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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】硝酸白金溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 55/00 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
C01G55/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018056002
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167264
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋司
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-092150(JP,A)
【文献】特開2019-130468(JP,A)
【文献】Venediktov, A.B., Korenev, S.V., Vasil’chenko, D.B. et al.,On preparation of platinum(IV) nitrate solutions from hexahydroxoplatinates(IV),Russ. J. Appl. Chem.,2012年,85,pp.995-1002,https://doi.org/10.1134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が30wt%以上である硝酸を攪拌状態にし、これに水酸化白金酸を添加する硝酸白金溶液の製造方法であって、
水酸化白金酸が、粉状、粒状、スラリー状またはケーキ状であり、
水酸化白金酸の硝酸への添加を2回以上行い、1回に添加される水酸化白金酸の質量が、硝酸の質量に対して1/20より少ないことを特徴とする硝酸白金溶液の製造方法。
【請求項2】
水酸化白金酸が、ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含むアルカリ性の水溶液に、酸を添加し、中和して得られる水酸化白金酸を濾別したものである請求項記載の硝酸白金溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排気ガス処理触媒や燃焼触媒等の白金触媒の原料として用いられる硝酸白金溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白金触媒の原料として硝酸白金を用いる場合、固体状の硝酸白金を溶解して使用している。固体状硝酸白金の製造方法としては、水酸化白金酸(H[Pt(OH)])を過剰の硝酸に溶解した後、過剰の硝酸を除くため水浴上で蒸発乾固して、硝酸白金の結晶(Pt(OH)(NO・3PtO・5HO)を得る方法が知られている。
【0003】
ところが、上記の方法で得られた硝酸白金の結晶は吸湿性が強く、保管安定性に欠けるため、工業的利用には適さないという問題点があった。また、特許文献1には、上記の方法において硝酸に代えて発煙硝酸を用いることにより、やや吸湿性で水に易溶の化合物(Pt(NO)を調製し、触媒用途に供することが記載されている。しかしながら、こうして得られた固体中には、水に不溶の非晶質体が含まれており、溶解濾過によりこれを除去する必要が生じる。あるいは、Pt含有率の変動を覚悟しなければならない。しかも、上記いずれの方法で得られた硝酸白金も溶解した状態では、安定に存在できず、数日で分解するため、固体状態で保管し、触媒製造時にその都度溶解して使用するという煩雑さが伴っていた。
【0004】
特許文献1においては、溶液の状態では不安定な硝酸白金を固体の状態にすることで、安定に保管し、必要なときには溶解して使用できることは特許文献2に記載のとおりである。しかし、溶解した硝酸白金には水に不溶の非晶質体(以下、ゲルということがある)が含まれてしまう。そのため、溶解後にはこのゲルの除去のために濾過が必要であり、濾過前後で溶液中の白金含有率(以下、品位ともいうことがある)が低下してしまうことも特許文献2に記載のとおりである。
【0005】
