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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】物品搬出入装置および物品搬出入方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/92 20060101AFI20220516BHJP
   E04H 5/02 20060101ALI20220516BHJP
   E06B 5/18 20060101ALI20220516BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20220516BHJP
   B65G 1/00 20060101ALN20220516BHJP
   G21F 7/005 20060101ALN20220516BHJP
【FI】
E04B1/92
E04H5/02 B
E06B5/18
F24F7/06 C
B65G1/00 521D
G21F7/005
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018058597
(22)【出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2019167792
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】菊地 克也
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 昇太
(72)【発明者】
【氏名】田中 正隆
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-203794(JP,A)
【文献】米国特許第05860711(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/92
E04H 5/02
E06B 5/18
F24F 7/06
B65G 1/00
G21F 7/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部環境との隔離が必要な空間と前記外部環境との間において物品の搬出入を行う物品搬出入装置であって、
前記空間と前記外部環境の間に設けられた隔壁と、
前記隔壁に設けられ、前記空間と前記外部環境とを連通する貫通孔と、
前記貫通孔に設けられ、前記空間と前記外部環境とを隔離する変形自在な伸縮部材と、
を備え
前記伸縮部材は、動摩擦係数が0.01以下である材料からなる低摩擦伸縮部材であることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項2】
請求項に記載の物品搬出入装置であって、
前記低摩擦伸縮部材は、ハイドロゲル材料からなることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項3】
請求項1に記載の物品搬出入装置であって、
前記空間と前記外部環境の間に作業セルを備え、
前記隔壁は、前記空間側の作業セル壁および前記外部環境側の作業セル壁にそれぞれ設置された開閉可能な扉であることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項4】
請求項に記載の物品搬出入装置であって、
前記隔壁は、前記作業セル内に設置された内扉であることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項5】
請求項に記載の物品搬出入装置であって、
前記空間側の作業セル壁および前記外部環境側の作業セル壁の各々に、前記内扉とは独立して開閉可能な外扉を備えることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項6】
請求項1に記載の物品搬出入装置であって、
前記貫通孔の内側に前記伸縮部材を保持するフレームを備え、
前記伸縮部材は、前記フレームの前記空間側および前記外部環境側にそれぞれ設けられたストッパにより前記フレーム内に固定されることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項7】
請求項に記載の物品搬出入装置であって、
前記空間側および前記外部環境側のストッパのうち、少なくともいずれか一方はボルトにより前記隔壁に着脱可能に設けられることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項8】
請求項に記載の物品搬出入装置であって、
前記伸縮部材に設けられた切り込みを貫通して前記空間と前記外部環境の間を連通するケーブルと、
前記空間内に設置され、前記ケーブルを介して前記外部環境から遠隔操作が可能な自動駆動装置と、
