(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】色調の変化を抑えられる、アミノ変性シリコーン含有水中油型エマルジョン組成物、その製造方法、設計方法、および、該組成物を配合した化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/898 20060101AFI20220516BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20220516BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20220516BHJP
A61Q 5/12 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
A61K8/898
A61K8/34
A61K8/06
A61Q5/12
(21)【出願番号】P 2019167269
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2021-07-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村上 彰
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-249605(JP,A)
【文献】特開昭60-008374(JP,A)
【文献】特開平09-059285(JP,A)
【文献】国際公開第2018/218417(WO,A1)
【文献】特開2018-203891(JP,A)
【文献】特開2010-180284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミノ変性シリコーン: 5~70質量部
(B)フェノキシエタノール、ヘキシルグリセリン、シクロヘキシルグリセリン、ヘキサンジオール、および、エチルヘキシルグリセリンの群より選択される1種または2種以上の混合物である化合物: 2~21質量部
(C)水
を含有し、前記(B)成分により色調の変化を抑制させるものであり、色調の変化が前記(B)成分を含まない水中油型エマルジョン組成物の当該変化よりも抑制された水中油型エマルジョン組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水中油型エマルジョン組成物の製造方法であって、
成分(A)を含むオイル分全体と成分(B)を混合し、しかる後にエマルジョンを形成することを特徴とする、水中油型エマルジョン組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の水中油型エマルジョン組成物を配合することを特徴とする化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性成分としてアミノ変性シリコーンを含有し、色調の変化の抑制性に優れた水中油型エマルジョン組成物に関し、より詳しくは、単一成分で化粧品原料として好適であり、かつ、色調の変化を抑えられ、経時的にその効果を持続できる水中油型エマルジョン組成物に関する。また、本発明は、色調の変化を抑えられる、水中油型エマルジョン組成物を配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ変性シリコーン、すなわち、アミノ変性オルガノポリシロキサンは、様々な分野において種々用途で使われている。中でも、毛髪への優れたコンディショニング等の効果を与えるシリコーンとして、毛髪化粧料を中心にこれまで広く使用されてきた。アミノ基が毛髪に対し吸着する作用があるので、シリコーンが毛髪に保持しやすく、シリコーンの持つ毛髪への化粧料としての効果が発揮されやすいためである。また、アミノ変性オルガノポリシロキサンはエマルジョン化された組成物としても提供され、化粧料等へ配合されている。
ところが、アミノ変性シリコーンは、色調の変化、特に黄色の着色がしやすいという欠点を有している。この問題は特に、化粧品用のエマルジョンの形態で大きな問題となっている。
【0003】
特許文献1には、ヒドロキシエタンジホスホン酸またはその塩等をアミノ変性シリコーンに配合して色調の変化を抑えることが開示されている。しかし、化粧品向けの使用原料としては一般的でないことに加え、限定的な化合物しか選択できないという不利さがあった。
また、特許文献2には、シリコーン組成物として色調の変化を防止する工夫が開示されている。しかし、複数の成分を組み合わせる必要があり、しかもその配合比には工夫が必要であり、限定した構成でないと効果を奏しなかった。また、積極的な色調変化防止の作用が示されていなかった。
【0004】
よって、いかなる公知技術も、化粧品向けに好適で、かつ、限定されない組成でも十分な色調の変化を抑えるアミノ変性シリコーンを含有するエマルジョン組成物、さらに化粧料について開示したものはなかった。
また、いかなる公知技術も、化粧品向けの原料として好適で、かつ、単一成分でも十分に、アミノ変性シリコーンによる色調の変化を抑える薬剤が配合されたエマルジョン組成物、さらに化粧料について開示したものはなかった。
また、いかなる公知技術も、そのようなエマルジョン組成物の製造方法、さらには、目的の色調の変化の抑制に応じたエマルジョン組成物の設計方法を開示したものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-143817号公報
