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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】管状ステント、心臓弁及び搬送システム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
A61F2/24
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021012667
(22)【出願日】2021-01-29
(62)【分割の表示】P 2017533301の分割
【原出願日】2015-12-18
(65)【公開番号】P2021072936
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】14199488.9
(32)【優先日】2014-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】14199956.5
(32)【優先日】2014-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517334285
【氏名又は名称】杭州啓明医療器械股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】VENUS MEDTECH (HANGZHOU),INC.
【住所又は居所原語表記】Room 311,Floor 3,Building 2,No.88 Jiangling Road,Xixing Street,Binjiang District Hangzhou,Zhejiang 310052(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】リム、ホウ-セン
(72)【発明者】
【氏名】ゲッツ、ヴォルフガング
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532456(JP,A)
【文献】特表2014-532457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0005863(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0216314(US,A1)
【文献】特表2011-500241(JP,A)
【文献】国際公開第2014/121275(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/145338(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/175468(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の心臓に埋め込み可能な形状記憶材料から構成された、押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)であって、
近位リング(71)、遠位リング(73)、及び前記近位リング(71)と前記遠位リング(73)との間に軸方向に延びる少なくとも2つの離間して配置されたポスト(69)を備え、
前記遠位リング(73)は、複数の遠位アーム(77)を備え、前記遠位アーム(77)が一端のみで前記遠位リング(73)に接続され、且つ、前記遠位アーム(77)の他端が自由端であり、
前記近位リング(71)は、複数の近位アーム(75)を備え、前記近位アーム(75)が一端のみで前記近位リング(71)に接続され、且つ、前記近位アーム(75)の他端が自由端であり、前記近位アーム(75)は、前記管状ステント(29)の半径方向の内向きに作用する力によって前記管状ステント(29)の縦軸(L)と平行に配置され、次に、前記力が解放される場合、前記近位アーム(75)の前記他端が前記近位アーム(75)の前記一端に対して前記半径方向の外側となるよう移動し、
前記遠位アーム(77)が前記遠位リング(73)に取り付けられ、前記心臓の自然構造を絡み付ける又は保持するための隙間(d1)が、前記遠位リング(73)に形成されている波形パターンと、前記遠位アーム(77)と、の間に形成され、
前記管状ステント(29)が押し縮められた状態から拡張される場合、前記隙間(d1)がなくならないように維持される、
ことを特徴とする押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項2】
前記遠位アーム(77)は、前記遠位リング(73)の遠位端又は遠位先端に接続される、ことを特徴とする請求項1に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項3】
前記近位アーム(75)は、前記近位リング(71)の近位端又は近位先端に接続される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項4】
少なくとも一部の前記遠位アーム(77)の前記他端及び/又は少なくとも一部の前記近位アーム(75)の前記他端には、手段(79)を有し、
前記遠位アーム(77)の前記他端に設けられた前記手段(79)は、前記手段(79)を有する前記遠位アーム(77)を、個別に制御し且つ引っ込めるように糸(49c)の取り付けを可能にするように構成されており、
前記近位アーム(75)の前記他端に設けられた前記手段(79)は、前記手段(79)を有する前記近位アーム(75)を、個別に制御し且つ引っ込めるように糸(49a)の取り付けを可能にするように構成されている、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項5】
少なくとも一部の前記近位アーム(75)は、前記力が解放される場合、前記近位アーム(75)と前記管状ステント(29)の前記縦軸(L)とが略70°の角度をなす、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項6】
少なくとも一部の前記近位アーム(75)は、生体適合性材料、又は、生体適合性シート材料の鍔(91)に互いに接続される、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項7】
前記管状ステント(29)が一体的に形成された、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項8】
前記近位アーム(75)の前記他端は、前記力が解放される場合、前記近位アーム(75)の前記一端よりも前記半径方向の外側に位置する、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項9】
