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特許7073052ビークルの角度位置を測定するシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】ビークルの角度位置を測定するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/11 20120101AFI20220516BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20220516BHJP
   B60W 40/112 20120101ALI20220516BHJP
【FI】
B60W40/11
G01C15/00 101
B60W40/112
【請求項の数】 36
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017127796
(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公開番号】P2018047888
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】15/199,024
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510145967
【氏名又は名称】ユー-ブロックス、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】u-blox AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー、ソミエスキ
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-209106(JP,A)
【文献】特開2011-128093(JP,A)
【文献】特開2009-073466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビークルの角度位置を測定する方法であって、
前記ビークルに取り付けられた第1角速度センサが、第1回転軸周りの、前記ビークルの第1回転角速度を検出するステップと、
前記ビークルに取り付けられた第2角速度センサが、前記第1回転軸と実質的に直交する第2回転軸周りの、前記ビークルの第2回転角速度を検出するステップと、
前記ビークルに取り付けられたプロセッサが、前記ビークルの前記第1回転角速度と前記ビークルの前記第2回転角速度の比に基づいて前記ビークルの前記角度位置を推定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記角度位置が、前記ビークルのピッチを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記角度位置が、前記ビークルのロールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1回転軸が、前記ビークルのロール軸と一致し、前記第2回転軸が、前記ビークルのヨー軸と一致する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ビークルの前記第1回転角速度を検出する前記ステップおよび前記ビークルの前記第2回転角速度を検出する前記ステップが、前記ビークルが前記第2回転軸周りの有効な回転変化速度を受けている間に同時に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ビークルが、前記ビークルの前記第1回転角速度を検出する前記ステップおよび前記ビークルの前記第2回転角速度を検出する前記ステップが実行されている間、前記第1回転軸周りの無視できる回転変化速度を受ける、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ビークルが、前記ビークルの前記第1回転角速度を検出する前記ステップおよび前記ビークルの前記第2回転角速度を検出する前記ステップが実行されている間、カーブした傾斜路上を走行する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ビークルの前記第1回転角速度を表す第1パラメータを、コンピュータ可読データ記憶装置に記憶するステップと、
前記ビークルの前記第2回転角速度を表す第2パラメータを、前記コンピュータ可読データ記憶装置に記憶するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ビークルの前記角度位置を推定する前記ステップが、前記ビークルの前記第1回転角速度を表す前記第1パラメータおよび前記ビークルの前記第2回転角速度を表す前記第2パラメータを使用して、プロセッサによって実行される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ビークルの前記角度位置を推定する前記ステップが、前記第1回転角速度と前記第2回転角速度の比の逆タンジェントを割り出すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記推定ステップが、
【数1】