【文献】特開2009-292733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アミノ変性シリコーンを含有する水中油型エマルジョンの色調の変化を抑える、化粧品向けに好適で、かつ、限定されない組成をもつアミノ変性シリコーン含有水中油型エマルジョン組成物、および、該組成物を配合した化粧料を提供することを目的とする。また、該組成物の製造方法、さらには、目的の色調の変化の抑制に応じたエマルジョン組成物の設計方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、アミノ変性シリコーンを含有する水中油型エマルジョンの色調の変化を抑えるための成分として、単一の成分でも十分な性能を発揮し、かつ化粧品用の原料として好適な薬剤を使用できる、アミノ変性シリコーン含有水中油型エマルジョン組成物、および、該組成物を配合した化粧料を提供することを目的とする。また、該組成物の製造方法、さらには、目的の色調の変化の抑制に応じたエマルジョン組成物の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、所定の物性値を満たし、化粧品向けに好適な化合物をアミノ変性シリコーンと混合し、水中油型エマルジョンを作製することで課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、
(A)アミノ変性シリコーンオイル: 100質量部
(B)水への溶解度とアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度が、共に正の値をもつ、1種または2種以上の混合物からなる化合物: 0.1~50質量部
(C)水
を含有し、色調の変化が抑制されたことを特徴とする水中油型エマルジョン組成物である。
また、本発明者は、所定の物性値を満たす化合物を、化粧品用原料として好適な化合物の中から選択し、それを色調変化抑制剤として、アミノ変性シリコーンと混合し、水中油型エマルジョンを作製することで課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、
(A)アミノ変性シリコーンオイル: 100質量部
(B)色調変化抑制剤として、水への溶解度とアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度が、共に正の値をもつ、1種または2種以上の混合物からなる化合物: 0.1~50質量部
(C)水
を含有し、色調の変化が抑制されたことを特徴とする水中油型エマルジョン組成物である。
【0008】
前記水中油型エマルジョン組成物は、前記1種または2種以上の混合物からなる化合物の、25℃での水への溶解度をx質量%とし、アミン数が0.6であり、25℃での粘度が1,000mPa・sであるアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度をy質量%とするとき、変数x、yが下記の式(1)を満たすものである、水性油型エマルジョン組成物であることが好ましい。
y>-42x+42 (1)
式(1)において、x>0、かつ、y>0である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水中油型エマルジョン組成物は、水への溶解度とアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度が、共に正の値をもつ化合物を使用することにより、その化合物が油相と水相の界面に存在する確率が大きくなるため、アミノ変性シリコーンが原因であるシリコーン水中油型エマルジョンの色調の変化を抑える効果が高くなり、その抑制効果が経時的に維持される。しかも、化粧品用として最適なアミノ基を多く含んだアミノ変性シリコーン、例えばアミン数が0.6のようなもの、でも色調変化も抑制できる。さらには、化粧品以外の用途、繊維処理剤、金属面への光沢剤向けに好適なアミノ変性シリコーンを含有する水中油型エマルジョンでも色調変化を抑制できる。
また、その化合物は、化粧品原料として最適な化合物の中から選択できるので、人体等に害を与えないほか、場合により、防腐効果やエマルジョン粒子の安定効果や粒子径を小さくする効果も期待できる。
また、そのような化合物を、単一の成分でも使用でき、製造方法も容易であることから、コストを下げ、生産性を高めることができる。
また、そのような化合物を色調変化抑止剤として、種々のアミノ変性シリコーンへ加えることにより色調変化の抑制された水中油型エマルジョン組成物および化粧品を作製できるので、簡便な製品構成および簡便な使用を実現できる。
また、所望の色調の変化の抑制の度合いや、その他の要望に応じての化合物の選択と使用量の設定により、エマルジョンの設計ができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明に係る水中油型エマルジョン組成物、その製造方法、設計方法、および、該組成物を配合した化粧料の詳細を説明する。
【0011】
(成分(A))
本発明の成分(A)は、アミノ変性シリコーンであり、その構造や性状は限定されないが、通常、平均組成が一般式(2)で表されるアミノ変性オルガノポリシロキサンである。このアミノ変性オルガノポリシロキサンは、水性エマルジョンの中で、化粧品としての機能、特に、毛髪に対して滑らかな感触、通り性などを付与する成分である。
R1
aR2
bSiO(4-a-b)/2 (2)
一般式(2)において、R1は、分子中で同一でも異なっていてもよく、炭素数1~20の非置換の1価の炭化水素基もしくは水素原子または水酸基から選択される。非置換の1価の炭化水素基の例としては、メチル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基などのアリール基;2-フェニルエチル、2-フェニルプロピルなどのアラルキル基を挙げることができる。これらの中ではメチル基及び/またはフェニル基が好ましく、50モル%以上がメチル基であることが特に好ましい。R1として、一部に、炭素数1~3のアルコキシ基を含むことを妨げない。
