(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】熱安定性の高い石英ガラス部品、そのための半製品、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20220516BHJP
C03C 17/23 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C03B20/00 E
C03B20/00 Z
C03C17/23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018129831
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-06-04
(32)【優先日】2017-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599089712
【氏名又は名称】ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】シェンク、クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】チョリチュ、ナディーン
(72)【発明者】
【氏名】バイエル、トマス
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-199370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B20/00
C03C17/00-17/44
C30B1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化促進剤を含有する結晶形成層が、石英ガラスの基体のコーティング表面上に形成される、石英ガラス部品の製造方法において、非晶質SiO
2粒子を含有する多孔質結晶形成層が0.1~5mmの範囲内の平均厚さで形成され、且つセシウム及び/又はルビジウムを含有する物質が前記結晶化促進剤として使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記結晶化促進剤物質が、1150℃未満、好ましくは1100℃未満の溶融温度を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質結晶形成層中の前記結晶化促進剤物質の量が少なくとも0.025モル%且つ0.5モル%以下であり、前記多孔質結晶形成層が好ましくは0.5~3mmの範囲内の平均厚さで形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
石英ガラスの粉末化によって形成される非晶質SiO
2粒子が、前記結晶形成層の最大体積分率を構成することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記結晶形成層の前記形成が、
(a)前記非晶質SiO
2粒子を液体中に含有する分散体を、スラリー層として前記コーティング表面に塗布することと、
(b)グリーン層を形成する間、前記スラリー層を乾燥させることと、
を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記結晶化促進剤又はその前駆体物質が、溶解した形態で前記分散体中に含まれることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記グリーン層が少なくとも1.7g/cm
3のグリーン密度を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記グリーン層が、670℃~1000℃の範囲内の温度で熱的に緻密化されることを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記多孔質結晶形成層が、1250℃未満、好ましくは1150℃未満の温度に加熱され、且つクリストバライトの形成が前記層の加熱中に開始することを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
石英ガラスの基体のコーティング表面上に、結晶化促進剤を含有する結晶形成層を含む、熱安定性の高い石英ガラス部品の製造のための半製品において、前記結晶形成層が、非晶質SiO
2粒子を含有し、多孔質であり、0.1~5mmの範囲内の平均厚さを有し、且つ前記結晶化促進剤がセシウム及び/又はルビジウムを含有する物質であることを特徴とする半製品。
【請求項11】
前記結晶化促進剤物質が、1150℃未満、好ましくは1100℃未満の溶融温度を有することを特徴とする請求項10に記載の半製品。
【請求項12】
前記多孔質結晶形成層中の前記結晶化促進剤物質の量が少なくとも0.025モル%且つ0.5モル%以下であり、前記多孔質結晶形成層が好ましくは0.5~3mmの範囲内の平均厚さを有することを特徴とする請求項10又は11に記載の半製品。
【請求項13】
石英ガラスの粉末化によって形成される非晶質SiO
2粒子が、前記結晶形成層の最大体積分率を構成することを特徴とする請求項10~12のいずれか一項に記載の半製品。
【請求項14】
前記多孔質結晶形成層が少なくとも1.7g/cm
3の密度を有することを特徴とする請求項10~13のいずれか一項に記載の半製品。
【請求項15】
石英ガラスの基体のコーティング表面上に、SiO
2と、セシウム及びルビジウムの群から選択されるドーパントとを含有する結晶安定化層を含み、前記安定化層中の前記ドーパントの分率が0.025~0.5モル%の範囲内である、熱安定性の高い石英ガラス部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスの基体のコーティング表面上にSiO2とドーパントとを含有する結晶安定化層を含む熱安定性の高い石英ガラス部品に関する。
【0002】
さらに、本発明は、石英ガラスの基体のコーティング表面上に結晶化促進剤を含有する結晶形成層を含む石英ガラス部品を製造するための半製品に関する。
【0003】
さらに、本発明は、結晶化促進剤を含有する結晶形成層が石英ガラスの基体のコーティング表面上に形成される、熱安定性の高い石英ガラス部品の製造方法に関する。
【0004】
石英ガラス部品は、高純度を必要とする製造プロセスに使用されることが多い。この場合、石英ガラスの温度安定性が限定要因となる。石英ガラスのより低い軟化点として、文献には約1150℃の温度値が示されている。しかし、必要なプロセス温度はこの温度よりも高いことが多く、そのため石英ガラス部品の塑性変形が生じることがある。
