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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】作業管理システム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20220516BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20220516BHJP
   B66B 3/02 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B3/00 R
B66B3/02 P
B66B5/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019153451
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021031236
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一朗
(72)【発明者】
【氏名】白 石
(72)【発明者】
【氏名】主税 雅裕
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-055950(JP,A)
【文献】特開2018-063679(JP,A)
【文献】特開2017-081685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00- 5/28
B66B 3/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターを移動させて作業者が行う作業を管理する作業管理システムにおいて、
前記作業者の作業位置における磁場の大きさを検知するセンサーから入力を受け付ける受付部と、
前記センサーで検知された磁場の大きさを用いて、前記作業位置を特定し、前記作業位置が予め定めた位置である場合、前記磁場の大きさの時系列変化である磁気センサー値を用いて、前記エレベーターの移動状況を特定し、特定された結果を用いて前記作業者が不安全行動であるかを判別する不安全行動判別部と、
前記不安全行動判別部で不安全行動であると判別された場合、前記作業に対する警告を出力するアラート実行部とを備えることを特徴とする作業管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の作業管理システムにおいて、
前記不安全行動判別部は、前記磁気センサー値が、前記エレベーターが予め定められた高速運転で、少なくともその一部が前記作業位置に接近することを示す高速接近の場合、不安全行動と判別することを特徴とする作業管理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の作業管理システムにおいて、
前記エレベーターを予め定められた低速運転で移動させた前記磁場の大きさの時系列情報を示す磁気センサーモデル値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記不安全行動判別部は、前記磁気センサー値および前記磁気センサーモデル値を比較し、当該比較の結果、乖離している場合に不安全行動と判別することを特徴とする作業管理システム。
【請求項4】
請求項1に記載の作業管理システムにおいて、
前記不安全行動判別部は、
前記作業位置として、前記エレベーターのピットを検知し、
前記磁場の大きさが予め定めた閾値以上で、前記磁気センサー値が増加を示す場合、前記エレベーターの乗りかごが前記作業位置に接近する不安全行動と判別することを特徴とする作業管理システム。
【請求項5】
請求項1に記載の作業管理システムにおいて、
前記不安全行動判別部は、
前記磁気センサー値が増加を示し、当該増加が単位時間の変位量が予め記憶したモデルと一致した場合、前記エレベーターの釣り合い錘が前記作業位置に接近する不安全行動と判別することを特徴とする作業管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター等の移動体に対する作業を管理する技術に関する。その中でも特に、エレベーターを移動させて点検・整備作業を行う作業者の行動を推定する技術に適用することが好適なものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーター等の移動体に対する作業においては、移動体の移動状況と作業者の作業位置が問題となる。特に、移動体の移動経路の傍で作業者が作業すると、不安全行動となり、事故の原因になり得る。