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  • 特許-モータの冷却構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】モータの冷却構造
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20220516BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20220516BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K9/19 B
F16H57/04 K
F16H57/04 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018004637
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019126158
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】森下 真臣
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-154258(JP,A)
【文献】特開2015-095961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースで回転可能に支持されたモータシャフトと、
前記モータシャフトに外挿されて固定されたロータコアと、
前記ロータコアの外周を囲むステータコアと、
前記モータシャフト内を、当該モータシャフトの長手方向に延びる油路と、
前記モータシャフトの外周と前記油路とを連通させる連通孔と、を有するモータの冷却構造であって、
前記油路は、前記ロータコアの内径側を、前記モータシャフトの長手方向の一方側から他方側に横切って設けられて、冷却用媒体が、前記油路内を前記一方側から前記他方側に向けて通流するようになっており、
前記連通孔は、
前記モータシャフトの長手方向における前記ロータコアの前記一方側で、前記ステータコアの前記一方側のコイルエンドに対応する位置に設けられた第1連通孔と、
前記モータシャフトの長手方向における前記ロータコアの前記他方側で、前記ステータコアの前記他方側のコイルエンドに対応する位置に設けられた第2連通孔と、を有しており、
前記第1連通孔は、前記第2連通孔よりも小さい開口径で形成されており、
前記第2連通孔から排出された前記冷却用媒体を、前記一方側のコイルエンドに誘導する誘導路を有し
前記ケースでは、モータの出力回転が伝達されるギアの軸部が、前記モータシャフトの径方向外側で回転可能に支持されており、
前記ギアの軸部は、前記モータシャフトに沿わせた向きで設けられており、
前記ギアの軸部には、前記冷却用媒体が流入する流入路が、前記ギアの軸部の長手方向に沿って設けられており、
前記ギアの軸部には、前記流入路に流入した前記冷却用媒体の排出孔が、前記ステータコアの前記一方側のコイルエンドに対応する位置に設けられており、
前記誘導路は、
前記第2連通孔から排出された前記冷却用媒体を前記流入路に供給する供給路と、前記流入路と、前記排出孔と、から構成される、モータの冷却構造。
【請求項2】
前記ケースでは、前記供給路に接する領域に、放熱用の加工が施されている請求項に記載のモータの冷却構造。
【請求項3】
前記ケースは、
前記モータシャフトの前記一方側の端部を支持する第1ケースと、前記モータシャフトの前記他方側の端部を支持する第2ケースとを、前記モータシャフトの長手方向で組み付けて構成されており、
前記第2ケースでは、
前記モータシャフトを回転可能に支持するモータ側支持部と、
前記ギアの軸部を回転可能に支持するギア側支持部と、が隣接して設けられており、
前記モータ側支持部は、前記モータシャフトの長手方向で、前記ギア側支持部と位置をずらして設けられており、
前記供給路は、前記ケースの外側面で前記モータ側支持部と前記ギア側支持部とに跨がって設けられたリブ内に設けられている請求項に記載のモータの冷却構造。
【請求項4】
前記モータシャフトでは、前記ロータコアよりも前記一方側に、前記モータシャフトの回転を変速して前記ギアに伝達する変速機構部が設けられており、
前記連通孔は、前記モータシャフトにおける前記変速機構部に対応する位置に、第3連通孔をさらに有しており、
前記第3連通孔は、前記第1連通孔よりも小さい開口径で形成されている請求項から請求項の何れか一項に記載のモータの冷却構造。
【請求項5】
