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特許7073180かしめナット及びかしめナットの冷間圧造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】かしめナット及びかしめナットの冷間圧造方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/04 20060101AFI20220516BHJP
   B21K 1/68 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
F16B37/04 Q
B21K1/68 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018079245
(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公開番号】P2019184038
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】500421808
【氏名又は名称】ボーセイキャプティブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】高野 桂一
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3157701(JP,U)
【文献】特開昭60-252814(JP,A)
【文献】特開2008-275050(JP,A)
【文献】特開2014-043883(JP,A)
【文献】特開2003-294019(JP,A)
【文献】登録実用新案第3131198(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/04
B21K 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット本体部の軸方向一端側にかしめ固定部が形成され、前記かしめ固定部が被取付部材に形成されたナット取付穴に係合された状態で被取付部材にかしめ固定されるようになっているかしめナットにおいて、
前記かしめ固定部は、前記ナット本体部の外径と同径で前記ナット本体部の軸方向一端側から軸方向に沿って延びる圧入固定部分と、この圧入固定部分よりも小径で且つ前記圧入固定部分の軸方向一端側から前記軸方向に沿って延びる略円筒状のパイロット部分と、を有し、
前記圧入固定部分は、前記ナット本体部の外径と同径の外周面から径方向内方へ向けて凹み且つ前記軸方向に沿って延びる凹所が周方向に沿って複数形成され、前記被取付部材に圧入されることにより、前記被取付部材の一部を前記凹所内に収容して、前記被取付部材に対して回り止めされた状態で固定され、
前記パイロット部分は、軸方向先端面側の外径が前記被取付部材の前記ナット取付穴に係合する大きさに形成されると共に、外周面が前記軸方向先端面側から前記圧入固定部分の軸方向一端側へ向かうに従って外径寸法を漸減する逆テーパ形状に形成され、前記圧入固定部分が前記被取付部材に圧入された際に、前記外周面と前記ナット取付穴の内周面との隙間に前記被取付部材の一部を収容し、前記被取付部材に抜け止めされた状態で固定され、
前記パイロット部分の軸方向先端面には、有底のねじ下穴が開口し、
前記かしめ固定部の前記軸方向に沿った長さは、前記被取付部材の板厚に等しいか、又は被取付部材の板厚よりも短い、
ことを特徴とするかしめナット。
【請求項2】
ナット本体部の軸方向一端側には、かしめ固定部が形成され、
前記かしめ固定部は、前記ナット本体部の外径と同径で前記ナット本体部の軸方向一端側から軸方向に沿って延びる圧入固定部分と、この圧入固定部分よりも小径で且つ前記圧入固定部分の軸方向一端側から前記軸方向に沿って延びる略円筒状のパイロット部分と、を有し、
前記圧入固定部分は、前記ナット本体部の外径と同径の外周面から径方向内方へ向けて凹み且つ前記軸方向に沿って延びる凹所が周方向に沿って複数形成され、
前記パイロット部分は、外周面が軸方向先端面側から前記圧入固定部分の軸方向一端側へ向かうに従って外径寸法を漸減する逆テーパ形状に形成され、
前記パイロット部分の軸方向先端面には、有底のねじ下穴が開口する、
かしめナットの冷間圧造方法において、
丸棒状の加工素材を第1金型内で加圧し、前記パイロット部分が形作られる前記加工素材の軸方向先端側部分を円錐台形状に形成する第1冷間圧造工程と、