前記近位リング(71)と前記遠位リング(73)は、前記力が解放される場合、それぞれ前記半径方向の外側に拡張する、ことを特徴とする請求項8に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項10】
前記遠位リング(73)は、前記遠位アーム(77)の前記他端が前記遠位アーム(77)の前記一端よりも遠位方向に位置するように前記遠位アーム(77)に力を加える場合、近位端よりも遠位端に小さい直径を呈するように配置される、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の管状ステント(29)を備える心臓弁であって、前記管状ステント(29)は、前記管状ステント(29)内に設けられた複数の可撓性弁尖に互いに接続され、前記可撓性弁尖は、下流方向での血液の流れを可能にするように開放され、且つ、上流方向での血液の流れを防止するように閉止される、ことを特徴とする心臓弁。
【請求項12】
前記可撓性弁尖は、第1尖端、第2尖端及び第3尖端を形成するように配置される、ことを特徴とする請求項11に記載の心臓弁。
【請求項13】
前記管状ステント(29)は、前記ポスト(69)を取り囲む生体適合性シート材の外装に接続される、ことを特徴とする請求項11又は12に記載の心臓弁。
【請求項14】
僧帽弁である、ことを特徴とする請求項11~13のいずれか1項に記載の心臓弁。
【請求項15】
心臓弁を患者の心臓に搬送するための搬送システムであって、請求項11~14のいずれか1項に記載の心臓弁を備える、ことを特徴とする搬送システム。
【請求項16】
少なくとも一部の前記近位アーム(75)は、前記力が解放される場合、前記近位アーム(75)と前記管状ステント(29)の前記縦軸(L)とが略60°~105°の角度をなす、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【請求項17】
少なくとも一部の前記近位アーム(75)は、前記力が解放される場合、前記近位アーム(75)と前記管状ステント(29)の前記縦軸(L)とが略60°~85°の角度をなす、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓に低侵襲的又は経皮的に埋め込まれるための人工弁に関し、特に、哺乳動物の心臓弁の置換に適した人工心臓弁に関し、さらに特に、房室弁、僧帽弁及び三尖弁に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓内の4つの弁は、血液が心臓の2つの側面を通って順方向に流れるように案内するために機能する。左心房と左心室との間に位置する僧帽弁と、左心室と大動脈との間に位置する大動脈弁とは、心臓の体循環部を構成する。これらの2つの弁は、肺から戻る酸素化血液が身体にわたって配分されるために心臓の左側を通って大動脈に入るように案内する。心臓の右側には、右心房と右心室との間に位置する三尖弁、及び、右心室と肺動脈との間に位置する肺動脈弁がある。これらの2つの弁は、身体から戻る脱酸素化血液が肺へ配分されるために心臓の右側を通って肺動脈に入るように案内する。血液が、肺に再酸素化され、新たに回路を開始する。
【0003】
心臓弁は、特定の弁の両側の差圧に応答して単純に開閉する弁尖を有する受動構造である。僧帽弁は、2つの弁尖を有するが、三尖弁は、3つの弁尖を有する。大動脈弁及び肺動脈弁は、半月形に幾分成形され且つ時に尖端と称される3つの弁尖のため、時には、半月弁と呼ばれる。
【0004】
各弁の弁尖及び周囲の素子は、果たす心臓の機能によって相違する。房室弁は、僧帽弁(心臓の左チャンバー内)及び三尖弁(心臓の右チャンバー内)としても知られ、一般に、下室の心筋又は筋層から乳頭筋を通って延びる連続体である。乳頭筋には、腱索として知られる腱のロープ状素子の合流部が付着する。腱索は、流れを許容するように開放され且つ流れを停止するように閉止される、異なる形状の弁尖のエッジ及び下面に付着する。弁尖は、通常、環状体として知られるリング状構造で終端する。環は、心臓の線維性骨格の一部である。
【0005】
左心室壁が弛緩する場合、心室チャンバーは拡大し、且つ、僧帽弁の弁尖が離間し、弁が開放されるとき、心房から血液を吸い込む。酸素化血液は、弁を通って下方向に流れ、拡張している心室腔に充填される。左心室腔が充填されると、左心室が収縮し、左心室腔の圧力の急激な向上を引き起こす。これによって、僧帽弁が閉止され、大動脈弁が開放されるため、酸素化血液が左心室から大動脈内に放出されることを可能にする。僧帽弁の腱索は、左心室チャンバーが収縮するとき、僧帽弁尖が左心房に脱出することを防止する。三尖弁の3つの弁尖、腱索、乳頭筋は、右心室の充填及びその後の収縮に応答して、同様に機能する。
【0006】
大動脈弁の尖端は、左心室と大動脈との間の圧力差に受動的に応答する。左心室が収縮する場合、大動脈弁の尖端は開放されるため、酸素化血液が左心室から大動脈内に流れることを可能にする。左心室が弛緩すると、大動脈弁の尖端は再結合し、大動脈に入った血液が左心室内に漏れて戻る(逆流する)ことを防止する。肺動脈弁の尖端は、同様に、脱酸素化血液が肺動脈内に移動され、そこから再酸素化のために肺へ移動されときの右心室の弛緩及び収縮に受動的に応答する。これらの半月弁の場合、関連する腱索又は乳頭筋を必要としない。
【0007】
狭窄は、心臓弁に生じるおそれがある、弁が適切に開放されないという問題であるが、不足又は逆流は、弁が適切に閉止されないという別の問題である。また、細菌感染又は真菌感染の場合、心臓弁が外科的に修復又は置換されることを必要とする可能性がある。時には、弁の外科的修復によって、このような問題は解決されることができ、しかしながら、通常、弁は、病変しすぎるため、修復されにくいので、置換される必要がある。心臓弁が置換される必要がある場合、従来、利用可能なオプションがいくつかあるが、要素、例えば、弁の位置、患者の年齢及び他の特徴、特定の外科医の経験及び好みに基づいて、特定の種類の人工弁が選択される。
【0008】
置換心臓弁又は心臓弁プロテーゼは、四十年以上にわたって製造されている。このような弁は、生物学的及び人工的な性質の様々な材料から製造され、その結果、2つの異なる種類のプロテーゼ、つまり、生物式及び機械式人工心臓弁が発展した。機械弁又は人工弁は、典型的に、非生物材料、例えば、プラスチック、金属及び他の人工材料から構成される。非生物材料は、耐久性があるが、塞栓症のリスクを増大する血液凝固を引き起こすおそれがある。血液凝固を防止するための抗凝血剤は、出血のリスクの増大に起因して、患者の健康を複雑にする可能性がある。
【0009】
