(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】ミリ波レーダー用カバー及びミリ波レーダー
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/42 20060101AFI20220516BHJP
C08G 64/06 20060101ALI20220516BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20220516BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220516BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20220516BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20220516BHJP
【FI】
H01Q1/42
C08G64/06
C08L25/08
C08L69/00
G01S7/03 246
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2018088576
(22)【出願日】2018-05-02
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】田島 寛之
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-071881(JP,A)
【文献】特開2013-071958(JP,A)
【文献】特開2016-121307(JP,A)
【文献】特開2018-044128(JP,A)
【文献】特開2013-253187(JP,A)
【文献】特開2013-064046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00- 25/04
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00- 13/95
C08G 63/00- 64/42
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(A1)と、下記一般式(2)で表される構成単位(A2)から構成され、全構成単位における構成単位(A1)の割合が10~90質量%、(A2)の割合が90~10質量%であるポリカーボネート共重合体またはポリカーボネートブレンド物を含むポリカーボネート樹脂材料からなることを特徴とするミリ波レーダー用カバー。
【化1】
(一般式(1)中、R
1はメチル基、R
2及びR
3はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、Xは、直接結合、または、
【化2】
を示し、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【化3】
(一般式(2)中、Xは前記一般式(1)におけるXと同義である。)
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂材料が、さらにスチレン系樹脂を含有する請求項1に記載のミリ波レーダー用カバー。
【請求項3】
比誘電率が2.9以下である請求項1または2に記載のミリ波レーダー用カバー。
【請求項4】
誘電正接が0.0068以下である請求項1~3のいずれかに記載のミリ波レーダー用カバー。
【請求項5】
請求項1
~4のいずれかに記載のミリ波レーダー用カバーを備えることを特徴とするミリ波レーダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミリ波レーダー用カバー及びミリ波レーダーに関し、詳しくは、比誘電率及び誘電正接が共に低く、透過減衰量が低減され、耐熱性、硬度及び耐衝撃性にも優れた、ミリ波レーダー用カバー及びミリ波レーダーに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波レーダーは、ミリ波帯の電波を発信し、発信されたミリ波が障害物に衝突して戻ってくる反射波を受信して障害物の存在を検知するものであり、障害物を検知する他の方法(光学系のレーザーレーダーやカメラなど)に比べて、雨、霧、逆光などの影響を受けにくいことから、視界の効かない夜間や悪天候時に強いという特徴があり、自動車の衝突防止用センサー、運転支援システム、自動運転システム、或いは道路情報提供システムなどへ応用されている。
【0003】
ミリ波レーダーは、内部にアンテナユニットが組み込まれ、送受信アンテナの前面には、アンテナ面を保護するためにミリ波レーダー用カバーが取り付けられている(例えば、特許文献1-2を参照。)。ミリ波レーダー用カバーは、ミリ波透過性が十分でないと、送受信アンテナからの発信ミリ波及び反射波が低減することにより、障害物等を精度良く検知することができず、ミリ波レーダーとしての要求性能を満たし得なくなる。
【0004】
特許文献1には、ミリ波透過性に優れた材料として、比誘電率が3.0以下のものが好ましいとして、ポリカーボネート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂が例示されている。
しかし、特許文献2にも記載されるように、比誘電率が低いだけでは、ミリ波透過性は十分とはいえず、ミリ波透過性の向上のためには、比誘電率のみならず、誘電正接も低いことが望まれている。
【0005】
さらに、ミリ波レーダー用カバーは、外気温が高くなる夏にも機能が損なわれないためにも、耐熱性に優れることが求められ、また耐衝撃性に優れることや表面硬度が高いことも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-312696号公報
【文献】特開2011-71881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的(課題)は、比誘電率及び誘電正接が共に低く、透過減衰量が低減され、耐熱性、硬度及び耐衝撃性に優れた、ミリ波レーダー用カバー及びミリ波レーダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の構成単位(A1)及び(A2)から構成されるポリカーボネート共重合体またはポリカーボネートブレンド物が上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のミリ波レーダー用カバー及びミリ波レーダーに関する。
【0009】
[1]下記一般式(1)で表される構成単位(A1)と、下記一般式(2)で表される構成単位(A2)から構成され、全構成単位における構成単位(A1)の割合が10~90質量%、(A2)の割合が90~10質量%であるポリカーボネート共重合体またはポリカーボネートブレンド物を含むポリカーボネート樹脂材料からなることを特徴とするミリ波レーダー用カバー。
