(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C03B 19/08 20060101AFI20220516BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20220516BHJP
C03C 11/00 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C03B19/08 E
B09B3/00 303A
C03C11/00
(21)【出願番号】P 2019545055
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035004
(87)【国際公開番号】W WO2019065489
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017186944
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510040363
【氏名又は名称】株式会社鳥取再資源化研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】中野 惠文
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘樹
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506535(JP,A)
【文献】特開2012-106876(JP,A)
【文献】特開2005-132714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B19/08
B09B3/40
C03C11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールガラスをガラス粉に粉砕すること;
ガラス粉と、SiC、CaCO
3及び貝殻から選択される少なくとも1種の発泡剤と、Fe
2O
3とCaSO
4との組み合わせを含むか、Al
2(SO
4)
3を含む抑制剤とを混合して、混合物を製造すること;及び、
混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させて、発泡ガラスを製造すること
を含む、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法。
【請求項8】
アンチモンを含むガラスを破砕し、ガラス粉を製造すること;
ガラス粉と、SiC、CaCO
3及び貝殻から選択される少なくとも1種の発泡剤と、Fe
2O
3とCaSO
4との組み合わせを含むか、Al
2(SO
4)
3を含む抑制剤を混合して、混合物を得ること;及び
混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させること
を含む、発泡ガラスの製造方法。
【請求項9】
ガラス粉の100g当たり、0.1~15gの発泡剤を加え、
ガラス粉の100g当たり、0.1~25gの抑制剤を加える、請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
アンチモンを含む発泡ガラスであって、
水へのアンチモンの溶出量は、5ppm未満であり、
発泡ガラスの細孔内に、Fe
2O
3とCaSO
4との組み合わせを含むか、Al
2(SO
4)
3を含む抑制剤が存在する、発泡ガラス。
【請求項15】
アンチモンを含む発泡ガラスのアンチモンの含有量は、5~5000ppmである、請求項13又は14に記載の発泡ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法に関し、更に、太陽光発電所を構成する太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電は、2011年3月の東日本大震災の津波による福島第一原子力発電所事故を考慮した再生可能エネルギーへの転換及び2012年7月から開始された再生可能エネルギーの固定価格全量買取制度等から注目され、太陽光発電所は、個人住宅の屋根等の小規模発電所から、メガソーラー等の大規模な発電所まで、その設置が活発化している。
【0003】
一方、太陽光発電所を構成する太陽電池モジュールは、経年劣化するので、太陽電池モジュールの廃棄が問題になりつつある。太陽電池モジュールは種々の部品で構成されており、廃棄太陽電池モジュールを各部品に分離する技術及び分離された各部品をリサイクルする技術開発が求められる。
【0004】
そのような部品の中で、ガラスは太陽電池モジュールの約70~約80重量%を占めるので、その廃ガラスのリサイクルは、今後廃棄太陽電池モジュールが大量に発生することを考慮すると重要な意義を有する(非特許文献1第4頁左欄第15行~第18行参照)。
【0005】
太陽電池モジュールガラスには、高い透明性が要求されるので、消泡剤として、アンチモン(Sb)が加えられていることが多い(非特許文献1第4頁表1フロントカバーガラスのアンチモン含有量参照)。アンチモンには、産業廃棄物の溶出基準値が定められていないが、埋め立て処分場に対して溶出による一定の環境負荷を与える可能性を有する点に留意する必要がある。
