から生体に照射する送信ステップと、上記生体の他方側で、上記電波と直交する偏波以外の偏波の受信を抑制し、上記電波が上記生体の体内を透過する過程で生じる偏波であり、かつ、上記電波と直交する偏波である透過波を選択的に受信する受信ステップと、受信ステップにおいて受信した上記透過波に基づいて、生体情報を検知する検知ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、心拍、呼吸、脈波などの生体情報を安定して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る生体情報検知システムの構成の一例を示す図
図2】本発明における生体情報検知の概要について説明する図
図3】送信アンテナから放射されたマイクロ波の受信アンテナにおける受信状態を説明する図
図4】第1の偏波フィルタ、および、第2の偏波フィルタについて説明する図
図5】第1の偏波フィルタが設けられたエプロンを示す図
図6】第2の偏波フィルタが設けられた椅子の一例を示す図
図7】第1の偏波フィルタが設けられたベッドと第2の偏波フィルタが設けられた布団の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
以下では、生体情報検知システムにより生体情報が検知される生体が人であり、検知される生体情報が心拍である場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、人以外の生体や、脈波や呼吸などの他の生体情報の検知にも広く適用できる。
【0017】
なお、心拍とは、心臓の拍動のことである。また、脈波とは、心臓の拍動に伴って生じる血管の容積変化や血圧変化を示す波形である。心拍の検知では、心臓の拍動が検知され、脈波の検知では、血管の容積変化や血圧変化が検知される。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る生体情報検知システム10の構成の一例を示す図である。図1に示すように、この生体情報検知システム10は、送信アンテナ11、送信部13および制御部16を有する送信装置10aと、受信アンテナ12、受信部14、信号処理部15および判定部17を有する受信装置10bを備える。
【0019】
送信アンテナ11は、所定の偏波のマイクロ波を人に照射するアンテナである。所定の偏波とは、例えば、右旋円偏波、または、左旋回円偏波である。あるいは、水平偏波などの直線偏波であってもよい。また、ここでは、送信アンテナ11が放射する電波をマイクロ波としたが、これに限定されず、他の波長の電波であってもよい。
【0020】
以下では、マイクロ波の伝搬方向などの説明を理解しやすくするため、互いに直交するx軸、y軸、z軸からなる3次元空間の直交座標系を用いる。ここで、送信アンテナ11がマイクロ波を最も強く放射する方向をz軸の正の方向とする。
【0021】
送信アンテナ11は、例えば、マイクロストリップアンテナなどの平面アンテナである。送信アンテナ11が平面アンテナである場合、送信アンテナ11は、基板面に垂直に交わる方向に最大の放射強度を有する。
【0022】
特に、送信アンテナ11を人に隣接させて設置する場合は、送信アンテナ11は、薄型の平面アンテナであることが好ましい。この場合、送信アンテナ11の基板面を人に平行にすれば、椅子の背もたれ部などの設置スペースの制約ある箇所にも容易に送信アンテナ11を設置することができるからである。
【0023】
送信アンテナ11は、z軸の負の方向(マイクロ波が放射される方向と反対の方向)並びにx軸方向またはy軸方向への電波の放射を防止する電波放射防止構造を備える。
【0024】
電波放射防止構造は、例えば、EBG(Electromagnetic Band Gap)構造である。EBG構造とは、電波の波長よりも小さい単位構造を周期的に配列した構造である。EBG構造は、例えば、誘電体基板の表面に、矩形の金属電極を周期的に配列するとともに、誘電体基板の裏側に金属膜を形成し、金属電極と金属膜とを短絡ピンにて接続した構造である。これは、マッシュルーム構造のEBGとして知られている。
【0025】
このような構造のEBGは、その表面における特定の周波数帯域の電波の伝搬を抑制する特性を持つ。したがって、送信アンテナ11の周囲に該送信アンテナ11と同じ共振周波数のEBG構造を配置した場合、該EBG構造は、x軸方向またはy軸方向に向かって放射されるマイクロ波を減衰させることができる。