ところで、硝酸白金溶液については、前記のゲルや後述する沈殿を全く含まない、純粋な硝酸白金溶液とすることは困難であることが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。従って、産業用の硝酸白金溶液においてはこのようなゲルや沈殿の混入が有ることは避けられないものとしても、それらの混入はできるだけ少ないことが望ましい。このように発生する懸念のあるゲルや沈殿の成分は単一の化合物ではなく、一種以上の化合物の混合物であったり、オリゴマー等の重合体であったり、硝酸白金の加水分解により発生する水酸化白金酸を含んでいるものと考えられる。
【0006】
白金品位の低下に対しては、ゲルの発生を見越し、原料である水酸化白金酸(ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸)の仕込み量を増やし、品位を高く調整した硝酸白金との混合が考えられるが、品位を高く調整した硝酸白金の準備においてもゲルの除去が必要であり、濾過後に出来上がる白金品位を正確に制御した硝酸白金溶液の製造は容易とはいえない。
【0007】
また、ゲルの発生を見越して最初から高品位の硝酸白金の仕込みを行った場合、ゲルの生成そのものが不安定であることから、溶液として品位の高すぎる硝酸白金溶液が出来てしまうことも懸念される。このように高品位の硝酸白金が出来てしまった場合、水で希釈することも考えられるが、本発明者の知見によれば、硝酸白金溶液に水を加えたり、低濃度の硝酸を使用して硝酸白金を調整すると沈殿が生じてしまうことがあることが確認されている。このような沈殿も様々な化合物の複合体であり、その成分を厳密に特定することは困難であるが、硝酸白金が加水分解されて生じる水酸化白金酸を主成分とする沈殿が発生してしまっていると思われる。このようにして生じた沈殿も、言うまでもなく濾過除去する必要があり、このことも硝酸白金溶液としての品位の不安定要因になってしまう。
【0008】
このような品位の変動を嫌う場合、生じた水に不溶のゲルや沈殿を除去せず、そのまま必要な用途に使用してしまうことも考えられる。しかし、このようなゲルや沈殿を大量に含んだままであると、用途によっては目的とする物が得られないことがある。例えば多孔質な成型担体等に白金成分を含浸担持することで不均一触媒を得ようとするような場合、硝酸白金が完全に溶解した溶液であれば担体の内部に均一に含浸して白金を担持させることで、白金を高分散に担持することができ、触媒として高い活性が期待できる。
【0009】
しかし、溶液に前記のようなゲルや沈殿を含む場合、触媒化するために担持した白金の粒子が粗大化して分散状態が悪くなって白金粒子が粗大化し、粗大化した白金粒子はその単位質量あたりの表面積(MSA値:Metal Surface Area)を低下してしまう。触媒の活性は白金の表面積が大きいと高まる傾向があるため、MSAが低下した触媒では、高価な白金の使用量に見合った活性が得られなくなってしまう。また、ゲルや沈殿は成型担体であれば含浸することは困難で、担体表面に膜の様に貼り付いてしまうこともあり、このような場合には白金の分散状態は更に悪化する傾向になる。
【0010】
このような不具合を解消するものとして、特許文献2のように非晶質体を硝酸で再溶解することも提案されている(特許文献2の段落0007)。しかし、このような製法では硝酸白金溶液中の白金品位が低下してしまうことが有る。
【0011】
また、得られる硝酸白金の品位が低いことは使用する硝酸の量が多くなることにもなる。無機酸化物を担体として使用する不均一触媒の調整では、含浸した白金溶液は乾燥焼成することで金属白金として担体に担持固定することが一般的である。硝酸を多量に含む硝酸白金を使用すると、乾燥焼成の際に多量のNOxが排出されてしまう。NOxは環境負荷物質として知られており、このような環境負荷物質が大量に発生する触媒原料は産業用途として好ましいものではない。このような硝酸に由来した環境負荷の増大は、高濃度の硝酸を使用した時も同様である。
【0012】
また、特許文献2には発生した非晶質体を硝酸で再溶解することは前記のとおりであるが、特許文献2では非晶質体の再溶解と言う工程を必要としているもので、このような製法は工程増にもなり産業上好ましい製法とは言い難い。
【0013】
更に、従来技術において生じたゲルや沈殿は高価な白金を含むものである。これらを濾過して分離した固形分にたいしては、含まれている白金を回収することが必要になる。このような白金の回収処理は硝酸白金溶液の製造におけるコスト上昇を招き、産業的に好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】ドイツ国特許第2233677号公報