【0006】
廃太陽電池モジュールガラスのリサイクル品として、例えば、廃ガラスを約30重量%~約50重量%含む住宅用のセラミックタイルが開発されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】山口裕司、「太陽光発電設備のリユース・リサイクル・適正処分の推進に向けた調査・検討について」、いんだすと、2015年12月号(Vol.30, No.12)第2頁~第8頁、一般財団法人日本環境衛生センター、2015年12月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
太陽電池モジュールガラスは、上述したようにアンチモンを含むことが多い。太陽電池モジュールガラスのアンチモンの含有量は、5ppm~5000ppmでありえる(非特許文献1第4頁表1フロントカバーガラスのアンチモン含有量参照)。その廃ガラスを他の用途に使用してリサイクル品を製造すると、将来、それらが埋め立て処分されることが予想される。その廃ガラスによる環境負荷を考慮すると、水へのアンチモンの溶出量を減少させ、制御することが求められる。
【0009】
更に、2030年以降、廃棄太陽電池モジュールが、急激に増加して、約80万トンに達すると予想されているので、その廃ガラスは、約56万トン~約64万トンに達すると予想できる(非特許文献1第6頁
図3参照)。
【0010】
廃ガラスのリサイクル品として、「住宅用のセラミックタイル」が開発されているが、上述の莫大な廃ガラスを全て使用するほどの、十分な市場規模を有さず、すぐに飽和して、廃ガラスを処理することができなくなることが予想できる。そこで、「住宅用のセラミックタイル」に加えて、更に「廃ガラス」の他の新たな用途開発が求められる。
【0011】
また、廃ガラスのリサイクル品として、単にガラスを細かく粉砕した、ガラス粉が考えられるが、単なる砂であるから、極めて低価格であり、またガラスに含まれる、Sbの水への溶出が心配される。
【0012】
従って、本発明は、太陽電池モジュールの「廃ガラス」から水へのSb溶出量を制御しながら、「廃ガラス」の他の新たな用途開発を可能とする、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法を提供することを目的とする。
更に、太陽電池モジュールの新たなリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、アンチモン(Sb)を含む太陽電池モジュールガラスに、特定の発泡剤と特定の抑制剤を加えて、ガラスを発泡させて、発泡ガラスを製造することを伴う、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法は、太陽電池モジュールの「廃ガラス」から水へのSb溶出量を制御しながら、「廃ガラス」の他の新たな用途開発を可能とすることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明は、一の要旨において、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法を提供し、それは、
太陽電池モジュールガラスをガラス粉に粉砕すること;
ガラス粉と、SiC、CaCO3及び貝殻から選択される少なくとも1種の発泡剤と、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種の抑制剤とを混合して、混合物を製造すること;及び、
混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させて、発泡ガラスを製造することを含む。
【0015】
本発明は、他の要旨において、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法を含む、太陽電池モジュールのリサイクル方法を提供する。
【0016】
本発明は、更なる要旨において、
アンチモンを含むガラスを破砕し、ガラス粉を製造すること;
ガラス粉と、SiC、CaCO3及び貝殻から選択される少なくとも1種の発泡剤と、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種の抑制剤を混合して、混合物を得ること;及び
混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させること
を含む、発泡ガラスの製造方法を提供する。
【0017】
本発明は、好ましい要旨において、
アンチモンを含む発泡ガラスであって、
水へのアンチモンの溶出量は、5ppm未満である、発泡ガラスを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態の方法は、太陽電池モジュールの「廃ガラス」から水へのSb溶出量を制御しながら、「廃ガラス」の他の新たな用途開発を可能とする、太陽電池パネルモジュールガラスのリサイクル方法を提供することができる。
