(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】積層体、成形体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20220516BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
B32B15/08 H
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018568530
(86)(22)【出願日】2018-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2018004871
(87)【国際公開番号】W WO2018151089
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2017024920
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017170273
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】近藤 要
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-268466(JP,A)
【文献】特開2001-054939(JP,A)
【文献】特開2011-177992(JP,A)
【文献】特開2014-208433(JP,A)
【文献】特開2013-059880(JP,A)
【文献】特開2014-198145(JP,A)
【文献】特開2014-198416(JP,A)
【文献】特開2017-149144(JP,A)
【文献】実開昭53-048168(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 45/14、45/16
B29C 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含む樹脂層と、密着層と、アンダーコート層と、金属又は金属酸化物を含む金属層とをこの順に含む積層体であって、
前記密着層の80質量%超は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂であり、
前記アンダーコート層は、
アクリル樹脂及び硬化剤成分を含み、前記アクリル樹脂と前記硬化剤成分の含有割合が、質量比で35:4~35:40である、
積層体。
【請求項2】
前記ポリオレフィンを含む樹脂層がポリプロピレンを含む請求項
1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上98モル%以下である請求項
2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min
-1以下である請求項
2又は3に記載の積層体。
【請求項5】
前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する請求項
2~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記ポリプロピレンがスメチカ晶を含む請求項
2~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記ポリオレフィンを含む樹脂層が造核剤を含まない請求項1~
6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記金属層に含まれる金属元素が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛からなる群から選択される1以上である請求項1~
7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
前記金属層に含まれる金属元素が、インジウム、アルミニウム及びクロムからなる群から選択される1以上である請求項1~
8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
前記金属層の、前記アンダーコート層と反対側の面の一部又は全面に印刷層を含む請求項1~
9のいずれかに記載の積層体。
【請求項11】
前記金属層の、前記アンダーコート層側の面の一部又は全面に印刷層を含む請求項1~
10のいずれかに記載の積層体。
【請求項12】
前記ポリオレフィンを含む樹脂層の、前記密着層と反対側の面に第2の密着層を含む請求項1~
11のいずれかに記載の積層体。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれかに記載の積層体の成形体。
【請求項14】
前記成形体における前記ポリオレフィンを含む樹脂層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上98モル%以下である請求項
13に記載の成形体。
【請求項15】
前記成形体における前記ポリオレフィンを含む樹脂層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min
-1以下である請求項
13又は14に記載の成形体。
【請求項16】
前記成形体における前記金属層がインジウム又は酸化インジウムを含み、前記ポリオレフィンを含む樹脂層の前記密着層と反対の面側から測定した光沢度が250%以上である請求項
13~15のいずれかに記載の成形体。
【請求項17】
前記成形体における前記金属層がアルミニウム又は酸化アルミニウムを含み、前記ポリオレフィンを含む樹脂層の前記密着層と反対の面側から測定した光沢度が460%以上である請求項
13~15のいずれかに記載の成形体。
【請求項18】
前記成形体における前記金属層がクロム又は酸化クロムを含み、前記ポリオレフィンを含む樹脂層の前記密着層と反対の面側から測定した光沢度が200%以上である請求項
13~15のいずれかに記載の成形体。
【請求項19】
請求項1~
12のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
【請求項20】
前記成形を、前記積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う請求項
19に記載の成形体の製造方法。
【請求項21】
前記成形を、前記積層体を金型に合致するよう賦形し、前記賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う請求項
19に記載の成形体の製造方法。
【請求項22】