【0026】
なお、EBG構造は、該構造の表面を伝搬して端部で回折したマイクロ波が、z軸の負の方向へと放射されることを抑制することもできる。換言すれば、本発明の実施の形態に係る送信アンテナ11は、従来のアンテナと比べ、指向性が改善される。
【0027】
送信アンテナ11が円偏波のマイクロ波を放射する場合、円偏波の軸比は、z軸の正の方向が最も良く、x軸またはy軸方向に向かうにつれて劣化する。EBG構造は、この軸比が劣化した領域の円偏波のマイクロ波を減衰させることができる。そのため、送信アンテナ11は、受信アンテナ12に向けて目的とする偏波のマイクロ波を効率的に送信することができる。
【0028】
なお、EBG構造は、送信アンテナ11から放射されるマイクロ波のx軸およびy軸方向並びにz軸の負の方向への放射を減衰させることができれば、送信アンテナ11のどの位置に配置されていてもよい。
【0029】
また、送信アンテナ11は、マイクロストリップアンテナに限られず、他のアンテナを用いてもよい。例えば、送信アンテナ11として、ヘリカルアンテナを用いてもよい。この場合、送信アンテナ11は、軸比特性の優れたマイクロ波を送信することができる。
【0030】
送信部13は、送信アンテナ11を介して、マイクロ波を送信する装置である。制御部16は、送信部13を制御してマイクロ波を送信させる装置である。制御部16は、送信部13が送信するマイクロ波の周波数の設定などを行う。なお、制御部16を設けることは必須ではなく、送信部13が既定のマイクロ波を送信するようにしてもよい。
【0031】
受信アンテナ12は、人の体内における反射により、上記マイクロ波と直交する偏波となったマイクロ波を受信するアンテナである。例えば、所定の偏波が、右旋円偏波である場合、受信アンテナ12は、右旋円偏波のマイクロ波と直交する偏波である左旋円偏波のマイクロ波を受信する。
【0032】
受信アンテナ12は、例えば、マイクロストリップアンテナなどの平面アンテナである。
【0033】
特に、受信アンテナ12を人の近くに設置する場合は、受信アンテナ12は、薄型の平面アンテナであることが好ましい。受信アンテナ12の基板面を人に平行にすれば、設置スペースの制約ある箇所にも容易に設置することができるからである。
【0034】
受信アンテナ12は、送信アンテナ11と同様、上記電波放射防止構造を備える。そのため、受信アンテナ12は、従来のアンテナと比べて、指向性が改善される。
【0035】
さらに、受信アンテナ12が円偏波のマイクロ波を受信する場合、受信アンテナ12の電波放射防止構造は、軸比が劣化している領域において、目的としない偏波のマイクロ波の受信を抑制することができる。そのため、受信アンテナ12は、目的とする偏波のマイクロ波を効率的に受信することができる。
【0036】
なお、受信アンテナ12は、マイクロストリップアンテナに限られず、他のアンテナであってもよい。
【0037】
受信部14は、受信アンテナ12を介して、マイクロ波を受信する装置である。受信部14は、受信アンテナ12が受信するマイクロ波の周波数の設定などを行う。なお、受信装置10bに制御部を設け、制御部が、受信部14が受信するマイクロ波の周波数の設定などを行ってもよい。
【0038】
信号処理部15は、受信部14が受信したマイクロ波のアナログ波形から心拍情報の抽出処理を行うことにより、人の心拍を検知する検知部である。なお、マイクロ波を人に照射して心拍を検知する技術は公知であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0039】
判定部17は、信号処理部15が検知した心拍に基づいて各種判定を行う処理部である。判定部17は、例えば、心拍数が予め定められたしきい値を超えているか、あるいは、下回っているかを判定する。
【0040】
ここで、図2を参照して、本発明における生体情報検知の概要について説明する。図2は、本発明における生体情報検知の概要について説明する図である。
【0041】
送信アンテナ11は、人20の一方側に配置される。一方側とは、例えば、人20の正面側である。また、受信アンテナ12は、人20の他方側に配置される。他方側とは、例えば、人20の背面側である。すなわち、受信アンテナ12は、人20を挟んで、送信アンテナ11と対向する位置に設けられる。