を備えることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項9】
請求項1に記載の物品搬出入装置であって、
前記伸縮部材は、前記貫通孔内において、前記物品の搬出入方向に複数に分割して設けられ、
前記複数の伸縮部材同士の間に、前記貫通孔内に隙間を形成する円形スペーサーを備えることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項10】
請求項に記載の物品搬出入装置であって、
前記複数の伸縮部材の各々は、前記物品の搬出入方向において、複数の薄い伸縮部材が積層されて構成されることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項11】
請求項に記載の物品搬出入装置であって、
前記貫通孔内において、前記物品の搬出入方向に沿って延在して設けられた低摩擦ハイドロゲルマットと、
前記貫通孔内において、前記物品の搬出入方向に複数に分割して設けられ、前記低摩擦ハイドロゲルマットと対向する位置に固定されたハイドロゲルカーテンと、
前記複数のハイドロゲルカーテン同士の間に、前記貫通孔内に隙間を形成する門形スペーサーと、
を備えることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項12】
請求項10に記載の物品搬出入装置であって、
前記複数の伸縮部材のうち、少なくとも前記空間側に露出する伸縮部材はゴム材で形成され、
他の伸縮部材は、ハイドロゲルで形成されることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項13】
請求項10に記載の物品搬出入装置であって、
前記複数の薄い伸縮部材同士の間に板バネが設けられることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項14】
請求項10に記載の物品搬出入装置であって、
前記複数の薄い伸縮部材の各々には、互いに角度を変えた切り込みが形成されることを特徴とする物品搬出入装置。
【請求項15】
外部環境との隔離が必要な空間と前記外部環境との間において物品の搬出入を行う物品搬出入方法であって、
前記物品の搬出入方向に延在して設けられた前記外部環境と前記空間とを隔離するハイドロゲルの切り込みに沿って、前記物品を搬出入することを特徴とする物品搬出入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の搬出入を行う搬出入口の構造に関し、特に、外部環境との隔離が必要な場所との物品の搬出入に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場や医薬品製造施設等のクリーンルームにおける物品の搬出入、原子炉建屋内部からの燃料デブリの取り出し等、外部環境との隔離が必要な場所での物品の搬出入においては、隔離状態を維持しつつ、物品を容易に通過可能な搬出入口の構造が求められている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「入り口のドアやシャッターなどの代わりに水平方向に振幅するように波状に湾曲させた可撓性シートを入り口の手前から奥に向かって配置して、そのシートの山と谷とで入り口を閉鎖し、出入りの際にはシートに前進波動を起こさせて、シートの端部が山もしくは谷になったとき出入りを行い、その山もしくは谷の前進とともに移動するようにした閉鎖部材および閉鎖構造」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-13366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、隔離状態を維持しつつ、物品を容易に通過可能な搬出入口は、様々な産業分野において需要があり、例えば、従来の一般的なクリーンルームでは、前室にエアーシャワー装置を設け、HEPAフィルター(High-Efficiency Particulate Air filter)で清浄化された高速ジェットエアーを、人や搬入物の表面に直接当てて、付着した塵埃を除塵している。また、ドアを二重に設け、それらのドアが同時に開放しない構造とすることで外気とクリーンルームとを遮断するエアーロック機能なども備えている。
【0006】
ところで、従来のエアーシャワー装置による除塵では、搬入しようとする物品の形状が複雑である場合、高速ジェットエアーが直接当たらない箇所の除塵が不十分であったり、質量が大きく運動エネルギーの高い拡散物質に対してはエアーシャワーでは十分に隔離できない可能性がある。
【0007】
上記特許文献1の閉鎖構造は、可撓性シートに前進波動を起こさせるための駆動装置が必要であるなど構造が複雑で、前進波動に合せたコンベアの制御が必要であるなど物品の搬出入も容易ではない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、比較的簡単な構造で、確実に外部環境との隔離状態を維持しつつ、物品の通過が容易な物品搬出入装置を提供することにある。