前記第1金型内から取り出した前記加工素材を第2金型内で加圧し、前記ナット本体部及び前記圧入固定部分を前記加工素材に形成すると共に、前記加工素材の軸方向先端側に小径軸部を形成する第2冷間圧造工程と、
前記第2金型内から取り出した前記加工素材を第3金型内で加圧し、前記小径軸部の先端面に開口する予備加工穴を形成するねじ下穴加工の第1ステップと、前記第3金型内から取り出した前記加工素材を第4金型内にセットし、前記予備加工穴内にねじ下穴加工用ロッドを押し込んで、前記ねじ下穴を形成するねじ下穴加工の第2ステップと、を有する第3冷間圧造工程と、
前記第金型内から取り出した前記加工素材を第4冷間圧造用金型内にセットし、前記ねじ下穴の開口端側にパイロット部分形成用ロッドを挿入し、前記小径軸部に前記パイロット部分を形成する第4冷間圧造工程と、
を有することを特徴とするかしめナットの冷間圧造方法。
【請求項3】
ナット本体部の軸方向一端側には、かしめ固定部が形成され、
前記かしめ固定部は、前記ナット本体部の外径と同径で前記ナット本体部の軸方向一端側から軸方向に沿って延びる圧入固定部分と、この圧入固定部分よりも小径で且つ前記圧入固定部分の軸方向一端側から前記軸方向に沿って延びる略円筒状のパイロット部分と、を有し、
前記圧入固定部分は、前記ナット本体部の外径と同径の外周面から径方向内方へ向けて凹み且つ前記軸方向に沿って延びる凹所が周方向に沿って複数形成され、
前記パイロット部分は、外周面が軸方向先端面側から前記圧入固定部分の軸方向一端側へ向かうに従って外径寸法を漸減する逆テーパ形状に形成され、
前記パイロット部分の軸方向先端面には、有底のねじ下穴が開口する、
かしめナットの冷間圧造方法において、
丸棒状の加工素材を第1金型内で加圧し、前記パイロット部分が形作られる前記加工素材の軸方向先端側部分を円錐台形状に形成する第1冷間圧造工程と、
前記第1金型内から取り出した前記加工素材を第2金型内で加圧し、前記ナット本体部及び前記圧入固定部分を前記加工素材に形成すると共に、前記加工素材の軸方向先端側に小径軸部を形成する第2冷間圧造工程と、
前記第2金型内から取り出した前記加工素材を第3金型内で加圧し、前記小径軸部の先端面に開口する前記ねじ下穴を形成する第3冷間圧造工程と、
前記第3金型内から取り出した前記加工素材を第4冷間圧造用金型内にセットし、前記ねじ下穴の開口端側にパイロット部分形成用ロッドを挿入し、前記小径軸部に前記パイロット部分を形成する第4冷間圧造工程と、
を有することを特徴とするかしめナットの冷間圧造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ねじ穴(めねじ)加工ができない板状部材(被取付部材)にかしめ固定され、ねじ(例えば、丸平子ねじ等)又はボルトが螺合されるようになっているかしめナット、及びその冷間圧造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ねじ穴加工ができない板状部材(鋼板やアルミ板等の被取付部材)にかしめナットをかしめ固定し、このかしめナットとこのかしめナットに螺合されるねじ(丸平小ねじ等)又はボルトとによって板状部材に他の構造物(電子部品支持パネル、プリント基板等)を締め付け固定する技術が知られている。
【0003】
図5は、このようなかしめナット101を示すものである。この図5に示すように、かしめナット101は、ねじ穴(めねじ)102が形成された略円筒形状のものであり、ナット本体部103の一端側にかしめ固定部104が形成されている。このかしめ固定部104は、板状の被取付部材105のナット取付穴106に係合されるパイロット部分107と、被取付部材105のナット取付穴106の周縁に圧入される圧入固定部分108とを有している(図6(a)参照)。このうち、パイロット部分107は、被取付部材105のナット取付穴106に僅かな隙間をもって係合する逆テーパ状の略円筒形であり、軸方向先端面(図5(b)の左側端面)110の外径寸法が最も大きく、根元側(図5(b)における軸線CLに沿った右側)へ向かうにしたがって外形寸法が漸減するようになっている(アンダーカットになっている)。圧入固定部分108は、パイロット部分107に隣接して位置し、その外径寸法がパイロット部分107の外径寸法及び被取付部材105の穴106の寸法よりも大きく、ナット本体部103の外径寸法よりも小さくなっており、全周に沿って略三角状の溝111が連続して形成されている(図5(a)参照)。また、このかしめナット101は、かしめ固定部104の軸線CLに沿った長さが被取付部材105の板厚寸法よりもやや短く形成されている。なお、溝111は、軸線CLに沿った方向へ延びるセレーション溝である。