従来、エレベーターが敷設される建物内において、エレベーターの点検・整備作業を実施する作業者の不安全行動を防止する場合、作業者が携帯する端末に搭載される各種センサーを活用する方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、昇降路の底部および、かご上に一定周波数の超音波を発生させる超音波発生手段を設置し、昇降路内で作業する作業者が所有する携帯端末のマイクで超音波を受信することで、受信した超音波の強度に基づき、作業者の位置を特定し、注意喚起条件が成立した場合に、音声により作業者へ注意喚起する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-55950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、作業者の位置を特定するため、超音波の発生装置をエレベーターへ設置する必要があり、装置の設置場所や電源印加方法を考慮すると、システムの構成が複雑になってしまう。また、作業者が作業を行わない時間帯では、超音波の発生を停止させる必要があるが、従来は、これらの課題に対して十分な解決方法が考慮されていなかった。
【0006】
本発明は、以上の点を考慮してなされたもので、エレベーター等の移動体を移動させて行う点検・整備作業を行う作業者の不安全な作業を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明では、エレベーターを移動させて作業者が行う作業を管理する作業管理システムにおいて、前記作業者の作業位置における磁場の大きさを検知するセンサーから入力を受け付ける受付部と、前記センサーで検知された磁場の大きさを用いて、前記作業位置を特定し、前記作業位置が予め定めた位置である場合、前記磁場の大きさの時系列変化である磁気センサー値を用いて、前記エレベーターの移動状況を特定し、特定された結果を用いて前記作業者が不安全行動であるかを判別する不安全行動判別部と、前記不安全行動判別部で不安全行動であると判別された場合、前記作業に対する警告を出力するアラート実行部とを備える作業管理システムを提案する。
【0008】
なお、不安全行動とは、作業者の作業位置による不安全行動の他、エレベーターの移動状況が不安全であることを示す不安全運転が含まれる。
【0009】
また、本発明には、作業管理システムの他、これを構成する各装置、プログラムやこれらを用いた方法が含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エレベーター等の移動体の点検・整備などの作業を行う作業者の作業者の不安全な行動を高精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る作業管理システム1の構成例を示すブロック図である。
図2】磁気センサーモデル値を取得する際の一例を示すフローチャートである。
図3(A)】エレベーターを低速運転させた場合の移動状況とピットにおける磁場の大きさの時系列変化の対応関係を示すグラフである。
図3(B)】エレベーターを高速運転させた場合の移動状況とピットにおける磁場の大きさの時系列変化の対応関係を示すグラフである。
図4(A)】エレベーターを低速運転させた場合の移動状況とかご上における磁場の大きさの時系列変化の対応関係を示すグラフである。
図4(B)】エレベーターを高速運転させた場合の移動状況とかご上における磁場の大きさの時系列変化の対応関係を示すグラフである。
図5(A)】エレベーターを低速運転させた場合の移動状況とかご内における磁場の大きさの時系列変化の対応関係を示すグラフである。
図5(B)】エレベーターを高速運転させた場合の移動状況とかご内における磁場の大きさの時系列変化の対応関係を示すグラフである。
図6】本発明の一実施の形態に係るセンタ装置20の不安全行動判別部22の処理手順例を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施の形態で用いられるスマートデバイス10のハードウェア構成図である。
図8】本発明の一実施の形態で用いられるセンタ装置20のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施の形態を詳述する。
(1)作業管理システムの構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る作業管理システム1の構成例を示すブロック図である。図1に示したように、本作業管理システム1は、スマートデバイス10とセンタ装置20とエレベーター40を備えて構成される。スマートデバイス10とセンタ装置20とエレベーター40は、広域ネットワーク30を介して通信可能に接続される。
【0013】
まず、スマートデバイス10の機能構成を説明する。