前記ケースには、駆動源の出力回転を変速する主変速機構部が収容されており、
前記油路を通流する前記冷却用媒体は、オイルポンプから前記主変速機構部に供給される冷却用媒体の一部である請求項1から請求項の何れか一項に記載のモータの冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両用の自動変速機には、変速機構部を収容するケースに、モータを収容した構成のものがある。
【0003】
この種の自動変速機には、モータを冷却するための機構が必要である。
例えば、モータのステータをケースの内周に接触して配置し、ケースにおけるステータが接触する領域に、冷媒が循環する冷却ジャケットを設けることで、モータを接触熱伝熱で冷却する方法がある。
また、変速機構部の冷却に用いられるオイルで、モータを冷却する方法もある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-182374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷却ジャケットを用いる場合、ケースを含めたモータサイズが大きくなるので、自動変速機の車両への搭載性が悪くなる。
【0006】
また、特許文献1のものは、差動装置で掻き上げられた潤滑油を、給油パイプを用いてモータまで誘導して、モータを冷却するので、冷却効率が十分とはいえない。
【0007】
そのため、ケースを大型化させることなく、モータをより適切に冷却できるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様におけるモータの冷却構造は、
ケースで回転可能に支持されたモータシャフトと、
前記モータシャフトに外挿されて固定されたロータコアと、
前記ロータコアの外周を囲むステータコアと、
前記モータシャフト内を、当該モータシャフトの長手方向に延びる油路と、
前記モータシャフトの外周と前記油路とを連通させる連通孔と、を有するモータの冷却構造であって、
前記油路は、前記ロータコアの内径側を、前記モータシャフトの長手方向の一方側から他方側に横切って設けられて、冷却用媒体が、前記油路内を前記一方側から前記他方側に向けて通流するようになっており、
前記連通孔は、
前記モータシャフトの長手方向における前記ロータコアの前記一方側で、前記ステータコアの前記一方側のコイルエンドに対応する位置に設けられた第1連通孔と、
前記モータシャフトの長手方向における前記ロータコアの前記他方側で、前記ステータコアの前記他方側のコイルエンドに対応する位置に設けられた第2連通孔と、を有しており、
前記第1連通孔は、前記第2連通孔よりも小さい開口径で形成されており、
前記第2連通孔から排出された前記冷却用媒体を、前記一方側のコイルエンドに誘導する誘導路を有し、
前記ケースでは、モータの出力回転が伝達されるギアの軸部が、前記モータシャフトの径方向外側で回転可能に支持されており、
前記ギアの軸部は、前記モータシャフトに沿わせた向きで設けられており、
前記ギアの軸部には、前記冷却用媒体が流入する流入路が、前記ギアの軸部の長手方向に沿って設けられており、
前記ギアの軸部には、前記流入路に流入した前記冷却用媒体の排出孔が、前記ステータコアの前記一方側のコイルエンドに対応する位置に設けられており、
前記誘導路は、
前記第2連通孔から排出された前記冷却用媒体を前記流入路に供給する供給路と、前記流入路と、前記排出孔と、から構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ケースを大型化させることなくモータを冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】モータの冷却構造を適用した無段変速機の概略図である。
図2】モータの冷却構造を説明する図である。
図3】モータの冷却構造を説明する図である。
図4】モータの冷却構造が備える放熱フィンを説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、モータ8が付設されたベルト式の無段変速機1に適用した場合を例に挙げて説明する図である。
図1は、モータ8の冷却構造10を適用した無段変速機1の概略図である。
図2は、モータ8の冷却構造10を説明する図である。図2の(a)は、変速機ケース4に付設されたモータ8周りを拡大して示す断面図であり、図2の(b)は、(a)における領域Aの拡大図である。
図3は、モータ8の冷却構造10を説明する図である。図3の(a)は、図2におけるモータ8の回転軸X2よりも図中上側の領域を拡大して示した図であり、図3の(b)は、(a)におけるA-A断面図である。
