(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】免疫グロブリン組成物を調製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20220516BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20220516BHJP
C07K 1/30 20060101ALI20220516BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C07K16/00
C07K1/18
C07K1/30
A61K39/395 X
A61K39/395 Y
(21)【出願番号】P 2019504003
(86)(22)【出願日】2017-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2017068914
(87)【国際公開番号】W WO2018019898
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-14
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】595107379
【氏名又は名称】ビオテスト・アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Biotest AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・マネーク
(72)【発明者】
【氏名】アヒム・ハンナッペル
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・メーレンカンプ-レトガー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング・メラー
(72)【発明者】
【氏名】ディーター・ルードニック
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522845(JP,A)
【文献】特表2001-513576(JP,A)
【文献】特表2005-500265(JP,A)
【文献】特表2002-517516(JP,A)
【文献】特表2012-528190(JP,A)
【文献】特表2013-527201(JP,A)
【文献】特表2005-509506(JP,A)
【文献】特表2014-525417(JP,A)
【文献】特表2013-531630(JP,A)
【文献】特表2000-515860(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136217(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0271669(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0058961(US,A1)
【文献】米国特許第04296027(US,A)
【文献】Tanaka et al.,Brazillian Journal of Medical and Biological research,2000年,vol. 33,p. 27-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分から、医薬的に許容できる免疫グロブリン組成物を調製するためのプロセスであって、以下のステップを含むプロセス:
(a)Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分を、懸濁液の電気伝導度を少なくとも1mS/cmに調整する条件下で再懸濁して、該血漿由来免疫グロブリン画分に含有される免疫グロブリンを再可溶化し、再可溶化したIgG、IgMおよびIgAを含有する懸濁液を得ること;
(b)ステップ(a)で得られた懸濁液中の夾雑タンパク質を沈殿させ、夾雑タンパク質を除去して、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を得ること;
(c)ステップ(b)で得られた不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、IgMおよびIgAを陰イオン交換樹脂に結合させるように調整したpHおよび電気伝導度の条件下で、陰イオン交換樹脂を用いて、イオン交換クロマトグラフィーに供し、かつ、フロースルー画分中に、および/またはIgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に結合したままである条件下で陰イオン交換樹脂からIgGを溶出することによって、IgG富化免疫グロブリン組成物を得ること;および
(d)ステップ(c)で得られたIgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の条件下で、陽イオン交換材料による処理に供し、IgGを回収して、プロパージン含量が低減されたIgG富化免疫グロブリン組成物を得ること。
【請求項2】
(c)ステップが、IgGも陰イオン交換樹脂に結合させるように調整したpHおよび電気伝導度の条件下で、陰イオン交換樹脂を用いること、および/または
(c)ステップにおいて、フロースルー画分中に、および/またはIgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に結合したままである条件下で陰イオン交換樹脂からIgGを溶出することによって、IgG富化免疫グロブリン組成物を得ることに続いて、陰イオン交換樹脂からIgMおよび/またはIgAを溶出することによって、IgMおよび/またはIgAが富化された免疫グロブリン組成物を得ることを更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
(a)Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分を、懸濁液の電気伝導度を少なくとも1mS/cmに調整する条件下で再懸濁して、該血漿由来免疫グロブリン画分に含有される免疫グロブリンを再可溶化し、再可溶化したIgG、IgMおよびIgAを含有する懸濁液を得ること;
(b)ステップ(a)で得られた懸濁液中の夾雑タンパク質を沈殿させ、夾雑タンパク質を除去して、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を得ること、ここで、夾雑タンパク質を沈殿させることは、ステップ(a)で得られた懸濁液をC7~C9のカルボン酸で処理することを含む;
(c)ステップ(b)で得られた不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、イオン交換クロマトグラフィーに供される各免疫グロブリンの量に基づき、IgMおよびIgAのそれぞれの少なくとも90重量%を、陰イオン交換樹脂に結合させるように調整したpHおよび電気伝導度の条件下で、陰イオン交換樹脂を用いて、イオン交換クロマトグラフィーに供し、かつ、フロースルー画分中に、および/またはIgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に結合したままである条件下で陰イオン交換樹脂からIgGを溶出することによって、IgG富化免疫グロブリン組成物を得るこ
と;および
(d)ステップ(c)で得られたIgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の条件下で、陽イオン交換材料による処理に供し、IgGを回収して、プロパージン含量が低減されたIgG富化免疫グロブリン組成物を得ること、
あるいは、
(a)Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分を、懸濁液の電気伝導度を少なくとも1mS/cmに調整する条件下で再懸濁して、該血漿由来免疫グロブリン画分に含有される免疫グロブリンを再可溶化し、再可溶化したIgG、IgMおよびIgAを含有する懸濁液を得ること;
(b)ステップ(a)で得られた懸濁液中の夾雑タンパク質を沈殿させ、夾雑タンパク質を除去して、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を得ること、ここで、夾雑タンパク質を沈殿させることは、ステップ(a)で得られた懸濁液をC7~C9のカルボン酸で処理することを含む;
(c)ステップ(b)で得られた不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、イオン交換クロマトグラフィーに供される各免疫グロブリンの量に基づき、IgMおよびIgA並びにIgGのそれぞれの少なくとも90重量%を、陰イオン交換樹脂に結合させるように調整したpHおよび電気伝導度の条件下で、陰イオン交換樹脂を用いて、イオン交換クロマトグラフィーに供し、かつ、フロースルー画分中に、および/またはIgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に結合したままである条件下で陰イオン交換樹脂からIgGを溶出することによって、IgG富化免疫グロブリン組成物を得ること、
続いて、陰イオン交換樹脂から
IgMおよび/またはIgAを溶出することによって、IgMおよび/またはIgAが富化された免疫グロブリン組成物を得ること;および
(d)ステップ(c)で得られたIgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の条件下で、陽イオン交換材料による処理に供し、IgGを回収して、プロパージン含量が低減されたIgG富化免疫グロブリン組成物を得ること
のステップを含む、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
懸濁液の電気伝導度が、少なくとも1.5mS/cmである;
懸濁液の電気伝導度が、少なくとも2.0mS/cmである;、または
懸濁液の電気伝導度が、少なくとも2.5mS/cmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
血漿由来免疫グロブリン画分の再懸濁が、4.2~5.5の範囲のpHに調整されたバッファーを用いて行われる;または
血漿由来免疫グロブリン画分の再懸濁が、4.5~5.3の範囲のpHに調整されたバッファーを用いて行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
バッファーが、酢酸バッファーであり;
バッファーが、酢酸ナトリウムバッファーであり;
バッファーが、酢酸バッファーであり、0.025~0.2Mの範囲のモル濃度を有する;または
バッファーが、酢酸ナトリウムバッファーであり、0.025~0.2Mの範囲のモル濃度を有する、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
ステップ(b)において夾雑タンパク質を沈殿させることが、ステップ(a)で得られた懸濁液をC7~C9のカルボン酸で処理することを含む;または
ステップ(b)において夾雑タンパク質を沈殿させることが、ステップ(a)で得られた懸濁液をオクタン酸で処理することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
ステップ(b)において夾雑タンパク質を除去することが、濾過を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
ステップ(b)が、夾雑タンパク質を除去した後に、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、弱酸処理に供することをさらに含み、ここで、ステップ(c)において陰イオン交換樹脂によるイオン交換クロマトグラフィーに供する前に、3.8~4.5の範囲のpHでインキュベートする、または
ステップ(b)が、夾雑タンパク質を除去した後に、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、弱酸処理に供することをさらに含み、ここで、ステップ(c)において陰イオン交換樹脂によるイオン交換クロマトグラフィーに供する前に、3.8~4.5の範囲のpHで35~40℃の範囲の温度でインキュベートする、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
ステップ(c)で用いられる陰イオン交換樹脂が、マクロポーラス陰イオン交換樹脂である、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
ステップ(c)のイオン交換クロマトグラフィーが、IgMおよびIgAを陰イオン交換樹脂に結合させ、かつ、フロースルー画分中にIgG富化免疫グロブリン組成物を得るように調整したpHおよび電気伝導度の条件下で行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
イオン交換クロマトグラフィーが、6.7~7.5の範囲のpHで行われる;または
イオン交換クロマトグラフィーが、6.9~7.3の範囲のpHで行われる、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
イオン交換クロマトグラフィーが、4~7.5mS/cmの範囲の電気伝導度で行われる;または
イオン交換クロマトグラフィーが、5.5~7mS/cmの範囲の電気伝導度で行われる、請求項11または12に記載のプロセス。
【請求項14】
陰イオン交換樹脂に結合したIgMおよび/またはIgAが、少なくとも20mS/cmの電気伝導度で該樹脂から溶出される、請求項11~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
溶出が、6.7~7.5の範囲のpHで行われる;または
溶出が、6.9~7.3の範囲のpHで行われる、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
