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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】経口摂取用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/163 20160101AFI20220516BHJP
   A23K 20/111 20160101ALI20220516BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220516BHJP
【FI】
A23K20/163
A23K20/111
A23L33/105
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019572317
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2019005898
(87)【国際公開番号】W WO2019160146
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018027317
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507186687
【氏名又は名称】株式会社セラバリューズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 悠冶
(72)【発明者】
【氏名】高橋 司
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/010093(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104657(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 ー 50/90
A23L 33/105
A61K 31/00 -31/327
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非晶質体を含む固体状のクルクミン又はウコン色素と、(B)ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステルから選ばれる1種以上の、pH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子とを、単に均一に混合された状態で含有する固体状経口摂取用組成物であって、
(A)クルクミン又はウコン色素の結晶体(A-1)と非晶質体(A-2)の比(A-1/A-2)が0.67以下である固体状経口摂取用組成物。
【請求項2】
成分(A)と成分(B)の含有質量比(A/B)が0.1~570である請求項1記載の経口摂取用組成物。
【請求項3】
成分(A)と成分(B)の含有質量比(A/B)が0.5~50である請求項1記載の経口摂取用組成物。
【請求項4】
成分(A)および成分(B)の粒子径が、それぞれ300μm以下である請求項1~のいずれか1項記載の経口摂取用組成物。
【請求項5】
飼料、飲食品及び医薬品から選ばれるものである請求項1~のいずれか1項記載の経口摂取用組成物。
【請求項6】
結晶質の成分(A)を溶融した後に冷却することで非晶質体を調製する非晶質化工程と、
前記非晶質化工程で調製した非晶質体と、成分(B)とを個別に又は同時に粉砕及び混合することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項記載の経口摂取用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記粉砕および混合工程が、回転式、気流式、高速回転式、容器駆動式および媒体撹拌式から選ばれる粉砕法によって行われる、請求項記載の経口摂取用組成の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料、飲食品又は医薬組成物として好適に用いられるクルクミンを含有する経口摂取用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクミンおよびその類縁体は、近年、抗酸化作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用、腫瘍形成阻害作用、コレステロール低下作用、脳疾患予防作用、心血管系疾患予防治療作用等の生理活性が注目されており、飼料、飲食品(例えば、機能性食品など)、医薬品、化粧品等への利用が検討されている。しかし、クルクミンおよびその類縁体は、経口摂取による体内への吸収性が著しく低いため、クルクミンおよびその類縁体がもつ生理活性が経口摂取によって十分に得られないといった問題がある。
【0003】
そこで、クルクミンおよびその類縁体の経口摂取後の吸収性を改善する手段としてクルクミノイド、熱可塑性ポリマーおよびホスファチドが溶融加工されている固体分散体とする手段(特許文献1)、クルクミンとポリサッカロイドとの複合体とする手段(特許文献2)、クルクミンと水溶性セルロースとの複合体とする手段(特許文献3、4および5)が報告されている。また、クルクミンをアモルファス化することにより溶解速度が向上する旨の報告もある(非特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-503470号公報
【文献】特開平3-97761号公報
【文献】国際公開第2015/174475号パンフレット
【文献】国際公開第2016/010093号パンフレット
【文献】国際公開第2017/061627号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【文献】J Pharm Sci. 1994 Dec;83(12):1700-5.
【文献】Adv Drug Deliv Rev. 2012 May 1;64(6):480-95.
【文献】Ther Deliv. 2015 Mar;6(3):339-52.