【0009】
また、本発明は、比較的簡便な方法で、確実に外部環境との隔離状態を維持しつつ、物品の通過が容易な物品搬出入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、外部環境との隔離が必要な空間と前記外部環境との間において物品の搬出入を行う物品搬出入装置であって、前記空間と前記外部環境の間に設けられた隔壁と、前記隔壁に設けられ、前記空間と前記外部環境とを連通する貫通孔と、前記貫通孔に設けられ、前記空間と前記外部環境とを隔離する変形自在な伸縮部材と、を備え、前記伸縮部材は、動摩擦係数が0.01以下である材料からなる低摩擦伸縮部材であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、外部環境との隔離が必要な空間と前記外部環境との間において物品の搬出入を行う物品搬出入方法であって、前記物品の搬出入方向に延在して設けられた前記外部環境と前記空間とを隔離するハイドロゲルの切り込みに沿って、前記物品を搬出入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、比較的簡単な構造で、確実に外部環境との隔離状態を維持しつつ、物品の通過が容易な物品搬出入装置を実現できる。
【0013】
また、本発明によれば、比較的簡便な方法で、確実に外部環境との隔離状態を維持しつつ、物品の通過が容易な物品搬出入方法を実現できる。
【0014】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図1B】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図1C図1AにおけるA-A’断面図である。
図1D図1CにおけるB-B’断面図である。
図1E図1DにおけるC-C’断面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の搬出動作を示す図である。
図2B】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の搬出動作を示す図である。
図2C】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の搬出動作を示す図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図3B図3AにおけるD-D’断面図である。
図4A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図4B図4AにおけるE-E’断面図である。
図5A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の断面図である。
図5B】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の断面図である。
図5C】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の断面図である。
図5D】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の断面図である。
図5E】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の断面図である。
図6A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図6B図6AにおけるF-F’断面図である。
図7A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図7B図7AにおけるG-G’断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置のゲルを概念的に示す図である。
図9A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図9B図9AにおけるH-H’断面図である。
図10A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図10B図10AにおけるI-I’断面図である。
図11A】本発明の一実施形態に係る物品搬出入装置の正面図である。
図11B図11AにおけるJ-J’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0017】
図1Aから図2Cを参照して、実施例1の物品搬出入装置と物品搬出入方法について説明する。図1Aおよび図1Bは扉(内扉6)に搬入・搬出物用の開口部8を設け、その内部(内側)にゲル9を設置する本実施例の物品搬出入装置1の正面図である。図1Aは外扉5が閉じた状態を示し、図1Bは外扉5が開いた状態を示している。なお、本実施例では外扉5をスライド式扉の例で図示しているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば搬入・搬出方向に開閉する開き扉であってもよい。