ステップ(d)におけるIgG富化免疫グロブリン組成物の処理が、プロパージンが陽イオン交換材料に結合し、かつ、IgGがフロースルー画分に回収されるpHおよび電気伝導度の条件下で、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われる、
または
ステップ(d)におけるIgG富化免疫グロブリン組成物の処理が、プロパージンが陽イオン膜吸着体に結合し、かつ、IgGがフロースルー画分に回収されるpHおよび電気伝導度の条件下で、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン膜吸着体と接触させることにより行われる、請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
ステップ(d)における処理が、5.0~6.0の範囲のpHで、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;
ステップ(d)における処理が、5.2~5.8の範囲のpHで、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;または
ステップ(d)における処理が、5.4~5.6の範囲のpHで、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
ステップ(d)における処理が、16~30mS/cmの範囲の電気伝導度で、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;
ステップ(d)における処理が、20~28mS/cmの範囲の電気伝導度で、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;または
ステップ(d)における処理が、22~26mS/cmの範囲の電気伝導度で、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
ステップ(d)で得られたIgG富化免疫グロブリン組成物、および/または、ステップ(c)で得られたIgMおよび/またはIgAが富化された免疫グロブリン組成物を、さらにウイルス不活性化のための処理に供してウイルス不活性化調製物を得ることをさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
ステップ(d)で得られたIgG富化免疫グロブリン組成物、および/または、ステップ(c)で得られたIgMおよび/またはIgAが富化された免疫グロブリン組成物を、医薬用調製物に製剤化するステップをさらに含む、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
プロパージン含有IgG組成物においてプロパージン含量を低減させるためのプロセスであって、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の条件下で、プロパージン含有IgG組成物を陽イオン交換材料による処理に供して、プロパージン含量が低減されたIgG組成物を得ることを含む、プロセス。
【請求項22】
プロパージン含有IgG組成物のプロパージン含量を低減させることにより、該組成物の抗補体活性(ACA)を低減させるためのプロセスであって、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の条件下で、プロパージン含有IgG組成物を陽イオン交換材料による処理に供することにより、ACAおよびプロパージン含量が低減されたIgG組成物を得ることを含む、プロセス。
【請求項23】
陽イオン交換材料による処理が、プロパージンが陽イオン交換材料に結合し、かつ、IgGがフロースルー画分に回収される条件下で、プロパージン含有IgG組成物を陽イオン交換クロマトグラフィーに供することにより行われる、請求項21または請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
IgG富化免疫グロブリン組成物の処理が、プロパージンが陽イオン膜吸着体に結合し、かつ、IgGがフロースルー画分に回収される条件下で、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン膜吸着体と接触させることにより行われる、請求項21または22に記載のプロセス。
【請求項25】
処理が、5.0~6.0の範囲のpHで、該IgG組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;
処理が、5.2~5.8の範囲のpHで、該IgG組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;または
処理が、5.4~5.6の範囲のpHで、該IgG組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる、請求項21~24のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項26】
処理が、16~30mS/cmの範囲の電気伝導度で、該IgG組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;
処理が、20~28mS/cmの範囲の電気伝導度で、該IgG組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる;または
処理が、22~26mS/cmの範囲の電気伝導度で、該IgG組成物を陽イオン交換材料と接触させることにより行われる、請求項21~25のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項27】
プロパージン含有IgG組成物が、IgG富化免疫グロブリン組成物である;
プロパージン含有IgG組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも95重量%のIgG含量を有する、IgG富化免疫グロブリン組成物である;
プロパージン含有IgG組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも98重量%のIgG含量を有する、IgG富化免疫グロブリン組成物である;または
プロパージン含有IgG組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも99重量%のIgG含量を有する、IgG富化免疫グロブリン組成物である、請求項21~26のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの血漿から、IgG富化免疫グロブリン組成物、場合により、IgMおよび/またはIgA富化免疫グロブリン組成物を調製するためのプロセス、プロパージン含有IgG組成物のプロパージン含量を低減するためのプロセス、およびIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血漿から調製され、医学的使用に適する免疫グロブリン組成物は、当技術分野において知られており、数十年間に亘って広範な疾患の治療において重要な役割を果たしてきた。免疫グロブリンは、例えば、ヒトの感染症の治療に用いられ、様々な生化学的および生理学的性質に基づいて様々なクラスに分類することができる。例えば、IgGは、ウイルス抗原に対する防御に関与し、一方、IgMは、抗細菌および抗毒素免疫反応において主たる活性を有するため、細菌感染症の予防および治療に用いられている。したがって、市販の免疫グロブリン組成物は、さまざまな割合で、IgG、IgAおよびIgMを含み、異なる調製物は異なる治療用途を有する。現在のところ、Pentaglobin(登録商標)(Biotest AG、Dreieich、Germany)が、市販されている唯一のIgM含有免疫グロブリン組成物である。
【0003】
医学的使用のための免疫グロブリン組成物は、古典的なCohn血漿分画法またはその周知の改変法(例えば、Cohn/OncleyおよびKistler/Nitschmann)によって得られる、血漿または血清の画分から、通常調製される。次いで、これらの画分は、多数の精製ステップに供されて、ウイルス、変性タンパク質、プロテアーゼ、および脂質を含む夾雑物が除去される。分画するためのヒト血漿は、数千人のドナーから回収されるので、元の血漿を徹底的に試験しているにも関わらず、病原ウイルスを含有している場合がある。したがって、医学的に使用するための安全な製品を得るためには、ウイルスを不活化または除去するためのプロセスステップが重要である。ウイルスを不活化/除去するための幾つかの技術が、当技術分野において知られている。例えば、化学的処理または熱処理、UVC光の照射、またはナノ濾過であり、これらは、全体的なウイルス安全性を保証するために実施される。
【0004】
十分な忍容性を有する製品を得るためには、潜在的に存在するウイルスに加えて、タンパク質分解酵素、プレカリクレインアクチベーターなどの血管作動性物質、タンパク質凝集体、および変性免疫グロブリンなどの他の夾雑物を除去することもまた重要である。変性免疫グロブリンおよび免疫グロブリン凝集体は、補体を非特異的に活性化させる能力が高く、変性免疫グロブリンを投与されている患者に重篤な副作用をもたらすので、患者にとって潜在的なリスクである。補体系の非特異的活性化に対する免疫グロブリン組成物の能力は、その抗補体活性(ACA)に関連しており、ACAはタンパク質組成物が補体アッセイにおいて補体を消費する能力であり、標準化された試験方法、例えば、ヨーロッパ薬局方8.0(2.6.17-免疫グロブリンの抗補体活性の試験)に記載されている方法で測定することができ、それによると、ACAの許容限界値は、1CH50/mgタンパク質未満である。
【0005】
これらのあらゆる夾雑物を除去することは、(1)製品が、静脈内投与後患者にとって忍容性を有するようにするため、(2)製品が、ウイルスの混入に関する生物学的安全性の指針に準拠することを保証するため、(3)製品が、長期保存中に安定であるようにするため、および(4)望ましい化合物混合物/医薬組成物を生成するために、重要である。
【0006】
IgG、IgMおよび/またはIgA富化免疫グロブリン組成物を生産するためのプロセスは、先行技術で開示されている。
【0007】
EP0447585A1は、凝集体、血管作動性物質およびタンパク質分解活性を含まないであろう、静脈内忍容性のポリクローナルIgG溶液の生産について記載している。Cohn画分IIまたはII/IIIから開始して、オクタン酸で処理して夾雑タンパク質を沈殿させた後、得られた溶液を陽イオン交換クロマトグラフィーに供して、Cohn画分IIまたはII/IIIに最大5%の量で存在し得るIgG凝集体を除去する。陽イオン交換クロマトグラフィーは、IgGが陽イオン交換材料に結合する条件下、またはフロースルーモードで行うことができる。
【0008】
EP0825998Aは、Cohn画分IIまたは上清画分IIIから開始した、医薬的に許容できるIgG調製物の生産について記載している。抗補体活性を排除し、かつウイルスを不活性化するために、該画分をペプシンで処理して、溶剤/界面活性剤処理に供する。ウイルス不活性化のために用いた化学物質およびペプシンを、陽イオン交換体で処理することにより除去する。
【0009】
US2013/0058961A1は、IgGを含む血漿由来免疫グロブリン組成物における抗補体活性を低減させるための方法について記載しており、Cohn画分沈殿物およびKistler-Nitschmann沈殿物から選択される、懸濁された血漿画分沈殿物を、6.0以下のpHおよび11mS/cm以下の電気伝導度を含む第一の溶液条件下で、陽イオン交換樹脂と接触させて、IgG免疫グロブリンと第一の量のACAとを、陽イオン交換樹脂に結合させ、かつ、該陽イオン交換樹脂を、少なくとも7.5のpHおよび少なくとも15mS/cmの電気伝導度を含む溶出バッファーと接触させて、ACAが低減され、かつIgGを含有する溶出物のうち最大80%を含む先頭部分(leading portion)を含む溶出物を形成することにより、IgG免疫グロブリンを陽イオン交換樹脂から溶出させる。記載された方法は、IgMおよびIgAを含む免疫グロブリン組成物の回収を包含しない。
【0010】
WO98/05686Aは、血漿材料からIgGを精製または回収するための方法を開示しており、血漿材料を、マクロポーラス陰イオン交換樹脂上でのクロマトグラフィー分画に供して、夾雑タンパク質、特にトランスフェリンと、IgMとを除去する。所望のIgGを、陰イオン交換樹脂からのフロースルー画分中に得る。微細に分割された二酸化ケイ素への吸着によって脱脂したCohn上清I、または可溶化されたCohn画分II+IIIを出発物質として用いて、精製されたIgGを得る。
【0011】
US4,136,094Aは、静脈内投与用の(intravenous)IgG含有免疫グロブリン組成物の調製を開示しており、ヒトの血漿をヒュームドシリカと混合させて、夾雑タンパク質を吸着させて血漿製剤を安定化させ、その後、安定化した血漿製剤を陰イオン交換クロマトグラフィーに供し、精製されたIgGを分離させる。WO98/05686に開示されるように、シリカ処理は、IgG3の低減をもたらす。しかしながら、天然のIgGサブクラスの分布は、最先端の、市販のIgG調製物には必須である。
【0012】
関連するUS4,296,027Aは、フィブリノーゲン、プラスミノーゲン、第XII因子、プレカリクレイン系などの、線溶系、凝固系およびキニノーゲン系の前駆体および補体成分を、二酸化ケイ素処理によって血漿から除去することを開示している。プロパージンは除去されたタンパク質の一部であることが見出され、処理された未精製(crude)血漿中に検出されなかったが、最終IgG組成物はそのプロパージン含量について試験されず、静脈内投与用の免疫グロブリン調製物の有用性に対するこの分子の役割は論じられなかった。
【0013】