【文献】特開平11-92150号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】「化学大辞典4」、化学大辞典編集委員会編、共立出版株式会社、786頁、1997年9月20日発行
【文献】Applied Catalysis B: Environmental 30, p11-24. (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、硝酸白金溶液の製造においてゲルや沈殿の発生を抑制し、ゲルや沈殿の発生を抑制するために大量の硝酸を使用する必要のない、簡便で産業的に有用な硝酸白金溶液の製造方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の濃度以上の硝酸と水酸化白金酸の添加順序をこの順で行うという簡便な方法により、従来よりも少量の硝酸で、ゲルや沈殿の発生を抑制した硝酸白金溶液を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明は、濃度が30wt%以上である硝酸を攪拌状態にし、これに水酸化白金酸を添加することを特徴とする硝酸白金溶液の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硝酸の使用量を減らしたうえで、非晶質体や沈殿の発生の抑制が可能となる。また、本発明では著しく高濃度な硝酸の使用を避けることもでき、産業上の安全性向上も図れる。更に、硝酸の使用量を減らせることで、触媒製造などに使用した際に発生するNOxの低減も図れ、環境負荷が低い触媒材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の硝酸白金溶液の製造方法(以下、単に「本発明方法」という)は、濃度が30wt%以上である硝酸を攪拌状態にし、これに水酸化白金酸を添加するものである。
【0021】
本発明方法に用いられる硝酸の濃度の下限は30wt%以上、好ましくは50wt%である。硝酸濃度が30wt%よりも低いと、後述する比較例のようにゲル化とは異なる沈殿を生じてしまい好ましくない。更に、硝酸の濃度の上限は純分で70wt%以下であることが好ましく、65wt%以下であることがより好ましい。加水分解による沈殿を抑制するという目的に関しては、本発明方法に使用する硝酸の濃度の上限は限定されるものではないが、過度に高濃度の硝酸は安全のみならず、触媒製造時に生じるNOxも多くなり環境負荷も大きなものになるため、本発明の産業的な実施においては好ましいものではない。また、本発明製法においてはそもそもゲル化自体が抑制されるものであることから、特許文献1の様に高濃度硝酸(820g/L)によりゲルの再溶解を想定する必要がなく、比較的取扱いが容易で環境負荷の少ない硝酸を使用することができる。本発明方法において、硝酸を撹拌状態にするには、例えば、硝酸を攪拌翼、スターラー、気体等で撹拌する、硝酸の入った容器を振動、回転等させて撹拌する等の撹拌手段で適宜撹拌し、硝酸を流動させることをいう。
【0022】
本発明方法に用いられる水酸化白金酸は、具体的にはヘキサヒドロキシ白金(IV)酸である。この水酸化白金酸の形状は特に限定されないが、例えば、粉状、粒状、スラリー状、ケーキ状である。また、本発明方法に用いられる水酸化白金酸は、水分を含むことが好ましく、例えば、水酸化白金酸の分子量に対する質量の割合で10~80wt%の水分を含むことが好ましく、10~60wt%の水分を含むことがより好ましい。
【0023】
このように本発明方法に用いられる水酸化白金酸はある程度の水分を含むことで粒子同士の解れがよくなり、硝酸への溶解性が向上し、硝酸への添加後速やかに溶解することができる。速やかに溶解できることで、水酸化白金酸粒子と硝酸の界面におけるゲル化も抑制され、ゲルや沈殿が少ない硝酸白金溶液が得られる。
【0024】