【0018】
図1C図1AのA-A’断面図であり、物品搬出入装置1の断面構造を示している。図1D図1CのB-B’断面図であり、開口部8を拡大し内扉6を省略して示している。図1E図1DのC-C’断面図であり、ゲル9の固定方法を示している。また、図2Aから図2Cは物品搬出入装置1による搬出物13の搬出動作を示している。
【0019】
なお、本実施例では汚染環境下から外部環境へ物品(搬出物13)を搬出する例で説明するが、逆の手順により外部環境から汚染環境下への物品(搬入物13)の搬入も可能である。
【0020】
また、以下の各実施例においては、環境の清浄度を基準に「汚染環境」、「外部環境」と呼ぶこととする。従って、例えば半導体製造工場のクリーンルームのような場合には、各図における「汚染環境」はクリーンルーム外の環境に該当し、「外部環境」はクリーンルーム内の環境に該当する。
【0021】
図1Cに示すように、本実施例の物品搬出入装置1は汚染環境側から見て、汚染環境下から作業セル3へ搬出物13を運ぶ台車A10と、作業セル3(作業セル壁4)の外側に設けられたスライド式の外扉5と、作業セル3(作業セル壁4)の内側に設けられ、ゲル9が設置された開口部8をもつ内扉6と、作業セル3内部において搬出物13を運ぶセル内輸送用の台車B11と、外部環境において搬出物13を運ぶセル外輸送用の台車C12とで構成されている。
【0022】
作業セル3は汚染環境と外部環境の間に設けられた中間室である。通常時は、図1Aに示すように、作業セル3(作業セル壁4)に設けられた作業セル壁面開口部7を覆うように外扉5が閉められた状態で汚染環境と外部環境が隔離されている。一方、汚染環境から外部環境へ搬出物13を搬出する際は、図1Bに示すように、床2上をスライドさせて外扉5を開け、内扉6は閉めた状態で、内扉6の開口部8に設置されたゲル9を介して物品(搬出物13)を搬出する。外扉5と内扉6は互いに独立して開閉可能に構成されている。
【0023】
ゲル9は、図1Dに示すように、内扉6に設けられた開口部8の内部(内側)に配置されており、ストッパA15およびストッパB16により開口部8の内部(内側)に固定されている。また、ゲル9には、ゲル9を介して物品(搬出物/搬入物13)の搬出入が容易になるように、切り込み14が設けられている。
【0024】
図1Eに示すように、内扉6の開口部8には、内扉6に固定されたストッパA15と、固定手段であるボルト17で内扉6に固定された取り外し式のストッパB16により、中心に切り込み14を入れたゲル9が固定されており、ゲル9によって汚染環境と作業セル3(または外部環境)との隔離状態が維持されている。物品搬出時には搬出物13をゲル9に押し込むことにより、ゲル9が搬出物13と密着した状態で隔離状態を保ちつつ搬出する。
【0025】
ゲル9の交換は、外扉5を閉めて汚染環境と作業セル3を隔離し、ストッパB16を取り外してゲル9を引き抜き、新しいゲルと交換した後、ストッパB16を再びボルト17により内扉6に固定することによって実施する。なお、外扉5を設置せず、ストッパA15側にシャッター等の隔離機構を設けておき、それを閉めることでゲルの交換を実施しても良い。
【0026】
図2Aから図2Cに本実施例により物品を搬出する様子を示す。物品の搬出は、先ず、図2Aに示すように、台車A10で搬出物13をゲル9が設置された開口部8の近傍まで運んだ後、作業セル3または作業セル3の近傍に設置されたマニピュレータ(駆動機構)や専用装置(図示せず)により搬出物13をゲル9に押し込み、ゲル9の切り込み14を通過させた後、作業セル3内の台車B11に着座させる。
【0027】
次に、図2Bに示すように、反対側(外部環境側)の同じくゲル9が設置された開口部8の近傍まで運び、同様にマニピュレータ(駆動機構)や専用装置(図示せず)で搬出物13をゲル9に押し込み、ゲル9の切り込み14を通過させた後、作業セル外の台車C12に着座させる。その後、図2Cに示すように、作業セル外の台車C12により搬出物13を搬出(移動)させることによって実施する。
【0028】
物品(搬出物13)の通過前はゲル9の切り込み14は互いに密着しており、物品(搬出物13)の通過中はゲル9が物品(搬出物13)と密着し、物品(搬出物13)の通過後はゲル9が元の形状に戻るため再度密着する。これにより、隔離状態を維持したまま、物品(搬出物13)を搬出することができる。また、作業セル3内では搬出物13の汚染除去や汚染状況の確認等の作業を実施することが可能である。
【0029】
なお、ゲル9が設置された開口部8よりも大きな物品(搬出物13)を搬出する場合は、汚染環境側の内扉6を開けて搬出物13を作業セル3内に入れ、作業セル3内の雰囲気を清浄な空気と置換しつつ搬出物13の汚染を除去した後に搬出側(外部環境側)の内扉6を開けて搬出することにより隔離状態を維持することもできる。