WO2011/080698Aは、IgGが富化されたヒトの血漿または血漿製剤を、IgGの結合が可能になるように設計された条件下で陽イオン交換クロマトグラフィーに供することにより、静脈内投与用のIgG組成物を調製するためのプロセスについて記載している。溶出後に、IgG溶液をさらに精製するために、陰イオン交換クロマトグラフィーに供する。
【0014】
EP0413187A1は、IgM、IgA、およびIgGを濃縮形態で含有し、通常のプールされた血漿に近いIgGサブクラスの分布を有する、静脈内投与用の免疫グロブリン溶液を調製するためのプロセスについて記載している。Cohn画分IIIから開始して、オクタン酸処理の上清を、DEAE-SephadexA-50吸着に供することにより、これらの免疫グロブリン溶液を得る。
【0015】
EP0013901A1は、Cohn画分IIIから開始し、オクタン酸、βプロピオラクトンを用いるステップと陰イオン交換樹脂を用いる吸着ステップとを含む、IgM富化免疫グロブリン組成物を調製するための方法について記載している。本方法は、Pentaglobin(登録商標)(現在までに市販されている唯一の静脈内投与用IgM製剤)を生産するために用いられる。βプロピオラクトンは、潜在的に存在するウイルスを不活性化するために滅菌ステップで使用される周知の化学物質である。βプロピオラクトンは、タンパク質の化学修飾を引き起こす非常に反応性の高い物質である。
【0016】
EP0352500A2は、陰イオン交換クロマトグラフィー、βプロピオラクトン、UVC光照射および昇温しながらのインキュベーションステップ(40℃~60℃)を使用することによる、抗補体活性を低減させた静脈内投与用のIgM濃縮物の調製について、記載している。本方法によって生産された調製物は、その化学修飾のために、限られた時間の間、液体溶液中で安定であった。
【0017】
EP0345543A2は、治療的使用のための、少なくとも33%のIgMを有する高濃縮IgM調製物について開示しており、該調製物は実質的に同種凝集素価を有さない。本特許出願では、オクタン酸を添加することによりオクタン酸沈殿を行い、Synsorbアフィニティークロマトグラフィーにより同種凝集素を除去する。最終調製物は、凍結乾燥されなければならないものであった。
【0018】
EP0413188A1は、IgMおよびIgGが富化されたタンパク質溶液の調製について記載している。これらの方法は、Cohn画分IIIまたはII/IIIから開始して、タンパク質溶液をオクタン酸処理および陰イオン交換クロマトグラフィーに供することを包含し、IgMおよびIgAは陰イオン交換樹脂に結合して、IgG富化画分がフロースルー画分として得られ得る。
【0019】
EP0450412Aは、非特異的補体活性を低減させるために、IgM調製物に対し、pH4.0~5.0で、40~62℃、好ましくは45~55℃で、穏やかな熱処理を使用することについて記載している。本特許出願において、遠心分離によりプレカリクレインアクチベーターおよびリポタンパク質を除去するために、オクタン酸をCohn画分III懸濁液に添加する。熱処理により、IgMの抗原決定基が部分的に失われる。これは、ネオ抗原を生成するリスクを増大させ、ヒトにおける免疫原性の増大または活性の喪失をもたらし得る。
【0020】
WO2011/131786およびWO2011/131787は、Cohn画分I/IIIまたはKistler/Nitschmann画分BまたはB+Iから開始されるIgM免疫グロブリン組成物の調製について記載している。血漿画分を、該免疫グロブリンを含む溶液として提供し、オクタン酸と混合して、振動攪拌機(Vibrating agitator)で処理して、夾雑タンパク質を沈殿させる。沈殿したタンパク質を溶液から除去して、IgM含有免疫グロブリン組成物を産生する。免疫グロブリン溶液をオクタン酸と混合するステップの間に振動攪拌機を使用すると、プロセスの過程で、ウイルス粒子、特に非エンベロープウイルスの、高度な不活性化および除去をもたらす。さらに、従来の攪拌と比較して、タンパク質分解活性の除去の改善が達成される。Cohn画分IIに含有されるIgGは、出発物質の沈殿の前に除去される。
【0021】
先行技術に開示されるように、IgG富化免疫グロブリン組成物を調製するためのプロセスは、通常、大部分のIgGを含むCohn画分IIまたはCohn画分II/IIIから開始される。少量の免疫グロブリンしか含有しないが、大量のフィブリノーゲンや他の望ましくない夾雑タンパク質を含有するCohn画分Iは、通常除去される。その一方で、IgMおよびIgA富化免疫グロブリン組成物は、通常、大部分のIgGを含有するCohn画分IIから分離後の、大部分のIgMおよびIgAを含有する、Cohn画分IIIから開始して調製される。従って、製造段階初期で、Cohn画分Iにおける望ましくないタンパク質(例えばフィブリノーゲン)を除去することは、一方で、IgG含有組成物の調製を、他方で、IgMおよびIgA含有組成物の調製を容易にする。しかしながら、Cohn画分Iの沈殿には、いくつかの欠点がある。具体的には、Cohn画分Iの沈殿は、沈殿画分I中の上清のキャリーオーバー、および濾過または遠心分離中の技術的損失のために、免疫グロブリンの損失をもたらし、特にIgAおよびIgMはこれらの濾過または遠心分離ステップによってさらなる剪断応力にさらされる。さらに、分離濾過または遠心分離は、より高い人件費ならびに機器および消耗品の費用のために、より高い生産コストをもたらす。
【0022】
しかしながら、免疫グロブリンの損失を避けるため、および、所望の免疫グロブリンの収量を改善するために、IgG、IgAおよびIgM富化免疫グロブリン組成物を同時調製するための出発物質として、Cohn画分I/II/IIIの組み合わせを使用することは、望ましくない免疫グロブリンおよび夾雑物の除去という問題をもたらし、従って、容認出来ないACAをもたらし得る。特に、本発明者らは、陰イオン交換クロマトグラフィー後に、Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iから得られたIgG富化免疫グロブリン組成物が、依然として許容できないほど高いACAを有することを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、血漿から、医薬的に許容できる免疫グロブリン組成物、特に、ヨーロッパ薬局方による抗補体活性の許容限界を満たす免疫グロブリン組成物を調製するための経済的なプロセスを提供することであり、このプロセスは、IgG、IgMおよびIgA富化免疫グロブリン組成物の同時調製(parallel preparation)を可能にして、血漿からの免疫グロブリンの損失をできるだけ低く保つ。
【0024】
本発明のさらなる目的は、プロパージン含有IgG組成物におけるプロパージン含量を低減するためのプロセスを提供することである。
【0025】
本発明のよりさらなる目的は、ヨーロッパ薬局方による抗補体活性の許容限界を満たす医薬的に許容できるIgG組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分から、医薬的に許容できる免疫グロブリン組成物を調製するためのプロセスを提供し、該プロセスは、以下のステップを含む:
(a)Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分を、懸濁液の電気伝導度を少なくとも1mS/cmに調整する条件下で再懸濁して、該血漿由来免疫グロブリン画分に含有される免疫グロブリンを再可溶化し、再可溶化したIgG、IgMおよびIgAを含有する懸濁液を得ること;
(b)ステップ(a)で得られた懸濁液中の夾雑タンパク質を沈殿、および、場合により吸着させ、夾雑タンパク質を除去して、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を得ること;
(c)ステップ(b)で得られた不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、IgMおよびIgA、並びに場合によりIgGを陰イオン交換樹脂に実質的に結合させるように調整したpHおよび電気伝導度の条件下で、陰イオン交換樹脂を用いて、イオン交換クロマトグラフィーに供し、かつ、フロースルー画分中に、および/またはIgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に結合したままである条件下で陰イオン交換樹脂からIgGを溶出することによって、IgG富化免疫グロブリン組成物を得ることであって、場合により、続いて、陰イオン交換樹脂からIgMおよび/またはIgAを溶出することによって、IgMおよび/またはIgAが富化された免疫グロブリン組成物を得ること;および
(d)ステップ(c)で得られたIgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の条件下で、陽イオン交換材料による処理に供し、IgGを回収して、プロパージン含量が低減されたIgG富化免疫グロブリン組成物を得ること。
【発明を実施するための形態】
【0027】
IgG、IgMおよびIgAなどの特定の免疫グロブリンと組み合わせて用いられる「富化された(enriched)」という用語は、免疫グロブリン組成物におけるそれぞれの免疫グロブリンの比率が、通常の血漿のこれらの免疫グロブリンの相対量、従って、Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分から得られた懸濁液における再可溶化された免疫グロブリンの相対量と比較すると、少なくとも1つの他の免疫グロブリンに対して富化されていることを意味する。
【0028】
本発明の方法によると、Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン組成物から得られたIgG富化免疫グロブリン組成物におけるACAは、陰イオン交換クロマトグラフィー後に得られたIgG富化免疫グロブリン組成物を、さらに陽イオン交換材料による処理に供する場合に、低減される。本発明者らは、IgG富化免疫グロブリン組成物における望ましくないACAが、Cohn画分I、および他の分画プロセスの対応する画分における高いプロパージン含量に起因し、プロパージンは、工業的調製プロセスに必要な量のIgMおよびIgAを再可溶化するのに必要な電気伝導度の条件下で溶解することを見出した。プロパージンは、補体副経路における重要な調節タンパク質である。これは、約25μg/mlの濃度で血漿中に見出される可溶性糖タンパク質であり、ヘッドトゥーテール(head to tail)様式で互いに結合して環状ポリマーを形成している、いくつかの同一の53kDのサブユニットからなる(概説については、L. Kouser et al, Frontiers in Immunology, Vol. 4, Article 93, April 2013を参照されたい)。このプロパージンは、IgMおよびIgA富化免疫グロブリン組成物の生産のための既知のプロセスにおいて用いられている、オクタン酸処理および陰イオン交換クロマトグラフィーなどの従来の精製ステップでは除去されない。
【0029】
本発明のプロセスのステップ(a)において出発物質として用いられる血漿由来免疫グロブリン画分は、Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+I、すなわち、血漿中の本質的に全てのIgG、IgAおよびIgM免疫グロブリンと、不純物として、寒冷沈降により分離されないフィブリノーゲンの一部とを含有する従来の血漿分画プロセスの画分を含むか、またはこれから成る。本明細書で用いられる「Cohn画分I/II/III」という用語は、古典的Cohn分画プロセスにより得られるCohn画分I/II/IIIと、Cohn分画プロセスの改変法により得られる免疫グロブリン組成物中のこれらと同等の画分とを含むことを意味する。
【0030】
用途に応じて、血漿由来免疫グロブリン画分は、ヒトまたは動物の血漿から得ることができるが、一般的には、該免疫グロブリン画分はヒトの血漿に由来する。該免疫グロブリン画分は、固体または半固体の形態で存在し、かなりの量の夾雑タンパク質を含有し得る。
【0031】
ステップ(a)では、Cohn画分I/II/IIIまたはKistler-Nitschmann画分A+Iを含むか、またはこれから成る血漿由来免疫グロブリン画分を、懸濁液の電気伝導度を少なくとも1mS/cmに調整する条件下で再懸濁することにより、該血漿由来免疫グロブリン画分に含有される免疫グロブリンを再可溶化する。これにより、本質的にIgG、IgMおよびIgAで構成される、再可溶化された免疫グロブリンを含有する懸濁液を得る。血漿由来免疫グロブリン画分中に存在するIgGの大部分を再可溶化するにはより低い電気伝導度で十分であろうが、十分な量の免疫グロブリンIgMおよびIgAを再可溶化するには少なくとも1mS/cmの電気伝導度が必要である。一般的には、再可溶化された免疫グロブリン、具体的にはIgAおよびIgMの量は、懸濁液の電気伝導度が増加するにつれて増加し、懸濁液の電気伝導度は、血漿由来出発物質中に含有される免疫グロブリンを、できるだけ多く再可溶化するように調整される。好ましくは、血漿由来免疫グロブリン画分は、懸濁液の電気伝導度を、少なくとも1.5mS/cm、より好ましくは少なくとも2.0mS/cm、最も好ましくは少なくとも2.5mS/cmに調整する条件下で、再懸濁される。懸濁液中の電気伝導度の上限は、重要ではない。しかしながら、タンパク質分解活性は非常に高い電気伝導度で増加する傾向があるため、懸濁液の電気伝導度は一般的には、1.0mS/cm~16.0mS/cmの範囲に調整される。
【0032】