【文献】Mol Pharm. 2011 Jun 6;8(3):807-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
難吸収性素材の経口摂取後の吸収性向上の試みのひとつに非晶質化技術が挙げられるが、非晶質を利用した製剤は一般的な結晶製剤と比較して化学安定性が低く、再結晶化が生じやすいことから物理安定性が低いことが明らかとなっている(非特許文献1~3)。また、完全な非晶質の固体分散体に対して一部結晶を含む固体分散体の生物学的利用能は、結晶性の物理混合物と同じ程度まで低くなることが明らかとなっている(非特許文献4)。この様な背景から非晶質体の製剤化は困難とされてきた。
また、非晶質体の安定化技術として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等との固体分散体形成が挙げられ、例として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の親水性ポリマーおよびポリグリセリン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤と結晶性クルクミンとを溶融混練することにより、クルクミンの非晶質体を作成する技術が報告されている(特許文献5)。ちなみに、特許文献5と同条件で本発明の実施例8のラット経口投与後の吸収性を検討した結果では、特許文献5に記載の実施例と比較して顕著に吸収性が上回る結果を得ている。また、溶融混練法は、溶融混練時の高温条件に賦形剤が晒されることによる賦形剤の変質や、加工工程が煩雑となることによる製造コストの増加、産業応用技術確立の困難さなどの問題がある。
従って本発明の課題は、保存安定性が良好で、かつ経口摂取後の吸収性が改善された新たなクルクミン含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、安定でかつ経口摂取後の吸収が良好なクルクミン含有組成物を開発すべく種々検討したところ、全く意外にも、固体状の非晶質体を含むクルクミンおよび/又はその類縁体と、pH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子類とを単に混合した組成物が、クルクミンおよび/又はその類縁体の経口摂取後の吸収性を顕著に向上し、かつ保存安定性も良好であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔11〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕(A)非晶質体を含む固体状のクルクミンおよび/又はその類縁体と(B)pH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子を含有する経口摂取用組成物。
〔2〕成分(A)と成分(B)の含有質量比(A/B)が0.1~570である〔1〕記載の経口摂取用組成物。
〔3〕クルクミンおよび/又はその類縁体が、クルクミン又はウコン色素である〔1〕又は〔2〕記載の経口摂取用組成物。
〔4〕(A)固体状のクルクミンおよび/又はその類縁体が、(A-2)非晶質体、又は(A-2)非晶質体および(A-1)結晶体を含む〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
〔5〕成分(A-1)と成分(A-2)の含有質量比(A-1/A-2)が0.67以下である〔4〕記載の経口摂取用組成物。
〔6〕成分(B)が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステルから選ばれる1種以上の水溶性高分子である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
〔7〕成分(A)と成分(B)とが均一に混合された状態で含有する〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
〔8〕成分(A)および成分(B)の粒子径が300μm以下である〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
〔9〕クルクミンおよび/又はその類縁体を溶融した後に冷却することで非晶質体を調製する非晶質化工程と、前記非晶質化工程で調製した非晶質体とpH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子とを個別に又は同時に粉砕および混合することを特徴とする、固体状の非晶質クルクミンおよび/又はその類縁体とpH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子を含有する組成物の製造方法。
〔10〕前記粉砕および混合工程が、回転式、気流式、高速回転式、容器駆動式および媒体撹拌式から選ばれる粉砕法によって行われる、〔9〕記載の組成物の製造方法。
〔11〕飼料、飲食品および医薬品から選ばれるものである〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の経口摂取用組成物により、固体状の非晶質体を含むクルクミンおよび/又はその類縁体と、pH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子とを単に混合しただけであるにもかかわらず、クルクミンおよび/又はその類縁体の経口摂取後の吸収性が飛躍的に向上し、かつ保存安定性が良好であることが明らかとなった。また、本発明の加工方法は単純な混合のため、溶融混練法のように賦形剤が高温に晒されることはなく、その特性が十分に発揮される。しかも加工工程が単純化されることにより製造コストが飛躍的に低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】クルクミン含有組成物(比較例1および2)の熱量分析結果を示す。