【0030】
また、より安全性を高める場合には、換気空調設備により汚染環境側を負圧環境にして作業セル3側に汚染が拡大しないようにする対策との組み合わせも考えられる。
【0031】
また、ゲル9には、含水系の高分子材料からなる、いわゆるハイドロゲルを用いるのが好適である。汚染環境と外部環境の隔離性、汚染や異物等の除去性能を比較的長期間に渡って維持することができるためである。
【0032】
また、汚染環境と外部環境の隔離性、汚染や異物等の除去性能を担保できれば、ゲル(ハイドロゲル)以外の変形自在な伸縮部材を用いることも可能である。この場合、物品(搬出物13)の搬出がスムーズになるように、動摩擦係数が0.01以下の低摩擦伸縮部材を用いるのが望ましい。
【0033】
以上説明したように、本実施例によれば、比較的簡単な構造で、外部環境との隔離状態を確実に維持しながら、搬出物13を搬出することができる。また、搬出物13を搬出する際に、搬出物13に付着したダストや汚染をゲル9に吸着させることで効果的に除去することができる。
【実施例2】
【0034】
図3Aから図5Eを参照して、実施例2の物品搬出入装置と物品搬出入方法について説明する。本実施例は、汚染環境との隔壁(建屋壁)に設けた貫通部(貫通孔)に対し、貫通部の形状に合せたフレームを設け、なおかつ、内部に切込みを入れたゲルを充填した物品搬出入装置を設置し、ゲルによって汚染環境との隔離を維持した状態で物品を搬出入する例である。本実施例では円形の貫通部に対して物品を搬入する例で説明する。但し、貫通部の断面形状はこれに限定されるものではなく、矩形や特定の物品の断面形状に合わせた形状などであってもよい。
【0035】
図3Aはゲル設置前の物品搬出入装置の正面図である。図3B図3AのD-D’断面図であり、物品搬出入装置の断面構造を示している。本実施例の物品搬出入装置は、図3Aおよび図3Bに示すように、隔壁(建屋壁)に設けた貫通部を貫通して設置されるフレーム18に予めストッパA15が取り付けられている。
【0036】
図4Aは物品搬出入装置に、切り込み14を入れたゲル9を設置した場合の正面図である。図4B図4AのE-E’断面図である。図4Aおよび図4Bに示すように、ゲル9はストッパA15およびストッパB16により物品搬出入装置のフレーム18内に保持、固定される。
【0037】
隔壁(建屋壁)に設けた貫通部への物品搬出入装置の設置から、物品(ここではケーブル付のクローラ型ロボット等)の搬入までの様子を図5Aから図5Eに示す。
【0038】
先ず、図5Aに示すように、建屋壁(壁)20に設けた汚染環境との貫通部(貫通孔)21を塞いだ状態または貫通部21付近をビニールハウスのような簡易的(仮設的)なもので隔離した状態(いずれも図示せず)で、貫通部21にフレーム18を設置し、汚染環境と反対側に仮設の簡易セル19を設置する。フレーム18には予めストッパA15が取り付けられている。
【0039】
次に、図5Bに示すように、簡易セル19からケーブル22が接続されたクローラ型ロボット23を汚染環境内に搬入する。クローラ型ロボット23は、例えば、災害現場や人が立ち入ることが困難な空間において、外部環境からの遠隔操作により作業や情報収集を行うCWD(Crawler Wheel Drive)方式のロボット(自動駆動装置)である。
【0040】
次に、図5Cに示すように、クローラ型ロボット23を汚染環境内へ搬入後、中心にケーブル22が通っている状態のゲル9を簡易セル19からストッパA15まで押し込み、フレーム18内へ配置する。
【0041】
次に、図5Dに示すように、ストッパB16でゲル9を物品搬出入装置のフレーム18に固定する。
【0042】
以上の作業により、汚染環境との隔離状態はゲル9によって維持されるため、図5Eに示すように、簡易セル19を取り外すことが可能となる。
【0043】
汚染環境下でクローラ型ロボット23が動くとケーブル22も追従して引っ張られるが、ゲル9に低摩擦のゲル材料を用いることによりケーブル22の追従性を妨げることなく、隔離状態を維持することが可能となる。また、簡易セル19を取り外せるため、クローラ型ロボット23による作業を行う際に簡易セル19を設置していたスペースを有効活用することも可能となる。
【0044】
なお、ゲル9の交換は再度簡易セル19を設置し、ストッパB16を取り外してゲル9を引き抜き、新しいゲルを設置することによって実施できる。
【実施例3】
【0045】
実施例1および実施例2では、物品の搬出入経路となる開口部8や貫通部21内に中心に切り込み14を入れたゲル9を設置する例を取り上げたが、開口部8または貫通部21内に汚染環境との隔離を目的として設置するゲル9には様々な形状や組合せが考えられる。本実施例では、図6Aから図11Bを参照して、汚染環境との隔離のために開口部8または貫通部21内に設置するゲル9のバリエーション(変形例)について説明する。