上述の少なくとも1.0mS/cmの電気伝導度は、出発物質として用いられる血漿由来免疫グロブリン画分に含有される免疫グロブリンの、少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%を再可溶化するのに十分である。それぞれ、懸濁液中の再可溶化された免疫グロブリンの総重量に基づき、これらの条件下で得られる懸濁液中のIgMの比率は、一般的には、5~11重量%の範囲内であり、好ましくは少なくとも6重量%、より好ましくは少なくとも7重量%であり、再可溶化された免疫グロブリンにおけるIgAの比率は、一般的には、10~14重量%の範囲内であり、好ましくは少なくとも10.5重量%、より好ましくは少なくとも11重量%である。再可溶化された免疫グロブリンにおけるIgGの比率は、一般的には、75~85重量%の範囲内である。上述のような電気伝導度で、血漿由来免疫グロブリン画分を再懸濁することにより、一般的には、懸濁液中のIgMの収量が、少なくとも5gIgM/kg画分、好ましくは少なくとも7gIgM/kg画分、より好ましくは少なくとも9gIgM/kg画分となり、かつ、懸濁液中のIgAの収量が、一般的には、少なくとも11gIgA/kg画分、好ましくは少なくとも12gIgA/kg画分、より好ましくは少なくとも13gIgA/kg画分となる。懸濁液中のIgGの収量は、一般的には、少なくとも90gIgG/kg画分、好ましくは少なくとも95gIgG/kg画分である。一般的には、再可溶化された免疫グロブリンにおける、IgMとIgAの重量比は、約2:3である。本明細書で示される免疫グロブリンの重量は、当技術分野で既知の方法に従い容易に決定することができ、例えば、ヨーロッパ薬局方8.0,2.2.1に従い比濁法(Siemens BN Prospec System)を用いて決定することができる。
【0033】
一般的には、電気伝導度を調整する条件下で血漿由来免疫グロブリン画分を再懸濁することは、好適なpHおよびモル濃度を有するバッファーを用いて血漿由来免疫グロブリン画分を再懸濁することによって、行われる。一般的には、バッファーは、4.2~5.5、好ましくは4.5~5.3の範囲のpHを有し、かつ、0.025~0.2M、好ましくは0.05~0.15Mの範囲のモル濃度、通常は約0.1Mのモル濃度を有する。使用されるバッファーの最適モル濃度は、再懸濁される血漿由来免疫グロブリン画分中に既に存在する塩の量に依存し得るが、モル濃度が有意に0.025Mを下回ると、IgMおよびIgAの再可溶化が減少し得、一方でモル濃度が有意に0.2Mを上回ると、電気伝導度が非常に高まり、従って、タンパク質分解活性のより顕著な再可溶化をもたらし得る。免疫グロブリンに悪影響を及ぼさない限り、バッファーの種類は重要ではない。しかしながら、一般的には、再可溶化は、酢酸バッファー、特に酢酸ナトリウムバッファーを用いて行われる。再懸濁に際し、バッファーと血漿由来免疫グロブリン画分との重量比は、一般的には、3:1から7:1、好ましくは4:1から6:1、最も好ましくは4.5:1から5.5:1の範囲である。
【0034】
本発明のプロセスで必要な電気伝導度では、出発物質に含有される夾雑タンパク質の一部は溶解しないままであり、免疫グロブリン含有懸濁液から分離することができる。しかしながら、出発物質に含有されるプロパージンは、再可溶化物質中に見出される。その上、電気伝導度が増加すると、懸濁液中の再可溶化IgMおよびIgAの比率が増加する一方で、電気伝導度が増加すると、再可溶化物質中に見出されるプロパージンの量も増加し、それによって、後続のプロセスステップでプロパージンを除去するという課題を増大させる。
【0035】
ステップ(a)で得られた再可溶化された免疫グロブリンを含有する懸濁液を、沈殿、および場合により吸着のステップ(b)に供し、ここで、懸濁液中の夾雑タンパク質は沈殿および吸着し、よって、他の非可溶化タンパク質と共に再可溶化された免疫グロブリンから除去されて、不純物が除去された免疫グロブリン組成物、すなわち、夾雑タンパク質含量が低減した、IgG、IgMおよびIgAを含有する免疫グロブリン組成物を得ることができる。本ステップにおいて、驚くべきことに免疫グロブリンと共に溶解したままであるプロパージンを除いて、大部分の夾雑タンパク質が除去される。
【0036】
一般的には、ステップ(b)における沈殿は、ステップ(a)で得られた懸濁液を、C7~C9のカルボン酸、好ましくはオクタン酸で処理して、ウイルスを不活性化し、夾雑タンパク質(例えば、プロテアーゼ、ウイルスなど)を沈殿させることを含む。この沈殿ステップは、当技術分野で周知であり、例えば、EP0447585A、WO2011/131786およびWO2011/131787に記載されている。沈殿したタンパク質を、免疫グロブリン含有懸濁液から除去して、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を得る。
【0037】
C7~C9のカルボン酸、特にオクタン酸による処理は、再可溶化された免疫グロブリンを含有する懸濁液を、カルボン酸と接触させることにより、例えば、カルボン酸を懸濁液に添加することにより、または、懸濁液中でカルボン酸を発生させることにより、達成され得る。C7~C9のカルボン酸は、好ましくは、少なくともカルボン酸0.35g/gタンパク質の濃度から、最大カルボン酸0.8g/gタンパク質の濃度で存在する。より多量のカルボン酸も同様に用いられ得るが、一般的には、免疫グロブリン収量の損失をもたらす。より好ましくは、カルボン酸は、カルボン酸0.45g~0.6g/gタンパク質で存在し、最も好ましくはカルボン酸約0.5g/gタンパク質で存在する。カルボン酸を添加する前のタンパク質濃度は、一般的には、20~60g/l、好ましくは25~40g/lである。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によると、再可溶化された免疫グロブリンを含有する懸濁液の、例えばオクタン酸による処理は、振動攪拌機を用いて混合することにより行われる。例えばWO2011/131786において記載されるように、振動攪拌機を使用すると、ウイルス粒子、特に通常はオクタン酸処理の影響をあまり受けない非エンベロープウイルスの、不活性化および除去が向上し得、不要なタンパク質(プロテアーゼを含む)をより効率的に除去することができる。これにより、さらに下流の処理ステップに適した中間産物が得られる。化学薬品/医薬品業界での使用に適した、いかなる種類の市販の振動攪拌機も使用することができる。好適な振動攪拌機の例は、Graber+Pfenninger GmbHから入手可能である。特に、「Labormodell Typ1」Vibromixerはラボスケールの実験に使用することができ、「Industriemixer Typ4」は実生産スケールの調製に使用することができる。振動式混合機(Vibrating mixer)は、製造業者の説明書に従い使用することができ、特に、製造業者によって、タンパク質を含有する溶液を混合するのに適していると記載されている設定において、使用することができる。例えば、振動式混合機は通常、10mm未満の振幅、100Hz未満で運転させることができ、例えば、本発明者らは、「Labormodell Typ1」を用いたラボスケールでの振動混合を、230Vの電源を使用する場合には、50Hzで行った。混合プロセスの振動振幅は、好ましくは、0~3mmの間で変化させることができる。ラボスケール実験には直径23mm~65mmののスターラープレートを使用でき、実生産スケールには直径395mmのスターラープレート(孔径:13.5mm~16mm)を使用することができる。
【0039】
混合中のステップ(b)の懸濁液のpHの値は、好ましくは4.3~5.5、より好ましくは4.5~5.3の範囲に調整される。混合は、酢酸ナトリウムバッファー、例えば、約0.1M酢酸ナトリウムバッファーを用いて、行うことができる。ステップ(b)において混合を行う際の温度は、好ましくは16~35℃、より好ましくは18~30℃の範囲である。振動攪拌機を用いた混合時間は、特に限定されないが、好ましくは少なくとも10分間~最長3時間であり、より好ましくは40~120分間の範囲である。インキュベーション時間が30分未満であると、ウイルス不活性化レベルが低下することがある。
【0040】
ステップ(b)におけるC7~C9のカルボン酸処理は、再可溶化された免疫グロブリン懸濁液を、リン酸三カルシウムなどの吸着剤で処理して、タンパク質を沈殿、および吸着させることを含んでよい。好ましくは、リン酸三カルシウムなどの吸着剤は、0.01~0.02kg/kg懸濁液の濃度で添加される。リン酸三カルシウムは、カルボン酸と同時に、別々に、または順次添加することができる。好ましい実施形態では、リン酸カルシウムは、カルボン酸による処理を開始後、少なくとも20分で添加される。
【0041】
沈殿させた夾雑タンパク質を懸濁液から除去して、夾雑タンパク質の含量が低減された、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を得る。この除去ステップは、特に限定されず、当技術分野で既知のいかなる好適な方法によっても実施することができる。好ましくは、除去ステップは、濾過を用いて実施され、場合によっては限外濾過および/または透析濾過ステップを続けて、沈殿に使用されたオクタン酸などのカルボン酸を除去する。ステップ(b)で得られた不純物が除去された免疫グロブリン組成物は、好ましくは、組成物におけるタンパク質の総量40g/lに基づき、3mU/ml未満の血栓形成活性(thrombogenic activity)(TGA)、通常のヒトの血漿の10%未満、より好ましくは5%未満のプレカリクレインアクチベーター、20μ/l未満のタンパク質分解活性、および0.2g/lのα2-マクログロブリンを含む。より具体的には、ステップ(b)において、1.5mU/ml未満の血栓形成活性(TGA)、通常のヒトの血漿の2.5%未満のプレカリクレインアクチベーター、11U/lのタンパク質分解活性、および0.1g/l未満のα2-マクログロブリンを達成することができる。この中間組成物におけるプロパージン含量は、一般的には、75μg/mgタンパク質を超える。
【0042】
夾雑タンパク質の除去に続いて、ステップ(b)はさらに、さらなるウイルス不活性化のための弱酸処理を含み得る。弱酸処理のために、タンパク質除去後に得られた免疫グロブリン組成物を、3.8~4.5、好ましくは3.9~4.1の範囲のpHでインキュベートして、インキュベート溶液を得る。弱酸条件は、好適な酸を、免疫グロブリン組成物に添加することにより、作り出すことができる。例えば、0.2M HClを添加することにより、所望のpH値に調整することができる。このインキュベーションステップは、好ましくは、35~40℃の範囲の温度で行われる。インキュベーション時間は、好ましくは少なくとも2時間~最長24時間であり、より好ましくは少なくとも9時間~最長16時間である。
【0043】
カルボン酸による、および場合により吸着剤による処理後に、不純物が除去された免疫グロブリン組成物は、一般的には、不純物が除去された免疫グロブリン組成物における免疫グロブリンの総量に基づき、約85~94重量%の範囲のIgG含有量、約3~9重量%の範囲のIgA含有量、および約3~9重量%の範囲のIgM含有量を有する。
【0044】
ステップ(c)において、ステップ(b)の不純物が除去された免疫グロブリン組成物は、好ましくは弱酸処理後に、カラムに配置された陰イオン交換樹脂を用いて、イオン交換クロマトグラフィーに供される。陰イオン交換クロマトグラフィーは、IgMおよびIgA、並びに場合によりIgGを陰イオン交換樹脂に実質的に結合させるように調整したpHおよび電気伝導度の条件下で行われる。本明細書で用いられる「実質的に」という用語は、個々のそれぞれの免疫グロブリンIgM、IgAおよび/またはIgGのうち、陰イオン交換クロマトグラフィーに供したそれぞれの免疫グロブリンの量に基づき、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%が、該樹脂に結合することを意味する。陰イオン交換クロマトグラフィーの溶液条件が、IgGが実質的に結合するように調整されているか否かに応じて、IgG富化免疫グロブリン組成物は、フロースルー画分中に得られるか、および/または、IgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に結合したままであるpHおよび電気伝導度の条件下で、陰イオン交換樹脂からIgGを溶出した後に、得ることができる。IgG回収後に、IgMおよび/またはIgAが富化された免疫グロブリン組成物は、場合により、陰イオン交換樹脂からIgMおよび/またはIgAを溶出することにより、得ることができる。しかしながら、IgGがフロースルー画分で得られるか溶出後に得られるかにかかわらず、プロパージンは常に、IgG富化免疫グロブリン画分中のIgGと共に見られる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によると、ステップ(b)で得られた不純物が除去された免疫グロブリン組成物は、IgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に実質的に結合し、かつ、IgGがIgG富化免疫グロブリン組成物としてフロースルー画分中に得られるpHおよび電気伝導度の条件下で、陰イオン交換樹脂と接触させる。一般的には、フロースルー条件は、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、pHが6.7~7.5、好ましくは6.9~7.3の範囲、最も好ましくは約7.1に調整され、電気伝導度が4~7.5mS/cm、好ましくは5.5~7mS/cmの範囲に調整された溶液条件下で、陰イオン交換クロマトグラフィーに供することによって達成される。クロマトグラフィーに用いられる溶液中の電気伝導度は、一般的には、塩濃度を調整することにより調整され、例えばNaClを用いる。陰イオン交換クロマトグラフィーが、6.7未満のpHで、および/または、7.5mS/cmを超える電気伝導度で行われる場合、IgG富化フロースルー画分中のIgG含量は増加するであろうが、該フロースルー画分は不必要に高いIgA含量を含有し得る。それゆえに、これらの条件下では、少量のIgGが陰イオン交換樹脂に結合したままであるが、大部分のIgGがフロースルー画分中に見出されるであろう。結合したIgM、IgAおよび残留IgGの免疫グロブリンを含有する陰イオン交換樹脂は、Tris/HClバッファーなどの洗浄バッファーで洗浄することができ、洗浄画分はIgG含有フロースルー画分と組み合わせることができる。