このように水酸化白金酸がある程度の水分を含むことは、一見前述の望ましい硝酸濃度に関する知見とは矛盾するように思われる。本発明方法における硝酸は、加水分解成分の発生を抑制するために有る程度以上の濃度であることが望ましいことは前述のとおりである。このことは使用する硝酸中の水分量が少ない方がよいということでもある。水酸化白金酸に含まれる水分は、このような加水分解成分の発生を要因にもなりかねないとも考えられる。しかしながら、本発明者の検証によれば、水酸化白金酸中の水分については、所定の範囲である場合には硝酸との混合において加水分解成分の発生が認められないことが分かっている。そのうえで、所定量の水分を含むことで質のよい硝酸白金が得られる効果が得られることは前述のとおりである。なお、水酸化白金酸の水分が著しく少なく鉱石のように乾燥固化した状態では硝酸に添加した際にその周囲がゲル化してしまうことがあり、溶解できたとしても長い時間を要する。また、水酸化白金酸が乾燥した紛体のような状態では、硝酸への添加時に水酸化白金酸が粉塵の様に舞い上がり、作業環境の悪化や、舞い上がって硝酸に混合できなかった分は高価な白金の損失になったり、混合容器中の硝酸の表面に滞留し、滞留した硝酸との界面でゲル化してしまうことが有る。
【0025】
このような水分量の水酸化白金酸は、市販の水酸化白金酸に所定の量の水を加えて、粉砕、解砕、混練して得たものであってもよいが、ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含有するアルカリ性の水溶液に、酸を添加して中和して得られるものが好ましい。
【0026】
上記ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含有するアルカリ性の水溶液は、例えば、市場から入手可能なヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを水に溶解し、必要により、アルカリ性に調整したものであっても、合成したヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを水に溶解し、必要により、アルカリ性に調整したものであってもよい。
【0027】
ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを水に溶解する方法は特に限定されず、必要により適宜水を加熱等し、撹拌等すればよい。
【0028】
また、ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを合成する方法は特に限定されないが、例えば、ヘキサクロロ白金(IV)酸の水溶液と水酸化ナトリウムの水溶液を混合する方法等が挙げられる。
【0029】
この方法で用いられるヘキサクロロ白金(IV)酸は市場から入手可能であるが、金属白金から合成したものであってもよい。金属白金からヘキサクロロ白金(IV)酸を合成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、金属白金を王水に溶解した後、塩酸を加えて白金王水溶液中から脱硝する方法等が挙げられる。
【0030】
上記ヘキサクロロ白金(IV)酸の水溶液における、ヘキサクロロ白金(IV)酸の濃度は特に限定されるものではないが、金属換算の白金で100~200g/Lであることが好ましく、120~150g/Lであることが好ましい。白金濃度が濃過ぎなければ沈殿が生じ難く後段の苛性化反応が効率的であり、反応装置の小型化や反応時間の短縮等、産業的な効率的実施のためにはある程度以上の濃さであることが望ましい。また、白金濃度が薄すぎないことで溶解や反応に要する設備の大型化を必要とすることなく、産業的に有利である。
【0031】
上記ヘキサクロロ白金(IV)酸の水溶液と混合される水酸化ナトリウムの水溶液における、水酸化ナトリウムの濃度は特に限定されるものではないが、10~60wt%であることが好ましく、10~55wt%であることが好ましい。水酸化ナトリウム濃度が濃過ぎなければ、反応系への水酸化ナトリウムの溶解が容易であり、反応装置の小型化や反応時間の短縮等、産業的な効率的実施のためにはある程度以上の濃さであることが望ましい。
【0032】
ヘキサクロロ白金(IV)酸の水溶液と水酸化ナトリウムの水溶液は、混合、好ましくは加熱混合することでヘキサヒドロキシ白金酸ナトリウムを生成する。このような加熱温度、加熱時間は特に限定されるものではないが、加熱温度については50~100℃であることが好ましく、70~95℃であることがより好ましい。温度が低すぎると苛性化が促進され難くなり、工程に要する時間が長くなり、産業用の製法としては適当なものとは言えなくなる場合がある。また温度が高すぎると苛性化が暴走することがあり、この工程における目的物であるヘキサヒドロキシ白金酸ナトリウム以外の化合物が大量に生成してしまうことが有り、後段の中和工程をもってして本発明における第一の目的物であるヘキサヒドロキシ白金(IV)酸が得られなかったり、その純度が低いものとなってしまうことがある。