【0012】
一般式(2)のR2は、1又は2個以上のアミノ基を含有する炭化水素基であって、下記の一般式(3)で表されるようなものである。
-R3-[(NR4)-R5]tNR6R7 (3)
式(3)中、R3、R5は、2価のC1~C18炭化水素残基を表し、R4、R6及びR7は、水素原子または未置換のC1~C10のアルキル基を表し、tは、0または1~6の整数を表す。
【0013】
2価のC1~C18炭化水素残基R3及びR5の例は、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソ-プロピレン基、n-ブチレン基、イソ-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソ-ペンチレン基、ヘキシレン基、例えばn-ヘキシレン基、ヘプチレン基、例えばn-ヘプチレン基、オクチレン基、例えばn-オクチレン基及びイソ-オクチレン基、例えば2,2,4-トリメチルペンチレン基、ノニレン基、例えばn-ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、例えばn-ドデシレン基、オクタデシレン基である。R4、R6及びR7のアルキル基の例は、R1で挙げたC10までのアルキル基である。
【0014】
R2基の例としては、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2、-CH2-CH2-CH2-NH2-CH2-CH2-CH2-NH(CH3)、-CH2-CH2-CH2-N(CH3)2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2-CH2-CH2-CH2-NH(CH3)、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-N(CH3)2-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH(CH2CH3)、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-N(CH2CH3)2-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH(cyclo-C6H11)を挙げることができる。
化粧品用に好ましい、R2は、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2、-CH2-CH2-CH2-NH2-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2であり、特に好ましくは、-CH2-CH2-CH2-NH-CH2-CH2-NH2である。
【0015】
一般式(2)のa、bは自然数で、アミノ変性ポリオルガノシロキサンのケイ素に結合した置換基R1、R2の平均数を示すものであり、a+bは1.8~2.2である。該オルガノポリシロキサンの分子構造は直鎖のみならず、分岐する構造を有していても良いことを示すが、好ましくは、直鎖型の構造を有するものである。
【0016】
アミノ基を有しないR1の平均数aと1個または2個以上のアミノ基を含有するR2の平均数bとの比a/bは、15~600であって、アミノ基を有しないシロキサンユニットとアミノ基を含有するシロキサンユニットの比の目安となるものである。アミノ変性オルガノポリシロキサン中のアミノ基の全体量を示すものとして、該シロキサン1gを中和するに要する1規定塩酸の容量(mL)で表わされるアミン数も用いられる。このアミン数は、アミノ変性ポリオルガノシロキサンの1分子中のアミノ基の数と分子量によって異なることとなる。本発明のアミノ変性オルガノポリシロキサンのアミン数は、0.1~3.0であることを要し、好ましくは、0.15~2.0のものである。アミン数が0.1未満であると、毛髪表面に吸着する能力が弱くなり、アミン数が3.0を超えると親水基であるアミノ基の数が多くなりすぎ、毛髪へ吸着しにくくなる。
以上の成分(A)のアミノ変性シリコーンの構造因子は、化粧品等へ応用する場合は、上記の範囲が好ましいが、本発明にとってそれらは限定されるものではない。
【0017】
本発明の(A)アミノ変性オルガノポリシロキサンは、水中油型エマルジョンを形成しうるものであればよく、その形態は限定されないが、オイル状であることが好ましい。また、単一成分のポリマーであっても、複数のポリマー等の混合物であっても構わない。成分の一部がレジン等の固形分であっても構わないが、全体としてオイル状の流動性を示すことが好ましい。
成分(A)の粘度範囲は限定されないが、好ましくは、25℃で100~10000mPa・sであり、より好ましくは、200~4000mPa・sである。100mPa・s未満では、毛髪に対する十分なコンディショニング効果が得られず、10000mPa・sを超えると毛髪に対し毛先まで均一な通り性やまとまり性を与えることができない。
【0018】
