(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】被移動部材の移動機構及び移動機構を有する乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/06 20060101AFI20220516BHJP
B60N 2/16 20060101ALI20220516BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20220516BHJP
A47C 7/14 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
B60N2/06
B60N2/16
A47C7/02 D
A47C7/14 Z
(21)【出願番号】P 2018022434
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(72)【発明者】
【氏名】大矢 悠生
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-049845(JP,A)
【文献】実開昭61-158522(JP,U)
【文献】特開2008-049847(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011011725(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/06
B60N 2/16
A47C 7/02
A47C 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロアレールと、
前記ロアレールにスライド可能に設けられたアッパーレールと、
前記ロアレールに対して角度を有するように配置された傾斜レールと、
少なくとも臀部側を支持する第1被移動部材と、前記第1被移動部材の前方側に前記第1被移動部材に回転可能に軸支され、かつ少なくとも大腿部の一部を支持する第2被移動部材と、を有する被移動部材と、
前記アッパーレールに直接的又は間接的に回転自在に軸支された第1軸支部と、第1被移動部材に直接又は間接的に取付けられる第1被移動部材取付部と、前記傾斜レールに沿って移動するスライド部と、を有する後方リンク部材と、
前記第2被移動部材の前方側に回転自在に配置される中間リンク部材と、前記アッパーレールに直接的又は間接的に回転自在に軸支された第2軸支部と前記中間リンク部材に回転可能に軸支される中間リンク部材軸支部とを有する回転リンク部材と、を有する前方リンク部材と、
を備えたことを特徴とする移動機構。
【請求項2】
前記第2被移動部材は、前記アッパーレールが最後方に位置する際には、先端の上面が前記第1被移動部材の上面よりも上方に位置し、
前記アッパーレールが最前方に位置する際には、先端の上面が前記第1被移動部材の上面よりも下方に位置していることを特徴とする請求項1記載の移動機構。
【請求項3】
前記回転リンク部材は、三角形の板状に形成されており、少なくとも一部が前記第1被移動部材に対して直接又は間接的に取付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の移動機構。
【請求項4】
前記回転リンク部材に取り付けられている前方連結パイプを前方方向に付勢する付勢部材を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の移動機構。
【請求項5】
前記傾斜レールは、ローラーが収容可能な断面からなる長尺の部材からなり、
前記スライド部は、車軸がずれた2つのローラーを有しており、一方の前記ローラーが前記傾斜レールの上面に当接し、他方の前記ローラーが前記傾斜レールの底面に当接することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の移動機構。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の移動機構を有することを特徴とする乗物用シート。
【請求項7】
前記移動機構が左右両側のスライドレールに設けられており、
両側の前記移動機構のローラーは、互いに対称に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被移動部材の移動機構及び移動機構を有する乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートを昇降させるリフトアップ機構は種々提案されている。例えば、特許文献1には、動力源によって回動する回動部材と、一端側が前記回動部材の回動中心から偏心した位置(出力部)に回動自在に接続される第一リンク部材と、前記第一リンク部材の他端側の変位を高さ方向の変位として乗員が着座する着座部に伝達する動力変換機構と、を備える乗物用シートのリフタ装置について提案されている。