【0042】
図2に示すように、受信アンテナ12まで到達する主なマイクロ波は、人20の体外を回り込んで反対側に到達する回折波30と、人20の体の表面を伝搬する体表波31と、人20の体内を透過した透過波32である。
【0043】
例えば、右旋円偏波のマイクロ波が人20に照射されると、人20の体内の誘電率に差がある器官20aの境界面で反射が生じる。そして、器官20aの内部を透過した透過波32は、体内における反射により、送信アンテナ11が放射したマイクロ波と直交する左旋円偏波となりやすい。
【0044】
これに対して、回折波30および体表波31は、送信アンテナ11が放射した右旋円偏波のマイクロ波と直交する左旋円偏波にはならない。生体周辺のものに反射することにより、送信アンテナ11が放射した右旋円偏波のマイクロ波が、これに直交する左旋円偏波となることはあるが、頻度と強度は周辺設置物の状況による。また、周辺での反射により信号レベルは弱くなる。
【0045】
一般に、所定の偏波のマイクロ波を受信するためには同じ偏波のマイクロ波を受信するアンテナを用いる。しかし、本発明では、受信アンテナ12を、送信アンテナ11が放射したマイクロ波と直交する偏波のマイクロ波を受信するアンテナとすることにより、回折波30、および、体表波31の受信を抑制しつつ、生体情報を反映する透過波32の受信を選択的に行うことができるようになる。
【0046】
その結果、回折波30や体表波31と透過波32とが互いに干渉することを抑制でき、心拍、呼吸、脈波などの生体情報を安定して検出することができる。
【0047】
また、上述したように、送信アンテナ11は、EBG構造によって従来のアンテナと比べて指向性が改善されるため、回折波30や体表波31の発生を低減することができる。このため、受信アンテナ12は、人20の体内を透過した透過波32を安定して受信することができる。
【0048】
換言すれば、送信アンテナ11は、回折波30および体表波31に対する透過波32の強度を大きくすることができる。このため、信号処理部15は受信部14が受信したアナログ信号から生体情報を安定して抽出することができる。
【0049】
また、透過波32に対する回折波30や体表波31の強度は相対的に小さくなるため、回折波30や体表波31が、送信アンテナ11から放射されたマイクロ波と直交する偏波となった場合であっても、これらのマイクロ波の透過波32に対する影響を小さくすることができる。
【0050】
また、上述したように、受信アンテナ12は、従来と比べて指向性が改善されるため、回折波30や体表波31の受信を抑制することができる。このため、受信アンテナ12は、人20の体内を透過した透過波32を安定して受信することができる。
【0051】
すなわち、本発明の生体情報検知システム10は、生体情報を含まない回折波30および体表波31の強度に対する透過波32の強度(D/U比)を大きくして、生体情報を安定的に検知することができる。
【0052】
上述した実施の形態では、人20の正面側に送信アンテナ11を配置し、人20の背面側に受信アンテナ12を配置したが、このような構成に限られるものではない。例えば、人20の背面側に送信アンテナ11を配置し、人20の正面側に受信アンテナ12を配置してもよい。
【0053】
また、本発明の生体情報検知システム10では、電波法の微弱無線規格等に適合した微弱な電波を利用してもよい。
【0054】
生体情報検知システム10において、例えば、電波法上の微弱電波として扱えない電波を利用する場合は、特定の免許が必要とされ、免許を取得するための費用がかかる。
【0055】
また、特定の免許を必要としない特定小電力無線を利用する場合であっても、技術基準適合証明を取得する必要がある。この場合は、無線通信機能などをシステムに実装する必要があり、機能追加のためのコストがかかる。
【0056】
したがって、電波法上の微弱無線規格に合わせた微弱な電波を用いれば、これらのコストの上昇を抑制することができる。
【0057】
ただし、一般に、送信アンテナ11が微弱な電波を放射する場合、受信アンテナ12は、送信アンテナ11が放射した電波を精度よく受信することが困難になる。また、受信アンテナ12が受信する電波に対するノイズの影響も大きくなる。