【0033】
このような反応が適切に行われたかどうかの確認方法は特に限定されるものではないが、反応物を乾燥させヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウム生成の有無を、粉末X線解回析分析や、可視・紫外分光法により検証可能であるが、簡易的には反応物中の塩素濃度をもって検証可能である。塩素の濃度を検証する場合もその確認方法は特に限定されるものではないが、イオンクロマトグラフ法や特許文献2に示されるような比濁法をもって検証することができる。このような塩素濃度としては、金属としての白金にする塩素濃度が4,000ppm以下であることが好ましく、2,000ppm以下であることがより好ましい。
【0034】
上記ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含有するアルカリ性の水溶液のpHはアルカリ性であれば特に限定されないが、好ましくはpH11~14、より好ましくは12.5~13.5である。また、pHの調整は、必要により、公知の方法で行えばよい。
【0035】
また、上記水溶液におけるヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムの含有量は特に限定されないが、例えば、金属換算の白金で20~150g/L、好ましくは40~100g/Lである。
【0036】
上記ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含有するアルカリ性の水溶液に、酸を添加して中和することにより、ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸を得ることができる。
【0037】
上記中和は、酸を用いて1段階で行ってもよいが、先ず強酸をもって中和を開始した後に弱酸をもって中和を完了することが好ましい。このように中和を2段階とすることで、使用する酸に要するコストや排水のコストの削減を図ることが可能となる。
【0038】
上記中和を1段階で行う場合に用いられる酸は特に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸の強酸、酢酸等の弱酸等が挙げられる。これらの酸の中でも弱酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0039】
中和に使用される酸の濃度は特に限定されるものではないが、その純分の濃度として20~99wt%であることが好ましく、30~90wt%であることがより好ましい。濃度が薄すぎると中和作業に要する時間が長くなり産業用の製法としては好ましくなく、濃過ぎると中和作業中に部分的に過剰な酸濃度となる箇所が生じ、反応が進み過ぎてしまい、最終的にヘキサヒドロキシ白金(IV)酸とならない場合がある 。
【0040】
中和の終了は、中和対象の溶液がpH4~7となるところで終了することが好ましく、pH4~6で終了することがより好ましい。
【0041】
上記中和における温度は中和が完了しなかったり、著しく時間がかかることがなければ特に限定されるものではないが、10~70℃程度であることが好ましく、20~60℃程度であることがより好ましい。このように温度管理を適切に行うことが望ましい理由は、中和温度が低すぎれば中和に時間がかかり過ぎることから望ましいものではないことは言うまでもないが、温度が高すぎる場合は、例えば強酸として塩酸を使用したような場合、溶液中で中和が急激に進捗し、中和生成物中に塩素含有化合物を含んでしまう恐れがある。このような塩素化合物の生成は中和によって生じたヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の一部がヘキサクロロ白金(IV)酸になってしまうことによるものではないかと考えられる。
【0042】