図4は、モータ8の冷却構造10が備える放熱フィン58であって、カバー5のリブ56に設けた放熱フィン58を説明する図である。
【0012】
車両用の無段変速機1は、駆動源11の出力回転がトルクコンバータ12を介して入力される主変速機構部2を有している。
主変速機構部2は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、ベルト23とを有している。ベルト23は、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とに巻き掛けられている。
【0013】
プライマリプーリ21の入力軸24には、第2ギア25が設けられている。この第2ギア25は、トルクコンバータ12の出力軸13に設けた第1ギア14と噛合している。
トルクコンバータ12の出力回転は、第1ギア14と第2ギア25とを介してプライマリプーリ21に入力される。
【0014】
主変速機構部2では、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるベルト23の巻掛半径を変更することで、プライマリプーリ21の回転が、巻掛半径に応じて決まる変速比で変速されて、セカンダリプーリ22に伝達される。
【0015】
セカンダリプーリ22の出力軸26の回転は、副変速機構部27を介して、差動装置3に入力される。
【0016】
差動装置3は、カウンタギア31と、デフケース32に取り付けられてカウンタギア31に噛み合うファイナルギア33とを有する。
差動装置3に入力された回転は、カウンタギア31とファイナルギア33とを介して、デフケース32に伝達される。
そして、最終的に、デフケース32と一体に回転する駆動シャフト34を介して、駆動輪35に伝達される。
【0017】
ファイナルギア33には、モータ8の出力回転が、変速機構部7を介して入力されるカウンタギア6の第1ギア61がさらに噛合している。
【0018】
図2に示すように、車両用の無段変速機1では、変速機ケース4にカバー5を組み付けて形成したケース18内に、カウンタギア6と、変速機構部7と、モータ8と、が収容されている。
【0019】
カウンタギア6には、変速機構部7を介してモータ8の出力回転が入力される。
カウンタギア6は、軸部60の長手方向の一端60aと他端60bに、ベアリングBa、Bbが外挿されている。
【0020】
カウンタギア6は、一端60a側のベアリングBaが、変速機ケース4に設けた支持部41で回転可能に支持されている。他端60b側のベアリングBbが、カバー5に設けた支持部51で回転可能に支持されている。
この状態においてカウンタギア6は、差動装置3の回転軸X(図1参照)に平行な回転軸X1に沿う向きで設けられている。
【0021】
カウンタギア6では、軸部60の長手方向の途中位置に、第1ギア61が設けられている。第1ギア61の外周は、ファイナルギア33と噛合しており、カウンタギア6は、デフケース32に対して回転伝達可能に設けられている。
【0022】
軸部60では、第1ギア61から一端60a側にオフセットした位置に、第2ギア62が設けられている。
第2ギア62は、第1ギア61よりも大きい外径を有しており、第2ギア62の外周には、後記する変速機構部7側の回転伝達ギア76の歯部79が噛合している。
【0023】
軸部60には、当該軸部60を長手方向に貫通する油路63が設けられている。軸部60の他端60b側では、カバー5に設けた弧状の突起510が、油路63に遊嵌している(図3の(b)参照)。
【0024】
油路63は、回転軸X1に沿って直線状に延びており、軸部60における第1ギア61と第2ギア62との間の領域には、油孔601が開口している。油孔601は、油路63と軸部60の外周とを連通させている。軸部60において油孔601は、回転軸X1周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
油孔601の径方向外側には、モータ8のステータコア85が位置しており、回転軸X1を基準とした油孔601の径方向外側に、このステータコア85の一方側のコイルエンド88Aが位置している。
【0025】
カバー5では、ベアリングBbを支持する支持部51に隣接して、後記するモータシャフト9の支持部52が設けられている。
支持部51と支持部52とを区画する区画壁521の内周に、モータ8のステータコア85が支持されている。
モータ8は、モータシャフト9に外挿された円筒状のロータコア81と、ロータコア81の外周を所定間隔で囲むステータコア85とを、有している。