【0005】
したがって、クリストバライトの表面層を設けることによって、石英ガラス部品の熱安定性を増加させることが提案されている。クリストバライトの融点は約1720℃である。以下では、このような部分的又は完全に結晶性の表面層も「安定化層」と呼ぶ。
【0006】
しかし、「クリストバライトジャンプ」としても知られている、変位型体積変化によって実現される約250℃の温度における構造変態によって、安定化層と部品との破壊が生じることがある。したがって、安定化層が高温で完全に形成された後にそれを冷却することはほぼ不可能であり、そのため、部品の意図する使用の最中又は直前にのみ通常は形成される。使用中の安定化層の形成を促進するために、部品は、結晶化促進剤として機能する1種類以上のそのような物質を含有するコーティングを有する。このコーティングは、本明細書では「結晶形成層」と記載される。
【背景技術】
【0007】
熱安定化され且つ結晶形成層を有する電気溶融させた石英ガラスからなる半製品が、「HSQ400」(ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフトの商品名)の名称で市販されている。この場合、薄いAl2O3層がコーティング表面に塗布されている。高濃度において、Al2O3は結晶化促進剤として機能するので、部品が少なくとも1280℃の温度まで加熱されると、結晶SiO2相、特にクリストバライトの層が形成される。結晶層は、さらなるアニーリングプロセスの過程でより厚くなり、コーティング表面内まで成長し、それによって、石英ガラスよりも高温のクリストバライトの軟化温度のために、所望の熱安定化が達成される。
【0008】
特許文献1は、石英ガラス拡散管の熱安定化の場合、SiO2粉末とある物質とからなる混合物を管の外面に塗布することによって安定化層が形成されるべきであり、前記混合物は、石英ガラスの失透を促進し、したがって結晶化促進剤として機能することを示唆している。クリストバライト粉末と、さらに、ホウ素、アルミニウム、リン、アンチモン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、又はガリウムの酸化、窒化、及び炭化化合物とが結晶化促進剤として言及されている。好ましい手順の1つでは、水とAl2O3がドープされた石英ガラス粉末との分散体(スラリー)を石英ガラスの中空円筒の外壁に塗布し、スラリー層を乾燥させる。続いて、中空円筒を延ばして石英ガラス管にして、管の外壁を結晶化させ、同時に安定化層を形成する。
【0009】
改善された温度安定性の石英ガラス部品の類似の製造方法の1つは、特許文献2によっても知られている。石英ガラス部品(例えばるつぼ又は管)は、SiO2粉末とドーパント粉末とのスラリーを部品に塗布し、これを1000~1600℃の範囲内の温度に加熱することによって、クリストバライトの安定化層が設けられる。ドーパントは、例えばバリウム、ストロンチウム、若しくはカルシウム、又は希土類金属からなる。コーティング中のドーパント濃度は少なくとも0.1原子パーセントである。
【0010】
特許文献3による方法では、不透明で気泡を含む石英ガラスの市販のるつぼ基体の熱安定性は、そのガラス質の壁を結晶化促進剤を含有する化学溶液で処理することによって増加する。例えば結晶引上げ法における意図する使用中に、石英ガラスるつぼが加熱されるときに、コーティングされたるつぼ壁の領域中で表面上の石英ガラスが結晶化し、同時に結晶SiO2相が形成される。ホウ素、アルカリ土類、及びリン化合物は主として結晶化促進剤と呼ばれ、好ましくは水酸化バリウムが使用される。石英ガラスと比較してより高い結晶SiO2相の軟化温度は、石英ガラスるつぼのより高い熱的強度に寄与し、るつぼ壁からケイ素溶融物中への汚染物質の侵入を妨害し、表面の耐薬品性を改善することができる。
【0011】
少なくとも2つの互いに対向する表面を有する石英ガラス要素の安定化のための類似の方法の1つが、特許文献4によっても知られている。それらの表面は、石英ガラスの表面失透によって形成されたクリストバライト層を有する。アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、セシウム、又はそれらの混合物が結晶化促進剤として言及されている。
【0012】
その内壁及び/又は外壁の上にβ-クリストバライトの層が形成され、壁に塗布された微粒子が結晶化促進剤として機能する熱的用途の反応管が特許文献5によって知られている。
【0013】
石英ガラスるつぼの熱安定性を増加させるために、特許文献6では、1~900μmの範囲内の厚さを有する非隣接結晶性領域の形成が提案されている。20~60ppmの範囲内の濃度のアルミニウムが結晶化促進剤として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第3,927,697 A号
【文献】国際公開第2003/095384 A1号
【文献】欧州特許出願公開第753605 A1号
【文献】英国特許出願公開第1377804 A号
【文献】特開昭63-011533号公報
【文献】欧州特許出願公開第2460913 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
周知の方法により製造された石英ガラス部品は、安定化層が形成されるにもかかわらず、熱的な要求が厳しいプロセスにおいて、特に急速加熱プロセスにおいて、大きな変形を示し、それが部品の破壊の原因となり得る。これは、形成される結晶層が最初は非常に薄いので、小さな負荷にのみ耐えることができ、したがって小さな安定化効果を示すことが原因となり得る。又は、核形成及び結晶化プロセスが比較的遅く開始する、若しくは遅く進行するので、この場合は初期の低い安定化も確認されるためである。永続的な温度曝露によって、結晶層は、部品のコーティング表面内でも成長することがあり、それによって機械的脆弱化が生じ得る。
【0016】
したがって、本発明の目的は、特に急速加熱プロセスでも比較的小さい変形を示す改善された熱的強度及び長期安定性の石英ガラス部品を提供することである。
【0017】
さらに、本発明の目的は、半製品と、このような石英ガラス部品の再現性のある製造方法とを示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の方法に関して、前述の種類の方法から始まるこの目的は、非晶質SiO2粒子を含有する多孔質結晶形成層が、0.1~5mmの範囲内の平均厚さで形成され、セシウム及び/又はルビジウムを含有する物質が結晶化促進剤として使用される点において本発明により達成される。