【0014】
スマートデバイス10は、エレベーター40の点検・整備作業(以下、単に作業とも称する)に従事する作業者が、作業中に常に携帯(携行)している情報端末であって、例えばスマートフォン、スマートウォッチ、またはウェアラブルデバイス等である。図1に示したように、スマートデバイス10は、送受信部11、磁気センサー12、グローバル座標系への変換部13、センサー値登録部14、表示部15、及び記憶部16を備えて構成される。
【0015】
送受信部11は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク30を介してセンタ装置20とデータの送受信を行う。また、磁気センサー12は、磁場の大きさ(磁束密度)と方向を測定するセンサーであり、磁界センサー、地磁気センサー、磁力センサー、電子コンパス、磁力計などその呼び方は問わない。なお、磁気センサー12は、磁場の大きさのみを検知するものであってもよい。グローバル座標系への変換部13は、前記磁気センサー12が測定した値から、スマートデバイスの傾きの影響を排除したグローバル座標(X、Y、Z軸)に変換した磁気センサー値を算出する機能である。センサー値登録部14は、磁気センサー12が測定した磁気センサー値を登録する。具体的には、センサー値登録部14は、磁気センサー12が測定した磁気センサー値を連続的に記憶部16に記録する(磁気センサー値161)。また、記憶部16に記録された磁気センサー値161をセンタ装置20に送信して、センタ装置20の記憶部25に格納する(磁気センサー値251、磁気センサーモデル値252)。本例では、適宜、磁気センサー値161をセンタ装置20に送信するものとする。なお、磁気センサー値161、磁気センサー値251、磁気センサー値251には、磁場の大きさおよび方向のそれぞれにおける時系列変化を示す情報が含まれる(大きさについては、図3(A)(B)~図5(A)(B)を参照)。
【0016】
この時、センタ装置20に送信される磁気センサー値161には、スマートデバイス10に搭載された時計(不図示)の時刻情報が付与されている。なお、時計の時刻は、例えば携帯電話会社の通信機器との通信によって定期的に補正されることが好ましく、このような補正が行われることによって、誤差範囲を所定量(例えば1秒未満)に抑制することができる。
【0017】
表示部15は、例えば液晶ディスプレイであり、表示機能の他、スマートフォンのように数字や文字情報を入力可能なキーボード機能(入力機能)も備えている。
【0018】
記憶部16は、データを記録するメモリである。具体的には例えば、センサー値登録部14が登録する磁気センサー値161を格納する。
【0019】
なお、図1に示したスマートデバイス10の各機能構成を実現するハードウェアの構成を図7に示す。センサー値登録部14は、例えばスマートデバイス10に搭載されているCPU(Central Processing Unit)180がROM(Read Only Memory)160に格納されているセンサー値登録プログラム140をRAM(Random Access Memory)190に読み出して実行することによって実現できる。また、グローバル座標系への変換部13もCPU180が記憶部16であるROM160に格納されている座標変換プログラム130をRAM190に読み出して実行することによって実現できる。さらに、上記CPU180は、表示部15における表示機能や入力機能や送受信部11も制御するようにしてもよい。また、ROM160には、磁気センサー値161を格納する。
【0020】
また、本明細書では、スマートデバイス10と称するが、専用装置、センサー装置、携帯電話などスマートデバイス以外のデバイスを用いてもよい。さらに、磁気センサー12と送受信部11の機能のみのセンサー装置を用いてもよい。この場合、磁気センサー12と送受信部11以外の機能をセンタ装置20やこれ接続する情報処理装置に持たせることが好適である。
【0021】
次に、センタ装置20の機能構成を説明する。
【0022】
センタ装置20は、複数箇所のエレベーターを統合的に管理する管理装置であって、例えばサーバやデータベース等によって実現される。センタ装置20は、概して作業者が整備作業を実施する場所から遠隔の地、例えば作業者の所属会社の建物等に設置される。図1に示したように、センタ装置20は、送受信部21、不安全行動判別部22、エレベーター強制停止処理部23、アラート実行部24、記憶部25を備えて構成される。
【0023】
送受信部21は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク30を介してスマートデバイス10とエレベーター40とデータの送受信を行う。
【0024】