【0046】
本発明のさらなる実施形態によると、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、全ての免疫グロブリン、すなわち、IgG、IgMおよびIgAが陰イオン交換樹脂に実質的に結合するpHおよび電気伝導度の溶液条件下で、該樹脂と接触させてよい。一般的には、これらの条件は、IgMおよびIgAの結合に用いられる値よりも高いpH値で、特に8以上のpH値で、および、低い電気伝導度で、特に、2mS/cm以下の電気伝導度で、達成される。次に、少量のIgGが陰イオン交換樹脂に結合したままであろうフロースルーモードについて上述した条件下で溶出バッファーを使用して、結合したIgGを溶出して、IgG富化免疫グロブリン組成物を得る。
【0047】
IgGを回収してIgG富化免疫グロブリン組成物を得た後、陰イオン交換樹脂に結合したIgMおよび/またはIgAを、残存IgGと共に該樹脂から溶出することにより、IgMおよび/またはIgAが富化された免疫グロブリン組成物を得ることができる。免疫グロブリンIgMおよびIgAは、互いに独立して、または一斉に、溶出することができる。しかしながら、好ましくは、IgMおよびIgAは一緒に、かつ、陰イオン交換樹脂に結合した残存IgGと共に溶出され、IgMおよびIgAが富化された免疫グロブリン組成物が得られるであろう。該樹脂からIgM、IgAおよび残存IgGを溶出した後、得られた免疫グロブリン画分中のIgG含量は、IgMおよびIgA富化免疫グロブリン組成物中のIgM分子に対する安定化効果を有する上で十分な量である。一般的には、IgMおよびIgAが富化された免疫グロブリン組成物は、溶出画分中の免疫グロブリンの総量に基づき、10~35重量%の範囲のIgM、10~35重量%の範囲のIgA、および40~75重量%の範囲のIgGを含む。好ましくは、IgMおよびIgA富化免疫グロブリン組成物は、溶出画分中の免疫グロブリンの総量に基づき、15~30重量%の範囲のIgMを含み、最も好ましくは少なくとも18重量%のIgMを含み、15~30重量%の範囲のIgAを含み、かつ、45~70重量%の範囲のIgGを含む。これらのIgMおよびIgA富化免疫グロブリン組成物において、IgGは一般的には分子基準でIgGサブクラスの分布を有し、総IgG含量に対して、IgG4が10%を超えて、好ましくは12%を超えて、最も好ましくは15%を超えて、富化されている。これにより、患者に投与したときの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害活性(ADCC)がより低くなり、したがって最終的な医薬用調製物の品質が向上する。
【0048】
一般的には、IgM、IgA、および残存IgGの溶出は、すべての結合した免疫グロブリンを1つ以上の亜画分(subfraction)に溶出させるように調整した溶出バッファーにおける電気伝導度を含む条件下で行われ、一般的には、塩濃度を上げることによって調整され、例えばNaClで調整される。好ましくは、溶出は、少なくとも20mS/cm、より好ましくは少なくとも25mS/cm、最も好ましくは少なくとも28mS/cmに調整した電気伝導度で行われる。より低い電気伝導度は、陰イオン交換樹脂からのIgMの不完全な溶出をもたらし、そして結果として、IgM含量が減少した組成物をもたらし得るので、あまり望ましくない。電気伝導度の上限は、通常、結合した不純物の望ましくない溶出をもたらさない限り、IgMの溶出にとって重要ではない。従って、該樹脂にしっかりと結合した非免疫グロブリンである不純物がIgM/IgA/IgG溶出物に溶出するのを避けるために、電気伝導度は十分に低くあるべきであり、好ましくは、40mS/cm未満であるべきである。一般的には、溶出は、6.5~7.5の範囲に調整されたpHで行われる。
【0049】
上記で得られたIgMおよびIgA富化免疫グロブリン調製物は、総量50g/lの免疫グロブリン調製物に基づき、以下の程度の不純物を有し得る:3mU/ml未満の血栓形成活性(TGA)、0.2mU/ml未満の第XIa因子、および0.1g/l未満のセルロプラスミン。不純物は、以下の程度に低濃度でさえあってよい:1.5mU/ml以下の血栓形成活性(TGA);通常のヒトの血漿の2.5%未満のプレカリクレインアクチベーター;および0.02g/l未満のセルロプラスミン。
【0050】
ステップ(c)で用いられる陰イオン交換樹脂の種類は、特に限定されず、いかなる従来の陰イオン交換樹脂も含む。好適な陰イオン交換樹脂には、例えば、マクロポーラス陰イオン交換樹脂、およびテンタクル(tentacle)構造を有する陰イオン交換樹脂が含まれる。マクロポーラス陰イオン交換樹脂、特にテンタクル構造を有さないものは、より高い圧力安定性を示し、したがってより高い流速を可能にするので好ましい。しかしながら、商品名Fractogel(登録商標)で市販されている樹脂などの、テンタクル構造を有する陰イオン交換樹脂を使用することもできる。
【0051】
マクロポーラス陰イオン交換樹脂の孔径は、その細孔内に免疫グロブリン組成物からIgMおよびIgA分子を吸着するのに、十分な大きさであるべきである。本発明のプロセスで用いられるマクロポーラス陰イオン交換樹脂は、一般的には、少なくとも50nmの、例えば、50~400nmの範囲の、公称孔径を有する。孔径の上限(upper pore size)は特に重要ではなく、樹脂の圧力安定性および/または表面積によってのみ限定される。マクロポーラス陰イオン交換樹脂の孔径は、例えば、ヨーロッパ薬局方7.0,2011,2.9.32に従った、水銀圧入法による従来法で決定することができる。本発明において有用である陰イオン交換樹脂の、イオン性官能基は重要ではない。有用な陰イオン交換樹脂は、一般的には、第一級、第二級、第三級もしくは第四級アンモニウム基(例えば、トリメチルアミノエチル(TMAE)基)、または第四級化ポリエチレンイミンを含み得る。強陰イオン交換樹脂が好ましい。本発明のプロセスに有用なマクロポーラス陰イオン交換樹脂、例えば、商品名POROS(登録商標)50HQ(Applied Biosystems)、Macro-Prep(登録商標)HQ(Bio-Rad Laboratories,Inc.)、Fractogel(登録商標)EMD TMAE(Merck Millipore)、Eshmuno(登録商標)Q(Merck Millipore)およびCIM(登録商標)QA(Bio Separations)で、市販されている。POROS(登録商標)50HQなどの陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0052】
一般的には、陰イオン交換樹脂に負荷される免疫グロブリンの量は、樹脂1L当たり30~50gの範囲であり、好ましくは樹脂1L当たり35~45gの範囲である。より少ない量は経済的ではないが、より多い量(例えば、樹脂1L当たり50gを超える量)はフロースルー画分中のIgAの量を増加させ得る。
【0053】
好ましくは、マクロポーラス陰イオン交換樹脂によるイオン交換クロマトグラフィーは、少なくとも200cm/h、より好ましくは少なくとも450cm/h、および最も好ましくは少なくとも600cm/hの線流速で行われる。これらの条件下で、カラムのベッド高は、有利には20~30cmである。このように、マクロポーラス陰イオン交換樹脂を使用すると、1バッチ当たり10kgを超えるタンパク質、またはさらには1バッチ当たり30kgを超えるタンパク質のバッチなどの、大きな工業用バッチの処理時間を著しく短縮することができる。そうでなければ、サイクル数を減らすことで処理時間を短縮するのに、はるかに大きいカラムとはるかに多くのクロマトグラフィー樹脂が必要になり、プロセスを技術的により複雑で高価なものにする。免疫グロブリン溶液は、高流速および高圧のこれらの条件下で安定的に処理され得ることが見出されているが、そうでなければ非常に感受性の高いIgM分子は、様々な条件下で不安定になる傾向がある。
【0054】
ステップ(c)においてフロースルー画分中に、および/または、陰イオン交換樹脂からの溶出後に得られる、IgG富化免疫グロブリン組成物は、一般的には、IgG富化免疫グロブリン組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99%、99.5%、99.7%またはさらには99.9重量%のIgG含量を有する。しかしながら、これらの組成物は依然として、ヨーロッパ薬局方による許容限界を満たすのには高すぎるACAを有する。上述したように、高ACAはすでにプロパージンの存在が原因であることが判明しており、プロパージンはすでにCohn画分I/II/IIIおよびKistler-Nitschmann画分A+Iに存在し、精製ステップ(b)でも、ステップ(c)の陰イオン交換クロマトグラフィーでも除去されない。
【0055】
IgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の溶液条件下で、陽イオン交換材料による処理に供して、フロースルー画分に陽イオン交換材料からIgGを回収することにより、および/またはプロパージンが陽イオン交換材料に結合したままである条件下で、陽イオン交換材料からIgGを溶出することによって、プロパージン含量が低減されたIgG富化免疫グロブリン組成物を得ることにより、ステップ(d)において不必要に高いACAを低減できることが今回見出された。
【0056】
IgG富化免疫グロブリン組成物の、陽イオン交換材料による処理は、バッチ式または連続式で行うことができ、ここで、陽イオン交換材料は、管(vessel)またはクロマトグラフィーカラムに配置されていてもよく、または、陽イオン膜吸着体(cationic membrane adsorber)の形態であってもよい。
【0057】
好ましくは、ステップ(d)におけるIgG富化免疫グロブリン組成物の処理は、IgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンが陽イオン交換材料に結合し、かつ、IgGが陽イオン交換材料に結合することが本質的に妨げられている条件下で、陽イオン交換交換クロマトグラフィーに供することにより行われる。IgGはその後、フロースルー画分において、非結合免疫グロブリンとして、陽イオン交換材料から回収される。経済的な理由から、IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン交換材料と接触させるための条件は、一般的には、陽イオン交換クロマトグラフィーに供されるIgG富化組成物に含有される総IgGの重量に基づき、IgGが陽イオン交換材料に1重量%を超えて結合することを妨げるように、調整される。一般的には、陽イオン交換クロマトグラフィーは、独立して、5.0~6.0、好ましくは5.2~5.8、最も好ましくは5.4~5.6の範囲のpH、および、16~30mS/cm、好ましくは20~28mS/cm、最も好ましくは22~26mS/cmの範囲の電気伝導度に調整された条件下で、行われる。
【0058】
本発明のさらなる実施形態によると、ステップ(d)におけるIgG富化免疫グロブリン組成物の処理は、IgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンが陽イオン膜吸着体に結合し、かつ、IgGが陽イオン膜吸着体に結合することが本質的に妨げられている条件下で、陽イオン膜吸着体に接触させることにより行われる。IgGはその後、フロースルー画分において、非結合免疫グロブリンとして、陽イオン膜吸着体から回収される。IgG富化免疫グロブリン組成物を陽イオン膜吸着体と接触させる条件は、陽イオン交換クロマトグラフィーに用いられる条件に相当する。
【0059】
あるいは、IgG富化免疫グロブリン組成物の処理は、IgG富化免疫グロブリン組成物を、プロパージンおよびIgGの両方が陽イオン交換材料に結合する低電気伝導度の条件下で、陽イオン交換クロマトグラフィーに供すること、または、陽イオン交換膜と接触させることを含んでよい。結合したIgGはその後、プロパージンが陽イオン交換材料に結合したままである条件下で、該樹脂からIgGを溶出することよって、陽イオン交換材料から回収される。一般的には、IgGが陽イオン交換樹脂に結合するのを妨げるために上記で使用したものと同じpHおよび電気伝導度、すなわち、5.0~6.0の範囲、好ましくは5.2~5.8、最も好ましくは5.4~5.6の範囲のpH値、および、6~30mS/cm、好ましくは20~28mS/cm、最も好ましくは22~26mS/cmの範囲の電気伝導度に、独立して調整した溶出バッファーを使用して、陽イオン交換材料からIgGを溶出する。
【0060】
陽イオン交換クロマトグラフィーまたは陽イオン膜吸着体で使用される陽イオン交換材料は特に限定されず、カルボン酸基またはスルホン酸基(例えば、スルホプロピル基)を含有し、IgGが細孔内に拡散することを可能にする孔径を有する、弱陽イオン交換樹脂および強陽イオン交換樹脂などの、IgGクロマトグラフィーに好適ないかなる従来の陽イオン交換樹脂も含む。好適な陽イオン交換樹脂は、例えば、商品名POROS(登録商標)HS(POROS(登録商標)HS50など)、Fractogel(登録商標)EMD SO3
-、およびEshmuno(登録商標)CPXで市販されている。陽イオン交換材料は、管またはクロマトグラフィーカラムに配置されていてよい。陽イオン吸着体は、例えば、商品名Sartobind Sで市販されている。
【0061】
陽イオン交換材料へのタンパク質負荷量は、一般的には、最大5gタンパク質/g陽イオン交換材料であり、好ましくは、0.01~5gタンパク質/g陽イオン交換材料であり、例えば、0.1g~5gタンパク質/g陽イオン交換材料である。陽イオン交換クロマトグラフィーの流速は、通常、200~800cm/hの範囲であり、陽イオン膜吸着体の流速は、最大5000cm/hであってよい。
【0062】