【0019】
本発明による方法において形成される結晶形成層は、コーティングされた部品の加熱中に結晶化し、したがって、他の場合には安定化層を用いる従来技術からも知られているその熱安定化を引き起こすことが意図される。しかし、対照的に、これは、組み合わせることで所望の改善された安定化効果が得られる以下の特徴によって特徴付けられる:
(1)結晶化層は、非晶質形態のSiO
2粒子を含有する。これらのガラス状粒子は加熱中に結晶化することができる(ガラスの結晶化は、「失透」又は「失透すること」とも呼ばれる)。したがって結晶形成層は、結晶化の誘因だけではなく対象でもあり、安定化層の少なくとも一部を形成する。これは
図8中に概略的に示されている。クリストバライト形成81は、非晶質SiO
2粒子80の表面上で開始し、これが結晶化層82を形成する。結晶化する結晶形成層によって、既に基体83が安定化される。必ずしも基体83の石英ガラスが失透する必要はない。非晶質形態の結晶形成層中に存在するSiO
2粒子80は、それらの失透後でさえも基体83のガラス状SiO
2と高い化学的類似性を示し、したがって、基体83への結晶層の接着に寄与する。比較において、
図7中に概略的に示されるように、基体83の表面上にこのようなSiO
2粒子含有結晶形成層82を有さずに結晶形成を開始する。結晶化促進剤を塗布することによってこの結晶化を促進することができたとしても、結晶形成は比較的高い温度において、及び/又はより長い加熱時間の後に起こり、表面から開始する失透が生じ、そのため、結晶性表面層84によってその熱的支持効果が生じる前に、例えば表面付近の亀裂85の形成によって、基体83がさらに機械的に脆弱化し得る。
【0020】
(2)結晶形成層は、その結晶化後に予想される機械的負荷を吸収するのに十分な厚さである。その平均厚さは0.1~5mmの範囲内、好ましくは0.5~3mmの範囲内である。
【0021】
(3)結晶形成層は多孔質であり、そのため5m2/gを超える大きな表面積を有する。石英ガラス中の主な結晶化機構は表面失透である。したがって、層が加熱されるときに、多孔性及び表面によって迅速な核形成及び結晶化が促進される。他方、多孔質結晶層は、より低多孔質の結晶層よりも低い強度を有する。したがって、層の失透の前に多孔度を低下させることが望ましく、これは、通常、層が加熱されるときの焼結によって自然に生じる。
【0022】
(4)アルカリであるセシウム又はルビジウムの少なくとも1種類を含有する物質が結晶形成層中に存在する。数種類のそのような物質が存在することもできる。アルカリ元素は、通常、化合物の形態で存在する。石英ガラスの結晶化を促進する別の成分も存在することができる。しかし、セシウム又はルビジウムは、低濃度、及び特に天然石英ガラスの変態範囲未満(すなわち1200℃よりも低い)の驚くべき低温で非晶質SiO2粒子の結晶化も引き起こす。他方、これらは、多孔質結晶形成層の緻密な焼結を妨害せず、又はあまり妨害せず、これらが基体の石英ガラスに大規模で浸透することもないことが示されている。これらの効果は、これらのイオンのSiO2中での低い拡散性と、別のアルカリイオンと比較してそれらの大きなイオン半径(ルビジウムのイオン半径:148pm、セシウムのイオン半径:169pm)とに起因すると考えることができる。結果として、結晶形成層の失透は、形成される安定化層の領域に実質的に限定される。
【0023】
上記説明の効果は、非晶質SiO2粒子の多孔質層と、アルカリであるセシウム及び/又はルビジウムの形態の結晶化促進剤との組合せによって得られる。本発明により設計された結晶形成層を1150℃未満の温度に加熱する間に既に、クリストバライトの形成が開始し、比較的急速に進行し、結晶形成層全体を捕捉し、これが結晶SiO2の安定化層に変化することが示された。失透が開始する失透温度は石英ガラスの軟化温度よりも低いので、安定化層は軟化温度よりも低温で完全又は部分的に形成され得る。又は1150℃を超える温度まで加熱される場合、安定化層が形成されるため、安定化効果が石英ガラス基体の軟化よりも早く始まる。この結果、高い変形安定性が得られる。
【0024】
結晶化促進剤物質は、金属形態ではなく化合物の形態、例えば塩として結晶形成層中に存在する。溶融温度が1150℃未満、好ましくは1100℃未満である結晶化促進剤物質を使用すると有利であることが分かっている。
【0025】
溶融相の形成は、多孔質結晶形成層の圧密又は緻密化を促進する。結晶形成層の緻密化及び失透の機構は、それぞれ温度依存性の拡散及び別の質量輸送プロセスに基づいており、互いに独立して進行し、部分的には互いに競合する。その理由は、緻密化した結晶形成層はさらに結晶化することができるが、完全に結晶化した層のさらなる緻密化は困難となり得るからである。緻密化が低温、特に失透が顕著に開始する場合よりも低い温度で開始する好ましい場合では、緻密化機構が失透機構よりも促進され、その結果、全体的に高密度となり、したがってガラス化層の強度が高くなる。適切な化合物は塩化物であり、例えば、塩化ルビジウムの溶融温度は715℃であり、塩化セシウムの溶融温度は646℃である。
【0026】
失透機構は、結晶化促進剤物質の濃度の影響を受け、濃度が高いほど、失透が速くなる。他方、結晶化促進剤又はその一部は、安定化された石英ガラス部品が使用されるプロセス中で不純物として機能し得る。したがって、その濃度はできるだけ低く維持される。この点において、多孔質結晶形成層中の結晶化促進剤物質の比率が少なくとも0.025モル%且つ最大0.5モル%の場合に有益となることが示されている。基準値(100%)は、結晶形成層中に存在し、それぞれの最高酸化段階で存在する、ケイ素と、ドーパントと、アルミニウムなどの意図的に加えられた任意の別の物質とのモル酸化物濃度である。
【0027】
例えば、結晶形成層中の非晶質SiO2粒子は、SiO2スートとして、このようなSiO2スートから得られる顆粒として、球状緻密SiO2粒子として、若しくは粉砕石英ガラスグレインとして存在する、又はこれらの粒子の変形形態の混合物から得られる。
【0028】
0.1μm~100μmの範囲内の粒度分布が特に好都合であることが分かっており、1μm~60μmの範囲内の粒度が全粒子の最大体積分率を占める。SiO2粒子はシングル又はマルチモーダル粒度分布を示すことができる。マルチモーダル粒度分布を有する場合、粒度分布の第1の極大は好ましくは約0.5~5μmの範囲内であり、第2の極大は5~50μmの範囲内である。これによって、結晶形成層中の高い充填密度の調節が容易になる。このような粒度及び粒度分布は、石英ガラスの粉末化によって得ることができる。この状況では、石英ガラスの粉末化によって製造された非晶質SiO2粒子が結晶形成層の最大体積分率を構成する場合に特に有用であることが分かっている。