【0058】
そのため、本発明では、送信アンテナ11が微弱な電波を放射する場合、受信アンテナ12には、例えば、平面ヘリカルアンテナなどの高利得で、かつ、指向性の鋭いアンテナを用いる。平面ヘリカルアンテナは、巻き数を増加させれば、さらに指向性を鋭くすることができる。
【0059】
また、送信アンテナ11が微弱な電波を放射する場合、送信アンテナ11は、人20に接するか、あるいは、可能な限り人20に近づけて配置されるのが好ましい。このようにすれば、回折波30や体表波31の発生を低減することができる。その結果、受信アンテナ12は、人20の体内を透過した透過波32を安定して受信することができる。
【0060】
なお、送信アンテナ11が放射する電波を微弱な電波とした場合、生体情報検知システム10は、人20に対する電波の暴露量を低減することができるという副次的な効果をもたらすことができる。
【0061】
また、本発明の生体情報検知システム10は、車両を運転中のドライバの異常検知などに用いることができる。例えば、車両のインストルメントパネル部に送信アンテナ11を設置し、運転席の着座シートの背もたれ部に受信アンテナ12を設置することで、運転中のドライバの生体情報を逐次検知することが可能になる。
【0062】
この場合、送信アンテナ11には、アンテナの基板面に平行な方向に指向性を有する平面ヘリカルアンテナなどの平面アンテナを採用し、基板面が人20に対して垂直になるように配置する。これにより、送信アンテナ11をインストルメントパネル部に目立たないように設置することができる。
【0063】
また、受信アンテナ12には、基板面に垂直に交わる方向に指向性を有する平面アンテナを採用し、基板面を人20に平行にすれば、受信アンテナ12を着座シートの背もたれ部に容易に収納することができる。
【0064】
本発明の生体情報検知システム10は、さらに、PC(Personal Computer)を操作中の人20の生体情報の検知にも適用することができる。例えば、キーボードの前に送信アンテナ11を設置し、椅子の背もたれ部に受信アンテナ12を設置することで、PCを操作中の人20の生体情報を逐次検知することが可能になる。
【0065】
この場合、送信アンテナ11に厚みがあると、設置スペースの制約から送信アンテナ11の設置が困難になる場合や、人20がキーボードのデザインなどに違和感を覚える場合がある。そのため、この場合、送信アンテナ11は、平面ヘリカルアンテナなどの平面アンテナを採用する。また、送信アンテナ11の指向性は、当該アンテナの一端面方向となる。
【0066】
また、受信アンテナ12に、基板面に垂直に交わる方向に指向性を有する平面アンテナを採用し、基板面を人20に平行にすれば、受信アンテナ12を椅子の背もたれ部に容易に収納することができる。
【0067】
図3は、送信アンテナ11から放射されるマイクロ波の受信アンテナ12における受信状態を説明する図である。図3中、「○」は、受信アンテナ12におけるマイクロ波の受信状態が安定していること示している。また、「△」は、受信アンテナ12におけるマイクロ波の受信状態が不安定であることを示している。また、「×」は、受信アンテナ12におけるマイクロ波の受信が不可、すなわち、受信アンテナ12は、マイクロ波を受信しないこと示している。
【0068】
送信アンテナ11が水平偏波のマイクロ波を照射する場合であって受信アンテナ12が水平偏波のマイクロ波を受信する特性を備えている場合、受信アンテナ12における透過波32、表面波21および回折波30の受信状態は安定している。
【0069】
送信アンテナ11が水平偏波のマイクロ波を照射する場合であって受信アンテナ12が垂直偏波のマイクロ波を受信する特性を備えている場合、受信アンテナ12における透過波32の受信状態は安定している。一方、受信アンテナ12は、表面波21および回折波30を受信しない。
【0070】
送信アンテナ11が水平偏波のマイクロ波を照射する場合であって受信アンテナ12が右旋円偏波のマイクロ波を受信する特性を備えている場合、受信アンテナ12における透過波32、表面波21および回折波30の受信状態は不安定である。
【0071】
送信アンテナ11が水平偏波のマイクロ波を照射する場合であって受信アンテナ12が左旋円偏波のマイクロ波を受信する特性を備えている場合、受信アンテナ12における透過波32、表面波21および回折波30の受信状態は不安定である。