【0004】
このような形状のかしめナット101は、図6(a)に示すように、パイロット部分107を被取付部材105のナット取付穴106に挿入し、圧入固定部分108の端面112を被取付部材105の表面113に押し当て、被取付部材105の裏面114に押し当てた当て金(下型)115とパンチ(上型)116との間で加圧される。その結果、図6(b)に示すように、かしめナット101は、かしめ固定部104が被取付部材105に圧入され、圧入固定部分108によって押された被取付部材105の一部(母材)が逆テーパ状のパイロット部分107とナット取付穴106との隙間を埋めるように塑性流動すると共に、被取付部材105の一部が圧入固定部分108の略三角状の溝111に隙間無く噛み合い(図5参照)、パイロット部分107の端面110が被取付部材105の裏面114から出っ張ることがないように、被取付部材105にかしめ固定されることになる。このようにして被取付部材105にかしめ固定されたかしめナット101は、逆テーパ状のパイロット部分107が被取付部材105からの抜け止め機能を発揮し、圧入固定部分108の略三角状の溝111が被取付部材105に対する回り止め機能を発揮するようになっている(図6(b)参照)。そして、かしめナット101がかしめ固定された被取付部材105には、他の構造物(例えば、プリント基板や、電子部品支持パネル)が重ね合わせられるように密着して配置され、その構造物がかしめナットに螺合するねじ又はボルトで被取付部材105に締め付け固定される(特許文献1参照(特に、図6及び図7参照))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3157701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5に示した従来のかしめナット101は、ねじ穴102が貫通穴であったため、冷間圧造加工で加工することが可能であった。
【0007】
しかしながら、従来のかしめナット101は、パイロット部分107よりも圧入固定部分108の方が外径寸法が大きく形成され、圧入固定部分108よりもナット本体部103の方が外径寸法が大きく形成されており、外径寸法が軸線CLに沿って3段階に階段状に増大するように変化しているため、ねじ穴102が貫通穴でない場合(有底のねじ穴102の場合)、冷間圧造加工が困難であり(素材をダイス内で正確に塑性流動させることが困難であり)、切削加工によって形成されていた。その結果、従来の有底のねじ穴を有するかしめナットは、切り屑として無駄にする材料の量が多く、生産工数が嵩み、製品コストが高かった。
【0008】
そこで、本発明は、冷間圧造加工を可能にする形状のかしめナット、及びかしめナットの冷間圧造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ナット本体部2の軸方向一端側にかしめ固定部3が形成され、前記かしめ固定部3が被取付部材6に形成されたナット取付穴10に係合された状態で前記被取付部材6にかしめ固定されるようになっているかしめナット1に関するものである。本発明のかしめナット1において、前記かしめ固定部3は、前記ナット本体部2の外径と同径で前記ナット本体部2の軸方向一端側から軸方向に沿って延びる圧入固定部分4と、この圧入固定部分4よりも小径で且つ前記圧入固定部分4の軸方向一端側から前記軸方向に沿って延びる略円筒状のパイロット部分5と、を有している。また、前記圧入固定部分4は、前記ナット本体部2の外径と同径の外周面4aから径方向内方へ向けて凹み且つ前記軸方向に沿って延びる凹所7が周方向に沿って複数形成され、前記被取付部材6に圧入されることにより、前記被取付部材6の一部を前記凹所7内に収容して、前記被取付部材6に対して回り止めされた状態で固定される。また、前記パイロット部分5は、軸方向先端面13側の外径が前記被取付部材6の前記ナット取付穴10に係合する大きさに形成されると共に、外周面11が前記軸方向先端面13側から前記圧入固定部分4の軸方向一端側へ向かうに従って外径寸法を漸減する逆テーパ形状に形成され、前記圧入固定部分4が前記被取付部材6に圧入された際に、前記外周面11と前記ナット取付穴10の内周面10aとの隙間12に前記被取付部材6の一部を収容し、前記被取付部材6に抜け止めされた状態で固定される。そして、前記パイロット部分5の軸方向先端面13には、有底のねじ下穴14が開口するようになっている。