【0029】
このような粒子は、より粗い石英ガラスグレイン、石英ガラスの破片、又は成形石英ガラス体の機械的粉末化によって得られ、これは好ましくは粉砕によって行われる。成形石英ガラス体の破砕、特に破壊及び粉砕によって製造される粒子は、破面を有することがある。破片は、通常は球状の形態は有さず、非球状で断片状の形状を有し、以下では「裂片形態」と呼ぶ。これによって、緻密で平坦な凝集体、及びグリーン層中若しくはバルク中でSiO2の破片の相互絡み合いが得られる。SiO2粒子の破面におけるこの平坦な絡み合いは、一種の「カードハウス」構造を形成し、これによって結晶形成層のより高い密度が可能となり、さらにこれは、その強度に対する好都合な効果を有し、焼結活性を増加させる。好ましくは、10μmを超える粒度を有する少なくとも80%のSiO2粒子、特に好ましくは少なくとも90%のSiO2粒子が、非球状裂片形態を有する。
【0030】
多孔質結晶形成層は、例えばCVD又はゾル-ゲル技術によって形成することができる。特に好ましい方法の一変形形態では、結晶形成層の形成は、以下の方法工程:
(a)SiO2粒子を液体中に含有する分散体をスラリー層としてコーティング表面に塗布することと、
(b)スラリー層を乾燥させてグリーン層を形成することと、
を含む。
【0031】
「スラリー」とも呼ばれる分散体は、結晶形成層のSiO2粒子の少なくとも一部、好ましくはすべてのSiO2粒子を含有する。これは、従来のコーティング方法を用いて、例えばキャスティング、噴霧、浸漬、フラッディング、スピニング、ドクタリング、又は塗装によってコーティング表面に塗布される。
【0032】
好ましくは、分散体は、結晶化促進剤、又は結晶化促進剤の前駆体を溶解した形態で含有する。これによって、スラリー層中で特に均一な結晶化促進剤分布を達成できる。均一な分布によって、均一な結晶化が促進され、結晶化促進剤の濃度をできるだけ低く、例えば0.025~0.5モル%の範囲内の分率に維持することができる(既に前述した説明の通りである)。
【0033】
スラリー層を乾燥させると、いわゆるグリーン層が得られる。グリーン層は多孔質であり、それによって、好ましくは少なくとも1.7g/cm3のグリーン密度が高強度のために設定される。グリーン密度は、分散体の固体含有量及びSiO2粒子の形状によって実質的に決定される。例えば、固体含有量は65~85重量%の範囲内であり、SiO2粒子は、好ましくは及び優先的には前述の説明の裂片形態を有する。
【0034】
乾燥した多孔質のグリーン層はさらに処理することができ、例えばこれに、結晶化促進剤又はその前駆体物質を含有する溶液を含浸させることができる。しかし、特に好ましい方法の一変形形態では、分散体は、結晶化促進剤濃度又はその前駆体物質の少なくとも一部を既に含有することが意図される。好ましくは、分散体は、結晶化促進剤の全比率を結晶形成層中のその比率により含有する。結晶化促進剤又はその前駆体物質は、好ましくは溶解した形態で存在し、それによって、分散体中の均一な分布、及びグリーン層中のSiO2粒子の均一なドーピングが保証される。スラリー層が乾燥すると、結晶化促進剤が析出して非晶質SiO2粒子の表面を均等に覆う。
【0035】
乾燥したグリーン層は、基体への良好な接着を特徴とし、このことは、既に焼結前に支持効果を得るために重要な条件である。焼結中も、接着、したがって支持効果が維持され、それによって、ドーパントのセシウム及び/又はルビジウムが使用される場合でさえも、基体は、焼結中にその形状の大部分が維持される。ドーパントを有さないグリーン層と比較すると、これらのドーパントによって、接着強度は低下しないか、又はわずかに低下するだけである。
【0036】
結晶化促進剤を含有するグリーン層は、本発明の意味における結晶形成層を形成し、そのため、こうしてコンディショニングされた石英ガラス部品は、基本的にその意図する使用のために作製される。しかし、グリーン層は損傷しやすく、例えば、石英ガラス部品のさらなる取り扱い及び輸送の間に、こすり落とされたり損傷したりすることがある。
【0037】
この点において、ある種の熱的固化が有利となり、その場合、グリーン層は温度670℃~1000℃の範囲内の温度において熱的に緻密化される。
【0038】
しかし、結晶形成層の先の結晶化は、可能であれば回避すべきである。結晶形成層の多孔度が減少し、好ましくは少なくとも1.75g/cm3の密度が達成される。したがって、緻密化温度はできる限り低くなるように選択される。これは、グリーン層が焼結温度を低下させる焼結助剤を含有する場合に、特に低く設定することができる。この意味での焼結助剤は、緻密化温度がその融点より高く沸点より低い場合には、結晶化促進剤物質又はその前駆体物質であってもよい。必要であれば、液相形成によって、機械的により安定な緻密化グリーン層が得られ、これは理想的にはその時までに連続結晶化を示さないが、最良の場合で結晶核を示す。石英ガラス部品が意図されるように使用される場合のみ、完全なクリストバライトが形成され、安定化層が形成される。より高融点のSiO2グレインの結合を促進する低融点成分としてドーパントが機能する液相焼結の機構は、それぞれのドーパントの溶融温度よりもわずかに(約25℃)高温で開始する。例えば液相焼結に関してこの方法で計算される開始温度は、CsClの場合で約670℃、RbClの場合で約740℃である。
【0039】
熱安定性の高い石英ガラス部品を製造するための半製品に関して、前述の種類の半製品から出発する目的は、結晶形成層が、非晶質SiO2粒子を含有し、多孔質であり、0.1~5mmの範囲内の平均厚さを有し、結晶化促進剤がセシウム及び/又はルビジウムを含有する物質であるという点で本発明により達成される。
【0040】
本発明による半製品は、例えば、本発明による前述の方法を用いて得られる。これは、加熱中に結晶化することによって熱安定化が得られることが意図される結晶形成層を有する。
【0041】
結晶形成層は、非晶質形態であり好ましくは裂片形態を有するSiO2粒子を含有する。これらのガラス状粒子は加熱中に結晶化することができ、それによって、結晶形成が、最初は、そして可能であれば排他的に、結晶形成層中で開始すべきである。
【0042】