に従って実行され、Gが、前記第1回転角速度であり、Gが、前記第2回転角速度であり、Θが、前記ビークルの推定された前記ピッチである、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記ビークルの推定された前記ピッチを使用して、前記ビークルの高度の変化を推定するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記ビークルの推定された前記ピッチを使用して、前記ビークルの三次元位置を推定するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記ビークルに対する前記第1角速度センサおよび前記第2角速度センサの位置を較正するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記位置を較正する前記ステップが、GNSS信号が利用可能なときに定期的に実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ビークルの推定された前記ピッチを使用して、前記ビークルの機首の方位の変化の速度をリゾルブするステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記機首の方位の変化の速度をリゾルブする前記ステップが、前記ビークルのヨーレートがヨーレート閾値を超えたときにのみ実行される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ビークルの角度位置を測定するために前記ビークルに取り付け可能なように構成された装置であって、
第1回転軸周りの、前記ビークルの第1回転角速度を検出するように構成された第1角速度センサと、
前記第1回転軸と実質的に直交する第2回転軸周りの、前記ビークルの第2回転角速度を検出するように構成された第2角速度センサと、
前記ビークルの前記第1回転角速度と前記ビークルの前記第2回転角速度との比に基づいて、前記ビークルの前記角度位置を推定するように構成されたプロセッサと
を備える装置。
【請求項19】
前記角度位置が、前記ビークルのピッチを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記角度位置が、前記ビークルのロールを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記第1回転軸が、前記ビークルのロール軸と一致し、前記第2回転軸が、前記ビークルのヨー軸と一致する、請求項18に記載の装置。
【請求項22】
前記装置が、前記ビークルが前記第2回転軸周りの有効な回転変化速度を受けている間に、前記ビークルの前記第1回転角速度および前記ビークルの前記第2回転角速度を同時に検出するように構成されている、請求項18に記載の装置。
【請求項23】
前記装置が、前記ビークルが前記第1回転軸周りの無視できる回転変化速度を受けている間に、前記ビークルの前記第1回転角速度および前記ビークルの前記第2回転角速度を同時に検出するように構成されている、請求項21に記載の装置。
【請求項24】
前記装置が、前記ビークルがカーブした傾斜路上を走行している間に、前記ビークルの前記第1回転角速度および前記ビークルの前記第2回転角速度を検出するように構成されている、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記ビークルの前記第1回転角速度を表す第1パラメータおよび前記ビークルの前記第2回転角速度を表す第2パラメータを記憶するように構成されたコンピュータ可読データ記憶装置をさらに備える、請求項18に記載の装置。
【請求項26】
前記プロセッサが、前記ビークルの前記第1回転角速度を表す前記第1パラメータおよび前記ビークルの前記第2回転角速度を表す前記第2パラメータを使用して、前記ビークルの前記角度位置を推定するように構成されている、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記プロセッサが、前記第1回転角速度と前記第2回転角速度との比の逆タンジェントを割り出すことによって、前記ビークルの前記角度位置を推定するように構成されている、請求項23に記載の装置。
【請求項28】
前記プロセッサが、
【数2】
に従って前記ビークルのピッチを推定するように構成されており、Gが、前記第1回転角速度であり、Gが、前記第2回転角速度であり、Θが、前記ビークルの推定された前記ピッチである、請求項23に記載の装置。
【請求項29】
前記プロセッサが、前記ビークルの推定された前記ピッチを使用して、前記ビークルの高度の変化を推定するように構成されている、請求項19に記載の装置。
【請求項30】
前記プロセッサが、前記ビークルの推定された前記ピッチを使用して、前記ビークルの三次元位置を推定するように構成されている、請求項19に記載の装置。
【請求項31】
前記プロセッサが、前記ビークルに対する前記第1角速度センサおよび前記第2角速度センサの位置合わせを較正するように構成されている、請求項18に記載の装置。
【請求項32】
前記プロセッサが、GNSS信号が利用可能なときに、前記位置合わせを定期的に較正するように構成されている、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記プロセッサが、前記ビークルの推定された前記ピッチを使用して、前記ビークルの機首の方位の変化の速度をリゾルブするように構成されている、請求項19に記載の装置。
【請求項34】
前記プロセッサが、前記ビークルのヨーレートがヨーレート閾値を超えたときにのみ、前記ビークルの推定された前記ピッチを使用して、前記機首の方位の変化の速度をリゾルブするように構成されている、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