本発明の成分(A)として用いられるアミノ変性オルガノポリシロキサンは、一般にアミノ変性オルガノポリシロキサンオイルとして知られているもので、当業者に公知の方法により製造することができるが、代表的なアミノ変性オルガノポリシロキサンオイルの合成法は以下の通りである。すなわち、アミノアルキル基のケイ素原子への導入は、通常はシランの段階で行われ、アミノアルキルシランがまず製造される。アミノアルキルシランを加水分解し、アミノ基含有シロキサンオリゴマーまたはアミノ基含有ジシロキサンとし、更に、ジメチルシロキサンの線状オリゴマーまたは環状オリゴマーと、アルカリ触媒の存在下に、Si-O結合の再平衡化反応を行うことによりアミノ変性オルガノポリシロキサンオイルとする。再平衡化反応の際、ヘキサメチルジシロキサンを使用すれば、末端トリメチルシリル型のアミノ変性オルガノポリシロキサンオイルが得られる。製造に用いるオリゴマー類またはジシロキサンの量比を調整することにより、特定の動粘度及びアミン数を有するアミノ変性オルガノポリシロキサンオイルを得ることができる。
【0019】
本発明の成分(A)の含有量は、限定されないが、通常、本発明のエマルジョン中で、エマルジョン全体を100質量部とした場合、0.01~70質量部である。毛髪コンディショナ用を例に取れば、0.01質量部未満では、毛髪に対するコンディショニング効果が弱くなり、70質量部を超えると、水性エマルジョンの粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる。より好ましくは5~30質量部である。5質量部未満では、コンディショニング効果が十分でなく、アルキル変性オルガノポリシロキサン(a)との相乗効果が十分に発揮されない。また、30質量部を超えると、すすぎ時の引っかかり感が増えて感触が悪くなる。
【0020】
オイル状成分としては成分(A)に限らず、他の成分を併用してもよい。ジメチルポリシロキサンをはじめ、いかなる変性オイルでもよい。また、レジン分を含んでもよい。また、これらのオイルやレジンの種類は1種類でもよいし、何種類でも構わない。
成分(A)とこれらオイルおよび/またはレジンの比率は全く限定されない。アミノ変性シリコーンとしての目的の特性がエマルジョンとして発揮されればよい。ただし、成分(A)とオイルおよび/またはレジンの全体は、混合した状態で流動性を示すことが好ましい。そうでないとエマルジョンを形成するのが困難となるからである。エマルジョン組成物全体中における成分(A)とオイルおよび/またはレジンの全体の配合量は限定されないが、エマルジョン組成物全体を100質量部中、0.01~70質量部の範囲が好ましい。
【0021】
(成分(B))
成分(B)は、本発明の水中油型エマルジョンおよび該エマルジョンが配合された化粧料の色調の変化、特に黄色に変化することを抑える作用を発揮する成分である。成分(B)は、水への溶解度とアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度が、共に正の値をもつ、1種または2種以上の混合物からなる化合物からなる。
水への溶解度またはアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度のどちらかがゼロまたは双方がゼロであると、エマルジョン中で、油相と水相のどちらかだけに存在する、または、析出または沈降することにより、アミノ変性シリコーンの色調の変化を抑制する作用を示すことができないからである。双方が生の値をもつことにより、成分(B)がエマルジョン中で、油相と水相の界面に存在することにより、色調の変化を抑制する働きを示すことができる。
また、成分(B)は、色調変化抑制剤として使用できる成分である。色調変化抑制剤として準備しておき、必要に応じて成分(A)のアミノ変性シリコーンに対し加えることにより、色調の変化を抑制せしめる薬剤として位置付けることができる。
【0022】
成分(B)の配合量は、成分(A)を100質量部とした場合、0.1~50質量部の範囲である。0.1質量部未満だと、色調の変化を抑える効果が十分でなく、50質量部を超えると、成分(A)の効果が十分でなくなったり、エマルジョンの安定性が低下したりするからである。より好ましい範囲は、1.0~30質量部の範囲である。
【0023】
成分(B)を構成する化合物は、25℃での水への溶解度をx質量%とし、アミノ当量が1,700であり、25℃での粘度が1,000mPa・sであるアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度をy質量%とするとき、変数x、yが下記の式(1)を満たすものであることが好ましい。
y>-42x+42 (1)
式(1)において、x>0、かつ、y>0である。
この範囲を満たすことにより、成分(B)がエマルジョン中で、より効率的に油相と水相の界面に存在することにより、色調の変化を抑制する働きを示すことができる。
さらに好ましい範囲は、y>-51x+51を満たす範囲である。
【0024】
成分(B)は、上記の特性を満たすものであれば、化学的な内容や構造は限定されない。好ましくは、フェノキシエタノール、ヘキシルグリセリン、シクロヘキシルグリセリン、ヘキサンジオール、および、エチルヘキシルグリセリンの群の中から1種または2種以上の混合物からなる化合物であることが好ましい。
アミノ変性シリコーンを含有する水中油型エマルジョンが黄色に着色する現象を例に取り、これらの化合物が好適に抑制作用を発揮することを下記に説明する。
黄色に着色する機構は、次のように考えられている。すなわち、アミノ変性シリコーンのアミノ基が酸化することである。アミノ基の酸化は、酸素濃度の増大および/または温度の上昇により加速される。そして、酸化はこのような条件のもと、経時的に進んでいく、すなわち、着色の程度は増大していく。
これに対し、上記の化合物は、アミノ変性シリコーンと水に対して、一定の溶解性があり、油相と水相の界面に存在する確率が大きくなる場合に、アミノ基を立体障害することにより、酸化防止の作用を発揮することにより、着色の抑制とその経時的維持がなされると考えられる。
