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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】電子機器および充電制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/10 20060101AFI20220516BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20220516BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220516BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
H02J7/10 A
H02J1/00 306L
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018124491
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020005443
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】398058588
【氏名又は名称】Dynabook株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 勝浩
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068041(JP,A)
【文献】特開2017-138870(JP,A)
【文献】特開2017-174138(JP,A)
【文献】特開2011-118455(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0140887(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F1/26-1/3296
H01M10/42-10/48
H02J1/00-1/16
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ駆動可能な電子機器であって、
データ転送および送電が可能なケーブルを接続するためのコネクタと、
前記コネクタを介して接続される外部機器からの電力の受給または前記外部機器への電力の供給を制御する送受電コントローラと、
前記バッテリの充放電を制御する充放電回路と、
前記送受電コントローラおよび前記充放電回路と通信して、前記外部機器から受給する電力によって前記バッテリを充電させる組み込みコントローラと、
を具備し、
前記送受電コントローラは、前記外部機器からの電力の受給を開始した場合、電力受給状況を含む第1のステータス情報を前記組み込みコントローラに取得させるための割り込み信号を前記組み込みコントローラへ供給し、前記外部機器と通信して前記外部機器から受給する電力の電圧値を変更した場合、変更後の電力受給状況を含む第2のステータス情報を前記組み込みコントローラに取得させるための割り込み信号を前記組み込みコントローラへ供給し、
前記組み込みコントローラは、前記送受電コントローラからの割り込み信号が起動時に供給されていた場合、前記第1のステータス情報を前記送受電コントローラから取得し、前記割り込み信号に関する処理の完了後、前記外部機器から受給する電力の電圧値を前記充放電回路から取得し、前記第1のステータス情報で示される前記外部機器から受給する電力の電圧値と前記充放電回路から取得した前記外部機器から受給する電力の電圧値とが異なる場合、前記第2のステータス情報を前記送受電コントローラから取得する、
電子機器。
【請求項2】
DC/DCコンバータを具備し、
前記外部機器からの電力は、前記充放電回路へは前記DC/DCコンバータを経由せずに電圧値が無変換の状態で入力され、前記組み込みコントローラへは前記DC/DCコンバータを経由して電圧値が変換された状態で入力される、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記組み込みコントローラは、前記外部機器から受給する電力の電圧値が閾値以上である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電を許可し、前記外部機器から受給する電力の電圧値が前記閾値未満である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電を禁止する請求項1または2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記組み込みコントローラは、前記送受電コントローラから取得した前記ステータス情報で示される前記外部機器から受給する電力の電圧値が前記閾値以上である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電の許可を前記充放電回路に通知し、前記ステータス情報で示される前記外部機器から受給する電力の電圧値が前記閾値未満である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電の禁止を前記充放電回路に通知する請求項3に記載の電子機器。