構成される弁をもらう患者からの組織を使用するために工夫したが、生物弁又は生体弁は、動物組織、例えば、牛、馬又は豚の組織から構成される。生体弁は、通常、豚の大動脈弁の弁尖をステントに縫合して弁尖を適切な位置に保持することにより、構成され、又は、乳牛、馬又は豚の心膜から弁尖を構成してステントに縫合することにより、構成される。心膜は、心臓を取り囲み、胸壁構造体の残り部分から離間する膜である。このような豚、馬又は牛の組織は、化学的に処理されることにより、抗原性が緩和され、耐久性が一層向上する。さらなる処理が応用されることにより、石灰化に起因する長期間の構造的な弁の劣化を回避する。生体弁の1つの主な利点は、血液凝固が機械式弁のように容易に引き起こされないことであるため、終身の全身抗凝血を必ずしも必要としない。生体弁の主な欠点は、機械式弁の長期耐久性が欠如することである。
【0010】
逆流の僧帽弁又は損傷した僧帽弁を修復するために用いられる様々な外科技術は、環状切除、四角形切除(弁尖を狭くする)、交連部切開(弁交連部を切断し、弁尖を離間する)を含む。僧帽弁狭窄及び病変した大動脈弁のための最も普通の治療は、開心手術によって、自然弁の弁尖を切除して、通常、置換弁を自然弁の輪に縫合することにより、弁位置に置換弁を固定することにより、影響を受けた弁を人工弁で置換することである。高すぎる外科リスクのみで患者が手術可能と見なされる場合、弁狭窄に関する1つの代替案は、バルーンカテーテルを用いて自然弁を膨張させ、弁オリフィスを拡大するものである。しかしながら、このような実施は、高い再狭窄率がある。
【0011】
一般に、低侵襲技術を用いて心臓弁を置換し得ることは望ましい。血管内治療で不良な心臓弁を取り外すということが提案される。血管内治療は、大腿動脈などの血管を介して身体内に侵襲し、また、脈管系を用いて経皮的且つ経腔的に身体内に侵襲し、特定の身体位置に適切なデバイスを搬送して所望の治療を行うことである。血管形成術も、このような治療の実施例であり、遠位端で小さなバルーンを携行するカテーテルが身体の血管を介して血管内における閉塞部がある箇所に操作される。バルーンが拡張されることにより、閉塞部に開口部が形成され、次に、バルーンがしぼんだ後、カテーテル及びバルーンが取り外される。このような血管内治療は、健康、安全性及びコストの観点から実質的な利点を有する。このような治療の場合、人体の低侵襲を必要とし、その結果、全身麻酔の使用は、かなり低減され、いくつかの場合では必要とされなくなり、病院滞在はずっと短くなる。
【0012】
開示内容が参照により本明細書に組み込まれた特許文献1には、カテーテルが使用されることにより身体内に埋め込まれることが可能になる大動脈心臓弁プロテーゼが開示される。弁プロテーゼは、生体弁が接続された支持構造又は管状ステントを備え、この支持構造又は管状ステントが血管を介して押し縮められた形状で搬送される。プロテーゼは、患者の自然的な大動脈弁の近くの位置に搬送され、次に、その押し縮められた構成から展開された構成に拡張される。プロテーゼは、血管内の所望の位置、例えば大動脈弁の下流に、拡張状態で固定される。
【0013】
大動脈弁のための様々な形状及びデザインのプロテーゼを展開することにより、プロテーゼが、半径方向外側に圧縮される大動脈弁の3つの自然弁尖の内部に取り囲まれて埋め込まれるための様々な構成が説明されている。
【0014】
この一般的な種類のシステムは、有望であり、魅力があると見なされるため、低侵襲的に埋め込まれ得る人工弁を改良するための工夫が続けられている。
【0015】
一般に、低侵襲性治療の使用は多数の利点を有し、血管内治療が一般に使用される。しかしながら、脈管構造内に利用可能な空間は限られるため、手術野は、通常、血管の直径と同じ大きさである。その結果、工具や人工デバイスの導入が非常に複雑になり、埋め込まれるデバイスは、脈管構造内に導入され、そこに通されて操縦され、次に、所望の位置に位置するように形成され且つ構成される必要がある。大動脈狭窄を患う高齢患者の大部分の場合、大動脈血管及び大動脈弓は、石灰化した粥状斑によって影響を受ける。アテローム性大動脈血管を逆行する大型の工具やプロテーゼの搬送は、その後の潜在的な塞栓及び大動脈壁の破裂に伴うアテローム性大動脈壁の損傷のリスクを増大させる。
【0016】
大動脈弁置換の分野において達成された全ての改良にもかかわらず、有望な僧帽弁置換技術及び適切な僧帽弁デバイスの欠如が依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国特許第7837727号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、弁、特に僧帽弁、人工弁を患者の心臓に搬送するための搬送システムを提供することが目的である。搬送システムは、患者の胸部及び心臓の左心室、左心房又は右心房の壁の経皮的肋間穿刺によって、好ましくは、頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈及び他の血管の開口を通って、搬送システムの内腔内又は搬送システムに着脱自在に折り畳まれ又は捲縮されるように配置される人工弁を患者の心臓に搬送するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の1つの態様によれば、拡張可能且つ押し縮め可能な支持構造又は管状ステントを備えた人工僧帽弁は提供され、この支持構造又は管状ステントが、十分な可撓性を有するため、弁の最初放置の後で、最終放置の前に、完全に又は部分的に押し縮められる状態に回復することにより、弁の再位置決めを可能にする。この回復は、例えば開示内容が参照により本明細書に組み込まれた特許文献1に説明された、心臓弁の管状ステントに着脱可能に取り付けられた糸によって、達成することができる。
【0020】
本発明の1つの態様によれば、人間の心臓に埋め込み可能な形状記憶材料から構成され、又は、この形状記憶材料を備える押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステントは提供される。管状ステントは、近位リングと呼ばれる第1のリングと、近位リングから離れるように配置され、且つ以下に遠位リングと呼ばれる第2のリングとを備える。
【0021】
ステントは、前記リングの間に軸方向に延びる少なくとも2つの分離されたポストをさらに備える。ポストは、管状ステントの縦方向に延びてもよい。
【0022】
遠位リングは、以下に遠位アームと呼ばれ、且つ一端のみで遠位リングに接続され、及び/又は、遠位リングに固定されない対向する自由端を有する複数のアームを備える。
【0023】
近位リングは、以下に近位アームと呼ばれ、且つ一端のみで近位リングに接続され、及び/又は、近位リングに固定されない対向する自由端を有する複数のアームを備える。近位アームは、特に、半径方向内向きに作用する力によって管状ステントの縦軸と平行に配置され、次に、この力が解放される場合、自由端で外向きに延び、又は、自由端で半径方向外向きに揺動し、又は、半径方向外向きに移動し、又は、好ましくは、略70°、若しくは60°~105°、より好ましくは、60°~85°の角度で管状ステントの縦軸から離れるように構成される。