更に本発明の実施形態の方法は、そのような太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法を含む太陽電池モジュールのリサイクル方法を提供することができる。
製造される発泡ガラスは、アンチモンの水への溶出量が抑制され、制御されて、発泡ガラスとして、種々の用途に好ましく使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、一の要旨において、
太陽電池モジュールガラスをガラス粉に粉砕すること;
ガラス粉と、SiC、CaCO3及び貝殻から選択される少なくとも1種の発泡剤と、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種の抑制剤とを混合して、混合物を製造すること;及び、
混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させて、発泡ガラスを製造すること
を含む、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法を提供する。
【0020】
本明細書において、「太陽電池モジュール」とは、ソーラーパネル(solar panel)、太陽電池板等を構成する、太陽光で発電を行うためのモジュールである限り、特に制限されることはない。
本明細書において、「太陽電池モジュールガラス」とは、「太陽電池モジュール」に含まれる(又は構成する)ガラスをいい、例えば、基板ガラス、保護ガラス、カバーガラス、網入れガラス等の「太陽電池モジュール」に含まれるガラスである限り、特に制限されることはない。
【0021】
「太陽電池モジュールガラス」は、透明性を高めるために、消泡材として、アンチモン(Sb)が含まれることがある。太陽電池モジュールガラスのアンチモンの含有量は、5~5000ppmでありえ、5~4000ppmでありえ、5~3000ppmでありえる。更に、太陽電池モジュールガラスのアンチモンの含有量の下限は、10ppmでありえ、20ppmでありえる。
「太陽電池モジュールガラス」は、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、青板ガラス、白板ガラス等でありえるが、透明性に優れることから、白板ガラス、ソーダ石灰ガラスであることが好ましい。
「太陽電池モジュールガラス」は、廃太陽電池モジュールガラスであることが好ましい。
【0022】
太陽電池モジュールガラスは、ガラス粉に、粉砕される。所望のガラス粉が得られる限り、粉砕方法及び粉砕装置等は、適宜選択することができる。太陽電池モジュールガラスは、一旦粗破砕後、微粉砕する二段階ガラス粉に粉砕しても、最初から微粉砕する一段階でガラス粉に粉砕してもよい。
【0023】
ガラス粉の粒度は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。
従って、微粉砕後のガラス粉を、例えば、1000μmの粒度で選別して、1000μmより粒度が大きいガラス粉は、再度微粉砕して、使用することができる。更に、微粉砕後のガラス粉を、500μmの粒度で選別して、500μmより粒度が大きいガラス粉は、再度微粉砕して、使用してもよい。1000μmの粒度でのガラス粉の選別は、No.18(ASTM E-11)の篩を使用して行うことができ、500μmの粒度でのガラス粉の選別は、No.35(ASTM E-11)の篩を使用して行うことができる。
【0024】
太陽電池モジュールガラスのガラス粉のアンチモンの含有量は、5~5000ppmでありえ、5~4000ppmでありえ、5~3000ppmでありえる。更に、太陽電池モジュールガラスのガラス粉のアンチモンの含有量の下限は、10ppmでありえ、20ppmでありえる。
【0025】
ガラス粉と、SiC、CaCO3及び貝殻から選択される少なくとも1種の発泡剤と、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種の抑制剤が混合されて、混合物が製造される。
【0026】
SiC、CaCO3及び貝殻から選択される少なくとも1種が、発泡剤として使用される。
本発明が目的とするリサイクル方法を行える限り、SiC、CaCO3及び貝殻の各々について、特に制限されることはない。
更に、発泡剤は、適宜粉砕して使用することができ、その粒度は、特に制限されることはないが、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。1000μmの粒度での発泡剤の選別は、No.18(ASTM E-11)の篩を使用して行うことができ、500μmの粒度での発泡剤の選別は、No.35(ASTM E-11)の篩を使用して行うことができる。
【0027】
発泡剤として、市販品を使用することができる。例えば、屋久島電工(株)社製のSiC、太平洋ランダム(株)社製のSiC、信濃電気精錬(株)社製のSiC、和光純薬工業(株)社製のCaCO3、関東化学(株)社製のCaCO3、ナカライテスク(株)社製のCaCO3を使用することができる。
貝殻は、水産加工場、貝殻飼料センター等からの貝殻等を使用することができ、廃棄された貝殻を使用することができる。貝殻は、目的とするリサイクル方法を行うことができる限り、その貝の種類等、特に限定されることはない。