【化1】
(一般式(1)中、R
1はメチル基、R
2及びR
3はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、Xは、直接結合、または、
【化2】
を示し、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【化3】
(一般式(2)中、Xは前記一般式(1)におけるXと同義である。)
【0010】
[2]ポリカーボネート樹脂材料が、さらにスチレン系樹脂を含有する上記[1]に記載のミリ波レーダー用カバー。
[3]上記[1]または[2]に記載のミリ波レーダー用カバーを備えることを特徴とするミリ波レーダー。
【発明の効果】
【0011】
本発明のミリ波レーダー用カバーは、比誘電率及び誘電正接が共に低く、ミリ波の透過性が高く、透過減衰量が低減され、耐熱性、硬度及び耐衝撃性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明のミリ波レーダー用カバーは、前記一般式(1)で表される構成単位(A1)と、前記一般式(2)で表される構成単位(A2)から構成され、全構成単位における構成単位(A1)の割合が10~90質量%、(A2)の割合が90~10質量%であるポリカーボネート共重合体またはポリカーボネートブレンド物を含むポリカーボネート樹脂材料からなることを特徴とする。
【0014】
以下、本発明のミリ波レーダー用カバーに使用するポリカーボネート樹脂材料を構成する各成分等につき、詳細に説明する。
【0015】
[ポリカーボネート樹脂材料(A)]
本発明に使用するポリカーボネート樹脂材料(A)は、下記一般式(1)で表される構成単位(A1)と、下記一般式(2)で表される構成単位(A2)から構成されるポリカーボネート共重合体またはポリカーボネートブレンド物のいずれであってもよく、全構成単位における構成単位(A1)の割合が10~90質量%、(A2)の割合が90~10質量%であるポリカーボネート共重合体またはポリカーボネートブレンド物である。
【化4】
(一般式(1)中、R
1はメチル基、R
2及びR
3はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を、Xは、直接結合、または、
【化5】
を示し、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【化6】
(一般式(2)中、Xは前記一般式(1)におけるXと同義である。)
【0016】
構成単位(A1)、(A2)の好ましい割合は、構成単位(A1)が15~85質量%、構成単位(A2)が85~15質量%であり、より好ましくは(A1)が20~80質量%、(A2)が80~20質量%であり、さらには(A1)が25~75質量%、(A2)が75~25質量%であることが好ましい。このような範囲にすることで、比誘電率及び誘電正接が共に低く、ミリ波の透過性が高く、透過減衰量を低減することができる。構成単位(A1)の割合が10質量%を下回ると、表面硬度は劣り、構成単位(A1)の割合が90質量%より多いと、耐衝撃強度が劣り、また耐熱性が悪くなる。
【0017】
上記構成単位の割合は、ポリカーボネート樹脂材料(A)が構成単位(A1)と(A2)のポリカーボネート共重合体であっても、構成単位(A1)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA1)と、構成単位(A2)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA2)をブレンドした混合物(ポリカーボネートブレンド物)によって達成されていてもよい。
ここで、上記ポリカーボネート樹脂(PCA1)あるいは(PCA2)における「主たる構成単位」とは、各ポリカーボネート樹脂のカーボネート構成単位100質量%中、構成単位(A1)あるいは構成単位(A2)が50質量%超、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは97質量%以上の割合であることを意味する。
【0018】
構成単位(A1)を示す上記一般式(1)において、R
1はメチル基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であるが、R
2及びR
3は、共に水素原子であるか、または共にメチル基であることが好ましい。
また、Xは、直接結合、または、
【化7】
である場合、R
4及びR
5の両方がメチル基であるイソプロピリデン基であることが好ましく、また、Xが、
【化8】
の場合、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の二価の脂環式炭化水素基を形成するが、二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0019】
構成単位(A1)の好ましい具体例としては、以下のイ)~ホ)が挙げられる。
イ)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン単位を有するもの、即ちR1がメチル基、R2、R3が水素原子、Xがイソプロピリデン基である単位
ロ)1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン単位、即ちR1がメチル基、R2、R3が水素原子、Xがシクロドデシリデン基である単位
ハ)2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン単位、即ちR1がメチル基、R2、R3がメチル基、Xがイソプロピリデン基である単位
ニ)1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン単位、即ちR1がメチル基、R2、R3が水素原子、Xがシクロヘキシリデン基である単位
ホ)3,3-ジメチルビフェノール単位、即ち、R1がメチル基、R2、R3が水素原子、Xが直接結合である単位
これらの中で、より好ましくは上記イ)、ロ)またはハ)、さらに好ましくは上記イ)またはハ)、特には上記イ)の構成単位が好ましい。
【0020】
上記した構成単位のポリカーボネート樹脂は、それぞれ、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、3,3-ジメチルビフェノールを、ジヒドロキシ化合物として使用して製造することができる。
【0021】
構成単位(A1)は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0022】
また、前記一般式(2)で表されるポリカーボネート構成単位(A2)の好ましい具体例としては、Xがイソプロピリデン基である、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノールA由来のカーボネート構成単位である。