図2】クルクミン含有組成物(実施例1および参考例1)の熱量分析結果を示す。
図3】クルクミン含有組成物(実施例2)の明視野観察画像を示す。
図4】クルクミン含有組成物(実施例2、比較例1~3および既製品)の経口投与後の吸収性(経時変化)を示す。
図5】クルクミン含有組成物(実施例2、比較例1~3および既製品)の経口投与後の吸収性(AUCおよびCmax)を示す。
図6】クルクミン含有組成物(実施例3~5、比較例4および既製品)の経口投与後の吸収性(経時変化)を示す。
図7】クルクミン含有組成物(実施例3~5、比較例4および既製品)の経口投与後の吸収性(AUCおよびCmax)を示す。
図8】クルクミン含有組成物(実施例2)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図9】クルクミン含有組成物(実施例3)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図10】クルクミン含有組成物(実施例4)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図11】クルクミン含有組成物(実施例5)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図12】非晶質クルクミン(比較例1)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図13】結晶クルクミン(比較例2)の粉末X線回折測定結果(P-XRD)を示す。
図14】クルクミン含有組成物(比較例4)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図15】クルクミン含有組成物(参考例2-1)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図16】クルクミン含有組成物(参考例2-2)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図17】クルクミン含有組成物(参考例2-3)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図18】クルクミン含有組成物(実施例6、7および比較例5~8)の経口投与後の吸収性(経時変化)を示す。
図19】クルクミン含有組成物(実施例6、7および比較例5~8)の経口投与後の吸収性(AUCおよびCmax)を示す。
図20】クルクミン含有組成物(実施例6)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図21】クルクミン含有組成物(実施例7)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図22】クルクミン含有組成物(比較例5)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図23】クルクミン含有組成物(比較例6)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図24】クルクミン含有組成物(比較例7)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図25】クルクミン含有組成物(比較例8)の保存安定性(P-XRD)を示す。
図26】クルクミン含有組成物(実施例8)の保存安定性(P-XRD)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の経口摂取用組成物は、(A)固体状の非晶質体を含むクルクミンおよび/又はその類縁体と、(B)pH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子を含有する。
【0013】
クルクミンは、ウコン色素に含まれるクルクミノイドの主成分であり、下記構造式(1)で表される化合物である。
【0014】
【化1】
【0015】
本発明に用いられるクルクミンは、化学合成されたクルクミンを用いてもよいし、ウコン色素として流通しているものを用いてもよい。ウコン色素としては、ショウガ科ウコン属植物(例えば、Curcuma longa Linne)の根茎の乾燥物を粉末にしたウコン末、該ウコン末を適当な溶媒(例えば、エタノール、油脂、プロピレングリコール、ヘキサン、アセトンなど)を用いて抽出して得られる粗製クルクミン或いはオレオレジン(ターメリックオレオレジン)および精製したクルクミンを挙げることができる。
なお、クルクミンには、互変異性体であるケト型およびエノール型のいずれも含まれる。
【0016】
クルクミン類縁体としては、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、テトラヒドロクルクミン、ヘキサヒドロクルクミン等が挙げられる。なお、ウコン色素には、クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミンおよびテトラヒドロクルクミンが含まれている。
【0017】
本発明に用いられるクルクミンおよび/又はその類縁体は、非晶質体を含んでなる。非晶質クルクミンであることは、粉末X線回折スペクトルにおいて明確な回折ピークを有さないことにより確認できる。非晶質クルクミンは、クルクミンが溶融する温度、例えば160℃以上で溶融処理することにより得られる。
【0018】
本発明組成物中には、(A)pH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の非晶質クルクミン(A-2)が含まれている。ここで、固体状とは、粉末状、顆粒状又は塊状であることを言い、他の物質と複合体を形成していたり、固体分散体を形成していないことを示す。固体状の非晶質クルクミンが複合体および固体分散体を形成していないことは示差走査熱量分析において非晶質クルクミンのみの熱物性と類似することおよび複合体、固体分散体と熱物性が異なることで確認できる。これらの固体状のうち、300μm以下の粉末状であるのがより好ましい。