【0024】
本発明の別の態様によれば、本発明による管状ステントを備える心臓弁は提供される。管状ステントは、特に前記ステント内又は前記ステントに設けられた複数の可撓性弁尖に互いに接続され、弁尖は、下流方向での血液の流れを可能にするように開放され、且つ、上流方向での血液の流れを防止するように閉止される。
【0025】
本発明の実施形態は、他の任意の特徴と独立して、つまり、他の任意の特徴を組み合わせて有する必要はなく、1つ以上の先行及び/又は後続の特徴を追加的又は代替的に有することができる。
【0026】
「できる」、「~であってもよい」、又は「~を有してもよい」等の表現は、本明細書に使用される限り、それぞれ、「例示的な実施形態において、である」、又は、「例示的な実施形態において、~有する」、「好ましくは、~である」、又は、「好ましくは、~有する」と同義的に理解されるべきであり、例示的な実施形態を説明するためである。
【0027】
以下、「遠位端」という表現は、埋め込みデバイス又はインプラントのための収納デバイス(例えば、搬送カテーテル)の、挿着されるための端であると理解されてもよい。「近位端」という表現は、埋め込みデバイス又は収納デバイスの、遠位端に対向する端、換言すれば、外科医又は手術者に配向し且つ操作される端として理解されてもよい。
【0028】
「1つ」、「2つ」等の数値は、本明細書にが記載される限り、数値範囲の下限閾値を表す値として理解されるべきである。「1つ」等の数値は、当業者にとって矛盾が生じない限り、「少なくとも1つ」を含むと理解されるべきである。この説明又は理解は、当業者にとって技術的に可能である限り、「1つ」等の数値が「ちょうど1つ」であるという理解のように、本発明に含まれる。両方の理解は、本発明に含まれる。これは、本明細書に記載された任意の数値に適用される。
【0029】
本発明による若干の例示的な実施形態において、遠位アームは、遠位リングの遠位端又は遠位先端に接続され、又は、それと一体化して接続される。好ましくは、遠位アームは、遠位リングの遠位端又は遠位リングの波形パターンの遠位先端によって、遠位リングと排他的に接続され又は一体化する。
【0030】
本発明による所定の例示的な実施形態において、近位アームは、近位リングの近位端又は近位先端に接続され、又は、それと一体化して接続される。好ましくは、近位アームは、近位リングの近位端又は近位リングの波形パターンの近位先端によって、近位リングと排他的に接続され又は一体化する。
【0031】
本発明による若干の例示的な実施形態において、少なくとも一部の前記遠位アーム及び/又は一部の近位アームは、一部又は全部の前記アームを個別に制御し且つ/又は引っ込めるように糸の取り付けを可能にする手段を前記対向する自由端に有する。
【0032】
本発明による所定の例示的な実施形態において、一部又は全部の隣接する遠位アームは互いに連結又は接続されない。これらの実施形態において、一部又は全部の隣接する遠位アームは、遠位リングの波状構造、又は、管状ステントを形成しない被覆材料又は他の材料のみによって、互いに接触する。若干の例示的な実施形態において、これは、近位リングの近位アームにも適用される。
【0033】
本発明による所定の例示的な実施形態において、全部又は少なくとも一部の前記近位アームは、形状記憶能力によって、管状ステントの縦軸と略直角、好ましくは、60°~85°(図3の角度αを参照する)の角をなす状態を呈する傾向にある。
【0034】
本発明による若干の例示的な実施形態において、少なくとも一部の前記近位アームは、生体適合性材料、好ましくは、生体適合性シート材料の鍔に互いに接続される。
【0035】
本発明による所定の例示的な実施形態において、前記押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステントは、一体的に形成され、又は、単一ピースを形成する。特に、管状ステントは、形状記憶材料又は他の材料から製造された単独のエンベロープを備えない。
【0036】
本発明による若干の例示的な実施形態において、弁尖は、例えば、前尖、後尖及び側尖等の、第1尖端、第2尖端及び第3尖端を形成するように配置される。
【0037】
本発明による所定の例示的な実施形態において、管状ステントは、ポストを取り囲む生体適合性シート材料の外装に接続される。
【0038】
本発明による若干の例示的な実施形態において、前記心臓弁は僧帽弁である。
【0039】
本発明による所定の例示的な実施形態において、心臓弁は生体心臓弁又は人工心臓弁である。
【0040】
本発明による若干の例示的な実施形態において、前記近位及び遠位のリングは、可撓性を有する材料から形成され、且つ、リングの直径を変化させるように押し縮め可能且つ拡張可能な波状のワイヤ又は構造である。
【0041】
本発明による所定の例示的な実施形態において、前記リングは、半径方向に拘束されない場合、人体内の温度で一層大きい直径にリングを拡張する記憶を有する。
【0042】
本発明による若干の例示的な実施形態において、等角度に分離された、縦方向に延びる3つのポストは、端で前記近位及び遠位のリングと一体化するように設けられる。
【0043】
本発明による若干の例示的な実施形態において、全部又は一部の前記ポストは、その遠位端及び近位端に隣接して位置する開口を有し、糸は、開口を通り、且つ、前記ステントを押し縮められた配向又は状態で維持するように、半径方向内向きの力を印加することができる。
【0044】
本発明による若干の例示的な実施形態において、生体適合性シート材料の外装は、前記管状ステントを取り囲む。
【0045】
本発明による若干の例示的な実施形態において、管状ステントは、複数の波状ループに巻き付けられた形状記憶合金ワイヤの連続ストランドから形成される。
【0046】
本発明による所定の例示的な実施形態において、管状ステントは、遠位アーム及び近位アームを備えるため、弁尖の自由なエッジ及び/又は腱索に掛止された一方の側の遠位アームと、自然弁輪に位置し、遠位アームに対する反作用力を発生させる他方の側の鍔によって、心臓内に固定される。このように、ステント本体は、弁尖の自由なエッジ(腱索)と僧帽弁輪との間に拘束されてもよい。鍔は、左心房の方向へ管状ステントを引っ張る力を発生させることができ、遠位アームは、左心房の方向へステントの移動を防止する。このように、管状ステントは、環内のリベット又はボルトとして見なされてもよい。
【0047】
本発明による若干の例示的な実施形態において、隙間又は最小距離は、遠位リングの近位先端の外端又は径方向端と遠位アームとの間に形成される。リング及びアームは、隙間が(実質的に)変化しなく、又は、捲縮若しくは展開の場合、変化する傾向にないように設けられる。従って、管状ステントを備える弁が埋め込まれる場合、隙間は、少なくとも多少維持される。
【0048】