ビークルの角度位置を測定する方法であって、
前記ビークルに取り付けられた第1角速度センサが、第1回転軸周りの、前記ビークルの第1回転角速度を検出するステップと、
前記ビークルに取り付けられた第2角速度センサが、前記第1回転軸と実質的に直交する第2回転軸周りの、前記ビークルの第2回転角速度を検出するステップと、
前記ビークルの前記第1回転角速度および前記ビークルの前記第2回転角速度の比に基づいて、前記ビークルの前記角度位置を推定するステップと、
前記ビークルの推定された前記角度位置を使用して、前記ビークルの位置の変化を推定するステップと
を含み、
前記ビークルに取り付けられたプロセッサが、前記ビークルの前記角度位置を推定するステップ、および前記ビークルの推定された前記角度位置を使用して、前記ビークルの位置の変化を推定するステップを実行する、方法。
【請求項36】
ビークルの角度位置を測定するために前記ビークルに取り付け可能なように構成された装置であって、
第1回転軸周りの、前記ビークルの第1回転角速度を検出するように構成された第1角速度センサと、
前記第1回転軸と実質的に直交する第2回転軸周りの、前記ビークルの第2回転角速度を検出するように構成された第2角速度センサと、
前記ビークルの前記第1回転角速度および前記ビークルの前記第2回転角速度の比に基づいて、前記ビークルの前記角度位置を推定するように構成されたプロセッサであって、前記ビークルの推定された前記角度位置を使用して、前記ビークルの位置の変化を推定するように構成されたプロセッサと
を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビークル位置検知の分野に関し、より詳細には、本発明は、ビークルのロール、ピッチ、またはヨーなどのビークルの角度位置を検知することに関する。
【背景技術】
【0002】
その精度および正確度の結果、グローバルナビゲーション衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)は、ビークルナビゲーションソリューションのデファクトスタンダードになっている。しかしながら、自動車用途では、空の見通し線の視界(line-of-sight view of the sky)を有するという前提条件が必ずしも満たされない。例えば、高層ビル、高密度林の周囲、トンネル内、ならびに立体交差路(stacked road)および屋根の下では、GNSSの受信は、大幅に損なわれる。
【0003】
デッドレコニング(dead reckoning)は、GNSSの停止中にビークルの位置を推測するために、追加のセンサ情報を用いてGNSS位置の測定を強化する処理を意味する。デッドレコニングで使用されることが多いセンサの1つの種類は、GNSS信号が利用できないときに、走行距離の情報を提供することができるビークル車輪センサである。一般的には、これらは、車輪の車軸に配置された車軸エンコーダによって車輪の回転数を数える。
【0004】
しかしながら、ビークルは三次元に動き得るため、車輪の回転だけに基づく、デッドレコニングの位置更新には限界がある。例えば、図1に示すように30度の傾斜を距離Lにわたって上るビークルを取り上げてみよう。車輪エンコーダは、傾斜路の起点から距離Lを推測するが、水平方向に移動した実際の距離は0.87Lに過ぎない。したがって、デッドレコニング誤差は、水平方向においては13%の過大推定であり、また、垂直方向に移動した距離については何も示されない。車輪の差動回転(例えば、左後輪の別個のエンコーダおよび右後輪の別のエンコーダ)を使用することにより、二次元のデッドレコニングが可能となり得るが、これは、依然として第三次元の動きについていかなる情報も提供しない。
【0005】
このため、現代の多くのデッドレコニングシステムは、ビークルの動きを検出するために多くの追加センサ(加速度計およびジャイロスコープなど)を採用している。ビークルの角度位置の知識を得ることにより、GNSS信号が利用できないときの、ビークルの位置推定を大幅に改善することができる。前述の例では、ビークルのピッチの知識を得ることにより、ビークルの三次元位置のより正確な測定(determination)が可能になる。以下に述べるように、ビークルのピッチを測定するための様々な既知の技術が存在する。
【0006】
ジャイロスコープのみの手法
【0007】
基本的に、ビークルの本体の横軸(y軸)に完全に位置合わせされたジャイロスコープは、ビークルのピッチを測定するために使用することができる。単純ではあるが、このようなジャイロスコープ測定のみに基づくピッチ測定があまり正確でないのにはいくつか理由がある。
【0008】
ジャイロスコープの使用に関連する1つの問題は、センサ自体の性質に起因する。ジャイロスコープは、角速度を提供するに過ぎず、角度の絶対量を提供しない。後者を得るためには、ジャイロスコープからの出力を積分する必要がある。しかしながら、初期状態(すなわち、ジャイロスコープが取り付けられている本体の初期ピッチ)の知識がない場合、本体の初期ピッチがt=0においてゼロでない限り、計算された出力には誤差がある。
【0009】
第2に、ジャイロスコープは、角変位の変化速度のみを示すので、幾つかの状況においては測定時間が極めて短い。例えば、レベルグランドから一定の勾配の傾斜路上に移動するビークルを想像してみよう。y軸ジャイロスコープの出力は、ビークルが傾斜路に進入した瞬間にピッチ角の変化を記録する。しかしながら、この測定は、ビークルが傾斜路を上るときにゼロに戻るまでに非常に短い時間の間しか行われない。測定時間が非常に短いため、特にピッチがビークルの高度を推測するために使用される場合、信頼できる結果を得ることは困難である。