【0072】
すなわち、図3は、送信アンテナ11が水平偏波のマイクロ波を照射する場合、垂直偏波のマイクロ波を受信する特性を備えた受信アンテナ12を用いれば、透過波32のみを安定して受信することが可能であることを示している。
【0073】
同様に、図3は、送信アンテナ11が垂直偏波のマイクロ波を照射する場合、水平偏波のマイクロ波を受信する特性を備えた受信アンテナ12を用いれば、透過波32のみを安定して受信することが可能であることを示している。
【0074】
同様に、図3は、送信アンテナ11が右旋円偏波のマイクロ波を照射する場合、左旋円偏波のマイクロ波を受信する特性を備えた受信アンテナ12を用いれば、透過波32のみを安定して受信することが可能であることを示している。
【0075】
同様に、図3は、送信アンテナ11が左旋円偏波のマイクロ波を照射する場合、右旋円偏波のマイクロ波を受信する特性を備えた受信アンテナ12を用いれば、透過波32のみを安定して受信することが可能であることを示している。
【0076】
換言すれば、図3は、送信アンテナ11から人20に向けて照射された偏波のマイクロ波は、人20の体内において、照射されたマイクロ波に直交する成分を有する偏波となることを示している。
【0077】
これは、上述したように、体内における誘電率に差がある器官20aの境界面でマイクロ波の反射または回折が繰り返されると、反射または回折したマイクロ波は、体内に入射した所定の偏波と直交する成分を有する偏波のマイクロ波となるとためであると考えられる。
【0078】
このような知見に基づいて、本発明では、受信アンテナ12として、人20に向けて照射された偏波と直交する偏波となったマイクロ波を受信するアンテナを用いている。
【0079】
なお、図1に示した生体情報検知システム10は、さらに第1の偏波フィルタ40、および、第2の偏波フィルタ41の少なくとも一方をさらに備えることとしてもよい。
【0080】
図4は、第1の偏波フィルタ40、および、第2の偏波フィルタ41について説明する図である。
【0081】
図4に示すように、第1の偏波フィルタ40とは、送信アンテナ11が人20の近傍に設けられていない場合に、送信アンテナ11と人20との間に配置され、送信アンテナ11が送信する水平偏波のマイクロ波以外のマイクロ波を除去する偏波フィルタである。
【0082】
第1の偏波フィルタ40を設けることにより、生体内に水平偏波のマイクロ波以外のマイクロ波が照射されることを防止できる。その結果、受信アンテナ12で受信される透過波32の偏波状態が不安定になることを抑制でき、心拍などの生体情報の安定した検出が実現できる。
【0083】
第2の偏波フィルタ41とは、受信アンテナ12が人20の近傍に設けられていない場合に、人20と受信アンテナ12との間に配置され、人20の体内における反射により送信アンテナ11が送信する水平偏波のマイクロ波と直交する偏波となった透過波32以外のマイクロ波を除去する偏波フィルタである。
【0084】
受信アンテナ12を人20から離して設置すると、人20の体内を透過する際に水平偏波のマイクロ波と直交する偏波とならなかった透過波32、回折波30、または、体表波31が、人20と受信アンテナ12との間にある物体の影響で水平偏波のマイクロ波と直交する偏波となる可能性がある。
【0085】
この場合、人20の体内における反射により水平偏波のマイクロ波と直交する偏波となった透過波32と、人20と受信アンテナ12との間にある物体の影響で水平偏波のマイクロ波と直交する偏波となった透過波32、回折波30、または、体表波31とが干渉し、受信状態が不安定になる可能性がある。
【0086】
そのため、第2の偏波フィルタ41を設け、人20の近傍で水平偏波のマイクロ波と直交する偏波の透過波32以外のマイクロ波を除去し、目的とする偏波の透過波32のみを通過させる。
【0087】
これにより、送信アンテナ11により送信されたマイクロ波が、人20と受信アンテナ12との間で複数回反射するなどして水平偏波のマイクロ波と直交する偏波となるような場合を除き、受信アンテナ12で受信される透過波32の偏波状態が不安定になることを抑制できる。すなわち、人20の体内における反射により水平偏波のマイクロ波と直交する偏波となった透過波32により心拍などの生体情報の安定した検出が実現できる。