本発明による所定の例示的な実施形態において、遠位リング、又は、遠位リングを形成する特定の波形は、傾斜し、又は、管状主体の縦軸に好ましくは垂直な仮想回転軸の周りに回転するように配置される。
【0049】
本発明による例示的な実施形態において、本明細書に記載された一部の利点が達成されることができる。
【0050】
本発明は、外傷、合併症のリスク、回復時間、及び患者の痛みを実質的に低減するために、胸骨正中切開又は他の形態の全体的な開胸を必要とすることなく、心臓又は大血管内への介入を容易にするための低侵襲性システムを開示する。外科治療は、血管内ではないが、患者の胸郭の肋間腔内の経皮的な穿刺によって行われる。又は、静脈、例えば、大腿を介して行われる。
【0051】
僧帽弁を修復又は置換するために、大腿静脈から右心房と左心房とを離間する心房中隔を通る血管内カテーテル法を使用することにより左心房に近接するための慣用治療は採用される。
【0052】
本発明の別の利点は、弁は、チューブ内又はチューブに装着される場合、2つよりも多い3つ以上の弁尖を備えることが好ましい。2つの弁尖のみが製造される場合、弁尖の自由なエッジの長さは、弁尖が大幅に開放され且つ大きい開口オリフィスが提供されることを可能にしない弁の直径に等しい。むしろ、得られたオリフィスは、スリットにすぎない。しかしながら、3つの弁尖が設けられる場合、弁尖の自由なエッジは、大幅に開放されるため、開口のとき、大きい、可能な円形のオリフィスが形成される。従って、3つの弁尖が設けられることは、大動脈弁内の状況と同様なように、物理、機械及び流体力学上の理由がある。それに比べて、自然的な僧帽弁は、2つの弁尖が大動脈弁内の尖端の代わりに帆のように動作する限り、2つの弁尖のみで動作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1は、第1の実施形態による、完全に引っ込められた又は押し縮められた配向で示された置換心臓弁のためのステントの斜視図である。
図1a図1aは、第2の実施形態による、完全に引っ込められた又は押し縮められた配向での、図1のものと類似の置換心臓弁のためのステントの斜視図である。
図2図2は、拡張された配向で示された、図1のステントの斜視図である。
図3図3は、図2の7-7線に概ね沿った断面図である。
図3a図3aは、非完全に展開された状態での、図2の7-7線に概ね沿った断面図である。
図4図4は、図1に対応し、鍔付きの図1のステントを示す。
図5図5は、図2に対応し、鍔付きの図1のステントを示す。
図6図6は、管状ステント本体から又は管状ステントの縦方向中心線から遠位アームの先端を離間するための手段を備える、本発明による例示的な実施形態を示す。
図7図7は、管状ステント本体から又は管状ステントの縦方向中心線から遠位アームの先端を一時的に離す力の発生に関する、図6に示されたものと別の実施形態を示す。
図8図8は、管状ステント本体から又は管状ステントの縦方向中心線から遠位アームの先端を一時的に離す力の発生に関する、図6に示されたものと更に別の代替実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の様々な特徴を組み込んだ管状ステント29の第1の好適な実施形態は、図1ないし図6に示され、図1aが別の好適な実施形態を示す。管状ステント29は、縦軸Lを有する管状の展開形態を有し、必要に応じて生体適合性の薄いシート材料(図示せず)の被覆層に取り囲まれる。管状ステント29は、搬送器具が使用されることにより、押し縮められた状態で展開されるように設計される。管状ステント29は、搬送器具において、カテーテル又はカテーテル内に摺動可能に設置される。カテーテルは、静脈を介して、又は、胸部の肋間に埋め込まれたカニューレを介して身体に入れられる。管状ステント29は、胸部を介して、心臓の心房壁又は左心室壁を通って、次に、例えば僧帽弁のオリフィスを通って案内される。
【0055】
管状ステント29は、ワイヤ状の材料から製造されることができ、円形、正方形、長方形、楕円形又は他の断面を有してもよく、また、充分な弾性を有する形状記憶合金材料から製造されることができるため、半径方向内向きの力が印加され、管状半径の直径が低減されることにより、管状ステント29が手動的に捲縮又は収縮することができる。具体的には、管状ステント29は、好ましくは、生体適合性であり形状記憶特性を有する適切な金属又はポリマー材料から製造される。ステントの一部又は全部は、再吸収可能であることができる。しかしながら、管状ステント29は、より好ましくは、正常体温である37℃未満の活性化温度(Af)を有するニチノール合金から製造されるため、Afと管状ステント29が展開される温度との温度差が変えられることにより、「記憶」形状に回復する傾向にある半径方向の力が制御されることができる。糸状構造全体の各素子は、通常、正方形、長方形、円形又は楕円形の断面を有する。この断面は、所望の最終的な弁サイズに比例する適切な直径を有する単一のチューブが好ましくレーザーで切られ、構造が形成された後、研磨されることにより形成される。このように切られた後、管状ステント29は、所望の最終形状を有するように形成され、次に、「記憶」形状が設定されるように熱処理されるため、常にこの形状に回復する。ニチノール合金が適切に選択されて処理されることにより、管状ステント29は、正常体温以下の超弾性を有するため、操作を可能にする充分な可撓性を示す。従って、管状ステント29が体温に徐々に温められるため、管状ステント29は、図2に示すような所望の折り畳まれた最終形状をゆっくり呈する。
【0056】
生体心臓弁の一部として組み込まれるように設計された管状ステント29の好適な実施形態は、図1ないし図2に示されている。管状ステント29は、形状記憶材料から製造され、拡張又は収縮を可能にして異なる直径を示すように構成される。基本的には、ステント29は、近位又は頂部リング(又は、リング部)71と、底部又は近位リング(又は、リング部)73と、複数、特に3つの縦方向に延びるポスト69とを備え、ポスト69の端部が2つの分離されたリング71、73に接続される。ポスト69は、例示的に、互いに等角度に120度で位置する。ポスト69は、例示的に、同様に長い。リング及びポストは、管状ステント29に関して前述されたように、一般にワイヤ状の材料から形成されてもよい。しかしながら、ステント29も、チューブがレーザーで切られることにより形成されことが好ましい。2つのリングも、近位及び遠位先端を有する波状のデザインであり、近位リング71が、必要に応じてわずかに深いループを有することが好ましい。波状において、複数のループは、略正弦波状に配置され、反対方向に延びることができ、遠位及び近位先端が各リングに位置する。ポスト69は、これらの2つの分離されたリング71、73を離間することができる。ポスト69は、リング71、73を離間し、又は互いに接続する唯一の素子(弁尖又は他の被覆材料を除く)、金属又は形状記憶素子である。ポスト69は、メッシュの一部でなくてもよい。ポスト自体は、波状構造を有しなくてもよく、又は、少なくとも、リング71、73のいずれかの波状構造を有しなくてもよい。