結晶形成層は、0.1~5mmの範囲内、好ましくは0.5~3mmの範囲内の平均厚さを有し、したがってそのような厚さのため、その結晶化の後にそれ自体に対する予想される機械的負荷に耐えることができる。これは多孔質であり、したがって(5m2/gを超える)大きな表面積を有し、それによって層が加熱されるときの迅速な核形成及び結晶化が促進される。
【0043】
結晶形成層は、アルカリであるセシウム又はルビジウムの少なくとも1種類を含有する。好ましい場合では、アルカリであるセシウム又はルビジウムのみが含まれ、特に好ましい場合ではルビジウムのみが含まれる。アルカリ元素は、通常、化合物の形態である。石英ガラスの結晶化を促進する別の成分がさらに存在してもよい。セシウム又はルビジウムは、別のアルカリイオンよりも石英ガラス中で低い拡散性を示す。これらは、多孔質結晶形成層の緻密焼結を損なうことなく、又は実質的に損なうことなく、さらには低濃度で、石英ガラスの軟化温度未満(また1150°未満)の驚くべき低温において、これらは、非晶質SiO2の結晶化を引き起こす。石英ガラス中でのそれらの低い拡散性のため、失透は結晶形成層の領域に実質的に限定される。
【0044】
本発明により設計された結晶形成層を1150℃未満の温度に加熱するときに既に、クリストバライトの形成が開始し、これは比較的急速に進行し、結晶形成層全体を捕捉し、これが結晶SiO2の安定化層に変化する。失透が開始する失透温度は石英ガラスの軟化温度よりも低いので、安定化層は軟化温度よりも低温で完全又は部分的に形成され得る。又は1150℃を超える温度まで加熱される場合、安定化層が形成されるため、安定化効果が石英ガラス基体の軟化よりも早く始まる。いずれの場合も、高い変形安定性が達成される。
【0045】
結晶化促進剤物質は、化合物の形態、例えば塩として結晶形成層中に存在する。結晶化促進剤物質が1150℃未満、好ましくは1100℃未満の溶融温度を有する場合に有利であることが分かっている。
【0046】
溶融相の形成は、多孔質結晶形成層の緻密化を促進する。緻密化が低温、特に失透が顕著に開始する場合よりも低い温度で開始する好ましい場合では、緻密化機構が失透機構に対して促進され、その結果、ガラス化層がより高密度となり、したがってより高強度となる。適切な化合物は塩化物であり、例えば、塩化ルビジウムの溶融温度は715℃であり、塩化セシウムの溶融温度は646℃である。
【0047】
失透機構は、結晶化促進剤物質の濃度の影響を受け、濃度が高いほど、失透が速くなる。他方、結晶化促進剤又はその一部は、安定化された石英ガラス部品が使用されるプロセス中で不純物として機能し得る。したがって、その濃度はできるだけ低く維持される。この点において、多孔質結晶形成層中の結晶化促進剤物質の比率が少なくとも0.025モル%且つ最大0.5モル%の場合に有益となることが示されている。基準値(100%)は、結晶形成層中に存在し、それぞれの最高酸化段階で存在する、ケイ素と、ドーパントと、アルミニウムなどの意図的に加えられた任意の別の物質とのモル酸化物濃度である。
【0048】
結晶形成層中の非晶質SiO2粒子は、好ましくは裂片形態を有する。これは例えば、石英ガラスの破砕によって製造される。石英ガラスの粉末化によって製造された非晶質SiO2粒子が結晶形成層の最大体積分率を構成する場合に特に有利であることが分かっている。
【0049】
成形石英ガラス体の破砕、特に破壊及び粉砕によって製造される粒子は、破面を有する。破片は、通常は球状の形態は有さず、非球状で断片状の裂片形態を有し、これによって、緻密で平坦な凝集体、及びグリーン層中若しくはバルク中でSiO2の破片の相互絡み合いが得られる。SiO2粒子の破面におけるこの平坦な絡み合いは、一種の「カードハウス」構造を形成し、これによって結晶形成層のより高い密度が可能となり、さらにこれは、その強度に対する好都合な効果を有し、焼結活性を増加させる。好ましくは、10μmを超える粒度を有する少なくとも80%のSiO2粒子、特に好ましくは少なくとも90%のSiO2粒子が、非球状裂片形態を有する。多孔質結晶形成層は、好ましくは、高強度のために少なくとも1.7g/cm3の密度を有する。
【0050】
基体及び結晶形成層の複合体は、石英ガラス部品の意図する使用のために基本的には作製される。しかし、その使用の前に依然として熱的に固化させることができ、それによって多孔度が減少し、少なくとも1.75g/cm3の密度が得られる。
【0051】
熱安定性の高い石英ガラス部品に関して、それがSiO2を含有する結晶層と、石英ガラスの基体のコーティング表面上にセシウム及びルビジウムの群から選択されるドーパントとを有し、安定化層中のドーパントの分率が0.025~0.5モル%の範囲であることによって本発明により目的が達成される。
【0052】
本発明による石英ガラス部品中の安定化層は、本発明による半製品中の結晶形成層を失透させることよって得られる。石英ガラス部品の使用が意図されるとき、又は前に失透が行われる。
【0053】
安定化層は、失透させたSiO2粒子と、先に層の結晶化に寄与した1種類以上のドーパントとを実質的に含有する。これらは通常は酸化物形態で安定化層中に存在する。少なくとも1種類のドーパントはセシウム又はルビジウムを含有する。0.025~0.5モル%の低濃度及び低温でさえも、アルカリイオンであるセシウム又はルビジウムによって、非晶質SiO2の結晶化が起こる。他のアルカリイオンと比較してこれらの大きなイオン半径のために、これらは基体の石英ガラスに大きく浸透することがない。結果として、失透は安定化層の領域に実質的に限定される。基体の石英ガラスは、好ましくは結晶を有さない。安定化層の結晶SiO2と基体のガラス状SiO2との化学的類似性のため、安定化層が十分に接着する。
【0054】
安定化層は、予想される機械的負荷を吸収するのに十分な厚さである。その平均厚さは、好ましくは0.1~5mmの範囲内、好ましくは0.5~3mmの範囲内である。
【0055】
本発明による石英ガラス部品は、最高1600℃の温度でさえも、高い変形安定性を示す。
【0056】
<定義及び測定方法>
上記説明の個別の方法工程及び用語、ならびに測定方法は、以下のようにさらに定義される。これらの定義は本発明の説明の一部である。以下の定義のいずれかと残りの説明との間で内容に矛盾が生じる場合、説明における記載が優先されるものとする。
【0057】
<結晶化促進剤>
結晶化促進剤は、非晶質SiO2の結晶化を促進する物質である。多数のそのような物質が文献に記載されている。本発明によると、ルビジウム及び/又はセシウムが結晶化促進剤として使用され、これは追加の別の結晶化促進剤物質の使用を排除するものではない。
【0058】