【0026】
ロータコア81は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものであり、珪素鋼板の各々は、モータシャフト9との相対回転が規制された状態で、モータシャフト9の支持部91に外挿されている。
モータシャフト9の回転軸X2方向から見て、珪素鋼板はリング状を成しており、珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X2周りの周方向に交互に設けられている。
【0027】
回転軸X2方向におけるロータコア81の一方の端部81aは、モータシャフト9の大径部92で位置決めされている。ロータコア81の他方の端部81bは、モータシャフト9の小径部93に外挿されたストッパ95(図2の(b)参照)で位置決めされている。
【0028】
小径部93は、支持部91よりも小さい外径で形成されており、この小径部93には、ベアリングB2のインナレースB21が圧入により固定されている。
ストッパ95は、ベアリングB2により回転軸X2方向の位置決めがされている。
【0029】
ストッパ95は、筒状部96の一端が壁部97で封止された有底筒形状の部材であり、壁部97の中央には、小径部93が貫通する貫通孔97aが設けられている。
【0030】
本実施形態では、ロータコア81が回転軸X2方向で変速機構部7から離れる方向(図中、右方向)に変位した際に、ストッパ95の筒状部96が、ロータコア81の他方の端部81bに当接して、ロータコア81の変速機構部7から離れる方向への移動を規制する。
【0031】
ストッパ95には、筒状部96を径方向に貫通する貫通孔96aが設けられている。貫通孔96aは、回転軸X2周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
モータシャフト9の小径部93では、筒状部96で囲まれた領域の外周に連通孔90aが開口している。この連通孔90aは、モータシャフト9の一端9aから他端9bの近傍まで延びる油路90に連絡している。
【0032】
ステータコア85は、回転軸X2方向から見て環状を成すヨーク部86と、ヨーク部86の内周からロータコア81側に突出するティース部87を、有している。
ティース部87は、回転軸X2周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。ティース部87の各々には、巻線88が集中巻きされており、モータシャフト9の大径部92と小径部93の外径側に、コイルエンド88A、88Bが位置している。
モータ8では、コイルエンド88Bに隣接して給電用のバスリング89が設けられており、このバスリング89は、カバー5に設けたリング状の凹部53に収容されている。
【0033】
モータ8のロータコア81を支持するモータシャフト9は、長手方向の一端9aにベアリングB1が圧入されて固定されている。
ベアリングB1は、変速機ケース4に設けた支持穴43の内周で支持されている。
【0034】
モータシャフト9では、ベアリングB1と大径部92との間の領域に、変速機構部7が設けられている。
変速機構部7は、モータシャフト9と一体に形成されたサンギア71と、サンギア71の外周を所定間隔で囲むリングギア72と、サンギア71とリングギア72とに噛合するピニオンギア73と、を有する遊星歯車機構である。
リングギア72の外周には、バンドブレーキBBが巻き掛けられている。
【0035】
ピニオンギア73は、キャリア74の軸部741で回転可能に支持されている。
キャリア74には、モータシャフト9の大径部92を所定間隔で囲むハブ742が一体に連結されており、ハブ742の内周は、ワンウェイクラッチ75を介して大径部92で支持されている。
【0036】
ハブ742の外周には、回転伝達ギア76の筒状部77がスプライン嵌合している。筒状部77のモータ8側の端部には円盤部78が設けられている。円盤部78は、回転軸X2の径方向外側に向けて延びており、外周の歯部79を、前記したカウンタギア6の第2ギア62に噛合させている。
【0037】
変速機構部7は、モータ8の駆動によりモータシャフト9が回転軸X2回りに回転すると、モータ8の出力回転を変速して、正回転/逆回転でカウンタギア6に伝達する。
モータシャフト9の内部には、長手方向の一端9aから、他端9bの近傍まで及ぶ油路90が設けられている。