【0019】
本発明組成物の成分(A)には、(A-2)非晶質体クルクミンおよび/又はその類縁体(非晶質体)以外に、(A-1)結晶体クルクミンおよび/又はその類縁体(結晶体)が含まれていてもよい。成分(A)としては、全量(A-2)非晶質体でもよいが、(A-1)及び(A-2)の両者を含有する場合、(A-1)結晶体と(A-2)非晶体の含有質量比(A-1/A-2)が0.67以下であるのが好ましい。
【0020】
本発明組成物の成分(B)pH5以上の水性媒体で粘稠となる水溶性高分子としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上であるのが好ましい。また、これらの水溶性高分子には、飼料、飲食品、医薬品又はこれらの原料に使用されるものであればその分子量、置換度、分岐性等は問わない。
【0021】
本発明組成物中には、(A)非晶質体を含む固体状のクルクミンおよび/又はその類縁体と、(B)pH5以上の水性媒体で粘稠となる固体状の水溶性高分子とが混合された状態で含まれている。
【0022】
本発明の組成物中の成分(A)と成分(B)の含有質量比(A/B)は、経口摂取後の吸収性および保存安定性の両立の観点から0.1~570が好ましく、0.1~100がより好ましく、0.5~50がさらに好ましく、0.5~5.0がさらに好ましい。
【0023】
本発明の組成物は、成分(A)と成分(B)とを固体状のまま混合するだけで容易に製造される。また、組成物全体を固形状とするには、これらの成分(A)および(B)の混合物を直接乾式で圧縮成形するのが望ましい。
【0024】
本発明の組成物には、クルクミンの非晶質状態に影響を与えない限り、飼料、飲食品、医薬品又はこれらの原料として使用可能な成分を添加することができる。例えば、カプセル充填時等に使用される滑沢剤として、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等、空間充填剤として、コーンスターチ等を配合してもよい。また、崩壊剤として作用するデキストリン、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース等を用いるのが好ましい。これらの添加剤の中でも、崩壊剤の添加が好ましく、さらにデキストリン、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース又は結晶セルロースを用いるのが好ましい。これらの崩壊剤は、成分(A)1質量部に対して0.05~10質量部含有するのが好ましい。
【0025】
本発明の組成物は、後記実施例に示すように、クルクミンの経口摂取後の吸収性が顕著に向上し、かつ保存安定性も良好である。従って、本発明の経口摂取用組成物は、クルクミンおよび/又はその類縁体の生理活性を経口摂取で発揮させるための飼料およびその添加剤、栄養補助食品、機能性食品、特定保健用食品、医薬品、医薬部外品、化粧品又はこれらの原料として有用である。
【0026】
飼料としては、本発明の経口摂取用組成物を含有すれば特に限定はなく、例えば、牛、豚、馬、鶏等の肥育を目的とした畜産用飼料、魚類・甲殻類の養殖用飼料および抗菌を目的とした添加剤、犬、猫等のペット用の餌添加剤・栄養補強剤として用いることができる。
【0027】
飲食品としては、本発明の経口摂取用組成物を含有すれば特に限定はなく、例えば、クルクミンを含む飲食品が挙げられる。具体的には、特定保健用食品、栄養機能食品、老人用食品、特別用途食品、機能性表示食品、健康補助食品(サプリメント)として、例えば、肝臓の機能を調整するために用いられるものである旨の表示を付して提供することが可能になると考えられる。
【0028】
かかる飲食品としては、例えば、即席麺、カップ麺、レトルト・調理食品、調理缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰、フリーズドライ食品等の即席食品、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、清涼飲料水(果汁入りも含む)、果肉飲料、果粒入り果実食品、野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料等の嗜好飲料類、パン、マカロニ・スパゲッティ、麺類、ケーキミックス、から揚げ粉・パン粉、ギョーザ・春巻の皮等の小麦粉食品、キャラメル・キャンディー、チューイングガム、チョコレート、クッキー・ビスケット、ケーキ・パイ、スナック・クラッカー、和菓子・米菓子・豆菓子・焼菓子、ゼリー、プリン、ババロア、デザート菓子等の菓子類、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類、甘味料、魚醤、ニョクマム等の基礎調味料、風味調味料、調理ミックス、カレーの素、たれ類、ドレッシング、麺つゆ、スパイス等の複合調味料、バター、マーガリン、マヨネーズ等の油脂食品、牛乳・加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、発酵乳飲料、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム、調製粉乳、乳児用調製粉乳、クリーム等の乳・乳製品、液卵、粉末卵、錦糸玉子等の卵加工食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品、水産缶詰・ペースト類、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、水産乾物類、佃煮等の水産加工品、畜産缶詰・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ、畜産珍味類等の畜産加工品、農産缶詰、果実缶詰、フルーツソース、フルーツプレパレーション、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆、農産乾物類、シリアル等の農産加工品、流動食、ベビーフード、離乳食、ふりかけ、お茶漬けのり、バー食品等の栄養食品、サプリメント、丸剤、ハードカプセル剤、錠剤〔素錠、糖衣錠、口腔内速崩壊錠、咀嚼可能錠(チュアブル錠)、発泡錠、トローチ剤、フィルムコーティング錠等を含む〕等を例示できる。なお、これらは、既成の飲食品に対して本発明の粉末組成物を調製時に添加させたものであればよく、添加時期や添加方法については特に限定されるものではない。