結晶化層中、結晶化促進剤は、金属形態で、又は酸化物、塩化物、炭酸塩、及び/又は水酸化物などの1種類の別の成分若しくは数種類の別の成分との化合物として存在する。
【0059】
結晶形成層の失透後、先の結晶化促進剤は、結晶SiO2改質剤の一部となり、これは、通常、酸化物形態で存在する。
【0060】
したがって、結晶形成層に関する濃度データは、ケイ素と、ドーパントと、別のあらゆる故意に加えられた物質とのモル酸化物濃度を基準としており、それぞれはその最高酸化段階(例えばRb2O)で存在する。非酸化物出発物質(例えばRbCl)の量の決定は、酸化物相及び非酸化物相における出発物質のそれぞれの分子量の比に基づいている。
【0061】
<スラリー>
「スラリー」という用語は、液体とSiO2固体粒子との分散体に使用される。不純物の含有量を最小限にするために、蒸留又は脱イオンによって精製された水を液体として使用することができる。
【0062】
<粒度及び粒度分布>
微粉化した非晶質SiO2粒子の粒度及び粒度分布は、D50値によって特徴付けられる。これらの値は、粒度の関数としてのSiO2粒子の累積体積を示す粒度分布曲線から得られる。D50値は、SiO2粒子の累積体積の50%が到達しない粒度を示す。粒度分布は、ISO 13320に準拠した散乱光及びレーザー回折分光法によって求められる。
【0063】
<裂片状SiO2強化体及びアスペクト比>
部分的に緻密化した多孔質SiO2成形体の粉末化によって、破面と、通常は、少なくとも2のアスペクト比(「構造比」とも呼ばれる)を有する裂片状であり非球状の形態とを示す元の成形体の破片が得られる。「アスペクト比」は、破砕された粒子の最大構造幅とその厚さとの比である。それによると、少なくとも2のアスペクト比は、最大構造幅が、その厚さの少なくとも2倍の大きさであることを意味する。
【0064】
<多孔度、細孔径、細孔容積及び比表面積(BET-SSA)の測定>
多孔質材料の比細孔容積は、空隙によって占められる材料内の自由体積を意味する。細孔容積及び多孔度は、ISO15901-1(2005)に準拠して水銀ポロシメトリーによって測定される。反対に作用する表面張力に対抗する外部圧力の影響下で、多孔質材料の細孔中に水銀が押し込まれる。これに必要な力は細孔径に反比例し、したがって、累積全細孔容積に加えて、試料の細孔径分布も求めることができる。
【0065】
使用されるポロシメーターは、サーモフィッシャーサイエンティフィックの「PASCAL 140」(最大4barの低圧)及びPASCAL 440(最大4000barの高圧)であり、それぞれが、75nmの細孔直径の多孔質ガラス球で較正される(ライプツィヒ大学、技術化学研究所、化学鉱物学部に基づく)。実際の温度の水銀密度を補正するために「Washburn法」が使用される。表面張力に0.484N/mが使用され、接触角は141.1°である。試料サイズは約30~40mgの間で選択される。測定を開始する前に、測定試料を120℃で24時間加熱する。この装置は、0.01kPaの絶対圧力まで測定試料を自動的に排気する。
【0066】
比表面積は、DIN ISO 9277:1995に基づいてBrunauer、Emmet及びTellerの方法(BET法)に準拠した収着測定によって測定される。測定装置は、「NOVA-3000」(カンタクローム社製)であり、これはSMART法(適応速度の添加を用いた収着)に準拠して動作する。使用される基準物質は、カンタクローム社のアルミナのSARM-13及びSARM-214である。窒素の飽和蒸気圧(N2 4.0)を測定し、測定試料を減圧下200℃で1時間乾燥させる。冷却後、測定試料の重量を測定し、次に脱気し、200mbarの絶対圧力まで排気する。吸収分子の単層及び多層が形成される圧力範囲において、Brunauer、Emmett及びTellerに準拠した多層吸着等温線(BET等温線)から比表面積(BET-SSA)が求められる。
【0067】
<粒度分布>
粒度及び粒度分布は、ISO 13320に準拠して分散させた試料に対するレーザー回折によって求められる。使用される測定装置はマルバーン社のMastersizer 3000であり、これは周囲温度(23℃)で測定するためのHe-Neレーザー、青色LED、及び湿式分散ユニットを備えている。湿式分散ユニットは80%の超音波出力に調整され、分散剤として水が使用される。粒度分布のD50値は、21 CFRデバイスソフトウェアを用いて形状因子1で求められる。D50値は、累積粒子体積の50%が到達しない粒度(粒度のメジアン値)を示している。
【0068】
315μmを超える粒度及び対応する粒度分布は、「Air Jet RHEWUM LPS 200 MC」(RHEWUM GmbH)ふるい分け装置を用いたふるい分析によって求めた。
【0069】
<拡散プロファイルの測定>
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によって、指定の温度処理の終了後に、コーティングした測定試料の研磨した断面上で濃度プロファイルを求めた。Institute of Geosciences,JGU Mainzにおいて実施;波長193nmのESI NWR 193nmエキシマレーザーをAgilent 7500ce四重極ICP-MSに連結させた。
【0070】
<膨張計測定>
Linseis GmbHより市販されるL75VS1600垂直膨張計を用いて、測定試料の熱機械分析を行う。
【0071】
<変形測定>
方法1:試験リング上のたわみ試験
外径320mm、肉厚5mm及び高さ30mmの石英ガラスでできた試験リングを作製し、種々の結晶化促進剤コーティングを形成した。たわみ試験を行うために、数個の試験リングを次々にそれらの外面上で支えられるように炉内に入れ、指定の温度処理を行った。冷却後、試験リングの変形を視覚的及び定性的に評価した。
【0072】
方法2:試験板上のゆがみ試験
50×300×3mmの寸法の電気溶融石英ガラスの板を作製し、種々の結晶化促進剤コーティングを形成した。ゆがみ試験を行うために、試験板を240mmの自由距離でセラミック支持体上に配置し、炉内で指定の温度処理を行った。冷却後、板の最大ゆがみを測定した。
【0073】
<ラマン分光法>
クリストバライト相の存在は、ラマン分光法によって同定した。使用した装置の名称は「LabRam HR 800」(Horiba Group)である。これは、Olympus BX41光学顕微鏡及びSi CCD(電荷結合素子)検出器に連結される。
【0074】
測定は室温で行い、それによって150~1200cm-1の間の波数におけるスペクトルを記録した。Ar+イオンレーザー(514nm発光)をこの目的のために使用した。