【0010】
また、本発明は、
・ナット本体部2の軸方向一端側には、かしめ固定部3が形成され、
・前記かしめ固定部3は、前記ナット本体部2の外径と同径で前記ナット本体部2の軸方向一端側から軸方向に沿って延びる圧入固定部分4と、この圧入固定部分4よりも小径で且つ前記圧入固定部分4の軸方向一端側から前記軸方向に沿って延びる略円筒状のパイロット部分5と、を有し、
・前記圧入固定部分4は、前記ナット本体部2の外径と同径の外周面4aから径方向内方へ向けて凹み且つ前記軸方向に沿って延びる凹所7が周方向に沿って複数形成され、
・前記パイロット部分5は、外周面が軸方向先端面13側から前記圧入固定部分4の軸方向一端側へ向かうに従って外径寸法を漸減する逆テーパ形状に形成され、
・前記パイロット部分5の軸方向先端面13には、有底のねじ下穴14が開口する、
かしめナット1の冷間圧造方法に関するものである。
本発明のかしめナット1の冷間圧造方法は、
・丸棒状の加工素材23を第1金型24内で加圧し、前記パイロット部分5が形作られる前記加工素材23の軸方向先端側部分26を円錐台形状に形成する第1冷間圧造工程と、
・前記第1金型24内から取り出した前記加工素材23を第2金型27内で加圧し、前記ナット本体部2及び前記圧入固定部分4を前記加工素材23に形成すると共に、前記加工素材23の軸方向先端側に小径軸部31を形成する第2冷間圧造工程と、
・前記第2金型27内から取り出した前記加工素材23を第3金型34内で加圧し、予備加工穴を形成するねじ下穴加工の第1ステップと、前記第3金型34内から取り出した前記加工素材23を第4金型38内にセットし、前記予備加工穴36内にねじ下穴加工用ロッド37を押し込んで、前記ねじ下穴14を形成するねじ下穴加工の第2ステップと、を有する第3冷間圧造工程と、
・前記第金型38内から取り出した前記加工素材23を第4冷間圧造用金型41内にセットし、前記ねじ下穴14の開口端側にパイロット部分形成用ロッド43を挿入し、前記小径軸部31に前記パイロット部分5を形成する第4冷間圧造工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るかしめナットは、圧入固定部分とナット本体部との外径寸法を同一にし、パイロット部分、圧入固定部分、及びナット本体部とで外径寸法の変化を2段階にしてあるため、有底のねじ下穴を有する場合であっても冷間圧造加工が可能になる。その結果、本発明に係るかしめナットは、切削加工される従来のかしめナットと比較して、無駄にする材料の量を削減でき、生産効率を向上させて、製品コストの低廉化を図ることができる。
【0012】
また、本発明に係るかしめナットの冷間圧造方法によれば、切削加工される従来のかしめナットと比較して、無駄にする材料の量を削減でき、生産効率を向上させて、製品コストの低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係るかしめナットを示す図であり、図1(a)はかしめナットの正面図、図1(b)はかしめナットの側面図、図1(c)は図1(a)のA1-A1線に沿って切断して示す断面図、図1(d)はかしめナットの背面図である。
図2図2(a)は本発明の実施例に係るかしめナットを被取付部材にかしめ固定する前の状態を示す図であり、図2(b)は本発明の実施例に係るかしめナットを被取付部材にかしめ固定した後の状態を示す図である。
図3】本発明の実施例に係るかしめナットの冷間圧造方法を示す図である。
図4図4(a)は本発明に係るかしめナットの変形例1を示す図であり、図4(b)は本発明に係るかしめナットの変形例2を示す図である。
図5図5(a)は従来例に係るかしめナットの正面図であり、図5(b)は従来例に係るかしめナットの一部を破断して示す側面図である。
図6図6(a)は従来例に係るかしめナットを被取付部材にかしめ固定する前の状態を示す図であり、図6(b)は従来例に係るかしめナットを被取付部材にかしめ固定した後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳述する。
(かしめナット)