【0029】
医薬組成物としては、医薬品、医薬部外品等として幅広く利用することができる。例えば、クルクミンを含有する組成物の場合には認知症、糖尿病、心血管系疾患、消化器系疾患、呼吸器系疾患、耳鼻咽喉科に分類される疾患、自己免疫疾患、骨格筋および関節に由来する疾患、口腔・歯科領域に分類される疾患、悪性腫瘍などの疾患治療や予防のために用いることが可能である。
【0030】
医薬組成物の製剤形態としては、本発明の粉末組成物を含有するのであれば特に制限されず、具体的には、散剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、錠剤〔素錠、糖衣錠、口腔内速崩壊錠、咀嚼可能錠(チュアブル錠)、発泡錠、トローチ剤、フィルムコーティング錠等を含む〕、ドライシロップ剤、フィルム剤、ゼリー剤が例示され、製菓剤〔キャンディー(飴)、グミ剤、ヌガー剤等〕も包含される。なお、カプセル剤としては、ハードカプセル剤の他に、本発明の粉末組成物を分散させた溶液を充填したソフトカプセル剤も含まれる。
本発明の飲食品および本発明の医薬組成物は、前記の本発明の粉末組成物の他に製剤分野や食品分野等において通常使用される担体、基剤および/又は添加剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合して調製することができる。
【実施例
【0031】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】
実施例1~5:物理混合製剤の製造方法
市販ウコン抽出物粉末(クルクミン含量86.8%(w/w))を適当量ホットプレート型加熱装置(日進機械製)に投入し、処理温度220℃で溶融した。また、この溶融物を室温で保持することで固化させ、溶融処理クルクミン(非晶質クルクミン)約50gを調製した。
次いで、この調製した溶融処理クルクミンを乳鉢で粉末化し、目開き250μmの篩を通過したものと(溶融処理クルクミン粉末)、その他賦形剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(信越化学工業(株)メトローズSE-03)と、マルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)を単純混合して調製した(実施例1)。また、実施例1と同様に調整した溶融処理クルクミン粉末と、HPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)およびマルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)を単純混合して調製した(実施例2、3、4および5)。
【0033】
実施例6および7:賦形剤別物理混合製剤の製造方法
実施例1と同様に調製した溶融処理クルクミン粉末と、HPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)又はヒドロキシプロビルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)(信越化学工業(株)AQOATTMAS-MF)を単純混合して調製した(実施例6および7)。
【0034】
実施例8:産業応用スケールでの物理混合製剤の製造方法
実施例1と同様に調製した溶融処理クルクミンをカッターミルVM(槇野産業(株)):設置スクリーン幅5mmで粗粉砕した後、HPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)およびマルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)と混合し、シングルトラックジェットミルSTJ-200を用いて単位時間当たりの処理量60kg/hの条件で同時粉砕・混合し調整した(実施例8)。
【0035】
実施例9~12:結晶性クルクミン含有物理混合製剤の製造方法
実施例1と同様に調製した溶融処理クルクミン粉末に対して一定割合となるよう結晶性クルクミンを混合したものに、HPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)およびマルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)を単純混合して調製した(実施例9、10、11および12)。
【0036】
比較例1~8:クルクミン含有製剤の製造方法