【0023】
前記した通り、ポリカーボネート樹脂材料(A)は、構成単位(A1)と(A2)のポリカーボネート共重合体であっても、構成単位(A1)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA1)と、構成単位(A2)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA2)からなるポリカーボネートブレンド物であってもよいが、いずれの場合でも、構成単位(A1)、(A2)以外のポリカーボネート構成単位を含んでいてもよい。
【0024】
ポリカーボネート樹脂材料(A)が構成単位(A1)と(A2)のポリカーボネート共重合体である場合、一般式(1)、(2)で表される構成単位以外のポリカーボネート構成単位を含んでいてもよいが、その場合の構成単位は50質量%未満、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
また、ポリカーボネート樹脂材料(A)が構成単位(A1)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA1)と、構成単位(A2)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA2)のブレンド物である場合、PCA1及び/又はPCA2は、それぞれ一般式(1)、(2)で表される構成単位以外のポリカーボネート構成単位を含んでいてもよいが、その場合の構成単位は50質量%未満、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0025】
ポリカーボネート樹脂材料(A)が、構成単位(A1)と(A2)のポリカーボネート共重合体の場合、あるいは構成単位(A1)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA1)と、構成単位(A2)を主たる構成単位とするポリカーボネート樹脂(PCA2)のブレンド物である場合のいずれの場合も、ポリカーボネート共重合体並びにポリカーボネート樹脂(PCA1)もしくはポリカーボネート樹脂(PCA2)の粘度平均分子量Mvは、15,000~45,000であることが好ましい。15,000を下回ると、樹脂組成物の耐熱性が低下したり、耐衝撃性が低下したりするため好ましくない。一方、45,000を超えると溶融粘度が増大し射出成形が困難となりやすい。粘度平均分子量のより好ましい下限は、16,000、17,000、18,000であり、その上限は、より好ましくは40,000、さらに好ましくは36,000、33,000、特に好ましくは30,000である。
【0026】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、
η=1.23×10
-4Mv
0.83 から算出される値を意味する。また極限粘度[η]は、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0027】
[スチレン系樹脂]
ポリカーボネート樹脂材料(A)は、スチレン系樹脂を含有することも好ましい。スチレン系樹脂を含有することで、比誘電率及び誘電正接をより低くすることができ、ミリ波の透過性が高く、透過減衰量を低減することができる。
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の重合体、スチレン系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体、ゴム成分含有スチレン樹脂等のスチレン系グラフト共重合体等が挙げられる。
【0028】
スチレン系単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼン、ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン等のスチレン誘導体が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。尚、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0029】
スチレン系単量体と共重合可能なビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、へキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、へキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸アリールエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステル、マレイミド、N,N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物等が挙げられる。
共重合可能なビニル系単量体としては、上記の中でも、好ましくは、シアン化ビニル単量体、特にアクリロニトリル、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体である。
【0030】
スチレン系樹脂は、例えば、スチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン-メチルメタクリレート共重合体(MS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)等が挙げられる。
スチレン系樹脂としては、上記の中でも、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、HIPS樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)等が好ましい。
【0031】
スチレン系樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
【0032】
[安定剤]
ポリカーボネート樹脂材料(A)は、安定剤を含有することが好ましい。安定剤としてはリン系安定剤、フェノール系安定剤(酸化防止剤)、硫黄系安定剤等が好ましく挙げられる。
【0033】
<リン系安定剤>
ポリカーボネート樹脂材料(A)は、リン系安定剤を含有することで、ポリカーボネート樹脂材料の色相が良好なものとなりやすく、そして、さらに耐熱変色性が改善しやすい。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族又は第2B族金属のリン酸塩;ホスフェート化合物、ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物などが挙げられるが、ホスファイト化合物が特に好ましい。ホスファイト化合物を選択することで、より高い耐変色性と連続生産性を有するポリカーボネート樹脂材料が得られる。