【請求項5】
前記送受電コントローラは、前記閾値未満の電圧値の電力から前記閾値以上の電圧値の電力へ前記外部機器から受給する電力の電圧値を変更する請求項3または4に記載の電子機器。
【請求項6】
前記送受電コントローラは、前記外部機器から送信される前記外部機器の送電能力を示す情報に基づき、前記外部機器が供給可能な1以上の電圧値の電力の中からいずれか1つを選択する請求項5に記載の電子機器。
【請求項7】
前記組み込みコントローラは、前記割り込み信号が格納されるレジスタを初期化して前記割り込み信号に関する処理を完了する請求項1に記載の電子機器。
【請求項8】
前記コネクタは、USB(universal serial bus) Type-C規格に準拠したケーブルを接続可能なコネクタである請求項1に記載の電子機器。
【請求項9】
前記送受電コントローラは、前記USB Type-C規格で規定されるPower Delivery対応のコントローラである請求項8に記載の電子機器。
【請求項10】
前記送受電コントローラは、前記USB Type-C規格で規定されるCCラインを介して前記外部機器と通信する請求項9に記載の電子機器。
【請求項11】
前記組み込みコントローラは、ICバスを介して前記送受電コントローラおよび前記充放電回路と通信する請求項1に記載の電子機器。
【請求項12】
バッテリ駆動可能な電子機器であって、外部機器からの電力の受給または前記外部機器への電力の供給を制御する送受電コントローラと、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電を充放電回路に行わせる組み込みコントローラとを具備する電子機器の充電制御方法において、
前記送受電コントローラが、前記外部機器からの電力の受給を開始した場合、電力受給状況を含む第1のステータス情報を前記組み込みコントローラに取得させるための割り込み信号を前記組み込みコントローラへ供給し、前記外部機器と通信して前記外部機器から受給する電力の電圧値を変更した場合、変更後の電力受給状況を含む第2のステータス情報を前記組み込みコントローラに取得させるための割り込み信号を前記組み込みコントローラへ供給し、
前記組み込みコントローラが、前記送受電コントローラからの割り込み信号が起動時に供給されていた場合、前記第1のステータス情報を前記送受電コントローラから取得し、前記割り込み信号に関する処理の完了後、前記外部機器から受給する電力の電圧値を前記充放電回路から取得し、前記第1のステータス情報で示される前記外部機器から受給する電力の電圧値と前記充放電回路から取得した前記外部機器から受給する電力の電圧値とが異なる場合、前記第2のステータス情報を前記送受電コントローラから取得する、
充電制御方法。
【請求項13】
前記組み込みコントローラが、前記外部機器から受給する電力の電圧値が閾値以上である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電を許可し、前記外部機器から受給する電力の電圧値が前記閾値未満である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電を禁止する請求項12に記載の充電制御方法。
【請求項14】
前記組み込みコントローラが、前記送受電コントローラから取得した前記ステータス情報で示される前記外部機器から受給する電力の電圧値が前記閾値以上である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電の許可を前記充放電回路に通知し、前記ステータス情報で示される前記外部機器から受給する電力の電圧値が前記閾値未満である場合、前記外部機器から受給する電力による前記バッテリの充電の禁止を前記充放電回路に通知する請求項13に記載の充電制御方法。
【請求項15】