実施例1と同様に調製した溶融処理クルクミン粉末(比較例1)、市販ウコン抽出物粉末(比較例2)、市販ウコン抽出物粉末とHPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)とマルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)の単純混合物(比較例3)、実施例1と同様に調製した1質量部の溶融処理クルクミン粉末に対して0.00175質量部の極微量のHPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)およびマルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)の単純混合物(比較例4)、また、実施例1と同様に調製した溶融処理クルクミン粉末と、加工デンプン(日澱化学(株)アミコール乳華D)、キシリトール(物産フードサイエンス(株))、マルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)、微結晶セルロース(旭化成ケミカルズ(株)FD-101)の単純混合物(比較例5、6、7および8)を調製した。
【0037】
比較例9~14:他化合物の非晶質体を含む組成物の製造方法
(1)非晶質ニフェジピンの調製
ニフェジピンをエチルアルコールに溶解し、そこにイオン交換水を徐々に加え、析出したニフェジピンを分離し乾燥して粉末を得た。その粉末X線回折から析出物は非晶質ニフェジピンと確認された。
(2)混合組成物の調製
(1)で調製した非晶質ニフェジピンを乳鉢で粉末化し目開き250μmの篩を通過したものと、同じく目開き250μmの篩を通過した水溶性高分子類(加工デンプン(日澱化学(株)アミコール乳華D)、HPMCAS(信越化学工業(株)AQOATTMAS-MF)、キシリトール(物産フードサイエンス(株))、マルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)、微結晶セルロース(旭化成ケミカルズ(株)FD-101)、HPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)とをそれぞれ単純混合して調整した(比較例9、10、11、12、13および14)。
【0038】
参考例1および2-1~2-3:複合体(固体分散体)の製造方法
実施例1と同様に調製した溶融処理クルクミン粉末と、HPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-03)、マルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)と3/16インチの鉄球(SUJ2)180g(混合粉砕容器の容積(50mL)に対する充填率を約80%とした)を混合粉砕容器(50mL用量PE製チューブ)に入れた。混合粉砕容器をボルテクスミキサー(SLB製:MyLab#SLV-6型)に取り付け、混合粉砕処理を行うことで粉末状の非晶質クルクミンを含有する複合体(固体分散体)を調製した(参考例1)。混合粉砕処理条件は、振幅±5.0mmおよび振動数3000rpmとした。また、参考例1に用いたHPMCメトローズSE-03をSE-50に置き換え、参考例1と同様に30分間複合化処理した製剤(参考例2-1)、60分間複合化処理した製剤(参考例2-2)および120分間複合化処理した製剤(参考例2-3)を調整した。
表1に実施例1~12、比較例1~8、参考例1および2-1~2-3の処方、水溶性高分子などの種類、クルクミンの溶融処理の有無および複合化処理時間を示す。また、表2に比較例9~14の処方、水溶性高分子などの種類、ニフェジピンの溶融処理の有無および複合化処理時間を記載する。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例13:物理混合製剤の示差走査熱量分析
本発明方法によって調製した物理混合製剤(実施例1)の熱物性が、非晶質クルクミン(比較例1)と類似すること、また、市販ウコン抽出物粉末(比較例2)および複合体(固体分散体、参考例1)と異なることを調べることを目的に、示差走査熱量分析装置DSC-60((株)島津製作所製)を用いて、昇温条件:10℃/分、測定範囲:室温~200℃の条件にて分析を実施した。なお、比較例1、2および参考例1も同様の条件で測定を実施した。
【0042】
図1に示したとおり、比較例1の溶融処理クルクミン粉末は113~133℃の間に非晶質体から結晶体への変化に伴う発熱を示し、比較例1および2に共通して173~193℃の間に結晶体クルクミンの融解に伴う吸熱反応が観察された。
図2から、複合体(固体分散体)の参考例1ではクルクミンの再結晶による発熱および結晶体のクルクミンの融点付近の吸熱が観察されなかった。一方、本発明方法によって調製した物理混合製剤(実施例1)の熱物性は比較例1と類似した133℃付近のクルクミンの再結晶化に伴う発熱および173~193℃の間に結晶体化したクルクミンの融解に伴う吸熱が観察され、且つ結晶体のクルクミン(比較例2)および複合体(固体分散体)(参考例1)と完全に異なる熱物性を示すことが分かった。
【0043】
実施例14:実施例2の明視野観察画像
本発明方法によって調製した物理混合製剤(実施例2)を、CCD蛍光顕微鏡BZ-X800((株)キーエンス製)を用いて観察した。
【0044】
図3に示したとおり、本発明の物理混合製剤は、300μm以下の粒子径であることが分かった。
【0045】
実施例15:実施例2のラット経口投与後の吸収性試験
(1)投与方法
8-9週齢の雄性SDラットに、実施例2の非晶質クルクミン含有物理混合製剤を生理食塩水に懸濁した後、クルクミン濃度として10mg/kgとなるよう強制経口投与し、投与前、投与30分後、投与1時間後および投与2時間後に採血を行い、下記で示した方法で採血した血漿中の総クルクミン濃度を測定した。なお、対照は、比較例1の溶融処理クルクミン粉末、比較例2の市販ウコン抽出物粉末、比較例3の市販ウコン抽出物粉末とHPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)とマルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)の単純混合物および既製品として株式会社セラバリューズが販売する高吸収性クルクミン製剤(TheracurminTM:CR-033P)を用いた。