不安全行動判別部22は、記憶部25に格納される磁気センサー値251と磁気センサーモデル値252の比較・判定により、作業者の不安全行動を判断する。詳細は図6を参照しながら後述する。
【0025】
エレベーター強制停止処理部23は、前記不安全行動判別部22の判定により、作業者の不安全行動が行われたと判断された場合、エレベーター40に対し、運転の強制停止を指令する。
【0026】
また同様に、アラート実行部24は、前記不安全行動判別部22の判定により、作業者の不安全行動が行われたと判断された場合、スマートデバイス10の表示部15や図示しないスピーカーにより、作業者へ不安全行動が行われたことをアラートする。
【0027】
記憶部25は、データを記録するメモリである。具体的には図1に示したように、記憶部25には、磁気センサー値251と磁気センサーモデル値252が格納される。
【0028】
なお、図1に示したセンタ装置20の各機能構成を実現するハードウェアについての構成を図8に示す。不安全行動判別部22及びエレベーター強制停止処理部23及びアラート実行部24は、例えばセンタ装置20に搭載されているCPU280が記憶部25であるROM250に格納されている各プログラムをRAM260に読み出して実行することによって実現できる。また、ROM250には、磁気センサー値251、磁気センサーモデル値252が格納されている。
【0029】
そして、広域ネットワーク30は、インターネットやLTE(Long Term Evolution)、LAN(Local Area Network)等に代表される広域通信回線網であり、スマートデバイス10とセンタ装置20とエレベーター40との間で各種データをやり取りする通信手段である。
【0030】
また、エレベーター40は、人が建物の昇降を用意に行うための昇降手段である。本実施例で説明する構成としては、送受信部41とエレベーター強制停止部42を有している。
【0031】
送受信部41は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク30を介してスマートデバイス10とセンタ装置20とデータの送受信を行う。
【0032】
エレベーター強制停止部42は、センタ装置20のエレベーター強制停止処理部23からの指令により、エレベーター40の図示しないモーターを強制停止し、図示しない乗かごを停止させる。
【0033】
なお、本実施の形態では、スマートデバイス10とセンタ装置20が連携して処理を行うが、スマートデバイス10単体で実行してもよい。この場合、センタ装置20の各機能(プログラム)および磁気センサー値251や磁気センサーモデル値252といった必要なデータを、スマートデバイス10に備えるように構成する。また、上述のとおり、スマートデバイス10の磁気センサー12と送受信部11を除く機能をセンタ装置20に設けてもよい。さらに、スマートデバイス10の磁気センサー12と送受信部11を残し、各機能を広域ネットワーク30ないしセンタ装置20に接続された情報処理装置を設けてもよい。
【0034】
以上が、本実施の形態に係る作業管理システム1の構成である。
(2)磁気センサーモデル値の取得
本実施の形態に関わる作業管理システム1では、作業者が携帯しているスマートデバイス10の電源が入っている間(スマートデバイス10で所定のアプリケーションが動作している間でもよい)、磁気センサー12が磁場を測定している。そして、作業者によってエレベーター40の点検作業が実施される際は、作業者が対象の建物に入館してから点検作業を実施して退館するまでの間、センサー値登録部14は、磁気センサー12によって測定された磁気センサー値を連続的に捕捉する。また、グローバル座標系への変換部13により、グローバル座標に変換した上で、記憶部16に記録する。
【0035】
図2は、作業者が磁気センサーモデル値252を取得する際の一例を示すフローチャートである。本実施の形態においては、作業者が予め決められた不安全ではない、正規の作業手順で磁気センサー値161を取得する行動を行い、それを正規作業のモデルとしてセンタ装置20の記憶部25へ磁気センサーモデル値252として格納する。本手順で取得した磁気センサーモデル値252は、後述する図6のフローに従い、不安全行動の判定材料として使用する。
【0036】
図2によれば、まず、作業者は図示しないかご上、かご内、ピットのいずれかに入室する(ステップS1)。かご上とは、人が乗り込む乗かごの上部である。かご内とは、人が乗り込む乗かご内である。ピットとは、乗かごが人の昇降のために上下する昇降路と呼ばれる空間の底部である。
【0037】