陰イオン交換クロマトグラフィー後に得られるIgG富化免疫グロブリン組成物についての、本発明のプロセスのステップ(d)における、上述のような陽イオン交換材料によるプロパージン含有IgG組成物の処理はまた、一般に、プロパージン含有IgG組成物におけるプロパージン含量を低減させるために用いることができる。
【0063】
それゆえ、本発明はさらに、プロパージン含有IgG組成物におけるプロパージン含量を低減するためのプロセスに対するものであり、該プロセスは、プロパージン含有IgG組成物を、プロパージンが陽イオン交換材料に結合するpHおよび電気伝導度の条件下で、陽イオン交換材料による処理に供して、プロパージン含量が低減されたIgG組成物を得ることを含む。
【0064】
陽イオン交換材料による処理に供されるプロパージン含有IgG組成物は、プロパージン含有IgG組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%のIgG含量を、好ましくは有する、IgG富化免疫グロブリン組成物であってよい。
【0065】
陽イオン交換材料による処理および回収後に得られたIgG調製物は、ポリクローナルであり、陰イオン交換クロマトグラフィー後と実質的に同じIgG含量を有するが、プロパージン含量が低減している。一般的には、陽イオン交換材料による処理後に得られたIgG富化免疫グロブリン組成物のIgG含量は、IgG富化免疫グロブリン組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99%、99.5%、99.7%またはさらには99.9重量%である。好ましくは、IgG調製物は、分子基準で、総IgG含有量に基づき、少なくとも1.0%、好ましくは少なくとも1.4%、より好ましくは少なくとも2.0%のIgG4を含有し、天然の分布に十分類似している。IgGサブクラスの分布は、当技術分野で既知の方法に従い容易に決定することができ、例えば、ヨーロッパ薬局方7.0,2011;2.7.1に従い比濁法(Siemens BN Prospec System)を用いて決定することができる。
【0066】
例えば、陽イオン交換クロマトフィー後、または、陽イオン膜吸着体による処理後に得られた、回収されたIgGを、ウイルス不活性化および濃縮のために、さらなる従来の下流処理に供してよい。具体的には、回収されたIgGを、孔径約20nmのナノフィルターを用いたナノ濾過に供して、潜在的に存在するウイルスを除去してもよい。得られた溶液はさらに、限外濾過および/または透析濾過により、濃縮されてよい。
【0067】
同様に、陰イオン交換クロマトグラフィーの後に、場合により、例えば限外濾過によるさらなる濃縮の後に得られた、IgMおよびIgA富化免疫グロブリン組成物を、ウイルス不活性化のためのその後の処理に供して、ウイルス不活性化調製物を得てもよい。ウイルス不活性化は、ナノ濾過および/またはUVC照射を含んでよい。
【0068】
照射は、当技術分野で既知であり、例えば、WO2011/131786およびWO2011/131787に記載されている方法によって、行うことができる。具体的には、溶出物を、UVivatec(登録商標)装置(Bayer Technology Services)などの市販の装置を用いてUVC光で処理して、UVC照射溶液を得ることができる。潜在的に存在するウイルスをさらに不活性化するために、インキュベート溶液は、254±10nmで、200~500J/m2、より具体的には、200~300J/m2で処理することが好ましい。穏やかな条件下のUVC処理はまた、オクタン処理後に得られる無色透明の濾液で可能である。しかしながら、より乳白色または不透明な溶液の場合は、免疫グロブリンに対する潜在的に有害な影響を伴う、より長い照射時間を必要とし得る。一般的には、UVC照射は、陰イオン交換クロマトグラフィーの完了後にのみ行われる。
【0069】
処理される免疫グロブリン溶液はまた、ウイルス不活性化のために、ナノフィルターで濾過されてもよい。孔径75±5nm~35±5nmのフィルター、または、公称孔径75~35nmを有するフィルター(例えば、Pall Ultipor DV50)を、該プロセス中の様々な段階で用いることができる(例えば、公称孔径50nmは、50nm以上の大きさのウイルスに対して、保持率4log10以上であることを意味する)。好ましい実施形態では、UVC照射前に得られた免疫グロブリン溶液を、ナノ濾過、好ましくは孔径40~50nmを有するフィルターを用いるナノ濾過に供する。このステップは、滅菌条件下で行われることが好ましい。
【0070】
好ましくは、本発明のプロセスは、調製物中の免疫グロブリンの1つ以上の化学的または酵素的修飾、または免疫グロブリンの熱処理(例えば、10分間以上の、42℃以上の温度での免疫グロブリンの処理)を含まない。より具体的には、本発明のプロセスは、抗体を、βプロピオラクトンおよび/またはペプシンと接触させるステップを含まない。
【0071】
本発明のプロセスは、高純度で、優れた収量の、IgG富化免疫グロブリン組成物と、IgMおよび/またはIgA富化免疫グロブリン組成物との同時製造を可能にする。本プロセスは、通常の血漿に存在する本質的に全ての免疫グロブリンを含有する血漿画分から開始し、Cohn画分IIなどのIgGが豊富な画分の別の沈殿を必要としない。
【0072】
本発明のプロセスは、500ドナー以上からプールされた血漿からでさえも、ACAが低いIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物の調製を可能にする。何百ものドナーからプールされた血漿は、高い抗体多様性を特徴とし、通常、高いACAを有することが期待され得る。しかしながら、本発明のプロセスより入手可能で、500ドナー以上由来のIgGを含むIgG富化免疫グロブリン組成物は、プロパージンおよびIgG重合体の含量が極めて低く、さらに、残存血栓形成活性(TGA)、第XIa因子(FXIa)および第XI因子(FXI)が低い。この結果、ヨーロッパ薬局方8で要求される、1CH50/mgタンパク質未満のACAが得られる。従って、実験データは、本発明のプロセスによって得られたIgG富化免疫グロブリン組成物が、現在市場で入手可能な市販の医薬用IgG組成物のいずれにも見られない、独特の性質の組み合わせを有することを示している。
【0073】
陽イオン交換材料による処理およびウイルス不活性化後に得られたIgG富化免疫グロブリン組成物は、医薬用免疫グロブリン組成物に直接製剤化してもよく、および/または無菌条件下で容器、例えば、バイアルまたはアンプルに充填してもよい。従って、本発明はさらに、
(i)組成物に対し、少なくとも45g/lのIgG含量;
(ii)組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも95重量%のIgG含量;
(iii)組成物における総免疫グロブリンに対し、0.01μg/mg以下のプロパージン含量;および
(iv)組成物におけるIgGの総量に基づき、0.05%以下のIgG重合体の含量、
を有する、500ドナー以上の血漿から得られたIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物に対するものである。
【0074】
IgG富化医薬用免疫グロブリン組成物はポリクローナルであり、ヒト対象にとって医薬的に許容でき、かつ、注射による静脈内または筋肉内投与に好適な免疫グロブリン組成物であることを意味する。
【0075】
好ましくは、本発明のIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物は、45~225g/l(約5%~約20%)の範囲のIgG含量を有し、例えば、約5%のIgG組成物については45~55g/lの範囲、約10%のIgG組成物については95~105g/lの範囲、または、皮下投与用のIgG組成物については160~210g/lの範囲のIgG含量を有する。
【0076】
好ましくは、本発明のIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物は、IgG富化医薬用免疫グロブリン組成物における免疫グロブリンの総重量に基づき、少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99重量%、およびより好ましくは少なくとも99%、99.5%、99.7%またはさらには99.9重量%のIgG含量を有する。
【0077】
好ましくは、IgG調製物は、分子基準で、総IgG含有量に基づき、少なくとも1.0%、好ましくは少なくとも1.4%、より好ましくは少なくとも2.0%のIgG4を含有する。
【0078】
好ましくは、本発明のIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物は、組成物において、免疫グロブリン1mg当たり0.005μg以下のプロパージン含量を有する。
【0079】
好ましくは、本発明のIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物は、組成物におけるIgG総量に基づき、0.01%以下のIgG重合体含量を有する。IgG重合体は、IgG単量体、IgG二量体またはIgGフラグメントではない、IgG分子のより高度な凝集体として定義される。組成物におけるIgGの総量は、IgG単量体、二量体、重合体、およびそれらのフラグメントの合計である。IgG単量体、二量体、重合体、およびそれらのフラグメントの比率は、ヨーロッパ薬局方8.0(2.2.30-「静脈内投与のためのヒトの通常の免疫グロブリン」の分子サイズ分布)に従い、HPSECにより、クロマトグラムの合計面積に対するピーク面積の割合として決定される。
【0080】
一般的には、IgG富化医薬用免疫グロブリン組成物におけるIgG重合体の含量は、5℃の温度での長期保存後に変化せず、15ヵ月間、好ましくは21ヵ月間の保存後に、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.01%以下である。
【0081】
一般的には、15ヵ月間、好ましくは21ヵ月間の、25℃の温度での長期保存後の、IgG富化医薬用免疫グロブリン組成物におけるIgG重合体の含量は、1.0%以下、好ましくは0.75%以下であり、上述のようにHPSECで決定される。
【0082】
本発明のIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物は、グリシンおよびプロリンなどの安定化剤を含有してよいが、例えば、ソルビトール、マンニトール、グルコース、およびトレハロースなどの糖や糖アルコールなどの炭水化物は含まれていないのが好ましい。好ましくは、該組成物は、グリシンまたはプロリンなどの安定化剤と共に製剤化され、特に、該組成物は、4~4.5、好ましくは4.2~4.8の範囲のpHで、最も好ましくは約pH4.6で、グリシンまたはプロリン含有バッファー中で製剤化されてよい。
【0083】
好ましくは、IgG富化医薬用組成物は、2.0mU/ml未満の第XIa因子を有する。
【0084】
好ましくは、IgG富化医薬用組成物は、第XI因子の標準(Human Plasma; Siemens Healthcare)の1%未満を含有する。
【0085】
好ましくは、IgG富化医薬用組成物における血栓形成活性は、1.5mU/ml未満である。
【0086】
本発明のIgG富化医薬用免疫グロブリン組成物は、好ましくは、低温殺菌されていない。
【0087】
本発明のプロセスにより得られたIgG富化免疫グロブリン組成物およびIgM/IgA富化免疫グロブリン組成物は、ACAが低く、ヨーロッパ薬局方の要件を満たす静脈内投与用の免疫グロブリン組成物として使用することができる。特に、本免疫グロブリン組成物は、(i)化学的に修飾されていない、(ii)タンパク質分解活性が低い、(iii)抗補体活性が低い、および(iv)天然で、生物学的に活性なIgG、IgMおよび/またはIgAを高レベルで含有している、という利点を有している。
【実施例】
【0088】
免疫グロブリン含量の決定
免疫グロブリン含量は、ヨーロッパ薬局方8.0(2.2.47-キャピラリー電気泳動)に従い、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)により決定した。免疫グロブリン画分を、それらのランタイム(run time)に基づく電荷/質量比に従い、キャピラリー中pH10で分離し、特徴付けし、200nmにて測光法で定量した。本手順には、UV検出器付きのキャピラリー電気泳動システム(P/ACE MDQキャピラリー電気泳動システム、Beckman Coulter)を用いた。サンプルを電気泳動バッファーで希釈して、タンパク質濃度2.5g/lとした(ホウ酸バッファー、pH10;1000mlの精製水に、14.3gの四ホウ酸二ナトリウム十水和物を溶解して、1M NaOHで調整した)。該混合物を、さらに調製することなく、電気泳動に用いる。電気泳動の手順は、装置の製造業者の説明書に従い実施する。
【0089】
分子サイズ分布の決定
IgG免疫グロブリンの分子サイズ分布を、ヨーロッパ薬局方8.0(2.2.30-「静脈内投与のためのヒトの通常の免疫グロブリン」の分子サイズ分布)に従い、高圧サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)により、クロマトグラムの合計面積に対するピーク面積の割合として、決定した。タンパク質混合物を親水性多孔質ゲルに通過させると、分子は分子サイズおよび孔径分布に応じて異なる分布帯に現れる。最大のタンパク質/粒子はゲルを最も速く移動し、一方、小さいタンパク質分子および低分子量の物質は最もゆっくりと移動する。
【0090】
東ソーTSK-G 3000 SWを分離に使用し、100μgのタンパク質質量を注入した。分離した画分を、280nmで測光法により、カラム出口で検出および定量した。クロマトグラフィーを、機器の製造業者の操作説明書に従い実施した。Bio-Radゲル濾過スタンダードを、コントロールとして用いた。免疫グロブリン調製物を、SSTサンプルとして用いた。ピーク積分のための自動化された方法を用いて、ピークを、重合体、二量体、単量体およびフラグメントの画分に割り当てる。