【0003】
かかるリフタ装置は、着座部の昇降が可能であるとともに、第1リンク部材の他端部の変位を、上下の変位として乗員が着座する着座部に伝達する動力変化機構を備えるため、リンク部材の回動が着座部に伝達されて着座部が上下方向だけでなく、横方向にも変位してしまうことがない、という効果を有する。かかるリフタ装置は、できるかぎり同一直線状に昇降させるものである。
【0004】
特許文献1記載の昇降機構を初め、従来の昇降装置は、昇降機構における動作に対して種々工夫した機構は提案されているが、あくまで昇降装置として独立して構成されている機構である。例えば、車両用シートの前後のスライド、すなわちスライドレールのスライドの移動と連関して車両用シートの着座部を昇降させたものは存在しなかった。そのため、運転者は、車両用シートの前後移動と着座部の昇降移動とを別々に操作しなければならないという問題点があった。また、電動式である場合には、前後移動用と昇降移動用の動力ユニットを2つ用意しなければならないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、アッパーレールの前後移動に対応して、着座部等の昇降その他の移動が可能な被移動部材の移動機構及びこの移動機構を有する乗物用シートを提供することを主たる目的とする。
【0007】
さらに、本発明は、車両用シートの前後の移動に応じて、着座部の昇降に応じて座席の前方のチルト部が上下に移動することによって、床面又はペダルまでの距離を調整して足つき性の確保をも向上させた被移動部材の移動機構及びこの移動機構を有する乗物用シートを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の主目的の少なくとも1つを達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明にかかる被移動部材の移動機構は、
ロアレールと、
前記ロアレールにスライド可能に設けられたアッパーレールと、
前記ロアレールに対して角度を有するように配置された傾斜レールと、
少なくとも臀部側を支持する第1被移動部材と、前記第1被移動部材の前方側に前記第1被移動部材に回転可能に軸支され、かつ少なくとも大腿部の一部を支持する第2被移動部材と、を有する被移動部材と、
前記アッパーレールに直接的又は間接的に回転自在に軸支された第1軸支部と、第1被移動部材に直接又は間接的に取付けられる第1被移動部材取付部と、傾斜レールに沿って移動するスライド部と、を有する後方リンク部材と、
前記第2被移動部材の前方側に回転自在に配置される中間リンク部材と、前記アッパーレールに直接的又は間接的に回転自在に軸支された第2軸支部と前記中間リンク部材に回転可能に軸支される中間リンク部材軸支部とを有する回転リンク部材と、を有する前方リンク部材と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる移動機構によれば、アッパーレールを前方に移動させることで、後方リンク部材及び前方リンク部材によって、被移動部材の後方側が上昇し、前方側が下降する移動が行われる。そのため、車両用シートに使用した場合には、車両用シートを後方へ移動したときには、座部が後方側に配置されるとともに、座部は低い位置に、大腿部は高い位置に配置される。そのため、ヒップポイントを低い位置に設定でき視線は低い位置になるが、脚部が窮屈になってしまうことを防止することができる。一方で、車両用シートを前方へ移動した場合には、座部が前方側に配置されるとともに、座部は高い位置に、大腿部は低い位置に配置される。そのため、ヒップポイントが高くなり、視線は高い位置になるが、大腿部は低い位置に配置されるため、足つき性がよく、足がペダルや床面に届かないということを防止することができる。
【0011】
また、本発明にかかる移動機構において、前記第2被移動部材は、前記アッパーレールが最後方に位置する際には、先端の上面が前記第1被移動部材の上面よりも上方に位置し、
前記アッパーレールが最前方に位置する際には、先端の上面が前記第1被移動部材の上面よりも下方に位置していることを特徴とするものであってもよい。
【0012】
かかる構成を採用することによって、着座する人の身長及び脚部の長さに応じて適切な位置に、ヒップポイント及び脚部を配置することができるようになる。
【0013】
さらに、本発明にかかる移動機構において、前記回転リンク部材は、三角形の板状に形成されており、少なくとも一部が第1被移動部材に対して直接又は間接的に取付けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0014】