そのような作用が発揮されるための要件として、本発明者は、成分(B)の水への溶解度とアミノ変性シリコーンオイルへの溶解度が共に正の値をもつことであることを見出し、より好ましくは、式(1)で示す関係を満たすことであることを突き止めた。色調の変化を抑えるためには、従来は経験に頼った方策しかなかったところ、本発明は、そのための要件を見出し、好ましい組成を定量的に見出すという、従来は成し得なかったことを実現できることを見出した。
【0025】
これらの化合物の中では、フェノキシエタノールが最も好ましい。特に優れた酸化防止の作用を示すと考えられることから、最も効率のよい色調変化の抑制性を示すことと、化粧品原料として一般的なことと、エマルジョンの防腐効果も発揮するからである。
【0026】
本発明の成分(B)を使用することにより、水中油型エマルジョンの色調の変化を抑制できるだけでなく、長期間の経時による色調の変化を抑制することもできる。水およびアミノ変性シリコーンへの溶解性のバランスが適正に取れているので、成分(B)が安定的に界面に存在し続けるためである。色調の変化を経時的に抑制する効果としては、例えば、40℃のような条件で、1ヶ月ほどの期間を維持することができる。
【0027】
本発明の水中油型エマルジョン組成物は、通常、界面活性剤を含有する。成分(A)、あるいは、成分(A)と他のオイル成分を乳化せしめるための成分である。シリコーンエマルジョンを作製する際に用いられる一般的な界面活性剤が通常であり、カチオン系、アニオン系、非イオン系の界面活性剤、あるいは両親媒性の界面活性剤のほか、界面活性の働きをするシリカ粒子等も含有できる。環境を悪化させないことや人体の刺激性の低さからは、非イオン系界面活性剤が好ましい。特に、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油等が好ましい。本発明において、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油またはポリオキシエチレンヒマシ油のエチレンオキサイド付加モル数は、60以上が好ましい。エチレンオキサイド付加モル数が60未満であると、同量添加の場合、エマルジョンの粒径が大きくなり、エマルジョンの保存安定性の点で好ましくなく、界面活性剤量の添加量を更に増やさなければならないなどの問題がある。
本発明における界面活性剤の含有量は限定されないが、本発明のエマルジョン中で、1~20質量%である。1質量%未満では乳化が困難であり、10質量%を超えると、水性エマルジョン組成物の粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる。より好ましくは3~7質量%である。
【0028】
本発明における水(成分(C))は、限定されないが、イオン交換水を用いることが好ましく、好ましくはpH2~12、特に好ましくはpH4~10である。鉱水を用いることは推奨されないが、用いる時は金属不活性化剤などと合わせて用いることが望ましい。乳化の際に用いられる水の添加量は、本発明のエマルション中で40~90質量%、好ましくは40~60質量%に相当する量である。本発明のエマルジョンは水による希釈に対して安定であって、エマルジョンの調製後に更に希釈が可能であり、希釈後のエマルジョン中の水の量には特に制限はない。
【0029】
本発明のエマルジョン組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、目的に応じて許容できる他の成分を含んでもよい。例えば、毛髪用化粧料の場合は、配合成分として許容できる他の成分としては、4級アンモニウム含有化合物、安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、サリチル酸、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロパノール等の防腐剤、アミノ酸系活性剤、各種界面活性剤、グアーガムやキサンタンガムなどの増粘剤、香料などを挙げることができる。
【0030】
本発明のエマルジョン組成物の製造方法は特に限定されなく、公知の方法で作製することができる。エマルジョンの製造のために適当な常用の混合機、例えばホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー、高速ステーターローター攪拌装置などを用いて上記成分を混合、乳化することにより製造することができる。乳化は、成分(A)~(C)のすべてを混合、攪拌して水中油型エマルジョンを調製する方法、または、成分(A)、(B)を段階的に界面活性剤によりエマルジョン化し、更に残部の水や界面活性剤を添加して攪拌し、水中油型エマルジョンとする方法のいずれでも採用することができる。
ただし、成分(B)の化合物が、エマルジョン中で、油相と水相の界面に存在するためには、成分(A)を含むオイル分全体と成分(B)を混合し、しかる後にエマルジョンを形成する製造方法を採ることが好ましい。
【0031】
本発明の水中油型エマルジョン組成物を設計する方法としては、色調の変化を抑える効果を有するか、あるいは好ましく有するかについて、一般式(1)を用いて、成分(B)の要件をまず確認し、その上で、その他のエマルジョンの必要特性や要求特性に応じて、成分(B)としての化合物を選定することができる。すなわち、所望の色調変化の抑制の程度に応じて化合物を選定することができる。また、成分(B)としての化合物の配合量と色調変化の抑制性との関係を予め検量線として把握しておけば、目的の性能に合わせた配合量の設計ができる。
【0032】
本発明の水中油型エマルジョンにおけるエマルジョン粒子径は限定されない。ただし、概ね1μm以下の粒径が望ましい。1μmを超えると、エマルジョンの安定性が劣り、また、化粧料等へ配合した場合に安定的に配合しにくくなる。
【0033】