また、上記中和を2段階で行う場合に使用される強酸は特に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸であることが好ましい。なお、濃硫酸(90%以上)のように強酸であっても電離度が低いものは弱酸に分類されるが、その場合であっても適宜濃度を調整してこの中和に使用してもよいし、この中和行程中で希釈されれば強酸となるためそのまま利用してもよい。塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸は鉱酸とも呼ばれ、安価な酸としても知られている。また、無機酸であるとこの中和において有機物由来の重合体が生成しづらく。また、このような重合体が多量に生じてしまうと、重合体中に塩素元素を取り込んでしまうことが懸念される。塩素は触媒毒となることがあり、塩素元素を含む重合体が多量に生じてしまうと重合体の構造に取り込まれた塩素の除去が難しくなり、この中和で得られるヘキサヒドロキシ白金(IV)酸を利用した触媒等が充分な性能を発揮できないことが有る。このような無機酸のうち、この中和においては特に塩酸を使用することが好ましい。塩酸であれば他の強酸に比べて取扱いが容易である。また、産業用途の塩酸は廉価でありコストメリットが大きい。このようなコストメリットは産業用途においては重要な要素である。本出願時点の産業用の塩酸溶液の価格は概算であるが20円/L程度である。これは後述する酢酸に対しても同様であり、同じく本出願時点の産業用の酢酸が200円/L程度であることに比べても有利である。
【0043】
この中和においてはこのような強酸により中和を開始した後に、酢酸に代表されるような弱酸をもって中和を完了する。
【0044】
中和に使用される強酸の濃度は特に限定されるものではないが、その純分として10~45wt%濃度の水溶液であることが好ましく、20~40wt%であることがより好ましい。濃度が薄すぎると中和作業に要する時間が長くなり産業用の製法としては好ましくなく、濃過ぎると中和作業中に部分的に過剰な酸濃度となる箇所が生じ、反応が進み過ぎてしまい、最終的にヘキサヒドロキシ白金(IV)酸とならない場合がある 。
【0045】
強酸の添加は、後述する酢酸による中和後のpHである4~6に至る前に終了させばよく、好ましくは強酸の添加により急激にpHが変化するpHジャンプの前に終了させればよい。具体的に強酸の添加はpHで10に至る前、好ましくはpH10~13.5で終了させることが好ましい。このような強酸による中和を促進し過ぎると、例えば塩酸を使用した場合にはアルカリ水溶液中のヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムがヘキサクロロ白金(IV)酸に戻ってしまう恐れや、ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の結晶中に塩素が取り込まれてしまう可能性もある。
【0046】
強酸の添加はpHジャンプの前に完了しておくことが望ましいことは前述のとおりであるが、これは産業規模で本発明製法を実施する場合には特に有効である。pHジャンプは中和点付近で急にpHが大きく変化することをいうが、このような急激な変化領域におけるpHを制御するには強酸を薄めて使用することが考えられる。しかしながら、薄めた強酸を使用することは大量の強酸を使用することであり、産業規模での実施においては設備の大型化、製造の長時間化を引き起こし、製造コスト増を招き易くなる。
【0047】
上記強酸により中和を開始した後に、弱酸をもって中和を完了する。この中和に使用される酢酸の濃度は特に限定されるものではないが、純分の濃度として50~99wt%であることが好ましく、70~90wt%であることがより好ましい。酢酸は穏やかな中和作用を有することから、比較的高濃度の溶液として添加されることで、工程時間の短縮や製造設備をコンパクトに設計することが可能になる。
【0048】
このような酢酸による中和は、中和対象の溶液がpH4~7となるところで終了することが好ましく、pH4~6がより好ましい。このようなpH値を下回ると、生成したヘキサヒドロキシ白金(IV)酸そのものが溶けてしまうことがある。 また、強酸により中和を介した後に、弱酸をもって中和することにより、中和に使用される酢酸の量を少なくすることが可能となり、弱酸に由来する有機物の反応用液中への残留を抑制し、ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の純度を向上することができる。
【0049】
上記中和における温度は中和が完了しなかったり、著しく時間がかかることがなければ特に限定されるものではないが、10~70℃程度であることが好ましく、20~60℃程度であることがより好ましい。このように温度管理を適切に行うことが望ましい理由は、中和温度が低すぎれば中和に時間がかかり過ぎることから望ましいものではないことは言うまでもないが、温度が高すぎる場合は、例えば強酸として塩酸を使用したような場合、溶液中で中和が急激に進捗し、中和生成物中に塩素含有化合物を含んでしまう恐れがある。このような塩素化合物の生成は中和によって生じたヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の一部がヘキサクロロ白金(IV)酸になってしまうことによるものではないかと考えられる。