かかる構成を採用することによって、第1被移動部材の移動を直接回転リンク部材に伝えることができるので、より安定して前方リンク部材を移動させることができる。
【0015】
さらに、本発明にかかる移動機構において前記回転リンク部材には、一定方向に付勢する付勢部材を有することを特徴とするものであってもよい。
【0016】
かかる構成を採用することによって、力の入りづらいアッパーレールを前方へ移動する動作を容易に行うことができるようになる。
【0017】
さらに、本発明にかかる移動機構において、
前記傾斜レールは、ローラーが収容可能な断面からなる長尺の部材からなり、
前記スライド部は、2つの車軸がずれた2つのローラーを有しており、一方の前記ローラーが前記傾斜レールの上面に当接し、他方の前記ローラーが前記傾斜レールの底面に当接することを特徴とするものであってもよい。
【0018】
かかる構成を採用することによって、ローラーが上面と底面との両面を押圧することによって、スライド部が傾斜レール内でガタつくことを低減することができる。
【0019】
更に、本発明は、前述した移動機構を有する乗物用シートを提供する。
【0020】
さらに、本発明にかかる乗物用シートにおいて、前記移動機構が左右両側のスライドレールに設けられており、
両側の前記移動機構のローラーは、互いに対称に配置されていることを特徴とするものであってもよい。
【0021】
かかる構成を採用することによって、乗物用シートのがたつきを効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかる被移動部材の移動機構100及びこの移動機構を有する車両用シート200の構成の概略を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態にかかる被移動部材の移動機構100の背面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態にかかる被移動部材の移動機構100及びこの移動機構を有する車両用シート200の動きを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明にかかる被移動部材の移動機構及びこの移動機構を有する乗物用シートの実施形態について、自動車の車両用シートを例として、図を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。なお、本実施形態においては、車両用シートに適用した例を代表例として説明するが、その使用場所は車両用シートに限定されるものではなく種々の乗物用のシートに使用することができる。なお説明の便宜上、
図1の矢印に示された方向をそれぞれ「上」、「下」、「前」、「後」、「右」及び「左」として説明する。
【0024】
被移動部材40の移動機構100(
図2参照)を利用した車両用シート200の実施形態が、
図1~
図3に示されている。
図1は、移動機構を利用した車両用シート200(内部構造以外は省略してある。)を示す斜視図である。
図2は
図1のA-A断面図であり、移動機構100を示す図である。
図3は、後方リンク部材50を示す背面図である。
【0025】
実施形態にかかる被移動部材40の移動機構100を利用した車両用シート200は、
図1に示すように、主として、車両用シート200の両側に配置される一対のロアレール10とロアレール10にスライド可能に設けられた一対のアッパーレール20とからなるスライドレールと、ロアレール10に固定された一対の傾斜レール30と、被移動部材40と、アッパーレール20、傾斜レール30及び被移動部材40に係合された一対の後方リンク部材50と、この後方リンク部材50の前方側に配置された一対の前方リンク部材70と、を有する。
【0026】
ロアレール10は、特に限定するものではなく、車両用として使用されている既知の種々のタイプのものを採用することができる。本実施形態においては、
図1に示すように、底面部11と、この底面部11の両側から上方に立設されている立設側面部12と、この立設側面部12から内側方向へ略水平に形成される水平部13と、この水平部13から下方方向へ形成される内側垂直部14とを有する長尺の部材を使用している。
【0027】
アッパーレール20は、ロアレール10に沿ってスライド移動する部材であり、本実施形態においては、