次に、作業者からのスマートデバイス10の表示部15に対する操作を受け付けることにより、スマートデバイス10が磁気センサー値161の取得を開始する(ステップS2)。このとき、表示部15には、モデルの取得を開始するための操作開始ボタンが設けられており、作業者の入室位置(かご上、かご内、ピット)も合わせて選択できる仕様となっており、この情報は、磁気センサー値161に付与される。
【0038】
次に、作業者の操作により乗かごを最下階から最上階まで、低速で往復運転する(ステップS3)。低速とは、作業者が点検作業を行うときのモーターの回転速度のことで、作業者がかご上、ピットにいる間は、安全を考慮し、低速で運転することが決められている。低速で運転する場合、最上階と最下階は、作業者の安全を配慮し、床面の位置まで低速運転できないように運転が制限されている場合がある。その場合は、乗かごが運転可能な範囲で往復運転する。このように、低速での運転とは、エレベーター40に予め設定された速度、例えば、検査用の運転速度を示す。
【0039】
また、作業者がピットにいる場合、ピットに居ながら乗かごを往復運転する手段が備えられていないケースがある。その場合は、もう1名の作業者が乗かご内で、往復運転を行う。
【0040】
次に、作業者の表示部15に対する操作により、スマートデバイス10は、乗かごの往復運転が完了次第、モデル値の取得を終了する(ステップS4)。この表示部15の操作を受けて、スマートデバイス10のセンサー値登録部は、記憶部16の磁気センサー値161をセンタ装置20の記憶部25へ磁気センサーモデル値252として、格納する(ステップS5)。
【0041】
以上が、作業者が磁気センサーモデル値252を取得する際の一例を示すフローチャートである。
(3)磁気センサー値の時系列変化
図3(A)(B)、図4(A)(B)、図5(A)(B)は、エレベーターを運転させた場合の移動状況と磁気センサー値の時系列変化の対応関係を示すグラフである。図3~5(A)は低速運転の対応関係を示し、(B)は高速運転の対応関係を示す。また、図3(A)(B)は、ピットでの磁場の大きさを示している。図4は、かご上での磁場の大きさを示している。図5は、かご内での磁場の大きさを示している。
【0042】
なお、図3(A)(B)、図4(A)(B)、図(A)(B)5共に、H1、H2、H3、H4、H5は共通項である。
【0043】
階床H1は、エレベーター40の乗かごが往復する階床を示している。本実施の形態においては、5階床の建物で説明する。また、図示しないモーターや制御盤が1階に設置されているエレベーター40にて説明する。波形H2は、エレベーター40の乗かごが1階から5階まで低速にて往復運転したときの時間経過に対する高さ方向の動作を示している。低速とは、作業者が点検作業を行うときの専用運転であり、モーターの回転速度のことを示している。図2で説明した作業者が磁気センサーモデル値を取得する動作を行ったときの乗かごの動作を示している。波形H3は、エレベーター40の乗かごが1階から5階まで高速にて往復運転したときの時間経過に対する高さ方向の動作を示している。高速とは、点検用の専用運転ではない通常の運転であり、モーターの回転速度のことを示している。低速と同様に、エレベーター毎に予め定められた速度を示す。例えば、通常運用の際の速度である。
【0044】
作業者が、かご上、ピットにいるときは、安全上、高速での運転は禁止(不安全行動)とされている。このため、図3(A)(B)、図4(A)(B)、図5(A)(B)では、これらの位置での磁場の大きさを示している。時刻H4は、時間経過を示している。本実施形態においては、比較しやすいように、図3図4図5共に同じ時刻変化としている。磁気センサー値H5は、磁場の大きさを示している。本実施の形態での単位は[μT(マイクロテスラ)]で示している。また、本実施の形態では、グローバル座標系に変換されたX軸、Y軸、Z軸のうち、Z軸の値を採用している。理由として、エレベーター40の乗かごは、Z軸である高さ方向に移動するものであり、最も磁気センサー値251の変化が大きく出やすいためである。なお、本実施の形態では、Z軸を採用したが、X軸、Y軸、Z軸のいずれ、もしくは組み合わせて2軸、3軸変換を行って使用してもよい。
【0045】
図3の磁気センサー波形P1は、ピットでの磁場の大きさ(例えば、作業者がピットにスマートデバイス10を持参しているとき)、エレベーター40の乗かごを低速にて往復運転させたときの磁気センサーモデル値252を示している。また、磁気センサー波形P2は、作業者がピットにいるときに、エレベーター40の乗かごを高速にて往復運転させたときの磁気センサー値251を示している。本実施の形態においては、ピットにモーターや制御盤が設置されているため、磁場が大きくなる傾向にある。このように、一般的に、磁性体が近づくと磁場が変動し、磁場の大きさは大きくなる。エレベーター40の釣り合いおもりや乗かごは,鋼鉄等の金属(強磁性体)でできている。よって、釣り合いおもりや乗かごが近づくにつれて,磁場の大きさは徐々に高くなる。特に釣り合いおもりは、昇降路の中で最も大きな磁性体であるため、近づいたときの磁場の大きさの変化は大きくなる。この特定を用いて、後述する不安全行動の判別を行う。