【0057】
円形開口37は、必要に応じて3つのポストの各端部に隣接して設けられる。これは、ステント29を折り畳むための制御紐又は糸の搬送を容易にする。
【0058】
この構造は、複数の遠位アーム77が底部又は遠位リング73の分離された先端の一部又は他の任意の区間から延び、複数の近位アーム75が頂部又は近位リング71の先端又は他の任意の区間から延びるように構成される。本発明による若干の実施形態において、遠位アーム77及び近位アーム75の両方が、管状ステント29が未展開又は捲縮された状態で同一方向に延びる。図1の実施例において、方向は、図1の上部に向かい、つまり、遠位から近位に向かう。
【0059】
図1ないし図3の例示的な実施形態において、遠位アーム77は、遠位又は底部リング73の遠位先端のみに取り付けられるが、近位アーム75は、頂部又は近位リング71の近位先端に取り付けられる。しかしながら、これは、限定を意図しない。
【0060】
組を成すアーム75及び組を成すアーム77の端部に位置する、必要に応じて設けられ且つおそらく開口を有するタブ又はアイレット79は、前述したようにアームの形状記憶動作を制御又は反転するための組を成す糸の搬送のための位置を再び提供する。
【0061】
必要に応じて、図1に示すように、近位アーム75は、異なる長さを有することができる。例えば、アーム75aは、アーム75bよりも長い。このように、鍔91は、図4図5に示すように、管状ステント29が埋め込まれる、血液還流を回避するためにシールされる環状体の特定の状況に適合することができる。従って、アーム75は、他の近位アーム75よりも長いことが有利である。
【0062】
必要に応じて、図1aに示すように、近位アーム75は、折り畳まれた状態又は捲縮された状態で管状ステント29の遠位端に向かって延びるように配置されることができる。その結果、管状ステント29が展開され又は広げられると、近位アーム75は、図2に示す位置に揺動する。これは、近位アーム75が、外部応力又は外部力から解放されると、下方に揺動するという図1の第1の実施形態と相違する。捲縮された状態で近位アームが上方に延びる図1のものに比べて、図1aの例示的な実施形態は、比較的に短い折り畳まれた管状ステント本体29を有することを可能にする(展開された状態で図1のものと同じ高さを有する)。これは、管状ステント29がカテーテル等によって推進される場合、有利に、管状ステント29の操縦を容易にする。
【0063】
図1aにおいて、近位アーム75は、例示的に、近位リング71の遠位先端に取り付けられる。しかしながら、図1に示したものと同様に、近位アーム75は、代わりに、近位リング71の近位先端に取り付けられてもよい。
【0064】
弁デバイスのための弁尖を提供するために、可撓性シート材料39、例えば、心膜は、好ましくは、近位又は底部リング構造71、73の区間の周りに巻き付けられ、ポスト69の間のリング部を完全に取り囲むことにより、ステント29内のリングの遠位内部に延び、弁尖(図示せず)を形成する。ステント29の遠位又は底部リング73は、各図に示すように、形成され、外側に凹むC字状の輪郭を有する。これは、本質的に、周囲のように、部分的にトロイダル面を規定する。ポスト69は、長さにわたって並列された平行な開口43の列を有し、コード又はタイが開口43を通り、ステント29内の適切な位置にある弁尖(図示せず)が動作弁を形成する。任意の適切な弁尖のデザイン及び付属品、例えば、当分野における周知のものは、採用されてもよい。一般に、3つの米国特許出願公開に開示された一般的な種類のいずれかの弁尖は、使用されてもよく、これらの米国特許出願公開は、開示内容が参照により本明細書に組み込まれた、第2005/0075731号、第2005/0113910号及び第2005/0203617号である。ポスト69の付属品がある場合、弁尖を補強するために、プレッジが設けられてもよい。
【0065】
本発明による若干の例示的な実施形態において、弁尖の一部又は全部は、例えばPTFEの生物材料の代わりに、任意の人工材料から製造される。他の実施形態において、弁尖は、身体自体の組織及び細胞によって経年置換される生体再吸収可能な材料から製造される。
【0066】
管状ステント29が埋め込まれるために、管状ステント29は、図1に示すような管状の展開形態で、管状搬送器具47(図8を参照)の外表面の周りに位置し、組み立てられたものは、カテーテル(図示せず)の遠位端に装填される。
【0067】
図2は、力又は応力が管状ステント材料に作用しない場合、完全に拡張された状態での図1の管状ステント29を示す。理解できるように、近位アーム75の自由端は、水平位置(図2の図示に関して)よりも下げられる。従って、図3の近位アーム75とポスト69との間の角度αは、略70°、又は60°~105°、好ましくは、60°~85°であってもよい。
【0068】
図3は、図2の7-7線に概ね沿った断面図である。従って、図3は、力又は応力が管状ステント材料に作用しない場合、完全に拡張された状態での図1の管状ステント29を示す。図3に示すように、隙間d1は、遠位リング73の近位先端の外端又は径方向端と遠位アーム77との間に形成される。図3aに詳しく示すように、例えばポスト69に対する遠位アーム77の位置は、展開又は捲縮の場合、変化する。しかしながら、近位先端の外端又は径方向端に対する遠位アーム77の位置は、変化しない(又は概ね変化しない)。このため、展開や捲縮等の場合、この隙間は、変化しない、又は、変化する傾向にない。従って、管状ステント29が埋め込まれる場合、距離d1は、少なくとも、多少維持される。いずれにしても、埋め込みの場合、隙間が存在すべきである。
【0069】
管状ステント29が埋め込まれる場合、隙間d1は、本明細書に記載されるように、心臓の自然構造を絡み付ける又は保持するためのものである。このように、遠位アーム77と隙間d1とは、共に、管状ステント29を自然構造に掛止するためのフックとして機能する。このように、管状ステント29は、例えば腱索に掛止されると、左心室から左心房への進入が防止される。
【0070】
図3aは、非完全に展開された状態での図2の管状ステント29を示す。図に示すように、ポスト69と遠位アーム77との間の角が大幅に広げられるが、隙間d1は変化しない。
【0071】
図3図3aとを比較すると、管状ステント29が展開される場合、遠位リング73又は遠位アーム77を形成する特定の波形は、傾斜し、又は、図3及び図3aの描画平面内に延びる仮想回転軸70の周りに回転するように見える。
【0072】