発泡剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0028】
発泡剤を、ガラス粉の100g当たり、0.1~15g加えることが好ましく、0.1~10g加えることがより好ましく、0.2~8g加えることが更に好ましく、0.2~6g加えることが特に好ましい。発泡剤を、ガラス粉の100g当たり、0.1~15g加える場合、発泡性がより向上しえる。
【0029】
Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種が、抑制剤として使用される。
Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種を含む少なくとも2種が、抑制剤として使用されることが好ましい。
Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも2種が、抑制剤として使用されることがより好ましい。
【0030】
本発明が目的とするリサイクル方法を行える限り、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4の各々について、特に制限されることはない。
更に、抑制剤は、適宜粉砕して使用することができ、その粒度は、特に制限されることはないが、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。1000μmの粒度での抑制剤の選別は、No.18(ASTM E-11)の篩を使用して行うことができ、500μmの粒度での抑制剤の選別は、No.35(ASTM E-11)の篩を使用して行うことができる。
【0031】
抑制剤として、市販品を使用することができる。関東化学(株)社製のCa3(PO4)2、和光純薬工業(株)社製のCa3(PO4)2、関東化学(株)社製のCaHPO4、ナカライテスク(株)社製のCaHPO4、関東化学(株)社製のAl(H2PO4)3、ナカライテスク(株)社製のAl(H2PO4)3、ナカライテスク(株)社製のFeSO4、関東化学(株)社製のFeSO4、関東化学(株)社製のFe2(SO4)3、和光純薬工業(株)社製のFe2(SO4)3、関東化学(株)社製のFe2O3、和光純薬工業(株)社製のFe2O3、関東化学(株)社製のAl2(SO4)3、和光純薬工業(株)社製のAl2(SO4)3、関東化学(株)社製のCaSO4、及び和光純薬工業(株)社製のCaSO4等を使用することができる。
抑制剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0032】
抑制剤を、ガラス粉の100g当たり、例えば、0.1~25g加えることができ、0.1~20g加えることができ、0.1~15g加えることが好ましく、0.1~10g加えることがより好ましく、0.2~8g加えることが更に好ましく、0.2~6g加えることが特に好ましい。抑制剤を、ガラス粉の100g当たり、0.1~25g加える場合、より抑制することができ、0.1~15g加える場合、より適切に抑制することができる。
【0033】
ガラス粉と、発泡剤と、抑制剤を、均一になるまで混合して、混合物を得る。混合方法及び混合装置等は、本発明が目的とするリサイクル方法を行える限り、特に制限されることはない。
【0034】
得られた混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させて、発泡ガラスを製造する。
混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させる条件、方法及び装置等は、発泡ガラスを製造することができ、本発明が目的とするリサイクル方法を行える限り、特に制限されることはない。例えば、加熱温度は、850℃~1000℃であることがより好ましい。加熱時間は、3~30分間であることが好ましく、5~20分間であることがより好ましく、7~15分間であることが更に好ましい。
【0035】
Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種の抑制剤を、発泡ガラスの細孔内に存在させるように、混合物を、700~1100℃に加熱して、混合物を溶融及び発泡させることが好ましい。
Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種の抑制剤を、発泡ガラスの細孔内に存在する状態である場合、発泡ガラスは、アンチモンの溶出をより抑制でき好ましい。
【0036】
発泡ガラスについて、環境庁告示第46号法溶出試験(土壌環境基準)に基づいて、アンチモンの溶出量について評価した。あわせて、ガラス粉についても、アンチモンの溶出量について評価した。詳細は、実施例に記載した。
【0037】
発泡ガラスから水へのアンチモンの溶出量は、5ppm未満であることが好ましく、2.0ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることが更に好ましく、0.8ppm以下であることが特に好ましく、0.5ppm以下であることが更に特に好ましい。
【0038】