【0046】
なお、磁気センサーモデル値252と磁気センサー値251は、エレベーター40の乗かごの速度(低速、高速)の違いしかないため、時系列変化が異なる同様の波形(時間軸方向に伸縮した関係)となる。この時間軸方向の伸縮の程度が所定以上の差がある場合、乖離が発生すると判断する。この伸縮の程度とは、二者間の差であり、具体的には、時間当たりの変位の量の差を示す。
【0047】
また、図示しないモーターや制御盤が1階に設置されているエレベーター40にて説明する。
【0048】
図4の磁気センサー波形P3は、作業者がかご上にいるときに、エレベーター40の乗かごを低速にて往復運転させたときの磁気センサーモデル値252を示している。また、磁気センサー波形P4は、作業者がかご上にいるときに、エレベーター40の乗かごを高速にて往復運転させたときの磁気センサー値251を示している。本実施の形態においては、かご上には、ドアを開閉するモーターや磁場を遮蔽する図示しない釣り合いおもり等があるため、磁場の発生は中程度(ピットより大きく、かご内より小さい)となる傾向にある。このように、本実施の形態では、エレベーター40の運転に伴う乗りかごや釣り合いおもりのなどの移動に伴い変化する磁場の大きさを用いるものである。言い換えれば、磁場の変化を用いて、エレベーター40の運転に伴うエレベーター40の少なくとも一部の移動状況を判別する。
【0049】
図5の磁気センサー波形P5は、作業者がかご内にいるときに、エレベーター40の乗かごを低速にて往復運転させたときの磁気センサーモデル値252を示している。また、磁気センサー波形P6は、作業者がかご内にいるときに、エレベーター40の乗かごを高速にて往復運転させたときの磁気センサー値251を示している。本実施の形態においては、かご内は、密閉空間となり、磁場が遮蔽されることから、磁場の発生は小さくなる傾向にある。
【0050】
以上のように、図3図4図5共に上部にエレベーター40の乗かご動作を示し(それぞれ(A)が低速、(B)高速)、下部に乗かご動作に対応する磁気センサー値((A)が磁気センサーモデル値252、(B)が磁気センサー値251)を示している。
(4)不安全行動判別処理
図2のフローにおいて、作業者が磁気センサーモデル値252の取得が完了次第、図6のフローにより、作業者の不安全行動が判別可能となる。
【0051】
図6は、本発明の一実施の形態に係るセンタ装置20の不安全行動判別部22の処理手順例を示すフローチャートである。作業者がエレベーター40の点検作業を行う間、本フローに従い、作業者の行動が監視される。この行動の監視とは、エレベーター40の少なくとも一部の移動状況とスマートデバイス10の位置に対応付けられる作業者の位置関係から不安全行動かを判別することを示す。図3(A)(B)、図4(A)(B)、図5(A)(B)のグラフと照らし合わせて、説明する。
【0052】
まず、不安全行動判別部22は、ステップS11で、記憶部25に磁気センサー値251がアップロードされたか、監視している。磁気センサー値251のアップロードを検知すると(ステップS11でYES)、以降の判定処理を行う。磁気センサー値251のアップロードが開始されるタイミングとしては、作業者が点検対象の建物に入館し、スマートデバイス10の表示部15による入館操作をトリガーとしてセンサー値登録部14がアップロードを開始する。なお、アップロードされた磁気センサー値251には、点検対象の建物を特定する情報が付与されており、記憶部25に格納される当該建物の磁気センサーモデル値252との関連付けができるようになっている。
【0053】
次に、ステップS12で、不安全行動判別部22が、記憶部25に格納される磁気センサー値251と磁気センサーモデル値252の比較を行う。この比較は、かご内、かご上、ピットで取得されたそれぞれの磁気センサーモデル値252のうち、いずれの場所に作業者がいるかを特定するものであり、磁気センサー値251に近似するレンジのモデルを特定する。
【0054】
本実施の形態においては、ピットにモーターや制御盤が設置されている。このため、磁場の発生が大きくなる傾向にあり、かご上には、ドアを開閉するモーターや磁場を遮蔽する図示しない釣り合いおもり等があるため、磁場の発生は中程度(ピットより大きく、かご内より小さい)となる傾向にある。また、かご内は、密閉空間となり、磁場が遮蔽されることから、磁場の発生は小さくなる傾向にあることから、それぞれの磁気センサー値のレンジ(磁場の大きさ)により、近似するモデルを特定し、作業者の位置を特定する。
【0055】