前記組み込みコントローラが、前記割り込み信号が格納されるレジスタを初期化して前記割り込み信号に関する処理を完了する請求項12に記載の充電制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電子機器および充電制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートPC(Personal Computer)、タブレットPC、スマートフォンなどのバッテリ駆動可能な電子機器が種々普及している。この種の電子機器は、外部機器との間でデータを送受信するためのインタフェース機能を備えることが一般的である。インタフェース規格の1つとして、USB(Universal Serial Bus)規格が知られている。USB規格に準拠したインタフェースでは、データ転送に加え、送受電も可能である。たとえば外部機器としてACアダプタを接続すれば、このACアダプタからの電力によってバッテリを充電することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/013451号
【文献】特開2010-206948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリの残量が尽きてオフ状態にある電子機器へACアダプタを接続すると、このACアダプタからの電力によって電子機器内の各コンポーネントが起動し、バッテリの充電が開始される。しかしながら、たとえばコンポーネント間の起動タイミングのずれなどによって、バッテリが充電されないといった事象が発生するおそれがあった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、外部入力される電力によるバッテリの充電を適切に制御することができる電子機器および充電制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、電子機器は、バッテリ駆動可能であって、コネクタと、送受電コントローラと、充放電回路と、組み込みコントローラとを具備する。コネクタは、データ転送および送電が可能なケーブルを接続する。送受電コントローラは、前記コネクタを介して接続される外部機器からの電力の受給または前記外部機器への電力の供給を制御する。充放電回路は、前記バッテリの充放電を制御する。組み込みコントローラは、前記送受電コントローラおよび前記充放電回路と通信して、前記外部機器から受給する電力によって前記バッテリを充電させる。前記送受電コントローラは、前記外部機器からの電力の受給を開始した場合、電力受給状況を含む第1のステータス情報を前記組み込みコントローラに取得させるための割り込み信号を前記組み込みコントローラへ供給し、前記外部機器と通信して前記外部機器から受給する電力の電圧値を変更した場合、変更後の電力受給状況を含む第2のステータス情報を前記組み込みコントローラに取得させるための割り込み信号を前記組み込みコントローラへ供給する。前記組み込みコントローラは、前記送受電コントローラからの割り込み信号が起動時に供給されていた場合、前記第1のステータス情報を前記送受電コントローラから取得し、前記割り込み信号に関する処理の完了後、前記外部機器から受給する電力の電圧値を前記充放電回路から取得し、前記第1のステータス情報で示される前記外部機器から受給する電力の電圧値と前記充放電回路から取得した前記外部機器から受給する電力の電圧値とが異なる場合、前記第2のステータス情報を前記送受電コントローラから取得する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の電子機器の電源に関する構成の一例を示す図。
図2】Dead Battery状態時のバッテリの充電制御についての一比較例を説明するための図。
図3】実施形態の電子機器におけるDead Battery状態時のバッテリの充電制御を説明するための図。
図4】実施形態の電子機器によって実行されるDead Battery状態時のバッテリの充電制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の電子機器1の電源に関する構成の一例を示す図である。
図1に示されるように、本実施形態の電子機器1は、電源に関する構成として、バッテリ11、チャージャ(充放電回路)12、DC/DCコンバータ13、EC(Embedded Controller:組み込みコントローラ)14、PDC(Power Delivery Controller:送受電コントローラ)15、Type-Cポート(コネクタ)16などを有している。
【0009】