図1は、本発明に係るかしめナット1を示す図である。なお、図1(a)は、かしめナット1の正面図である。また、図1(b)は、かしめナット1の側面図である。また、図1(c)は、図1(a)のA1-A1線に沿って切断して示すかしめナット1の断面図である。また、図1(d)は、かしめナット1の背面図である。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るかしめナット1は、丸棒を所定長さに切断したような円柱状のナット本体部2と、このナット本体部2の軸方向一端側(図1(b)の軸線CLに沿った左端側)に一体に形成されたかしめ固定部3と、を有している。
【0016】
かしめ固定部3は、ナット本体部2の外径と同径でナット本体部2の軸方向一端側から軸方向(図1(b)及び図1(c)における軸線CLに沿った左方向)に沿って延びる圧入固定部分4と、この圧入固定部分4よりも小径で且つ圧入固定部分4の軸方向一端側から軸方向(図1(b)及び図1(c)における軸線CLに沿った左方向)に延びる略円筒状のパイロット部分5と、を有している。このかしめ固定部3は、軸方向長さ(軸線CLに沿った長さ)L1が被取付部材6の板厚tと等しいか又は被取付部材6の板厚tよりも短くなるように形成されている。
【0017】
圧入固定部分4は、ナット本体部2の外径と同径の外周面4aから径方向内方へ向けて三角形状(正面側から見た形状が三角形状)に凹み且つ軸方向に沿って(軸線CLに沿って)延びる凹所7が周方向に沿って複数連続して形成され、隣り合う凹所7,7間に三角形状の突起8が形成されている。この圧入固定部分4は、図2(b)に示すように、被取付部材6(筐体の金属パネル等)に圧入されることにより、被取付部材6の一部を凹所7内に収容して、被取付部材6に対して回り止めされた状態で固定される。
【0018】
パイロット部分5は、正面側の外形形状が円形状であり、軸方向先端側(図1(b)及び図1(c)の左端側)の外径が被取付部材6のナット取付穴10に係合する大きさに形成される(図2参照)と共に、外周面11が軸方向先端側から圧入固定部分4の軸方向一端側(図1(b)及び図1(c)における右方向)へ向かうに従って外径寸法を漸減する逆テーパ形状に形成されている。このパイロット部分5は、図2(b)に示すように、圧入固定部分4が被取付部材6に圧入された際に、外周面11とナット取付穴10の内周面10aとの隙間12(逆テーパ状の隙間12)に被取付部材6の一部(被取付部材6の塑性流動した部分)を収容し、被取付部材6に抜け止めされた状態で固定される。そして、このパイロット部分5は、軸方向長さL2が被取付部材6の板厚tよりも短くなるように形成されている。
【0019】
また、パイロット部分5は、図1(b)及び図1(c)における軸方向先端面(軸方向一端面)13の中央にねじ下穴14が開口している。このねじ下穴14は、有底の穴であって、パイロット部分5の軸方向先端面13から軸方向(図1(b)及び図1(c)における右側方向)に沿ってナット本体部2まで延びている。そして、このねじ下穴14は、タップによってめねじ15が切られることにより、丸平子ねじ等の軸部のおねじ(図示せず)又はボルトの軸部のおねじ(図示せず)が螺合されるねじ穴16が形成されるようになっている。
【0020】
以上のような構造のかしめナット1は、鉄系金属、ステンレス、アルミニウム等の線材を所定寸法に切断して丸棒状のかしめナット用素材が形成された後、そのかしめナット用素材に冷間圧造加工が施され、図1に示す形状に形成される。なお、図1に示す本実施形態に係るかしめナット1は、ねじ穴16が形成されたものを例示しているが、これに限定されず、ねじ下穴14のみを形成したものを製品として出荷し、使用時にタッピングねじでめねじを切りながら、タッピングねじを螺合させるようにしてもよい。
【0021】
図2は、本発明に係るかしめナット1を被取付部材6に固定する状態を例示するものである。なお、図2(a)は、かしめナット1のパイロット部分5を被取付部材6のナット取付穴10に係合した状態であり、かしめナット1を被取付部材6にかしめ固定する前の状態を示す図である。また、図2(b)は、かしめナット1を被取付部材6にかしめ固定した後の状態を示す図である。
【0022】