前記成形を、チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記積層体を配置し、前記チャンバーボックス内を減圧し、前記積層体を加熱軟化し、前記加熱軟化させた前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、請求項
19に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形物に金属調の意匠を付与する方法としてメッキが用いられている。しかしながら、メッキは大量の廃液と有害物質が発生するため、近年、環境負荷の低減を目的として代替技術が盛んに検討されている。代替技術として、プラスチックシート上に蒸着によって金属薄膜を形成し、種々の加飾成形法によって筐体と一体化して金属調の意匠を付与する方法が開発されている。
【0003】
特許文献1には、特定のアクリルコポリマー、イソシアネート組成物及びエポキシ基含有ケイ素化合物を含むアルミニウム薄膜付プラスチック用アンダーコート剤を用いる技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、カルボキシラートアニオン基を有するアクリルコポリマー、及びアジリジニル基を少なくとも3つ有するポリアジリジン化合物を含有するアンダーコート剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-74888号公報
【文献】特開2011-195835号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術をポリオレフィン系のシートに適用しても、シートとアンダーコート層との密着性が低いため、金属層のひび割れが発生したり、虹色の輝度ムラが発生するレインボー現象や、水蒸気による白化現象によって輝度が低下したりしてしまう。
また、特許文献2に記載の技術をポリオレフィン系のシートに適用しても、コロナ放電等の表面処理ではシートとアンダーコート層との密着性が不十分であり、高温下で成形加工を行った場合、金属層に干渉縞やひび割れが発生してしまう。
【0007】
本発明の目的は、優れた外観を有する成形体を製造することができ、かつ層間の密着性が高い積層体を提供することである。
【0008】
本発明者らの検討により以下の知見が見出された。即ち、ポリメタクリル酸メチルやポリエステルフィルム等のシートは一定の密着性を有するものの、水蒸気を透過しやすいため金属層の腐食による白化現象が問題となる。一方、ポリオレフィンシートは水蒸気を透過しにくいため、金属層の腐食を防止することができ、白化現象が起きにくい。しかしながら、ポリオレフィンは密着性が低いため、ポリオレフィンを含む樹脂層と金属層を密着させる層として柔軟な層を使用する必要があり、その柔軟さゆえ、金属層にひび割れが生じやすいという課題がある。
本発明者らのさらなる検討の結果、ポリオレフィンを含む樹脂層の上にポリオレフィンと密着する密着層を設け、さらにアンダーコート層を形成し、その上に金属層を設けることによって、密着性に優れた積層体とすることができ、輝度の高い、金属調の優れた外観を有する成形体を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明によれば、以下の積層体等が提供される。
1.ポリオレフィンを含む樹脂層と、密着層と、アンダーコート層と、金属又は金属酸化物を含む金属層とをこの順に含む積層体。
2.前記密着層が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含む1に記載の積層体。
3.前記アンダーコート層が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含む1又は2に記載の積層体。
4.前記アンダーコート層が樹脂成分及び硬化剤成分を含み、前記樹脂成分と前記硬化剤成分の含有割合が、質量比で35:4~35:40である1~3のいずれかに記載の積層体。
5.前記ポリオレフィンを含む樹脂層がポリプロピレンを含む1~4のいずれかに記載の積層体。
6.前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタット分率が80モル%以上98モル%以下である5に記載の積層体。
7.前記ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である5又は6に記載の積層体。
8.前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する5~7のいずれかに記載の積層体。
9.前記ポリプロピレンがスメチカ晶を含む5~8のいずれかに記載の積層体。
10.前記ポリオレフィンを含む樹脂層が造核剤を含まない1~9のいずれかに記載の積層体。
11.前記金属層に含まれる金属元素が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛からなる群から選択される1以上である1~10のいずれかに記載の積層体。
12.前記金属層に含まれる金属元素が、インジウム、アルミニウム及びクロムからなる群から選択される1以上である1~11のいずれかに記載の積層体。
13.前記金属層の、前記アンダーコート層と反対側の面の一部又は全面に印刷層を含む1~12のいずれかに記載の積層体。
14.前記金属層の、前記アンダーコート層側の面の一部又は全面に印刷層を含む1~12のいずれかに記載の積層体。
15.前記ポリオレフィンを含む樹脂層の、前記密着層と反対側の面に第2の密着層を含む1~14のいずれかに記載の積層体。
16.1~15のいずれかに記載の積層体の成形体。
17.前記成形体における前記ポリオレフィンを含む樹脂層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンダット分率が80モル%以上98モル%以下である16に記載の成形体。
18.前記成形体における前記ポリオレフィンを含む樹脂層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である16又は17に記載の成形体。
19.前記成形体における前記金属層がインジウム又は酸化インジウムを含み、前記ポリオレフィンを含む樹脂層の前記密着層と反対の面側から測定した光沢度が250%以上である16~18のいずれかに記載の成形体。
20.前記成形体における前記金属層がアルミニウム又は酸化アルミニウムを含み、前記ポリオレフィンを含む樹脂層の前記密着層と反対の面側から測定した光沢度が460%以上である16~18のいずれかに記載の成形体。
21.前記成形体における前記金属層がクロム又は酸化クロムを含み、前記ポリオレフィンを含む樹脂層の前記密着層と反対の面側から測定した光沢度が200%以上である16~18のいずれかに記載の成形体。
22.1~15のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