【0046】
(2)血漿中クルクミン濃度の測定
a.前処理
血漿20μLに0.1M酢酸緩衝液(pH5.0)100μLとβ-グルクロニダーゼ溶液(約68,000units/mL)10μLを加え、37℃で1時間保持した。その後、内部標準液であるメプロニル20ng/mLが含まれる50%(v/v)メタノール10μLとクロロホルム0.5mLとを添加し、ボルテックスミキサーを用いて1分間撹拌後、超音波発生装置を用いて15分間混合処理を行った。次に、遠心分離(13,000×g、5分間、室温)によってクロロホルム層と水層とに分離した。この抽出操作を2回繰り返した後、このクロロホルム層を採取し、これを減圧遠心濃縮機を用いて溶媒留去することで乾固させた。ここに50%(v/v)メタノール100μLを添加し、遠心分離(13,000×g、5分間、室温)を行い、上清液を回収した。
【0047】
b.測定方法
上記a.で調製した上清液2μLをLC-MS/MS(島津社製)を用いて分析を行うことで血漿中クルクミン濃度を測定した。なお、LC-MS/MS分析条件は、LCカラムがAtlantis T3(2.1×150mm,3μm,Waters社製)、カラム温度が40℃、流速が0.2mL/min、移動相がA:0.1%(v/v)ギ酸水溶液、B:0.1%(v/v)ギ酸/アセトニトリルとし、表3の条件でグラジェント溶出を行った。また、MS分析条件は、イオン化モードがElectron Spray thermo ionization(ESI)、Positive、測定モードがMultiple Reaction Monitoring(MRM)とし、クルクミン369.1→177.2(m/z)、メプロニル270→119(m/z)で評価した。
【0048】
一方、試料中に含まれるクルクミン量を定量するために使用する検量線の作成は、クルクミンとして1.0、2.0、3.9、7.8、15.6、31.3、62.5、125又は250ng/mLの50%(v/v)メタノール溶液(クルクミン標準液)90μLにメプロニル20ng/mLの50%(v/v)メタノール溶液10μLを添加することで調製した各種標準溶液(クルクミン濃度0.9~225ng/mL)を用いて上記同様の条件で測定することで行った。
【0049】
【表3】
【0050】
(3)結果
血漿中総クルクミン濃度の経時的変化、血漿中総クルクミンの最高血中濃度(Cmax(ng/mL))および血漿中総クルクミン濃度―時間曲線下面積(AUC(ng/mL・0-2h))を図4図5、表4に示す。
表4に示したようにCmaxおよびAUCは低い順から、比較例2、比較例3、比較例1、既製品そして本発明方法によって調製した実施例2となり、本発明方法により調整した実施例2は比較例および既製品と比べて顕著に吸収性が高い結果を得た。
【0051】
【表4】
【0052】
実施例16:実施例3~5のラット経口投与後の吸収性試験
(1)投与方法
8週齢の雄性SDラットに、実施例3~5の非晶質クルクミン含有物理混合製剤を生理食塩水に懸濁した後、クルクミン濃度として10mg/kgとなるよう強制経口投与し、投与前、投与30分後、投与1時間後および投与2時間後に採血を行った。なお、対照は、比較例4および既製品として株式会社セラバリューズが販売する高吸収性クルクミン製剤(TheracurminTM:CR-033P)を用いた。採血した血漿中の総クルクミン濃度測定は実施例15記載の方法を用いた。
【0053】
(2)結果
血漿中総クルクミン濃度の経時的変化、血漿中総クルクミンの最高血中濃度(Cmax(ng/mL))および血漿中総クルクミン濃度―時間曲線下面積(AUC(ng/mL・0-2h))を図6図7、表5に示す。
表5に示したようにCmaxおよびAUCは低い順から、既製品、比較例4、実施例5、実施例4および実施例3となった。
【0054】
【表5】
【0055】
実施例17:実施例2~5、比較例1、4および参考例2-1~2-3の加速試験結果
本発明方法によって調製した物理混合製剤(実施例2~5)、溶融処理クルクミン粉末(比較例1)、1質量部の溶融処理クルクミン粉末に対して0.00175質量部の極微量のHPMCを含む単純混合物(比較例4)および複合体(固体分散体:参考例2-1~2-3)中の非晶質クルクミンの安定性を調べることを目的に、実施例2~5、比較例1、4および参考例2-1~2-3をアルミパウチに入れて40℃で保持し、クルクミンの結晶性を粉体X線回折装置(RINT-UltimaIII、Rigaku社製)を用いて、試験開始時(0M)および試験開始1~7.5ヶ月後(1~7.5M)に調べた。
【0056】
図8~11に示したとおり、実施例2~5は、試験開始7.5ヶ月後においてもクルクミン由来の結晶を示すピークは認められなかった。同様に、図14から、比較例4においても試験開始7.5ヶ月後にかけてクルクミン由来の結晶を示すピークは認められなかった。一方、図12から、溶融処理クルクミン粉末のみの比較例1では、試験開始4ヶ月後においてクルクミン由来の結晶を示すピーク(矢頭)が認められ、図15~17から、30分、60分、120分間複合化処理した参考例2-1~2-3は、試験開始1~2ヶ月後においてクルクミン由来の結晶を示すピーク(矢頭)が認められた。なお、クルクミン由来の結晶を示すピークは、図13の比較例2(市販ウコン抽出物粉末)のピークから判断される。
このように、溶融処理クルクミン粉末を用いて調製した物理混合製剤の実施例2~5、また、全く以外にも1質量部の溶融処理クルクミン粉末に対して0.00175質量部の極微量のHPMCを含む単純混合物である比較例4は、溶融処理クルクミン粉末のみの比較例1および複合体(固体分散体)の参考例2-1~2-3と比べ非晶質状態のクルクミンの再結晶が抑制され、良好に非晶質状態が維持されることが分かった。
【0057】
実施例18:実施例6、7のラット経口投与後の吸収性試験
(1)投与方法