【0010】
マルチセンサ手法
【0011】
より一般的には、ジャイロスコープは、角度位置のより正確な測定のために加速度計と共に使用される。ビークルのピッチを測定する際、加速度計は、多くの場合により信頼できる結果を提供する。先に述べたように傾斜路を移動するビークルの場合、加速度計は、ピッチが変化していなくても一定の傾斜を上っている間、測定値を連続的に提供する。これは、加速度計が、ビークルが受ける加速度の測定値を提供するためである。
【0012】
正確なピッチ角を測定するために両方の種類のセンサを利用する1つの方法は、ジャイロセンサによって測定されたピッチ角を補正するために、各種類のセンサによって測定された2つの角度の差を計算し、この「誤り」の差をフィードバックすることを含む。ジャイロスコープの出力は、このときは加速度計センサから間接的に収集された情報と相互に関連付けられる点を除いて、前と同様に積分される。
【0013】
加速度計のみの手法
【0014】
等速運動しているビークルまたは加速していないビークルのピッチを、単一の加速度計を使用して測定することもできる。例えば、傾斜に沿って駐車されビークルまたは傾斜に沿って一定速度で動いているビークルの縦方向(x軸)の加速度を検知する加速度計は、ビークルの傾斜角またはピッチを直接推測する(A=1g×sin(θ)(ただし、Aは、加速度計の出力であり、θは、ビークルのピッチである)に従って)ために使用することができる。しかしながら、このような測定は、センサがビークル内で正しい向きに配置されている場合にしか正確でない。そうでない場合、他の軸周りの回転が、ビークルのx軸に沿って検知された加速度の大きさに影響し、したがって、ピッチ計算に誤差をもたらす。さらに、ビークルが、非ゼロ加速度で動いている場合は、それ自体の前方運動に起因する、ビークルの加速度を測定する手段がさらに必要となる。このとき、この余分な加速度の成分を考慮して、これを、加速度計によって検知された加速度から減算する必要がある。
【0015】
必要なのは、ビークルの角度位置を測定するための改善された技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、ビークルの角度位置(例えば、ピッチ)を測定するシステムおよび方法を提供する。一実施形態によれば、第1回転軸周りの、ビークルの第1回転角速度は、ビークルに取り付けられた第1角速度センサを使用して検出される。第2回転軸周りの、ビークルの第2回転角速度は、ビークルに取り付けられた第2角速度センサを使用して検出される。第2回転軸は、第1回転軸と実質的に直交する。ビークルの角度位置は、ビークルの第1回転角速度とビークルの第2回転角速度との比に基づいて割り出される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のさらなる実施形態によれば、第1回転軸周りの、ビークルの第1回転角速度は、ビークルに取り付けられた第1角速度センサを使用して検出される。第2回転軸周りの、ビークルの第2回転角速度は、ビークルに取り付けられた第2角速度センサを使用して検出される。第2回転軸は、第1回転軸と実質的に直交する。ビークルの角度位置は、ビークルの第1回転角速度およびビークルの第2回転角速度を使用して推定される。ビークルの位置の変化は、ビークルの推定された角度位置を使用して推定される。
【0018】
本発明は、その特定の例示的な実施形態に関して説明され、適宜、以下の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の方法によるデッドレコニングのための車輪センサを配備したビークルを示す。
図2】本発明の一実施形態に従ってビークルの角度位置を測定するためのシステムの概略ブロック図を示す。
図3】ピッチが本発明の一実施形態に従って測定されるビークルを示す。
図4】走行するビークルの角度位置が本発明の一実施形態に従って測定され得る螺旋状カーランプ(car ramp)を示す。
図5】ロールが本発明の一実施形態に従って測定されるビークルを示す。
図6】本発明の一実施形態に従って考慮され得る、ビークル本体フレームとセンサフレームとの位置合わせずれを示す。
図7】本発明の一実施形態に従って、平らな地面を走行するときにz軸角速度センサによって測定される、ビークルの機首の方位を示す。
図8a】本発明の実施なしに得られた、駐車場におけるビークルの動きを示す。
図8b】本発明の実施なしに得られた、駐車場におけるビークルの動きを示す。
図9a】本発明の一実施形態に従って得られた、駐車場におけるビークルの動きを示す。
図9b】本発明の一実施形態に従って得られた、駐車場におけるビークルの動きを示す。
図10a】本発明のさらなる実施形態によるセンサの位置合わせのずれ補正を用いて得られた、駐車場におけるビークルの動きを示す。
図10b】本発明のさらなる実施形態によるセンサずれ補正を用いて得られた、駐車場におけるビークルの動きを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、ビークルの角度位置を測定するシステムおよび方法を提供する。例示的な例として、本発明は、本明細書では、自動車の角度位置の測定に関連して説明される。しかしながら、ビークルは、ある場所から別の場所に動くことができ、角度位置の変化を受けることができ、本明細書に記載の角速度センサを取り付けることができる十分なサイズを有する任意の物体であってもよい。このようなビークルの例は、陸上ビークル(自動車、トラック、および建設機械を含む)、航空機(飛行機およびヘリコプターを含む)、ならびに船舶(潜水艦を含む)を含むが、これらに限定されない。測定される角度位置は、ロール、ピッチ、またはヨーのうちの任意の1つ以上であってもよい。基準のために、ビークルは、縦軸、横軸、および垂直軸を有すると考えられる。3つすべての軸の原点は、ビークルの中心(例えば、その重心)として定義されてもよい。しかしながら、他の定義も可能である。例えば、自動車の後部車軸の中間が、軸の原点として定義されてもよい。