【0091】
プロパージン濃度の決定
既製の固相ヒトプロパージンELISAキット(Hycult Biotech)を用いて、製造業者の説明書に従い、IgG調製物中のヒトプロパージンのインビトロ定量を行った。手短に言えば、サンプルおよびスタンダードを、ヒトプロパージンを認識する抗体でコーティングされたマイクロタイターウェル中でインキュベートする。ビオチン化されたトレーサー抗体は、捕捉されたヒトプロパージンに結合するであろう。ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼコンジュゲートは、ビオチン化されたトレーサー抗体に結合するであろう。ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼコンジュゲートは、基質であるテトラメチルベンジジン(TMB)と反応するであろう。酵素反応を、シュウ酸の添加により停止させる。450nmでの吸光度を、分光光度計で測定する。検量線は、吸光度(線形)に対してヒトプロパンジンスタンダードの対応する濃度(対数)をプロットすることによって得られる。スタンダードと同時に分析されるサンプルのヒトプロパージン濃度を、検量線から決定する。
【0092】
抗補体活性(ACA)の決定
免疫グロブリンのACA試験は、ヨーロッパ薬局方8.0(2.6.17-免疫グロブリンの抗補体活性の試験)に記載されているように実施した。
【0093】
簡単に説明すると、規定量の試験物質(10mgの免疫グロブリン)を規定量のモルモットの補体(20CH50)と共にインキュベートする。残存している補体を滴定し、溶血素で感作したヒツジの赤血球とインキュベートする。最適に感作されたヒツジの赤血球は、ヒツジ赤血球に対する抗体(溶血素)を負荷したヒツジ赤血球からなる。細胞溶解の程度を、541nmにて、測光法により決定する。ACAは、100%と見なす補体コントロールと比較した、補体の消費量の割合として表される。補体活性の溶血単位(CH50)は、所与の反応条件において、試験において感作されたヒツジの赤血球の半分の溶解を生じる補体の量として、定義される。ヨーロッパ薬局方におけるACAの許容限界は、補体の消費量が50%を超えず、免疫グロブリン1ミリグラムあたり1CH50となるように規定されている。
【0094】
血栓形成活性(TGA)
蛍光マイクロプレートアッセイ(Technoclone)を用いて、血栓形成活性(TGA)を決定した。Technothrombin(登録商標)TGA RC Highを試薬として用い、Technothrombin(登録商標)TGA SUBを蛍光発生基質として用い、第XI因子欠損血漿(Factor XI deficient plasma)を用いた。キャリブレーションは、FXIaの国際標準物質、13/100(NIBSC)で行った。
【0095】
第XI因子(FXI)
市販の標準凝固アッセイ(Siemens Healthcare Diagnostics)を用いて、第XI因子(FXI)を決定した。FXIが除去された血漿、アクチベーターとしてのActin FSL、およびCaCl2溶液を、本アッセイで用いた。キャリブレーションは、Standard Human Plasma(Siemens Healthcare)で行った。アッセイの感度を向上させるために、より低い校正範囲にある追加の校正点を含めた。
【0096】
第XIa因子(FXIa)
市販の発色アッセイ(Hyphen Biomed)を用いて、該試験キットの標準条件を利用して、第XIa因子を決定した。
【0097】
実施例1
実施例1a
IgM富化免疫グロブリン組成物の調製
500人を超えるドナー由来の分画するためのヒトの血漿(2000l)を、出発物質として用いた。血漿をプールエリア(pooling area)に移して、プールした。
【0098】
第VIII因子、フォン・ヴィルブランド因子、およびフィブリノーゲン凝固因子を分離するために、寒冷沈降(cryoprecipitation)ステップを実施した。クリオプレシピテートを得るために、温度範囲が2±2℃に保たれるように、穏やかに攪拌しながら、血漿の温度を調整した。これらの条件下において、クリオプレシピテートは、解凍した血漿中に溶解せずに存在する。クリオプレシピートを、ウェストファリアセパレーター(Westfalia separator)などの連続運転遠心分離機によって、血漿から分離した。
【0099】
寒冷沈降ステップの上清から、以下の通り、エタノール沈殿によりCohn画分I/II/IIIを沈殿させた。
【0100】
クリオプレシピテート分離後に残った遠心分離上清の温度を、2±2°Cに調整した。タンパク質溶液のpHの値を、pH5.9に調整した。続いて、温度を-5℃に下げ、エタノールを添加して20容量%の最終濃度とした。ステンレス製容器内で常時ゆっくり撹拌しながら、Cohn画分I/II/IIIを沈殿させた。フィルタープレスを用いて、パーライトまたは珪藻土などの濾過助剤を添加して、デプスフィルターシートで、Cohn画分I/II/III沈殿を、濾過により上清から分離した。Cohn画分I/II/IIIをフィルターシートから回収した。このCohn画分I/II/III沈殿物は、全ての免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)を、およそ以下の割合で含んでいた:IgG75%、IgM13%、およびIgA12%。
【0101】
得られたCohn画分I/II/III沈殿物90kgを、0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.8)450kgに再懸濁し、22℃で60分間混合した。懸濁液のpHを、酢酸で4.8に調整した。
【0102】
続いて、オクタン酸による処理を実施した。室温にて、7.7kgのオクタン酸を添加することにより、該溶液を処理した。オクタン酸をゆっくり添加し、タンパク質溶液をさらに、振動式混合機(Vibromixer(登録商標)、Size 4、Graber+Pfenniger GmbH、Vibromixerはレベル2~3に調整)を用いて、60分間混合した。
【0103】
オクタン酸反応を完了させるために、以下の通り、リン酸カルシウム処理を行った。
【0104】
およそ1.1kgのCa3(PO4)2を添加し、さらに、該タンパク質溶液を15分を超えて混合し、デプスフィルターシートで濾過した。濾液をさらに処理した。得られたタンパク質溶液を限外濾過に供し、約50g/lのタンパク質濃度とした。該タンパク質溶液を0.02M酢酸ナトリウムバッファーpH4.5に対して透析濾過し、その後、約40g/lのタンパク質濃度に調整した。
【0105】
ウイルスを不活性化させるために、以下の通り、タンパク質溶液をpH4.0で処理した。pHを、0.2M HClを用いてpH4.0に調整し、得られた溶液を37℃で8時間インキュベートした。得られたタンパク質溶液は、次の分布で、免疫グロブリンを含有する:90%IgG、5%IgA、および5%IgM。
【0106】
得られたタンパク質溶液を、付随タンパク質を除去し、かつ、IgGおよびIgM富化免疫グロブリン組成物を得るために、さらに、マクロポーラス陰イオン交換樹脂を用いて、陰イオン交換クロマトグラフィーにより処理した。
【0107】
中間タンパク質溶液1キログラム当たり0.00121kgのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)を撹拌しながら添加して溶解させ、固体NaClを用いて電気伝導度を6mS/cmに調整した。1M NaOHを添加することにより、該タンパク質溶液をpH7.1に調整した。マクロポーラス陰イオン交換樹脂(POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換樹脂、Life Technologies、カラムのベッド高:25cm)を、10mM Trisバッファー溶液(pH7.1、50mM NaCl、800cm/hの線流速)で平衡化した。タンパク質溶液を、樹脂1リットル当たり40gのタンパク質で、陰イオン交換樹脂に負荷した。カラムを、平衡化バッファー(10mM Tris、50mM NaCl、pH7.1、800cm/h)で洗浄した。
【0108】
IgG富化免疫グロブリン組成物が、フロースルー画分において得られ、さらに、以下の実施例3に記載したように処理した。
【0109】
IgM富化画分を、以下の通りに電気伝導度を増加させることによって、溶出した:300mM NaClを含む、pH7.1の10mM Trisバッファー溶液を、800cm/hで使用して、IgM富化画分を溶出する。溶出画分は、58%IgG、22%IgAおよび20%IgMを含有していた。
【0110】
タンパク質溶液を、ウイルス除去ステップとして、Pall社の、Ultipor VF DV50フィルターに通して濾過した。さらなるウイルス不活性化のために、UVC線量225J/m2で、フロースルーUVivatech処理装置(Bayer Technology Services/Sartorius)を用いて、254nmでUVC光処理することにより、濾液をさらに処理した。製造業者の説明書を用いて、UVC反応機を通過する流速を計算した。照射されたタンパク質溶液を、限外濾過によりタンパク質濃度が50g/Lになるように濃縮し、透析濾過(0.3Mのグリシンバッファー(pH4.5)を使用)に供した。最終産物を0.2μmのフィルターに通して濾過し、2℃~8℃で保存した。
【0111】
得られた免疫グロブリン組成物は、50mg/mlの免疫グロブリン濃度で、総免疫グロブリン含量に基づき、22重量%のIgM含量、22重量%のIgA含量および56重量%のIgG含量を有していた。ACAは、0.34CH50/mgであった。
【0112】
実施例1b
より大量の処理
より大量のタンパク質を処理するために、マクロポーラス陰イオン交換樹脂上で、複数の精製サイクルを行った。この目的のために、クロマトグラフィーサイクルに、クリーニングステップを組み込んだ。具体的には、実施例1aに記載したようにして得られた、IgG、IgA、およびIgM含有中間タンパク質溶液からのIgM富化画分の溶出後に、カラムを1M NaCl溶液でストリッピングして、残存結合タンパク質を溶出させた。カラムをさらに、3カラム容量の1M NaOHで再生し、さらなるサイクルを、平衡化バッファーを用いた平衡化フェーズによって開始した。合計で、800cm/hの線流速での12回の精製サイクルを、いかなる精製上の性能を損なうことなく行った。
【0113】
実施例2
テンタクル樹脂を用いたIgM富化免疫グロブリン組成物の調製
pH4での処理のステップを含む最初の処理を、実施例1aに記載したように行った。
【0114】
付随タンパク質を除去し、他の免疫グロブリンと比較して割合が増加したIgMを含む溶液を得るために、得られたタンパク質溶液を、以下の通り、さらにテンタクル陰イオン交換樹脂を用いて陰イオン交換クロマトグラフィーにより処理した。
【0115】
中間物(タンパク質濃度:41g/l)を、Trisバッファー(最終濃度:10mM)でpH7.1に調整した。タンパク質溶液の電気伝導度を、NaClを用いて6mS/cm(20℃)に調整した。
【0116】
クロマトグラフィーカラム(Fractogel(登録商標)TMAE、ベッド高:39.5cm、カラム容量:80ml)を、10mM TrisバッファーpH7.1/50mM NaClにより、150cm/hの線流速で平衡化して、樹脂1ml当たり40mgの負荷量に達するまで、タンパク質溶液をクロマトグラフィーカラムにポンプで注入した。実験中、150cm/hの線流速を保った。UVセンサーを用いて、クロマトグラフィーをモニターした。結合画分を、10mM Tris pH7.0/300mM NaClにより溶出した。溶出画分を回収した。これを、実施例1aに記載したようにさらに処理することができる。
【0117】
IgG富化フロースルー画分の収量は84%であった。IgG富化画分において、IgAは、9.81g/Lのタンパク質濃度(Biuret assayにより決定)において、検出限界未満(<0.0116g/L、Siemens BN Prospec)であった。IgM含量は、検出限界未満(<0.00846g/L)であった。IgG4サブクラス含量は2.31%であった。
【0118】
得られたIgM富化免疫グロブリン組成物は、50mg/mlの免疫グロブリン濃度において、総免疫グロブリン含量に基づき、28重量%のIgM含量、19重量%のIgA含量、および53重量%のIgG含量を有していた。
【0119】
実施例3
フロースルーモードにおける、IgG富化免疫グロブリン組成物の調製(陽イオン交換クロマトグラフィー)
【0120】
実施例1aにおいてマクロポーラス陰イオン交換クロマトグラフィー(POROS(登録商標)50HQ)のフロースルー画分として回収されたIgG富化免疫グロブリン組成物を、酢酸ナトリウムバッファーおよびNaClで、pH5.5および22~26mS/cmの電気伝導度に調整し、続いて、さらに、陽イオン交換樹脂(POROS(登録商標)50HS)において、フロースルーモードで、陽イオン交換クロマトグラフィーにより精製した。本樹脂の結合能は、100~3000g/lと規定され、3000g/lの負荷量、および800cm/hの流速で、クロマトグラフィーを行った。
【0121】
陽イオン交換カラムを酢酸バッファー溶液(pH5.5、NaClにより22、24および26mS/cmに調整)で平衡化した。タンパク質溶液をカラムに負荷し、酢酸バッファー(pH5.5、NaClにより22~26mS/cmに調整)で洗浄した。フロースルー画分および洗浄液を回収し、さらに処理した。残存タンパク質を、1.5M NaClで溶出する。
【0122】
得られたタンパク質溶液を、潜在的に存在するウイルスを除去するために、さらにナノ濾過ステップで処理した。Planova BioEx 20 nm フィルター(Asahi Kasei)を、ウイルスフィルターとして用いた。50kgを超えるタンパク質溶液を、10g/lのタンパク質濃度で、0.1m2フィルター面積で濾過した。最大圧力は、製造業者の説明書に従い設定した。ナノ濾過中の流速は以下の通りであった。