Type-Cポート16は、USB規格で定義されるType-C端子を挿入することが可能なポートである。PDC15は、Power Delivery機能をサポートし、Type-Cポート16に外部機器が接続された場合、その外部機器との間で、いずれがSourceデバイスとして動作し、また、Sinkデバイスとして動作するのかを決定する。Sourceデバイスは、電力を供給する側のデバイスであり、Sinkデバイスは、電力を受給する側のデバイスである。たとえば、ある信号線に一方が出力する信号の値はHighであり、ある信号線に他方が出力する信号の値はLowであるという状況が生じた場合、Highの値の信号を出力する側がSourceデバイスとなり、Lowの値の信号を出力する側がSinkデバイスとなる。SourceデバイスまたはSinkデバイスのいずれとしても動作し得る本実施形態の電子機器1のPDC15は、Highの値の信号とLowの値の信号とを交互に出力する。また、たとえば図1に示されるようなSourceデバイスとしてのみ動作するACアダプタ2は、Highの値の信号を継続的に出力する。したがって、ACアダプタ2から導出されるケーブル21のType-C端子21AがType-Cポート16に挿入された場合、電子機器1のPDC15がLowの値の信号を出力し、ACアダプタ2がHighの値の信号を出力するという状況は生じるが、その逆は生じ得ないため、必ず、ACアダプタ2がSourceデバイスとして動作し、電子機器1のPDC15がSinkデバイスとして動作することになる。すると、電子機器1は、ACアダプタ2からの電力(a1)で動作し、また、この電力でバッテリ11を充電することができる。なお、電子機器1のPDC15およびACアダプタ2の双方は、USB規格で定義されるCCライン(a2)の電圧状態によって、外部機器との接続を認識する。ここでの外部機器とは、電子機器1のPDC15にとってはACアダプタ2であり、ACアダプタ2にとっては電子機器1である。電子機器1のPDC15およびACアダプタ2の双方は、たとえば、このCCライン上に、Sourceデバイス/Sinkデバイスを決定するためのHighの値の信号またはLowの値の信号を出力する。つまり、電子機器1のPDC15は、CCラインのプルアップとプルダウンとを一定間隔ごとに交互に繰り返し、ACアダプタ2は、CCラインのプルアップを継続する。CCラインは、Sourceデバイス/Sinkデバイスの決定後においては、電子機器1のPDC15とACアダプタ2との間の通信に用いられる。この通信は、USB Power Delivery Specificationに準拠して実行されるものであり、たとえばPD通信などと称される。
【0010】
仮に、SourceデバイスまたはSinkデバイスのいずれとしても動作し得る外部機器がType-Cポート16に接続されたとすると、この外部機器も、Highの値の信号とLowの値の信号とを交互に出力する。そのため、ACアダプタ2の場合とは違い、電子機器1のPDC15がHighの値の信号を出力し、外部機器がLowの値の信号を出力するという状況が生じ得る。すなわち、電子機器1のPDC15がSourceデバイスとして動作し、外部機器がSinkデバイスとして動作することがあり得る。この場合、バッテリ11の電力が外部機器へ供給されることになる。バッテリ11の充放電は、EC14の制御下でチャージャ12によって制御される。EC14は、PDC15との間で、ICバスを介した通信を実行することができ(a3-1)、チャージャ12との間でも、ICバスを介した通信を実行することができる(a3-2)。EC14は、たとえば、Sinkデバイスとして動作する旨の通知をPDC15から受けると、Sourceデバイスから受給する電力が所定の条件を満たしていれば、チャージャ12に対して、Sourceデバイスからの電力によるバッテリ11の充電の許可を通知する。チャージャ12は、バッテリ11との間で、ICバスを介した通信を実行することができ、この通信によって、たとえば残量または充電率などを取得することができる。
【0011】
PDC15は、バッテリ11に電力が残っており、このバッテリ11からの電力で電子機器1がオン状態の場合、外部機器の接続時、Sourceデバイスとして動作することができるし、または、Sinkデバイスとして動作することもできる。このような状態を、DRP(Dual Role Power)状態と称する。電子機器1がオフの状態の場合は、電子機器1の仕様にもよるが、通常、外部機器の接続時、Sinkデバイスとして動作する。電子機器1がDead Battery状態などと称されるバッテリ11の残量が尽きた状態の場合、PDC15は、外部機器の接続時、無条件でSinkデバイスとして動作する。
【0012】
DC/DCコンバータ13は、バッテリ11からの電力または外部機器からの電力を用いて、電子機器1の各コンポーネントの動作用電力を生成する。EC14は、DC/DCコンバータ13からたとえば「3V/3A」の電力の供給を受けて動作する。外部機器から電力が供給されておらず、かつ、Dead Battery状態である場合を除き、EC14に対しては、システムがオフの間も、DC/DCコンバータ13からの電力の供給が継続的に行われる。
【0013】