23.前記成形を、前記積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う22に記載の成形体の製造方法。
24.前記成形を、前記積層体を金型に合致するよう賦形し、前記賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う22に記載の成形体の製造方法。
25.前記成形を、チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記積層体を配置し、前記チャンバーボックス内を減圧し、前記積層体を加熱軟化し、前記加熱軟化させた前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、22に記載の成形体の製造方法。
【0010】
本発明によれば、優れた外観を有する成形体を製造することができ、かつ層間の密着性の高い積層体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様による積層体の概略断面図である。
【
図2】実施例1においてポリプロピレンシート(ポリオレフィン樹脂層)の製造に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様における積層体は、ポリオレフィンを含む樹脂層(以下、「ポリオレフィン樹脂層」という場合がある)と、密着層と、アンダーコート層と、金属又は金属酸化物を含む金属層とをこの順に含む。
【0013】
本発明の一態様における積層体を
図1に示す。
図1において、積層体1は、ポリオレフィン樹脂層10、密着層20、アンダーコート層30及び金属層40を含む。なお、
図1は単に層構成を説明するためのものであり、縦横比や膜厚比は必ずしも正確ではない。
【0014】
本発明の一態様における積層体は、上記の層構成を有するため層間の密着性が高い。また、熱成形等により応力が加わった場合でも、金属層に極めて微細なクラックが無数に生じることにより、視認できるほどの大きさのひび割れが生じない又は生じにくい。さらに、当該無数のクラックの微細さゆえに、光の乱反射に起因するレインボー現象を抑制することができ、また、樹脂層にポリオレフィンを用いることで白化現象も生じにくい。このため、輝度が高い優れた外観を有する成形体を製造することができる。
【0015】
以下、各層について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。
【0016】
(ポリオレフィン樹脂層)
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等を用いることができる。これらは水蒸気を透過しにくいため、金属層の腐食による白化現象を抑制することができる。これらの中でも、ポリプロピレンが好ましい。
【0017】
ポリプロピレンは、少なくともプロピレンを含む重合体である。具体的には、ホモポリプロピレン、プロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。特に、耐熱性、硬度の理由からホモポリプロピレンが好ましい。
共重合体としては、ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でもよく、これらの混合物でもよい。
オレフィンとしては、エチレン、ブチレン、シクロオレフィン等が挙げられる。
【0018】
ポリプロピレンのアイソタクチックペンタット分率が80モル%以上98モル%以下であることが好ましい。より好ましくは86モル%以上98モル%以下、さらに好ましくは91モル%以上98モル%以下である。
アイソタクチックペンタット分率が80モル%未満の場合、成形シートの剛性が不足するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタット分率が98モル%を超える場合、透明性が低下するおそれがある。
上記範囲内であることで、高い透明性が得られ、良好に加飾しやすくなる。
【0019】
アイソタクチックペンタット分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタット単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。この分率の測定法は、例えばマクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)687頁に記載されており、13C-NMRにより測定できる。アイソタクチックペンタット分率は実施例に記載の方法で測定する。
【0020】
ポリプロピレンは、130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であると成形性の観点から好ましい。
ポリプロピレンの結晶化速度は、2.5min-1以下が好ましく、2.0min-1以下がより好ましい。結晶化速度が、2.5min-1以下であると、金型へ接触した部分が急速に硬化すること等を抑制でき、意匠性の低下を防止することができる。
結晶化速度は実施例に記載の方法で測定する。
【0021】
ポリプロピレンの結晶構造としては、スメチカ晶を含むことが好ましい。スメチカ晶は準安定状態の中間相であり、1つ1つのドメインサイズが小さいことから透明性に優れるため好ましい。また、準安定状態であるため、結晶化が進んだα晶と比較して低い熱量でシートが軟化することから成形性に優れるため、好ましい。
他に、β晶、γ晶、非晶部等他の結晶形を含んでもよい。
ポリプロピレン樹脂層の30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上が、スメチカ晶でもよい。
ポリプロピレンの結晶構造は実施例に記載の方法で特定する。
【0022】
ポリプロピレンは、好ましくは示差走査熱量測定曲線において最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上(より好ましくは1.5J/g以上)の発熱ピークを有する。上限値は特に限定されないが、通常10J/g以下である。
発熱ピークは、示差走査熱量測定器を用いて、実施例に記載の方法により測定する。
【0023】
また、ポリオレフィン樹脂層は造核剤を含まないと好ましい。含む場合であっても、ポリオレフィン樹脂層中の造核剤の含有量は、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。
造核剤としては、例えば、ソルビトール系結晶核剤等が挙げられ、市販品としてはゲルオールMD(新日本理化学株式会社)やリケマスターFC-1(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。