【0050】
以上説明した中和が適切に行われたかどうかの確認方法は、特に限定されるものではないが、反応物を乾燥させヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の生成の有無を、粉末X線解回析分析や、可視・紫外分光法により検証可能であるが、簡易的には反応物中の塩素濃度をもって検証可能である。塩素の濃度を検証する場合もその確認方法は特に限定されるものではないが、イオンクロマトグラフ法や比濁法をもって検証することができる。このような塩素濃度としては、金属としての白金にする塩素濃度が4,000ppm以下であることが好ましく、2,000ppm以下であることがより好ましい。
【0051】
上記で得られるヘキサヒドロキシ白金(IV)酸は、中和後、濾別等による精製、加熱、通風等による乾燥等を行ってもよいが、好ましくは濾別しただけのものが好ましい。そうすると上記した水分を含む、例えば、ケーキ状等の水酸化白金酸となるため、あらためて粉砕、解砕、混練をする必要がなく、攪拌状態の硝酸への添加にあたっても容易に溶解することができる。
【0052】
本発明方法においては、濃度が30wt%以上である硝酸を攪拌状態とし、これに水酸化白金酸を添加することでゲル化の抑制が可能になるものである。ゲル化が抑制される理由は定かではないが、大量の硝酸が存在する中に攪拌状態で水酸化白金酸が添加されることで、溶解により生じる熱が水酸化白金酸の周囲に滞留することなく拡散し、水酸化白金酸の周囲も含め、液温がゲル化に至る温度まで上昇しないためであると考えられる。
【0053】
一方、水酸化白金酸に硝酸を添加した場合、発熱することが本願比較例にも記載のとおり検証によって確認されている。そして、発熱が著しい場合には水に不溶のゲルを生じるゲル化が確認されている。このような現象は、特許文献2における一回目の硝酸溶解においても報告されている。このように発生したゲルが何であるのかは正確なところは定かではないが、高温環境下において硝酸白金中に水酸化物イオンが取り込まれることに由来してオリゴマーが発生しているのではないかと考えられる。
【0054】
このようなゲル化の抑制は溶解系の冷却によっても可能であるが、そのためには溶解設備の冷却が必要になり、産業規模での実施を想定した場合、設備費用の高騰を招いてしまう。また、発熱を制御できない場合、熱暴走により安全性にも懸念が生じ、特に産業用途にスケールアップした場合にはそのリスクは高まる可能性もある。
【0055】
このような発熱によるゲル化を抑制するために溶解系を冷却した場合であっても、水酸化白金酸に対して硝酸を添加するような混合をした場合、その接触界面おける部分的な発熱までも抑制することは困難である。特に溶解開始直後では溶媒である硝酸の量も少なく、発生した熱の逃げ場がないことからゲル化をおこしやすく、このように発生したゲルに対しては特許文献2のように極めて高濃度の硝酸を使用した再溶解によりゲルを解消する必要がある。このような再溶解を施した場合、高濃度の硝酸の危険性や環境への負荷の増大の他、硝酸白金溶液が更に硝酸で希釈されることにもなる。
【0056】
本発明方法では、硝酸の温度は上記のようなゲル化を抑制できる温度以下であれば問題はないが、例えば、60℃以下に維持することが好ましく、40℃以下に維持することがより好ましく、20℃以下に維持することが特に好ましい。なお、硝酸の温度の下限は特に限定されるものではないが、水酸化白金酸の溶解性を考慮して0℃以上にすることが好ましく、2℃以上にすることがより好ましい。
【0057】
本発明方法における水酸化白金酸の硝酸への添加は、少なくとも1回以上、好ましくは2回以上行う。1回に添加される水酸化白金酸の質量は、特に限定されないが、硝酸の質量に対して1/20より少なくすることが好ましく、硝酸の質量に対して1/50より少なくすることがより好ましい。このように1回の添加量が少ないことで、水酸化白金酸と硝酸の溶解に伴って混合溶液としての温度上昇を抑制することができる。特に、上記のようにして得られる水酸化白金酸であれば、硝酸への添加後の解れが良好であり、添加した水酸化白金酸が発熱により生じたゲルに覆わるようなこともない。なお、1回に添加する水酸化白金酸の下限は特に限定されるものではないが、産業用途としての製造であれば少なすぎることは溶解工程が長時間化して製造コストが上昇してしまうことから、1回の添加量は1/200以上であることが好ましい。