7~8週齢の雄性SDラットに、実施例6、7の非晶質クルクミン含有物理混合製剤および比較例5~8を生理食塩水に懸濁した後、クルクミン濃度として10mg/kgとなるよう強制経口投与し、投与前、投与30分後、投与1時間後および投与2時間後に採血を行った。採血した血漿中の総クルクミン濃度測定は実施例15記載の方法を用いた。
【0058】
(2)結果
血漿中総クルクミン濃度の経時的変化、血漿中総クルクミンの最高血中濃度(Cmax(ng/mL))および血漿中総クルクミン濃度―時間曲線下面積(AUC(ng/mL・0-2h))を図18図19、表6に示す。
表6に示したようにCmaxおよびAUCは低い順から、比較例7、比較例8、比較例5、比較例6、実施例6および実施例7となった。
このように、pH5以上の水性媒体で粘稠となる水溶性高分子類との混合により、飛躍的にクルクミンの吸収性が向上する結果を得た。
【0059】
【表6】
【0060】
実施例19:実施例6、7の加速試験結果
本発明方法によって調製した物理混合製剤(実施例6、7)中の非晶質クルクミンの安定性を調べることを目的に、実施例6、7および比較例5~8を6穴プレートに入れて40℃、湿度75%で保持し、実施例17と同様にクルクミンの結晶性を試験開始時(0M)および試験開始1×1.25ヶ月後(1×1.25M)に調べた。
【0061】
図20、21に示したとおり、HPMCと混合した実施例6およびHPMCASと混合した実施例7は試験開始1×1.25ヶ月後においてもクルクミン由来の結晶を示すピークは認められなかった。一方、図22、24および25に示したとおり、加工デンプンと混合した比較例5、マルトデキストリンと混合した比較例7および微結晶セルロースと混合した比較例8は試験開始1×1.25ヶ月後においてクルクミン由来の結晶を示すピーク(矢頭)が認められ、図23のキシリトールと混合した比較例6は試験開始1×1.25ヶ月後において吸湿・潮解した。
このように、HPMC又はHPMCASを溶融処理クルクミン粉末と混合することにより非晶質状態のクルクミンの再結晶が抑制され、良好に非晶質状態が維持されることが分かった。
【0062】
実施例20:実施例8の加速試験結果
本発明の産業応用を目的として調整した実施例8中の非晶質クルクミンの安定性を調べることを目的に、実施例8をアルミパウチに入れて40℃で保持し、実施例17と同様にクルクミンの結晶性を試験開始時(0M)および試験開始1~2×1.25ヶ月後(1、1×1.25、2、2×1.25M)に調べた。
【0063】
図26に示したとおり、実施例8は試験開始から試験開始2×1.25ヶ月後にかけてクルクミン由来の結晶を示すピークの顕著な増加は認められなかった。クルクミン結晶の増加を評価する目的で、回折角2θ=8.2~9.3の範囲のクルクミン由来結晶ピーク下積分強度から結晶性クルクミン含有量を算出した結果、表7に示すとおり試験開始2×1.25ヶ月後で約10.4%となった。
【0064】
【表7】
【0065】
実施例21:結晶性クルクミン含有製剤のラット経口投与後の吸収性試験
(1)投与方法
7~8週齢の雄性SDラットに、実施例9~12の結晶性クルクミンを含む溶融処理クルクミン粉末(結晶性クルクミン含有率10~40%)とHPMC(信越化学工業(株)メトローズSE-50)およびマルトデキストリン(サンエイ糖化(株)NSD#300)により調整した製剤を生理食塩水に懸濁した後、クルクミン濃度として10mg/kgとなるよう強制経口投与し、投与前、投与30分後、投与1時間後および投与2時間後に採血を行った。採血した血漿中の総クルクミン濃度測定は実施例15記載の方法を用いた。
【0066】
(2)結果
血漿中総クルクミン濃度の経時的変化、血漿中総クルクミンの最高血中濃度(Cmax(ng/mL))および血中総クルクミン濃度-時間曲線下面積(AUC(ng/mL・0-2h))は低い順から、結晶性クルクミン40%含有、結晶性クルクミン30%含有、結晶性クルクミン20%含有および結晶性クルクミン10%含有となった。
【0067】
実施例22:他化合物の非晶質体を含む組成物のラット経口投与後の吸収性試験
実施例15、16、18および21では、ポリフェノールであるクルクミンの非晶質体と親水性高分子との本発明の組成物が経口吸収性に優れていることが示されたが、ポリフェノール以外の化合物でも同様の効果が期待できるか否かを検討するために、ニフェジピンを用いて本発明と同様の組成物を調製し、ラットに投与して血中濃度を測定した。
(1)投与方法
8-9週齢の雄性SDラットに、比較例9~14の非晶質ニフェジピン含有物理混合製剤を生理食塩水に懸濁した後、ニフェジピン濃度として1mg/kgとなるよう強制経口投与し、投与前、投与1、2、4時間後および投与6時間後に採血を行い、下記で示した方法で採血した血漿中のニフェジピン濃度を測定した。
(2)血漿中ニフェジピン濃度の測定
血漿中のニフェジピン濃度の測定はA.Nishimuraらの方法(J.Health Science,56(3),310-320,2010)に従った。
【0068】
結果:比較例のニフェジピン血漿濃度の推移と比較
比較例のニフェジピン血漿濃度推移を表8に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
表8からわかるように、非晶質ニフェジピンの場合には、非晶質クルクミンの場合に認められたような混合された高分子などの種類による吸収性の差は認められず、HPMCやHPMCASに著しい経口吸収促進効果は認められなかった。従って、本出願のHPMCやHPMCASと非晶質クルクミンとの混合物が示した経口吸収促進効果は極めて特異的なものであると言えよう。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
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