造核剤を添加しないでポリプロピレンの結晶化速度を2.5min-1以下とし、80℃/秒以上で冷却してスメチカ晶を形成することにより、意匠性に優れた積層体を得ることができる。さらに、後述する成形体の製造において加熱後、賦形すると、ポリオレフィン樹脂層がスメチカ晶由来の微細構造を維持したまま、α晶に転移する。この転移により、表面硬度や透明性をさらに向上できる。
【0024】
アイソタクチックペンタット分率80モル%以上98モル%以下、かつ、結晶化速度2.5min-1以下で、透明性や光沢に優れたポリプロピレンとするためには、通常、スメチカ晶を形成することが必要となる。後述する成形体の製造において、加熱後の賦形によってポリプロピレンがスメチカ晶由来の微細構造を維持したままα晶に転移するが、成形体中のポリプロピレンが、アイソタクチックペンタット分率80モル%以上98モル%以下であり、かつ結晶化速度2.5min-1以下であれば、スメチカ晶由来といえる。
【0025】
小角X線散乱解析法により散乱強度分布と長周期を算出することにより、ポリオレフィン樹脂層が80℃/秒以上で冷却して得られたものか、そうでないかを判断することができる。すなわち、上記解析によりポリオレフィン樹脂層がスメチカ晶由来の微細構造を有しているか否かを判断することが可能である。測定は以下の条件で行う。
・X線発生装置はultraX 18HF(株式会社リガク製)を用い、散乱の検出にはイメージングプレートを使用する。
・光源波長:0.154nm
・電圧/電流:50kV/250mA
・照射時間:60分
・カメラ長:1.085m
・試料厚み:1.5~2.0mmになるようにシートを重ねる。製膜(MD)方向が揃うようにシートを重ねる。
尚、測定時間を短縮するため、1.5~2.0mmになるようにシートを重ねているが、測定時間を長くすれば、シートを重ねずに1枚でも測定可能である。
【0026】
ポリオレフィン樹脂層の形成方法としては、押出法等が挙げられる。
冷却は、好ましくは80℃/秒以上で行い、ポリオレフィン樹脂層の内部温度が結晶化温度以下となるまで行う。これにより、ポリオレフィン樹脂層(特にポリプロピレン)の結晶構造を、上述のスメチカ晶とすることができる。冷却は、90℃/秒以上がより好ましく、150℃/秒以上がさらに好ましい。
【0027】
環状ポリオレフィンは、環状オレフィンに由来する構造単位を含む重合体であり、エチレンとの共重合体(環状ポリオレフィン共重合体)であってもよい。
【0028】
ポリプロピレンのメルトフローレート(以下、「MFR」と言う場合がある。)は、0.5~10g/10分の範囲が好ましい。この範囲内であれば、フィルム形状又はシート形状への成形性に優れる。ポリプロピレンのMFRは、JIS-K7210に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定する。
ポリエチレンのMFRは、0.1~10g/10分とすることができる。この範囲内であれば、フィルム形状又はシート形状への成形性に優れる。ポリエチレンのMFRは、JIS-K7210に準拠して、190℃、荷重2.16kgで測定する。
環状ポリオレフィンのMFRは、0.5~15g/10分とすることができる。環状ポリオレフィンのMFRは、ISO1133規格に従って、230℃、荷重2.16kgで測定する。
【0029】
ポリオレフィンには、必要に応じて、顔料、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤等の添加剤を配合してもよい。
また、ポリオレフィンを、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、アクリル酸、メタクリル酸、テトラヒドロフタル酸、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート等の変性用化合物で変性して得られる変性ポリオレフィン樹脂を配合してもよい。
【0030】
ポリオレフィン樹脂層の厚さは、通常、10~1000μmであり、15~500μm、60~250μm又は75~220μmとしてもよい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリオレフィン以外の樹脂を含んでもよい。
【0032】
(密着層)
密着層は、ポリオレフィン樹脂層とアンダーコート層との密着性を高めることができる層である。
なお、密着層に含まれる樹脂とポリオレフィン樹脂層の樹脂は、通常、異なり、密着層に含まれる樹脂とアンダーコート層に含まれる樹脂は、通常、異なる。樹脂が異なるとは、樹脂の種類が異なることに限られず、同種の樹脂であってもその物性が異なる場合は樹脂が異なるものとする。また、一方の層に2種以上の樹脂が含まれる場合、その種類の一部又は全部が他方の層と同じであっても、組成が異なれば樹脂が異なるものとする。
【0033】
密着層を形成する材料としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂であれば、後述するガラス転移温度、引張破断伸度及び軟化温度といった物性値を満たすため、ポリオレフィン樹脂層とアンダーコート層との密着性を高めることができる。これらの材料の中でも、ポリオレフィン樹脂層、アンダーコート層又は印刷層への密着性や成形性を考慮すると、ウレタン系樹脂が好ましい。
密着層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
密着層の、例えば、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂(例えばウレタン樹脂)からなってもよい。
【0035】
ウレタン系樹脂は、通常、少なくともジイソシアネート、高分子量ポリオール及び鎖延長剤を反応させて得られる。高分子量ポリオールは、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールとしてもよい。
【0036】
密着層を設けることで、積層体が複雑な非平面状に成形された場合であっても、密着層がポリオレフィン樹脂層に追従して良好に層構成を形成でき、アンダーコート層及び金属層にひび割れや剥離が生じる不都合を防止することができる。
【0037】
密着層のガラス転移温度は、-100℃以上100℃以下が好ましい。ガラス転移温度が-100℃以上であると、密着層の歪みが金属層の追従性を超えないため、長期間使用してもひび割れによる不良が発生しない。ガラス転移温度が100℃以下であると、軟化温度が適度であるため予備賦形時の伸びが良好であり、延伸部の伸びムラや金属層のひび割れを抑制することができる。
ガラス転移温度は、実施例に記載の方法により測定する。
【0038】
密着層の引張破断伸度は、例えば150%以上900%以下であり、好ましくは200%以上850%以下であり、より好ましくは300%以上750%以下である。