油路90の一端9aには、変速機ケース4内に設けた油路17が接続されている(図1参照)。この油路17は、オイルポンプOPからのオイルOLをプライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22に供給する油路16から分岐している。
油路16には、図示しないオイルクーラが設けられており、油路16は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22に、冷却および潤滑用のオイルOLを供給するために、変速機ケース4内に設けられている。
本実施形態では、この油路16を通流するオイルOLの一部を、モータ8の冷却に用いている。
【0038】
図3の(a)に示すように、モータシャフト9には、回転軸X2方向に間隔をあけて複数の連通孔90a、90b、90c、90c、90dが設けられている。
これら連通孔90a、90b、90c、90c、90dは、モータシャフト9の外周と油路90とを連通させて設けられている。
これら連通孔90a、90b、90c、90c、90dは、回転軸X2周りの周方向に複数ずつ設けられている。
【0039】
連通孔90dは、モータシャフト9の一端9a側で、モータシャフト9を支持するベアリングB1と、リングギア72の内径側の支持部721との間で開口している。
連通孔90c、90cは、モータシャフト9の一端9a側で、サンギア71の両側で開口している。
【0040】
連通孔90bは、モータシャフト9の大径部92において、コイルエンド88Aに対向する位置で開口している。
連通孔90aは、モータシャフト9の小径部93において、コイルエンド88Bに対向する位置で開口している。
なお、前記したように連通孔90aの径方向外側には、ストッパ95の筒状部96が位置している(図2の(b)参照)。この筒状部96の貫通孔96aは、連通孔90aと同じ開口径daで形成されている。
【0041】
連通孔90bは、連通孔90aの開口径daよりも小さい開口径dbで形成されている(da>db)。そして、連通孔90c、90cは、連通孔90bの開口径dbよりも小さい開口径dcで形成されている(db>dc)。さらに、連通孔90dは、連通孔90cの開口径dcよりも小さい開口径ddで形成されている(dc>dd)。
【0042】
本実施形態では、モータシャフト9の一端9a側から、油路90内にオイルOLが供給される。モータシャフト9では、連通孔90a、90b、90c、90dのうち、油路90におけるオイルOLの通流方向で最も下流側に位置する連通孔90aの開口径daが最大となっている。
そして、連通孔90bの開口径dbが次に大きい開口径で形成されており、連通孔90cの開口径dcがその次に大きい開口径で形成されている。連通孔90dの開口径ddは、これら複数種類の連通孔90a~90dの中で、最小の開口径で形成されている。
【0043】
そのため、モータシャフト9では、モータシャフト9の径方向外側に放出されるオイルの量が、油路90におけるオイルOLの通流方向で下流側に向かうにつれて、多くなるように設定されている。
【0044】
カバー5では、連通孔90aの径方向外側に、油路55が設けられている。
この油路55は、バスリング89を収容する凹部53に隣接する位置であって、前記したベアリングB2の径方向外側の位置に開口している。
油路55は、支持部52内の凹部53と、前記した支持部51内の空間とを連通して設けられており、カバー5の外側面に付設したリブ56を利用して設けられている。
【0045】
本実施形態では、カウンタギア6を支持する支持部51と、モータシャフト9を支持する支持部52とが、回転軸X2方向に位置をずらして設けられている。
カウンタギア6の回転軸X1方向の長さよりも、モータシャフト9の回転軸X2方向の長さの方が長いためである。
【0046】
そのため、リブ56は、支持部52の外周522と、支持部51の回転軸X1方向の端面512とに跨がって設けられている。このリブ56は、カバー5の外形を大きく膨出させることなく設けられている。
リブ56は、ケース18(カバー5)の表面に露出している。このリブ56における油路55が設けられた領域には、油路55の長手方向に間隔を開けて複数の溝57が設けられている(図4参照)。
【0047】
リブ56では、溝57と溝57との間の領域が、放熱フィン58として機能するようになっている。
そのため、モータ8側から油路55内に流入したオイルOLは、リブ56内の油路55を通流する際に、コイルエンド88B周りを通過する際に取り込んだ熱を、放熱フィン58を介した空気との熱交換により放出できるようになっている。
【0048】
支持部51では、前記した弧状の突起510に隣接する位置に油路55が開口している。この突起510は、カウンタギア6の油路63内に、回転軸X1方向から挿入されている。