なお、磁場の大きさとは、グラフの極大値を示す。このため、近似するモデルの特定は、磁気センサー値251のうち最初に検知された極大値が磁気センサーモデル値252のそれを比較し、所定範囲内である磁気センサーモデル値252を特定する。
【0056】
次に、ステップS13で、作業者の位置(スマートデバイス10の設置位置)が不安全な位置かを判定する。具体的には、かご上、もしくはピットかを判定する。この判定は、ステップS12で特定された磁気センサーモデル値252が示す位置により判定する。この判定の結果、作業者の位置がかご上、もしくはピットの場合、以降の処理に遷移する(ステップS13でYES)。上記判定で、かご上もしくはピット以外(かご内やそれ以外(近似するモデルが存在しない))の場合は、作業者は安全な位置で作業を行っていると判断し、処理を終了する(ステップS13でNO)。
【0057】
次にステップS14で、再度、磁気センサー値251と、磁気センサーモデル値252を比較する。この時の比較は、特定した作業者の位置に関連する磁気センサーモデル値252で行う。つまり、ステップS13で作業者の位置が、ピットと特定された場合、図3のグラフのP1の波形が磁気センサーモデル値252となる。
【0058】
ステップS14の比較は、磁気センサー値251と、磁気センサーモデル値252の時系列変化をチェックする。具体的には、例えば、磁気センサー値251が、図3のP2のような波形だった場合、時系列の変化としては、P1の磁気センサーモデル値252とは、単位時間当たりの変位が大きく乖離していることがわかる。乖離とは、上述のとおり、磁気センサー値251と磁気センサーモデル値252の波形が、時間軸方向に所定値以上に伸縮した関係を示すものである。より詳細には、波形が時間軸方向に短いほど、単位時間当たりの変位が大きいので、エレベーター40が高速運転していることになる。このため、低速運転を示す磁気センサーモデル値252の単位時間当たりの変位はより小さくなる。また、高速運転を示す磁気センサー値251の単位時間当たりの変位は、比較的大きなものとなる。このため、磁気センサー値251の単位時間当たりの変位が、磁気センサーモデル値252のそれよりも所定値以上に大きい場合、高速運転している、つまり、乖離していると判断する。なお、エレベーター40が高速運転しているとは、少なくともその一部であるかごや釣り合いおもりが、作業における事故のリスクがより高い高速移動していること示す。
【0059】
また、ステップS14では、磁気センサー値251を用いて、釣り合いおもりやかごなどエレベーター40の少なくともその一部が、作業者に接近しているかも判別し、この結果も加味して乖離しているか判断してもよい。これは、単位時間当たりの変位が増加傾向化で判断可能である。但し、エレベーター40は往復運転されることが多いため、より安全サイドで運用する場合は接近の判断を省略する。さらに、この接近の判断については、ステップS12で判断してもよい、
このような比較により、ステップS15において、単位時間当たりの変位が乖離していると判断された場合、以降の処理を行う(ステップS15でYES)。なお、前記ステップS15の判定で、単位時間当たりの変位が乖離していないと判断された場合、処理を終了する(ステップS15でNO)。
【0060】
次に、ステップS16で、ステップS15において、単位時間当たりの変位が乖離していると判断された場合、不安全運転と判断する。そして、エレベーター強制停止処理部23が、エレベーター40のエレベーター強制停止部42に対して、エレベーター40の強制停止を指令する。また、アラート実行部24が、スマートデバイス10の表示部15に対し、アラートの指令を行い、作業者へ注意喚起を行う。このアラートは、例えば、表示部15へ注意喚起の文言を表示したり、図示しないスピーカーへ大音量の鳴動を行ったりするアラート処理を実行することで、作業者が不安全行動を行ったことを、確実に気付ける方法で行われる。
【0061】
なお、アラート処理は、センタ装置20を利用する管理者に対する出力であってもよい。この場合、管理者から作業者に通知をしたり、管理者の操作でエレベーター40の運転を停止、減速といった制御を行う。
【0062】
また、ステップS16においては、乖離の大きさにより処理を変えてもよい。このために、乖離に関する閾値1とそれより大きな閾値2を設ける。そして、閾値1未満の場合は、NOと判定、つまり乖離はなしとして処理を終了する。また、閾値1以上閾値2未満の場合、アラート実行部24でのアラート処理を実行する。さらに閾値2以上の場合、エレベーター40の強制停止処理を行う。
【0063】
以上、本実施の形態に係る作業管理システム1によれば、磁気センサー値251と磁気センサーモデル値252の比較に基づいて、作業者の不安全行動を高精度に特定することができる。