密着層の引張破断伸度が150%以上であると、熱成形の際のポリオレフィン樹脂層の伸びに密着層が問題なく追従できるため、密着層のひび割れ、及び金属層のひび割れや剥離を抑制することができる。引張破断伸度が900%以下であると耐水性が良好である。
引張破断伸度は、実施例に記載の方法により測定する。
【0039】
密着層の軟化温度は、例えば50℃以上180℃以下であり、好ましくは90℃以上170℃以下であり、より好ましくは100℃以上165℃以下である。
軟化温度が50℃以上であると、密着層は常温での強度に優れ、金属層のひび割れや剥離を抑制することができる。軟化温度が180℃以下であると、熱成形時に密着層が十分軟化するため、密着層のひび割れ、及び金属層のひび割れや剥離を抑制することができる。
密着層の軟化温度は実施例に記載の方法により測定する。
【0040】
密着層は、例えば、上述した樹脂をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、40~100℃にて10秒~10分間乾燥することで形成することができる。
【0041】
密着層の厚さは、35nm以上3000nm以下としてもよく、50nm以上2000nm以下としてもよく、50nm以上1000nm以下としてもよい。
密着層の厚さが35nm以上であると、アンダーコート層やスクリーンインキとの密着性が十分高い。密着層の厚さが3000nm以下であると、べた付きによるブロッキングの発生を抑制することができる。
【0042】
密着層の上(ポリオレフィン樹脂層と反対側)には、インキやハードコート、反射防止コート、遮熱コート等の各種コーティングを積層できる。
【0043】
また、ポリオレフィン樹脂層の、上記の密着層(第1の密着層)と反対側の面に密着層をもう1層設けてもよい(第2の密着層)。このようにすることで、成形体の表面となるポリオレフィン樹脂層に、表面処理やハードコーティング等の機能性を付与することができる。
【0044】
(アンダーコート層)
アンダーコート層は、密着層と金属層とを密着させることができる層である。アンダーコート層を設けることにより、熱成形時に応力が加わった場合でも、金属層に極めて微細なクラックを無数に生じさせることができ、レインボー現象の発生を無くし、又は低減することができる。
【0045】
アンダーコート層を形成する材料としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。これらの樹脂であれば、後述するガラス転移温度を満たすことができ、上述した効果を発揮することができる。これらの材料の中でも、成形時の耐白化性(白化現象の起こりにくさ)や金属層との密着性の観点から、アクリル樹脂が好ましく、例えば荒川化学工業株式会社製「DA-105」を用いることができる。
上記材料は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
アンダーコート層のガラス転移温度は、0℃以上100℃以下が好ましい。ガラス転移温度が0℃以上であると、アンダーコート層の歪みが金属層の追従性を超えないため、長期間使用してもひび割れによる不良が発生しない。ガラス転移温度が100℃以下であると、軟化温度が適度であるため予備賦形時の伸びが良好であり、延伸部の伸びムラや金属層のひび割れを抑制することができる。ガラス転移温度は、実施例に記載の方法により測定する。
【0047】
アンダーコート層において、上述した樹脂成分(主剤)に硬化剤を組み合わせて用いてもよい。硬化剤としては、アジリジン系化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられ、例えば荒川化学工業株式会社製「CL102H」を用いることができる。
【0048】
硬化剤を用いる場合、アンダーコート層における主剤と硬化剤の含有割合は、固形分の質量比で、例えば35:4~35:40であり、好ましくは35:4~35:32であり、より好ましくは35:12~35:32である。また、35:12~35:20としてもよい。
硬化剤の配合量が主剤35に対して4以上であると、硬化反応が問題なく進行し、耐白化性をより維持することができる。40以下であると、アンダーコート層の伸び性がより良好であり、成形時のひび割れをより抑制することができる。
【0049】
積層体又は成形体におけるアンダーコート層の主剤と硬化剤の含有割合は、フーリエ変換赤外分光分析法(FTIR)により、主剤と硬化剤由来のピークの吸光度比から算出することができる。測定は以下の条件で行う。
測定装置は日本分光株式会社製「FT/IR-6100」を用い、全反射測定法(ATR)にてアンダーコート層側のシート表面をプリズムに密着させ、吸収スペクトルを得る。事前に主剤と硬化剤の含有割合を変化させた試料を用意し、測定したスペクトルの主剤と硬化剤由来のピークの吸光度比を用いて検量線を作成することで、主剤と硬化剤の含有割合を求める。
【0050】
アンダーコート層の、例えば、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、上記の樹脂成分(例えば、アクリル樹脂)のみ、又は樹脂成分及び硬化剤成分からなってもよい。
【0051】
アンダーコート層の形成方法としては、例えば、上述した材料をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、50~100℃にて10秒~10分間乾燥し、40~100℃にて10~200時間エージングすることで形成することができる。
【0052】
アンダーコート層の厚さは、0.05μm~50μmとしてもよく、0.1μm~10μmとしてもよく、0.5μm~5μmとしてもよい。
【0053】
(金属層)
金属層は、金属又は金属酸化物を含む層である。
金属層を形成する金属としては、積層体に金属調の意匠を付与できる金属であれば特に限定されないが、例えば、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。
【0054】
上記のうち、インジウム、アルミニウム及びクロムは伸展性と色調に特に優れるため好ましい。金属層が伸展性に優れると、積層体を三次元成形した際にひび割れが発生しにくい。
【0055】
金属層の形成方法は特に制限されないが、質感が高く高級感のある金属調の意匠を積層体に付与する観点から、例えば、上記の金属を用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法などを用いることができる。特に、真空蒸着法は低コストであり、かつ、被蒸着体へのダメージを少なくすることができる。真空蒸着法の条件は、用いる金属の溶融温度又は蒸発温度に応じて適宜設定すればよい。
上記方法の他、上記の金属又は金属酸化物を含むペーストを塗工する方法、上記の金属を用いためっき法等を用いることもできる。