図3に示すように、ロアレール10の内側垂直部14に跨るように外側延設部21が形成されており、長手方向には自由に移動可能であるが、上方には取り外せないようにされている。アッパーレール20は、上方に立設して取付けられたアッパーレールブラケット25が設けられており、このアッパーレールブラケット25を介して間接的に後方リンク部材50及び前方リンク部材70が取付けられる。なお、アッパーレール20とロアレール10は、相対位置を固定するロック機構(図示しない。)が設けられている。ロック機構自体は、既存の技術を適宜選択して使用することができる。
【0028】
傾斜レール30は、
図1又は
図3に示すように、上面の中央が開放された断面略四角形の長尺の部材からなり、前方側が高い位置となり、後方側が低い位置となるようにロアレール10に直接又は間接的に傾斜を有するように取付けられる。取付け形態については限定するものではないが、本実施形態においては、いわゆるZ型曲げブラケット35を介して取付けられている。
【0029】
被移動部材40は、車両用シート200のシートクッション(図示しない。)を支持する部材であり、シートクッションは、被移動部材40の動きに対応して移動することになる。被移動部材40は、主としてシートクッションの臀部側を支持する第1被移動部材41と、大腿部の裏側の少なくとも一部を支持する第2被移動部材42とを備えている。第1被移動部材41は、車両用シート200の両側に配置される一対のシートフレーム41aとこれらを連結する後方連結パイプ41bとを備えている。後方連結パイプ41bは、シートフレーム41aに対して軸回転可能に設けられている。シートフレーム41aの前側先端は、後述する第2被移動部材42の移動に干渉しないように、先端が低くなるように傾斜が設けられている。第2被移動部材42は、第1被移動部材41のシートフレーム41aに回転可能に被移動部材用軸支部42aで軸支されている前方シートフレーム42bと、車両用シートの両側に配置された一対の前方シートフレーム42bに跨って配置されており、車両用シートの前方側全体を支持するように上面が平面状に形成されている大腿部支持部材42cとを備えている。第2被移動部材42は、先端側が上下に回転移動するように設けられている。
【0030】
後方リンク部材50は、
図2に示すように、アッパーレールブラケット25の後方側に回転可能に取付けられた第1軸支部51(軸支点)と、第1被移動部材41の後方連結パイプ41bに固定された第1被移動部材取付部52(作用点)と、傾斜レール30内にスライド自在に配置されたスライド部53(力点)と、を有する三角形の板部材からなる。第1軸支部51は、リベット等によって回転自在に取付けられている。第1被移動部材取付部52は、後方連結パイプ41bに溶接により固定されている。スライド部53は、傾斜レール30内を移動可能なローラー58が設けられている。本実施形態においては、
図3に示すように、後方リンク部材50の両側にそれぞれ1つずつ計2つのローラー58a、58bが設けられている。それぞれのローラー58a、58bは、車軸がズレて配置されており、一方のローラー58が傾斜レール30の上面側を押圧する位置に配置され、他方のローラー58は傾斜レール30の底面を押圧するように配置されている。このように配置することによって、それぞれのローラー58a、58bで傾斜レール30の上面及び底面を押圧するため、傾斜レール30内での後方リンク部材50がガタつくことを防止することができる。より好ましくは、後方リンク部材50は傾斜レール30内の移動に伴って、後方リンク部材50と傾斜レール30との角度が変化するので、
図4の左上拡大図に示すように、傾斜レール30の底面の垂直方向に対して斜め方向に車軸をずらして配置するとよい。このように配置することによって、後方リンク部材50が傾斜レール30のどの位置にある場合であっても傾斜レール30の上面及び底面を押圧する状態になるため、後方リンク部材50がどの位置にあってもガタつきを防止することができる。また、さらに好ましくは、車両用シートの左右の両側に配置された傾斜レール30に設けられる一対のローラー58は、対称となるように配置するとよい。例えば、両方の内側のローラー58はいずれも傾斜レール30の上面を押圧し、両側の外側のローラー58は傾斜レール30の底面を押圧するといった具合である。このようにローラー58を配置することによって、被移動部材40全体のガタつきを防止することができる。アッパーレール20が最も後方に配置されている状態、すなわち被移動部材40が最も低い位置にある状態において、第1被移動部材取付部52は、第1軸支部51に対して後方側かつ上方に位置しており、スライド部53は、第1軸支部51に対して後方側かつ下方に配置されている。好ましくは、後方リンク部材50がどの位置にある場合においてもこの位置関係を有するように設定するとよい。なお、後方リンク部材50は、軸支点、作用点、力点を有するように形成されていれば、必ずしも三角形の板材である必要はなく、特に限定するものではない。例えば、棒状部材の組み合わせ等で作製しても構わない。