近位アーム75及び遠位アーム77の開き角度に関して、図1図2図3及び図3aを比較すると、管状ステント29は、近位アーム75と遠位アーム77との間の埋め込みの期間に、オリフィス又は環状体に依然として接続された自然弁又はその一部を挟持するためのものであることが明らかであり、近位アーム75と遠位アーム77が管状ステント29(形状記憶能力を有する適切な材料から製造され)に配置され、可能な限り互いに近接する。特に、近位アーム75は、管状ステント本体に縦方向の力を印加し、それを左心房内に引っ張ることができる。弁尖の自由エッジ及び腱索に掛止された遠位アーム77は、左心房への管ステント29の移動を防止する。従って、近位アーム75及び遠位アーム77は、管状ステント29をオリフィス又は環状体に固定するリベットとして機能する。
【0073】
図4は、図1に対応するが、図5は、図2に対応する。図4及び図5は、図1及び図2の管状ステント29をそれぞれ示す。図4及び図5は、近位アーム75に取り付けられた縁又は鍔91をさらに開示するという点で、図1及び図2と相違する。僧帽弁の弁尖は、いずれかの図面に示されないと注意されたい。これらは、明瞭及び可読性のみのために省略される。また、図5に、鍔91の半分のみが示される。
【0074】
図4及び図5に例示的に示すように、鍔91は、近位アーム75によって、その長さの全体又はほぼ全体に沿って支持される。図4及び図5の実施例において、アーム75は、下表面又は外表面によって鍔91に接触する。しかしながら、アーム75は、上表面又は内表面によって、又は上表面及び下表面の両方によって、鍔91に接触してもよい。本発明による若干の例示的な実施形態において、アーム75は、両方の側にある鍔材料によって被覆される。従って、アーム75は、2層の鍔材料の間に挟まれてもよい。
【0075】
図6は、遠位又は底部リング構造73のアーム77が、捲縮された状態又は展開されない状態と異なる、非完全に外にめくられる状態を呈することを示す。理解を容易にするために、2つの例示的な横アーム77のみが示される。明らかに示されるように、アーム77は、図6に示すようにアーム77の自由端がステント29の管状本体から離れた水平配向よりも低いものに最初に下げられることができる。力は、例えば、リング構造体73の周りに案内され且つリング構造の形状を変形する糸78から発生し、それによって、遠位リング73の遠位端又は開口は、遠位リング73の近位端又は開口よりも狭く又は小さくなる(図6には示されない)。糸78の効果を補強するために、糸78は、図6に示すようにリング73の中央に概ね位置する糸78よりも、遠位リング構造73の遠位端に近接して配置されてもよい。糸78が中央よりもリング構造73の遠位端に近接するように維持されるために、糸78のための、例えば開口87等の保持手段は、例えば、リング構造73自体に設けられてもよい。また、このようなオプションの保持手段は、リング73の内側、外側又は遠位前側に糸78を案内するように配置されてもよい。図6は、このような開口が遠位リング73の遠位前側に配置されることを示す。もちろん、2つ以上のこのような開口87が設けられることもできる。
【0076】
糸78は、巾着状に巻き付けられてもよい。糸78は、図6に示すように案内され、又は、他の任意の適切な位置に位置し、例えば、遠位リング構造73の遠位先端の全部又は少なくとも一部に設けられた複数の開口87を通るように案内されてもよい。
【0077】
糸78が引っ張られることにより、遠位リング73は、図3に示すように、傾斜又は回転する。明らかに示されるように、図6において、糸78が緩み、糸78によって遠位リング73に印加される張力はない。
【0078】
若干の例示的な実施形態において、糸78によって、管状ステント29又はその一部は折り畳まれることができる。管状ステント29が位置し且つ固定され、埋め込みが成功したと見なされると、糸78は、一方の端部が外され、他方の端部が引き戻されることにより、取り外されることができる。
【0079】
図7は、管状ステント29本体からアーム77の自由端又は先端を一時的に離す力の発生に関する、図6に示されたものと別の実施形態を示す。図7において、好適な、好ましくは可撓性プッシャー80、又は、充分に硬い場合のオプションのスリーブの先端は、アーム77に向かう矢印方向に沿って、好ましくは、アーム77が遠位リング構造73に取り付けられ箇所に近接して押される。部分的に示されたプッシャー80は、器具47内に、又は、器具47に対して、摺動可能に配置されてもよい。図7の実施形態において、プッシャーは、遠位リング73を傾斜又は回転させるため、隙間d1が維持されると同時に、遠位アーム77が管状本体又はポスト69からずれる。
【0080】
図8は、管状ステント本体からアーム77の自由端又は先端を一時的に離す力の発生に関する、図6に示されたものと更に別の実施形態を示す。図8において、より明瞭にするために、管状ステント本体は、遠位リング73及び近位リング71のみが示される。また、管状ステント29は、搬送又は埋め込みデバイス47、例えば、カテーテル又はカテーテルの先端に取り付けられる。糸49b、49d、特に、図8の特定の実施形態において、アーム75とアーム77の少なくとも1つに作用するための糸49a、49cとして、管状ステント29を拡張又は展開するための糸49は、示される。これらは、全て、カテーテル47を通って、又は、リング71、73を囲んで、且つ、必要に応じて、アーム75又はアーム77のアイレット又は開口79を通って、摺動可能に搬送される。図8に示される特定の実施形態において、明らかに示されるように、隙間d1は維持されない。
【0081】
図6ないし図8の解決手段は、アーム77とアーム77を一時的に保持するための管状ステント本体との間の角を増大することを可能にする。このように、管状ステント29は、アーム77によって、心臓内の自然的な僧帽弁オリフィスよりも幅広くなることができる。管状ステント29は、展開されたアーム77と共に入念に引っ込められると、リングを形成する心筋に押し付けられる自然的な僧帽弁の弁尖に押し付けられ又は引っ張られる。また、アーム77は、腱索として知られる腱のロープ状素子の合流部によって、絡み付けられ又は保持される。その結果、管状ステント29が貼り付けられる。注目されるように、管状ステント29を携行するカテーテルが心室外に入念に引っ張られ又は近く推進されると、外科医は、自身の手で、管状ステント29が心臓内の最終位置に至ったことを知る。これは、イメージング技術によって確定されることができる。
【0082】
管状ステント29がカテーテルスリーブによって拘束されないと共に、アーム77が心室内における例えば腱索等の構造に掛止されると、近位アーム75は、半径方向外向きに水平位置に拡張し始める。糸49aが設けられる場合、アーム75が下げられることが可能になるように、糸49aは、外科医によって緩まれる。
【0083】
本発明による多くの例示的な実施形態において、遠位アーム77と管状ステント29縦軸又はポスト69との間の開き角度は、35°~70°である、又は、35°~70°の間の任意の値である。