ここで、本実施形態の電子機器1において実行されるDead Battery状態時のバッテリ11の充電制御をより理解しやすくするために、図1を援用し、かつ、図2を併せて参照しながら、1つの比較例を説明する。より詳しくは、Dead Battery状態の電子機器1のType-Cポート16にたとえばACアダプタ2のようなsourceデバイスが接続されたにも関わらず、バッテリ11の充電が行われないケースについて説明する。
【0014】
電子機器1のType-Cポート16にケーブル21のType-C端子21Aが挿入されると、ACアダプタ2は、CCラインの電圧状態によって、Sinkデバイス、つまり電子機器1のPDC15が接続されたことを認識する(図2:b11)。ここでは、ACアダプタ2は、「20V/3A」、「15V/3A」、「5V/3A」の3種類の電力を出力できるものとする。ACアダプタ2は、Sinkデバイスが接続されたことを認識すると、3種類の電力の中で一番電圧値の低い「5V/3A」の電力をVBUS上に出力する(図2:b12)。なお、電子機器1のEC14は、外部機器から受電する電力が「20V/3A」または「15V/3A」の場合、バッテリ11の充電を許可するが、「5V/3A」の場合、バッテリ11の充電を禁止するものとする。
【0015】
電子機器1がDead Battery状態のために停止状態にあるPDC15は、ACアダプタ2からVBUS上に出力された「5V/3A」によって起動する。換言すれば、PDC15は、ACアダプタ2からVBUS上に出力された「5V/3A」によって動作を開始する。以下、動作を開始するという場合、電力の供給に伴って起動することを意味することがある。PDC15は、EC14と同様、基本的には、DC/DCコンバータ13によって生成される「3V/3A」の電力の供給を受けて動作するものであるが、このVBUS上に出力された「5V/3A」によっても動作することも可能である。つまり、PDC15は、DC/DCコンバータ13によって「3V/3A」の電力が生成される前に、動作を開始することができる。PDC15は、Sourceデバイスとして動作する場合、DC/DCコンバータ13によって生成される「3V/3A」の電力をVBUS上に出力することができる。
【0016】
VBUS上の「5V/3A」の電力で動作を開始したPDC15は、FET1のゲートをオンにして、システム側へ当該「5V/3A」の電力を流す。この電力は、まず、チャージャ12に供給され、これによって動作を開始したチャージャ12は、FET2のゲートをオンにし、必要に応じて昇圧させた電力(EFV)をDC/DCコンバータ13へ送る。この電力の供給を受けて、DC/DCコンバータ13は動作を開始する。DC/DCコンバータ13からの電力の供給を受けて動作するEC14が動作を開始するのは、その後ということになる。なお、チャージャ12は、バッテリ11からの電力によっても動作することができる。
【0017】
EC14が動作を開始する前にACアダプタ2からの「5V/3A」の電力を受けて動作を開始したPDC15は、Power Statusが変化したこと、より詳しくは、ACアダプタ2から「5V/3A」の電力を受けている状態であることを通知するための割り込み信号をEC14へ供給する(図2:b21)。割り込み信号の供給を検知すると、EC14は、Power StatusをPDC15から取得する。しかし、この時点では、EC14は動作を開始していないため、この割り込み信号に対応することができない。なお、PDC15から供給された割り込み信号は、EC14内のレジスタに格納されている。
【0018】
前述したように、Dead Battery状態の電子機器1にACアダプタ2が接続されて動作を開始したPDC15は、無条件でSinkデバイスとして動作する。Sinkデバイスとして動作するPDC15は、Sourceデバイスとして動作するACアダプタ2との間でPD通信を行い、ACアダプタ2のSource Capability情報を取得する(図2:b13)。Source Capability情報は、送電能力、より詳しくは、出力可能な電力の種類を示す情報である。したがって、ここでは、前述の「20V/3A」、「15V/3A」、「5V/3A」の3種類がSource Capability情報で示されていることになる。
【0019】
このSource Capability情報を取得したPDC15は、通常、電子機器1の仕様に適合する最大電力を選択する。ここでは、「20V/3A」を選択するものとし、その値の電力の供給をACアダプタ2に要求する(図2:b14)。また、この頃、EC14が動作を開始し、PDC15からの割り込み信号の供給を認識したものと想定する。この時点では、ACアダプタ2から「5V/3A」の電力を受けている状態であり、EC14は、「5V/3A」を示すPower Statusを取得することになる(図2:b22,b23)。
【0020】