【0031】
前方リンク部材70は、後方リンク部材50の前方であって、第2被移動部材42の下方に設けられるリンク部材であり、第2被移動部材42を可動させるための機構である。第2被移動部材42は、
図2に示すように、主として第2被移動部材42の前方シートフレーム42bの先端又は先端側近傍に回転自在に軸支される中間リンク部材71と、アッパーレール20に直接的又は間接的に回転自在に軸支された第2軸支部73aと中間リンク部材71に回転可能に軸支される中間リンク部材軸支部73bとを有する回転リンク部材73と、を有する。中間リンク部材71は、第2被移動部材42と回転リンク部材73との間にそれぞれ回転自在に軸支されている部材である。これらの間に配置されていれば、その形態は特に限定するものではない。回転リンク部材73は、中間リンク部材71とアッパーレール20との間にそれぞれ回転自在に軸支されている部材である。本実施形態においては、アッパーレール20に取り付けられているアッパーレールブラケット25に取付けられている。回転リンク部材73もこれらのいずれにも回転自在となるように配置されていれば、その形態は特に限定するものではない。単なる棒状体のものであってもよい。本実施形態においては、回転リンク部材73は、三角形の板状に形成されており、一部が車両用シートの両側に設けられている第1被移動部材41を連結する前側の前方連結パイプ41cに取付けられている連結パイプ軸支部73cに設けられている。前方連結パイプ41cには、前方連結パイプ41cを前方方向に付勢する付勢部材80が取付けられている。そのため、回転リンク部材73は、中間リンク部材軸支部73bを下降させる方向(
図2中で左回転方向)へ付勢されている。
【0032】
以上のように、作製された車両用シート200は、以下のように作動する。
図4Aに示すように、アッパーレール20が最も後方に位置している場合、すなわち被移動部材40が最も後方に配置されている場合は、後方リンク部材50の第1被移動部材取付部52は最も低い位置にあり、第1被移動部材41も最も低い位置に配置されている。これに対して、第2被移動部材42は、回転リンク部材73の中間リンク部材軸支部73bは、最も高い位置に配置されており、第2被移動部材42は、先端側が上向きとなるように配置されている。すなわち、大腿部支持部材42cの前側先端が座部(第1被移動部材41の上面)の上面よりも高い位置にある。この状態は、比較的、身長が高い人が着座する位置であり、臀部が最も低く、かつ後方に配置され、脚部は大腿部が最も上方に配置された状態となる。従って、脚が長い者であっても、脚が窮屈になることを防止することができる。
【0033】
この状態から、操作レバー90を操作し、
図4Bに示すように、アッパーレール20を前方へスライドさせる。すなわち車両用シート200を前方へ移動させる。これにより、スライド部53は傾斜レール30内を前方側に移動するとともに、この移動により傾斜レール30の底面からの反力によりスライド部53が後方側かつ上方側へ押圧される。これにより、後方リンク部材50は第1被移動部材取付部52を上方かつ前方へ移動する方向へ回転(
図4中、左回転)移動する。これにより、第2被移動部材42の後方側は、第1軸支部51を中心とした円弧状に移動することになる。すなわち、上方かつ前方へ移動することになる。さらに、この移動による第2被移動部材42(シートフレーム41a)の前方へ移動に伴い、第2被移動部材42及び中間リンク部材71を介して、中間リンク部材軸支部73bが前方に押され、かつ前方連結パイプ41cを介して連結パイプ軸支部73cも前方に押されるため、回転リンク部材73は、中間リンク部材軸支部73bが前方かつ下降する方向(
図4B中、左回転)へ回転移動する。この回転に伴い、
図4Bに示すように、第2被移動部材42は、被移動部材用軸支部42aを中心に先端側が低くなるように回転する。これにより、第2被移動部材42は、後端側より前端側がわずかに低くなるように配置される。かかる位置では、最後端にアッパーレール20が配置されている場合と比較して、最後端にある状態よりも身長の低い人に適切な状態になる。着座している人は、全身が前方へ移動しつつ、ヒップポイントが第1被移動部材41の上昇分だけ上昇する。しかし、脚部は膝裏部分が低くなるため、脛部以下の脚部は
図4Aのアッパーレール20が最後端に配置されている状態と比較して低くなる。そのため、フロアやペダルに対する距離は短くなり足つき性は確保されることになる。なお、アッパーレール20を前方へスライドさせる際には、付勢部材80によって前方連結パイプ41cを前方側へ付勢しているので、軽い力で容易にアッパーレール20を前方へ移動させることができる。
【0034】