【0046】
<変形例1>
図6Aおよび図6Bは、中心に切り込み14を入れたゲル9と円形スペーサー24を交互に設置した物品搬出入装置の正面図および断面図である。図6B図6AのF-F’断面を示している。図6A図6Bに示すように、切り込み14付きのゲル9を開口部8や貫通部21内に複数に分割して設け、ゲル9同士の間に円形スペーサー24を挟むことにより開口部8または貫通部21内に空間(隙間)が形成されるため、物品の搬出入方向においてゲル9が変形しやすくなり、物品の搬出入性を向上させることが可能である。なお、円形スペーサー24はゲル9と同様にゲル材料で製作しても良いが、一般的なOリング等でも良い。
【0047】
<変形例2>
図7Aおよび図7Bは、図6Aおよび図6Bにおいて1枚のゲル9の厚みを薄くし、複数重ねて(ここでは6枚を積層して)設置することにより、より汚染環境との隔離性を向上させた物品搬出入装置の正面図および断面図である。図7B図7AのG-G’断面を示している。
【0048】
1枚のゲル9の厚みを薄くして、複数重ねて設置することで、物品搬出入時の切り込み14部の隔離性(気密性)および汚染除去能力を向上することができる。
【0049】
また、図8に示すように、ゲル9の切り込み14の位置(角度)を変えて組み合せて設置することで、隔離性(気密性)および汚染除去能力をさらに向上させることも可能である。
【0050】
<変形例3>
図9Aおよび図9Bは、床面に低摩擦のゲルマット26を敷き、上面からカーテン状のゲル25を垂らすことで汚染環境と隔離する物品搬出入装置の正面図および断面図である。図9B図9AのH-H’断面を示している。本変形例では、図9Bに示すように、開口部8や貫通部21内において、物品の搬出入方向に沿って延在して設けられた低摩擦ゲルマット26と、物品の搬出入方向に複数に分割して設けられ、低摩擦ゲルマット26と対向する位置に固定されたゲルカーテン25と、ゲルカーテン同士の間に開口部8や貫通部21内に隙間を形成する門形スペーサー27を備えている。
【0051】
ゲルカーテン25同士の間に門型スペーサー27を挟むことにより開口部8または貫通部21内に空間(隙間)が形成されるため、物品の搬出入方向においてゲルカーテン25が変形しやすくなり、物品の搬出入性を向上させることが可能である。
【0052】
また、ゲルカーテン25を複数設置することで隔離性(気密性)を向上させると共に、低摩擦ゲルマット26を床面に敷くことで物品が滑りやすくなり、搬出入性を向上させることが可能である。
【0053】
<変形例4>
乾燥に弱いゲルを用いる場合や、薬品が付着する可能性がある場所または放射線の線量が高い場所でゲルを用いる場合等、厳しい環境でゲルのみを用いた場合、ゲルが直ぐに劣化し、隔離性(気密性)や汚染除去能力が低下し、頻繁にゲルの交換作業が必要になるおそれがある。
【0054】
そのような環境下では、図10Aおよび図10Bに示すように、外部と接する部分はゲル9に替えてゴム28を用い、開口部8または貫通部21の内部にはゲル9を用いることにより、薬品や放射線に対する物品搬出入装置の耐久性を高めることが可能となる。例えば、放射線の線量が高い環境で用いる場合は、外部と接する部分に耐放射線性の高いEPDM(エチレンプロピレンジエン)ゴムを用いることが考えられる。
【0055】
<変形例5>
上記の変形例1から5のように、ゲルとスペーサーの組み合わせでは、物品の通過後にゲルが元の位置(形状)に戻らず、十分な隔離性能を維持できないおそれがある。その場合、図11Aおよび図11Bに示すように、ゲル9とゲル9の間に、ゲル9を強制的に元の位置に戻すための板バネ29を設置することにより隔離機能を向上させることが可能となる。
【0056】
なお、以上の各実施例において説明した物品搬出入装置および物品搬出入方法は、半導体製造工場や医薬品製造施設等のクリーンルームにおける物品の搬出入、原子炉建屋内部からの燃料デブリの取り出し等の他、食品製造加工施設や石油化学工場、防虫用の隔離室など、外部環境との隔離が必要な一般産業の分野においても有効であるのは言うまでもない。
【0057】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…物品搬出入装置、2…床、3…作業セル(中間室)、4…作業セル壁、5…外扉(スライド式扉)、6…内扉、7…作業セル壁面開口部、8…開口部、9…ゲル、10…台車A、11…台車B、12…台車C、13…搬出物(搬入物)、14…切り込み、15…ストッパA、16…ストッパB、17…ボルト、18…フレーム、19…簡易セル(仮設セル)、20…建屋壁(壁)、21…貫通部(貫通孔)、22…ケーブル、23…クローラ型ロボット、24…円形スペーサー、25…ゲルカーテン、26…低摩擦ゲルマット、27…門型スペーサー、28…ゴム、29…板バネ。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B