【0075】
<実施形態>
これより、実施形態及び図面を参照しながらより詳細に本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】結晶化促進剤として塩化ルビジウムを含有する結晶形成層における示差熱分析の結果を示している。
【
図2】結晶化促進剤として塩化セシウムを含有する結晶形成層における示差熱分析の結果を示している。
【
図3】炉内でのいわゆる「たわみ試験」の条件後の数個の管部分の写真を示している。
【
図4】1300℃の拡散温度における結晶化促進剤RbClの拡散測定の結果を示している。
【
図5】1500℃の拡散温度における結晶化促進剤RbClの拡散測定の結果を示している。
【
図6】1500℃の拡散温度における結晶化促進剤CsClの拡散測定の結果を示している。
【
図7】結晶化促進剤の作用により結晶化したガラス表面を概略図で示している。
【
図8】ガラス表面上の結晶化促進剤の作用によって結晶化したグリーン層を概略図で示している。
【
図9】900℃まで加熱したセシウムドープグリーン層に対するラマン分光測定の結果を示している。
【
図10】1100℃まで加熱したセシウムドープグリーン層に対するラマン分光測定の結果を示している。
【
図11】900℃まで加熱したルビジウムドープグリーン層に対するラマン分光測定の結果を示している。
【
図12】1100℃まで加熱したルビジウムドープグリーン層に対するラマン分光測定の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0077】
<結晶化促進剤を含有するSiO2スラリーの調製>
250μm~650μmの範囲内のグレインサイズを有する天然原材料の非晶質石英ガラス顆粒を分散液体(水)中で混合する。石英ガラス顆粒は最初に高温塩素化法で清浄にした;クリストバライト含有量が確実に1重量%未満となるように注意する。
【0078】
石英ガラスがライニングされたドラムミル中、石英ガラスの粉砕ボールを用いてローラーブロック上で23rpmで3日間、均一なスラリーが形成されるまで、この混合物を粉砕する。粉砕プロセス中、SiO2が溶解する結果として、pH値が約4まで低下する。
【0079】
石英ガラス顆粒の粉砕後に得られたSiO2顆粒粒子は、裂片の性質を有し、約8μmのD50値及び約40μmのD90値を特徴とする粒度分布を示す。直径約40nmのSiO2ナノ粒子(「焼成シリカ」)を均一スラリーに(分散体の固体含有量を基準として)5重量%の比率で加える。さらなる均一化の後、バインダーを含まないSiO2ベーススラリーが得られる。分散体の固体含有量は75重量%であり、非晶質SiO2粒子のSiO2含有量は少なくとも99.99重量%である。
【0080】
RbCl又はCsClの形態の結晶化促進剤をドープした分散体を調製するため、RbCl又はCsCl(モル比4:1)の水性ドーパント溶液を400mlの超純水中で平行して作製する。有機化合物、窒化物、又はフッ化物などの別のアルカリ化合物を塩化物の代わりに使用することができる。
【0081】
ドーパント溶液を均一なベーススラリーに種々の量で加える。さらなる均一化の後、所望の濃度の結晶化促進剤を含有しバインダーを含まないSiO2分散体が得られる。
【0082】
それぞれの分散体の組成を表1中に示す。
【0083】
<測定試料の調製>
ゆがみ試験によって熱安定性を調べるために、50×300×3mmの寸法の電気溶融石英ガラスの試験板に、浸漬によって、すべての側面上に平均厚さ1mmのこれらのSiO2含有分散体を含有する層(スラリー層)を形成し、次にスラリー層を乾燥させた。
【0084】
比較試料を作製するために、石英ガラス試験板のすべての側面上に結晶化促進剤の塩溶液をコーティングした。これらのコーティングは、結晶化促進剤又は結晶化促進剤の前駆体物質を高濃度(実質的に100%)で含有するが、非晶質SiO2粒子は含有しない。2つの別の比較試料では、試験板はコーティングしないまま残すか、クリストバライト結晶粉末を直接振り掛けるかした。
【0085】
立てた状態の石英ガラスリングに対する変形試験によって熱安定性を調べるために(「たわみ試験」)、外径320mm、肉厚5mm、及び高さ30mmの石英ガラスの管部分(試験リング)を作製し、外壁上にスラリー層を厚さ約1mmで噴霧した。
【0086】
比較試料を作製するために、この場合も石英ガラス試験リングのすべての側面上に結晶化促進剤の塩溶液をコーティングした。これらのコーティングは、結晶化促進剤又は結晶化促進剤の前駆体物質を高濃度(実質的に100%)で含有するが、非晶質SiO2粒子は含有しない。これらの層は約10μmの小さい厚さを有する。
【0087】
拡散プロファイルを測定するため、平均厚さ1mmのスラリー層を一方の側面上に噴霧することによって、直径35mm及び厚さ6mmの石英ガラスの円形の板を作製した。
【0088】
スラリー層の多孔質グリーン層への乾燥は、それぞれスラリー層を空気中で8時間置くことによって行われる。完全な乾燥は、IR放射器を空気中で4時間使用することで行われる。グリーン密度は、それぞれ約1.75g/cm3である。
【0089】
測定試料の1つでは、乾燥させたグリーン層を次に、焼結炉中約1000℃の温度で熱的にわずかに予備緻密化し、次にこれは約1.85g/cm3の密度を有する。
【0090】
表1は、典型的な製造パラメーター及び試料の測定結果をまとめている。
【0091】
【0092】
<変形測定の結果>
図3の写真は、表1の上記試料2、3、7、及び8による結晶化促進剤をコーティングした4つの石英ガラス試験リングに対する代表的な変形測定(たわみ試験)の結果を示している。この試験の場合、炉を1365℃の温度に加熱し、この温度を18時間維持する。
【0093】
試料2の試験リングのみがこの負荷に耐えることが分かった。実験の1つでは、これを1600℃の温度に加熱することを試みたが、顕著な変形を示さなかった。すべての他の試料の場合、最高変形温度は1365℃未満である。
【0094】
別の一連の変形測定では、前述の測定試料のゆがみを、コーティングされた電気溶融石英ガラス板の形態で測定した。コーティングされた石英ガラス板の末端を支持体上に配置し、炉内での指定の温度処理を行った。冷却後、板の最大のゆがみを測定した。表1の最後の縦列は、以下の温度処理を用いる温度処理の場合に測定したゆがみを示している:3時間以内に炉を200℃から1250℃まで加熱すること、この温度を6時間維持すること、次に炉を自由冷却すること。
【0095】