本発明は、他の要旨において、本発明の実施形態の太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法を含む、太陽電池モジュールのリサイクル方法を提供する。
【0039】
本発明は、更なる要旨において、
アンチモンを含むガラスを破砕し、ガラス粉を製造すること;
ガラス粉と、SiC、CaCO3及び貝殻から選択される少なくとも1種の発泡剤と、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも1種の抑制剤を混合して、混合物を得ること;及び
混合物を、700~1100℃に加熱して、溶融及び発泡させること
を含む、発泡ガラスの製造方法を提供する。
上述の太陽電池モジュールのリサイクル方法で記載した種々の実施形態は、特に不具合が無い限り、発泡ガラスの製造方法に適用することができる。
【0040】
アンチモンを含むガラスのアンチモンの含有量は、5~5000ppmでありえ、5~4000ppmでありえ、5~3000ppmでありえる。更に、アンチモンを含むガラスのアンチモンの含有量の下限は、10ppmでありえ、20ppmでありえる。
アンチモンを含むガラスは、太陽電池モジュールガラスであることが好ましく、廃太陽電池モジュールガラスガラスであることがより好ましい。
【0041】
ガラス粉の100g当たり、発泡剤を0.1~15g加えることが好ましく、0.1~10g加えることがより好ましく、0.2~8g加えることが更に好ましく、0.2~6g加えることが特に好ましい。
ガラス粉の100g当たり、抑制剤を、例えば、0.1~25g加えることができ、0.1~20g加えることができ、0.1~15g加えることが好ましく、0.1~10g加えることがより好ましく、0.2~8g加えることが更に好ましく、0.2~6g加えることが特に好ましい。
【0042】
ガラス発泡体の細孔内に、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも一種の抑制剤が存在するように、混合物を、700~1100℃に加熱し、溶融及び発泡させることを含む、製造方法であることが好ましい。
【0043】
発泡ガラスから水へのアンチモンの溶出量は、5ppm未満であることが好ましく、2.0ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることが更に好ましく、0.8ppm以下であることが特に好ましく、0.5ppm以下であることが更に特に好ましい。
【0044】
本発明は、好ましい要旨において、
アンチモンを含む発泡ガラスであって、
水へのアンチモンの溶出量は、5ppm未満である、発泡ガラスを提供する。
上述の太陽電池モジュールのリサイクル方法及び発泡ガラスの製造方法で記載した種々の実施形態は、特に不具合が無い限り、発泡ガラスの製造方法に適用することができる。
【0045】
本発明の実施形態の発泡ガラスでは、発泡ガラスの細孔内に、Ca3(PO4)2、CaHPO4、Al(H2PO4)3、FeSO4、Fe2(SO4)3、Fe2O3、Al2(SO4)3、及びCaSO4から選択される少なくとも一種の抑制剤が存在することが好ましい。
【0046】
本発明の実施形態の発泡ガラスのアンチモンの含有量は、5~5000ppmでありえ、5~4000ppmでありえ、5~3000ppmでありえる。更に、発泡ガラスのアンチモンの含有量の下限は、10ppmでありえ、20ppmでありえる。
発泡ガラスから水へのアンチモンの溶出量は、5ppm未満であることが好ましく、2.0ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることが更に好ましく、0.8ppm以下であることが特に好ましく、0.5ppm以下であることが更に特に好ましい。
【0047】
本発明の実施形態の太陽電池モジュールのリサイクル方法等で得られる発泡ガラスからのアンチモンの溶出量を抑制することができる理由は下記の通りと考えられるが、この理由によって、本願発明は何ら制限されることはない。
【0048】
アンチモンを含むガラスから水へのアンチモンの溶出量は、大きくないが、ガラス粉に粉砕すると大きくなり、更に、発泡ガラスにするとより大きくなる。これは、ガラスの表面積が増加するので、ガラス中のアンチモンが水と接触する機会が増加するからであると考えられる。
従って、アンチモンを含むガラス粉に発泡剤を加えて、加熱、溶融して、発泡ガラスを製造すると、アンチモンの水への溶出量が増加するので、好ましくない。
【0049】
本発明者らは、特定の抑制剤を加えて、加熱、溶融して、発泡ガラスを製造すると、アンチモンの水への溶出量が、抑制剤を加えないで製造した発泡ガラスのアンチモンの水への溶出量より、減少する(抑制される)ことを見いだした。
これは、抑制剤が、発泡ガラスの表面及び内部の細孔内に存在することで、アンチモンの溶出を防止(又は抑制)しているからであると考えられる。
【0050】
本発明の実施形態の太陽電池モジュールのリサイクル方法等で得られる発泡ガラスは、通常の発泡ガラスと同様の性質を示すので、例えば、人工軽量骨材、建築用断熱材、防音材、及びその他の発泡ガラスの用途等に同様に使用することができる。