PDC15からの要求を受けたACアダプタ2は、「20V/3A」の電力の出力を開始し、要求に対する応答として、PsRdyパケットを送信する(図2:b15)。このPsRdyパケットの受信によって、PDC15は、「20V/3A」の電力の出力がACアダプタ2に了承されたことを認識する。PDC15は、Power Statusが変化したこと、より詳しくは、今度は、ACアダプタ2から「20V/3A」の電力を受けている状態であることを通知するための割り込み信号をEC14へ供給する(図2:b4で示される期間内に割り込み信号の供給が行われたものとする)。なお、チャージャ12へは、ACアダプタ2がVBUS上に出力する電力がそのまま供給されるので、チャージャ12の入力電圧値は、5Vから20Vへ変更されている。
【0021】
ここで、EC14が、「5V/3A」を示すPower Statusを取得する、先の割り込み信号に対する処理を完了していなかった場合を想定する。より詳しくは、EC14は、割り込み信号が格納されるレジスタを初期化して、その割り込み信号に対する処理を完了するが、このレジスタの初期化まで至っていなかった場合を想定する。割り込み信号用のレジスタの初期化は、次の割り込み信号を受信するために行うものである。このレジスタに割り込み信号を格納することを、割り込み信号をアサートする、フラグをセットするなどと称することがあり、このレジスタを初期化することを、フラグをクリアする、割り込み信号をクリアするなどと称することがある。
【0022】
この場合、PDC15が2つ目の割り込み信号を供給したとしても、1つ目の割り込み信号が供給されたままの状態であり、1つ目の割り込み信号によって「5V/3A」を示すPower Statusを取得した後にレジスタを初期化してしまうので(図2:b24)、EC14は、2つ目の割り込み信号が供給されていることを認識できない。したがって、EC14は、「20V/3A」を示すPower Statusを取得できない。そのため、EC14は、ACアダプタ2から「5V/3A」の電力が供給されていると誤認してしまうことになる。
【0023】
前述したように、EC14は、外部機器から受電する電力が「20V/3A」であるならば、バッテリ11の充電を許可するが、「5V/3A」であるならば、バッテリ11の充電を禁止する。そのために、ACアダプタ2から「20V/3A」の電力が供給されているにも関わらず、バッテリ11の充電が行われないという事象が発生する。
【0024】
なお、「20V/3A」を示すPower Statusを通知するための2つ目の割り込み信号が供給される前に、EC15が、「5V/3A」を示すPower Statusを通知するための1つ目の割り込み信号に対する処理を完了していた場合、つまり、レジスタの初期化が済んでいて、2つ目の割り込み信号の供給を認識することができる場合には、このような事象は発生せず、バッテリ11の充電が行われることになる。
【0025】
以上の一比較例を踏まえて、次に、図1図3とを併せて参照しながら、Dead Battery状態の電子機器1のType-Cポート16にたとえばACアダプタ2のようなsourceデバイスが接続された場合であっても、バッテリ11の充電を適切に行うことができる本実施形態の電子機器1の動作について説明する。
【0026】
図3中、電子機器1のPDC15とACアダプタ2との間の符号b11~b15で示されるやり取りと、EC14とPDC15との間の符号b21~b24で示されるやり取りとは、図2を参照して説明した一比較例と同じであるので、その説明を省略する。
【0027】
EC14は、DC/DCコンバータ13から「3V/3A」の電力の供給を受けて動作を開始した際、PDC15から割り込み信号が供給されている状態であった場合、Power StatusをPDC15から取得して割り込み信号用のレジスタを初期化した後、チャージャ12の入力電圧値を当該チャージャ12から取得する(図3:c31,c32)。前述したように、チャージャ12へは、ACアダプタ2がVBUS上に出力する電力がそのまま供給されるので、チャージャ12の入力電圧値として、EC14は、20Vを取得するととになる。
【0028】
チャージャ12の入力電圧値を取得すると、EC14は、PDC15から取得したPower Statusで示されるACアダプタ2からの入力電圧値と比較する。両者の値が異なっていた場合、EC14は、PDC15からの2つ目の割り込み信号の供給に応じて、PDC15から改めてPower Statusを取得する(図3:c21,c22)。両者の値が異なっている場合とは、PDC15が動作を開始するタイミングとEC14が動作を開始するタイミングとのずれによって、最新のPower Statusを通知するためのPDC15からEC14への2つ目の割り込み信号の供給がEC14に認識されなかった場合である。PDC15が2つ目の割り込み信号を供給する前に、EC14が1つ目の割り込み信号に対する処理を完了していた場合、つまり、割り込み信号用のレジスタの初期化を済ませていた場合、最新のPower StatusがEC14によって取得されるので、両者の値は一致することになる。