【0049】
本実施形態では、凹部53側から油路55を通って支持部51に供給されたオイルOLが、突起510に衝突するようになっている。
そのため、オイルOLが突起510に衝突することにより、オイルOLの移動方向が、カウンタギア6内の油路63内に向かう方向に変更されるようになっている。
これにより、油路55から供給されたオイルOLの多くが、油路63内に流入するようになっている。
【0050】
そして、油路63内に流入したオイルOLは、カウンタギア6の回転による遠心力で、軸部60に設けた油孔601から、回転軸X1の径方向外側に放出される。
本実施形態では、油孔601の径方向外側に、このステータコア85一方側のコイルエンド88Aが位置している。そのため、油孔601から放出されたオイルOLが、コイルエンド88A周りに作用して、コイルエンド88A周りを冷却するようになっている。
【0051】
以下、本実施形態にかかる冷却構造10の作用を説明する。
モータシャフト9内の油路90には、モータシャフト9の一端9a側から、冷却および潤滑用のオイルOLが供給される。油路90内には、モータシャフト9の一端9aから他端9bに向かうオイルOLの流れが形成される。
【0052】
モータシャフト9では、長手方向の一端9aから他端9bに向けて、複数の連通孔90d、90c、90c、90b、90aが設けられている。
油路90内を通流するオイルOLは、モータシャフト9の回転による遠心力で、連通孔90d、90c、90c、90b、90aから、回転軸X2の径方向外側に向けて放出される。
連通孔90dから放出されたオイルOLは、ベアリングB1周りを潤滑および冷却し、連通孔90c、90cから放出されたオイルOLは、サンギア71(変速機構部7)周りを潤滑および冷却する。
【0053】
連通孔90bから放出されたオイルOLは、連通孔90bの径方向外側に位置するステータコア85のコイルエンド88A周りを潤滑および冷却する。
連通孔90aから放出されたオイルOLは、ストッパ95の貫通孔96aを通って径方向外側に排出される。これにより、貫通孔96aの径方向外側に位置するステータコア85のコイルエンド88B周りが潤滑および冷却される。
【0054】
前記したように、モータシャフト9における各連通孔90a、90b、90c、90c、90dの開口径は、90d、90c、90b、90aの順番で大きくなる。
そのため、モータシャフト9の一端9aから油路90内に供給されたオイルOLの多くが、一端9a側で径方向外側に排出されないようになっている。これにより、他端9b側の連通孔90aから放出されるオイルOLの油量が不足しないようにされている。
【0055】
コイルエンド88B周りを潤滑したオイルOLは、支持部52内の凹部53に開口する油路55内に流入する。そして、油路55内に流入したオイルOLは、油路55を通過する際に、放熱フィン58を介した空気との熱交換により放熱する(冷却される)。
【0056】
そして、放熱後のオイルOLは、支持部51に設けた突起510により、カウンタギア6の油路63内に誘導される。
油路63内に誘導されたオイルOLは、カウンタギア6の回転による遠心力で、軸部60に設けた油孔601から、回転軸X1の径方向外側に放出される。
【0057】
そうすると、油孔601から放出されたオイルOLが、油孔601の径方向外側に位置するコイルエンド88A周りに作用して、コイルエンド88A周りが潤滑および冷却される。
【0058】
前記したようにモータシャフトでは、コイルエンド88Aに対向する位置に開口する連通孔90bの開口径dbの方が、コイルエンド88Bに対向する位置に開口する連通孔90aの開口径daよりも小さい径に設定されている。
そのため、回転軸X2側(内径側)から供給されるオイルOLの量は、コイルエンド88B側よりも、コイルエンド88A側の方が少なくなる。
【0059】
上記のように、コイルエンド88Bの冷却に用いられたオイルOLが、放熱後にコイルエンド88Aに供給されて、コイルエンド88Aが潤滑および冷却される。
そのため、油路90からコイルエンド88Aに供給されるオイルOLの量を、油路90からコイルエンド88Bに供給されるオイルOLの量よりも少なくした場合であっても、コイルエンド88A側の潤滑および冷却が不十分にならないようになっている。
【0060】
以上のとおり、本実施形態にかかるモータ8の冷却構造10は、以下の構成を有している。
(1)モータ8の冷却構造10は、
ケース18(変速機ケース4とカバー5)で回転可能に支持されたモータシャフト9と、