【0034】
ここでホスファイト化合物は、一般式:P(OR)3で表される3価のリン化合物であり、Rは、1価又は2価の有機基を表す。
このようなホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレン-ジホスファイト、6-[3-(3-tert-ブチル-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]-ジオキサホスフェピン等が挙げられる。
【0035】
このようなホスファイト化合物のなかでも、下記一般式(3)または(4)で表される芳香族ホスファイト化合物が、ポリカーボネート樹脂材料(A)の耐熱変色性が効果的に高まるため、より好ましい。
【0036】
【化9】
(一般式(3)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数6以上30以下のアリール基を表す。)
【0037】
【化10】
(一般式(4)中、R
4及びR
5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数6以上30以下のアリール基を表す。)
【0038】
上記一般式(3)で表されるホスファイト化合物としては、中でもトリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等が好ましく、中でもトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトがより好ましい。
【0039】
上記一般式(4)で表されるホスファイト化合物としては、中でもビス(2,4-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトのようなペンタエリスリトールジホスファイト構造を有するものが特に好ましい。
【0040】
ホスファイト化合物のなかでも、上記一般式(3)で表される芳香族ホスファイト化合物が、色相がより優れるため、より好ましい。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0041】
リン系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部であり、より好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、また、好ましくは0.4質量以下、より好ましくは0.3質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下である。リン系安定剤の含有量が、0.01質量部未満の場合は、色相、耐熱変色性が不十分となりやすく、0.5質量部を超える場合は、耐熱変色性がかえって悪化しやすくなるだけでなく、湿熱安定性も低下しやすい。
【0042】
<フェノール系安定剤>
ポリカーボネート樹脂材料(A)は、安定剤(酸化防止剤)として、フェノール系安定剤を含有することが好ましい。フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0043】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0044】
フェノール系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部であり、より好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、また、好ましくは0.4質量以下、より好ましくは0.3質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0045】
リン系安定剤とフェノール系安定剤は併用して使用してもよい。併用することにより、耐久性をより高めることができるので好ましい。その場合、リン系安定剤とフェノール系安定剤の合計含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部であり、より好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、また、好ましくは0.4質量以下、より好ましくは0.3質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下である。
【0046】
<硫黄系安定剤>
硫黄系安定剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2-メチル-4-(3-ラウリルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1’-チオビス(2-ナフトール)などを挙げることができる。
【0047】
上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。このような硫黄系安定剤としては、具体的にはADEKA社製「アデカスタブ AO-412S」が挙げられる。
【0048】
硫黄系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~0.5質量部であり、より好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、また、好ましくは0.4質量以下、より好ましくは0.3質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下である。硫黄系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、硫黄系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、硫黄系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0049】
[離型剤]
ポリカーボネート樹脂材料(A)は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0050】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0051】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0052】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0053】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0054】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0055】