【0021】
縦軸(x軸またはロール軸とも呼ばれる)は、原点から延びてビークルの前部から出る。したがって、ビークルの直線前進運動は、一般に、縦軸に沿うものである。縦軸周りのビークルの角度位置は、「ロール」と呼ばれる。自動車の場合、ロールは、例えばカーブおよび/または横傾斜道路を通り抜けるときにビークルが受ける横方向の傾きを意味する。横軸(y軸またはピッチ軸とも呼ばれる)は、原点から延びてビークルの右側(ボートの右舷側)から出るものであり、縦軸に直交する。y軸周りのビークルの角度位置は、「ピッチ」と呼ばれ、ビークルがノーズアップ姿勢(正のピッチ)またはノーズダウン姿勢(負のピッチ)をとっている度合いを示す。垂直軸(z軸またはヨー軸とも呼ばれる)は、原点から延びてビークルの底部から出るものであり、縦軸および横軸の両方に直交する。z軸周りのビークルの角度位置は、「ヨー」または機首の方位(heading)と呼ばれる。
【0022】
本発明は、ビークルの3つの直交軸のうちの2つについて角速度センサの測定値を得て、これらの測定値を使用して3つ目の軸周りのビークルの角度位置を推定することを含む。角度位置は、加速度計の使用を必要とせずに推定される。例えば、x軸(ロール)センサおよびz軸(ヨー)センサからの測定値が利用可能であり、かつ有効な(significant)ヨーレートが観測された場合、ビークルピッチ(y軸周りの角度位置)を測定することができる。この手法は、デッドレコニングモードにおける高度測定の変更を可能にし、機首の方位の正確度の向上を可能にする。加速度計は不要である。推定されたピッチが、あらゆるずれを考慮する目的のためにセンサ軸をビークルフレームの軸に揃えるために使用されれば、性能をさらに向上させることができる。
【0023】
別の例として、y軸(ピッチ)センサおよびz軸(ヨー)センサからの測定値が利用可能であり、かつ有効なヨーレートが観測された場合、ビークルロール(x軸周りの角度位置)を測定することができる。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に従ってビークル100の角度位置を測定するためのシステムの概略ブロック図を示す。ビークル100には、第1角速度センサ102および第2角速度センサ104が取り付けられている。第1角速度センサ102および第2角速度センサ104は、好ましくは、それらの測定軸がビークル本体の軸に実質的に平行で、かつ互いに実質的に直交するようにビークルに取り付けられる。プロセッサ106は、第1角速度センサ102および第2角速度センサ104から測定データ信号を受信するように構成されている。プロセッサ106は、センサデータ信号に基づいてビークルの角度位置の推定値を計算するようにさらに構成されている。角速度センサ102および104は、MEMSジャイロスコープ、光ファイバジャイロスコープ、振動構造ジャイロスコープ、または他の種類の角速度センサを含むが、これらに限定されないジャイロスコープまたはジャイロスコープ同等物を含むことができる。さらに、第1角速度センサ102および第2角速度センサ104は、ユニットとして一緒に収容されてもよく、例えば、これらは、二軸ジャイロスコープとして実施されてもよい。
【0025】
本明細書で説明されているように、プロセッサ106は、ビークルの推定角度位置を使用してビークルの位置の変化をさらに割り出すことができる。例えば、プロセッサ106は、ビークルの位置の変化を推定するために、例えば車輪回転センサまたは速度計から得られたビークル速度情報などの他の情報と共に推定角度位置を使用することができる。デッドレコニングモードでは、プロセッサ106は、GNSS信号から得られたビークルの初期位置および初期角度位置ならびにセンサ102および104からの情報に基づいて得られたビークルの推定角度位置に基づいて、ビークルの現在位置の推定値を割り出すことができる。したがって、図2に示すように、ビークルは、プロセッサ106によって他の情報と共に使用され得るGNSS情報を得るために、プロセッサ106と通信するGNSS受信機108を任意選択で含むことができる。
【0026】
ビークル100のオペレータに、推定されたビークルの角度位置および位置情報を表示するために、ビークル100内にディスプレイ110を任意選択で設けることができる。このような情報は、代替的にまたは追加的に、情報を収集し、保存し、これに対する追加の処理を場合により実行するために遠隔位置(例えば、セルラーまたは無線信号方式によってビークル100に通信可能に結合される遠隔サーバ)に通信されてもよい。
【0027】
図3は、角度位置(すなわち、ピッチ)が本発明に従って測定され得るビークル100を示す。この例示的な実施形態では、第1角速度センサ102は、ビークル100のロール軸(x軸)に位置合わせされ、一方、第2角速度センサ104は、ビークル100のヨー軸(z軸)に位置合わせされる。角速度センサ102および104は、それぞれの軸周りの回転角速度を測定する。図3に示すように、角速度センサ102および104は、二軸センサ112に組み込むことができる。図3には、2つの座標系(すなわち、慣性基準フレーム(Xi,)およびビークル本体フレーム(Xb,))が示されていることに留意されたい。これら2つのフレームは、本明細書で与えられる数学的導出の下でさらに説明される。