先ず、図2(a)に示すように、かしめナット1を被取付部材6にかしめ固定する前段階として、かしめナット1のパイロット部分5が被取付部材6のナット取付穴10に挿入され、かしめナット1の圧入固定部分4の先端面4aが被取付部材6の表面(一側面)17に突き当てられる。そして、被取付部材6の裏面18側には、かしめナット1の外径寸法よりも大径の当て金20が被取付部材6の裏面18に面接触するように突き当てられる。また、かしめナット1の軸方向他端面21側(ナット本体部2の裏面(21)側)には、かしめナット1にかしめ力を付与するパンチ22が対向するように配置される。ここで、パンチ22は、かしめナット1の軸方向他端面21の全面を被取付部材6に向けて押圧できるように、かしめナット1の外径よりも大径で且つかしめナット1の軸方向他端面21と平行の平坦面を有している。
【0023】
次に、図2(b)に示すように、かしめナット1を被取付部材6側へ押すかしめ力がパンチ22に付与され、かしめナット1のパイロット部分5の軸方向先端面13が当て金20に当接するまで、かしめナット1の圧入固定部分4がパンチ22のかしめ力によって被取付部材6に押し込まれる。そして、かしめナット1の圧入固定部分4が被取付部材6に押し込まれることにより、被取付部材6の一部が塑性流動して圧入固定部分4の凹所7に収容されると共に、被取付部材6の一部が塑性流動してパイロット部分5の外周面11とナット取付穴10の内周面10aとの隙間12(逆テーパ状の隙間12)に隙間無く収容される。これにより、かしめナット1は、被取付部材6に回り止め及び抜け止めされた状態で固定される。
【0024】
以上のような本実施形態に係るかしめナット1は、圧入固定部分4とナット本体部2との外径寸法を同一にし、パイロット部分5、圧入固定部分4、及びナット本体部2とで外径寸法の変化を2段階にしてあるため、かしめナット用素材をダイスの内部で正確に塑性流動させることができ、冷間圧造加工が可能になる。その結果、本実施形態に係るかしめナット1は、切削加工で形成される従来のかしめナット101と比較し、無駄にする材料の量を削減でき、生産効率を向上させて、製品コストの低廉化を図ることができた。
【0025】
また、本実施形態に係るかしめナット1は、電子部品を収納する筐体の被取付部材6にかしめ固定されて使用されるような場合、ねじ穴16の一端が閉じられているため、ねじ穴16に螺合されるねじ又はボルトに付着した金属粉やゴミ等がねじ穴16から筐体内部に侵入するのを防止できる。
【0026】
(かしめナットの冷間圧造方法)
図3は、本実施例に係るかしめナット1の冷間圧造方法を示す図である。本実施例に係るかしめナット1は、以下の第1乃至第4冷間圧造工程を経て形成される。なお、以下のかしめナット1の冷間圧造方法の説明において、加工素材23の上下は図3中の加工素材23の姿勢を説明するための便宜上のものであり、第1乃至第4冷間圧造工程における加工素材23の姿勢を何ら限定するものではない。また、図3(b)~(f)において、加工素材23は、冷間圧造工程を理解し易くするため、中心線から右側の半分を断面して示している。
【0027】
(1)第1冷間圧造工程(図3(b))
図3(a)に示した所定長さの丸棒状の加工素材23は、第1金型24内で加圧部材25によって加圧され、パイロット部分5を形作るための軸方向先端側部分26が円錐台形状に形成されると共に、加工素材23の軸方向長さ及び外径寸法が次の工程である第2冷間圧造工程の実施を可能にする寸法に調整される。なお、図3に示すかしめナット1の冷間圧造方法の説明において、加工素材23の下面側(パイロット部分5を形作る側)を先端側とし、加工素材23の上面側を後端側とする。
【0028】
(2)第2冷間圧造工程(図3(c))
次に、第1金型24から取り出された加工素材23は、第2金型27内で加圧部材28によって加圧され、大径軸部30とその大径軸部30の軸方向先端側に位置する小径軸部31とが形作られる(2段軸状に形作られる)と共に、大径軸部30の先端側に圧入固定部分4が形成され、小径軸部31の先端面31aの中央に円錐形状の凹み32が形成される。この第2冷間圧造工程において、加工素材23の大径軸部30には、ナット本体部2と圧入固定部分4とが形成されている。また、この第2冷間圧造工程において、加工素材23の小径軸部31は、後述の第3及び第4冷間圧造工程を経てパイロット部分5が形成される。また、この第2冷間圧造工程において、小径軸部31の先端面31aに形成された円錐状の凹み32は、後述するねじ下穴加工用ロッド33の円錐状の先端が係合され、ねじ下穴加工用ロッド33の位置決めガイドとして機能する。
【0029】
(3)第3冷間圧造工程(図3(d)~図3(e))