さらに、アッパーレール20を前方へスライドさせることにより、
図4Aから
図4Bへの移動と同様の動きにより、
図4Cに示すように、第1被移動部材41は最も上昇した位置に配置され、第2被移動部材42は、先端が最も下方側にある状態に配置されることになる。すなわち、車両用シートの臀部が最も高い位置に配置され、脛部以下の脚部は、最も低い位置に配置されることになる。この状態は、比較的、身長が低い人が着座する位置であり、臀部が最も高く、かつ前方に配置され、視認性は高い位置に確保されつつ、脛部以下の脚部は最も下方に配置された状態となる。そのため、臀部が高い位置にあっても床面やペダルへの距離は短くなり、足つき性はよいものとなる。
【0035】
このように、本発明にかかる移動機構によれば、スライド動作により、車両用シートの昇降及びシートクッション前方のチルト部の傾きを連動して制御することができる。勿論、これらの動きは、
図4Aから
図4Cまでの間の固定位置は
図4Bに限定されるものではなく、複数の段階で固定させることができる。第1被移動部材41及び第2被移動部材42は、アッパーレール20とロアレール10の相対位置を固定すれば(例えば、ロック手段等によって)、すべて固定させることができ、別途固定手段を設ける必要はない。
【0036】
なお、アッパーレール20を後方へ移動させることによって、
図4Cから
図4Aのように、前述した上昇の動作と反対の動作によって、それぞれ第1被移動部材41及び第2被移動部材42が移動することになる。
【0037】
車両用シートは、運転者の身長に合わせて、運転者自らが着座位置を調整する。この際に、運転者が快適かつ安全な着座位置、すなわちヒップポイントは、統計学的及び人間工学的に身長に応じて一定の範囲内に収まることがわかっている。本発明によれば、その軌跡に適合させた状態で車両用シートの前後位置に応じてヒップポイントを設定することができるので、運転者が車両用シートの前後位置を調整するだけで最適な高さの座面に調整することができる。一般的に身長の高い人は、脚が長く、身長の低い人は脚が短くなるが、本発明に係る移動機構100を有する車両用シートによれば、臀部側の上昇に伴って、車両用シートの先端側、すなわち膝裏から大腿部裏側にかけて支持する第2被移動部材42は、下降することになるので、フロアやペダルに対する足つき性を確保しつつ、ヒップポイントを上昇させることができる。
【0038】
このように、本発明にかかる被移動部材の移動機構100によれば、アッパーレール20を前後にスライド移動させるという入力手段のみによって、被移動部材40の上昇及び下降を制御することができる。そのため、座席の前後位置を調整した後、さらに高さ位置をあらためて調整する必要がない。また、電動式である場合には、車両用シートの前後移動によって自動的に高さ調整がされるので、高さ調整用の電動ユニットを必要とせず、従来と比較してコスト削減に資する。
【0039】
なお、本発明は、実施形態の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0040】
上述した実施形態においては、移動機構100をそれぞれ左右のスライドレールに対応するように2箇所設けたが、いずれか一方に、傾斜レール30、前方リンク部材70、後方リンク部材50を設け、他方側は、自ら作用点を有することなく、一方側の動きに追従するリンクのみを設けても良い
【0041】
また、上述した実施形態においては、車両用シートについて説明したが、勿論、車両用シートに限定するものではなく、本発明にかかる移動機構は、電車、飛行機、車椅子等の乗物用のシート全般に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
上述した実施の形態で示すように、車両用シートの昇降装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…ロアレール、11…底面部、12…立設側面部、13…水平部、14…内側垂直部、20…アッパーレール、21…外側延設部、25…アッパーレールブラケット、30…傾斜レール、35…ブラケット、40…被移動部材、41…第1被移動部材、41a…シートフレーム、41b…後方連結パイプ、41c…前方連結パイプ、42…第2被移動部材、42a…被移動部材用軸支部、42b…前方シートフレーム、42c…大腿部支持部材、50…後方リンク部材、51…第1軸支部、52…第1被移動部材取付部、53…スライド部、58…ローラー、58a…ローラー、70…前方リンク部材、71…中間リンク部材、73…回転リンク部材、73a…第2軸支部、73b…中間リンク部材軸支部、73c…連結パイプ軸支部、73d…連結パイプ軸支部、80…付勢部材、90…操作レバー、100…移動機構、200…車両用シート