金属層は、形成する層上の一部に設けてもよいし全部に設けてもよい。
【0056】
金属層の厚さは、5nm以上80nm以下としてもよい。5nm以上であると所望の金属光沢が問題なく得られ、80nm以下であるとひび割れが発生しにくい。
【0057】
(印刷層)
本発明の一態様による積層体は印刷層を含んでもよい。印刷層は、例えば、金属層の一方の面、即ち、アンダーコート層側の面又はアンダーコート層と反対側の面に設けることができる。印刷層は金属層の面のうち一部に設けてもよいし全部に設けてもよい。印刷層の形状としては、特に制限されないが、例えばベタ状、カーボン調、木目調等の様々な形状が挙げられる。
【0058】
印刷の方法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等の一般的な印刷方法が利用できる。特に、スクリーン印刷法はインキの膜厚が厚くできるため、複雑な形状に成形した際にインキ割れが発生しにくい。
例えば、スクリーン印刷の場合、成形時の伸びに優れたインキが好ましく、十条ケミカル株式会社製の「FM3107高濃度白」や「SIM3207高濃度白」等が例示できるが、この限りではない。
【0059】
本発明の一態様による積層体は、ポリオレフィン樹脂層、密着層、アンダーコート層、及び金属層のみからなってもよいし、ポリオレフィン樹脂層、密着層、アンダーコート層、金属層及び印刷層のみからなってもよい。
【0060】
[積層体の製造方法]
本発明の一態様による積層体の製造方法は特に制限されないが、例えば、実施例に記載の方法によってポリオレフィン樹脂層を形成し、その上に、上述した方法によって各層を設けることで積層体とすることができる。
【0061】
[成形体]
上述した積層体を用いて成形体を作製することができる。
【0062】
本発明の成形体において、ポリオレフィン樹脂層がポリプロピレンを含む場合、ポリプロピレンのアイソタクチックペンダット分率が80モル%以上98モル%以下であると好ましい。
また、当該ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であると好ましく、2.0min-1以下がより好ましい。
成形体とした後でも位相顕微鏡等を用いることで、積層体のポリオレフィン樹脂層に対応する部分を特定することが可能である。
【0063】
本発明の一態様による成形体の光沢度は、金属層にインジウム又は酸化インジウムを用いた場合、例えば、250%以上、300%以上、400%以上、500%以上又は600%以上とすることができる。成形体の光沢度が250%以上であれば、十分な金属光沢を発現し、優れた金属調の意匠を成形体へ付与できる。
光沢度の測定は、実施例に記載の方法により行う。
【0064】
本発明の一態様による成形体の光沢度は、金属層にアルミニウム又は酸化アルミニウムを用いた場合、例えば、460%以上、480%以上、500%以上又は520%以上とすることができる。成形体の光沢度が460%以上であれば、金属光沢を十分発現し、優れた金属調の意匠を成形体へ付与できる。
【0065】
本発明の一態様による成形体の光沢度は、金属層にクロム又は酸化クロムを用いた場合、例えば、150%以上、180%以上、200%以上又は220%以上とすることができる。成形体の光沢度が150%以上であれば、金属光沢を十分発現し、優れた金属調の意匠を成形体へ付与できる。
【0066】
[成形体の製造方法]
本発明の一態様による成形体の製造方法としては、インモールド成形、インサート成形、被覆成形等が挙げられる。
【0067】
インモールド成形は、金型内に積層体を設置して、金型内に供給される成形用樹脂の圧力で所望の形状に成形して成形体を得る方法である。
インモールド成形として、積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことが好ましい。
【0068】
インサート成形では、金型内に設置する賦形体を予備賦形しておき、その形状に成形用樹脂を充填することで、成形体を得る方法である。より複雑な形状を形成することができる。
インサート成形として、積層体を金型に合致するよう賦形し、賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことができる。
金型に合致するように行う賦形(予備賦形)は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、プラグアシスト成形等で行うことができる。
【0069】
成形用樹脂は、成形可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、アセチレン-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル重合体等が例示できるが、この限りではない。ファイバーやタルク等の無機フィラーを添加してもよい。
供給は、射出で行うことが好ましく、圧力5MPa以上120MPa以下が好ましい。金型温度は20℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0070】
被覆成形として、チャンバーボックス内に芯材を配設し、芯材の上方に、積層体を配置し、チャンバーボックス内を減圧し、積層体を加熱軟化し、芯材の上面に、積層体を接触し、加熱軟化させた積層体を芯材に押圧して被覆させることができる。
加熱軟化後、芯材の上面に積層体を接触させてもよい。押圧は、チャンバーボックス内において、積層体の芯材と接する側を減圧したまま、積層体の芯材の反対側を加圧して行うことができる。
【0071】
芯材は、凸状でも凹状であってもよく、例えば三次元曲面を有する樹脂、金属、セラミック等が挙げられる。樹脂は、上述の成形に用いる樹脂と同様のものが挙げられる。
【0072】
上記方法として、具体的には、互いに分離可能な上下2つの成形室から構成されるチャンバーボックスを用いることができる。
まず、下成形室内のテーブル上へ芯材を載せ、セットする。被成形物である本発明の一態様による積層体を下成形室上面にクランプで固定する。この際、上・下成形室内は大気圧である。
次に上成形室を降下させ、上・下成形室を接合させ、チャンバーボックス内を閉塞状態にする。上・下成形室内の両方を大気圧状態から、真空タンクによって真空吸引状態とする。
上・下成形室内を真空吸引状態にした後、ヒータを点けて加飾シートの加熱を行なう。次に上・下成形室内は真空状態のまま下成形室内のテーブルを上昇させる。
次に、上成形室内の真空を開放し大気圧を入れることによって、被成形物である本発明の一態様による積層体は芯材へ押し付けられてオーバーレイ(成形)される。尚、上成形室内に圧縮空気を供給することで、より大きな力で被成形物である本発明の一態様による積層体を芯材へ密着させることも可能である。