したがって、結晶形成層が2つの条件を満たす場合に、小さなゆがみが達成される。第1では、これがアルカリであるRb、Cs、又はNaの形態の結晶が促進剤を含有し、及び第2では、これが非晶質SiO2粒子を含有する。すべての他の測定試料は、約10mmのゆがみによって示される不十分な熱安定化を示している。これは、試料14によるクリストバライトを用いて形成した結晶形成層にも適用される。試料9のNaCl含有結晶形成層は比較例である。これは十分な熱安定化を示すが、特にナトリウムの汚染効果に関する別の欠点を有する。
【0096】
<膨張計測定の結果>
図1及び2の図は、膨張計測定の結果を示している。温度T(単位℃)の関数として、測定試料の長さの変化デルタL(単位μm)を縦座標にプロットしている。
【0097】
図1中の曲線Aは、結晶化促進剤を加えていないスラリーから形成されたグリーン層の伸張曲線を示しており、
図2は、試料4から形成されたグリーン層の結果を示している。したがって、ドープなしのグリーン層は、約1200℃の温度で顕著な長さの変化を示すのみであり、一方、試料4からのグリーン層では、長さの変化は約950℃の温度で既に開始している(
図2中の曲線B)。
【0098】
長さの変化は、それぞれのグリーン層の焼結開始を示している。したがって、焼結及び緻密化は、ドープされたグリーン層がドープなしの層よりもはるかに早く開始する。より早い焼結過程は、液相焼結による寄与に由来し得る。約1200℃の温度における
図2の膨張計曲線の増加は、失透過程が既に進行中であることも示している。ドープされたグリーン層のより早い緻密化及びそのすぐ後の脱ガスの両方の効果は、層の迅速な機械的安定化に寄与する。
【0099】
<失透試験及び拡散測定の結果>
拡散試料を空気中の炉内で200℃の温度に加熱し、この温度を1時間維持した。その後、3時間以内に、温度を、例えば1300/1500/1600℃の異なる測定温度まで上昇させ、次にこれらの温度を6時間維持した。次に炉を開放し、自由冷却した。
【0100】
図8中に概略的に示されるように、結晶形成層は、Tg(1150℃)付近の温度で既に顕著な失透が起こり、結晶化は、石英ガラス基材(円形の板)内では起こっていない、又はほとんど起こっていないが、排他的に又は少なくとも好ましくは多孔質結晶形成層中で起こっていることが示されている。先の結晶形成層は、全体にわたって25%未満の多孔度を示す。
【0101】
さらなる試験において、石英ガラス板にドープなしのSiO2スラリーをコーティングし、スラリー層を乾燥させ、1150℃で予備焼結させた。5mlの塩溶液(1モル%のCsCl)を約100×100mm2の部分領域に塗布した。塩溶液を依然として多孔質のスラリー層に進入させ、乾燥させ、これによって粒子表面に浸透させる。しかし、1200℃の炉内で焼結を再開した後、層間剥離及び亀裂が生じ、これは層内でのクリストバライトの形成を巨視的に示している。ここで所望の安定化が達成されるが、安定化層の接着は最適ではない。これは、予備焼結させたグリーン層への浸透によって、結晶化促進剤のある分布が達成され、これは、溶解した形態の結晶化促進剤を既に最初に含有するスラリーから形成されたグリーン層ほど均一ではないことに起因すると考えることができる。
【0102】
この方法で得られた測定試料に対し、前述のように誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によって濃度プロファイルを求めた。プロファイルの測定点間の距離は約100μmである。
【0103】
図4中の図は、表による試料1の組成を有する拡散試料を1300℃で温度処理した後の結果を示している。濃度K(単位μg/g)を測定点の配列Sに対してプロットしている。「0」の線は失透した安定化層と石英ガラス基材との間の界面を示している。30~60μm/gの範囲内の基材中へのルビジウムのある程度の拡散を見ることができる。しかし、基材中の濃度は、5~6の測定点の後(すなわち500~600μmの層厚さの後)で顕著に低下する。
【0104】
図5中の図は、表による試料1の組成を有する拡散試料を1500℃で温度処理した後の結果を示している。ここで、蒸発によるRbの明確な減少を確認できる。安定化層中の濃度は、
図4の測定試料中の濃度のわずか約10%である。基材中の濃度のみ、
図4の測定試料とほぼ同じレベルを依然として有する。ルビジウムの蒸発は、1400℃で処理した測定試料においても顕著となることが分かった。
【0105】
ルビジウムは、蒸発によって安定化層から除去され、結晶化促進剤としてその元の程度ではもはや機能することができない。これによって、基材の結晶化を引き起こし得る基材中への濃縮は阻止される。このように、「失透した安定化層/ガラス状基材」系の長期安定性は、高い使用温度でさえも達成される。
【0106】
図6は、表による試料4の組成を有する拡散試料を1500℃で温度処理した後の濃度プロファイルを示している。基材中へのCsの拡散は、この高温でさえもほとんど起こらない。これによって結晶化を引き起こし得る基材中への濃縮も阻止され、そのため「失透した安定化層/ガラス状基材」系の長期安定性もこのように達成される。
【0107】
Rb及びCsのドーピングは、「通常の」アルカリであるLi、Na、及びKのように失透の誘発に同様に適していることが示された。しかし、これは、特に石英ガラス基材中のそれらの徐々に進行する濃縮、及び結果として得られる基材の徐々に進行する失透によって欠点が示されるこれらのアルカリに関連する欠点が回避される。その理由は、Csを用いると、安定化層からガラス状基材材料への検出可能な拡散がまったく又はほとんど起こらず、Rbを用いると、1400℃を超える使用温度で、経時により顕著に減少するからである。
【0108】
<結晶化測定の結果>
数個の試料を900℃~1600℃の温度間隔の温度で6時間処理し、次に結晶化をラマン分光法で分析した。最も重要な測定結果を
図9~12にまとめている。
【0109】
図は、それぞれ、ラマンシフトの波数(単位cm
-1)に対する測定ラマン強度を示している。測定試料は、それぞれ900℃及び1100℃の処理温度の場合の表1の試料1及び4に対応している。したがって、900℃の処理温度において、試料1(
図11)及び試料4(
図9)の両方の測定スペクトルに顕著な強度ピークは存在せず、これはこの処理中に測定試料の結晶化が起こらなかったことを示している。
【0110】
対照的に、1100℃の処理温度において、両方の測定試料は、すべてクリストバライトに帰属できる228、416、778、及び1073cm-1の波数において明確な強度極大値を示している。これは、両方の測定試料におけるクリストバライト形成の早期の開始の証拠である。