【0064】
ここで、乖離を用いた不安全行動判別の代わりに行う変形例を説明する。
【0065】
まず、変形例1について、説明する。本例は、ピットが作業位置(スマートデバイス10が位置する)で、乗りかごが接近する場合を例にしたものである。この場合、磁気センサー値251の磁場の大きさが予め定めた閾値以上の場合、不安全行動と判別するもので、具体的には以下のとおり実行する。
【0066】
まず、図2の磁気センサーモデル値取得フローにおいて、スマートデバイス10をピットに設置する。例えば、作業者がスマートデバイス10を持参してピットに入場する。そして、磁気センサーモデル値取得フローのステップS2において、作業者の操作により、乗かごがこれ以上近づいてきたら危険と考えられる位置で停止させる。そして、この際の磁気センサー値を、スマートデバイス10の記憶部16ないしセンタ装置20の記憶部25に登録する。そして、この磁気センサー値を、乗かごが2階の位置での磁気センサーモデル値として記憶部25に格納する。また、この磁気センサーモデル値の磁場の大きさを規定値Kとする。
【0067】
そして、作業者の点検作業の際、つまり、図6の不安全行動判別部22の処理手順において、以下の処理を行う。ステップS11で検知された磁気センサー値に関し、規定値K以上で磁気センサー値の変位が上昇している場合、乗かごが近づいていると判定し、不安全行動と判別する。この例を、図3(B)の楕円箇所に示す。
【0068】
次に、変形例2として、かご上で釣り合いおもりが近づいてきたことを判定する方法を説明する。
【0069】
まず、図2の磁気センサーモデル値取得フローにおいて、かご上に設置する。例えば、作業者がスマートデバイス10を持参してかご上に入場する。そして、ステップS2において、かご上で、作業者の操作により釣り合いおもりの通過前後での磁気センサー値を取得する。この際、作業者のスマートデバイス10の表示部15を介した操作により、スマートデバイス10の記憶部16もしくはセンタ装置20の記憶部25に、釣り合いおもりの通過前後磁気センサー値が登録される。
【0070】
また、センタ装置20が、登録された釣り合いおもりの通過前後の磁気センサー値について、波形の傾き(単位時間当たりの変位量)を計算し、記憶部25に磁気センサーモデル値として格納する。
【0071】
そして、作業者の点検作業の際、つまり、図6の不安全行動判別部22の処理手順において、以下の処理を行う。ステップS11で検知された磁気センサー値に関し、センタ装置20は磁気センサー値の傾きを計算し、これが記憶部25に格納された磁気センサーモデル値の傾きと比較する。この結果、傾きは一致ないしその差が所定範囲した場合、釣り合いおもりが近づいていると判別する。つまり、不安全行動であると判別する。この例を、図5(B)に示す。矢印の個所が、釣り合いおもりが接近して磁場の大きさが大きくなることを示している。そして、直線aが釣り合いおもりの通過前を示し、直線bがその通過後を示す。
【0072】
なお、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形態様が含まれる。前述した実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではなく、適宜、その他の構成にも応用できる。
【0073】
また、本実施の形態では、不安全行動の判定手段をセンタ装置20に備えることとしたが、上述のとおり、スマートデバイス10に備える構成としてもよし、スマートデバイス10やセンタ装置20以外の情報処理装置を設けてもよい。
【0074】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0075】
さらに、本実施の形態の作業対象はエレベーターであったが、その他移動体も含まれる。例えば、屋内移動式クレーン、ケーブルカーなどへも本実施の形態を適用可能である。
【0076】
また、図面において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実施には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 作業管理システム
10 スマートデバイス
11 送受信部
12 磁気センサー
13 グローバル座標系への変換部
14 センサー値登録部
15 表示部
16 記憶部
20 センタ装置
21 送受信部
22 不安全行動判別部
23 エレベーター強制停止処理部
24 アラート実行部
25 記憶部
30 広域ネットワーク
40 エレベーター
41 送受信部
42 エレベーター強制停止部
図1
図2
図3(A)】
図3(B)】
図4(A)】
図4(B)】
図5(A)】
図5(B)】
図6
図7
図8