【0028】
2つの角速度センサを使用したピッチ測定
【0029】
本明細書で説明されているように、ビークルのピッチを測定するために横方向またはy軸ジャイロスコープのみを使用することは、通常は不正確であり、したがって敬遠される。本発明は、特定の状況下では、2つの直交配置されたジャイロスコープを使用して、ビークルのピッチを正確に測定することができるという認識に基づいている。具体的には、ビークルがその垂直軸(z軸)周りの有効な回転(またはヨー)を受けるとき、以下の式に従って、ビークル本体の縦方向(x軸)に配置されたジャイロスコープおよび垂直方向(z軸)に配置されたジャイロスコープによって、正確なピッチ測定を行うことができる。
【数1】
ただし、θは、ジャイロスコープが取り付けられた本体(ビークル)のピッチを表し、GおよびGは、それぞれ縦方向(またはx軸の)ジャイロスコープおよび垂直方向(またはz軸の)ジャイロスコープの測定値である。
【0030】
わずかな仮定は、ビークルが垂直軸(z軸)周りの有効な回転を受け、ビークルの縦軸(x軸)周りのロールの変化速度(およびロール角自体)が無視できることである。第1の仮定は、ビークルが走行中に回転する(例えば、駐車場の螺旋状ランプを上るまたは下る)ときは常に有効である。図4は、走行するビークルの角度位置が測定され得る例示的な螺旋状カーランプを示す。
【0031】
第2の仮定は、一般に、ビークルが走行する大部分の路面について当てはまる。これは、道路がビークルのロールを最小にするように意図的に作られており、したがって、ロール角は通常は無視できるからである。
【0032】
本発明は、3つの重要な利点を有する。1つ目は、本発明が加速度計を配備することなくビークルの正確なピッチ測定を可能にすることである。これは、ジャイロスコープのみが利用可能な用途で特に有用である。第2に、先に説明した単一加速度計の手法と比較して、ビークルが不等速運動で動いている場合であっても、ピッチ測定において加速度情報を必要としない。第3に、正確なピッチ情報を得ることにより、本明細書で説明されているように上っているときまたは下っているときのビークルの機首の方位測定の改善が可能である。
【0033】
数学的導出
【0034】
式(1)の妥当性を示すために、2つの座標フレーム、すなわち慣性基準フレームおよびビークル本体フレームを定義することが有用である。慣性基準フレームは、地面に対して固定して配置された1組の固定軸である。導出および解説のために、一般的な航空宇宙慣性基準フレーム(北-東-下またはNED基準フレームとして知られている)が採用され、そこでは、x軸は北を指し示し、y軸は東を指し示し、z軸は下方を指し示す。z軸は下方として定義されているため、地面より上のいかなる高度も負であることに留意されたい。
【0035】
大部分の用途において、ジャイロスコープなどのセンサの軸は、センサが取り付けられる移動プラットフォーム(例えば、ビークル)の軸と一致するようにされる。以下の導出では、ビークル本体フレームのx軸は、ビークルのフロントガラスを指し示すものとして定義され、y軸は、ビークルのドアを通って横方向を指し示し、本体フレームのz軸は、ビークルより下の下方を指し示す。センサフレームは、本体フレームと一致するが、本明細書で述べられているように、ビークル本体フレームとセンサフレームとの間には、ずれが生じ得る。
【0036】
ビークルに取り付けられたセンサ(例えば、ジャイロスコープ)は、ビークル本体フレームに関して回転速度を報告する。したがって、ビークルのオイラー角速度、すなわち、ピッチレート
【数2】
ロールレート、
【数3】
およびヨーレート
【数4】
を割り出すために、これらを、センサによって得られる、適切な座標フレーム、すなわち、慣性基準フレームの測定値に変換することがまず必要である。これは、一連の変換を実行することによって行うことができる。ビークルの本体のセンサによって得られる角速度測定値を、慣性基準フレームのオイラー角速度に変換するための変換行列は、
【数5】
によって与えられる。
【0037】
が、ビークル本体フレームx軸センサの読み取り値を表し、Gが、ビークル本体フレームy軸センサの読み取り値を表し、Gが、z軸センサの読み取り値を表す場合、
【数6】
に従って、オイラー角速度が与えられることが示され得る。
【0038】
ロールレートの成分、すなわち、式(3)の行列の最初の行のみを考慮すれば、
【数7】
ということになる。
【0039】
仮定の下では、ロールおよびロールの変化速度は無視できる。すなわち、
【数8】
である。
したがって、式(4)は、
【数9】
となり、ピッチθに関して式(5)を整理すると、式(1)によって必要とされる
【数10】
が最終的に得られる。
【0040】
2つの角速度センサを使用したロール測定
【0041】
本発明は、ビークルのロールを正確に測定するために使用することができる。具体的には、横方向(y軸)ジャイロスコープおよび垂直方向(z軸)ジャイロスコープを使用して、ビークルのx軸周りの角度位置(ロール)を測定することができる。
【0042】
図5は、ロールが本発明に従って測定され得るビークル100を示す。この例示的な実施形態では、第1角速度センサ102は、ビークル100のピッチ軸(y軸)に位置合わせされ、一方、第2角速度センサ104は、ビークル100のヨー軸(z軸)に位置合わせされる。図5には、ビークル100の背面が示されており、ビークルは、ページの奥に向かって走行しているかのように配置されている。角速度センサ102および104は、それぞれの軸周りの回転角速度を測定する。図3と同様に、図5には、2つの座標系(すなわち、慣性基準フレーム(Xi,)およびビークル本体フレーム(Xb,))が示されている。さらに、角速度センサ102および104は、二軸センサ112に組み込まれてもよい。