【0029】
EC14は、PDC15から改めてPower Statusを取得することで、ACアダプタ2から「5V/3A」の電力が供給されているとの誤認を、ACアダプタ2から「20V/3A」の電力が供給されているという正しい認識に改めることができる。前述したように、EC14は、外部機器から受電する電力が「20V/3A」であるならば、バッテリ11の充電を許可する。よって、EC14は、チャージャ12に対して、ACアダプタ2からの電力によるバッテリ11の充電を指示する(図3:c33)。このように、本実施形態の電子機器1においては、Dead Battery状態でのACアダプタ2の接続に伴うバッテリ11の充電が問題なく行われる。
【0030】
図4は、本実施形態の電子機器1によって実行されるDead Battery状態時のバッテリ11の充電制御の手順を示すフローチャートである。
Dead Battery状態であるためにシステムがオフの状態にある電子機器1のType-Cポート16にACアダプタ2などのSourceデバイスが接続されたことで、DC/DCコンバータ13からの電力供給が再開されて動作を開始したEC14は、PDC15から割り込み信号が供給されているか否かを調べる(ステップS1)。割り込み信号が供給されていなければ(ステップS1:NO)、EC14は、そのまま処理を終了する。EC14が動作を開始した際にPDC15から割り込み信号が供給されていないケースとしては、たとえば、抜脱されていたバッテリ11が再装着され、バッテリ11からの電力がDC/DCコンバータ13経由でEC14へ供給され始めたケースなどが考えられる。
【0031】
PDC15から割り込み信号が供給されている場合(ステップS1:YES)、EC14は、PDC15からPower Statusを取得し(ステップS2)、次の割り込み信号を受信するために、割り込み信号用のレジスタを初期化する(ステップS3)。前述したように、割り込み信号用のレジスタの初期化は、割り込み信号のクリアなどとも称される。
【0032】
次に、EC14は、チャージャ12から入力電圧値を取得し(ステップS4)、その入力電圧値と、PDC15から取得したPower Statusで示される入力電圧値とを比較する(ステップS5)。両者が一致しない場合(ステップS6:NO)、EC14は、PDC15からPower Statusを改めて取得する(ステップS7)。両者が一致する場合(ステップS6:YES)、EC14は、PDC15からのPower Statusの改めての取得は行わない。
【0033】
EC14は、取得したPower Statusに基づき、ACアダプタ2からの電力によるバッテリ11の充電が可能か否かを判定する(ステップS8)。バッテリ11の充電が可能である場合(ステップS9:YES)、EC14は、チャージャ12に対して、ACアダプタ2からの電力によるバッテリ11の充電を指示する(ステップS10)。バッテリ11の充電が不可の場合(ステップS9:NO)、EC14は、チャージャ12に対する、ACアダプタ2からの電力によるバッテリ11の充電の指示を行わず、動作開始時の処理を終了する。バッテリ11の充電不可と判定されるケースとしては、たとえば、電子機器1のType-Cポート16に接続されたACアダプタ2が、「5V/3A」の電力しか出力できないケースなどが考えられる。
【0034】
このように、本実施形態の電子機器1は、PDC15とEC14との間で動作を開始するタイミングにずれが生じても、電子機器1のType-Cポート16に接続されたACアダプタ2からの電力によって、バッテリ11の充電を適切に行うことができる。
【0035】
つまり、本実施形態の電子機器1は、外部入力される電力によるバッテリの充電を適切に制御することができる。
なお、本実施形態においては、Dead Battery状態にある電子機器1のType-Cポート16にACアダプタ2が接続される例を示したが、ACアダプタ2に限らず、Sourceデバイスとして動作することのできる外部機器であれば、その外部機器からの電力によるバッテリ11の充電を適切に行うことが可能である。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1…電子機器、2…ACアダプタ、11…バッテリ、12…チャージャ、13…DC/DCコンバータ、14…EC、15…PDC、16…Type-Cポート、21…ケーブル、21A…Type-C端子。
図1
図2
図3
図4