更に、本発明の実施形態の発泡ガラスは、廃棄することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
本実施例で使用した成分を以下に示す。
(A)ガラス
(a1)廃棄太陽電池モジュールガラス(Sbを約1100ppm含む)
(B)発泡剤
(b1)SiC(屋久島電工(株)社製のダイヤシック(商品名))
(b2)CaCO3(和光純薬工業(株)社製の炭酸カルシウム(商品名))
(b3)貝殻(ムール貝)
(C)抑制剤
(c1)Al2(SO4)3(関東化学(株)社製の硫酸アルミニウム14-18水(商品名))
(c2)Fe2O3(関東化学(株)社製の酸化鉄(III)(商品名))
(c3)CaSO4(関東化学(株)社製の硫酸カルシウム二水和物(商品名))
【0053】
実施例1の発泡ガラスの製造とSb溶出評価
(a1)廃棄太陽電池モジュールガラスを、粗破砕した後、更に微粉砕して、ガラス粉にした。粒度選別して、500μm以下のガラス粉を集めた。500μmを超えるガラス粉は、再度微粉砕した。
50gのガラス粉と、0.25gの(b1)SiCと、1.00gの(c1)Al2(SO4)3を混合して混合物を製造した。この混合物を約910℃で、約10分間加熱して、実施例1の発泡ガラスを得た。実施例1の発泡ガラスは、多孔質(porous)(形態又は構造)であった。
【0054】
実施例1の発泡ガラスを粉砕して、ガラス粉にした。粒度選別して、500μm以下のガラス粉を集めた。10gのこのガラス粉を100gの蒸留水に入れて、室温(20~30℃)で約3時間振とう後、濾過して、サンプル濾液を得た。40mLのサンプル濾液を秤取し、これに塩酸水溶液(濃塩酸:蒸留水=1:1)1mLを加え、更に蒸留水を加えて全体(合計)で50mLにして、分析サンプルを得た。この分析サンプルを、高周波プラズマ発光分光分析装置(SII NANOTECHNOLOGY INC. 製、SPS3100(商品名))で分析した。2回分析サンプルを作成して平均値を分析サンプルのSbの濃度とした。分析サンプルのSbの濃度は、0.68ppm(mg/L)であった。サンプル濾液のSbの濃度は、分析サンプルのSb濃度を1.25倍して0.85ppmであった。結果は、表1に示した。
【0055】
実施例2~実施例18の発泡ガラスの製造とSbの溶出評価
表1~2に記載した発泡剤と抑制剤を表1~2に記載した量で使用し、表1~2に記載した条件で発泡ガラスを製造した他は、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて、実施例2~18の発泡ガラスを製造した。実施例2~18の発泡ガラスは、いずれも多孔質であった。得られた発泡ガラスを、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて、Sbの溶出評価を行った。結果は、表1~2に示した。
【0056】
比較例1~3の発泡ガラスの製造とSbの溶出評価
表3に記載した発泡剤を表3に記載した量で使用し、抑制剤を全く使用しないで、表3に記載した条件で発泡ガラスを製造した他は、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて、比較例1~3の発泡ガラスを製造した。比較例1~3の発泡ガラスは、いずれも多孔質であった。得られた発泡ガラスを、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて、Sbの溶出評価を行った。結果は、表3に示した。
【0057】
比較例4:太陽電池モジュールガラス(粉末)のSbの溶出評価
実施例1で記載した、(a1)廃棄太陽電池モジュールガラスのガラス粉自身からのSbの溶出評価を行った。従って、比較例4のガラス粉は、粉末(powder)であった。
10gの(a1)廃棄太陽電池モジュールガラスのガラス粉を、100gの蒸留水に入れて、室温25℃で約3時間振とう後、濾過して、サンプル濾液を得た。40mLのサンプル濾液を秤取し、これに塩酸水溶液(濃塩酸:蒸留水=1:1)1mLを加え、更に蒸留水を加えて全体(合計)で50mLにして、分析サンプルを得た。この分析サンプルを、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて、Sbの溶出評価を行った。結果は、表3に示した。
【0058】
比較例5:太陽電池モジュールガラスに含まれるSbの含有量
500mgの(a1)廃棄太陽電池モジュールガラスのガラス粉に、1.5gの炭酸ナトリウムと0.5gのホウ酸を加えて、ガラス粉を融解した。これに塩酸水溶液(濃塩酸:蒸留水=1:1)約10mLを加え、加熱して溶解した。加熱時に水溶液が少なくなったので、少量の塩酸水溶液を加えた。約20分後に0.05wt%のグリコール水溶液10mLを加えて、攪拌した。約5分後に、この溶液をろ過した。ろ紙中に不溶物があったので、少量の熱塩酸水溶液(濃塩酸:蒸留水=1:50)を加えて、溶解した。これを繰り返した後、ろ液に蒸留水を加え、全体(合計)で250mLにして、分析サンプルを得た。この分析サンプルを、高周波プラズマ発光分光分析装置(SII NANOTECHNOLOGY INC. 製、SPS3100(商品名))で分析した。2回分析サンプルを作成して平均値を分析サンプルのSbの濃度とした。分析サンプルのSbの濃度は、2.10ppm(mg/L)であった。