数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0056】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0057】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0058】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0059】
[紫外線吸収剤]
ポリカーボネート樹脂材料(A)は、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オキサニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらのうち、有機紫外線吸収剤が好ましく、中でもベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、透明性や機械物性が良好なものになる。
【0060】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0061】
紫外線吸収剤を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0062】
[添加剤等]
ポリカーボネート樹脂材料(A)は、上記した以外のその他の添加剤、例えば、充填材、強化材(炭素繊維、ガラス繊維)、顔料、染料、難燃剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤、またポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂を含有することができる。これらの添加剤あるいは他の樹脂は一種または二種以上を配合してもよい。
なお、上記したポリカーボネート樹脂及びスチレン系樹脂以外の他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、40質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらには20質量部以下、10質量部以下、特には5質量部以下とすることが好ましい。
【0063】
[ポリカーボネート樹脂材料の製造方法]
ポリカーボネート樹脂材料(A)の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、各必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0064】
[ミリ波レーダー用カバー]
上記したポリカーボネート樹脂材料をペレタイズしたペレットは、各種の成形法で成形し、ミリ波レーダー用カバーが製造できる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形してミリ波レーダー用カバーにすることもできる。
レーダー用カバーを製造する方法は、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられ、また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
これらのなかでも、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法などの射出成形法が好ましい。
【0065】
ミリ波レーダー用カバーの厚さは、例えば、0.5~10mmが好ましく、1~7mmであることがより好ましい。
本発明のミリ波レーダー用カバーは、比誘電率のみならず、誘電正接も低く、比誘電率及び誘電正接がバランス良く低いことにより、ミリ波透過性に優れる。
【0066】
本発明のミリ波レーダー用カバーの比誘電率は、真空の誘電率との比率を表し、数値が大きいと、誘電体であるカバーの静電容量が大きくなるため、ミリ波透過性が悪化する。本発明において比誘電率は2.9以下であることが好ましく、より好ましくは2.8以下、更に好ましくは2.7以下である。
また、本発明のミリ波レーダー用カバーの誘電正接は、ミリ波が誘電体であるカバーを通過する際に、その一部が熱になって損失する程度を表すものであり、値が小さい方が、ミリ波の減衰が小さいことを意味するために、好ましい。本発明において、誘電正接は、0.0068以下であるのが好ましく、より好ましくは0.0060以下、更に好ましくは0.0050以下である。
本発明において、ミリ波レーダー用カバーの透過減衰量とは、ミリ波がカバーを透過する際に減衰する量であり、数値が小さい方が(0に近い方が)、減衰量が少ないことを意味するため、好ましい。本発明において、透過減衰量は、-1.20dB以上であるのが好ましく、より好ましくは-1.18dB以上、更に好ましくは-1.16dB以上、特に好ましくは-1.15dB以上である。
【0067】
本発明においては、前記した比誘電率や誘電正接と言った誘電特性に加え、使用される状況に、より適合したものとするために、耐熱性の指標となる、荷重たわみ温度が、100℃以上であるのが好ましく、より好ましくは105℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは115℃以上である。
また、本発明のミリ波レーダー用カバーの鉛筆硬度は、好ましくはH以上、より好ましくは2H以上であり、シャルピー衝撃強度が、NB(ノンブレーク)または110kJ/m2以上であるのが好ましい。
【0068】
本発明のミリ波レーダー用カバーは、75~81GHzのミリ波を送信及び/または受信するためのアンテナの保護カバーとして特に好適であり、本発明のミリ波レーダーは、ミリ波を送信及び/または受信し得るアンテナと、本発明の上述したミリ波レーダー用カバー等を備えるものであり、ミリ波レーダー装置を周辺環境から保護するため、前記レーダーカバーを備えることによって、レーダーの送受信信号伝達を阻害することなく、安全に使用することが可能になる。
本発明のミリ波レーダー用カバーは、ミリ波を送信もしくは受信するアンテナモジュールを格納または保護するハウジング、アンテナカバー(レドーム)、さらにはそれらを含むミリ波レーダーモジュールとミリ波によりセンシングする対象物との経路に設置される部材(自動車のセンサーに適用する場合には、ミリ波レーダーモジュールから送受信されるミリ波の経路上に設置される、カバー、自動車外装部材、エンブレムなど)を全て含む。
【0069】