【0058】
以上説明した本発明方法により、硝酸白金溶液を得ることができる。なお、この硝酸白金溶液は硝酸白金Pt(NO、Pt(OH)(NO・3PtO・5HOの他、H[Pt(NO]や水が配位したもの(H4-n[Pt(NO(HO)6-n])や多核錯体等も含むものである。
【0059】
なお、この硝酸白金溶液は、自動車排気ガス処理触媒や燃焼触媒等の白金触媒の原料に用いることができる。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
合 成 例 1
ヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の調製:
[苛性化手順]
濃度が金属白金換算で100g/Lのヘキサクロロ白金(IV)酸水溶液200mLを100℃に加熱した後、純分で48wt%の水酸化ナトリウム水溶液100mLをビューレットで滴下し、室温まで冷却してヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含有するアルカリ性の水溶液を得た(pH13.1)。この水溶液に含有されるヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムについてヒドラジンで還元した白金をろ別後、イオンクロマトグラフ分析をもって含有塩素濃度を測定したところ、金属白金に対して200ppmを下回っていた。
【0062】
[中和手順]
上記で得たヘキサヒドロキシ白金(IV)酸ナトリウムを含有するアルカリ性の水溶液を400mLまでイオン交換水で希釈した後、温度が50℃を越えないことを観察しながら、純分で35wt%の塩酸70mLをビューレットで滴下し、pH12.5まで中和した。塩酸中和後の水溶液を700mLまでイオン交換水で希釈した後、純分で90wt%の酢酸20mLをビューレットで滴下し、pH5まで中和した。中和後の水溶液を1000mLまでイオン交換水で希釈した後、沈殿を濾別しイオン交換水で洗浄してヘキサヒドロキシ白金(IV)酸を得た。このヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の状態は、湿り気を帯び、水溶液中でほぐれやすいような、粒子が脆いケーキ状であった。このヘキサヒドロキシ白金(IV)酸の水分量を常法に従って測定したところ50wt%であった。
【0063】
また、上記で得たヘキサヒドロキシ白金(IV)酸についてヒドラジンで還元した白金をろ別後、イオンクロマトグラフ分析をもって含有塩素濃度を測定したところ、金属白金に対して200ppmを下回っていた。
【0064】
実 施 例 1
硝酸白金溶液の調製(硝酸に水酸化白金酸ケーキを添加):
攪拌翼で流動状態にした純度60wt%の硝酸63g(金属白金に対して6倍モル)に、上記合成例1で得た未乾燥の脆いケーキ状の水酸化白金酸を4.5gずつ添加した(水酸化白金酸ケーキ質量/硝酸質量=約7/100)。水酸化白金酸ケーキは添加されると直ちに解れて硝酸中に分散した。以降、同様に全ての水酸化白金酸ケーキを硝酸に添加して完全に溶解させた。使用する硝酸の量は、混合溶液中の硝酸濃度は入れ込み量で35wt%となる量である。
【0065】
この溶解における温度を測定したところ、水酸化白金酸添加前の硝酸温度は3℃であり、水酸化白金酸ケーキ全量を添加した直後の温度は20℃であり、目視で溶解が確認されたときの温度は16℃であった。また、特許文献2に比べて少ない量の硝酸使用量でも溶液中に沈殿やゲルは確認されなかった。
【0066】
比 較 例 1
硝酸白金溶液の調製(水酸化白金酸ケーキに硝酸を添加):
合成例1で調製した水酸化白金酸ケーキに、実施例1と同じ濃度の硝酸を添加して攪拌したところ、液温は60℃まで上昇し、多量のゲルが確認された。
【0067】
比 較 例 2
硝酸白金溶液の調製(低濃度硝酸使用):
実施例1における硝酸を、純度20wt%、質量113gに変えた他、金属白金に対する硝酸モル数も実施例1と同様にして水酸化白金酸ケーキを硝酸に溶解したところ、多量の沈殿が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明方法で得られる硝酸白金溶液は、自動車排気ガス処理触媒や燃焼触媒等の白金触媒の原料として用いることができる。
以 上