本発明の水中油型エマルジョンにおけるエマルジョンを化粧料に配合した場合は、化粧料の色調の変化、特に黄色の着色、を抑制することができる。特に、アミノ変性シリコーンが多用される、コンディショナー、シャンプー、リンス等の化粧料へ配合した場合に顕著な効果が現れる。
そうした化粧料の具体的な組成は限定されず、水中油型エマルジョンの配合量も限定されない。
化粧料としての色調の変化を抑止できるのは、水中油型エマルジョン中と同様に、成分(B)の化合物が、アミノ変性シリコーン相と水相の界面に存在していることが理由であると推定される。
【実施例】
【0034】
次に本発明を実施例によって説明する。なお、本発明はこれによって限定されるものではない。また、実施例における本発明の水中油型エマルジョン、および、実施例、比較例におけるコンディショナー組成物に対する評価方法は、以下のようにして行った。また、すべての粘度の数値は、25℃の温度のものである。
【0035】
<安定性評価方法>
作製した水中油型エマルジョンを50mlスクリュー管に30g入れ、初期および40℃で貯蔵1か月後に、クリーミング、沈降分離、色調の経時変化の有無を確認した。
評価基準;
◎:クリーミング、沈降分離全くなし、○:クリーミング、沈降分離ほとんどなし、△:クリーミング、沈降分離の傾向あり、×:クリーミング、沈降分離あり。
【0036】
<色調評価方
作製した水中油型シリコーン組成物、または、該組成物を配合した化粧料を目視にて色調の変化を観察した。観察は、初期と、40℃で貯蔵1か月後の条件で行った
評価基準;
++++:黄色の着色が極めて強い、+++:黄色の着色が強い、++:黄色の着色が弱い、+:変化していない。+および++の評価のものが合格である。
【0037】
<実施例1>
成分(A)として、粘度が1000mPa・s、アミン数が0.6であるN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基含有ジメチルポリシロキサン(アモジメチコン)20質量部に、成分(B)として、フェノキシエタノールを、2.0質量部、界面活性剤として、エチレンオキサイド付加数が13モルであるポリオキシエチレンセチルエーテルと、乳酸とグリセリンを含む相分離しないオイル状の混合物を得た。オイル状の混合物に精製水を加えて、合計100質量部とし、混合しIKA製、ウルトラタラックスT50ベーシック シャフトジェネレーターG45G 3000rpmにて、室温で20分撹拌することにより、水中油型エマルジョン1を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン1の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン1を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン1およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0038】
<実施例2>
成分(B)として、フェノキシエタノールの代りにヘキシルグリセリンを用いた以外は、実施例1と同様にして、水中油型エマルジョン2を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン2の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン2を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン2およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0039】
<実施例3>
成分(B)として、フェノキシエタノールの代りにシクロヘキシルグリセリンを用いた以外は、実施例1と同様にして、水中油型エマルジョン3を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン3の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン3を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン3およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0040】
<実施例4>
成分(B)として、フェノキシエタノールの代りにヘキサンジオールを用いた以外は、実施例1と同様にして、水中油型エマルジョン4を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン4の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン4を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン4およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0041】
<実施例5>
成分(B)として、フェノキシエタノールの代りにエチルヘキシルグリセリンを用いた以外は、実施例1と同様にして、水中油型エマルジョン5を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン5の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン5を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン5およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0042】