オーバーレイが完了した後、ヒータを消灯し、下成形室内の真空も開放して大気圧状態へ戻し、上成形室を上昇させ、加飾印刷された積層体が表皮材として被覆された製品を取り出す。
【0073】
[成形体等の用途]
本発明の一態様による積層体及び成形体は、車両の内装材、外装材、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、情報通信機器の筐体等に用いることができる。
【実施例】
【0074】
実施例1
[積層体の製造]
下記の手順で積層体を製造した。
(ポリオレフィン樹脂層)
図2に示す製造装置を用いて、ポリプロピレンシート(ポリオレフィン樹脂層)51を製造した。
当該装置の動作を説明する。押出機のTダイ52より押し出された溶融樹脂(ポリプロピレン)を第1冷却ロール53上で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56との間に挟み込む。この状態で、溶融樹脂を第1、第4冷却ロール53、56で圧接するとともに急冷する。ポリプロピレンシートは、続いて、第4冷却ロール56の略下半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56とに挟まれて面状圧接される。第4冷却ロール56で面状圧接及び冷却された後、金属製エンドレスベルト57に密着したポリプロピレンシートは、金属製エンドレスベルト57の回動とともに第2冷却ロール54上に移動される。ポリプロピレンシートは、前述同様、第2冷却ロール54の略上半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57により面状圧接され、再び冷却される。第2冷却ロール54上で冷却されたポリプロピレンシートは、その後金属製エンドレスベルト57から剥離される。なお、第1、第2冷却ロール53、54の表面には、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材62が被覆されている。
【0075】
ポリプロピレンシート51の製造条件は以下の通りである。
・押出機の直径:150mm
・Tダイ52の幅:1400mm
・ポリプロピレン:商品名「プライムポリプロF-133A」(株式会社プライムポリマー製、MFR:3g/10分、ホモポリプロピレン)
・厚さ:200μm
・ポリプロピレンシート51の引き取り速度:25m/分
・第4冷却ロール56及び金属製エンドレスベルト57の表面温度:17℃
・冷却速度:10,800℃/分
・造核剤を含まない
【0076】
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を用いて、ポリオレフィン樹脂層に用いたポリプロピレンの結晶化速度を測定した。具体的には、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始から最大ピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
ポリオレフィン樹脂層に用いたポリプロピレンの結晶化速度は0.9min-1であった。
【0077】
(アイソタクチックペンタット分率)
ポリオレフィン樹脂層に用いたポリプロピレンについて13C-NMRスペクトルを評価することでアイソタクチックペンタット分率を測定した。具体的には、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の装置、条件及び計算式を用いて行った。
(装置・条件)
装置:13C-NMR装置(日本電子株式会社製「JNM-EX400」型)
方法:プロトン完全デカップリング法(濃度:220mg/ml)
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
(計算式)
アイソタクチックペンタット分率[mmmm]=m/S×100
(式中、Sは全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度を示し、mはメソペンタット連鎖を示す(21.7~22.5ppm)。)
アイソタクチックペンタット分率は98モル%であった。
【0078】
(結晶構造の確認)
ポリオレフィン樹脂層のポリプロピレンの結晶構造を、T.Konishiによる方法(Macromolecules、38,8749,2005)を参考にして、広角X線回折(WAXD:Wide-Angle X-ray Diffraction)により確認した。解析は、X線回折プロファイルについて非晶相、中間相及び結晶相それぞれのピーク分離を行い、各相に帰属されるピーク面積から存在比率を求めた。
得られた積層体に用いたポリプロピレンはスメチカ晶を有することが確認された。
【0079】
(示差走査熱量測定)
ポリオレフィン樹脂層に用いたポリプロピレンについて、上記結晶化速度の測定と同じ示差走査熱量測定装置を用いて測定した。具体的には、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から230℃に昇温して吸熱ピーク及び発熱ピークを観察した。得られた吸熱発熱ピークを観察すると、最大吸熱ピークよりも低温側に1.7J/gの発熱ピークを有することが確認された。
【0080】
(2)密着層
得られたポリプロピレンシートにコロナ処理を施した後、その上にウレタン樹脂(商品名「ハイドランWLS-202」、DIC株式会社製)を乾燥後の膜厚が230nmとなるようにバーコーターで塗布し、80℃にて1分間乾燥して密着層を形成した。
コロナ処理は高周波電源(ウエッジ株式会社製高周波電源「CT-0212」)を使用してシート表面に処理した。
【0081】
密着層の引張破断伸度を以下のように測定した。ガラス基板上に、上記ウレタン樹脂を含有した水溶液をバーコーターにて塗布し、80℃にて1分間乾燥し、その後ガラス基板からウレタン樹脂層を分離して厚み150μmの試料を作成し、JIS K7311(1995)に準拠した方法で測定した。密着層のウレタン樹脂の引張破断伸度は600%であった。
【0082】
密着層の軟化温度を、引張破断伸度の測定と同様に作成した試料を用いて、高化式フローテスター(島津製作所社製「定試験力押出形細管式レオメータフローテスター CFT-500EX」)による流動開始温度を測定し求めた。密着層のウレタン樹脂の軟化温度は160℃であった。
【0083】
密着層について、引張破断伸度の測定と同様に作成した試料を用いて、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン株式会社製「DSC-7」)により、以下の条件で示差走査熱分析曲線を測定し、ガラス転移点を求めた。密着層のウレタン樹脂のガラス転移点は-50℃であった。
測定開始温度:-90℃
測定終了温度:220℃
昇温速度:10℃/分
【0084】