モータシャフト9に外挿されて固定されたロータコア81と、
ロータコア81の外周を所定間隔で囲むステータコア85と、
モータシャフト9内を、当該モータシャフト9の長手方向に延びる油路90と、
モータシャフト9の外周と油路90とを連通させる連通孔と、を有する。
油路90は、ロータコア81の内径側を、モータシャフト9の一端9a側(長手方向の一方側)から他端9b側(他方側)に横切って設けられている。
オイルポンプOPから供給されるオイルOL(冷却用媒体)が、油路90内を一方側から他方側に向けて通流する。
連通孔は、
モータシャフト9の長手方向におけるロータコア81の一方側で、ステータコア85の一方側のコイルエンド88Aに対応する位置に設けられた連通孔90b(第1連通孔)と、
モータシャフト9の長手方向におけるロータコア81の他方側で、ステータコア85の他方側のコイルエンド88Bに対応する位置に設けられた連通孔90a(第2連通孔)と、を有している。
連通孔90bは、連通孔90aの開口径daよりも小さい開口径dbで形成されている。
連通孔90aから排出されて、他方側のコイルエンド88Bを潤滑および冷却したオイルを、一方側のコイルエンド88Aに誘導する誘導路(油路55、油路63、油孔601)を有する。
【0061】
連通孔90b(第1連通孔)と連通孔90a(第2連通孔)とを同じ開口径で形成すると、他方側のコイルエンド88Bに油路90から供給されるオイルOLの量が、一方側のコイルエンド88Aに油路90から供給されるオイルOLの量よりも少なくなる。
そのため、コイルエンド88Bのほうがコイルエンド88Aよりも冷却されにくくなる。
連通孔90bを連通孔90aよりも小さい開口径で形成すると、コイルエンド88Aに供給されるオイルOLの量を抑えて、コイルエンド88Bに供給されるオイルOLの量を増やすことができる。
この場合、コイルエンド88Aに油路90から供給されるオイルOLの量が、コイルエンド88Bに油路90から供給されるオイルOLの量よりも少なくなる。
上記のように、誘導路を設けて、連通孔90aから排出されたオイルOLを、コイルエンド88Aに誘導することで、コイルエンド88Aに油路90から供給されるオイルOLの量が少なくなった分を補うことができる。
これにより、コイルエンド88Aとコイルエンド88Bを、略均等に冷却することができる。これにより、モータ8を適切に冷却できる。
また、カバー5を利用して誘導路が設けられているので、ケースにジャケットを付設してモータを冷却する場合よりも無段変速機のケースの大型化を避けることができる。また、モータサイズが小さくなるので、車両への搭載性が向上する。
【0062】
モータ8の冷却構造10は、以下の構成を有する。
(2)ケース18(変速機ケース4とカバー5)では、モータ8の出力回転が伝達されるカウンタギア6の軸部60が、モータシャフト9の回転軸X2の径方向外側で回転可能に支持されている。
カウンタギア6の軸部60は、モータシャフト9に沿わせた向きで、モータシャフト9に対して平行に設けられている。
カウンタギア6の軸部60には、オイルOLが流入する油路63(流入路)が、カウンタギア6の軸部60の長手方向に沿って設けられている。
カウンタギア6の軸部60には、油路63に流入したオイルOLの油孔601(排出孔)が、ステータコア85のコイルエンド88Aに対応する位置に設けられている。
誘導路は、連通孔90aから排出されたオイルOLをカウンタギア6側に供給する油路55(供給路)と、油路63と、油孔601と、から構成される。
【0063】
このように構成すると、カウンタギア6の軸部60に設けた油路63を利用して、オイルOLをコイルエンド88Aまで誘導できる。
ケース18内に設置されたカウンタギア6を利用して誘導路を設けることで、ケース18に新たに追加する油路の部分の全長を短くできる。
【0064】
モータ8の冷却構造10は、以下の構成を有する。
(3)ケース18のカバー5では、油路55に接する領域の表面に放熱フィン58が設けられており、カバー5では、油路55に沿って放熱用の加工が施されている。
【0065】
油路55には、連通孔90aから排出されたのち、コイルエンド88B側を冷却して温度が高くなったオイルOLが通流する。
上記のように構成すると、温度が高くなったオイルOLを、放熱フィン58を介した空気との熱交換により放熱させることができる。
これにより、コイルエンド88A側に誘導されるオイルOLの温度を下げることができるので、コイルエンド88Aの冷却効率を高めることができる。
【0066】
モータ8の冷却構造10は、以下の構成を有する。