<実施例6>
成分(A)として、粘度が1000mPa・s、アミン数が0.6であるN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基含有ジメチルポリシロキサン(アモジメチコン)の代りに、粘度が200mPa・s、アミン数が0.6であるN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基含有ジメチルポリシロキサン(アモジメチコン)を用いた以外は、実施例1と同様にして、水中油型エマルジョン5を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン5の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン5を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン5およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0043】
<比較例1>
成分(A)として、粘度が200mPa・s、アミン数が0.25であるN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基含有ジメチルポリシロキサン(アモジメチコン)20質量部に、界面活性剤として、エチレンオキサイド付加数が13モルであるポリオキシエチレンセチルエーテル7質量部加え、相分離しないオイル状の混合物を得た。オイル状の混合物に精製水を加えて合計100質量部とし、混合しIKA製、ウルトラタラックスT50ベーシック シャフトジェネレーターG45G 3000rpmにて、室温で20分撹拌することにより、水分散体7を得た。処方を表1に示す。
水分散体7の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水分散体7を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水分散体7およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0044】
<比較例2>
成分(A)として、粘度が1000mPa・s、アミン数が0.6であるN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基含有ジメチルポリシロキサン(アモジメチコン)の代りに、粘度が200mPa・s、アミン数が0.6であるN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基含有ジメチルポリシロキサン(アモジメチコン)を用い、成分(B)として、フェノキシエタノールの代りにカプリリルグリコールを1.0質量部用い、水を1.0質量部増やした以外は、実施例1と同様にして、水中油型エマルジョン8を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン8の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン8を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン8およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0045】
<比較例3>
成分(B)の配合部数を2質量部の代わりに0.01質量部とし、水の使用量を1.99質量部増やした以外は、実施例6と同様にして、水中油型エマルジョン9を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン9の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン9を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン9およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0046】
<比較例4>
成分(B)の配合部数を2質量部の代わりに15質量部とし、水の使用量を13質量部減らした以外は、実施例6と同様にして、水中油型エマルジョン10を得た。処方を表1に示す。
水中油型エマルジョン10の安定性評価と色調経時変化の評価を行った。結果を表1に示す。
次に、水中油型エマルジョン10を用いて、表2に示すようにコンディショナー組成物を作製し、同様に色調の経時変化を評価した。その結果を表1に示す。
なお、水中油型エマルジョン10およびそのコンディショナー組成物は、作製直後は黄色等の着色はなかった。
【0047】
【0048】
【0049】
表1において、実施例と比較例との比較より、本発明による水中油型エマルジョン組成物および化粧料が、色調の変化を抑制することが示された。
また、本発明による水中油型エマルジョン組成物の成分(B)として用いる化合物において、y>-42x+42であれば、色調の変化の抑制が良好となり、さらに、y>-51x+51であれば、より良好であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の水中油型エマルジョン組成物は、アミノ変性シリコーンによる色調の変化、特に黄色の着色を抑制することができ、かつその上体が経時で維持され、化粧料に配合した場合も同様の効果を生じ、かつ化粧料として好適な化合物を使用できるので、さまざまな化粧品への用途展開の可能性がある。また、化粧品用として好適なもの以外のアミノ変性シリコーンに対しても有効なので、化粧品以外の様々な用途へ展開できる可能性がある。