【0043】
ピッチ測定と同様に、有効なヨーレートが生じていなければならない。さらに、ピッチの変化速度は小さくなければならない。ロール測定のための数学的導出は、以下の通りである。
【0044】
上記の式(3)で先に与えた行列の二番目の行、すなわち、
【数11】
を使用する。
【0045】
ピッチは不変である、すなわち、ピッチの変化速度は無視できると仮定する。式(6)は、
【数12】
となる。
【0046】
ロールに関して式(7)を整理すると、
【数13】
が得られる。
【0047】
したがって、ビークルのロールは、
【数14】
によって割り出される。
【0048】
センサずれ補正
【0049】
この点に関して、慣性センサフレームとビークル本体フレームとのずれは考慮されていない。簡単にするために、センサは、ビークルに完全に位置合わせされて設置されていると仮定してきた。言い換えれば、ビークル本体フレームと各ジャイロスコープの回転軸との角度差はゼロである、すなわち、センサフレームの軸はビークル本体フレームの軸と平行であると仮定してきた。
【0050】
実際には、センサのハウジング内への2つ以上のジャイロスコープの不完全な取り付けまたはビークル自体内でのセンサハウジングの、設置時の不完全な位置合わせのいずれかに起因して、ほとんどの場合、ある程度の位置合わせずれが生じる。図6は、考慮され得る、ビークル本体フレーム(b)とセンサフレーム(s)とのずれを示す。この位置合わせずれは、センサの測定値から割り出されるあらゆる角度に影響を及ぼす。したがって、式(1)によって割り出される観測ピッチθは、ビークルの真のピッチθおよびピッチの位置合わせずれ誤差Δθerrからなる。すなわち、
【数15】
である。
【0051】
したがって、式(8)によれば、ビークルのピッチの正確な値を得るためには、式(1)によって割り出されるピッチから、センサのずれに起因する誤差寄与Δθerrを除去しなければならない。センサのずれは、ビークル本体x-z平面とセンサx-z平面との角変位を表す単一の角度である。簡単に言えば、ビークルの真のピッチθを得るために、ピッチの位置合わせずれの誤差Δθerrが、導出されるすべてのピッチ角から減算される。これには、ピッチずれ誤差Δθerrの事前知識が必要である。
【0052】
ピッチずれ誤差Δθerrは、実際に取り付けられたジャイロスコープのセンサフレームと理想的に取り付けられたジャイロスコープのセンサフレーム(ビークル本体フレームに完全に位置合わせされた)との間の固定回転角と見なすことができる。ピッチずれ誤差Δθerrを得る1つの方法は、本体に搭載された慣性センサの利用を伴わない方法を使用してビークルピッチを割り出し、この結果と、式(1)から割り出されたピッチとを比較することである。例えば、GNSS信号が利用可能である場合、ビークルのピッチを単独で測定するために従来の測位技術を採用してもよい。これは、センサが正式の使用のために構成される前に、制御または較正運転中のシステムの起動時に最初に行われてもよい。あるいは、例えばビークルペイロードの変化に起因する、センサの位置合わせずれの変化を検出するために、GNSS信号が利用可能なときは常に、連続的にずれ誤差を較正してもよい。レベルグランドで較正運転を実行する必要がないことに留意することは重要である。
【0053】
機首の方位の変化の速度の補正
【0054】
ビークルが完全なレベルグランドを移動する場合、垂直方向またはヨー(z軸)ジャイロスコープからの読み取り値は、ビークルの機首の方位の変化の速度
【数16】
(回転速度またはヨーレートとも呼ばれる)を直接示す。したがって、ビークルが走行している機首の方位または方向は、初期の機首の方位ψが分かっている場合、ビークルの機首の方位の変化の速度を積分することによって更新することができる。図7は、慣性基準フレームおよびビークル本体フレームに対するビークルの機首の方位を示す。同様に、ビークルが、壁などの非常に急峻な勾配を上っている場合(仮定の状況)、ロール(x軸)ジャイロスコープからの読み取り値は、ビークルの機首の方位の変化の速度またはヨーレートを示す。これらの2つの直交する状況において、他方のジャイロスコープの読み取り値は、ゼロであり、すなわち、レベルグランドG=0で走り、壁G=0を上る。
【0055】
これらの2つの状況においてのみ、ジャイロスコープの測定値は、ビークルの機首の方位の変化の速度を正確に示す。しかしながら、実際には、ビークルが移動する地面が、完全に平らであることはまれであり、非常に急峻であることは決してない。したがって、センサから得られる、機首の方位の変化の速度の情報は、通常、x軸方向およびz軸方向の両方の成分を有する。
【0056】
しかしながら、ビークルがレベルグランドを移動していないときに、ビークルの機首の方位の変化の速度を「補正」またはリゾルブ(resolve)するために、ビークルのピッチの知識を使用することができる。以下の式(9)または(10)のいずれかが、ビークルの「真の」ヨーレートを与える。
【数17】
【数18】
【0057】
両方の式は、真のヨーレートを与えるが、式(9)の採用が、数値的には好ましい。なぜなら、式(9)は、ビークルがレベルグランドを走行しているときに不連続点をリターンしないからである。さらに、ピッチ角が小さい場合、分母は、一般的には大きくなり、したがって、系統誤差の影響を受けにくくなる。