(4)ケース18は、モータシャフト9の一端9a(一方側の端部)を支持する変速機ケース4(第1ケース)と、モータシャフト9の他端9b(他方側の端部)を支持するカバー5(第2ケース)とを、モータシャフト9の長手方向で組み付けて構成される。
カバー5では、モータシャフト9を回転可能に支持するモータ側の支持部52と、
カウンタギア6の軸部60を回転可能に支持するカウンタギア6側の支持部51と、が隣接して設けられている。
モータ側の支持部52は、モータシャフト9の長手方向で、カウンタギア6側の支持部51と位置をずらして設けられている。
油路55は、カバー5の外側面で、モータ側の支持部52の外周522と、カウンタギア6側の支持部51の端面512とに跨がって設けられたリブ56内に設けられている。
【0067】
このように構成すると、誘導路を形成するための部位を、ケース18の表面から膨出するようにして別途設ける必要がない。
既存のリブ56を利用して、誘導路の一部を成す油路55を形成できるので、ケース18の大型化を好適に防止できる。
【0068】
モータ8の冷却構造10は、以下の構成を有する。
(5)モータシャフト9では、ロータコア81よりも一端9a(一方側)に、モータシャフト9の回転を変速してカウンタギア6に伝達する変速機構部7が設けられている。
モータシャフト9における変速機構部7に対応する位置に、連通孔90c、90c(第3連通孔)をさらに有している。
連通孔90cは、連通孔90bの開口径dbよりも小さい開口径dcで形成されている。
【0069】
このように構成すると、油路90内に供給されたオイルOLの油量が、油路90を通流する途中で少なくなりすぎて、連通孔90aから放出されるオイルOLの油量が不足することを好適に防止できる。
【0070】
モータ8の冷却構造10は、以下の構成を有する。
(6)ケース18には、駆動源11の出力回転を変速する主変速機構部2が収容されている。
油路90を通流するオイルOLは、オイルポンプOPから主変速機構部2に供給されて、主変速機構部2の潤滑および冷却に用いられるオイルOLの一部である。
【0071】
主変速機構部2に供給されるオイルOLは、オイルポンプOPにより圧送されるオイルである。そのため、主変速機構部2からのリーク油を用いる場合よりも積極的にモータ8を冷却できる。
【0072】
また、油路90内に供給されたオイルOLは、オイルポンプOPの吐出圧により、誘導路(油路55、油路63、油孔601)内を移動して、コイルエンド88Aに循環する。
そのため、連通孔90aから排出されたオイルOLをカウンタギア6側に供給するために、特別な循環装置を追加する必要がない。
【0073】
これにより、モータ8や、モータ8に付設された変速機構部7への給油が可能である。これにより、ユニットサイズの拡大、冷却システムの追加による作成コストの増大を抑制できる。
モータ1軸(モータシャフト9)のみで、モータ8や、モータ8に付設された変速機構部7にオイルOLを供給できるので、モータ8の冷却効果を向上させながら、必要な潤滑の油量配分が可能になる。
【0074】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 自動変速機
10 冷却構造
11 駆動源
12 トルクコンバータ
13 出力軸
14 第1ギア
16 油路
17 油路
18 ケース
2 主変速機構部
3 差動装置
31 カウンタギア
32 デフケース
33 ファイナルギア
34 駆動シャフト
35 駆動輪
4 変速機ケース
41 支持部
43 支持穴
5 カバー
51 支持部
510 突起
512 端面
52 支持部
522 区画壁
522 外周
53 凹部
55 油路
56 リブ
57 溝
58 放熱フィン
6 カウンタギア
60 軸部
601 油孔
61 第1ギア
62 第2ギア
63 油路
7 変速機構部
71 サンギア
72 リングギア
73 ピニオンギア
74 キャリア
75 ワンウェイクラッチ
76 回転伝達ギア
77 筒状部
78 円盤部
79 歯部
8 モータ
81 ロータコア
85 ステータコア
86 ヨーク部
87 ティース部
88 巻線
88A コイルエンド
88B コイルエンド
89 バスリング
9 モータシャフト
9a 一端
9b 他端
90 油路
90a、90b、90c、90d 連通孔
91 支持部
92 大径部
93 小径部
95 ストッパ
96 筒状部
96a 貫通孔
97 壁部
B1、B2、Ba、Bb ベアリング
BB バンドブレーキ
OP オイルポンプ
OL オイル
X、X1、X2 回転軸
da、db、dc、dd 開口径
図1
図2
図3
図4