(3)アンダーコート層
下記の主剤(樹脂成分)と硬化剤を、固形分換算で、主剤:硬化剤(質量比)=35:16となるよう混合した。得られた混合物を、上記密着層の上に、乾燥後の膜厚が1.2μmとなるようにバーコーターで塗布し、80℃で1分間乾燥し、60℃で24時間エージングしてアンダーコート層を形成した。
主剤:荒川化学工業株式会社製、商品名「DA-105」
硬化剤:荒川化学工業株式会社製、商品名「CL102H」
上記主剤は、アクリル樹脂及びメチルエチルケトンを含む。
上記硬化剤は、硬化剤(40質量%)、メチルエチルケトン(20.1質量%)、酢酸n-ブチル(39.1質量%)を含む。
【0085】
アンダーコート層の主剤について、ガラス基板上に、上記主剤をバーコーターにて塗布し、80℃にて1分間乾燥し、その後分離して厚み20μmの試料を作成した。示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン株式会社製「Diamond DSC」)により、以下の条件で示差走査熱分析曲線を測定し、ガラス転移温度を求めた。アンダーコート層のアクリル樹脂のガラス転移温度は93℃であった。
測定開始温度:-50℃
測定終了温度:200℃
昇温速度:10℃/分
【0086】
(4)金属層
得られたアンダーコート層の上にアルミニウムを50nm蒸着して金属層を形成した。
【0087】
[積層体の評価(密着性)]
得られた積層体について、金属層の、アンダーコート層と接する面と反対の面側に、カッターナイフを用いて1mm間隔で11本切れ込みを入れた。さらに、その切れ込みと直交するように1mm間隔で11本切れ込みを入れ、10×10のマスを作った。
市販のセロハンテープ(ニチバン株式会社製「CT-24」(幅24mm))を、上記切れ込みの上に貼り、指の腹でよく密着させたのち、セロハンテープを剥離した。
(残ったマスの数/全マス数(100マス))を百分率で表し、密着性を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[成形体の製造]
得られた積層体について、真空圧空成形機(株式会社ミノス製「FM-3M/H」)を用いて真空圧空成形により熱成形し、成形体を製造した。
【0089】
[成形体の評価]
得られた成形体について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(成形体の外観)
得られた成形体について外観を目視で確認し、下記基準に沿って評価した。
金属光沢を有する:◎
金属光沢を有するが低下している:○
金属光沢が失われている:×
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を、オリンパス株式会社製3D測定レーザー顕微鏡「OLS4000」を用いて拡大観察したところ、金属層に非常に微細なクラックが無数に生じていること、及び視認できるほどの大きさのひび割れが生じていないことを確認した。
【0090】
(レインボーの有無)
得られた成形体について、レインボー現象(虹色の輝度ムラ)の有無を目視で確認し、下記基準に沿って評価した。
レインボー現象が発生しなかった:○
レインボー現象が発生した:×
【0091】
(光沢度)
得られた成形体について、JIS Z 8741の60度鏡面光沢の測定方法に準拠し、自動式測色色差計(AUD-CH-2型-45,60、スガ試験機株式会社製)を使用し、ポリオレフィン樹脂層の、密着層と接する面と反対の面から光を入射角60度で照射し、同じく60度で反射光を受光したときの反射光束ψsを測定し、屈折率1.567のガラス表面からの反射光束ψ0sとの比により、下記式(1)により光沢度を求めた。
光沢度(Gs)=(ψs/ψ0s)*100・・・(1)
【0092】
実施例2
アンダーコート層の主剤と硬化剤の混合割合を主剤:硬化剤(質量比)=35:28とした以外は、実施例1と同様に積層体と成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を実施例1と同様に観察したところ、金属層に非常に微細なクラックが無数に生じていること、及び視認できるほどの大きさのひび割れが生じていないことを確認した。
【0093】
実施例3
金属層をインジウムにした以外は、実施例1と同様に積層体と成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を実施例1と同様に観察したところ、金属層に非常に微細なクラックが無数に生じていること、及び視認できるほどの大きさのひび割れが生じていないことを確認した。
【0094】
実施例4
金属層をクロムにした以外は、実施例1と同様に積層体と成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を実施例1と同様に観察したところ、金属層に非常に微細なクラックが無数に生じていること、及び視認できるほどの大きさのひび割れが生じていないことを確認した。
【0095】
比較例1
密着層を積層せず、ポリオレフィン樹脂層の上にアンダーコート層を直接積層した以外は、実施例1と同様に積層体と成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を実施例1と同様に観察したところ、金属層に非常に微細なクラックが無数に生じていること、及び視認できるほどの大きさのひび割れが生じていないことを確認した。
【0096】
比較例2
アンダーコート層の主剤と硬化剤の混合割合を主剤:硬化剤(質量比)=35:28とした以外は、比較例1と同様に積層体と成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を実施例1と同様に観察したところ、金属層に非常に微細なクラックが無数に生じていること、及び視認できるほどの大きさのひび割れが生じていないことを確認した。
【0097】
比較例3
アンダーコート層を積層せず、密着層の上に直接金属層を形成した以外は、実施例1と同様に積層体と成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を実施例1と同様に観察したところ、金属層に視認できる大きなひび割れが無数に生じていることを確認した。
【0098】
比較例4
密着層とアンダーコート層を積層せず、ポリオレフィン樹脂層の上に直接金属層を形成した以外は、実施例1と同様に積層体と成形体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
また、金属層のアンダーコート層と反対側の面を実施例1と同様に観察したところ、金属層に視認できる大きなひび割れが無数に生じていることを確認した。
【0099】
【0100】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。