分析サンプルの比重は、約1.0なので、250mLのサンプルの重量は、250gである。分析サンプル中に含まれるSbの重量は250,000mg×2.1×10-6=0.525mgである。この重量のSbが、500mgのガラスに含まれているので、ガラス粉に含まれるSbの濃度は、0.525/500=0.00105であるから、約1100ppmである。
【0059】
比較例5に示すように、(a1)太陽電池モジュールガラスには、約1100ppmのアンチモン(Sb)が含まれている。
比較例4に示すように、その(a1)モジュールガラスを粉砕して得られるガラス粉(粉末)と水が接触して生じる溶出液のSb濃度は、0.17ppmである。
比較例1~3に示すように、その(a1)モジュールガラスから得られる発泡ガラスと水が接触して生じる溶出液のSb濃度は、0.55~0.97ppmである。いずれも比較例4のガラス粉末と水が接触して生じる溶出液のSb濃度より高い。これは、ガラスの表面積が増加して、水とガラスの間の接触面積が増えるからと考えられる。
従って、太陽電池モジュールガラスから発泡ガラスを製造すると、ガラスと水が接触して得られる溶出液のSb濃度は増加する。
【0060】
実施例21~実施例166の発泡ガラスの製造
表4~13に記載した発泡剤と抑制剤を表4~13に記載した量で使用し、表4~13に記載した条件で発泡ガラスを製造した他は、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて、実施例21~166の発泡ガラスを製造した。実施例21~166の発泡ガラスは、いずれも多孔質(porous)であった。
【0061】
実施例21~実施例166の発泡ガラスのSbの溶出評価
実施例1で使用したSbの溶出評価方法では、Sb濃度の測定下限は、約0.05ppmであった。Sbの濃度をより低濃度(約0.001ppm)まで測定することを目的として、実施例21~実施例166の発泡ガラスのSbの溶出評価は、下記の方法を使用した。
【0062】
各々の実施例の発泡ガラスを粉砕して、各々のガラス粉にした。粒度選別して、500μm以下の各々のガラス粉を集めた。各々の発泡ガラス5gに蒸留水50mLを加え、室温(20~30℃)で約3時間振とう後、ろ過して各々のサンプル濾液を得た。次に、40mLの各々のサンプル濾液を秤取し、これに塩酸溶液(濃塩酸:蒸留水=1:1)1mL、チオ尿素(0.1mol/L)を加え、さらに蒸留水を加えて全体(合計)で50mLにして、各々の分析サンプルを得た。
この各々の分析サンプルを、水素化物発生装置(SII NANOTECHNOLOGY INC.製)及び高周波プラズマ発光分光分析装置(SII NANOTECHNOLOGY INC.製、SPS3000(商品名))を用いて分析した。
各々の実施例について2回分析サンプルを作成して平均値を分析サンプルのSbの濃度とした。サンプル濾液のSbの濃度は、分析サンプルのSb濃度を1.25倍して得た。例えば、実施例21では、0.028ppmであった。
実施例21~166発泡ガラスの結果は、表4~13に示した。
【0063】
実施例1~166の発泡ガラスは、いずれも、太陽電池モジュールの廃棄ガラスのガラス粉と、少なくとも1種の発泡剤と、少なくとも1種の抑制剤とを混合して、加熱して発泡させて得られた発泡ガラスである。
実施例1~6の発泡ガラスは、比較例1の発泡ガラスと発泡剤の点で対応し、実施例7~12の発泡ガラスは、比較例2の発泡ガラスと発泡剤の点で対応し、実施例13~18の発泡ガラスは、比較例3の発泡ガラスと発泡剤の点で対応する。実施例の発泡ガラスが水と接触して得られる溶出液のSb濃度は、対応する比較例の発泡ガラスが水と接触して得られる溶出液のSb濃度より低い。
【0064】
更に、実施例4~6、10~12及び16~18では、少なくとも2種の抑制剤が使用されると、発泡ガラスが水と接触して得られる溶出液のSb濃度が更により低いことを示す。
更にまた、実施例21~166では、少なくとも2種の抑制剤が使用され、抑制剤の量等が調整されると、発泡ガラスが水と接触して得られる溶出液のSb濃度が更により低下し得ることを示す。
【0065】
上述の結果は、Sbを含む太陽電池モジュールガラスを原料とする、発泡ガラスであっても、本発明の方法を使用して製造することで、製造される発泡ガラスから水へのSbの溶出量を抑制し、制御可能なことを示す。
従って、そのような発泡ガラスは、通常の発泡ガラスとして、種々の用途に利用することができる。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の方法を使用して、Sbを含むガラスを用いて発泡ガラスを製造すると、発泡ガラスから水へのSb溶出濃度を抑制し、制御することができる。従って、本発明の方法で製造される発泡ガラスは、例えば、人工軽量骨材、建築用断熱材、防音材、及びその他の発泡ガラスの用途等の種々の用途に使用できる。Sb溶出濃度を制御可能な発泡ガラスの製造を伴う本願発明の方法は、新たな、太陽電池モジュールガラスのリサイクル方法及び太陽電池モジュールのリサイクル方法として有用である。