本発明における、ミリ波レーダーとしては、具体的に、ブレーキ自動制御装置、車間距離制御装置、歩行者事故低減ステアリング装置、誤発信抑制制御装置、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、接近車両注意喚起装置、車線維持支援装置、被追突防止警報装置、駐車支援装置、車両周辺障害物注意喚起装置などに用いられる車載用ミリ波レーダー;ホーム監視/踏切障害物検知装置、電車内コンテンツ伝送装置、路面電車/鉄道衝突防止装置、滑走路内異物検知装置などに用いられる鉄道・航空用ミリ波レーダー;交差点監視装置、エレベータ監視装置などの交通インフラ向けミリ波レーダー;各種セキュリティ装置向けミリ波レーダー;子供、高齢者見守りシステムなどの医療・介護用ミリ波レーダー;各種情報コンテンツ伝送用ミリ波レーダー;等を好適に挙げることができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0071】
以下の実施例及び比較例で使用した原料及び評価方法は次の通りである。
なお、ポリカーボネート樹脂(A1)として、以下の製造例1~2で使用したポリカーボネート樹脂(A1-1)および(A1-2)を使用した。
【0072】
<製造例1:ポリカーボネート樹脂(A1-1)の製造>
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs2CO3)を、BPC1モルに対し1.5×10-6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
次に、反応器内を60分かけて温度を284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、攪拌動力は1.00kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0073】
得られたポリカーボネート樹脂(A1-1)の物性は以下の通りであった。
鉛筆硬度:2H
粘度平均分子量(Mv):26,000
【0074】
[製造例2:ポリカーボネート樹脂(A1-2)の製造]
BPC26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs2CO3)を、BPC1モルに対し1.5×10-6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
次に、反応器内を60分かけて温度を284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、攪拌動力は0.75kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂のペレットを得た。
【0075】
得られたポリカーボネート樹脂(A1-2)の物性は以下の通りであった。
鉛筆硬度:2H
粘度平均分子量(Mv):22,000
なお、ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度の測定方法は、後記する通りである。
【0076】
【0077】
(実施例1~4、比較例1)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記表1に記載した各成分を、以下の表2に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)を用いて、シリンダー温度280℃で溶融混練し、ストランドカットによりポリカーボネート樹脂材料のペレットを得た。
【0078】
<比誘電率、誘電正接及び透過減衰量>
上述の方法で得られたペレットを、100℃で6時間乾燥させた後、射出成形機(ファナック社ROBOSHOT S-2000i 150B)を用いて、100mm×150mm×厚みが表2に記載した約3mmの成形品を得た。
このようにして得られた成形品を、Φ80mm径の試料台に設置し、Virginia Diodes社製WR10-VNAX型ミリ波モジュールと、KEYSIGHT社製N5227A型ネットワークアナライザー、及びキーコム社製誘電体レンズ付き透過減衰測定治具を備えたキーコム社製DPS10型ミリ波・マイクロ波測定装置システムを用いて、フリースペース周波数変化法にて、25℃、測定周波数70~90GHzの測定条件で、透過減衰量と位相変化量を測定した。また、シンワ社製デジタルマイクロメーターにて成形品の正確な厚みを測定し、上述の透過減衰量と位相変化量、及び厚み測定結果をもとに、周波数76.5GHzの条件下における比誘電率及び誘電正接を求めた。
【0079】
<鉛筆硬度の測定>
上記で得られた100mm×150mm×厚み約3mmの成形品の表面硬度を、JIS K5600-5-4に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機製作所社製)を用いて、1000g荷重にて、求めた。
【0080】
<シャルピー衝撃強度>
上述の方法で得られたペレットを、熱風乾燥機を用いて100℃で6時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55AD」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル45秒の条件で、ISO179-1、2に基づく3mm厚の耐衝撃性試験片を作製した。得られた試験片を用い、23℃の温度環境下においてノッチ無しシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)を測定した。
【0081】
<荷重たわみ温度>
上述の方法で得られたペレットを、熱風乾燥機を用い、100℃で6時間乾燥させた後、日本製鋼所社製J55AD型射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で、ISO179-1,2に基づく4mm厚の成形品を成形した。このようにして得られた成形品を試験片とし、東洋精機社製6A-2型HDT測定装置を用いて、ISO75-2に準拠し、高荷重(1.80MPa)の条件で荷重たわみ温度(単位:℃)を測定した。
【0082】
<総合評価>
総合評価として、以下の○、△、×の3段階の基準で判定した。
○:鉛筆硬度がH以上、シャルピー衝撃強度がNB(ノンブレーク)または110kJ/m2以上、誘電正接が0.0050以下、透過減衰量が-1.20dBより良い、のすべてを満たす。
△:以上の○にも、以下の×にも該当しない。
×:鉛筆硬度が2B以下、シャルピー衝撃強度がNB(ノンブレーク)または100kJ/m2以下、誘電正接が0.0070以上、または、透過減衰量が-1.20dBより悪い、荷重たわみ温度が100℃未満のいずれかに該当する。
以上の評価結果を以下の表2に示す。
【0083】
【0084】
上記表から、実施例のミリ波レーダー用カバー用材料は、比誘電率及び誘電正接が共に低く、透過減衰量が低減され、耐熱性、硬度及び耐衝撃性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のミリ波レーダー用カバーは、比誘電率及び誘電正接が共に低く、透過減衰量が低減され、耐熱性、硬度及び耐衝撃性に優れるので、ミリ波レーダーに好適に使用でき、産業上の利用性は高い。