【0058】
ピッチ測定およびその後の機首の方位の補正は、ビークルのヨーの有効な変化速度が検出された場合にのみ実行されてもよい。例えば、ヨーレート閾値(例えば、毎秒5度の)が、ヨーレートがこの閾値を超えた場合にのみビークルの機首の方位の補正が行われるように規定されてもよい。閾値の規定は、ジャイロスコープ測定の品質に関連して行われてもよい。ジャイロスコープ測定の品質が低い場合、より高い閾値が設定されてもよい。
【0059】
高度更新(Altitude Propagation)
【0060】
また、ビークルの真のピッチの知識は、GNSSとは無関係にビークルの高度更新を可能にする。これは、ビークルが上り下りしており、衛星信号が利用できないか、またはこのような信号の受信が損なわれている状況において特に好都合である。自動車またはトラックに関連してGNSS信号が利用できないまたは損なわれる可能性がある状況の例は、多階層の駐車場の傾斜路、トンネル内のカーブした傾斜路、谷間および渓谷を通るカーブした道路、例えば山道、露天掘りの採掘現場内の道路など、GNSS信号が高層ビルのような構造物によって遮られるまたは妨げられる都市環境、ならびに他の同様の状況を含む。
【0061】
GNSS信号を損失する直前の高度、例えば、駐車場またはトンネルの入口の高度が、GNSSまたはGNSSおよびセンサ測定を利用した融合解決策によって測定された最後の位置測定から利用可能である。その後、GNSS信号が利用できない間、例えば、ビークルが駐車場またはトンネルに入った後などは、新しい高度は、GNSS信号が利用可能であるか否かにかかわらず、
【数19】
から計算することができる。なお、z(t)、z(t)、v、およびΔTは、それぞれ、現在の時点におけるビークルの高度、前の時点における高度、ビークルの速度、および2つの時点間の時間間隔を意味する。局地的な慣性基準フレームはz軸に沿った下方を前提しているため、正の角度は負の高さをリターンすることに留意されたい。速度は、速度計または所定の時間当たりの車輪の回転数を測定する装置から測定されてもよい。あるいは、速度は、GNSS受信が失われる前のビークルの最後に知られる速度からとられてもよい。あるいは、速度は、1つ以上の加速度計が利用可能な場合、加速度計の測定値から割り出されてもよい。
【0062】
本明細書に記載の高度更新は、GNSS受信機または絶対高度を測定する他の何らかの手段(例えば、気圧計)およびビークルに取り付けられた2つの角速度センサ(二軸(ロールおよびヨーまたはXZ)ジャイロスコープなど)を必要とする。単にピッチジャイロスコープを使用せずに、三軸(ロール、ピッチ、およびヨーまたはXYZ)ジャイロスコープを用いてもよいことにも留意されたい。言い換えれば、三軸ジャイロスコープのうちの二軸が利用されてもよい。この後者の実施が、三軸ジャイロスコープの普及およびより大きな組み込みによるコストの削減の故に好ましい場合がある。高度情報が求められる場合、実施には、さらに、速度(例えば、車輪センサまたは速度計から入力される)を測定する手段が必要とされる。
【0063】
高度の伝搬(propagation)および機首の方位の補正計算は、GNSS受信機内のホストマイクロプロセッサにある、受信機のファームウェアで実行することができる。ピッチは、本明細書に記載されているように計算することができる。
【0064】
先に言及したように、本発明は、加速度計の配備を必要としない。しかしながら、さらに加速度計が利用可能な場合、上述のようにジャイロスコープを使用するピッチ測定は、より正確で信頼できるピッチ測定を得るために、加速度計から測定されるピッチと組み合わされ得る独立した測定値を提供する。
【0065】
本発明を使用して駐車場で行われた一連の試験運転が、図8a~図8b、図9a~図9b、および図10a~図10bに示されている。図8図9、および図10のそれぞれの黒い線は、制御軌道(または実際のビークル経路)を表し、一方、灰色の線は、ビークルの計算された軌道を表す。上部(図8a、図9a、および図10a)は、緯度対経度を示しており、制御ビークル軌道(黒線で示されている)と計算された軌道(灰色の線で示されている)との比較の鳥瞰図を表している。下部(図8b、図9b、および図10b)は、高度対時間を示しており、黒い線で示された制御ビークル高度プロファイルと、灰色の線で示された計算された高度プロファイルとが比較されている。図8a~図8bは、本発明を実施しなかった(ジャイロスコープは存在していたが、ピッチを測定するために使用されなかった)場合の、駐車場におけるビークルの動きを示している。さらに、図8bのグラフは、ビークルの高度が、推測されておらず、その代わりに、GNSS信号が(立体駐車場の出口で)再び利用可能となるまでの、GNSS信号が利用できない間は一定に保たれていたことを示している。図9a~図9bは、同じ動きを示しているが、このときは、本発明に従ってピッチおよび高度を測定するためにジャイロスコープが使用されている。最後に、図10a~図10bは、センサずれ補正の追加特徴を有する本発明を示している。ビークルは、これらのグラフにおいて、ビークルの高度を計算するために必要な、ビークルの速度を測定するために車輪回転センサを使用していることに留意されたい。
【0066】
本発明の前述の詳細な説明は、例示のために提供されており、網羅的であることまたは本発明を開示された実施形態に限定することを意図していない。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9a
図9b
図10a
図10b