この第3冷間圧造工程は、以下に示すように、ねじ下穴加工の第1ステップ(図3(d))と、ねじ下穴加工の第2ステップ(図3(e))とを有している。
【0030】
i.ねじ下穴加工の第1ステップ(図3(d))
第2金型27から取り出された加工素材23は、第3金型34内に小径軸部31を下にしてセットされ、大径軸部30の後端側が加圧部材35によって加圧され、第1のねじ下穴加工用ロッド33が小径軸部31の先端面31aから押し込まれ、ねじ下穴14を形成するための予備加工穴36が小径軸部31の先端面31aに開口するように形成される。なお、予備加工穴36は、ねじ下穴14の穴深さよりも浅く形成され、後のねじ下穴加工の第2ステップで使用される第2のねじ下穴加工用ロッド37のガイド穴として機能する。
【0031】
ii.ねじ下穴加工の第2ステップ(図3(e))
次に、第3金型34から取り出された加工素材23は、第4金型38内に小径軸部31を下にしてセットされ、大径軸部30の後端側が加圧部材40によって加圧され、第2のねじ下穴加工用ロッド37が小径軸部31の先端面31aから予備加工穴36内に押し込まれ、ねじ下穴14が形成される。
【0032】
(4)第4冷間圧造工程(図3(f))
次に、第4金型38から取り出された加工素材23は、第4冷間圧造用金型(パイロット部分形成用金型)41内に小径軸部31を下にしてセットされ、大径軸部30の後端側が加圧部材42によって加圧され、ねじ下穴14の開口端側にパイロット部分形成用ロッド43が挿入され、小径軸部31がパイロット部分形成用ロッド43のテーパ部分44によって逆テーパ形状に拡開される。
【0033】
以上に示したように、図1及び図2に示した本実施例に係るかしめナット1は、第1乃至第4冷間圧造工程を経て形成される。そして、かしめナット1のねじ下穴14は、雌ねじが切られることによってねじ穴16となる。なお、本実施例に係るかしめナット1の冷間圧造方法は、ねじ下穴14の深さが浅い場合に、第3冷間圧造工程におけるねじ下穴加工の第2ステップを省略し、予備加工穴36をねじ下穴14にしてもよい。
【0034】
以上のような本実施例に係るかしめナット1の冷間圧造方法によれば、切削加工される従来のかしめナットと比較して、無駄にする材料の量を削減でき、生産効率を向上させて、製品コストの低廉化を図ることができる。
【0035】
(かしめナットの変形例1)
図4(a)は、本発明に係るかしめナット1の変形例1を示す正面図である。この図4(a)に示す本変形例1に係るかしめナット1は、圧入固定部分4の凹所7の形状(正面側から見た形状)が円弧形状であり、隣り合う凹所7,7の間に略三角形状の突起8が形成されている。このような本変形例1に係るかしめナット1は、圧入固定部分4の凹所7の形状(正面側から見た形状)が三角形状の図1に示したかしめナット1と同様に、圧入固定部分4が被取付部材6に圧入されると、圧入固定部分4が被取付部材6に回り止めした状態で固定される。
【0036】
(かしめナットの変形例2)
図4(b)は、本発明に係るかしめナット1の変形例2を示す正面図である。この図4(b)に示す本変形例2に係るかしめナット1は、圧入固定部分4を正面側から見た外形形状が六角形状になるように、圧入固定部分4の周方向に沿って6箇所の凹所7が形成されている。このような本変形例2に係るかしめナット1は、圧入固定部分4の凹所7の形状(正面側から見た形状)が三角形状の図1に示したかしめナット1と同様に、圧入固定部分4が被取付部材6に圧入されると、圧入固定部分4が被取付部材6に回り止めした状態で固定される。
【0037】
(その他の変形例)
本発明において、かしめナット1の圧入固定部分4の凹所7は、上記実施形態及び各変形例に例示した形状に限定されず、圧入固定部分4を被取付部材6に回り止めした状態で固定できる形状であればよい。
【符号の説明】
【0038】
1……かしめナット、2……ナット本体部、3……かしめ固定部、4……圧入固定部分、5……パイロット部分、6……被取付部材、7……凹所、10……ナット取付穴、10a……内周面、11……外周面、12……隙間、13……軸方向先端面、14……ねじ下穴、23……加工素材、24……第1金型、26……軸方向先端側部分、27……第2金型、31……小径軸部、31a……先端面、34……第3金型、43……パイロット部分形成用ロッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6