【0084】
本明細書における「水平位置」は、管状ステント29の本体を鉛直に示す図面に示されるものを指す。「水平」は、ステント本体の縦軸又はポスト69に垂直な線又は平面に関するのは言うまでもない。
【0085】
糸49b、49dのループを切る前に、自然的な僧帽弁内の所望の位置が得られなかったことが判定されると、ループ49b、49dが取り付けられる限り、管状ステント29は、依然として、僧帽弁から引き戻されることができる。
【0086】
経食道心エコー法で、弁機能、弁尖移動、弁内外の勾配及び逆流が観察されることにより、これらの埋め込まれた弁のいずれかの位置決め及び機能が良好であると確定されると、治療が完了する。搬送デバイスが取り外され、心臓の静脈又は壁が安全に閉められる。
【0087】
本発明を実施するために発明者に知られた最良のモードを構成する若干の好適な実施形態を参照しながら、本発明が説明されたが、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、当業者にとって明らかな様々な変更及び修正が行われることができると理解すべきである。
【0088】
本発明の特定の特徴は、特許請求の範囲において強調される。
【0089】
(付記)
(付記1)
人間の心臓に埋め込み可能な形状記憶材料から構成された、押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)であって、
近位リング(71)、遠位リング(73)、及び前記近位リング(71)と前記遠位リング(73)との間に軸方向に延びる少なくとも2つの分離されたポスト(69)を備え、
前記遠位リング(73)は、複数の遠位アーム(77)を備え、前記遠位アーム(77)が一端のみで前記遠位リング(73)に接続され、且つ、対向する自由端を有し、
前記近位リング(71)は、複数の近位アーム(75)を備え、前記近位アーム(75)が一端のみで前記近位リング(71)に接続され、且つ、対向する自由端を有し、前記近位アーム(75)は、特に、半径方向内向きに作用する力によって前記管状ステント(29)の縦軸と平行に配置され、次に、前記力が解放される場合、自由端で半径方向外向きに揺動し、又は、半径方向外向きに移動し、又は、好ましくは、略70°、若しくは60°~105°、より好ましくは、60°~85°の角度で前記管状ステント(29)の縦軸から離れるように構成される、
ことを特徴とする押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0090】
(付記2)
前記遠位アーム(77)は、前記遠位リング(73)の遠位端又は遠位先端に、好ましくは排他的に、接続される、ことを特徴とする付記1に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0091】
(付記3)
前記近位アーム(75)は、前記近位リング(71)の近位端又は近位先端に、好ましくは排他的に、接続される、ことを特徴とする付記1又は2に記載の押し縮め可能且つ折り畳み可能な管状ステント(29)。
【0092】
(付記4)
少なくとも一部の前記遠位アーム(77)及び/又は一部の前記近位アーム(75)は、一部又は全部の前記アーム(75、77)を個別に制御し且つ引っ込めるように糸(49a、49c)の取り付けを可能にする手段(79)を前記対向する自由端に有する、ことを特徴とする付記1~3のいずれか1つに記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0093】
(付記5)
少なくとも一部の前記近位アーム(75)は、前記管状ステント(29)の縦軸(L)と略直角をなす姿を呈する傾向にある、ことを特徴とする付記1~4のいずれか1つに記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0094】
(付記6)
少なくとも一部の前記近位アーム(75)は、生体適合性材料、好ましくは、生体適合性シート材料の鍔(91)に互いに接続される、ことを特徴とする付記1~5のいずれか1つに記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0095】
(付記7)
前記管状ステント(29)が一体的に形成された、ことを特徴とする付記1~6のいずれか1つに記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0096】
(付記8)
前記遠位アーム(77)が前記遠位リング(73)又はその一部に取り付けられ、隙間(d1)が前記遠位リング(73)の波形パターンの近位区間又は波形パターンの周囲又は波形パターンのエンベロープと前記遠位アーム(77)との間に形成される、ことを特徴とする付記1~7のいずれか1つに記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0097】
(付記9)
前記管状ステント(29)が捲縮された状態から展開される場合、前記隙間(d1)が幅広くなく且つ狭くなく、又は、前記隙間(d1)の幅が維持されるように、前記管状ステント(29)は製造される、ことを特徴とする付記8に記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0098】
(付記10)
前記遠位リング(73)は、前記遠位アーム(77)の自由端が半径方向に前記縦軸(L)又は前記管状ステント(29)の縦軸中心線からさらに延びる場合、近位端よりも遠位端に小さい直径を呈するように配置される、ことを特徴とする付記1~9のいずれか1つに記載の押し縮め可能且つ拡張可能な管状ステント(29)。
【0099】
(付記11)
付記1~10のいずれか1つに記載の管状ステント(29)を備える心臓弁であって、前記管状ステント(29)は、前記ステント(29)内に設けられた複数の可撓性弁尖に互いに接続され、前記弁尖は、下流方向での血液の流れを可能にするように開放され、且つ、上流方向での血液の流れを防止するように閉止される、ことを特徴とする心臓弁。
【0100】
(付記12)
前記弁尖は、第1尖端、第2尖端及び第3尖端を形成するように配置される、ことを特徴とする付記11に記載の心臓弁。
【0101】
(付記13)
前記ステント(29)は、前記ポスト(69)を取り囲む生体適合性シート材の外装に接続される、ことを特徴とする付記11又は12に記載の心臓弁。
【0102】
(付記14)
僧帽弁である、ことを特徴とする付記11~13のいずれか1つに記載の心臓弁。
【0103】
(付記15)
心臓弁を患者の心臓に搬送するための搬送システムであって、付記11~14のいずれか1つに記載の心臓弁を備える、ことを特徴とする搬送システム。
図1
図1a
図2
図3
図3a
図4
図5
図6
図7
図8