【0088】
ここで、送信アンテナ11、または、受信アンテナ12を人20から離して設置する理由の1つとして、送信アンテナ11、および、受信アンテナ12が人体に近い位置に設けられると送信アンテナ11、および、受信アンテナ12の特性が変化してしまうことが挙げられる。
【0089】
送信アンテナ11、または、受信アンテナ12を人20から離して設置する場合であっても、本実施の形態に係る生体情報検知システム10では、第1の偏波フィルタ40、または、第2の偏波フィルタ41を設けることにより安定した生体情報の検出が実現できる。
【0090】
その結果、送信アンテナ11、および、受信アンテナ12の配置の自由度を高めることができる。
【0091】
なお、第1の偏波フィルタ40、および、第2の偏波フィルタ41の少なくとも一方は、人20が着用するエプロンなどの着衣に設けられることとしてもよい。
【0092】
図5は、第1の偏波フィルタ40が設けられたエプロン50を示す図である。図5に示すエプロン50を人20が着用し、人20が送信アンテナ11のある方向を向くことにより、送信アンテナ11から放射されたマイクロ波が第1の偏波フィルタ40を介して人20の体内を透過する一方で、送信アンテナ11が送信する水平偏波のマイクロ波以外のマイクロ波を除去することができる。
【0093】
なお、人20が着用する着衣の背中側に第2の偏波フィルタ41を設けることとしてもよい。これにより、送信アンテナ11が送信する水平偏波のマイクロ波と直交する垂直偏波のマイクロ波以外のマイクロ波を除去することができる。
【0094】
また、人20が着用する着衣の腹部側に第1の偏波フィルタ40を設け、背中側に第2の偏波フィルタ41を設けることとしてもよい。
【0095】
これにより、第1の偏波フィルタ40、および、第2の偏波フィルタ41をそれらの機能を発揮する状態で容易に配置することができる。
【0096】
また、第1の偏波フィルタ40、および、第2の偏波フィルタ41の少なくとも一方は、人20を支える椅子やベッドなどの器具に設けられることとしてもよい。
【0097】
図6は、第2の偏波フィルタ41が設けられた椅子60の一例を示す図である。図6に示す椅子60に人20が座ることにより、送信アンテナ11から放射され、人20の体内を透過したマイクロ波が第2の偏波フィルタ41を通過する。その結果、人20が椅子60に座った状態で、安定した生体情報の検出を実現することができる。
【0098】
また、図7は、第1の偏波フィルタ40が設けられたベッド70と第2の偏波フィルタ41が設けられた布団71の一例を示す図である。
【0099】
図7に示されていないが、この場合、送信アンテナ11がベッド70の下側(例えば、床など)に設けられ、受信アンテナ12が布団71の上側(例えば、部屋の天井など)に設けられる。
【0100】
この場合も同様に、第1の偏波フィルタ40、および、第2の偏波フィルタ41をそれらの機能を発揮する状態で容易に配置することができる。特に、図7の場合には、寝たきりの状態にある人20であっても、その人20の生体情報を容易に検知することができる。
【0101】
なお、第1の偏波フィルタ40を布団71に設け、第2の偏波フィルタ41をベッド70に設け、送信アンテナ11を布団71の上側に設け、受信アンテナ12をベッド70の下側に設けて、人20の生体情報を検知することとしてもよい。
【0102】
2017年4月11日出願のPCT/JP2017/014754の国際出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、生体の生体情報を検知する生体情報検知システムに用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0104】
10 生体情報検知システム
10a 送信装置
10b 受信装置
11 送信アンテナ
12 受信アンテナ
13 送信部
14 受信部
15 信号処理部
16 制御部
17 判定部
20 人
20a 器官
30 回折波
31 体表波
32 透過波
40 第1の偏波フィルタ
41 第2の偏波フィルタ
50 エプロン
60 椅子
70 ベッド
71 布団
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7