【0123】
【0124】
得られたタンパク質溶液を、限外濾過により100g/Lを超えるまで濃縮ステップに供し、製剤化バッファー(0.3Mグリシン、pH5.0)中に透析濾過した。得られたタンパク質溶液を、無菌状態を制御するために、0.2μmフィルターを通して濾過した。
【0125】
得られた免疫グロブリン組成物を、免疫グロブリン含量、サブクラスの分布およびACAについて解析した。結果を表1に示す。
【0126】
【0127】
POROS(登録商標)50HSクロマトグラフィー後に得られた原薬は、ACAレベルが所望の範囲であった。IgG、IgA、IgMの比率とサブクラスの分布は、さらなるPOROS(登録商標)50HSクロマトグラフィーでは変化しなかった。その後のナノ濾過は目立たなかった。
【0128】
実施例4
陽イオン交換クロマトグラフィーの有無による、IgG調製物中のプロパージン含量の調査
IgG調製物中のプロパージンレベルに対する、陽イオン交換クロマトグラフィーステップの影響を調べるために、プールした血漿から得られたCohn画分I/II/IIIの4つのバッチを、製造スケール(100kgの画分I/II/IIIを使用)で、0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.8)に再懸濁し、実施例1aに記載したようにオクタン酸、リン酸三カルシウム、限外濾過-透析濾過(限外濾過-透析濾過)、弱酸処理および陰イオン交換クロマトグラフィーによる処理に供した。バッチ1および2のフロースルー(IgG画分)を回収し、直ちに0.3Mグリシンバッファー、pH4.6に対する限外濾過/透析濾過(ultra-/diafiltration)に供した。バッチ3および4のフロースルーをさらに、実施例3に記載されるように、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)に供し、フロースルーを上述のように限外濾過/透析濾過に供した。このようにして得られた全てのIgG溶液を、前述の通り、固相ヒトプロパージンELISAキット(Hycult Biotech)を用いて、免疫グロブリンおよびプロパージン含量について解析した。結果を表2に示す。
【0129】
【0130】
表2に示すように、陽イオン交換クロマトグラフィーは、プロパージン含量の大幅な低減をもたらす。
【0131】
実施例5
IgG富化免疫グロブリン組成物における、プロパージン含量およびIgG重合体含量の決定
実施例4に記載される本発明のIgG調製物(バッチ3および4)をさらに、前述の通り、HPSECによりIgG重合体含量について試験した。市販の医薬用IgG組成物(CP-IgG1~5)のプロパージンおよびIgG重合体含量を、比較のために同じ方法で決定した。結果を表3に示す。
【0132】
【0133】
表3から分かるように、本発明の方法に従って得られたIgG富化免疫グロブリン組成物は、低温殺菌製品であるCP-IgG5を除いて、市販の医薬品を下回るプロパージン含量を有する。同様に、本発明のIgG富化免疫グロブリン組成物におけるIgG重合体含量は、CP-IgG1を除いて、全ての医薬用IgG組成物を下回っていた。
【0134】
実施例6
IgG富化免疫グロブリン組成物における、血栓形成活性(TGA)、第XIa因子および第XI因子(FXI)の決定。
陽イオン交換クロマトグラフィー後に、実施例4に記載したようにして得られたIgG富化免疫グロブリン組成物(3バッチ)を、前述の通り、市販のアッセイを用いて、TGA、FXIaおよびFXについて試験した(バッチ5~7)。結果を表4に示す。
【0135】
【0136】
その結果、残存TGA、FXIa、FXIは認められなかった(適用方法の検出限界未満)。
【0137】
実施例7
IgG富化免疫グロブリン組成物の長期安定性
陽イオン交換クロマトグラフィーの後に、実施例4に記載したようにして得られたIgG富化免疫グロブリン組成物(118g免疫グロブリン/l)を、上述のようにHPSECを用いて、5℃および25℃で、それぞれ90週間にわたって、長期安定性について試験した。結果を表5に示す。
【0138】
【0139】
結果から分かるように、5℃で90週間保存後に、IgG重合体は検出されなかった。25℃で保存した後では、90週間後にIgG重合体含量は、1.0%未満に留まっている。
【0140】
実施例8
結合モードにおけるIgG富化免疫グロブリン組成物の調製(陽イオン交換クロマトグラフィー)
実施例1で記載したようにして、POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィーからのフロースルーとして得られたIgG画分を、20mM酢酸ナトリウム、pH5.5に対して限外濾過/透析濾過して、POROS(登録商標)50HSでの、結合モードにおける陽イオン交換クロマトグラフィーのための物質を調製した。
【0141】
調製した物質を、POROS(登録商標)50HSにうまく結合させ、IgG画分をバッファー(20mM酢酸ナトリウム、225mM塩化ナトリウム、pH5.5±0.1、電気伝導度24±2mS/cm)で溶出した。得られたIgG富化免疫グロブリン組成物は、0.58CH50/mgタンパク質のACA値を有した。
【0142】
実施例9
異なる電気伝導度でのACA破過曲線(break-through curve)(陽イオン交換クロマトグラフィー)
実施例1に記載したようにして、POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィーからのフロースルーとして得られたIgG画分を、10mM Tris、6.5mM酢酸ナトリウムに対して限外濾過/透析濾過して、NaClを用いてpH5.5および22、24および26mS/cmの電気伝導度に調整した。0.8mlのカラム容量のPOROS(登録商標)50HSカラムを用いて、ACA破過曲線を得た。ACAを除去するために、タンパク質溶液を800cm/hの流速でPOROS(登録商標)50HSカラム上にポンプで注入した。
【0143】
表6は、意図した電気伝導度でのACAの破過(break-through)について得られた結果を示す。全ての場合において、ACAは、少なくとも3gタンパク質/mlゲルの負荷量まで、効率的に除去される。ACAレベルは、より高い負荷量で、再び上昇する。電気伝導度がより高いほど、ACAレベルの上昇が速い。
【0144】
【0145】
実施例10
電気伝導度の変化(陽イオン交換クロマトグラフィー)
実施例1のようにして、POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィーからのフロースルーとして得られたIgG画分を、20mM酢酸ナトリウムバッファーおよびNaClを用いて、pH5.5および16~30mS/cmの範囲の電気伝導度に調整した。このようにして調製した物質を、POROS(登録商標)50HSカラム(カラム負荷量500g/l)にアプライして、画分を回収し、ACAレベルを決定した。結果を表7に示す。
【0146】
【0147】
ACAレベルの低減が、広範囲の電気伝導度の設定値にわたって実現され得た。電気伝導度が低いとIgGの収量が損失するリスクがあり、電気伝導度が高いとACAが破過するリスクがある。
【0148】
実施例11
流速の変化 (陽イオン交換クロマトグラフィー)
実施例1に記載したようにして、POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィーからのフロースルーとして得られたIgG画分を、10mM Tris、6.5mM酢酸ナトリウム、225mM塩化ナトリウム(pH5.5;電気伝導度22mS/cm)に対して、限外濾過/透析濾過した。このようにして調製した物質を、200、500および800cm/hで、POROS(登録商標)50HSカラムにアプライした(負荷量1.2g/mlPOROS(登録商標)50HS)。フロースルー画分を回収して、ACAレベルを決定した。結果を表8に示す。
【0149】
【0150】
表8から分かるように、流速はACAに顕著な影響を及ぼさない。
【0151】
実施例12
陽イオン交換材料としての膜吸着体
実施例1に記載したようにして、POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィーからのフロースルーとして得られたIgG富化免疫グロブリン組成物におけるACAの除去を、陽イオン膜吸着体(Sartorius-Sartobind S)を用いて、IgGに対する非結合モードで試験した。IgG富化溶液を、酢酸ナトリウムバッファーを用いてpH5.5に調整し、225mMの塩化ナトリウム濃度(24mS/cmの電気伝導度に相当)とした。これらの条件下で、IgGは陽イオン交換材料に結合しない。膜吸着体モジュールに、0.5g/ml樹脂を充填した。フロースルー画分および高塩濃度溶出画分(1.5M NaCl)を回収して、ACAについて解析した。フロースルー画分のACA値は低く(CH50/mg=0.44)、一方、結合画分はACA含量が豊富であった(CH50/mg>1.5)。
【0152】
実施例13
バッチ式における、陽イオン交換樹脂の使用
実施例1に記載したようにして、POROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィーからのフロースルーとして得られたIgG富化免疫グロブリン組成物を、10mM Tris、6.5mM酢酸ナトリウム、225mM塩化ナトリウム(pH5.5;電気伝導度21mS/cm)に対して限外濾過/透析濾過して、タンパク質含量50g/lに調整した。POROS50HSクロマトグラフィー材料を粉末として加え、懸濁液を室温で1時間穏やかに振盪した。以下の量のPOROS50HSを、このようにしてバッチ式で試験した。結果を表9に示す。
【0153】
【0154】
250mgPOROS(登録商標)50HS/gタンパク質を超える負荷条件で、ACAを1CH50/mg未満に除去することに成功した。
【0155】
実施例14
プロパージン添加(spike)実験
プロパージン含量とACAとの間の相関を証明するために、1mg/mlプロパージン溶液(Quidelから入手)を、精製(polishing)のために陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて処理した2つの異なる10%IgG免疫グロブリン(IVIg調製物AおよびB)に添加し、ACAを測定した。表10に示したように、プロパージン添加濃度が200μg/mlに至るまで、プロパージン濃度を増加させると、線形依存的にACAが増加する。
【0156】
【0157】
実施例15
オクタン処理後のプロパージン含量に及ぼす、再可溶化バッファーの影響
再可溶化の条件と、オクタン酸処理後のプロパージン含量との間の相関を証明するために、Cohn画分I/II/IIIを、脱イオン水および3つの異なる再可溶化バッファーに再懸濁した。実施例1aに概説したように、画分I/II/IIIの懸濁液を、オクタン酸(pH4.8、懸濁液1kg当たり17.5g/kgのオクタン酸)およびリン酸三カルシウムによる処理に供した。沈殿物を深層濾過により除去し、得られたタンパク質溶液を、限外濾過/透析濾過およびpH4での弱酸処理に供した。このようにして得られた、不純物が除去された免疫グロブリン組成物を、プロパージン含量について、解析した。結果を表11に示す。
【0158】
【0159】
結果からわかるように、オクタン酸処理後に得られた免疫グロブリン組成物におけるプロパージン含量は、再可溶化バッファーのモル濃度が増加するにつれて増加する。
【0160】
実施例16
陰イオン交換クロマトグラフィー後に得られるIgG富化免疫グロブリン組成物におけるプロパージン含量に及ぼす、再可溶化バッファーの影響
陰イオン交換クロマトグラフィー後に得られたIgG調製物におけるプロパージン含量に対する再可溶化バッファーの影響を調べるために、Cohn画分I/II/IIIを、注入用水(WFI)または100mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.8)のいずれかに、画分I/II/IIとバッファーが1:4で、再懸濁した。両方の懸濁液を、実施例13に記載したように、オクタン酸およびリン酸三カルシウムで処理した後、限外濾過-透析濾過およびpH4での弱酸処理を行った。得られた免疫グロブリン組成物を、実施例1aに記載したように、POROS50HQにおける陰イオン交換クロマトグラフィーに供し、得られたフロースルー画分(IgG富化画分)を、0.3Mグリシンバッファー、pH4.6に対する限外濾過/透析濾過に供した。
【0161】
得られたIgG溶液を、タンパク質およびプロパージン含量について解析した。結果を表12に示す。
【0162】
【0163】
実施例17
Cohn画分I/II/IIIの懸濁液に及ぼす、WFIおよび酢酸バッファーの影響
画分I/II/IIIを、WFI(サンプルA)または100mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.8;サンプルB)のいずれかに、画分I/II/IIとバッファーの重量比が1:4で(300gの画分I/II/IIIに、1200gのバッファーまたはWFIを添加)、実験室スケールで再懸濁した。懸濁液におけるIgG、IgAおよびIgMの濃度、並びに、免疫グロブリンクラス間の分布を決定した。結果を表13に示す。
【0164】
【0165】
酢酸バッファーに再懸濁したサンプル(サンプルB)におけるIgG、IgAおよびIgMの濃度は、WFIに再懸濁されたサンプル(サンプルA)と比較して増加する。懸濁液サンプルにおいて、IgM濃度は、0.69g/lから2.05g/lに増加し、IgA濃度は、1.9g/lから2.9g/lに上昇する。
【0166】
達成された懸濁液量(1500ml)に基づき、および、用いられた画分I/II/IIIの量に関連して、個々の免疫グロブリンクラスの収量を計算した。酢酸の懸濁液では、収量の増加が、IgGで7%、IgAで51%、およびIgMで212%見られた。結果を表14に示す。
【0167】